企業価値向上に関するkpiを中心としたcsr非財務 …- - 2 Ⅰ...

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経営研究調査会研究報告第28号 企業価値向上に関するKPIを中心としたCSR非財務情報項目に関する提言 平成18年7月19日 日本公認会計士協会 目 次 はじめに ................................................................. 1 Ⅰ CSR情報開示の検討の方向性 ............................................ 2 1.CSR情報開示におけるKPIの位置付け ................................... 2 2.ステークホルダーの特定 ............................................. 2 3.調査対象 ........................................................... 2 4.調査におけるCSR情報の分類 .......................................... 4 5.KPI及び関連定性情報の選定の視点 .................................... 5 Ⅱ 制度化情報 ........................................................... 6 1.有価証券報告書 ..................................................... 6 2.財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案 ...................... 11 3.欧州諸国のKPI関連事項 ............................................. 13 Ⅲ 選定各ガイドライン等の検討結果要約 .................................. 27 1.GRI「ドラフト サステナビリティ・リポーティング・ガイドライン 一般の意見を募るためのG3版」 ...................................... 27 2.環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」 ....................... 43 3.経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン」 ...................... 56 Ⅳ CSR非財務情報項目に関する分析結果と提言 ............................. 61 1.各個別分析結果要約 ................................................ 61 2.CSR非財務情報における開示内容分類並びにKPI項目及び関連定性情報 の例示 .............................................................. 62 3.今後の方向性と課題 ................................................ 64 別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示

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経営研究調査会研究報告第28号

企業価値向上に関するKPIを中心としたCSR非財務情報項目に関する提言

平成18年7月19日

日本公認会計士協会

目 次

はじめに ................................................................. 1 Ⅰ CSR情報開示の検討の方向性 ............................................ 2 1.CSR情報開示におけるKPIの位置付け ................................... 2 2.ステークホルダーの特定 ............................................. 2 3.調査対象 ........................................................... 2 4.調査におけるCSR情報の分類 .......................................... 4 5.KPI及び関連定性情報の選定の視点 .................................... 5

Ⅱ 制度化情報 ........................................................... 6 1.有価証券報告書 ..................................................... 6 2.財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案 ...................... 11 3.欧州諸国のKPI関連事項 ............................................. 13

Ⅲ 選定各ガイドライン等の検討結果要約 .................................. 27 1.GRI「ドラフト サステナビリティ・リポーティング・ガイドライン

一般の意見を募るためのG3版」 ...................................... 27 2.環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」 ....................... 43 3.経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン」 ...................... 56

Ⅳ CSR非財務情報項目に関する分析結果と提言 ............................. 61 1.各個別分析結果要約 ................................................ 61 2.CSR非財務情報における開示内容分類並びにKPI項目及び関連定性情報

の例示 .............................................................. 62 3.今後の方向性と課題 ................................................ 64

別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示

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はじめに

平成17年7月に公表した経営研究調査会研究報告第26号「CSRマネジメント及び情報

開示並びに保証業務の基本的考え方について」(以下「研究報告第26号」という。)では、

CSR(Corporate Social responsibility)の一般的な範囲と、非財務情報に関する保証

業務の在り方、内部統制の監査等が制度化された場合の影響等を検討材料としてCSRの

概念整理を実施した。

この概念整理を踏まえ、CSR全般の様々な検討課題の中から、CSR情報を含む非財務情

報開示関連事項を本研究報告での検討課題とした。主としてCSR情報開示におけるKPI

(Key Performance Indicators)及び関連する定性情報について焦点を当てて検討した。

調査対象となる制度開示の現状や各種ガイドラインから、検討の過程で得られた知見に

基づいて、参考になると思われるCSR情報開示におけるKPIを選択し、提示するものであ

る。

本研究報告の構成であるが、第Ⅰ章で、調査対象とした制度開示の現状や各種ガイド

ラインの選定理由、取りまとめに当たり採用したCSR分類など、本研究報告の検討の方

向性について述べた。

第Ⅱ章では、まず企業内容開示制度上重要な情報開示手段である有価証券報告書にお

いて、現状CSR情報開示がどの程度なされているか、その実態を把握分析した。次に内

部統制関係として、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」等について検

討した。さらに、欧州諸国のKPI関連事項について、KPI概念に合致するCSR情報の開示

規制を有している、イギリス、オランダ及びドイツでの開示事項に関するガイドライン

等を中心に調査した。

第Ⅲ章では、各種ガイドラインについて個別検討結果要約を行った。GRI(Global

Reporting Initiative)の「サステナビリティ・リポーティング・ガイドライン」(以

下「GRIガイドライン」という。)、環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」及び

経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン」の3つのガイドラインを検討対象とし、

これらガイドラインの調査では、ある程度投資家にとって有用と考えられるKPIに絞り

込んで調査内容を提示している。

最後に第Ⅳ章で、投資家にとって有用と考えられるCSR情報開示におけるKPIを総合的

に整理分類、例示列挙した。

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Ⅰ CSR情報開示の検討の方向性

1.CSR情報開示におけるKPIの位置付け

研究報告第26号では、CSRの特徴について、「企業が、企業自らと社会の持続可能

な発展のために、ステークホルダーとの対話を通じて自主性を基調とした責任ある

行動を起こすこと」と整理した。

企業側があらかじめCSR情報を自主的に開示することはステークホルダーと対話

する第一段階となるので、CSRにおいて情報開示が重要であることはいうまでもな

い。

また、本研究報告が中心的に検討するCSR情報開示におけるKPIとは、イギリスの

会計基準設定主体である企業会計審議会(ASB)が公表したOFR報告意見書(ASB、

Reporting Statement: Operating and Financial Review、2006)において定義して

いる「事業の経過、業績、現況を効果的に計測する測定因子であって、会社の重要

な成功要因を反映し、目的達成度を表す定量的指標」をいう。

KPIだけでは、CSRの全貌を理解することは困難であり、関連する定性情報との組

み合わせによってCSRの全貌が理解しやすいものとなる。

2.ステークホルダーの特定

情報の読者層が誰であるか、特定した上でないと開示情報が有用なものであるか

どうかの判断はできない。本研究報告において非財務情報を活用し何らかの意思決

定を行う読者層としては、投資家を想定することにした。

3.調査対象

本研究報告での調査対象は、制度開示の現状として、有価証券報告書、「財務報

告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」(平成17年12月18日 企業会計審議会

内部統制部会)及び欧州諸国のKPI関連事項の3つとした。

また、調査対象としたガイドラインは、GRIのGRIガイドライン、環境省「環境報

告書ガイドライン(2003年版)」、経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン」

の3つのガイドラインとした。これらを選定した理由は次のとおりである。

(1) 制度開示の現状

① 有価証券報告書

企業内容開示制度上、重要な情報開示手段である有価証券報告書において、

現状、CSR関連情報の開示がどの程度なされているのか、その実態を把握分析

しておくことは極めて有用と考える。

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② 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案

経営者は、財務報告に係る内部統制について、一般に公正妥当と認められる

内部統制の評価の基準に準拠して、その有効性を自ら評価しその結果を外部に

向けて報告することが今後求められる。その中で経営者が「全社的な内部統制」

として整備し、その整備状況及び運用状況を評価しなければならない活動の中

に、CSR情報開示におけるKPIを検討する際に有益な情報が想定される。

③ 欧州諸国のKPI関連事項

海外、特に欧州では既に国ごとに非財務情報のKPI関連事項が整備されてい

る事例があり、我が国における非財務情報の開示内容の検討に当たって有用な

情報となる。

(2) 各種ガイドライン

① GRIが2006年に公開草案として公表した「GRIガイドライン 一般の意見を募

るためのG3版」

GRIは、サステナビリティ・レポーティングを財務報告のように比較可能な

報告書とすることを目指して、国際的なガイドライン作りを使命としている

NGOである。

GRIのガイドライン作りは、まず1999年にGRIガイドライン公開草案を発表後、

2000年にGRIガイドライン第1版を発行した。2001年には改訂のためのプロセ

スをスタートさせ、2002年に「GRIガイドライン2002(第2版)」を発行してい

る。2005年に標記「G3版」を発表し、一般の意見を募っており、2006年10

月までには最終改訂版の発表が予定されている。

GRIガイドラインは、世界各国の企業等がサステナビリティ・リポーティン

グのガイドラインとして使用しており、GRIのデータベースには、2006年3月

14日現在、57か国817の組織の報告書が登録されている。

GRIのガイドライン作りにおいて特徴的なのは、マルチステークホルダー形

式をとっていることであり、企業・市民団体・投資機関・学術界・非政府機関・

労働組合・会計士団体出身者等世界各地の多様な立場のメンバーを、ガイドラ

イン作成や継続的な改善のためのワーキンググループに採用し、公開草案に対

する一般からの意見募集も行っている点である。

また、GRIガイドラインにおいては、サステナビリティに関するパフォーマ

ンスを長期にわたり追跡でき、組織の行動成果を示すことができるよう、経済、

環境、社会の3分野に関わる指標が提示されているため、CSR情報開示におけ

るKPIを検討する際、有益な情報を与える。

② 環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」

環境省は、環境報告書の健全な普及促進を目的として、平成13年2月に「環

境報告書ガイドライン(2000年版)」を策定し、平成16年3月には、これに国

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内外の最新動向を踏まえて修正した実務的な手引として「環境報告書ガイドラ

イン(2003年版)」(以下「環境報告書ガイドライン」という。)を公表してい

る。

環境省の環境報告書ガイドラインは、公表されて以来、国内では数少ない環

境報告の指針として多くの企業等が参考にしてきたが、ここ数年、多くの環境

報告書がCSR報告書に変容してきたことを受け、2003年版では「GRIガイドライ

ン2002(第2版)」を参考として、環境以外のその他の社会性に関する項目を

追加している。環境報告書がCSR報告書に拡大されてきた昨今においてもその

影響力は衰えておらず、企業等はGRIガイドラインとともに環境報告書ガイド

ラインを参考ガイドラインとして併用しているケースが多い。

現在公表されているCSR報告書等に記載される環境情報は、大部分、環境報

告書ガイドラインをベースに記載されていると考えられ、開示項目に関してい

えば情報公表企業間での共通性がみられるようになってきている。

企業の情報開示項目として望まれるCSRに関するKPIを考える上で、昨今とみ

に重要となっている環境情報に関して、国内では1つの指針としての存在感を

増してきた環境報告書ガイドラインを検討対象とする意義は大きい。

③ 経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン」

「知的資産経営の開示ガイドライン」は、知的資産を活用した経営に関する

情報開示の指針として、産業構造審議会新成長政策部会経営・知的資産小委員

会における中間報告書(平成17年8月公表)の内容を踏まえて、平成17年10

月、経済産業省において取りまとめられたものである。

平成17年8月に公表された中間報告書では、知的資産経営とCSRとの関係を、

「知的資産経営とCSRを重視する経営とは、結局のところ、企業が重要と考え

る価値判断に沿った価値創造を行い、経営を行っていくことを、企業内部の側

から評価して見たものか、社会の側から評価(コンプライアンスと関係性を基

本とした評価)して見たものか」の違いであると整理している。

このような関係があることから、主に有価証券報告書に掲載するCSR情報開

示におけるKPIについて検討する際に、「知的資産経営の開示ガイドライン」は

有益な情報を与える。

4.調査におけるCSR情報の分類

主に各種ガイドラインの調査分析に当たり、CSR情報の分類を次のように決定し

た。

まず、トリプルボトムラインを構成する経済、社会、環境の3分類ごとに区分し

た。

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経済部分は、従来から有価証券報告書での主たる情報開示分野であるから、本研

究報告の調査範囲からは一部の例外を除き対象外とした。

社会部分については、範囲が広いことから主要なステークホルダーと思われる従

業員への配慮、顧客への配慮と、社会一般への配慮の3つに分類することとした。

さらに最近、内部統制という側面からも注目を浴びてきているコーポレートガバ

ナンス関係について、経営全般として取り上げることとした。

以上の結果、本研究報告ではCSR情報を、投資家を読者層として、経営全般、従

業員への配慮、顧客への配慮、社会一般への配慮、環境への配慮、その他の6分類

に整理することとした。

5.KPI及び関連定性情報の選定の視点

選定した各ガイドラインに示されている指標から、CSR情報として開示が望まし

いとするKPI及び関連定性情報の選定に当たって、客観性、理解容易性、財務的重

要度という主に3つの視点に留意した。

・ 客観性:指標は恣意性が入らず、誰が算定しても同じ算定結果が得られる指標

か。

・ 理解容易性:指標を活用する読者にとって容易に理解することのできる指標か。

・ 財務的重要度:投資家からみて、事業者の財務状況を把握する上で重要な指標

か。

本研究報告で示すCSR情報のKPIは、限定列挙ではなく、CSR情報としての開示が

望ましいと考えるKPIの例示列挙としている。

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Ⅱ 制度化情報

1.有価証券報告書

(1) はじめに

我が国では、企業内容開示制度において非財務情報の拡充は行われているが、

企業内容開示制度においてCSR情報開示に関する具体的な要求規定はない。しか

しながら、CSR情報の開示は、自主的な企業内容開示手段の1つである環境報告

書、CSR報告書、持続可能性報告書等を通じ、ここ数年毎年のように急速に充実

されてきている。

前述の状況下、今後我が国のCSR情報開示を検討する上で企業内容開示制度上

重要な情報開示手段である有価証券報告書において、現状CSR情報開示がどの程

度なされているのか、その実態を把握分析しておくことは極めて有用であると考

える。

以下では、有価証券報告書上におけるCSR情報開示の現状について、「有価証券

報告書のCSR情報開示に関する予備的調査」1による有価証券報告書の調査(以下

「調査」という。)を基に検討した。

今回分析検討資料として活用した調査の概要を、下記の(2)調査方法の概要及

び(3)調査結果の概要に示した上で、検討結果を(4)調査分析結果に記載する。

(2) 調査方法の概要

① 調査対象会社

調査対象会社は、「社会・環境報告書データベース2005(www.ecorepo.com/

php/index.php)」の全登録団体411社(2005年10月21日現在)の中で、有価

証券報告書等の電子開示システムであるEDINET(https://info.edinet.go.jp/

EdiHtml/main.htm)で有価証券報告書を開示している会社339社である。

② 記載区分及び情報種別

調査対象とした記載区分は、IR情報の記載可能性が高い「事業等のリスク」、

「コーポレートガバナンスの状況」、「対処すべき課題」、「研究開発活動」の4

区分である。また、調査対象とした情報種別は、2002年版のGRIガイドライン

における環境パフォーマンス及び社会パフォーマンス指標を参考に実際の記

載事例を勘案して決定したものである。

1上妻義直「有価証券報告書のCSR情報に関する予備的調査」『JICPAジャーナル』2006年

7月号(No.612)

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(3) 調査結果の概要

① 全般的な概況

企業内容開示制度上CSR情報の具体的な開示要求がない状況下では、CSR情報

の開示はあまりないのではないかという予測に反し、記載事例は全部で5,282

件にも上っている。その内訳は環境情報が624件、社会情報が2,997件、その他

の情報が1,661件で、環境報告書開示企業を対象にしたにもかかわらず、環境

情報が非常に少ない。その概要は、図表Ⅱ-1「情報種別で見た記載区分」に

示すとおりである。全般的には、これらの情報は主としてコーポレートガバナ

ンス区分に記載されており、情報種別としてはGRIガイドラインにおける指標

に該当しないものが多くなっている。

② 環境情報の概況

環境情報の記載は、GRIガイドラインの指標に該当しない情報が開示情報の

全体の60%超を占めており、その大部分が環境規制に関するものである。ただ

し、環境規制に関する開示は、あくまでも「規制が強化された場合、業績等に

とってリスク要因化する」という漠然とした記述にとどまっているものがほと

図表1 情報種別で見た記載区分

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

環境情報 社会情報 その他の情報

対処すべき課題 事業等のリスク 研究開発活動 コーポレートガバナンス

図表Ⅱ-1 情報種別で見た記載区別

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んどである。

環境規制の次に開示件数の多い項目は、廃棄物対策及び土壌汚染となってい

る。これらの情報は、対処すべき課題及び事業等のリスクの記載区分に開示さ

れているケースが多い。

③ 社会情報の概況

情報種別で一番多いものは製品責任に関する情報で、どの記載区分でも多く

開示されており、その内訳としては品質表示が最も多く、ついで品質保証等の

方針、顧客満足に関する方針となっている。

また、記載区分では、コーポレートガバナンス区分に多くの記載があり、中

でも労働条件に関する情報が多く、その記載の内訳としては、機会均等や人事

の多様性という組織構成に関する情報が大多数を占める。

これらの概要は、図表Ⅱ-2「記載区分別に見た社会情報」に示すとおりで

ある。

図表2 記載区分別に見た社会情報

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

対処すべき課題

事業等のリスク

研究開発活動

コーポレートガバナンス

製品責任

社会

人権

労働条件

(4) 調査分析結果

上記の調査結果を基に、現状の有価証券報告書におけるCSR情報開示について

分析検討した結果、今後の課題は次の点にあると考える。

図表Ⅱ-2 記載区別に見た社会情報

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企業内容開示制度上具体的な開示要求がない現状において、CSR情報が予想以

上に有価証券報告書に開示されている。しかしながら、その開示情報について、

項目、内容の質について、各社の自主的な判断に委ねられていることから、恣意

的に情報開示対象が絞り込まれていたり、情報の質にばらつきがある可能性が考

えられる。したがって、今後、CSRをよりよく充実発展させていくためには、企

業内容開示情報を活用する投資家にとって、CSR情報が真に有用な情報として活

用され得る環境を整備することが必要と考える。

このためには、まずは開示情報の有用性について企業側・投資家側双方の認識

を高め、有用な情報開示・情報活用とすることが必要である。具体的にはCSR情

報が企業経営において、短期・中期・長期の観点でどのような影響を財務的に

与えるのかを分かりやすく理解できるように、啓発活動が必要と考える。

次に上記の前提条件が整備された上で、CSR情報の開示項目及び内容について

企業間比較を確保できるよう、企業内容開示制度において具体的な開示方法の

明文化をすること等が望ましい。

以下では、今後のCSR情報活用を発展的に推進していく上で、CSR情報開示の現

状認識をすることは有用と考え、(3) 調査結果の概要に示した①から③の特徴に

ついて、各々その背景にあるものは何かを分析することとする。

① 環境情報開示の脆弱さ

環境情報の開示が非常に少ない点は、主として次の3点が背景にあるのでは

ないかと考える。

第1点としては、投資家の意思決定判断上の位置付けによるものである。地

球環境問題が声高に叫ばれている中にあっても、大部分の投資家においては、

環境問題に関する企業姿勢は投資判断の材料として重要視されていない。むし

ろ大部分の投資家にとっては、企業不祥事が頻発する中で、企業存続を短期的

に揺るがすような社会的責任を問われる事象について企業がいかに取り組ん

でいるのかといった情報の方が重要視されている。

第2点としては、企業側の情報開示ツールの活用方針によるものである。環

境情報に関する情報開示ツールは、主として環境情報を体系的に記載した年次

報告書である環境報告書、広く一般に公開しているホームページ、地域住民、

取引先に対しては工場見学会、製品に限定したものであればエコラベル等多様

である。前述のように大部分の投資家が投資意思決定において、特に環境情報

を重要視していない状況であれば、有価証券報告書上記載する環境情報は、投

資家の関心が高いものに絞り込まれるのではないだろうか。すなわち、社会的

にも関心が高く、企業の社会的責任も問われやすく、短期的にも財務的影響の

高い項目、具体的にいえば廃棄物対策及び土壌汚染等に限定されることになっ

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ている。反対に環境情報に強い関心を抱くステークホルダーについては、有価

