今必要とされる地域コミュニティの再生と 行政職員の役割 · 1.はじめに...

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2013年度 地域コミュニティ活性化市町村担当職員研修会 今必要とされる地域コミュニティの再生と 行政職員の役割 2013年8月29日 名和田是彦(法政大学) ※とても全部はお話しできませんので、比較的詳しく資料を作りました。あとでひと通り お読みください。 1. はじめに ~東日本大震災は何を提起しているか~ (1) 震災でクローズアップされた、豊かな市民社会と今ひとつな政府、そ して自治体の媒介的役割 (2) 「絆」論の陥穽 ~あらためてつながりの再建が求められている~ 2. 地域コミュニティの現状 (1) 高度成長開始時点での日本の地域社会の特異な構造 日本社会の大きな変動をもたらした戦後高度経済成長の開始時点において、すでに明治の 大合併、昭和の大合併を経て(都市部では、都市空間の一体的管理の要請から、大正年間 にも盛んに合併が行なわれた)相当に大規模化した「基礎的自治体」のもとで、身近な合 意形成や公共サービス提供の役割を民間地域組織(主として自治会・町内会)が担ってい た。 比較的大きな市町村政府とそのもとに二つの層にわたって民間地域組織が秩序づけている 地域的まとまりがあるという、特異な構造である。 諸外国では、公共サービスの高度化の要請に対応して市町村合併を行っても、それまでの 地域的まとまりは何らかの制度的な位置づけを残され、身近な合意形成や公共サービスの 不都合がないようにしているのが普通。つまりそういうことは「政府」(中央政府と地方 政府)の役割だというのが、諸外国の常識なのである。 ところが、日本では、身近なところでの政府の役割を民間地域組織が代替している。政府 にしかできそうもないことをやりきった自治会・町内会は偉大な組織である。 日本に住んでいる人たちの幸福の基礎的条件は、比較的大規模な市町村プラスそれを補完 する民間地域組織、という形でできているのである。 ところが、この後者の条件は、その後次第に弱体化していった。 【1 】

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Page 1: 今必要とされる地域コミュニティの再生と 行政職員の役割 · 1.はじめに ~東日本大震災は何を提起しているか~ (1)震災でクローズアップされた、豊かな市民社会と今ひとつな政府、そ

2013年度 地域コミュニティ活性化市町村担当職員研修会

今必要とされる地域コミュニティの再生と行政職員の役割

2013年8月29日 名和田是彦(法政大学)

※とても全部はお話しできませんので、比較的詳しく資料を作りました。あとでひと通りお読みください。

1. はじめに ~東日本大震災は何を提起しているか~(1) 震災でクローズアップされた、豊かな市民社会と今ひとつな政府、そ

して自治体の媒介的役割

(2) 「絆」論の陥穽 ~あらためてつながりの再建が求められている~

2. 地域コミュニティの現状(1) 高度成長開始時点での日本の地域社会の特異な構造日本社会の大きな変動をもたらした戦後高度経済成長の開始時点において、すでに明治の大合併、昭和の大合併を経て(都市部では、都市空間の一体的管理の要請から、大正年間にも盛んに合併が行なわれた)相当に大規模化した「基礎的自治体」のもとで、身近な合意形成や公共サービス提供の役割を民間地域組織(主として自治会・町内会)が担っていた。比較的大きな市町村政府とそのもとに二つの層にわたって民間地域組織が秩序づけている地域的まとまりがあるという、特異な構造である。

諸外国では、公共サービスの高度化の要請に対応して市町村合併を行っても、それまでの地域的まとまりは何らかの制度的な位置づけを残され、身近な合意形成や公共サービスの不都合がないようにしているのが普通。つまりそういうことは「政府」(中央政府と地方政府)の役割だというのが、諸外国の常識なのである。ところが、日本では、身近なところでの政府の役割を民間地域組織が代替している。政府にしかできそうもないことをやりきった自治会・町内会は偉大な組織である。

日本に住んでいる人たちの幸福の基礎的条件は、比較的大規模な市町村プラスそれを補完する民間地域組織、という形でできているのである。

ところが、この後者の条件は、その後次第に弱体化していった。

【1】

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(2) 高度成長の諸帰結と地域社会への影響 ~自治会・町内会加入率の長期低落傾向~

