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数学・物理通信 5 3 2015 4 編集 新関章三・矢野 2015 4 8

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Page 1: 数学・物理通信 - 名古屋大学tanimura/math-phys/...Integral Transform Related with Fractional Calculus and Its Applications Akira ASADA 22 4. Editorial Comments Tadashi YANO

数学・物理通信

5巻3号 2015年4月

編集 新関章三・矢野 忠

2015 年 4 月 8 日

Page 2: 数学・物理通信 - 名古屋大学tanimura/math-phys/...Integral Transform Related with Fractional Calculus and Its Applications Akira ASADA 22 4. Editorial Comments Tadashi YANO

1

目次(Contents)

1. 虚数とカルダノの公式

矢野 忠 2

2. 体内時計と同調現象

世戸憲治 14

3. 分数冪微分に関係した積分変換とその応用

浅田 明 22

4. 編集後記

矢野 忠 35

1. The Imaginary Numbers and Cardano Formula

Tadashi YANO 2

2. Internal Body Clock and Synchronization Phenomenon

Kenji SETO 14

3. Integral Transform Related with Fractional Calculusand Its Applications

Akira ASADA 22

4. Editorial Comments

Tadashi YANO 35

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虚数とカルダノの公式

矢野 忠 1

The Imaginary Numbers and Cardano Formula

Tadashi Yano2

目次

1. はじめに

2. 3次方程式の簡約化

3. x3 − 6x+ 4 = 0を解く

4. おわりに

5. 付録 1 カルダノの公式

6. 付録 2 3√2 + 2i, 3

√2− 2iの計算

7. 付録 3 因数分解による解法

8. 付録 4 x3 + y3 + z3 − 3xyz の因数分解

9. 付録 5 Feynmanのエピソード

10. 補遺

1 はじめに

遠山啓の『数学入門』上,下(岩波新書) [1]は名著との誉れが高い.ところが上巻 (1959), 下巻 (1960)の

初版にはミスプリントが少なからずあった.

私のもっている最新版 (2000)を見てみたら,さすがに長年読みつがれているだけあって,ミスプリントはな

くなっていた.

ところが下巻の p.124の上から 7行目に

すでに三次方程式を解くときに,実数の世界は狭すぎ,どうしても数を複素数まで拡大しなく

てはつじつまが合わない事態が起こった(第 VII章).(後略)

とあった.私はこの三次方程式が二次方程式のミスプリントではないかと思っていた.さすがに多くの読者も

ここまでは目が届かなかったのか.

なぜなら,すでに二次方程式において虚数を導入しなければ,解がない場合が生じるからである.しかし,

これは私の理解が不十分であることがわかった.

『数学入門』上の p.216には

2次方程式では虚数をみとめないという立場をとってもつじつまは合う.しかし,3次方程式では

虚数をみとめないと,実数の根さえ計算できないという矛盾にぶつかる.(3次方程式 x3−6x+4 = 0

を解く)この例は虚数なしでは代数がどのくらい不完全であるかをよく物語っている 3.

とある.

つまり,虚数の存在が 3次方程式の解の公式によって動かしがたくなった.このことを以下の節で示すこと

にしよう 4.1元愛媛大学工学部[email protected]( )は引用者が補足挿入した.4ポントリャーギン [2] はつぎのように述べている.

2

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2 3次方程式の簡約化

3次方程式の解の公式,いわゆるカルダノの公式を付録 1で導くのだが,その 3次方程式は一般的に

x3 + ax2 + bx+ c = 0 (2.1)

と表すことができる 5.いま,この 3次方程式の解の公式を求めるために

x3 + y3 + z3 − 3xyz = (x+ y + z)(x+ ωy + ω2z)(x+ ω2y + ωz) (2.2)

というよく知られた因数分解の公式を利用する 6.いま未知数を xで表し,y, zは定数であるとすれば,

x3 − 3yzx+ y3 + z3 = 0 (2.3)

と表すことができる.この形の式は

p = −3yz (2.4)

q = y3 + z3 (2.5)

とおけば

x3 + px+ q = 0 (2.6)

と表せる.ここで (2.1)が (2.6)と表せるためには (2.1)の形の 3次方程式において x2 の項を消去するような

変数変換があるだろうか.そのことを考えてみよう.

いま

x = t+ e, (e :未定定数) (2.7)

とおいてみよう.これを (2.1)に代入すれば

(t+ e)3 + a(t+ e)2 + b(t+ e) + c = 0 (2.8)

となる.したがって

t3 + (a+ 3e)t2 + (b+ 2ae+ 3e2)t+ (c+ be+ ae2 + e3) = 0 (2.9)

が得られる.

a, b, cは与られた定数であるが,eは未定の定数であるから

a+ 3e = 0 (2.10)

ととれば,t2 の項を消すことができる.すなわち

e = −a

3(2.11)

もし実数だけを考えているならば,平方をとる計算の逆演算である開平計算は,つねに可能であるとは限らない.負の数の平方根はとれないからである.しかしながら,そのことだけでは数学に新しい数を導入する理由としては十分ではない.負の数の平方根を含んだ式にふつうの規則による計算を施した場合,負の数の平方根を含まない結果に到達することがあることがわかってきた.

16世紀にカルダノ (Cardano)は 3次方程式の根の公式を発見した.3次方程式の 3根がすべて実根であるというまさにその場合に,カルダノの公式では,負の数の平方根が出てくるのである.このようにして,負の数の平方根を含んだ式についての計算を行うと,完全に意味のある結果が得られることがあるのが発見された.このような理由で,負の数の平方根が使われはじめたのである.(後略)

5一般的な 3 次方程式として (2.1) ではなく,px3 + qx2 + rx+ s = 0 と表すべきだろうか.その必要はない.なぜなら,x3 の前の係数 p で式全体をわれば,(2.1) が得られる.

6この因数分解の公式は付録 4 で示す.

3

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ととればよい.このとき一般に

t3 + Pt+Q = 0 (2.12)

と表すことができる.このとき

P = b+ 2ae+ 3e2

Q = c+ be+ ae2 + e3

とおいた.新しい未知数 tを再度 xと表し,さらに P,Qも p, qと表すことにすれば,

x3 + px+ q = 0  (2.6)

が得られることになる.今後この形の簡約された 3次方程式を解くことにする.

3 x3 − 6x+ 4 = 0を解く

ちょっと前おきの注意をしておこう.この節のタイトルを x3 − 6x+4 = 0を解くとしたが,ここではもちろ

んカルダノの公式を用いて解く 7.因数定理によって解くのではない 8.

x3 + px+ q = 0の解の公式は

r =

√(q2

)2+(p3

)3(3.1)

とおけば,

x = − 3

√q

2+ r − 3

√q

2− r (3.2)

x = −ω 3

√q

2+ r − ω2 3

√q

2− r (3.3)

x = −ω2 3

√q

2+ r − ω 3

√q

2− r (3.4)

と表される.ここで

ω =−1 +

√3i

2(3.5)

であり,これは ω3 = 1を満たす解の一つである.

これから

x3 − 6x+ 4 = 0 (3.6)

をこのカルダノの公式によって解いてみよう.このとき p = −6, q = 4である.したがって

r2 =(q2

)2+(p3

)3= −4 (3.7)

したがって

r = ±2i (3.8)

7このカルダノの公式の導出は付録 1 に述べる.8因数定理による解法は付録 3 で述べる.

4

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となる.いま r = 2iととれば 9,

q

2+ r = 2 + 2i (3.11)

q

2− r = 2− 2i (3.12)

したがって,

3

√q

2+ r = 3

√2 + 2i = −1 + i (3.13)

3

√q

2− r = 3

√2− 2i = −1− i (3.14)

であるから 10

x = −(−1 + i)− (−1− i) = 2 (3.15)

x = −(−1 + i)ω − (−1− i)ω2 = −1 +√3 (3.16)

x = −(−1 + i)ω2 − (−1− i)ω = −1−√3 (3.17)

となるから解は

2, −1 +√3, −1−

√3 (3.18)

これからわかるように x3 − 6x+ 4 = 0の解はすべて実数である.ところが解の公式での計算では途中で虚

数 iが出てきた.iという数をみとめないと上に求めた実数の解は見つからないことになる.

4 おわりに

2次方程式でも虚数を認めないと解が存在しないことが起こるが,それでも 2次方程式の解としては実数の

解だけしか認めないという立場をとることもできる.

しかし,3次方程式の場合には実数の解となる場合においても虚数の存在を認めないと解の公式によって解

を求められないことがある.すなわち虚数は数として厳然としてその存在の意義がある.このことは 1節で述

べたことであった.3次方程式のカルダノの公式によって虚数はようやくその存在が動かせないものとなった.

歴史的にはそれでもなお虚数の存在は市民権を得ることがなかなか難しかったらしい.そしてようやくガウ

スによって虚数に市民権を与えられたのは 18世紀の終わりごろだという.しかし,その存在の根拠はもうす

でに 3次方程式の解の公式,カルダノの公式,によって与えられていたのである.

1節の脚注に引用したポントリャーギンの説明が私にはなにがなんだかわからなかったが,このエッセイで

述べたことを了解した後で,ようやくその意味がわかってくる.

もっとも x3 − 6x+ 4 = 0の解は因数定理を用いて,x− 2という因数を見つけ出せば,後の 2つの解は 2次

方程式の解の公式を用いて求めることができる.これを付録 3で述べる.

