ウイルス研究におけるバイオセーフティ指針...ウイルス 43 (2), 199-232, 1993...

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ウイルス 43 (2), 199-232, 1993 ウ イ ル ス 研 究 に お け るバ イ オ セ ー フ テ ィ指 針 日本ウイルス学会 1993年7月17日 まえが き 1.ウイルス研究 における安全評価の原則 2. ウ イル ス研究に伴う実験室感染の リスクとその予防 3. 安 全 取 り扱 い上 の要素 (1)ウ イル スの感 染 しやす さ と病 原性 (2)治 療法 ・予 防法 の利 用 (3)職 員の研修 と教育 (4)健 康管理 4. 安 全 管 理 体 系 (1)バ イ オ セ ー フ テ ィ レベ ル と封 じ込 め 施 設 (2)安 全管理システム (3)非 常時対策 (4)汚 染 除 去:滅 菌 と消 毒 5.物理的封 じ込めの方式 (1)各 封 じ込 め レベ ル での 日常運 営管 理 (2)安 全確 保 の た め の 設 備 ・器 具 (3)封 じ込 め 施 設 の 設 計 6. ウ イル ス材 料 の分 与 と輸 送 7.関連分野の問題 (1)動 物実験における問題 (2)ウ イル ス 学 領 域 に お け る組 換 えDNA実 (3)臨 床材料 (4)野 生動物関連分野の問題 まえがき ウ イ ル ス 研 究 は か つ て の病 原 微 生 物 学 の 領 域 を越 え て 生 命 科 学 研 究 の 中 心 の ひ とつ と して 幅 広 い 領 域 の 研 究 者 が参 加す るよ うにな って きて い る。 しか し,ウ イ ル ス 研 究 に お け るバ イ オ セ ー フ テ ィ に関 して は,各 研 究機 関が個別に対応 してい るのが現状である。この よ う な 背 景 か ら1989年,文 部 省科 学研 究 費 ・総 合研究(B) による「バ イオハザー ド対策-シ ス テ ム 化 に 関 す る研 究 班)(班 長 高 橋 理 明)が結 成 さ れ た 。 本 研 究 班 に よ る各 種 検 討 の 結 果,日 本 ウ イ ル ス 学 会 にバ イ オ セ ー フ テ ィ委 員 会 を設 置 して ウ イ ル ス 研 究 に お け るバ イ オ セ ー フ テ ィ対 策 を学 会 と して検 討 す る こ とが 要 請 さ れ た これ を受 けて1990年,日本 ウ イル ス学 会総 会 でバ イ オ セ ー フ テ ィ委 員 会 の 設 置 と ウ イ ル ス 研 究 に お け るバ イオセ ー フテ ィ指 針 の作成 が承 認 され た。 本指 針 の 目的 は ウイル ス研 究 にお け る安 全確 保 の た め,病 原 ウ イル ス を中心 と した動物 ウイル スの 取 り扱 い に関連 した安全操 作 と安 全設 備の 原則 を確 立 す る も ので あ る。 1.ウイル ス研 究 に おけ る安 全評 価 の原 則 ウイルスは一般 社会 で人および動物 と共存 してきた もので あ る。 ウイル ス感染 に対す る安 全対 策 の基 礎 は 100年 以上にわたる長い微生物学研究の歴史の中で実 際 の経験 に もとつ い て確立 され て きた。 さらに1970年 代 に総合 的 なバ イオハ ザ ー ド対 策 と しての 病原 体 の封 じ込 め 方式が米 国 を中心 と して検 討 され,1983年 には 世 界保 健機 関 で実験 室バ イオセ ー フ テ ィ指針 と して ま とめ られ た。 病原 体 の封 じ込 め は一 次隔 離 と二 次隔 離 の2者 に よ り行 うこ とにな ってい る。一 次 隔離 は実験 者 と病 原体 の 間 の 隔離 に よ り実 験 者 の感 染 を 防止 す る もの で あ る。二 次隔離 は実験 室 と外 界 の隔 離 で あ って,実 験室 か ら外 界へ の汚染 防止 を 目的 とす る もの で あ る。 Guidelines for biosafety in virus research The Society of Japanese Virologists Business Center for Academic Societies Japan 16-9, Honkomagome 5-chome, Bunkyo-ku, Tokyo 113 〒113東京都 文京 区本駒 込5-16-9

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Page 1: ウイルス研究におけるバイオセーフティ指針...ウイルス 43 (2), 199-232, 1993 ウイルス研究におけるバイオセーフティ指針 日本ウイルス学会

ウ イ ル ス 43 (2), 199-232, 1993

ウイルス研究 におけるバ イオセーフティ指針

日本 ウ イ ル ス 学 会

1993年7月17日

まえが き

1. ウ イル ス研究 におけ る安全 評価 の 原則

2. ウイル ス研究 に伴 う実験 室感染の リス クとその予防

3. 安全 取 り扱 い上 の要素

(1)ウイル スの感 染 しやす さ と病 原性

(2)治療法 ・予 防法 の利 用

(3)職員 の研修 と教 育

(4)健康管 理

4. 安 全管 理体 系

(1)バイ オセ ー フテ ィ レベル と封 じ込め施 設

(2)安全管 理 シス テム

(3)非常時対 策

(4)汚染除去:滅 菌 と消 毒

5. 物 理的封 じ込 めの方 式

(1)各封 じ込 め レベ ル での 日常運 営管 理

(2)安全確 保 の ため の設備 ・器具

(3)封じ込 め施設 の 設計

6. ウイル ス材 料 の分 与 と輸 送

7. 関連分 野 の問題

(1)動物実 験 にお け る問題

(2)ウイル ス学 領域 にお け る組 換 えDNA実 験

(3)臨床材 料

(4)野生動 物関連 分 野 の問題

文 献

まえが き

ウイル ス研 究 はかつ て の病 原 微生 物学 の領 域 を越 え

て生 命科 学研 究 の中心 の ひ とつ と して幅 広 い領域 の 研

究 者 が参 加す るよ うにな って きて い る。 しか し,ウ イ

ル ス研 究 に おけ るバ イオセ ー フテ ィに関 して は,各 研

究機 関が個 別 に対応 してい るの が現状 で あ る。 この よ

うな背 景 か ら1989年,文 部 省科 学研 究 費 ・総 合研究(B)

に よ る「バ イオ ハザ ー ド対 策-シ ス テ ム化 に関 す る研

究班)(班 長 高橋理 明)が 結 成 され た。本 研 究班 に よ

る各 種検 討 の結果,日 本 ウ イル ス学会 にバ イ オセ ー フ

テ ィ委 員会 を設 置 して ウイル ス研 究 にお け るバ イオセ

ー フテ ィ対策 を学会 と して検 討 す るこ とが要 請 された。

これ を受 けて1990年,日 本 ウ イル ス学 会総 会 でバ イ

オセ ー フテ ィ委員 会 の設置 とウイル ス研 究 にお け るバ

イオセーフティ指針の作成が承認された。

本指針の目的はウイルス研究における安全確保のた

め,病 原ウイルスを中心とした動物ウイルスの取り扱

いに関連した安全操作と安全設備の原則を確立するも

のである。

1. ウイルス研究における安全評価の原則

ウイルスは一般 社会で人および動物 と共存してきた

ものである。ウイルス感染に対する安全対策の基礎は

100年以上にわたる長い微生物学研究の歴史の中で実

際の経験 にもとついて確立されてきた。さらに1970年

代に総合的なバイオハザード対策としての病原体の封

じ込め方式が米国を中心として検討され,1983年 には

世界保健機関で実験室バイオセーフティ指針 としてま

とめられた。

病原体の封じ込めは一次隔離と二次隔離の2者 によ

り行うことになっている。一次隔離は実験者と病原体

の間の隔離により実験者の感染を防止するものであ

る。二次隔離は実験室と外界の隔離であって,実 験室

から外界への汚染防止を目的とするものである。

Guidelines for biosafety in virus researchThe Society of Japanese VirologistsBusiness Center for Academic Societies Japan

16-9, Honkomagome 5-chome, Bunkyo-ku,Tokyo 113〒113東 京都 文京 区本駒 込5-16-9

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以上 の観 点か らウイル ス研 究 にお ける安全評 価 に は

以 下の原 則 を考慮 す るこ とが 必要 で ある。

1) ウイル ス感 染 の成立 には一定 量以上 の ウ イル ス

が体 内 に侵 入す るこ とが 必要 であ る。感染 が成立 して か

ら発病 す る まで には早 くて2~3日,普 通1週 間程 度の

潜伏期 が あ る。この間,感 染 した人 は健康 者 と して 自由

に行 動 して お り,ほ か の人 に感染 を広 げるお それ が あ

る。

2) ウイル ス は動物 または生 きた細 胞 の 中で しか増

殖す るこ とはで きな い。動物 また は細 胞 の外 で はウ イ

ルス は種類 に よって時 間 の差 はあ るがすべ て不 活化 さ

れ る。 特 に太陽 光線 の も とで は急速 に不活 化 され る。

ウ ィル ス に よるバ イオハ ザ ー ドで は化 学災 害や 放射線

災 害 の 際 に 問題 に な る よ うな残 留 や 蓄積 は起 こ らな

い。2次 隔 離の 条件 を検 討す る際 にはウ イル ス の この

ような性 質 を考慮 す べ きで あ って,化 学災害 や放 射線

災 害で の原則 をその まま あて はめ るこ とは妥 当で はな

い。

3) 以上 の2点 か ら明 らか な ように実験者 の感 染 防

止 が安 全対策 の基 本 とな る。 これ が確 実 に行 わ れ るこ

とが環境 へ の ウイル スの 漏 出の 防止 につ なが る。 ウイ

ル スが 実験室 か ら物 理的 に漏 出 して外部 の人 へ の感 染

をひ きお こ した こ とはバ イオ ハザ ー ド対 策が確 立 され

る前 の時代 も含 めて,極 めて特 殊 なわ ずかの例 が あ る

に過 ぎない。バ イオハ ザ ー ド対 策 にお け る二 次隔離 方

式が確 立 され た現在,こ の よ うな漏 出 に よる感 染事 故

は完 全 に防 ぐこ とが で き る。

4) 実験 室 内で の感染 がバ イオハ ザー ドの 原因 と し

て もっ と も重 要 で あ る こ とは上 に述 べ た通 りで あ る

が,こ の 際,と くに配慮 を要 す るのは実験 者以 外 に同

じ建 物 で 働 く人 お よび訪 問 者 に対 す る安 全 対 策 で あ

る。 これ らの人 へ の感染 はその 人へ の健康 被害 だ けで

な く,外 部環 境 へ の ウィル ス漏 出 につな が る。

2. ウイルス研究 に伴 う実験室感染 の リス クとその予 防

病 原微 生物 の取 扱 い に伴 う実験 室 内感 染 を最 も広 汎

に解 析 したの はPike (1976)1)の 研究 で あ る。彼 は,1900

年 よ り,1976年 に至 る米 国 内の3,921例 の感染 例 を解析

し,原 因 とな った病 原体,取 扱 い中の操 作,原 因等 に

言及 してい るが,病 原体 と して,頻 度 の最 も高 いの は

ブル セ ラ,Q熱,ウ イル ス性肝 炎(全 型 別 を含 む),腸

チ フス,結 核 で あ る。 これ等 の感染症 は,時 と共 に,

一 般社 会 での 発生分 布 が変遷 し,そ れ を反映 して,実

験 的取 扱 いの頻 度 も変 るの で,リ ス クを想定 し予 防す

る には,研 究動 向 の変遷 もよ く把握 してお く必要 が あ

る。上 記 の上位5種 の 中で,ウ イル ス研 究室 で取 扱 わ

れ るの は,Q熱 とウ ィルス肝 炎 で あ るが,ウ イル ス肝

炎 は,最 近 の研 究 で,A,B,C,D,E型 に分 け ら

れ,そ れ ぞれ疫 学 的性質 も異 な るの で,そ れ ぞれ に対

応 した予 防上 の評価 が 必要 で ある。血 液 を介 して感 染

す るB型,C型 肝 炎 ウィル ス に対 して は,そ れぞ れの

ウ ィル ス を研 究試料 として取 扱 う場合 以外 に,研 究 材

料 として ヒ トの血液,血 清,臓 器 等 を取扱 う場 合 で も

感 染 が起 るの で,適 切 な評価 と対 応 が必要 とな る。B

型,C型 肝 炎 ウ イル ス は,針 刺 し事故 の他 に,体 表 の

傷 へ の感染 性体 液 の接触,口 腔,鼻 腔,結 膜 等 へ の感

染 性飛 沫 の付着,等 で も感 染 す るか ら,後 述 の ように,

ヒ トの血清 を取 扱 う研究 室で は,B型 肝 炎 ワ クチ ン を

定 期的 に接種 して,職 員 の安全 を図 るこ とが望 まれ る。

結核 は,細 菌性疾 患 で あ るが,米 国で は,ヒ ト免疫不

全 ウ ィル スの感染 の拡 散 に伴 い,日 和見 感染 と して の

結核 発 生が 増加 してい る こ とか ら,一 つの疫 学 的指標;

と して,結 核 の 可能性 を考 慮 して お くこ と も必要 で あ

る。

ク ロイ ツフ ェル ト・ヤ コブ病 病原 体,狂 犬 病 ウ イル

ス,ヒ ト免疫 不 全 ウィル ス等 の感染 は何 れ も,自 然感

染例 で も慢性 進行 性 で,結 果 は重大 で あ るが,ウ イル

ス感 染源 へ の曝露 が あ って も,感 染 の成 立の確 率 が低

い と考 え られて い る。

Pikeは その,広 汎な解析 の結論 と して,病 原体材 料

の誤 嚥,誤 注射,飛 沫 への曝 露等,事 故や 誤操 作 を原

因 とす る感 染 は,所 謂,標 準 的 な無 菌操 作法 の徹底 と,

事 故 を予 防す るた め の措 置 で 予 防 す る こ と は 出来 る

が,感 染性 エ ア ロゾル の吸 入 を原因 とす る と思 われ る

実験操 作 その もの を原 因 とす る約30%の 事 例 は,従 来

の実験 操作 で は防 げ ない として,感 染性 エア ロ ゾル の

封 じ込め を中心 とす るバ イオセ ー フテ ィの体系 の必 要

性 を指 摘 した。

これ に併 行 して,感 染性 エ ア ロ ゾル の性状 を解析 し

て,こ れ を効果 的 に封 じ込め て,感 染 を予 防す るバ リ

ヤ ー シ ステ ムが,米 国 のCDC,NIHで 独 立 して体 系

化 され,1984年,一 つ の指 針 に統 一 され た2)。WHOで

も、 これ と同 じ原則 に立 って,実 験 室バ イオ セー フテ

ィ指針3)を,1983年 に制定,公 布 して い る。

3. 安 全取 扱 い上の要 素

(1)ウイル スの感 染 しや す さ と病原性

既 に述 べ た よ うに,ウ イル ス に よる実 験室 感染 は,

創傷,誤 刺,誤 飲,粘 膜 曝 露,エ ア ロゾル 吸入 等 の様 々

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な経路 で起 るが,エ ア ロゾル吸 入 以外 の感 染 は,無 菌

