送り手が認識する合意を得るコミュニケーション ·...

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―  ― 177 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年) 本研究では、送り手が合意を得たと認識できたコミュニケーションについて、会話の内容的側面 とマネージメント的側面の両方から、合意に影響する潜在的な因子を探索し、因子構造を明らかに することを目的とした。質問紙調査の結果を因子分析したところ、会話内容では「論拠数」「恐怖喚 起」「両面呈示」「因果関係」の 4因子が、会話マネージメントでは「身振り」「和やか」「真剣」「同意確 認」「あいづち」「静止」「言い切り」の 7 因子が抽出された。これらの因子をもとに、両側面のそれぞ れで高次因子モデルを構成した。また、送り手のコミュニケーション因子に対応する受け手の合意 度を検討した結果、受け手が合意に達したときに用いられた送り手のコミュニケーション因子は 「論拠数」「因果関係」「言い切り」であることが特定された。これらの因子で構成される会話内容と 会話マネージメントの関連モデルの構成を試みたところ、両者は正の影響力を及ぼし合う可能性が 示唆された。 キーワード:合意、送り手、会話内容、会話マネージメント、因子構造 1. 問題と目的 専門的立場にある者が相手に何か情報提供するとき、どのようなコミュニケーションを行なった らいいだろうか。心理臨床家や医療従事者はクライアントや患者の心身の健康回復のために、専門 的見解を駆使し、援助や治療の方針を立てるのは当前のことである。専門家が有する専門的知識は 相手のために十分活用され、役に立ってこそ、その知識の意味がある。したがって、専門的見解を 相手に説明し、治療方針に合意してもらうことが大切である。それは専門家とクライアントの共同 作業であり、近年ではインフォームド・コンセントとして広く受け入れられている。インフォームド・ コンセントは「説明と同意」と訳されているが、狭義の意味である「医師の説明義務と患者の自己決 定権」ではなく、医療従事者や援助職を含めた専門家が、専門知識を介して行うコミュニケーション として広義の意味で捉えることができる。そのように捉えると、臨床場面では数多くのインフォー ムド・コンセントが行われていることになる。たとえば、家族療法の面接場面でクライアントに介 入課題を遂行してもらうことや、面接者以外の専門家チームの参与やビデオ撮影について不安を与 教育学研究科 博士研究員 送り手が認識する合意を得るコミュニケーション ―質問紙調査法による検討から― 奥 野 雅 子

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

 本研究では、送り手が合意を得たと認識できたコミュニケーションについて、会話の内容的側面

とマネージメント的側面の両方から、合意に影響する潜在的な因子を探索し、因子構造を明らかに

することを目的とした。質問紙調査の結果を因子分析したところ、会話内容では「論拠数」「恐怖喚

起」「両面呈示」「因果関係」の4因子が、会話マネージメントでは「身振り」「和やか」「真剣」「同意確

認」「あいづち」「静止」「言い切り」の7因子が抽出された。これらの因子をもとに、両側面のそれぞ

れで高次因子モデルを構成した。また、送り手のコミュニケーション因子に対応する受け手の合意

度を検討した結果、受け手が合意に達したときに用いられた送り手のコミュニケーション因子は

「論拠数」「因果関係」「言い切り」であることが特定された。これらの因子で構成される会話内容と

会話マネージメントの関連モデルの構成を試みたところ、両者は正の影響力を及ぼし合う可能性が

示唆された。

キーワード:合意、送り手、会話内容、会話マネージメント、因子構造

1. 問題と目的 専門的立場にある者が相手に何か情報提供するとき、どのようなコミュニケーションを行なった

らいいだろうか。心理臨床家や医療従事者はクライアントや患者の心身の健康回復のために、専門

的見解を駆使し、援助や治療の方針を立てるのは当前のことである。専門家が有する専門的知識は

相手のために十分活用され、役に立ってこそ、その知識の意味がある。したがって、専門的見解を

相手に説明し、治療方針に合意してもらうことが大切である。それは専門家とクライアントの共同

作業であり、近年ではインフォームド・コンセントとして広く受け入れられている。インフォームド・

コンセントは「説明と同意」と訳されているが、狭義の意味である「医師の説明義務と患者の自己決

定権」ではなく、医療従事者や援助職を含めた専門家が、専門知識を介して行うコミュニケーション

として広義の意味で捉えることができる。そのように捉えると、臨床場面では数多くのインフォー

ムド・コンセントが行われていることになる。たとえば、家族療法の面接場面でクライアントに介

入課題を遂行してもらうことや、面接者以外の専門家チームの参与やビデオ撮影について不安を与

教育学研究科 博士研究員

送り手が認識する合意を得るコミュニケーション―質問紙調査法による検討から―

奥 野 雅 子

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送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

