高igg血症,自己免疫性膵炎の経過中に認められた …909 症 例...

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909 ●症 要旨:症例は 77 歳の男性.高 IgG 血症,自己免疫性膵炎の経過観察中,胸部 X 線上,右下葉に腫瘤影が出 現し,呼吸器科に紹介された.気管支鏡検査では確定診断を得ず,CT ガイド下経皮針生検を施行した.生 検組織では胸膜,肺胞壁を含む間質に形質細胞を主体とするリンパ球系細胞の浸潤が認められ,炎症性偽腫 瘍が疑われた.しかし腫瘤は一年前には認めなかったこと,縦隔・肺門リンパ節腫大を伴っていたことから, 開胸腫瘤摘出術・リンパ節生検を施行することとなった.摘出腫瘤の病理標本では,polyclonal な増殖を示 す形質細胞,リンパ球が細気管支壁及びその周囲から肺胞壁を含む間質,一部胸膜に浸潤する像が認められ た.生検したリンパ節に悪性像は認められなかった.以上より肺炎症性偽腫瘍と診断した.免疫染色ではIgG4 陽性形質細胞を多数認め,自己免疫性膵炎と肺の炎症性偽腫瘍は共に IgG4 が関連した全身性疾患の部分症 である可能性も考えられた. キーワード:肺炎症性偽腫瘍,高ガンマグロブリン血症,IgG4,自己免疫性膵炎 Pulmonary inflammatory pseudotumor,Hypergammaglobulinemia,IgG4, Autoimmune pancreatitis 炎症性偽腫瘍(inflammatorypseudotumor:IPT)は, 筋線維芽細胞ないし線維芽細胞の特徴を示す紡錘形細胞 の増殖とリンパ球や形質細胞を主とする炎症細胞の著明 な浸潤からなる病変とされている .肺に発生頻度が高 いが,肺以外の臓器にも発生し,皮膚,リンパ節,肝臓, 胃,脳,腎臓,膵臓,甲状腺,脾臓,乳房等,ほぼ全身 の臓器に IPT の報告がある .IPT の中には多数の IgG4 陽性形質細胞の浸潤を認め,腫瘤を形成する IgG4 関連 疾患が含まれていることが近年話題となっている 今回,我々は,自己免疫性膵炎の経過観察中に発見さ れた肺 IPT の 1 例を経験したため,文献的考察を加え て報告する. 症例:77 歳,男性. 主訴:胸部異常影精査. 既往歴:自己免疫性膵炎(2002 年 2 月). 喫煙歴:タバコ 10~15 本! 日×57 年間. 現病歴:2002 年 2 月,胸やけを主訴に当院消化器科 を受診し,血液検査にて総蛋白,γグロブリン,IgG の 上昇を認め,また腹部超音波,腹部 CT にて膵腫大, ERCP にて主膵管狭窄像を認めたことから自己免疫性膵 炎と診断され,外来で経過観察されていた.この間,ス テロイド治療はされていなかった.2003 年 5 月,消化 器科通院時に定期検査で撮影された胸部単純 X 線にて 右下肺野に腫瘤影を認め,呼吸器科に紹介,精査目的で 入院となった.入院時,自覚症状は特に認めなかった. 入 院 時 現 症:身 長 161cm,体 重 50kg,血 圧 126! 89 mmHg,脈 拍 84 回! 分,整,呼 吸 数 16 回! 分,貧 血 黄 疸なし.表在リンパ節触知せず.胸部聴診上異常なし, 腹部平坦軟. 入院時検査所見(Table 1):末梢血では白血球 5,300! mm 3 ,好酸球分画の軽度増加を認めたが,CRP は陰性 であった.生化学的には TP 9.0g! dl,γグロブリン 3.3g! dl,IgG 4,220mg! dl と,それぞれ異常高値を認めた.血 清 IgG については,2002 年の消化器科初診時には 4,600 mg! dl であり,大きな変動は認めなかった.血清 IgG のサブクラスの測定は行っていなかった.呼吸機能検査 では,軽度の閉塞性障害を認めた. 胸部単純 X 線では,右下肺野に腫瘤影,右肺門部に 石灰化を伴うリンパ節腫大を認めた(Fig.1). 胸部単純 CT では,両肺尖部に気腫性囊胞を認めたが, Conventional CT では肺野の low attenuation area は明 らかでなかった.右 S 8 に横隔膜に接して 55×42mm の 高 IgG 血症,自己免疫性膵炎の経過中に認められた肺炎症性偽腫瘍の 1 例 田村真理子 竹山 佳宏 山本 雅史 浩一郎 鈴木 勝雄 中村 俊信 浅野 俊明 吉田 健也 〒4548502 名古屋市中川区松年町 4―66 名古屋掖済会病院呼吸器科 (受付日平成 20 年 3 月 3 日) 日呼吸会誌 46(11),2008.

