森林資源である木材の高度利用法 に関するこれまで...
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森林資源である木材の高度利用法に関するこれまでの研究紹介
野口 昌宏
自己紹介名前:野口昌宏所属:農学部門、森林科学コース学位:博士(農学)専門分野:木材利用工学 (木材の建築物への利用技術)1977年生まれ好きな食べ物:お酒(少量)嫌いな食べ物:ニンジン、明太子ストレス解消法:おなかいっぱい食べる事今年の目標:ダイエット
高校まで:兵庫県の淡路島学部:九州大学(林産学科)大学院:京都大学(森林科学専攻)Guest ph-D student:デルフト工科大学
(土木工学科)東京工業大学(建築物理研究センター)工学院大学(地震防災・環境研究センター)工学院大学(建築学科)秋田県立大学(木材高度加工研究所)
秋田県立大学
東京工業大学
工学院大学
九州大学
京都大学
デルフト工科大学
高知大学
略歴
研究者としての立ち位置
木材サイド
建築サイド
林業サイド
消費者
木材利用工学はここをつなぐのが役割
建築サイドはここをつなぐのが役割
研究分野の紹介
森林科学コースとしての位置づけ
持続的な森林資源の循環には、「植える」、「育てる」、「収穫する」、「加工して使う」が必要
植える
育てる
使う
収穫する
戦後の拡大造林した山が成長し、どんどん使うべき時期なってきた。
0
50
100
150
200
5 20 35 50 65 80 95
植林からの年数(年)
人工林 齢級別 面積(万ha)
全国(平成22年)
(今使える森林資源)(10年後使える森林資源)
・木材の自給率:
約20%→ 10年に後50%
・低層の公共建築物を原則、木造にする。(法律)
用材の用途(木材の利用先は建築)
建築用67%
土木用8%
梱包用8%
家具用9%
その他8%
相馬、有馬ら:木材工業2004
戦後の拡大造林した山が、使う時期になっているのに、需要が先細り。
0
40
80
120
160
200
1960 1980 2000 2020 2040
新築着工工数(万戸)
(予測値■はニッセイ基礎研究所レポート2000年を参考)(新築着工実績数○は国土交通省HPを参考)
・人口・世帯数の減少
・住宅の長寿命化
国産材の安定供給体制が確立されたとしても、
需要先がなくなる。
私が65歳になる
長期的には問題が多い
新たなマーケットが必要
要求性能: 巨大産業制約条件: 近未来
木材を科学している時代ではなくなってきた。
木材は弱いし、木造では、限界があるのではないのか?
木材には限界があるという誤った知識を信じている人も多いと思います。割り箸が簡単に折れるので弱い →これは割り箸が細いため。 →コンクリート≒木材(繊維方向) 設計強度
宇宙に行っている時代に木材の研究とは、後ろ向きですね。 →前を向いています。
木材の誤った知識を、今、修正してください。
木造に限界はない!?
東寺 東大寺大仏殿
1000年以上も前に、巨大木造建築物が建立されている。文化・技術の発展した現在、無理をすれば、木造で何でも作れるはず。(無理をする≒経済性を無視)
46m
59m
12~15階建て
55m
60m以上:超高層
海外の事例
キーテクノロジーはクロスラミナパネルの開発
(メトロポール・パラソル、スペイン・セビリア)
(9階建て集合住宅、イギリス・ロンドン)
国内の事例
(日本集成材工業協会のHPから)ハイブリッド集成材
湾曲集成材
木製土木施設
ガードレール
治山ダム
橋梁
防腐剤注入木材
事例からのまとめ
・経済性に無理をすれば、大体のものを作れる。コンクリートで作れるものは、木造でも作れる。 →資本主義社会では、産業化は不可能。
私の興味
木造が可能と思っている建築(木造ビル建築:未来産業)
・3階までの事務所ビル
・一階の店舗
スーパーマーケット、本屋、飲食店
http://www.suihoo.co.jp/ra-men
私のモチベーション快適な空間
木造ビル建築の長所
街①低炭素な街づくり 建設に要するエネルギー消費量 木造:鉄骨造:鉄筋コンクリート造 256 : 513 : 407 kgCO2/m2②快適空間③再生産可能な材料(サステナブル)
地域④林業活性化による国土の70%の国土の健全化⑤地域産業の活性(地域活性)
①他構造と比べて値段が高い事。 ・木造ビル建築用の木材が高い。 ・構造技術が成熟しておらず、構造部材に無駄が 多い。(木造ビル建築にはぜい肉が多い)②構造設計のための資料が未整備
木造ビル建築の課題
価格で戦えれば、木造ビル建築ばっかりになるはず(!!)
