高圧ガス保安対策事業 (事故調査解析) 高圧ガス...

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平成 29 年度経済産業省委託 高圧ガス保安対策事業 (事故調査解析) 高圧ガス事故の類型化調査報告書 平成 30 3 高圧ガス保安協会

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平成 29 年度経済産業省委託

高圧ガス保安対策事業

(事故調査解析)

高圧ガス事故の類型化調査報告書

平成 30 年 3 月

高圧ガス保安協会

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1. 事業の目的 国から提供された事故の中から、過去数年間にわたり、同様な設備、部位、操作、ガス種等で繰り返

し発生している事故や設備が異なるが同じ原因と考えられる事故を抽出・類型化し、その中から高圧ガ

ス関係者に対し注意喚起をすべき事故3件を選択し、各事故ごとに調査・検討を行い報告書を作成する。

2. 実施した事業の内容 2.1 類型化対象 過去に発生した高圧ガス事故の中から、過去数年間にわたり、同様な設備、部位、操作、ガス種等で

繰り返し発生している事故や設備が異なるが同じ原因と考えられる事故を抽出・類型化し、その中から

高圧ガス関係者に対し注意喚起をすべき事故3件を選択し、事故ごとに調査・検討を行い報告書を作成

した。 選択した 3 件は以下の通りである。

(1) コンビ則の事故原因の分析及びその事故防止対策のポイント (2) 冷凍事業所における事故の注意事項 (3) 水素スタンドにおける事故の注意事項

報告書については、別添参照。

2.2 情報発信 調査結果については、ウェブサイトに掲載し、高圧ガス事業に従事する関係者宛てに、電子メールに

よる情報発信(メール配信者:約 1,000 件)を行い、注意喚起を実施した。

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コンビ則の事故原因の分析及びその事故防止対策のポイント

1.目的

コンビナート等保安規則の適用をうける製造事業所(以下「コンビ則適用事業所」とい

う。)に関する類型化調査は、個別の機器や事故事象に着目し注意喚起を促すものが主であ

った。その中で、コンビ則適用事業所の事故件数は、冷凍側、一般則の事故件数と比較し

て最近 10 年間は 76 件をピークとして、減少傾向で推移している。しかし、件数は少ない

ものの、爆発、火災、可燃性ガスの大量漏えいなど、ひとたび災害が発生すると、周辺地

域も含め大きな被害が発生する可能性がある。コンビ則適用事業所は、コンビナート地域

に所在する事業所だけでなく、単独で処理能力が大きな事業所に対しても適用されるため、

コンビ則適用事業所といってもその業態は様々である。

今回は、高圧ガス事故統計のある 1964 年より 53 年分のコンビ則適用事業所の事故の中

で特に重大事故と事故発生件数を、重大事故がその後のコンビ則適用事業所の事故発生件

数の影響があるかという観点から分析し、取りまとめ、事故の未然防止、再発防止のため

の注意事項を示すことを目的とする。

1

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2.高圧ガス事故の推移

高圧ガス事故は、「高圧ガス保安法事故措置マニュアル」の第 2 項の『2. 事故の定義等』

に定義されている。(表 1)、

(1)製造事業所における事故件数の推移

高圧ガス事故の発生件数は、平成 11 年まで 100 件前後で推移していたが、平成 12 年か

ら増加に転じ、以後増加し続けており近年も高い水準で推移している。

図 1 製造事業所における事故件数の推移(災害(盗難、喪失を除く))

表 1 「高圧ガス保安法事故措置マニュアル」2.事故の定義等(抜粋)

2

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その中で、コンビ則適用事業所の事故件数は、冷凍側、一般則の事故件数と比較して最

近 10 年間は 76 件をピークとして、減少傾向で推移している。(図1)

(2)コンビ則適用事業所のA、B、C級事故件数の推移

高圧ガス事故は、事故の被害状況によりA級事故、B級事故及びC級事故に分類されて

いる。(図2)

製造事業所における事故件数の推移(図1)における コンビ則適用事業所の高圧ガ

ス事故をA、B、C級事故の3つに分けて、事故件数の推移を示す。(図2)

図2 「高圧ガス保安法事故措置マニュアル」3.事故の分類(抜粋)

3

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図3 コンビナート事故 ABC 級事故年代別推移

コンビナート事故ABC級事故年代別推移(図3)から以下の特徴が認められる。

(ア) B級事故は 2008 年より 2012 年にかけて急激に増えている。これは、一つの高圧

ガス製造事業所(石油精製)において、2008 年~2012 年の 5 年間に起きた 131

件の災害事故が 2013 年に追加報告された。本事故年報にも 131 件の事故を追加し

ているため、過去の事故件数が大きく増加したことによる。

(イ) 2003 年頃よりB級事故及びC級事故が前年度に比べて徐々に増加している。この

件に対して、事業所のコンプライアンス意識の向上により漏えい報告件数が増加

を表すものとして分析したが、要因を得るには至らなかった、との報告がある。(図

4)

図4 「産業事故分析・対策検討共同ワーキンググループ」(2014年6月)

3.重大事故と事故発生件数を分析

重大事故との関連に関して、重大事故の定義が無い為 以下の 2通りに分けて調査した。

(1)重大事故をA級事故とした場合

重大事故が、A級事故として捉えて、1964 年以降に発生したA級事故の発生件数を調査

した。(図5)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

事故件数

年次

A級事故

B級事故

C級事故

4

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A級事故とは、『「高圧ガス保安法事故措置マニュアル」第3項事故』(表2)の分類の以

下に示すように、死者及び負傷者を伴う大規模な事故を示している。

A級事故とは、以下のように分類されている。

① 死者 5 名以上の事故

② 死者及び重傷者が合計して 10 名以上の事故

③ 死者及び負傷者が合計して 30 名以上の事故

④ 甚大な物理的被害(5 億円以上)が生じた事故

⑤ 大規模な火災又はガスの大噴出・漏えい現に進行中であって、大災害に発展するお

それのある事故

⑥ その発生形態、災害の影響度、被害の態様、テレビ・新聞等の取り扱い等により社

会的影響が大きいと認められる事故

(ア) 1964 年以降において図2に示すように、16 件のA級事故が発生している。

(イ) 同一企業が複数にA級事故を発生した場合は、特に認められなかった。

(ウ) 1995 年以降 2009 年まで最長で 14 年間発生しなかった。

(エ) 発生する時期に関して特に相関性は認められなかった。

(2)重大事故を【A級事故】+【B級事故の①②③】)とした場合

重大事故として、【A級事故】に加えて【B級事故で死者及び負傷者を伴う大規模な事

故を含めた場合】の事故発生件数を年次別に調査した。(図6)

