外国海技資格受有者に対する...

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外国海技資格受有者に対する 承認に関する調査報告書 平成 21 1 ()日本海事センター 海運問題研究会・船員問題委員会

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外国海技資格受有者に対する

承認に関する調査報告書

平成 21 年 1 月

(財)日本海事センター

海運問題研究会・船員問題委員会

- 2 -

PR14
長方形

<目次>

(財)日本海事センター 海運問題研究会・船員問題委員会委員名簿・・・・・・・・・4

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

1.主要海運国における承認制度 (1) 調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

(2) EU 及び EEA 諸国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

(3) 英国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

(4) フランス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

(5) ドイツ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

(6) オランダ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

(7) デンマーク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

(8) ノルウェー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

(9) 米国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45

2.我が国の承認船員配乗実態 (1) 国際船舶制度と承認外国人制度の誕生・・・・・・・・・・・・・・・・・・46

(2) 承認制度の簡素化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

(3) 二国間承認取極の拡大・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52

(4) 船長及び機関長に対する承認試験の拡大・・・・・・・・・・・・・・・・・53

(5) 船長・機関長の承認試験に伴うその他の資格付与講習・・・・・・・・・・・ 55

(6) 無線資格関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57

(7) 現行承認制度の全体像・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62

(8) 海運業界の要望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

(9) 「承認船員制度の在り方に関する検討会」・・・・・・・・・・・・・・・・68

3.世界の船員需給予測状況 (1) 船員需給の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

(2) 船員需給の将来予測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75

(3) フィリピン人船員の供給状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77

(4) まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79

4.総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80

- 3 -

(財)日本海事センター

海運問題研究会・船員問題委員会委員名簿

(2009 年 1 月現在)

(敬称略・順不同)

委員長 加 藤 俊 平 東京理科大学名誉教授

委 員 井 上 欣 三 神戸大学大学院海事科学研究科教授

〃 辻 本 泰 久 国際船員労務協会理事長

〃 吉 田 秀一郎 (社)日本船主協会海務部労政担当リーダー

〃 鶴 田 久美夫 (株)商船三井海上安全部部長代理

〃 猪野木 哲 二 日本郵船(株)船員戦略プロジェクトグループ

グループ長

〃 東海林 明 川崎汽船(株)海事人材グループグループ長

〃 丸 本 秀 一 新日本石油タンカー(株) 船舶管理本部

船員部長

〃 蝦 名 邦 晴 国土交通省海事局海事人材政策課長

〃 西 村 典 明 〃 運航労務課長

〃 楪 葉 伸 一 〃 海技課長

〃 石 塚 智 之 〃 総務課国際企画調整室長

<事務局> (財)日本海事センター 常務理事 齋藤芳夫

企画研究部長 重冨 徹

企画研究部企画課長 山上寛之

〃 特別研究員 中村秀之

〃 特別研究員 野村摂雄

- 4 -

はじめに

米国のサブプライムローン問題に端を発した金融不安及びその後の世界的な

景気停滞により、近年活況を呈していた国際海上輸送も、ここ 近は調整局面

に突入している。しかしながら、中国、インド、さらには中東、アフリカとい

った新興国経済の伸びしろや景気循環の理論を勘案すれば、数年単位での一時

的な輸送の伸びの停滞はあるにせよ、長期的には、再び国際輸送が活況を取り

戻すものと考えられる。1

したがって、世界の船腹量については、今後も長期的には拡大傾向が続くも

のと思われ、近年顕在化してきた船員(特に船舶職員)の不足問題についても、

引き続き主要海運国関係者の対応が求められることとなると考えられる。 我が国においては、今後、トン数標準税制の導入に伴い、外航日本籍船の増

加が見込まれており、更に多くの優秀な承認船員を確保していくことが必要と

なる見通しである。

このような状況に適切に対処し、優秀な承認船員を今後も安定的に確保する

ことを目的として、主要海運国における資格承認の実態及び承認船員の需給状

況等について調査を行った。

1 『定航海運の現状 2008』(㈱商船三井営業調査室、2008 年 11 月、pp.2~16)

- 5 -

1.主要海運国における承認制度

(1) 調査の概要

① 調査の内容及び調査方法 (a) 調査の内容 世界の主要海運国の外国海技資格の承認制度及びその実態について調査を行

った。本章はその結果である。 (b) 基礎情報の収集 各国政府当局のウェブサイトには、外国の海技資格を受有する船員や自国の

船社のために承認制度について説明するサイトがあり、それらを中心に情報を

収集した。また、各国の海技学校のウェブサイトには、承認の要件とされる法

令試験や法令講習についての説明があり、必要な情報を収集した。さらに、関

係法令については各国の司法省等が公開している各国国内法令のサイトからテ

キストを入手した場合もある。 (c) 質問状の作成・送付 ウェブサイト等から得た公開情報を基に中間報告を作成し、不足している情

報や、確認を要する事項を整理した。 この時点で、ウェブサイト上に情報がなく、US Coast Guard への問合せによっ

て承認制度がないとの回答を得た米国と、情報入手に時間がかかり、海運国と

しての注目度が相対的に低いフランスについては、ヒアリング調査の対象外と

した。 さらに、英国については、情報の公開が進み、ウェブサイト上の情報が充実

していたことからヒアリング調査の対象から外した。ただし、英国の当局に対

して E-Mail にてウェブサイト上の情報が 新のものであることを確認した。 なお、職業資格の相互承認が欧州連合(EU)の管轄であることから、関係す

る法規を調査した上で、必要に応じて関係当局である欧州委員会の運輸・エネ

ルギー総局担当者に問合せを行い、事実関係を確認した。 以上を踏まえ、ヒアリング調査については、オランダ、デンマーク、ノルウ

ェー及びドイツを対象とすることとし、事前質問状(別冊参考資料集参照)を

作成した。事前質問状は、まず、共通の質問状を作成した上で、これまでの調

査結果を国ごとに書き込み、国別質問票(別冊参考資料集参照)を作成した。 質問状の送付先については、ウェブサイト上の情報を基に特定した。また、

制度の運用状況等を確認するため、各国の船主協会においてもヒアリング調査

を行うこととした。

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(d) 海外ヒアリング調査の実施 ヒアリング調査対象国の当局の担当官にアポイントを取り、現地にてヒアリ

ング調査を行った。また、各国の船主協会の担当者にもアポイントを取り、現

地を訪問した際にヒアリング調査を行った。ヒアリング調査に当たっては、国

土交通省海事局海技課及び対象国の日本国大使館の支援を得た。 ③ ヒアリング調査対象国 ドイツ、オランダ、デンマーク及びノルウェー ④ 海外ヒアリング調査の概要 (a) 調査メンバー 【オランダ】 保坂 均 (社)日本船主協会欧州地区事務局 事務局長

中村 秀之 (財)日本海事センター・企画研究部 特別研究員 【ドイツ】 軸丸 真二 在ドイツ日本国大使館 一等書記官 西 敏英 在ハンブルク総領事館 領事

吉田 秀一郎 (社)日本船主協会海務部労政担当リーダー ウィリアム C. マクナイト(William C McKnight)

(社)日本船主協会欧州地区事務局 マネージャー 野村 摂雄 (財)日本海事センター・企画研究部 特別研究員 【デンマーク】 平野 誠治 在デンマーク日本国大使館 一等書記官

中澤 武 世界海事大学 教授 吉田 秀一郎 (社)日本船主協会海務部労政担当リーダー

ウィリアム C. マクナイト(William C McKnight) (社)日本船主協会欧州地区事務局 マネージャー

野村 摂雄 (財)日本海事センター・企画研究部 特別研究員 【ノルウェー】 山戸 勝義 在ノルウェー日本国大使館 一等書記官 (但し、ノルウェー船主協会のみ)

中澤 武 世界海事大学 教授 野村 摂雄 (財)日本海事センター・企画研究部 特別研究員

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(b) 訪問先及び訪問日程 2008 年 9 月 19 日 9:30-11:30 オランダ運輸・水利監督局船員資格文書課

Ms. H. Bosman-Koch (Unit Manager) Ms. Sandra Klein (Advisor)

15:00-16:40 オランダ船主協会(KVNR) マンニング及び訓練担当

Mr. Tjitso W. A. Westra 10 月 2 日 12:40-16:30 ノルウェー海事庁(NMD)

Mr. Per O Meek(Assistant Director) 3 日 10:00-11:30 ノルウェー船主協会(NSA)

Mr. Jonny Tollesfsen(Head of Section) Mr. Tom Tjomsland(Advisor)

6 日 15:20-16:00 デンマーク船主協会(DSA) Mr. Bertil Hohlmann (Head) Mr. Rene Piil Pedersen (General Manager)

16:45-18:00 デンマーク海事局(DMA) Mr. Andreas Nordseth (Deputy Director General) Mr. Hemming Hindborg (Head of Division)

8 日 10:10-13:00 ドイツ連邦海事水路庁(BSH) Mr. Artur Roth (Head of Certification of Mariners)

14:30-15:30 ドイツ船主協会(VDR) Ms. Alexandra Pohl

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(2) EU 及び EEA 諸国

職業資格の相互承認の問題については、一般にEUの管轄事項と考えられてお

り、船員の資格についても同様である。STCW条約(1978 年の船員の訓練及び

資格証明並びに当直の基準に関する国際条約、The International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers, 1978)の域内担保

法としては、2001/25/ECという指令(Directive)iがあり、当該指令は 2005 年に

2005/45/ECによって改正されている。他方で、職業資格の相互承認に関する指令

2005/36/ECが別途出されており、STCW条約の対象とならない船員資格について

は、この指令が適用される。 なお、これら指令は欧州経済領域協定(EEA)加盟国にも適用される。

① 2001/25/EC に定める承認手続(2005/45/EC により改正されたもの) (a) 第三国によって発給された船長、船舶職員又は無線通信士の免状を裏書に

よって承認を行おうとする国は、欧州委員会に対して当該第三国についての

認定の請求を行う。 (b) 欧州委員会は、欧州海事安全庁(European Maritime Safety Agency(EMSA))

の協力を得て、当該第三国が STCW 条約の要件をすべて満たしているか否か、

免状に関する不正行為を防止するための適切な措置がとられているか否か

を明らかにするため、当該第三国の訓練及び資格証明制度の評価を行う。 (c) 第三国の認定に関する決定は、請求のあった日から 3 か月以内に行われる。

欧州委員会が 3 か月以内に決定を行わない場合には、当該決定が行われるま

での間、認定請求国が一方的に認定を行うことができる。 (d) 加盟国は、次の 2 点を考慮した上で、欧州委員会によって認定された第三

国が発給する免状を承認することができる。 (ア) STCW条約に定める訓練及び資格証明のための制度に関し重要な変更が

生じたときは、迅速に通報することを関係締約国と合意していること。 (イ) 加盟国によって、管理レベル iiの職務に関する免状の承認を求める船員

が関連する当該加盟国海事法制について適切な知識を有していること

を確保するための措置が導入されていること。 (e) 認定された第三国によって発給され、欧州連合公報 C シリーズに掲載され

i 指令(Directive):欧州議会、理事会及び委員会が制定する法規の一つで、一般的な効力を有

し全ての点で拘束力を有する「規則」と異なり、達成されるべき結果については名宛国を拘束す

るが、達成するための方式及び手段については各国に委ねるという法規。「命令」とも訳される。 ii STCWコード A部I/1.2 では、管理レベルは、船長、一等航海士、機関長又は一等機関士が行

う業務であるとされている。

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た免状の承認は引き続き有効であり、これらの承認は、すべての加盟国によ

って利用することができる。 (f) 欧州委員会は、認定された第三国のリストを作成する。当該リストは欧州

連合公報 C シリーズに掲載される。 ② 留意事項

今回は、各国の船員承認制度の調査がメインであったため、欧州委員会及び

EMSA の制度に関して詳細な調査は行っていない。そのため、いくつか不明確

な点があり、今後の課題として残されている。 (a) 第三国によって発給された免状の承認を行おうとする国が当該第三国の認

定請求を行った場合、EMSA は、STCW 条約附属書規則 I/10 条 1.1 に定める点検

(inspection)等を通じて、第三国による STCW 条約の履行状況等の情報を収集

し、欧州委員会に提出する。欧州委員会は、認定請求国から提出された情報と

ともに、これら情報を考慮した上で、認定に関する決定を行うこととなってい

る。この規定からは、第三国に対する点検は、専ら EMSA によって行われてい

るのか、承認請求国の当局がこれに参加することができるのか、また、承認請

求国がEMSAとは別に点検を行うことができるのか等、承認請求国当局とEMSAとの関係が判然としない。なお、ノルウェー海事局からは、EMSA の点検に参

加することがあるとの情報を得ている。 (b) 欧州委員会が認定した第三国により発給された免状を承認する場合、

2001/25/EC(2005/45/EC により改正されたもの)第 18 条(d)の規定は、STCW 条

約に定める訓練及び資格証明のための制度に関し重要な変更が生じた際の迅速

な通報に関する取極を締結する過程にあることを考慮するよう求めている。こ

の規定は、欧州連合加盟国に対して、認定された第三国との間に個別に取極を

締結することを求めているように読めるが、実際の運用及び解釈が必ずしも明

確ではないため、確認する必要がある。

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(3) 英国

① 外国海技資格承認制度の概要 (a) 承認取極

(ア) 承認取極締結国:44 か国 オーストラリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、中国、クロアチア、チェコ、

デンマーク、エストニア、フェロー諸島、フィンランド、フランス、ドイツ、

ギリシャ、アイスランド、インド、イラン、アイルランド、イタリア、ジャマ

イカ、韓国、ラトヴィア、リトアニア、マレーシア、マルタ、ミャンマー、オ

ランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パキスタン、フィリピン、ポーラン

ド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、セルビア・モンテネグロiii、シンガポ

ール、スロヴェニア、南アフリカ、スペイン、スリランカ、スウェーデン、ウ

クライナ、米国

(イ) 承認取極締結のための手続 海事沿岸警備庁(Maritime and Coastguard Agency (MCA))のウェブサイトで

得られる情報は、海技免状を受有する個人が承認を得るための手続に関するも

のに限られているため、本調査では承認取極を結ぶ際の基準等についての情報

は得られていない。なお、MCA 問合せ窓口からの情報によれば、取極を結ぶ

当局は MCA であり、相手国の調査を行うのも MCA である。

(b) 承認当局:Maritime and Coastguard Agency (MCA)

(c) 承認の要件 (ア) 一般的な承認要件

・ STCW95 に基づく海技免状を有していること ・ 身体適性(Medical Fitness) ・ 英語能力 ・ 英国海事法令の知識(管理水準のみ)

(イ) 特別な承認要件

・ 英国海事法令の知識( UKLAP ( Knowledge of UK Legal and Administrative Processes)試験の合格)

iii 2006 年、モンテネグロがセルビアから独立したが、ここではウェブサイト上の記述どおり、

セルビア・モンテネグロと記載し、1 国としてカウントした。

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(d) 当局への提出書類 ・ 申請書 ・ パスポート用の写真 ・ 国籍証明書(パスポート又は船員手帳) ・ STCW95 に基づく有効な海技免状(原本又は弁護士、公証人、発行当局若

しくは MCA 職員が証明したコピー) ・ GMDSSivの免状(航海士のみ。) ・ 英語能力証明書 ・ 必要な場合には、申請書類受領証の申請書 ・ 76 ポンド(支払いカードの情報)

(e) 申請手続き

申請書類提出

発行当局に対して海

技免状の確認を要請

承認証の発行書類に不備がなければ、申請書類受領証を受け

取ることができる。同証により 3か月乗船可能。

受領証を申請した場

申請書類及び

支払いの確認

受領証が出されていればその有効期限内、そうでなければ 28 日以内を目標

図 1.1 承認申請手続きの流れ

なお、船長の場合は、申請後、UKLAP の試験を受ける。その合格証を船社が

当局に提出する必要がある。 ② 外国海技資格承認の要件 (a) 承認試験 存在しない。 (b) 法令講習・試験

(ア) 法令講習 法令試験に合格するための講習が提供されているとの情報はない。

iv GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)

海上における遭難および安全の世界的制度で、SOLAS 条約に基づく人工衛星を利用した海上安全

通信システム。船舶が航海中、いつでも陸上の救助機関や付近を航行する船舶と、船舶の安全に

関する通信を確実に行えるようにしている。1999 年 2 月 1日を以って完全導入された。

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(イ) 法令試験 (i) 船長:UKLAP(Knowledge of UK Legal and Administrative Processes)

試験に合格すること。ただし、EU/EEA 諸国の国民である船長の場合

には、MCA によって決められた適応期間(通常 2 か月から 6 か月で、

長 36 か月。)に UK 籍船において下位の職務に従事し、船長によ

って UKLAP 相当の知識を保有していると判断されれば、船社から

MCA に所定の評価書が提出され、その確認を得て、船長の資格の承

認を受けることができる。 (ii) その他の管理水準職員(一等航海士、機関長及び一等機関士):申請

者の英国海事法令の知識については、船社が責任を負うことになっ

た。書類の提出は必要なく、申請者の能力をチェックし、記録した

書類を船舶に備えておけばよい。EU/EEA 諸国の職員についても同様。

EU/EEA の申請

申請 合格証が船社に届く

Scottish Qualifications Authority に連絡

MCA Marine Office に試験日を予約

船長資格承認希望者

適応期間(6 ヶ月以内)下位の業務に従事し、全ての条件をクリアする。エ英国籍船において船長がチェック

British Council(世界中にある)で試験(筆記)を受ける

MCA が書類を確認

試験

(口答)

