被検者の苦痛の軽減を目指した大腸内視鏡 挿入操作支援ロボット … ·...
TRANSCRIPT
被検者の苦痛の軽減を目指した大腸内視鏡 挿入操作支援ロボットの開発
産業医科大学医学部第3内科学准教授 久米恵一郎
医学部合同新技術説明会2011-5
背景(1):大腸癌の現状
1位: 肺癌 2位: 胃癌 3位: 大腸癌 4位: 肝臓癌 5位: 膵臓癌 6位: 前立腺癌 7位: 食道癌 8位: 胆嚢癌 9位: 悪性リンパ腫 10位:白血病
1位: 大腸癌 2位: 肺癌 3位: 胃癌 4位: 膵臓癌 5位: 乳癌 6位: 肝臓癌 7位: 胆嚢癌 8位: 子宮癌 9位: 卵巣癌 10位:悪性リンパ腫
(2009年:厚生労働省「人口動態統計」)
男 女
・今後も罹患数は増加し2015年には16万人を超えると予想されている。
背景(2)大腸癌検診
↓ 大腸内視鏡
便潜血陽性 or
家族歴あり
前の検査の時は、痛くなかったのに….
痛い! もう止めてくれ …. お産より苦し
い?!
・大腸内視鏡検査は、本学付属病院では年間1,000件以上実施されており、全国80医科大学を加えれば10万件、さらに大小病院・人間ドック等を含めれば年間数十万件は行われていると考えられる。
大腸内視鏡検査の実際 大腸癌検診
押込むと強い痛みを感じる事が多い:腸間膜の伸展(お産より痛いと感じる場合もある)。
丁寧に腸管を短縮しながらループを解除しつつ挿入する技術が施行医に必要となる。
背景(3)大腸内視鏡挿入法
ループしてしまった例 →先端が先に進まなくなってしまう。
内視鏡医は、この腸管の過伸展をなるだけ起こさぬように内視鏡を挿入する技術を身に付けるトレーニングを積み重ねるが、要領良く上達するとは限らない。確かにエキスパートは苦痛を最小限に抑えられるが、年間全国で数十万件も行われている実情を勘案し、平均的な内視鏡医(日本消化器内視鏡学会の会員数:32,000人)の技術を如何に平準化・容易化し得るかが重要であると考えた。
ロボット化しようと考えた前提
内視鏡ロボットの現状
腹腔鏡手術ロボット「ダヴィンチ」 (イントゥイティブサージカル社) 通常の腹腔鏡手術
市場のロボット・研究は、硬性鏡=外科手術用
本研究の対象は、軟性鏡=内科検査・治療用
なぜ外科用ロボットが多いのか? ・外科と外科用ロボット・・・全世界的に研究開発されている ・内科と軟性鏡・・・ハード、ソフト(手術法)ともに日本だけが強かった →軟性鏡の技法は、一部、日本的職人技の世界観がある
着 想
上
下
左
右
回旋
挿脱
回旋(手首)
挿脱
上 下
右
左
操作に個人差
・姿勢、習慣、癖(修得のための障害)
上記の機械的4軸方向の動作
経口・ 経肛門
上
下 右 左
挿入 右
脱出 左回旋
入力も機械的4軸操作へ
個人差を排除
大腸内視鏡挿入支援ロボット1号機の概要
図1:1号機メカ部全体図 (設計:九州ポリテクカレッジ 生産技術科教授黒木猛)
1)通常、術者の左手で行われるハンドル部(1)の操作、即ち二つのハンドルを機械的・電気的に稼動させることを可能にする仕組みが必要である。 具体的には、内視鏡スコープ先端部を上下に操作する第一ハンドル(2)と左右に操作する第二ハンドル(3)を機械的・電気的に稼動させる仕組みを備える。 2)左右の手と立位での協調操作のうち、スコープを軸方向に回転させる操作(揺動操作)を機械的・電気的に稼動させることを可能にする仕組みを備える。 3)左右の手と立位での協調操作のうち、スコープを水平方向に挿脱(出し入れ)する操作を機械的・電気的に稼動させることを可能にする仕組みを備える。 4)上記1)〜3)の仕組みを一体化した装置とする。 5)1)〜4)の操作は、ひとつの盤面にまとめられた操作盤(操作装置、操作ボックス等)にて座位で操作・制御することを可能にする。 6)送気・送水ノズル(14)よりの送気とスコープ先端部の対物レンズ(15)の汚れの随意洗浄の送水を可能とする第一ボタン(6)、吸気・吸引を担当する第二ボ タンの操作(7)を機械的・電気的に稼動させる仕組みを備える。具体的には、フットスイッチ3ケで捜査可能とする。
1
2
3
12
11