えず許可をもらうことなどである(長谷川,2003)。また , 医療現場では、薬物療法を行う際に薬を

処方通りに飲むことに納得してもらうための服薬指導のコミュニケーションもある(奥野・長谷川,

2007)。

 本研究ではインフォームド・コンセントを、専門家が用いる合意を得る目的のコミュニケーショ

ンとして捉える。合意という概念は、1980年代から産業・教育・法学の領域で実践研究が始まり、「交

渉における相互選択」(北村・横尾・桑原,1995)、「当事者双方の判断の合致」(佐藤,2006)、「ディベー

ト的なプロセスをたどるのではなく、ディスカッション的なプロセスをたどる中である事柄につい

て、お互いに調整しあいながら結論を導き出すこと」(有沢,2003)などのように定義されている。

また、「ビジネスコミュニケーションの一プロセス」(平松,2007)として交渉の目的とみられている。

一方、社会心理学分野で用いられる「説得」という言葉は、「送り手が受け手に、選択の自由がある

状況でメッセージを伝達することによって、受け手の態度を変えようとする活動」(Perloff,1993)、

「他者の反応を意図的に形成し、促進し、変化させること」(Stiff�&�Mongeau,2003)、「与え手の望

むように受け手の態度や行動を変えるために、非言語的なコミュニケーションを通して意図的に受

け手に働きかける社会的行為」(今井,2006)などのように定義され、1950年代から数多くの先行研

究がなされている。説得は受け手の態度変容とされ、さらに、態度は認知的側面、評価的側面、行動

的側面の三要素から成り立っている(Katz�&�Stodland,1959)。本研究で扱う「合意」は態度変容の

行動的側面についての合意を意味する。態度変容という観点からみると、説得と合意における会話

プロセスは送り手側からの一方向的か、あるいは送り手と受け手の双方向、という捉えられ方の違

いである。したがって、説得と合意は結果的に同じところに焦点を当てていることになる。また、

説得や合意を目的とするコミュニケーション、という視点から捉えると、どのようなコミュニケー

ションを行ったら有効なのかという着眼点が一致する。これは「ハーバード流交渉術」(Fisher,

Ury�&�Patton�1991;Fisher�&�Shapiro,2005)の著書も説得的コミュニケーションを基盤にしてい

ることからも裏付けられる。

 以上のように、合意と説得の共通点、相違点について述べたが、合意を得るコミュニケーション

を相互作用視座で捉え、どのようなコミュニケーションが有効かについては検討がなされてきた

(奥野,2008;奥野・長谷川,2008)。これらの知見は、システム理論(Bertalanffy,1968;長谷川,

1997)、及び「人間コミュニケーションの語用論」(Watzlawick,Beavin�&�Jackson,1967)の見解か

ら、送り手と受け手はコミュニケーション行動で結びついている一連のシステムを為す円環的な相

互作用過程と捉え、会話の内容ではなく、その場のやりとりを指示する「マネージメント・コミュニ

ケーション」(長谷川,1998)に焦点を当てている。この観点から、マネージメント・コミュニケーショ

ンにおいて用いられるマネージメント言語の合意効果への影響に関する示唆が提示されている(奥

野,2008;奥野・長谷川,2008)。

 本研究では、合意に関して送り手の認識に着目し、同時に受け手が実際合意したかどうかについ

ても検討する。通常のコミュニケーションにおいては送り手側が受け手から合意を得たと主観的に

認知することが多いからである。そこで、送り手が合意を得ることができると認識しているコミュ

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

ニケーションと、実際に受け手から合意が得られた時に用いたコミュニケーションは一致している

だろうか。たとえば、受け手が「あなたの言ったことに納得しました。その通りにしようと思います」

と話した時、送り手は合意を得られたと認識する。しかし、受け手が真意でそう言ったかどうかは

わからない。そうなると、送り手と受け手の間に合意に関する認識のずれが発生することになる。

まず、送り手が合意に有効であったと主観的に認知したコミュニケーション行動は何かということ

が問題である。たとえば、自分の意見の通りにしなければ困ることになると話したから、あるいは

多くの根拠を述べたから相手は納得したのだと送り手は感じるのではないだろうか。したがって、

送り手が認識したコミュニケーション行動を明らかにし、また、受け手が実際に合意したものを検

討することで、最も効果的な合意を目的としたコミュニケーションが特定することが可能になると

考えられる。

 合意を得る、あるいは態度変容を目的にするコミュニケーションに関して、人はコミュニケーショ

ンを無意識で行っている可能性が高い。以下に Bateson(1972)の説明を紹介する。

 無意識の中に含まれるのは、意識が触れたがらない不快なことだけではない。もはや意識する必

要がないほど慣れ親しんだ事柄も多く含まれるのだ。“ 身についた ” ことは、意識の手を離れ、その

ことで意識の経済的な活用が可能になる。・・(中略)・・この経済性を得るために形成されるのが「習

慣」であると考えてよい(Bateson,1972)。

 このように、Bateson(1972)は、無意識を自我にとって耐え難い願望の抑圧、つまり、フロイト

が指摘した「一次過程」、として捉えるのではなく、経験的に知っているが言葉ではうまく説明でき

ない知識を意味する「暗黙知」(Polanyi,1966)として捉えている。このように無意識を捉えてみる

と、人と人の間で交わされるコミュニケーションも意識する必要がないほど慣れ親しんだものと考

えられる(石井,2007)。

 石井(2007)はコミュニケーションの無意識性を実証するために、以下のような実験を行った。20

代の交際しているカップルに7分間の会話を行ってもらい、会話終了後にコミュニケーション行動

16項目について「全く意識していなかった」から「非常に意識していた」まで6件法で質問紙評定を

行った。その結果、「うなずき」「笑顔」「沈黙」「間投詞」「疑問形」などのマネージメント・コミュニケー

ションは無意識で行なわれていることを報告した。とくに、会話システムを維持させようと自己制

御性が働く場合はそのコミュニケーション行動はさらに意識に上らないことが示唆された。また、

生田(2004)が行なった葛藤場面の実験では、葛藤場面で笑顔表情を顕著に浮かべていた被験者にそ

れを指摘したところ、その被験者は無意識だったと述べており、この結果もコミュニケーションの

無意識性を裏付けていると考えられる。

 一方、意識の経済性によって無意識領域に移行したコミュニケーションを意識のスクリーンにど

のくらい届けられるかについては不明確である。Bateson(1972)は、100パーセント意識的なシス

テムが論理的に不可能であり、意識には量的限界があること、そして、限られた意識を経済的に活

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送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