船社から証 書 をMCA に提出

MCA Notice of Assessment の発行

通常の申請手続へ

図 1.2 承認試験全体の流れ

(ii

d Law Self-Examiner for Deck Officers,” (Kelvin Hughes)は持ち込み可。

(iv)

試験内容:

演習及び訓練、英国船における衛生と安全に関する規定

i) 試験の方法 MCA Marine Office での試験は口答試験、British Council での試験は筆

記試験。Malcolm Maclachlan, “Shipmasters Business Companion,” (The Nautical Institute) 及 び Malcolm Maclachlan, “Business an

試験の内容(Marine Guidance Note 221 (M) Annex 6 より) 証書の有効期間、MCA の役割と機能、英国登録証書、海

外での支援(領事の役割)、携行すべき免状、航海日誌、

乗員契約、船員の残留、船上での死亡、船長の役割、召集・

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Guidance

、乗員契約違反に関する賃金の

関連法規:

に関する規則、若年者

関連文書:

基準規則、安全な配

乗、労働時間及び当直に関する規則

(c) (ア)

(イ) 以下の国の医

カ、

スペイン、スリランカ、スウェーデン及びウクライナ (計 40 か国)

(d)認定されていない国の出身者は以下の

・ 験の結果として得られた海技資格免状を保有

・ による英語力確

and Information:商船通達(居住設備と検査、Port State Control、召集・演習及び訓練、MS&FV(業務中の衛生と

安全)規則、若年者の雇用、乗員リストの管理、事故報告

及び調査、船員手帳の発行

減額、乗員契約の承認) 商船法 1995、航海日誌規則、船員文書規則、本国送還規

則、生死報告規則、乗員契約、乗員リスト及び船員の下船

に関する規則、職務中の衛生と安全

の雇用の衛生と安全に関する規則 訓練及び免状に関する Marine Guidance Note、訓練及び免

状規則、安全な情報伝達に関する 低

身体適性(Medical Fitness)

書類の提出は特に求めていないが、英国籍の船舶に乗船する船員は診断

書を携行することを義務付けられている旨、注意喚起がなされている。 診断書は、MCA の承認を受けた医療機関が発行するが、

機関が出した診断書は受理されることになっている。 オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、クロアチア、

キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイ

ツ、ギリシャ、香港、ハンガリー、アイスランド、インド、イタリア、ジャマ

イカ、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、モーリシャス、オ

ランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガ

ル、アイルランド、ルーマニア、スロヴァキア、スロヴェニア、南アフリ

その他の要件 MCA によって英語が母国語であると

ずれかの要件を満たす必要がある。

(参考)【英語が母国語と認定される国】

カナダ、インド、イラン、アイルランド、ジャマイカ、マレーシア、マルタ、ニュー

ジーランド、シンガポール、南アフリカ、スリランカ

英語で行われた試

していること。 乗船中又は MCA オフィスにおいて MCA 検査員

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認テストに合格していること。(費用:£94) British Council によって出される上級英語証明書を保有し・ ている

・ に British Council で行う MCA 英語語学試験

(TOSE)も行っており、この試験も

− 機関職員 80%以上、下級機関職員 70%以上の成績

すれば、当該

申請者は TOSE テストを受ける必要はない。)

(a)

ーランド、ポルトガル、ロシア、シンガポール、スペイン、

スウェーデン

れる国 【

e Safety Authority

か、IELTS スコアがすべてについて 6 以上であること。 ・ TOEFL のスコアが、米国の大学入学レベルであること。

・ Berlitz語学学校のレベル 2 以上であることの証明書v。 SQA が MCA のため

に合格すること。 Marlins テスト(ポーランド、クロアチア、ウクライナ、フィリ

ピン、インド、ラトビア、ロシア、スペインにテストセンターが

ある。)で以下の成績を収めていること(Marlins Test Centre の多

くは、Test of Spoken English受けなければならない。)

Marlins テストは、上級甲板職員 90%以上、下級甲板職員 80%以上、上級

が必要。 TOSE テストは、上級甲板職員 upper intermediate、下級甲板職

員 intermediate、上級機関職員 intermediate、下級機関職員 lower intermediate (MCA によって認定された船社が、interview を

行った上で申請者の英語のレベルが業務に支障がないレベル

であることを明らかにする書簡を MCA に提出

③ 通信士の資格(GMDSS 資格)

GMDSS が無条件に承認される国: ベルギー、ブルガリア、カナダ、中国、チェコ、デンマーク、フィンランド、

フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、インド、アイルランド、ジャ

マイカ、マレーシア、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、

フィリピン、ポ

(b) 条件付きで承認さ

発行機関を限定】 ・オーストラリア:Australian Maritim

v ウェブサイト上ではBerlitzの証明書によって英語能力を証明できることとなっているが、

Marine Guidance Note 221(M)や、Marine Information Note 242(M+F)では、Berlitzについて

のみ言及がない。

- 15 -

・ウクライナ:Sea Port of Odessa 【 の GMDSS トレーニング証書を要求】

【汽船の機関士の場合には、海上業務資格証明の提出が求められる】 クロアチア、ルーマニア、南アフリカ

(c)・フェロー諸島、イラン、イタリア、韓国、ミャンマー、パキスタン、セル

ビア・モンテネグロvi、スロヴェニア、スリランカ、米国

等 なし

(・ Minimum Standards of Safety

Regulations 2005

・ Marine Information Note 242 (M+F)

MCA からの

制度の特徴は、英語能力を問われる試験を受けなけ

免状の承認を行う国の選定基準や、

統計等についての情報は得られていない。

政府による裏書を伴った大学(college)で・エストニア、ラトビア、リトアニア

海技資格は承認されるが、無線通信士資格が承認されていない国:

④ その他 (a) 統計

b) 関連法規

Merchant Shipping (Training and Certification andCommunications) (Amendment)

・ Marine Guidance Note 221 (M)

⑤ 留意事項 英国については、ウェブサイト上にかなりの情報が公開されていたことから、

聞き取り調査を行わなかった。ただし、E-Mail にて MCA の問合せ窓口に照会し、

ウェブサイト上の情報が 新のものであることを確認した。なお、

E-Mail によれば、現行の制度も近々改正されるとのことである。 Marine Guidance Note 221(M)の制度は、Marine Information Note 242(M+F)によ

り大幅に簡素化され、法令試験の合格が求められるのは船長のみである。また、

EU/EEA 諸国出身の船長資格承認希望者には、適応期間を用いた試験免除措置が

とられている。英国の承認

ればならない点である。 聞き取り調査を行っていない関係で、その

vi 2006 年、モンテネグロがセルビアから独立したが、ここではウェブサイト上の記述どおり、

セルビア・モンテネグロとして記載した。

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⑥ 主な情報源 (a) Maritime and Coast Guard Agency ウェ

http://www.mcga.gov.uk/ [2008/10/03 閲覧]

(c) Marine Information Note 242 (M+F)

ブサイト

(b) Marine Guidance Note 221 (M)

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(4) フランス

フランスについては、ウェブサイトから承認当局の命令(Arrêté)と行政命

令(Décret)を入手したが、さらに詳細な情報は得られなかった。今回の調査

では、当初、フランスも聞き取り調査の対象とする考えもあったが、調査日程

等の都合から外すこととなった。以下は、これまで得られた公開情報を調べた

結果である(2008 年 10 月現在)。

① 外国海技資格承認制度の概要 (a) 承認取極

(ア) 承認取極締結国:22 か国 (IMO ウェブサイトより) ブルガリア、カナダ、香港、コート・ジボワール、クロアチア、ギリ

シャ、インド、インドネシア、マダガスカル、マレーシア、モロッコ、

ミャンマー、ニュージーランド、ノルウェー、フィリピン、ポーラン

ド、ルーマニア、セネガル、シンガポール、スロヴェニア、ウクライ

ナ、英国 (イ) 承認取極締結のための手続

不明 (b) 承認当局

La Direction des Affaires Maritimes, Ministère de l'Écologie, de l'Energie, du Développement durable et de l'Aménagement du territoire

(c) 承認要件等 (ア) 他の欧州連合加盟国当局が発行した又は承認協定を締結した第三国が

発行した運用レベル若しくは管理レベルの船舶職員又は無線オペレー

ターに係る免状を保有する者は、Décret の定める当局によって発行され

た承認証を条件として、フランス国旗を掲げる船舶においてその業務を

行うことができる。ただし、管理レベルの船舶職員は、その業務に関連

するフランス海事法制の適切な知識を有することを証明しなければな

らない。 (イ) 無線に関する資格以外は、緊急の場合には、承認証申請の日から 3 か月

間、証明書を携行することで、その業務を行うことができる。 (ウ) 一般的な承認要件 (エ) 特別な承認要件(船長等)

- 18 -

(d) 提出書類 不明

(e) 申請手続き 不明

② 外国海技資格承認の要件 不明

③ 通信士の資格 不明

④ その他 (a) 統計等

なし (b) 関連法規

(ア) Arrêté du 25 septembre 2007 relatif à la reconnaissance des titres de formation professionelle maritime délivrés par d’autres Etats membres de l’Union europeene ou des pays tiers pour le service à bord des navires de commerce et de plaisance armés avec un rôle d’équipage battant pavillon français

(イ) Décret no99-439 du 25 mai 1999 relatif à la délivrance des titres de formation professionnelle maritime et aux conditions d’exercise de fonctions à bord des navires de commerce et de pêche ainsi que des navires de plaisance armés avec un rôle d’équipage.

⑤ 留意事項

公開情報で入手できた情報は、行政命令までであったため制度の詳細は不

明。外国の海技資格の承認を必要とする国際船舶制度の導入が 2006 年である

ことから、承認制度自体が新しいものであると考えられる。

⑥ 情報源 Legifrance http://legifrance.gouv.fr/ [2008/08/05 閲覧] 設備・運輸・住宅・観光・海洋省ウェブサイト http//www.mer.equipement.gouv.fr/

[2008 年 5 月 29 日閲覧] 国際海事機関(IMO)ウェブサイト http://www.imo.org/

[2008 年 5 月 29 日閲覧]

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(5) ドイツ

① 外国海技資格承認制度の概要

(a) 承認取極 (i) 承認取極締結国:51 か国

EU26 か国(オーストリア、ベルギー、ブルガリア、キプロス、チェコ、デ

ンマーク、スペイン、エストニア、フィンランド、フランス、ギリシャ、

ハンガリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、ラトビア、ルクセン

ブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロ

バキア、スロヴェニア、スウェーデン、英国)、オーストラリア、カナダ、

中国、クロアチア、キューバ、エジプト、アイスランド、インド、マレー

シア、メキシコ、ミャンマー、ニュージーランド、ノルウェー、ペルー、

フィリピン、ロシア、セルビア、モンテネグロ、シンガポール、南アフリ

カ、スリランカ、スイス、トルコ、ウクライナ、米国 【BSH(Bundesamt für Seeschifffahrt und Hydrographie:ドイツ連邦海事水路庁)】

実際には、承認取極を締結していない国についても承認する場合がある

(後述)。

(ii) 承認取極締結のための手続 ・ ドイツ船主協会(VDR)の要望を受けて、当該国との承認取極を締結す

る手続きを開始する。 ・ EMSA の調査結果から、当該国の STCW 条約遵守状況を確認する。 ・ 承認取極の文書を当該国とやり取りし、取極を締結する。 【BSH】 ・ EMSA の調査結果を活用するのは、EU 指令に基づいてのことである。 ・ ドイツ政府は締結候補国に対し独自に現地調査を行ったことはない。

(iii) 今後の予定 【BSH】 特にない。

(iv) その他(締結の考え方など) 【BSH】 ・ VDR の要望がなければ承認取極を締結することはない。 ・ 承認取極の存在の有無に拘わらず、VDR の要望に応じて承認していく。こ

の場合、BSH の上位機関である運輸建築公共省の判断となる。

- 20 -

【VDR(Verband Deutscher Reeder:ドイツ船協)】 ・ BSH の対応はとてもいい。 ・ 承認取極未締結国であっても対応してくれる。

(b) 承認当局

・BSH(通信士の資格の承認を行う) ・The Waterways and Shipping Directorate(海技資格の承認を行う)

(c) 承認要件

(ア) 一般的な承認要件 (i) 原則として、承認取極締結国の海技免状であること。 (ii) 管理レベル以上は 1 日間の法令講習を修了していること。 (iii) 承認取極未締結国の海技免状保有者からの申請には、Waterways and

Shipping Directorate に照会し、場合によっては承認を行うこともある。

(イ) 特別な承認要件(船長等) (i) 9 日間の法令講習を修了していること(修了試験がある。)。 (ii) ドイツ語を話せること。

【BSH】 ・ドイツ語能力を要件としているものの、基準はない。かかる要件は組合の強

い要請で加えられたものであって、実際には、たいていの船長はドイツ語を満

足には話せない。 (d) 提出書類 (申請書以外はいずれも原本もしくはドイツ大使館等が認証した複写) ・申請書 ・海技免状 ・身分証明書若しくはパスポート ・写真 ・健康診断書(後述) ・申請費用払込完了書(通信士の資格について。費用:50EUR)

(e) 申請手続き

申請者の上記書類を船社が当局(BSH)へ提出する。

- 21 -

② 外国海技資格承認の要件 (a) 承認試験 存在しない。 (b) 法令講習・試験

(ア) 法令講習 ・ 管理水準以上は 1 日間の法令講習(費用:400EUR)を受けなければ

ならない。船上で受講することも可能である(同:300EUR)。 ・ 船長は 9 日間の法令講習(費用:3,000EUR)を受けなければならな

い(9 日目は口述試験)。 【BSH】 ・ 講習の内容は、船協と協力して決めている。 ・ もし現場で船長がトラブルに遭遇すれば、船社に相談することがで

きるので、法令をさほど厳密に習得している必要はないと考えてい

る。

(イ) 法令試験 ・ 法令試験は、法令講習の修了試験として存在する。 ・ 船長については、講習の 後の日(9 日目)に、ドイツ語によるプレ

ゼンテーション(15 分間)が課せられている。 【BSH】 ・ 実際には、海事トピックについてドイツ語で作った原稿を読み上げ

るだけである。 (c) 身体適性 海上保険安全組合が発行した健康診断書を提出しなければならない。但し、EU

加盟国内の申請者は当該国内で 3 か月以内に発行された健康診断書、EU 外の申

請者は、海上保険安全組合が指定した海外医療機関が発行した健康診断書に代

えることができる。 【BSH】

・ 海上保険安全組合が指定している海外医療機関は、40 か国 59 か所(2008年 10 月現在)。

・ 今後は、上記以外の国についても船社からの要請に応じて指定医療機関

を増やしていくことを検討している。 【VDR】 ・指定医療機関が少なく、不便である。

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(d) その他 特になし。

③ 通信士の資格 ・STCW条約を満たすITU GOCviiを保有していれば、そのまま承認する。 【BSH】 ・ドイツでは、すべての航海士は ITU GOC を保持していなければならない。

④ その他 (a) 統計等

船長 1等 航海士

2・3等航海士

機関長1等

機関士2・3等 機関士

通信士 合計 エジプト 0 1 0 0 0 0 1 2ブルガリア 0 8 11 10 10 2 19 60デンマーク 0 0 0 2 0 0 1 3エストニア 0 2 1 3 1 1 0 8フィンランド 0 4 7 0 1 0 2 14グルジア 0 0 1 0 1 0 1 3英国 0 1 0 2 1 0 1 5クロアチア 0 7 9 3 4 0 19 42ラトビア 0 4 8 6 7 3 9 37リトアニア 0 8 8 5 4 6 16 47ミャンマー 0 1 9 0 0 12 13 35ニュージーランド 0 0 1 0 0 4 0 5オランダ 3 9 3 3 4 0 7 27フィリピン 0 23 240 5 50 141 284 743ポーランド 28 65 49 75 57 27 113 414ルーマニア 0 19 25 8 16 11 40 119ロシア 0 47 64 27 37 16 98 289セルビア 0 1 2 0 1 1 3 8スウェーデン 0 1 0 0 0 0 1 2スロヴェニア 1 0 0 0 0 0 1 2スペイン 0 0 0 0 0 0 1 1スリランカ 0 1 1 0 0 0 3 5トルコ 0 1 1 0 0 1 1 4ウクライナ 0 19 58 31 38 23 71 240ハンガリー 0 0 0 0 0 0 1 1キプロス 0 0 0 0 0 0 1 1合計 32 222 497 179 232 249 706 2117

表 1.1 2007 年の外国海技資格の承認実績

vii ITU(国際電気通信連合)の定める無線通信士の証明書の一種。船上におけるVHF無線通信、

GMDSSの操作を可能とする資格。詳細は第 2 章(6)参照。

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(b) 関連法規 ・ Ship Safety Act (Schiffssicherheitsverordnung (SchSV)) ・ The Ordinance for Training and Qualification of Masters and Officers of