9r = −2i ととれば,

q

2+ r = 2− 2i (3.9)

q

2− r = 2 + 2i (3.10)

となる.したがって,r = 2i ととろうと r = −2i ととろうと解の集合としてちがいはない.10 3

√2 + 2i = −1 + i, 3

√2− 2i = −1− i となることは付録 2 で示す.

5

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5 付録 1 カルダノの公式の導出

x3 + y3 + z3 − 3yzx = (x+ y + z)(x+ ωy + ω2z)(x+ ω2y + ωz) (A1.1)

を用いて,カルダノの公式を導き出そう 11.上の式の左辺を 0とおけば

x3 + px+ q = 0 (A1.2)

という形となる.ここで,

p = −3yz (A1.3)

q = y3 + z3 (A1.4)

である.この式から,y, zを求める.(A1.3)から

z = − p

3y(A1.5)

となるので,これを (A1.4)へ代入すれば

y6 − qy3 −(p3

)3= 0 (A1.6)

が得られる.これは y3 の 2次方程式であるから

y3 =q

2± r,ここで r =

√(q2

)2+(p3

)3(A1.7)

y3 の解として

y3 =q

2− r (A1.8)

をとれば,y3 の 3乗根の一つの yの値は

y = 3

√q

2− r (A1.9)

と表すことができる.

また z3 は (A1.4)から

z3 =q

2+ r (A1.10)

となる.すなわち,z3 の 3乗根の一つの zの値は

z = 3

√q

2+ r (A1.11)

と表すことができる.

ところで

x3 + y3 + z3 − 3xyz = (x+ y + z)(x+ ωy + ω2z)(x+ ω2y + ωz) (A1.12)

と因数分解できるから,3次方程式

x3 + y3 + z3 − 3xyz = 0 (A1.13)

から,

x+ y + z = 0 (A.1.14)

x+ ωy + ω2z = 0 (A.1.15)

x+ ω2y + ωz = 0 (A.1.16)

11(A1.1) の導出は付録 4 で述べる.

6

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が得られる.これから 3次方程式 x3 + px+ q = 0の解 xは

x = −y − z = − 3

√q

2− r − 3

√q

2+ r (A.1.17)

x = −ωy − ω2z = −ω 3

√q

2− r − ω2 3

√q

2+ r (A.1.18)

x = −ω2y − ωz = −ω2 3

√q

2− r − ω 3

√q

2+ r (A.1.19)

となる.

『数学入門』上では最後の式が少しだけ違った表現がされているが,同じものである.このとき (−1)3 = −1

から −1 = (−1)1/3 を使えば二つが同等の式であることがわかる.

6 付録 2 3√2 + 2i, 3

√2− 2iの計算

この付録 2では 3√2 + 2i = −1 + i, 3

√2− 2i = −1− iであることを示す.

まず3√2 + 2i = −1 + i

であることを示す.それには3√2 + 2i = a+ bi

とおく.ここで,a, bは実数である.これから

2 + 2i = (a+ bi)3

となる.

(a+ bi)3 = a3 − 3ab2 + (3a2b− b3)i

であるから

a3 − 3ab2 = 2 (B2.1)

3a2b− b3 = 2 (B2.2)

が得られる.(B2.1)−(B2.2)を計算すると

a3 + b3 − 3ab2 − 3a2b = 0

(a+ b)(a2 − 4ab+ b2) = 0

a, bは実数であるから

a+ b = 0

したがって

b = −a (B2.3)

これを (B2.1)に代入すれば

a3 + 1 = 0

から

(a+ 1)(a2 − a+ 1) = 0

が得られ,したがって

a = −1, b = 1  (B2.4)

7

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が求められる.

つぎに3√2− 2i = −1− i

であることを示す.それには3√2− 2i = a+ bi

とおく.a, bは実数である.同様な手順で a, bを求めることができる.

この場合には

b = a (B2.5)

となる.最終的な結果は

a = −1, b = −1  (B2.6)

となる.

7 付録 3 因数分解による解法

3次方程式 x3 − 6x+ 4 = 0 の場合には実は因数定理によって一つの因数を見つけることができる.いま

P (x) = x3 − 6x+ 4 (C3.1)

とおけば,P (2) = 0となるので P (x)は因数定理によって x− 2という因数がある.

P (x) = x3 − 6x+ 4

= (x− 2)(x2 + 2x− 2)

となる.x2 + 2x − 2 = 0は 2次方程式であるから,解の公式によって解くことができる.この 2次方程式の

解は

x = −1±√3

であるから,x3 − 6x+ 4 = 0 の求める解は

2, −1 +√3, −1−

√3 (C3.2)

である.これはもちろんカルダノの公式で求めた (3.18)と一致する.

8 付録 4  x3 + y3 + z3 − 3xyzの因数分解

P (x, y, z) = x2 + y2 + z2 − xy − yz − zx (D4.1)

とおけば,有名な因数分解の公式によって

x3 + y3 + z3 − 3xyz = (x+ y + z)P (x, y, z)

と表される.したがって以下では P (x, y, z)の因数分解を考えればよい.

この P (x, y, z)は x ↔ y, y ↔ z, z ↔ x の入れ替えに対して対称である.すなわち,

P (x, y, z) = P (y, x, z) = P (z, y, x) = P (x, z, y)

8

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が成り立つ.いま P (x, y, z) = P (x, z, y)であることに注目すれば

P (x, y, z) = (x+ uy + vz)(x+ vy + uz) (D4.2)

とおくことができる.このとき u, vは複素数である 12.この右辺を展開すれば

x2 + y2 + z2 − xy − yz − zx = x2 + uvy2 + uvz2 + (u+ v)xy + (u2 + v2)yz + (u+ v)zx (D4.3)

となるが,この式が成り立つように u, vを決めればよい.そうするとこの式から

uv = 1 (D4.4)

u+ v = −1 (D4.5)

u2 + v2 = −1 (D4.6)

から u, vを決めることができる.まず (D4.4)を vについて解けば

v =1

u(D4.7)

(D4.7)を (D4.5)へ代入すれば

u2 + u+ 1 = 0 (D4.8)

が得られる.これから

u =−1±

√3i

2  (D4.9)

と求められる.いま uとして

u =−1 +

√3i

2  (D4.10)

をとれば

v =−1−

√3i

2  (D4.11)

となる.

(D4.4)と (D4.5)から u, vの値が求まったが,条件として (D4.6)がもう一つある.この式を上に求めた u, v

の値は満たしているだろうか.(D4.10)と (D4.11)の u, vの値を (D4.6)に代入すれば,

u2 + v2 =

(−1 +

√3i

2

)2

+

(−1−

√3i

2

)2

= −1

となるから,(D4.6)を満たしている.

もちろん,uと vは (D4.10)と (D4.11)で求まったが,これの値を入れ替えた

u =−1−

√3i

2 

v =−1 +

√3i

2 

としてもよい.なぜなら,(D4.4)-(D4.6)は u ↔ vの入れかえに対して対称的な方程式だからである.

ω = u =−1 +

√3i

2

とおくことにすれば,

ω2 = v =−1−

√3i

212u, v を実数に限ると (D4.1) は因数分解できない.

9

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となることがすぐにわかる.

したがって

x2 + y2 + z2 − xy − yz − zx = (x+ ωy + ω2z)(x+ ω2y + ωz) (D4.12)

と因数分解できる.

いま P (x, y, z)を (D4.12)のように因数分解するために

P (x, y, z) = P (x, z, y)

という対称性を用いたが,(D4.12)の右辺は

P (x, y, z) = P (y, x, z) = P (z, y, x) (D4.13)

の対称性を満たさないように思われるかもしれない.しかし,(D4.12)の右辺は左辺に等しいから,当然この

(D4.13)の対称性を満たしている.

しかし,そのことに疑念をもたれる方もおられるかもしれないので,例として (D4.12)で x ↔ yの入れかえ

をした計算を示しておく.

P (y, x, z) = (y + ωx+ ω2z)(y + ω2x+ ωz)

= y2 + (ω + ω2)xy + (ω + ω2)yz + ω3x2 + (ω + ω2)zx+ ω3z2

= x2 + y2 + z2 − xy − yz − zx

となるので,確かに

P (x, y, z) = P (y, x, z)

が成り立つ.

x ↔ z の入れかえに対しても同様であるが,この検算は省略する.上の計算において ω2 + ω + 1 = 0と

ω3 = 1であることを用いている 13.

9 付録 5 Feynmanのエピソード

これはカルダノの公式のもつ意義を伝える Feynmanのエピソードで,私のブログ「物理と数学:老人のつ

ぶやき(旧名ブログ:physicomath)」の 2010.11.22の記事に書いたことの一部である.

(引用はじめ)昨日は日曜で,自宅にいた.それで,以前に買っていた本を久しぶりに取り出してきた.Dyson

の本 [3]である.この日本語訳が今は出ているのだが,私はもっていないので,原本である.(中略)

その手紙の一部に家族に宛てた手紙があるが,その中の一つがおもしろかった.これは Feynmanがアテネ

に行ったときの彼のギリシアでの観察を伝えた手紙である.

ギリシアでは,古代のギリシアが優れた科学業績を挙げたということを学校教育で徹底しているので,子ど

もたちはその偉大さに打ちひしがれて現代でもその偉大さをなかなか精神的に克服することができない.

13ω = −1+√

3i2

, ω2 = −1−√

3i2

であるから

ω + ω2 = −1 (D4.14)

であることはすぐに導かれる.また

ω3 =

(−1 +

√3i

2

)(−1−

√3i

2

)= 1 (D4.15)

であるから,ω3 = 1 もすぐにわかる.

