行政業務の推進・改善に 職員主体でデータを活用する 西宮市の … ·...

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地方公共団体におけるデータマネジメントの取り組み 行政業務の推進・改善に 職員主体でデータを活用する 西宮市の事例 一般社団法人 日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC) 行政データマネジメント研究会 2015 年 5 月

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地方公共団体におけるデータマネジメントの取り組み

行政業務の推進・改善に

職員主体でデータを活用する

西宮市の事例

一般社団法人 日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)

行政データマネジメント研究会

2015年 5月

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もくじ

1. 西宮市訪問の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P.3

2. データ活用を支える基盤システム群 ・・・・・・・・・・・・・・・・ P.5

2-1 統合宛名管理システム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P.5

2-2 西宮市地理情報システム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P.5

2-3 庁内イントラシステム「NAIS-NET」(ナイスネット) ・・・・・・・ P.7

2-4 オープン共通基盤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P.7

3. 行政業務におけるデータ活用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P.8

3-1 クリアリングハウス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P.9

3-2 校区カルテ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P.9

3-3 「オープンデータ」の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.10

4. データガバナンス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.11

4-1 情報セキュリティ対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.11

4-2 マイナンバー制度対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.13

5. 組織体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.14

5-1 システム開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.14

5-2 データの品質管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.15

5-3 システム運用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.16

6. 人材育成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.16

6-1 DNA を伝える「徒弟制度」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.16

7 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.17

8 参考資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.18

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1. 西宮市訪問の背景

平成 27 年(2015 年)4 月 1 日に、市制施行 90

周年を迎えた兵庫県西宮市。県南の阪神地域に

位置し、灘の酒で知られる人口約 49万人の中核

市である。市内には、えびす総本山(西宮えび

す)をはじめ、古代・中世時代の歴史や文化を

偲ばせる名所旧跡、阪神タイガースの本拠地で

ある阪神甲子園球場など見所が点在する。近年

は映画「火垂るの墓」の舞台、「涼宮ハルヒの憂

鬱」などアニメーション分野でも話題を集めた。

一方、早くから市政および市庁舎における行政

業務に、電子化された地図データなどのデジタ

ル情報を活用してきたことでも同市は知られる。

日経 BP社発行の日経パソコン記事「e-都市ラン

キング」に 2005~2006年で全国一位となるなど、

メディアでもたびたび同市の情報化に関する取

り組みが取り上げられている。

そうした取り組みの一つに、全国の地方公共団体に無償で公開・提供されている「被災

者支援システム」がある。地震や台風などの災害発生時に、地方公共団体の被災者支援

業務をトータルで支援する情報システムだ。住民情報を基盤データとして同システムの

被災者台帳に取り込んで利用する。もともとは 1995 年 1 月、阪神・淡路大震災を経験

した西宮市において開発されたシステムを他の自治体でも使いやすいように汎用的な

Webシステムとして進化・リニューアルさせたもので、平成 17年に地方公共団体ライブ

ラリに登録された。システムは、Apacheや PostgreSQL、PHPなどオープンソースソフト

ウェア(OSS)を用いた開発・実行環境で動作する。

■阪神・淡路大震災での経験と教訓

西宮市は、阪神・淡路大震災でほぼ市街地の全域が被災した。市庁舎も大きな被害を受

け、コンピュータ機器やネットワーク回線が損傷した。そうした状況下で、市の日常業

務の復旧と合わせて、被災者を支援するシステム(被災者台帳・り災証明書の発行・義

捐金の配布・避難所の管理・仮設住宅の管理等)を、情報システム課の職員が自らの手

で構築し、被災者支援や復旧・復興業務に役立てた。このとき改めて、職員が、平時だ

けでなく、有事において情報システムが果たす役割と有用性を確認するに至った。

被災地の経験と教訓、情報化のノウハウを活かした西宮市の「被災者支援システム」は、

平成 24年(2012年)1月 17日には、東日本大震災により被災された地方公共団体等か

らの要望などを取り込み、被災状況一括入力機能、避難行動要支援者関連システム、被

災者台帳における個人の履歴管理機能、被災者受入台帳機能、複数災害管理機能等を追

加し、「被災者支援システム Ver5.00」(現在は「Ver7.00」)として「地方自治情報セン

ター(LASDEC)」(現在の「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」)よりリリースし

た。各自治体がそれぞれの地域の住民データや地図情報を投入すれば、その地域にあっ

た形で被災者支援や防災施策などに速やかに役立てることができる。

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西宮市情報センターでは、地方公共団体情報システム機構から被災者支援システムの全