証券報告書上の環境情報では不十分であり、詳細に環境情報を記載した環境報

告書によって情報開示をする方がニーズに対応したものとなるであろう。

第3点としては、企業側における環境情報の位置付けにある。

環境経営という用語が使われることがあるように、経営と環境の両立を掲げ

ている企業は多くある。しかしながら、環境情報が企業経営にとって短期・中

期・長期において財務的な影響をもたらす事項として具体的に十分認識し、経

営に活かしている企業は、どの程度あるのだろうか。環境面の取組みや損傷が

財務的にどの程度の影響を及ぼすのか、環境担当者及び経理担当者の双方の認

識不足により、十分に認識されていないのではないかと推察される。その結果、

環境活動は十分行っていても、環境情報が短期・中期・長期に財務的にどのよ

うな影響があるのか、具体的にその影響内容及び大きさを把握して、企業経営

に積極的に活用しようとする発想が生まれ難い。したがって、投資家にとって

も環境情報が有用な情報になり得るという考えに至らず、有価証券報告書上、

環境情報の開示が限定されたものになってしまっている。

② GRIガイドラインの指標以外の情報開示

有価証券報告書に開示されているCSR情報の大部分がGRIガイドラインの指

標以外の項目になっている点については、主として次の2点が背景としてある

と考える。

第1点としては、GRIガイドラインの指標が日本においてそのまま適用し難

いことにある。GRIガイドライン指標をそのまま適用せず、日本において社会

的に関心の高い項目、社会的に企業の責任を問われやすい項目を開示する傾向

があるものと考える。

第2点としては、各企業でCSR活動について個別の取組みは実施されている

ものの、各取組み成果をマネジメント対象として一定の定量的な指標を掲げ、

継続的に改善していくという管理方法をとっていない場合が多い。したがって、

GRIガイドラインの指標以外の定性的な情報開示とする傾向にある。

③ 廃棄物対策及び土壌汚染開示

環境情報として、廃棄物対策及び土壌汚染に関する開示が多い背景には、次

の2点があると考える。

第1点としては、廃棄物対策及び土壌汚染については、法規制強化もあり不

法投棄や土壌汚染が発生した場合の財務的な負担やレピュテーションリスク

を現実的なものとして、企業側が認識を高くもっている点にあると考える。

第2点としては、投資家にとってみても廃棄物対策及び土壌汚染については、

上記のことから短期的に企業に大きな財務的な負担を及ぼすことであるとい

う認識が高い点にあると考える。

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④ 製品情報開示

社会情報として、製品情報に関する開示が最も多い背景には、次の2点があ

ると考える。

第1点としては、品質表示、品質保証に関しては、昨今の産地偽装事件等企

業の存続を揺るがすような事態の発生もあったことから、社会的にも関心が高

く、企業側にとっても投資家側にとっても重要な情報としての認識が高い点に

ある。

第2点としては、日本の企業にとって社会面として最も重要なステークホル

ダーが顧客である点にある。企業の長期的な発展にとって、顧客に長期的に支

持されることが必要であり、顧客の関心の高い事項について顧客満足向上に向

けた取組みを行い、その成果を具体的に示すことが必要である。

⑤ 労働条件に関する情報開示

社会情報として、労働条件に関する情報開示が多い背景には、次の点がある

と考える。

企業の長期的な発展においては、適切な人材の安定的な確保が必要となるが、

少子高齢化や2007年問題の顕在化により、企業にとって適切な人材確保が困難

な状況にあり、適切な人材確保が今後の企業経営にとって重要な課題の1つと

なっている。このため、適切な人材を安定的に確保するために、労働条件に関

する企業姿勢及び取組みが重要であり、その情報開示もまた重要であるという

認識が企業側にとっても投資家側にとっても高いことにあると考える。

2.財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案

(1) 企業会計審議会の審議の経過及び現在の作業状況

金融庁の企業会計審議会は、財務報告に係る内部統制に関する審議を進めてい

たが、平成17年7月13日に公開草案を公表し、これに寄せられた意見を参考に審

議を行い、公開草案の内容を一部修正して、平成17年12月8日に「財務報告に係

る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」が公表され、その中で「財

務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」(以下「基準案」という。)が示

されている。公開草案に寄せられた意見に、基準案の他に、これを実務に適用し

ていく場合のより詳細な実務上の指針としての実施基準の整備を求める意見が

多く出されたことを受け、企業会計審議会の内部統制部会は実施基準の検討を進

めている。

なお、この内部統制関連事項を含む金融商品取引法が平成18年6月7日に成立

し、平成20年4月1日開始事業年度から適用されることとなっている。

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(2) 基準案の構成及び特徴

基準案は3部から構成されており、「Ⅰ.内部統制の基本的枠組み」は、経営

者が整備・運用する役割と責任を有している内部統制それ自体についての定義、

概念的な枠組みを示し、「Ⅱ.財務報告に係る内部統制の評価及び報告」、「Ⅲ.

財務報告に係る内部統制の監査」は、それぞれ、財務報告に係る内部統制の有効

性に関する経営者による評価及び公認会計士等による監査の基準についての考

え方を示している。

基準案の特徴は、米国で採用されている監査人が当該企業の内部統制の有効性

に対して自ら意見を表明するダイレクト・レポーティングを行わないこと、つま

り、この監査の特徴は経営者の作成した評価結果のみを監査の対象としていると

ころにある。

(3) 「全社的な内部統制」とKPI

経営者は、財務報告に係る内部統制について、一般に公正妥当と認められる内

部統制の評価の基準に準拠して、その有効性を自ら評価しその結果を外部に向け

て報告することが求められている。

経営者は、内部統制を評価するに当たって「全社的な内部統制」の評価を行っ

た上で、その結果を踏まえて、「業務プロセスに係る内部統制」を評価しなけれ

ばならない。経営者が「全社的な内部統制」として整備し、その整備状況及び運

用状況を評価しなければならない活動の中に、有価証券報告書に掲載するCSR情

報開示におけるKPIを検討する際に有益な情報となるものが想定される。しかし、

基準案では、具体的な例示等はされておらず「実施基準」の公表が待たれる状況

のため、財務報告に係る内部統制の監査に関して先行している米国の事例を検討

することにする。

今後、「実施基準」が公表され「全社的な内部統制」の内容が具体的に示され

ると、経営者が「全社的な内部統制」として整備し、その整備状況及び運用状況

を評価しなければならない活動の中に、有価証券報告書に掲載するCSR情報のKPI

として公表されるものが出てくることが十分に予想される。その時、どのように

それぞれの情報の整合をとっていくかの検討が必要になると考える。

(4) 米国企業改革法(サーベィンズ・オックスレイ法、略称SOX法)にみるKPI

エンロン事件、ワールドコム事件などの不正会計事件により傷ついた証券市場

の信頼性を回復するために、監査制度、コーポレートガバナンス、ディスクロー

ジャーなどの抜本的な改革を目的として、2002年7月にSOX法が制定され、米国

の公開会社に適用された。

SOX法は、全11章69の条文からなり、公開企業会計監視委員会(PCAOB : Public

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Company Accounting Oversight Board)の設置、監査の独立性の強化などが規定

されているが、その中で特に重要なものとして、財務報告に係る内部統制の有効

性を評価した内部統制報告書の作成の義務付け、公認会計士による内部統制監査

の義務付け(第404条)がある。

PCAOBは、その任務の1つである、監査の品質管理、倫理、独立性その他監査

報告書の作成に関する基準の設定に関連して、SOX法第404条に「財務報告に係る

内部統制の監査」に当たり、監査人が準拠すべき監査基準として監査基準第2号

「財務諸表監査に関連して実施される財務報告に係る内部統制の監査」を2004

年3月9日に公表した。

この監査基準第2号では、基準案でいうところの「全社的な内部統制」を「企

業レベルの内部統制」として規定しており、その中にKPIの検討材料となる以下

の記載がある。

「企業レベルのコントロールとは、以下に掲げるようなコントロールをいう。

・ 上級経営者の性格、権限と責任の割当て、整合的な方針及び手続、並

びにすべての所在地及び事業単位に適用される行為及び不正予防規範

といった企業全体のプログラムを含む統制環境内のコントロール

統制環境の構成要素は、

・ 誠実性及び倫理的価値

・ 能力に対するコミットメント

・ 取締役会又は監査委員会の参加

・ 経営者の哲学及び事業スタイル

・ 組織構造

・ 権限と責任の割当て、並びに人的資源の関する方針及び手続

・ 経営者のリスク評価プロセス

・ シェアードサービス環境を含む集中処理及びコントロール

・ オペレーションの結果を監視するコントロール

・ 内部監査機能の活動、監査委員会及び自己アセスメントプロジェクト

プログラムを含む他のコントロールを監視するコントロール

・ 期末の財務報告プロセス

・ 重要な事業コントロール及びリスクマネジメント実務を扱う取締役会

承認済の方針」

3.欧州諸国のKPI関連事項

(1) EU加盟国の状況

欧州では90年代の後半から、北欧諸国を中心に、CSR情報に関する開示ガイド

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ラインが策定されるようになった。当初は環境報告や社会報告に特化していたが、

2003年にEU が会計法現代化指令(2003/51/EC)を採択した前後からトリプルボト

ムラインを志向する統合的なCSR報告ガイドラインが登場するようになった。

現在、EU加盟国でCSR情報開示に関するガイドライン又は法令等を有する国は

オーストリア、デンマーク、スウェーデン、ポルトガル、スペイン、フランス、

イギリス、オランダ、ドイツの9か国である。しかし、KPIに関するガイドライ

ンを有する国はまだ多くない。

オーストリアには2004年策定の“Reporting about Sustainability”(タイト

ルは英語であるが本文はドイツ語)というCSR報告ガイドラインがある。これは

CSR報告書の基本理念と7ステップ構成の作成手順を示したものであるが、特定

の開示項目やKPIには全く言及していない。

デンマークには、2001年に社会省が公表した社会・倫理報告(Socialetiske

regnskaber)に関するガイドラインと、労働省が経営者団体及び労働組合と共同

で策定した中小企業向けの社会報告(Sociale Regnskaber)に関するガイドライ

ンがある。しかし、これらにもKPIに関する記述は見られない。環境情報につい

ては、特定産業に環境報告書の作成を義務付ける環境計算書法があり、マテリア

ルバランスに関する定量的情報の開示を要求している。また、年次計算書法にも

知的財産や環境負荷の開示規定が見られる。しかし、いずれも具体的なKPIには

触れていない。

スウェーデン、ポルトガル、スペイン、フランスの場合は、財務諸表や年次報

告書に環境情報や社会情報の開示を求める法令がある。

スウェーデンは年次計算書法で年次報告書に一定の環境情報と社会情報を開

示するよう求めている。環境情報としては、大気、土壌、地表水・地下水に排出・

放出される廃棄物・騒音、また、社会情報としては、病欠者に関する情報、役員

の男女構成、賃金・諸手当・社会保障費に関する情報の開示を義務付けている。

ポルトガルは従業員100人以上の会社に社会貸借対照表の届出を義務付けてお

り、その中で一定の人的資源に関する情報の開示を求めている。

スペインでは年次報告書に環境情報の開示を義務付けており、開示事項は会計

基準が定めているが、それらは環境費用、環境資産、環境負債等の環境会計情報

である。

フランスでは、2001年の新経済法で商法を改正し、上場会社に広範なCSR情報

の開示を義務付けた。開示事項は関連政令で次のように規定している。

① 環境情報

・ 環境負荷

水・資源・エネルギー消費量、エネルギー効率改善手段、再生可能エネル

ギー利用状況、土壌活用状況、大気・水系・土壌へ放出した政令指定の環境

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負荷物質、騒音、悪臭、廃棄物

・ 生物多様性

生物学的バランス、自然環境、保護対象動植物への影響削減対策

・ 環境評価、証明手続

・ 環境法令遵守対策

・ 環境負荷削減対策費

・ 環境マネジメント

環境マネジメント業務、組織体制、環境リスク削減対策、環境汚染事故対

・ 環境会計

環境リスク引当金・補償金額(係争中の案件に重大な不利益を与える情報

を除く)

・ 海外事業の環境情報

② 社会情報

・ 従業員情報

従業員数、新規雇用者数、雇用状況分析、解雇者数・解雇事由、残業時間、

社外労働者数、雇用削減計画、解雇者就業支援、再雇用者数、再雇用手段、

労働協定、報酬・昇給、社会保障費、機会均等、障害者雇用、勤務時間、欠

勤率・欠勤事由、衛生安全、教育訓練

・ 公正取引

下請依存状況、ILO規定遵守状況

・ 地域社会

地域配慮方針、地域貢献活動、海外事業の地域配慮方針

・ その他の社会情報

社会貢献活動、社会活動団体(人種差別、教育改革、環境保護、消費者、

地域住民)との関係

これらの法令等でCSR情報を開示規制する国は、いずれもその法令等が会計

法現代化指令の採択前に制定されており、会計法現代化指令が開示要請する

KPIについては直接言及していない。KPI概念に合致するCSR情報の開示規制を

有し、開示事項に関するガイドライン等を策定しているのは、現在のところ、

イギリス、オランダ、ドイツの3か国だけである。

(2) イギリス

① KPIガイダンス

2005年3月施行のOFR導入法(SI:2005 No.1011)によって会社法が一部改正

され、上場会社の年次報告書にはOFR(営業・財務の概況)という記述情報の

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開示が義務付けられることになった。これを受けて、会計基準設定主体である

ASBは、OFR作成基準として「報告基準第1号:OFR」を公表した。しかし、同

年11月、財務相がEU指令の範囲を超える規制を排除する方針を掲げたことから、

2006年1月にOFR開示規制の廃止法(SI:2005 No.3442)が施行され、OFRはま

た任意の開示書類に戻った。そこで、ASBは急きょ「報告基準第1号:OFR」を

名称変更し、OFR報告意見書(Reporting Statement: Operating and Financial

Review、以下「意見書」という。)として再公表した。

意見書には、同意見書がOFR中にKPIの開示を求めていることに伴い、KPIの

内容説明と例示のためのガイダンス文書(Implementation Guidance、以下「IG」

という。)が添付されている。これがKPIガイダンスである。

KPIガイダンスには23種類のKPI記載例が示されているが、これらはいずれも

単なる実務上の適用事例であって、一般に公正妥当と認められた定義や算出方

法として解釈すべきでないことが繰り返し強調されている。どのようなKPIを

選択し、どのように開示するかについては取締役が判断すべき事柄であり、例

示されているKPIの利用方法は各社の状況に応じて異なるというのが、KPIガイ

ダンスの基本的なスタンスである。

意見書はKPIを「事業の経過、業績、現況を効果的に計測する測定因子であ

って、会社の重要な成功要因を反映し、目的達成度を表す定量的指標」と定義

している(para.3)。

さらに、OFRの目的を、株主に会社の戦略とその成否を評価させるための支

援情報であると位置付け(para.27)、この目的達成に必要な範囲で、財務的又

は非財務的なKPIを開示しなければならないとしている(para.38)。したがっ

て、KPIには戦略目標値と達成手段が明示されなければならない(para.39)。

意見書が指定するKPIの開示事項は次のとおりである(para.76)。

・ 定義、算出方法

・ 目的

・ 基礎データの出所、前提条件

・ 将来目標の定量化又は解説

・ 基礎データが財務諸表である場合は、その事実及び財務諸表数値との調整

計算

・ 次期のKPI数値

・ 会計方針等に変更がある場合は、前年度比較によるKPI及び算出方法への

影響

23種類のKPI記載例は、そのほとんどが使用資本利益率、市場占有率、平均

顧客単価等の経済的業績指標であるが、環境関連、従業員関連、社会・地域関

連のKPIも一部含まれている。

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[環境KPI]

開示すべき環境KPIは事業内容や戦略によって変化するが、KPIガイダンスは、

すべての会社に共通する指標として、次の5つの環境KPIを例示している

(IG22)。

・ 水使用

・ エネルギー消費

・ 廃棄物

・ 気候変動(温室効果ガスの管理を含む)

・ オゾン層破壊物質

また、環境への流失事故、CO2排出、廃棄物の3記載例を次のように示して

いる(IG,pp.43-45)。

記載例12:環境への流出事故

◆定義・算出方法:多量(10万リットル超)の流出事故件数

◆目 的:有害廃棄物管理の有効性評価

◆データの出所:収益ベースで企業集団の85%に相当する100%支配会社のデータ

◆目 標 値:3年以内に年間10件未満に削減

◆実 績 値:2005年25件、2004年30件(いずれもタンク漏れ事故)

◆データの出所、算出方法に変更はない。

記載例13:CO2排出

◆定義・算出方法:CO2換算した事業所の温室効果ガス排出量(CO2-eトン)

◆目 的:温室効果ガス管理の有効性評価

◆データの出所:収益ベースで全社の95%に相当する欧州・アフリカの100%支配

会社のデータ

◆目 標 値:年間5%の削減

◆実 績 値:2005年570万トン、2004年600万トン、2003年620万トン

◆データの出所、算出方法に変更はない。

記載例14:廃棄物

◆定義・算出方法:販売製品1000ポンド当たりの包装廃棄物量(kg)

◆目 的:包装廃棄物の削減

◆データの出所:収益ベースで全社の80%に相当する小売事業のデータ

◆目 標 値:2000年実績値(売上高1000ポンド当たり11.1kg)以下に削減

◆実 績 値:2005年13.4、2004年14.0、2003年13.8、2002年12.9、2001年12.1

◆データの出所、算出方法に変更はない。

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[従業員KPI]

従業員関連パフォーマンスとその推移を評価するために、次のような評価指

標が有用であるとしている(IG26)。

・ 従業員の衛生安全…労災関係の指標(度数率、強度率、勤務時間指令の遵

守レベル)

・ 新規雇用、定着…離職率、定着率、報酬方針、職種別就業希望者数、求人・

採用に関する統計、技能不足の水準

・ 訓練、能力開発…訓練時間、訓練コース数、リーダーシップ・キャリア開

・ 士気、動機付け…勤務評価のフィードバック、欠勤率、従業員の経営関与

水準

・ 労働指標…労働生産性、従業員1人当たり売上高・利益、多様性、専門的

資格保有者数

従業員関連では次の2記載例が示されている(IG,pp.48-49)。

記載例15:従業員の士気

◆定義・算出方法:5段階評価による従業員満足度

◆目 的:専門的サービスを提供する会社において、適切な接客ができる有

能な従業員を確保する必要性

◆データの出所:イギリス、フランス、ドイツにおいて接客が必要な顧客数の85%

を担当する従業員を対象とした年次調査

◆目 標 値:接客が必要な顧客数ベースで95%に相当する従業員調査において

2006年に4.5を達成する。

◆実 績 値:2004年4.1、2005年4.4

◆比 較 可 能 性:2004年度の調査結果は接客が必要な顧客数ベースで65%に相当す

る。

記載例16:従業員の衛生安全

◆定義・算出方法:100万延べ実労働時間当たりの労災傷病者数(LTIFR)

◆目 的:大規模生産設備や有害物質に晒される勤務では、安全が最も重要

で最優先事項である。

◆データの出所:100%所有工場の労災データ

◆目 標 値:LTIFRを年間10%削減

◆実 績 値:2004年10人、2005年8.4人

◆データの出所、算出方法に変更はない。

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[社会・地域KPI]

社会・地域に関する評価指標としては、次のような項目が例示されている。

・ 公衆衛生…肥満、携帯電話の長時間使用に対する安全性、喫煙等

・ 従業員の衛生安全

・ サプライチェーンの社会的リスク…児童労働、公正賃金等

・ 従業員及び顧客の多様性

・ 地域社会への影響…騒音、公害、交通渋滞等

・ 海外事業における現地社会の人権問題等

また、次の2記載例が示されている。

記載例17:サプライチェーンの社会的リスク評価

◆定義・算出方法:独立公認評価人による格付け工場数、格付けランク別の工場数(☆

=法令違反件数が多い~☆☆☆☆=法令違反なし)

