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24 沖テクニカルレビュー 2004年4月/第198号Vol.71 No.2 ETC車載器を活用したITSサービスの展開 大森 淑仁   山崎 譲 吉川 元淳 1年間の試行運用を経てスタートしたETC (Electronic Toll Collection:自動料金収受システム)も,今年で本 格運用4年目に入った。当初,千葉地区,沖縄地区,首都 高速道路の計73ヶ所の料金所にのみ設置されていたETC レーンも,ほぼ全国の料金所に設置が完了した。また,各 種ETC割引きによる利用者への動機付けや車載器購入へ の補助制度の効果もあり,ETC車載器のセットアップ台 数は2003年末で210万台を突破している。日本道路公団 の発表によれば,年末年始のETC車両の利用率も昨年同 時期の4倍に当たる40万台/日,料金所によっては通過車 両の5台に1台がETC車両という状況である。 本稿では,普及の加速しているETC車載器を搭載した 車両に対するITS新サービスの可能性について述べる。 ETCは , DSRC ( Dedicated Short Range Communication:専用狭域通信)という通信方式により 料金所のインフラとETC車載器が無線通信することで成 り立つシステムである。 当初は料金所での料金収受を主目的として制定された 通信仕様であるが,後にDSRC技術を活用した多様なサー ビスに対応可能な仕様に拡張され,民間向けの決済サー ビスにも適用可能なクレジットカードによる決済のプロ トコル仕様の標準化案も策定された。現在では,決済系 を含む民間向けサービス展開に向けたDSRC車載器, DSRC路側機器の開発にフェーズが移っていると考えら れる。 具体的には,2003年初め頃より各種機能評価,実証実 験が行われており,次世代DSRC規格による民需製品向 け技術基盤が整い始めている。 一方,実際の市場を見てみると,図1のETC車載器の セットアップ台数 1) に示すように,着実に普及が進んでい ることが分かる。国土交通省によるETC車載器の補助制 度により2003年6月,7月のセットアップ数が突出してい るが,押し並べて月を追うごとに申請台数が増加傾向に あり,最近は15~20万台/月のペースでETC車両が増え ている。また,今まで3大都市圏を中心に普及していたが, 他地域の伸び率が高くなり,全国的に普及し始めたのも 最近の傾向である。 ここでは,近い将来展開が期待されているDSRC車載 器はさておき,既に普及しているETC車載器を対象とし たITSサービスを紹介する。 ETCシステムは,DSRC通信を用いて料金所の路側無線 装置と車載器間で無線通信を行っている。ETCでは決済系 処理を行うため,高いセキュリティを確保する「セキュリ ティ処理部」を実装しており,これが通信機能と密接に関 係し他の用途には使えない仕組みとなっている 2)3) 。つま り,ETCというアプリケーション用に設計されているETC 車載器は,基本的にETC以外の動作は行えないと考えら れる。 ただし,ETC車載器も無線装置の一つであるため,電 波法の規約によりワイヤレスコールナンバー(以下WCN) と呼ばれる主として無線管理者からの問い合わせに対し て自己IDを返信する機能を有している。WCNはETCの通 信で使用される車載器特定の固有IDとは異なり,ETC用 の通信とは別に呼び出しが可能である。電波行政監督官 庁である総務省の利用許可が出たことを受けて,この機 ETC車戴器向け新サービスを可能にする DSRC技術要素 ETCをとりまく環境 図1 ETC車載器のセットアップ台数 0 3 7 11 2001年 2002年 2003年 3 7 11 3 7 11 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 0 500,000 登録台数 累計値 累積台数 登録台数 2,500,000 2,000,000 1,500,000 1,000,000

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24 沖テクニカルレビュー2004年4月/第198号Vol.71 No.2

