自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数 … ·...

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- 93 - 東京成徳大学臨床心理学研究,19号,2019,93-106 原著 自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数 との関係―自他境界の観点からの検討― 伊東 佳寿子 大石 幸二 菊池 春樹 自閉スペクトラム症(ASD)者は,自己を理解する過程において,自分と他者を区分する自他 境界(小山,2016)の曖昧さゆえに,困難さを抱きやすいと考えられる(佐藤・櫻井,2010)。そ のため,ASD者が自他境界を明確に意識できることや,対人場面で自己の安定感や他者とよい距 離感を保てることは重要であろう。本研究では,自己を保ちながら他者と関わることと,ASD傾 向との関係について,アナログ研究により調べることを目的とした。調査Ⅰで,半構造化面接を行い, 他者との関わりや自他の差異に対する意識に,自閉症スペクトラム指数(AQ)(若林他,2004) による違いがみられるか検討した。質的分析の結果,他者と関わる中で,他者とわかり合えないと 感じた時の対処に差がみられた。AQが20以下の人は,自己を無理に崩さずに,他者とよい距離感 を保ち,自他の違いを受け入れる特徴があった。これを,自他境界が明確である対処として,「積 極的対処」と呼ぶこととした。一方,AQが24の人は,他者に合わせようとしすぎて疲れ,他者と 関わるのをやめる特徴があった。こちらは,自他境界の意識が曖昧な対処として,「消極的対処」 と呼ぶこととした。調査Ⅱでは,大学生を対象に,AQ日本語版(若林他,2004)と自作した項目 で構成される質問紙調査を実施した。仮説として,他者とわかり合えないと感じた時,AQの高い 人ほど「消極的対処」を,AQが低い人ほど「積極的対処」を多く選択すると推測された。分散分 析の結果,AQによる対処の選択数の差は, 「消極的対処」で有意であったが,「積極的対処」では, 有意差はみられなかった。よって,AQが高い人ほど自己を保てなくなる関わり方をとりやすいこ とが示唆され,これには自他境界の曖昧さが関係している可能性が考えられた。一方で,自己を崩 さずに他者と関わるスキルは,AQ低群も獲得できるものであると考えられた。 キーワード:自閉スペクトラム症(ASD),自己,他者との関わり,自他境界 問題と目的 自閉スペクトラム症(ASD)の特徴 DSM-5によると,自閉スペクトラム症(Autism SpectrumDisorder:ASD)とは,社会的コミュニケー ションと社会的相互反応の障害と,行動・興味・活動 の限定されたパターン的な繰り返しといった症状を 中心とした発達障害である(岡田・鳥居・辻,2016)。 その特性として,感覚刺激に対する過敏性(中村・沖 野・小野・中山,2014)や,複数の要素で構成された 刺激に対してある特定の要素のみに限定的に反応して しまうといった刺激の過剰選択性(ベンジャミン・ バージニア・ペドロ編著,井上監修,四宮・田宮監 訳,2016),情報を文脈にそって処理し高次の意味を 作り出す役割を担う中枢統合の弱さ(水田,2013)等 が挙げられる。このような,定型発達と異なるASD の特性は,しばしば対人関係におけるトラブルを生じ やすくし,学校や社会で不適応状態に陥ってしまう場 合も少なくない。例えば,中西・石川(2014)による と,自閉的特性を強く示す子どもは通常学級に一定数 存在しており,特に自閉的特性を強く示す場合に,学 校不適応に陥る可能性が高いことが示唆されている (中西・石川,2014)。一方で,菊池(2013)は,むし ろ障害が軽度であるほど,療育的介入の機会が少な く,学童期以降に不適応状態になり,その結果生涯に わたり就労困難な状態になるということもあると指摘 している。また,ASDの原因は脳の中枢神経の機能 障害であることが解明されているが,脳の機能障害は 多様な背景疾患によりもたらされるため,未だ原因 は特定されていない(梅永・島田,2015)。このよう に,ASDは,その疾患の本体については明らかでな い中で,行動としてみえる症状や,身体的・心理的な 特性からの定義づけがなされている発達障害である。 そのため,定型発達からASDまでは,その特性上で の連続体(スペクトラム)としてとらえられ,個人 の特性の多さによって,ASDの傾向を測定する「自 閉症スペクトラム指数(AQ)」(若林・東條・Baron- Cohen・Wheelwright,2004)尺度も開発されている。 AQを用いた研究(金井,2010など)では,診断をも たない大学生の中にも高いASD傾向を示す者が一定 東京成徳大学大学院心理学研究科 立教大学現代心理学部 東京成徳大学応用心理学部

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Page 1: 自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数 … · そのため,定型発達からASDまでは,その特性上で の連続体(スペクトラム)としてとらえられ,個人

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自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数との関係 ―自他境界の観点からの検討―東京成徳大学臨床心理学研究,19号,2019,93-106  原著

自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数

との関係―自他境界の観点からの検討―

伊東 佳寿子1  大石 幸二2  菊池 春樹3

 自閉スペクトラム症(ASD)者は,自己を理解する過程において,自分と他者を区分する自他

境界(小山,2016)の曖昧さゆえに,困難さを抱きやすいと考えられる(佐藤・櫻井,2010)。そ

のため,ASD者が自他境界を明確に意識できることや,対人場面で自己の安定感や他者とよい距

離感を保てることは重要であろう。本研究では,自己を保ちながら他者と関わることと,ASD傾

向との関係について,アナログ研究により調べることを目的とした。調査Ⅰで,半構造化面接を行い,

他者との関わりや自他の差異に対する意識に,自閉症スペクトラム指数(AQ)(若林他,2004)