◆目 的:SCMの有効性評価

◆データの出所:公認評価人による当期の審査結果

◆目 標 値:受審済みの取引先を年間20%増加し、法令違反件数を33%未満に

削減

◆実 績 値:アジア、アメリカ、欧州の地域別に見た海外取引先の格付け結果

(当期・前期)、ランク別の工場数

◆データの出所、算出方法に変更はない。

記載例18:騒音規制違反

◆定義・算出方法:運輸省の離陸時騒音規制値を超える航空機の違反件数

◆目 的:規制の遵守状況評価

◆データの出所:会社の内部データ

◆目 標 値:違反件数を年間55%削減

◆実 績 値:2005年55件、2004年57件、2003年60件、2002年64件、2001年63 件

◆データの出所、算出方法に変更はない。

② 環境KPIガイドライン

環境省(DEFRA)が2006年初めに公表した環境KPI専用のガイドライン

(Environmental Key Performance Indicators: Reporting Guidelines for UK

Business)である。当初、その公開草案は開示規制されたOFRとEU会計法現代

化指令によって大規模非上場会社に適用されたビジネスレビュー向けに策定

されていた。OFRもビジネスレビューも共に特定の場合に環境KPIを開示しなけ

ればならないからである。

しかし、前節で述べたように、2006年1月に開示規制が廃止されたことによ

って、確定版ではOFRへの言及が削除され、汎用的な環境KPIガイドラインへの

衣替えが行われた。そのため、ガイドラインの想定利用者として、環境パフォ

ーマンス報告を初めて行う会社、ビジネスレビュー、大規模会社のサプライチ

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ェーンにいる中・小規模会社、既に環境パフォーマンス報告を行っている会社、

公共部門等が列挙されており、株主、それ以外のステークホルダー、政府等も

副次的利用者として挙げられるなど汎用性の高さが強調されている。

[KPI原則]

環境KPIガイドラインには、透明性、アカウンタビリティ、信頼性という環

境報告の一般原則以外に、KPI原則というKPIに特化した3つの報告原則がある。

これらによってKPIの情報属性が明らかにされている。

第1原則は「定量化」である。KPIは定量的指標なので目標値の設定が可能

となり、環境マネジメントシステムの有効性評価に利用できる。KPIとともに

算出手順(protocol)の説明も開示する。また、測定単位は普遍的でなければ

ならず、原データはできるだけ容易に入手可能なものでなければならない。

第2原則は「目的適合性」である。KPIは記述情報によって解説されなけれ

ばならないが、その際、すべての関連情報・ベンチマーク情報を考慮し、算定

プロセス、計算上の制約条件、目標達成度、環境対策、環境負荷の財務的影響

等を説明する。

第3原則は「比較可能性」である。比較可能で包括的な定量的データの開示

が望ましいので、標準化された絶対的評価尺度での測定が求められる。例えば、

売上高、生産高等による原単位ベースのKPIがこれに該当する。

[環境KPIの種類]

イギリスでの事業活動にとって重要な環境KPIとして、下表のように22指標

が指定されている。ただし、サプライチェーン(川上影響)や製品(川下影響)

1 温室効果ガス2 酸性雨、富栄養化、スモッグ原因物質3 塵、浮遊微粒子4 オゾン層破壊物質5 揮発性有機化合物6 金属放出物7 栄養物質、有機汚染物質8 金属放出物9 農薬、肥料10 金属放出物11 酸性物質、有機汚染物質12 廃棄物(埋立、焼却、リサイクル)13 核廃棄物14 水資源消費15 天然ガス16 石油17 金属18 石炭19 鉱物20 複合物21 森林22 農業

資源消費

水系放出物

空中放出物

土壌放出物

図表Ⅱ-3 重要な環境KPI

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に関する追加的なKPIの開示も必要である。

[環境KPI検索表]

環境KPIガイドラインには、下表のようにKPIの決定に有用な検索表が添付さ

れている。

図表Ⅱ-4 環境KPI検索表

重要な直接的KPI 国際分類

産業分類 1 2 3 4 5

その他の

直接的 KPI

重要な供給産業 参照頁

空運 温室効果ガス 酸性雨・

富栄養化・

スモッグ

廃棄物 コークス・精製石油製品・核燃料製造

電気・ガス・蒸気・熱湯供給

支援・補助輸送業務

旅行代理業務

28、33

49

牧畜 水資源消費 農薬・肥料 温室効果ガス 酸性雨・

富栄養化・

スモッグ

農業 耕作物・園芸植物の育成

電気・ガス・蒸気・熱湯供給

食料品・飲料製造

53、45

28、33

61

電気・ガス・

蒸気・熱湯供

温室効果ガス 廃棄物 酸性雨・

富栄養化・

スモッグ

核廃棄物 水資源消費 土壌金属放出

空中金属放出

水系金属放出

石炭・亜炭採掘

泥炭採掘

原油・天然ガス採掘

コークス・精製石油製品・核燃料製造

28、49

33、51

53、46

39、42

保健・ソーシ

ャルワーク

温室効果ガス 廃棄物 電気・ガス・蒸気・熱湯供給

化学物質・化成品製造

出版・印刷・記録メディア製造

28、49

保険・年金基

金(社会保険

を除く)

温室効果ガス 空運

出版・印刷・記録メディア製造

電気・ガス・蒸気・熱湯供給

28

化学物質・化

成品製造

水資源消費 温室効果ガス 土壌金属放出 廃棄物 VOC 空中金属放出

オゾン層破壊

酸性雨・

富栄養化・

スモッグ

有機汚染物質

電気・ガス・蒸気・熱湯供給

コークス・精製石油製品・核燃料製造

陸運・パイプラインによる輸送

51、25

44、47

34、35

33、46

30、36

この検索表の使用方法は次のとおりである。

ステップ1:事業内容に適合する産業区分を国際標準産業分類から選ぶ。

ステップ2:産業分類欄の右欄で開示すべき直接的(事業エリア内)KPI

を決定する。

ステップ3:さらに右欄の「重要な供給産業」欄で川上産業を決定する。

ステップ4:該当するKPIの説明が参照頁欄にあるので、これを参照する。

③ 人的資源管理に関する特別委員会報告(Accounting for people)

“Accounting for people”は2003年1月に貿易産業相が設置した「人的資

本管理に関する特別委員会」の最終報告書である。この委員会は、人的資本に

対する投資の評価指標を実務から識別し、人的資本報告と有用な評価指標に関

する健全な実務慣行を検討することを目的に設置された。2003年10月答申の最

終報告書には従業員関連情報として、次のような項目の開示が推奨されている。

・ 労働力の規模、構成

・ 従業員の定着、動機付け

・ 技能、能力及びそれらの向上訓練

・ 報酬、公正な雇用慣行

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・ リーダーシップ、適任者の育成計画

なお、開示推奨項目を抽出する過程で行われた実務慣行の調査から、次の6

指標が大企業の一般的指標であると説明されている。

・ 労働力の現況

・ 転職率

・ 定着率

・ 欠勤率

・ 労働生産性

・ 従業員の経営関与度

また、これら以外の追加的指標として、次の4指標も挙げている。

・ 訓練(金額、コスト、効果)

・ リーダーシップ、キャリア開発

・ 従業員1名当たりの収益や利益

・ 報酬方針

(3) オランダ

オランダでは、会計法現代化指令の履行に伴って会計法である民法第2編第9

章を改正し、財務的及び非財務的KPIの開示規定(第391条第1項)を置いた。こ

の規定は年次報告書に開示すべき年次事業報告(Jaarverslag)に関する規定で

あるが、年次事業報告の役割として次の事項を定めている。

a.法人及び企業集団の期末状態、事業年度中の経過及び業績について、真実

の映像(getrouw beeld)を提供する。

b.法人及び企業集団の規模及び事業特性に応じて、期末状態、事業年度中の

経過及び業績に関するバランスの取れた包括的分析を開示する。

c.法人及び企業集団の経過、業績、期末状態を理解するのに必要な場合は、

当該分析に環境及び従業員に関する事項を含む財務的・非財務的な業績指標

も含む。

d.法人の直面する主要なリスク及び不確実性について記述する。

民法第2編第9章の適用範囲は株式会社(NV)、有限会社(BV)、協同組合、相

互保険会社、収益事業を営む財団等、特定のパートナーシップ等の法人なので(第

360条)、ほとんどの企業には年次事業報告の作成義務がある。また、年次事業報

告は監査対象であり、「監査人が判断できる範囲で」年次事業報告の適法性と財

務諸表との整合性について監査するよう求められている(第393条第3項)。ただ

し、小規模法人に対しては、年次事業報告の作成義務と監査義務の免除規定(第

396条第6項)がある。また、オランダでは、会計法現代化指令が加盟国に認め

ている選択権を適用した結果、中規模会社も非財務的KPIの開示が免除されてい

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る(第397条第7項)。

民法第2編第9章は企業会計に関する枠組み法なので詳細な開示規定を含ん

でいない。そこで、これを補完するために、会計基準設定主体である年次報告審

議会(RJ)が年次報告ガイドライン(Richtlijnen voor de jaarverslageving)

を公表している。

① 年次報告ガイドライン400(R400)

CSR情報開示の詳細は年次報告ガイドライン400(Richtlijn 400、以下「R400」

という。)に定められている。R400は、年次事業報告に関する民法規定第391

条を補完するための会計ガイドラインであるが、ここに「CSR側面の情報

(informatie over aspecten maatschappelijk verantwoord ondernemen)」と

題する開示規定(第117項~第123項)が置かれている。

R400には、コーポレートガバナンス原則である「開示か説明」原則(pas toe

of leg uit-regel)が適用されるため、CSR情報を開示しない場合は理由を開

示しなければならない。

R400が定めるCSR情報の開示項目(第121項)は、次のように、全般面、環境

面、社会面、経済面の4部構成になっている。これらはいずれも例示列挙項目

である。

[全般面]

a.直面する事業課題(その内容、事業戦略への反映、ステークホルダーへの

影響)

b.環境面・社会面・経済面の相互関係

c.製品・サービスの安全性・品質等

[環境面]

a.環境マネジメント

b.エネルギー・水・資源の消費量

c.生産チェーンへの影響

[社会面]

a.労務関係(雇用、労働条件、労務管理方針、労使協議、従業員の経営参加

権、衛生・安全、教育・訓練、多様性、能力開発の機会提供)

b.人権(従業員の権利、児童労働・強制労働・差別撤廃に関する方針)

c.清廉性(贈収賄の防止方針)

d.社会とのかかわり合い

[経済面]

a.財務的社会貢献(納税等)

b.ステークホルダーへの財務的貢献(付加価値計算書)

c.研究開発による知識の社会的創造・伝播、訓練等

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なお、これらの開示に当たっては、ステークホルダーとの対話、CSRマネジ

メント、組織、実行・成果、将来予測情報にも留意し(第122項)、セグメント

別開示も行うように求めている(第123項)。

R400はCSR情報の開示メディアについてユニークな考え方を示している。本

来、CSR情報は年次事業報告において開示すべき情報であるが、通常はCSR報告

書が別途作成され、こちらの方がより詳細であるために、CSR報告書を利用し

た開示も認めているのである(第120項)。開示メディアの選択肢は次の3つで

あるが、別途CSR報告書を作成してR400の定めるCSR情報を開示する場合は、年

次報告書の財務諸表区分にその旨を注記することが推奨されている。

a.年次事業報告だけに開示する。

b.CSR報告書だけに開示する。

c.年次事業報告とCSR報告書の両方に開示する。

② 持続可能性報告ガイド

R400が公表された2003年9月には、R400とともに「持続可能性報告ガイド

(Handreiking voor Maatschappelijk verslaggeving)」も公表されている。

これは企業がCSR報告書を作成する際の概念フレームワークであり、CSR報告の

目的、ステークホルダーの情報ニーズ、開示情報の質的特性、報告書の範囲、

情報収集、伝達・公告方法等の諸原則がまとめられている。内容的にはGRIガ

イドラインの考え方が反映されているが、年次報告書における情報開示で参照

する場合も含め、オランダのCSR報告にとって重要な実務指針になっている。

持続可能性報告ガイドとR400は元々関連するガイドラインとして策定され

た。オランダでは、2000年にOECDの多国籍企業ガイドラインを批准したことに

伴い、CSR報告の枠組み作りが課題となっていた。そこで経済省はRJに対して

企業によるCSR報告の範囲を検討するよう諮問したのである。その答申内容が

R400(年次報告書のCSR情報開示)と持続可能性報告ガイド(独立したCSR報告

書)の2本立てであった。

持続可能性報告ガイドに定める開示事項はR400よりも圧倒的に詳細である

が、それらについては図表Ⅱ-5に示すとおりである。

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図表Ⅱ-5 R400と持続可能性報告ガイドのKPI比較

情報の種別 R400 持続可能性報告ガイド

環境管理

手段

環境マネジメント 環境方針、環境目標、環境計画

環境マネジメントシステム、

エネルギー消費量 化石燃料消費量

再生可能エネルギー使用量

水使用量 水使用量・再利用量

資源投入

資源消費量 資源消費量・再利用量

生産工程 大気・水系・土壌への影響

廃棄物

悪臭、騒音、塵

環境事故+防止対策

環境上の苦情+処理方法

地域企業間での資源相互交換+事業所の持続的利用

川上・川下への

影響

生産チェーンへの影響 製品・サービス、包装、運輸の環境影響

下請け等のサプライチェーンに対する要求事項+監視方法

生物多様性 事業活動による影響+保護対策

環境

環境影響の財務

的側面

環境税、エネルギー税

環境コスト、環境投資額、環境上の引当金等を区分表

労務 雇用(増員、平均離職率)

労働条件

労務管理方針(就労不能の防止、転職斡旋、労働人口)

労使協議

従業員の経営参加権

衛生・安全

教育・訓練

多様性

能力開発の機会提供

雇用(増員、平均離職率)

労働条件

労務管理方針(就労不能の防止、転職斡旋、労働人口)

労使協議

従業員の経営参加権

衛生・安全

教育・訓練

多様性

能力開発の機会提供

人権 従業員の権利

児童労働・強制労働・差別撤廃に関する方針

組合結成・団体交渉の自由

差別防止、児童労働・強制労働

懲戒方針、警備方針

原住民の権利

清廉性 贈収賄の防止方針 清廉性に関する組織の方針+方針遵守状況の監視方

社会的貢献 社会とのかかわり合い 地域社会への貢献

社会

製造物責任 製品の衛生・安全対策+監視方法(品質・エコラベル

等)

宣伝における清廉性の確保手段

プライバシー・地域社会の尊重手段

動物保護・遺伝子組み換えに関する方針

地域社会への財務的貢献(租税等) 技術革新(特許取得数、業務提携数)

事業所移転の影響

GDP・国の経済競争力への貢献

組織活動への地域依存度

事業所立地の新規投資誘因度

供給業者の創造

ステークホルダーへの財務的貢献(付加価値計算書) 付加価値計算書+付属説明書

(人件費、利益、支払利息、税金)

財務的指標

売上高、無形資産、配当金、投資額

非財務的

指標

知識の社会的創造・伝搬(研究開発、訓練等) 研究開発

雇用(投資損益、営業譲渡、要員計画)

供給した製品・サービス

公正性 価格決定方法、公正な競争への取組

清廉性 贈収賄の防止手段

経済

開発途上国への

貢献

開発途上国への貢献

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(4) ドイツ

ドイツでは、2004年12月に会計法現代化指令の履行法が制定され、商法改正が

行われた。KPIは年次報告書中の状況報告書(Lagebericht)に記載されるが、状

況報告書の記載内容に関するガイドラインとして、会計基準委員会(DRSC)から

は2004年12月に「連結状況報告書に関する会計基準書(DRS15)」が、また経済監

査士協会(IDW)からは2005年10月に「状況報告書の作成に関する会計意見書(IDW

RH HFA 1.007)」がそれぞれ公表されている。

このうち、経済監査士協会の会計意見書にはKPIに関する規定があり、開示す

べき適切なデータとして次のような事項を例示している。

① 従業員情報

・ 従業員数の変動

・ 役員数

・ 報酬構造

・ 研修制度

・ 内部人材の育成制度

② 環境情報

・ 放出物量、排出物量

・ エネルギー消費量

・ 環境監査の実施状況

③ その他

実際に開示すべきKPIは個々の会社の状況に応じて決定されなければならな

いが、上記以外のその他の開示データとして次の事項が例示されている。

・ 顧客の構成

・ 顧客満足度

・ 供給業者との関係

・ 特許申請

・ 製品の品質

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Ⅲ 選定各ガイドライン等の検討結果要約

1.GRI「ドラフト サステナビリティ・リポーティング・ガイドライン 一般の意

見を募るためのG3版」

(1) GRI「ドラフト サステナビリティ・リポーティング・ガイドライン 一般の

意見を募るためのG3版」に示されるKPI

当該G3版におけるパフォーマンス指標は、マネジメント・アプローチに関す

る開示とパフォーマンス指標の2つの部分からなっている。

マネジメント・アプローチに関する開示では、各分野での方針、責任、マネジ

メント、目標とパフォーマンス、受賞歴、罰金及び背景を説明している。

また、パフォーマンス指標では、指標の意義、具体的な個々の取組みに関連す

る指標の内容説明、関連する用語の定義を行う構成になっている。なお、パフォ

ーマンス指標は、必須指標と任意指標に区分されている。

ここでは、上記のうち、経済パフォーマンス指標、環境パフォーマンス指標、

社会パフォーマンス指標を対象に検討した。

図表Ⅲ-1 GRIガイドラインにおける指標一覧

情報項目(・必須指標 - 任意指標)

経済パフォーマンス指標

経済的パフォーマンス

EC1.

・ 収益、営業経費、従業員の給与、寄付及びその他のコミュニティへの投資、内部留保、及

び資本提供者や政府に対する支払いなど、発生した、あるいは分配された経済的価値

EC2. ・ 気候変動により財務面への予想される影響

EC3. ・ 確定給付年金制度の組織負担の範囲

EC4. ・ 政府から受けた財務的支援

市場での存在感

EC5. ・ 重要な営業地域について、現地の最低賃金と比較した新入社員の賃金

EC6. ・ 重要な営業地域での業務慣行、及び地元のサプライヤーへの支出の割合

EC7. ・ 現地採用の手順、重要な営業地域で現地のコミュニティから上級管理職となった従業員の

割合

間接的な経済的影響

EC8. ・ 公共の利益を提供する、基盤施設(インフラ)投資及び支援したサービスの記述

EC9. ‐ 間接的な経済的影響

環境パフォーマンス指標

原材料

EN1. ・ 使用原材料の重量

EN2. ・ リサイクル由来の使用原材料の割合

エネルギー

EN3. ・ 1次エネルギー源ごとに分類された直接的エネルギー消費量

EN4. ・ 1次エネルギー源ごとに分類された間接エネルギー消費量

EN5. ‐ 総エネルギー消費量の中で再生可能資源が占める割合

EN6. ‐ 省エネルギー及び効率改善によって節約された総エネルギー量

EN7. ‐ エネルギー効率の高い製品及びサービスを提供する率先取組

EN8. ‐ 間接的エネルギー消費量削減のための率先取組

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情報項目(・必須指標 - 任意指標)

EN9. ・ 水源からの総取水量

EN10. ‐ 取水により著しい影響を受ける水源及び関連する生息環境

EN11. ‐ 水のリサイクル及び再利用が総使 用水量に占める割合

生物多様性

EN12. ・ 保護地域内、あるいはそれに隣接した場所に所有、賃借、あるいは管理している土地の所

在地及び面積

EN13. ・ 保護地域での活動の重大な影響に関する説明

EN14. ‐ 保護又は復興されている生息地域の面積

EN15. ‐ 生物多様性への影響を管理するためのプログラム

EN16. ‐ 事業によって影響を受ける地区における生息地域に生息するIUCNのレッドリスト種(絶滅

危惧種)の数。絶滅危険性のレベルごとに分類する。

排出物、排水及び廃棄物

EN17. ・ 温室効果ガス排出量

EN18. ・ オゾン層破壊物質排出量

EN19. ・ NOx、SOx及びその他の重大な排気物質(重量で表記)

EN20. ・ 種類及び廃棄先別の廃棄物の総量

EN21. ・ 総排水量及び水質

EN22. ・ 重大な漏出の総件数及び漏出量

EN23. ‐ その他の間接的な温室効果ガス排出量

EN24.