Navigational and Engineering Service on Board (Verordnung über die Ausbildung und Befahigung von Kapitanen und Schiffsoffizieren des nautischen und technischen Schiffsdienstes (Schiffsoffizier-Ausbildungsverordnung – SchOffzAusbV)

・ Ships Manning Ordinance (Schiffsbesetzungsverordnung (SchBesV)) ・ Directive on the Recognition of Foreign Certificates of Competency for Service

on Board German-Flagged Vessels (Richtlinie über die Anerkennung ausländischer Befähigungszeugnisse für den Dienst auf Schiffen unter der Bundesflagge)

・ Gesetz über das Flaggenrecht der Seeshiffe und die Flaggenführung der Binnenshiffe

⑤ 留意事項 ドイツは、承認取極を締結していない国の海技資格を受有する船員からの承認

申請への対応や船長のドイツ語能力要件についての考え方に見られるように、

承認制度を柔軟に運用している。また、ドイツは、EMSA の調査結果について、

全面的にそれを利用し、独自の現地調査を行っていない。 ⑥ 情報源 (a) インタビュー

(ア) 2008 年 10 月 8 日 10:10-13:00 ドイツ連邦海事水路庁(BSH) Mr. Artur Roth (Head of Certification of Mariners)

(イ) 2008 年 10 月 8 日 14:30-15:30 ドイツ船主協会(VDR) Ms. Alexandra Pohl

(b) ウェブサイト (ア) BSH http://www.bsh.de/en/ [2008 年 8 月 5 日閲覧] (イ) Ein Service des Bundesministeriums der Justiz in Zusammenarbeit mit der juris

GmbH www.juris.de [2008 年 9 月 4 日閲覧] (ウ) Deutsche Gesellschaft für Transportre http://www.transportrecht.org/index1.htm

[2008 年 12 月 18 日閲覧]

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(6) オランダ

① 外国海技資格承認制度の概要 (a) 承認取極

(ア) 承認取極締結国:43 か国 EU/EEA 諸国(オーストリア、ベルギー、ブルガリア、キプロス、チェコ、

ドイツ、デンマーク、スペイン、エストニア、フィンランド、フランス、

ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、ラトビ

ア、ルクセンブルク、マルタ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、

スロバキア、スロヴェニア、スウェーデン、英国、アイスランド、リヒ

テンシュタイン、ノルウェー)、ベトナム、パキスタン、南アフリカ、香

港、シンガポール、フィリピン、カナダ、インド、ニュージーランド、

オーストラリア、クロアチア、インドネシア、ロシア、ウクライナ

(イ) 承認取極締結のための手続 どの国とどのように承認取極を結ぶかについては、運輸・公共事業・

水利省(Ministerie van Verkeer en Waterstaat)が管轄している。 【IVW(Inspectie Verkeer en Waterstaat:運輸・水利監督局)】

近の例としては、オーストラリアと承認取極が締結された。この取

極が締結されたのは、浚渫会社の要望を受けてのことである。要望を受

けて、先方の海技資格関連当局やトレーニングセンターを調査するか否

かは、事案ごとに異なる。オーストラリアの際は、英国が十分な情報を

有していたため、英国から得た情報だけで、独自調査を行わず、取極を

締結した。

(ウ) 今後の予定 【KVNR(Koninklijke Vereniging van Nederlandse Reders:オランダ船協)】

次に承認取極の対象となるのは米国であろうと思う。米国との承認取

極締結は Holland America が強く要望している。その次はトルコであろう

と思う。

(エ) その他 【IVW】 承認取極を締結する際に、申請している船員がどの学校、トレーニング

センターを卒業しているかを条件付けるということはしていない。海技免

状からは、どの学校を卒業したか、どのトレーニングセンターのどの課程

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を修了したかといった学歴や経歴の情報は把握できないため、そのような

取極を結ぶことはないだろう。 【KVNR】

EU 加盟国が承認を要請し、欧州委員会が承認した国については、オラン

ダが当該国により発給された免状を承認できるようになるので、対象国は

どんどん拡大していくと思われる。欧州委員会の決定に基づき承認がなさ

れた国については、EMSA が定期的に調査を実施している。 (b) 承認当局:運輸・水利監督局(Inspectie Verkeer en Waterstaat) (c) 承認要件

(ア) 一般的な承認要件 (i) STCW95 に基づく海技免状を有していること (ii) 身体適性(Medical Fitness) (iii) (船長、機関長及び一等航海士のみ)オランダ海事法令試験に合格す

ること (イ) 特別な承認要件 【IVW/KVNR】 (i) EU/EEA 諸国の資格であれば、特に追加的な要件は課されておらず、

他の資格と同じ手続で承認される。 (ii) EU/EEA以外の国で、取極を締結した国の船長資格の場合viii

・ 資格の承認の申請:船社が提出する ・ 船社と組合による特別委員会の設置 ・ 同委員会が、承認の必要性について判断 ・ 必要性が認められれば、承認証を発行

(d) 提出書類(電子コピーによる提出)

・ 申請書 ・ パスポート用の写真 ・ 船員健康診断書(Seafarer Medical Certificate) ・ 国籍証明書(パスポートの謄本) ・ STCW95 に基づく有効な海技免状(大使館又は総領事館において確認さ

れたコピー)

viii 但し、この手続自体は形骸化してきており、いずれ廃止されるであろうとのことであった。

- 26 -

・ GMDSS やオイル・タンカー等の他の免状(これらの承認を求める場合の

み。) ・ 船長、一等航海士、機関長又は一等機関士は法令試験合格の証書

(e) 申請手続き(申請書類の提出はすべてウェブサイト上で行う。)

図 1.3 承認申請手続の流れ

【IVW】

(審査の適切性の

み)第二次

(ア) 承認手続は、2006 年からデジタル化された。これにより透明性が確保され

たが、その分柔軟性を欠くことになった。この手続により、申請書類の提

出から基本的に 10 業務日で承認証が発行される(郵送される。)。 (イ) 第 1 次審査で、書類上の不備等何らかの問題が見つかれば、アドバイスを

行うことにしている。これに対する回答は 28 日以内に行わなければならな

い。回答がなければ、申請自体が無効となる。何らかの要件(船型要件や

航行区域等の要件)が欠けていれば、ワンランク下の海技免状として承認

したり、追加の講習を受けるよう要請したりすることもある。 (ウ) 英語の能力については船社が責任を負い、必要であれば、船社が申請者の

英語能力を保証する書類を提出するよう求められる。 (エ) 手続がデジタル化されたことから、すべての書類はデジタルコピーで提出

することが可能となった。IVW によれば原本を提出されたとしても当該書

類が本物であるかどうかをチェックすることはできないため、デジタルコ

ピーで新たな問題は発生しないとのこと。 (オ) 手続書類に疑わしい点があれば、船社に乗組員リストを提出させ、確認を

行うことがある。 (カ) 手続費用は職員 95EUR、部員 65EUR となっている。

【KVNR】 現在の承認制度には非常に満足しており不満はない。たしかに、手続がデジ

タル化された当初は IT 上のトラブルが続き、承認証発行までに 2 か月以上かか

ったこともある。しかし、そのような問題も現在では解消された。

申請書類提出

手続費用

支払確認

審査

承認証の発行通知から 28 日以内に支払

えば審査を継続

未払いの場合通知 不備又は問題

アドバイス: 28 日以内に対応す

れば審査を継続

第一次審査

(内容の精査)

郵送

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② 外国海技資格承認の要件 (a) 承認試験

存在しない。 【KVNR】 たしかに STCW95 ができるまではそのような試験を行っていたが、

STCW95 が承認制度について規定したことから、条約の発効とともに廃止

された。 (b) 法令講習・試験

(ア) 法令講習 後述の法令試験を行っている学校は、法令講習も提供しているが、その

受講は義務ではなく、試験に合格するための勉強の機会を提供しているに

すぎない。 (イ) 法令試験

(i) 管理水準以上ixの海技資格については、オランダ海事法令についての

試験がある。 (ii) 試験提供者:教育省の管轄下にある公立学校

・ Scheepvaart en Transport College(ロッテルダム) ・ Nova College(ハーレム)

(iii) 試験のテキストはウェブサイトからダウンロードでき、独習できる

ようになっている。 (iv) 試験の方法 【IVW】 口答試験であったが、現在、ウェブサイト上で試験を受けられるよ

うにするプロジェクトが進行中である。 【KVNR】

・ Scheepvaart en Transport College はロッテルダムにあり、火曜日と

木曜日に口答試験の機会を提供している。これまでは、外国海技

資格を受有する船員は、ロッテルダム港に来た際にこの試験を受

け、合格すれば、自分の資格の承認を申請できるという状況であ

ix オランダでは、STCWコードに定める管理水準(Management Level)から一等機関士を除いて

海事法令の知識を確保する措置を講じている。IVWによれば、これはオランダの議会の見解を反

映したもので、オランダでは船舶に実際に配乗されている機関士の数が少なく、機関長以外の機

関士が部下(部員等)を持つ機会も少ないことから、一等機関士にはオランダ法令の知識は必要

ないとの判断があったとのことである。

- 28 -

った。 ・ 近では、同 College がコンピューターによる試験を導入し、い

つでも試験を受けられるようになった。受験者は、口答試験でも

コンピューター試験でもどちらでも選択できる。 ・ 同 College がこのコンピューター試験を開発した。 ・ 受験料は約 300EUR。 ・ コンピューター試験をインターネットを通じて受けられるよう

にする計画が進行中で、現在はマニラであれば、この試験を、イ

ンターネットを通じて受けることができる。 ・ 受験料 300EUR に加えて、在フィリピンオランダ大使館に

200EUR を支払う必要がある(ただし、承認手続の費用は通常全

額船社が支払っており、申請者個人の負担になることはないとの

こと。)。 ・ インターネットによるコンピューター試験は、ジャマイカ、サン

クト・ペテルスブルク、オデッサ等に順次拡大していく予定。

(v) 試験の内容(Nova College のウェブサイトから入手) ・ 教材はウェブページからダウンロードする(すくなくとも 5 日間

は勉強するようアドバイスされている。)。 ・ 試験の申請は試験が行われる一週間前に提出する。 ・ 試験は、申請があれば毎週行われる。 ・ 試験時間は 60 分で、2 人の試験官が口頭で行う。言語は英語。

受験料は 390EUR。 ・ 試験は、英会話及び英語の読解能力とオランダ法(成文法の概要)

の知識及び理解を問うもの。 ・ 試験に合格する準備のためのコースとして、Maritime Legislation

and Public Authority のコースがある。コースは、2 日間の講習と 4日間の自宅学習からなる。(試験の代替とはならない。費用:

772EUR。) ・ Nova College の教材(約 65 頁)に含まれる内容(ウェブサイト

にてダウンロードできる。)機関長は学習項目の範囲が一部限定

されている。 関係当局及び政府の概要、憲法、船舶登録証明法、商法第 2巻(船舶・船員)、商船マンニング法・商船及び帆船のマンニ

ング命令、民法第 7 巻(労働契約)・民法第 8 巻(海上運送契

約、旅客船契約、事故、衝突、海難救助)、商法第 2 巻(損害)、

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民法第 8 巻(責任制限)、船舶法・船舶令(2004/1965)、STCW条約、ISM Code、労働条件法・労働条件令・労働時間令、海

運布告(NR 213/87) 騒音、民法第 4 巻 遺言・民法第 1 巻、

出生及び死亡証明、死体処置法・死体処置令、刑法、MARPOL 73/78、船舶起因汚染防止法・船舶起因汚染防止令、国際海上

戦争法(海上法ノ要義ヲ確定スル宣言(パリ宣言))、国内海上

戦争法、テロ及び妨害行為に関する船主、船舶運航者及び船

長のための指針 (c) 身体適性 【KVNR】

各国に認定を受けた船員医療機関があり、これらの機関によって出された診

断書を出す必要がある。 (d) その他

特になし ③ 通信士の資格 (a) GMDSS 資格の承認 取極締結国及び EU/EEA 諸国から GMDSS の証書が提出されれば、海技免状

と同様に承認する。なお、オランダの海技免状は、GMDSS の資格を包含したも

のになっている。同様の免状の場合には、海技免状と同時に GMDSS の資格も

承認されるが、海技免状と GMDSS の資格の証書が分かれている場合には、

GMDSS の資格の証書を海技免状と一緒に提出すればよい。 EU/EEA 諸国でなく、取極も締結していない国の資格については、Telecom

Agency に送られ、承認できるかどうか審査に付されるが、この手続にはかなり

の時間がかかる。 (b) ITU GOC との関係 【KVNR】 無線通信士の資格は、過去、ITU の資格と STCW の資格と別々に存在し、所

管官庁が異なる状況であった。しかし、オランダ籍船を増やすという努力の一

環として、STCW95 が発効する頃から努力を続け、現在では 1 つの資格に統合

されている。オランダの船舶職員の海技免状の資格には、GMDSS の資格が含ま

れている。したがって、同様の国については、海技免状の資格と同時に GMDSSの資格を承認している。

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④ その他 (a) 統計等 【IVW/KVNR】 国別等の詳細な統計はとっていない。

Recognition of 2003 2004 2005 2006 2007 2008 < 30JuneCoC deck officers

total 1432 1617 1670 1995 4628 1438 表 1.2 航海士の承認の状況

申請者のうち 99 パーセントは承認され、承認を拒否されるのは 1 パーセント

程度である。 catagory 2003 2004 2005 2006 2007 2008

< 30-6CoC deck officers master 641 838 786 767 1928 5271st Officer 56 92 99 1092nd Officer 512 685 657 5983nd Officer (watch) 908 1056 1114 1140 580 354chief mate 1157 1477 1411 1287 1050 467Rating 599 650 523 517 285 150

CoC engineering officerschief engineer 475 581 652 707 1297 379officer in charge 517 3262nd engineer 1412 1790 1810 2439 2342 3453rd engineer (watch) 586 709 652 918Rating 1 57 22

total 6346 7878 7704 8483 8056 2570 表 1.3x オランダにおける海技免状の発給状況

(b) 関連法規 Zeevaartbemanningswet (Dutch Manning Act)

⑤ 留意事項 IVW 及び KVNR ともに、承認制度は相互信頼の上に成り立つものであるとの

認識を有している。IVW の担当者によれば、申請された海技免状は原則的に承

認することになっているとのことであった(実際、申請者の 99 パーセントが何

らかの形で承認されている。)。また、オランダの問題意識は、もはや承認手続

そのものにあるのではなく不正行為をいかにチェックするかにあるとのことで

あった。

x 航海士と機関士の両方の資格を持っている場合、免状の数は 2 件としてカウントしている。ま

た、 も高位の資格のみを記載している。

- 31 -

また、船員の雇用は基本的に船社の責任で行われるのであり、良質の船員の

確保は船社の努力によってなされるというのが IVW 担当者の認識であった。す

なわち、安全運航の確保については第一義的には船社の問題であり、ISM Codeの遵守等は船社が行うべきものであるとのことである。IVW 担当者によれば、

政府は PSC や旗国検査を通じて安全運航の確保を追及するものの、それは海技

免状の承認制度とは別のところで担保されるべき問題であるとのことである。 ⑥ 情報源xi

(a) 運輸・水利監督局ウェブサイト www.ivw.nl [2008/05/29 閲覧] (b) Nova College ウェブサイト www.novacollege.nl [2008/08/21 閲覧] (c) インタビュー

(ア) 1. 2008 年 9 月 19 日 9:30-11:30 運輸・水利監督局船員資格文書課 Ms. H. Bosman-Koch 部長 Ms. Sandra Klein アドバイザー

(イ) 2. 2008 年 9 月 19 日 15:00-16:40 オランダ船主協会(KVNR) マンニング及び訓練担当

Mr. Tjitso W. A. Westra

xi 必要に応じて、情報ソースを明記した(【IVW】、【KVNR】又はウェブサイト)

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(7) デンマーク

① 外国海技資格承認制度の概要 (i) 承認取極

(ア) 承認取極締結国:39 か国 ブルガリア及びスロヴェニアを除く EU24 か国(オーストリア、ベルギー、

キプロス、チェコ、ドイツ、スペイン、エストニア、フィンランド、フ

ランス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、

ラトビア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガ

ル、ルーマニア、スロバキア、スウェーデン、英国)、アルゼンチン、オ

ーストラリア、ブラジル、カナダ、クロアチア、エジプト、アイスラン

ド、インド、ニュージーランド、ノルウェー、フィリピン、ロシア、シ

ンガポール、ウクライナ、米国

(イ) 承認取極締結のための手続 ・ デンマーク船協(DSA)の要望を受けて、承認取極の検討を開始す

る。 ・ 当該国が STCW 条約上のホワイトリスト掲載国であるかを確認する。 ・ 当該国がデンマークと当該承認取極を締結する意思を有するか、確

認する。 ・ 現地調査は、これまでに十分な情報が得られていない場合のみ実施

する。また、EMSA の調査結果も活用する。

(ウ) 今後の予定 【DMA(Danish Maritime Authority:デンマーク海事局)】 ・ オーストラリアとの締結を終えたところである。 ・ ウクライナ、中国との締結に向けて活動している。 【DSA(Danish Shipowners’ Association:デンマーク船協)】 ・ ウクライナ、中国との承認取極締結の要望を出したところである。 ・ それ以外は、新たな国の承認取極を要望する予定はない。