高度成長を通じて、行政サービスの充実と所得の向上によって、民間地域組織が提供していた公共サービスの位置づけが低下した。かといって民間地域組織は不要にはならなかった。

(3) コミュニティ政策の開始自治会の弱体化(加入率の低下)が始まったが、しかし自治会は依然として必要であった。そこで地域コミュニティをテコ入れする政策が始まったのである。1969年国民生活審議会コミュニティ問題小委員会「コミュニティ ー生活の場における人間性の回復」1971年自治省コミュニティ対策要綱

自治省「コミュニティ対策要綱」では、コミュニティが様々な地域課題に取り組むことを想定していたが、その後1980年台にかけてのコミュニティ政策においては、コミュニティ・センターの建設とその住民自主管理に一面化していったように思われる。まだ切実な生活課題に取り組むという様相は薄かった。

(4) 1990年代(バブル崩壊後の不況と財政危機の時代)におけるコミュニティ政策の転換

行政サービスの縮小・重点化と個人所得の縮小、という傾向。これは高度成長期と逆である(=「右肩下がり」)。自治会が弱体化した要因は今や反転している。にもかかわらず自治会は弱体化を続けている(後述)という不思議な現象。切実な生活課題の取り組むコミュニティが必要とされた。

「協働」と「新しい公共」が政策のキーワードに。(最近「新しい公共」という言葉はあまり使われないが、民主党政権時代のキーワードだと思われているからだろうか。しかしこの言葉は1990年代から使われている。)

(5) 今世紀からの自治会加入率の急降下の要因と政策的対応個人所得が低下し、行政の役割の限界が見えてきた時代だとするならば、地域における生活上の必要に基づいて自治会・町内会が活性化して、地域における生活課題に取り組むようにならなければおかしい。しかし、自治会・町内会が再び強く必要とされる時期になって、むしろ自治会は弱体化している。これはなぜなのか?

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地域住民全員を会員にすることによって民間地域組織が政府的役割を果たすという戦略の限界が露呈しているのではないか。

1)世帯を構成員とすることで地域全体を掴んできたが、ここに来て、少子高齢化の影響で、世帯規模が縮小し、世帯と個人が一致しつつある。 =世帯会員制の限界

2)民間組織であるから財政は会費によらざるをえず(課税権がない)、それほどの規模の財政が構成できないので、仕事は会員のボランティア活動に依拠することになるが、ボランティアが出来る人が減っている =ボランティア原理の限界

3)自治会・町内会が必要だという一般的了解が共有されていたことに基づいて、「自動加入」が実現していたが、若い人の間で、こうした文化が引き継がれておらず、若い世代が世帯を構成するに従って、加入率が急低下している。 =自動加入原則の限界

とすればこれは、コミュニティの歴史的危機といってよい。この点、あとで小田原市役所による調査を見ながらさらに深めたい。

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3. 自治会・町内会の再生(1) 自治会についての消極的ないし否定的見解について ~自治会はなぜ必

要か~

(2) 行政側もできることをするようになった

(3) 若い世代への配慮高齢化の中でどうしても高齢者のニーズに目が行きがちだが、若い人のニーズにも気配りすることが重要。若い人たちに自治会の「メリット」を示していく。

(4) 都市内分権への取組みを通じて自治会の姿を見せる日本の都市内分権(後述)は、自治会抜きには機能しない。屋上屋論を克服し、都市内分権の主たる担い手として自治会が取り組み、自治会の姿を地域に示していく必要がある。