操 作 と呼 ばれ る標準 的 実験操 作 の励 行 と,事 故 を防 ぐ

ような操作 方式 の導 入 で予 防す るこ とが可 能 で あ る。

従 って,バ イ オセ ー フテ ィの対 象 と して,配 慮 す るべ

き点 は,行 われ る実験 操 作 で,ど の程度 に感 染 性エ ア

ロゾル が発 生す るか,取 扱 われ る病 原体 を含 む感染 性

エ ア ロ ゾル の吸 入 に よって感 染 が起 りや す い か,感 染

が起 った結果,ど の ような疾 患 が起 り,ど の よ うな予

後 が推 定 され るか とい う こ とで あ る。

バ イオハザ ー ドの 原因 とな るエア ロゾル の発 生 は,

あ らゆ る実験操 作 に及 ぶ。 取 扱 うウイル ス液 の どれ位

の部 分 がエ ア ロゾル とな って 空気 中 に浮遊 して くるか

をエ ア ロ ゾル 比率(spray factor,SF)と いい,代 表

的 な実験操 作 に おけ るSFが 米 国で,1960年 代 に,モ

デル 実験 で求 め られ,標 準 的 資料 と して利 用 されて い

る。その 中か ら1010粒 子/mlの ウイル ス浮 遊 液 を取 扱

っ た場 合 に,エ ア ロゾル とな って 出 て くる粒 子数 を推

定 す る と,ピ ペ ッ トに よ る静 か な混和 で103個,密 閉蓋

のつ い たブ レ ンダーで の磨砕 で102個,滴 液 が こぼ れ て

付 着 して い るロー タ を用 い て遠 心 した場 合2×104個,

等 とな る。 そ の他,動 物 の尿 や 糞便 で汚 染 され た床 敷

か らは,大 量の エ ア ロゾル が発生 す るの で,排 泄物 中

に排 出 しや す いウ イル スの感 染 実験 を行 う場 合 は,一

般 の試験 管 内の ウ イル ス実験 以上 の封 じ込 めの程 度 が

必要 とな る。

気 道感 染 を起 しや す いウ イル スは,ミ ク ソ,パ ラ ミ

クソ,そ の他 の いわ ゆ る呼吸 器 ウイル ス に止 らず,水

痘,等 のウ イル ス も呼 吸器,粘 膜 を通 して侵 入 した あ

と,ウ イル ス血症 を介 して,最 終標 的 組織 に達 して発

症 す るの で,と くに注 意が 必要 で あ る。反 対 に,ヒ ト

免疫 不全 ウ イル スやB型 肝 炎 ウ イル ス は,創 傷 血 液

を介 して の感染 は起 りや す いが,エ ア ロ ゾル に よる感

染 は殆 ん ど起 らな いの で,封 じ込 め は接 触感 染 の 防止

を中心 と した もの とす る。

(2)治療 法,予 防法 の利用

ウ イル スは,一 般 に薬剤 に よる化学療 法 が 出来 な い。

例外 的 にA型 イ ンフル エ ンザ ウ イル ス に対 す るアマ ン

タ ジン,ヘ ル ペ ス ウイル ス に対す るア シク ロ ビル,ガ

ンシ クロ ビル,ヒ ト免疫 不 全 ウ イル ス に対 す るAZT,

ddI,ddC等 が 実 用化 され て い るが,ウ イル ス疾 患 の

予 防は,感 染性 エ ア ロゾルへ の 曝露 予 防が 第一 で あ り,

第二 に,効 果 的 なワ クチ ンの利 用 が可 能 な らば,安 全

性 は大 いに増 す。 これ と対 象的 に,ウ イル ス と大体 同

じ手法 で 実験 され る リケ ッチ ア,マ イ コプ ラ ズマ は,

本 質 的 に細 菌 で あ り,抗 生物 質 に よる効果 的 な化 学療

法 が可 能 で あるか ら,時 間的 に適切 な診 断の つ け られ

る体 制 と,化 学 療法 の準 備 が 出来 て いれ ば研 究者 の安

全確 保 は容 易 で あ る。

B型 肝 炎,ポ リオ,麻 疹,風 疹,ム ンプ ス,水 痘,

黄熱 等 の ワク チ ンは有効 で あ り,そ れ ぞれ の ウイル ス

を取 扱 う場合 には投 与 してお くこ とが望 ま しい。 と く

にB型 肝 炎 ワ クチ ンは,ヒ ト血清,体 液,臓 器 を取 扱

う研 究室 で は,予 防計 画 の 中 に取 入 れ て利用 す る必要

が あ る。 ワクチ ニア ウ イル ス に よる種 痘 は痘瘡 の予 防

に効 果 を発 揮 した が,弱 毒 ワ クチ ニ ア ウイ ル スLc16

m8を 用 いた細 胞培 養痘 瘡 ワクチ ンの接 種 を,ワ クチニ

ア ウイル ス を用 いた発 現 ベ クタ ー実験 の従 事者 の 安全

対 策上 検討 す る必要 が あ ろ う。 健康 管 理 の項 で述べ ら

れ る ように,研 究 室職 員 は,予 防接 種 を必要 とす るウ

イル ス種 別 に,抗 体 そ の他 を測 定 して,免 疫 状 況 を明

らか に し,必 要 が あれ ば予 め予 防 接種 を受 け てお く必

要 が あ る。

(3)職員の研 修 と教 育

ウ イル ス の研究 に当 り,実 験 を立 案 し,こ れ を実施

す る職 員 は言 う迄 もな く,そ れ に協 力 し,介 助す るこ

とで,病 原体 を有 す る試料 に直接 触 れ る補助職 員 も,

対 象 とな る病 原 ウイル ス の病 原性,そ れ の伝播 経路,

感 染 の予 防 と,治 療 法 につ いて充分 な知識 を有 し,本

人 と環境 の安 全 を確 保 す るた め に,病 原 ウ イル ス の漏

出 を防 ぐため の安 全 な取 扱 い 方法 につ い て,確 実 な技

術 を習 得 して いな くて は な らない。 この ため には,一

定 の基準 に適合 した研修 と教 育 が行 わ れ,そ の 内 容 と

程 度 は,バ イオ セ ーフ テ ィ レベ ル に応 じて充実 し,レ

ベ ルの 高 い もの とな ってい な くて はな らない。

1) 微 生物 学 の基 本技 術:微 生 物学 の 基本 技術 で あ

る無 菌操 作 は,実 験 系の 交 叉汚染 を防 ぎ,実 験 の成立

を可 能 にす る基 本 技術 で あ る と共 に,研 究者 の安 全 を

確 保 す る基 本 で あ る。 実験 に当 って,病 原体 の拡散 を

防 ぎ,研 究者 が病 原体 に曝 露 され るこ と を防 ぐ次 の3

原則 が,研 究 室の基 本 的 な しっ け とされ る。

① 病原 体 を含 む試料 の管 理 を統 一 し,責 任 者 の不 明 な

試料 が あ った り,実 験 中に外 に病 原体 試 料が 露 出 さ

れ る こ との ない ようにす る。

②事 故 に よっ て,病 原体 を含 む 試料 が一 般 区域 に漏 出

しない体 制 を確 立 してお く。

③事 故 の場合 の処 置 を全職 員 に知 らせ てお く。 実験 室

内で は,次 の基 本 的事項 を徹底 して お く。

a.病 原 ウイル ス を有 す る試料 の ピペ ッ ト操 作 を 口

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で行 わ ない。

b.取 扱 い に当 って はエ ア ロゾル発生 を最 少 限度 に

す る よう,操 作方法 を選択 す る。

c .注 射針,鋭 尖 の器 具の 取扱 い方式 は,刺 傷 事故

を最 少 限度 にす る もの を選 び,そ の廃 棄 は,穿

通 出来 ない容 器 に入れ て汚染 除去 出来 る ように

す る。

d.原 則 と して,前 の 閉 じたガ ウ ン と手袋 を着 用 す

る。

e.実 験 後,手 袋 を脱 いだ あ とは,直 ち に手 を石 け

ん で洗 う。

f.実 験 の前後 及 び試料 に よる汚染 が起 った直後 に,

実験 台表 面 を消毒す る。

g.実 験 室 内で は,飲 食 喫煙 を禁 止す る。

2) 研修 と教 育:研 究施 設の 管理 責任者 は,そ の 中

で働 く研究 職員 の 安 全確 保 の ための研 修 と教 育 を定 期

的 に施 行す る責 任 を負 う。職 員 は,実 験操 作が 安 全で

あるか否 か を判 断 し,実 験 室環境 の安 全性 と欠 陥 が あ

れ ば,こ れの是 正 を提 言 出来 るだ けの能 力 を持 た な く

て は な らない。 研 究者 は,そ の研 究 に伴 う実験 に用 い

る施 設 が安 全確 保 に充分 で あ るこ とを確 認 す るの みな

らず,関 係 す る全職 員 が安 全確保 に関 す る知識 と技 術

にお いて も充分 で あ るこ とを確認 した上 で,実 験 を開

始す る ように しな けれ ばな らな い。研修 で 与 え られ る

べ き項 目を整 理 す る と次 の ようにな る。

a.ウ イル ス取扱 いの基 本 技術 。

b.健 康 維 持 の ため の個 人 衛生 。

c.各 バ イオ セ ー フテ ィ レベル の施 設 と封 じ込め の

原 理,そ の利 用法 。

d.防 護 具 と使 用法 。

e.汚 染 除去,消 毒,滅 菌 の原理 と技 術。

f.各 種 標 識 の意 味 と使 い方。

g.廃 棄 物 の取 扱 い,包 装 と処理 方法 。

h.感 染 性 試料 の 包装,輸 送,発 送の 原則 。

i.安 全 キ ャビネ ッ トの効果 的使 い方 。

j.オ ー トク レー プの原 理 と使 い方。

k.遠 心 機 の使 用 にお け る安 全確保 。

l.モ ニ タ リング と安全 監視 の技術 と評 価。

m .事 故 時 の報 告 と処 置,対 応。

n.関 連 情報 の 正確 な伝 達 と関係者 へ の衆知 。

o.ヒ トの血 液 及び体 液 の安 全取扱 い の基 本 。

国 立 予防衛 生 研究 所 で は,昭 和62年 よ り,実 験 室 に

お いて病 原微 生 物 を取扱 う全職員 を対 象 に,バ イ オセ

ー フテ ィ講 習会 を実 施 して お り,特 に,後 述 の安 全管

理 体系 上,バ イオセ ー フテ ィレベル-3以 上 の実 験 に

従 事す る者 は,こ の研 修 を終 了 してい る こ とを条 件 と

して い る。 同講 習会 の テキス ト 「病 原体 等取 扱 い及 び

管 理必携 」(1987,1989改 訂)は,同 研究所 総 務部 に請

求 され れ ば入手 出来 る。

研修 の成果 と して,病 原 微生 物 の有す る危 険性 につ

いて科 学的 に正確 な知 識 が与 え られ関係職 員 が,不 必

要 な恐怖 心 を持 た ない よ うにす るこ と も期 待 され る。

これの波 及効 果 と して,一 般大衆 が,病 原微 生物 に関

して抱 く過大 な恐 怖心 な い し,こ れ を誇張 して扇 動 し

よ う とす る者 に対 す る正 しい対 応が形 成 され るこ と も

望 まれ る。一 般 の行政 関係 者,立 法 関係者 に対 す る科

学 的理解 を求 め るた めの研修 コー ス も必要 にな るで あ

ろ う。

P3,P4レ ベ ルの研 究施 設 の設備 と運 営 方法,標

準 的な操 作方法 等 につ い ては,上 記 の一般 的 な研修 コ

ー ス を終 った上 で ,安 全運営 規則 の一 つ と して個 々の

実験 室 の管 理 責任者 が該 当職 員 に研修 を行 った上 で,

実験 参加 を認 め,安 全管 理上 の承 認手 続 を とる こ とが

望 ま しい。

(4)健康 管理

雇 用 に当 る機 関,管 理 責任 者,所 長等 は,労 働 安 全

衛 生法 に基 づ く定期健 康 診断 に加 え て,職 員等 に対 し

て,実 験室 内 ウィル ス感染 を早 期 に発見,対 応 す るた

め,ま た,実 験 室 内(職 場 内)感 染 を予 防す るため に,

特 殊健 康診 断 を定期 的 お よび 必要 に応 じて 臨時 に実施

しなけれ ばな らな い。

(以下,機 関 の最 高 責任者 を所 長等 と表 現 す る。)

1) 定期健 康 診断

① 既往歴 を含 む健 康診 断 と,取 扱 いウ イル スの感

染 で発生 す る可能性 の大 きい症 候 の臨 床的 診察

を実施 す る。

② 必要 に応 じて,取 扱 い ウ イル ス に対 す る検 査 を

実施 す る。

③ 定期健 康診 断 は原則 と して年1回 実施 す る。

④新 規雇 用 また は配置職 員 等 は,定 期 健康 診 断 ま

た はそれ に相 当す る健 康 診断(① お よび②)を,

就 労前 に受 ける こ とが望 ま しい。 また,就 労前

の血清 を採取,保 存 して置 くこ とが望 ま しい。

す で に就労 してい る職 員 な どは可及 的早 い時 期

に,血 清 を採 取,保 存 して置 くこ とが望 ま しい。

2) 臨 時健康 診 断

所 長 等が 必要 と認 めた場 合,ま たは職 員等 が希 望

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した場合,臨 時健 康診 断 を実 施 す る こ とが で き る。

3) 健康 診断 記録 の管 理 と保 存

健康 診 断の 結果 は 職員等 別 に記 録保 存 し,部 外 秘

とす る。職 員 等の 離職 後5年 間保 存 しなけ れば な ら

な い。

4) 健康 診 断結 果へ の 対応

健康 診断 の結 果,異 常 が認 め られ る職員 等 には,

直 ちに必要 な手 段 を講 じな ければ な らな い。

5) 職 員等 の届 出

① ウイル ス を取 り扱 う職 員等 は,身 体 に異 常が認

め られ る場 合,直 ち に所 長等 へ,そ の 旨届 出 な けれ

ばな らな い。 届 出 を受 け た所 長等 は,直 ちに 当該 ウ

イル スの感 染の有 無 につ いて,詳 細 に調 査 し,対 処

しな ければ な らな い。職 員等 は他 医 に よ り処 置 され

た疾 患 も届 け,白 らの健康 管 理記 録 を完 全 にす るよ

う努 め る こ とが望 まれ る。

② 職員 等 は実験 室 内(職 場 内)事 故 を速や か に報

告 しな けれ ばな らな い。報 告 を受 け た所 長等 は,直

ち に当該 ウ イル スの感 染 の可 能性 の有 無 につ い て,

詳細 に調査 し,対 処 しな けれ ば な らな い。 また,こ

の 旨 を記録 した事 故報 告書 を作 製 しな ければ な らな

い。

6) 就 労上 の注 意

妊娠 可能期 の女性 に対 して は,風 疹 ウ イル ス,サ

イ トメガ ロウ イル ス感染 の胎 児 に及 ぼ す危 険の 可能

性 につ い て,明 確 に知 らせ てお かな けれ ば な らな い。

取 扱 いウ イル ス に よ っては,免 疫 機 能 に障害 の あ る

職 員等 が取 り扱 う場 合の 危険 性等 も検 討 すべ きで あ

る。

7) 予 防接 種

取 扱 いウ イル ス に よって は,職 員等 に予 防 接種 を

行 う こ とが あ る。

4. 安全 管理 体系

(1)バイオセ ー フテ イレベル と封 じ込 め施 設

1) 病 原微 生物 の安 全管 理 の原 理 は,病 原微 生物 の

各 々 に対 して,前 述の よ うな エア ロゾル感 染 の起 りや

す さ,発 症 した際 の症状 の 軽重 と予 後 の良 否等 に基 い

て,感 染 ・発症 の確 率 を一 定の レベ ル以 下 に 限局す る

こ とで あ り,下 記 の要 因 を考慮 して,1~4の バ イオ

セー フテ ィレベ ル に分 類 し,エ ア ロゾル の封 じ込め の

ため の施設 のハ ー ドウエア と,運 営管 理 の ため の ソフ

トウエ アの 双方 を指 定す る。 バ イオ セー フ テ ィ レベル

は,感 染 ・発症 の確 率 の許 容 レベル の高 い方 を レベ ル-

1に して,封 じ込 め レベル と して は低 くし,確 率 を極

端 に低 く しな くて はな らない もの を,最 高 の封 じ込 め

レベ ル の レベル-4に 指 定 し,そ の 中間 に レベル-2,

3を お く。 ウ イル スの場 合,レ ベル-1は,実 習 や モ

ニ タ リング に適 したウ イル ス と され ,ヒ トに病原 性の

な いウ イル ス株や,弱 毒 生 ワ クチ ンに用 い られ てい る

限 られ た株 の ウイル スが これ に指 定 され て い る。

2)ウ イル スの バ イオ セー フ テ イ レベル 指定 に際 し

て と り入 れ られ る要 因 は: a.病 原体 そ の ものの ヒ ト

にお け る病 原性,b.そ の 病原 体 に よ る感 染 を予 防す

る有 効 な予 防接 種 が利 用 出来 るか否 か,あ るいは,発

症 して も,効 果 的 な特 異 的 治療法 が あ るか,c.研 究

機 関の存 在 す る地域 社会 に,そ の病 原体 に よる感 染症

が 常在 して い るか否 か,等 で,一 般 の病 原体 は,レ ベ

ル-3ま で に入 る。 ウイル スの 中で,実 験 室 感染 の 可

能性 が高 く,し か も有 効 な予 防法,あ るい は治療 法 の

開発 され て いな い特 定の,幾 つ かの ウ イル ス疾 患 が ク

ラス-4に 分 類 され,あ とで 詳 し く述 べ られ るよ うな

厳 重 な封 じ込 め施 設 と,取 扱 い方 式が 整備 されて い な

い限 り,研 究,検 査 の対象 と して取 扱 うこ とが禁止 さ

れ る。 米 国で は,バ イオセ ー フ テ ィ レベル1~4の 指

定 の他 に,家 畜病 原体 で,米 国内 での取 扱 いが 禁 じら

れ て い る もの あ るい は,農 業 省 の政 策 で その持 込 み に

制 限が 加 え られて い る病 原体(全 部 が ウ イル ス)31種

を,特 定動物 病 原体(Restricted animal pathogens)

と して指 定 し,原 則 的 に実験 的取 扱 い その もの を禁止

して い る2)。わ が 国で も家 畜伝 染病 予 防法 で輸 入 な い

し取 扱 いが禁 止 され て い る ものが あ る。

3) 感 染性 エ ア ロゾル の物理 的 封 じ込 め設備 は一次

バ リアー(primary barrier)と 二 次バ リアー(secon-

dary barrier)の2段 で構 成 され る。一 次バ リア ーは,

実験 野 の 汚染 エア ロゾルが 実験 者 に触 れ ない よ うにす

る もの で,安 全 キャ ビネ ッ トが これ に当 る。実験 者 の

安 全 その もの は一次 バ リア ー に よって のみ保 証 され る

もので あ るか ら,そ の性 能,信 頼 性 を定 期的 に確 認 す

る と共 に,標 準 的使 用方 式 を確 立 して その使 用法 を誤

らな い よ うにす る教 育 と研 修 を行 うこ とが 必 要 とな

る。 安全 キ ャ ビネ ッ トは,キ ャ ビネ ッ ト内 を陰圧 に し

て,前 面 開 口部 よ り,空 気 を と り入 れ るク ラス-Ⅰ,

前 面 開 口部 よ り空 気 を と り入 れ,HEPAフ ィル タを通

した あ と層流(ラ ミナ ー フ ロー)で,清 浄 空気 を実験

野 に送 るク ラス-Ⅱ,完 全 閉鎖 式 で,ゴ ム 手袋 を通 じ

て実 験 操 作 を行 うク ラス-Ⅲ の3ク ラ ス に分 け られ

る。 ク ラス-Ⅲ 安 全 キャ ビネ ッ トはグ ロー ブ ボ ックス

と も呼 ばれ る。 二次 バ リア ーの 目的 は,事 故 そ の他 の

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原 因 に よ り,感 染 性 エ ア ロゾル又 は汚染源 そ の ものが