国サポートセンター業務を受託し、防災政策の啓蒙はもとより、全国自治体向けのシス

テムの拡充のための出張講師を行い、システムの導入から運用、操作方法に至るまで包

括的な支援を行っている。

■受け継がれる職員主体の開発・運用

ところで、西宮市の職員が、阪神・淡路大震災の直後、辛うじて残った庁舎電算室で、

わずか一日半程度で業務再開にこぎつけ、このようなシステムを急遽開発することがで

きたのは、なぜだろう。こうした対応は一朝一夕にできるものではない。理由がある。

同市では、昭和 30 年代に業務の電算化を開始して以来、職員自らがコンピュータの知

識やスキルを身につけ、情報システムの企画・設計・開発・運用・保守を連綿と主体的

に行ってきた。

今回の訪問でお話を伺った三原淳 情報管理部部長(取材当時は「情報政策部 部長」)

は、これまで基幹系システムを含め多数のシステムの企画、開発、運用に携わってきた。

南晴久 同部情報システム課 課長もホストコンピュータのオープン化プロジェクトを

はじめ、様々なシステムでの実務経験を有している。

「現場の業務知識」と「情報システム構築・運用のスキル」いずれも備えた職員が、行

政業務の電子化、情報化に基づく施策の立案・実施・評価に力を入れてきた。

そのようにして生み出された情報システムの一つに、業務・部署横断的に住民情報を名

寄せできる「統合宛名管理システム」がある。昭和 47 年(1972 年)以降からカナ氏名

と個人番号、世帯番号を連結したシステムを構築し始め、稼動開始は、昭和 56年(1981

年)12月。他の自治体に先駆けた取り組みだった。

統合宛名管理システムと同様に、職員の手で作られたシステムに後述する「西宮市地理

情報システム」もある。それらシステムを介して、電子化されたデータ(以下、データ)

を普段の業務で活用してきた。これらの素地があって、阪神・淡路大震災時における被

災者支援システムの構築および、これを活用した市民救済に向けた市役所での迅速な意

思決定が可能になった。

■「データの管理・活用」と「情報セキュリティの確保」は表裏一体

データの行政業務における有用性を理解する、ということは、裏返すと、「どのデータ

を誰がどこまで使ってよいか」または「どういう使い方をしてはいけないか」という心

構えやルールを身につけ、実践しなければならないということだろう。そのために情報

管理部では、庁内におけるデータ利用上のルールを定め、指針(ガイドライン)や具体

的なマニュアルを整備し、情報セキュリティ水準の底上げに向けて現場への周知徹底に

努めてきた。

JDMC行政データマネジメント研究会では、自治体におけるデータマネジメントの状況を

把握する一環で、同市の取り組みに注目した。同市役所を訪問したのは 2015 年 2 月中

旬。その時点で、情報管理部は情報企画課(取材当時は「情報政策課」)と情報システ

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ム課 24名で構成されている。うち情報システム課は 19名。第 4次西宮市情報化推進計

画を推進しているところだった。そこでのヒアリング内容を軸に本レポートを作成した。

2. データ活用を支える基盤システム群

データの利活用に触れる前に、まず同市の業務・部署で取り扱われるデータの流通基盤

について読者の方と情報を共有させて頂きたい。情報化推進計画に沿って開発(再構築)