(エ) その他

【DMA】 ・ 自ら現地調査を行う場合には、設備面よりも教育システムに焦点を当

てる。すなわちシミュレーターなどの設備ではなく、試験問題及び合

格率を見る。

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・ 試験問題はそこでの教育内容を反映するものであるし、合格率が

100%では信用できない(85%程度が妥当)との認識に基づく ・ 当該国の教育システム及び海技免状の内容に応じ、承認取極の内容

(承認試験の有無、海域限定の有無)を決定する。

(ii) 承認当局:デンマーク海事局(Danish Maritime Authority) (iii) 承認要件

(ア) 一般的な承認要件 ・ デンマークが承認取極を締結している国の海技免状であること。 ・ 必要書類が整っていること。 ・ 承認取極によって試験等が必要とされている場合には、当該試験等をパ

スしていること。 ・ 身体検査をパスしていること(後述)。 (イ) 特別な承認要件 船長は、管理水準以上に課せられる研修(3 日間)に加え、法令講習(2

日間)が課せられる。 【DMA】

従来、船長は EU 市民に限られていたが、今では EU 外にも門戸を開放

した。これは、Torm 社が他国船社を買収し、インド人船長を多く抱えた

ことをきっかけとしている。現在、同社に加え Herning 社も EU 外出身の

承認船長を有するに至っている。 (iv) 提出書類

・ 海技免状 ・ 身体検査を受けていない場合、発行後 2 年以内の「船員・漁師のための

健康証明書」 ・ EU 域外の申請者は、デンマーク船社との雇用契約(予定)書 ・ 写真

(v) 申請手続き

・ 申請者が必要書類を整え、雇用契約を結んでいるデンマーク船社に提出。 ・ デンマーク船社が必要書類を加えて、申請書類を DMA に提出。 ・ 申請費用:250USD(船社負担)

【DMA】 ・ 申請受理から交付までの所要時間は申請国にもよるが、通常 2 週間であ

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る。 【DSA】

・ 今のところ問題はない。ただ、所要時間が長いと感じる。 ・ 手続きのオンライン化は、どのようにシステムを構築するかが問題であ

る。 ② 外国海技資格承認の要件 (a) 承認試験

(ア) 承認試験 (i) 承認試験として、口述試験(Operational Test)を受けなければならな

い。 (ii) 口述試験は、試験官 2 名、45 分間、受験費用xiiは 500DKK(約 8,000

円;1DKK=16.1 円で換算、船社負担)。 (iii) 試験官は、DMA の人間若しくは DMA が認証した船員教育機関の講

師、船長若しくは機関長が担当する。 (iv) 当該試験は DMA が認証した教育機関が実施することも可能であり、

この場合、受験費用(500DKK)は免除される。 (v) 当該試験は、船社の要望に応じた時期・場所で実施する。 (vi) 当該試験においては、シミュレーターなどを使用することもある。

(イ) 承認試験の免除

(i) EU、ノルウェー、アイスランド、ロシアxiii、フィリピンxiv、シンガ

ポールなどの海技免状取得者は承認試験を免除される。 (ii) また、上記以外の海技免状取得者についても、1か月間定員外で乗

船し、船長・機関長若しくは船社による能力証明書を得た場合は免除

される。ただし、船長・機関長及び船社が自ら当該船員を査定するこ

とを好まないため、DMA の予想に反し、この制度はあまり利用され

ていない。 【DMA】

・ 口述試験に先立って、Seagull 社が開発したコンピューターテストを

行い、その結果を見ながら面接を行う場合もある。但し、当該コン

ピューターテストの結果は合否には関係しない。

xii 受験費用は、認証教育機関が講習(後述)の一環として当該試験を行う場合には免除される。 xiii ロシアの海技免除取得者についての免除は、Novorossisk、St. Petersburg、Vladiovstokの3 校の卒業生に限られる。 xiv フィリピン海技免状取得者についての免除は、MAAP, john B. Lacson, University of Cebu, PMMAの 4 校の卒業生に限られる。

- 35 -

・ 口述試験は 45 分間を設けているが、正味 15 分ほどである。受験者

の能力を把握するにはそれで十分である。 ・ フィリピンにおける口述試験は、Synergy Training & Service が担当

している。 ・ 試験免除の有無は DMA が現地調査の上、判断している。 ・ 口述試験の合格率は 92%程度である。妥当な数字と考えている。

国名 試験等

ブラジル 免除

カナダ 免除

クロアチア 試験

エジプト 試験

EU 諸国

ノルウェー

アイスランド

免除

フィリピン 原則は試験がある。但し、申請者が MAAP、John B. Lacson (Iloilo)、

University of Cebu、PMMA を卒業して、訓練船と認められたデンマ

ーク船社の船で実習した者は、試験を受ける必要はない。

フィリピンでの試験は Synergy Training & Services が実施している。

インド 免除

ロシア 原則は試験がある。但し、Novorossisk、St. Petersburg 又は

Vladivostok の Maritime Academy を卒業した場合は、試験を受ける

必要はない。

シンガポール 免除(シンガポールのエンジニア Class5 の免状のみ試験もしくは追加

勤務が課される。)

ウクライナ 試験

米国 試験

表 1.4 ウェブサイト上に公開されている承認試験免除に関する情報

(b) 法令講習・試験

(ア) 法令講習 (i) 管理水準以上の申請者は、職場安全講習(3 日間)を受講しなけれ

ばならない。その中には、関連する海事法制が含まれている。 (ii) 船長の申請者は、上記講習に加え、法令講習(2 日間)の受講が義

務づけられる。 (iii) 当該講習は DMA が認証した機関が行う。認証を受ければ、もちろ

- 36 -

ん船社が行うことも可能である。 【DMA】

・講習は講義形式ではなく、グループディスカッションが主である。 【DSA】

・認証機関が存在しない国の船員は、認証機関が存在する国へ出向かねば

ならず不便である。

(イ) 法令試験 法令試験は存在しない。法令講習についても、修了試験等は行っていな

い。 【DMA】

・講習を修了した旨、講習実施機関が証書を発行する。

(c) 身体適性 (ア) 申請書を提出する前に、DMA 指定医が行う身体検査(無料)をパスし

なければならない。 (イ) 20GT 以上の商船に乗船する者は 2 年ごとに当該身体検査を受けなけれ

ばならない。 (ウ) デンマーク船員・漁師健康証明書を有している場合には、当該検査は不

要。

(d) その他 特になし。

③ 通信士の資格

STCW を満たす ITU GOC の受有者であれば、そのまま承認する。 【DMA】

1989 年に国内法を改正し、独自の通信士の資格を廃止した。 ④ その他 (a) 統計等

Denmark EU26+EEA その他 合計航海士 2,175 207 407 2,789機関士 1,042 136 409 1,587

表 1.5 海技資格受有者及び承認者数

- 37 -

(b) 関連法規 Order on Recognition of Foreign Certificates for Service in Merchant Ships (Danish Maritime Authority Order No. 315 of 4 May 2005)

⑤ 留意事項 デンマークの当局者によれば、デンマークの承認試験と言える Operational Test

は正味 15 分程度であるが合格率は 90%強であり、オランダのようにフリーパス

ではないとのことであった。当局者の立場は、筆記試験を行わずとも、また、

短い時間であっても、実体的な審査は可能というものである。 なお、デンマークは、国内通信士資格の改正、自国船社の実状を踏まえての

船長国籍要件(EU 市民限定)の撤廃などを行っている。 ⑥ 主な情報源 (a) インタビュー

(ア) 2008 年 10 月 6 日 15:20-16:00 デンマーク船主協会(DSA) Mr. Bertil Hohlmann (Head) Mr. Rene Piil Pedersen (General Manager)

(イ) 2008 年 10 月 6 日 16:45-18:00 デンマーク海事局(DMA) Mr. Andreas Nordseth (Deputy Director General) Mr. Hemming Hindborg (Head of Division)

(b) ウェブサイト

デンマーク海事局 http://www.dma.dk/ [2008 年 5 月 29 日閲覧]

- 38 -

(8) ノルウェー

① 外国海技資格承認制度の概要 (a) 承認取極

(ア) 承認取極締結国:46 か国 全 EU 加盟国 27 か国(オーストリア、ベルギー、ブルガリア、キプロス、

チェコ、ドイツ、デンマーク、スペイン、エストニア、フィンランド、フ

ランス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、

ラトビア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、

ルーマニア、スロバキア、スロヴェニア、スウェーデン、英国)、アイスラ

ンド、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、クロア

チア、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、ペルー、

フィリピン、ロシア、セルビア、モンテネグロ、シンガポール、スリラン

カ、ウクライナ (イ) 承認取極締結のための手続

(i) ノルウェー船協(NSA)の要請 (ii) 相手国からの情報提供 相手国の情報提供を求める。かかる情報は、当該国の教育体制、海技免

状の付与手続き、海技免状の登録簿、STCW に対応した海事法制などであ

る。 (iii) 現地調査 現地調査は、独自で行うこともあるし、EMSA の調査に参加して行うこ

ともある(ノルウェーは EEA の一員として EMSA を活用している)。現

地調査には無線資格の付与を管轄している Norwegian Telenor も参加し、

当該国の無線資格の付与体制が STCW 条約を満たしているか検査する。

当該体制に不備があれば、承認取極に至ることはない。現地調査によって、

当該国によって提供された情報の信憑性が確認されたら、承認取極の締結

に至る。

(ウ) 今後の予定 【NMD(Norwegian Maritime Directorate:ノルウェー海事庁)】

・ 今は、NSA の要望のあった国との締結を一通り終えているので、具

体的に新たな候補はない。 ・ 未締結国からはノルウェーと締結したいというアプローチもある。

ノルウェーの締結方針を満たせば締結に至るだろう。

- 39 -

【NSA(Norwegian Shipowners’ Association:ノルウェー船協)】 ・ 目下、新たな国の承認取極を要望することは考えていない。

(エ) その他 【NMD】

・ NSA の要望がなければ、承認取極を行うことはない。 ・ NSA の要請を受けて締結のための作業を開始するが、実際締結をす

るかどうかは、あくまで NMD の判断で決定する。つまり、STCW 条

約上の義務を果たしうるに必要な情報が相手国から提供され、その

情報が確かなものであると NMD が認めらなければ、ノルウェー政府

として取極は締結しない。 【NSA】

・ NMD のスタンスに不満はない。 ・ 承認取極の要望を出した国が NMD の審査の結果として取極が結ば

れなかったとしても、当該国の船員は非ノルウェー船舶に乗せれば

よいと考えている。

(b) 承認当局:ノルウェー海事庁(Norwegian Maritime Directorate) (c) 承認要件

(ア) 一般的な承認要件 (i) ノルウェーが承認取極を締結している国の海技免状であること。 (ii) 必要書類が整っていること。 【NMD】

相手国によって承認の要件(難易度)が変わることはない。

(イ) 特別な承認要件 船長のみ法令講習及びその修了試験を受けなければならない。

(d) 提出書類 ・ 申請書 ・ STCW95 に基づく有効な海技免状 ・ 船社による英語能力証明 ・ パスポート用の写真 ・ (船長及び EU/EEA 域外国の免状の承認を求める船舶職員のみ)ノルウェー

船舶(又はノルウェーへの登録を求められている船舶)での雇用契約又は雇

- 40 -

用契約予約確認書 ・ (船長のみ)承認されたコースを受講し、承認された試験に合格してノルウ

ェー海事法制の知識を得ていることを明らかにする船社による証明書 ・ (船長以外の船舶職員)ノルウェー海事法制の知識を得ていることを明らか

にする船社による証明書 ・ (機関系船舶職員のみ)船舶の推進機構の証明(蒸気機関か、内燃機関か) 【NMD】

EU 域外の船員については健康診断書(大使館が指定する医師の診断書。

但し、これは上記書類受理のための要件であり、NMD での承認審査のため

の書類には添付されない。)を提出させている。 (e) 申請手続き

(ア) 申請者が当該国の大使館に上記書類を提出する。 (イ) 海技免状等は原本の提出である(複写は認められない)。大使館は引き

換えに受領証(CRA: Certificate of Receipt of Application。 長 3 か月間有

効)を交付する。この受領証があれば、その有効な期間、乗船勤務が可

能である。 (ウ) 実際の申請は、大使館業務への負担を考えて、個人が行うのではなく、

船社がとりまとめて行う。 【NMD】 ・今のところ、問題はない。 ・申請受理から交付までの所要時間は、およそ 1 か月(長くても 1.5 か月)

と思う。 ・NMD としては効率化(いかに少ない人数で承認業務をこなすか)及び迅

速化(承認までの時間短縮化)を念頭に置いており、その観点から、オン

ライン化も検討している。オンライン化が実現すれば、大使館業務を減ら

すことができ、また、NMD としても地方局(ノルウェー国内に 19 か所)

と業務を分担することもできるメリットがある。 ・オンライン化の実現への課題は、申請書類の偽造対策、ネットワークのセ

キュリティ対策並びに当該国のネットワーク事情である。 【NSA】 ・今のところ、満足している。 ・よりスムーズ、より柔軟なシステムが考えられれば、求めていく。 ・理想としては、国際海技免状とも言うべき、国際的に通用する免状を諸国

が付与できればよい(国際運転免許証のイメージ)。

- 41 -

② 外国海技資格承認の要件 (a) 承認試験 存在しない。 (b) 法令講習・試験

(ア) 法令講習 (i) 船長のみ法令講習を受けなければならない。 (ii) 講習は約 4 日間、ノルウェー、スウェーデン、インド(ムンバイ)、

フィリピン(マニラ)、中国(上海)で開催される。 (iii) ノルウェーでは、NMD の認証を受けた Seagull AS 社(Horten 市)が、

受講料 4,800NOK(約 63,000 円;1NOK=13.1 円で換算)若しくは

800USD の 3 日半のコースを毎月 1 回開催している。 (iv) スウェーデンにおける講習は、NMD の認証を受けた MariTrain 社

(Gothenburg 市)が、4 日間、受講料 8,800SEK(約 115,000 円)のコ

ースを毎月 1 回開催している(なお、要望に応じて出張講習も開催

する)。 【NMD】 ・講師は、ノルウェー海事法制の知識を保有する者として NMD が認め

た者が担当する。公務員もいれば民間人もいる。 ・船長にだけ法令講習を課しているのは、現実に当該船舶についてノ

ルウェー海事法令に基づき運航する 高責任者だからである。 ・条約上は義務づけられていない運用水準にまで海事法令の知識を要

求しているのは、運用水準であろうと現実にノルウェー海事法令が

適用されるのは管理水準と変わらないからである。 (イ) 法令試験

船長の法令講習については、修了試験として講師による筆記試験(所

要時間 3 時間)が行われる。 【NMD】

要求される水準は、法令の内容すべてを習得していることではなく、

ノルウェー海事法令の概要を理解しているレベルである。具体的には、

ある規定がどの法令に定められているか法令集を見ながら指摘できるレ

ベルでよい。 【NMD、NSA】

試験の詳細については承知していない。

- 42 -

(c) 身体適性 EU 以外の国においては、指定医の診断書を提出させる(前述)。

(d) その他

特になし。 ③ 通信士の資格

(a) 通信士の資格については、Norweigian Telenor(半官半民)が書面審査を担当

する。 (b) STCW 条約を満たす ITU GOC であれば、承認する。 (c) Norwegian Telenor の審査は、あくまで必要書類が整っているかといった形式

的審査である。もとより、承認取極締結時に相手国の無線資格付与体制につ

いて予め調査を行っている(上述)。 【NMD】 ・詳細については、Norwegian Telenor に問い合わせてほしい。

*ノルウェー海事庁ウェブ情報 ・国によってGOC又はROCxvの承認が行われる。 ・ノルウェー大使館、総領事館又は海運管理事務所を通じて申請書を送付す

る。申請書が届くと受領証が発行され、受領証は 3 か月間の仮免状として

利用できる。 ④ その他

(a) 統計 非公表。ただし、NMD としてはクラス別、自国籍・非自国籍別の月毎の統計

はとっている(国別の詳細な統計はない)。

(b) 関連法規 ・ Act of 16 February 2007 No. 09 relating to Ship Safety and Security (The Ship

Safety and Security Act) ・ Regulation of 9 May 2003, No. 687 concerning qualification requirements and

certificate rights for personnel on board Norwegian ships, fishing vessels and mobile offshore units

xv ITU(国際電気通信連合)の定める無線通信士の証明書の一種。船上におけるVHF無線通信

を可能とする資格。詳細は第 2 章(6)参照。

- 43 -

・ Forskrift om kvalifikasjonskrav og sertifikatrettigheter for personell på norske skip, fiske- og fangstfartøy og flyttbare innretninger (上記法律施行規則)