‐ バーゼル条約付属文書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ及びⅧの下で有害とされる廃棄物の輸送、輸入あるいは

輸出の重量

EN25. ‐ 排水及び流出液により著しい影響を受ける水源及び関連する生息環境

製品及びサービス

EN26. ・ 製品及びサービスの環境影響と影響削減の程度を管理する率先取組み

EN27. ・ 使用済みとなった時点で再生利用される販売製品の、カテゴリー別の割合

遵守

EN28. ・ 適用される環境規制への違反の発生件数、及び、それに対する罰金又は罰金以外の制裁措

輸送

EN29. ‐ 流通目的で使用される輸送の、重大な環境への影響

総合

EN30. ‐ 種類別の環境保護目的の総支出

人権パフォーマンス指標

経営実務慣行

HR1. ・ 人権条項を含む、あるいは人権についての適正審査を受けた重大な投資協定の割合

HR2. ・ 人権に関する適正審査を受けた主なサプライヤー及び請負業者の割合

HR3. ‐ 研修を受けた従業員数を含め、運営に関連する人権的側面に関わる方針及び手順に関する

従業員研修の種類

無差別

HR4. ・ 差別事例

結社の自由

HR5. ・ 結社及び団体交渉の自由の侵害の事例

児童労働

HR6. ・ 児童労働の事例

強制労働

HR7. ・ 強制労働の事例

懲罰慣行

HR8.

‐ 報復防止措置を含め、人権に関して顧客、従業員及びコミュニティから挙げられた苦情及

び不満に関する手続

保安慣行

HR9. ‐ 人権に関する組織の方針又は手続の研修を受けた保安要員の割合

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情報項目(・必須指標 - 任意指標)

先住民の権利

HR10. ‐ 先住民の人権に関わる事例

労働慣行とディースント・ワーク(公正な労働条件)のパフォーマンス指標

雇用

LA1. ・ 雇用の種類及び地域別の総労働力の内訳

LA2. ・ 従業員の総離職数及び離職率の年齢及び性別による内訳

LA3. ‐ 派遣社員又はアルバイト従業員には支給されず、正社員には支給される最低手当

労使関係

LA4. ・ 独立した労働組合組織に代表される、あるいは団体協約の対象となっている従業員の割合

LA5. ・ 運営の変更に関する、従業員及び/又はその代表への最短通知期間、及び彼らとの協議と

交渉についての実務慣行

労働安全衛生

LA6. ・ 労働安全衛生プログラムについての監視及び助言を行う公式の労使合同安全衛生委員会の

対象となる従業員の割合

LA7. ・ 傷害、業務上疾病、損失日数、欠勤の割合及び業務上の死亡者数

LA8. ・ HIV/AIDS又はその他の深刻な感染症に感染している労働者、その家族又はコミュニティ

のメンバーを支援するために設けられている、教育、研修、カウンセリング、予防及び危機

管理プログラム

LA9. ‐ 労働安全衛生管理の取組みの要素

LA10. ‐ 労働組合との正式合意に盛り込まれている安全衛生のテーマ

研修及び教育

LA11. ・ 従業員当たりの、従業員のカテゴリー別年間平均研修時間

LA12. ‐ 従業員の継続的な雇用適性を支え、キャリアの終了管理を支援する技能管理及び生涯学習

のためのプログラム

LA13. ‐ 定常的にパフォーマンス及びキャリア開発のレビューを受けている従業員の割合

多様性及び機会均等

LA14. ・ 統治機関の構成及び性別、年齢、マイノリティーグループ、及びその他の多様性の指標に

従ったカテゴリー別の従業員の内訳

LA15. ‐ 従業員カテゴリー別の男性及び女性の平均報酬の比率

製品責任のパフォーマンス指標

顧客の安全衛生

PR1. ・ 製品及びサービスのライフサイクルを通じた安全衛生向上のための手順

PR2. ‐ 製品及びサービスの安全衛生の影響に関する規制への非遵守の事例の件数と種類

製品及びサービス

PR3. ・ 製品及びサービスの情報とラベル表示の手順

PR4. ‐ 製品及びサービスの情報とラベル表示に関する規制への非遵守の事例の件数と種類

PR5. ‐ 調査結果を含む顧客満足度を測る、顧客満足に関する手順

マーケティング・コミュニケーション

PR6. ‐ 広告、宣伝及び後援を含むマーケティング・コミュニケーションに関する法律、基準及び

自主規範の遵守のための手順及びプログラム

PR7. ‐ 広告、宣伝及び後援を含むマーケティング・コミュニケーションに関する規制への非遵守

の事例の件数と種類

顧客のプライバシー

PR8. ・ データ保護手順に従い保護されている顧客データの割合

PR9. ‐ 顧客のプライバシー侵害に関する正当な根拠のあるクレームの件数

社会のパフォーマンス指標

コミュニティ

SO1. ・ 参入、事業展開及び存続を含む、コミュニティに対する事業の影響を評価し、管理するた

めのプログラムと実務慣行

不正行為

SO2. ・ 不正行為を防止するための研修及びリスク分析の程度

SO3. ・ 不正行為の事例に対応して取られた措置

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情報項目(・必須指標 - 任意指標)

公共政策

SO4. ・ 公共政策開発への参加及びロビー活動

SO5. ‐ 政党又は関連機関への国別内訳付き献金総額

非競争的な行為

SO6. ‐ 非競争的な行動、反トラスト及び 独占的慣行に関する法的措置の事例とその結果

(2) 企業の情報開示に記載するCSR情報として特に有用な指標の例

① 経営全般に関するKPI

ア.収益、営業経費、従業員の給与、寄付及びその他のコミュニティへの投資、

内部留保、及び資本提供者や政府に対する支払いなど、発生した、あるいは

分配された経済的価値(EC1)

(ア)意義

経済価値の生成と分配に関するデータは、組織がステークホルダーのた

めにどのように富を生み出したかを示す。これらのデータ要素のうちいく

つかは、報告組織の経済的側面や背景を示し、他のパフォーマンス値を標

準化するために活用できる。また、国別の詳細が示されれば、地域経済に

加えられた直接的な経済価値の情報としても有用である。

(イ)測定・算出方法

1) 発生した経済価値(収入利益)

2) 分配した経済価値(営業経費、従業員給与と福利、ステークホルダー

への支払い、政府への支払い(国ごと)、地域投資)

3) 経済価値の保持(投資、株公開など)

(ウ)関連する定性情報

1) 組織に参画したステークホルダー・グループのリスト

イ.不正行為を防止するための研修及びリスク分析の程度(SO2)

(ア)意義

従業員やビジネスパートナーの不正行為による評判リスクを管理する

ために、支援システムが必要である。教育とリスク分析は、組織の方針と

手続を効果的に発揮し、内部の啓蒙と不正行為の抑止力を築くために重要

である。

(イ)測定・算出方法

1) 報告期間内に不正行為に関する組織のリスク分析が行われた、ビジネ

スユニットの割合と数

2) 報告期間内に不正行為の防止に関する教育を受けた、経営管理者と従

業員の割合

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(ウ)関連する定性情報

1) 関連するマネジメントシステムの概要

2) リスク分析プロセス、リスクに関する研修方針

ウ.不正行為の事例に対応して取られた措置(SO3)

(ア)意義

不正行為の事実は、組織評価に重大なリスクを発生させる。不正行為は

貧困原因、環境破壊、人権乱用、投資の配分ミス、法治の間接的な攻撃等

幅広く関連するため、この指標は、不正行為の原因にさらされる危険を抑

え、新たなリスク軽減を示すものである。投資家にとっては、事件の発生

及びその対応の両方が関心事となるもので有用である。

(イ)測定・算出方法

1) 雇用者が不正行為により、解雇・制裁措置を受けた実件数

2) 不正行為により、再契約に至らなかったビジネスパートナーとの契約

の事例件数

3) 不正行為関連の法的事件、雇用者及びその事件の結果

(ウ)関連する定性情報

1) 関連するマネジメントシステムの概要

2) 不正行為の原因・再発防止策・そのフォロー結果

エ.気候変動により財務面への予想される影響(EC2)

(ア)意義

気候変動が組織、あるいは関連するステークホルダーに対して様々なリ

スクとチャンスをもたらす。気候変動に伴う水供給量の変化、気温の変化、

それらの健康面への影響、農水産物等の収穫量への影響、関連する規制の

強化等により企業の経費及び競争力への影響が増大する可能性がある。

これらの内容は、将来における企業の財政状態及び経営成績に与える可

能性が大きなリスクとチャンスを検討するに当たって投資家にとって有

用な情報をもたらす。

(イ)測定・算出方法

KPIは該当なしと判断

(ウ)関連する定性情報

1) 主なブランド、製品及び/又はサービス

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② 従業員への配慮に関するKPI

ア.雇用の種類及び地域別の総労働力の内訳(LA1)

(ア)意義

労働力の内訳は、企業における人的資産がどのように戦略上扱われてい

るか、企業のビジネスモデルにおける基本的な考え方を提示し、雇用タイ

プの内訳は仕事の安定性や福利のレベルの指標を提示するものである。

また、労働力の大きさは、多数の融合的指標のための標準力基準ともな

り、給与所得の上昇や減少は、労働地域におけるサステナビリティ貢献と

して重要である。

(イ)測定・算出方法

1) 労働者の居住国内法令下の定義に基づいた常勤、非常勤の区分

2) 雇用タイプ別の人数

3) 地域別人数

4) 重要な季節変動がある場合の内容

(ウ)関連する定性情報

1) 雇用・多様性及び機会均等に関するマネジメントシステム

2) 組織が事業展開する国

イ.従業員の総離職数及び離職率の年齢及び性別による内訳(LA2)

(ア)意義

高退職率は雇用者の不確実性及び不満足水準の象徴となるものである。

経理における根本的構造変革への警鐘ともいえる。年齢及び性別における

退職率の不規則な状況は職場における潜在的な不公平や不適合の兆候と

もいえる。退職は企業における人材及び知的資本に変化をもたらし、生産

性に直接影響を与えるものである。また、退職は人件費カットや人材採用

等、多大な経費に直接関連するものであり、投資家にとっては、企業の生

産性、知的資本力、コスト競争力等評価する上で有用である。

(イ)測定・算出方法

1) 退職者の総数

2) 退職者の年齢及び性別内訳絶対数及び割合

(ウ)関連する定性情報

1) 雇用に関するマネジメントシステム

ウ.傷害、業務上疾病、損失日数、欠勤の割合及び業務上の死亡者数(LA7)

(ア)意義

衛生面及び安全性の実績は企業責任として重要な項目である。

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負傷者及び欠勤者の割合が低いのは、通常従業員のモラルや生産性に関

連するものであるため、この指標は企業競争力を評価する上で参考となる

情報を提供するものとして有用である。

(イ)測定・算出方法

1) 負傷者率=負傷者数÷勤務時間×200,000

2) 職業病率=職業別の疾例数÷勤務時間数×200,000

3) 負傷による欠勤日率=職業別の疾例数÷勤務時間数×200,000

4) 長期欠勤率=期間中の全欠勤日数÷同期間の総勤務時間×200,000

(ウ)関連する定性情報

1) 労働安全衛生に関するマネジメントシステム

エ.統治機関の構成及び性別、年齢、マイノリティーグループ、及びその他の

多様性の指標に従ったカテゴリー別の従業員の内訳(LA14)

(ア)意義

この指標は組織の多様性を定量的に示し、分野別、地域別分析と関連し

て使用することができる。多様性のレベルによって、組織の人的資源を洞

察することができる。広範囲の従業員の多様性と、経営層の多様性を比較

することで、組織内の機会均等に関する情報を得ることができる。従業員

構成に関する詳細情報はまた、従業員の特定分野に特有のリスクとなる問

題を評価する上で役立つ。

(イ)測定・算出方法

1) 報告組織が自らの監視と記録のために使用している多様性の指標

2) 従業員区分ごとの従業員の数(取締役、上級管理職、中間管理職、事

務、製造等)

3) 従業員区分ごとの、以下の観点による従業員分類

4) 組織の統治機関ごとの、同様の多様性の観点による分類

・ 性別(男性従業員に対する女性の割合)

・ 少数民族グループ

・ 年齢グループ(30歳未満、30歳から50歳、50歳以上)

(ウ)関連する定性情報

1) 雇用・多様性及び機会均等に関するマネジメントシステム

2) 組織が事業展開する国

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③ 顧客への配慮に関するKPI

ア.製品及びサービスのライフサイクルを通じた安全衛生向上のための手順

(PR1)

(ア)意義

この指標は、製品のライフサイクルを通じて、製品の安全衛生に取り組

むシステマチックな努力の存在と対象範囲を示す。顧客は、製品・サービ

スが、安全衛生のリスクを犯すことなく、意図した機能を申し分なく果た

すことを期待している。このような責任は、法規制だけではなく、OECD

多国籍企業ガイドラインのような自主的な規範においても取り組まれて

いる。

製品・サービスの使用や配送に関わる安全衛生を守るための努力は、評

判や、リコールによる法的・財務的リスク、品質による市場における差別

化、従業員のモチベーションに直接的に関係している。

(イ)測定・算出方法

1) 顧客の安全衛生に関するマネジメントシステムが適用され、準拠性が

評価されている主な製品・サービスの割合

(ウ)関連する定性情報

1) 顧客の安全衛生に関するマネジメントシステム

2) 以下のライフサイクルのどの段階に、製品の安全衛生を評価し改善す

るための手続が組み込まれているかを示す。

・ 製品コンセプトの開発

・ 研究開発

・ 検定

・ 製造・生産

・ マーケティング・宣伝

・ 保管・物流・供給

・ 使用・サービス

・ 廃棄・リユース・リサイクル

イ.製品及びサービスの安全衛生の影響に関する規制への非遵守の事例の件数

と種類(PR2)

(ア)意義

製品及びサービスの情報とラベル表示及び影響に関しては、様々な規制

や法律への遵守が求められ、これらを遵守しないと内部管理システムや手

続が不適切となりそれらを効果的に実施することが困難となる。非遵守に

より、処罰や罰金による財務に直接影響が及ぶばかりか評判や顧客への忠

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誠心や満足を危うくするおそれがあるので、投資家にとっては企業存続に

影響を与える重要な情報として有用である。

(イ)測定・算出方法

製品及びサービスの情報とラベル表示に関する規制への非遵守の事例

件数を下記の区分ごとに提示する。なお、本件数には、企業の過失でない

と決定された事例は含まない。

・ 罰金又は処罰を招く事例

・ 警告を招く事例

企業が規制への非遵守を確認しなかった場合は、この事実の供述を簡潔

に行うのみでよい。

(ウ)関連する定性情報

1) 製品及びサービスに関するマネジメントシステム

ウ.データ保護手順に従い保護されている顧客データの割合(PR8)

(ア)意義

個人情報の利用及び保護は消費者の共通懸念事項であり、個人情報、デ

ータ・システム、データリスクの不正利用又はコントロールの欠如は、個

別の権利濫用や財務上の損失、テロのリスク、あるいは個人の又は商業的

な損害につながる危険がある。

顧客のプライバシー、個人データの保護は国内外の規制のみならず、増

大する規範やガイドラインの対象となる。上記のことから、この指標は顧

客のプライバシーを保護するシステム・手続がどの程度実施されているか

を評価し、関連した財務上のリスクを評価する上で投資家にとって有用で

ある。

(イ)測定・算出方法

1) データの保護手順の対象となる顧客データの比率

管理しているデータ量、ファイル・記録の総数、保護されている記録

の種類について記載する。

(ウ)関連する定性情報

1) 顧客のプライバシーに関するマネジメントシステム

2) データの保護手順の主要要素

3) 主なブランド、製品及び/又はサービス

4) 参入市場(地理的内訳、参入セクター、顧客・受益者の種類を含む)

④ 社会一般への配慮に関するKPI

ア.人権条項を含む、あるいは人権についての適正審査を受けた重大な投資協

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定の割合(HR1)

(ア)意義

この指標は、経済的判断に人権がどの程度統合されているかを示す。特

に関係が深い組織は、人権保護に関する関心が高く論議を呼んでいるよう

な地域で、事業を行っていたり、そういった地域のベンチャーとパートナ

ーになっていたりするような組織である。

審査に人権の基準を統合したり、人権パフォーマンスの要求を含めたり

することは、投資リスクを減少させる戦略の一部となり得る。人権問題が

起これば、投資組織にとって評判の低下や、実際の投資の安定した運営に

影響を来すおそれがある。指標の割合は、このようなリスクが、通常の投

資決定の際にどの程度考慮されているかを示す。

(イ)測定・算出方法

1) 財務会計上重要な、他の事業者を所有、又は資本投資プロジェクトを

開始するための投資契約のうち、報告期間中に締結されたものの合計数

(規模・戦略的に重要性の高いもの。複数の投資が同一のパートナーに

よって引き受けられた場合、契約数には個々のプロジェクトや設立した

事業体の数を反映させる。)

2) 人権に関する条項を含む、又は人権問題のスクリーニングを通過した

投資契約の割合

(ウ)関連する定性情報

1) 人権に関する経営実務慣行に関するマネジメントシステム

イ.参入、事業展開及び存続を含む、コミュニティに対する事業の影響を評価

し、管理するためのプログラムと実務慣行(SO1)

(ア)意義

組織の重要な持続可能性に係る影響は、特定の地理的エリアに関係して

発生する。環境への排出や経済的データのような、GRIフレームワークの

指標は、総合的にネガティブ・ポジティブな影響を示すが、個々のコミュ

ニティレベルや、地理的エリアでの分析はできないかもしれない。組織が、

事業活動を行っているコミュニティに対する自らの影響を、体系的に管理

する方法を反映させた尺度を持つことは重要である。

コミュニティに対する影響を管理する、信頼できるシステムは、潜在的

なパートナーとしての組織のブランドや評判を拡大し、現存する事業の維

持だけではなく、新規事業を開始する能力をも強化する。

(イ)測定・算出方法

1) 地域コミュニティに対する組織の影響を評価するためのプログラム

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の有無

・ コミュニティに参画する前

・ コミュニティで事業活動を行っている期間中

・ コミュニティからの退去の意思決定を行う過程

2) 方針・プログラムによる定義の有無

・ このプログラムのために、誰がどのようにデータを収集するか

・ 情報を収集するコミュニティのメンバー(個人又はグループ)を、

どのように選定するか

3) プログラムが適用される組織の割合

4) コミュニティへの影響を管理する組織のプログラムが、それらの影響

のネガティブな面を軽減し、ポジティブな側面を最大化する上で効果的

であるか、影響を受ける人々の規模を含めて示す。

5) コミュニティへの影響データのフィードバックと分析が、どのように、

報告組織側でコミュニティ・エンゲージメントを更に発展させているか、

を示す事例

(ウ)関連する定性情報

1) 人権に関する経営実務慣行に関するマネジメントシステム

⑤ 環境への配慮に関するKPI

ア.使用原材料の重量(EN1)

(ア)意義

「世界の資源基盤の保全」と「経済の材料使用度を下げる取組み」に関

する企業の貢献度を示すとともに、各国の資源戦略の中で、天然資源の安

定的供給(品質、量、コスト)を確保することは、組織の持続可能性を確

保する上で重要であり、投資家にとっては経費及び競争力への影響、ひい

ては企業存続に関わる評価をする上で重要な情報を提供するものである。

(イ)測定・算出方法

最終製品に直接使用されている天然資源(原材料、関連加工材料、梱包

用の材料)を明記し、直接材料と再生不能な天然資源の総使用量を記載す

る。

(ウ)関連する定性情報

1) 天然資源の使用に関するマネジメントシステム

イ.水源からの総取水量(EN9)

(ア)意義

企業の水の使用に伴う全体的な影響とリスク規模の把握に役立つ。総取

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水量は、利用者としての相対的な規模と重要度を示すとともに、効率性及

び使用について他の計算における基準値となる。効率的な使用は使用コス

トの削減につながるとともに、水の供給途絶やコスト上昇に伴うリスクの

評価にも参考となる。

また、水資源の利用制約の厳しい地域においては、企業の水使用状況が

他のステークホルダーとの関係にも影響を及ぼす可能性もあるという点

においても、企業のリスク評価上参考となる。

(イ)測定・算出方法

1) 総取水量

水道施設など仲介手段を通じて得た水の量を水源に関係なく、明記す

る。冷却水の抜取りもこの対象となる。

2) 水源別総取水量

・ 湿地、河川、湖及び海の水を含めた地下水

・ 地下水

・ 企業が直接集め保管した雨水

・ 地方自治体の水道施設

(ウ)関連する定性情報

1) 水の使用に関するマネジメントシステム

ウ.保護地域での活動の重大な影響に関する説明(EN13)