0

1

2

3

4

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6

7

8

9

10

1964

1966

1968

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

2014

2016

事故件数

年 次

図5 コンビナート事故 A級事故 年代別推移

1年

10年

14年

8年2年

5

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【B級事故で死者及び負傷者を伴う大規模な事故を含めた場合】とは、B級事故の下

記に示す①②③ととした。

① 死者 1 名以上 4 名以下の事故

② 重傷者 2 名以上 9 名以下の事故

③ 負傷者 6 名以上 29 名以下の事故

(参考 ④多大な物的被害(1 億以上 4 億円未満)が生じた事故)

即ち、【重大事故】=【A級事故】+【B級事故の①②③】とする。

(ア) 1964 年から 1977 年まで重大事故が頻発した時期があった。

(イ) その後 1977 年以降、最大6年間重大事故は無い時期はあるものの、29 件/39 年

間発生しており、平均すると 0.74 件/年発生している。

(3)まとめ

高圧ガス事故統計のある 1964 年より 53 年分のコンビ則適用事業所の事故の中で特

に重大事故と事故発生件数を分析した。コンビ則適用事業所の事故件数は、冷凍則、

一般則の事故件数と比較して最近 10 年間は 76 件をピークとして、減少傾向で推移し

ている。

0

1

2

3

4

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6

7

8

9

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事故件数

年次

図6 重大事故 年代別推移(A+B➀➁➂級事故)

1964年から1977年まで重大事故が頻発し

た時代

1964年から1977年まで重大事故が頻発し

た時代

平均

3.07

平均 0.74

1977年以降、最大6年間重大事故は無い

時期はあるものの

29件/39年間発生しており、平均すると

0.74件/年発生している。

6

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また、1977 年以降では、重大事故の発生件数は大幅に減少した。しかし、重大事故

がコンビ則適用事業所の事故発生件数の影響があるかという観点から、重大事故の発

生に関して発生時期等に特徴的なことは認められなかった。

4.高圧ガス事故の統計と解析

高圧ガス事故の統計と解析を行っており毎年「高圧ガス誌」に掲載され、2017 年度版の

「コンビナート等保安規則適用製造事業所」について検討されている。

2018 年~2016 年(平成 20 年~平成 28 年)の 9 年間の合計の統計を、図7に示す。

図7 高圧ガス事故の統計と解析(コンビナート等保安規則適用製造事業所)

高圧ガス、Vol.53,No.11, p.20,(2017)(抜粋)

(119, 100%)

(46, 100%)

(56, 100%)

漏えい(333) (19, 100%)

(8, 100%)

(16, 100%)

(3, 100%)

事故件数(355)

(20, 100%)

(5, 100%)

(2, 100%)

(11, 100%)

(7, 100%)

調査中 (1, 14%)

不明、調査中(2)

誤操作など (1, 14%)

検査管理不良 (1, 14%)

操作基準等の不備 (4, 36%)

破裂・破損操作基準等の不備 (3, 43%)

爆発誤操作など (2, 100%)

火災誤操作など (4, 36%)

安全弁作動操作基準等の不備 (3, 60%)

不明、調査中(1)

情報伝達の不備 (1, 20%)

検査管理不良 (3, 15%)

自然災害 (3, 15%)

漏えい③ 破裂など誤操作など (6, 30%)

(51)

開閉忘れ誤操作など (2, 67%)

組織運営不良 (1, 33%)

誤開閉誤操作など (11, 69%)

操作基準等の不備 (4, 25%)

施工管理不良 (1, 13%)

自然災害 (1, 13%)

検査管理不良 (3, 16%)

可動シール部シール管理不良 (5, 63%)

漏えい② 開閉部シール管理不良 (8, 42%)

(83)

締結部締結管理不良 (35, 63%)

シール管理不良 (8, 14%)

疲労設計不良 (27, 59%)

検査管理不良 (9, 20%)

腐食腐食管理不良 (118, 99%)

漏えい①施工管理不良 (1, 1%)

(198)

7

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(1) 事故の統計と解析

全事故件数(355 件)のうちで、漏えい事象(333 件)が 94%を占める。残りの 22 件

のうちで、爆発が 2 件、火災が 11 件、破裂・破損が 7 件である。漏えい事象のうちで漏

えい①が最も多い。

漏えい①(198 件)の損傷メカニズムは、腐食(119 件)が大半を占め、疲労(46 件)

が次に多い。

漏えい②(83 件)の部位は、フランジ式継手、ねじ込み式継手などの締結部(56 件)が

大半を占め、原因は締結管理不良が多い。次いで、バルブなどの開閉部(19 件)も比較的

多く、可動シール部(8件)では、原因はシール管理不良が多い。

漏えい③(51 件)では破裂などがもっとも多く(20 件)、次に誤開閉が多い(16 件)。

破裂などの内容は多岐にわたるが、誤操作などのヒューマンエラーが最も多い(6 件)。

(2) 事故原因の統計

漏えい事象(①、②、③とその細分化)に爆発、火災、破裂・破損の三つの事象を加

えた 12 事象について、事故 1 件ごとに事故原因を特定した結果の統計(9年間)を、図

2 に示す。

漏えい①の腐食の事故原因は腐食管理不良であり、高経年化が進む施設では特に保温

材下腐食等に留意し、腐食管理を行うことも重要である。漏えい②の事故原因は締結管

理不良とシール管理不良である。漏えい③の事故原因は、誤操作など、操作基準等の不

備などであり、人為的なミスに対しての対処が必要である。慣れた作業であっても、手

順書を確認し、確実に作業を実施することが重要である。また、必要に応じて手順書の

見直し、再教育も重要である。

(3) まとめ

全事故件数(355 件)のうちで、漏えい事象が 94%を占める。腐食の事故原因は腐食

管理不良であり、高経年化が進む施設では特に保温材下腐食等に留意し、腐食管理を行

うことも重要である。(注1)

