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P ONGSAPITAKSANTI P IYA 略 歴 1999 年 2月 Thammasat 大学[タイ・バンコク] ジャーナリズム&マス・コミュニケーション 学部 卒業[First Class Honors] 1999年 3月 Leo Burnett(広告代理店) 勤務, AccountExecutive(2001 年 9月まで2003年 3月 大阪大学大学院 人間科学研究科研究生 修了 2005年 3月 大阪大学大学院人間科学研究科 コミュニケーション社会学専攻 (修士課程)修士(人間科学) 修了 2009年 3月 京都大学大学院文学研究科 行動文化学専攻社会学専修 博士課程研究指導認定 満期退学 2009年9月京都大学・博士(文学)の学位取得 (文博第484号) 2009年 4月 長崎県立大学国際情報学部 情報メディア学科 専任講師 2012年4月〜現在 准教授 共同研究者 周典芳 (慈濟大學 准教授) Panida Jongsuksomsakul ( Naresuan 大学 准教授) 木村 晶彦 (京都造形芸術大学 専任講師) アジアのビールのテレビ広告表現 ―日本・中国・台湾・韓国・タイ・シンガポールの国際比較研究 ― Expression of Beer’s Television Commercials in Asia: A Comparison of Japan, Korea, China, Taiwan, Thailand and Singapore The research objective is to examine the similarities and differences of expression in Japanese, Korean, Chinese, Taiwanese, Thai and Singaporean beer’s television commercials. This paper pursues the expression of advertising, foreign images and gender roles in these Asian countries’ beer television commercials. The research methodology focuses on content analysis. 2,671 advertisements within the 2012 time-period in these 6 countries were collected, coded, and analyzed in three main perspectives. As a result, a difference in these Asian beer’s television commercials exists. Firstly, there are differences in the proportion of beer commercials, advertising strategy, message, and length. For instance, the proportion of Japanese beer commercial is highest (7.5%), while the proportion of Thai beer commercial is lowest (1.3%). Secondly, the local images mostly appear in these Asian beer’s commercials. However, the images of foreign countries in Singaporean beer commercials appear more frequently than in other countries’ commercials. Thirdly, male characters and male voice-over frequently appear in these Asian beer advertisings, whereas female characters appear 1

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Pポ ン サ ピ タ ッ ク サ ン テ ィ

ONGSAPITAKSANTIPピヤ

IYA 略 歴1999年2月 Thammasat大学[タイ・バンコク] ジャーナリズム&マス・コミュニケーション 学部 卒業[FirstClassHonors]1999年3月 LeoBurnett(広告代理店) 勤務, AccountExecutive(2001年9月まで)2003年3月 大阪大学大学院 人間科学研究科研究生 修了2005年3月 大阪大学大学院人間科学研究科 コミュニケーション社会学専攻 (修士課程)修士(人間科学) 修了2009年3月 京都大学大学院文学研究科 行動文化学専攻社会学専修 博士課程研究指導認定 満期退学2009年9月 京都大学・博士(文学)の学位取得 (文博第484号)2009年4月 長崎県立大学国際情報学部 情報メディア学科 専任講師2012年4月〜現在 准教授

共同研究者

周 典 芳(慈濟大學 准教授)PanidaJongsuksomsakul

(Naresuan大学 准教授)木村晶彦

(京都造形芸術大学 専任講師)

アジアのビールのテレビ広告表現―日本・中国・台湾・韓国・タイ・シンガポールの国際比較研究―

Expression of Beer’s Television Commercials in Asia:A Comparison of Japan, Korea, China, Taiwan, Thailand and Singapore