による違いがみられるか検討した。質的分析の結果,他者と関わる中で,他者とわかり合えないと

感じた時の対処に差がみられた。AQが20以下の人は,自己を無理に崩さずに,他者とよい距離感

を保ち,自他の違いを受け入れる特徴があった。これを,自他境界が明確である対処として,「積

極的対処」と呼ぶこととした。一方,AQが24の人は,他者に合わせようとしすぎて疲れ,他者と

関わるのをやめる特徴があった。こちらは,自他境界の意識が曖昧な対処として,「消極的対処」

と呼ぶこととした。調査Ⅱでは,大学生を対象に,AQ日本語版(若林他,2004)と自作した項目

で構成される質問紙調査を実施した。仮説として,他者とわかり合えないと感じた時,AQの高い

人ほど「消極的対処」を,AQが低い人ほど「積極的対処」を多く選択すると推測された。分散分

析の結果,AQによる対処の選択数の差は,「消極的対処」で有意であったが,「積極的対処」では,

有意差はみられなかった。よって,AQが高い人ほど自己を保てなくなる関わり方をとりやすいこ

とが示唆され,これには自他境界の曖昧さが関係している可能性が考えられた。一方で,自己を崩

さずに他者と関わるスキルは,AQ低群も獲得できるものであると考えられた。

 キーワード:自閉スペクトラム症(ASD),自己,他者との関わり,自他境界

問題と目的

自閉スペクトラム症(ASD)の特徴

 DSM-5によると,自閉スペクトラム症(Autism 

Spectrum Disorder: ASD)とは,社会的コミュニケー

ションと社会的相互反応の障害と,行動・興味・活動

の限定されたパターン的な繰り返しといった症状を

中心とした発達障害である(岡田・鳥居・辻,2016)。

その特性として,感覚刺激に対する過敏性(中村・沖

野・小野・中山,2014)や,複数の要素で構成された

刺激に対してある特定の要素のみに限定的に反応して

しまうといった刺激の過剰選択性(ベンジャミン・

バージニア・ペドロ編著,井上監修,四宮・田宮監

訳,2016),情報を文脈にそって処理し高次の意味を

作り出す役割を担う中枢統合の弱さ(水田,2013)等

が挙げられる。このような,定型発達と異なるASD

の特性は,しばしば対人関係におけるトラブルを生じ

やすくし,学校や社会で不適応状態に陥ってしまう場

合も少なくない。例えば,中西・石川(2014)による

と,自閉的特性を強く示す子どもは通常学級に一定数

存在しており,特に自閉的特性を強く示す場合に,学

校不適応に陥る可能性が高いことが示唆されている

(中西・石川,2014)。一方で,菊池(2013)は,むし

ろ障害が軽度であるほど,療育的介入の機会が少な

く,学童期以降に不適応状態になり,その結果生涯に

わたり就労困難な状態になるということもあると指摘

している。また,ASDの原因は脳の中枢神経の機能

障害であることが解明されているが,脳の機能障害は

多様な背景疾患によりもたらされるため,未だ原因

は特定されていない(梅永・島田,2015)。このよう

に,ASDは,その疾患の本体については明らかでな

い中で,行動としてみえる症状や,身体的・心理的な

特性からの定義づけがなされている発達障害である。

そのため,定型発達からASDまでは,その特性上で

の連続体(スペクトラム)としてとらえられ,個人

の特性の多さによって,ASDの傾向を測定する「自

閉症スペクトラム指数(AQ)」(若林・東條・Baron-

Cohen・Wheelwright,2004)尺度も開発されている。

AQを用いた研究(金井,2010など)では,診断をも

たない大学生の中にも高いASD傾向を示す者が一定

1 東京成徳大学大学院心理学研究科

2 立教大学現代心理学部

3 東京成徳大学応用心理学部

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伊東 佳寿子  大石 幸二  菊池 春樹

数いることが確認されている。

ASD者の自己認識

 現在,ASD者の自己に着目した研究は少ない。滝吉・

田中(2011)によると,ASDに関する研究数は1970

年代頃から急速に増加し続けているが,そのうち自己

に関する研究は,公表された論文全体の約1%である。

そして,それらの観点も多様である。

 そのような中,近年は当事者による自己陳述という

切り口からの研究が少しずつなされはじめている。滝

吉・田中(2011)は,22名のASD者と880名の定型発

達者を対象に,自己をどのように理解しているかにつ

いての調査を行った。その結果,定型群は,相互的な

対人関係の中で自己を肯定的に,対人性の含めない中

で自己を否定的に理解する傾向があった。一方ASD

者は,他者との相互的な関係性の中で自己を否定的に,

対人性を含めない中で自己を肯定的に理解しているこ

とが示された。すなわち,ASD者は他者との関わり

の中で自己を理解するが,それによって自分自身ので

きなさや困難さを認識しやすく,否定的な自己理解に

つながりやすいという,特徴があるということが示唆

された。

 木谷(2015)は,成人後にASDと診断された10名

に面接調査を行い,診断前から現在にかけて,その人

がいかなる「自分」を抱えてきたのかを明らかにしよ

うとした。M-GTAによる分析の結果,ASD者は,は

じめ『他者が侵蝕してくる』,『自分の姿が見えてこな

い』といった「おぼろげな自分」を抱えながら他者と

関わって生きようとしていた。そこで,彼らは自分

の「身体の訴えをきき流し」ながら『できなさの中

に自分を垣間見る』中で,『どうにか生きていく手立

て』をとろうとする〈苦悶のサイクル〉を巡る。しか

し,あるとき「身体の訴えをきき入れる」ことで,『診

断名が自分を説明してくれる』一方で『診断名では自

分を語りきれない』といった〈調整のサイクル〉へと

転じる。そうして,自分を抱え直し,人の中で生きら

れる自分の形を探す試みへと導かれるという過程を明

らかにした。しかし,『人の中で生きようとする』ゆ

えに,再び『できなさの中に自分を垣間見る』〈苦悶

のサイクル〉に戻ってしまうこともあるという。この

木谷(2015)の考察において,〈苦悶のサイクル〉は,

滝吉・田中(2011)が明らかにした,他者との関係性

の中で自己を否定的に理解するというASD者の特徴

を支持し,そのプロセスを説明しているものだと捉え

られる。また,『身体の訴えをきき流す』とは,例え

ば体調の悪さや疲労感を自覚できないといったことで

あり,ASD者は自分の身体が自分自身であるという

認識が弱く,そのことによって〈苦悶のサイクル〉を

経験するにいたると説明している。

 佐藤・櫻井(2010)は,当事者による自伝である,

Donna Williams著「自閉症だったわたしへ」をKJ法

で分析し,ASD者の自己の特徴と自己概念獲得の様

相を明らかにしようとした。その結果,様々な外的剌

激からの侵入されやすさや,あるいは自己の外部への

拡張といった【境界の弱さ】と,自己の身体イメージ

をもてない,変化の中で一貫した人格を保てないと

いった【統合の弱さ】が自己の特徴として挙げられた。

このような境界や統合の弱い自己感は,滝吉・田中

(2011)が言及した,漠然と「自分は変わっている」「他

の人と違う」と感じつつ,自己のさまざまな面を統合

して表現しきれないという自己のわからなさに関係し

ていると考えられる。また,木谷(2015)の研究にお

ける,ASD者の抱える『他者が侵蝕してくる』こと

や『自分の姿が見えてこない』ことによる「おぼろげ

な自分」も,この自己に関する境界と統合の弱さを裏

付けている感覚であるといえる。佐藤・櫻井(2010)