一 次バ リア ーか ら逸 出 して も,こ れ を実験 室 の外 に は

拡散 させ な い こ とを 目的 と した もの で,地 域社 会及 び

環境 へ の 責任 を果 す ため の もの であ る。実験 者 の安 全

は,完 全 に機 能 す る一 次バ リア ー に よっての み確 保 さ

れ る もの で あ る。 ハ ー ドウ エア に相 当す る建物 及 び附

帯 設備 につ いて は,建 物 及 び区域 を他 の施 設か ら隔 離

し,独 立 させ る程 度 をどの ようにす るか,室 の 内部 に

向 う定 方 向性 気流 を確 保 す る に止 め るか,室 内空気 を

外 界 に対 して陰圧 を保 つ こ とを要 す るか,壁 や床,窓,

及 びパ イプ,配 線 な どの貫 通 部の 気密性 の程 度,室 内

空 気 の と り込 み 方式,排 気 にお け るHEPAフ ィル タ

に よる濾過 の有 無 等 で細 か く機能 が規 定 され る。 ソフ

トウエ ア に相 当す る使 用 ・運営 ・管 理 方式 で は,実 験

室 の構 造 と設備 の 安全性 能 を設計通 り発 揮 させ,封 じ

込 め の 目的 を達 す るため,実 験 室 内へ の一般 人 の立 入

り制 限,出 入 に際 しての更 衣,退 室時 の シャ ワー に よ

る身体 の洗 浄,安 全設 備 の経 常的維 持管 理 な どの運営

方式 の標 準 化が 必要 であ る。

4) バ イオ セー フ テ ィ各 レベ ル の封 じ込 め施設 と運

営 方式 は,CDC/NIH,WHO,予 研4)の各体 系 で大体

共通 で あ るが,こ れ を要 約 して,一 次バ リアー,二 次

バ リアー と分 けて,表 記 す る と,表 ・1に な る。組 換

えDNA実 験指 針 にい う物 理 的封 じ込 め レベル も,こ

れ と共通 で,表 中 に記載 した ように,レ ベル1~4と

P1~P4が 対 応 す る。 米 国(CDC/NIH)やWHOの

指 針 には,P1,P2レ ベル 実験 室 を基 礎 実験 室(basic

laboratory),P3レ ベ ル 実 験 室 を 封 じ込 め 実 験 室

(containment laboratory),P4レ ベ ル 実験室 を最 高

度 封 じ込 め 実験 室(maximum containment labora-

tory)と 表 記 して い る。米 国 で は,P4レ ベ ル実験 室 と

して,所 謂,宇 宙服 実験 室(suits laboratory)も 併 用

され て い る。 この場合,実 験 者 は,ク ラス-Ⅲ 安全 キ

ャ ビネ ッ トの ゴム手 袋 に相 当す る宇宙服(陽 圧 スー ツ)

の中 に入 り,キ ャ ビネ ッ トに相 当す る実験 室の 中 で,

呼 吸 用空気 コ ック に連 結 した送気管 を通 して,呼 吸 し

つ つ 実験作 業 を行 う。 実験 台,実 験 器具 な どは,室 内

で露 出 した状 況 で使 え るので,実 験 操作 は,グ ロー ブ

ボ ックス を用 い る場合 よ りや りや す くな るが,宇 宙服

が 一次 バ リア ー とな って 実験者 の安 全 を保証 しな くて

はな らず,又,実 験 室 の構 造 が同時 に,一 次,二 次バ

リア ー を兼 ね るこ とにな るの で,建 物 自体 に,グ ロー

ブ ボ ックス に相 当す る性 能 と信 頼性 が要 求 され る。又,

宇 宙服 の着 脱 の ための 更衣 室 と,消 毒 薬 で宇 宙服 の外

側 を処理 す るため の薬 液 シ ャワー室 とを,一 般 のP4

レベル実験室の出入口の内側に設けることが必要にな

る。

(2)安全管理システム

病原体の場合には放射性物質や組換えDNAの 場合

とは異なり,法 律あるいは強制力を有する指針はでき

ていない。各機関が安全管理システムを白主的に制定

し,自 主的に運営するのが原則となる。

我が国における代表的な安全管理システムとして国

立予防衛生研究所(予 研)の ものがある。ここでは病

原体等安全管理規程(管 理規程)4)と実験室安全運営規

則(運 営規則)が 制定され,実 行機関としてバイオセーフティ委員会 と安全監視委員会の2つ の組織が設置

されている。

指針 として制定 ・普及されている組換えDNA実 験

での安全管理システムと予研の安全管理システムを比

較 してみると,組 換えDNA実 験指針に相当するのは

管理規程であり,安 全委員会に相当するのはバイオセーフティ委員会である。安全監視委員会の組織は組換

えDNA実 験の場合には独立 したものにはなっていな

いが,役 割の面では安全主任者にほぼ相当するものと

みなせる。運営規則は危険度分類3以 上の病原体を扱

う実験室を対象として各実験室に応 じた規則 として作

成されるものであり,組 換えDNA実 験指針ではこの

項目はない。

各機関でウイルス実験に関する安全管理システムを

作成する場合には,各 機関の組織構成,実 験内容など

の状況に応じた検討が必要である。その際の参考とし

て予研の安全管理システムの概略を以下に紹介する。

1) 管理規程

a.目 的:管 理規程は予研における病原微生物,生

物の産生する毒性物質,発 癌性物質,ア レルゲン等の

生物学的相互作用を通して人体に危害を及ぼす要因の

実験的取扱いについて基準を設定し,研 究その他の業

務を制約することなく,病 原体の保管及び取扱いを安

全に遂行させることを目的に制定されたものである。

b.定 義:病 原体等とは,病 原微生物,生 物の産生

する毒性物質,発 癌性物質,ア レルゲンなど生物学的

相互作用を通して,人 体に危害を及ぼす要因を総称す

る。指定実験室 とは病原体等の危険度分類で3か ら4

までの病原体等の保管又は実験を行う場所で所定の基

準に適合し,所 長の承認が得られた実験室をいう。

c .安 全管理体制:安 全管理の最高責任者である所

長は安全管理の目的を達成させるため,下 記の二つの

担当機関を設置 している。

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表1 バ イオセーフテ ィ・レベル別封 じ込めのバ リアー構成

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バイオセーフティ委員会

この委員会は所長の諮問により,次 のような業務を

行う。

①安全管理に関する理論的,技 術的問題の研究及

び調査

②病原体等の危険度に基づ く分類と安全設備基準

の作成

③指定実験室の承認手続に関する審査

④バイオセーフティレベル3か ら4ま での病原体

等の分与などの申請に対する審査

⑤その他病原体に対する安全管理に関することを

担当する。

病原体等の取扱い安全監視委員会

この委員会はバイオセーフティ委員会で制定した

諸規程及び指定実験室安全運営規則の実施状況を

監視することを業務 とする委員会で,所 長の指揮

監督下におかれている。主な業務は,

①指定実験室の定期及び臨時の査察

②バイオハザード事例の原因調査

③指定実験室内の事故の調査及び事故処理の指揮

と確認

④管理規程及び運営規則の実施面での問題点

⑤その他病原体等の取扱いの監視に関することを

担当する。

委員構成は,予 研副所長を委員長として,健 康管理

担当者,安 全管理担当者並びに病原体等の取扱いに

関し学識経験のある職員及び予研以外の公務員のう

ちから所長が任命又は委嘱した者若干名で組織され

る。

d.指 定実験室の承認条件:指 定実験室の承認を得

ようとする場合は,取 扱う病原体の名称及び危険度,

実験の目的 と方法,実 験期間とともに,実 験室の安全

設備が所定の基準に適合することを明記した文章を添

えてその実験室の所属する部長がその承認を申請す

る。更に,上 記申請に加えて,指 定実験室で病原体を

取扱う職員についても,そ の職員が病原体の安全な取

扱い方法,安 全施設の機構と利用方法,事 故の場合の

処置等に関して,十 分な知識 と技術修練を有し,健 康

上異常のないことを証明する資料を添付する。また,

指定実験室は,所 定の内容を含んだ 「実験室安全運営

規則」を制定 し,承 認を得ることになっている。更に,

病原体の保管場所についても指定実験室の内部又は,

指定実験室区域として承認された場所でなくてはなら

ないこと,指定実験室の入口には取扱い病原体の名称,

危険度及び危害防止主任者を示した国際バイオハザー

ド標識を標示すること,危 害防止主任者は指定実験室

にあって,実 験室安全運営規則に定められた業務を遂

行すること等が要求される。

e.事 故とその処置:実 験室の事故として取扱われ

るものとして,次 の項目が挙げられる。

①外傷その他により,取 扱い病原体が職員の体内

に入った場合

②安全設備の機能に欠陥が発見された場合

③指定実験室内で病原体の逸出が未発見のまま24

時間以上経過した場合

④健康診断の結果異常が認められた場合

⑤病原体を取扱った職員から感染を疑わせる報告

があった場合

事故発見者は遅滞なく危害防止主任者に通報 し,そ

れを受けた危害防止主任者は直ちに所長及び所属部長

に報告するとともに,運 営規則に定められた処置を行

うことを義務付けられている。所長は必要に応 じ事故

処置を安全監視委員会に指揮させるとともに,事 故の

程度,内容及び危険区域等を一般職員等に周知させる。

f.緊 急事態と対応措置:天 災又は,火 災等により

管理規程や運営規則の遵守が不可能になった場合は緊

急事態として対策本部を設置 し,次 のような処置がと

られる。

①病原体の逸出の防止対策

②災害対策の指導若 しくは助言

③危険区域の設定及び解除

④汚染防止及び除去方法の指導

⑤汚染者の隔離

⑥広報活動

⑦危険区域の安全性調査

⑧その他緊急事態に必要な対応策

緊急対策本部は所長,副 所長,総 務部長,安 全監視

委員会委員及び所長の指名する者で構成される。

g.健 康管理:病 原体を取扱う職員については,取

扱い病原体に対する抗体価の測定を含む実験室内検査

と,そ の病原体により発症する可能性の大きい症候の

臨床的診断が定期の健康診断として年一回実施される

が,所 長が必要と認めた場合は臨時にこれを実施する

こともある。

健康診断の記録は,職 員が常時携帯を義務付けられ

ている健康管理手帳に記入されるが,健 康診断の結果

異常が認められた職員については,安 全確保のため,

直ちに必要な処置が講じられる。また,職 員が異常を

自覚した場合は,直 ちに危害防止主任者に届出て,当

該病原体の感染の有無について,詳細な調査を受ける。

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危害 防止 主任 者 は,調 査 の結 果,当 該病 原体 に感 染 し

た と認 め られ る場 合,あ るい は医学 的 に不 明 な場 合 は

直 ち に所 長 及 び 所属 部 長 に報 告 す る義 務 を負 っ て い

る。

2) 運 営規則

この規則 の 目的 は,管 理 規程 に基づ き指 定 実験 室の

安全確 保 と安 全運 営 に必要 な管理 方 式及 び操作 手 順,

その他 の技 術 的事項 を定 め た もの で あ る。本規 則 は管

理 規程 に定め る運 営規 則作 成基 準 に基 づ くとと もに,

指 定 を受 け よ う とす る実験 室 の構 造及 び 設備等 に よっ

て作成 し,バ イオ セ ーフ テ ィ委 員会 の審査 を経 て,所

長 が承 認 した規 則 で あ る。従 って,各 指 定 実験 室 ご と

にその 内容 は 多少つ つ 異 な る。

(3)非常時対 策

バ イオセ ー フテ ィの主 目的 は,実 験 に用 い る微 生物

又 は,そ の産 生 物 に よる ヒ トへ の危 害 の予 防で あ るか

ら,非 常事 態 に お ける第一 の 原則 は人命 の救助 で あ り,

病原体 の完 全な 封 じ込め よ り,人 命 を救 うため の脱 出

を可 能 にす る こ とを優 先 させ る。 従 って,非 常事 態 に

お け る避難 路 を,封 じ込 め性 能 に対 す る侵 害 を最少 限

に止 め る形 で確 保 出来 る よ う実験 室 の設計 に当 って配

慮す る。避 難 時 の確保 と共 に,脱 出 の ための 時間 を,

余裕 を もっ て確 保 出来 る よう各種 の警 報 装置 を効果 的

に配置 す る。 完全 な封 じ込 め の最 主要 因子 は一 次バ リ

アー で あ るか ら,一 次 バ リア ー に関 して,非 常事態 に

お ける安定 性,耐 久性 を最 大 限 に盛 り込 み,二 次バ リ

アー に関 して は,実 用 的 に可能 な最 大 限の もの を盛 り

込 む こ とが 原則 にな る。 個 々 の事態 に関 して配慮 して

お くべ き点 をま とめ る と次 の よ うにな る。

1) 火災;実 験 操 作 にお い て火 を用 いな くて いい も

の を選 び,引 火性 の溶媒 の使 用 を避 ける こ とで,火 災

の 発生 の可 能性 を低 くす る。 放水 に よる消火 は,汚 染

を拡 大 させ る危 険が あ るの で,人 命へ の 危険 を避 けつ

つ,化 学 消 防 を行 う体 制 を組 込 んで,研 究室 当事者 に

よる初期 消 火が速 や か に行 え る ように してお く。

2) 強風;台 風 その他 に伴 う強 風 で,空 調系 の エア

バ ラ ンス が崩 れ,バ リア ー間 の微 妙 な差圧 が逆 転 し,

封 じ込め が設計 通 り行 わ れ な くな る事 態 が発生 す る。

定風圧 ・定 風量 装 置や,緊 急 ダ ンパ ー な どを組込 ん で,

この 問題 に対処 して お く配 慮 が必要 で あ る。

3) 停 電;封 じ込め の機 能 を維持 す るため には,最

低 限 の保安 運転 として,換 気-差 圧 系監 視-制 御-警

報 通信 系,避 難 用 設備 な どの機 能が 維持 され るこ とが

必要で,一 般的 には,立 上 り時 間 の短 い非 常用発 電機

で,こ れ等 の 系統 に30秒 以 内に給 電 出来 る設 備 をつ け

る。

4) 地震;地 震 に伴 う封 じ込 め機 能 の損 傷 を予 防 す

る設計上 の配 慮 が必要 で あ る。一 次バ リアー で あ る安

全 キ ャ ビネ ッ ト本 体 と建物 の 問の 固定 に充分 な強 度 を

持 たせ,必 要 あ る場合,キ ャビネ ッ トを密 閉す れ ば,

中の感 染性 エ ア ロ ゾル が完 全 に封 じられ得 るよ うに し

て お く。 耐 震性 の 目標 と して,P4レ ベ ル 実験 室 の場

合,耐 震 設 計 で い う大地 震(勇 断係 数2.0)と 最 強地 震

(同0.6)の 中間 に当 る勇断係 数0.384が 採用 され てい

る。

(4)汚染 除去:滅 菌 と消 毒

滅 菌 と消毒 は,実 験 室 内感 染 防止対 策 の なか で,主

要 な役 割 を持 つ もの の一 つ であ る。滅 菌 と消毒 法 には

表2に 示 す よ うに多 くの 方法 が あ るが,微 生物 は種 類

に よ って 殺 滅 手 段 に対 して抵 抗 性 が 異 な る こ とが 多

く,そ の適 用 につ い て は微 生物 の性 状,特 に物 理化 学

的 な抵抗 性 を考 慮 し,ま た滅 菌 と消 毒 の意 味す る とこ

ろ を厳 密 に区別 した うえで,選 択 的 にそ の 目的 と手 段

を決 定 す る こ とが肝 要 で あ る。

滅 菌 は,病 原 体,非 病 原体 にか かわ りな く,す べ て

の微 生物 を殺 滅 あ るいは除去 す るこ とで あ り,一 般 的

には加熱 お よび 紫外 線 に よ る方法 が,空 気 お よび水 中

の微 生物 除去 には フ ィル ター に よる濾 過法 が 用 い られ

て い る。

消毒 は,病 原微 生物 あ るいは 目的 とす る微生 物 を物

理 ・化学 的方法 に よ り殺滅 し,感 染性 をな くす こ とで

あ る。 これ には消 毒剤 が用 い られ,主 と して その 化学

作 用 に よ り種 々 の微生 物 を殺滅 す る。微 生物 の 種類 に

よ り効 果 が異 な るの で加熱処 理 よ り も信 頼性 は劣 る も

の の,適 切 な使 用法 に よる もの で あれ,ば,一 般 的 な実

験 室 の汚染 除去 には非 常 に有 用 で あ る。

微 生物 一 般の 抵抗 性 につ いて 要約 的 にふ れ る と,栄

養型 の細 菌 で は,多 くの殺菌 手段 に対 して抵 抗性 は弱

い。 グラム 陽性 の ブ ドウ球 菌 及 び連鎖 球 菌 はグ ラム 陰

性 菌 の チ フス菌 や大 腸菌 よ りも抵 抗性 が 強 い。結 核 菌

な どの抗 酸菌 は熱 な どに対 しての性 質 は栄 養 型の 菌 と

ほぼ 同 じで あ るが,薬 物 に対 しては選 択性 が あ り溶剤

系(ア ル コール,ク レゾール,フ ェノール)の 薬 物や

両 性 界面 活 性剤 に は作 用 され るが,塩 酸 や 逆性 石鹸 に

は作 用 され ない。

芽胞 菌 は あ らゆ る滅 菌 ・消毒 手段 に強 い抵 抗性 を示

す が,な かで も最 も有 効 とされ る方法 は,高 圧 蒸気 に

よ る加熱,紫 外 線 お よび放射 線(γ 線)の 照射 で あ る。

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薬 剤 で は,グ ル タール アル デ ヒ ド,ガ ス状 で作 用す る