製造事業所(コンビ)では事故件数は減少傾向で推移している。最近2年間では一次

事象が爆発と火災の事故件数は0件である。これは、多くの事業所が積極的に自主保安

活動に取り組んだ成果と考えられる。今後もさらなる自主保安活動の推進を期待する。

5.事故の未然防止、再発防止のための注意事項

高圧ガス事故統計のある 1964 年より 53 年分のコンビ則適用事業所の事故の中で特に

重大事故と事故発生件数を分析し、重大事故がその後のコンビ則適用事業所の事故発生

件数に影響があるかという観点から分析したが、重大事故の発生に関して発生時期等に

8

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特徴的なことは無く、また、事故の未然防止、再発防止のための注意事項で特段のこと

は認められなかった。

製造事業所(コンビ)では事故件数は減少傾向で推移している。特に、最近 2 年間で

は一次事象が爆発と火災の事故件数は 0 件である。

以上より、事故の未然防止、再発防止のために、多くの事業者が積極的に日頃の自主

保安活動を引き続き推進することが重要であり、今後も更なる取り組みを期待する。

注1

経済産業省の石油精製業保安対策事業「被覆配管等の運転中検査技術に関する調査研究」

として以下のガイドラインが、まとめられている。

「保温材下配管外面腐食(CUI)に関する維持管理ガイドライン」

(一般財団法人 エンジニアリング協会 http://www.enaa.or.jp/research/plant-maintenance)

9

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冷凍保安規則適用事業所の高圧ガス事故の注意事項について

高圧ガス保安協会 1.目的

高圧ガス事故(災害)件数は年々増加し、平成 28 年は 495 件となっている。 その中で、冷凍保安規則適用事業所の高圧ガス事故(以下、「冷凍則事故」)件数も

年々増加し、平成 28 年に 225 件となり、高圧ガス事故(災害)件数の増加の大きな要因

となっている。 また 近は、フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成 13 年 6

月 22 日法律第 64 号)の改正に伴い、代替フロンから地球温暖化係数のより小さな自然

冷媒及び特定不活性ガスを用いた冷媒への転換が進められていることなど社会的な注

目も高いことから、冷凍事業所における高圧ガス事故の未然防止に向けて問題点を抽

出し、今後の対策を図るための注意事項を取りまとめる。 2.事故件数の推移

近 9 年間の高圧ガス事故と冷凍則事故の統計を表1に示す。高圧ガス事故の発生

件数は、平成 11 年まで 100 件前後で推移していたが、平成 12 年から増加に転じ、以後

増加し続けており、 近 9 年間も高い水準で推移している。その中で冷凍則事故は、平

成 18 年以降増加傾向となり、平成 20 年に 50 件を超えると以降、 近 9 年間も大幅に

増加し続けている。 製造事業所ごとに分類を図1に示す。他の製造事業所と比較して、冷凍則事故の増加

が突出している。

表1 近 9 年間の高圧ガス事故と冷凍則事故の統計

( )は、東日本大震災に関連した件数を除いた件数

図 1 製造事業所における事故件数の推移(災害(盗難、喪失を除く)

平成 年 20 21 22 23 24 25 26 27 28

高圧ガス事故(災害) 350 327 406490(404) 428 392 382 452 495

冷凍則事故 53 85 94180(128) 124 145 134 184 224

11

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漏えい① 漏えい② 漏えい③ 不明

20 54 54 29 20 5 0 0 0

21 87 87 44 30 10 3 0 0

22 93 93 52 30 9 2 0 0

23 182 180 82 33 65 0 2 0

24 124 124 79 31 14 0 0 0

25 145 145 90 39 16 0 0 0

26 134 134 81 37 16 0 0 0

27 184 184 128 41 15 0 0 0

28 224 224 129 56 31 8 0 0

合計 1227 1225 714 317 181 13 2 0

(%) (100) (99.8) (58) (26) (15) (1) (0) (0)

表2 冷凍則適用事業所における高圧ガス事故(事象分類)の統計(平成20~28年)

平成 年事故件数

漏えい 爆発、火災

不明

腐食 疲労 摩耗 SCC E/C その他

20 29 16 11 1 0 0 1

21 44 20 18 4 2 0 0

22 52 25 18 5 0 1 3

23 82 35 24 9 1 0 13

24 79 34 24 8 2 0 11

25 90 46 25 7 1 1 10

26 81 43 20 7 1 0 10

27 128 70 33 9 1 0 15

28 129 81 36 9 0 0 3

合計 714 370 209 59 8 2 66

(%) (100) (52) (29) (8) (2) (0) (9)

平成 年漏えい①

件数

損傷メカニズム

表3 漏えい①(損傷メカニズム細分化)の統計(平成20~28年の合計)

2.事故の統計と解析 2.1 事象の内訳

近9年間(平成20年~平成28 年)の冷凍則事故の内訳(事象の分類)を表2に示す。 冷凍則事故(1227 件)のうち、漏えい事象が事故件数の 99.8%を占める。漏えい事象

(99.8%)の内訳は、漏えい①(58%)が大半を占め、漏えい②(26%)がこれに続き、漏

えい③(15%)となっている。 平成20 年からの推移をみると漏えい①の増加が大きいこ

とが分かる。冷凍則事故では、一次事象の漏えい後に二次事象の爆発、火災に至る場

合が皆無であることは特筆に値するが、事故件数及びその増加傾向ともに大きくなって

いる。

(1)漏えい① 漏えい①(714 件)の内訳(損傷メカニズム)を表 3 に示す。漏えい①では、腐食が 370

件(52%)と疲労が 209 件(29%)で 80%以上を占める。 近は疲労と比較して、腐食の

件数が大きく増加している。

腐食の内訳(部位)を表 4 に示す。部位は、配管が 177 件(48%)、熱交換器が 169 件

12

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配管 熱交換器(銅管含む) その他

20 16 9 6 1

21 20 12 7 1

22 25 15 9 1

23 35 17 17 1

24 34 8 25 1

25 46 15 26 5

26 43 29 13 1

27 70 31 34 5

28 81 41 32 8

合計 370 177 169 24

(%) (100) (48) (46) (6)