The research objective is to examine the similarities and differences of expression in Japanese, Korean, Chinese, Taiwanese, Thai and Singaporean beer’s television commercials. This paper pursues the expression of advertising, foreign images and gender roles in these Asian countries’ beer television commercials. The research methodology focuses on content analysis. 2,671 advertisements within the 2012 time-period in these 6 countries were collected, coded, and analyzed in three main perspectives. As a result, a difference in these Asian beer’s television commercials exists. Firstly, there are differences in the proportion of beer commercials, advertising strategy, message, and length. For instance, the proportion of Japanese beer commercial is highest (7.5%), while the proportion of Thai beer commercial is lowest (1.3%). Secondly, the local images mostly appear in these Asian beer’s commercials. However, the images of foreign countries in Singaporean beer commercials appear more frequently than in other countries’ commercials. Thirdly, male characters and male voice-over frequently appear in these Asian beer advertisings, whereas female characters appear

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in Taiwan most. Additionally, the mutual roles of main characters in Asian beer commercial are recreation outside of home sphere with others. In summary, this analysis portrays the differences in advertising expression, foreign images, and gender roles in these Asian beer television commercials, and suggests the consideration of locality for creating international beer advertising among these countries in Asia. However, this research finds the similarity of appearance of male characters with recreation roles in these Asian beer advertisings. In addition, this research suggests further study to pursue the expression of beer television commercials in other Asian countries as well.

1. はじめに

 本研究の目的は、日本・中国・台湾・韓国・タイ・シンガポールのアジア6カ国のビールのテレビ広告における外国イメージ・ジェンダー役割の現れ方の類似点あるいは相違点を考察することである。 マーケティングや広告の研究では、広告を分析する際、商品販売のための広告効果や消費者行動過程に大きな力点が置かれている。しかし、比較文化社会学的視点から、広告の背景にある社会・文化構造の変動を詳細に解明する研究はあまり存在しない。また、これまでの広告比較に関する先行研究の多くは、アメリカ合衆国を中心に西欧社会の広告を研究したものがほとんどであるため、アジア諸国を対象にしたものはいまだ多くはない。そのため、本研究はこうした文化社会学の観点からアジア社会と広告をめぐる議論を検討する立場にたっている。 まず、比較社会学的視点から見れば、アジア社会は多層的に構造化されており、もともと多様な文化伝統と社会構造をもつ諸社会からなる地域であるという。また、現代アジアのビール市場については、中国をはじめとするアジアが堅調な伸びで成比を拡大し、ヨーロッパを抜いて、世界最大のビール消費市場となっている。具体的に、中国では、2003年にビール生産量と消費量は完全にアメリカを抜いて世界1位となって、2008年に6年連続で世界一となり、生産量に続いて、消費量でも初めて4000万kを突破した。一方の日本では、順位に変動はないものの、原材料の高騰による各社の価格改定、少子高齢化、多様化などの影響により、2.7%の減少となったとされる。このように、近代化、成長性とビールの消費には相関があると考えられる。さらに、ビールの広告表現の先行研究(岡野、浅川2003)によると、日本のビールの広告では、ユーモラスな設定の中で、「苦労・努力」からその「解決・決感」というストーリーを用い、そして、「現実的」で「日常的」な状況設定の中で狙われたターゲット層が多く登場するという。つまり、ビール広告はその国のビール市場、社会背景や文化を反映しているといえる。 上述したように、アジアの各国のビール市場が異なり、多様な構造をもつとともに、ダイナミックに変化してきたアジア社会では、現在世界一となっているアジアのビール市場のテレビ広告がアジア社会のあり方をいかに反映しているかが重要な課題となる。 本研究では、こうした問題意識のもとで、アジアのビールのテレビ広告の国際比較を通して、内容分析を中心とした従来の広告研究の立場とは異なり、ビールの広告を取り巻く社会的背景として「外国イメージ・ジェンダー役割」を位置づけるという、社会学的・文化論的な観点から新たに広告の分析を試みる。これらのテーマは、ビールの広告とそれを取り巻くグローバル化の影響や政治経済的な国際関係、文化的差異、各国の社会状況、飲酒の制度、酒類広告禁止設定の時間、ターゲット層、ビール市場の影響