ホル ムアル デ ヒ ドお よび酸 化 エ チ レンが有 効 とされ て

い る。

ウ ィル スにつ いて は,エ ンベ ロープ を有 す る もの と

有 しない もの で抵 抗性 が 異 な る。 前者 に所属 す るウイ

ル ス にはヘ ルペ ス,ミ ク ソ,ア ル ポな どが あ るが これ

らは いず れの滅 菌 ・消 毒法 に対 して も比較 的抵抗 性 が

弱 い。後 者 に は ピコル ナ ウイル ス が属 し抵抗 性 が強 い。

この こ とは一般 的傾 向で あ って,例 外 の あ るこ とを認

識 してい な くて はな らな い。

一 般 的 にウ イル ス の熱不 活化 に よる半減期 を大 まか

に ま とめ る と,60℃ で秒 単位,37℃ で分 単位,20℃ で

時 間単位,4℃ で 日単位,-70℃ で 月単位,-196℃ で年

単位 にな る。 原則 と して は,ウ イル ス を含 む試料,臓

器,動 物 屍体,実 験 器 具 な どの最 も確 実 な滅 菌法 は,

高 圧 蒸気 滅菌 で あ り,1気 圧(121℃),30分 の滅 菌で,

完 全 に 目的 を達 す るこ とが 出来 る。 動物 屍体 の滅 菌 に

当 って は,内 部が完 全 に121℃ に な るよ うに,時 間 を充

分 か ける必要 が あ る。個 体 の臓 器 内 に熱 を短 時間 で充

分 に到達 させ るため には132℃(2気 圧)を 用 い る こ と

が 推 奨 され る。 その他 の実 験 台,容 器等 の 単純 な表面

の 汚染 除 去 には,消 毒薬 が 用 い られ る。 以下 に具体 例

と して,WHOお よび 国 内研究班 に よって作 成 され た

3種 の ウイル スの滅 菌 と消 毒法 お よび消毒 剤 の要 点的

事項 を列 記す る。

1) ヒ ト免疫 不 全 ウ イル ス の滅 菌,消 毒法(WHO,

AIDSシ リーズ9,1991)

① 蒸気 滅菌: 121℃,20分 間

②乾 熱 滅菌: 170℃,2時 間

③煮 沸 消毒: 20~30分

④薬 物 消毒

a .次 亜塩 素 酸 ナ トリウム

・多 目的の 実験 室 用消毒 剤 と して は有 効塩 素

濃 度0.1% (1,000ppm)

・強 力 な実 験室 用 消毒剤 としては有効 塩素 濃

度1.0% (10,000ppm)

注:次 亜 塩 素酸 化 合物 溶液 の効 力 は,血 液,血

清,お よび そ の他 の蛋 白質含 有物 質 に よって

中和 され るた め,定 期的 な交 換が 不可 欠 であ

る。

b.エ タノー ル,イ ソプ ロパ ノール

・濃 度70%と して使 用

・手指 ,試 料 容器 外面,実 験 台 な どの表 面 の

消毒 に適す る。

c.ホ ル マ リン

・濃 度3 .5~4% (1:10希 釈)と して使 用

・実験 室等 の表 面 消毒 に適 す る。

・優 れ た消毒剤 で あ るが,溶 液,蒸 気 と もに

有毒 で あ る こ とに留意 す る。

d.グ ル タ ラール

・高水 準 の消毒 剤 で あ る。

・通 常2%の 水 溶液 として供 給 され てい る。

・使 い捨 てで きず熱 に弱 い装置 お よび器 具 の

消毒 に用 い られ る。

2) B型 肝 炎 ウィル スの滅 菌 ・消毒法(厚 生省B型

肝 炎研 究班,1987)

① 蒸気 滅菌: 121~132℃,20~40分 間

②乾 熱 滅菌: 180℃,60分

③ 煮沸 消毒: 15分 以 上

④ 薬物 消毒

a.塩 素系消 毒剤:次 亜 塩 素酸 ナ トリウム剤

・有効塩 素 濃度 10 ,000ppm

・消毒 時 間 1時 間

・商 品名 クロ ラックス ,ピ ュー ラ ックス,

ピュー ラ ックス10,ハ イ ター,ミ ル トン

b.非 塩 素系 消毒剤

・2% グル タール アルデ ヒ ド液(商 品液 ス

テ リハ イ ド)

・エ チ レンオ キサ イ ドガ ス

・ホル マ リンガ ス

注:消 毒 用エ タ ノール は無効

3) ク ロイ ツフ ェル ト・ヤ コブ病,お よび ス ク レイ

ピー病 原体 の滅菌 ・消毒法

厚生 省遅 発性 ウイル ス感染調 査 研究班 の 診断基 準

で は以下 の 方法 を推奨 してい る。

①焼 却

② オー トク レー プ処理(な るべ く高熱 で 長時 間,

例 えば130℃ で30分)

③ 次亜 塩 素酸 ナ トリウム(な るべ く高濃度 で 長時

間,例 えば0.5~1%,2時 間)

④SDS (sodium dodecyl sulfate 1%溶 液 で10分

煮 沸)

⑤ ギ酸(80%ギ 酸 溶液 で2時 間)

4) 消毒 剤 の要 点的 ま とめ

A.ハ ロゲ ン化 合物

a)塩 素化 合物

①細 菌 の細胞 膜 お よび細胞 質 中の有機 物 を酸 化

分 解 して殺 菌効 果 を現す 。

②一 般細 菌,真 菌,ウ イル ス に有 効 で あ るが,

芽 胞菌 には無効 で あ り,結 核 菌 に対 して は不

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確 実 で あ る。

③ 有効 塩 素 濃 度1,000ppm以 上 で30分 以 上作 用

させ る。

④ 各種 の微 生 物 に対 し広 範 囲 に殺 滅 効 果 が あ

る。

⑤ 分 解 しや す く,特 に有機 物 に よ り効果 が低 下

す る。 金属 に対 して 強 い腐食性 を有 す る。 酸

性 にす る こ とに よって有 毒 な塩素 ガ ス を発 生

す る。

⑥ 商 品名:次 亜塩 素 酸 ナ トリウム

b) ヨウ素

① ヨウ素(I2)の 酸化 力 に よ り殺 菌作 用 を示 す。

酸性 で殺 滅 効果 が 強 く,ア ル カ リ性 で効 力 を

失 う。

② 栄養 型細 菌,ウ イル ス,真 菌,原 虫 に対 して

有効 。 結核 菌 に対 して も強 い殺 菌 力 を示 す。

③ 器具 消毒,作 業 表面 の拭 浄,手 洗 消毒 。

④ 広範 囲 のスペ ク トラム を有 し,多 目的 に使 用

可能 。

⑤有 機 物 の存在 に よ り効果 が容 易 に低下 す る。

一般 の金属 に対 して腐 食 作用 が あ る。 皮膚,

粘 膜 な どに着 色性 を有 す る。

⑥ 商 品 名:イ ソ ジ ンR,プ レボ ダイ ンR,ダ イ アザ

ンR,ウ エ ス コ ダ イ ンR(有 効 濃 度: 75~150

ppm)。

B.ア ル コール類

① 蛋 白変性,酵 素活性 阻害 お よび脂質 溶解 に よ

る殺 滅作 用 を示 す 。

② 栄養 型細 菌,結 核 菌,一 部 の ウ イル ス お よび

リケ ッチ アに対 して有 効で あ る。芽胞 菌 や糸

状菌 には無 効 で あ る。

③ 器具,実 験 台表 面,キ ャ ビネ ッ トな どの消 毒,

拭 浄 に用 い られ る。

④残 留性,人 体 へ の毒性 や 刺激性 が少 ない こ と

か ら安全 性 が高 い。

⑤繰 り返 し手指 消毒 に よ り手荒 れ を起 こす場合

が あ る。

⑥ 商 品 名:消 毒 用 エ タノー ル,イ ソプ ロパ ノー

ル,プ ロノ ゾール 。

C.フ ェ ノール類

① 蛋 白変 性 お よび溶解 作 用 に よ り殺滅 作用 を発

揮 す る。

② 栄養 型 細菌,結 核 菌 には有 効で あ るが,芽 胞

菌 お よび ウイル ス に対 しては無効 で あ る。

③ 実験 室 の壁 ・床 な どの消 毒 と拭 浄 に用 い られ

る。

④ 中和 され に くいため 有機 物 の混在 下 で も殺 滅

効果 は安 定 して い る。洗 浄 と消毒 が 同時 に行

な え る特性 を もつ。

⑤ 希 釈 に よ り著 し く殺 滅 作 用 の低 下 が み られ

る。 不快臭 と組 織毒 性 が あ る。

⑥ 一 般名:フ ェノ ール,ク レゾール石 鹸液 。

D.第4級 ア ンモニ ウム塩

① 細胞 膜 お よび細 胞質 内酵 素 蛋 白 に作 用 し,殺

滅作 用 を現 す。

② 栄養 型細 菌,真 菌 に殺菌 効果 が 認め られ る。

結核 菌 に は長時 間の 作用 が 必要 。 あ る種 の ウ

イル ス(痘 瘡)に は有 効 とされ て い る。芽 胞

菌 には無 効 で あ る。

③機 器 お よび 実験験 室表 面 の消毒 と拭 浄 に適 用

され る。

④ 臭 いは ほ とん どな く,皮 膚 粘膜 に対 し刺 激 が

少 ない。 腐食性 はほ とん どな い。

洗 浄 と消 毒 を同 時 に 行 な う こ とが 可 能 で あ

る。

⑤ 石鹸 に よって沈殿 し,殺 菌効 果 が低 下 す る。

⑥ 商 品名:ハ イ ア ミンR,オ スバ ンR,ジ ア ミ トー

ルR,ウ エルパ スR。

E.ア ル デ ヒ ド類

①蛋 白凝 固作 用 を有 す る とと もに酵 素蛋 白の作

用 を失活 す る。

②栄 養 型細 菌,結 核 菌,真 菌,ウ イル スな ど芽

胞 菌 を含 む あ らゆ る微 生物 に対 して有 効 で あ

る。

③ 器 具 の迅速 消毒 や 実験 室 内お よび安 全 キ ャ ビ

ネ ッ トな どの燻 蒸消 毒 に用 い られ る。

④ 広範 囲 の微 生物 に有 効 で しか も速効性 に作用

す る。 消毒 剤 に耐 性 とな った微 生物 につ いて

も殺 滅効 果 を示 す。有 機 物 の混在 下 で もそ の

効果 は低 下 しな い。

⑤ 毒性 お よび刺 激性 が 強 い。 不快 臭 が あ る。

⑥ 一般 名(商 品 名):ホ ル マ リン,グ ル タール ア

ルデ ヒ ド(ス テ リハ イ ドR,サ イデ ックスR)。

注:グ ル ター ル アルデ ヒ ドは液 体 の消毒 剤 と して

は現 在最 も高 レベル の もので あ る。

以 上 の5種 類 に化 学分 類 した 消毒 剤 につ い てWHO

の指 針3)は各 消 毒薬 の特徴 と適 用範 囲 を表3の よ うに

ま とめ て い る。

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表2 消毒,滅 菌法の まとめ

表3 代表 的消毒薬の使用 濃度,性 質,使 用範囲

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5. 物 理 的封 じ込 めの 方 式

(1)各封 じ込 め レベル で の 日常運 営管理

1) P1レ ベル

P1レ ベ ル は健康 な成人 に対 して病原 性が まっ た

くな く性 状 が よ く分 析 された病 原体 等 の株 に適 用す

る。 しか しな が ら,な ん らか の理 由で免 疫不 全や 免

疫抑 制 のか か っ た者 は危険 性に さ らされ る可能性 が

あ るの で,作 業 責任 者 に申出 て,適 当 な指導 を受 け

るべ きで あ る。 この レベル の作 業室 は,卒 前 教 育,

卒後 の 初期教 育の作 業 室 と して適 当で あ る。 作業 室

は建 物 内 の一般 通行 路 か らは隔 離 され てい るこ と。

作業 は通 常卓上 で行 う。

こ こに示す基 準 は安全性 を確 保 す る 目的 だ けか らす

る とや や厳 しす ぎ るか も しれ ないが,病 原体 を取 扱

う際の基 本 的安 全操 作法 を強調 して教 え るこ とは有

用 で あろ う。

A.基 準操 作

A1 作 業 中 は閉扉。 作 業 中 は作 業責 任者 の指 導 に よ

り,入 室 制 限 をす る こ とが で きる。

A2 作 業 台清拭 。 毎 日。病 原体 等が こぼれ た時 は そ

の都 度。

A3 液 体,そ の他 の汚 染廃 棄物 。廃 棄 また は再利 用

前 に除染 。

A4 ピペ ッ ト操 作 器具 の使 用。 口を使 った ピペ ッ ト

操 作 の禁 止 。

A5 同一 室 内に作業 区 域(作 業 域)と,そ れ以外 の

区域(文 書作 業 区域)が 同居 して もか まわな いが,

作業 域 内で の飲 食 ・喫煙 ・食 物貯蔵 ・化粧 を禁 止

す る。飲 食物 を貯 蔵 す る冷蔵 庫や貯 蔵 庫 は作業 域

外 に設 置す る。

A6 作 業後,退 室 前 に手洗 。

A7 汚 染 エ ア ロゾル発 生 を少 な くす るため,注 意 深

い作 業 を行 う。

A8 作 業衣 着 用(推 奨)。 作 業 区画以 外 で着用 して は

な らな い。

B.指 定 操作

B1 汚 染物 を作 業 室外 に運搬 す る場 合,堅 固で洩 れ

の ない 容器 に入 れ,室 外 に出 る前 に蓋 をす る。

B2 放 置 す る と腐 敗す る廃 棄物 をす ぐに処置 しない

場合,こ れ らを貯 蔵 す る冷凍 庫 を設置 す る。

B3 防虫,防 鼠 。

C.安 全 器具 ピペ ッ ト操作 器具 の み

D.作 業 室

D1 清掃 しやす い よ うに設計 ・設置 。床 材 は継 目が

な い こ と。壁 ・床 ・天 井 の突 きあわせ は丸 く収 め

る こ と。

D2 作業 台表 面.水 ・酸 ・アル カ リ ・有機 溶媒 ・中

等 度 の熱 に耐性 の こ と。

D3 家具 類 ・堅 固 で清 掃 しや す い こ と。

D4 手洗 器(手 洗 い用流 し)