⑤ 留意事項

NMD の話から、承認国選定の基準として、NSA の要望があること、当該国

が STCW 条約のホワイトリスト掲載国であること、当該国の海技免状が STCW条約を満たしていることを示すに必要な情報が提供されること、現地調査等に

よって当該情報の信憑性が確認されること、の 5 点が挙げられる。 他方で、ひとたび承認取極を締結した後では、NMD の役割は原則として必

要書面が整っているか否かという形式的審査を行うことにとどまる。ノルウェ

ーの担当者は、承認制度が相互の信頼関係に基づく制度である、すなわち、海

技免状発給国の当局は受有者である船員の能力を適切に審査し、また、各船員

の能力については雇用主たる船社が責任をもって判断しているとの信頼に基

づく制度であるとの認識を示すと同時に、STCW 条約は外国海技資格の承認に

ついて実体的審査を行うことまで締約国政府に求めていないという理解であ

った。 ⑥ 主な情報源 (a) ノルウェー海事庁ウェブサイト

http://www.sjofartsdir.no [2008 年 5 月 29 日閲覧] (b) インタビュー

(ア) 2008 年 10 月 2 日 12:40-16:30 ノルウェー海事庁(NMD) Mr. Per O Meek(Assistant Director)

(イ) 2008 年 10 月 3 日 10:00-11:30 ノルウェー船主協会(NSA) Mr. Jonny Tollesfsen(Head of Section) Mr. Tom Tjomsland(Advisor)

- 44 -

(9) 米国

米国の US Coast Guard に問い合わせたところ、米国籍船舶において業務に

従事するためには米国の市民権(citizenship)を有していなければならないこ

とが確認され、また、これまでのところ STCW 条約附属書第 I/10 規則に基づく

外国海技資格の承認は行っておらず、今後、行う予定もないとのことであった。

- 45 -

641

963

1 ,2781 ,531

1 ,274 1 ,204

816640

419280

117 103 95 95 92

53 80106137

238244

296236

462592

655 973

1 ,266

2 ,214

99

532449

1 ,0551 ,1751 ,176

683726

760767

803876

1 ,424

1 ,508

1 ,5801 ,476

1 ,4271 ,317 1 ,234

1 ,188 1 ,173 1 ,140 1 ,028957

376340

218191

182168 134

154110

2 ,1281 ,770

1 ,8421 ,710

1 ,6411 ,4701 ,487

1 ,2921 ,407

1 ,035

1 ,2001 ,290

820

1 ,152

1 ,142

1 ,174

1 ,3291 ,232

1 ,165

1 ,080

1 ,5431 ,637

1 ,708

1 ,781

1 ,8161 ,839

1 ,8021 ,905

1 ,983

1 ,8781 ,797

1 ,914

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1960

1961

1962

1963

1964

1965

1966

1967

1968

1969

1970

1971

1972

1973

1974

1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007 (年)

(隻数) 外国用船日本籍船

2.我が国の承認船員配乗実態

(1) 国際船舶制度と承認外国人制度の誕生

第二次世界大戦後の我が国の外航海運政策は、日本籍船及び日本人船員の維

持・拡充を意図するものであり2、官産労合意の下、計画造船制度による財政投

融資や、利子補給制度という積極的な行政関与により、日本籍船はピークの

1,580 隻(1972(昭和 47)年)を記録するまでの間、順調に増加した。一方で、

日本人船員一人当たりの船員費は昭和 40 年代半ばに 2 桁増を続け、特に 1972

(昭和 47)年のいわゆる「90 日間スト」及びその後の石油危機などの結果、1974

(昭和 49)年の船員費は前年比 4 割以上も上昇することとなった。この間、欧

米の主要船社はコストの削減を目的として、船員の国籍要件を定めず、登録税

や固定資産税が低額なFOC(便宜置籍)船の利用を進め、特に 1960 年代後半か

らその船腹量は急増した。この結果、我が国船社と欧米の主要船社とのコスト

差は急拡大することとなり、1972 年以降、我が国主要船社においても、支配船

舶の日本籍船からの離脱(フラッギング・アウト)→FOC船化が本格的、かつ急

速度で開始されることとなった。1978(昭和 53)年には、日本籍船と外国用船

(仕組船及び単純用船)の隻数は逆転し、プラザ合意(1985(昭和 60 年))に

よる円高の急激な進行を受け邦船社の経営環境が厳しさを増した1986(昭和 61)

年には日本籍船の隻数は 1,000 隻を割り、1990(平成 2)年には 500 隻も割り込

み、更に 1994(平成 6)年には 280 隻となり、日本籍船の減少には歯止めが効

かない状況であった。(図 2.1 参照)

図 2.1 日本商船隊の構成の変化 (『日本海運の現状』/『外航海運の現況』/『海事レポート』(運輸省海運局/同国際運輸・観光局/同海上

交通局/国土交通省海事局、昭和 40 年版~平成 20 年版を元に海事センター作成。1960、61 年の外国用

船の隻数は対応データが入手困難なため省略)

- 46 -

このような日本籍船の急速なフラッギング・アウウトに対し、1995(平成 7)

年 1月、運輸省海上交通局長の私的懇談会として「外航海運・船員問題懇談会」

(座長:谷川久 成蹊大学教授)が設置され、官主導の下、我が国外航海運が引

き続き基本的物資の安定輸送に貢献していくために採られるべき方策について

検討が開始された。その後、海外調査を含む積極的な検討がなされた結果、同

年 5月 25 日、第 5回懇談会において、欧州諸国に倣った国際船舶制度の創設を

提言する報告書が取り纏められた。この中では、船長・機関長のみを日本人と

し、税制上の優遇措置を盛り込んだ国際船舶制度とともに、外国人船員を確保

するための外国語による海技資格試験の実施などが盛り込まれた。

これを受け、運輸省は、1996(平成 8)年度概算要求・税制改正要望に 6 億円

の補助金予算や国際船舶に対する固定資産税・登録免許税の非課税を含む国際

船舶制度の創設に関連する事項を盛り込んだものの、税・財務当局の対応は非

常に厳しく、結果、調査費 2,013 万円と国際船舶にかかる固定資産税・登録免

許税の特例措置(固定資産税に関しては通常の場合、簿価の1/10であるところ、

国際船舶は 1/15 とする等)が認められたにとどまった。3

この結果、いずれにせよ国際船舶の定義を法律に盛り込む必要が生じたため、

海上運送法が改正され、96 年 6 月 13 日に成立、10 月 1 日より施行されること

になった。

また、上述のとおり外航海運のあり方に関する議論の高まりを受け、96 年 3

月 28 日、8年ぶりに海運造船合理化審議会海運対策部会(部会長:犬井圭介 全

日空エンタプライズ㈱社長)が開催され、国際競争力の強化のための方策等が

検討されることとなった。同部会では、具体的な検討を行うため、小委員会(委

員長:谷川久 成蹊大学教授)を設置したほか、前述の国費からの調査費などを

活用し、財団法人日本船員福利雇用促進センター(SECOJ)に国際船舶制度推進調

査委員会(委員長:谷川久 成蹊大学教授、以下「SECOJ委員会」という。)を設

置し、国際船舶制度の拡充をはじめとする外航海運を巡る具体的な課題の整

理・解決策等の検討が進められることとなった。その後、小委員会で 4回、SECOJ

委員会で 9 回の検討が加えられた結果、1997(平成 9)年 5 月 30 日に開催され

た海運対策部会で報告書『新たな経済環境に対応した外航海運のあり方』が採

択された。同報告書においては、国際船舶では、船長及び機関長は日本人船員

であることを原則とし、船長及び機関長以外の職についての外国人船員に対す

る海技資格の付与等の実施に向けて検討を進めることが盛り込まれた。4

同報告書の具現化に向け、97 年 4 月 16 日、SECOJ委員会の下部に国際船舶制

度に係わる教育訓練スキーム及び外国人船員に対する海技資格の付与の方法に

関する検討会(座長:加藤俊平 東京理科大学教授)が設置され、集中的な検討

が行われた。同検討会による議論などを踏まえ、1998(平成 10)年 2 月 17 日、

- 47 -

海上安全船員教育審議会は答申『1978 年の船員の訓練及び資格証明並びに当直

の基準に関する国際条約(STCW条約)の 1995 年改正等に対応する船舶職員制度

のあり方について』をとりまとめ、STCW条約改正に対応した甲板部職員に対す

る無線資格の義務付けなどとともに、外国資格受有者に対する承認制度(船長・

機関長以外)の導入が盛り込まれた。5

これを受けて、船舶職員法の改正案が国会上程され、98 年 5 月 19 日に成立、

5月 27 日に公布された。承認制度に係る部分に関する施行は 1999(平成 11)年

5 月 20 日と定められ、外国人船員に対する資格付与のための法的裏づけがなさ

れた。また、承認制度に係る船舶職員法施行規則等の改正も 5月 20 日施行で実

施された。

承認制度に関する具体的な運用に関しては、関係者の調整の結果、99 年 6 月

11 日に、運輸省より通達「国内海事法令講習実施要領」及び「就業範囲の指定」

が発出され、STCW条約締約国が発給した資格を持つ船員を承認する制度の骨格

が固まった。6

一方、STCW95 条約は、旗国以外の国の海技資格を有する船舶職員の配乗にあ

たり、相手国海技資格の旗国による承認(裏書)と、その前提として重要な制

度変更に関する相手国への通知についての申し合わせが必要であるとしている。

このため、日本政府は、第1号の相手国として、2000(平成 12)年 1月 21 日付

でフィリピンとの間で取極を締結した。

上述した承認が認められる条件をまとめると以下のとおりとなる。

・ 二国間承認取極(日本側が承認する取極)が締結されている国であること。

(STCW95 条約第Ⅰ/10 規則、MSC/Circ.950)

・ STCW 条約の締約国が発給した条約に適合する船舶運航又は機関の運転に

関する資格証明書(締約国資格証明書)の受有者であること。

(船舶職員法第 23 条)

・ 配乗は、国際船舶であって海外に貸渡ししたものに限定。

・ 就業範囲は表 2.1 のとおりであり、船長又は機関長の職務については就業

範囲として指定しない。(通達「就業範囲の指定」)

- 48 -

就業範囲

締約国資格証明書の資格船長

一等航海士

二等航海士

三等航海士

機関長一等

機関士二等

機関士三等

機関士

甲MM

(Master Mariner)船長 ○ ○ ○

板CM

(Chief Mate)一等

航海士○ ○ ○

部2M

(Second Mate)二等

航海士○ ○

3M(Third Mate)

三等航海士

機CME

(Chief Marine Engineer)機関長 ○ ○ ○

関2ME

(Second Marine Engineer)一等

機関士○ ○ ○

部3ME

(Third Marine Engineer)二等

機関士○ ○

4ME(Fourth Marine Engineer)

三等機関士

甲板部 機関部

表 2.1 就業範囲の指定(1999 年 6 月~2007 年 6月)

また、実際の承認に至るまでの必要手続きは以下のとおりである。

● 締約国資格証明書受有者

● 国内海事法令講習(SECOJ が実施)受講、修了試験受験(マニラ)

講習時間は表 2.2 のとおり。

一等航海士

二・三等航海士

一等機関士

二・三等機関士

海上交通安全法 12 8港則法 12 8船舶職員法 3 2 3 2船舶安全法 1 1船員法 9 6 9 6 合  計 37 24 13 8

講習時間(hrs)履修科目

表 2.2 国内海事法令講習講習時間(1999 年 6 月~2007 年 6月)

● 承認試験受験

・口述試験(海技に関する知識・能力、国内法令に関する知識)

・身体検査

● 就業範囲の指定・承認

・承認原簿に登録

・承認証を交付

- 49 -

2000(平成 12)年 1 月、フィリピンのマニラ市において初の承認試験が実施

され、48 名(航海士 23 名、機関士 25 名)が受験し、全員が合格した。また、2

月には同じくフィリピンにおいて英語による船舶料理士の試験が実施され、受

験者 27 名全員が合格した。また、外航労使交渉の結果、2 月 29 日には、承認船

員配乗の国際船舶に乗り組む日本人船員の労働条件に関する合意が成立し、3月

末までに 3隻の初の承認船員配乗の国際船舶が誕生した。1995(平成 7)年の外

航海運・船員問題懇談会での提言以後、実に 5 年間の検討を経て国際船舶制度

が本格的に始動したこととなる。7

但し、実際に制度がスタートしたものの船社からは、申請から受験までに時

間と労力がかかりすぎるなど受験者及び船社スタッフにとって負担となってい

ることや、フィリピン人以外の外国人船員には対応できないといったことを問

題視する指摘がなされていた。8

そこで、次項以下のとおり、その後承認制度自体の簡素化と、二国間承認の

拡大が図られることとなる。

- 50 -

(2) 承認制度の簡素化

(1)で述べた船社側の問題指摘に対し、2002(平成 14)年 2 月 7 日、「国際船

舶制度に係る施策の具体化のための検討・施策立ち上がり後のフォローアップ

を行うための官労使参加による検討会(加藤検討会)」が設置された。同検討会

での検討の結果、2003(平成 15)年 12 月、船機長が本船上にて承認対象試験の

実務能力の確認を行うことにより承認証を発給する制度(新承認制度)が導入

されることとなった。これにより、これまで年 3 回に限られていた承認の機会

が、船社の承認船員養成計画に合わせて適宜行えるようになった。但し、新承

認制度の対象国は、海技資格制度、船員教育制度等が適切に運用されていると

認められる締約国に限定されることとなり、当初はフィリピン(2004(平成 16)

年 3 月~)のみであった。9

● 締約国資格証明書受有者(当初、フィリピンのみ)

● 国内海事法令講習(SECOJ が実施)受講、修了試験受験(マニラ)

(講習時間は、通常の承認の場合と同様。なお、講習の実施は、以下の

「船長による実務能力確認」の後でも差し支えない)

○ 実務能力確認開始前のレポート(TO:関東運輸局)

※2008(平成 20)年より義務付け

● 船長による実務能力確認の実施(期間:3か月以上 1年 6か月以内)

・船舶の要件:国際航海に従事する 2,000G/T 以上の船舶

・船長の要件:船長は日本の一級海技士(航海)免許受有者又は承認取

極締結国の船長資格受有者。(機関士の場合は、同等の要

件を備えた機関長が能力確認を行い、船長が証明する)

・確認項目:申請職務に相当する承認試験科目と同一項目【実務能力確

認書】

● 合格(実務能力確認書の全項目が○)

承認申請(関東運輸局へ)

● 就業範囲の指定・承認(申請後、2ヶ月程度を要する)

・承認原簿に登録

・承認証を交付

- 51 -

(3) 二国間承認取極の拡大

当初、二国間承認取極の締結国はフィリピンのみであったが、船社からの要

望に応える形で、その後、対象国は以下のとおり順次拡大されて、2008(平成

20)年 11 月現在、計 9か国となっている。10

2000(平成 12)年 1月:フィリピン

2002(平成 14)年 7月:トルコ

2002(平成 14)年 8月:インドネシア、ベトナム

2002(平成 14)年 11 月:インド

2004(平成 16)年 4月:マレーシア

2004(平成 16)年 12 月:クロアチア

2006(平成 18)年 8月:ルーマニア

2007(平成 19)年 5月:ブルガリア

なお、(2)の新承認制度(船長確認)の対象国については、前述のとおり 2004

年 3 月~フィリピンが対象となり、その後、2005(平成 17)年 2 月~インドネ

シアも対象となった。

- 52 -

(4) 船長及び機関長に対する承認試験の拡大

2000(平成 12)年の承認制度導入以降も日本籍船、日本人船員の減少に歯止

めがかからない状況のなか、(社)日本船主協会と全日本海員組合は、2005(平

成 17)年 4月、「船員・船籍問題労使協議会」を立ち上げ、日本籍外航船の維持・

拡大のための方策と外航日本人船員(海技者)の確保・育成問題について検討

を行うこととした。

2005 年 6 月、同協議会において労使は、「①今後、新規に登録される日本籍外

航船舶について、現行国際船舶に適用される船・機長配乗要件の撤廃を国土交

通省に申し入れること、②外航日本人船員(海技者)の確保・育成のため、他

の海事産業関連団体と共同し実効ある新たな制度作りに取り組む。2006(平成

18 年)度末を目途に結論を得るよう具体的な検討を行う」の 2 点に合意、これ

を 7月 27 日に国土交通省に申し入れた。11

この申し入れを受け、国土交通省は 9 月、官労使及び学識経験者による「船・

機長配乗要件の見直し等に関する検討会」(座長:野川忍 東京学芸大学教授)

を設置し、4 回にわたって検討を行った結果、2007(平成 19)年 4 月、以下の

理由により、船・機長配乗要件を撤廃しても特段問題ないとの結論に至った。12

・ FOC(便宜置籍)船には、日本人船・機長をはじめ日本人船員が配乗され

ているものも多数あり、外航日本籍船の数と日本人船員の数は直接リンク

するものではなくなっている。配乗要件の撤廃が、現在の外航日本人船員

の日本人船・機長の雇用の喪失や縮小につながるものではない。

・ 配乗要件を撤廃すれば、外航日本人船員の配乗の柔軟性が高まり、適材適

所の配置が可能となり、外航日本人船員の確保・育成上も柔軟性が高まる。

・ 承認船員制度導入後、同制度に起因する安全運航上の問題は生じておらず、

日本商船隊において育ってきた外国人船・機長候補の適格者も出現するな

どの環境も整備された。

・ 船員供給国における船員の技能向上に対する官民による協力の取組みも

着実に進んでいる。

・ 船舶管理は、日本籍船・外国籍船の区別無く海陸一体で行われている。

・ 配乗要件を撤廃した場合、他法令に抵触する懸念はない。

・ 船・機長の国籍要件廃止は、必ずしも国際的にみて特異な制度ではない。

これを受け、同年 6月 14 日付けにて国土交通省の「就業範囲の指定に関する

通達」の改正が行われ、表 2.3 のとおり外国人船・機長に対する承認が開始さ

れた。(灰色の着色部分が今回新設)