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力、人々の意識などを反映していると考えられる。また、これらの6カ国を比較対象とした理由は、外国の影響、ジェンダー役割や家族構成が異なるからである。 さらに、アジア圏のビールのテレビ広告に現れる文化価値観の観点からの詳細かつ計量的な比較研究は、管見の限り存在していない。したがって本研究の本研究の知見は、アジア諸国の事例を提供するとともに、国際相互理解の促進という点で、アジア地域以外の他国では、従来あまり検討されてこなかったビールのテレビ広告における文化価値観に関する比較研究に貢献する。そして、テレビ広告における文化価値観からみた新たな研究(食文化/ジェンダー/家族/ナショナリズム研究や広告/メディア研究など)を通して、アジア諸国間の文化的交流をより一層深めることができるだろう。そして、現代広告に現れる文化のあり方は社会や文化を反映しているため、アジアにおけるジェンダー・家族・外交などの政策の分野にも貢献できると考えられる。また、本研究では、すでに協力関係にある海外協力者との連携を一層強めることにより、アジア広告のネットワーク形成にも貢献できるだろう。

2.調査方法

 本研究の調査にあたっては、アジアのビールのテレビ広告に現れる表現のあり方を明らかにするため、1)テレビ広告サンプルの収集と分析、2)各国の視聴者による信頼性の検証、という2点に調査した。

1)広告の内容分析 分析対象としての広告サンプルの収集と分析の視点について説明する。2012年 8〜10月の期間にわたり、各国において最も視聴率の高い3つのチャンネルで、プライムタイムに放映された番組から収集したものを、広告サンプルとして用いる。具体的に、日本では、4、8、10チャンネルを取り上げ、中国では1、3、5チャンネルであり、韓国ではKBS-2、MBC、SBSであり、台湾では8、10、12であり、シンガポールでは、8、5、NewsAsia、そして、タイでは3、7、9チャンネルを取り上げた。その際、番組の提供者が一つの企業に偏らないように、毎日、各国から1つのチャンネルをランダムに選ぶとともに、一週間のうちで、最も視聴率の高い週末(金・土・日)の番組に限定して、曜日と週がばらつくように任意に選び出し、広告サンプルを収集した。そして、各国で同じサンプリングの日に収集されるものを用い、コマーシャルはすべてコード化しSPSSプログラムで統計分析を行った。 また、広告サンプル分析に関して、各国の研究協力者の協力によって、1つのサンプルは、社会状況や文化的価値観を反映している3つの本研究のテーマにもとづき、大きく広告の一般情報、外国イメージ、ジェンダー役割における文化的差異の三つに分かれ、合計で14項目にコード化される。一般的に広告の客観形式については、広告において宣伝されている商品の種類、広告の長さと広告戦略である

(3項目)。次に、広告に現れる外国イメージに関する先行研究にもとづき、次の4つの項目に焦点を当てる。具体的には、文化のイメージ、国内広告と国際・グローバル広告の数、企業の種類、主人公の人種、そして、言語である(5項目)。最後に、ジェンダーの役割については、ナレーターの声、主人公のジェンダー、主人公の年齢層、ジェンダーの労働役割、職種、そして、職業に従事する以外の役割である(6項目)。なお、各コマーシャルの主人公(コマーシャル内での発話が最も多く、スクリーン上で最も長時間登場している人物)のみコード化した。

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2)視聴者による信頼性の検証 テレビ広告のサンプルコーディングの信頼性を確保するため、2012年の10月から12月にかけて、一対一の個別的なインタビューを行った(それぞれの所要時間は45〜60分)。その際、20代から50代の各国男女の被調査者10名を選び、視聴してもらう広告サンプルは各国の広告から10%を選んだ。それぞれのテーマに関する項目の分析を依頼し、それに対する意見のインタビューを実施した。そして、信頼性テストの結果によれば、すべての信頼性は80%以上であり、測定データは分析に充分耐えうるものであると判断できる。