は,ASD者はこのような自己感を基盤にしているた

め,対人関係の中で自己感や自己理解を得ようとすれ

ばするほど,自己喪失の危機につながってしまい,他

者との関係の中で自己認識を深めていくことは非常に

困難であると指摘している。これは,Farley,Lopez 

& Saunders (2010)は,定型発達者に比べてASD者は,

他者の視点を通して自己を概念化する能力が低いとい

う示唆にも通じる。ただし,佐藤・櫻井(2010)は,

当事者はそうした困難さへの対処として,自己が脅か

されない対人距離をとりながら関わりをもつことや,

対人関係から離れ,対物関係の中での安心感に戻ると

いう方法を,自ら少しずつ編み出していくということ

についても言及している。

 これらの知見から,ASD者が,対人関係の中で安

定した自己理解を可能にするためには,境界や統合の

強い自己感が基盤となることが重要であると考えられ

る。そのためには,対人的な関わりにおいて程よい距

離感を保ち,人とともにいながらも,安定した自己を

感じられるようなコミュニケーション方法を獲得する

ことが必要であろう。すなわち,ASD者の自己理解

において,自分と他者の区分を明確にしながら,自己

の安定感や他者との程よい距離感を実感できることは

重要となるであろう。

 そのような重要な役割を果たしうるものとして,小

山(2016)は,自他境界線(バウンダリー)について

説明している。小山(2016)によると,自他境界線と

は,自分と他者とを区分する境界線のことである。自

他境界線を設定することで,自分の領域が明確になり,

自分は何に対して責任を負う必要があり,何に対して

はその必要がないのか,また,どこからが他者が責任

を負う必要のある事柄,範囲なのかということがわか

りやすくなる。それにより,その人が自身の責任のも

とでやり遂げる必要のあるものに対して,主体的・自

発的に関わり,行動することを助けると考えられてい

る。さらに,小山(2016)によると,自他境界線には,

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自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数との関係 ―自他境界の観点からの検討―