用することが重要な問題になると述べている。しかし、コミュニケーションに何らかの問題が内在

する場合は、そのコミュニケーションを意識することが何らかの変化を導くことも考えられる。

 ある意図で発せられたコミュニケーションが無意識で行われ、うまく機能していないことがあれ

ば、それを意識することから問題解決は始まるといえる。たとえば、家族療法の面接場面では、問

題解決に悪循環となっているコミュニケーションを特定し、それを偽解決行動とみなし新たな行動

処方を介入課題として提案する。これらの偽解決となるコミュニケーション行動が無意識で行なわ

れているとき、それを意識化させることで変化させることが可能になるなら、それにはひとつの意

義があると考えられる。

 そこで、本研究では、合意を得たと送り手が意識できたコミュニケーションについて検討するこ

とを目的とし、質問紙調査を実施する。つまり、送り手が主観的に認識している合意を得るための

コミュニケーションについて、会話の内容的側面とマネージメント的側面の両方から、合意に影響

する潜在的な因子を探索し、その因子構造を明らかにすることを目的とする。また、得られた因子

と「問題解決度」との相関を検討する。さらに、実際に受け手に合意が得られたかどうかを検討する

ため、質問紙調査の直前に、ペアになって会話を行う場面を設定し、一方に実際の自分の問題を話

してもらい、その相手に問題解決のための態度変容に関して合意を得る目的でコミュニケーション

を行ってもらう。送り手が合意に有効なコミュニケーションとして認識したものの中で、受け手が

実際に合意に達したときに用いられたコミュニケーションを特定することを試みる。

2. 方法1) 調査協力者

 調査協力者239名。

 宮城県内に勤務する医療従事者111名(年齢21 ~ 59歳、平均±標準偏差33.9±9.6;女性83名、男

性28名)と関東の私立大学の学生128名(年齢21 ~ 25歳;女性95名、男性33名)であった。医療従

事者のうちわけは、薬剤師が55名(女性30名、男性25名)と医療事務56名(女性53名、男性3名)で

ある。

2) 調査の時期

 医療従事者には2007年12月に、関東の私立大学の学生には2007年12月から2008年1月にかけて

行なった。

3) 調査の手続き

 調査はすべて無記名で行なわれた。実施方法は私立大学の学生には、授業の時間を利用して講師

が学生に質問紙調査の内容を説明し、了承のうえ調査に参加してもらった。医療従事者には筆者が

講話を担当するコミュニケーション研修会において調査を行うことを事前に了承してもらった。講

話の中で医療従事者には合意を得るためのコミュニケーションをロールプレイで10分間行なって

もらった後に質問紙を配布し、記入してもらった。

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

4) 質問紙の構成

 質問紙には、表紙に調査の目的と依頼文、調査者の連絡先を記した。内容は、①フェイスシート、

②合意を得たときの会話内容、③合意を得たときの会話の様子、④問題解決度(石井,2007)、⑤合

意度(医療従事者のみ)である。具体的な内容を以下に示す。

①フェイスシート

 年齢、性別、職種(薬剤師、医療事務、大学生)、勤務年数を尋ねる項目を設けた。

②合意を得たときの会話内容―内容的側面―

 「相手に自分の意見を話して納得してもらった、あるいは合意してもらったときの、あなたの会話

内容について答えてください」とし、先行研究を考慮した以下の4カテゴリー 16項目の質問を設定

した(Table�1)。これらの質問項目は順不同にして尋ねた。回答は「まったくそう思わない=1」~「と

てもそう思う=5」までの5件法とした。

③合意を得たときの会話の様子―マネージメントの側面―

 「相手に自分の意見を話して納得してもらった、あるいは合意してもらったときの、あなたの会話

の様子について答えてください」とし、先行研究を考慮した以下の7カテゴリー 30項目の質問を設

定した(Table�2)。これらの質問項目は順不同にして尋ねた。回答は「まったくそう思わない=1」

~「とてもそう思う=5」までの5件法とした。

④問題解決度

 ここで扱う問題とは、個人間での意見の相違が合意に至らないことを問題として捉えられ、それ

Table 1 会話内容4領域と質問項目カテゴリー 質問項目

論拠数

納得してもらうために多くの理由を述べた

多くの根拠を話した

多くの情報を話した

たくさんの説明をした

論理性

話したことに矛盾点はなかった

実例を出して話した

比較や確率を用いて説明した

原因と結果に結びつけて話した

恐怖アピール

自分の話す通りに行動しなければ、たいへんなことになると話した

自分の意見の通りにしなければ、恐怖感が生じるように話した

自分の提案することを実行しなければ、困ることになると話した

自分のすすめたようにすれば、困難が避けられると話した

両面呈示

納得してもらいたいことに対して反対方向の情報も話した

自分が話すことに対して反対意見もあることを話した

自分に有利な情報しか相手に与えなかった

納得してもらいたいことに対する反論があることは話さなかった

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送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