3.分析結果

 計2,671本の広告サンプル(日本〈575本〉、中国〈462本〉、台湾〈346本〉、韓国〈450本〉、タイ〈576本〉、シンガポール〈262本〉)の内容分析した結果、各国のビールのテレビ広告のサンプル数は、日本では43(7.5%)、台湾22(6.4%)、シンガポールでは11(4.2%)、中国17(3.7%)、韓国16(3.6%)、タイ7(1.3%)となった。このようにビールのテレビ広告の割合から見れば、日本ではビール広告の割合が最も多く見られ、次に台湾、シンガポール、中国、韓国、そして、タイという順番となっている。また、広告の一般情報・外国イメージ・ジェンダー役割については、表1で示すように、国と要素の関係によって、ほとんど相違点が見られる。そして、変数間の重要な関係はカイ二乗分析を用いて分析し、いくつかの点について以下で説明する。 第一に、広告の一般情報から見ると、まず、ビールの広告のメッセージについて、日本・中国・台湾・韓国・シンガポールでは、ビールの情報やイメージを伝えるものが多く見られるのに対して、タイでは、7本の中で3本(42.9%)のビール広告がビールそのもののメッセージではなく、企業広告や企業の社会的責任という内容の広告が現れる。これに関して、ビールの広告戦略の割合から見れば、タイ(100%)、日本

(97.7%)、韓国(93.8%)、シンガポール(90.9%)、台湾(86.4%)は感情戦略の広告が情報戦略の広告よりも圧倒的に多く見られるが、中国は感情戦略の広告(52.9%)と情報戦略の広告(47.1%)の割合はほぼ同様であることがわかる。次に、広告の長さから見ると、日本(86.0%)と中国(70.6%)では、15秒のテレビ広告が多く現れ、台湾では30秒(72.7%)、韓国では60秒(50.0%)、タイでは60秒

(57.1%)と30秒(42.9%)、シンガポールではその他の長さ(54.5%)と30秒(45.5%)のテレビ広告がよく見られる。このように、国間のビールのテレビ広告の長さの違いがあるといえる。 第二に、外国イメージの観点から分析すれば、台湾以外の国々では、自国企業のビール広告の割合が非常に多い(日本100%、中国88.2%、韓国87.5%、タイ85.7%、シンガポール72.7%、台湾58.8%)が、台湾では、日本企業のビール広告(29.4%)が多く現れる。そして、欧米企業のビール広告の割合が多い国々は、順にシンガポール(27.3%)、タイ(14.3%)、中国(11.8%)、台湾(11.8%)となっている。 加えて、国内広告と国際広告の割合、そして、広告の利用言語の項目に関しては、同様の結果傾向が見られる。具体的にいえば、シンガポール以外の諸国では、国内広告の数(日本・中国・韓国100%、台湾90.9%、タイ85.7%)と自国の言語(日本・中国・台湾100%、韓国93.8%、タイ85.7%)が比較的に多いことがわかる。その一方、シンガポールでは、他の国に比べ、国際広告の数(36.4%)と英語