ETC車載器を活用したITSサービスの展開

大森 淑仁   山崎 譲吉川 元淳

1年間の試行運用を経てスタートしたETC (Electronic

Toll Collection:自動料金収受システム)も,今年で本

格運用4年目に入った。当初,千葉地区,沖縄地区,首都

高速道路の計73ヶ所の料金所にのみ設置されていたETC

レーンも,ほぼ全国の料金所に設置が完了した。また,各

種ETC割引きによる利用者への動機付けや車載器購入へ

の補助制度の効果もあり,ETC車載器のセットアップ台

数は2003年末で210万台を突破している。日本道路公団

の発表によれば,年末年始のETC車両の利用率も昨年同

時期の4倍に当たる40万台/日,料金所によっては通過車

両の5台に1台がETC車両という状況である。

本稿では,普及の加速しているETC車載器を搭載した

車両に対するITS新サービスの可能性について述べる。

ETCは , DSRC ( Dedicated Short Range

Communication:専用狭域通信)という通信方式により

料金所のインフラとETC車載器が無線通信することで成

り立つシステムである。

当初は料金所での料金収受を主目的として制定された

通信仕様であるが,後にDSRC技術を活用した多様なサー

ビスに対応可能な仕様に拡張され,民間向けの決済サー

ビスにも適用可能なクレジットカードによる決済のプロ

トコル仕様の標準化案も策定された。現在では,決済系

を含む民間向けサービス展開に向けたDSRC車載器,

DSRC路側機器の開発にフェーズが移っていると考えら

れる。

具体的には,2003年初め頃より各種機能評価,実証実

験が行われており,次世代DSRC規格による民需製品向

け技術基盤が整い始めている。

一方,実際の市場を見てみると,図1のETC車載器の

セットアップ台数1)に示すように,着実に普及が進んでい

ることが分かる。国土交通省によるETC車載器の補助制

度により2003年6月,7月のセットアップ数が突出してい

るが,押し並べて月を追うごとに申請台数が増加傾向に

あり,最近は15~20万台/月のペースでETC車両が増え

ている。また,今まで3大都市圏を中心に普及していたが,

他地域の伸び率が高くなり,全国的に普及し始めたのも

最近の傾向である。

ここでは,近い将来展開が期待されているDSRC車載

器はさておき,既に普及しているETC車載器を対象とし

たITSサービスを紹介する。

ETCシステムは,DSRC通信を用いて料金所の路側無線

装置と車載器間で無線通信を行っている。ETCでは決済系

処理を行うため,高いセキュリティを確保する「セキュリ

ティ処理部」を実装しており,これが通信機能と密接に関

係し他の用途には使えない仕組みとなっている2)3)。つま

り,ETCというアプリケーション用に設計されているETC

車載器は,基本的にETC以外の動作は行えないと考えら

れる。

ただし,ETC車載器も無線装置の一つであるため,電

波法の規約によりワイヤレスコールナンバー(以下WCN)