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909

●症 例

要旨:症例は 77歳の男性.高 IgG血症,自己免疫性膵炎の経過観察中,胸部X線上,右下葉に腫瘤影が出現し,呼吸器科に紹介された.気管支鏡検査では確定診断を得ず,CTガイド下経皮針生検を施行した.生検組織では胸膜,肺胞壁を含む間質に形質細胞を主体とするリンパ球系細胞の浸潤が認められ,炎症性偽腫瘍が疑われた.しかし腫瘤は一年前には認めなかったこと,縦隔・肺門リンパ節腫大を伴っていたことから,開胸腫瘤摘出術・リンパ節生検を施行することとなった.摘出腫瘤の病理標本では,polyclonal な増殖を示す形質細胞,リンパ球が細気管支壁及びその周囲から肺胞壁を含む間質,一部胸膜に浸潤する像が認められた.生検したリンパ節に悪性像は認められなかった.以上より肺炎症性偽腫瘍と診断した.免疫染色では IgG4陽性形質細胞を多数認め,自己免疫性膵炎と肺の炎症性偽腫瘍は共に IgG4 が関連した全身性疾患の部分症である可能性も考えられた.キーワード:肺炎症性偽腫瘍,高ガンマグロブリン血症,IgG4,自己免疫性膵炎

Pulmonary inflammatory pseudotumor,Hypergammaglobulinemia,IgG4,Autoimmune pancreatitis

緒 言

炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor:IPT)は,筋線維芽細胞ないし線維芽細胞の特徴を示す紡錘形細胞の増殖とリンパ球や形質細胞を主とする炎症細胞の著明な浸潤からなる病変とされている1).肺に発生頻度が高いが,肺以外の臓器にも発生し,皮膚,リンパ節,肝臓,胃,脳,腎臓,膵臓,甲状腺,脾臓,乳房等,ほぼ全身の臓器に IPTの報告がある2).IPTの中には多数の IgG4陽性形質細胞の浸潤を認め,腫瘤を形成する IgG4 関連疾患が含まれていることが近年話題となっている3)4).今回,我々は,自己免疫性膵炎の経過観察中に発見さ

れた肺 IPTの 1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

症 例

症例:77 歳,男性.主訴:胸部異常影精査.既往歴:自己免疫性膵炎(2002 年 2 月).喫煙歴:タバコ 10~15 本�日×57 年間.現病歴:2002 年 2 月,胸やけを主訴に当院消化器科

を受診し,血液検査にて総蛋白,γ―グロブリン,IgGの上昇を認め,また腹部超音波,腹部CTにて膵腫大,ERCPにて主膵管狭窄像を認めたことから自己免疫性膵炎と診断され,外来で経過観察されていた.この間,ステロイド治療はされていなかった.2003 年 5 月,消化器科通院時に定期検査で撮影された胸部単純X線にて右下肺野に腫瘤影を認め,呼吸器科に紹介,精査目的で入院となった.入院時,自覚症状は特に認めなかった.入院時現症:身長 161cm,体重 50kg,血圧 126�89

mmHg,脈拍 84 回�分,整,呼吸数 16 回�分,貧血黄疸なし.表在リンパ節触知せず.胸部聴診上異常なし,腹部平坦軟.入院時検査所見(Table 1):末梢血では白血球 5,300�

mm3,好酸球分画の軽度増加を認めたが,CRPは陰性であった.生化学的にはTP 9.0g�dl,γ―グロブリン 3.3g�dl,IgG 4,220mg�dl と,それぞれ異常高値を認めた.血清 IgGについては,2002 年の消化器科初診時には 4,600mg�dl であり,大きな変動は認めなかった.血清 IgGのサブクラスの測定は行っていなかった.呼吸機能検査では,軽度の閉塞性障害を認めた.胸部単純X線では,右下肺野に腫瘤影,右肺門部に

石灰化を伴うリンパ節腫大を認めた(Fig. 1).胸部単純CTでは,両肺尖部に気腫性囊胞を認めたが,

Conventional CTでは肺野の low attenuation area は明らかでなかった.右 S8に横隔膜に接して 55×42mmの

高 IgG 血症,自己免疫性膵炎の経過中に認められた肺炎症性偽腫瘍の 1例

田村真理子 竹山 佳宏 山本 雅史 島 浩一郎鈴木 勝雄 中村 俊信 浅野 俊明 吉田 健也

〒454―8502 名古屋市中川区松年町 4―66名古屋掖済会病院呼吸器科

(受付日平成 20 年 3月 3日)

日呼吸会誌 46(11),2008.