してきた主要なシステムには次のようなものがある。前章で触れた統合宛名管理システ

ム、西宮市地理情報システム、そして庁内情報を統括する庁内イントラシステム

「NAIS-NET」、12 年かけて総合住民情報システムを独自開発にて再構築しているオープ

ン共通基盤である。それぞれ簡単に概要を紹介する。

2-1. 統合宛名管理システム 各課が個々に取り扱っていた宛名情報(住民に関する基本情報)を統一する情報システ

ム。先述のとおり、昭和 56年(1981年)12月に稼動を開始した。以降、西宮市で開発

される住民情報系システムは、原則この統合管理された宛名情報を基礎にして構築され

ている。個人情報保護に配慮した上で、原則すべての業務システムが、宛名リンク番号

により情報連携可能となっている。

他市でも、パッケージシステムなどを使って住民記録データ(住民票が付与される住民

のデータ)の庁内連携が行われているところはある。ただ、同市では早くから、外国人、

住民登録外(住登外)の住民、法人のデータについても一元的に情報を把握し、各課個

別ではなく全庁的に共有していることが特徴だ。これにより、同市が市民に提供する各

種行政サービスが部署・業務で細切れにならず、ワンストップで包括的に提供すること

が可能になっている。また、各課の職員にとっても住民に紐づく情報の検索効率が高ま

っている。

後述する西宮市地理情報システム、オープン共通基盤、前述した阪神・淡路大震災当時

に開発した被災者支援システムにおいても、後述の住所辞書とこの統合宛名管理システ

ムが重要な役割を果たしている。

2-2. 西宮市地理情報システム

西宮市が、行政業務のための地理情報システム(GIS)の導入を検討したのは、昭和 50

年(1975年)である。建設省が推進するプロジェクトの実験モデル都市に選ばれ、ホス

ト上での GIS「UIS」の第一次開発に取り組んだことがきっかけだ。しかし、システム設

計、業務構築に莫大な費用がかかり、大失敗に終わり、見直しが必要になった。これを

受けて、昭和 59 年(1984 年)に第二次開発がスタートした。第二次開発では「西宮市

位置座標方式」を実現した。これは住所コードを備えた独自の住所辞書である。西宮市

内の住所を入力すれば、住所辞書上のアドレス(X,Y座標)に変換することにより、

地図情報を表示することができる。前述した住民記録マスター等を活用した日常業務に

GISを連動させる仕組みが生まれた。

平成 10 年(1998 年)には西宮市をあらゆる角度からくまなく地図検索できる地図案内

システム「道知る兵衛」の Web 版を市民向けに公開した。この WebGIS エンジンには当

時唯一の MapInfo ProServerが用いられていた。一方、庁内の各課が GISを開発したた

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め、整理統合が必要となった。この基盤として開発されたのが、「にしのみや WebGIS」

である(最新版: http://webgis.nishi.or.jp/ 、本レポート P.3に付した西宮市全域

の地図もこちらから複写したデータ)。このサイトでは、都市計画課、土木調査課、災

害対策課、下水整備課、資産税課、文化財課など、地図データを業務に利用する各課が、

それぞれ主管する地図サービスを提供している。「にしのみや WebGIS」があることで、

異なる基盤地図の追加も行える。基盤地図は白地図、建築基準法指定道路台帳、固定資

産税路線価図、案内図などを用途によって選択表示できる。

また、にしのみや WebGIS では、各種の台帳データと接続できる API(Application

Programming Interface)を備えている。これは庁内における政策立案などに必要な、

各課の資料作成などに活用されている。他の課が拠出するデータを利用する場合には、

法律、条令に基づいた手続きを経て、利用が許可される。

■ 地理情報システムにおける「絶対座標」について

前掲した図 2-2-1 は、「にしのみや WebGIS」で、AED の設置場所を示した案内図である

(1/10,000 の縮尺)。AED はハート型のマークで画面地図上に示されている。この画面

右下に次のような情報が表示されている。

http://webgis.nishi.or.jp/index.php?action=redirect&controller=index&map_id=1

2&map_gid=7&x=94145.1978776&y=-141368.795021&scale=10000&landmark=aed

これは画面中央のポイント(赤丸に十字のマーク)の絶対座標(x座標 94145.1978776,

y座標 -141368.795021)を示している。

■ 地図データを活用した新サービスの例 ~防災・避難所誘導サインの導入~

市民が、所有するカメラ付き携帯電話、スマホなどの端末から街角に設置されたパネル

の QR コードを読み取ると端末画面上に避難所の位置などの情報が表示されるというサ

ービスである。避難所地図の表示については職員が自ら企画し、開発・運用を行ってい

る。さらに、津波や水害対策の一環で、現在地の標高を利用者に知らせる機能の追加を

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検討している。また、防災・避難所誘導サイン以外にも地図データを子育て支援など

に活用する庁内利用も行っている。

2-3. 庁内イントラシステム「NAIS-NET」(ナイスネット)

90年代より構築してきた庁内イントラネットである。各課の職員が情報共有を行い業務

の生産性を高める仕組みを提供する。NAIS-NETは、西宮市ナレッジシェアリングシステ

ムという考え方に基づいて、各課が投入するデータを与えられた利用権限に基づいて互

いに閲覧、利用することができ、部署横断的なデータ収集や資料作成の時間短縮を図っ

ている。かつてそれぞれの部署が会計部門と FD(フロッピーディスク)等でやりとりし

ていた総合振込データも、今日ではこの NAIS-NET上で一元的に集約されている。

2-4. オープン共通基盤

同庁では目下、メインフレームで稼動する基幹業務システム群をオープンシステム環境

へ、平成 20年度(2008年度)から平成 32年度(2020年度)まで 12年の歳月をかけて

段階的に行う大規模プロジェクトが進行中である。

長年、日立製のホストコンピュータを利用していた同庁では、平成 21年度(2009年度)