10

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Feynmanはいう.ヨーロッパで一番重要な数学上の業績はタルタリアによる,3次方程式の解法だという 14.

これはあまり使われないが,これは心理的にはすばらしいもので,これによって近代人は古代ギリシア人ので

きなかったことをやっと乗り越えられた.そして,人間を自由にする,ルネッサンスに役立ったという.

この Feynmanの話を聞いたギリシアの子どもたちは大変驚いたという.しかし,古代のギリシア人が人間

の理性の成果である,科学においては偉大なことを成し遂げたことは事実としても,それに押しつぶされるよ

うな雰囲気が現在の学校教育で支配的であるのなら,それは行き過ぎた教育であろう.だから,Feynmanのい

うことは正しい.

もっとも私はタルタリアの 3次方程式の解法が古代ギリシアを乗り越えた,最大の業績かどうかはわからな

い.それにしても Feynmanの書簡集は英語の原本もその日本語の翻訳もいずれも,まだ私はもっていない.あ

わてて購入するべきだろうか.(後略)(引用おわり)

今振り返ってみれば,Feynmanは虚数 iの存在を確実としたタルタリアの 3次方程式の解の意義を知ってい

て,こういう話をギリシアの子どもたちの前で話したのであろう.その理解が私にはできていなかったから,

「私はタルタリアの3次方程式の解法が古代ギリシアを乗り越えた,ヨーロッパの最大の業績かどうかはわか

らない」などととんまなことを書いたのであろう.

(2015. 2. 28)

10 補遺

上の原稿を書いた後で,いくつかの文献を読む機会があった.一つは [4] である.この書では未知数 x を

x = y + zとおいて,y + zを求めることによって

x3 + px+ q = 0 (A.1.2)

を解く.著者(小島)は一つしかなかった未知数 xを,二つの未知数 y と z との和で表すという奇抜なアイ

ディアであり,「フォンタナが考えつかなければ,あと数百年は誰も気がつかなかったかもしれません」と述べ

ている.

それはともかく

x = y + z  (E1.1)

とおいて,これを (A.1.2)に代入すれば,

(y + z)3 + p(y + z) + q = 0

となり,

(y3 + z3 + q) + (3yz + p)(y + z) = 0

が得られるので,

y3 + z3 = −q (E1.2)

yz = −p

3(E1.3)

が成り立たなければならない.

ところが,これをすでに求めた (A1.3),(A1.4)と比べれば,(A1.3)と (E1.3)とは一致するが,(A1.4)と (E1.2)

とは負号だけ一致しない.

143 次方程式の解の公式はカルダノではなく,本当はタルタリアによるものだということはよく知られている.タルタリアは異名であり,フォンタナというのが本名らしい.『数学入門』上 [1]の p.214にはカルダノはフォンタナから一切口外しないという誓約をした上で解の公式を教わったが,その後その誓いを破って解の公式を公開したという.そして後世にはカルダノの公式と名前で知られている.ここではその慣習にしたがっている.そういうことはあるが,カルダノはとても興味深い人物であって,その自叙伝はとても有名であるという.

11

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これは,私たちの方法では x+ y + z = 0から x = −(y + z)を仮定したのに対し,フォンタナは x = y + z

と仮定したので異なるのは当然であろう.

それで

x = −(y + z) (E1.4)

とおけば,

(y + z)3 + p(y + z)− q = 0

が得られるので,(E1.2)で q → −qとおきかえればよい.したがって

y3 + z3 = q (A1.4)

yz = −p

3(A1.3)

が得られる.

付録 1で述べた方法では x3 + y3 + z3 − 3xyzを因数分解するという方針で解の公式を求めた.

x3 + y3 + z3 − 3xyz = (x+ y + z)(x2 + y2 + z2 − xy − yz − zx)

と因数分解できるから,x+ y + zという因数があることは高校生でも知っている.すなわち,

x3 + y3 + z3 − 3xyz = 0

という xについての 3次方程式を解けば x = −(y+ z)という解がある.フォンタナが x = y+ zとおいたとい

うことは 3次方程式が x3 + px+ q = 0が x− (y + z)という因数をもつことを仮定したことになる.フォンタ

ナの奇抜なアイディアは実は今なら高校生でも思いつくようなアイディアであったと言えるだろう.

私たちの方法なら,現代の学生でも解法を見つけられるであろう.しかし,x3 + y3 + z3 − 3xyz が複素数

の範囲で因数分解できることはフォンタナは知らなかっただろうから,現代の学生とフォンタナとはまったく

違った立場にある.さらに言えばフォンタナの時代には負数さえも普通には認められていなかったという.だ

から,もちろんここで述べた方法は歴史的な後知恵である.

もう一つ読んだ文献は [5]である.ここには 3次方程式の解に複素数が現れる不思議の追求をした人として

ボンべリの名が挙がっている.そして複素数の 3乗根が解の公式に現れることが例外的なことではないことが

述べられている.ボンべリは,たとえば,

x3 − 15x− 4 = 0

を解いて,実数解 4, −2 +√3, −2−

√3を得たが,途中で虚数の平方根が出てくるという不思議に出会った

という.

この文献には 4次の方程式の解の公式の求め方もその話の筋は述べられており,興味深い.是非一読をお勧

めする.

(2015.3.27 付記)

カルダノ変換の用語の説明があるかと思って『数学入門辞典』 [6]を探してみたら,カルダノ変換という語は

載っていなかったが,3次方程式の解の公式の求め方の説明があった.この辞典では x3 − y3 − z3 − 3xyz = 0

の因数分解として,xの3次方程式の解の公式を導いている.これは付録 1で述べた方法と同じである.付録

1と因数分解する式の見かけがちがっているのは,3次方程式の解法としてどのテキストにも x = y+ zとして

y, zを求めると書いてあるのに引きずられたためであろう. [6]を著した方々は日本を代表するような数学者で

あるから,ちょっとした変更は本質を理解する支障にはならない.だが,かつての私のような,劣等生の高校

生でも理解できるように,x3 + y3 + z3 − 3xyz = 0を使ったほうが数学教育的にはいいのではないかと思う.

(2015.3.31 付記)

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参考文献

[1] 遠山 啓,『数学入門』上,下(岩波新書,1959, 1960)

[2] ポントリャ―ギン(宮本敏雄,保坂秀正),『数概念の拡張』(森北出版,2002)1 - 2

[3] F. J. Dyson, The Scientist as rebel (New York Review Books, 2006) 279-280(柴田裕之 訳『反逆として

の科学』(みすず書房, 2008)にはこの箇所は訳出されていない)

[4] 小島寛之,『天才ガロアの発想力』(技術評論社,2010)140-148

[5] 木村俊一,代数方程式の天才たち,数理科学,(サイエンス社,2015.4)15-21

[6] 青木和彦 他,『数学入門辞典』(岩波書店,2005)233

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体内時計と同調現象

世戸 憲治 1

Internal Body Clock and Synchronization Phenomenon

Kenji Seto 2

目次

1. はじめに

2. 方程式の導入

3. 方程式の解

4. 数値計算によるグラフ表示

5. おわりに

6. 付録 初期条件について

1 はじめに

私は,超が付くほどの遅寝遅起きである.これは私が持っている体内時計が,1日の長さ 24 時間をはるか

に超えているためらしい.この体内時計は,生物時計 (biological clock),あるいは,生理時計 (physiological

clock)などとも言われるが,これは個人差があって生活リズムとしての 1日の長さが 24 時間に満たない人も

いれば,私のように長すぎる人もいる.旅行などに出かけ普通の生活時間を余儀なくされることもあるが,家

に帰るとまたすぐに遅寝遅起きに戻ってしまう.地球の自転速度がもっと遅くなって 1日の長さが 30時間位に

なるとちょうど良いのにと思うこともしばしばである.いっそのこと,夜勤の仕事をしている人のように,寝

る回数を 2日に 1回とまでは言わないにしても,3日に 2回とかにしたらどうかとも思うが,どうしても曜日

に縛られてしまいそれもままならない.

通常の人間は地球の自転に合わせた生活をしなければならないので,体内時計が 24時間を超える人は,遅ま

きながらそれに合わせて遅寝遅起きになり,逆に,24時間に満たない人は早寝早起きになってしまうと考えら

れる.つまり,通常の人間は,生活時間を地球の自転速度に同調させて生きているわけである.ここでは,こ

のような同調現象の最も単純な数学モデルについて考えてみる.モデルの設定にあたっては,

(1) 体内時計の 1日が,地球自転の 1日にある程度近ければ,地球自転に同調し,通常の生活ができること.

(2) 体内時計の 1日が,地球自転の 1日と比べ,あまりに短かすぎたり,長すぎたりした場合は,同調するこ

となく,通常の生活とは外れたものになってしまうこと.

(3) 各個人には体内時計の周期の他に,適応力があって,同調するか,しないかは,適応力の強さにも依存す

ること.これが強い人は,体内時計の 1日が地球自転の 1日とかなり離れていても同調した通常の生活

が送れ,逆にこれが弱い人は,すぐに同調しなくなり,通常の生活と外れてしまうこと.

1北海学園大学名誉教授[email protected]

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以上の 3点のことが満たされるようなモデルを作ることを目標とするが,この種の議論に対しては,確かな

データがあるわけでもなく,理論的な根拠があるわけでもない.したがって,これから述べることは,まった

くの 1つの仮説,否,仮説にもなり得ないただの数式遊びとして受け止めていただきたい.