- 53 -

就業範囲

締約国資格証明書の資格船長

一等航海士

二等航海士

三等航海士

機関長一等

機関士二等

機関士三等

機関士

甲MM

(Master Mariner)船長 ○ ○ ○ ○

板CM

(Chief Mate)一等

航海士○ ○ ○

部2M

(Second Mate)二等

航海士○ ○

3M(Third Mate)

三等航海士

機CME

(Chief Marine Engineer)機関長 ○ ○ ○ ○

関2ME

(Second Marine Engineer)一等

機関士○ ○ ○

部3ME

(Third Marine Engineer)二等

機関士○ ○

4ME(Fourth Marine Engineer)

三等機関士

甲板部 機関部

表 2.3 就業範囲の指定(2007 年 6 月~)

なお、講習時間については、関係者で協議の結果、以下表 2.4 のとおり定め

られた。(同様に、灰色の着色部分が今回新設)

船長一等

航海士二・三等航海士

機関長一等

機関士二・三等機関士

海上交通安全法 16 12 8港則法 16 12 8船舶職員法 4 3 2 4 3 2船舶安全法 2 1 2 1船員法 12 9 6 10 9 6水先法 2海難審判法 2 2船舶機関規則、船舶設備規程 6 合  計 54 37 24 24 13 8

履修科目講習時間(hrs)

表 2.4 国内海事法令講習講習時間(2007 年 6 月~)

2007 年 6 月 28 日、マニラにて外国人船長・機関長の初の承認試験が、他の職

員の試験とあわせて実施され、船長 7名、機関長 6名が受験、12 名が合格した。

なお、(2)で述べた船機長が本船上にて承認対象試験の実務能力の確認を行う

ことにより承認証を発給する制度(新承認制度)については、船長・機関長は

対象外とされた。

- 54 -

(5) 船長・機関長の承認試験に伴うその他の資格付与講習

上記のとおり、2007(平成 19)年 6 月に第 1 回の船長・機関長の承認試験が

実施されたが、外国人全乗の日本籍船誕生に備え、これまで日本人が資格を受

有し、担当していた衛生管理者及び船舶保安管理者(SSO)資格の外国人船員に対

する資格付与要件を確立する必要が生じた。

衛生管理者とは省令によって定められた日本固有の資格であるが、STCW条約

においての能力基準が定められている“Medical Care”が船内医療を行う者の資

格であることから、同資格受有者を受講対象者にすることにより、以下表 2.5のとおり講習時間を大幅に短縮することが可能になった。07 年 6 月の承認試験

の際に実施された初の衛生管理者講習及び修了試験では、16 名の受講者全員が

講習を修了した。13

講習科目 時間数xvi

労働生理 7 時間→免除 船内衛生 10 時間→免除 食品衛生 7 時間→免除 疾病予防 14 時間→免除 薬物 8 時間→免除 労働衛生法規 4 時間→4 時間 保健指導(救急処置及び看護法に関する実習を含む) 50 時間→8 時間 修了試験(労働衛生法規) 1 時間 修了試験(保健指導) 2 時間

表 2.5 衛生管理者講習講習時間(2007 年 6 月~)

また、SSO資格については、SOLAS条約xviiで承認された訓練修了者を対象に、

マニラにおいて海技教育機構による講習が表 2.6 のとおり行われることとなっ

た。07 年 6 月の承認試験の際に実施された初のSSO資格講習及び修了試験では、

xvi「時間数」の左側の時間は、船舶に乗り組む医師及び衛生管理者に関する省令第 20 条で定め

る登録講習に関する下限時間。 xvii SOLAS条約(海上人命安全条約:The International Convention for the Safety of Life at Sea):航海の安全を図るため船舶の検査、証書の発給などの規定を設け、船舶の構造、設備、

救命設備、貨物の積み付けに関する安全措置等の技術基準を定めた条約。1912 年 4 月 14 日に

発生したタイタニック号事故を受けて、 初のSOLAS条約が 1914 年に採択された。その後、

1929 年、1948 年、1960 年に新しいSOLAS条約が採択されたが、現在の条約は、1974 年に採

択され、1980 年 5 月 25 日に発効した 1974 年SOLAS条約である。

- 55 -

34 名の受講者全員が講習を修了した。

科目 時間 保安に関する 新情報 1.5 時間 我が国を取巻く保安に関する情報 1 時間 我が国における船舶及び港湾の現状 0.5 時間 修了試験 1 時間

表 2.6 SSO 資格講習講習時間(2007 年 6 月~)

- 56 -

(6) 無線資格関係

2000(平成 12)年 1月以降、承認外国人船員が誕生したところ、STCW条約(95

年改正)が、2002(平成 14)年 2月 1日から完全実施されることとなった。STCW

コード第 2章A-2-1 節は、甲板部の当直職員に対し、国際電気通信連合(ITU)xviii

無線通信規則(RR)xixの定めるVHF無線通信を行うための適切な証明書xxの受有を

求めており、我が国では電波法の定める「第一級海上特殊無線技師(一海特)」

以上の無線従事者資格xxiがこれに該当する。これに従い、承認外国人船員も、

xviii 国際電気通信連合(International Telecommunication Union) 電気通信分野における国際連合の専門機関。加盟国は 191 か国であり、ジュネーブ(スイス)

に本部を置く。無線周波数スペクトラムの分配、無線周波数割り当て、電気通信の世界的標準

化の促進などを行う。 xix 無線通信規則(RR: Radio Regulations)

ITU の無線通信部門(ITU-R)が定める無線通信に関する国際規則。 xx RRの「制限無線通信士証明書(ROC: Restricted operator’s certificate)」以上の資格を指す。

なお、RR(2008 年版)は、船舶に関する無線通信士の証明書として、以下 6 つの資格(上に

記す証明書ほど上位資格であり、下位資格の要件を包含)を規定している。 ・第一級無線電子証明書(First-class radio electronic certificate) ・第二級無線電子証明書(Second-class radio electronic certificate) ・一般無線通信士証明書(General operator’s certificate: GOC)

・制限無線通信士証明書(Restricted operator’s certificate: ROC) ・長距離無線証明書(Long range certificate) ・短距離無線証明書(Short range certificate)

xxi総務省による無線従事者資格(船舶関係) 分野 資格名 操作対象となる無線設備の概要

無線通信業務全般ではあるが、主として国際航海に従事する商船の船

舶局または船舶と通信を行うために開設する海岸局などの無線設備 第一級総合無線通信士

第二級総合無線通信士 近海区域を航行する商船の船舶局および比較的規模の大きな漁船の

船舶局や漁業用の海岸局などの無線設備

総合

第三級総合無線通信士 遠洋で操業する漁船の船舶局や漁業用海岸局の無線設備

船上保守が可能なGMDSS*6対応の船舶局、GMDSS対応の大規模海岸局等

の無線設備 第一級海上無線通信士

制限された範囲の船上保守が可能な GMDSS 対応の船舶局、GMDSS 対応

の中規模海岸局などの無線設備 第二級海上無線通信士

船上保守をしない GMDSS 対応の船舶局、GMDSS 対応の小規模海岸無線

局の無線設備 第三級海上無線通信士

第四級海上無線通信士 無線電話を使用する漁船の船舶局、漁業用海岸局などの無線設備

第一級海上特殊無線技

船上保守をしない GMDSS 対応の漁船の船舶局、商船が装備した国際

VHF 無線電話などの無線設備

海上

第二級海上特殊無線技

漁船や沿海を航行する内航船舶の船舶局、VHF による小規模海岸局な

どの無線設備

第三級海上特殊無線技

沿岸海域で操業する小型漁船やプレジャーボートの船舶局の無線電

話などの無線設備

レーダー級海上特殊無

線技士

商船などが装備した大型レーダー、レーダーのみを備えた船舶、沿岸

監視用レーダーなどの無線設備

(参考)外航商船における無線従事者資格としては、上位から第一級総合無線通信士>第一級海上無線通

信士>第二級海上無線通信士>第三級海上無線通信士>第一級海上特殊無線技士となる。

- 57 -

2002 年 2 月 1 日以降、国際船舶を含む日本籍船に当直職員として配乗される場

合、一海特以上の資格の受有が必要になることとなった。承認外国人船員は自

国において、RRに規定する制限無線通信士証明書(ROC:v参照)以上に該当する

無線資格を取得しているため、海技免状同様、無線資格の相互承認制度があれ

ば当該無線資格を承認することが可能であるが、無線資格には承認制度はない

ため、原則論では、外国人船員は国際的に有効な無線資格を有するにもかかわ

らず、我が国の一海特以上の資格を一から受験・取得する必要が生ずる。無線

従事者資格の取得方法としては、原則、財団法人日本無線協会が年数回(国内

で)実施する国家試験を受験するか、船舶職員養成協会等が実施する国家試験

免除の講習(一海特の場合、英語講習を含む計 39 時間)を受講しなくてはなら

ない。

このような事態は非常に不合理であるため、船主協会などからの要望に応え

る形で、無線従事者規則及び関係告示等の一部を改正する省令が 2001(平成 13)

年 6月 20 日に公布、施行された。主要な改正点は以下のとおり。

・ 無線従事者国家試験の科目のうち、和文通話表(聞き間違いを防止するた

め、「朝日のア」「いろはのイ」「上野のウ」等、五十音それぞれを特定の

単語と組み合わせたもの)による電気通信術を国家試験等から廃止する。

<無線従事者規則(平成 2年郵政省令第 18 号)関係>

・ 第一級海上特殊無線技師の養成課程(修了試験に合格すれば、国家試験に

代わるものとして認められる)における授業時間を、外国政府の発給する

ITU ROC に該当する資格の証明書を有する者に対しては、以下表 2.7 のと

おり軽減する。<電波法関係審査基準(平成 13 年総務省訓令第 67 号)関係>

授業科目 授業時間( 低)

無線工学 6 時間→免除

電気通信術 2 時間→免除

法規xxii 9 時間→3時間

英語 22 時間→免除

表 2.7 ROC 受有者に対する一海特養成講座授業時間(2001 年 6月~)

法規の授業は、日本の無線局を管理・運用するために必要な国内法規の習得を目的とする。 xxii

- 58 -

・ 第三級海上無線通信士の養成課程における授業時間を、外国政府の発給す

る ITU GOC に該当する資格以上の資格の証明書を有する者に対しては、以

下表 2.8 のとおり軽減する。<電波法関係審査基準(平成 13 年総務省訓令第 67

号)関係>

授業科目 授業時間( 低)

無線工学 10 時間→免除

電気通信術 13 時間→免除

法規 49 時間→18 時間

英語 82 時間→免除

表 2.8 GOC 受有者に対する三海通養成講座授業時間(2001 年 6 月~)

この改正を受け、2001(平成 13)年 8 月に(財)日本無線協会が主催する外国

の無線資格受有者に対する初の一海特講習がマニラにおいて開催され、38 名が

修了試験に合格、一海特免許を取得した。

これ以降、海技資格の承認試験と同時に、マニラにて年に 2~3回の無線講習

が開催されることとなった。

一方、SOLAS条約の改正により、1992(平成 4)年 2月 1日よりGMDSSの導入が

開始され、1999(平成 11)年 2 月 1 日より完全実施された。これにより、国際

航海に従事する旅客船及び国際航海に従事する 300 総トン以上の貨物船(A3 ま

たはA4 海域を航行海域xxiiiとするもの)に関し、これまで専従であった通信長の

職務を航海士や機関士などの船舶職員が兼務することを可能にした「他職務兼

務船」が認められることとなった。

日本籍船において兼務通信長の資格を得るためには、まず、総務省の第三級

海上無線通信士(三海通)(前出脚注 xxii 参照)の資格を取得するとともに、義

務船舶局等の無線設備の操作に関する訓練(新規訓練)を修了し、船舶局無線

従事者証明書(総務省。新規訓練終了後、発給までに約 1 か月を要する)を取

SOLAS条約の無線通信の章(第IV章)に定められた海域区分。 xxiii

・A1 海域:デジタル選択呼出しの警報を継続して利用しうる少なくとも 1 の VHF 海岸局の無

線電話の通信圏内の区域であって、締約国政府が定めるもの。概ね海岸局から 20~30 海里の

範囲。 ・A2 海域:デジタル選択呼出しの警報を継続して利用しうる少なくとも 1 の MF 海岸局の無線

電話の通信圏内の区域(A1 海域を除く)であって、締約国政府が定めるもの。概ね海岸局か

ら 150 海里程度の範囲。 ・A3 海域:警報を継続して利用し得るインマルサット静止衛星の通信圏内の区域。(A1 海域及

び A2 海域を除く。) ・A4 海域:A1 海域、A2 海域及び A3 海域以外の区域。主として極地方。

- 59 -

得した上、更に国土交通省の三級海技士(電気通信)(三電通)以上の資格を得

る必要がある。

このため、船社では、日本人船員に対して三海通、三電通資格の取得を促進

させるとともに、承認外国人船員に対しても同資格を取得させる必要性が高ま

った。

承認外国人船員の多くは、SOLAS 条約改正に対応して ITU GOC(前出脚注 xxi

参照)に該当する資格を自国で取得しているものの、前述のとおり、無線資格

の承認制度は存在せず、また、海技資格の相互承認の対象は海技士(航海)又

は海技士(機関)に限定されていることから、海技士(電気通信)に関しては

承認制度の枠外となる。

このため、一海特の際同様、国際的には有効な資格を有する外国人船員に対

し、合理的に三海通、三電通資格が付与される仕組みの構築が求められること

となった。

この結果、電波法が以下のとおり 2004(平成 16)年 5月に改正され、2001(平

成 13)年 6 月の改正と比較しても、承認外国人船員がより容易に三海通資格を

取得できる制度が整備された。

・ 第三級海上無線通信士の養成課程における授業時間を、外国政府の発給す

る ITU GOC に該当する資格以上の資格の証明書を有し、かつ、過去 5年間

に国際航海に 1年以上従事した経歴を有する者に対しては、以下表 2.9 の

とおり軽減する。<電波法関係審査基準(平成 13 年総務省訓令第 67 号)関係>

授業科目 授業時間( 低)

無線工学 10 時間→免除

電気通信術 13 時間→免除

法規 49 時間→6時間

英語 82 時間→免除

表 2.9 GOC を受有し、一定の航海履歴を有する者に対する三海通養成講座授業時間

(2001 年 6月~)

この結果、マニラにて三海通養成課程及び義務船舶局等の無線設備の操作に

関する訓練(新規訓練)が開催されることとなった。

また、三電通については、2日間の救命講習及び 1日間の消火講習を受講した

承認船員に対し、マニラにて筆記試験を実施する体制が整えられた。(但し、三

電通筆記試験受験には、前述の三海通養成課程及び新規訓練修了後、夫々発給

に 1 ヶ月を要する三海通資格証書と船舶局無線従事者証明書を提出する必要が

- 60 -

あるため、三海通取得後、直ちに三電通を受験することは不可能である。)

第 1 回の三海通養成課程はおよび新規訓練は、(財)日本無線協会により 2005

(平成 17)年 3 月にマニラで開催され、同年 7 月には同じくマニラにて、国土

交通省海技資格課による三電通国家試験及びSECOJによる海技免状講習が実施

され、6名の外国人船員がこれら資格を取得した。14

- 61 -

(7) 現行承認制度の全体像

これまで述べた現行の承認制度のスキームをまとめれば、以下図 2.2 のとおり

整理できる。

二国間承認協定の締結

日本と承認取極を締結(日本側が承認する取極)

(現在9ヶ国)フィリピン、インドネシア、インド、ルーマニア、クロアチア、ベトナム、ブルガリア、トルコ、マレーシア

締約国資格証明書受有者国土交通大臣が指定する締約国資格証明書受有者(新承認制度対象国)

(現在2ヶ国)フィリピン、インドネシア

国内海事法令講習受講

SECOJが修了試験を監査・監督<マニラにおいて年6回実施、講習期間:2~7日間、新承認制度の場合、船長確認後でも可>

実務能力確認開始前のレポート(TO: 関東運輸局)

船長確認

船内において実務能力確認<随時実施、期間:3ヶ月以上>

承認試験(口述試験・身体検査)

<マニラにおいて年3回実施、受験者数によって実質2~4日程度所要>

承認申請

書類審査

・国内海事法令講習終了証明書・乗船履歴証明書・身体検査証明書・締約国資格証明書・身分証明書類

書類審査

・国内海事法令講習終了証明書・実務能力確認書・乗船履歴証明書・身体検査証明書・締約国資格証明書・身分証明書類

国土交通大臣による承認・就業範囲の指定

承認申請後、2ヶ月承認試験後、1ヶ月

図 2.2 承認制度スキーム(2008 年 11 月現在、海事局資料を元に日本海事センター作成)