以降、新たに導入したサーバーハードウェア上に、このホストコンピュータと連携可能

な「オープン共通基盤」を構築している。主な目的は、多年にわたる制度改正の改修に

より陳腐化が進み、負荷が高くなっているシステムの運用保守を軽減すること、拡充す

るオンライン業務に対応する機能改善、そして既存ホストコンピュータにかかる費用の

削減である。オープン共通基盤を構築して以降、ホスト上で動作していた、住民記録を

はじめ住民情報系の各システムを当該基盤上に再構築している。再構築およびデータの

移行/同期はシステムごとに制度改正等のタイミングをとらえて段階的に行っている。

オープン共通基盤上では、既存ホストコンピュータと同様のプログラム言語(主に

COBOL)を用いてシステムを開発できる。これまで培ってきた職員の開発スキルを生か

しながら、再構築を進めている。なお、それぞれの業務状況に合わせてシステム形態を

判断し、制度改正が頻繁にある介護、障害者自立支援、生活保護分野のシステムや、法

務省から指定されている戸籍システムなど一部業務では、パッケージ製品を併用してい

る。肝心なことは、パッケージ製品を導入した場合でも、市職員による制御を失わない

ことである。

オープン共通基盤は新旧システムのデータ連携にも欠かせない。宛名データの正本は既

存ホスト側にある。ホスト側のデータを更新すると、オープン共通基盤側のデータが自

動的に同期される仕組みになっている。オープン化が完了したシステムから順次、ホス

ト側ではなくオープン基盤上のデータを参照することとなる。業務アプリケーションを

利用する職員にとっては、利用するデータベースが、既存ホスト上で動いているのか、

構築中のオープン共通基盤上で動いているかを意識する必要はなく、職務に専念してい

る。また、休日窓口で利用する部署においては、ホストを起動することなく、オープン

基盤のデータを参照することで業務の効率化も図っている。

■ ホストコンピュータをオープン化するプロジェクトの概要

オープン共通基盤上でシステム化される業務は「オンライン業務」および「バッチ処理

業務」に大別される。オンライン業務のオープン化に際しては、基幹業務のフロントに

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リッチクライアントである Biz/Browser を使用している。Biz/Browser を選択した理由

としては、IEなどクライアントのブラウザ環境に影響されないこと、開発ツールが整備

されていて生産性が高いことなどが挙げられる。平成 25 年度(2013 年度)末時点で全

28のオンライン業務のうち、17業務のオープン化が完了している。平成 31年(2019年)

までに全オンライン業務がオープン化を完了する予定である。

オンライン業務のオープン化では、国民健康保険、固定資産税、住宅管理を対象とする

大規模なプロジェクトが控えている。いずれも長年、ホストコンピュータの独自開発シ

ステムを利用していた業務領域だ。これらのシステムのオープン化を契機に市の滞納に

関する情報を滞納管理基盤システムとして一元管理することで業務のさらなる円滑化

につながると期待されている。

一方、バッチ処理業務では、平成 32 年度(2020 年度)中旬までにオープン化を進める

計画だ。バッチ処理のオープン化ではホストと同等以上の処理速度を確保することが求

められている。2015 年 2月時点では、作成した自動変換ツールを用いて、9割以上の変

換率でバッチ処理プログラムを変換できる状況である。

■ ホストコンピュータの文字符号化集合および漢字コード

既存ホストコンピュータでは、「KEIS EBCDIK」というメーカー固有の日本語処理システ

ムを使用している。一方、オープン共通基盤上では、西宮市文字情報基盤を用いており、

ここでは文字集合および符号化コードとして UTF-8を採用している。戸籍システムは法

務省から指定されるパッケージであることから、EUC-HJ(戸籍統一漢字)を利用してい

る。同市では一部のパッケージシステムで UTF-16 も利用している。外字は基本的に庁

内で作成・情報システム課で管理している。これら文字集合および符号化コードの互換

性確保および外字の保守には、「漢字かなめ」(日立製)を用いている。

3. 行政業務におけるデータ活用

前章で紹介した数々のデータ基盤を使って、各業務の担当課、および複数の課が連携す

るプロジェクトなどで、データの利活用が行われている。政策の立案・評価、市民サー

ビスの向上につながる取り組みをご紹介したい。

3-1. クリアリングハウス

第 4次西宮市情報化推進計画の基本方針には、「ICTの高度化及び分野横断的な利活用」

が掲げられた。これに沿う取り組みの一つに、平成 21年度(2009年度)に開発した「ク

リアリングハウス」がある。統合型 GIS専門部会が中心となり検討・導入を進めたもの

だ。同部会のメンバーは、GISを利用する各部署の職員中心に構成されている。

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図 3-1-1:クリアリングハウスにおける利用イメージとデータのながれ