(5) 小田原市自治会調査から自治会の姿を見せていくことは大変重要である。小田原市役所による最近の自治会調査からデータの意味を読み取ってみたい。

世帯人員 加入者加入者 未加入者未加入者 合計合計

1人 134 12.6% 41 38.7% 175 15.0%

2人 350 33.0% 29 27.4% 379 32.5%

3人 211 19.9% 22 20.8% 233 20.0%

4人 204 19.2% 8 7.5% 212 18.2%

5人 95 9.0% 4 3.8% 99 8.5%

6人 51 4.8% 0 0.0% 51 4.4%

7人以上 16 1.5% 2 1.9% 18 1.5%

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加入していない理由 人数 構成比

① 行事などの活動内容に不満がある 9 8.0%

② 高齢や病気などにより組長ができない 18 15.9%

③ 自治会費(組費)の負担が厳しい 15 13.3%

④ 近所づきあいがわずらわしい 20 17.7%

⑤ 自治会があることを知らなかった 18 15.9%

⑥ 加入するための連絡先が分からない 25 22.1%

⑦ 他にも住居があり、この場所で常時生活していない 6 5.3%

⑧ すぐに引っ越すため 14 12.4%

⑨ 意志決定や会計などの運営方法に不満がある 3 2.7%

⑩ その他 52 46.0%

年代 加入者加入者 未加入者未加入者 全体全体

① 20代 12 1.1% 14 12.6% 26 2.2%

② 30代 80 7.4% 24 21.6% 104 8.7%

③ 40代 130 12.0% 22 19.8% 152 12.8%

④ 50代 195 18.1% 8 7.2% 203 17.1%

⑤ 60代 303 28.1% 22 19.8% 325 27.3%

⑥ 70代 247 22.9% 17 15.3% 264 22.2%

⑦ 80代以上

112 10.4% 4 3.6% 116 9.7%

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自治会の活動 加入者で知っている人加入者で知っている人

未加入者で知っている人未加入者で知っている人

全体全体

① 行政からの回覧、広報紙の配布 1,024 94.6% 70 61.9% 1,094 91.0%

② 学校、PTAからの回覧 763 70.5% 31 27.4% 794 66.1%

③ ごみステーションの管理 730 67.5% 48 42.5% 778 64.7%

④ 防犯灯の設置と維持管理 727 67.2% 35 31.0% 762 63.4%

⑤ 公園や河川などの清掃 691 63.9% 44 38.9% 735 61.1%

⑥ 自主防災組織の運営 626 57.9% 30 26.5% 656 54.6%

⑦ 防災訓練の実施 795 73.5% 41 36.3% 836 69.6%

⑧ 災害時の広域避難所の運営 544 50.3% 25 22.1% 569 47.3%

⑨ 地区公民館の維持 735 67.9% 46 40.7% 781 65.0%

⑩ 防犯、交通安全のための見回り、見守り

525 48.5% 29 25.7% 554 46.1%

⑪ 健民祭、地区体育祭の開催 849 78.5% 46 40.7% 895 74.5%

⑫ 敬老会の開催 746 68.9% 36 31.9% 782 65.1%

⑬ お年寄り、一人暮らしの見回り 375 34.7% 18 15.9% 393 32.7%

⑭ 道路や河川の修繕の依頼 375 34.7% 16 14.2% 391 32.5%

⑮ 地域の祭りの開催 865 79.9% 59 52.2% 924 76.9%

(6) 重点課題への取り組み自治会が弱体化したから負担を軽減するというような単純な発想ではいけない。自治会は生活の必要のためにできた組織であり、負担が減れば、それは生活上の必要がなくなるということであるから、自治会はますます弱体化する。そうではなくて、今地域で生じている新しい課題へと自治会の活動をシフトしていくことが重要である。

(7) 提案型事業で自治会に刺激を与える自治会向けの提案事業制度を創設するのも有効である。横浜市の地域づくり補助金、三鷹市のがんばる地域応援プロジェクトなど。

(8) 地域のいろいろなグループと連携する自治会館を提供する、自治会の財政からちょっとした補助をするなどして、自治会が対応できないニーズに対応しているグループを応援する。

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4. 地域コミュニティへの政策的対応としての都市内分権制度

(1) 「都市内分権」とは?都市内分権(自治体内分権、地域(内)分権、地域自治システム)とは、一般には、• (合併で大規模化した)自治体の区域を(合併前の市町村の区域を目途として)いくつかに区分し、• そこに役所の出先(ないしはコミュニティ・センターのような地域施設)を置き、• 更にそこに(場合によっては選挙制の)住民代表的な組織を付帯させる仕組みである。世界的に様々な試みがあり、特にドイツは日本とは対極にある仕組みともいえる制度を、各州の地方自治法に基づいて全国的に展開している。日本の都市内分権は、地域コミュニティの再生を政策目的としている点で特徴的であり、したがってこのあと述べる「協働」の色彩が強い。

(2) 自治基本条例における「参加」と「協働」杉並区自治基本条例から

第2条 (定 義) から:「3 参画 政策の立案から実施及び評価に至るまでの過程に主体的に参加し、意思決定に関わることをいう。 4 協働 地域社会の課題の解決を図るため、それぞれの自覚と責任の下に、その立場や特性を尊重し、協力して取り組むことをいう。 」