日呼吸会誌 46(11),2008.910

Fig. 1 Chest X-ray film on admission revealing a mass in the right lower lung field and right hilar lymph ade-nopathy with calcification.

Fig. 2 Chest plain CT on admission revealing a mass with spiculation in the right S8.

Table 1 Laboratory data and respiratory function test on the admission

(138―146)mEq/l138Nareference valuesHematology(3.6―4.9)mEq/l3.8K(4,500―7,700)/μl5,300WBC(99―109)mEq/l105Cl%1.0Baso(0.0―5.0)ng/ml1.5CEA%9.5Eosino(0.0―10.0)ng/ml6.1NSE%64.5Neutro(0.0―1.5)AU0.7SCC%18.0Lymph

Immunology%7.0Monomg/dl0.09CRP(432―507×104)/μl349×104RBC

(870―1,700)mg/dl4,220IgG(13.5―15.7)g/dl10.9Hb(110―410)mg/dl237IgA(19.4―33.9×103)/μl11.4×104Plt(35―220)mg/dl55IgMBiochemistry(0―20)U/ml68RF(6.7―8.3)g/dl9.0TP(0―40)×80ANA%40.2Alb(0―6)IU/mlAntiDNAAb 7%2.6α1

%6.0α2Urine%7.3βBence Jones protein (-)%43.6γ

(4.0―5.0)g/dl3.3AlbRespiratory function test(13―33)IU/l20AST

%98.7%VC(6―30)IU/l13ALT%64.0FEVl%(119―229)IU/l94LDH%93.8%FEVl(8.0―22.0)mg/dl21.0BUN

(0.6―1.1)mg/dl1.07Cr

spiculation を伴う腫瘤影を認め(Fig. 2),#3,4,7,10,13,14 の縦隔・右肺門リンパ節の腫大を伴っていた.#13,14 のリンパ節については石灰化を伴っていたが,2000 年 6 月に咳嗽を主訴に来院した際に施行し

た胸部単純CTでも同様の所見を認め,大きさに変化はなかった.入院後経過:気管支鏡検査を施行するも確定診断を得

ず,CTガイド下経皮針生検を施行した.病理組織所見では胸膜,肺胞壁を含む間質に形質細胞の浸潤が比較的密に認められた.形質細胞に IgG,A,M,κ,λを使った免疫染色を施行したところ,polyclonal に染色された.骨髄検査では腫瘍細胞は認めず,骨髄腫は否定的であった.以上より肺 IPTと考えられたが,右 S8の腫瘤は一年

前の胸部単純X線では認めなかったこと,縦隔・肺門リンパ節腫大を伴っていることから悪性腫瘍の可能性を

自己免疫性膵炎の経過中に認めた肺炎症性偽腫瘍の 1例 911

Fig. 3 Microscopic view of the resected lung mass. Plasma cells and lymphocytes infiltrate diffusely into the bronchiolar wall, peribronchiolar interstitial tissue (Fig. 3a) and alveolar wall (Fig. 3b). (Hematoxylin-eosin stain, original magnification Fig. 3a ×4, Fig. 3b ×20, Fig. 3b-inset ×100)

否定できず,2003 年 6 月,開胸右下葉腫瘤摘出術及びリンパ節生検を施行した.手術所見:右 S8を中心として直径約 5cmの白色の弾

性硬な腫瘤を認め,下葉部分切除にて腫瘤を摘出した.腫瘤前面,後面及び横隔膜部の壁側胸膜の肥厚を認め,腫瘤前面と横隔膜部の壁側胸膜を一部採取した.生検目的で摘出した#3,4,7,10 のリンパ節については 2~3cmの腫大を認めた.摘出標本の病理組織所見:摘出腫瘤から 16 個の切出