クリアリングハウスは、庁内の地理情報資源の有効活用ならびに各課での利用を促進す

るための仕組みである。主な機能は次の 3つである。(1)庁内のネットワークを活用し

て地理情報関連のファイルを一元的に管理する、(2)各課が所有する地理情報関連のフ

ァイルを各課が直接登録できるようにする、(3)登録されたデータは他の課から閲覧も

しくは、設定に応じてダウンロードできるようにする、ことである。庁内における地図

資源への重複投資を防ぐことにもつながっている。

クリアリングハウスに登録されるのは地図データのみではなく、JPEGや PNGなどのごく

標準的な画像形式のファイルもある。手元に専用の地図ソフトがなくても職員は利用す

ることができるように工夫した(参考:5-3「システム運用」)。PDFや xls 形式のファイ

ルも登録可能である。

導入以降、庁内の地図資源の流通や、業務における地図を用いた分析・政策立案資料の

作成といった利活用が行われている。その成果の一つが、次に挙げる「校区カルテ」で

ある。

3-2. 校区カルテ

全庁より部署横断的に集積した情報等を用いて、グラフや地図に落とし込んだ、政策企

画のための資料である。

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図 3-2-1:「校区カルテ」の画面例

校区カルテは、子育て関連など、各種の政策立案を支援するため、小学校区の単位で児

童数の推移や学級数、校庭や公園など公共施設の位置や特徴、運用状況などのデータを

一覧化して提供する資料である。平成 26 年度(2014 年度)に庁内の連携チームが協力

して作成された資料だ。従来、町単位でのデータをまとめた資料が庁内で用いられるこ

とが多かったが、これを発展的拡充したものとも言える。

校区カルテは、教育委員会、子ども支援局といった複数の部署が保有するデータを集約

し、地図やグラフなどと組み合わせることで地域特性や地域課題を把握しやすくするも

のであり、「子どもの居場所をいかに確保するか」など各種政策の企画立案や政策判断

の基礎資料となるものである。

今後の課題の一つは、データの収集とその更新である。校区カルテの利用価値を体感し

てもらえれば、各部署がデータを自主的に登録・更新していくモチベーションが生まれ、

結果的に、データ鮮度の高い正確な校区カルテを使い続けられるメリットを利用者がお

互いに享受することができるようになるのではと考えている。

3-3. 「オープンデータ」の推進

公共データの活用促進いわゆる「オープンデータ」の推進により、行政の透明性・信頼

性の向上、国民参加・官民協働の推進、経済の活性化・行政の効率化が期待されている。

西宮市では、オープンデータの推進を市民サービスの一環として、また、市の政策決定

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を補完するためのものとして位置づけている。全庁のデータを生かした政策立案や部署

横断的な業務改善に役立てることもできる。

同市では平成 27年(2015年)2月以前に、市民に向けて 15種類 300ファイル程度のデ

ータを市の HP に公開していた。ただ、市民や企業がコンピュータなどでデータを二次

利用しやすくするために、これらのデータを平成 27年 2月に、西宮市の Webサイトで、

順次オープンデータ化して公開を開始した。このとき、公開したデータは、GIS の位置

情報データが 7 種類(例:学校園、公園、AED、投票所など)、統計等のデータが 13 種

類(統計関連データ、介護保険の事業概要など)である(その後、順次追加されている)。

データの著作権は市に帰属しているが、原則 CC-BY(再配布や二次利用が可能)で公開

している。利用規約を守れば、営利/非営利を問わず個人・企業が自由に公開・加工す

ることができる。

ただ、データの公開にあたって職員の負担が増えては、オープンデータ化の取り組みは

長続きしない。あくまで通常の業務の中から生まれてくる成果物を改めて準備をせずに

公開できることが望ましい。そのようなモチベーションを庁内に生み出すことが、情報

管理部における課題のひとつだ。

公開フォーマットは主に、コンピュータで利用しやすい(機械判読しやすい)CSV およ

び xls 等のファイル形式である。ただ、これらの表形式に留まらず、XML や RDF など、

データ項目の追加や変更などが表形式よりも柔軟に行えるファイル形式で公開するこ

とを情報システム課では検討している。地図データを収めたファイルについては、標準

的な規格 shape形式での公開を検討している。

同市が、オープンデータに取り組むきっかけのひとつになったのが、平成 25 年(2013

年)の市議会でなされた一般質問だった。

成果物は積極的に公開するように各課に呼びかけている。ただし、オープンデータ化も

後述する情報セキュリティ対策も、各課の協力が得られなければ続かない。まずは情報

管理部が率先して成果物をクリアリングハウス、またはオープンデータ化を通じて公開

を進め、その知見を他部署と共有している。

前述した校区カルテは、クリアリングハウスを用いた庁内での流通に留まらず、将来的

に(その一部を)オープンデータとして公開することを今後の検討課題の一つとしてい

る。仮にデータが公開されると、防災に必要な施策や、公共施設のメンテナンス(ファ

シリティマネジメント)において市民との間で実りある意見交換や対策の立案が可能に

なる基礎資料として活用できる。利用促進に向けてルールおよびガイドラインの整備

(参考:5-1「システム開発」)を進める方針である。

■ 他自治体との連携

オープンデータは、それぞれの市が独自に公開しても価値はあるが、掛け合わせること

でさらなる価値が生まれるはずだ。そのためには、各行政機関・自治体バラバラではな

く、標準的なデータ公開におけるレイアウトなどの仕様が国から提示されると弾みがつ

きやすいだろう。西宮市情報管理部も政府の対応に注目している。

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4. データガバナンス

4-1. 情報セキュリティ対策

第 1章で触れたように、情報システム課では「情報セキュリティ対策」と「データ資産

の管理・活用」を表裏一体の活動と認識して一元的に取り組んでいる。

近年では PIA(プライバシー影響評価:Privacy Impact Assessment)の取り組みが非常

に効果的であったという。理由は、データオーナーである業務主管課が自ら扱うデータ

の重要性を再認識し、それに対する管理責任を明確に意識することにつながったためだ。

また取り組みの過程で、情報システム課が各課の自律的な活動を支援する、という理想

的な体制が形作られていった点も評価している。

■ 情報セキュリティ対策の推進体制

平成 16 年(2004 年)5 月に情報セキュリティ委員会を庁内に設置した。同委員会のメ

ンバーは、市長をトップに特別職と局長級の職員で構成される。その下に、全局を統括

する部長級の職員が参加する情報セキュリティ推進部会がある。実行推進担当者ならび

に一般職員の管理責任は、課長などの各課の長が担っている。

図 4-1-1:西宮市における情報セキュリティの推進体制

庁内セキュリティ教育にも継続して取り組んでいる。平成 26 年度は延べ 600 名の職員

が教育研修を受講した。また各課に週一度、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)