区がつくっている条例の説明チラシ:区民について、「区政への参画や区政の情報を知る権利、住民投票を請求する権利が保障されています。また、負担を分かち合い、区と協働して地域社会の発展に協力するよう努める義務も定められています」。

第三条 区民等及び区は、一人ひとりの人権が尊重され、人と自然と都市の活力が調和した住みよいまち杉並を、協働により創(つく)っていくことを目指すものとする。2 前項の目的を達成するために、区民等及び区は、区政に関する情報を共有し、主権者である区民が、自らの判断と責任の下に、区政に参画することができる住民自治の実現を目指すものとする。

※したがって、「協働」のほうが上位にある政策理念であることになる。

(3) 地域自治区の設計思想に見られる「住民自治」と「新しい公共空間」「地域においては、コミュニティ組織、NPO等のさまざまな団体による活動が活発に展開されており、地方公共団体は、これらの動きと呼応して新しい協働の仕組みを構築することが求められている。」「地方分権改革が目指すべき分権型社会においては、地域において自己決定と自己責任の原則が実

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現されるという観点から、団体自治ばかりではなく、住民自治が重視されなければならない。基礎自治体は、その自主性を高めるため一般的に規模が大きくなることから、後述する地域自治組織を設置することができる途を開くなどさまざまな方策を検討して住民自治の充実を図る必要がある。また、地域における住民サービスを担うのは行政のみではないということが重要な視点であり、住民や、重要なパートナーとしてのコミュニティ組織、NPOその他民間セクターとも協働し、相互に連携して新しい公共空間を形成していくことを目指すべきである。 」「地域自治組織は、住民に身近なところで住民に身近な基礎自治体の事務を処理する機能と住民の意向を反映させる機能、さらに行政と住民や地域の諸団体等が協働して担う地域づくりの場としての機能を有するものとし、基礎自治体の一部として事務を分掌するものとする」。「地域協議会は、地域自治組織の区域に係る基礎自治体の 事務に関し、基礎自治体の長その他の機関及び地域自治組織の長の諮問に応じて審議し、又は必要と認める事項 につき、それらの機関に建議することができることとする。なお、基礎自治体の判断により、地域自治組織の区域に係る基礎自治体の予算、基本構想、重要な施設の設置及び廃止等一定の事項については、基礎自治体の長に必ず地域協議会の意見を聴くよう求めることが考えられる」。 「地域協議会」は、「住民に基盤を置く機関として、住民及び地域に根ざした諸団体等の主体的な参加を求めつつ、 多様な意見の調整を行い、協働の活動の要となる」。(第27次地方制度調査会答申(2003年11月)より)

(4) 「新しい公共」の「公共」とは「公共サービス」であるが、公共サービスに住民が取り組むべしというだけでは、地域コミュニティは再生されない。

「人口減少、高齢化を始めとする経済社会情勢の変化が進展し、公共交通、医療、福祉などの社会的サービスの継続が困難となり、あるいは、従来以上にきめ細かな対応が必要となるなど、地域づくりを進める上で、様々な課題が生じている。一方、生活の質の高さを求める意識変化が進む中で、個人、NPO、企業等の民間主体の活動領域や活動形態も多様化、高度化し、それ自体が私的な利益にとどまらない公共的価値を創出するという状況が生まれている。 したがって、このような多様な民間主体を地域づくりの担い手ととらえ、それら相互が、あるいは、それらと行政とが有機的に連携する仕組みを構築することにより、地域の課題に的確に対応していくことの可能性が高まっている。 これらを踏まえ、多様な主体が協働し、従来の公の領域に加え、公共的価値を含む私の領域や、公と私との中間的な領域にその活動を拡げ、地域住民の生活を支え、地域活力を維持する機能を果たしていくという、いわば「新たな公」と呼ぶべき考え方で地域づくりに取り組んでいく。現在、個人においても、企業等においても、社会への貢献を通じて満足度を高めていこうとする意識が高まっており、その潮流を活かしながら、新しい地域経営や地域課題解決のシステムを構築する。(『国土形成計画』(2008年7月)第4章第5節より)

(5) 都市内分権の制度設計の諸論点1)住民組織をどのように構成するか。自治会をいかに活性化させるか。

2)組織エリアをどうするか

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3)役割をどのように設定するか。どのようなペースで設置していくか。