に対する解決は合意として捉えられるため、以下に示す問題解決度(石井,2007)を使用した。「相

手に納得してもらう場面で、相手に納得してもらった、あるいは合意してもらった時の会話につい

て、あなたが感じたことを答えてください」とし、問題解決度6項目について質問し、括弧内の説明

を加えた。6件法の尺度であるが、会話内容と会話の様子の質問項目と同じように5件法で尋ねた。

ⅰ)問題(相手と自分の態度・考えの違い)が解決に近づいた

ⅱ)問題(相手と自分の態度・考えの違い)が解消した

Table 2 会話マネージメント7領域と質問項目カテゴリー 質問項目

終助詞

発話の最後を「~ですね」「~だよね」と相手に確認した

発話の最後を「~です」「~だ」と断定した

終助詞「ね」「よ」をつけずに、発話の最後を言い切った

発話の最後を「~ですね」「~だよね」と相手に同意を求めた

発話の最後を「~なんですよね」とやわらかく話した

反応を求める頭の動き

発話の最後に、自分の頭を上下に動かして、相手の意見を求めた

相手の反応を求めるときに、顔は動かさなかった

相手の反応を聞きだそうと、自分の頭をうなずかせた

発話の最後に、頭を固定したままで、相手の反応を待った

反応を示すうなずき

相手の話を聞くときに、うなずきが多かった

相手の話を聞くときに、頭を上下に動かして反応した

相手の話を聞くときに、共感的にうなずいた

体や頭を動かさずに、じっと相手の話を聞いた

反応を示す言語

相手の話にあいづちを打っていた

相手に対して「はい」「ええ」「うん」「なるほど」などの反応を示す言葉を用いた

相手が話しているときに聞いていることを言葉で伝えなかった

相手の話を聞きながら、あいづちで聞いていることを伝えた

ジェスチャー

身振り手振りを使った

話の内容を手で表現した

ジェスチャーを多く使った

話にあわせて身振り手振りが多かった

視線

相手の目を見て話を聞いた

うつむいていた

話すとき相手の目を見た

相手と視線を合わせた

笑顔

言いにくいことを言うときに、笑いながら話した

話しているときの表情は笑顔だった

相手の話を聞いているときは笑顔だった

真剣な表情で話した

真剣な表情で相手の話を聞いた

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

ⅲ)(相手と自分の態度・考えが)よりよく変化した

ⅳ)問題(相手と自分の態度・考えの違い)が整理された

Ⅴ)問題点(相手と自分の態度・考えの違う点)が明確になった

ⅵ)問題(相手と自分の態度・考えの違い)に向き合えた

⑤合意度

 筆者が講話を担当したコミュニケーション研修会の中で、医療従事者にのみ記入してもらった。

「一方の人が最近経験したネガティブな感情が起こった出来事について話してください。もう一方

の人がそれをリフレームし、相手がポジティブな態度になるよう合意を得てください」

と教示し、10分間会話を行ってもらった。その後、役割を交代して同様に行ってもらい、質問紙を

配布した。合意度は「今、行った会話で、相手の話にどのくらい納得しましたか」と尋ねた。回答は

「まったく納得できなかった=1」~「とても納得できた=7」までの7件法とした。

5) 分析

 会話の内容的側面とマネージメント的側面について、それぞれを主因子法、プロマックス回転に

よる探索的因子分析を行い、因子を抽出した。その後、潜在因子の高次因子を仮定した高次因子モ

デルを構成し、Amos を用いた最尤法による確認的因子分析を行った。

 さらに、各因子の下位尺度得点の高低によって2群に分け、合意度得点を Mann-Whitney 検定に

よって比較した。確認的因子分析で得られた因子において、実際の合意度で有意な分布の偏りがみ

られた因子を、会話の内容的側面とマネージメント的側面の両側面からモデルの構成を試みた。

Table 3 会話内容の項目の平均値と標準偏差

項  目 平均値 SD

1 納得してもらうために多くの理由を述べた 3.77 0.99

2 話したことに矛盾点はなかった 3.68 0.96

3 自分の話す通りに行動しなければ、たいへんなことになると話した 2.71 1.26

4 納得してもらいたいことに対して、反対方向の情報も話した 3.33 1.12

5 多くの根拠を述べた 3.62 0.99

6 実例を出して話した 3.91 1.14

7 自分の意見の通りにしなければ、恐怖感が生じるように話した 1.97 1.10

8 自分が話すことに対して反対意見もあることを話した 2.85 1.25

9 多くの情報を話した 3.50 1.04

10 比較や確率を用いて説明した�� 2.73 1.25

11 自分の提案することを実行しなければ、困ることになると話した� 2.81 1.22

12 自分に有利な情報しか相手に与えなかった� 2.50 1.09

13 たくさんの説明をした�� 3.55 1.03

14 原因と結果に結びつけて話した� 3.54 1.02

15 自分のすすめたようにすれば、困難が避けられると話した� 2.81 1.10

16 納得してもらいたいことに対する反論があることは話さなかった� 2.60 1.13

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送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

3.結果1) 項目の削除

 合意を得るコミュニケーションの項目、会話内容16項目と会話マネージメント30項目の計46項

目の中から、極端な得点の偏りが認められる項目を除くため、項目ごとに平均値と標準偏差を算出

した。平均値+標準偏差>5という天井効果と、平均値-標準偏差<1というフロア効果が見られ

たものは、会話内容においては項目番号6が5.05、と項目番号7が0.87であったため、これらの項目

Table 4 会話マネージメントの項目の平均値と標準偏差

項  目 平均値 SD

1 「~ですね」「~だよね」と相手に確認した 3.38 1.21

2 発話の最後に、自分の頭を上下に動かして、相手の話を求めた 3.09 1.16

3 納得してもらう会話で、相手の話を聞くときに、自分のうなずきが多かった 3.54 0.99

4 真剣な表情で話した 3.88 1.00

5 納得してもらう会話で、相手の話に自分はあいづちを打っていた 4.00 0.89

6 会話中は、相手の目を見て話を聞いた 4.04 1.04

7 言いにくいことを言うときに、笑いながら話した 2.95 1.24

8 発話の最後を「~です」「~だ」と断定した 2.57 1.04

9 相手の反応を求めるときに、顔は動かさなかった 2.59 0.98

10 相手の話を聞くときに、頭を上下に動かして反応した 3.80 0.88

11 相手に対して「はい」「ええ」「うん」「なるほど」などの反応を示す言葉を用いた� 4.01 0.91

12 話の内容を手で表現した 3.25 1.20

13 うつむいていた 1.78 0.91

14 話しているときの表情は笑顔だった 3.09 1.17

15 終助詞「ね」「よ」をつけずに、言い切りの表現を用いた� 2.44 1.15

16 相手の反応を聞きだそうと、自分の頭をうなずかせた 3.12 1.02

17 相手の話を聞くときに、共感的にうなずいた� 3.95 0.83

18 相手が話しているときに聞いていることを言葉で伝えなかった� 2.65 0.87

19 ジェスチャーを多く使った 3.23 1.16

20 話すとき相手の目を見た 4.09 0.98

21 相手の話を聞いているとき、ほほえんでいた 3.22 1.31

22 「~ですね」「~だよね」と相手に同意を求めた 3.49 1.05

23 発話の最後に、頭を固定したままで、相手の反応を待った 2.79 1.00

24 体や頭を動かさずに、じっと相手の話を聞いた 2.57 1.04

25 あいづちで聞いていることを伝えながら、相手の話を聞いた 3.96 0.86

26 話にあわせて身振り手振りが多かった 3.33 1.07

27 相手と視線を合わせた 4.00 0.95

28 体を使いながら(動かしながら)話した 3.31 1.08

29 「~なんですよね」とやわらかく話した 3.42 1.20

30 真剣な表情で相手の話を聞いた 3.97 1.00

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

を除いた。また、会話マネージメント項目においては項目番号6が5.08、項目番号13が0.87、項目番

号20が5.07であったため、これらの項目を削除した。それぞれの項目の平均値と標準偏差は Table�

3�と Table�4に示す。

2) 因子構造

 上記の分析を経て残った項目、会話内容では14項目、会話マネージメントでは27項目に対し、そ

れぞれ主因子法による探索的因子分析を行った。

①会話内容

 探索的因子分析の結果、固有値の減衰率および解釈の可能性から4因子が抽出された。因子項目

の選定には、それぞれの因子における寄与率が .35以上の寄与であることを条件とし、主因子法、プ

ロマックス回転による因子分析を行った。その結果、以上の条件から3項目(項目番号10、12、16)

