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港湾投資が港湾使用料に与える影響
海上コンテナ輸送を題材に
早野 元貴
佐藤 良磨
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目次
1 コンテナ輸送・港湾に関して
• コンテナ輸送に関して
• コンテナ港湾に関して
• 港湾投資 ー香港・上海を例にー
• まとめ
2 モデルによる考察
• モデルの概要
• 比較静学分析
• まとめ
• 課題点
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1 コンテナ輸送・港湾に関して
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コンテナ輸送に関してⅠ
世界の海上荷動量 2012年
1901
1445
(15.1%)
1109
1062
927
370 239
107
44
30
2329
原油
コンテナ
鉄鉱石
石炭
石油製品
穀物
LNG
ボーキサイト・アルミナ
LPG
燐鉱石
その他乾貨物
コンテナ輸送の利点
・水陸一貫輸送
(トラック・鉄道・船舶での輸送)
・国際規格で決められた大きさ
(世界中共通して扱える)
・さまざまなものを運べる
単位:百万MT
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海上荷動量に占めるコンテナの量は、
約15%(重量ベース)
コンテナ輸送に関してⅡ
世界のコンテナ港湾(2013)
中国の港湾が多数を占める
近年、中国でのコンテナ取扱量が大きく上昇
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順位 港 取扱量(1000TEU)
1 上海 33,617
2 シンガポール 32,240
3 深圳 23,278
4 香港 22,352
5 釜山 17,686
6 寧波 17,351
7 青島 15,520
8 広州 15,309
9 ドバイ 13,641
10 天津 13,010
0
20,000
40,000
60,000
80,000
100,000
120,000
140,000
160,000
180,000
200,000
10
00
TE
U
2013年時点 上位10カ国
China
USA
Singapore
Korea
Hong Kong
Japan
Malaysia
UAE
Germany
Taiwan
International Association of Ports and Harbors.
World Container Traffic Data 2014.
コンテナ港湾に関して コンテナターミナル レイアウト
コンテナターミナルの運営者
→ オペレーター
(運営の形態は民営・ 半官半民・公営など様々)
ターミナルの設備を使うには、
使用料がかかる。
コンテナの動き
船⇔船~岸壁の荷役⇔岸壁~ヤードの搬送⇔ヤード内の荷役⇔保管⇔ヤード内の荷役⇔トレーラー
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川崎汽船株式会社 「ターミナルオペレーションの紹介」
港湾投資の一例 上海
・長江増深化
近年増え続ける大型船に
対応するため、河口部に塀
を作り、長江の水深を人工的
に深くする。
・新しいコンテナターミナル
海上の橋
ロジスティックパーク
コンテナ輸送に特化した
ターミナルを海上に新設し、
中国本土にそれを繋ぐ
ロジスティックパークを複合
施設として作る。
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長江増深化計画
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上海の新しいコンテナターミナル
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上海港のサービス向上
•比較的低廉な料金設定
(国際トランシップ料金は相場の4割程度)
•前年の実績を上回った船社への優遇措置
•コンテナのヤード内保管が4日間無料
•積み卸し、搬出入は24時間可能
→港湾の規模を活かしたサービス
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港湾投資の一例 香港
過去10年目立ったコンテナターミナルの拡張などはない。
しかし、将来、需要に対してキャパシティが不足すると考えられている。そこで、以下のような対策や投資が提案されている。
・利用が集中し、混雑が発生しているターミナルに集まる貨物を比較的稼働率の低いターミナルに分散させる。そのために、稼働率が低いターミナルの設備を刷新する。
・河川輸送用のターミナルのうち、海上輸送用に対応できる部分は、海上輸送用としても利用する。
・コンテナの保管場所を拡張する。ターミナル間でコンテナを運ぶより効率的なルートへの改良。
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第1部まとめ
増大するコンテナ輸送の需要に対応するため、また、国際的な競争力を高めるために、コンテナ港湾への投資が行われている。その内容の例として、以上でみてきたように、キャパシティの拡張、港湾利用者の便益向上、効率的な設備の活用のための投資などがある。
後半では、これらの投資が港湾使用料に与える影響について、モデルを用いて考えていく。
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参照
一般社団法人日本船主協会 「海運統計要覧2014」
今井昭夫, 国際海上コンテナ輸送概論, 東海大学出版会, 2009
川崎汽船株式会社 「ターミナルオペレーションの紹介」
<https://www.kline.co.jp/service/terminal/operation.html>(2016.2.21取得)
BMT Asia Pacific, 2014. Study on Strategic Development Plan for Hong
Kong Port 2030 Executive Summary.