木材の値段理由:需要が少ないため、高くしないと、会社が倒産する。技術的な問題ではない。
現在の木造ビル建築用の集成材(特注材)例えば、120mm×500mm、60mm×200mm 25万円/m3
2階建て木造住宅用の値段(規格材)120mm×450mmまでの集成材 6万円/m3
木造ビル建築が経済的に成立する値段(野口の見積もり) 10万円/m3
悪循環
需要が少ないため、木材の値段が高くなる
木材が高いため、木造ビル建築の建築費が、RCや鉄骨造より割高になり、需要が少ない。
木造ビル建築用の木材値段以外の問題を解決する。
構造技術が成熟させ、構造部材の無駄を極限までなくす。
悪循環を抜け出すトリガーが必要技術面からの提案
木造ビル建築のぜい肉を極限まで削り、木造ビル建築をダイエットさせる。
部材に無駄が多い(ぜい肉はどれくらい?)
(秋田県の県営住宅)
本来必要な寸法と比べて1.4倍~1.8倍程度以上、材料を無駄使い。→3割から5割は削れる
無駄使い(ぜい肉)の理由
部材と部材をつなぐ接合部が弱い。
(部材強度を1とすると、
接合部強度は、0.3~0.5。)
木質のラーメン構造とは部材同士が交差する点を回転しないように固めることで,安定状態にしている構造
無駄使いの原因は接合部が弱い。→強い接合法を開発する
高知大学
信州大学
大分大学
国総研建研
木造ビル建築の研究機関
私のアイデンティティー部材の形にこだわり、部材開発を通した木造ビル建築の構造・構法開発(土木的考え方)
京都大学
北海道林産試
秋田県立大学
鹿児島大学 宮崎県試
設計法や耐火
武蔵工大東京大明治大東京大
一般的な木質材料・部材
湾曲した部材湾曲集成材
(株式会社吉銘のHPから)
通直な部材製材、集成材、
LVL、OSL、PSL(株式会社吉銘のHPから)
面材料合板、パーティクルボード、MDF
野口発案ビル建築に有利な新しい木質材料の形
①形にこだわった新しいI型木質部材の開発
I型木質部材
木質I型部材
I型木質部材のコンセプト
接合部が弱いのなら、答えは簡単。接合部を設置する、部材端だけを大きくした部材を作ればいい。(私が考える木の組み方・木質部材のあるべき姿
強度はサイズの2乗堅さはサイズの3乗
サイズが2倍→強度は4倍
サイズが3倍→強度は9倍
伝統工法から何を学ぶか(温故知新)
スクリューで締め込む
母材追加材
孔のあいた追加材を用意する
追加材に接着剤を塗布
追加材と母材の位置決めをし、追加材の孔をガイドとしてハンドドリルで母材に孔をあける
作業効率 野口一人で 約10分/個程度
試験方法
0
5
10
15
今までの最強 スクリューなし スクリュー有り
強度(kNm)
0
5
10
15
0 0.05 0.1回転角(rad)
モーメント(kNm)
秋田型木ダボ
貼付け型(ラグ補強)
貼付け型
部材強度(基準強度)
スクリューを打つことで強度が約3倍
0
5
10
15
0 0.05 0.1回転角(rad)
モーメント(kNm)
過去の最強
貼付け型(ラグ有)
野口提案I型部材
部材強度(基準強度)
接合部設計思想
割裂・せん断破壊
課題もあるが、過去30年間、不可能といわれてきた接合法の開発に初成功(?)