- 62 -

また、現行の海上無線資格の取得スキームは以下図2.3のとおり整理できる。

ITU ROC(or GOC)受有の承認船員

ITU GOC受有の承認船員

三海通養成課程受講

日本無線協会が講習・修了試験を実施

<マニラにおいて年7回実施、低講習時間:6時間(実質2日間)>

一海特養成課程受講

日本無線協会が講習・修了試験を実施

<マニラにおいて年3回実施、低講習時間:3時間(実質1日間)>

義務船舶局等の無線設備の操作に関する訓練

(新規訓練)

日本無線協会が講習を実施<マニラにおいて年7回実施、

講習期間:3日間>

図 2.3 海上無線資格の取得スキーム(2008 年 11 月現在、船主協会資料を元に海事センター作成)

一海特資格証書取得

当直を伴う航海士として乗船可

三海通資格証書取得 船舶局無線従事者証明取得

海技免状講習(救命講習・消火講習)

SECOJが講習・修了試験を実施<マニラにおいて年3回実施、講習期間:3日間、

免状発行申請までに取得すれば可>

三級海技士(電気通信)(三電通)試験

<マニラにおいて年3回実施、所要1日間>

三電通資格取得

兼務通信長として乗船可

3週間後 3週間後

1ヵ月後

3週間後

- 63 -

現行制度下での、マニラでの講習等の実施日程例は、以下表 2.10 のとおり。

※印が付された講習及び試験は、承認を受けるために必須の講習及び試験である。

曜日 月 火 水 木 金 土

第1週海技免許講習(救命講習)

海技免許講習(救命講習)

海技免許講習(消火講習)

衛管講習 衛管講習

第2週 無線講習 無線講習 無線講習 無線講習 無線講習

第3週 ※国内海事法令講習 ※国内海事法令講習 ※国内海事法令講習 ※国内海事法令講習 ※国内海事法令講習

※国内海事法令講習(船機長)

※国内海事法令講習(船機長)

SSO講習三級海技士(電子通信)

筆記試験

※承認試験 ※承認試験 ※承認試験 ※承認試験

※承認試験 ※承認試験

第5週

国内海事法令講習7日

(船長の場合)承認試験の受験に必要な法令講習〔職員法施行規則〕

海技免許講習 3日 三級海技士(電子通信)資格取得に必要な免許講習(消火、救命)〔船舶職員法〕

無線講習 5日

衛管講習 2日 衛生管理者資格取得講習〔船員法関係資格〕

SSO講習 0.5日 船舶保安管理者講習〔国際航海船舶保安確保法〕

三級海技士(電子通信)の受験に必要な無線免許及び船舶局無線従事者証明の取得講習〔電波法〕(総務省所管)

第4週

 受験者数に応じて承認試験実施日数を延長

表 2.10 承認試験に係る講習等実施日程表(例)(2008 年 11 月現在、海事局資料より)

承認試験および一連の講習等は現在、商船三井、日本郵船、川崎汽船の協力

を得て、3社のマニラの施設を交替で使用する形で実施されている。

現在、承認船員の多くが三電通取得を目指すことから、第 1 週前半に、三電

通資格取得に必要な免許講習を行った上、後半に衛生管理者講習が行われる。

第 2 週は、前半の 2 日間に三電通取得に必要な三海通試験を取得するための

「三海通養成課程」が行われ、これに引き続き、船舶無線従事者証明を取得す

るための「新規訓練」が実施される。

第 3 週は、三電通取得のための国内海事法令講習が実施され、承認を受けよ

うとする職位に応じて 2 日~5 日かけて講習及び修了試験が実施される。(詳細

は参照)

第 4 週に国内海事法令講習の一部(船機長)、承認試験、SSO 試験、三電通試

験が実施され、受験者数が多い場合、承認試験が第 5週に及ぶこともあり得る。

このように、マニラでの承認試験および一連の講習は 1 か月の期間に及び、

受験する船員は、この間拘束されることとなる。

- 64 -

次に、国別の有効承認証受有者数は以下表 2.11 のとおりであり、これまでに

2751 名の承認外国人船員が誕生している。

(単位:人)

国 別 船長 一航士 二航士 三航士 機関長 一機士 二機士 三機士 合計

フィリピン 85 287 505 300 42 252 494 322 2,287

インドネシア 1 40 32 7 0 20 44 13 15

ベトナム 0 0 0 4 0 0 0 1 5

インド 24 23 29 3 24 24 38 2 167

クロアチア 2 4 3 0 2 2 5 0 1

ルーマニア 4 9 1 0 8 4 0 0 2

ブルガリア 13 11 18 3 13 11 20 2 91

合 計 129 374 588 317 89 313 601 340 2,751

7

8

6

職位別割合

機関49%

航海51%

一航士14%

二航士21%

二機士22%

三航士12%

三機士12%

船長5%機関長

3%一機士11%

国別割合

6%1%

1%

3%

6%

0%

83%

フィリピン

インドネシア

ベトナム

インド

クロアチア

ルーマニア

ブルガリア

表 2.11 国別有効承認証受有者数(2008 年 11 月現在、海事局資料より)

年度別の承認実績の推移は以下表 2.12 のとおりとなる。

11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 合 計

受験者数 48 214 267 494 551 132 166 160 331 2,363

試験 合格者数 48 210 260 475 506 131 159 146 301 2,236

合格率 100.0% 98.1% 97.4% 96.2% 91.8% 99.2% 95.8% 91.3% 90.9% 94.6%

0 0 0 0 0 205 374 354 336 1,269船長確認者数

内 訳

表 2.12 年度別承認実績(2008 年 11 月現在、海事局資料より)

- 65 -

(8) 海運業界の要望

近年、中国をはじめとする新興国経済の発展などに伴う世界的な物流量増加に

より、各船社とも運航船腹量を拡大しており、これにより、配乗船員の不足が世

界的な問題となっている。

我が国船社においても、日本人及び外国人船員の確保・育成は喫緊の課題であ

り、大手船社は近年、フィリピン、インド、中国などに相次いで船員養成学校を

建設するなど、対策を講じているところである。

このような中、2008(平成 20)年 5 月、外航海運業界の宿願であったトン数

標準税制法案が成立、日本籍船と日本人船員を計画的に増加(日本籍船に関して

は 5年間に 2倍以上)させること等の条件を満たした船社の運航する日本籍船に

ついて、みなし利益課税の選択を可能とする制度が創設された。これに伴い、今

後、日本籍船の大幅な増加が見込まれており、これら籍船に配乗する承認外国人

船員の確保が焦眉の問題となっている。

こうした状況下、(社)日本船主協会は、(社)日本経団連とともに同年 6月、政

府に対し日本籍船運航に係わる海技資格等の承認制度の緩和に関する規制改革

要望(あじさい要望)を提出し、STCW 条約締約国が発給した資格証明書を受有

している者に対しては、日本籍船を運航する際に必要とされる我が国の関係法令

の周知を行うのみで承認資格を得られる制度が付与されること(=承認試験の廃

止)を求めた。また、船主協会はこれと併せ、関係法令の周知にあたっては、小

冊子、DVD、その他の媒体による周知を行うことにより、遠隔地居住もしくは乗

船中の資格受有者への便宜が図られるべきと要望している。

同要望の背景としては、前述のとおり、世界的に、船社による船員の獲得競争

が激化する中で、我が国船社は、外国人船員を日本籍船に配乗させるための承認

試験実施に伴い、休暇中の船員をマニラに約 1か月拘束し、一連の講習及び試験

を受講させなければならず、当該船員および船社にとって大きな負担となってい

ることが挙げられる。また、外国人船員の立場からすれば、雇用に伴いこれほど

の負担を強いられる邦船社に職場を求めるよりも、より負担の軽い外国船社(主

要海運国の承認制度の実態については、第 1章参照)で働きたいと考える、との

見方も可能であろう。

更に、現行承認制度に対する海運業界の詳細な改善要望としては、以下の項目

が挙げられる。xxiv

(a)現在、フィリピン(マニラ)に限られている海外での承認試験の実施箇所

2008 年7月日本海事センター聞き取り調査による。 xxiv

- 66 -

の拡大。(インド、欧州等)

(b)IT(インターネット、テレビ電話)を利用した承認試験の実施。

(c)現在年 3回の承認試験実施回数の増加(6回以上)

(d)船長確認(新承認制度、(6)参照)制度の対象国の拡大。(インド、欧州諸

国等)

(e)承認制度の二国間協定締結プロセスの迅速化。(要望国:英国、ウクライナ、

ロシア、バングラデシュ、ミャンマー)

(f)国内海事法令講習の講習時間短縮。

(g)三級海技士(電気通信)(三電通)資格試験実施の合理化。(現行制度では、

第三種海上無線通信士(三海通)の認定講習は、三電通試験の 2週間前に

実施される。三海通講習を修了しても、同資格証明書が総務省から発行さ

れるのに約 1 か月を要するため、2 週間後に実施される三電通試験を受験

できない。このため、三海通資格証明書を所持しなくとも、講習終了証書

にて三海通資格取得見込み者として三電通試験の受験を認めて欲しい。)

これに対し、国土交通省は、船舶職員の資質は、船舶航行の安全を確保する上

で も重要な要素であるとした上で、外国人船員を日本船の船舶職員として承認

するに当たっては、その知識・能力を適切に確認することが必要不可欠との見解

を示し、承認試験制度の廃止には消極的な姿勢を明らかにしたものの、より適切

で使い勝手の良い承認船員制度等の在り方について、2008 年 8 月中に「承認船

員制度等の在り方に関する検討会」を設置して検討を行う旨表明した。

- 67 -

(9) 「承認船員制度の在り方に関する検討会」

学識経験者、全日本海員組合、日本船主協会、邦船社、国際船員労務協会、SECOJ

及び海事局で構成された「承認船員制度の在り方に関する検討会」(座長:加藤

俊平 東京理科大学名誉教授)は、2008(平成 20)年 8 月 20 日に第 1 回会合を

開催し、承認試験、国内講習及び船員実務能力確認の在り方等につき検討が行わ

れた。同年11月28日に開催された第3回会合では、海外調査の結果等を踏まえ、

「承認船員制度等の在り方に関する検討会報告」がとりまとめられ、概要以下の

結論が得られた。

<承認試験>

・ 2009(平成 21)年度は、現行制度による試験回数の増加及び試験実施国の

拡大に努める。具体的には次の実施回数等を目途として実施する。

○実施回数 大で延べ 11 回

(内訳)フィリピン 7 回、インド 2 回、ブルガリア 2 回

(予算要求の結果によっては変更があり得る)

・ 現在国が実施主体となって実施している承認試験の登録民間試験期間への

外部委託の導入に向け、後述のワーキンググループの場において、2010(平

成 22)年度からの実施を目途として検討を進める。

・ 登録民間試験機関による Web 会議システムを利用した承認試験の実施につ

いては、試験問題や個人情報の漏洩などセキュリティ管理の面での問題等

の検討が必要なため、実施手法、実施システム等については、後述のワー

キンググループの場において、引き続き検討を行う。

<国内海事法令講習>

・ 2008 年度中に、下位の職務からより上位の職務の承認を受ける際に必要と

なる国内海事法令講習は、既に下位の職務の承認を受ける際に受講した内

容を省略するものとする。これによる、国内海事法令講習の講習時間は以

下表 2.13 のとおりとなる。

船長一等

航海士二・三等航海士

機関長一等

機関士二・三等機関士

海上交通安全法 16 (4) 12 (4) 8港則法 16 (4) 12 (4) 8船舶職員法 4 (1) 3 (1) 2 4 (1) 3 (1) 2船舶安全法 2 (1) 1 (1) 2 (1) 1 (1)船員法 12 (3) 9 (3) 6 10 (1) 9 (3) 6水先法 2 (2)海難審判法 2 (2) 2 (2)船舶機関規則、船舶設備規程 6 (6) 合  計 54 (17) 37 (13) 24 24 (11) 13 (5) 8注:(  )内は、下位職からステップアップする者に対する講習時間を示す。

履修科目講習時間(hrs)

表 2.13 国内海事法令講習講習時間(2008 年度~2010 年度のイメージ)

- 68 -

・ 2010 年度を目途に、eラーニングの活用等により講習内容の理解度を確認

することを前提に座学講習部分を一部代替し、研修所における座学講習時

間を軽減すると同時に、修了試験の充実強化を行う。代替システムの教育

効果については検証が必要である。これによる、国内海事法令講習の講習

時間は以下表 2.14 のイメージとなる。

船長一等

航海士二・三等航海士

機関長一等

機関士二・三等機関士

海上交通安全法 4 [+E] E E港則法 4 [+E] E E船舶職員法 1 [+E] E E 1 [+E] E E船舶安全法 1 [+E] E 1 [+E] E船員法 3 [+E] E E 1 [+E] E E水先法 2海難審判法 2 2 [+E]船舶機関規則、船舶設備規程 6 [+E] 座学講習時間合計 17 0 0 11 0 0注:Eは各船社(船内)で実施されるeラーニング等による座学研修の代替措置によるものを示す。

  また、下位職からのステップアップではない船・機長については、数字で示した座学に加え、[+E]で示した

  eラーニング等が必要になる。

履修科目講習時間(hrs)

表 2.14 国内海事法令講習講習時間(2010 年度以降のイメージ)

<三級海技士(電子通信)(三電通)資格取得関係>

・ 三電通試験の受験に際し、三海特資格証書及び船舶局無線従事者証明の提

出が必要(夫々の講習後、約 3週間を要する)であったところ、夫々の「講

習修了証」を以って三電通受験が可能にすることとする。(2008 年度内)

・ STCW 条約に従って同様の内容を各締約国で受講済みの者については、三電

通試験の前に実施されている海技免状講習(救急講習・消火講習)の受講

を省略することを可能とする。(2008 年度内)但し、修了試験は従前と同

様に実施する。

<船長確認(新承認制度)関係>

・ 対象国の拡大については、実施の実態や能力評価のあり方を見極めた上で

検討する。

<二国間取極締結国の拡大>

・ 今後日本船舶に配乗予定のある国について早急に二国間取極を締結するべ

く、関係者が協力しつつ、迅速に調査や作業を実行する。

<ワーキンググループの設置>

・ ワーキンググループ(座長:野川忍 東京学芸大学教授)の主な検討課題は

以下のとおりとする。

- 承認試験の外部委託に向けた検討

- Web 会議システム等 新の IT 技術を活用した承認試験導入の可能

- 69 -

- 承認船員制度等に関する具体的改善措置の着実な推進及びフォロ

ーアップ

- その他(海運先進国における承認船員制度の研究等)

これにより、船主協会の要望した承認試験制度の廃止は受け入れられなかった

ものの、承認試験制度の改善に向けて、大きな一歩を踏み出すことができたと考

えられる。今後、ワーキンググループでの検討課題とされた承認試験の外部委託

や、諸外国で採用されている IT を活用した承認試験の導入に向けて、関係者の

積極的な取り組みが待たれるところである。

2 地田知平「日本海運の高度成長の成果」『海事交通研究 第 53 集』(2004 年)、p.44-50 地田知平『戦後日本海運造船経営史④ 日本海運の高度成長』日本経済評論社(1993 年

1 月)、p.209-211 3 『船協海運年報 1996』(社)日本船主協会、(1996 年 10 月)、pp.49-54, 68-88. 4 『船協海運年報 1997』(社)日本船主協会、(1997 年 9 月)、pp.53-60. 5 『船協海運年報 1998』(社)日本船主協会、(1998 年 9 月)、pp.190-193. 6 『船協海運年報 1999』(社)日本船主協会、(1999 年 9 月)、pp.4-8. 7 『船協海運年報 2000』(社)日本船主協会、(2000 年 9 月)、pp.4-5. 8 『船協海運年報 2002』(社)日本船主協会、(2002 年 9 月)、p.5. 9 『船協海運年報 2005』(社)日本船主協会、(2005 年 9 月)、7.2.2. 10 国土交通省 海事局資料 11 『せんきょう 8 月号』(社)日本船主協会、(2007 年)、pp.7-9. 12 交通政策審議会第 11 回海事分科会(2006 年 7 月)、参考資料 3. 13 『せんきょう 8 月号』(社)日本船主協会、(2007 年)、pp.7-9 14 『船協海運年報 2005』(社)日本船主協会、(2005 年 9 月)、7.2.4.

