企業価値評価とm&a, (その2)matumura/pdf/finance/finance13.pdf2019/03/16...

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(M&Aと企業価値評価,そして企業価値創造) 企業価値評価とM&A, (その2) 2019年12月21日 2019年度入門 (第13回) 松村勝弘 1 1 Q&A Q.に比て日本でM&Aが盛でないのはなぜ? A.では会社は株主の所有物という観念が強いので、売買い すのは当た前だと考えていかです。 Q.中国企業に日本の土地の買収が多くなっていが、どのう なことが起こ? A.所有権が移転して、そので日本人が雇ていのであ大 きくは変ないでしうが。土地は臨界点がどのあたなのか判断しかね す。 Q.転職率が高、終身雇用率は下がってい? A.転職率だけでなく、非正規雇用が増えて終身雇用率が下がっていす。 Q.-、、が多くあが、将来 は減っていく? A.そのか北海道のなどだ多くのがあすが、さ に集約さていくでしうね。 Q.企業の就職はあ? A.要は自分のしたいことが何かです。 2 のこな紹介してお きす 3 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191220-00320829-toyo- bus_all&fbclid=IwAR1KEGVS_KnbjnUym6Ojqjuv4- _JKy7FxoHZBuJ14K5i2dBckLVfPVA8EII 4 目次 1.に放送買収劇で何が問たか 企業価値研究会報告と防衛策増加 2.企業価値評価とM&A (1) が国でM&Aが盛になってきた背景, (2) におけM&A,(3) M&Aの動機,(以上,前回) (以下今回) (4) M&Aの類型化と企業価値向上戦略, (5) 企業価値評価の難しさ, (6) M&A 3. M&Aの意味 4.M&A,その関係者の利害,立場考え 4

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(M&Aと企業価値評価,そして企業価値創造)

企業価値評価とM&A,(その2)

2019年12月21日

2019年度ファイナンス入門

(第13回)

松村勝弘

1

1

Q&A

Q.アメリカに比べて日本でM&Aが盛んでないのはなぜ?A.アメリカでは会社は株主の所有物という観念が強いので、モノを売り買いするのは当たり前だと考えられているからです。Q.中国企業による日本のホテルや土地の買収が多くなっているが、どのようなことが起こる?A.所有権が移転しても、そのホテルで日本人が雇われているのであれば大きくは変わらないでしょうが。土地は臨界点がどのあたりなのか判断しかねます。Q.転職率が高まり、終身雇用率は下がっている?A.転職率だけでなく、非正規雇用が増えて終身雇用率が下がっています。Q.セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートコンビニが多くあるが、将来コンビニは減っていく?A.そのほか北海道のセイコーマートなどまだ多くのコンビニがありますが、さらに集約されていくでしょうね。Q.企業への就職はあり?A.要は自分のしたいことが何かです。

2

ヤフーニュースのこんなサイトも紹介しておきます

3

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191220-00320829-toyo-

bus_all&fbclid=IwAR1KEGVS_KnbjnUym6Ojqjuv4-

_JKy7FxoHZBuJ14K5i2dBckLVfPVA8EII

4

目 次

1.ライブドアによるニッポン放送買収劇で何が問われたか

→企業価値研究会報告と防衛策増加

2.企業価値評価とM&A(1) わが国でM&Aが盛んになってきた背景,

(2) アメリカにおけるM&A,(3) M&Aの動機,(以上,前回)

(以下今回)

(4) M&Aの類型化と企業価値向上戦略,

(5) 企業価値評価の難しさ,

(6) アフターM&A

3. M&Aブームの意味

4.M&A,その関係者の利害,立場を考える

4

(4) M&Aの類型化と企業価値向上戦略

i) M&Aの類型化

• 敵対的M&Aか友好的M&Aか

• 合併と買収-合併とは、2つ以上の会社が1つの会社になることで、買収は、1つの会社が別の会社の議決権株式の過半数を買い取ったり事業部門

の資産を買い取ったりすること,営業譲渡-資産のみ譲渡,資本参加-拒否権等を持ち合わせない程度の株式買い取り, 出資拡大-資本参加している企業への出資比率を高めること