D5 窓 の開 く作業 室 に は防 虫網

D6 同 じ建物 内に オー トク レー プ

2) P2レ ベル

P2レ ベ ル は中等 度の病 原性 を有 す る病 原体 等 に

適用 す る。P1レ ベ ルの作 業 室 に要求 され るこ との

他 に,

① 作業 者 は予 め必要 な教 育 ・訓 練 を受 け,微 生 物

学 的知識 を十 分 に持 っ た者 の監督 の 下 に作 業 す

る。

② 作業 中は,関 係者 以外 は立 入禁止 。

③ 汚染 エ ア ロゾル の発生 しや すい作 業 は安 全 キ ャ

ビネ ッ トを使 用 す るが,そ の他 の作業 は卓 上 で

行 う。

A.基 準操 作

A1 作業 中は閉 扉。作 業 中 は,関 係 者 以外 は立 入 禁

止 。

A2 作業 台清 拭。 毎 日。病 原体 等 が こぼ れた時 はそ

の都 度 。 ポ リエチ レン等 で裏 張 りした テー ブル カ

バ ー は清掃 を容 易 に し,汚 染 エア ロ ゾル 発生 を少

な くす る。

A3 液体,そ の他 の汚染 廃 棄物,お よび動 物 とその

廃 棄物 。廃 棄 また は再 利 用 前 に除染 。

A4 ピペ ッ ト操作 器具 の使 用。 口 を使 った ピペ ッ ト

操作 の 禁止 。

A5 作 業 室 内で の飲 食 ・喫 煙 ・食物 貯蔵 ・化粧 の禁

止 。

A6 作業後,退 室 前 に手洗 。

A7 汚染 エ ア ロゾル発生 を少 な くす るため,注 意深

い作 業 を行 う。

B.指 定操作

B1 汚染物 を作業 室外 に運搬 す る場 合,堅 固 な洩 れ

の な い容器 に入 れ,室 外 に 出 る前 に蓋 をす る。

B2 防 虫,防 鼠。

B3 作 業 中の 入室 者 には,作 業 責任 者 の許 可 を必要

とす る。小 児 ・妊婦 ・免疫 不 全 の者 は危 険 性が高

い と考 え られ る。

作 業 責任 者 は,誰 が 何 時入 室 で き るか を決 め る

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最 終責任 を持 つ 。

B4 作業 責任者 は,入 室 す る者 に対 して,危 険性 の

存在 を知 らせ,入 室 条件 を満 た した者 のみが 入室

で きる こ とを教 える。作 業 責任 者 は,入 室 に際 し

必 要 な条 件 ・入 室方 法 を文 書で 示す 。

B5 病 原体 等 の存 在す る作 業 室等 に万 国共 通のバ イ

オハザ ー ドマ ー クを表示 す る。 これ に は,作 業 責

任者,病 原体 名,入 室 に必要 な条 件等 を付 記 す る。

病 原体等 を含 む,あ るい は付 着 す る可能性 の 高 い

容器 ・機 器 に もバ イオハ ザ ー ドマ ー ク を表 示す る。

B6 作 業衣 着用 。着 用 の ま ま,区 画外 にで ない こ と。

B7 作業 に 直接 使 用 しな い動 物 を作 業 室 に入 れ な

い。

B8 病 原体 が皮 膚 に触 れ な い よう特 に注 意す る。 病

原体等,お よび感 染動 物 の取 扱 い には手袋 を使 用

す る。

B9 すべ ての作 業廃 棄物 は廃 棄 以前 に除染 す る。

B10 遠心 ・磨 砕 ・破砕 ・振盪 ・混 和,超 音波処 理,

内圧 が常圧 で な い病原 体 容器 の開栓,動 物へ の噴

霧,動 物や 卵 か らの病 原体 採取,濃 縮 また は大量

試料 の取扱 はすべ て安 全 キ ャ ビネ ッ ト内で行 う。

B11 注射 針 はで きる限 り使用 しな い(注 射 や採 血 に

はや む をえな い)。使 用後 は注射 針 を はず す こ とな

く,直 ちに穴 の あか ない容 器 に入れ る。廃 棄 以前

に除染 す る(オ ー トク レープが望 ま しい)。

B12 よ りPレ ベル の 高 い作 業 を同時進 行 させ る場合

に は高 い方 のPレ ベ ル に あわせ る。

B13 感 染性 の 消失 した抗 原 を使 用 す る血 清反 応 は卓

上 で行 っ て よい。

B14 こぼ れ,事 故,そ の他,感 染事 故 の可 能性 の あ

る場 合 に は,た だ ち に作 業 責任者 に報 告 し,記 録

(事故 の内容,原 因,暴 露 され た可能 性 の あ る も

の,処 置 法)を 残 す 。作 業責 任者 は,適 切 な処 置

を とる。

B15 作業 者 の就 労 前,お よび就 労後 は定期 的 に採 血

し,保 存 す る。

B16 作業 に伴 う災害 の可 能性,安 全対 策上 必要 な用

件 を記 載 したマ ニ ュアル を作成 す る。作 業者 は こ

れ を熟読 し,そ の指 示 に従 う。

C.安 全器 具

C1 生物 学 用 ク ラスⅠ,Ⅱ 安 全 キ ャビネ ッ トを設置

す る。 感染 性 の あ るエ ア ロ ゾル を発 生 す る可 能性

の高 い操作 に使 用 す る。 この操 作 には,遠 心,磨

砕,破 砕,激 しい振 盪 ・混 和,超 音波 処 理,ピ ペ

ッ ト操 作圧 力,真 空容 器の 開蓋,動 物 の 鼻腔 内接

種,動 物 や卵 か らの検 体採取 を含 む。

C2 遠 心機 につい て は,ロ ータ また はバ ケ ッ トに安

全蓋 が あ り,そ の開 閉 を安 全 キ ャビネ ッ ト内で行

う場 合 に は,作 業 室 内 に設 置す るこ とが で きる。

D.作 業 室

D1 清掃 しや すい ように設計 ・設 置。床 材 は継 目が

な い こ と。壁 ・床 ・天 井 の突 きあ わせ は丸 く収 め

るこ と。 突 き合 せ 部位 に継 ぎ目が ない こ と。

D2 作業 台表 面 。水 ・酸 ・アル カ リ ・有機 溶 媒 ・中

等 度 の熱 に耐性 の こ と。

D3 家具 類 ・堅 固で清 掃 しやす い こ と。

D4 手洗 器(手 洗 い用流 し),手 術 室用 が望 ま しい。

D5 窓 の開 く作業 室 に は防虫網

D6 同 じ建物 内 にオ ー トク レープ

3) P3レ ベ ル

高 度 に危険 な病 原体 に適 用す る。作 業者 は十 分 な

教 育 ・訓練 を受 け,安 全の確 保 に十分 な知 識 と経験

の あ る科 学者 の監督 の 下 に作 業 す る。 作業 責任 者 の

許 可 な く入室 はで きない。 全作業 は安 全 キ ャビネ ッ

ト内,ま た は安全対 策機 器 内で行 う。 作業 室 に は特

別 な構 造 と設備 が 必要 で あ る。

A.基 準 操作

A1 作 業 中 は閉扉。

A2 作 業 台清拭 。毎 日。 病原体 等 が こぼれ た時 は そ

の都 度。 ポ リエ チ レ ン等 で裏 張 りした テーブ ル カ

バ ー は清掃 を容易 に し,汚 染 エ ア ロゾル 発生 を少

な くす る。

A3 液体,そ の 他の 汚染廃 棄物,お よび動物 とその

廃 棄物 。廃 棄 または再利 用前 に除染。

A4 ピペ ッ ト操作 器具 の使 用。 口を使 った ピペ ッ ト

操 作 の禁止 。

A5 作業 域 内で の飲食 ・喫 煙 ・食物貯 蔵 ・化粧 を禁

止 。

A6 作業後,退 室 前 に手洗 。

A7 汚染 エ ア ロゾル発 生 を少 な くす るよ うに,注 意

して作業 を行 う。

B.指 定操作

B1 作 業 に必 要 な者以外 は入室 で きな い。入 室 を許

可 され る者 は個別 に作 業 責任者 が最 終 責任 を もっ

て判 断 す る。

B2 作 業責 任者 は,入 室 す る者 に対 して,危 険1生の

存在 を知 らせ,入 室条 件 を満 た した者 のみ が入 室

で きるこ とを教 え,入 退室 に際 し必 要 なすべ て の

手技 に従 うこ とを確 認 す る。

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B3 病 原体 の 存在 す る作業 室等 に万 国 共通 のバ イオ

ハザ ー ドマ ー ク を表 示 す る。 これ には,作 業 責任

者,病 原体 名,入 室 に必要 な条件 等 を付 記 す る。

病原 体 等 を含 む,あ るい は付 着 す る可能 性 の高 い

容器 ・機 器 に もバ イオハ ザー ドマ ー ク を表 示 す る。

B4 生 きた病 原体 等 を扱 う開放 操作 はすべ て安 全 キ

ャビネ ッ トまた はこれ に替 る安 全対策 機 器 内で行

う。 開 放操作 を卓上 で行 って はな らな い。

B5 作 業 台,安 全 キ ャ ビネ ッ ト,そ の 他の 室 内の清

拭 。 毎 日。病 原体 等 が こぼれ た時 は その都 度 。 ポ

リエ チ レン等 で裏 張 りした テーブ ル カバ ー は清掃

を容 易 に し,汚 染エ ア ロゾル 発生 を少 な くす る。

B6 防虫,防 鼠 。

B7 作 業衣 着用(前 ボタ ンは不適)。 着用 の まま,室

外 にで な いこ と。 作業 衣 を室外 に出す 前,洗 濯 前

に除 染 す るこ と。

B8 病 原体 や,感 染 動物 の取 扱 に は手袋 を使 用。 手

袋 を脱 ぐ時 に は無 菌操 作 に従 い,汚 染廃 棄 物 と し

て処 理 す る。

B9 感 染動 物 を扱 う作業 には不織 布性 マ ス ク を使 用

す る。

B10 作業 に直接 使用 しな い動 物 ・植物 を作 業 室 に入

れな い。

B11 作業 室 ・動 物作 業室 か らで る廃 棄 物 は,廃 棄 ・

再 利 用前 にす べ て除染 す る。

B12 真 空 配管 等 に はHEPAフ ィル タ と液 体 溜 め を

備 える。

B13 注射 針 はで きる限 り使 用 しない(注 射 や採 血 に

はや む をえ ない)。使 用後 は注 射針 をはず す こ とな

く,直 ちに穴 の あか ない容器 に入れ る。廃 棄 以 前

に除染 す る(オ ー トク レー プが望 ま しい)。

B14 よ りPレ ベル の 高 い作 業 を同時 進 行 させ る場合

には高 い方のPレ ベ ル に あわせ る。

B15 感 染性 の消失 した抗 原 を使 用 す る血 清反 応 は卓

上 で行 って よい。

B16 こぼ れ,事 故,そ の他,感 染事 故 の可 能性 の あ

る場 合 には,た だ ち に作 業責 任者 に報 告 し,記 録

を残 す 。作業 責 任者 は,適 切 な処 置 を とる。 作業

責任 者 は適切 な医学上 の予 防 ・監視 ・治療 態 勢 を

準備 して お くこ と。

B17 作 業者 の就 労 前,お よび就 労後 は定 期 的 に採 血

し,保 存 す る。

B18 作 業 に伴 う災 害の 可能性,安 全対 策上 必 要 な用

件 を記載 したマ ニ ュアル を作 成す る。 作業 者 は こ

れ を熟読 し,そ の指示 に従 う。

C.安 全器具

C1 生 きた病 原体 等 を取 扱 うすべ て の作業 は生 物学

用 安全 キ ャ ビネ ッ ト,あ るい は これ に替 る封 じ込

め機 器等 を使 用 して行 う。

C2 P3レ ベル を必要 とす る作 業 も,次 の3条 件 を

満足 す れば,P2レ ベル 作業 室 で行 って もよい。

① すべ ての操 作 を生物 学 用 ク ラスⅢ 安全 キ ャ ビネ

ッ ト内で行 う。

② 生 物学 用 ク ラスⅢ 安 全 キ ャ ビネ ッ トか ら取 出す

もの はす べ て付 属 す る オ ー トク レー プ を通 す

か,あ るいは堅 固 な密封 容 器 に入れ て消 毒剤 の

入 った浸 漬 タ ン クを通 して取 出す。

③ 他 のすべ ての点 でP3の 要件 をみ たす。

D.作 業 室

D1 作業 室 は一般 通路 か ら次 の いず れか の方法 で隔

離 され て い るこ と。

① 扉/更 衣 室+シ ャ ワー/扉

② エ ア ロ ック

③ 扉/通 路/扉

いず れ の場合 に も昆 虫の 通過 に対 して対策 を取

る こ と。

D2 床 ・壁 ・天井 面 は耐水 性 で清掃 しやす い こ と。

これ らの面 の 間隙 ・貫 通 孔 は密 閉す るか,密 閉 し

や す い構 造 で あ るこ と(空 調 に よ り室 内が陰 圧 と

な る)。

D3 作 業 台表面 。水 ・酸 ・アル カ リ ・有 機溶 媒 ・中

等度 の熱 に耐 性の こ と。

D4 家 具類 。 堅固 で清掃 しやす い こ と。

D5 出 口近 くに肘,脚,ま た は足 で操 作 で きる手洗

器 を設置 す る。

D6 窓 は閉鎖,密 閉す る。

D7 P3区 画へ の扉 は 自動 閉鎖,自 動 施錠 とす る。

こ こで は ドア チ ェ ック をつ け,開 放状 態 にな ら

な い ようにす る との意 味。 多 くの 電動 式扉 は密 閉

度 が 悪 く,か え って不 向 きで あ る。 また,締 込 み

式 の ドア ノブ は密 閉度 の点 で は よいが,閉 め ない

人が 多 くな る傾 向 に あ りどち らが よ り安 全 か分 か

らな い。

D8 同 じ建物 内にオ ー トク レープ 。除 染用 の オー ト

ク レープ は作業 室 内 にあ る こ とが望 ま しい。

D9 排気 システ ム を有 す る こ と。排 気 システ ム は,

室 内 に向 か って流 れ 込 む気流 を作 る こ と。作 業 室

の 排気 は,他 の 区域 に再利 用 され ない 限 り,建 物

の共 通 排気 に取 込 んで よい。 また,作 業 室 内空気

の再 利 用(再 循環)は 行 って よい。 安全 キ ャ ビネ

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ッ ト以 外 の室 内空気 は,処 理せ ず に直接 排気 して

よい。 排気 口か ら出 た排気 は外 気 で希釈 され る よ

うに設計 す る。 作業 台 表面 。水 ・酸 ・アル カ リ ・

有 機溶 媒 ・中等 度 の熱 に耐 性の こ と。

D10 排気 設備 を持 つ作 業 室 で は,給 排 気 が連動 し,

作 業 室 内に向 か う気 流 が確 保 され る こ と(停 止 時

に は静止)。

D11 生物 学用 クラスⅠ,Ⅱ 安 全 キ ャビネ ッ トの排気

は,

① 直接 外気 に

② 建物 の排 気系 に,ま た は

③ 作業 室 内 に,排 気 す る。

建物 の排 気系 に排気 す る場合 には,キ ャ ビネ ッ

ト間や,建 物排 気 との 間 に相 互 作用 が あ って はな

らな い。

4) P4レ ベ ル

きわ めて危 険,ま た は国 内 にない病 原体 の取 扱 に

適用す る。 こ こで作業 す る者 は,当 該 病原体 とそ の

作 用,P4レ ベル にお け る作業 基 準,技 術,P4作

業 室の特 性 ・機 能 を十 分 身 につ けて い るこ と。 これ

らの条件 をすべ て具 え た作業 責任 者 の監督 の下 に作

業 す る。P4区 画 への 出入 りは厳 重 に制 限 す る こ と。

各 区画 につ いて十 分 なマ ニ ュアル を作 成 し,遵 守 す

る。

A.基 準操 作

A1 作業 台清 拭。 毎 日。 病原体 等 が こぼ れた時 はそ

の都度 。

A2 ピペ ッ ト操作 器具 の 使用 。 口を使 った ピペ ッ ト

操 作 の禁止 。

A3 汚染 エ ア ロゾル 発生 を少 な くす るた め,注 意深

い作業 を行 う。

B.特 殊操 作

B1 生物 活性 の あ る もの を生 物学 用 ク ラスⅢ 安 全 キ

ャ ビネ ッ ト,P4作 業域 か ら外 に出す時 は,こ わ

れな い一次 容器 に入れ,さ らに こわれ ない二 次容

器 に入れ てか ら,消 毒剤 の入 った浸 漬 タ ンク,あ

るい は噴霧 消毒 箱等 を通 して搬 出す る。

B2 目的 とす る生 物活 性 の あ る試 料以 外 はすべ て オ

ー トク レープ等 の 方法 で 除染す るこ とな しにP4

作 業域 か ら搬 出 しな い。高熱 に耐 えな い もの はガ

ス また は蒸 気 に よって 除染 す る。

B3 P4区 画 あ るい は各作 業 室の 作業 に直接 関係 す

る者 のみが 入室 で きる。

① 作業 に必 要 な者以 外 は入 室で きない。 入室 を許

可 され る者 は個 別 に作業 責任 者 が最 終 責任 を も

って判 断 す る。

②作 業 責任者 は,入 室す る者 に対 して,危 険 性 の

存在 を知 らせ,入 室条件 を満 た した者 の みが 入

室で きる こ とを教 え,入 退室 に際 し必要 なすべ

ての 手技 に従 うこ とを確 認 す る。

B4 P4区 画 に入 室す る時 は,下 着 ・靴下 に至 る ま

で脱衣 し,退 出時 に髪 に シャワー を浴 び ない もの

は,シ ャワー キ ャ ップ をつ け る。

B5 P4区 画 か ら退 出す る時 は,シ ャ ワー を浴 び,

着衣 を交換 してか ら,退 出す る。退 出時 には,作

業衣 等 をシ ャワー室 の 内側 に残 す。 エ ア ロ ックは

緊 急時 以外 に は使 用 しない。

B6 病 原体 等 の存在 す る作業 室等 に万 国共 通 のバ イ

オハザ ー ドマー ク を表 示 す る。 これ には,作 業責

任者,病 原体 名,入 室 に必 要 な条 件等 を付 記 す る。

病 原体等 を含 む,あ るいは付着 す る可能性 の高 い

容器 ・機 器 に もバ イオハザ ー ドマ ーク を表 示 す る。

B7 物 品 の 出 し入 れ は,2重 扉 オー トク レー プ,噴

霧箱,あ るい はエ ア ロッ クを通 して行 う。両 方 の

扉 を同 時 に開 けて はな らない。(D11参 照)