が除かれた。さらに、残った11項目を再度、主因子法、プロマックス回転を行い、最終的に11項目

から4因子を決定した。この結果を Table�5に示す。

 第1因子には “ たくさんの説明をした ” や “ 納得してもらうために多くの理由を述べた ”、“ 多く

の根拠を述べた ” といった項目に高い負荷量が認められ、「論拠数」因子と名付けた。

Table 5 合意を得るコミュニケーションにおける内容的側面の因子分析表

項  目�� Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

F1 論拠数

13 たくさんの説明をした�� .833 -.081 -.038 .078

1 納得してもらうために多くの理由を述べた�� .799 .052 -.088 -.032

5 多くの根拠を述べた .702 .094 .041 -.054

9 多くの情報を話した .633 -.028 .097 -.043

F2 恐怖喚起

3 自分の話す通りに行動しなければ、たいへんなことになると話した .059 .799 .078 -.133

11 自分の提案することを実行しなければ、困ることになると話した .002 .785 -.071 .067

F3 両面呈示

8 自分が話すことに対して反対意見もあることを話した -.049 -.018 .732 .000

4 納得してもらいたいことに対して、反対方向の情報も話した� .062 .035 .555 -.010

F4 因果関係

14 原因と結果に結びつけて話した .177 -.033 .065 .592

15 自分のすすめたようにすれば、困難が避けられると話した -.141 .321 -.010 .425

2 話したことに矛盾点はなかった -.054 -.053 -.034 .378

因子間相関�� Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

Ⅰ .318 .302 .419

Ⅱ .128 .530

Ⅲ .238

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―  ―186

送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

 第2因子には “ 自分の話す通りに行動しなければ、たいへんなことになると話した ” や “ 自分の

提案することを実行しなければ、困ることになると話した ” という項目に高い負荷量が認められ、

「恐怖喚起」因子と名付けた。

 第3因子には “ 自分が話すことに対して反対意見もあることを話した ” や “ 納得してもらいたい

ことに対して、反対方向の情報も話した ” といった項目に高い負荷量が認められ、「両面呈示」因子

と名付けた。

 第4因子には “ 原因と結果に結びつけて話した ” や “ 自分のすすめたようにすれば、困難が避け

られると話した ”、“ 話したことに矛盾点はなかった ”�といった項目に高い負荷量が認められ、「因

果関係」因子と名付けた。

 α係数は、第1因子が0.824、第2因子が0.760、第3因子が0.577、第4因子が0.493であった。 

②会話マネージメント

 探索的因子分析の結果、固有値の減衰率および解釈の可能性から9因子が抽出された。因子項目

の選定には、それぞれの因子における寄与率が .35以上の寄与であることを条件とし、主因子法、プ

ロマックス回転による因子分析を行った。その結果、以上の条件から4項目(項目番号3、16、17、

27)が除かれた。さらに、残った23項目を再度、主因子法、プロマックス回転を行い、さらに3項目(項

目番号2、10、18)を削除し、最終的に20項目から7因子を決定した。この結果を Table�6に示す。

 第1因子には “ ジェスチャーを多く使った ” や “ 話にあわせて身振り手振りが多かった ”、“ 話の

内容を手で表現した ”�といった項目に高い負荷量が認められ、「身振り」因子と名付けた。

 第2因子には “ 話しているときの表情は笑顔だった ” や “ 言いにくいことを言うときに、笑いな

がら話した ”、“ 相手の話を聞いているとき、ほほえんでいた ”、“「~なんですよね」とやわらかく

話した ” といった項目に高い負荷量が認められ、「和やか」因子と名付けた。

 第3因子には “ 真剣な表情で相手の話を聞いた ” や “ 真剣な表情で話した ” といった項目に高い

負荷量が認められ、「真剣」因子と名付けた。

 第4因子には “「~ですね」「~だよね」と相手に確認した ” や “「~ですね」「~だよね」と相手に

同意を求めた ” といった項目に高い負荷量が認められ、「同意確認」因子と名付けた。

 第5因子には “ 相手に対して「はい」「ええ」「うん」「なるほど」などの反応を示す言葉を用いた ”