自分自身を保護する機能もある。すなわち,自分の領

域を侵犯して,自分の存在や自分の領域にあるものを

脅かす,危険な事柄や存在に対しては「ノー」と言い。

反対に,自分の健全な心身の育ちを助けてくれるもの

や,自らの成長や回復のために必要なものに対しては

「イエス」と言うことで,自らに内面的な安定感をも

たらす働きである。つまり,適切な自他境界線が形成

されることは,自分と他者の領域を互いに尊重し,適

切な距離感を保ちながら,円滑で健全な人間関係を維

持することに繋がると考えられる。

 一方で,自分と他者を分離する意識というものは,

発達の中で適切に獲得できない場合もあると考えられ

る。例えば,自他境界線の発達を妨げる要因として,

親が子に対して,自分自身で選ぶ権利を許さず,過度

なコントロールをとる場合が考えられる。あるいは,

本来は親や他者の選択による責任を,子に負わせよう

とし,罪悪感を抱かせるといった場合もそうであろう。

また,そういった経験は,虐待やいじめといった形で

与えられる可能性もある。小山(2016)は,自他境界

線が十分に確立されていない場合,その人はたとえそ

れが自分の欲することでなく,自分の領域外の事柄で

あっても,一方的に他者の要求に応じようとしたり,

応じたくなってしまう場合があるという。または,他

者の感情,態度,行動,願望,選択権を自らのものの

ように所有しようとしてしまい,他者の領域を侵して

しまう場合もあるという。

 このような状況は,ASD者の自己をとらえにくく

していた特徴に類似していると考えられる。先に述

べた,佐藤・櫻井(2010)が明らかにしたASD者の

自己の特徴である境界と統合の弱さというのは,その

まま自他境界線の曖昧さと言い換えることができそう

である。例えば,ASD児によく見られる行動として,

他者の物を全く抵抗なく触る・使う,突然話の途中か

ら話し出す等がある。彼らはしばしば,「どんな(誰

の)物も使いたいときに使っていい」,「自分の考えを

相手は理解していて当然」と考え,行動してしまうも

のである。また,他者の発言に対して真に受けやすく,

傷つきやすいといった特徴も,自分の考えは当然周囲

に理解されているはずだという前提があることによる

と考えられる。これらのことから,ASD児にとって,

自分と他者はそれぞれが異なる心をもつ固有の存在で

あるといった考えは,定型発達の場合よりも自然には

獲得されにくいことが予想される。そして,このよう

な自他境界線の曖昧さは,彼らの独特な行動と結びつ

き,それによって対人関係におけるトラブルを生じや

すくしている可能性が考えられる。定型発達児に比べ

て,自他境界線を発達の中で自然と獲得することの困

難さが,ASD者の様々な場面での生きづらさにつな

がっているのではないだろうか。

ASD者の自他区分

 では,ASD者は,どのようにして自分と他者を区

分してゆくことが可能だろうか。これに関する研究も,

現在のところ少ない。そのような中,他者を自分とは

異なる心を持つ存在として認識できるまでのプロセス

に関して,別府(1994)は,ASD児の特定の相手の

形成について調べた。そして,特定の相手と形成する

関係の質が,不安・不快な場面で求める関係のレベル

に移行することが,他者を一主体と認識する,他者

認識や自己認識の成立と連関することを示した。2001

年には,ASD児は,多くの愛着対象と多くの行動・

場面で自らに快の情動を引き起こす経験を持つことに

よって,行為者としての他者を理解し,愛着対象との

情動共有経験ができることによって,心的世界をもつ

存在として他者を認識するようになるということを明

らかにした。他にも,川田(2011)は,役割交換模倣

を行うことで自他の認識の発達に効果がある可能性を

示した。また,浜田(1992)は,人が自分を1つのま

とまりとしてとらえ,他と分離する第一段階には,身

体的なまとまりが重要であるということを指摘してい

る。これに対して,ASD者は自分の身体を自分自身

としてとらえることへの困難さもうかがえる(佐藤・

櫻井(2010)など)。

 このような特性をふまえると,ASD者が自他を切

り離し,自分も他者もそれぞれ異なる心を有する存在

であるということを認識していくには,定型発達者と

は異なる独自のアプローチが必要となると考えられ

る。

全体目的

 ASD者が対人関係の中で自己を理解していくには,

自他の区分を明確にし,自己の安定感や他者との程よ

い距離感を実感できることが重要であり,それには

自他境界(小山,2016)の機能が関連していると考え

られる。しかし,現在ASDと自他境界の関係に関す

る研究はほとんどない。そこで,本研究では,ASD

の特性の強さによって,自他境界はどのように意識さ

れ,自己や他者の理解や関係性に関与しているのかに

ついて調べる。具体的には,自他境界の一側面と考え

られる,自己を保ちながら他者と関わるということと,

ASD傾向との関係について,アナログ研究により調

べることを目的とする。

調査Ⅰ

 調査Ⅰでは,自他境界とは「自分と他者はそれぞれ

異なる一人の人間であることの認識を指し,それを自

分で意識することによって,自分というものに対する

安心感や他者との良い関係を築く助けとなるもの」で

あると操作的に定義し,この自他境界概念とASD傾

向の関係について調べる。半構造化面接を行い,自己

と他者,およびそれらの関係や差異についての捉え

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伊東 佳寿子  大石 幸二  菊池 春樹

方と,各人のAQを検討することで,自他境界概念と

ASD傾向の関係について,調査Ⅱにおける仮説を生

成することを目的とする。

方法

 201x年5月から6月にかけて,各参加者に1度ず

つ,質問紙と面接による個別調査を実施した。参加者

は,心理学を選考している学部生および大学院生4名

に加え,心理専門職(相談員・心理判定員など)の社

会人2名の,計6名であった。調査場所は,首都圏の

私立大学内の一室で,調査者は 参加者の希望に応じ

て,参加者の隣または90度の位置に着席した。参加者

に,調査者の自己紹介,調査の概要,個人情報の保護

について説明をした後,口頭にて同意を得て調査を開

始した。

 まず,参加者のAQを測定するため,参加者に「自

閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版」(若林他,

2004)への回答を求め,その場で回収した。

 続いて,参加者が「自分」と「他者」に関してどの

ように捉えているかについて尋ねる,半構造化面接の

調査を実施した。この調査の所要時間は,1人あたり

平均40分であった。調査を始める前に,参加者に録音

とメモをとる承諾を得た。また,この面接調査におい

て,「他者」という言葉の意味は「自分以外の人」と

いう意味で統一して用いることを参加者に伝えた。イ

ンタビューガイドは,自己と他者について,またそれ

らの関わりや差違の捉え方について尋ねる以下6つの

質問と,それに付随する追質問で構成された。

1:他者と関わることは自分にとってどんな意味をも

つか。

2:他者とはどのような存在か。

3:自分と他者との関わりにおいて,「いい関係」だ

と感じるのはどんな関係か。

<追質問3>それは,実際の経験の中で感じられたも

のか,あるいは理想なのか。

4:自分と他者との関わりにおいて,難しいと感じた

り苦労したのはどんなときか。

<追質問4-1>そう感じたとき,どうするか。

<追質問4-2>そうすることで,自分の気持ちはどう

変化するか。

5:自分はどんな人だと思うか。

<追質問5>なぜそう思うか。

6:自分はほかの人と違うと感じるところはあるか。

<追質問6>そのことについて,どう捉えているのか。

上記を基本として,参加者の語りについて,調査者が

共通認識を得るために必要だと感じた場合には,適宜

新たに質問を加えた。

結果

 各参加者をコード化した上で,AQを算出した。そ

の結果はTable 1のようになった。

 なお,カットオフポイントである33以上(若林他,

2004)の得点を示す者はいなかった。

 次に,面接調査の逐語録をもとに,KJ法にならい

カテゴリーの抽出・分析を行った。その際,以下のよ

うな手続きをとって分析が進められた。以下,カテゴ

リー名は【 】で示す。

 1:各参加者の語りの中から,「他者と関わること

の意味」「他者との関わり方」「関わりの中での自分の

とらえ方」「自他の差異の捉え方」に関するエピソー

ドを抽出し,それらにふさわしいコード名を付けた。

例えば,「誰かと関わりをもって色々な新しいものを

教えてもらって教えてっていうのを通して,得るもの

が自分にとっては大切」には,「他者と教え合い得ら

れるものが自分にとって大切」といったコード名を付

けた。

 2:それぞれのコードが似ていると考えられたもの

をまとめ,カテゴリー化を行った。例えば,先ほどの

「他者と教え合い得られるものが自分にとって大切」

は,他者と関わることの意味として,「他者と関わる

ことは自分の世界を広げる」といった他のコードと合

わせて,【自分にとって得られるものがある】といっ

たカテゴリー名を付けた。コードやカテゴリーの名前

がその内容を代表するものになっているかどうかや,

カテゴリー間の関係については,抽出されたコードや

カテゴリーを繰り返し参照し,反復して検討すること

によって習練度を高めた。

 3:2で形成されたサブカテゴリー間で関連がある

と思われるものは,さらにカテゴリー化を繰り返し

た。分析によって抽出された大カテゴリーと,それ

にまとめられたカテゴリー,コード,エピソードの

例をTable 2に示した。なお,Table 2には,AQ高群

とAQ低群における,各大カテゴリーに含まれるエピ

ソード数をそれぞれ表記した。

 4:カテゴリー間の関係を図式化した。カテゴリー

化によって,他者と関わろうとする中で「わかり合え

ない」と感じる状況になったとき,参加者がとる行動

や考え方が大きく2パターンに分かれた。一方に該当

する参加者はAQが20以下の参加者であり,もう一方

に該当する参加者はAQが24の参加者であったことか

ら,主にそのパターンの対比を中心とした図式化を

行った結果,Figure 1のようになった。なお,これ以

Table 1 各参加者のAQ

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自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数との関係 ―自他境界の観点からの検討―