B8 防虫,防 鼠 。

B9 作業 に 直接 使 用 しな い もの を作 業 室 に入 れ な

い。

B10 注射針 はで きる限 り使 用 しない(注 射 や採 血 に

はや む をえな い)。使 用後 は注射 針 を はずす こ とな

く,直 ち に穴の あか な い容器 に入 れ る。 廃棄 以 前

に除染 す る(オ ー トク レープが 望 ま しい)。

B11 感 染動 物 を扱 う作業 には不織 布性 マ ス クを使用

す る。

B12 こぼ れ,事 故,そ の他,感 染 事故 の可 能性 の あ

る場 合 に は,た だ ちに作業 責任 者 に報告 し,記 録

を残 す 。作業 責任 者 は,適 切 な処置 を とる。 作業

責任 者 は適切 な医学上 の予 防 ・監視 ・治療 態 勢 を

準備 してお くこ と。

C.安 全器具

C1 すべ ての作 業 は生物 学 用 クラスⅢ 安全 キャ ビネ

ッ ト内 で行 う。

例 外1:体 全体 が 入 る陽圧作 業服 を使 用 す る場

合 に は,生 物 学 用 クラスⅠ,Ⅱ 安全 キャ ビネ

ッ トを使 用 で き る。

例 外2:有 効 な ワクチ ンが あ る場 合 に は,ワ ク

チ ン接種 を受 けた作業 者 は陽圧 作業 服 な しに

生物 学用 クラスⅠ,Ⅱ 安全 キ ャ ビネ ッ トで作

業 で き る。

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D. P4区 画

D1 P4区 画 は独立 家屋,ま たは明確 に区別 され た

建物 の1部 とす る。シ ャワー室 の両 側 に更衣 室(室

外衣 用,作 業 衣用)を 設 け る。 ものの 出入 れ用 に,

2重 扉 オー トク レープ,噴 霧箱,エ ア ロ ック等 を

設置 す る。

D2 作業 室 内面 は完 全密 閉 とす る。床 に排水 口 を設

け る場 合 には,消 毒 剤 の入 った トラ ップ をつ け,

さ らに排 水処 理 タ ンクに直接 接 続 す る。給 排気 装

置 にはHEPAフ ィル タを装置 。

D3 作業 室 内面,お よび 装置 ・器具 はほ こ りの た ま

る水平 上面 をな るべ く避 け る。

D4 作業 台表 面 に は継 目がな い こ と。 水 ・酸 ・アル

カ リ ・有機 溶媒 ・中等度 の熱 に耐 陛の こ と。

D5 家具 類。 堅 固で清拭 しやす いこ と。

D6 出 口近 くに肘,脚,ま た は足 で操作 で き る手洗

器 を設 置 す る。

D7 真 空 ライ ンを設置 す る場 合,

① 各 コ ックに で き るだ け近 い とこ ろ にHEPAフ

ィル タ を配置 す る。

②P4区 画 内の みで独 立 した系 統 とす る。

③HEPAフ ィル タ は その まま除 染 で き る こ と。

液 体 ・ガ スの配 管 は逆流 の ない 設計 で あ るこ と。

D8 飲 料水 用 蛇 口は足 で操作 で きる こ と。作 業室 内

には置 か ない こ と。 配管 は独 立 と し,逆 流 防止

装置 がつ いて いて も,他 の給 水管 と接 続 して は

な らな い。

D9 P4区 画へ の扉 は 自動 閉鎖,自 動 施錠 とす る。

D10 窓 は密 閉 と し,破 損 しない こ と。

D11 2重 扉 オ ー トク レー プの外 扉 は滅 菌終 了後 の み

開 く構 造で あ るこ と。

D12 通過 型浸 漬 タ ンク,噴 霧箱 はオー トク レープ に

か け られ ない もの をP4区 画 か ら,取 出す 際 に

用 い る。

D13 作業 室 の流 し,安 全 キ ャビネ ッ ト,作 業 室 床,

オ ー トク レープ か らの 排液 は,す べ て熱 処 理す

るこ と。 シャワ ー室 と便 所 の排 液 は化学 処 理 ま

た は熱 処 理す る。熱 処理 ・化 学処 理 と もに生物

学 的 ・物 理的 方法 で有効 性 を モニ タす る こ と。

D14 給 排気 シス テム は他 の部 屋等 に対 して独 立 とす

る。外 か ら一 番危 険性 の高 い と思 わ れ る方 向 に

気流 が流 れ る ようにす る。空 間 の気圧 差 測定 に

マ ノメー タ を配 し,異 常 の あ る場 合 は警報 を作

動 させ る。 給排 気 シス テム は連 動 と し,室 内へ

の 気流 方 向 を確保 す る。

D15 HEPAフ ィル タ濾 過 した 空気 は室 内で再 利 用

して よい。

D16 P4区 画 の 排 気 はHEPAフ ィ ル タ で 濾 過 す

る。HEPAフ ィル タ はフ ィル タ箱 内 で 除染 で

き,汚 染 ダク トを最小 にす る位置 に配 置 す る。

給排 気 シス テム の事故 に よ り発生 し得 る逆 流 に

対処 す るため,給 気 側 に もHEPAフ ィル タ を

配置 す る。

D17 生物学 用 ク ラスⅠ,Ⅱ 安全 キャ ビネ ッ トの 排気

は作業 室 内 に放 出す るか,あ る いは,作 業 室 の

排 気系 を通 して,外 界 に放 出 して もよい。 生物

学 用 ク ラスⅢ 安 全 キ ャ ビネ ッ トの排 気 は再利 用

す るこ とな く直接放 出す るか,作 業 室 に排気 系

を通 して放 出 す る。 排気 系 を通 して放 出す る場

合 に は,安 全 キ ャビネ ッ ト間,作 業 室 との 間 に

干渉 が お きな い こ とを確 認 す る。

D18 "宇 宙服"作 業 室 は完全 密 閉 と し,排 気 は2重

HEPAフ ィル タ濾 過す る。宇 宙服 は着 た まま化

学 シ ャワー と除染 が 可能 な こ と。 電気 ・空気等

のバ ックア ップ シス テム を完 備す るこ と。

(2)安全 確保 の ため の設備 ・器 具

病 原体等 を取 扱 う作業 施 設,作 業 室 に関係 す る安

全確 保 の ための,設 備 ・器 具 等 は以下 の表 の とお りで

あ る。

防災器具

建物に付属する器具

緊急時照明施設,消 火器

防災シャワー,洗 眼器

備品等

消防服,化 学消防服,消 防毛布,

人工呼吸器 懐中電燈,救 急箱

貯蔵庫,冷 蔵庫,冷 凍庫:耐 震,

防爆設計

滅菌器具

高圧蒸気滅菌器,エ チレンオキサイ ドガス滅

菌器,焼 却滅菌器

エアロゾル,ガ スを隔離するための設備

生物学用安全キャビネット

ドラフト

作業者の身につける装備等

作業衣,手 袋,マ スク,保 護眼鏡

放射線モニタ

作業者が使用する器具等

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実験器具の選択:エ アロゾル発生器具の構造

遠心器,超 音波破砕器,破 砕器,

磨砕器等

撹挫器

ピペット操作器具

実験用器材の選択

鋭利な刃物,破 損 した時に鋭利になる

ものの使用を避ける。

ガラス器具はなるべ く使用しない。

注射針,刃物はなるべ く使用しない。

1) 防災 器具 にあ げた多 くの 設備,備 品 は消 防法 な

ど に よって規定 されて お り,病 原体等 を取 扱 う作業 施

設 ・室 に特 異 的で は ない。

これ らの うち,可 燃 性 有機 溶媒 の保 存用 の貯 蔵庫,

冷蔵 庫,冷 凍 庫 には防爆 設計 が望 ま しい。

2) 滅 菌 器具 は必須 で ある。通 常 の施 設で は,市 販

の もの をその ま ま使 用 で きる。 しか しな が ら,滅 菌 器

の性 能 を化 学的,あ るい は生 物学 的 な方法 を用 い 常 に

モ ニ タす る こ とが必 要 であ る。

と くに危 険 な 病 原体 等 を扱 うP4レ ベ ル の 施 設 で

は,滅 菌 器 か ら最 初 に排 出 され る気体 の 中 に未滅 菌 の

病 原体 が混 入す る可 能性 が高 いの で,そ の対 応 も必 要

にな る。

3)病 原体 等 を取扱 う施 設 で は,化 学 物質,RI等 を

も使 うこ とが多 いの で,そ の 両方 に対処 す るこ とが 必

要 で ある。

① ドラフ ト。 化学 物質 対策 。原 則 と して病 原体等

を扱 わな い。

② ク リー ンベ ンチ。病 原体 等 を扱 わな い。ベ ンチ

内で発 生す るエ ア ロ ゾル は作業 者 に向か って 吹

出 して くるので,卓 上 で作 業 す る場合 よ り危 険

で あ る。 その ため,病 原体 等 を扱 わ ない場 合 で

も,株 化 されて い ない細胞,動 物材 料,検 体 と

しての血 清 な どの取 扱 には使 うべ きで は ない。

ク リー ンベ ンチ を使 え る作 業 と して は,培 地 の

調整,病 原体 等 の混 入が な いこ とが わか って い

る株 化細 胞 の取扱 いな どで ある。

③ 生物 学用 安 全キ ャ ビネ ッ トはク ラスⅠ,Ⅱ,Ⅲ

の3種 に大別 され る。髄いず れ も病 原体等 の取 扱

い に際 し発生 す るエ ア ロゾル を作業 領域 に封 じ

込め るため の機 器 で あ る。 生物 学用 クラス1,

Ⅱ安 全 キ ャビネ ッ トは前面 に作業 用 の 開 口部 を

有 し,流 入気流 に よって作業 室へ の エ ア ロゾル

漏 出 を防 ぎ,HEPAフ ィル タ に よって排 気 中の

エ ア ロゾル を取 り除 く。生 物学 用 ク ラスⅢ 安 全

キャ ビネ ッ トは機 器 に装着 され た手 袋 を通 して

作業 す る密封 型 のキ ャ ビネ ッ トで あ る。

a. 生 物学 用 ク ラスⅠ 安 全 キ ャビネ ッ ト:作 業領

域 に清浄 空間 を要求 しな い場合 に使用 す る。 エア ロ

ゾル を発 生す る機 器 は この 中で使 用 す る こ とが望 ま

しい。機 器 に合 せ て設計 す るこ と も可 能 で あ る。

b. 生物 学 用 クラスⅡ 安 全 キャ ビネ ッ ト:作 業領

域 に清 浄 空間 を必要 とす る場 合 に使用 す る。作業 空

間 に供 給 す る清 浄 空気 と,キ ャ ビネ ッ トに取込 まれ

る流 入気流 のバ ラ ンスが 微妙 な ので,米 国,日 本,

ヨー ロッパ 各 国 には,国 単位 の統 一規格(後 述)が

発 表 され てい る。製 作者 の みの性 能保 証 はか え って

危 険 であ る。

C. 生物 学用 クラスⅢ 安全 キ ャ ビネ ッ ト:特 に危

険度 の高 い病原体 等 の取 扱 いや特殊 目的の作 業(例

えば感 染動 物の取 扱 い)等 に使 用 す る。 目的 に応 じ

た設計 が必 要 な こ とが多 く,統 一規 格 を作 るこ とは

きわ めて困難 で あ る。

4) 作業 者 の身 につ け る装備等

① 作業 衣: P1,P2で は前 開 きで よいが,P3,

P4で は前 開 きは よ くない。P3,P4で は露

出 した皮 膚 を少 な くす る工 夫 が必要 で あ り,空

調 との 関係(長 袖 で作 業 す るには22~24℃ 以 下

に設定 す るこ とが必要 で,コ ス トが増大 す る)

を よ く考 え る必要 が あ る。P2で 半 袖 を使 え る

か どうかは作業 内容 に よろ う。 作業衣 の長 さ に

つ いて も,作 業 内容 との関係 で検 討 すべ きであ

る。

② 手袋:手 術 用 の手 袋 は操作 性 は よいが高価 で あ

る。 多 くの場合 は よ り安価 なプ ラス チ ック製 手

袋で よいが,こ れ らは手首 まで の ものが 多 いた

め,P3作 業 に は疑 問 が あ る。 穴が あ いた り,

破 れ た りす る もの は避 け るべ きで あ る。

③ マス ク:不 織 布 製 のマ ス クを使用 す る。 多 くの

場 合,使 用 者 を特定 で きる ように してお けば,

再 使用 も可 能 で ある。

④履 き物:一 般通路 か ら,作 業 区画 に入 る ところ

で履 き物 を交換 す る こ とが望 ま しい。P3,P

4区 画 に入 る ところで は もう1度 交換 す る。 露

出 され る足 の面積 か ら,履 き物 はサ ン ダル,靴,

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長靴 の うち適 当な もの を使用 す る。P3,P4

区 画で はサ ンダル は不可 。

⑤ 保護 眼鏡:主 に化 学物 質 用。 皮膚 に密着 す る も

の。 コ ンタク トレンズ使 用者 は,レ ンズ と角膜

の 間 にガスが 入込 み,予 想外 の失 明事 故 を起 こ

す こ とが あるので特 に注意 。

5) 作 業 者が使 用 す る器具 等

① エ ア ロゾル を発生 す る器具

a .遠 心 機:遠 心 機 はエ ア ロ ゾル 発生 を起 こ しや

す い。 遠心機 か らのエ ア ロゾル 発生 はい くつ か

に分 けて考 える必要 が あ る。

a1 遠心 管の 密 閉。病 原体 等 を扱 う者 は遠心

管 は密閉 してい るの が 当然 で あ る と考 え

て い るであ ろ う。 しか しなが ら,遠 心 管

を入 れ るバ ケ ッ トの 中が 汚れ て い る こ と

は 日常茶飯 事 で あ る。 す なわ ち,密 閉 は

完 全 とは言 えな い こ とが 多 い。 密 閉度 の

高 い遠 心管 を使 用 す る。遠 心管 の 中 に入

れ る液 量 の上 限 ・下限 を設 定 す る。 超 遠

心機 で は溶 封遠 心管 を推 奨 す る。

a2 遠 心管 の破 損。 遠心 管 が破損 した経 験 の

ない作 業者 は少 な いで あ ろ う。破 損 す る

可 能性 の高 い遠 心管 は使 用 しない。 ガ ラ

ス製 は止 め て,プ ラス チ ック製 を使 用 す

る。

a3 バ ケ ッ ト,ロ ー タの 密閉 度。 バ ケ ッ トは

開放 製 の ものが 多 い。超遠 心機 の水 平 ロ

ー タの バ ケ ッ トの 密 閉度 は きわ め て 高

い。 使 いやす い密 閉型 のバ ケ ッ トを開発

してほ しい。 ア ングル 型 の ロー タは蓋 を

してね じこむ もの が 多 く,密 閉で あ る と

考 えて い る ものが 多 いが,実 際 には ロー

タの蓋 の高 さの位 置で遠 心 チ ェ ンバ の 内

側 をぬ ぐうとかな りの 汚れ が で る。 これ

は試料 が遠 心管 か ら出 て,バ ケ ッ ト内 に

止 ま らず,ロ ー タ か ら も漏 出 した こ とを

示 してお り,作 業 室 内 に大量 の エ ア ロゾ

ル が放 出 されて い る こ とを示 して い る。

超遠 心機 を使 う場 合 は,安 全性 の面 か ら

言 えば,水 平 ロー タ を推奨 す る。

a4 超遠 心機 の場 合,と くに注 意 が必 要 で あ

る。

a5 遠 心機 の チ ェ ンバ か らの 排 気 をHEPA

フ ィル タで濾 過 した り,チ ェ ンバ 内 を ホ

ル ム アル デ ヒ ドガス滅 菌 した りす る装 置

が 市販 されて い る。前 者 はP4作 業 室 で

は効 果 を期 待 で きる。 後者 は,チ ェンバ

内 のエ ア ロ ゾル 濃 度が 高 いの は遠 心 直後

で あ り,滅 菌 に必要 な時 間 は24時 間で あ

るので,遠 心 が 終 了 してか ら24時 間は と

りだ せ な い こ とにな る。

b.超 音波 破 砕器,破 砕 器,磨 砕 器等:密 閉 型 の

機器 を選 択 す る。や む をえず 開放 型の機 器 を使

用 す る場 合 に はキ ャ ビネ ッ ト内で使 用す る。

c.撹伴 器:小 型 の機 器 は キ ャビネ ッ ト内で使 用

す る。

d.個 々の機 器 をすべ て安 全 キ ャ ビネ ッ トに収 容

す る こ とが理 想 で あ るが,余 りに も高 価 とな り,

実用 的で は な い。便 法 と して,P2,P3レ ベ

ルで は,作 業 室の 中 に小 区画 を作 り,エ ア ロゾ

ル 発生機 器 を収 容 す る。作 業者 は区画 の外 か ら

操 作用 開 口部 を通 して,機 器 を操作 す る。 作業

室 の 排 気 を この 区 画 の 中 か ら取 る こ とに よっ

て,こ の 区画 の入 口 とな る操作 用 開 口部 に外 向

きの気流 を維 持 し,作 業 者 の安 全 を確保 す る。

この方法 は,比 較 的 安価 で 実施 しや す い。

② ピペ ッ ト操作 器具:口 を用 い た ピペ ッ ト操作 を

行 わな いた め に きわ め て多様 な器 具 が開 発 ・市

販 され て いる。

(3)封じ込 め施 設の 設計

1) 用語

①施 設,区 画,室,作 業 域,作 業 領 域

a .施 設:こ こで は施 設 とは,一 般 通行路 か ら一

応 区別 された 区域 を い う。

この中へ 入 る時 は,病 原 体等 を取 扱 う施 設 で

あ るこ とを明示 した標識 が あ る こ と。た とえ ば,

○ ○微 生物研 究 所,ウ イル ス学教 室 の看板 な ど。

必 ず しも一般 の 通行 を制 限 して な くて もよい。

施設 の 中 には,事 務 室,食 堂,文 書作 業 室,空

調機 器室,便 所 な ど も存在 し得 る。

b.区 画:作 業 室,機 械 室,洗 い場,貯 蔵 庫,暗

室等 を含 み,病 原体 が存在 し得 る区域 をい う。

c.室:実 際 に病 原体 等 を開放系 で取 扱 う作 業室 。

d.作 業 域: P1レ ベル で は,室 内 に区域 を制 定

し,病 原体 等 を取扱 う作業 を行 う区域(作 業 域)