平成 年 合計部位

表4 製造事業所(冷凍)の腐食による事故件数の推移(平成20年~平成28年)

振動 温度変動 圧力変動 その他

20 11 11 0 0 0

21 18 17 0 1 0

22 18 17 0 1 0

23 24 20 2 0 2

24 24 20 2 2 0

25 25 19 3 0 3

26 21 18 2 0 1

27 32 30 1 1 0

28 36 24 12 0 0

合計 209 176 22 5 6

(%) (100) (84) (11) (3) (3)

平成 年 合計応力要因

表5 製造事業所(冷凍)の疲労による事故件数の推移(平成20年~平成28年)

(46%)である。推移を見ると配管、熱交換器ともに増加傾向にある。 腐食の原因は、腐食への対処が不十分な腐食管理不良である。熱交換器(蒸発器と

凝縮器)の腐食の多くは銅管で発生しており、水質管理不良に起因している。配管の腐

食は、保温材下鋼管の外面腐食が大半を占める。

疲労の内訳(応力要因)を表 5 に示す。振動に起因する疲労がほとんどを占め 176 件

(84%)、次いで温度変動、圧力変動となっている。振動に起因する疲労は年 20 件前後

継続して発生している。ただし、平成 28 年は温度変動に起因する疲労が 12 件と増加し

ており、今後注意が必要である。冷凍設備の設計において振動、温度変動などの使用

条件の検討が不十分な設計不良が原因である。

(2)漏えい② 漏えい②(317 件)の内訳(部位)を表 6 に示す。漏えい②では、フランジなどの締結部

13

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締結部 開閉部 可動シール部 その他

20 20 9 9 2 0

21 30 14 8 7 1

22 30 13 11 6 0

23 33 15 11 6 1

24 31 11 11 5 4

25 39 23 10 5 1

26 37 22 7 8 0

27 41 20 11 10 0

28 56 30 15 11 0

合計 317 157 93 60 7

(%) (100) (50) (29) (19) (2)

平成 年漏えい②

件数

部位

表6 漏えい②(部位細分化)の統計(平成20~28年の合計)

誤開閉 開閉忘れ 破裂など 安全弁作動 不明

20 5 2 0 3 0 0

21 10 1 1 5 0 3

22 9 1 0 3 0 5

23 65 0 1 58 2 4

24 14 1 0 7 2 4

25 16 5 1 6 3 1

26 16 2 0 11 0 3

27 15 0 0 11 4 0

28 31 1 2 10 10 8

合計 181 13 5 114 21 28

(%) (100) (7) (3) (63) (12) (15)

平成 年漏えい③

件数

人的行為など

表7 漏えい③(人的行為など細分化)の統計(平成20~28年の合計)

が も多く 157 件(50%)、次いでバルブなどの開閉部が 93 件(29%)、可動シール部60件(19%)である。漏えい②の件数は増加傾向にあり、締結部からの漏えいが増加して

いる。締結部と開閉部の事故原因は締結管理不良とシール管理不良である。

(3)漏えい③

漏えい③の内訳(人的行為など)を表 7 に示す。漏えい③では、外部衝撃などによる

破裂などが も多く 114 件(63%)、次いで安全弁の作動が 21 件(12%)、バルブの誤開

閉と開閉忘れ 18 件(10%)である。平成 23 年は東日本大震災の影響により件数が多く

なっているが、それ以外は 15 件前後で推移している。平成 28 年は安全弁作動によるも

のが 10 件発生し、件数全体も増加している。誤操作、誤判断、認知確認ミスが も多い

事故原因である。

4. 事故事例 4.1 漏えい①

(1)腐食

14

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① 熱交換器内のチューブ (i) (事故発生日 平成 27 年 6 月 11 日)

作業員が日常点検で No.2 サイクルの圧力が通常より低下しているのを発見し

た。翌日、保守業者による機器点検・漏えい点検を実施し、配管から漏えいがな

いことを確認し、膨張弁等の不具合も確認できなかったため、その後、冷凍機を

停止し液圧力を確認したところ、冷媒漏えいが判明した。冷媒回収および加圧検

査を行い、熱交換器内管からの漏えいを確認した。原因は、熱交換器内のチュー

ブの水側からの腐食と推定された。 (ii) (事故発生日 平成 28 年 3 月 1 日) 冷凍機(チラー)から「冷凍機異常」信号が発信され、冷凍機が異常停止したため、

直ちに修理業者に対応を依頼し、確認したところ冷媒の漏えいが発生しているこ

とを発見した。フルオロカーボン測定器にて、漏えい箇所の特定を試みた結果、

冷水の熱交換器部分であると特定し、当該チラーの運転を停止した。漏えい原因

は、32 年間の運転により、熱交換器内のチューブに腐食が発生し、チューブに穴

があき、冷媒ガス(フルオロカーボン 22)が冷却水を経由して大気中に漏えいした

と推定された。 ② 配管 (i) (事故発生日 平成 27 年 6 月 2 日)

『油温』警報が発生し停止中であった冷凍機において、メーカーの点検調査の

結果、屋上空気熱交換器からの冷媒液配管から冷媒漏えいが判明した。運転禁

止とし、冷凍機と屋上空気熱交換器間の冷媒(液・ガス)配管の止め弁を閉止とし

た。なお、冷媒ガスの漏えい量は、受液器の目盛りより推定 320kg と思われる。

原因は、屋上空気熱交換器への冷媒液配管断熱材カバー接合部から雨水が浸

入し、配管外面が腐食、開孔したためと推定される。 (ii) (事故発生日 平成 28 年 1 月 8 日)

異常停止があり、点検したところ、圧縮機系統の低圧異常を確認したため、直

ちに冷凍機の運転を停止した。保守会社が点検したところ、膨張弁均圧管および

ガス配管から冷媒ガスが漏えいしていた。冷媒ガス漏えい量は約 64.7kg である。

膨張弁均圧管およびガス配管溶接部の腐食により、冷媒ガスが漏えいしたと推

定される。

(2)疲労 ①振動 (i) (事故発生日 平成 27 年 10 月 16 日)