2 方程式の導入

図 1  体内時計のモデル

図 1のように,中心 O, 半径 1 の円を考え,この円周上を 1回転することが,1日の生活時間と考える.こ

の図にある P 点は,地球の自転を模したもので,この円周上を一定角速度 ω0 で回転するものとする.1日の

長さを時間の単位 day とすると,この P 点が 1回転する時間は 1day, したがって,ω0 = 2π/ day となる.つ

まり,この P 点は ペースメーカーの役をはたすものと考える.それに対し,A 点は,ある特定の個人に対応

するもので,その人が持つ固有の角速度 ωa が存在し,遅寝遅起きの人は,ゆっくり回転するので,ωa < ω0

となり,早寝早起きの人は,ωa > ω0 となる.ただし,これだけでは,地球の自転に同調させることはできな

いので,時刻 t における A 点の回転角を θ としたとき,その角速度は一定ではなく,ωa のほかに,

dθ/dt = ωa + F (t)

と同調させるための項 F (t) を入れることにする.以後,これを同調項と呼ぶことにするが,これをどう選ぶ

かが問題である.時刻 t における地球の自転による回転角 ω0t に対し,個人の回転角 θ が小さいときは加速

し,大きいときは減速しなければならないので,この同調項には,これら 2つの角度差 ω0t− θ のようなもの

を含ませなければならない.そこで考えられるのが,

(A) 同調項を AP 間の円弧の長さ ω0t− θ に比例するものとし,方程式を

dθ/dt = ωa[1 + e(ω0t− θ)]

とた場合を考える.この方程式には自明な解 θ = ω0t + c が存在する.これを代入してわかるように,

c = (ωa − ω0)/eωa である.これから,比例定数 e を正としたとき,ωa > ω0 の人は,c 正となり,早

寝早起きになり,逆に,ωa < ω0 の人は c 負で,遅寝遅起きになることがわかる.しかし,このときは,

ωa の値がどんなときでも必ず同調することになり,先に挙げた目的に沿わない.

(B) 同調項を AP 間の直線距離 2 sin((ω0t− θ)/2

)に比例するとし,方程式を

dθ/dt = ωa[1 + e sin((ω0t− θ)/2

)]

とした場合.このときも自明な解 θ = ω0t+ c が存在し,代入してみると,sin(c/2) = (ωa − ω0)/eωa と

なる.sin の値は絶対値が 1 以下なので,ωa の値,すなわち,同調が起こる範囲は自ずと限定される.し

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かし,ここで 1つ気に入らないのは,いま,ω0t > θ として,P 点と A 点の差が 1回転になるまで,加

速され続けてしまうことである.実際は,P 点と A 点の差が半回転以上になってしまったとき,つまり,

夜と昼が逆転してしまったときは,むしろ減速させて,次の日を待つ方が,正しいやり方と考えられる.

(C) そこで,(B) で考えた方法の sin の中の 1/2 を取ってしまい方程式を

dt= ωa

[1 + e sin(ω0t− θ)

](2.1)

とする.これは,同調項として,A 点から線分 OP に下ろした垂線の長さ sin(ω0t− θ) に比例させたこ

とになる.これで,A 点と P 点の角度差が半回転以内のとき,θ が ω0t より小さいときは加速させ,逆

に,θ が ω0t より大きいときは減速させる.また,角度差が半回転を超えるときは,加速と減速を逆に

するということである.

その他に,P 点と A 点の回転半径を変えたものも考えてみたが,どうもしっくりしない.以下では,この

(2.1) 式に基づいた解析をしていくことにする.このときの比例定数 e は,逆走しないように 0 < e < 1 とす

るが,これは,以下で示すように,個人が持つ適応力の強さを表すもので,e がゼロに近いほど適応力がない

人,1 に近いほど適応力がある人であることを意味する.

3 方程式の解

方程式 (2.1) の一般解を求める前に,仮に,ωa = ω0 としたときは,θ = ω0t という解が存在することはす

ぐにわかる.これは,地球の自転とその人の体内時計がぴたりと一致するまったく順調な人の場合である.こ

の解をもう少し拡張すると,ωa が ω0 と異なる場合でも,c を定数として,

θ = ω0t+ c (3.1)

という形の解が存在する.これを方程式 (2.1) に代入し,sin(c) を求めると,

sin(c) =1

e

(1− ω0

ωa

)(3.2)

となり,sin(c) の絶対値は 1 以下なので,不等式

ω0

1 + e≤ ωa ≤ ω0

1− e(3.3)

を得る.これは,特定の個人が通常の日常生活を送るために必要な固有角速度 ωa の範囲を示すものである.

言い換えると個人が地球の自転に同調した生活を送れる範囲である.適応力 e がゼロに近いほどその範囲は狭

くなり,1 に近いほどその範囲は大きくなることを示す.また,この (3.2) 式から ωa < ω0 の人は,c < 0 と

なり,遅ればせながら地球の自転についていくことになり,逆に,ωa > ω0 の人は,c > 0 となるので,地球

の自転より早めの生活をすることになる.

つぎに,方程式 (2.1) の一般解を求めるために,

θ − ω0t = ϕ (3.4)

と,θ から ϕ に変数変換すると,dϕ

dt+ ω0 = ωa

[1− e sin(ϕ)

](3.5)

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となる.これを変数分離し,積分形にすると,∫dϕ

ωa

[1− e sin(ϕ)

]− ω0

=

∫dt (3.6)

となる.これは積分公式,

∫dx

a sinx+ b=

−2√a2 − b2

arctanh[b tan(x/2) + a√

a2 − b2

], a2 > b2

2√b2 − a2

arctan[b tan(x/2) + a√

b2 − a2

], a2 < b2

(3.7)

を使ってなされる 3.この公式において,

a = −ωae, b = ωa − ω0 (3.8)

とおいたとき,この公式における条件式は,

a2 > b2 ⇒( ω0

1 + e< ωa <

ω0

1− e

), a2 < b2 ⇒

(ωa >

ω0

1− eor ωa <

ω0

1 + e

)(3.9)

となる.この前者は,等式部分を除いて (3.3) 式と同じものになることに注意する.

初めに,a2 > b2 の場合, (3.6) 式の積分は,

− 2

Darctanh

[ (ωa − ω0) tan(ϕ/2)− ωae

D

]= t+ t0 (3.10)

となる.ここに,t0 は積分定数,D は,

D =√a2 − b2 =

√[ω0 − (1− e)ωa][(1 + e)ωa − ω0] (3.11)

と定義する.以下,ωa = ω0 として,これから ϕ を求めると,

ϕ = 2arctan[ωae−D tanh

(D(t+ t0)/2

)ωa − ω0

](3.12)

となり,最終的な解は,(3.4) 式を用いて θ に戻すと,

θ = ω0t+ 2arctan[ωae−D tanh

(D(t+ t0)/2

)ωa − ω0

](3.13)

と得られる.この右辺の 2項目,すなわち,ϕ は,t → ∞ のとき,

ϕt→∞−−−→ 2 arctan

(ωae−D

ωa − ω0

)≡ c (3.14)

となるが,これを cと定義すると,tan(c/2) = (ωae−D)/(ωa−ω0)となり,これから sin(c) = 2 tan(c/2)/(1+

tan2(c/2))を求めると,(3.2) 式とまったく同じものになる.つまり,(3.1) 式の解は t0 が十分に大きいとき

の特解だったことがわかる.ここまでは,遅かれ,早かれ,地球の自転についていき同調現象が起きる場合で

ある.

つぎに,a2 < b2 の場合の解を求めてみよう.この場合は,特定の個人にとって,地球の自転が早すぎるか,

遅すぎるかで,もはや地球の自転についていけなくなった場合である.このとき (3.6) 式の積分は,

2

Earctan

[ (ωa − ω0) tan(ϕ/2)− ωae

E

]= t+ t0 (3.15)

3「数学公式 1」(岩波全書) p.188 の一番下の式.この公式集にある変数 c をここでは b とした.

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となる.ここに,

E =√

b2 − a2 =√[(1− e)ωa − ω0][(1 + e)ωa − ω0] (3.16)

と定義する.これから,ϕ を求めると,

ϕ = 2arctan[ωae+ E tan

(E(t+ t0)/2

)ωa − ω0

](3.17)

となり,さらに,(3.4) 式を用いて θ に戻すと,解

θ = ω0t+ 2arctan[ωae+ E tan

(E(t+ t0)/2

)ωa − ω0

](3.18)

を得る.しかし,この式を見ても,どのように地球の自転についていけなくなるのか簡単にはイメージがわい

てこない.次節では,ここでの結果をグラフ化して示すことにする.

積分公式 (3.7) 式で,a = ±b の場合が,まだ,残っている.このときは,積分公式∫1

sinx± 1dx = ± tan

(x2∓ π

4

)(3.19)

を用いてなされる.このときの積分 (3.6) 式は,−ωae = ±(ωa − ω0) に対応して,それぞれ,

∓ 1

ωaetan

(ϕ2∓ π

4

)= t+ t0 (3.20)

となり,これから ϕ を求めると,

ϕ = ±π

2∓ 2 arctan

(ωae(t+ t0)

)(3.21)

となる.ここで,t → ∞ とすると,

ϕt→∞−−−→ ∓π

2(3.22)

となる.これは同調は起こるが,角度にして 90度,時間にして 1/4 日,前後に《ずれ》た生活を送ることに

なる.これは地球の自転に同調した生活を送るための最大の《ずれ》であり,これ以上《ずれ》ると最早通常

の生活を送ることは不可能になる.また,この場合は,不等式 (3.3) で,等号が成立する場合に相当し,個人

の適応力 e が小さい人は,適応範囲が狭いので,この状態になりやすいということである.