(36.4%)が多く見られる。 さらに、広告に現れる自国や外国イメージから見れば、中国(100%)、韓国(93.8%)、日本(93%)、

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台湾(86.4%)では、各国の自国文化イメージが多く現れている。これに対して、欧米イメージが比較的に多い国は、タイ(42.9%)とシンガポール(27.3%)である。また、シンガポールでは、欧米以外のイメージ(18.2%)が広告によく見られる。この結果との関連で、広告に登場する主人公の人種の結果も同じ傾向が見られる。具体的に、日本・中国(100%)、韓国(93.8%)、台湾(90.5%)では、各国の自国主人公が多く登場しているが、白人が比較的によく登場する諸国は、タイ(42.9%)とシンガポール(36.4%)である。そして、シンガポールでは、その他の国籍をもつ主人公の割合(9.1%)は、他国と比べ、多く現れている。 最後に、ジェンダーと主人公の視点から分析すると、ナレーターの声に関して、台湾以外の国々では、ビール広告の中に男性の声が圧倒的に多く見られる(タイ・中国・韓国100%、シンガポール90.9%、日本86.0%)が、台湾では、男性の声(54.5%)と女性の声(45.5%)の広告割合がほぼ同じである。また、主人公のジェンダーの割合から見れば、ナレーターの声と同様な結果で台湾以外の諸国では、男性が比較的に多く登場している(タイ・中国・シンガポール100%、日本81.4%、韓国81.3%)。これに対して、台湾では、ビール広告の中に女性(61.9%)が男性(38.1%)より多く登場していることがわかる。加えて、主人公の役割とジェンダーに関して、有意な違いがなく、共通点が見られる。具体的に、外でリラックスしている男性のイメージはアジアのビール広告に最も多く登場している(韓国100%、日本91.4%、シンガポール90.9%、台湾87.5%、中国85.7%、タイ57.1%)。また、3カ国のビール広告に登場する女性の場合でも、家庭外でリラックスする女性のイメージが多く見られる(台湾・韓国100%、日本87.5%)。ところで、このように、すべての国のビール広告に登場する男性の主人公が非常に多く、3カ国(タイ・中国・シンガポール)のビールの広告には女性が登場していないため、男女の違いを分析するのは難しいと考えられる。 さらに、主人公の年齢層について、シンガポール(90.9%)、台湾(90.5%)、タイ(85.7%)では、比較的に若い主人公(18-35歳)がよく見られるが、日本では、35-50歳の主人公(62.8%)が多く現れている。そして、韓国では、18-35歳(56.3%)と35-50歳(43.8%)の主人公がよく登場し、中国では、18-35歳(57.1%)と50歳以上(28.6%)の主人公が多く現れている。 なお、今回のアジアの広告サンプルの中で、ビール広告に登場する家族のイメージが見られていないことがわかる。そのため、家庭内・外の家族における男女役割を分析できないこととなっている。

4.考 察

 以上の本研究の日本・中国・台湾・韓国・タイ・シンガポールのビールのテレビ広告表現の国際比較結果から、広告表現(広告の一般情報・外国イメージ・ジェンダー役割)分析項目はほとんど有意に異なっていることがわかった。 まず、広告の一般情報に関して、ビールのテレビ広告の数やメッセージ、広告戦略、広告長さの違いは、各国のビール市場や消費者行動、飲酒のテレビ広告放送規制を反映していると考えられる。たとえば、ビール市場が発展している諸国では、ビールのテレビ広告が多く見られる傾向がある。そして、アルコール飲料のテレビ広告放送規制が厳しい国は、規制が緩やかな国よりも、ビール広告の数が少ないといえる。具体的に、タイと日本の事例を取り上げたい。タイでは、酒類広告禁止設定の時間が朝5時から夜24時まで酒類広告放送禁止され、アルコール飲料の宣伝の中でも、商品の情報や特徴という広告