4)交付金をどのように設計するか

5)拠点施設や事務局をどうするか

(5)国の各省庁のコミュニティ政策を市町村はどう総合化して生かしていくか (須恵町からのご質問に関連して)総括している官庁などない。国は徹底的に縦割りである。総合化は基礎自治体の役割であり、住民の役割である。

6. 「市民社会」を活性化するいくつかの取組み(1) 協働事業提案制度

(2) ファンド造成による資金提供

(3) 地域福祉計画というツール1990年代以降のコミュニティ政策は切実な生活課題に取り組むものであり、福祉との相性が良い。2000年に出来た地域福祉計画というツールを活用してコミュニティ活性化に取り組むことも有効である(横浜市など)。

(4) コーディネータを育成する自治体職員も地域のコーディネータであるべきだ。(新宮町からのご質問に関連して)「コーディネータ」とはどんな存在か?

(5) コミュニティ・センターの活性化1980年代のコミュニティ政策の定番であったコミュニティ・センターは、そのままでは1990年代以降のコミュニティの課題に必ずしも最適ではない。全国でいろいろな工夫がされている。

(6) コミュニティ・ビジネス

7. 「公共の場」としての「公共」 ~組織を公共世界に開き、「市民社会」を再建する試み~

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(1) 地域コミュニティはなぜ縮小しつつあるのか仲間うちへの自閉傾向

(2) 「公共」とは本来どういう意味か? ~「新しい公共」論の限界を超えて~

1)「公儀」を辞書で引くと

2)みんながアクセスできる場としての公共

「飲み屋はきわめて生き生きとした場だ。飲み屋は友人にとっても他人にとっても出会いの場である。飲み屋では、政治が議論され、延々と雑談が交わされ、飲み、笑い、遊び、食う。」(Thomas Krämer-Badoni & Franz Dröge, Die Kneipe, S. 13)

「飲み屋は、カフェやダンスホールや、さらには裁判所やマスコミなどと同様、基本的には公共の場である。つまり、飲み屋は法的には誰でも入場でき、誰も人種や宗教や性別によって入場を拒絶されることはない。しかしこれらの場ごとにその公共の「質」は大きく異なっている。今日でも文芸的なカフェや芸術家カフェなどがいくつか知られているが、このようなものは20世紀の初頭以降のウィーンやベルリンの文化生活にきわめて特徴的であった。……このような場の公共の質が、誰でも入場でき文芸的な議論ができるという点にないのは明らかである。そうではなくてここで文化的な世論形成をするのは常連の客なのであって、この世論はこのカフェの場を超えて文化政策的な雑誌や文芸作品などに結実していくのである。これは一例に過ぎない。すなわち、公共の質は世論形成のプロセスに結びついており、したがってまたこの場で行なわれる論議の形式と内容に結びついている。」(S. 281)

3)「共同」との違い人間集団の有機的で感情的な結びつき(ゲマインシャフト)と機械的利益的な結びつき(ゲゼルシャフト)とを区別したことでよく知られている『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』の中で次のように述べられている。「我々の理解によれば、信頼が置けて、気楽で、排他的な共同生活はゲマインシャフトの生活であり、ゲゼルシャフトは、公共(Öffentlichkeit)であり、世間である。ゲマインシャフトでは、人はその仲間とともに幸も不幸もすべて分かち合って生まれたときからそれに結びつている。ゲゼルシャフトに入っていくのはあたかも他人の中に入っていくようなものである。」(Ferdinand Tönnies, Gemeinschaft und Gesellschaft, 5. Aufl., 1922. S. 3 f. 翻訳は岩波文庫版・ フェルディナンド・テンニース『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』がある)

(3) 公共の場を失ってきた日本1)沈黙する公衆(リチャード・セネット『公共性の喪失』)

2)「公園デビュー」

3)狂乱地価の中で失われた応接間と縁側

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4)挨拶をしない人々

(4) サロン活動、交流拠点づくり、居場所づくり、コミュニティ・カフェが全国で取組まれていることの意味

1)氏素性が分かり顔の見えている関係でなくても、誰もが人として尊重される場を再建する。

2)顔の見える人しか信頼しなければ組織は縮小する。

3)ルールとエチケットだけを共有できれば交流できることを思い出そう。

4)交流できたら次第に顔の見える関係をつくろう。

8. 協働の理念的意味 ~福祉文化(ノーマライゼーション)を当たり前の市民文化に~

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