International Association of Ports and Harbors. World Container Traffic
Data 2014.
Marine Department The Government of the Hong Kong Special
Administrative Region. Port of Hong Kong in Figures 2015 Edition.
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2 モデルによる考察
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モデルによる考察
・知りたいことは、港湾投資が港湾使用料に与える影響
2種類の投資を考える
港湾利用者の便益となる投資(金融・通関サービスの充実など)
港湾オペレーターの便益となる投資
(設備の効率的利用で費用減少など)
・モデルの対象は香港・上海に限らず、より一般的な状況
価格競争する二つの港湾
・港湾投資と港湾使用料の関係に焦点を絞る
その他の要因(景気動向、規制政策等)は捨象
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モデルによる考察の手順
需要関数を求める
価格について港湾の利潤最大化
均衡価格を求める
比較静学分析
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需要関数を求めるためのイメージ
3つの種類の需要がある
輸出 輸入 トランシップ
↓
需要を2つに分類する
・競合する需要
使用料が安い港を使おうとする
・一定の競合しない需要
港湾使用料に関わらず使う港を決定
例:港の近くに立地する工場
(原料の輸入・製品の輸出をする
港が決まっている)
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競合する需要を求める1
d:港までの距離
t:単位当たり輸送費用
p:単位当たり港湾使用料
𝑘𝑢:港湾利用者の利益になる投資 (𝑘𝑢 > 1)
ln 𝑘𝑢:投資による利用者便益 (限界便益逓減)
港を使う費用=輸送費+港湾使用料-投資による利用者便益
= 𝑡 ∙ 𝑑 + 𝑝 − ln 𝑘𝑢
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競合する需要を求める2
d:港までの距離
t:単位当たり輸送費用
p:単位当たり港湾使用料
𝑘𝑢:需要者の利益になる投資 (𝑘𝑢 > 1) ln 𝑘𝑢:投資による需要者便益
n:需要密度
両港を使う費用が無差別な点𝑑 を境に、需要が分けられる
港への需要=競合しない需要(α)+点𝑑 で分けられた需要
両港の需要関数
𝐷1 𝑝1, 𝑝2 = 𝛼1 +𝑛
2+
𝑝2−ln 𝑘𝑢2−𝑝1+ln 𝑘𝑢1
2𝑡𝑛
𝐷2 𝑝1, 𝑝2 = 𝛼2 +𝑛
2+
𝑝1−ln 𝑘𝑢1−𝑝2+ln 𝑘𝑢2
2𝑡𝑛
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オペレーターの便益となる投資を考える
オペレーターの便益となる投資(𝑘𝑐)を増やす
↓
限界費用を 𝛽 𝑘𝑐 と表すと、
𝑘𝑐の増加は限界費用を減少させる。 (𝛽は定数、𝑘𝑐 > 0)
価格について利潤を最大化
max𝑝1
(𝑝1−𝛽1
𝑘𝑐1)𝐷1
max𝑝2
(𝑝2−𝛽2
𝑘𝑐2)𝐷2
均衡価格を求める
𝑝1∗ =
4𝑡𝛼1 + 2𝑡𝛼23𝑛
+ 𝑡 +ln 𝑘𝑢1 − ln 𝑘𝑢2
3+
2𝛽13𝑘𝑐1
+𝛽23𝑘𝑐2
𝑝2∗ =
2𝑡𝛼1 + 4𝑡𝛼23𝑛
+ 𝑡 +ln 𝑘𝑢2 − ln 𝑘𝑢1
3+
𝛽13𝑘𝑐1
+2𝛽23𝑘𝑐2
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比較静学分析 1
港1の港湾使用料に対する影響
変化するパラメータ 使用料変化の方向
解釈
単位当たり交通費の
増加 + 単位当たり交通費が高くなる → 需要者は近場の港を使わざるを得ない
→ 競争が実質的に起きなくなる → 港は市場支配力を背景に値上げ
利用者便益をもたらす