• 吸収合併と新設合併

5

5

A社 B社 …A,B両社とも消滅

X社

新設合併

吸収合併

A社 B社 …消滅会社存続会社

形態別M&A件数の推移

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2018

出資拡大

資本参加

事業譲渡

買収

合併

構成比 合併 買収 事業譲渡 資本参加 出資拡大2019.1-10 0.8% 34.1% 10.7% 49.0% 5.4%

目的別件数(2018年1-10月)

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7

M&Aで企業を買う側の目的は、事業を強化することにあります。既存事業を強化する場合と、事業を多角化する場合があります。事業を強化するには、技術力の獲得や商圏の拡大など多くの課題があります。M&Aを活用することによって、お金で時間を短縮することが可能です。

ii) TOB件数の推移

8

8

TOB(Take over bid 株式公開買付)は「不特定かつ多数の者に対し、

公告により株券等の買付け等の勧誘を行い、取引所・有価証券市場外で株券等の買付け等を行うこと」と定義されています。(https://kabusyo.com/sihyo/sihyo12tob.html)

https://www.marr.jp/genre/graphdemiru

2019/03/16 日本経済新聞

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9

伊藤忠によるデサントTOB

• 「スポーツ用品大手のデサントは7日、筆頭株主の伊藤忠商事が実施している同社へのTOB(株式公開買い付け)に反対すると発表し、両社の対立は敵対的TOBに発展した。デサントは伊藤忠の姿勢が『強圧的だ』と批判した一方、TOBを阻止する手段に乏しいことも認める。焦点は今後の経営体制や成長戦略に移るが、対立が長引いて経営が迷走すれば不利益を被るのは投資家だ。……伊藤忠が1月31日に示したTOBの条件は、直前の株価[1/30終値1871円]より5割高い1株2800円で、出資比率が40%まで買い付ける内容。……TOBのプレミアム(上乗せ幅)は3割程度のことが多く、5割の上乗せは異例だ。市場では『収益動向から見ても明らかに割高だ』(国内証券アナリスト)との見方が多い。」(日経2019/02/08)

• 「伊藤忠商事のデサント株へのTOB(株式公開買い付け)が完了した。デサントの経営についての再協議が始まり、石本雅敏社⻑の退任も現実味を帯びる昨夏以降、両社は不信を深めてきた。議論は取締役構成の綱引きに終始し、デサントの成⻑戦略は置き去りになった。」(日経2019/03/16)

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10

TOBの流れTOBで発表される「★★円の株価」は「市場で取引されて

いる株価」より、プレミアム価格を数割上乗せした株価で発表されます。何故なら、市場よりも高い「株価」でTOBをすることにより、対象株の保有者は市場で売らずにTOBで宣言した相手に売った方が得になるからです。

https://kabusyo.com/sihyo/sihyo12tob.html11

11

日本で届出をしたTOB件数と買付金額の推移

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35,000

2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

買付金額(億円) 件数(右目盛)

122006年ソフトバンクによる英ボーダフォン日本法人の大型TOB(買い付け価格約1兆6000億円)など

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iii) LBO(leveraged buy-out)とMBO(management

buy-out)

• LBOを例に,M&Aと企業価値の関係を考える

キャッシュ・フロー

現預金等

ライブドア資本

LBO(レバレッジド・バイ・アウト)の仕組み

LBOフジ連結資本

借入金

ほとんどフジTVの資産

借入金

買収・子会社化

フジTV

LBO会社

企業価値=株主価値増加,あるいは潜

在的価値

資産

設備投資等資産運用

出資

n年目

借入金 企業価値(現在の株価)

割引率 割引率 割引率 割引率 割引率

株主価値

1年目 2年目 3年目 4年目

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LBOとは、主としてプライ

ベート・エクイティ・ファンドなどが、買収先の資産及びキャッシュフロー(キャッシュ・マネジメント)と自身のジャンク債を担保に負債を調達し、買収した企業の資産の売却や事業の改善などを買収後に行うことによってキャッシュフローを増加させることで負債を返済していくM&A手法である。

MBO=経営陣がLBOを行う場合

LBOフジ連結会社による借入金返済スキーム(p.241-2)

キャッシュ・フロー

現預金等

ライブドア資本

LBO(レバレッジド・バイ・アウト)の仕組み

借入金

元利返済

借入金

付加資本

プレミアム(被買収会社株主,投資銀行などへ)