外周のフレーム
外壁がくるので収まる
外周以外のフレーム
床がくる
床の邪魔にならないか?
柱をたてる 梁を落とし込む
施工性 ①クレーンで落とし込む ②誤差調整する部分を確保
建築サイドの人 そんな部材があれば、より合理的な建築を設計できるが、 そんな部材ないでしょ。
木材サイドの人 そんな部材作るのは、そんなに難しくないけと思うけど、需要や用途がないでしょ。
溝がある?
なぜ、いままで30年間、先輩研究者たちがこんな単純な回答が見つけれられなかったのか
課 題
使ってもらって何ぼの世界。①更なる合理化②周辺技術の整備。③実用化④Goalは木造ビル建築の普及。
②低層ビル建築を対象とした木質ラーメン構造の開発と設計法の構築
私の研究を一言で言えば
木材の枝き の えだ
構造は、材料に形を与え、それを大量に用いて作る。(サルバドリ)
Motivation
面材料
軸材料
面材料
軸材料
一般的な木質材料 考案した木質材料
枝付き柱
コントロールタイプ(従来型のラーメン構造)
改良型柱を用いて,大きな接合部を持つタイプ
52
232
52
52
52
ボルトの本数は同じ
モーメントアーム:小 モーメントアーム:大
改良型柱を用いて,モーメントが小さい場所に接合部を配置したタイプ
-20
-10
0
10
20
30
-0.05 0 0.05 0.1 0.15
Story drift (rad)
Shea
r for
ce (k
N)
Type S
Type C
Type E
試験結果
課 題
使ってもらって何ぼの世界。①更なる合理化②周辺技術の整備。③実用化④Goalは木造ビル建築の普及。
③実験と顕微鏡を用いた木材の割れ現象の解明
安全性の検証(構造設計)できなければ、建築物は建てられない。
低コスト化・ための構法開発
木造ビル建築の一般化
安全性検証法
安全性の検証データが未整備。
・木材そのもののデータ →整備されている・接合部・部材欠点のデータ →未整備・コンピュータシミュレーション →整備されている
安全性の検証(構造設計)できなければ、建築物は建てられない。(設計者は懲役3年以下)
たぶん安全です。根拠はありませんが・・・。
部材・接合レベルでは,木材(部材)が割れて破壊する
割れ強度を自由に推定出来るようにしよう
現象解明モデルの構築
部材・接合部設計法
0
20
40
60
80
100
120
0 100 200 300
梁せい(mm)
最大荷重(kN)
なぜ、木材の割れが扱いにくいのか?
1:1.6:2.4
相似則があてはまらない。→破壊力学
1.01.62.4
破壊力学の前提
なぜ、こういう形になるのか?
0
50
100
0 0.5 1
変位
応力度
0
50
100
0 0.5 1
変位応力度
放射仮導管がもろい→エネルギー吸収期待できず
有縁壁孔からの破壊でエネルギー吸収
細胞(仮導管)がやぶれることでエネルギー吸収
柔らかいスギの場合
米松の場合
目視で確認できるブリッジング
つくるだけでいいのか?