夜間製氷作業中に、2 台ある冷凍機のうち 1 台が吸入圧力異常(低圧カット)で停止した。日中になってから点検したところ、冷凍機設備 2 号機の圧縮機上部に

設置されている直径 10mm 程の銅製の配管がバルブの結合部分から脱落し、

バルブの結合部分から冷媒ガス(フルオロカーボン 22)および冷凍機油が噴出し

ていた。材料破断面の検査の結果、ストライエーション状模様が見られた。原因

は、冷凍機の圧縮機の振動に起因する疲労破壊による折損と推定される。 (ii) (事故発生日 平成 28 年 1 月 8 日)

設備運転中に、1 階観測室にいた作業員が壁に付着している油垂れを確認し

た。調査した結果、2 階機械室に設置されている冷凍機ユニットの容量制御用電

磁弁油配管が破断していることを発見した。直ちに破断配管上流側の手動弁を

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閉めて、漏えいを止めるとともに、設備管理課に通報した。冷媒漏えい量は

720kg、油漏えい量は 280L である。給油配管の油漏れの原因は、給油配管の

長期にわたる振動により、配管継手が疲労破壊に至ったためと推定される。 ②温度変動 (i) (事故発生日 平成 27 年 10 月 29 日)

冷凍機を運転中に圧縮機給油温度異常の警報が発生し、冷凍機が自動停止

した。故障原因を調査した結果、蒸発器入口の配管継手ろう付け部から冷媒が

漏えいし、冷媒約 150kg が大気放出された。運転を中止するとともに、残量冷媒

の回収作業を行い、冷媒 90kg を回収した。原因は、冷凍機の起動・停止に伴う

温度変動が繰り返されたことから蒸発器入口配管に繰返し応力が発生し、配管

継手(差込継手)のろう付け不良部に疲労亀裂が発生したためと推定される。 (ii) (事故発生日 平成 28 年 5 月 20 日)

巡視点検において、配管下部の床面に油漏れを発見した。配管部を調べて油

の滲んでいる箇所があったため、ガス検知器でガス漏れ箇所を特定した上で、漏

えい箇所前後弁を閉にして、冷凍機を休止し、後弁を閉じ漏えい防止処置を行っ

た。空気熱交換器は屋外に設置され、温度変動が頻繁に繰り返されたことによる

疲労が原因で冷媒漏れが発生したと推定される。

4.2 漏えい② (1)締結部:締結管理不良

① (事故発生日 平成 27 年 6 月 19 日) 日常点検により冷凍機の圧力が下がっていることを確認し、ただちに冷凍設備

を停止した。調査により、冷凍設備が設置している室の天井付近にある防熱部が

著しく凍っているのを発見した。冷媒漏れと判断し、ただちに電磁弁の前後のバ

ルブを閉じた。リークチェックを行い、漏えい部を確認した。原因は、電磁弁の締

め付け不良および振動等による緩みと推定される。 ② (事故発生日 平成 28 年 8 月 27 日)

冷凍設備監視盤でアンモニア漏えい警報(200ppm 以上)が発報した。20 分後、

漏えい部を確認し、当該フランジを増し締めした。その後、漏えいのないことを確

認した。漏えい時にはアンモニア除外装置が稼働したため、機械室外への漏えい

はなかった。原因は、アンモニア配管の冷却、解凍の繰り返し、または運転時の

微弱振動によりフランジ部に緩みが発生したためと推定される。漏えいバルブ取

付フランジの増し締めを行った。

(2)開閉部:シール管理不良 ① (事故発生日 平成 27 年 3 月 18 日)

停止中の冷凍機のガス漏れ警報器が作動した。圧縮機の冷媒出入口弁を全

閉とし、電源を落とした。翌日、冷媒配管のバルブシャフト部分からの漏えいと判

明した。バルブシャフトパッキン締め付けナットの増し締めを実施し、漏えいは完

全に停止した。原因は、消耗品の定期的な交換を怠っていたため、冷媒配管バ

ルブシャフトパッキンの経年劣化が進み、漏えいに至ったと推定される。今後は、

消耗部品の交換プログラムを見直す。 ② (事故発生日 平成 28 年 9 月 6 日)

定期点検において試運転を実施したところ、低圧カット異常により、設備が停止

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した。9 月12 日および 13 日に気密検査を実施したところ、液ライン電磁弁本体接

続部(O リング)からの漏れが確認された。原因は、交換を実施していなかったこと

により、O リングが劣化してシール不良が生じたためと推定される。 (3)可動シール部:シール管理不良

① (事故発生日 平成 27 年 8 月 3 日) 冷凍事業所の工場内において、冷凍機の圧縮機 3 台のうち 1 台から煙が発生

していることを工場の従事者が確認した。冷媒ガスの漏えいを疑い、保安責任者

が冷凍機を停止させた。さらに、漏えい箇所と疑われる圧縮機 1 台と設備全体と

の間のバルブを閉止した。装置メーカーの点検により、漏えい箇所は切り離した

圧縮機の可動部のメカニカルシールであることが特定された。原因は、冷凍機駆

動軸のメカニカルシールの摩耗により、フルオロカーボン 22 および圧縮機の油

が漏えいしたと推定される。 ② (事故発生日 平成 28 年 7 月 20 日)

蓄熱空気熱源ヒートポンプユニット(IRR-01)の定期点検を実施した際、蓄熱量

の低下を確認した。日を改め、蓄熱量低下の原因を特定するために機内の冷媒

(フルオロカーボン 134a)を回収したところ、規定量 60kg のところ 17kg しか回収

できず、43kg の冷媒漏えいを確認した。圧縮機のアンローダー電磁弁プランジャ

ーシャフト部からの気密不良が原因と推定される。当該設備は設置後 15 年経過

しており、経年劣化によると思われる。

4.3 漏えい③ (1)破裂:外部衝撃

① (事故発生日 平成 27 年 2 月 17 日) 冷凍機ファンの点検作業中、外装パネルを外していたところ、外装パネルの角

を空気熱交換器の銅配管に接触させたため、配管が破損し、内部の冷媒(フルオ

ロカーボン 410A)が漏えいした。原因は、点検業者の作業ミスによると推定され

る。 ② (事故発生日 平成 28 年 4 月 26 日)