株主価値

買収・子会社化

企業価値=株主価値増加,あるいは潜

在的価値

出資LBO会社 LBOフジ連結

ほとんどフジTVの資産

資本

n年目

設備投資等資産運用

フジTV

資産

借入金 企業価値(現在の株価)

1年目 2年目 3年目 4年目

14

14

最近の証券市場を巡る状況、MBO

• 「アイ・エヌ情報センターによると、2018年度の上場企業のエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)は1・4兆円。直近のピークだった09年度の約5分の1だ。一方、自社株買い実施額は5・9兆円と過去最大。上場企業は株式市場から資本を調達するのではなく、返還するようになっているのだ。

• 市場からの資金調達ニーズが減れば、上場を考え直す企業が増えてもおかしくない。四半期単位で投資家からうるさく注文をつけられるこのご時世ではなおさらだ。……08年のリー

マン危機後は減少していたが、MBO(経営陣が参加する買収)によって上場廃止を考える企業が再び増える可能性が高い。」(「市場を美しく去るための作法(十字路)」2019/05/16

日本経済新聞 夕刊)

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15

MBO(マネジメントバイアウト)MBO件数・金額の推移(p.243)

• 2006年のMBO=すかいらーく,レックスHD,東芝セラミックス,コンビニエンスストアのam/pmなど大型が多かった。

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経営者自身が自分の会社を買

収する

負債による買収の延長線上にあ

るMBO

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1996年

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2001年

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2005年

2006年

2007年

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2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

件億円

金額計 件数計(右目盛)

投資会社と組んだMBO

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172005年11月のワールドのMBOは有名

MBO,様々なケース• ▼2006年スカイラークの横川社長による投資会社(ファンド)と組んだMBAの場合

• 「最近[2008年]話題になったすかいらーくの案件はどういうことだったのですか。」

• 「創業家出身の経営者(横川竟社長)が06年にファンドとMBOをしましたが、思ったように業績が回復しませんでした。結局、社長はしびれを切らしたファンドに解任されてしまいました。社長は5年くらいで再建を終えようと考えていましたが、ファンドは3年で再上場にこぎ着け、投資した資金を回収したいと考えていたようです。最初は蜜月関係でも、時間が経つにつれ仲たがいすることが、MBOでは少なくありません」(2008/09/22, 日本経済新聞 夕刊)

18

『日本MJ』2018年11月7日号

一六堂のMBO

後日談→次シート

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『日本経済新聞』2018年9月29日号

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ファンドによる保有の増加

回答

資本金(円)

5億未満 11 12 1 - 1 - - - - - 255億以上10億未満 42 50 8 5 5 1 - - - 7 118

20億以下 57 106 37 18 12 6 2 - - 10 24830〃 44 77 34 15 12 7 3 2 - 17 21150〃 37 100 49 23 16 12 5 3 - 24 269100〃 31 109 72 39 24 24 10 8 3 39 359300〃 50 71 57 47 40 41 24 9 6 87 432500〃 11 15 12 6 9 12 3 6 6 29 1091,000〃 7 11 2 7 3 5 6 3 6 41 91

1,000億超 13 9 5 1 2 6 5 3 5 51 100計 303 560 277 161 124 114 58 34 26 305 1962

(注)『商事法務』第1850号,2008年11月30日,134ページ。

計0%

10%以下

15%以下

20%以下

30%以下

40%以下

50%以下

50

20

欧米の投資ファンドが手持ちの案件を売りに出す例も増えている(日経、2012/04/04)

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投資会社のM&A件数と売却件数

301359318

400

248

149 139 142 136

233

360390444

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70

80

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0

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200

300

400

500

600

700

800

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

日本企業に対する投資会社のM&A件数の推移

売却件数(右軸)

21

21

サブプライム問題以降による外資系ファンドの投資引き上げ

• 「[2008年]9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻以降は外資系投資ファンドによる国内企業株の売却も加速。米スティール・パートナーズが江崎グリコ株を全株売却するなど、出資を引き揚げる傾向が強まっている。/地域別では米国からの投資額(ネットベース)が4―10月でマイナス108億円と、引き揚げ額が実行額を上回った。前年同期は1兆4千億円強あったが、投資の落ち込みが鮮明だ。中国などアジアからの対日直接投資も横ばいにとどまる。」(2008/12/30, 日本経済新聞)