や “ 納得してもらう会話で、相手の話に自分はあいづちを打っていた ”、“ あいづちで聞いているこ

とを伝えながら、相手の話を聞いた ” といった項目に高い負荷量が認められ、「あいづち」因子と名

付けた。

 第6因子には “ 発話の最後に、頭を固定したままで、相手の反応を待った ” や “ 相手の反応を求め

るときに、顔は動かさなかった ”、“ 体や頭を動かさずに、じっと相手の話を聞いた ” といった項目

に高い負荷量が認められ、「静止」因子と名付けた。

 第7因子には “ 発話の最後を「~です」「~だ」と断定した ” や “ 終助詞「ね」「よ」をつけずに、言い

切りの表現を用いた ” といった項目に高い負荷量が認められ、「言い切り」因子と名付けた。

 α係数は、第1因子が0.889、第2因子が0.776、第3因子が0.809、第4因子が0.627、第5因子が0.624、

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―  ―187

� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

Table 6 合意を得るコミュニケーションにおけるマネージメント的側面の因子分析表

項  目 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

F1 身振り

19 ジェスチャーを多く使った .912 -.050 -.028 .050 .020 -.017 .071

26 話にあわせて身振り手振りが多かった .874 -.043 -.051 -.022 .044 .002 -.044

12 話の内容を手で表現した .856 -.070 -.053 .071 .079 -.043 .049

28 体を使いながら(動かしながら)話した .642 .181 .186 .016 -.154 .067 -.045

F2�� 和やか

14 話しているときの表情は笑顔だった -.070 .727 -.145 .120 .027 -.050 .051

7 言いにくいことを言うときに、笑いながら話した .138 .679 -.218 -.188 .038 .112 .037

21 相手の話を聞いているとき、ほほえんでいた -.176 .652 -.031 .118 .152 .000 .056

29 「~なんですよね」とやわらかく話した .049 .493 .249 .126 .001 -.092 -.138

F3 � 真剣

30 真剣な表情で相手の話を聞いた -.010 -.040 1.021 -.021 -.014 -.075 .124

4 真剣な表情で話した .011 -.311 .570 -.066 .171 .124 -.059

F4�� 同意確認

1 「~ですね」「~だよね」と相手に確認した .043 -.023 -.082 .764 -.060 .021 -.003

22 「~ですね」「~だよね」と相手に同意を求めた .075 .078 -.039 .554 .183 -.015 .019

F5�� あいづち

11 相手に対して「はい」「ええ」「うん」「なるほど」などの反応を示す言葉を用いた .024 .065 .023 -.066 .695 -.023 .179

5 納得してもらう会話で、相手の話に自分はあいづちを打っていた .032 .047 .031 .109 .545 .085 -.102

25 あいづちで聞いていることを伝えながら、相手の話を聞いた -.029 .191 .130 -.075 .353 -.047 -.183

F6�� 静止

23 発話の最後に、頭を固定したままで、相手の反応を待った .020 .043 .012 -.029 .083 .734 -.114

9 相手の反応を求めるときに、顔は動かさなかった .040 .028 -.078 -.073 -.037 .563 -.003

24 体や頭を動かさずに、じっと相手の話を聞いた -.137 -.157 .024 .304 -.032 .460 .131

F7 � 言い切り

8 発話の最後を「~です」「~だ」と断定した .031 -.015 .075 .007 .080 -.072 .793

15 終助詞「ね」「よ」をつけずに、言い切りの表現を用いた .026 .246 .147 -.010 -.087 .270 .389

因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

Ⅰ .145 .275 .165 .263 .214 -.065

Ⅱ�� -.064 .488 .333 -.165 -.247

Ⅲ�� .131 .258 .310 -.162

Ⅳ .384 .034 -.231

Ⅴ�� -.097 -.301

Ⅵ .229

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送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

第6因子が0.626、第7因子が0.502であった。

3) 問題解決度との関連

 問題解決度(石井,2007)との相関関係が有意であったものは、「両面呈示」(r = .138,�p < .05)、「因

果関係」(r = .248,�p < .01)、「身振り」(r = .184,�p < .01)、「和やか」(r = .134,�p < .05)、「真剣」(r

= .213,�p < .01)、「同意確認」(r = .145,�p < .05)、「あいづち」(r = .342,�p < .01)であった。

 「言い切り」には有意傾向がみられた(r = .105,�p < .10)。

4) 確認的因子分析

①会話内容

 探索的因子分析の結果から抽出された4因子「論拠数」「恐怖喚起」「両面提示」「因果関係」の中で、

「論拠数」と「両面呈示」の高次因子として『量的側面』を、「恐怖喚起」と「因果関係」の高次因子とし

て『質的側面』を仮定した高次因子モデルを構成した。このモデルを Fig.1に示す。想定通りの因子

構造となることを確かめるために、Amos による確認的因子分析を行なった。その結果、モデル適

合度は�GFI = .999、AGFI = .993、CFI =1.000、RMSEA=.000、AIC =16.675であった。このモ

デルは、『質的側面』から「両面呈示」へのパスがある。このパスを消すことにより、GFI = .979、

AGFI = .931、CFI = .911、RMSEA=.099、AIC =24.061となり、モデル適合度が低下するため前

者のモデルを採用した。

②会話マネージメント

 探索的因子分析の結果から抽出された7因子「身振り」「和やか」「真剣」「同意確認」「あいづち」「静

止」「言い切り」において、『会話システム求心』と『会話システム遠心』の高次因子を想定した。『会

話システム求心』を「和やか」「同意確認」「あいづち」の3因子とし、「同意確認」と「あいづち」を「質

質的側面量的側面

論拠数 両面呈示 恐怖喚起 因果関係

e1 e2 e3 e4

1.76 .88

.28

-.11 1.71 .89

-1.10 1.27

Fig.1 会話内容の高次因子モデル

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

問返答」因子としてまとめ(α=0.645)、2因子とした。また、『会話システム遠心』を構成する因子

を「静止」と「言い切り」とした。このように想定した高次因子モデルを Fig.2に示す。想定通りの

因子構造となることを確かめるために、Amos による確認的因子分析を行なった。その結果、モデ

ル 適 合 度 は GFI = .986、AGFI = .952、CFI = .949、RMSEA=.075、AIC =21.100で あ っ た。

RMSEA がやや高めであるが許容できる適合度が示された。

5) 送り手の会話内容とマネージメントによる受け手の合意度への影響

 確認的因子分析の結果から、会話の内容因子「論拠数」「両面呈示」「恐怖喚起」「因果関係」とマネー

ジメント因子「質問返答」「和やか」「静止」「言い切り」の計8因子が得られた。これらの送り手のコ

ミュニケーション因子に対応する受け手の合意度を検討するため、各因子の下位尺度得点を高群と

低群に分け比較した。合意度得点の平均と標準偏差が5.79±0.93であったため、Kolmogorov-

Smirnov 検定を行ったところデータの正規性が疑われた。よって、Mann-Whitney 検定を行った。

会話システム遠心

会話システム求心

質問返答

e1

和やか

e2

静止

e3

言い切り

e4

-2.45

3.03 .96

-.12

1.55 .83

-1.03

Fig.2 会話マネージメントの高次因子モデル

Table 7 送り手の会話内容とマネージメントによる受け手の合意度の平均値と平均ランク  因子 合意度の平均値(SD) 平均ランク z 値

論拠数 高群 6.09(0.87) 53.06 -3.23**

低群 5.42(0.99) 36.32

因果関係 高群 6.00(0.87) 52.60 -2.90**

低群 5.42(0.91) 37.01

言い切り 高群 6.07(0.87) 50.41 -2.03*

低群 5.66(0.87) 39.55

*p < .05 **p < .01

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送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