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メッセージも禁止されている(ThaiHealthPromotionFoundation 2007)。そのため、タイの広告サンプルの中で、ビール広告が最も少なく、他国と異なって、テレビ広告の中にビールの情報やイメージという広告メッセージが現れていない。その代わりに、企業イメージや企業の社会的責任、スポンサーしているスポーツ試合やコンサートの情報、ビールのターゲットのライフスタイルのようなビールの企業広告や公共広告が多く見られる。その一方、日本では、「土・日・祝祭休日・振替休日・1月2〜3日は5:00〜12:00/月〜金は5:00〜18:00」という酒類のテレビ広告の時間自主規制である(飲酒に関する連絡協議会2011)ため、他国よりも、ビール広告の割合が最も高いと考えられる。 次に、ビール広告に現れる外国イメージの広告分析結果について、各国の社会構成やビール市場におけるグローバルの影響を受けているといえる。具体的に、シンガポールのビール広告の特徴は、他の5カ国と圧倒的に異なっており、国際広告の割合が高く、そして、英語・他国の言語や欧米人というような外国イメージがよく現れる。このことから、国内のグローバルの影響やシンガポール社会における文化的な多様性を反映していると考えられる。こうした社会的背景として、シンガポールは多民族多言語国家である。2012年の民族構成は、中国系74.2%、マレー系13.3%、インド系9.2%、その他3.3%と多民族国家である。そして、国家言語はマレー語であるが、行政機関共通言語は英語である。共通言語を英語とすることが、多民族国家のナショナルアイデンティティの構築と欧米企業誘致に資すると考えられてきた。小学校からバイリンガル教育が実施されている。国民の71%が英語を話せ、57%が2カ国語以上を話せる。また、広告産業について、シンガポールでは欧米系のメガエージェンシーが数多く存在しており、その多くは広告主の事情に合わせ、シンガポールに国内における広告作業のみならず、アジアリージョナル、東南アジアリージョナルの広告作業も実施している(電通2009)。このように、多民族多言語国家のシンガポールでは、多様な市場志向の中で、他の5カ国と異なり、ビールのテレビ広告の外国イメージの多様性が存在していると考えられる。 また、台湾では、歴史的・文化的・社会的な背景によって、日本の企業が多いため、他国と比べ、日本企業のビール広告の割合が高いことがわかる。さらに、タイの消費者は、欧米や海外に対する好感度が高く、グローバル・イメージを創造するため、タイ国内のビール企業の広告にもかかわらず、ビールのテレビ広告の中に欧米イメージや白人を登場させている。このように、外国資本が支配的なシンガポール・台湾・タイでは、多国籍企業と多国籍広告代理店が数多く存在するため、その影響はビールのテレビ広告に強く現れているだろう。 その一方、日本・中国・韓国のビール広告には、国内広告の割合が高く、ネイティブの主人公や言語、自国のイメージがよく現れている。このことから、国内資本によって形成されるこれらの3カ国において、経済、政治、国内のビール企業の影響により、ドメスティック市場志向が強くなり、自国企業や国内広告が多く見られる。また政治的なナショナリズム政策の影響で、自国の商品や自国のイメージがいいという、生活者の意識が高まったことから、ビールのテレビ広告に登場する外国イメージが少なく、自国イメージや自国言語・主人公がよく現れるといえる。 最後に、ジェンダーや年齢層と主人公の分析結果から見ると、各国のビール市場のターゲット層や人口構成を反映していると考えられる。具体的に、台湾以外の諸国はビールのメインターゲット層である男性を反映し、男性の声や男性の主人公が非常に多く登場している。これに対して、台湾では、テレビ広告の中に男性の声と女性の声の割合はほぼ同様で、広告に登場している男性と女性の割合もほぼ同じである。このことは、台湾のビール市場における女性のターゲット層の重要性を反映しているだろう。また、

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ビール広告に現れる主人公の年齢層は、各国の人口構成を反映しているといえる。つまり、少子高齢化社会が進行している諸国(日本・韓国)は、他国よりも、年齢層の高い主人公が多く見られると考えられる。 しかしながら、本研究の国際広告の分析結果から、広告表現の違い以外に、アジアのビール広告には、「外でリラックスしている若い男女」が多く登場しているという共通点が現れることがわかる。これは、ビール広告の中で、パーティなどの楽しい雰囲気で、若い男性や女性が楽しくリラックスしているという同様なイメージが見られる。すでに述べたように、先行研究によれば、日本のビールの広告では、ユーモラスな設定の中で、「苦労・努力」からその「解決・決感」というストーリーを用いているからである。このように、本研究結果は、日本だけではなく、他のアジアのビール広告もこの傾向が見られるといえる。