が発行する「自治体セキュリティニュース」をメール配信している。

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平成 17年(2005年)12月からは、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の

認証を同市の基幹業務の一部(住民記録システム、住民基本台帳システム。その後、税

務システム・税外部接続システムへと拡充)において取得した。それ以降も、適用対象

の業務・組織を拡げながら当該認証を継続取得している。認証を取得している組織は、

市民課、税務部、各支所、情報管理部の 13課 15部門(2015年 2月時点)である。取得

部門では、全職員がセキュリティ研修を受講することを義務付けられ、業務におけるセ

キュリティリスクの洗い出しや保護対策を平素から心がけている。

平成 26年度(2014 年度)には、その時点で ISMS 適用範囲外だった 173課の情報セキュ

リティ状況を調査した上で、チェックリストによる内部チェック、現場点検の強化など

の対策を講じている。

図 4-1-2:情報セキュリティ研修で利用される情報企画課作成のハンドブック

4-2. マイナンバー制度対応

庁内で厳重に管理される重要データの一つに、パーソナルデータ(個人情報)を含む宛

名情報がある。氏名、住所、生年月日、性別という基本 4情報と付帯する情報からなる。

基本 4情報は住民基本台帳ネットワークにも登録されている。2015年中には、住基ネッ

トに登録された住民一人ひとりに 12桁のマイナンバーが割り振られる。

西宮市では、マイナンバー制度に対応し、特定個人情報保護評価を行っている。特定個

人情報とは、「マイナンバーをその内容に含む個人情報」のことである。同市では平成

26 年(2014 年)に部長級の職員で構成された番号制度準備委員会を設置した。その下

に課長級の職員で構成される、業務・システム検討作業部会、特定個人情報保護評価検

討作業部会、個人番号交付カード検討作業部会の 3つの作業部会を設置・運営している。

経過措置を活用しながら、評価作業を順次進めている。

ただ、ISMS、PIA など色々なスタンダードが複雑に混在すると対応する職員の負担も増

える。全庁のセキュリティの向上を図りつつ、取り組み負荷をいかに軽減するか、が情

報企画課に課されたテーマだ。マイナンバー制度対応の過程では、独自に評価書作成ガ

イドラインを作成・運用している。その作成にあたっては、ISMSにおけるリスク評価の

ノウハウを活用した。

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なお、マイナンバー制度の詳細な仕様については 2015 年 2 月時点で、まだ明らかにな

っていない部分がある。同市では今後の進展を注視しつつ、本制度対応が庁内における

業務改善のきっかけになれば、と考えている。

図 4-2-1:特定個人情報保護評価書の作成・チェック体制

5. 組織体制

5-1. システム開発

第3章では市職員が現場で使う主要な情報システム基盤を挙げた。そうした情報システ

ムは利用者である職員が立案し、開発作業を情報企画課または情報システム課が支援し

ていく形が理想である。

情報システム課のメンバーには、開発するシステム全体のコンセプト作り、画面構成、

場合によっては概要設計まで踏み込んで対応できるスキルがある。ただし、システムを

企画する主体は本来、業務の主管課であるのが望ましい。なぜならば「こういうことを

業務でやりたい」という思いや構想を温めているのは、日頃、議会や市民と接する機会

の多い現場の職員にほかならないからだ。情報管理部だけ勇み足では他部署がついてこ

ない。

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市全体の情報化計画に基づくシステムの開発・発注に加えて、業務を担当する課から提