降AQが20以下の4名をAQ低群,AQが24の2名をAQ

高群として分析を進めた。

 Figure 1より,他者と関わることの意味は【他者と

の関わりは必要】と【他者との関わりによって得られ

るものがある】の大きく2つがあり,AQに関わらず,

全参加者がそれらの理由から他者と関わろうとしてい

た。そして,全参加者とも様々な他者と関わる中で,

互いにわかり合える関係を築ける場合と,【考えの相

違】などの理由から,互いにわかり合えずに困難さを

感じる場合を経験していた。そして,【考えが似てい

る】【自分を受け入れてくれる】といったわかり合え

る他者と関わる中では,自分は【自然体でいられる】

【楽しい】と感じる一方で,わかり合えない他者と関

わる中では,【自分に無理をしている】,自分が【自然

体でいられない】と感じていた。ここまでの体験には,

AQによる差は特に見られなかった。しかし,わかり

合えない他者との関わりの中で,どのように考え行動

するかということについて,AQ低群とAQ高群に異

なるパターンがみられた。AQ低群には,【距離をと

る】【自分を崩さずに関わる】【自分の気持ちを大事に

する】【相手を尊重する】といった,自己を保ちなが

らも他者と適度な距離をとって関わろうとする行動が

多くみられたた。その背景として,【自分は自分でいい】

【1番大事なのは自分】といった【自己肯定】や,自他

の違いに対して,【違いを受け入れる】【違うことはい

いこと】【比較によるポジティブな感情】といったポ

ジティブな捉え方が特徴的であった。一方,AQ高群

に多くみられたのは,【自分よりも相手に合わせるこ

とを優先する】あまり,【自己の保てなさ】を経験し,

結果的に【他者と関わるのをやめる】といった行動で

Table 2 主なカテゴリーの例

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伊東 佳寿子  大石 幸二  菊池 春樹

Table 2 主なカテゴリーの例(続き)

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自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数との関係 ―自他境界の観点からの検討―