④シロアリ被害木材の診断法・補強法の開発
長く使う・維持管理
0
2
4
6
8
0 5 10
欠損率(%)
強度(N/mm2)
欠損率と強度
終局時
モデル化の考え方(昨年発表)
弾性時
幾何学的にモデル化FEMを根拠に力の流れの想定
診断評価基準
評価 判断基準
なし ドライバーの先端貫入せず
小 ドライバーの先端の貫入量が5mm未満
中 ドライバーの先端の貫入量が5mm以上1.0mm未満
大 ドライバーの先端の貫入量が10mm未満
表 ドライバー貫入診断の評点法
評価 判断基準
なし 通常の打診音小 かすかに空洞音が感じられる
中明らかに空洞音が感じられる(被害によっては叩いた部分が深さ10mm未満で陥没する)
大 大きな空洞音がする
表 打診診断の評点法
評価 判断基準
なし 表面上に痕跡がない小 少し食われた跡がある(1~2個程度)中 明らかに食われ、その跡から内部が見える大 木材表面がぺらぺらとしていてはがれる
表 目視診断の評点法
(a)健全材 (b)欠損率12%
整った波形 凸凹の波形
音の波形(横軸を引き伸ばした)
蟻害材の打撃音 様々な大きさの蟻害穴で共鳴し、その結果として、様々な基本周波数をもつ音波が入り混じり、それらが干渉し合っているため、減衰が大きくなり、かつ、波形が乱れる 。
(a)健全材 (b)欠損率12%
蟻害卓越周波数
蟻害卓越周波数の発見
(a)健全材 (b)欠損率12%
0
200
400
600
800
1000
0 5 10 15 20欠損率[%]
卓越周波数[Hz]
打撃音による一つの診断法 (案)の提案
①打撃音を収録(マイクの周波数帯域:2 0~16000Hz)
②パワースペクトルを作成(ただし、縦軸は音圧) ③全区間での第 1・第 2 卓越周波数、蟻害越周波数とそれぞ
れの音圧を求める。
④
卓越周波数の音圧)全区間の第
卓越周波数の音圧)全区間の第
1(2(=A を求める。
⑤
卓越周波数の音圧)全区間の第
)蟻害卓越周波数の音圧
1((
=B を求める。
⑥ 卓越周波数)診断部のの第卓越周波数)健全部のの第 1(-1(=C を
求める。
⑦蟻害被害の有無の診断 1)診断部の第二卓越周波数と健全部の第二卓越周波数を比
べ、明らかに小さければ蟻害被害あり、その他の場合 2)で検討
する。 2)A の値が 40 以上になれば蟻害ありと判断する。 ⑧蟻害ありの場合、欠損率は以下の式により算定した小さい方
で算定する。
5B=欠損率
4.1 1C=欠損率
⑨⑧で求めた欠損率を用いて、3 章のめり込み算定式でめり込
み強度等を算定する。
研究事例(新しい補強法の開発)
開発した補強方法①電動丸ノコによりスリットを入れる。
②ハンドガンによるエポキシ樹脂を注入する。
0
20
40
60
80
100
120
0 5 10 15
欠損率(%)
強度比(%)
補強無
補強有
補修事例(新しい補強法)
低粘度含浸性エポキシ樹脂を含浸
木造住宅は2000万円/棟
木造住宅
柱は約100本
柱は1本1500円(6万円/m3)
柱の材料費は15万円
柱を7万円/m3で買ってもらうと山にもお金が残るかも(5000円/m3)
柱の材料費は2万5千円UP
柱の材料費が2万5千円すると
木造住宅は2000万円+2万5千円/棟となり、価格が0.125%UPする。これを設計で吸収してもらえれば、山は助かる?
そうすると
技術面から、インセンティブを与えることが出来るような課題を見つけて取り組みたい。
取り組みたい課題(戦略立たず)
地域住宅(伝統的な住宅の復活)
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
0 0.005 0.01 0.015
変形角(rad.)
荷重(KN)
柱の見える住宅
研究(試験)事例(乾燥割れの伝統接合部への影響)
http://wdb.howtec.or.jp/木材を乾燥したために発生する割れ
(100度以上の高温乾燥)
研究事例(耐震性を確保)
住宅ニーズの多様化
(M Noguchi他:Proc. WCTE 2008)
(写真:佐野氏提供)
よろしくお願いいたします。