その結果、各因子における高群と低群の間で合意度における有意な分布の偏りが認められたものは、

「論拠数」(z =-3.23,�p < .01)、「因果関係」(z =-2.90,�p < .01)、「言い切り」(z =-2.03,�p < .05)

であった。この結果を Table�7、Fig.3に示す。

6) 会話内容と会話マネージメントの関連

 会話内容と会話マネージメントについてそれぞれ別に確認的因子分析を行ったため、双方の関連

モデルの構成を試みた。確認的因子分析から得られた因子のうち、実際の会話の合意度で有意差が

あった会話内容の2因子「論拠数」「因果関係」と、会話マネージメントの因子「言い切り」から構成さ

れるモデルを作成した。このモデルを Fig.4に示す。なお、会話内容と会話マネージメントの因子

数のバランスを取るために、『会話システム遠心』の潜在因子からパスがある「静止」因子も含める

ことにした。このように想定した関連モデルから、会話内容と会話マネージメントは相互に正の影

響を及ぼしあったことが示された。Amos によるモデル適合度は、GFI = .998、AGFI = .992、

CFI =1.000、RMSEA=.000、AIC =15.150であった。

合意度の平均ランク

30

35

40

45

50

55

論拠数 因果関係 言い切り

高群低群

Fig.3 各因子高/低群による合意度の平均ランク

会話マネージメント会話内容

論拠数

e1

因果関係

e2

静止

e3

言い切り

e4

-1.49 -1.02

1.99 .89

.19

1.55.83

Fig.4 会話内容と会話マネージメントの関連モデル

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

4.考察1) 合意を得るコミュニケーションに影響する因子

 合意を得るコミュニケーションに影響する因子として、まず、会話内容に関しては、先行研究か

ら予測された因子である「論拠数」「恐怖喚起」「両面呈示」「因果関係」の4因子が抽出された。確認

的因子分析により構成された高次因子モデルでは、会話内容の『量的側面』と『質的側面』が想定さ

れ、お互いに正の影響を与えていることがわかった。『量的側面』から構成されるのは「論拠数」と「両

面呈示」であり、『質的側面』から構成されるのは「恐怖喚起」と「因果関係」であることが示唆された

が、「両面呈示」には両側面からの影響が確認された。「両面呈示」は送り手の唱導方向とその反対の

両方から会話を進めるため、会話内容の量が増加することになる。これは、「論拠数」に正の影響を

与えた結果からも裏付けられる。また、『質的側面』が「両面呈示」に負の影響を与えていることから、

送り手が唱導方向について両義的な内容を話すことが、合意を目的としたコミュニケーションに関

する質的要素を低める可能性がある。

 また、『質的側面』から構成される「因果関係」が「恐怖喚起」に負の影響を与えていた。この結果

から、「因果関係」を用いて説明することは論理的、理性的に話すことであり、他方「恐怖喚起」を用

いることは感情に訴えることであるため、論理的、理性的に話すことが感情に訴える必要性を低め

るといえるかもしれない。

 合意を得るコミュニケーションに影響する因子として、次に、会話マネージメントに関しては、「身

振り」「和やか」「真剣」「同意確認」「あいづち」「静止」「言い切り」の7因子が抽出された。しかし、「視

線」「反応を求める頭の動き」「反応を示すうなずき」などの予想された非言語因子が抽出されなかっ

た。合意を得る目的で行うコミュニケーションでは「視線」の方向付けは大半の人が行うため、天井

効果により削除されたことが考えられる。「反応を求める頭の動き」「反応を示すうなずき」などの

頭の縦方向の動きは、石井(2007)の知見より無意識で行われることが報告されているので、意識さ

れたことを記入する質問紙調査での因子抽出が困難であることが予想される。

 逆に、言語側面は先行研究から予測された因子より細分化されて抽出されたといえる。「うなずき」

と同時に発せられる反応を示す言語としての「あいづち」は予想通り抽出されたが、「身振り」と「静

止」、「和やか」と「真剣」、「同意確認」と「言い切り」といった一見反対方向のコミュニケーション因

子が抽出された。これは言語と非言語が同時に進行する実際のコミュニケーションプロセスの中か

ら、ある一側面を切り取っているからであり、付随する非言語が異なっていることが推測される。

 これらの探索的因子分析の結果を参考にして、『会話システム求心』と『会話システム遠心』とい

う高次因子を想定したモデルを想定した。『会話システム求心』を構成するのは「和やか」と「質問返

答」である。「質問返答」は「あいづち」と「同意確認」をまとめたものである。そこで「和やか」は「質

問返答」を低めることが示唆された。「和やか」は “ 笑いながら話す ” や “ やわらかく話す ” などの非

言語要素が大きいため、言語的要素の「質問返答」は抑制されることが考えられる。一方、『会話シ

ステム遠心』を構成するのは「言い切り」と「静止」であり、「言い切り」は「静止」に負の影響を与えた。

この結果は終助詞を用いずに「言い切り」が行われるときに「うなずき」が付随されることを示唆し

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―  ―192

送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

た知見(奥野,2004)と一致する。

 一方、『会話システム求心』と『会話システム遠心』において互いに負の影響を及ぼしあう結果が

得られたことは、システムの求心と遠心とが逆方向であることから説明できる。会話マネージメン

トを構成する高次因子が質的に反対方向であることはこのモデルを一見不自然であるかのようにさ

せている。その理由については、会話のマネージメント・コミュニケーションが言語と非言語を同

時に進行させる複雑なプロセスであり、言語と非言語が反対方向のメッセージを伝える場合もある

からではないかと考えられる。たとえば、笑顔で和やかな雰囲気を付随しながら厳しい言葉使いで

問題点を指摘する場合や、笑顔がなく体を固くしながら口調は優しく同意確認を行うときもあるだ

ろう。

 以上のように合意を目的にするコミュニケーションにおいては、会話システムの求心と遠心が同

時になされている可能性がある。したがって、会話マネージメントの因子モデルとして構成するた

めには、合意と会話システム(求心/遠心)という2次元では明確に説明することが難しいといえる

かもしれない。

2) 合意度・問題解決度との関連

 実際に合意を得る目的で会話を行った後に合意度を測定し、この合意度を各因子の下位尺度得点

の高群と低群で比較したところ、有意差がみられたのは「論拠数」「因果関係」「言い切り」であるこ

とが示された。この結果から、送り手が認識する合意を得るためのコミュニケーション因子として

抽出された中から実際に合意に影響する因子は、上記の3因子であることが示唆された。したがって、

合意を得る目的で送り手が用いたコミュニケーションと、実際に合意に有効なコミュニケーション