図2:汎用内視鏡 (図1.2の数字は各部で同じ)
7
6
1号機のロボット操作とその仕組み
ハンドル用 モータ
大腸内視鏡挿入支援ロボット (Endoscopic operation robot: EOR)
協力:九州ポリテクカレッジ
性能試験
大腸内視鏡トレーニングモデルを用いてEOR ver. 1の性能を検証
方 法 1.挿入10回毎の盲腸到達平均時間を計算し、学習効果の有無を検討
2.対照として従来法で上記同様の検討
*大腸内視鏡トレーニングモデルは、(株)京都科学を用い、6段間のパターンのうち、最も優しいパターン1にて検討
・パターン1:大腸内視鏡操作に慣れ親しむ。S状結腸でループを形成せずに深部大腸へ挿入し、大腸全長の各部位における挿入方法を習得する。
結 果
73.70±25.37 38.40±6.24 27.60±4.01 23.80±3.65 22.90±5.02
3.77±1.34 3.40±0.97 2.70±0.95 3.10±0.88 2.60±1.08
Kume K. World J Gastrointest Endosc. 2011; 3: 145-150.
小 括(1)
・EOR ver. 1を用いた大腸内視鏡トレーニ ングモデルによる挿入は、ラーニングカーブ を描けたが、実用に堪えうる挿入操作・時間 とはならなかった。
EOR Ver. 2 開発への課題 *課題は多数あるが、以下3点に限定
1.着脱可能な仕組み
2.無限回旋可能な仕組み
3.アングル操作に過大な負荷がかからない仕組み
Ver. 1は、伝導装置が直付けのため、緊急時の着脱が不可能。
Ver. 1は、回旋が330度まで。
Ver. 1では、過大な伝導負荷でスコープを破壊。
Ver.2の設計
トルクリミット (設定以上の動力を伝えない装置)
360度以上の回転可能な機構
着脱可能な機構
協力:九州ポリテクカレッジ
Endoscopic operation robot: Version 2
小 括(2)
・EOR ver. 2 は、技術的な3つの課題を克服したが、挿入時間等(データ未公表)の実用上の改善には至らなかった。
実用化に向けた課題
1.力覚提示機能
3.位置制御
2.最適な入力装置の開発と選択
5.衛生管理
4.空間認識・位置提示
・現在、近隣大学と医工連携で開発中。
・内視鏡医にとって負担のない最適な操作装置を選択する必要あり。
・消化管という臓器の特性上、消化管運動等と同期させながら位置固定を図りたい。
・内視鏡スコープが見ている方角を客観視したい。
・口から出入りする内視鏡の衛生管理機構が必要。
想定される用途
検診としての大腸内視鏡検査
各種内視鏡治療
1.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
3.経管腔的内視鏡手術(NOTES)
2.内視鏡的十二指腸乳頭切開術(EST)
・内視鏡で早期の食道癌・胃癌や大腸癌を切除
・内視鏡で総胆管結石を摘除
・内視鏡で体内臓器を治療
4.その他
想定される業界
・産業ロボット
・精密機器
・内視鏡他、医療機器
企業への期待
・複数の工学的要素技術の集結
・最終製品メーカー:産業ロボット?
大学工学部及び企業研究室
・最終的な研究成果の簡易システム化
本技術に関する知的財産権
出願番号:特願2009-129643 発明の名称:内視鏡遠隔操作システム 発明者:久米 恵一郎 出願者:学校法人産業医科大学 出願番号:特願2010-107658 発明の名称:内視鏡遠隔操作システム 発明者:久米 恵一郎 出願者:学校法人産業医科大学
EOR ver. 1, 2の研究協力者
産業医科大学 ・産学連携・知的財産担当教員講師 橋本 正浩
九州ポリテクカレッジ ・生産技術科教授 黒木 猛 ・生産機械システム科准教授 新貝 雅文 ・制御技術科講師 杉原 崇洋
(財)北九州産業学術推進機構 (FAIS) ・ロボット開発部コーディネータ 稲川 直裕
お問い合わせ先
産業医科大学大学
産学連携/知的財産担当教員 橋本 正浩
TEL 093-603-1611 ext.4679
e-mail chizai@mbox.pub.uoeh-u.ac.jp