(ア)意義

生物多様性に企業が与える影響とこれらの影響を軽減する企業戦略の

背景を示すものである。

企業の事業活動に伴う生態系へ及ぼす影響の相対的な大きさ及び重要

度、性質の経年変化比較を可能とするものであり、投資家にとっては企業

経営上のリスク評価上参考となる情報である。

(イ)測定・算出方法

1) 生物多様性に与える主な直接的影響及び間接的影響

企業の事業活動に関連して生物多様性に及ぼされた著しい影響

著しい影響とは、生態学的な特徴、構造及び機能を地域全体にわたっ

て長期的に極めて大きく変化させることで、その地域の保全を大きく損

ないかねない影響。これは、生息環境、その個体数レベルやその生息地

を重要なものにしている生物種を維持できないことを意味するもので

ある。

2) 主な影響を発生させた原因

・ 輸送インフラの建設又は利用

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・ 汚染(生息地には本来存在しない点源及び非点源由来の物質導入)

・ 品集生物種、害虫及び病原菌の採用種の減少

・ 生息地の改変

・ 自然な増減の範囲を超えた、生態学的プロセスの変化(例:塩分濃

度、地下水位変動)

3) 主なプラス面及びマイナス面の影響内容

・ 影響を受けた種

・ 影響を受けた地域の範囲(正式に保護された地域に限定する必要は

なく、特に重要度あるいは脆弱度が高い地域も考慮に入れる。)

・ 影響を及ぼす期間

・ 影響の可逆性あるいは不可逆性

(ウ)関連する定性情報

1) 生物多様性に関するマネジメントシステム

2) 組織が事業展開する国

3) 施設の開業、閉鎖及び拡大を含め、立地について、あるいは運営変更

に関して報告期間中になされた重要な意思決定事項

エ.温室効果ガス排出量(EN17)

(ア)意義

この指標によって、温室効果ガスに関わる国際レベルあるいは国内レベ

ルの規制又は取引システムに照らした削減目標の設定及び監視が可能と

なる。直接及び間接の排出量から税制又は取引システムの導入によって、

コスト面においてどの程度の影響を受ける可能性があるのかを見通す上

でも参考となる。

(イ)測定・算出方法

1) すべての排出源からの温室効果ガスの直接的排出量

排出編には次のような内容が含まれる。

・ 電気、熱又は蒸気の生産

・ フレアリングのなどの燃焼プロセス

・ 物理的あるいは化学的処理

・ 材料、製品及び廃棄物の輸送

・ 通気

・ 漏えいによる排出

2) 換算方法の記述(換算基準・データ等)

データに関わる記述としては、下記の区分に基づく

・ 直接的な測定(例:オンラインの自動計測器)

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・ サイト別データに基づく計算(例:燃料組成分析のためのもの)

・ 既定データに基づいた計算

・ 推計。規定値がないために推定値を使う場合は何を元にその数値を

算出したか記述する。

3) 購入した電気、熱又は蒸気の生産に起因した温室効果ガスの間接的排

出量

4) 直接的及び間接的排出量合計のCO2換算量

(ウ)関連する定性情報

1) 温室効果ガスに関するマネジメントシステム

オ.オゾン層破壊物質排出量(EN18)

(ア)意義

モントリオール議定書では、オゾン層破壊物質の国際的な段階的削減が

求められているため、オゾン層破壊物質排出量の測定によって、企業がど

の程度現行並びに将来の規制に準拠しているか、また、この分野で発生し

得るリスクの評価をすることができる。オゾン層破壊物質削減における企

業成果は、オゾン層破壊物質関連規制を受ける製品とサービスの市場にお

けるテクノロジー予備競争優位性レベルを示す上で役立つ可能性を持つ。

(イ)測定・算出方法

1) モントリオール議定書付属文書A、B、C及びEの対象となっている

排出量

排出量=物質の生産量+輸入量-輸出量

生産量=物質の生産量-技術によって破壊された物質の量-他の化

学物質の生産で原料としてのみ使われた物質の量

表示単位:重量及びCFC-11換算(トン)で表示する。

(ウ)関連する定性情報

1) オゾン層破壊物質に関するマネジメントシステム

カ.種類及び廃棄先別の廃棄物の総量(EN20)

(ア)意義

数年間に渡る廃棄物の排出量に関するデータにより、廃棄物削減の取組

みの進歩度を示すとともにプロセスの効率性と生産性の工場が将来どの

程度可能であるかを示すことができる。

財務的観点からは、廃棄物の削減は材料コスト、処理コスト及び処分コ

ストの削減に直接寄与するものである。この指標により、企業が廃棄物に

関する環境影響を配慮してどのような戦略をとってきたかを評価する上

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で重要な情報を提供するものである。

(イ)測定・算出方法

1) 廃棄物の種類別発生量

・ 国内の規制で定められた有害な廃棄物

・ 無害な廃棄物(廃水を除く固体ないし液体廃棄物)他のすべての携

帯の廃棄物

・ 表示単位:重量(トン)

重量がない場合は、廃棄物の密度と収集量に関する情報、マスバラン

ス、又はそれに類した方法で重量を推計する。

2) 処理方法の区分

・ 肥料への転換

・ 再利用

・ リサイクル

・ 再生

・ 焼却(あるいは燃料として利用)

・ 埋立

・ 深井戸注入

・ 現場での保管

・ その他

(ウ)関連する定性情報

1) 廃棄物に関するマネジメントシステム

キ.重大な漏出の総件数及び漏出量(EN22)

(ア)意義

化学物質、石油及び燃料の漏出は周辺の環境に著しいマイナス影響を与

えるおそれがあり、土壌、水、空気、生物多様性及び人間の健康に被害を

及ぼしかねない。

有害な物質の漏えいを避ける体系的な取組みは、規制への適合、原材料

のロスによる財務リスク、修復コスト、規制措置並びに社会的信用の低下

リスクに直接関わるものである。この指標はこれらのリスク評価に関して

重要な情報を提供するものである。

(イ)測定・算出方法

1) 漏出事実及び漏出量

・ 漏出場所

・ 漏出量を下記の区分により表示

石油漏出物(地面、水面)

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燃料漏出物(地面、水面)

廃棄物の漏出(地面、水面)

化学物質の漏出(主に地面、水面)

その他

(ウ)関連する定性情報

1) 有害物質の漏出防止に関するマネジメントシステム

ク.製品及びサービスの環境影響と影響削減の程度を管理する率先取組(EN26)

(ア)意義

業種によっては、製品及びサービスの使用段階や使用後における影響が、

製造段階と同等か、それよりも上回る場合がある。このような影響の重要

性は、顧客の姿勢や使い方と、製品及びサービスの全般的な設計の両方の

結果である。組織は、製品及びサービスの環境影響を評価し改善するため

に、より先行したアプローチをとることが期待されている。

この指標は、環境への負の影響を低減しポジティブな影響を拡大するた

めの、製品及びサービスの設計と供給に関する活動を評価するものである。

環境配慮設計は、新規ビジネスの機会の特定や、製品及びサービスの差別

化、技術革新の促進につながる。また、環境配慮を製品及びサービスの設

計に組み込むことで、将来の環境規制への不適合の可能性を減らし、評判

を高める。

(イ)測定・算出方法

1) 報告期間中の、製品及びサービスグループが及ぼす最も著しい環境影

響を低減させるイニシアチブの記載

・ 資源の利用(再生不可資源、エネルギー集約型資源、有害な資源 等)

・ 水の使用(生産/使用中の使用量 等)

・ 排出物(GHG、有害な排出物、オゾン層破壊物質 等)

・ 排水(生産/使用中に使われた水の水質)

・ 廃棄物(最終処分、有害な資源/化合物)

製品の再生利用、生物多様性への影響は、他に指標があるため、除く。

2) 製品及びサービスが及ぼす環境影響を、報告期間中にどの程度低減し

たかを、定量的に示す。

(ウ)関連する定性情報

1) 製品及びサービスが及ぼす環境影響に関するマネジメントシステム

⑥ その他

該当なし

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2.環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」

(1) 環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」に示されるKPI

企業の情報開示項目として望まれるKPIを選択する際に考慮すべき重要なこと

は、企業情報の利用者が判断を下す際に当該KPIが示す情報が有用であるか、と

いう点である。企業情報の利用者の判断は主として投資行動に際するものであり、

その関心事は報告企業の将来時点の財政状態や将来にわたる経営成績であり、ま

た現時点で潜在する将来の財政状態や経営成績に影響を及ぼす可能性のある事

象である。したがって、企業が開示すべきKPIの選定に当たっては、当該KPIが示

す事象や状況が報告企業にどういった場合に財務的な影響を及ぼし得るかとい

う点について留意すべきである。

なお、本研究報告における6分類との関係では「環境報告書ガイドライン(2003

年版)」に挙げられている指標は大部分が「環境への配慮」に分類されることに

なるが、社会取組みの状況にはそれ以外のものがいくつか含まれている。

図表Ⅲ-2 環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」における指標一覧

情報項目

1)基本的項目

① 経営責任者の緒言(総括及び誓約を含む)

①-ア. 環境問題の現状、事業活動における環境配慮の取組の必要性及び持続可能な社会のあり方につ

いての認識

①-イ. 自らの業種、規模、事業特性等に応じた事業活動における環境配慮の方針、戦略

①-ウ. 自らの業種、規模、事業特性等に応じた事業活動に伴う環境負荷の状況(重大な環境側面)の

総括

①-エ. 自らの業種、規模、事業特性等に応じた事業活動に伴う環境負荷の低減に向けた取組の内容、

実績及び目標等の総括

①-オ. これらの取組を確実に実施し、目標等を明示した期限までに達成することの社会への誓約

(Commitment):(正に経営責任者が社会全体に対して、公式に約束をするものであり、達成で

きなかった場合には、一定の責任を取る覚悟が必要であるほど重いものです。)

①-カ. 環境報告書の記載内容について、事業活動に伴う重大な環境負荷及びその削減の目標・取組等

を漏れなく記載し、正確であることの記載

①-キ. 経営責任者等の署名

①-ク. 環境報告書審査を受審し、その登録をした場合はその旨

①-ケ. 自らの事業活動における環境配慮の取組状況と業界水準又は社会一般の取組状況等との比較

② 報告に当たっての基本的要件(対象組織・期間・分野)

②-ア. 報告対象組織(工場・事業所・子会社等の範囲、海外事業所の範囲、連結決算対象組織との異

同、全体を対象としていない場合は、全体を対象とするまでの予想スケジュール等を記載する。

また、記載項目等により範囲が異なる場合は、項目毎の範囲を記載する。)

②-イ. 報告対象期間、発行日及び次回発行予定(なお、以前に環境報告書を発行している場合は、直

近の報告書の発行日も記載する。)

②-ウ. 報告対象分野(環境的側面・社会的側面・経済的側面等)

②-エ. 準拠あるいは参考にした環境報告書等に関する基準又はガイドライン等(業種毎のものを含

む。)

②-オ. 作成部署及び連絡先(電話番号、FAX番号、電子メールアドレス等も記載する。)

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情報項目

②-カ. 利害関係者からの意見や質問を受け付け、質問等に答える旨の記述等、何らかのフィードバッ

クの手段について記載する。

②-キ. ホームページのURL

②-ク. 主な関連公表資料の一覧(会社案内、有価証券報告書、ISO14001認証取得事業者はその環境方

針及び著しい環境側面に関するコミュニケーション資料、環境パンフレット、技術パンフレット

等の主な関連資料の一覧と必要な場合はその概要、入手方法。)

③ 事業の概況

③-ア. 全体的な経営方針等

③-イ. 主たる事業の種類(業種業態)、主要な製品・サービスの内容(事業分野等)

③-ウ. 売上額又は生産額(少なくとも過去5年間程度を記載する)

③-エ. 従業員数(少なくとも過去5年間程度を記載する)

③-オ. その他報告対象組織の活動に関する経営関連情報(総資産額、純損益、床面積等)

③-カ. 主たる事業活動の範囲、工場、事業所数、本社及び主要な工場、事業場の所在地及びそれぞれ

の生産品目(主要な原材料の採掘、調達、営業や販売活動を行っている地域について、日本国内

だけか、海外でもか、特定地域のみか等を含む)

③-キ. 報告対象期間中に発生した、組織の規模や構造、所有形態、製品・サービス等における重大な

変化の状況(合併、分社化、新規事業分野への進出、工場等の建設等の変化があった場合)

③-ク. 事業者の沿革及び事業活動における環境配慮の取組の歴史等の概要

③-ケ. 対象市場や顧客の種類(小売、卸売り、政府等)

2)事業活動における環境配慮の方針・目標・実績等の総括

④ 事業活動における環境配慮の方針

④-ア. 事業活動における環境配慮の方針(事業内容や製品・サービスの特性や規模、また、事業活動

に伴う重大な環境負荷等に対応して適切なものであること)

④-イ. 制定時期、制定方法、全体的な経営方針等との整合性及び位置付け、コーポレト・ガバナンス

との関連

④-ウ. 事業活動における環境配慮の方針が意図する具体的内容、将来ビジョン、制定した背景等に関

するわかりやすい説明

④-エ. 同意する(遵守する)環境に関する憲章、協定等の名称と内容

⑤ 事業活動における環境配慮の取組に関する目標、計画及び実績等の総括

⑤-ア. 環境負荷の実績及び推移(過去5年間程度)

⑤-イ. 環境負荷の実績及び推移に関する分析・検討内容

⑤-ウ. 事業活動における環境配慮の取組に関する中長期目標及びその推移、当期及び次期対象期間の

目標(事業特性、規模等に対応して適切な達成目標であること)

⑤-エ. 中長期目標については、制定時期、基準とした時期、対象期間及び目標時期

⑤-オ. 目標の対象期間末までの達成状況

⑤-カ. 事業活動における環境配慮の取組に関する中長期目標、当期及び次期対象期間の目標に対応し

た計画

⑤-キ. 事業活動における環境配慮の取組に関する中長期目標、当期及び次期対象期間

の目標に対応した報告対象期間の環境負荷の実績、事業活動における環境配慮の取組結果等に対

する評価

⑤-ク. 基準とした時期のデータ

⑤-ケ. 環境報告書全体の概要(サマリー・要約)及びそれぞれの内容の対応ページ

⑤-コ. 事業内容、製品・サービスの特性に応じた事業活動における環境配慮の取組の課題

⑤-サ. 報告対象期間における特徴的な取組

⑤-シ. 前回の報告時と比べて追加・改善した取組等

⑤-ス. 経営指標と関連づけた環境効率性を表す指標による実績(経年変化)

⑤-セ. 経営指標と関連づけた異なる環境負荷指標を統合した指標による実績(経年変化)

⑥ 事業活動のマテリアルバランス

⑥-ア. 事業活動に伴う環境負荷の全体像(事業活動への資源等に関するインプットの状況、事業活動

からの製品及び商品等の提供又は廃棄物等の排出に関するアウトプットの状況、並びに廃棄物等

の循環的な利用に関する状況等(事業活動のマテリアルバランス)について可能な限り図表等を

活用して、わかりやすく、かつ、簡潔に記載する)

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情報項目

⑥-イ. 上記の図等に、可能な場合は環境に配慮したサプライチェーンマネジメントや製品等のライフ

サイクル全体を踏まえた環境負荷を付け加える

⑦ 環境会計情報の総括

⑦-ア. 環境保全コスト

⑦-イ. 環境保全効果

⑦-ウ. 環境保全対策に伴う経済効果

3)環境マネジメントに関する状況

⑧ 環境マネジメントシステムの状況

⑧-ア. 全社的な環境マネジメントの組織体制の状況(環境管理に対する内部統制システムの整備状

況、それぞれの責任、権限、組織の説明を含む)及びその組織・体制図

⑧-イ. 環境に関するリスク管理体制の整備状況

⑧-ウ. 全社的な環境マネジメントシステムの構築及び運用状況(システムの説明を含む)

⑧-エ. 環境マネジメントシステム構築事業所の数、割合

⑧-オ. ISO14001及びエコアクション21等の外部認証を取得している場合には、取得している事業所等

の数、割合(全従業員数に対する認証取得事業所等の従業員の割合等)、認証取得時期

⑧-カ. 環境保全に関する従業員教育、訓練の実施状況

⑧-キ. 想定される緊急事態の内容と緊急時対応の状況

⑧-ク. 環境影響の監視、測定の実施状況

⑧-ケ. 環境マネジメントシステムの監査の基準、実施状況(監査の回数)、監査結果及びその対応方

法等

⑧-コ. 環境マネジメントシステムの全体像を示すフロー図

⑧-サ. 環境保全に関する従業員教育、訓練の実施状況の定量的情報(研修実施回数、教育等を受けた

従業員の数、割合、従業員1人当たりの年間平均教育時間数等)

⑧-シ. 事業活動における環境配慮の取組成果の社員等の業績評価への反映

⑧-ス. 社内での表彰制度等

⑨ 環境に配慮したサプライチェーンマネジメント等の状況

⑨-ア. 環境に配慮したサプライチェーンマネジメントの方針、目標、計画等の概要

⑨-イ. 環境に配慮したサプライチェーンマネジメントの実績等の概要

⑩ 環境に配慮した新技術等の研究開発の状況

⑩-ア. 環境に配慮した生産技術、工法等に関する研究開発の状況

⑩-イ. 製品・サービスの環境適合設計(DfE)等の研究開発の状況

⑩-ウ. LCA(ライフサイクルアセスメント)手法を用いた研究開発の状況

⑩-エ. 環境に配慮した販売、営業方法の工夫、ビジネスモデル等

⑩-オ. 環境適合設計(DfE)等の研究開発に充当した研究開発資金

⑪ 環境情報開示、環境コミュニケーションの状況

⑪-ア. 環境報告書、環境ラベル等による環境情報開示の状況

⑪-イ. 主要な利害関係者との環境コミュニケーション等の状況(例えば調査の実施、地域住民との懇

談会、定期的な訪問や報告、取引先との懇談会、ステークホルダー・ダイアログ、ニュースレタ

ー、利害関係者からの問い合わせへの対応等によるコミュニケーションの状況と種別ごとの回

数)

⑪-ウ. 環境報告書又はサイト単位の環境レポートを発行している事業所の状況

⑪-エ. 環境関連展示会等への出展の状況

⑪-オ. 環境関連広告・宣伝の状況

⑫ 環境に関する規制遵守の状況

⑫-ア. 事業活動との関係が強い重要な法規制等を遵守していることの確認方法(定期又は不定期の内

部チェックの体制の内容)

⑫-イ. 少なくとも過去3年以内の重要な法規制等の違反の有無(重要な法規制違反、基準超過等につ

き規制当局から指導、勧告、命令、処分を受けた場合には、その内容、改善の現状、再発防止に

向けた取組の状況、そうした事項がない場合には、その旨を記載)

⑫-ウ. 環境規制を上回る自主基準等を設定している場合は、その内容

⑫-エ. 環境ラベル、環境広告、製品環境情報等における違反表示、誤表示等の状況

⑫-オ. 環境に関する罰金、科料等の金額及び件数

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情報項目

⑫-カ. 環境関連の訴訟を行っている又は受けている場合は、その内容及び対応状況

⑫-キ. 環境に関する苦情や利害関係者からの要求等の内容及び件数(騒音及び振動、悪臭等に対する

苦情等の状況を含む)

⑬ 環境に関する社会貢献活動の状況

⑬-ア. 従業員の有給ボランティア活動の状況

⑬-イ. 加盟又は支援する環境保全に関する団体(NPO、業界団体等)

⑬-ウ. 環境保全を進めるNPO、業界団体への支援状況、支援額、物資援助額等

⑬-エ. 地域社会に提供された環境教育プログラムの状況

⑬-オ. 地域社会と協力して実施した環境・社会的活動の状況

⑬-カ. 利害関係者と協力して実施した、上記以外の活動の状況

⑬-キ. 環境保全活動に関する表彰の状況

⑬-ク. 緑化、植林、自然修復等の状況

⑬-ケ. 生物多様性の保全に関する取組の状況

4)事業活動に伴う環境負荷及びその低減に向けた取組の状況

⑭ 総エネルギー投入量及びその低減対策

⑭-ア. 総エネルギー投入量及びその低減対策

⑭-イ. 投入エネルギーの内訳(種類別及び購入・自家発電の別)