製造課の職員がスパイラル冷凍機クーラーの銅配管に霜が付いていたため、

ドライバーで落としていたところ、銅配管を損傷させてしまい、冷媒が吹き出てき

た。直ちに元バルブを締め、ガスの漏えいを止めた。なお、ガスの漏えい量は推

定 20kg である。冷媒漏えい後、直ちに冷凍機の低圧側、高圧側のバルブ閉止を

実施した。

(2)誤開閉、開閉忘れ (i) (事故発生日 平成 28 年 6 月 20 日)

冷媒回収作業前の準備中に、チラー下部のサービスチャッキキャップを緩めよ

うとしたところ、誤ってサービスチャッキ本体ごと緩めてしまったため、サービスチ

ャッキ本体が吹き飛び、冷媒が漏えいした。原因は、冷媒回収作業のミスのため、

サービスチャッキ本体ごと緩み、冷媒ガスが漏えいしたと推定される。 (ii) (事故発生日 平成 28 年 9 月 27 日)

定期自主検査の際に、低圧レシーバーの圧力計の校正のために圧力計を取り

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外した後、圧力計の元弁は閉止したが、圧力計のねじ込み部をプラグ閉止しない

状態で 1 日半放置したため、圧力計元弁の弁座漏えいにより、冷媒が漏えいした。

原因は、工事の際に当該冷媒設備の開放する部分に、他の部分からガスが漏え

いすることを防止するための措置を講じなかったためと推定される(圧力計を外し

た後の開口部にプラグ栓をしなかった)。 5. 注意事項 5.1 漏えい①

(1)腐食 ① 熱交換器(蒸発器と凝縮器)

熱交換器(凝縮器と凝縮器)のチューブ(銅管)の腐食は、水質の適切な管理がさ

れていないと発生している場合がある。チューブ(銅管) が腐食しないように、pH測定、遊離炭酸濃度、アンモニウムイオン濃度などの水質検査を定期的に実施して

水質を管理する必要がある。 ②配管

冷凍設備の冷媒配管類は結露しやすいため、保温材下では、保温材と配管外面

の空間に結露水などの水分が滞留し、外面腐食を進行させる。そのため、腐食のし

やすさ、重要度などから、適切な点検期間を定め、保温材を取り外して点検すること

が必要である。

(2)疲労 疲労の多くは、フルオロカーボンを冷媒とする冷凍空調設備で発生している。フルオ

ロカーボンの場合は、伝熱性と加工性を考慮して、銅管が用いられることが多いが、銅

管は、鋼管と比較すると疲労強度が低いため、疲労が生じやすい。そのため、設備の

設計において、疲労に対して、十分考慮することが必要である。

5.2 漏えい② (1)締結部:締結管理不良 フランジ継手は、振動によるボルトの緩み、温度変化による伸縮、無理な接続など、

フランジ面圧が不均一となって漏えいしやすい。このため、フランジ締結部の維持管

理が重要であり、ボルトの片締め、緩み、ガスケット当たり面の状況など、締結状態

の確認と定期的な点検の実施が必要である。 (2)開閉部:シール管理不良

閉止弁、制御弁などのグランドシール、グランドパッキンは、長時間の使用、温度

変化により、摩耗、収縮、劣化などにより漏えいが発生するおそれがある。このため、

グランドパッキン、グランドシールの劣化状況を点検し、必要に応じて交換するなど

の保守管理に十分な注意が必要である。 (3)可動シール部

圧縮機の可動部のメカニカルシールは、振動に弱いため、取扱いは慎重に行い、

漏れ出したら止めることはできないので、運転管理、設備管理には十分な注意が必要

である。 装置に適した周期(直ごと、毎日など)で点検し、早期の漏えい発見が重要である。

点検においては、少量漏えい、異常な圧力、異音、発熱、振動、臭気、冷却水の温度、

油量、油流などをよく確認することが必要である。また、停止後の漏えいも発生してい

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るので、停止後の漏えい防止にも気を配る必要がある。 軸封装置には寿命があるので、交換周期を適正に管理し、交換する。また、機器の

特性によっては寿命が短くなることがあるので、状況を把握することも重要である。 5.3 漏えい③

(1)破裂(外部衝撃(作業中の事故)) 作業中、修理中の事故防止は重要であり、作業手順の文書化、情報の共有、危険

予知活動などを通じて、工事中、修理中の事故防止を徹底する必要がある。 (2)誤開閉、開閉忘れ

誤操作、誤判断、認知確認ミスが も多いことから、運転マニュアルに従った操作

を行い、特にバルブなどの重要操作の際には、指差呼称による確認、チェックリストに

よる確認、操作前に KY(危険予知)の実施など、十分な注意が必要である。 <参考資料>

高圧ガス事故の統計と解析(冷凍保安規則適用事業所) 、篠田 康則、小林英男、永井秀行

高圧ガス, Vol.54, No.11, PP.15-18(2017)

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水素スタンドにおける事故の注意事項について

高圧ガス保安協会

1. 目的

圧縮水素スタンドは、「水素・燃料電池戦略ロードマップ(平成28 年3 月22 日改定)」にて平成

28 年度内に 100 カ所、平成 32 年度内に 160 カ所、平成 37 年度内に 320 カ所の設置を目標と

している。

しかしながら、圧縮水素スタンドは、これまで経験したことのない常用圧力 82MPa の超高圧水

素を用い、市街地に設置されることが想定されており、これまで設置されてきた液化石油ガスス

タンド(常用圧力約 2MPa)及び圧縮天然ガススタンド(常用圧力約 25MPa)と比べてもその圧力

が著しく高く、ひとたび災害が発生した場合には、周囲に著しい災害を及ぼす恐れがある。

このため、圧縮水素スタンドにおける高圧ガス事故の統計と解析の結果を示し、圧縮水素ス

タンドにおける高圧ガス事故の未然防止に向けて問題点を抽出し、今後の対策を図るための

注意事項をとりまとめた。

2. 事故の抽出

2.1 事故の抽出方法

高圧ガス事故データベースを用いて、平成23 年から平成28 年までの 6 年間で発生した高圧

ガス事故(以下、「事故」という。)(2615 件)のうち、圧縮水素スタンド(以下、「水素スタンド」とい

う。)に係る事故を抽出した。水素スタンドの事故の統計を表1に示す。表1には比較のために、

水素スタンドの設置数(その年までの増減累積数)の推移も示す(水素スタンドは一般公開され

ていない研究用設備も含む。)