4 数値計算によるグラフ表示

ここでは,これまでに求めた解 (3.13) および (3.18) 式について,数値計算によるグラフ化を試みる.ただ

し,このままグラフ化してしまうと,角度 θ の値は,時間 t の増加とともに,ほぼリニア-に増加し,グラフ

として 1日の区切りが分かり難くなる.それを避けるため,ここでは,1回転する毎に,角度 θ をゼロに戻す

ことにする.すなわち,2π を法とした角度に変換して描くことにする.この方法は,n を整数として,arctan

に含まれる不定性 nπ,したがって,(3.13) (3.18) 式の θ に含まれる不定性 2nπ を同時に取り除くことでも

ある.

数値計算をするにあたって,もう 1つ断わっておくことがある.それはこれらの式に含まれる積分定数とし

ての t0 であるが,通常ならば,これは初期条件で決めるべき量である.例えば,t = 0 のとき θ = 0 という条

件を付けて t0 を決める.ところが,(3.13) 式でそれをしようとすると,

tanh(D2t0

)=

ωae

D, D =

√(ωae)2 − (ωa − ω0)2 (4.1)

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となり,左辺は 1 以下なのに,右辺は 1 より大となって,t0 を求めることは不可能になる.このことに関し

ては,「付録:初期条件について」のところでも述べることにするが,ここでは,初期条件に合わせることはあ

きらめて,以下,すべての場合で t0 = 0 とおくことにする.残るパラメータは個人が持つ e と ωa であるが,

ここでは,すべてのグラフについて,e = 1/2 に固定し,固有角速度 ωa の値だけを変化させることにする.

初めに,(3.13) 式による同調現象が起こる場合のグラフを,図 2,図 3に示す.ここで,横軸 t の単位は day

である.このうち,図 2は ωa = 3π/day と,地球の自転より早すぎる人,また,図 3は ωa = 1.4π/day と遅

すぎる人の場合である.以下の図では,各個人の日周運動と地球の自転を比較できるように,地球の自転によ

る角度 ω0t, (ω0 = 2π/day) を点線で描くことにした.見てわかるとおり,図 2では,地球の自転より早めに

回転し,図 3では遅めに回転していくのがわかる.

図 2  ωa = 3π/day

図 3  ωa = 1.4π/day

つぎの図 4,図 5は (3.18) 式に基づくもので,ωa が大きすぎるか,あるいは,小さすぎるかで,もはや,

地球の自転に付いて行けなくなった場合である.このうち,図 4は,ωa = 4.5π/day と回転が早すぎて,1週

間 7日のうち,11回も寝ることになる.昼寝の回数も含めるとちょうどよいのかもしれない.また,図 5は,

ωa = 1π/day と超遅い場合で,これは,1週間に4回しか寝ないことになる.

図 4  ωa = 4.5π/day

図 5  ωa = 1π/day

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5 おわりに

今回取り上げた生活リズムと地球の自転に関する同調現象は,まったくの思いつきでやったもので,実際は

こんな単純なものではないのだろう.しかし,日常生活のちょっとしたことでも,すぐに数式にしたがる私と

しては,今回のものは,ある程度本質を衝いたものになっていると思われる.

ここで述べたことを,自分のことに当てはめてみる.「はじめに」のところで,『1日の長さが,30時間くら

いあったら』というのは,かなり誇張で,実際は,26時間くらいがちょうどよいと思っている.これは,今

もそうだが,子供のころからそうであった.その証拠に,休みの日は,いつも昼まで寝ていた.しかし,子供

のときは適応力があったので,小学校から大学まで普通に通うことができた.したがって,私の固有角速度は

ωa = 2π × (24/26)/day ということになる.隠居の身となったいまは,適応力がなくなったせいもあるが,時

間に縛られないことをよいことにして,普通の人より,1/4 日ほど遅れた生活をしている.これはほとんど限

界値に近く,ωa ≈ ω0/(1 + e) で,これから適応力 e を求めると,e ≈ 1/12 となる.なんと情けなや.

6 付録: 初期条件について

(4.1) 式のところで,初期条件に合わせることができない一般解が存在することは不思議であり,かつ驚きで

もあった.これは元の解くべき方程式が非線形なので,このようなおかしなことが起こるのかもしれない.し

かし,方程式 (2.1) を,数値的に初期条件付きで解くことは可能なので,解析的にも初期条件に合わせた解は

必ず存在するはずである.(3.7) 式で挙げた公式は「数学公式 1」(岩波全書) p.188 の一番下に書いてある公式

で,この公式のうち,a2 > b2 の場合は,同じページの一番上にある公式から,対数の中の絶対値が付く部分

の中身を負として導出することができる.もしこれを正として導出すると,arctanh の部分が arccoth に替わ

る.それにしたがって,(4.1) 式の左辺の tanh が coth に替わり,t0 を求めることが可能になる.初め,この

ことに気付かずに,かなり悩んでしまったが,これで謎は解けた.やはり別解があったのだ.これは,公式集

に,何の断わりもなく,2通りあるうちの片方だけを載せておくのが悪いのではと思ったが 4,公式集を鵜呑み

にする方も悪いのかもしれない.この 2つの解が存在することは,公式,

d arctanh(x)

dx=

d arccoth(x)

dx=

1

1− x2

に起因する.ここで,これを 1本の式として書いてしまったが,また1つ疑問が湧いてくる.arctanhと arccoth

では定義域がまったく異なる.arctanh の定義域は,−1 より大きく,1 より小さい領域,arccoth のそれは,

1 より大きいか,または,−1 より小さい領域である.これまで定義域のことは気にかけずにきたが,これで

正しかったのかが疑問である.しかし,この定義域が問題になるのは,途中の (3.10) 式のところで,結果の

(3.12) 式になるとまったく問題はなくなる.そこで,(3.12) 式で得た解 ϕ を,元の方程式 (3.5) に代入してみ

るとこれは確かに満たされる.また,(3.12) 式で tanh を coth に替えたものも同じく方程式 (3.5) を満たす

ことが確かめられる.したがって,2つの解が存在することは間違いないことであるが,ここでは,ともかく,

初期条件に合わせることはあきらめて,(3.7) の積分公式の方を採用したということである.変数の時間 t が

十分に大きいときは,tanh も coth も,同じ値 1 に収束するので,もし別解の方を使ったとしても,t の値が

小さいときを除いて,結果は同じものになるはずである.

4別の積分公式であるが,同じ公式集の p.82 に 1/(ax2 + bx+ c) の積分として,arctanh と arccoth の両方の場合が載っている.ここで扱った (3.7) 式の場合もこれら両方の場合を載せておくべきである.

20

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なお,(3.17) 式の解 ϕ も方程式 (3.5) を満たすことはもちろんであるが,この式で tan を − cot に置き換

えたものも方程式 (3.5) を満たすことが確かめられる.しかし,これは,公式 tan(x − π2 ) = − cot(x) による

もので,新しい独立解となるものではない.

[ 謝辞 ]

今回もこの原稿を書くにあたって,京都大学名誉教授の中西襄先生にご精読いただきました.初めの原稿段

階では,方程式 (2.1) について,ほとんど説明なしに唐突にこの式を導入した書き方になっていたので,『なぜ

この式になるのかを,より丁寧に説明すべき』というご指摘をいただきました.確かに,自分では分かってい

るつもりでも,他人から見ると分かり難くい書き方になっていました.そこで,「はじめに」のところで書いた

箇条書き部分 (1) (2) (3) と「方程式の導入」のところの箇条書き部分 (A) (B) (C) を追加することにしまし

た.これで,かなり分かり易いものになったと思います.ここに,謹んで感謝いたします.

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分数冪微分に関係した積分変換とその応用

浅田明 1

Integral Transform Related with Fractional Calculus and Its Applications

Akira Asada2

はじめに

分数冪微分da

dxa= (

d

dx)a (cf.[6])は破断現象の数理モデルなどで工学に、記憶のある事象の数理モデルとして

金融工学などで使われ 最近では「宇宙の3K背景放射を記述するプランク分布からのごく僅かなずれ」を説

明するのに使おうという試みもある。しかし日本語の数学の本ではあまりとりあげれていないようである。

筆者は「数理の玉手箱:藤井一幸編、遊星社 2010 に寄稿した「関数を1

2回微分する」([2])で分数冪

微分の入門的解説を試みライプニッツの公式などを説明したあと 最後に積分変換R;

R[f(s)](x) =

∫ ∞

−∞

xs

Γ(1 + s)f(s)ds

を導入しda

dxaR[f(s)](x) = R[τaf(s)](x); τaf(s) = f(s+ a)を証明した。

Rは豊富な性質を持っていて分数冪微分方程式 (cf.[7])への応用もある。 中西先生傘寿記念研究会ではそ

れについて報告した。その時の講演原稿に少し手を入れたのが本稿である。まとめる機会を与えて頂いた中西

先生と研究会関係者に感謝します。

目次

1. 分数冪微分

2. 積分変換R3. Rと拡張されたボレル変換4. 定数係数分数冪微分方程式

5. R[δ(n)c ]の計算

6. 離散な台をもつ超関数と分数冪オイラー型方程式

7. x = 0に確定特異点をもつ分数冪微分方程式

8. δc のテーラー展開と整関数の空間

1 分数冪微分

f(x)の n階の不定積分は 1(n−1)!