⑭-ウ. 新エネルギー利用の状況

⑭-エ. エネルギー生産性及びその向上対策

⑮ 総物質投入量及びその低減対策

⑮-ア. 総物質投入量(又は主要な原材料等の購入量、容器包装を含む)及びその低減対策

⑮-イ. 資源の種類別投入量

⑮-ウ. 資源生産性及びその向上対策

⑮-エ. 循環利用量及び循環利用率、循環利用率の向上対策

⑮-オ. 製品・商品以外の消耗品等として消費する資源(容器包装のための資材を除く)の量

⑮-カ. 企業等の内部で循環的な利用がなされている物質

⑮-キ. 自ら所有する資本財として設備投資等に投入する資源の量

⑮-ク. 請け負った土木・建築工事等に投入する資源の量

⑯ 水資源投入量及びその低減対策

⑯-ア. 水資源投入量及びその低減対策

⑯-イ. 水資源投入量の内訳

⑯-ウ. 事業者内部での水の循環的利用量及びその増大対策

⑰ 温室効果ガス等の大気への排出量及びその低減対策

⑰-ア. 温室効果ガス排出量及びその低減対策

⑰-イ. 二酸化炭素排出量

⑰-ウ. 温室効果ガスの種類別内訳

⑰-エ. 排出活動源別の内訳

⑰-オ. 京都メカニズムを活用している場合には、その内容、削減量

⑰-カ. 硫黄酸化物(SOx)排出量(トン)及びその低減対策

⑰-キ. 窒素酸化物(NOx)排出量(トン)及びその低減対策

⑰-ク. 排出規制項目排出濃度及びその低減対策

⑱ 化学物質排出量・移動量及びその低減対策

⑱-ア. 化学物質の排出量・移動量及び管理状況

⑱-イ. 大気汚染防止法の有害大気汚染物質のうち指定物質(ベンゼン、トリクロロエ

チレン、テトラクロロエチレン)の排出濃度

⑱-ウ. 土壌・地下水・底質汚染状況(ストック汚染)

⑲ 総製品生産量又は販売量

⑲-ア. 総製品生産量又は総商品販売量

⑲-イ. 容器包装使用量

⑲-ウ. 主要な製品及び商品並びに容器包装の回収量

⑲-エ. 環境ラベル認定等製品の生産量又は販売量

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情報項目

⑳ 廃棄物等総排出量、廃棄物最終処分量及びその低減対策

⑳-ア. 廃棄物の発生抑制、削減、リサイクル対策に関する方針、計画の概要

⑳-イ. 拡大生産者責任に対する対応

⑳-ウ. 廃棄物の総排出量及びその低減対策

⑳-エ. 廃棄物最終処分量及びその低減対策

⑳-オ. 廃棄物等の処理方法の内訳

⑳-カ. 廃棄物等総排出量の主な内訳

⑳-キ. 事業者内部で再使用された循環資源の量

⑳-ク. 事業者内部で再生利用された循環資源の量

⑳-ケ. 事業者内部で熱回収された循環資源の量

○21 総排水量及びその低減対策

○21-ア. 総排水量及びその低減対策

○21-イ. 排出先の内訳(公共用水域、下水道等)

○21-ウ. 排水の水質(BOD又はCOD)及びその低減対策

○21-エ. 窒素、燐排出量及びその低減対策

○21-オ. 排水規制項目排出濃度及びその低減対策

○22 輸送に係る環境負荷の状況及びその低減対策

○22-ア. 物流全般における環境負荷低減対策の方針及び計画の概要

○22-イ. 総輸送量及びその低減対策

○22-ウ. 輸送に伴うCO2排出量及びその低減対策

○23 グリーン購入の状況及びその推進方策

○23-ア. グリーン購入・調達の状況

○23-イ. グリーン購入・調達の方針、目標、計画

○23-ウ. グリーン購入・調達の実績

○23-エ. 環境配慮型製品・サービス等の購入量又は金額

○23-オ. 低公害車、低燃費車の導入台数及び保有台数

○24 環境負荷の低減に資する商品、サービスの状況

○24-ア. 環境負荷低減に資する製品・サービス等の生産量又は販売量及び全体に占める割合、それによ

る環境保全効果の概要

○24-イ. 省エネルギー基準適合製品数

○24-ウ. 解体、リサイクル、再使用又は省資源に配慮した設計がされた製品数

○24-エ. 主要製品のライフサイクル全体からの環境負荷の分析評価(LCA)の結果

○24-オ. 製品群毎のエネルギー消費効率

○24-カ. 製品の使用に伴うCO2排出総量(当年出荷製品全体の推計及び主要製品のCO2排出係数)

○24-キ. 製品群毎の再使用・再生利用可能部分の比率

○24-ク. 使用済み製品、容器・包装の回収量

○24-ケ. 回収した使用済み製品、容器・包装の再使用量、再生利用量、熱回収量及び各々の率

○25 社会的取組の状況

○25-ア.労働安全衛生に係る情報

・ 労働安全衛生に関する方針、計画、取組みの概要

・ 労働災害発生頻度、労働災害件数(事故件数)

・ 度数率

・ 事業活動損失日数

・ 強度率

・ 健康/安全に係る支出額、一人当たり支出額

○25-イ.人権及び雇用に係る情報

・ 人権及び雇用に関する方針、計画、取組の概要

・ 労働力の内訳(正社員、派遣・短期契約社員、パートタイマー等の割合、高齢者雇用の状況)

・ 男女雇用機会均等法に係る情報(役員、管理職、正社員全体の男女別割合)

・ 障害者の雇用の促進等に関する法律による身体障害者又は知的障害者の雇用状況

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情報項目

・ 福利厚生の状況(産休・育児休暇の取得状況、子育て支援の取組、従業員の勤務時間外教育

及びNPO活動等の支援、有給及び法定外休暇の取得状況等)

・ 労使関係の状況(労働組合の組織率、団体交渉の状況、解雇及び人員整理に対する基本的方

針と履行状況、労働紛争・訴訟等の状況、労働基準監督局からの指導、勧告等の状況)

・ 職場環境改善の取組状況(セクシャルハラスメント、その他のいじめ防止の取組状況及びこ

れらに関するクレームの状況)

・ 児童労働、強制・義務労働防止の取組状況(サプライチェーンを含むこれらに関する撤廃プ

ログラムの状況等)

○25-ウ.地域の文化の尊重及び保護等に係る情報

・ 地域文化の尊重、保護等に係る方針、計画、取組の概要

・ 発展途上国等における取組

○25-エ.環境関連以外の情報開示及び社会的コミュニケーションの状況

○25-オ.広範な消費者保護及び製品安全に係る情報

・ 消費者保護、製品安全及び品質に係る方針、計画、取組の概要

・ PL法対策、特に製品設計、製造及び表示における安全対策

・ 販売後の点検、修理等のアフターサービスプログラム

・ 消費者クレーム窓口の設置及びその処理状況

・ 製品等のリコール及び回収等の状況

・ 特定商取引法遵守に関する通信販売、訪問販売等の適正化プログラム及びその遵守状況

○25-カ.政治及び倫理に係る情報

・ 企業倫理に係る方針、計画、取組の概要

・ 環境関連分野以外の寄付、献金の寄付、献金先及び金額

・ 環境関連以外の法律等の違反、行政機関からの指導・勧告・命令・処分等の内容及び件数(独

占禁止法、景品表示法、公正競争規約、特定商取引法、PL法等を含む)

・ 環境関連以外の訴訟を行っている又は受けている場合は、その全ての内容及び対応状況

・ 行動規範策定の状況

・ 独占禁止法遵守等の公正取引の取組状況(独占禁止法遵守プログラム、景品表示法遵守の取

組状況、下請代金支払い遅延等防止対策の状況、流通取引慣行ガイドライン遵守プログラムの

状況等)

○25-キ.個人情報保護に係る情報

・ 個人情報保護及び内部通報者保護に係る方針、計画、取組の概要

(2) 企業の情報開示に記載するCSR情報として特に有用な指標の例

環境省「環境報告書ガイドライン(2003年版)」は、環境省「事業者の環境パ

フォーマンス指標ガイドライン-2002年版-」を踏まえているため、以下、「環

境報告書ガイドライン(2003年版)」に示されていない単位や測定方法等につい

ては、「事業者の環境パフォーマンス指標ガイドライン-2002年版-」を参考と

した。

① 経営全般に関するKPI

ア.政治及び倫理に係る情報(○25カ.)

(ア)意義

政治と企業の関係については、従来から多くの事件や問題が起こってき

たため常に社会の厳しい目にさらされている。特に特定の団体や個人との

金銭的なつながりは違法行為につながる可能性が高く事業への影響も大

きい。また、公正取引に関しては談合等頻発する企業不祥事から社会的な

関心が高く企業イメージに与える影響が大きい。これらの状況を示すKPI

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は広く社会の求めるところであり、また投資家にとっても無視できないも

のといえる。

(イ)測定・算出方法

・ 環境関連分野以外の寄付、献金先及び金額

・ 環境関連分野以外の法律等の違反、行政機関からの指導・勧告・命令・

処分等の内容及び件数(独占禁止法、景品表示法、公正競争規約、特定

商取引法、PL法等含む。)

(ウ)関連定性情報

・ 方針、計画、取組みの概要

・ 環境関連以外の訴訟を行っている又は受けている場合は、そのすべて

の内容及び対応状況

・ 行動規範策定の状況

・ 独占禁止法遵守等の公正取引の取組状況(独占禁止法遵守プログラム、

景品表示法遵守の取組状況、下請け代金支払遅延等防止対策の状況、流

通取引慣行ガイドライン遵守プログラムの状況等)

② 従業員への配慮に関するKPI

ア.労働安全衛生に係る情報(○25ア.)

(ア)意義

労働安全衛生に関する取組みや状況は、従業員の身体的精神的健康にか

かわり、企業にとって中長期的な競争力を左右する重要な事項である。労

働安全衛生への取組みが不十分で労働災害が多発している場合、その企業

が従業員を軽視していると推測されるおそれがあり、長期的な事業継続に

ついて不安定な要因となる。また大規模な事故等は風評リスクにもつなが

るため、当該情報は企業の長期的な事業継続に関する重要な情報である。

(イ)測定・算出方法

・ 労働災害発生頻度、労働災害件数(事故件数)

・ 度数率

・ 事業活動損失日数

・ 強度率

・ 健康/安全に係る支出額、一人当たり支出額

(ウ)関連定性情報

・ 方針、計画、取組みの概要

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イ.人権及び雇用に係る情報(○25イ.)

(ア)意義

雇用に関する取組みや状況は、付加価値の源泉である従業員のモチベー

ションに関わる問題である。企業にとって中長期的な競争力を左右する極

めて重要な事項であり、投資家にとっては事業自体の競争力に関わる有用

な情報である。

また、従業員を含め人権問題への対応状況は風評リスクにつながる反面、

イメージ向上のチャンスでもある。特に、ビジネスモデルがサプライチェ

ーンに大きく依存する場合、調達コストの低さがサプライヤーにおける人

権問題とのトレードオフになっている可能性があるため、投資家はそうし

た情報にも留意すべきである。

(イ)測定・算出方法

以下では、ガイドラインでは特に定量的に示すことが明示されていない

が定量的に把握可能なものを含めている。

・ 労働力の内訳(正社員、派遣・短期契約社員、パートタイマー等の割

合、高齢者雇用の状況)

・ 男女雇用機会均等法に係る情報(役員、管理職、正社員全体の男女別

割合)

・ 障害者の雇用の促進等に関する法律による身体障害者又は知的障害者

の雇用状況

・ 福利厚生の状況(産休・育児休暇の取得状況、有給及び法定外休暇の

取得状況等)

・ 労使関係の状況(労働組合の組織率)

(ウ)関連定性情報

・ 方針、計画、取組みの概要

・ 福利厚生の状況(子育て支援の取組み、従業員の勤務時間外教育及び

NPO活動等の支援

・ 労使関係の状況(団体交渉の状況、解雇及び人員整理に対する基本的

方針と履行状況、労働紛争・訴訟等の状況、労働基準監督局からの指導、

勧告等の状況)

・ 職場環境改善の取組状況(セクシャルハラスメント、その他のいじめ

防止の取組状況及びこれらに関するクレームの状況)

・ 児童労働、強制・義務労働防止の取組状況(サプライチェーンを含む

これらに関する撤廃プログラムの状況等)

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③ 顧客への配慮に関するKPI

ア.広範な消費者保護及び製品安全に係る情報(○25オ.)

(ア)意義

消費者保護及び製品安全に関する状況や取組みは、企業にとって事業を

通じた重要な社会的責任であり、それらに関連して生じる問題や事故は事

業の継続や市場競争力に対して直接的な影響を及ぼすため、関連する情報

は投資家にとって極めて重要である。

(イ)測定・算出方法

・ 消費者クレームの処理状況

・ 製品等のリコール及び回収等の状況

(ウ)関連定性情報

・ 方針、計画及び取組みの概要

・ 消費者クレーム窓口の設置状況

・ PL法対策、特に製品設計、製造及び表示における安全対策

・ 特定商取引法遵守に関する通信販売、訪問販売等の適正化プログラム

及びその遵守状況

④ 社会一般への配慮に関するKPI

該当なし

⑤ 環境への配慮に関するKPI

ア.環境マネジメントシステムの状況(⑧)

(ア)意義

環境問題に関する網羅的かつ効果的な取組みを推進するためには、環境

マネジメントシステムの構築とその運用が不可欠であり、環境マネジメン

トシステムが存在しない場合、その組織では環境に関するリスクが管理さ

れていないと推測される。

環境マネジメントシステムの構築と運用の状況をできるだけ定量的に

示すとともに定性的に説明することによって、企業の環境リスクへの対応

能力や今後の環境競争力の基礎的な力を示すことができる。

(イ)測定・算出方法

・ 環境マネジメントシステム構築事業所の数、割合

・ 環境保全に関する従業員教育、訓練の実施状況の定量的情報

(ウ)関連定性情報

・ 全社的な環境マネジメントの組織体制の状況

・ 想定される緊急事態の内容と緊急時対応の状況

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・ 環境影響の監視、測定状況

イ.環境に配慮した新技術等の研究開発の状況(⑩)

(ア)意義

環境配慮の概念は製品市場にも大きな影響を及ぼし始めており、環境に

配慮しない製品は今後市場から排除される方向にあるのは否定できない。

その意味でこれから開発する製品や技術の環境配慮性は企業の将来的な

事業リスクに直結する重要な事項である。見方を変えるとより積極的に環

境に配慮した製品や技術の開発は環境ビジネスと新たな機会の可能性を

示す。

(イ)測定・算出方法

・ 省エネルギー基準適合製品数(エネルギー使用の合理化に関する法律

(以下「省エネ法」という。)及び同施行令)

・ 解体、リサイクル、再使用又は省資源に配慮した設計がなされた製品

・ 主要製品のライフサイクル全体からの環境負荷の分析評価(LCA)の

結果(JIS Q ISO14040)

・ 環境適合設計等の研究開発に充当した研究開発資金

(ウ)関連定性情報

・ 環境に配慮した生産技術、工法等に関する研究開発の状況

・ 製品・サービスの環境適合設計(DfE)等の研究開発の状況

・ 環境に配慮した販売、営業方法の工夫、ビジネスモデル等

ウ.環境に関する規制遵守の状況(⑫)

(ア)意義

環境に関する法令違反は操業停止によって事業に深刻な影響を招く可

能性がある。また、環境汚染企業といった好ましくないイメージが社会的

に定着して中長期的な風評リスクを抱えるおそれもある。そして何より、

法令違反に起因する環境関連の訴訟は、健康被害を伴う場合、被害規模に

よっては巨額の損害賠償責任を負うことがあるため投資家にとって重要

な情報である。

(イ)測定・算出方法

・ 罰金、科料等の金額、件数

・ 環境に関する苦情や利害関係者からの要求等の内容及び件数

(ウ)関連定性情報

・ 事業活動との関係が深い重要な法規制等を遵守していることの確認方

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・ 少なくとも過去3年以内の重要な法規制等の違反の有無

・ 環境規制を上回る自主基準等を設定している場合はその内容

・ 環境関連の訴訟を行っている又は受けている場合はその内容及び対応

状況

エ.水資源投入量及びその低減対策(⑯)

(ア)意義

日本はその気候特性から水資源は豊富であり、ともすれば軽視されがち

な項目だが、世界的には水資源の不足は極めて深刻な問題となっている。

日本では、水そのものよりも水を利用することに伴うエネルギー消費がよ

り重要視され、また水を安定利用するための諸設備の整備や維持に伴う環

境負荷の発生も無視できない。水資源の効率的な利用はコストやエネルギ

ー削減とともに、そのノウハウは国際的な貢献につながる可能性がある。

(イ)測定・算出方法

・ 水資源投入量とその内訳

・ 事業者内部での水の循環的利用量

(ウ)関連定性情報

・ 水資源投入量の低減対策

・ 事業者内部での水の循環利用量の増大対策

オ.温室効果ガス等の大気への排出量及びその低減対策(⑰)

(ア)意義

地球温暖化は、目下最大の環境問題として注目され、各国の排出削減義

務の下、欧州では2005年より排出権取引が開始されている。今後、国内に

おいても省エネ法強化とともに排出量取引法制化の動きがあり、企業への

財務的な影響がますます増大すると予想されるため、排出状況や京都メカ

ニズム対応は投資家にとって重要な判断資料である。

(イ)測定・算出方法

1) 温室効果ガス排出量

京都議定書対象6物質について各々の排出量にそれぞれの地球温暖

化係数(地球温暖化対策推進法施行令)を乗じてCO2に換算し合計する。

(t-CO2)

各温室効果ガスの排出量は同施行令で定める活動について、燃料使用

量等の活動量に同施行令で定められた諸係数を乗じて算出する。

買電に伴う排出は、各電力会社が算出した排出係数(需要端)、それ

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が特定できない場合は施行令に定めた「他人から供給された電気の使用

に伴う排出[一般電気事業者]に関する排出係数」を用いる。

地球温暖化対策推進法施行令、事業者による温室効果ガス排出量算定

方法ガイドライン及び温室効果ガス排出量算定方法検討会報告書を参

照し、海外排出量について当該国の排出係数に基づく。

輸送、廃棄物焼却に伴う排出量は外部委託分も含めることが望ましい。

2) 二酸化炭素排出量

3) 京都メカニズムを活用している場合、その内容、削減量

(ウ)関連定性情報

・ 温室効果ガスの低減対策

カ.化学物質排出量・移動量及びその低減対策(⑱)

(ア)意義

化学物質は多種多様で有害性、危険性に関しても未知のものも多く、そ

の製造、流通、使用、廃棄の各段階における潜在リスクは大きい。特に自

社が製造販売する製品への有害物質の使用や大気、水域への排出は、規制

の強化や土壌地下水汚染等によって事業に大きな影響を及ぼす可能性が

あるため、企業情報の利用者にとって重要な情報といえる。上記データに

加えて、その管理状況について定性的な説明があればなお有用である。

(イ)測定・算出方法

・ 化学物質の排出量・移動量

日本国内における当該情報は、一般に「特定化学物質の環境への排出

量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」及び同法施

行令に基づいて重量tで測定される。PRTR対象物質の排出量及び移動量

の把握方法には次の5つの方法がある。

物質収支を用いる方法

排出係数を用いる方法

実測値を用いる方法

物性値を用いる方法

その他の方法

上記の算定方法の詳細は、環境省「PRTR排出量等算出マニュアル」が

詳しい。

・ 土壌・地下水・底質汚染状況

土壌汚染対策法、ダイオキシン類対策特別措置法等に基づき、濃度

(mg/kg、mg/l、pg-TEQ/g)で測定する。

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(ウ)関連定性情報

・ 化学物質の排出量・移動量の管理状況

キ.廃棄物等総排出量、廃棄物最終処分量及びその低減対策(⑳)