出されるシステム化に関する自主計画を情報企画課では、例年とりまとめている。

システム調達では各課がそれぞれ自由に外部発注をかけることはない。「ICT調達ガイド

ライン」に沿って情報企画課が導入目的、要求事項および見積金額などを計画内容に沿

って総合的に精査・勘案した上で実施している。

その結果、庁内には、どの部分を外部の事業者に委託するべきか、庁内で対応するべき

かを見極めるノウハウが蓄積されている。庁外の事業者に任せたほうがよい部分もある。

例えば、パッケージソフトウェアの品質管理やセキュリティ対応である。いずれにして

も、システムの調達や開発のプロセスを通じて情報システム課をはじめ職員が業務やデ

ータに直接向き合うことが重要である。外部の事業者などに簡単に丸投げすることは情

報システムのブラックボックス化を招きやすい。いざ、という場面で、情報システムの

どこにどう触れてよいのかわからなくなり、迅速な対応が難しくなる。市民の要望に応

えられなくなる。

オープン共通基盤の構築プロジェクトは、平成 20年~平成 32年にわたる長期計画であ

ると第 3章で触れた。時間をかける理由は、職員の間にノウハウの継承を行うため、そ

して、財政負担を平準化するためである。一気に変更すると、その場に居合わせた人だ

けにしか基盤の仕組みがわからなくなり、職員での維持管理が困難になる。そうなると

将来庁外に管理を丸投げするようになる懸念が出てくる。こうした潜在的なリスクがあ

ることを、全庁に周知するよう情報システム課では努めている。

情報システム課は、これまで蓄えたノウハウやスキルを担当課発案のシステム開発・調

達の場面で活用してほしいと望んでいる。原課の負担にならないようにという配慮から

情報企画課では開発・調達におけるガイドライン作りと各種支援を行っている。

5-2. データの品質管理

情報システム課では、庁内各部署で管理するデータ資産をおおむね把握している。だが、

データは日々の業務とともに、絶えず生み出されている。知らないうちに眠ってしまっ

ているデータが庁内の PCにあるかもしれない。そうしたデータの棚卸しを平成 27年度

(2015年度)以降、本格化させる見通しだ。

ところで、地図情報に登録されるデータなどを各課から集め、なおかつ最新の状態に保

つには、データを登録・更新する現場の協力が欠かせない。

たとえば、普段利用する業務システムに、正確な地図データなどを登録してもらう目的

で、情報システム部門の予算を用いて、地図ソフトの研修を行っている。まずは職員に

メリットを感じてもらう。メリットをつかめれば各課の職員もデータの品質維持管理の

ために「一肌脱ごう」という気持ちにもなるはずだ。

ISMSや PIA、特定個人情報保護評価などのセキュリティ対策の実施にかかる負担は、各

部署にとって決して小さくないと前述した。「法律で決められた義務だから」と一方的

に押し付ければ現場が疲弊してしまう。そこで単なる義務ではなく、「見方を変えれば、

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業務の棚卸し(見える化)ができるよい機会になる」と発想を変えてみてほしい、と情

報管理部では各課の協力を仰いでいる。

データの管理が適切になされていて、システムを安全に使える安心感があれば、より積

極的に資料作成や業務分析にシステムおよびデータを効果的に活用する習慣が浸透す

るだろう。

ただ、そのような文化を庁内に育てるには日頃、各課とのチームワークを高めておくこ

とが大切だ。どんなに時間がかかっても信頼関係を築くための努力は惜しまない。セキ

ュリティ対策などのガイドラインの作成や技術的な支援も行う。情報管理部と各部署の

チームワークが、ひいては市民のためになっていくと同市では考えている。

■ 「最新のデータ」を持つ意味

各課が業務を行う上で根拠なる法律(根拠法)によって、いつの時点のデータが最新に

なるかは異なる。仮に 10 月 1 日の最新データといっても、10 月 1 日時点のデータが集

まっているとは限らない。同年 4 月 1 日時点のものかもしれないし、1 月 1 日時点かも

しれない。各根拠法はそれぞれの必然性のもとで調査・収集されるデータを利用するた

め、どの情報にもタイムラグがある。

市民一人ひとりの生活実態などに関する情報のアップデートについては、市民と接点を

持つ民生委員をはじめ地域に根差して活動する町内会や自治会などの協力が欠かせな

い。災害対策の面では、乳幼児や寝たきりの高齢者、障がいを持った方には特別に配慮

がいる。被災者支援システムに含まれる避難行動要支援者関連システムに登録する名簿

データの管理・情報更新を含めて、防災部門との連携が課題となっている。

5-3. システム運用

情報システムの開発と運用は切り離せない。各部署が使いたいシステムを作る以上、現

場が利用してこそ、システムの価値が生まれる。開発はゴールではなくスタートだ。業

務システムの本領が発揮されるのは運用開始されてからだ。

システムを利用しはじめると、業務を通じて各担当課に、例えば「将来的にはこういう

種類の集計・分析機能が業務上必要だな」といった新たな要望が生まれてくる。情報シ

ステム課では、そうした要求に速やかに応えることができる体制作り、人材を育成して

いくことが、現場からの信頼を獲得し、次の開発依頼に結びつく循環を作り出す原動力

であると認識している。

6. 人材育成

6-1. DNA を伝える「徒弟制度」

情報システム課では、研修および各種業務システムの開発・運用実務を通じて、実践的

に職員のスキルアップを図っている。そうしたスキルを備えた情報システム課のメンバ

ーのうち、毎年、現場部門へ 3~4 名が異動している。システム開発・運用を経験した

人材が業務主管部門に移ることは極めて重要だ。現場の声を業務システムに反映するこ

とで、データを活用した業務分析が可能になり、日頃の行政サービスの改善や災害など

緊急時の適切な対応につながっていくことになる。

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昭和 36年(1961年)、西宮市では電算機を導入した。この時代から庁内での開発を基本