あった。その背景として,【自分を出して否定される

のが怖い】といった【自己否定への恐れ】や,【ほか

の人とのずれに対する不安】【少数派になることが悲

しい】といった自他の違いに対するネガティブな捉え

方が特徴的であった。

考察

 調査Ⅰの目的は,自他境界概念がASD傾向の関係

について,半構造化面接を行い分析することで,調査

Ⅱにおける仮説を生成することであった。

 結果より,まず,他者との関わりは自分にとって必

要であり,得られるものがあるという認識のもと,他

者と関わろうとすることに,AQによる差はみられな

かった。よって,AQの高低に拘わらず,「他者との

関わりは必要」,「他者と関わることで得られるものが

ある」という認識を持ち,他者と関わることが示唆さ

れた。次に,参加者の全員が,他者と関わる中で,わ

かり合える他者ともわかり合えない他者とも関わる経

験をしていた。そして,わかり合える他者と関わる時

は,【自然体でいられる】自分を感じ,他者との関わ

りに対して【楽しい】という感情を抱く特徴があった。

一方,わかり合えない他者と関わるときは,【自然体

でいられない】自分を感じる特徴がみられた。よって,

わかり合える他者と関わる時は,自分らしくいられる

と感じ,自己を保っている一方,わかり合えない他者

と関わる時に,自己を保つことが困難になりやすいこ

とが推測された。続いて,わかり合えないと感じる他

者との関わり方について,AQ低群は自己を保てる距

離をとりながら関わる傾向がみられ,それには【自己

肯定】や【自他の違いをポジティブにとらえる】といっ

た特徴の関連が示唆された。この,「自己を保てる距

離をとりながら関わる」というのは,自他の差異を認

めつつ自己の安定を守り,他者との関係も維持する関

わり方であるため,自他境界を明確に意識しているも

のと解釈できる。また,わかり合えない他者に対して

生じた【自然体でいられない】自分の状態に対して,

積極的に変化をもたらそうとしている対処であると考

えられる。よって,本研究において,この関わり方を,

【積極的対処】と呼ぶこととする。一方,AQ高群の【自

己を保てず他者と関わることをやめる】という特徴は,

自他の差異を認めることに対してネガティブに捉え,

自己が保てなくなる関わり方である。そのため,自他

境界の意識が曖昧であることとの関連が考えられる。

Figure 1 他者との関わり方の様相

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伊東 佳寿子  大石 幸二  菊池 春樹

また,この場合,【積極的対処】に比べると,【自然体

でいられない】自分の状態に対しては,直接的な変化

に結びつかない消極的な対処となっているため,本研

究において,この関わり方を【消極的対処】と呼ぶこ

ととする。まとめると,わかり合えない他者と関わる

際に,AQ低群は,明確な自他境界と関連する【積極

的対処】をとる傾向があると考えられる。それに対し,

AQ高群は,曖昧な自他境界と関連する【消極的対処】

をとる傾向があると考えられる。さらに,【積極的対処】

には【自己肯定】と【自他の違いをポジティブに捉え

る】ことが関連しており,【消極的対処】には【自己

否定への恐れ】と【自他の違いをネガティブに捉える】

ことが関連していることが推測された。AQ高群に見

られた【自己否定への恐れ】については,滝吉・田中

(2011)の知見より,ASD傾向の高い人は,自己の特

異性に対する周囲からの否定的な反応が直接自己否定

に繋がりやすいため,自他の違いを認識する場面に不

安を覚えるのだと推測できる。そして調査Ⅰの結果は,

そのような傾向がAQ24レベルの者にもみられる可能

性を示唆している。

 以上の考察より推測された点について,調査Ⅱにお

いて検討すべき仮説を,以下の2つにまとめた。

 (1)AQの高低に関わらず,他者との関わりは自分

が生きる上で必要であり,得られるものがあるという

認識を持っている。

 (2)他者と分かり合えないと感じた時,AQの高い

人ほど「消極的対処」が多くみられ,AQが低い人ほ

ど「積極的対処」が多くみられる。

調査Ⅱ

 調査Ⅱでは,調査Ⅰで得られた上記2つの仮説につ

いて,質問紙調査を実施し,検討することを目的とす

る。

方法

 首都圏私立大学の学生113名を対象に,質問紙調査

を行った。その中から,記入漏れやマークが正確に判

別できない等の無効なデータを除いた92名を分析対

象とした。調査時期は,201x年10月下旬であった。

 質問紙は,調査Ⅰをもとに独自に作成した項目群と,

AQ日本語版(若林他,2004)の50項目,及びフェイ

ス項目(年齢,性別)により構成された。

 自作した項目群では,まず,他者と関わることに対

する認識について質問した(①)。ここでは,「他者と

関わることは生きていく上で必要だと感じる。」と「他

者との関わりによって得られるものがある。」の2項

目に,「そう思う」と「そう思わない」の2件法によ

る回答を求めた。次に,他者とわかり合えないと感じ

た時にどうするかについて質問した(②)。「他者との

関わりの中で,あなたが相手とわかり合えないと思っ

たとき,あなたはどうしますか。また,どう感じます

か。」という質問に対して,16項目の中から自分にあ

てはまるもの全てに印をつけてもらった。また,「そ

の他」として自由記述欄も設けた。この質問に用いた

16の項目は,調査Ⅰで得られた知見に基づき,「積極

的対処」と「消極的対処」それぞれに該当する,また

は強く関連していると考えられる各8項目で構成され

た。そして,それらがランダムに並ぶよう,以下の順

で提示された。なお,以下「積極的対処」に該当する

ものに※印を付けた。

 1:自分の考えは押し殺して,相手に合わせる。

 2:関わる必要がある場合は,関わる時間が最小限

で済むように行動する。※

 3:自分の方が絶対に正しいと思うので,相手がお

かしいと指摘する。

 4:疲れるので,人と関わるのをやめる。

 5:他者との関わりをシャットアウトしたくなる。

 6:相手を傷つけないようなやり方で,自分の気持

ちを伝える。※

 7:その人とは今後関わる頻度を減らす。※

 8:自分の気持ちを理解してくれない人はおかしい

と思う。

 9:自分が丁度いいと思える距離感をとって,相手

と接するようにする。※

 10:他者に合わせられない自分はよくないと思う。

 11:他者と自分の違いを認めるのは恐い。

 12:他者のすべてを受け入れられなくても,それで

いいと思う。※

 13:合う・合わないは別として,他者と自分の違い

は面白いと感じる。※

 14:その人と無理に一緒にいるよりも,自分が楽し

く過ごせる人との時間を大切にしたい。※

 15:関わらなくてよくなるまでひたすら待つ。

 16:他者とわかり合えないことがあっても,自分は

自分でいいと思う。※

 AQ日本語版(若林他,2004)は,参加者のAQを

測定するために用いられた。この質問紙は,50項目で

構成され,各項目について,「あてはまる」,「どちら

かといえばあてはまる」,「どちらかといえばあてはま

らない」,「あてはまらない」の4件法で回答を求める

形式であった。

結果

 まず,参加者のAQによって群分けを行った。若林

他(2004)より,大学生のAQ平均値が20.7であるこ

とから,AQが20以下をAQ低群とした。また,AQが

30以上の場合,ASDの診断をもつ人の9割以上(93%)

が含まれるとされている(若林他,2004)ため,21

以上29以下をAQ中群に,30以上をAQ高群に区別す

ることとした。調査Ⅱにおける対象者のAQは,平均

20.88(SD 5.76) で あ り, 分 布 は,AQ低 群 が45名,

AQ中群が41名,AQ高群が6名であった。なお,調

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自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数との関係 ―自他境界の観点からの検討―

査Ⅱで用いたAQ50項目について,信頼性分析を行っ

た結果,α係数は0.68であった。

 質問①における「他者と関わることは生きていく上

で必要だと感じる。」と「他者との関わりによって得

られるものがある。」の2項目に対する回答結果は,

Table 3のようになった。「他者と関わることは生きて

いく上で必要」に対して,AQ低群と高群は全員が「そ

う思う」と回答し,AQ中群のうち1名が「そう思わ

ない」と回答していた。つまり,全体の99%がこの認

識については同意していた。また,「他者と関わるこ

とで得られるものがある」に対しては,AQ低群は全

員が「そう思う」と回答し,AQ中群と高群において

1名ずつ「そう思わない」と回答していた。つまり,

全体の98%はこの認識に同意していた。よって,(1)

の「AQの高低に拘わらず,他者との関わりは自分が

生きる上で必要であり,得られるものがあるという認

識を持っている」という仮説は概ね支持された。

 次に,他者とわかり合えないと感じた場合について

Table 3 群ごとの他者と関わることに対する認識

質問した②について,群ごとの「積極的対処」と「消

極的対処」の平均選択数を,Figure 2に示した。「積

極的対処」は,各群の平均選択数は,AQ低群が4.46

(SD=2.22),AQ中群が4.15(SD=1.99),AQ高群が5.17

(SD=2.11)であった。「消極的対処」は,各群の平均

選択数は,AQ低群が0.96(SD=1.19),AQ中群が1.56

(SD=1.23),AQ高 群 が2.83(SD=1.57) で あ り,AQ

が高い群ほど「消極的対処」を多く選択していた。ま

た,分散分析の結果,AQに対して「消極的対処」の

有意な主効果(F (2,89) =6.96,p<.01)が認められた。

多重比較の結果,AQ低群と高群の差については有意

確立が0.003であり,1%水準で有意であった。また,

AQ中群と高群および低群と中群の差については,有

意確立がそれぞれ0.059と0.072であり,有意傾向がみ

られた。一方,「積極的対処」については主効果が有

意ではなかった(F (2,89) =0.92,ns)。よって,(2)

の仮説は,「消極的対処」については支持されたが,「積

極的対処」については支持されなかった。なお,②の

回答における「その他」の自由記述欄へは,2名が記

述していた。その内容をTable 4に示した。「そのこと

によって,ストレスになるようだったら関わらないで

おだやかにすごしたいと思う。」は,自己の安定を保

つことに積極的な対処であるため,「積極的対処」の選

択数に1つ分加えた。「その時その時で対応は違いま

Figure 2 群ごとの「積極的対処」と「消極的対処」の平均選択数

Table 4 ②の「その他」自由記述内容と判断理由

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伊東 佳寿子  大石 幸二  菊池 春樹

たのは,項目2と9で83.3%であった。続いて,項目6,

12,16が66.7%で,次に多かった。AQ低群や中群で

は他の項目に比べるとあまり多く見られなかった項目

6や16が,AQ高群では多く選択されていた。AQ高

群において,最も選択数が少なかったのは,項目7,

13,14で,50.0%であった。項目13が最も少ないとい

う結果は,AQ低群と中群と同じであったが,項目7

と14については,AQ低群や中群とは異なる結果と

なった。

 また,②の質問で「消極的対処」に分類された8項

目の選択数の割合を,群ごとにFigure 6,7,8に示した。

AQ低群において,Figure 6より,最も多く選択され

たのは 項目1で,31.1%であった。次に多かったのが

項目5.の28.9%で,3番目に多かったのは項目4の

13.3%であった。その他の項目の選択数については,

10%に満たない少数であった。また,「11. 他者と自分

の違いを認めるのは恐い。」という項目を選択した人

はいなかった。

 AQ中群では,Figure 7より,AQ低群と同様に,項

目1,5,4の順で特に多かった。中でも項目1につい

Figure 6 AQ低群における「消極的対処」の項目ごとの選択数(%)