∫ x

0(x− t)n−1f(t)dtだから

Iaf(x) =1

Γ(a)

∫ x

0

(x− t)a−1f(t)dt

で a階の不定積分を定義する (ℜa > 0)。微分は

da

dxaf =

dn

dxnIn−af,

da

dxaf = In−a(f (n))

1元信州大学[email protected]

22

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などで定義する(前のほうはリーマン-リュウビル、後のほうはカプトの分数冪微分と言い必ずしも一致しない)。

Iaxc =Γ(1 + c)

Γ(1 + c+ a)xc+a だから  (x, c, aについて解析接続して)

da

dxaxc =

Γ(1 + c)

Γ(1 + c− a)xc−a (1)

としこれを線形に拡張しても f(x) =∑

n bnxcn の分数冪微分が定義される。xの範囲は正の実数とするか

xa = |x|aeiaπ, x < 0

(または |x|ae−iaπ).とする。また x ∈ Cとするときの範囲は  C \R−; R− = {x ∈ R|x ≤ 0}、あるいは多価を許して C× = C \ {0} などとする。

適当な定義域では { da

dxa|a ∈ R}は1経数群になりその生成作用素は

limh→0

dh

dxh − I

h= log(

d

dx)

である ([1],[9])。具体的には

log(d

dx)f(x) = −(γf(x) +

∫ x

0

log(x− t)df+(t)

dtdt) (2)

となる。ただし f+(x) =

f(x), x ≥ 0,

0, x < 0,であり

微分は超関数の意味とする。

また τhf(x) = f(x+ h) として

da

dxaf(x) = lim

h→+0

(τh − I)a

haf(x),

(τh − I)a = τh(∞∑

n=0

(−1)na · · · (a− n+ 1)

n!τ−nh),

でも定義できる (Grunwald-Letkoniv)。この定義から分数冪微分は a が自然数でなければ非局所的なことが

解る。

2 積分変換R積分変換Rを

R[f(s)](x) =

∫ ∞

−∞

xs

Γ(1 + s)f(s)ds (3)

で定義する。x > 0とすれば 両側ラプラース変換 L[f(s)](y) =∫∞−∞ e−ysf(s)dsを使って

R[f(s)](x) = L[ f(s)

Γ(1 + s)](− log x)

と書ける。積分変換N をN [f(s)](x) =

∫ ∞

−∞xsf(s)ds = L[f(s)](− log x)

で定義すれば R[f(s)](x) = N [f(s)

Γ(1 + s)](x)である。

23

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定理。f(s)

Γ(1 + s)が急減少なら

da

dxaR[f(s)](x) = R[τaf(s)](x)(= R[f(s+ a)](x)) (4)

が成立する。

証明。仮定と (1)から

da

dxa

∫ ∞

−∞

xs

Γ(1 + s)f(s)ds

=

∫ ∞

−∞

Γ(1 + s)

Γ(1 + s− a)

xs−a

Γ(1 + s)f(s)ds

=

∫ ∞

−∞

xt

Γ(1 + t)f(t+ a)dt, t = s− a

だから (4)が成立する。

この証明では aは実数としている。複素数 u+ ivのときは

da

dxaR[f ] =

∫ ∞−iv

−∞−iv

xs

Γ(1 + s)f(s+ a)ds

となるが  |f(x)| ≤ Ae−B|x|2 , |ℑx| ≤ |v| であれば (4)は成立する。

また (4)から

log(d

dx)R[f(s)](x) = R[

df(s)

ds](x)

も成立する。

(4)が成り立つには定理の仮定は必要ではない。しかし関数の範囲でのRの適当な定義域は解っていない。

f が関数でなくてもRが定義され  (4)が成り立つ場合がある。δc = δ(s− c)とすれば

R[δc] =xc

Γ(1 + c)(5)

だから cが負の整数でなければ

da

dxaR[δc] =

1

Γ(1 + c)

Γ(1 + c)

Γ(1 + c− a)xc−a

= R[δc−a] = R[τaδc]

となって (4)が成立する。cが負の整数のときはR[δ−n] = 0なので (4)は成立しない。

なお物理の人には迂遠かもしれないが(5)は次のように計算ができる。超関数の意味で limt→∞1√πt

e−t(s−a)2 =

δa となる。また xs = es log x から

xse−t(s−a)2 = e−t(s−a− log x2t )2(a log x− (log x)2

4t ),

である。よってN [e−(t−a)2

√πt

] = xa− log x4t である。これと

limt→∞

∫ ∞

−∞

xs

Γ(1 + s)

e−t(s−a)2

√πt

ds = limt→∞

∫ a+ϵ

a=ϵ

xs

Γ(1 + s)

e−t(s−a)2

√πt

ds

から (5)が従う ([4])。

24

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R[δ−n] = 0 だがR+[f ](x) =∫∞−∞

xs+

Γ(1 + s)f(s)dsとすれば

R+[δ−n] = δ(n−1)(=dn−1

dxn−1δ)

である。da

dxa(db

dxbR[δc]) =

da+b

dxa+bR[δc]は必ずしも成立しないが

da

dxa(db

dxbR+[δc]) =

da+b

dxa+bR+[δc]は常に成立

する。

R+ を正の実軸上の二乗可積分関数のヒルベルト空間での線形作用素と見たときは

R†+[g(x)](s) =

1

Γ(1 + s)M[xg(x)](s),

M[h(x)](s) =

∫ ∞

0

xs−1h(x)dx

となる。また逆は

R−1+ [g(x)](s) =

Γ(1 + s)

∫ ∞

−∞e−itsg(eit)dt

で与えられるが この場合 g(eit)は多価関数と見る必要がある。

3 Rと拡張されたボレル変換f(z) =

∑n cnz

n のとき そのボレル変換 B[f ]は

B[f ] =∑n

cnn!

zn =1

2πi

∮e

zζf(ζ)

ζdζ

で定義されd

dzB[f ] = B[ζ−1f ], B[fg] = B[f ]♯B[g],

u♯v = ddx

∫ x

0u(x− t)v(t)dt となる ([1],[8])。

代数的には B は 正則関数の芽の環 Oから有限指数型 (|f(z)| ≤ MeC|z| となる A > 0, B > 0がある整関

数)の空間に ♯-積をいれた環 Fexp への環同型である。

Bの逆 B−1 は

B−1[f(t)](x) =

∫ ∞

0

e−tf(xt)dt

で与えられるが  f /∈ Fexp でも B−1[f ]が定義できることがある。たとえば

B−1[xc] = Γ(1 + c)xc, B−1[log x] = log x− γ

である。これから

B[xc] =xc

Γ(1 + c), B[log x] = log x+ γ (6)

と定義してボレル変換を拡張する ([1])。公式

∞∑n=0

tn

n!

n︷ ︸︸ ︷log x♯ · · · ♯ log x =

e−γt

Γ(1 + t)xt

が成り立つので f ∈ Fexp のとき f(log x)となる関数に対してはボレル変換が拡張でき

da

dxaB[F ] = B[x−af ], log(

d

dx)B[f ] = −B[log xf ] (7)

25

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が成り立つ。(5), (6)からR[δc] = B[xc]となるがさらに

命題 ([4])。分解R = B ◦ N が成り立つ。

この命題から 拡張されたボレル変換では B[x−n] = 0である。このことは定数係数微分方程式の解の構成

に使えるが 上の分解を使って変換

B+ = R+ ◦ N−1

を導入すれば B+[xc] = R+[δc]となり B+[x

−n] = δ(n−1) である。

多変数の場合 原点の近傍でのピゾー型展開がかならずしも一意でないという問題がある。たとえば

1

xa − ya=

∑∞

n=0 x−(n+1)ayna, |x| > |y|,

−∑∞

n=1 xnay−(n+1)a, |x| < |y|.

だから形式的には

B[ 1

xa − ya]

=

∑∞

n=0

x−(n+1)ayna

Γ(1− (n+ 1)a)Γ(1 + na), |x| > |y|,

−∑∞

n=0

xnay−(n+1)a

Γ(1 + na)Γ(1− (n+ 1)a), |x| < |y|.

である。

1

Γ(1 + na)Γ(1− (n+ 1)a)

=Γ(1 + (n+ 1)a)

Γ(1 + na)

sin((n+ 1)aπ)

π

だから この形式的展開は領域

D+ = {(x, y)||x| < |y|}, D− = {(x, y)||x| > |y|} の原点の近傍で意味がある。z = (x, eiθx)では zn が D± の

中から zに近づくときそれぞれ

limN→∞

1

xa

( N∑n=0

Γ(1 + (n+ 1)a)enaθ

Γ(1 + na)

sin((n+ 1)aπ)

π

),

limN→∞

e−aθ

xa

( N∑n=0

Γ(1 + (n+ 1)a)e−naθ

Γ(1 + na)

sin((n+ 1)aπ)

π

)となるから接続の問題はこれらの極限の問題に帰着される。

4 定数係数分数冪微分方程式

Ia は ボルテラ型積分作用素だから ℜa1 > 0, ℜa1 > ℜa2 ≥, , ,≥ ℜan であれば( da1

dxa1+ c2

da2

dxa2+ · · ·+ cn

dxan

dxan

)y = g(x)

は ボルテラ型積分方程式 y + V y = G,da1

dxa1G = g;

V y =

∫ x

0

( n∑k=2

ckΓ(a1 − ak)

(x− t)a1−ak)y(t)dt

26

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に帰着されるので Gが

xa1−a2G(x) = O(xα), α > −1

であれば解ける。g(x) = 0であれば

G(x) = xa1−m, ℜ(2a1 − a2)−m > −1

ととれる。しかしこの計算はda

dxa(db

dxbf(x)) =

da+b

dxa+bf(x)