• 「スティールは金融危機で投資家からの解約請求が続いたことから日清食品ホールディングスや江崎グリコなどの保有株を相次ぎ売却。石原薬品の株式も全株売却」(2009/02/21,日本経済新聞)。2010年12月天龍製鋸,サッポロからも撤退。

22

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サッポロ、スティールに2度目の勝利,「売上高1.5倍」へ重い課題。

• 「サッポロホールディングス(HD)と米投資ファンドで筆頭株主のスティール・パートナーズとの委任状争奪戦はサッポロの勝利に終わった。勝敗の鍵を握る個人株主の多くは,経営陣の交代を求めるスティール側の提案を退け,サッポロは2007年に続き2度目の勝利を収めた。サッポロが主張し続けた連結売上高1・5倍構想にゲタを預けた格好だが,その分,サッポロは難しい宿題を負わされたことになる。」(日経産業,2010/04/05)

•前述のとおり,スティールは2010年12月サッポロから撤退した。

23

23

他面、買収ファンド復調とも

伝えられている(

日経2016年12月3日号)

24

24

買収ファンドとコーポレート・

ガバナンス(『日本経済新聞』20

16年8月30日号夕刊)

ハンズオン(経営関与)できるかどうか。そしてハンズオン

の難しさ。

25

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(5) 企業価値評価の難しさ

•ここまでの所では,企業価値は容易に計算できるかのごとくに論じてきた。しかし実際にはそれは容易なことではない。たとえば,ライブドアとフジテレビの間でニッポン放送の買収を巡って争われたが,最終的にはフジテレビがライブドアから買い取ったとはいえ,その買収価額は異なっていた。

・ニッポン放送株の買い取り価格は,1株あたり6,300円・ライブドアが持つニッポン放送株の推定平均取得価格は6,286円・フジテレビが行ったTOB価格は5,950円

26

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買収の価格交渉

•友好的M&Aの場合でも,買収側と被買収側で交渉が行われ,被買収側はできるだけ高く売りつけようとするだろうし,買収側はできるだけ安く買おうとするだろう。厳しい価格交渉がここでは行われることになる。買収側にとって,それがいくらほしい企業であったとしても,高く買いすぎると採算がとれなくなる虞がある。だから「M&Aにおける買い手と売り手の立場の違いと,企業価値評価がしばしばアートと評されるように科学的計算とは言いきれないため,1つの価格で買収価格が即決されることはない」

27

27

28

28

年次 0 1 2 3 4キャッシュ・フロー 120,000 126,000 132,300 138,915 145,861 2,146,243期待収益率(割引率) 10% 10% 10% 10% 10% 10%

1年目のCFの割引現在価値 109,092

2年目のCFの割引現在価値 104,126

3年目のCFの割引現在価値 99,397

4年目のCFの割引現在価値 94,879

5年目のCFの割引現在価値 90,565

1~5年目のCFの割引現在価値合計(1)

498,059

5年後の企業現在価値(2) 1,332,602

現在価値合計(1+2=3) 1,830,661

買収価額(4) 1,500,000

買収の正味現在価値(3-4) 330,661

5

28

5年間5%成長し,その後3%成長すると仮定

年次 0 1 2 3 4 5 6税引後利益 5.0% 200,000 210,000 220,500 231,525 243,101 250,394配当性向 5年間成長率 60% 60% 60% 60% 60% 60%配当金 120,000 126,000 132,300 138,915 145,861 150,237期待収益率 10% 10% 10% 10% 10% 事後成長率

配当金割引現在価値(1)1~5年目合計498,059

109,092 104,126 99,397 94,8795年目90,565

3.0%

5年間成長率 5.0%

2,146,243

5年後の企業現在価値(2) 1,332,648

現在価値合計(1+2=3) 1,830,707

買収価額(4) 1,500,000

買収の正味現在価値(3-4) 330,707

5年後の企業価値(6年目以降の配当の割引現在価値)-------------------------------------------=6年目配当金を成長株モデルで計算

=150,237÷(10%-3%)=5年後の企業価値を現在価値に換算2,146,243/(1+0.1)^5

1年目から5年目までのキャッシュ・フロー

6年目のキャッシュ・フロー

それが年率3%で成長すると仮定して成長株理論援用

そうすると,6年目以後の

キャッシュ・フロー累計が計算できる(2,146,243)。

このキャッシュ・フロー累計を5

年の割引率(1+0.1)5 で,割り引き5年後の企業現在価値を計算する(=1,332,648)