Figure 7 AQ中群における「消極的対処」の項目ごとの選択数(%)

すが,基本は誰とでも関係が発展することを目指して

います。」という回答は,具体的な行動が不明であり,

どちらの対処にも含めなかった。

 ②の質問で「積極的対処」に分類された8項目の選

択数の割合を,群ごとにFigure 3,4,5に示した。

 AQ低群は,Figure 3より,「積極的対処」の項目で

は,項目12を選択した人が68.9%で最も多かった。次

いで項目2と項目9が66.7%で,2番目に多い結果と

なった。続いて,項目14が62.2%,項目7が55.6%,項

目16が53.3%,項目6が51.1%という順に多かった。一

方,AQ低群において,「積極的対処」で最も少なかっ

たのは項目13であった。AQ低群においては,この項

目のみ45名中半数以下の選択数で40.0%という結果と

なった。

 AQ中群は,Figure 4より,「積極的対処」では,項

目2を選択した人が68.3%で最も多かった。次いで項

目12が61.0%,項目9と14が同率で58.5%であった。続

いて項目16は56.1%,項目7は51.2%という順に多かっ

た。一方,AQ中群において,項目6は43.9%,項目

13は17.1%であり,半数以下であった。特に項目13は,

AQ低群と同様に,最も選択数が少ないという結果に

なった。また,AQ低群とAQ中群のグラフの形を比

較すると,視覚的におおよそ類似しており,「積極的

対処」における項目ごとの選択数には類似の傾向が見

受けられた。

  し か し,Figure 5に 示 し たAQ高 群 に お い て は,

Figure 3,4と比べてやや異なるグラフの形をしてい

た。AQ高群の選択した「積極的対処」で最も多かっ

Figure3 AQ低群における「積極的対処」の項目ごとの選択数(%)

Figure 4 AQ中群における「積極的対処」の項目ごとの選択数(%)

Figure 5 AQ高群における「積極的対処」の項目ごとの選択数(%)

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自己を保ちながら他者と関わるスキルと自閉症スペクトラム指数との関係 ―自他境界の観点からの検討―

ては,58.5%となり,半数以上の人が選択していた。4

番目に多かったのは項目10で,12.2%であった。また,

AQ低群では選択した人がいなかった項目11につい

て,AQ中群では4.9%が選択していた。なお,AQ中

群において,項目3と8を選択した人はいなかった。

 AQ高群において,Figure 8より、最も多く選択さ

れたのは項目4の83.3%であった。続いて,項目1と

5が66.7%となり,2番目に多かった。次に多かった

のは,項目10の50.0%で,AQ低群・中群に比べて倍

以上高い割合となった。また,AQ低群では0人,中

Figure 8 AQ高群における「消極的対処」の項目ごとの選択数(%)