を使っているので解は正の実軸上でしか定義されない。以下では C \ R− での解を考える。

L =∑

n cndan

dxan, y = R[u]であれば方程式

Ly = R[∑n

cnu(s+ an)]

だから Ly = R[v] は∑

n cnu(s + an) = v に帰着されるが指数関数や周期関数に対しては(シュワルツ超関

数の範囲では)Rが定義できないのでこの変形は使いにくい。しかし yを離散デルタポテンシャル∑

n bnδan ,

{an}は離散集合, とすればRを定数係数分数冪微分方程式を解くのに利用できる。

以下では ℜa > 0 とする。

y = R[∑

n bnδan ]であればda

dxaR[

∑n

bnδan ] = R[∑n

bnδan−a]

だから Ea,n,λ =∑∞

m=1 λmδam−n とすれば R[δ−n] = 0によって

da

dxaR[Ea,n,λ] = λR[Ea,n,λ]

である。nは aが無理数なら任意の自然数, a =q

p, (p, q) = 1 であれば 1 ≤ n ≤ q, とすればこれらの方程式

da

dxay = λy (8)

の解は独立である。

拡張されたボレル変換を使えば

R[Ea,n,λ] = B[∑m

λmxam−n] = B[ 1

xn(1− λxa)]

となる。また拡張されたミッターハ・レフラー関数 Ea,b(x) =∑∞

m=0

xm

Γ(ma+ b)([5]) を使えば

R[Ea,n,λ] = xa−nEa,1+a−n(λxa)

と書ける。

これから (8)に対する適切な境界条件としては

y(e−πi/a) = y(eπi/a) (y(1) = y(e2πi/a))

が考えられる。また a が正の実数のときda

dxaを扱うヒルベルト空間としては

Ha,n ={∑m≥1

cmzam−n|∑m

|cm|2 < ∞}

(zap−n, zaq−n) =1

2aπ

∫ π/a

−π/a

zap−n ¯zaq−ndθ, z = eiθ

27

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が適切である。この場合da

dxaと掛け算作用素 xa を変形消滅生成作用素として考えることも出来る (cf.[10])。

なお分数冪発展方程式∂a

∂tau(t, x) +Dxu(t, x) = 0

をフーリエの方法で解く場合には Ea,n,λ で nをそろえなければいけないので n = 1と取ることになる。

この結果は

P (da

dxa) =

∑n

cn(da

dxa)n, P (X) =

∑n

cnXn

の形の方程式に

P (da

dxa) =

∏k

(da

dxa− λk)

mk , P (X) =∏k

(X − λk)mk

と「因数分解」して使える。B[x−n] = 0を利用すれば解としては ミッターハ・レフラー関数以外に

B[ 1

xn(1− λxa)k], k > 1

の形の関数も出てくる。

なおこの場合 (da

dxa)n は

dna

dxnaには置き換えられない。例えば

(d1/2

dx1/2)2 − 1 = (

d1/2

dx1/2− 1)(

d1/2

dx1/2+ 1)

であり d1/2

dx1/2x−1/2 = 0 だから

d1/2

dx1/2e1/2(x) = e1/2(x), e1/2(x) =

∞∑n=1

xn/2−1

Γ(n2 )

である。よって (d1/2

dx1/2)2e1/2(x) = e1/2(x) である。しかし

d

dxe1/2(x) = e1/2(x)である。

5 R[δ(n)c ]の計算

積分変換Rは関数を定義域にすると制限が強いうえにR[f ]の計算も難しいし像に有用な関数が現れない。

それに対し定義域を離散な台を持つ超関数や一般化関数にとれば像としては有用な関数があらわれる ([3])。

例えば

R[

∞∑n=0

δn] = ex

など。ただし離散デルタポテンシャル T に対し形式的にR[T ]を計算すればいたるところ発散する級数が現れ

ることもある。

次にR[δ(n)c ]を計算する。

R[δc] =xc

Γ(1 + c),

だから∂n

∂cnR[δc] = R[

∂n

∂cnδc] =

∂n

∂cn(

xc

Γ(1 + c))

28

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である。∂

∂cδc = − ∂

∂sδc だから

R[δ(n)c ]

=(−1)n(

n∑k=0

n!

k!(n− k)!

dk

dsk1

Γ(1 + s)|s=cx

c(log x)n−k) (9)

である。特に

R[δ(n)] = (−1)n(n∑

k=0

n!

k!αn−k(log x)

k) (10)

となる。ただし

1

Γ(1 + s)=

∞∑n=0

αnsn, α0 = 1, α1 = γ, . . . ,

とする (kαk = γαk−1 − ζ(2)αk−2 + · · · である)。また

R[δ(k)−n] = 0 (11)

である。

ボレル変換 Bとの間にはR[δc] = B[xc]

の関係があったが さらに

R[δ(n)c ] = (−1)nB[xc(log x)n] (12)

である。これは

(−1)n(log(d

dx)nR[δc] = R[

∂n

∂cnδc],

と log(d

dx)B[f(s)] = −B[log sf(s)] からも解る。

6 離散な台をもつ超関数と分数冪オイラー型方程式

T が離散な台を持つ超関数なら

T =n∑

k=0

∑m

am,kδcm

と書ける。離散な台を持つ超関数全体の空間をDR(またはDC)とすれば R(DR)は {xc|c ∈ R}と (log x)n, n =

1, 2, . . . , }で生成される空間である。DR の位相は DR から誘導されたものとする。DR 等には平行移動作用素

τa, 微分d

dxが働く。

(9)から形式的に

R[T ] =n∑

k=0

∑m

bm.kxcm(log x)k (13)

である。この形式和に一般化関数としての意味を与えるにはたとえば xc(log x)k, c ∈ C, k = 0, 1, 2, . . .から生

成される C 上のベクトル空間の双対空間の元とみれば良い。なお (11)から (13)の右辺には x−nを含む項は現

れない。

分数冪オイラー型微分方程作用素

Ly =∑n

cnxan

dan

dxany

29

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は  Lxq = χL(q)xq;

χL(q) =∑n

Γ(1 + q)

Γ(1 + q − an)

となるから

L(xq(log x)k)

=k∑

j=0

k!

j!(k − j)!(dj

dxjχL(x))|x=qx

q(log x)k−j

である。よって qが χL の p-重根:

χL(q) = χ′L(q) = · · · = χ

(p−1)L (q) = 0

であれば L(xq(log x)p) = 0となる。この解はR(DC)に含まれるので分数冪オイラー微分を扱うには DCがRの定義域として適切である。

似た形だが

Lry =∑n

cn(dan

dxnaxan)y

は全く違う方程式である。しかし解は

χrL(q) =

∑n

Γ(1 + q + an)

Γ(1 + q)

を用いて同様に求められる。

提案。Rの定義域として DC または DR が適切である。

DCは離散な世界でそこに Cが平行移動として働く。Rはこれを連続(解析的)な世界に移し そこでは平行移動が分数冪微分に変わる。これをどう解釈するかは問題だろう。

χL は有理関数でなければ(an に整数でない物があれば)無限遠点に真性特異点をもつ有理型関数である。

この場合ピカールの大定理から 方程式 χL(q) = λは高々2個の λを除いて独立な無限個の解をもつ。従って

整数階の時と違って、分数冪定数係数微分方程式と分数冪オイラー型微分方程式はかなり様子がちがうようで

ある。

例と注意。これらの無限個の独立な解は 例えば

xa da

dxau = λu

では a = 1− ϵ として解 xq はΓ(1 + q)

Γ(q + ϵ)= λ (14)

となる qであたえられる。以下 λは実数とし (14)の実根だけを考える。qが負の整数で無ければ

limϵ→0

Γ(1 + q)

Γ(q + ϵ)= q

であり ϵ > 0としたとき limq→−n±0Γ(1+q)Γ(q+ϵ) = ∓∞

(limq→−n+0 は qが −nより大きい方から −nに近づくという意味)だから (14) の解を q(ϵ)1 > q(ϵ)2 > · · · とすれば ϵが十分小さければ q(ϵ)2 < 0,

q(ϵ)1 > 0, λ > 0, q(ϵ)1 = −ϵ, λ = 0, q(ϵ)1 < 0, λ < 0

30

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である。よってある k があって limϵ→0 q(ϵ)k = λ、それ以外の i では limϵ→0 q(ϵ)i = −n である。この時

xq(ϵ)i → x−n だがこれはR(DC)にはふくまれない。

ラプラシアンの極座標表示での動径部分やブラック・ショールス方程式:

∂C

∂t− rC +

1

2

(σ2p2

∂2C

∂p2+ rp

∂C

∂p

)の価格部門はオイラー型だからこれらを分数冪化すれば分数冪オイラー型方程式になる。

7 x = 0に確定特異点を持つ分数冪微分方程式

ℜa > 0とする。

L =xnag0(x)(da

dxa)n + x(n−1)ag1(x)(

da

dxa)(n−1) + · · ·+ gn(x), (15)

gk(x) = fk(xa), 0 ≤ k ≤ n,

fk(x) is holomorophic at x = 0.