と呼ばれる主として無線管理者からの問い合わせに対し

て自己IDを返信する機能を有している。WCNはETCの通

信で使用される車載器特定の固有IDとは異なり,ETC用

の通信とは別に呼び出しが可能である。電波行政監督官

庁である総務省の利用許可が出たことを受けて,この機

ETC車戴器向け新サービスを可能にするDSRC技術要素

ETCをとりまく環境 図1 ETC車載器のセットアップ台数

0 3 7 112001年 2002年 2003年

3 7 11 3 7 11

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

0

500,000

登録台数 累計値

累積台数 登録台数

2,500,000

2,000,000

1,500,000

1,000,000

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25沖テクニカルレビュー

2004年4月/第198号Vol.71 No.2

ソリューション・サービス特集●

能を用いて新たなアプリケーションを実現しようとする

動きが活発である4)。

図2にWCN読み取りシーケンスを示す。新アプリケー

ションを実装したDSRC無線装置から,ETC同様の通信

接続手順を踏み,その後WCN送信を要求しWCNを取得

する。この仕組みによりETC車載器を特定することが可

能となり,後述の各種サービスが実現する。

既存ETC車載器を対象とした各種サービスを紹介する。

これらはいずれもWCNを用いたETC車載器の特定と,

DSRC無線装置あるいはセンタ装置に記録されているデー

タベースとの照合によりサービスを提供するものである。

(1)契約車両向け駐車場システム

利用者が決まっている月極駐車場や,工場・事業所な

どの従業員駐車場に向けたシステムである。WCNは通常,

利用者に公開されていないため,入退場許可の登録時に

ETC車載器を搭載した車両を持ち込み,通信で得られた

WCNを用いて行う。

図3に契約車両向け駐車場システムのイメージを示す。

契約車両は,ゲートでDSRC通信を行いWCNを送信する

ことで,DSRC無線装置がデータベースと照合し登録車

両を検出した場合,ゲートが開くサービスである。

写真1に当社が協力して実現した地下駐車場システムの

写真を示す。一般車両向けの有料駐車場も兼ねているた

め,通常の発券機との連携も行っている点が特徴である。

身障者の契約者には,発券機からカードを取り出すこと

が不要となるなど,バリアフリーの観点からの開発も含

め,今後も強力に推進していきたいと考えている。

写真2に使用されたDSRC無線装置を示す。

(2)来場管理システム

百貨店渉外部門や郊外型店舗に向けて,車で来訪され

るお客様に対するサービスの向上を図るシステムである。

図4に来場管理システムの運用イメージを示す。駐車場

の入口に設置されたDSRC無線装置と顧客車両に搭載さ

れているETC車載器が通信し,受信したWCNを基に顧客

データベースと照合した上で,関係者に通知する。顧客

ETC車載器向け新サービス

図2 WCN読み取りシーケンス

通信要求

No

No

通信終了指示

WCN

No

Yes

登録車検出 非登録車検出

DB

Yes

通信終了

Yes

DSRC (路車間通信)

ETC車載器 DSRC無線装置

通信エリア検出?

VST送信

通信要求検出?

BST送信

WCN要求

登録DB有?

WCN送信

図3 契約駐車場システムのイメージ

発進制御機

表示装置

DSRC無線装置

出口監視カメラ 入口レーン

出口レーン

DSRC無線装置 監視カメラ

表示装置

車両検知センサ

写真1 契約車両駐車場システム・入場口

写真2 DSRC無線装置写真

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26 沖テクニカルレビュー2004年4月/第198号Vol.71 No.2

が店内に入った時点で,必要なデータを持った担当者が

応対することを可能とするサービスである。

(3)身障者用駐車エリア管理システム

市役所や病院,郊外のショッピングセンターなどにお

ける駐車エリアで,身障者を支援するサービスである。

図5に身障者対応駐車場システムのイメージを示す。主

として車輪ロック装置,DSRC無線装置,および身障者

駐車場利用案内装置などから構成され,身障者登録され

たETC車載器にのみ駐車フラップを下げて駐車可能とする,

あるいは身障者用駐車エリアを一般の方が利用した場合

には注意をうながすなど,マナー違反の抑制を図るシス

テムである。

(4)大型店舗向け駐車場システム

百貨店や空港など不特定多数の顧客を対象とした,ポ

イントカードなどと連携した有料駐車場システムである。

駐車場出入口の構成は契約車両駐車場システムと同様

である。ETC車載器を搭載した不特定多数の顧客が対象

となることから,各車両のWCNと駐車料金の割引や支払

い手段を結びつけることが本システムのポイントとなる。

図6にETC車載器を搭載した車両の入庫とポイント

カードの対応付け手段の一つを示す。入口到着時のDSRC

通信により車載器のWCNを受信したDSRC無線装置は,

登録済みデータベースを検索し,未登録である場合に通

常通りの駐車券を発行する。同時に登録待ちのデータ

ベースに受信したWCNおよび駐車券番号を記録する。

サービスカウンタにて利用者からポイントカードと駐車

券を受け取ることにより登録待ちデータベース内の駐車

券番号を検索することで,提示されたカード番号とWCN

を対応付けることが可能となる。従って次回の利用からは,

駐車券を受け取ることなくスムーズな入退出が実現でき

るシステムである。

(5)ガソリンスタンド向けシステム

DSRC通信内で決済を行うマルチアプリケーションの

有力候補と言われているサービスであるが,既存ETC車

載器を用いたアプリケーションでも実現可能である。

図7にDSRC無線装置のガソリンスタンド設置イメージ

を示す。装置の基本構成は他のシステムとほぼ同じであ

るが,本アプリケーションの特徴として,DSRC無線装

図4 来場管理システム

ピポッ

ピポッ

サーバー

VIP VIP…

◎クルマで来訪されるお客様に対し、木目の細かいVIP応対サービスを可能とする、車両認識による顧客管理システムです。

Welcome Golf

山田:そうだ、ちょっと 寄っていこう。 DSRC通信。 はい、ありがとう。

お願いします。

山田様いらっしゃいませ。 担当の沖へご案内いたします。

山田様がお見えね。 担当は沖さんか。 さて、おもてなしの 準備、準備。

オッ! 山田様がお見えだ。 まずは関係データを 確認してと...。 OK。お出迎えに。

顧客DB

車両ID山田様 ご来店ありがとうございます。調整したクラブの調子はいかがですか?