港2の投資の増加 - 投資により利用者の利便性が高まる → 競争相手の優位性が高まる
→ 港1は相対的に不利になる → 港1は値下げする
オペレーターの便益をもたらす
港2の投資の増加
- 投資により港2の使用料が下がる → 港1は相対的に不利になる
→ 港1は値下げする
競合する需要密度の
増加 - 競合する需要密度が増加する
→ 需要に占める競合する需要の割合が大きくなる
→ 港1は値下げすることで、より多くの需要を獲得しようとする
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比較静学分析 2
港2の港湾使用料に対する影響
投資の種類によって、使用料に与える影響が異なる
変化するパラメータ 使用料変化の方向
解釈
単位当たり交通費の
増加 + 単位当たり交通費が高くなる → 利用者は近場の港を使わざるを得ない
→ 競争が実質的に起きなくなる → 港は市場支配力を背景に値上げ
利用者便益をもたらす
港2の投資の増加 + 投資により利用者の利便性が高まる → 港2の優位性が高まる
→ 港1は相対的に不利になる → 港2は値上げする
オペレーターの便益をもたらす
港2の投資の増加
- 投資により港2の限界費用が下がる
→ 港2は値下げして、より多くの需要を獲得できる
競合する需要密度の
増加 - 競合する需要密度が増加する
→ 需要に占める競合する需要の割合が大きくなる
→ 港1は値下げすることで、より多くの需要を獲得しようとする
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まとめ
変化するパラメータ 港1使用料の変化
港2使用料の変化
コメント
単位当たり交通費の
増加 + +
交通費が下がれば、その分競争が激しくなり、値下げをもたらす
利用者便益をもたらす
港2の投資の増加 - + 利用者の利便性が増した港湾は値上げする
相対的に利用者の利便性が減った港は値下げする
オペレーターの便益をもたらす
港2の投資の増加
- - 一方の港の限界費用の減少は、もう一方の港の使用料も下げる
競合する需要密度の
増加 - - 競合する需要の増加は、その獲得のため、港に値下げをもたらす
単純に、「需要の増加→値上げ」ではない
両港の使用料の変化 まとめ
投資が便益をもたらす対象が異なれば、港湾使用料に対する影響も異なる。
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課題点
• モデルに反映されていないが、港湾利用者、オペレーターの便益を同時にもたらす投資も考えられる。
• 港湾使用料がコンテナ船ルートの選択(ターミナルへの需要)にどれほど影響をもたらすかは、さらに調べる必要あり
• 港湾使用料に影響するであろう他の要因が含まれていない
(航路が豊富、荷物が傷つきにくい、手続きが速いなど)
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参照
Czerny, A.I., Höffler, F., Mun, S., 2014. Hub port competition and
welfare effect of strategic privatization. Econ. Transport. 3 (3), 211–220.
Homosombat, W., Ng, A. K. Y. and Fu, X. 2015.
Regional Transformation and Port Cluster Competition: The Case of
the Pearl River Delta in South China. Growth and Change.
Veldman, S.J., Buckmann,E.H., 2003. A model on container port
competition: an application for the West European container hub-ports.
Marit.Econ.Logist.5, 3–22.
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