に据えている。

「先輩から受け継いできたものを、次の世代に伝えていくのが私たちの役目です」と情

報管理部 三原部長は述べる。

三原氏も情報システム課に配属された 20~30 代の頃、データベースの設計、ソフトの

インストール、テスト開発、データの移行、本番環境へのデプロイ(実装)、その後の

運用と、いくつものシステム開発を一から経験してきた。

そのスキルを携えて、三原氏は一時期、社会保険事業を担当する部署に配属された。そ

こで担当した後期高齢者医療保険システムの開発では、情報システム課と主管部門の橋

渡し役を担った。現場からの要望を取りまとめて情報管理部に伝えた。また、開発され

たシステムが要望を満たしているかどうかの検収作業も行った。複数の地方自治体や特

別区で構成される広域連合から提供されるシステムを用いるべきところはどこか、そう

ではなく西宮市が独自にやらなければならないところはどこか、その見極めを現場主体

で行った。例えば、職員が利用する PC とサーバーを結ぶ仕組みや画面設計には、

Biz/Browserを利用してストレスの尐ない操作性を実現した。

こうした業務とシステムの両方に通じた人材の育成は、一度途切れてしまうと難しい。

同市ではベテランの職員と若手が師弟関係のようにして知識と経験を伝えている。ただ、

昨今の膨大な業務量を考え、従来の自前主義ではなく、外部の事業者の知見を活用する

場面も増えている。システムの調達や開発を通じて蓄積してきた目利きのノウハウがこ

こで生かされている(参考:5-1「システム開発」)。

■ 若手研修の流れ

1 年目の研修では、庶務的な仕事をこなしつつ、座学で基本的なコンピュータの仕組み

やセキュリティの知識、先輩職員が行う開発・運用支援に必要なプログラミング技術な

どを学ぶ。戦力となるのは通常 2、3 年目以降だ。システム設計に必要なモデリングな

ども行えるようにする。やがて、教えられる側が教える側に回る。それが復習の機会に

なる。システム開発はともすれば孤立しがちだが、情報管理部では課題を含めて忌憚な

く話し合える雰囲気作りに務めている。先輩後輩や仲間の信頼関係があってこそだ。

■ 人材の確保

何事にも向き不向きがあるように、コンピュータを扱うのがどうしても苦手、という人

もいる。本来、オールラウンドな人材の育成を目指すべきではあるが、情報管理部では

人事部門とも協議し IT社会人経験者を採用するなど、人材の確保にも取り組んでいる。

西宮市は 2014年の市長選挙で 40代の若い新市長が誕生した。新市長も、ITの役割と重

要性を理解している。なお、被災者支援システムの開発者である前 CIO 補佐官(電子自

治体推進担当理事)の吉田稔氏は、市の情報化戦略をサポートしている。また業務とシ

ステムを熟知することの重要性と、何より職員としての志を後進に伝えている。

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7. まとめ

西宮市では、昭和 30 年以来、紆余曲折を経ながら情報管理部の職員が主体となって庁

内の IT インフラの開発、統合、整備を行ってきた。その“遺伝子”は今日まで連綿と

受け継がれている。

また同時に、さまざまな行政サービスを提供する上で欠かせないデータを蓄えた情報シ

ステム基盤も、脈々と継承してきた。これらが揃っていればこそ、あの阪神・淡路大震

災直後の速やかな被災者支援が可能になった。日頃の備えが、未曾有の事態において生

きた。

同市では、“データマネジメント”という言葉を用いてはいないが、これはデータマネ

ジメントの本質を突いた取り組みといえる。情報セキュリティ対策もまた、受身で対応

するのではなく、業務プロセスとデータの棚卸しの機会、データを安全に業務に役立て

るための確認の機会と捉えて、前向きに取り組もうとしている。全庁のデータを一元的

に把握しよう、という姿勢はデータガバナンス(統治)の基本に据えられている。

ただ、こうした遺伝子を途切れずこの先も受け継いでいくためには、課題も尐なくない。

オープン共通基盤の整備はもとより、情報管理部が蓄えてきたノウハウやスキルを活用

しながら、各課が主体となってさまざまな構想を形にしていく、その営みを当たり前の

ものとして庁内に根付かせていく風土が大切になる。

今後は、広域的な視座での災害対策や社会インフラの維持管理において、近隣自治体と

の連携を見据えた試みがいっそう重要になりそうだ。そうした環境の変化を見つめなが

ら、ITを活用する未来の担い手をどう育てていくのか。西宮市の取り組みを今後も注目

していきたい。

8. 参考資料 ・月刊 LASDEC H23.3月 危機管理と情報システム(被災者支援システム全国サポートセ

ンター長 吉田稔)

・MapInfo Japan西宮市レポート記事

https://japan.mapinfo.com/location/case/jp/nishinomiya.html

(了)