しを行い,16 標本を作製し,H-E 染色を施して顕微鏡的に観察した.このうち 4標本には弾性線維染色を施し観察した.病変部の大部分には形質細胞を主とするリンパ球系細胞の浸潤が認められた.これらの細胞は主として細気管支壁及びその周囲の間質組織から肺胞壁内にびまん性に浸潤していた(Fig. 3).一部ではこれらの細胞浸潤が強く,肺胞構造が不明となる部分が認められた.標本には一部正常肺も含まれていたが,その部分も含めて肺気腫や囊胞性病変,通常の気管支炎,肺炎等の所見は認められなかった.弾性線維染色で臓側胸膜への浸潤を観察したところ,部分的ではあるが,胸膜下及び臓側胸膜内に形質細胞,リンパ球が密に浸潤していた.これらのリンパ球,形質細胞は異型に乏しく,形態的には腫瘍細胞とは言えなかった.生検した#3,4,7,10 のリンパ節に関しては,リンパ濾胞以外の皮質,骨髄索,リンパ洞内にも形質細胞がびまん性に認められた.横隔膜

部の壁側胸膜は線維性に肥厚しており,散在性に形質細胞,リンパ球の浸潤が認められた.腫瘤の前面の壁側胸膜も一部肥厚し,線維性結合織の増生が見られたが,リンパ球や形質細胞の浸潤は認められなかった.腫瘤と生検したリンパ節の組織に IgG,κ,λで免疫染色を施行したところ,polyclonal に染色された.さらに IgG4 による免疫染色では陽性の形質細胞が多数認められた(Fig. 4).免疫染色の抗体はChemicon 社のものを使用した.以上より,CTガイド下での生検組織と摘出標本の病

理組織所見は一致しており,縦隔・肺門リンパ節腫大,壁側胸膜に形質細胞,リンパ球浸潤を伴う肺 IPTと診断した.術後経過は良好で 6月末に退院した.肺病変に関して

は,術後 4年経過した時点で再発は認めなかった.2007年 9 月の血清 IgGは 3,220mg�dl であった.血清 IgG4については経過中にも測定されなかった.患者は 2007年 10 月に転倒し,急性硬膜外血腫で死亡した.

考 察

炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor:IPT)は,筋線維芽細胞ないし線維芽細胞の特徴を示す紡錘形細胞の増殖とリンパ球や形質細胞を主とする炎症細胞の著明な浸潤からなる病変とされている1).IPTは多様な組織像をとることから,かつては plasma cell granuloma,

日呼吸会誌 46(11),2008.912

Fig. 4 Immunohistochemicalstaining in the resected lung. Many IgG-positive plasma cells are observed (Fig. 4a). Many plasma cells are also stained with IgG4 (Fig. 4b), κ-chain (Fig. 4c) and λ-chain (Fig. 4d).

histiocytoma,xanthoma,xanthomatous tumor 等,様々に呼称されてきた経緯がある.Matubara らは炎症性偽腫瘍を優勢な構成細胞,主た

る組織学的な特徴により,1)organizing pneumoniatype,2)fibrous histiocytoma type,3)lymphoplasma-cytic type の 3 型に分類した5).IPTの多くは非腫瘍性であり,炎症後の修復機転における慢性的な炎症細胞浸潤を伴う筋線維芽細胞および線維芽細胞の過剰な増殖によるものと考えられている.しかし病変に腫瘍的性格が備わっているかについては判断が困難な場合も少なくない6).本症例は,腫瘤の細胞浸潤が強い部位では形質細胞,

リンパ球が全体の 50%以上を占め,Matubara らの分類の lymphoplasmacytic type に相当すると考えられた.肺 IPTに関して複数症例まとめた報告では7),発症に

性差はなく,若年から高齢まで広範囲の年齢に生じるとされている.約半数は発見時に無症状であり,自覚症状のある例でも咳嗽,息切れ等非特異的な呼吸器症状が中心となる.胸部X線では境界明瞭な孤立性の腫瘤影として見られることが多いが,多発性結節影の形をとる場合もある8).頻度は多くないが,本症例の様に胸膜へ病変が及ぶ例や,石灰化を伴う例もある9)10).本症例で横隔膜部の壁側胸膜に認められた形質細胞,リンパ球の浸潤については,肺病変と同様に形質細胞が優位であり,好中球をはじめとした他の炎症細胞浸潤を伴わないこと