5年間のキャッシュ・フロー合計と5年後の企業現在価値を合計する(498,059+1,332,648=1,830,707)

これから買収価額1,500,000を控除すると,正味現在価値330,707となる。

29

買い手価値と売り手価値

30

30

買い手価値 売り手価値

買収価格

買収プレミアム シナジー効果の配分売り手の価値増加(NPV)

買収のシナジー効果

買収対象企業のFMV 買収対象企業のFMV

買い手の価値増加(NPV)

アサヒビールの和光堂買収のケース-過払いリスク

• (2006年)「今年4月、話題となったM&Aがある。アサヒビールによるベビー食品大手、和光堂の買収だ。TOB(株式公開買い付け)の価格は市場の実勢を71%も上回り、買収総額は最大470億円に達した。『高すぎる』。驚きの声が上がる中で、アサヒは同社なりの勝算をはじいていた。

買収価格の算定で一般的に使われるのが割引キャッシュフロー(DCF)という手法だ。将来にわたって生み出すキャッシュフローを現在価値に換算し、それを足し合わせて企業価値を計算する。

和光堂の2006年3月期の連結営業利益は11億円。アサヒはコスト削減やグループの連携による相乗効果でこれが3年後に30億円、10年後に40億円になると想定し、フリーキャッシュフローを計算した。投下資本のコストの7%弱で割り戻し企業価値を算出、投資採算に合うTOB価格を導き出した。」(日経,2006/07/19)

31

アサヒだけでなく、しばしば経営者は楽観的な見通しのもとで買収する31

買収交渉の難しさ

• 「デュー・ディリジェンスは企業価値の羅針盤」と題して,その重要性を指摘されている。そしてまた,このようなデュー・デリジェンスをふまえて,交渉にはいるわけであるが,この過程がまた重要で,金児氏はこの過程を「デュアリングM&A」と呼んで重視されている。同氏はまた「デュアリングM&AはアフターM&Aのためにある」といわれる。

32

32

M&Aのプロセス

33

33

デューデリジェンスと事業価値評価の関係

34

34

M&Aの折衝がいかに難しいものであるか( [信越化学]故金児氏の言)• 「こういう折衝の結論をうまく出せるかどうか,それは責任者,トップ層の勘で決まります。極端な言い方かもしれませんが,結局『経営は勘』です。その勘を磨くために,普段一生懸命仕事をしているのです。」まさに,アートである。

35

35

(6) アフターM&A

•M&Aにはシナジー効果があるというが,これを実現するためには,資源,とりわけ人的資源の移転が効率的に行われなければならない。ある専門に特化した従業員を他の部門へ移転することは容易ではないという。また,シナジーの実現には共同の努力が必要である。コミュニケーションと共同の努力が必要であるが,「これを進めていくには長い時間をかけてお互いに調整していかなくてはならない」

•小林一郎『現場で役立つM&Aの勘どころ』(中央経済社,2009年)では,PMI(Post Merger Integration)として,これを重視。

36

36

M&Aの成否を握るPMI

37

PMIは、(1)経営統合(理念・戦略、マネジメントフレームの統合)、(2)業務統合(業務・インフラや人材・組織・拠点の統合)、(3)意識統合(企業風土や文化の統合)の3段階からなります。

https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/ha/pmi

M&Aによる価値創造の難しさ1• 「M&Aで価値を作り出すためには,やはり会社の文化や組織の持つ特性,リーダーシップなどそれぞれの要素をうまくかみあわせないといけない」

• 「トップの強烈なリーダーシップや事業担当者のM&Aを戦略的に活用していこうという思いがない限り,事業会社のM&Aでシナジーを出していくのは難しい」

38

38

M&Aによる価値創造の難しさ2

• 「取締役会は,NPV分析で用いられた事業計画が事業統合においてはどのように細分化され,誰がそれぞれの事業計画の実現性に責任をもつのかについて関心を払うべきである」

• M&Aの成功事例では,それがうまくいっている=日本電産による三協精機に対するM&A,カルロス・ゴーン氏による日産自動車の再建

39

39

40

維新伝心プロジェクト

•豊田通商・トーメン合併での社員融合プロジェクト。

•豊田通商は2006年4月旧トーメンと合併し,双日を抜いて総合商社第6位に浮上したが,両社の合併が早くも効果を上げているという。

•社員の融和のために『維新伝心プロジェクト』を打ち出した。

•懇親会推進プロジェクトで横のコミュニケーションを図るなど。(MARR,2008年3月号より)