表 1 の縦軸の分野は、高圧ガス事故データベースの事故区分の分類である。製造事業所は

さらに、一般高圧ガス保安規則適用(以下、「一般則」という)、コンビナート等保安規則適用(以

下、「コンビ則」という)に細分化している。

平成 23 年から平成 27 年の 5 年間の事故件数の合計が 28 件(年間平均事故件数 5.6 件)で

あったが、平成 27 年の事故件数が 11 件と急増し、平成 28 年の事故件数が 26 件と過去 5 年

間の平均件数から約 4.6 倍の増加となっている。事故件数の水素スタンド設置数に対する比は

0.2~0.3 であり、事故件数は水素スタンド設置数の増大に伴い増加している。

表 1 6 年間の水素スタンドの高圧ガス事故の統計(平成 23 年~平成 28 年)

分野 平成 23

平成 24 年 平成 25 年 平成 26 年 平成 27 年 平成 28 年 合計

製造事業所(一般則) 1 6 5 4 11 26 53

製造事業所(コンビ則) 0 0 1 0 0 0 1

合計 1 6 6 4 11 26 54

水素スタンド設置数

(累積数)

21 20 20 22 50 116

水素スタンド 1 件当た

りの事故件数

0.05 0.3 0.3 0.18 0.22 0.22

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2.2 事象の内訳

水素スタンドの事故の内訳を、事象と分野で分類して表2に示す。

水素スタンドの事故(54 件)のうち、漏えい事象が事故件数の 100%を占める。

漏えい事象の内訳は、漏えい②(85%)が大半を占め、漏えい①(5%)と漏えい③(9%)がこ

れに続く。なお、これらのうち、1次事象が漏えいで、2次事象が火災となった場合が1件発生し

ている。

表 2 事象と分野で分類した水素スタンドの事故の統計(平成 23 年~平成 28 年)

分野 漏えい

火災破裂・

破損 件数

備 考

漏えい

→爆発

漏えい

→火災漏 え い

漏 え い

漏 え い

製造事業所(一般則) 53 3 46 4 0 0 53 0 1

製造事業所(コンビ則) 1 0 0 1 0 0 1 0 0

合計 54 3 46 5 0 0 54 0 1

2.3 設備区分の内訳

水素スタンドの事故の内訳を、設備区分で分類して表3に示す。

水素スタンドの事故(54 件)のうち、設備区分はディスペンサー(52%)が最も多く、圧縮機

(28%)、蓄圧器(13%)がこれに続く。

表 3 設備区分で分類した水素スタンドの高圧ガス事故の統計(平成 23 年~平成 28 年)

設備区分 件数 (%)

ディスペンサー(ホース、緊急離脱カプラ、遮断弁、充填ノズルを含む。) 28 52

圧縮機(クーラ、吸入・吐き出し部に係る継手等を含む。) 15 28

蓄圧器(蓄圧器付近の継手等を含む。) 7 13

その他継手 4 7

合計 54 100

2.4 漏えいの部位の内訳

水素スタンドの事故は、1次事象がすべて漏えいである。漏えいの内訳を、漏えいの部位で

分類して表4に示す。

水素スタンドの事故(54 件)のうち、締結部(63%)が最も多く、開閉部(22%)、可動シール部

(6%)、母材(ホース)(4%)がこれに続く。

また、漏えい部位の事故原因の内訳を表 5 に示す。

漏えい部位の事故原因のうち、締結部の締結管理不良(31%)が最も多く、開閉部のシール

管理不良(14%)、締結部のシール管理不良(9%)がこれに続く。

表 4 漏えいの部位で分類した水素スタンドの事故の統計(平成 23 年~平成 28 年)

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漏えいの部位 件数 (%)

締結部 34 63

開閉部 12 22

可動シール部 3 5

母材(ホース) 2 4

母材(蓄圧器) 1 2

その他 2 4

合計 54 100

表 5 漏えい部位の事故原因(平成 23 年~平成 28 年)

漏えい

部位内訳

事故原因

締結管理

不良

(%)

シール管理

不良

(%)

検査管理

不良

(%)

製作

不良

(%)

操 作 基

準 等 の

不備

(%)

誤操作、

誤判断

(%)

設計

不良

(%)

施工

管理不良

(%)

点検

不良

(%)

その他

(%)