を x = 0に確定特異点を持つ分数冪微分方程式とよぶことにする。

定義。Lの特性関数 χL = χL(q)を

χL(q) =n∑

k=0

fk(0)Γ(1 + q)

Γ(1 + q − ka)(16)

で定義する。

(15)から Lが通常の確定特異点型を x = 0にもつ常微分方程式なら特性関数は多項式である。

定理。χL(q) = 0, χL(q + na) = 0, n ≥ 1 であれば Ly = 0, y = xqf(xa), f は原点の近傍で正則となる解 y

が存在する。

qが χL(q) = 0の位数mの重根で χ(k)L (q + an) = 0, n ≥ 1, 1 ≤ k ≤ mであれば

y =

m−1∑k=0

xq(log x)kfk(xa),

fk(x)は原点で正則 と言う形の Ly = 0の解も存在する。

χL+C(q) = χL(q) + C だから Ly = λyとなる y については条件は χL(q) = λ, χL(q + na) = λ, n ≥ 1等と

なる。

なおこれらの解は

xnag0(x)dnay

dxna+ x(n−1)ag1(x)

d(n−1)ay

dx(n−1)a+ · · ·+ gn(x)y = 0

をみたす。

方程式

(dna

dxnaxnag0(x))y + · · ·+ gn(x)y = 0

も同様に扱えるがda

dxa(g(x)f(x)) = g(x)

daf(x)

dxa+ a

dg(x)

dx

da−1f(x)

dxa−1+ · · ·

と aが整数でなければ無限和になるので方程式としては Lと Lr は全く違う。

31

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例。分数冪べッセル微分方程式

.ベッセル微分方程式 x2 d2y

dx2+ x

dy

dx+ (x2 − ν2)yの分数冪化として

x2a(da

dxa)2 + xa da

dxa+ (x2a − ν2a)

を考える。この場合

χL(q) =Γ(1 + q)

Γ(1 + q − 2a)+

Γ(1 + q)

Γ(1 + q − a)− ν2a

である。χL(q) = 0, χL(q + ka) = 0, k ≥ 1であれば

c2nχL(q + 2an) + cn−2 = 0, c0 = 1,

すなわち

c2n = c2n(a) = (−1)nn∏

k=1

1

χL(q + 2ka)

として y = ya,q = xq +∑∞

n=1 c2nx2na+q が Ly = 0の解となる。スターリングの公式から

|χL(q + 2ka)| = O(|2kℜa|2ℜa), k → ∞

だから∑

n c2nx2n は全平面で収束する。

a が1に近ければ lima→1 qa = ν となる qaが存在して lima→1 ya,qa = 2νJν(x)となるがそれ以外の解がどう

なるかは問題である。

8 δcのテーラー展開と整関数の空間

f(z)が整関数であれば∑

n

cn

n!f (n)(0) = f(c)だから∫ ∞

−∞(

∞∑n=0

cn

n!)δ(n)f(z)dz =

∫ ∞

−∞δcf(z)dz

とみられる  (∑∞

n=0

cn

n!δ(n) はシュワルツの意味では超関数でない)。

これを定式化するため Fexp, Fent を有限指数型と整関数の空間とする。

位相は Fentは全平面での広義一様収束、Fexpでは 関数列 {fn(z)}が すべてのnについて |fn(z)| ≤ MeR|z|

となるM > 0, R > 0が存在して 全平面で広義一様収束するとき収束と定義して入れる。こう定義すればこ

れらの空間は位相空間として完備になる。

集合としては Fexp は Fent の部分集合だが位相空間としては部分空間ではない。いずれの空間でも 部分集

合 {zn|n ∈ N}で張られる部分空間は稠密になる。

{zn|n ∈ N}が稠密だから T ∈ F†exp, または T ∈ F†

ent であれば T は T (zn), n ∈ Nで定まる。f(z) =

∑n bnz

n なら T [f(z)] =∑

n bnT (zn)だから

T ♮ =∑n

T (zn)

n!δ(n)

とおけば T ♮[f ] = T [f ]である。これから

Pexp = {∑n

cnδ(n)|

∑n

cnzn ∈ Exp(C)},

Pent = {∑n

cnδ(n)|

∑n

cnzn ∈ Ent(C)}

32

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とおけば T ∈ Pexp 等を Fent 等の上の一般化関数と解釈して

F†ent

∼= Pexp, F†exp

∼= Pent

である。Pexp では

d

dx(∑n

cnδ(n)) =

∑n

cnδ(n+1),

τa(∑n

cnδ(n)) = (

∑n

an

n!

dn

dxn)(∑n

cnδ(n))

で τa とd

dxが定義される。これから δc ∈ Pexp, c ∈ C だが DC ⊂ Pexp (DC ⊂ Pent)は言えない。

定理。T ∈ Pexp であればR[T ]は log xの有限指数型関数である。

証明。∑

n cnδ(n) ∈ Pexp  とすれば 形式的に

R[∑n

cnδ(n)] =

∑n

cn(n∑

k=0

(−1)nn!

(n− k)!αk(log x)

n−k)

=

∞∑k=0

1

k!(

∞∑n=k

(−1)nn!cnαn−k)(log x)k)

である。仮定から |cn| ≤MRn

n!となるM > 0, R > 0が存在する。よって

|∞∑

n=k

(−1)nn!cnαn−k| ≤ MRk∞∑

n=k

Rn−k|αn−k|

となる。ここで1

Γ(1 + s)は全平面で正則だから この右辺の和は存在する。よってR[

∑n cnδ

(n)] =∑

k bk(log x)k

とおけば |bk| ≤CRk

k!となって

R[T ] = f(log x), f(x) ∈ Fexp

である。

Flogexp = {f(log x)|f(x) ∈ Fexp}

とおけば R[Pexp] = B[Flogexp] だから

B[Flogexp] = Flog

exp

も導かれる。従って有限指数型関数 f(x)によって f(log x)と書ける関数に対しては拡張されたボレル変換は

関数になる。またda

dxaB[T ] = B[τaT ], T ∈ Pexp

も成立する。原点の近傍での正則関数は必ずしも Flogexpに含まれないので 拡張されたボレル変換の定義域とし

ては

Bext = O ×♯ Flogexp

が適切である。ただし A×♯ Bは A, B から ♯積で生成された代数を表す。またO ∩ Flogexp = {0}だからこれを

どう扱うかも問題になる。

この代数に適当な位相を入れて拡張されたボレル変換の定義域を拡張するのは今後の問題である。またこれ

に対応して Pexpと DC から生成されるベクトル空間 (この場合も Pexp ∩DC = {0})に適当な位相を入れて, そ

れをRの定義域とするのも今後の問題である。

33

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f(z) =∑∞

n=0 bnzn であれば T [f ] =

∑∞n=0 bnT (z

n) だから

T ♮ =

∞∑n=0

bnn!

δ(n)

とおけば T ♮[f ] = T [f ]である。

参考文献

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Transformation in non-analytic category, J.Fac.Sci. Shinsyu Univ. 12(1977), 1-36.

有利型関数のBorel 変換、森本光生編「フーリェ超関数と偏微分方程式」 数理研講究録459、122-138.

京大 数理解析研究所、1982.

[2] 浅田 明.:関数を1

2回微分する。藤井一幸編「数理の玉手箱」 90-131.遊星社. 2010.

[3] Asada,A.: Integral transform arose from fractional calculus and discrete delta potential, Contemporary

Topics in Mathematics and Statics with Applications, ed. Adhikari, M. R. Chapter 3. Kolkata, 2013.

[4] Asada,A.: Extended Borel transform and fractional calculus, in Fractional Calculus: History, Theory

and Applications, eds. Daou, R. Xavier,M. Nova Publishers, 2014.

[5] Erdeli, A. Magnus, W. Oberbettinger,F. Tricomi, F.G.: Higher Transcendental Functions, Chpa.18.

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[7] Kilbas, A.A. Srivastra,H.M. Trujillo,J.J.: Theory and Applications of Fractional Differential Equations,

Amsterdam, 2006.

[8] Martineau, A.: Sur les fonctionelles analytiques et la transformation de Fourier-Borel, J. Ann.

Math.11(1963), 1-164.

[9] Naknishi,N.: Logarithmic type functions of the differential operator, Yokohama J. Math. 55(2010),

149-163.

[10] Purishshay, M..S.: Deformed Heisenberg Algebras, Fractional Spin Fields and Supersymmetry without

Fermions, Ann. Phys. 245(1996), 339-360.

34

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編集後記

まだ寒いと思っていたら,花見の時期はすぐに過ぎて行きます.これは東北と北海道ではまだ実感で

きないかもしれませんが,松山などではそういうふうに感じられる今日このごろです.

5巻 3号を 3月中には出せませんでしたが,ちょっと気力が回復してきたので,5巻 3号を思いついて

発行することにしました.それで,今号の編集後記は新関さんが書く順番だったのですが,矢野が書き

ました.新関さん,すみません.急に思いついたことなのです.

今回から pdfのファイルを結合させるという方法で編集を行います.そのために各論文が独立性を保

つことができるようになりました.この方法を教えて下さった世戸さんに感謝します.それに伴って詳

細な目次のページがなくなりましたので,各論文にそれぞれ目次を入れました.これは浅田先生がされ

ていた方法に倣ったものです.

今回の編集方針の変更は各著者が自分の裁量でもって自由に論文が書けるようになるという点ではい

いのですが,統一性をそのために欠くという欠点もあります.また,全体の latexファイルをつくらな

いためにいろいろのミスをしばらく続けるだろうと思います.

各投稿者に前もって通信の発行前には原稿の確認をお願い致しますが,編集者も慣れないものですか

ら,思わぬポカをすることが起こるかもしれません.それで著者の方々としては編集者のポカにイライ

ラが募ることでしょうが,過渡期としてご辛抱をお願いします.一番のイライラを起こしているのは編

集者の私なのですから.

(矢野 忠)

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