と,文 書作 業 区域 を同 居 させ る こ とが で きる。

e.作 業領 域:卓 上,あ るいは安 全 キ ャ ビネ ッ ト

内の病 原体 等 が開放 性 に存在 す る区域。

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2) 施 設 の設計

①共 通事 項

a .防 災 施 設。 防災 器具 の項 で述べ た。 しか しな

が ら,Pレ ベル の 高 い作 業 区画 で は,防 災面 を

強調 す る こ とがだ んだ ん難 し くな る。た とえば,

入室制 限 を強 くして関係 者外 に事 故 の起 る可 能

性 を少 な くしよう とす れば,入 退 室 に時 間が か

か り,災 害 時 の避難 には不利 で あ る。 また作業

の 目的別 に小部 屋 を多 く作 る傾 向 にあ るため,

各 室 に防災 設備 を個 別 に設 け る と初期 コス トが

増大 す る。(防 災 シャ ワー,洗 眼器 等)

b.作 業 区画外 設 備 と,作 業 区 画内 設備 の振分 け。

b1 P1レ ベ ル で は,同 一室 内 に共存 で きる。

b2 P2~4レ ベ ル では共存 で きない。 作業

区画 外 に文書作 業 室,飲 食 ・喫煙 ・食物

貯 蔵 ・化粧 等 を行 う場所 が 必要 。 区画 内

外 の連 絡法 。作 業 時間 の長 い場合 には,

便 所 を区 画 内に設備 す るか どうかの検 討

を行 う。

c.窓 の 開 く作 業 室 には防 虫網。 作業 中 は閉鎖 す

るの が通 常 で あ る。従 って,な ん らか の空調 設

備が 必要 とな る。

d.手 洗 器(手 洗 い用流 し)

e.防 虫,防 鼠,出 入 口,窓 な ど。

f.同 じ建物 内に滅 菌用 設備(オ ー トク レープ等)。

P3以 上 で は作 業 室 に必要 とな るこ とが 多 い。

g.備 品等

g1 作業 台表 面 。水 ・酸 ・アル カ リ ・有 機溶

媒 ・中等 度 の熱 に耐 性の こ と。

g2 家具 類。 堅 固で清 掃 しや すい こ と(配 置

を含 む)。

g3 汚染 物 を作業 室外 に運搬 す る堅 固 で洩 れ

の な い容 器 の置 き場。

g4 放置 す る と腐 敗 す る廃棄 物 を貯蔵 す る冷

凍 庫 を設 置。

g5 使 用後 注射 器 を収 集す る穴 の あか ない除

染 可 能 な容器 とその置 き場。

g6 内外 の履 き物,着 衣 等 の置 き場。

h.区 画外 設備

直 接使 用 しな い動物 の保 管 ・飼 育場所 。

②P1レ ベ ル:

a.設 計

a1 作業 区域(作 業域)と,そ れ 以外 の 区域

(文書作 業 区域)を 明確 に分 け る。作業

域 内で の飲 食 ・喫煙 ・食物 貯蔵 ・化 粧 を

禁 止す る。飲 食 物 を貯 蔵 す る冷 蔵庫 や貯

蔵 庫 は作業 域外 に設 置。

a2 床 材 は継 目が ない こ と.壁 ・床 ・天 井 の

突 きあわせ は丸 く収 め る こ と。

a3 清掃 しやす い ように設計 ・配 置。

③P2レ ベ ル

a .区 画外 の設 備

a1 事務 所,文 書作業 室,食 堂,便 所,機 械

室等

a2 二酸 化炭 素,液 化 窒 素等 の供 給 は 区画外

か ら行 え る こ とが望 ま しい。

b.区 画へ の入 口

b1 入 室 管 理 を行 う場 合 に は その ため の 設

備。た とえば,テ レ ビ監視 装置,電 気 錠。

b2 着衣 ・履 き物 の交 換 に伴 う保 管場 所

b3 出入 りには作業 用 の試料 ・器具等 を伴 う

こ とが多 いの で,通 行手 段 を考 え るこ と。

た とえ ば,カ ー トを利 用す る場合 には通

路 の境 に段 差 が ない方 が よい。

b4 防鼠 ・防塵 の 目的 に は最低100mm扉 が持

上 が って い る方が よい。 この場合,両 側

にす の こを置 くと履 き物 の交 換が 容易 で

あ る(す の この上 は履 き物 で上 が らない

こ と)。 この方 式 はb3と は相 入 れな い。

c .作 業室

c1 病 原体 等の 存在 す る作 業 室等 に万 国共通

のバ イオハ ザ ー ドマ ー クを表示 す る。 こ

れ に は,作 業 責任 者,病 原 体 名,入 室 に

必 要 な条 件等 を付記 す る。

c2 履 き物,作 業 衣 交換 の ための場 所。

c3 作業 に伴 う災 害 の可 能性,安 全対策上 必

要 な用件 を記 載 した マニ ュアル 。

c4 床材 は継 目がな い こ と。壁 ・床 ・天 井の

突 きあわせ は丸 く収 め るこ と ・突 き合せ

部位 に継 ぎ 目が ない こ と。

c5 安全 キャ ビネ ッ トの設 置(後 述)

c6 遠心機 等 エ ア ロゾル を発生 す る機 器 の収

納場所(安 全確 保 の ための 設備 ・器具

5)①d参 照)。

c7 手洗器(手 洗 い用流 し),手 術 室用 が望 ま

しい。

④P3レ ベ ル

P3レ ベ ル以上 で は,作 業 室が 独立 して1つ し

か ない もの,区 画 内 に作業 室 が複 数 あ る もの,P

2レ ベ ル の作 業 区画 の 中 に取 り込 まれ て い る もの

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な どいろ い ろで あ り,一 概 に記 載 す るの は きわめ

て困難 で あ る。 以下 に示す 典 型例 を参 考 に して示

すの で,個 々の詳細 点 につ い て,慎 重 に判 断 す る

べ きで あ る。

a.作 業 室へ の入 口

a1 作 業 室 は一般 通路 か ら次 の いず れ かの方

法 で 隔離 され て い る こ と。

① 扉/更 衣室+シ ャ ワー/扉

② エ ア ロ ック

③ 扉/通 路/扉

いず れ の場合 に も昆 虫の 通過 に対 して対

策 を取 る こ と。

ク リー ンル ーム と異 な る とこ ろは,中 か

らの病原 体等 の持 出 しを防 ぐこ とに あ る

るため,エ ア シャ ワー は特 殊 目的が な い

場合 には必要 が な い。

a2 P3区 画 へ の扉(外 側)は 自動 閉鎖,自

動施 錠 とす る。

自動 閉鎖:開 放状 態 で放 置 され な い よ う

にす る。ホテル の 扉 を連 想 す れば よい。

ドアチ ェ ック をつ ければ よい。 多 くの

電動 式扉 は密 閉度 が悪 く,か えって不

向 きで あ る。 見 え ない ところ にごみ が

た ま る し,防 虫,防 鼠 に もよ くな い。

密 閉 度: P3作 業 室 の空調 は作業 室 内

へ 向 か う気流 を確 保 す る。す な わ ち,

扉の 密閉 度が低 い と室外 の塵 埃 の多 い

空気 が混 入す るこ とに な る。 と くに通

行の便 を考 え,床 側 の戸 当 た りを な く

す る と,戸 の 下 の隙 間か ら常 に風 が 吹

込む こ とにな る。 密 閉度 の点 で は,締

込 み式の ドアノ ブが よいが,閉 め ない

人が 多 くな る傾 向 にあ る。

自動施 錠:外 側 が 自由通 行路 の場合 には

自動 施錠 が必 要 で あろ うが,す で に通

行制 限 を受 けて い る場 合 には,ラ ッチ

が締 り確 実 に閉鎖 す れ ば よい。 自動施

錠 の所 もあ る。

a3 着 衣 ・履 き物等 の 置 き場 所 。

b.作 業 室

b1 床 ・壁 ・天 井面 は耐 水性 で 清掃 しや す い

こ と。 これ らの面 の間 隙 ・貫通 孔 は密 閉

す るか,密 閉 しやす い構 造 で あ るこ と(空

調 に よ り室 内が 陰圧 とな る)

b2 窓は 閉鎖,密 閉す る。

b3 真 空 配管 等 に はHEPAフ ィル タ と液体

溜 め を備 え る。

b4 出 口近 くに肘,脚,ま たは足 で操作 で き

る手洗 器 。

b5 作 業 に伴 う災 害 の可 能性,安 全対 策上 必

要 な用 件 を記 載 した マニ ュ アル 。

c.空 調 設 備

c1 排 気 シス テム を有 す るこ と。排 気 システ

ム は,室 内 に向 か って流 込む気 流 を作 る

こ と。 作業 室 の排 気 は,他 の 区域 に再 利

用 されな い限 り,建 物 の 共通排 気 に取 込

んで よい。 また,作 業 室 内で の再利 用 は

行 って よい。 安全 キャ ビネ ッ ト以 外 の室

内空気 は,処 理 せ ず に直接 排気 して よい。

排 気 口か ら出た排 気 は外 気で 希釈 され る

ように設計 す る。

c2 排 気 設備 を持 つ作 業 室で は,給 排 気 が連

動 し,作 業 室 内 に向 か う気流 が確 保 され

る こ と(停 止 時 に は静止)。

作 業室 の 空気 の清 浄 度 は,給 気 の 清浄 度

と,隙 間 か ら流 入 す る空 気 に よつて決 ま

る。床 ・壁 ・天井 の 素材,突 き合せ 構 造

は慎重 に選 択 す る。貫 通 口(パ イプ ・電

気 配線 ・電気 器具 等)に 十 分 注意 。扉 の

周 囲 の隙 間 も問題 。給 気 の清 浄度 は,99

%程 度 の フ ィル タで十 分 目的 を達 す る。

HEPAフ ィル タ は使 わな い方が よい。

d.備 品等

d1 作 業 台表面 。 水 ・酸 ・ア ル カ リ ・有機 溶

媒 ・中等 度の熱 に耐 性の こ と。

d2 清 掃 しや す い よ うに配置

d3 生 物学 用 安全 キ ャ ビネ ッ ト,あ るい は こ

れ に替 る封 じ込 め機 器 等 。

d4 P2レ ベ ル作業 室 でP3レ ベ ルの 作業 を

す る場 合 。

① すべ て の操作 を行 う生物 学 用 ク ラスⅢ

安 全 キャ ビネ ッ ト。

② 生物 学 用 ク ラスⅢ 安 全 キ ャ ビネ ッ トに

付属 す るオ ー トク レー プ,消 毒 剤 の入

った浸漬 タ ンク。

③ 他 の す べ て の 点 でP3の 要 件 をみ た

す。

d5 生 物学 用 ク ラスⅠ,Ⅱ 安 全 キャ ビネ ッ ト

の排気 は,

① 直接 外 気 に

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② 建物 の排 気 系 に,ま た は

③ 作業 室 内 に,排 気 す る。

建物 の排 気 系 に排気 す る場合 には,建

物 あ るい は実験 室 の空調 の可 動 また は

停止 に よって キ ャビネ ッ トの 排気 風量

に10%以 上 の 変 動 を与 え て は な らな

い。 又,複 数 の キャ ビネ ッ トの可 動 ま

た は停止 に よつて 当該 キ ャビネ ッ トの

排気 風量 に影響 を与 える ような こ とが

あ って は な らない。1台 の キャ ビネ ッ

トの 排 気 風 量 は 約1,000m3/hと な る

の で,実 験 室の 排気量 に比 較 して大 き

な値 で あ るこ とに十分 注意 す る。 ク ラ

スⅡ 安全 キャ ビネ ッ トの排 気風 量 は,

定 格値 の ±10%以 内 に あ る場合 に限 っ

て安 全性 が確 保 され るこ とに留 意 す る

必要 が あ る。 キャ ビネ ッ ト間や,建 物

排 気 との 間 に相互 作用 が あ って はな ら

な い。

d6 同 じ建物 内 にオー トク レープ 。除 染用 の

オ ー トク レープ は作業 室 内 にあ る こ とが

望 ま しい。

⑤P4レ ベル

a.P4区 画 全体

a1 P4区 画 は独 立 家屋,ま た は明確 に区別

された建 物 の1部 とす る。

a2 P4区 画 か らの排 気,排 水,そ の他 を滅

菌処 理す る能 力 が必要 で あ る。 目的 とす

る生 物活性 のあ る試料 以外 はす べ てオ ー

トク レー プ等 の 方法 で除染 す る こ とな し

に はP4区 画 か ら搬 出 しない。 高熱 に耐

え ない もの はガ ス または蒸気 に よつて除

染 す る。

a3 P4区 画 の排 気 はHEPAフ ィル タ で濾

過 す る。HEPAフ ィル タ はフ ィル タ箱 内

で除染 で き,汚 染 ダ ク トを最 小 にす る位

置 に配 置す る。 給排 気 シス テム の事故 に

よ り発 生 し得 る逆流 に対処 す るため,給

気側 に もHEPAフ ィル タ を配置 す る。

a4 "宇宙服"作 業 室 は完全 密閉 と し,排 気

は2重HEPAフ ィル タ濾 過 す る。 宇 宙

服 は着 た ま ま化 学 シ ャワー と除染 が可 能

な こ と。電 気 ・空気等 のバ ックア ップ シ

ス テム を完 備す る。

a5 飲 料 水用 蛇 口は足 で操 作 で きる こ と。作

業 室 内に は置か な い こ と。配管 は独 立 と

し,逆 流 防止 装 置が つ いて いて も,他 の

給水 管 と接続 して はな らな い。

b.P4区 画へ の入 口

b1 P4区 画へ の扉 は 自動 閉鎖,自 動施 錠 と

す る。

b2 入 室制 限 をす るに十分 な構 造 ・機 能

b3 シ ャワー室 の両側 に更 衣室(室 外衣 用,

作業 衣 用)を 設 け る。

b4 脱 出 口(エ ア ロ ック)

b5 病原 体等 の存在 す る作業 室等 に万国 共通

のバ イ オハザ ー ドマ ーク を表 示 す る。 こ

れ には,作 業 責任 者,病 原体 名,入 室 に

必要 な条件 等 を付 記す る。

b6 防 虫,防 鼠。

b7 内外 の連 絡方法,特 にP4レ ベル で は実

験 ノー トも持 出 しで きな いか ら,フ アッ

クス 等 に よる。

c.P4区 画 への物 品 の通路 。

c1 2重 扉オ ー トク レープ の外扉 は滅 菌終 了

後 の み開 く構 造 で あ るこ と。

c2 通 過 型浸漬 タ ン ク,噴 霧箱,あ るい はエ

ア ロ ックはオ ー トク レープ にか け られ な

い もの をP4区 画 か ら,取 出す際 に用 い

る。両 方の 扉 を同時 に開 けて はな らな い。

c3 作 業室 の流 し,安 全 キ ャ ビネ ッ ト,作 業

室 床,オ ー トク レー プか らの廃 液 は,す

べ て熱処 理 す る こ と。 シャ ワー室 と便所

の廃 液 は化学 処 理 また は熱 処理 す る。熱

処 理 ・化 学処 理 とと もに生 物学 的 ・物理

的 方法 で有効 性 をモ ニ タす るこ と。

d.作 業 室

d1 窓 は密 閉 とし,破 損 しな い こ と。

d2 作業 室 内面 は完 全密 閉 とす る。床 に排水

口を設 け る場 合 には,消 毒 剤の 入 った ト

ラ ップ をつ け,さ らに排水処 理 タ ンク に

直接接 続 す る。

d3 真空 ライ ンを設置 す る場 合,

① 各 コ ック に で き るだ け 近 い と ころ に

HEPAフ ィル タを配置 す る。

②P4区 画 内 の み で 独 立 した 系 統 とす

る。

③HEPAフ ィル タ はそ の ま ま除染 で き

るこ と。 液体 ・ガスの 配管 は逆流 の な

い設 計 であ る こ と。

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d4 出 口近 くに肘,脚,ま たは足 で操 作 で き