40

41

41

3.M&Aブームの意味

•M&Aにはこれら規制産業の経営者を覚醒せしめる効果が期待できる。

•他面で買収者が企業価値を判断できるのかという問題がある。

•M&Aコンサルタントですら「事業会社内部の人間でも成否の判定が容易にできないものを,市場が正確に判定できるとは到底思えない」(渡辺・井上・佐山,262頁)

といわれるほどである。

•ゲームか?

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興味深い見方

• 「株主重視の経営が標榜されるが,企業の最大のステークホルダーは売却で退出できる株主ではない。経営者と従業員こそ最大のステークホルダーである。その最大のステークホルダーが高い志で一体化して働くとき企業価値は最大限に高まる。経営に関してはずぶの素人の大学教授や女性ジャーナリストなどを社外重役に送り込んで,形だけ欧米企業のスタイルを真似て「コーポレート・ガバナンスに先進的な企業」などと名乗る企業こそ,経営者が企業統治の本質をわかっていない危ない企業と言えるだろう。」(石黒憲彦『産業再生への戦略』東洋経済新報社,2003年,115-116頁)

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米国「会社は株主のもの」,日独「会社は実在すると考え従業員重視」• 新たなる価値創出による競争力強化のために,「CS(顧客満足),ES(従業員満足)」などの非財務的指標をより活用し,直

接,経営戦略や事業計画に結びつけたり,業績との連鎖をモニタリングすべきである。(小林一郎,前掲書,211頁)

• 日本企業には日本人ならではの組織観がベースにある。(217頁)

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4.M&A,その関係者の利害・立場を考える

• (買収対象企業の)経営者の立場

• ファンドの立場

• 買収企業の立場

• 株主の立場(買収対象企業の株主,買収企業の株主)

• 消費者の立場

• (買収対象企業の)従業員の立場

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敵対的買収の図式化

    経営者

敵対的買収者

  管理経営チーム

敵対的買収者

一般株主

一般株主(アウトサイダー)

通常の理解 私の理解

株主一般

従業員 従業員

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• 「新会社法のもとでは,支配株主の圧力が高まるだけでなく,経営者支配もいっそう貫徹しやすくなる」「会社法において効率性と公正性の関係はバランスの問題としてとらえるべきである」(森淳二朗「『会社支配の効率性』と公正性確保」森・上村『会社法における主要論点の評価』中央経済社,2006年,第2章)

• 特にアメリカにおいて、株主と経営者の利害の一致。

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特にアメリカにおいて

共通の利害

冬期休暇中の試験勉強のために• 資金運用表の作成練習をしておこう。• ファイナンスに関連するさまざまな用語を学んで運用できるようになっておこう。最終試験問題の一例• 1.下記AプロジェクトとBプロジェクトの,①回収期間と正味現在価値を計算し,解答し,②どちらのプロジェクトのほうを採用すべきか答えて下さい。WACCは10%と仮定する。

• 2.下記比較貸借対照表から資金運用表を作成しなさい。• 3.キャッシュ・フロー計算書関連。そしてそれをみて戦略を推定する問題。• 4.企業価値、企業買収(LBO,MBO等)に関わっての穴埋め問題。

• ①「企業価値」=株式時価総額=将来キャッシュフローの割引現在価値。また成長株の場合「配当金÷(r-g[成長率])となる。

• ②WACC(加重平均資本コスト)の計算。• ③買収に際してのプレミアム付与関連。• ④買収防衛策(ポイズンピル、クラウンジュエル)• ⑤自社株買いにより株主資本減少で、ROE(=税引後利益÷株主資本)は向上する。しかし、MBOで上場株をすべて買い占めると、上場廃止となる。第15回講義で問題練習をします。

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過去のレジュメは下記です。http://www.ritsumei.ac.jp/ba/~matumura/finance00.html

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ここに、練習問題と解説もアップしてあります。これによって、試験対策を行って下さい。

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質問票・感想でも構いません

学生番号( )氏名( )

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(必須ではありません。用紙は適宜自分でノートを切り抜いて提出しても構いません)