等から,肺 ITPに関連した所見と考えた.肺 IPTの特定の原因は分かっていないが,約半数の

症例で呼吸器感染症の既往があることから,それらをきっかけに発症しているのではないかとも考えられている11).一方で近年,血清 IgG4 の高値を伴い,種々の臓器に発生する形質細胞,リンパ球浸潤と線維化を特徴とする疾患の存在が報告されている12)13).これは自己免疫性膵炎の研究過程において明らかとなった.IgGには 1から 4のサブクラスがあるが,自己免疫性膵炎における血清 IgG,IgG4 の異常高値の比率はそれぞれ 73%,80%と報告されており,共に診断基準の一つとして記載されている14).自己免疫性膵炎と,それに伴う硬化性胆管炎,間質性肺炎,硬化性唾液腺炎,涙腺炎(Mikulicz病)等では高 IgG4 血症と共に,免疫組織学的に IgG4陽性の形質細胞浸潤が組織中に高度に見られるものがあることが分かり,これらは IgG4 関連疾患として注目されている.肺では間質性肺炎の像をとるものの他15),IPTの像をとるものが報告されており3)4)16),特に後者では自己免疫性膵炎と類似した組織像を示し,免疫染色で IgG4陽性の形質細胞が多数出現している像が見られる.よって,肺 ITPの一部,特に多臓器性に発生している症例には,IgG4 関連の全身性疾患が含まれている可能性があると思われる.IgG4 の役割を含めた発症機序,病態については,まだ明らかにされていない.本症例では,血清 IgGが高値を示し,自己免疫膵炎

自己免疫性膵炎の経過中に認めた肺炎症性偽腫瘍の 1例 913

の合併が示唆され,肺の腫瘤,腫大した縦隔・肺門リンパ節には免疫染色にて IgG4 陽性形質細胞が多数みられたことから,いずれも IgG4 が関連した全身性疾患の部分症であったと捉えることも出来るものと思われた.Ka-misawa らは IgG4 関連硬化性疾患という新しい疾患概念を提唱し,これに関連して自己免疫性膵炎に肺 IPT,リンパ節腫大を合併した症例を報告している16).本症例ではCTガイド下経皮針生検にて肺 IPTが疑

われたが,腫瘤は比較的短期間で増大していたこと,縦隔・肺門リンパ節が腫大していたこと等から,形質細胞腫,悪性リンパ腫等との鑑別が問題となり,最終的に開胸術が施行され確定診断がなされた.肺 IPTは完全切除例では再発は稀であり,予後は一般に良好であることから17),確定診断および治療を兼ねて外科的切除を行うことが望ましいと考えられている.ステロイド治療については,Matubara らの分類の organizing pneumoniatype と lymphoplasmacytic type では有効であることが多いとされている7).また IgG4 関連疾患では一般にステロイド治療が奏効する傾向にあるとのことで16),本症例でもステロイド治療を行った場合,効果が得られた可能性があるものと思われた.本論文の要旨は 2006 年 11 月の第 84 回日本呼吸器学会東海地方学会において発表した.謝辞:本症例の診断に対し,貴重な御助言を頂きました,名古屋掖済会病院病理部,佐竹立成先生,氏平伸子先生に深謝致します.

引用文献

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日呼吸会誌 46(11),2008.914

Abstract

A case of pulmonary inflammatory pseudotumor accompanied with increased serumimmunoglobulin G levels and autoimmune pancreatitis

Mariko Tamura, Yoshihiro Takeyama, Masashi Yamamoto, Koichiro Shima, Katsuo Suzuki,Toshinobu Nakamura, Toshiaki Asano and Kenya YoshidaDepartment of Respiratory Medicine, Nagoya Ekisaikai Hospital

A 77-year-old man with increased serum immunoglobulin G levels and autoimmune pancreatitis was found tohave a chest X-ray abnormality. The chest X-ray and CT films showed a mass shadow in the right lower lobe andlymphadenopathy. Since transbronchial tumor biopsy did not obtain diagnostic material, CT-guided cutting nee-dle biopsy was performed. The microscopic findings showed plasma cells and lymphocytes infiltrating the pleuraand alveolar interstitium. A diagnosis of inflammatory pseudotumor was suspected, but it was difficult to excludemalignancy. Therefore, wedge resection of the right lower lobe including the mass and incisional biopsy of medi-astinal lymph nodes were performed. Histopathologic examination of the resected specimen revealed inflamma-tory pseudotumor that was predominantly composed of mature plasma cells infiltrating in the bronchiolar wall,peribronchiolar interstitial tissue, alveolar wall, visceral pleura, the diaphragmatic area of the parietal pleura andmediastinal lymph nodes. Immunohistochemical staining revealed many IgG4-positive plasma cells diffusely infil-trated in the resected mass and lymph nodes. In this case, there is a possibility that patient developed autoim-mune pancreatitis, pulmonary inflammatory pseudotumor and lymphadenopathy as part of systemic IgG4-relateddisease.