- 70 -

3.世界の船員需給予測状況

本章においては、世界的な船腹量の増大に伴い、船員の不足が顕在化する中

で、世界の船員の需給状況を把握するとともに、世界 大の船員供給国である

フィリピンにおける船員供給状況について整理する。 資料としては、BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATE 及び Manning 2008(Drewry Shipping Consultants Ltd., Precious Associates Limited 刊)

を主に使用した。

(1) 船員需給の現状

BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATEは、世界の船員需給に関する も

包括的な調査である。調査は 1990 年来 5 年毎に実施されており、調査手法は専

門家の意見を踏まえて修正を加えたWarwick大学雇用問題研究所が開発したモ

デルを採用している。調査・検討のフローを図 3.1に示す。 船員供給については、まず各国政府に対してアンケート調査を実施すること

により船員供給を見積もっている。それと同時に海運会社に対してもアンケー

ト調査を実施することにより、船員の就職及び離職の動向を推定し、更に 1995年の調査結果を基に 2000 年の船員供給を推定することにより、 終的な 2005年での推定供給を求めている。

船員需要については、雇用状況についての調査から配乗船員及び予備員の必

要数を推定するとともに、Lloyd’s 統計を基に船舶数を推定することにより、

2005 年時点における船員需要を求めている。 以上の推定結果から、更に船員需要数を修正することにより、2005 年におけ

る船員需給のインバランスを求めている。

調査の結果、2005 年時点における世界の船員供給数は表 3.1に示すとおりで

ある。 2005 年の船員供給数を 1995 年及び 2000 年のそれと比較すると、職員の総数

が 2000 年に減少したものの、2005 年に大幅な増加に転じたのに対して、2000年まで維持していた部員の総数は 2005 年に減少に転じた。 職員数及び部員数の増減を地域別に見ると、OECE 諸国では職員数、部員数

共に減少し続けているのに対して、東欧及びアフリカ・ラテンアメリカ地域で

は、職員数、部員数共に増加し続けている。極東では、職員数は小幅ながら増

加しているものの、部員数の減少は加速しており、2005 には 10 万人以上減少

した。また、インド亜大陸では、2000 年に部員数が大幅に増加し、2005 年に

職員数が大幅に増加した。しかし、2005 年には一転して部員数が減少に転じた。

- 71 -

Initial estimates of

current (2005) supply

Estimates of inflows and

wastage

Estimates of 2000 supply

Estimates of manning and

backup requirements

Estimates of vessel numbers

Final estimatesof current

(2005) supply

Estimates of current (2005)

imbalances

Estimates of current (2005)

demand for sefarers

Estimates of future supply

Estimates of future demand

Estimates of future

imbalance

Country Questionaire

Company Questionaire

1995Study

Manning Enquiry

Lloyd's Register -

Fairplay Data

Viewsabout

inflow and wastage rates

Views about future manning and

backup requirements

Viewsabout fleet

growth

Calibratedemand

- Primary data sources

- Model estimates

- Key assumptions

Survey ofleading opinion

図 3.1 調査・検討フロー (出典:BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATE)

000s % 000s % 000s % 000s % 000s % 000s %OECE contries 165 40.3 222 27.0 147 36.4 191 23.2 133 28.5 174 24.1Easten Europe 61 14.9 93 11.3 62 15.2 107 13.0 95 20.3 115 16.0Africa / Latin America 31 7.6 82 10.0 35 8.7 89 10.8 38 8.1 110 15.2Fas East 123 30.1 353 42.9 128 31.7 332 40.3 133 28.5 226 31.3Indian subcontinent 29 7.1 73 8.9 32 7.9 104 12.6 68 14.6 96 13.4

Total 409 100.0 823 100.0 404 100.0 823 100.0 467 100.0 721 100.0

Officers Ratings20051995 2000

Officers Ratings Officers Ratings

表 3.1 世界の船員供給状況 (出典:BIMCO / ISF MANPOWER 2001 & 2005 UPDATE、表の 000s は千人単位であることを示す)

- 72 -

2005 年時点における世界の船員需要数に関する結果は、表 3.2のとおりであ

る。 船員の需要は、1995 年から 2000 年にかけて減少したものの、2005 年には大

幅に増加した。特に職員数は 2000 年における減少から大幅な増加に転じている。

それに対して部員数は小幅ながら減少し続けている。

1995 2000 2005000s 000s 000s

Officers 427 420 476Ratings 606 599 586

Total 1,033 1,019 1,062

表 3.2 世界の船員需要動向 (出典:BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATE)

表 3.3表 3.3には、表 3.1 及び表 3.2 での推定結果から算出した船員需給のイ

ンバランスを示す。 職員数の供給不足は年々小さくなってきているものの、2005 年時点でも

10,000 人の不足となっている。また、部員数は恒常的に供給過多であるものの、

2000 年における需要不足に比べて 2005 年のそれは小さくなり、改善されてき

ている。

Supply Demand Balance Supply Demand Balance Supply Demand Balance000s 000s 000s 000s 000s 000s 000s 000s 000s

Officers 409 427 ▲ 18 404 420 ▲ 16 466 476 ▲ 10Ratings 825 606 219 823 599 224 721 586 135

Total 1,234 1,033 201 1,227 1,019 208 1,187 1,062 125

1995 2000 2005

表 3.3 世界の船員需給のインバランス

(出典:BIMCO / ISF MANPOWER 2001 & 2005 UPDATE)

また、Manning 2008 は、Drewry Shipping Consultants Ltd.と Precious Associates Limited による独自調査から、取りまとめられたレポートである。

調査レポートは、5 年毎に公表される BIMCO / ISF MANPOWER による過去

のデータと、自らが 35 カ国に対して実施した調査から作成されている。

- 73 -

その結果、船員供給数について、BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATEでの 2005 年時の推算結果と、2008 年時の独自調査に基づく 2008 年時の推算結

果を表 3.4のように比較している。 2008 年には職員数、部員数ともに増加しており、船員の供給状況は改善して

いる。また、その状況改善の傾向は、東西ヨーロッパで特に顕著であると言及

されている。 2005 2008 Difference

Officers 466,500 498,800 32,300Ratings 721,000 747,400 26,400

Total 1,187,500 1,246,200 58,700 表 3.4 2008 年時における世界の船員供給状況

(出典:Manning 2008)

- 74 -

(2) 船員需給の将来予測

BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATEでは、多くのシナリオによる将来

予測計算結果が示されており、シナリオによって将来の船員需給状況は異なる。

同レポートでは、過去の実績に基づいた現実的なシナリオを基準シナリオとし

て採用している。表 3.5に、基準シナリオに基づく将来の船員需給インバランス

の予測結果を示す。 ここでは、船員需要数は、2015 年にかけて増加し続け、特に職員の需要が高

まると予測されている。これに対し部員の供給数は増加傾向にあるものの、職

員に関しては需要数の増加に追いつかず、将来的に供給不足が深刻化すること

が懸念される。

Supply Demand Balance Supply Demand Balance Supply Demand Balance000s 000s 000s 000s 000s 000s 000s 000s 000s

Officers 466 476 ▲ 10 467 488 ▲ 21 472 499 ▲ 27Ratings 721 586 135 740 598 142 774 607 167

Total 1,187 1,062 125 1,207 1,086 121 1,246 1,106 140

2005 2010 2015

表 3.5 基準シナリオによる船員需給インバランスの予測結果

(出典:BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATE)

また、Manning 2008 では、将来的に不足が深刻化する職員数に注目し、その

需給のインバランスについても調査している。その結果を図 3.2に示す。 ここでは、2005 年に均衡に近づいた職員の需要数と供給数のインバランスが、

2008 年以降、再度拡大すると予測されている。その 2012 年における不足数は、

8 万人を超える結果となっている。 この背景には、世界的な船腹量の急増が挙げられており、世界の船腹量と職

員の不足数の関係を図 3.3に示す。 2005 年に一時は鈍化した船腹量の増加数も、2008 年にはその勢いを取り戻

し、更に 2012 年にはその勢いを倍増させている。それに伴って、職員不足が顕

在化していると思料される。

- 75 -

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

700,000N

um

ber

of

Off

icers

Demand 448,000 427,000 420,000 476,000 533,000 630,000

Supply 403,000 409,000 404,000 466,000 499,000 546,100

1990 1995 2000 2005 2008 2012

図 3.2 船員需給インバランスの予測結果

(出典:Manning 2008)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

Num

bers

Ship Numbers 41,457 43,556 46,518 48,505 53,312 62,553

Officer Shortfall 45,000 18,000 16,000 10,000 34,000 83,900

1990 1995 2000 2005 2008 2012

図 3.3 船腹量と船員需給インバランスの予測結果 (出典:Manning 2008)

- 76 -

(3) フィリピン人船員の供給状況

フィリピンは世界 大の船員供給国であり、そのほとんどが外航船員で占めら

れている。フィリピンでは海外船社の給与が国内一般労働者の平均収入の 5 倍

から 10 倍になるため、外航船員は職業として極めて魅力的であると見なされて

いるためと考えられる。 図 3.4 に海外船社に就労しているフィリピン人船員数を示す。 海外船社に就労しているフィリピン人船員は年々増加傾向にあり、2006 年に

は 9年前の 1997 年に比べて約 1.5倍にまで増加している。特に 2003 年からは、

その増加が顕著である。前述した BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATEによる 2005 年現在の船員供給状況と照らし合わせると、世界の船員数約

1,187,000 人のうち、約 2 割をフィリピン人船員が占めることになる。同様に、

極東地域においては、約 359,000 人の船員のうち、約 7 割をフィリピン人船員

が占めることになる。

198,324

196,689

193,300

188,469204,951

209,593

216,031

229,002247,983

274,497

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

Num

ber

of

Filipi

no S

eaf

arers

図 3.4 海外船社に就労している外航船員数 (出典:(財)運輸政策研究機構 国際問題研究所 主要国運輸事情調査「フィリピン運輸事情(H19)」)

また、 表 3.6にフィリピン労働雇用省(Department of Labor and Employment: DOLE)の下部機関である海外雇用庁(Philippine Overseas Employment Administration: POEA)に登録されている外航船員数の年次別推

移を示す。本表と図 3.4とではその数字に開きがあるが、これは登録している船

員数と実際に就労している船員数に差があるためと推察される。

- 77 -

POEA に登録されている外航船員数は増加の一途を辿っており、2006 年には

65 万人を超えた。職種別に見ると、航海系の部員数と司厨部の増加が顕著であ

り、職員に関しては増加しているものの、その伸びは低く、機関系の部員数の

増加も鈍い。

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006Deck Dept.

Officers 39,003 39,056 39,132 39,183 39,274 39,357 40,158Ratings 191,175 199,569 209,562 219,359 229,291 239,438 249,485

Engine Dept.Officers 41,238 41,309 41,407 41,464 41,541 41,605 42,743Ratings 137,013 139,961 143,026 145,716 148,187 150,890 153,169

Catering Dept. 80,071 84,044 88,044 92,610 98,065 103,574 108,954Special 26,080 27,358 28,073 28,654 29,818 30,927 32,964Others - 34 7,094 14,220 19,028 24,010 27,442

Total 514,580 531,331 556,338 581,206 605,204 629,801 654,915

表 3.6 POEA に登録されている外航船員数

(出典:(財)運輸政策研究機構 国際問題研究所 主要国運輸事情調査「フィリピン運輸事情

(H19)」)

- 78 -

(4) まとめ

本章においては、BIMCO / ISF MANPOWER 2005 UPDATE を基に世界の

船員需給の現状及び将来予測についてまとめるとともに、世界 大の船員供給

国であるフィリピンにおける近年の船員供給状況について整理した。 世界の船員需給においては、職員に関しては過去 10 年前より需要が増加して

おり、今後も需要増加が見込まれることが示された。一方で、職員の供給人数

は増加傾向にあるものの、需要の伸びに追いつかず、近い将来における供給不

足の深刻化が懸念される。 また、フィリピンにおける船員供給については、各職種とも毎年増加している

ものの、部員及び司厨員の増加率と比較して職員の増加率は著しく低い。従っ

て、職員を積極的に育成することが今後の船員供給国としての課題であると思

料される。

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4.総括

今回実施した欧州の主要海運国の承認制度に関する調査結果について、被調

査国と我が国を比較すると、次表のとおりとなる。

民間委託の有無

口述又は筆記試験

(EU/EEA諸国の申請者は船長確認により代替可)

管理水準 無 無 無

運用水準 無 無 無

管理水準 有(受講義務はない)

無(ネット上で教材配布)

口述又はコンピュー

ターを利用した試験(オンライン化を進行中)(一等機関士を除く。)

運用水準 無 無 無

船長 4日間 有 筆記試験(3時間)

管理水準 無 無 無

運用水準 無 無 無

船長 2日間*下記の講習

管理水準 3日間*他の講習を含む

無※講習を受けない場合、筆記

試験又は口述試験

運用水準 無 無 無

船長 9日間講習 終日にドイツ語によるプレゼン

テーション(15分間)

管理水準 1日間 無

運用水準 無 無 無

(参考) 船長 7日間

日本 管理水準 2~5日間

運用水準 1~3日間

(注) 職務区分欄の管理水準とは一等航海士、機関長及び一等機関士であり、運用水準とは二・三等航海士及び二・三等機関士である。

〔備考〕 

米国  : 米国籍船舶において業務に従事するためには、米国の市民権が必要であり、外国の海技資格の承認は行っていない。

英国  : 船社は管理水準の法令知識につき責任を負うため、彼らの知識を確認・記録した書類を船舶内に保管しておかなければならない。近々制度改正がある予定。

オランダ  : 承認手続のオンライン化に続き、法令講習修了試験のオンライン化も進めている。同試験は国内2つの公立大学が提供しており、随時受験可能。

ノルウェー : 船社は管理水準及び運用水準が法令知識を有していることを証明しなければならない。運用水準にも法令知識を求めるのはSTCW条約規定より厳しい。

デンマーク : 2007年に船長をEU市民に限る要件を撤廃した。承認試験はDMAの認証を受けた民間組織が実施することも可能。

ドイツ  : 欧州委員会及びEMSAの判断に依拠した制度となっている。すべての航海士にITU/GOC保持を求めている。

【特記事項】

*他国教育施設等の確認について、EU加盟国はEMSA( European Maritime Safety Agency )の現地調査に基づく欧州委員会の認定により

代えることが認められている(EU指令2001/25/EC)。従って、EU加盟国は独自の現地調査・確認を経ることなく欧州委員会認定に基づいて

EU域外国と承認取極めを交わすことができ、これは承認取極締結を進めるに際しての大きなアドバンテージである。ノルウェーもEEAとして

EMSAを活用している点で同様である。

約1か月

【外国海技資格受有者の承認に関する各国の制度の概要】

・身体適正

・ドイツ語能力(船長のみ)

有 2週間

9か国 有筆記試験

(民間で実施)

口述試験(船長確認によ

る免除有)

・身体適正 無

・英語能力(船社が証明)

・身体適正

・雇用契約書(船長・EU/EEA外申請者)

有 1か月

デンマーク

39か国(うちEU加盟国24か国

有口述試験

(民間も実施可)(免除有)

・英語能力

・身体適正有 2週間

46か国(うちEU加盟国27か国)

ノルウェー 無

ドイツ

51か国(うちEU加盟国26か国)

28日

オランダ

43か国(うちEU加盟国26カ国)

・英語能力(船社が証明)

・身体適正

無 有 1

承認証交付

所要日数

承認の要件

44か国(うちEU加盟国20カ国)

英国

船長 無 無

無 ・英語能力 有

海事法令講習修了試験の実施

承認試験の実施

その他の承認要件

通信士資格

の承認

海事法令講習の実施

国名 承認取極締約国数

職務区分

0営業日

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また、世界の船員受給に関する調査結果によると、世界的に船舶職員の供給

人数は増加傾向にあるものの、需要に追いつかず、近い将来には船舶職員の不

足が深刻化することが懸念され、外国人船舶職員の獲得競争が激しさを増して

いくことが予想される。 このような状況下において、我が国の外航海運産業が必要とする優秀な外国

人船員をいかに確保していくかが重要な課題である。 今回調査した主要海運国(5か国)は、主に以下の①から⑤までに掲げるよ

うに、外国人船員の承認の円滑化について様々な措置を講じている。 それぞれの国によりその背景・事情は異なることをも踏まえ、関係者におい

ては、本件調査を通じて現状認識を深め、課題の克服に向けて積極的な対応を

とることが望まれる。

① 承認取極国 今回調査した主要海運国の承認取極国の数(平均40か国以上)は、EU加盟国が独自の調査・確認を経ることなく欧州委員会の認定に基づいて承認

取極を交わすことができるという EU 特有の事情を背景として、我が国のそ

れ(9か国)よりも圧倒的に多い。 ② 承認試験 今回調査した主要海運国の中で、我が国の承認試験に相当する試験を実施

しているのはデンマークのみ(合格率約 92%)であるが、そのデンマークに

おいても EU 加盟国、インド、カナダ等については試験が免除され、また、

フィリピンについては、MAAP、John B. Lncson (Iloilo)、University of Cebu及び PMMA を卒業して訓練船と認められたデンマーク船社の船で実習した

場合は、試験が免除されている。 ③ 承認証交付までの期間 今回調査した主要海運国は、通信士の資格を含め2週間から1か月程度で

交付を可能ならしめている。 ④ 法令講習・法令試験 今回調査した主要海運国では、STCW 条約附属書規則 I/10 に則り、法令

知識の確保のための措置を講じているが、当該措置は、軽減傾向にある。な

お、これらの国では、運用水準については法令講習・法令試験の対象として

いない。

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⑤ 通信士資格 今回調査した主要海運国では、より詳細な調査を要するが、国によっては

GOC の自動承認などの措置を講じ、別途海技免許資格・試験を必要として

いない。

- 82 -

「外国海技資格受有者に対する承認に関する調査報告書」

平成21年1月発行

(事務局)財団法人 日本海事センター・企画研究部

〒102-0093 東京都千代田区平河町 2-6-4 海運ビル 9F TEL 03-3263-9421