(ア)意義

日本の国土的な制約から廃棄物の最終処分場の建設には限界がある一

方、経済の発展とともに不要物の排出量は増大の一途を辿っている。廃棄

物の適正な処理と処分は国家的な課題となっており、ここ数年間、廃棄物

処理法の強化と排出者責任の徹底による運用の厳格化が図られている。排

出事業者である企業にとってはコスト負担とともに委託業者による不法

投棄リスクは高まる一方であり、製造業を中心にその管理は重要な経営事

項の1つになっている。したがって、廃棄物に関する排出データや低減対

策に関する情報は投資家をはじめ企業外部のステークホルダーにとって

も多面的意義のある情報といえる。

(イ)測定・算出方法

廃棄物処理法に定められた産業廃棄物及び一般廃棄物の排出量につい

て以下のように算出する。

廃棄物総排出量は、事業者が敷地外に排出・搬出したもの及び敷地内に

埋め立てたものの重量合計を算出する。

廃棄物の処理方法ごとの排出量を把握し、最終処分量を求める。

敷地内で循環利用する物質は含めない。

(ウ)関連定性情報

・ 拡大生産者責任に対する対応

・ 廃棄物の総排出量の低減対策

・ 廃棄物の最終処分量の低減対策

・ 廃棄物等の処理方法の主な内訳

ク.製品・サービスのライフサイクルでの環境負荷の状況及びその低減対策(○24)

(ア)意義

昨今の拡大生産者責任の考え方の下、容器包装リサイクル法、家電リサ

イクル法、自動車リサイクル法等の各種リサイクル法が次々と施行され、

また省エネ法も強化されており、自らが提供する製品サービスに関する環

境配慮への企業責任と付随するリスクは益々高まっている。また一方で、

製品サービスに対する環境配慮性は大きな競争力の要素となっており、今

後の企業の競争力を判断する重要な指標となる。

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(イ)測定・算出方法

「省エネ法」及び「資源の有効な利用の促進に関する法律」等に基づい

て下記を算出する。

・ 環境負荷低減に資する製品・サービス等の生産量又は販売量及び全体

に占める割合

・ 省エネルギー基準適合製品数

・ 解体、リサイクル、再使用、又は省資源に配慮した設計がされた製品

・ 製品群ごとのエネルギー消費効率

・ 製品群ごとの再使用、再生利用可能部分の比率

・ 使用済み製品、容器・包装の回収量

・ 回収した使用済み製品、容器・包装の再使用量、再生利用量、熱回収

量及び各々の率

(ウ)関連定性情報

・ 環境負荷低減に資する製品・サービス等の環境保全効果の概要

⑥ その他

該当なし

3.経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン」

(1) 「知的資産経営の開示ガイドライン」におけるKPI分類

「知的資産経営の開示ガイドライン」では、典型的な知的資産指標の例として

図表Ⅲ-3の7分類を提示している。

図表Ⅲ-3:経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン」における指標一覧

情報項目

① 経営スタンス/リーダーシップ

経営スタンス・目標の共有、浸透の度合。

指標①-1 経営理念等の社内浸透度

指標①-2 経営者による社外にむけた情報発信(対外広報活動)

指標①-3 次世代リーダーの育成方法(子会社社長平均年齢)

② 選択と集中(ビジネスモデルの評価)

製品・サービス(②-1~②-3)、技術(②-4)、顧客・市場(②-5)等の選択と集中の状況。

選択と集中はビジネス類型により特徴が左右される為、ビジネス類型についての説明(ビジネスモデルの

基本的な構造やB to B、B to Cの売上構成の数字を含む)がその前提として行われることが望ましい。

指標②-1 主力事業の優位性(売上比、利益比、利益率)

指標②-2 主力製品・サービスを提供する同業他社数加重平均

指標②-3 不採算部門の見直し実績

指標②-4 R&D集中度

指標②-5 市場の差別化

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指標②-6 従業員の評価システム

③ 対外交渉力/リレーションシップ

川上、川下など対外的な関係者「販売先、顧客(③-1~③-5)、仕入先(③-6)、資金調達先(③

-7)」に対する交渉力、関係性の強さ。

指標③-1 主力事業における主力製品・サービス別シェア加重平均

指標③-2 顧客満足度

指標③-3 客単価の変化

指標③-4 新規顧客売上高比率(対法人)及び新規顧客会員数の対前年伸び率(対個人)

指標③-5 原価の変化に対する出荷価格の弾性値(価格転嫁能力)

指標③-6 原材料市況変化に対する仕入原価の弾性値(交渉力)

指標③-7 資金調達

④ 知識の創造/イノベーション/スピード

新しい価値創造の能力効率、事業経営のスピード

指標④-1 売上高対研究開発費(又は能力開発費)

指標④-2 外部委託研究開発費比率

指標④-3 知的財産の保有件数、賞味期限(経済的に意味のある期間)

指標④-4 新陳代謝率(従業員平均年齢とその前年比)

指標④-5 新製品比率

⑤ チームワーク/組織知

組織(総合)力、個々の能力等の組織としての結合状況

指標⑤-1 社内改善提案制度・改善実施件数

指標⑤-2 部門横断的なプロジェクトの数

指標⑤-3 従業員満足度

指標⑤-4 インセンティブシステム(年俸制等)

指標⑤-5 転出比率

⑥ リスク管理/ガバナンス

リスクの認識・評価対応、管理、公表、ガバナンスの状況

指標⑥-1 コンプライアンス体制

指標⑥-2 リスク情報のプレス公表件数及びトラブルのプレス公表スピード

指標⑥-3 リスク分散状況

指標⑥-4 被買収リスク

指標⑥-5 訴訟係争中の案件における賠償請求

指標⑥-6 営業秘密の漏洩リスク(営業秘密の数とそれを扱うコア従業員比率)

⑦ 社会との共生

地域・社会等への貢献等の状況

指標⑦-1 環境関連支出投資額

指標⑦-2 SRI(社会的責任投資)ファンド採用数

指標⑦-3 企業イメージ調査・ランキング

(2) 企業の情報開示に記載するCSR情報として特に有用な指標の例

① 経営全般に関するKPI

ア.経営理念等の社内浸透度(①-1)

(ア)意義

経営理念、目標が多くの従業員に理解され、共有されている場合には、

企業の知的資産や強みを活かした経営が企業の中に広く浸透し、経営者の

意図に沿った現場での業務遂行が行われる可能性が高まる。

(イ)測定・算出方法

経営理念・経営目標等が従業員にどの程度認知されているのかを、各企

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業独自の調査(調査方法、対象等を明示)、あるいは外部機関による調査

(出典を明示)を企業が活用する。補足的に、年間の社内への情報発信回

数を示してよい。

(ウ)関連する定性情報

経営理念・経営ビジョン・中期経営計画の趣旨・体系

イ.経営者により社外に向けた情報発信(対外広報活動)(①-2)

(ア)意義

経営理念、目標や戦略は、ステークホルダーにとっては、基本的に経営

のやり方を支持できるか否かの重要な判断材料となる。一方、経営者自身

が、こうした理念、目標や戦略を自らの言葉で外部に発信することは、そ

の内容を実現に対する一定の責任を伴うコミットメントを示すことにな

る。経営者自らが発信を行うということは、ステークホルダーとの価値観

の共有に関する経営者の意欲を示すものである。

(イ)測定・算出方法

経営トップ(代表取締役)が前期の1年間に対外広報活動に費やした回

数と時間を、対投資家、対取引先、対顧客、その他の分類で開示すること

としている。

ウ.企業イメージ調査・ランキング(⑦-3)

(ア)意義

企業と接点のある地域・社会のその企業に対する印象は、社会的市民と

しての日常的な事業活動の状況、その企業が提供する財やサービス、さら

には非営利活動が社会にどのように評価されているかを示すものである。

(イ)測定・算出方法

次の指標を開示することが推奨されている。

ⅰ)既存の企業イメージ調査、ランキング(出典明示)

ⅱ)就職希望ランキング(出典明示)

ⅲ)国、自治体、NGO、国際機関等の団体からの表彰実績(年間)

ⅳ)著名ブランドとして確立した商標の数(年度末及び年間増加数)

(ウ)関連する定性情報

ブランド戦略との関連性

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② 従業員への配慮に関するKPI

ア.新陳代謝率(従業員平均年齢とその前年比)(④-4)

(ア)意義

従業員等の新陳代謝は、イノベーションや企業の変革のきっかけとなる

ケースがある。ただし、例えば永年の経験による技術がモノを言う職種と、

誰でもできるような代替性の高い業務とでは、この指標の持つ意味は大き

く異なるので、特定の業務に注目してこの指標を説明することに意味があ

る場合がある。

(イ)測定・算出方法

従業員平均年齢とその前年比

(ウ)関連する定性情報

評価と必要であれば、対応策、その結果

イ.インセンティブシステム(年俸制等)(⑤-4)

(ア)意義

従業員の能力を引き出す上で、納得のいく報酬体系が整っていることは、

有効であるケースがある。

どのようなインセンティブ制度を採用するかは、従業員満足度への影響

はもちろん、組織パフォーマンスへも影響する重要事項である。

(イ)測定・算出方法

1) 成果報酬額÷支払総賃金(年間) 又は

2) 年棒対象者数÷全従業員数(年度末)

(ウ)関連する定性情報

人事評価制度の中の位置付けと採用理由

ウ.転出比率(⑤-5)

(ア)意義

従業員の転出比率は従業員と組織との関係を示す。

この指標は、単に高い・低いで評価すべきものではなく、各企業がどの

ように人材を活用し、価値を生み出す方針であるのかという各企業独自の

ストーリーと併せて評価しなくてはならない。

(イ)測定・算出方法

従業員の離職数÷全従業員数

(正社員・契約社員等雇用形態別・職種別に算出することも可)

(ウ)関連する定性情報

理由、対応策、その結果

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③ 顧客への配慮に関するKPI

ア.顧客満足度(③-2)

(ア)意義

企業の提供する製品/サービスの質、価格、企業イメージなどの種々な

要素の結果ととらえられる。顧客との取引安定度評価及び交渉力評価に役

立つ。

(イ)測定・算出方法

外部リソースによるリサーチ結果・アンケート結果

④ 社会一般への配慮するKPI

該当指標なし

⑤ 環境への配慮に関するKPI

ア.環境関連支出投資額(⑦-1)

(ア)意義

持続的な経済社会を実現する上で、環境保全や地球環境問題への対応と

両立した企業の活動への期待は高まる傾向にある。この指標は、この変化

とともに、企業が社会からのそうした期待をどの程度重視し、対応しよう

としているかを示し、それが社会にも認知・評価されることによって、企

業の持続的な発展や利益の源泉となる可能性を示唆する。

(イ)測定・算出方法

環境汚染防止、CO2排出抑制、廃棄物量削減、環境配慮型新製品開発等

のための費用(年間)額。

指標名称から想定される内容としての投資額の開示ではなく、減価償却

費を含む環境関連投資に関連した年間費用額の開示が求められている。

また、環境関連投資/支出のみでなく、それによって得られた(と説明

可能な)リターンについても併せて説明することが望ましく、いわゆる環

境会計を導入している企業にとっては、そこで算出される損益の数字を基

に示すことが可能である。

⑥ その他

該当なし

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Ⅳ CSR非財務情報項目に関する分析結果と提言

1.各個別分析結果要約

第Ⅱ章及び第Ⅲ章において、CSR関連の非財務情報について分析・評価を実施し

た結果は、次のように要約することができる。

(1) 制度化情報

日本国内で制度化情報として中核をなすと思われる有価証券報告書において

は、項目単位では強弱があるものの、予想以上にCSR情報の開示が進展していた

こと及びCSR情報としては、世界的に注目を浴びているGRIガイドラインと相違し

た項目となっており、かつ、企業によりバラツキが顕著である点が特徴的である。

また、今後、制度化事項が明確となる内部統制については、その評価対象とな

る「全社的な内部統制」について、KPIの設定が有効であると考えられる。

一方、イギリス、オランダ、ドイツにおいて制度化事項ではあるものの、そこ

でのKPIはガイドライン的に企業の採用に委ねられている。これは、CSR活動自体

が企業経営の一環としての活動であるため、個別的規制化事項になじまないとい

う点からの特徴ではないかと考えられる。特にオランダの「年次報告ガイドライ

ン400」で示されているCSR情報項目がガイドラインとして策定されている点、本

来、年次事業報告へ開示すべき情報であるが、CSR報告書への開示の道も認める

という視点から開示メディアの活用として、「①年次事業報告のみ、②CSR報告書

のみ、③年次事業報告とCSR報告書両方」の3つの選択肢を示している点、及び

②又は③を採用する場合には、①の年次報告書へその旨を注記することを推奨し

ていることは、上記、有価証券報告書の状況から日本国内には参考になると考え

られる。

(2) ガイドライン等

調査対象した3ガイドライン(①GRI(G3版)、②環境省「環境報告書ガイド

ライン(2003年版)」、③経済産業省「知的資産経営の開示ガイドライン(平成17

年10月)」)について、6単位(①経営全般、②従業員への配慮、③顧客への配慮、

④社会一般への配慮、⑤環境への配慮、⑥その他)に分類して、3つの視点(①

客観性、②理解容易性、③財務的重要度)により、CSR情報として開示が望まし

いと思われるKPIとこれに関連する定性情報を整理した。

各ガイドラインの特徴から項目別に軽重差があったものの、開示が望ましい指

標として取り上げられた項目としては、総じて、「従業員への配慮」と「環境へ

の配慮」に関連した項目が比較的多いことが特徴的であった。これは、「従業員

への配慮」及び「環境への配慮」は国際的に共通項目を列挙することが比較的容

易な項目であるのに対して、他の項目は企業経営自体に関係するものであること

や、各国の規制、文化、宗教が相違していることから、国際的に共通項目を列挙

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することが困難である点があるためではないかと推察される。また、特に「環境

への配慮」については、もともと環境問題からCSRへ発展してきた背景もあるか

と思われる。

なお、各ガイドラインにおいては、同質の事項について、項目名称が相違して

いる点及び記載内容レベルが相違している点が見受けられた。これは、主に各ガ

イドラインの発行に至る背景に起因していると考えられる。

2.CSR非財務情報における開示内容分類並びにKPI項目及び関連定性情報の例示

以上の検討結果を総合的に勘案して、本研究報告では、次に掲げた方針に基づき、

CSR非財務情報における開示内容分類並びにKPI項目及び関連する定性情報の例示

を試みることとした。

① CSR非財務情報として開示対象とする事項の範囲が広範囲で、用語も不統一、

また開示レベルも各社様々という現状を踏まえて、本研究報告で提案するKPI

項目及び関連する定性情報は、限定列挙ではなく、検討過程で得られた知見に

基づき、あくまで例示として整理する。

② 制度化情報及びガイドライン等で同質的であるが名称が相違している項目

については、分かりやすさの観点から項目の名称を統一する。

③ 関連する定性情報については、研究報告第26号に示している企業経営の一環

としてCSRをとらえることが望ましいという考え方をベースとする。なお、こ

の結果、関連するマネジメントシステムの概要と不具合等の対応策、そのフォ

ローアップ結果の関連項目を提案することとなった点が特徴と思われる。

この検討結果を整理・要約したものが、「図表Ⅳ-1 CSR非財務情報における大

分類項目とKPI項目関連の例示整理結果」であり、5分類(コーポレートガバナン

ス、従業員への配慮、顧客への配慮、社会一般への配慮、環境への配慮)とした上

で、それぞれ開示が望ましいと考えられる大分類項目及び具体的なKPI項目の例示

を整理している。

また、各々の大分類項目の意義、測定・算出方法、関連する定性情報を含めた詳

細は、「別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示」に示している。

図表Ⅳ-1 CSR非財務情報における大分類項目とKPI項目関連の例示整理結果

大分類項目 具体的KPI項目例示

1.経営理念・方針等管理

(1) 経営理念・方針等の社内浸透度

(2) 経営者による経営理念・方針等の社外発信程度

(3) 企業イメージ評価結果

(4) 相手先別政治献金状況

コーポ

レート

ガバナ

ンス

2.リスクマネジメントの概要(含む:

コンプライアンスマネジメントの概

要)

(1) リスクマネジメント対象範囲

(2) リスクマネジメントシステム運用評価結果

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大分類項目 具体的KPI項目例示

3.企業価値形成と分配 (1) 企業価値の形成

(2) 企業価値の分配

1.従業員満足度 (1) 従業員満足度率

(2) 従業員の苦情・要望対応

2.雇用 (1) 在籍・期間増減

(2) 平均年齢による新陳代謝率

(3) 年齢別・性別離職率

(4) 部門別職位別性別平均給与額

(5) 成果主義依存度

3.労働安全衛生 (1) 健康診断受診率

(2) 事故状況

(3) 度数率(災害発生頻度)

(4) 強度率(災害重要度)

(5) 残業状況

(6) 休暇(有給・育休・産休・看護休暇等)取得状況

4.教育・訓練 (1) テーマ別・階層別・性別教育訓練実績

(2) 開発理由別新規開発コース数

5.労使関係 (1) 労働組合活動状況

(2) 従業員の経営参加

(3) 労働紛争数

(4) 労働基準監督局からの指導、勧告数

従業員へ

の配慮

6.人権 (1) 従業員性別比率(含む:管理職)

(2) 障害者雇用率

(3) セクハラ認定件数

1.顧客満足度

(1) 顧客満足度率

(2) 顧客の苦情・要望対応

(3) 顧客の個人情報保護対応

顧客へ

の配慮

2.顧客に対する品質安全 (1) 製品・サービスに対するマネジメントシステム対

応程度

(2) 製品の品質安全対応

1.社外の人権への配慮

(1) 人権配慮投資割合

(2) サプライヤー人権対応程度

(作業環境、給与、差別、児童労働、強制労働等)

2.地域コミュニティに対する活動 (1) 地域コミュニティに対するマネジメントシステム

対応程度

(2) 地域コミュニティに対する社会貢献活動

社会一般

への配慮

3.社会一般貢献活動 (1) 災害支援活動

(2) 寄付活動

(3) 工場等事業所の見学開催

1.環境マネジメント状況

(1) 環境マネジメントシステム対応状況

(2) 目標(中長期・年度)と実績

(3) 環境に関する規制の遵守状況

(4) 環境会計の活用状況

2.環境配慮の促進 (1) 環境配慮の製商品・サービス及び技術の推進程度

3.温室効果ガスの排出 (1) 排出量と削減量

(2) 排出権

4.化学物質の排出 (1) PRTR対象物質の排出量、移動量、削減量

(2) PRTR対象物質以外の排出量、移動量、削減量

5.廃棄物の排出 (1) 法律分類別排出量、増減量

(2) 最終処分形態における比率

(3) リサイクル率

環境へ

の配慮

6.土壌汚染 (1) 汚染調査割合

(2) 汚染状況と浄化活動

(3) 関連する土地の評価額

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大分類項目 具体的KPI項目例示

7.資源消費 (1) 水資源の内訳別消費量と低減量及び企業内での水

の循環的使用量

(2) エネルギー消費量、再利用量、削減量

8.オゾン層破壊物質 (1) モントリオール議定書付属文書A、B、C及びE

の対象となっている排出量

9.生物多様性 (1) 影響を受けた主な種

(2) 影響を受けた地域範囲

10.重大な漏出の総件数・総量 (1) 排出事実・場所別総件数・総量

3.今後の方向性と課題

本研究報告における調査・分析等を通じて、我が国では、有価証券報告書におい

て、CSR関連情報の開示は予想以上に進展しており、また、制度化が確定した内部

統制についてもCSR関連情報が密接に関連することになる。したがって、当該CSR

関連情報の開示等については、定着化へ向かっているといっても過言ではない。

このことは、CSR関連の非財務情報は、投資家にとっても非常に有益な判断情報

としての重要性が増してきていると理解することができる。

一方、CSR関連情報の記載項目やその内容のレベルに関する国際的な統一という

観点からは、世界的に利用されているGRIガイドラインと比較した場合と、我が国

における有価証券報告書ではGRIガイドラインで要求している項目とは異なった項

目に関する記載が多く含まれていることが分かる。また、現行の有価証券報告書間

でも大分類項目の設定のみで、その詳細となる事項区分及び記載事項のレベルにつ

いての統一感は乏しいのが現状である。この理由としては、当該情報は、企業経営

の一環としての非財務情報の開示を目的としているため、各社の状況に応じた弾力

的な記載が望ましいという考え方がベースになっていること、及び非財務情報とい

う主として定性事項を中心としているという位置付けを想定していること等が考

えられる。

さらに、この記載項目の統一という点では、今回の調査対象としたガイドライン

等と今回は調査対象としなかった類似のガイドラインとを比較しても記載項目の

分類単位・記載項目の内容レベルで統一性を欠いているのが現状である。

このような状況において、情報提供者である企業が直面している、又は近い将来

において直面するであろう課題を考えると、次の事項が挙げられる。

・ 各々の領域で企業の担当する部門が相違することとなり、同質的な情報につい

ても重複作業が行われ、その結果として開示レベルの相違が顕在化しているので

はないかと考えられる。

・ 個別のガイドライン単位で同質の内容を制度化事項又はガイドライン単位で所

管部門が相違する形で対応せざるを得なくなり、結果的に非効率となり企業の負

担増にもつながる。これは、コスト・手数面のみならず、情報開示における開示

統制という視点からも課題を有する状況ではないかと考える。

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- - 65

・ CSR関連情報の開示が制度化されていなければ、企業側としても対応するかど

うかは任意ではあるものの、これまでの状況からはブランド価値のアピールとい

う視点や、他社の開示動向等で無視できなくなるという面も予想される。

・ 今後、種々のステークホルダー対応という観点からCSR非財務情報に関する制

度化の動き、それに伴い各種ガイドラインの発行が増加するものと予想され、混

乱は拡大するものと予想される。

また、情報利用者であるステークホルダー側の課題に関しては、企業側の統一性

を欠く同質の開示情報が提供されるという状況は、他社との比較困難、対象会社自

身における同時期の情報に関しても類似情報が統一感のないまま混在することに

なり、効率的・効果的な判断が困難となるものと推察される。

以上から、今後は、我が国においては、CSR関連情報の非財務情報についても、

CSRの考え方を含めて、開示の制度化や、開示内容分類並びにKPI項目の例示及び関

連する定性情報についての統合的なガイドラインが具体的に明文化されることが

望まれる。この場合、上記の有価証券報告書の現況から、前述したオランダの「年

次報告ガイドライン400」における取扱いが参考になると考えられる。そこでは、

CSR情報項目をガイドラインとして策定し、その記載は、本来、年次報告書で開示

すべき情報であるが、その他の記載方法として、年次報告書への注記を推奨条件に

CSR報告書のみ又は年次事業報告とCSR報告書の両方とすることを認めている。

また、このCSR情報の開示制度でのガイドラインの取扱いの一環として、実効性

を確保するため、CSR情報の信頼性を確保するという視点で、保証業務実施者とし

ての立場から我々も協力支援することが大切かと思われる。

以 上

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(1/8)