締結部 17(31) 5(9) 1(2) 2(4) 1(2) 0 4(7) 3(5) 0 1(2) 34

可動シール部 1(2) 1(2) 0 0 0 0 0 0 0 1(2) 3

開閉部 2(4) 8(14) 0 0 0 2(4) 0 0 0 0 12

母材(ホース) 0 0 0 0 0 0 1(2) 0 0 1(2) 2

母材(蓄圧器) 0 0 0 0 0 0 0 1(2) 0 0 1

その他 0 1(2) 0 0 0 0 0 0 1(2) 0 2

合計(%) 20(37) 15(27) 1(2) 2(4) 1(2) 2(4) 5(9) 4(7) 1(2) 3(6) 54

2.5 燃料電池車保有台数と水素スタンドの事故件数

平成 23 年から平成 28 年の 6 年間について、燃料電池車保有台数の推移を表 6 に示す。

燃料電池車については、平成26年12 月15日にトヨタ自動車から燃料電池車ミライが世界で

初めて一般販売された。表 6 より平成 26 年度から、燃料電池車の全国の保有台数が急激に増

えていることがわかる。

平成25 年度末(平成26 年3 月31 日)現在の燃料電池車の保有台数が 47 台であったのに対

して、平成 28 年度末(平成 29 年 3 月 31 日)現在では 1181 台と約 25.1 倍の台数に増加してい

る。表 1 を参照して、水素スタンド設置数も平成 26 年の 22 スタンドから、平成 27 年度は 50 ス

タンドで 2 倍、平成 28 年は 116 スタンドで 5 倍に増加している。

事故件数については、表 1 を参照して平成 25 年が 6 件に対して平成 28 年が 26 件と、約 4.3

倍の件数の増加に留まっている。したがって、事故件数の増大は、燃料電池車の保有台数の

増大ではなく、水素スタンド設置数の増大に起因している。

23

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表 6 6 年間の燃料電池車保有台数の統計

平成23 年度 平成24 年度 平成25 年度 平成26 年度 平成27 年度 平成28 年度

※燃料電池自動車保

有台数(累積数) 48 45 47 155 633 1181

※出典:九州運輸局ホームページ

2.6 平成 28 年の水素スタンドの事故概要

平成 28 年の 26 件の事故について、概要を表 7 にまとめた。

漏えいの部位については、締結部が 16 件で最も多く、開閉部が 10 件でこれに続く。これら

の二つの部位で 26 件となり、漏えい部位の 100%を占める。

設備区分としては、継手が 13 件で最も多く、遮断弁が 9 件とこれに続く。また、水素スタンド

で使用される継手の大半は、ねじ込み式継手である。

表 7 平成 28 年の水素スタンドの事故の概要

No 発生

都道府県名

事故発生

月日

噴出・漏えい

の部位 設備区分

事故原因

(主原因)

漏えい

検知作

動有無

漏えい程度

1 福岡県 1 月 13 日 開閉部 遮断弁 シール管理不良 有 微 量

2 東京都 1 月 4 日 開閉部 遮断弁 シール管理不良 有 不明

3 埼玉県 1 月 4 日 開閉部 遮断弁 シール管理不良 有 不明

4 愛知県 1 月 25 日 締結部 継手 シール管理不良 有 4m3

5 埼玉県 3 月 8 日 開閉部 安全弁 組織運営不良 不明 48m3

6 福岡県 4 月 15 日 締結部 継手 締結管理不良 有 微 量

7 愛知県 4 月 25 日 締結部 遮断弁 締結管理不良 有 0.4m3

8 京都府 5 月 6 日 締結部 継手 シール管理不良 有 4.5m3

9 愛知県 5 月 18 日 締結部 継手 締結管理不良 有 200~400ppm

10 福岡県 5 月 23 日 締結部 継手 締結管理不良 有 微 量

11 福岡県 6 月 1 日 締結部 遮断弁 シール管理不良 有 微 量

12 愛知県 6 月 8 日 締結部 継手 締結管理不良 有 0.01m3

13 佐賀県 6 月 10 日 締結部 継手 締結管理不良 有 微 量

14 愛知県 6 月 30 日 締結部 継手 締結管理不良 - 不明

15 愛知県 7 月 5 日 締結部 継手 誤操作、誤判断 - 不明

16 神奈川県 7 月 19 日 締結部 継手 締結管理不良 不明 微 量

17 愛知県 8 月 1 日 締結部 継手 締結管理不良 有 0.045m3

18 埼玉県 8 月 28 日 開閉部 減圧弁 シール管理不良 有 0.5kg

19 京都府 9 月 1 日 開閉部 遮断弁 シール管理不良 有 微 量

20 京都府 9 月 5 日 締結部 継手 シール管理不良 有 微 量

21 京都府 10 月 13 日 開閉部 遮断弁 シール管理不良 有 微 量

22 愛知県 11 月 2 日 開閉部 遮断弁 締結管理不良 有 0.01m3

23 三重県 11 月 29 日 締結部 継手 締結管理不良 有 0.005Nm3

24 大阪府 11 月 5 日 締結部 緊急離脱 シール管理不良 有 微 量

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Page 29: 高圧ガス保安対策事業 (事故調査解析) 高圧ガス …その中で、コンビ則適用事業所の事故件数は、冷凍側、一般則の事故件数と比較して最

カプラ

25 愛知県 11 月 21 日 開閉部 遮断弁 締結管理不良 有 不明

26 愛知県 11 月 30 日 開閉部 切換弁 締結管理不良 有 不明

2.7 抽出のまとめ

平成 23 年から平成 28 年までの 6 年間で発生した高圧ガス事故のうち、水素スタンドに係る

事故を抽出した。その結果を以下に示す。

➀ 水素スタンドの事故(54 件)のうち、漏えい事象が事故件数の 100%を占める。

➁ 設備区分はディスペンサー(52%)が最も多く、圧縮機(28%)、蓄圧器(13%)がこれに続

く。

➂ 漏えい部位の内訳では、締結部(63%)が最も多く、開閉部(22%)、可動シール部(6%)、

母材(ホース)(4%)がこれに続く。

④ 漏えい部位の事故原因のうち、締結部の締結管理不良(31%)が最も多く、開閉部のシ

ール管理不良(14%)、締結部のシール管理不良(9%)がこれに続く。

⑤ 事故件数の増大は、燃料電池車の保有台数の増大ではなく、水素スタンド設置数の増大

に起因している。

3.注意事項

(1)ディスペンサー及び圧縮機

この二つの設備の特徴としては、圧力変化と温度変化が激しいことである。特に、ディスペ

ンサーは、充塡と脱圧を繰り返すために、圧力が0~70(MPa)超で変動する。また、充塡に

際しては、プレクール設備を介して水素を充塡するために、温度も常温~-40(℃)の範囲の

変動を繰り返す。したがって、締結部も膨張収縮を繰り返し、締結力が低下しやすくなり、シ

ール性能の低下が想定される。水素スタンドにおいて、特に使用環境の厳しいディスペンサ

ー及び圧縮機の締結部は、使用開始時のみならず使用中にも、他の設備以上に特段の締

結管理とシール管理を行う必要がある。

(2)締結部と締結管理

締結部では、圧縮機の振動、パッキンと O リングの初期応力緩和、圧力変動、ディスペン

サーの温度変動などによって運転中に締結力の低下が想定される。このため、締結力の低

下を考慮して初期締結力を設定し、また運転中の締結力を確認することが重要である。

水素スタンドでは一般的に、ねじ込み式継手が比較的低圧で小口径の機器に使用され、

現場加工と作業が容易で、ボルトが不要で安価であることが、多く使用される要因であると考

えられる。

今後は、高圧環境での使用と、メンテナンスに配慮した継手の選定が必要となる。

(3)シール管理

水素スタンドにおいては、使用する流体が水素であるため分子の大きさが小さいこと、ま

た圧力が高いこと、ディスペンサー廻りについていえば、プレクールにより設備の温度変化

が激しいことを考慮すると、締結管理に加えてシール管理についても特段の注意が必要であ

る。

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