5.おわりに

 以上の本研究結果から、これらの6カ国の文化的・経済的・社会的状況やビール市場の影響により、アジアのビールのテレビ広告表現の違いが存在していることが明らかになった。具体的に、ビール広告の数やメッセージ、広告戦略、広告長さの違いは、各国のビール市場や消費者行動、飲酒のテレビ広告放送・宣伝規制を反映している。また、外国イメージの分析結果について、各国の社会・人口構成やビール市場におけるグローバルの影響を受けている。たとえば、外国イメージがよく現れるシンガポールのビール広告はグローバルの影響や社会における文化的な多様性を反映していると考えられる。さらに、ジェンダーと主人公の分析結果から見ると、台湾以外の諸国はビールのメインターゲット層である男性を反映し、台湾では、女性のターゲット層を反映している。 このように、アジアのビールの国際広告を実施する際に、ビールのテレビ広告表現の違いや共通点を考慮すべきであるといえる。 しかし、本研究の国際比較の広告分析結果から、アジアのビール広告には、「外でリラックスしている男女」が多く登場しているという共通点が現れる。そして、以上のように、6カ国のビールテレビ広告内容分析から見られる共通点により、次にアジアのビールの国際広告を提案したい。①感情的広告戦略でビールのイメージを伝える15秒・30秒のテレビ広告、②自国の文化イメージや自国の主人公、自国の言語の利用、③男性の声の利用・都会的な背景・外でリラックスしている若い男性の役割、ということである。 最後に、本研究では、先駆的研究の立場として、もちろんいくつもの限界と課題がある。一つは、ビールのテレビ広告に現れる外国イメージ、そして、ジェンダー役割の結果については、文化的・経済的・社会的要因をさらに各国深い分析と考察やアルコールとビールの購買欲・消費行動に関するインタビュー/アンケート調査が必要になるだろう。 また、従来の広告研究では、「非西欧圏」、とくにアジア社会の事例をとりあげた国際比較研究が十分に蓄積されてきたとは言いがたい。そして、グローバル化の進行によりアジアの共働き社会が「主婦化」される傾向にある状況のもとで、今後はこれらの6カ国のビールの広告比較だけではなく、他のアジア諸国の様相との比較が求められている。こうした実証的比較研究を通じて、アジアイメージの生成と変容について、より全体的なイメージがみえてくるはずだ。 さらに、データサンプルについても、本研究では主に2012年のサンプルに限定されたが、さらに時間軸

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をひろげて観察・分析していけば、現在世界一となっているアジアのビール市場のテレビ広告表現の受容についてより厚みのある記述が可能になるだろう。そして、社会における男女の役割や人口構成が変化しつつある可能性を視野に入れるとき、本研究の分析は、あくまで調査段階でのビールの広告を考察したものに限られるということは、ここであらためて強調しておく必要があるだろう。

[付記]本研究は、「公益財団法人アサヒグループ学術振興財団 食生活科学・文化及び環境に関する研究助成(2012年度)」による研究成果の一部である。また、この場を借りて、各国の共同研究者に深謝の意を表したいと考えている。

参考文献

電通(2009)『電通広告年鑑'09-'10』電通。

岡野雅雄・浅川雅美(2003)「記号論による広告表現分析―ビールとウィスキーのCMの場合」『言語と文化』文教大学、第15号、1-18。

飲酒に関する連絡協議会(2011)『酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準』(2013年12月30日取得、http://www.winery.or.jp/ass/cmcode.pdf)

ThaiHealthPromotionFoundation(2007)「(タイの)酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準」(2013年12月30日取得、http://www.thaihealth.or.th/healthcontent/article/252)

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変数とカテゴリー 日本の広告 タイの広告 中国の広告 台湾の広告 シンガポー

ルの広告

韓国の広告

合計 43 (100%) 7 (100%) 17 (100%) 22 (100%) 11 (100%) 16 (100%)

広告の長さ

37 (86.0%)6 (14.0%)00

03 (42.9%)4 (57.1%)0

12 (70.6%)005 (29.4%)

6 (27.3%)16 (72.7%)00

05 (45.5%)06 (54.5%)

4 (25.0%)4 (25.0%)8 (50.0%)0

15 秒30 秒

60 秒

その他

P < .05、 (χ2)= 137.324、 df = 15

広告戦略

1 (2.3%)42 (97.7%)

07 (100.0%)

8 (47.1%)9 (52.9%)

3 (13.6%)19 (86.4%)

1 (9.1%)10 (90.9%)

1 (6.3%)15 (93.8%)