には、ずれがあることが見出せる。つまり、有効なコミュニケーションは送り手が予想するものよ

り少ないことになる。また、うなずきなどの非言語因子が抽出できなかったことは、「非言語コミュ

ニケーションが無意識で行われていることが多い」(Bateson,1951)ことからも考えられ、調査協力

者の意識的側面からコミュニケーション因子を捉えることの限界があるといえる。

 問題解決度との関連性については、有意な相関関係にある因子は多かったが、いずれも弱い相関

であった。会話内容に関しては「両面呈示」と「因果関係」のみで半数の因子に、会話マネージメン

トに関しては、「静止」以外のすべての因子に有意な相関関係がみられた。弱い相関ではあるため

積極的には言えないが、問題解決への影響は会話内容より、会話マネージメント因子が大きいこと

が考えられる。

3) 会話内容と会話マネージメントの関連

 これまでの先行研究の知見では、コミュニケーションにおいて会話内容と会話マネージメントと

は異なる側面として捉えられていた。会話のマネージメント的側面とは、会話の内容とは比較的独

立した、会話のやりくりであり、「会話システム」や「対人システム」の維持、存続に関わる

(Hasegawa,Kodama�&�Ushida,1996)と述べられている。そこで、双方の関連性を検討するために、

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

合意度に有意差がみられた因子を中心にして、会話内容と会話マネージメントの関連モデル作成を

試みた結果、会話内容と会話マネージメントは正の影響力を及ぼしあうことが示された。この結果

から、会話の内容と会話マネージメントが比較的独立しているものであるとはいえ、両者の関連性

についても示唆されたといえる。つまり、会話内容は会話マネージメントを高め、会話マネージメ

ントも会話内容を高めることになる。この事態とは、「何を話すか」ということと、「どのように話

すか」ということが相互に影響しあうということである。したがって、合意を得る目的で会話内容

の方略を何にするかということと、会話の様子をどのようにするかということは、どちらを先に意

識してもよいということがいえないだろうか。ただ、会話内容と会話マネージメントの因子間にパ

スが引けなかったことから、具体的に会話内容のどの因子に会話のマネージメントが関わるかにつ

いての示唆は得られなかった。

4) 本研究の限界と今後の課題

 本研究では、送り手が認識する合意を得るためのコミュニケーションの潜在因子を抽出し、モデ

ルの構成を行った。送り手と受け手の合意に関するずれを検討するためにロールプレイを行ったと

ころ、実際に合意に有効であるコミュニケーションは、「論拠数」「因果関係」「言い切り」の3因子で

あり、送り手の予想よりも少ないことが示唆された。ただ、調査協力者の意識的側面からコミュニ

ケーション因子を捉えることの方法論的限界から、予測された非言語因子が抽出されないという課

題が生じた。また、本研究ではコミュニケーションのマネージメント的側面と内容的側面とが互い

に正の影響力を及ぼし合うという可能性を示唆したため、マネージメント的側面と内容的側面の関

連性について、今後は精緻化した形での更なる検討が必要である。

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送り手が認識する合意を得るコミュニケーション

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第1号(2009年)

� The�purpose�of� this�study�was�to�examine�communication�that�persuaders�use�when�they�

recognize� consensus�and� to� clarify� the� factor� structure�by� searching�potential� factors� that�

influence� consensus� from� the� both� sides� of� conversational� contents� and� management�

communication.�Factor�analysis�of�questionnaire�surveys�revealed� four�types�of�conversational�

contents;�Numbers�of�ground,�Fear�appeal,�Two-sided�messages�and�Causality,�and�seven�types�of��

management�communication;�Gesture,�Harmoniousness,�Seriousness,�Confirmation�of�agreement,�

Brief�response,�Stillness�and�No�sentence-final�particle.�The�models� for� the�structure�of� theses�

factors�were� organized� from� the� both� sides� of� communication.� In� addition,� result� of� an�

examination�of�consensual�effect�showed�that�the�factors�of�communication�which�persuaders�use�

were�identified�with�Numbers�of�ground,�Causality�and�No�sentence-final�particle.�The�correlative�

model�of� conversational� content�and�management�communication�was�organized� from�these�

factors.�That�model�implied�the�both�sides�of�communication�gave�positive�effect�each�other. �

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Keywords:�consensus,�persuaders,� conversational�content,�management�communication,� factor�

structure

Masako�OKUNO(Post�Doctoral�Researcher,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)

Communication�that�persuaders�use

when�they�recognize�consensus―from�the�view�point�of�an�examination�of�questionnaire�surveys―

Page 20: 送り手が認識する合意を得るコミュニケーション · 行動的側面についての合意を意味する。態度変容という観点からみると、説得と合意における会話