- - 1

分類1 コーポレートカバナンス

大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

(1) 経営理念・方針等の社内浸透度 ・ 自社又は他社の調査

(2) 経営者による経営理念・方針等の社外発信

程度

・ ステークホルダー別経営者の活動

(回数・時間)

① 既存のイメージ調査ランキング

② 就職企業ランキング (3) 企業イメージ評価結果

③ 行政機関、NGO・NPO等表彰実績

1 経営理念・方針等管理

経営理念・経営方針等は、経営者の経営姿

勢を示すもので企業のパフォーマンスに

影響する。社内的には、従業員行動のより

どころとして、コンプライアンス遵守徹底

及び生産性向上等経営者の意図に沿った

現場での業務巣効力に影響する。社外的に

は、経営者のコミットメント事項として、

重要な意義を有する。

(4) 相手先別政治献金状況 ・ 相手先別政治献金額

① 経営理念・経営方針等の概要とその

体系

② この体系におけるCSRの位置付け

③ コーポレートバナンス体制と役割

④ 関連する財務報告に関する内部統

制の概要

⑤ 環境面・社会面・経済面へのバラン

ス方針と理由、活動結果の評価と今後

の方向性

① リスク分析の対象組織の数と割合

割合⇒リスクマネジメント対象組織

/全組織

① リスクマネジメントシステムの概

② 気象変動への配慮 (1) リスクマネジメント対象範囲

② 階層別教育対象数・教育実績 ・ 教育方針

① 原因結果別リスクマネジメントシ

ステム不具合結果数 2

リスクマネジメントの概

要(含む:コンプライア

ンスマネジメントの概

要)

企業活動には、必ずリスクは伴う。このリ

スク極小化を図る仕組みとして、マネジメ

ントシステムの整備・運用することは、リ

スクの抑止力及び結果評価と再発防止策

評価は企業経営として不可欠な重要事項

である。 (2) リスクマネジメントシステム運用評価結

② 原因結果別の発見事項数

※原因結果

・ 法令違反件数(他の分類項目除く)

・ 不正行為による解雇・制裁措置

・ 不正行為による再契約なし取引先件

① 関連する財務報告に関する内部統

制の概要

② 不正行為の原因、再発防止策、その

フォローアップ結果

(1) 企業価値の形成 ・ 経済的売上・利益、付加価値

3 企業価値形成と分配

分配の中での配当は、投資家層にとって

は、重要関心事項である。また、ステーク

ホルダー別企業活動の形成と分配は、他の

KPIの設定値の標準化に活用できる。さら

に、国別情報は、地域経済への直接的影響

な経済価値情報としても有用である。

(2) 企業価値の分配 ・ 人件費、寄付、税額、内部留保等の

分配

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(2/8)

- - 2

分類2 従業員への配慮

大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

(1)

従業員満足度率

・ アンケート

1 従業員満足度

従業員満足度は、個々人の価値観に依存す

る領域が多いものの、経営姿勢への賛同、

生産性活性化、コンプライアンス等企業経

営全領域に影響する重要事項である。 (2) 従業員の苦情・要望対応 ・ 原因別苦情・要望件数及び対応件数

・ 不満足・要望の原因分析と対応策、

そのフォローアップ結果

(1) 在籍・期間増減 ・ 地区別/部門別/職位別/男女別/年齢

別/雇用形態別の従業員数

(2) 平均年齢による新陳代謝率 ・ 当期従業員平均年齢とその前年比

(3) 年齢別・性別離職率 ・ 離職数/全従業員

(4) 部門別職位別性別平均給与額 ・ 実績

2 雇用

従業員のモチベーションに関する基本的

事項であり、採用、維持等企業の基盤とな

る事項である

(5) 成果主義依存度 ・ 成果報酬分/年間給与

① 雇用方針(含む:多様性)

② 雇用方針と乖離している場合の理

由と対応策、そのフォローアップ状況

③ 公正な評価に関する考え方

④ 人事評価制度上の成果主義の位置

付け

(1) 健康診断受診率 ・ 実績数

(2) 事故状況 ・ 原因別事故件数(含む:従業員の状

況)

(3) 度数率(災害発生頻度) ・ 労働災害による死傷者数/延実労働

時間×1百万時間

(4) 強度率(災害重要度) ・ 延労働損失日数/延実労働時間数×

1,000

(5) 残業状況 ・ 部門/階層/男女別実績時間と人件費

3 労働安全衛生

従業員の健康・事故保全は生産性向上のみ

ならず、従業員の安心感確保のため不可欠

な事項であり、さらに雇用の維持につなが

る事項で重要である。

(6) 休暇(有給・育休・産休・看護休暇等)取

得状況 ・ 部門/階層/男女別実績数

① 採用しているマネジメントシステ

ム概要(含む:福利厚生)

② 採用しているKPIの目標達成状況、

未達成原因と解消策、その他フォロー

アップ結果

① 回数

② 時間

③ 金額 (1) テーマ別・階層別・性別教育訓練実績

④アンケート満足率

① テーマ数

4 教育・訓練

従業員のモチベーションという意味で雇

用に関係し、生産性向上にも連動してい

る。

(2) 開発理由別新規開発コース数 ②金額

① 教育方針

② アンケート満足率向上策とそのフ

ォローアップ結果

(1) 労働組合活動状況 ・ 従業員加入率 ① 労働組合の概要

② 団体交渉結果と理由、今後の方針

① 経営者と従業員との対話回数・時間 (2) 従業員の経営参加

② 従業員の意見の経営採用数

(3) 労働紛争数 ・ 実績数 ・ 理由と対応策、そのフォローアップ

結果

5 労使関係

従業員が将来に対して安心して働ける職

場、経営との風通しが良い職場であるかは

従業員の活性化のために重要である。ま

た、労使間のトラブルは経営の足かせにな

るため事前防止に対応としても有効であ

る。 (4) 労働基準監督局からの指導、勧告数 ・ 実績数

・ 理由と対応策、そのフォローアップ

結果

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(3/8)

- - 3

大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

① 女子従業員数/全従業員数 (1) 従業員性別比率(含む:管理職)

② 女子管理職数/全管理職数

(2) 障害者雇用率 ・ 雇用障害者数/全従業員数

6 人権

差別・児童労働・強制労働等人権に関する

事項はコンプライアンスのみならず雇用

維持に影響する重要事項である。

(3) セクハラ認定件数 ・ 実績数

① 人権に関する方針

② 男女差別のない人事評価制度の概

③ その他人権に関するマネジメント

システム概要

④ 障害者雇用方針と法定障害者雇用

率未達理由と対応策、そのフォローア

ップ結果

⑤ セクハラ再発防止策、そのフォロー

アップ結果

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(4/8)

- - 4

分類3 顧客への配慮

大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

(1) 顧客満足度率 ・ アンケート結果 ① 結果に対する評価、対応策、そのフ

ォローアップ結果

(2) 顧客の苦情・要望対応 ・ 原因別会社、サービス、製品に対す

る苦情、要望件数及び対応件数

① 受付窓口の概要

② 受付苦情、要望の評価、対応策、フ

ォローアップ結果

① 保護対象の個人情報/全個人情報 ・ 個人情報に関するマネジメントシス

テム概要、採用理由、今後の方向性

1 顧客満足度

顧客満足度は、企業の存続に影響する重要

事項で企業の提供する製品、サービスの

質、価格、企業イメージなど種々の要素の

結果と捉えられる。顧客との取引安定度評

価及び交渉力評価に役立つ。

(3) 顧客の個人情報保護対応

② 理由別個人情報紛失又は漏洩件数 ・ 再発防止策、フォロ-アップ結果

① マネジメントシステム対象範囲組

織件数/全組織件数

② マネジメントシステム対象売上額

/全社売上額 (1) 製品・サービスに対するマネジメントシス

テム対応程度

③ マネジメントシステム商品サービ

ス件数/全商品サービス件数

① 主な事業概要

② マネジメントシステムの概要、採用

理由、今後の方向性

③ 緊急時における製品の安定供給対

応の概要

① 品質目標と実績

② 理由別リコール件数

2 顧客に対する品質安全

製品・サービスにおける顧客に対する品質

安全は顧客満足度の基盤であるばかりで

なく、企業の責務でもある。

(2) 製品の品質安全対応 ③ 企業過失責任での製品及びサ-ビ

ス情報とラベル表示に関する罰金・警

告・訴訟件数

① PL法への対応概要

② 再発防止策、フォローアップ結果

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(5/8)

- - 5

分類4 社会一般への配慮

大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

(1) 人権配慮投資割合 ・ 人権配慮投資/全投資 ・ 人権一般に関する方針

① 人権チェック対応サプライヤー数 1 社外の人権への配慮

企業活動の社外人権への影響配慮は、倫理

的に必要であるばかりではなく、不買運動

等のリスク低減に非常に有益である。ま

た、これを遂行し、その開示は、自社内の

みの対応していないという評価を得るこ

とができると共に社会一般への啓発活動

を促進していることにつながる。 (2)

サプライヤー人権対応程度

(作業環境、給与、差別、児童労働、強制

労働等) ② 対応割合対応サプライヤー/全サ

プライヤー

① 人権対応サプライヤーチェック方

② 人権対応サプライヤーチェック事

項と理由

③ 今後の方向性とフォローアップ活

動結果

(1) 地域コミュニティに対するマネジメント

システム対応程度

・ マネジメントシステム対応組織/全

組織

・ 地域コミュニティに対する企業活動

のマネジメントシステムの概要、評

価、今後の方向性

① 自治体からの表彰件数 ・ 社会貢献活動に関する方針 2

地域コミュニティに対す

る活動

企業の事業活動は各特定エリアのコミュ

ニティに影響を与えている。

コミュニティに対する影響をマネジメン

トすることは企業ブランド戦略上、重大で

あり、現存する事業の維持だけでなく、新

規事業を開始する能力をも強化する。 (2) 地域コミュニティに対する社会貢献活動

② ボランティア活動の実績数

・ 個人ボランティア活動に関する就業

規則上の対応

(1) 災害支援活動 ・ 災害義援金の支払額

(2) 寄付活動 ・ 一般寄付額

3 社会一般貢献活動

企業本来の利益獲得活動ではなく、直接対

価の収受を期待しない活動と考える。この

地球で事業活動を行って存在していると

いう点から責務的及び企業のブランド戦

略上も無視してはいけない活動かを考え

る必要がある。

(3) 工場等事業所の見学開催 ・ 工場等事業所の見学数

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(6/8)

- - 6

分類5 環境への配慮

大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

(1) 環境マネジメントシステム対応状況

・ 環境マネジメントシステム対応組織

/全組織

① 単独

② グループ会社

① 採用環境マネジメントシステムの

概要と理由、今後の方向性

② 環境マネジメントシステム目標と

中期経営計画との関連性

③ 製品・サービスのライフサイクルで

の環境負荷の状況及びその低減対策、

フォローアップ結果

④ 企業グループ外川上・川下への影響

配慮方針と実行活動、そのフォローア

ップ方針

① 設定目標数値

(2) 目標(中長期・年度)と実績 ② 設定目標値と実績値、その差異

① 設定目標とEMSとの関連性

② 規制以上の目標設定の理由

③ 設定目標値と実績値の差異理由、今

後の施策

① 規制違反の件数、訴訟件数、損害賠

償額 (3) 環境に関する規制の遵守状況

② 規制以上の基準設定項目と基準値

1 環境マネジメント状況

企業活動と環境への影響は不可分的関係

であり、かつ、環境への影響は自社のみで

はなく、地域、ひいては地球全体へ影響す

る。また、環境問題は、企業経営面からは

ビジネスリスクのみでなく、競争優位上も

配慮が必要である。

この視点から企業経営の一環として、環境

問題を捉え、「目標設定→実行→監視→見

直し」というマネジメント対応が重要であ

る。

(4) 環境会計の活用状況 ① 環境活動別投資及び費用

目標と実績額

① 採用しているEMSとの関係

② 目標・実績との差異理由と今後の方

① エネルギー基準適合製品数(省エネ

法及び同施行令)

② 解体、リサイクル、再使用又は省資

源に配慮した設計がなされた製品数

③ 主要製品のラフサイクル全体から

の環境負荷分析評価(LCA)の評価結

④ 環境配慮型製品開発の投資額

2 環境配慮の促進活動

環境配慮の概念は製品市場にも大きな影

響を及し始めており、環境に配慮しない製

品は今後市場から排除される方向にある

のは否定できない。その意味でこれから開

発する製品や技術における環境配慮性は

企業の将来的な事業リスクに直結ばかり

でなく、競争優位性にも影響する重要な事

項である。

(1) 環境配慮の製商品・サービス及び技術の推

程度

⑤ 環境配慮型製商品・サービス売上高

/全社売上高

① 環境配慮技術推進に関する方針

② 環境配慮の研究概要

③ 企業経営における環境配慮技術の

位置付け

(1) 排出量と削減量 ・ 所定の換算方式による算定

3 温室効果ガスの排出

温室効果ガスは京都議定書事項で、グロー

バル的な環境課題である。

また、企業活動として、配慮することも責

務レベルと考える。

企業経営面からもビジネスリスク及び競

争優位両面から重要な事項である。

(2) 排出権 ① 獲得量

② 売買量と金額、損益

① 温室効果ガスに関する方針

② 所定方式の採用理由

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(7/8)

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大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

(1) PRTR対象物質の排出量、移動量、削減量

・ 所定方式に基準にて算定 ① 所定方式の選択理由

4 化学物質の排出

国内のみならず、国際的にも規制強化型事

項であり、周辺住民への健康問題も潜在し

ている。この点から企業のビシネスリスク

上、重要な事項である。 (2) PRTR対象物質以外の排出量、移動量、削減

量 ・ 所定方式に基準にて算定 ② 個別管理の概要

(1) 法律分類別排出量、増減量 ・ 実績数

(2) 最終処分形態における比率 ・ 形態別実績比率 5 廃棄物の排出

廃棄物は、処分場の限界問題及び海外移動

問題等で国内では重要な環境問題であり、

関連する規制も強化型傾向である点から

企業のビジネスリスク上、重要な事項であ

る。 (3) リサイクル率 ・ 所定のリサイクル率と向上率

① 拡大生産責任に対する方針

② 廃棄物の処理方法の主な内訳

③ 廃棄物増減理由と今後の方針、フォ

ローアップ結果

(1) 汚染調査割合 ・ 調査件数/全土地

① 場所別汚染濃度 (2) 汚染状況と浄化活動

② 浄化件数と金額(含む;予定)

6 土壌汚染

土壌汚染は、使用者責任を規定している規

制及び汚染浄化責任との関係から相当の

損害賠償額及び浄化金額が予想され、か

つ、対応期間も長期間を要することが通常

である。特に、周辺住民への健康問題に影

響する可能性が高い。また、土地という固

定資産の評価(含む:担保価値)への影響

もあるため、会計的にも配慮すべき事項と

考える。

(3) 関連する土地の評価額 ・ 取得原価と通常時価、必要な場合評

価損益反映後の評価額

① 土壌汚染に対する方針・体制

② 土壌汚染又は汚染浄化中土地評価

に対する考え方

(1) 水資源の内訳別消費量・低減量及び企業内

での水の循環的使用量 ・ 測定値

7 資源消費

資源は有限である点から資源消費への配

慮は企業経営における活動面からも配慮

するとは企業の責務である。また、コスト

削減面からも重要事項である。

特に国内では気候特性から水資源は比較

的豊富であるが、国際的には水資源不足は

深刻な環境問題となっている。国内では、

水資源の安定供給諸設備の整備・維持に伴

う環境負荷が無視できない。水資源の効率

的利用について、その活動・ノウハウは国

際的に有益な事項と考える。

(2) エネルギー消費量、再利用量、低減量 ・ 測定値

① 資源に対する考え方

② 資源の低減策

③ 企業内での水資源の循環利用量の

増大対策

オゾン層破壊物質

モントリオール議定書では、オゾン層破壊

物質の国際的な段階的削減が求められて

いるため、オゾン層破壊物質排出量の測定

によって、企業がどの程度現行並びに将来

の規制に準拠しているか、またこの分野で

発生しうるリスクの評価をすることがで

きる。オゾン層破壊物質削減における企業

成果は、オゾン層破壊物質関連規制をうけ

る製品とサービスの市場におけるテクノ

ロジー予備競争優位性レベルを示す上で

役立つ可能性をもつ。

(1) モントリオール議定書付属文書A、B、C

及びEの対象となっている排出量 ・ 算定量

オゾン層破壊物質に関するマネジメン

トシステムの概要

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別表 CSR情報に関するKPIと関連する定性情報の例示(8/8)

- - 8

大 分 類 項 目 具 体 的 な K P I 項 目 の 例示 番号

名 称 大分類項目としての意義 番号 名 称 測定・算出方法 関連する定性情報

(1) 影響を受けた主な種 ・ 影響を受けた主な種の数

9 生物多様性

企業の事業活動に関連して生物多様性に

及ぼされた著しい影響である。

著しい影響とは、生態学的な特徴、構造及

び機能を地域全体にわたって長期的に極

めて大きく変化させることで、その地域の

保全を大きく損ないかねない影響をいう。

これは、生息環境、その個体数レベルやそ

の生息地を重要なものにしている生物種

を維持できないことを意味するものであ

る。

(2) 影響を受けた地域の範囲 ・ 影響を受けたと思われる地域の範囲

面積

10 重大な漏出の総件数・総

化学物質、石油及び燃料の漏出は周辺の環

境に著しいマイナス影響を与えるおそれ

があり、土壌、水、空気、生物多様性及び

人間の健康に被害を及ぼしかねない。

有害な物質の漏えいを避ける体系的な取

組は、規制への適合、原材料のロスによる

財務リスク、修復コスト、規制措置及び

に社会的信用の低下リスクに直接関わる

ものである。この指標はこれらのリスク評

価に関して重要な情報を提供するもので

ある。

(1)

排出事実・場所別の総件数・総量 ・ 測定・算定値 有害物質の漏出防止に関するマネジメ

ントシステム