そうそう沖さん、先日 伺ったあとね……。

図5 身障者用駐車エリア管理システム

集中制御装置

DSRC無線装置

車両検知センサ2

車輪ロック装置

車両検知センサ1

身障者駐車場 利用案内装置

DSRC通信 エリア

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27沖テクニカルレビュー

2004年4月/第198号Vol.71 No.2

ソリューション・サービス特集●

置あるいは給油装置に暗証番号入力機能が追加されてい

る点が上げられる。セルフスタンドを前提に,利用者は

自身で給油作業をする時に,過去の利用実績から油種や

給油量などを確認すると同時に,暗証番号を入力するこ

とによる本人確認と利用意志確認を行う。

本稿では,現在普及しているETC車載器で実現可能な

サービスについて紹介してきた。車載器を購入しETC

サービスを利用しているドライバーに向けて,ETC車載

器を買い換えることなく各種サービ

スを提供できる点がポイントと考え

る。もちろんETC車載器はETCサー

ビス用の装置であるので,車載器の

表示機能や案内機能など,他の応用

サービスに最適とはいえない部分が

ある。これら不足機能をDSRC無線

装置側の表示機能の追加など,シス

テムやサービス実現方法によりカ

バーし,実運用システムにしたいと

考えている。

また,ETC車載器を他サービスに

運用する上で重要なWCNについ

ても,プライバシー保護と利便性の

トレードオフを勘案し,WCNを総

合的に管理する機関の立ち上げも検

討する必要があると考えている。

ETCに続くITS新サービスが切望

されて久しい。いずれDSRC共通仕

様準拠のサービスが開始されるもの

と思われるが,ETC車載器で可能な

サービスと合わせて,利便性・安全性向上,環境にやさ

しい利用者の立場に立ったITSサービスの一刻も早い展開

と定着に寄与すべく邁進したいと考えている。 ◆◆

1)財団法人道路システム高度化推進機構ホームページ:「セットアップ発行件数の最新実績」の累計,2004年1月2)太刀川:「専用狭域通信の研究開発・実施と標準化の動向」自動車技術会,2000年3)社団法人電波産業会:「狭域通信(DSRC)システム標準規格 ARIB STD-T75」,2003年10月4)財団法人道路新産業開発機構:「ITS HAND BOOK」,2003年

大森淑仁:Yoshihito Oomori.システムソリューションカンパニー 交通システム本部 ITSソリューション部山崎譲:Yuzuru Yamazaki.システムソリューションカンパニー交通システム本部 ITSソリューション部吉川元淳:Motoatsu Yoshikawa. 沖コンサルティングソリューションズ株式会社 社会情報コンサルティンググループ

●筆者紹介

■参考文献

お わ り に

今後の展開

図7 セルフガソリンスタンド向けシステム

DSRC無線装置

DSRCアンテナ

図6 ETC車両とポイントカードの対応付け

・ ・

登録待ちDB

登録済DB

・ ・

未登録

発券番号

追加登録

登録完了

入口の阻止バー前で停車

発券機から駐車券を取出す

案内に従いゲートを通過

車両ID

・DSRC通信により車両IDを入手

・サーバDB内登録車両

IDテーブルを検索

・未登録車により発券指示

・発券番号と車両IDを

新規登録待ちテーブルに登録

・通過案内を表示

・阻止バーを開く

車両ID検索

車両ID

登録済DB・ ・

登録待ちDB

・ ・

駐車券番号を駐車券番号を キーにキーにDB検索検索

・駐車券番号と、  ポイントカード番号  を入力

・登録完了  当日利用明細有り   ⇒割引情報入力

駐車券とポイントカードを サービスカウンターで提示 駐車券 In=14:00No.3579

ポイントカードを受け取る (以降は利用時にポイントカード提示 により、割引が積算されます)

ドライバー

ドライバー

DSRC無線装置 サーバ

サーバ 車両登録カウンター 駐車券番号を キーにDB検索

0123-4567-89ポイントカード

0123-4567-89ポイントカード