群では4.9%の人が選択した項目11については,16.7%

の人が選択しており,AQ中群よりもさらに多い結果

となった。なお,AQ高群においては項目3,8,15

を選択した人はいなかった。

 ③の回答における「その他」の自由記述欄へは,4

名が記述していた。その内容をTable 5に示した。「分

かり合えない部分の程度にもよりますが,完全に自分

が正しいのであれば主張したい。」という回答は,「完

全に自分が正しい」の定義が不明であるため,どちら

の選択数にも含めなかった。「相手が例え自分と全然

違った意見などを思ってた場合も,自分は自分だし相

手は相手,違う意見を聞けたことに素直に嬉しく思い,

尊重できたらいいと思うし,受け入れられるようにし

たい。」と,「お互いにその違いを認めあう。」は,自

他の区別が明確であり,違いに対してポジティブに捉

えているため,「積極的対処」の選択数に1ずつ加えた。

「わかろうとする努力をしたい」という回答は,どの

ような「努力」をするのかが不明であるため,どちら

の選択数にも含めなかった。 

Table 5 ③の「その他」自由記述内容と判断理由

考察

 調査Ⅱでは,調査Ⅰで示唆された(1)と(2)の仮

説について検討することが目的であった。

 まず,Table 3に示した結果より,「AQの高低に拘

わらず,人は他者との関わりは自分が生きる上で必要

であり,得られるものがあるという認識を持っている」

という(1)の仮説は概ね支持された。つまり,ASD

傾向が高い人も,他者とかかわることは自分にとって

必要なものだと認識しているということが示唆され

た。しかし,今回は比較検討された群ごとの人数にば

らつきがあったため,今後,十分な参加者数による検

証も必要であろう。

 次に,(2)の仮説において,他者とわかり合えない

と感じた時,AQが高い人ほど「消極的対処」を多く

とるという仮説は支持された。したがって,ASD傾

向が高い人ほど,他者と関わる中で自己を崩しやすい

と考えられる。これは,佐藤・櫻井(2010)を支持す

る結果であり,自他境界が曖昧であるためと推測でき

る。しかしながら,自他境界が明確であり,自己を保

ちながら他者と関わるスキルとして仮定された「積極

的対処」については,AQによる差は見られなかった。

よって,「積極的対処」についての仮説は支持されな

かった。その理由の1つとして,AQ高群は発達の中で,

「積極的対処」を学習し身につけたことが考えられる。

つまり,AQが高い参加者も,これまでに様々な他者

と関わる中で,自己を保てなくなる経験をしながらも,

少しずつ自己を保てる関わり方を学習し,身につけて

きた可能性がある。他には,「積極的対処」の概念的

定義が,「消極的対処」の対概念として,自他境界の

明確さを的確に表すものではなかったことが考えられ

る。これについて,今後は,自他境界という概念に関

する,本研究で扱われなかった側面を含む,より詳細

な検討が必要であろう。

 続いて,調査Ⅱで作成された各項目について,群ご

とに検討した結果より,まず「積極的対処」の項目に

ついて考察する。項目2,9,12の3項目は,3群と

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伊東 佳寿子  大石 幸二  菊池 春樹

も50%以上が選択していた。よって,これらはAQに

拘らず,多くの人がとりうる対処であったと考えられ

る。項目14が,AQが低い群ほど多かったことから,

AQが低い人ほど自分の気持ちを優先した他者との関

わり方ができていると考えられる。一方で,他者とわ

かり合えなくても自分は自分だと割り切れるという項

目15は,AQが高い人ほど多かった。よって,AQが

高い人ほど他者とわかり合えなくても仕方ないと思え

る半面,自分が楽しくいられる人との関係を強めるこ

とには消極的なようである。そして,AQが低い人ほ

ど,自分が楽しくいられる人との関わりを優先できる

一方で,他者とわかり合えないと割り切ることには消

極的なのかもしれない。また,どの群においても最も

選択数が少なかったのは,項目13であったことから,

自他の違いに対して極端にポジティブな考え方をする

かどうかについては,個人差による影響が大きい可能

性が推測された。

 次に,「消極的対処」の項目について考察する。「消

極的対処」の項目について,AQが高い群ほど選択数

が多くなったのは,項目1,4,5,10,11の5項目で

あった。このことから,AQが高い人ほど,他者と自

分の違いを認めるのが恐く,他者に合わせようとしす

ぎてしまうと考えられる。そして,無理に他者に合わ

せようとするほど自己の安定は失われ,結果として他

者との関わり自体に疲れてしまい,人と関わることを

やめるという,調査Ⅰと同様の傾向が伺えた。AQの

高い人ほど他者と自分の違いを認めるのが恐い要因と

して,ASDの人は他者と関わる中で,自分自身ので

きなさや困難さを認識しやすく,否定的な自己理解に

繋がりやすいこと(滝吉・田中,2011)が関係してい

ると考えられる。そして,それは自他境界が曖昧であ

ることによるかもしれない。なぜなら,自他の区分が

明確であれば,自他の違いが直接自己に対する否定的

な評価に影響することは少ないと考えられるからであ

る。一方で,項目3と8については,AQ低群におけ

る2.2%のみが選択していたが,他の対象者は全く選

択しなかったため,AQによる比較検討は困難であっ

た。よって,この2項目は,自他境界が曖昧であるこ

とによって生じうる考えとしてAQによる差がみられ

ると想定されたが,妥当ではなかった可能性がある。

また,項目15は,AQ低・中群で約10%選択されたが,

AQ高群では全く選択されなかった。しかし,調査Ⅱ

では,AQ高群の参加者が他の2群の約7分の1とい

う少数であったことから,この結果からAQによる傾

向を示すことは困難であるという限界があった。AQ

による傾向をより詳細に検討するためには,各群に十

分な参加者数が割り当てられることが,今後の研究に

おいて重要なことであろう。

結論

 本研究において,他者と関わる中で,自己を崩さ

ず相手と距離感をとりながら関わるスキルの有無に,

AQによる差は見られなかった。しかし,AQが高い

人ほど,相手に合わせようとしすぎて,他者と関わる

こと自体をやめてしまう場合が多く,これには自他境

界の曖昧さが影響している可能性が考えられた。つま

り,AQの高低に拘らず,対人場面で自己の安定や他

者とのよい距離感を保つことは可能であるが,AQの

高い人ほど自己を保てなくなる関わり方をとりやすい

ことが示唆された。しかし,本研究では,各対処の頻

度や,スキル獲得の過程について明らかにすることは

できなかったため,今後の研究に課題が残された。

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伊東 佳寿子  大石 幸二  菊池 春樹

The relationship between interpersonal communication skills

maintaining the self and the autism spectrum quotient:

A Perspective on Boundaries between Self and Others

Kazuko ITO (Master Program in Psychology, Tokyo Seitoku University)

Kouji OISHI (College of Contemporary Psychology, Rikkyo University)

Haruki KIKUCHI (Faculty of Applied Psychology, Tokyo Seitoku University)

  The purpose of  this study was to use analog research to  investigate the relationship 

between ASD tendencies and having interpersonal  interactions while maintaining the self. 

In Investigation I, we conducted semi-structured interviews to observe whether there were 

distinctions  in  individuals’ awareness of differences  in their engagement with others and 

between themselves and others, according to the autism spectrum quotient (AQ) (Wakabayashi 

et al., 2004). The qualitative analysis results showed there were different ways to handle 

situations involving a misunderstanding with another person. Persons with an AQ of 20 or 

less maintained a good sense of distance from others without breaking down the self and 

accepted differences between themselves and others. We decided to call the way they handled 

interpersonal situations, with clear interpersonal boundaries, “positive coping.” On the other 

hand, persons with an AQ of 24 tried too hard to adjust to others and became tired, eventually 

giving up on engaging with others. We decided to call  this way of handling interpersonal 

situations, with a  fuzzy awareness of  interpersonal boundaries, “negative  coping.”  In 

Investigation II, we developed a questionnaire survey, based on the Japanese version of the AQ 

(Wakabayashi et al., 2004) and items that we had created, and administered it to university 

students to study our hypothesis. The hypothesis presumed that when someone felt  there 

was a misunderstanding between themselves and another person, the higher their AQ, the 

more often they would choose “negative coping,” and the lower their AQ, the more often they 

would choose “positive coping.” The variance analysis results showed that the difference 

in the number of coping selections based on AQ was significant for “negative coping,” but 

there was no significant difference in the number of “positive coping” selections for engaging 

with others without breaking down the self. Therefore the results suggest that the higher the 

AQ, the greater the tendency to engage with others in a way that does not maintain the self. 

Also, we believe that it could be related to the fuzziness of boundaries. Finally, in the future, it 

will be necessary to study the aspects that we were unable to address in the current study of 

boundaries.

Keywords: autism spectrum disorder (ASD), self, interpersonal relations, boundaries between 

the self and others

Bulletin of Clinical Psychology, Tokyo Seitoku University

2019, Vol. 19, pp. 93-106