情報型戦略

変換型戦略

P < .05, (χ2)=25.073, df = 5

企業の種類

43 (100.0%) 6 (85.7%) 15 (88.2%) 10 (58.8%) 8 (72.7%) 14 (87.5%)自国の企業

欧米の企業 0 1 (14.3%) 2 (11.8%) 2 (11.8%) 3 (27.3%) 1 (6.3%)日本の企業(日本以外) 0 0 0 5 (29.4%) 0 1 (6.3%)P < .05, (χ2)=34.451, df = 10

文化イメージ

40 (93.0%) 4 (57.1%) 17 (100%) 19 (86.4%) 6 (54.5%) 15 (93.8%)自国イメージ

欧米イメージ 3 (7.0%) 3 (42.9%) 0 3 (13.6%) 3 (27.3%) 1 (6.3%)欧米以外イメージ 0 0 0 0 2 (18.2%) 0P < .05, (χ2)=34.451, df = 10

言語

43 (100.0%) 6 (85.7%) 17 (100%) 22 (100%) 7 (63.6%) 15 (93.8%)自国の言語

英語 0 1 (14.3%) 0 0 4 (36.4%) 1 (6.3%)P < .05, (χ2)=27.515, df = 5

国内広告と国際・グロ

ーバル広告の数

43 (100.0%) 6 (85.7%) 17 (100%) 20 (90.9%) 7 (63.6%) 16 (100%)国内広告

国際・グローバル広告 0 1 (14.3%) 0 2 (9.1%) 4 (36.4%) 0P < .05, (χ2)=23.928, df = 5

表1 アジアのビールのテレビ広告における広告の一般情報・外国イメージ・ジェンダー役割の分析結果

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主人公の人種

43 (100.0%) 4 (57.1%) 7 (100.0%) 19 (90.5%) 6 (54.5%) 15 (93.8%)ネイティブ

白人 0 3 (42.9%) 0 2 (9.5%) 4 (36.4%) 1 (6.3%)その他 0 0 0 0 1 (9.1%) 0P < .05, (χ2)=32.945, df = 10

ナレータ

37 (86.0%) 7 (100.0%) 17 (100%) 12 (54.5%) 10 (90.9%) 16 (100%)男性

女性 4 (9.3%) 0 0 10 (45.5%) 0 0なし・両方 2 (4.7%) 0 0 0 1 (9.1%) 0P <.05, (χ2)=34.352, df = 10

性別

35 (81.4%) 7 (100.0%) 7 (100.0%) 8 (38.1%) 11 (100%) 13 (81.3%)男性

女性 8 (18.6%) 0 0 13 (61.9%) 0 3 (18.8%)P < .05, (χ2)=26.160, df = 5

年齢層

0 0 0 1 (4.8%) 0 00-1818-35 11 (25.6%) 6 (85.7%) 4 (57.1%) 19 (90.5%) 10 (90.9%) 9 (56.3%)35-50 27 (62.8%) 1 (14.3%) 1 (14.3%) 0 1 (9.1%) 7 (43.8%)50~ 5 (11.6%) 0 2 (28.6%) 1 (4.8%) 0 0P < .05, (χ2)=47.636, df = 15

役割

3 (7.0%) 3 (42.9%) 1 (14.3%) 4 (19.0%) 1 (9.1%) 0働く

働かない 40 (93.0%) 4 (57.1%) 6 (85.7%) 17 (81.0%) 10 (90.9%) 16 (100%)P > .05, (χ2)=11.057, df = 5

職種

0 2 (66.7%) 0 0 0 0上級・中級管理職と専門家

事務と販売 0 1 (33.3%) 1 (100.0%) 0 1 (100.0%) 0その他 3 (100.0%) 0 0 4 (100.0%) 0 0P < .05, (χ2)=17.333, df = 8

職業に従事する以外の役割

1 (2.5%) 0 0 0 0 0家族の役割

レクリエーション 33 (82.5%) 4 (100.0%) 4 (66.7%) 17 (100%) 9 (90.0%) 13 (81.3%)商品紹介 6 (15.0%) 0 2 (33.3%) 0 1 (10.0%) 3 (18.8%)P > .05, (χ2)=7.458, df = 10

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