る手洗 器 を設 置す る。

e .空 調

e1 給 排気 システ ム は他 の部屋 等 に対 して独

立 とす る。 外 か ら 一番 危険 性 の高 い と思

わ れ る方向 に気 流 が流 れ る よ うにす る。

空 間の 気圧差 測 定 にマ ノメー タ を配 し,

異状 の あ る場 合 は警 報 を作 動 させ る。給

排気 システ ム は連 動 と し,室 内へ の気流

方 向 を確 保 す る。

e2 HEPAフ ィル タ濾 過 した 空 気 は室 内で

再 利 用 して よい。

f.備 品等

f1 作 業 台表面 には継 目が ない こ と。水 ・酸 ・

アル カ リ ・有機 溶媒 ・中等 度 の熱 に耐 性

の こ と。

f2 家具類 。堅 固 で清掃 しや す い こ と。

f3 生 物学 用 ク ラスⅢ 安 全 キャ ビネ ッ トの 設

置 。

例 外1:体 全体 が 入 る陽圧 作業 服 を使用

す る場 合 に は,生 物学 用 ク ラス

Ⅰ,Ⅱ 安 全 キ ャビネ ッ トを使用

で きる。

例 外2:有 効 な ワ ク チ ンが あ る場 合 に

は,ワ クチ ン接 種 を受 け た作 業

者 は陽圧 作 業服 な しに生物学 用

クラ スⅠ,Ⅱ 安 全 キ ャ ビネ ッ ト

で作 業 で きる。

f4 安全 キ ャ ビネ ッ トに付属 した2重 扉 オー

トク レープ の外扉 は滅 菌終 了後の み開 く

構 造 で あ るこ と。 通過 型浸 漬 タ ンク,噴

霧 箱 は オー トク レー プ にか け られ な い も

の を取 出 す際 に用 い る。

f5 生 物学 用 ク ラスⅠ,Ⅱ 安 全 キャ ビネ ッ ト

の 排気 は作 業 室内 に取 って よい。 あ るい

は,作 業室 の排 気系 を通 して,外 界 に取

って もよい。生 物学 用 ク ラスⅢ 安全 キ ャ

ビネ ッ トの排気 は再 利 用す るこ とな く直

接排 気 す るか,作 業 室 に排気 系 を通 して

排気 す る。 排気 系 を通 して排 気 す る場 合

には,安 全 キ ャ ビネ ッ ト間,作 業 室 との

間 に干渉 が お きな い こ とを確 認す る。

6. ウ イル ス材 料 の分 与 と輸送

一 つの研 究施 設 か ら,他 の施 設へ の病 原微 生物 の分

与 と輸 送 は,そ れが 日常管理 され てい る区域,施 設 か

ら離 れ て,一 般社 会環 境 を通 過 す る とい う意 味 で,微

生 物 の安 全管 理上 見 過せ な い分 野で あ る。 研 究者 と し

て は,分 与 し,送 る先が そ の病 原体 を充分 安 全 に取扱

い,管 理 出来 るこ と も確 認 して お く責任 が あ るの で,

分 与 の手続 の 中 に この確 認 を欠 か さない こ とが大切 で

あ る。

1) 分与 先 の安 全取 扱 いの確 認;予 研 では,そ の レ

フ ア レンス業務 そ の他 と して,病 原微 生物 を分 与 す る

に当 って,こ れ を受 取 る側 に,そ の病 原体 の指 定 され

て い るバ イオセ ー フテ ィレベル に対 応 す る実 験施 設 の

あ る こ とを確 認 す る手続 を入れ て い る。手続 と して は,

分 与 願 を予研 所長 に提 出す るに当 って,申 請 者 は,分

与 を受 けた病 原体 を取 扱 う設 備 の性 能 を描 写 し,こ れ

を 図示 した文 書 を添 付 す る こ とが義 務 づ け られ て い

る。 予研 所長 は,前 述 のバ イオ セー フ テ ィ委 員会 に必

要 に応 じて,資 料 を提 示 して,分 与の 可否 を諮 問 す る。

2)包 装; WHO3),米 国CDC/NIH2)の 指 針 で述 べ ら

れ て い る方式 が国 際的 に定 着 してい る。 この方 式 を用

いれ ば,国 内の郵 便 輸送,国 際間 の航 空輸 送(IATA規

則)に も適 合 し,ス ムー ス に送 るこ とが 出来 る。 包装

は基本 的 には,病 原微 生物 を入れ た耐水 性 の第 一次 容

器(receptacle)を,耐 水性 の第 二 次容器 に納 め,そ の

間 に吸湿 性物 質 と万 一 の場合 には,病 原 体 を無害 化 す

る ような物質 を充填 す る。 第二 次容 器 を更 に外部 容 器

に 入れ て,宛 名 ラベ ル,内 容 の ラベ ル等 を附け て包 装

は完 成 す る。 ウイル ス材料 の 場合,冷 却 の必 要 の あ る

場 合が 多いが,冷 却,冷 凍 剤 は,第 二 次 容器 と外 部 容

器 の 間 に入れ る。 外部 容器 には,ド ラ イア イスや,液

体 窒 素 な どの 気化 で生 じるガ ス を抜 き,破 損 を防 ぐ等

の配慮 も必要 で あ る。

3) 発送 上 の手続:我 国 で は,郵 政 省令 と して の郵

便 規則 に よって,危 険物 の取 扱 いが定 め られ てお り,

この 中 に病 原体 に関係 した 条文 もあ る。 国 際輸 送 に関

して は,万 国郵便 条 約(Universal Postal Union)と

国 際航 空輸 送連盟(Interntional Air Transport Asso-

ciation)に 規 定 が あ り,前 者 の場 合 発送 す る方,受 取

る側,共 に,関 係 国 の郵政 大 臣の認 可 を受 けて い る必

要が あるの で,研 究機 関 と して指 定 を受 け てお くと共

に,受 領 先 が,こ れ を済 ませ て あ るこ とを確 認す る必

要 が あ る。航 空貨物 と して発送 す る場 合 は,IATA規

則 に従 う と共 に,受 取 り側 に到着 空港 名,到 着 時刻 と

便 名,輸 送状 番号等 を電報 又 は フ ァック スで連 絡 して

お くこ とが必要 で あ る。外 国 か らの病 原体材 料 を受 入

れ る場 合 は,ヒ トの病 原体材 料 は 関税法 に基 く税 関 の

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審査 が行 わ れ る。 この場 合,税 関 は,検 疫 所 と協 力 し

て判 断す るか ら,予 め,検 疫 所 に相 談 してお くこ とが

望 まれ る。 家 畜伝 染 病予 防法 の対 象 とな る動物 材料 で

は輸 入が 禁止 され てい る ものが あ る。 動物検 疫 所 また

は農林 水 産省 畜産 局衛生 課 に相 談 してお くこ とが 必要

で あ る。

7. 関連 分 野の 問題

(1)動物 実験 にお け る問題

1) 動 物 実験 にお け るバ イオハ ザ ー ドの特 徴

感 染 実験 に用 い るウ イル ス だ けでな く,動 物 自体

が 自然 感 染 して い る病 原体 もバ イオハ ザー ド源 に な る

こ と,実 験 期 間 を通 じて動 物 が感染 源 にな りうる こ と,

動 物 実験 にお け る飼 育管 理や 実験操 作 に よ る感染 の機

会 が 多 い こ との3点 が特徴 で ある。

2)感 染 実験

既 知 の ウ イル ス を動 物 に接 種 す る もの で あ る た

め,基 本 的 には試 験管 内 実験 の場合 と同様 に対応 す る

こ とが で きる。す な わ ち,封 じ込 め レベ ル に関 して は

試験 管 内 実験 の場 合 の危 険度分 類 を原則 的 にあ て はめ

る こ とが で き る。 ただ し,こ の分類 は人 に対 す る危険

性 に もとつ いて い るため,実 験 動物 に対 す る病 原性 を

考 慮す る必 要 が あ る。 た とえばセ ンダイウ イル ス,マ

ウス肝 炎 ウイル ス は人へ の 病原性 を欠 くが,マ ウスで

は激 しい伝 播 力 を有 す る。 そ のた め,実 験 区域 に他の

正 常動物 が い る場合 には特 別 の配慮 が必要 で あ る。

この よ うな観 点 にた っ て 『感 染動物 実験 にお け る安

全対 策(案)』 が 国立 大学 動物 実験 施 設協議 会 で ま とめ

られて い る(昭 和62年5月)。 本対 策案 は国内外 を通 じ

て もっ と も総 合 的 に ま とめ られ た もので あ るため,ウ

ィル ス感 染 実験 に 際 して は本 対策 案 に準ず るこ とが 妥

当 とみ なせ る。

3) 動 物 の 自然 感 染

一般 に実験 動物 で は微 生 物学 的 品質管 理の観 点 か

ら微 生物 汚染 の少 ない清 浄動 物 の確 保 が試 み られて い

る。 しか し,検 査 対象 外 の ウイル ス に 自然感 染 して い

るこ とに注意 しな けれ ばな らな い。 その代表 的 な例 と

して,1970年 代 に起 っ た ラ ッ トの 腎症 候 性 出 血 熱

(HFRS)ウ イル ス感 染 が あ る。清 浄 と考 え られ てい た

実 験用 ラ ッ トがHFRSウ イル ス に自然 感染 して い て,

多 くの研 究者 に感 染 を起 こ した もので あ る。

実験 動物 の 入手 にあた って は信頼 しうる業者 か ら購

入 す る こ とが 重要 で あ る。 研究 者 間の分 与の場 合 に も

飼 育環境 の 状況 を確 認 す る こ とが望 ま しい。

サル はほ とん どの場 合,野 生 の もの が実験 に用 い ら

れ てお り,し か もサル は人の 多 くの病原微 生 物 に感 受

性 を もつ こ とか ら特 に注意 が必 要 であ る。1967年 に起

きた ミ ドリザ ル か らのマ ール ブル グウ イル ス感 染 は そ

の もっ とも代 表 的な例 で あ る。 また,Bウ イル スはマ

カ カ属 の サル の 多 くに潜 在 感染 を起 こ して お り,サ ル

で は稀 に症 状 を引 き起 こすだ けで あ るが,人 で は致命

的感 染 を起 こす。1989年 に はカニ クイザル にエ ボラ ウ

イル ス感 染が 見つ か り,大 事 件 となっ たが,幸 い,感

染 した人 で発 病 した例 は全 くな く,か つ て アフ リカで

流 行 して 高 い致命 率 を示 したエ ボ ラウ イル ス とは異 な

る もの と推 測 され て い る。 しか し,こ の例 は野 生 のサ

ル を用 い るか ぎ り未 知 の ウイル ス感染 が存在 す る危 険

性 を示 して い る。

野 生 サル につ いて はWHOの 勧 告 に も とつ い た検

疫 が必 要 で あ る。 しか し,検 疫済 み であ って も例 えば

Bウ イル スの ように潜 在 してい るウ イルス の可 能性 が

あ る もの とみ な して,正 しい取 り扱 い方式 に したが っ

て実験 を行 わ な ければ な らない。

(2)ウイル ス学領 域 に おけ る組 換 えDNA実 験

組 換 えDNA実 験 につ いて は文 部省 また は科 学技 術

庁 の組換 えDNA実 験指 針 に従 う。しか しな が ら,組 換

えDNA実 験 に使 用す る遺伝 子 の供 与体 とな る ウイル

ス その もの の取 り扱 い,調 整段 階 は組換 えDNA実 験

の範 囲外 にな る。 組換 えDNA実 験 の結果 生 じるウ イ

ル スの場 合 で も,そ の 中に異種 遺伝 子が含 まれ てい な

い ウイル ス た とえば組 換 えDNA実 験 で作 成 され た欠

損 ウイル ス,再 配 列 に よる変異 ウ イル スは組 換 え体 ウ

ィル ス とは みな され てい ない。 したが って これ らの ウ

イル スの取 り扱 いは本指 針 に従 う もの とす る。

組 換 え体 ウイル ス を取 り扱 う場 合 の封 じ込 め レベル

は組 換 えDNA実 験指 針 に したが って決 定 され る。

(3)臨床 材 料

臨床 材料(血 液,体 液,組 織等)の 取 扱 い に際 して

は,全 て に,細 菌等 の ウイル ス以外 の病 原体 を含 め て,

感 染性 因子 が存 在 す る可 能性 が あ る と して,対 処 す べ

きで あ る。 す で に或種 の ウ イル スの感染 が 明 かな個体

か らの臨床材 料 で あ って も,さ らに他 の ウイル ス等 の

複 数の病 原体 の 重複感 染 を受 け てい る可能性 もあ るた

め,以 下 の原 則 に したが って慎 重 に取 扱 うべ きで ある。

取 扱 いの原 則

1) 感 染 ウ イルス が既知 の個 体 か らの臨床 材料:

当該 ウイル ス のバ イオ セー フテ ィレベ ル に順 じ

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て取扱う。

2) 感染ウイルスが未知の個体からの臨床材料:

①:臨 床診断書から感染ウイルスが予測できる場

合。

予測されるウイルスのバイオセーフティレベ

ルに順 じて取扱う。

②:ウ イルス感染が疑われるが,ウ イルスが特定

できない(予 測できない)場 合。

当該施設(機 関)に おける最高位のバイオセーフティレベルの実験室にて取扱う。

④野生動物関連分野の問題

1) 国内生息野生動物による人畜感染症

わが国で野生動物を自然宿主とする主要な人畜共

通感染症 としてウイルス性では日本脳炎,ダ ニ脳炎や

腎症候性出血熱,ク ラミジア性ではオウム病,ま たリ

ケッチア性では恙虫病や紅斑熱などがある。これらは

いずれも人が羅患した場合,重 篤になりやすい。また

A型 インフルエンザ,ニ ューカッスル病,パ ルボウイ

ルス感染症,ゲ タウイルス感染症,ア カバネウィルス

感染症や犬伝染性肝炎なども野生鳥獣から家畜や伴侶

動物に感染して被害を与える場合がある。

これらの多くは多種類の動物を自然宿主にして複合

感染環を形成するために,一 旦自然界で流行巣が形成

された場合,野 生動物の管理や監視が難しく,ま た病

原巣の排除が不可能なことからその防疫対策は極めて

困難となる。

野生動物では病歴調査が不能なことから,そ れらに

いかなる病原体が保有されているか不明である。広範

な自然環境で人目に触れずに自由生活を営む野生動物

では,重 篤で大規模な発生がなければ殆ど疾病の存在

に気付かれない0ま た,長 く疾病の発生報告 もなく,

危険がないと思われる地域でも,詳 細な感染調査によ

って様々な病原体の存在が明かとなっている。例えば,

アポイウイルスは北海道における恙虫病の疫学調査に

際して日高地方のアポイ山麓で捕獲された野鼠の脾臓

から偶然に分離されたウイルスである。本ウイルスは

フラビウィルス群に属 し,マ ウスに脳炎を起こすがそ

のベクターは不明である。日高地方を中心にした血清

疫学的調査では,人,家 畜や野生動物で抗体陽性例が

発見され,人 畜共通感染症の原因ウイルスの一つと推

定されている。

2) 人間社会に生息する野生動物による人畜共通感

染症

文明社会の発達とともに人間の生活に依存して自

由生 活 を営 む 野生動 物 と して クマ ネ ズ ミ,ドブ ネ ズ ミ,

ハ ツ カネ ズ ミ,カ ラ ス,ス ズ メ,な どが 出現 した。 ま

た,ド バ ト,セ キセ イイ ン コや ミンクな どの ように家

畜化 され た動物 が 自然 界 に脱走 しなが ら人 の生 活 圏 に

留 ま った もの もあ る。 これ らは人 間社 会 と野生 動物 の

中 間 に住 む もの と してPeridomestic animalsと も呼

ばれ,人 との接触 機会 が 多 いだ け に,人 畜共 通感 染症

の感染 源 と して危 険 性が 著 し く高 い。 例 えば ドバ トに

よるオ ウム病,ニ ュー カ ッスル病 やサ ル モ ネ ラ症,住

家性 ねず み に よるサル モ ネ ラ症,レ プ トス ピラ症,ペ

ス ト,泉 熱,発 疹熱,恙 虫病,紅 斑 熱,腎 症 候 性出血

熱や リンパ 球性 脈絡 髄膜 炎(LCM)な どが あ る。 した

が っ て これ らの動物 につ いて は他 の森林 の 野生 動物 よ

り一 層厳 重 な取 り扱 いが望 ま しい。

3) 野生 動物 由来 の 実験材 料 の採取 お よび取 扱 い

野生 動物 お よび 野生 動物 材料 の採 取 に際 して は,

いか な る野生 動物 も人 に対 して危 険 な病 原体 を保 有 す

る とい う前提 の も とで対応 す る必 要 が あ る。 また,ラ

ッサ熱,腎 症候 性 出血 熱Bウ イル ス病 やA型 イ ンフ

ル エ ンザ で は 自然 宿主 で無 症状 の まま ウイル ス の持続

感 染 が成立 して い るため に,こ れ らの 流行 地 に おい て

感 染源 にな りうる動物 を取 り扱 う場 合 には特 別 な注意

が 必要 で あ る。

多 くの場 合,人 は まず野 生動 物 の捕 獲 か ら採 材 まで

の 間 に直接 動物 の保 有 す る病 原体 に暴 露 され,罹 患す

る機 会 を持 つ。 このた め に動 物 の保 定や 麻酔 を確 実 に

行 い,安 全 を期 さなけ れば な らな い。 野 外調 査 の成 果

は気 象,地 勢,参 加者 の 数や 経験 な どに よって大 き く

左 右 され,ま た研 究 室 よ り もは るか に劣 悪 な条件 下 で

動物 の検 索や 採材 を行 うため に,あ らか じめ 入念 に準

備 を してい て も咬 傷や 汚染 物 の吸 入 な どに よ る不 慮 の

感 染事 故 が発 生 しやす い。

野生 動物 か ら臓 器や 血液 な どを採 取 した後 の死体 は

その場 で焼 却 あ るい は埋 葬 して,他 の動 物 へ の伝播 を

確 実 に防止 す る。

野生 動 物 に は様 々 な吸 血性 節 足 動 物 が 付 着 して い

る。 特 に ダニ類 は アル ボウ イル ス,リ ケ ッチアや 原 虫

な どを保 有 してベ クタ ー とな る もの が多 い。 この ため

に,野 生 動物 の捕獲 に際 して ダニ類 の 吸血 を受 けた り,

あ るい は野生 動物 を研 究 室 に搬 入 した後 に吸 血宿 主 か

ら離 れ た ダニ類 が 人や 実験 動物 に移行 して思 わぬ 被害

が発生 す る。 この ため に野 生動 物 は原 則 と して研 究室

に持 ち込 むべ きで は ない。 やむ を得 ず 生 きて い る動 物

をその ま まで研 究 室 に搬 入 す る場 合 は,外 部寄 生 虫 を

確 実 に除去 した後,厳 重な隔 離施 設 に収 容 し,実 験 動

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224

物検 疫 のマ ニ ュアル に従 って安 全性 を確 認 した上 で実

験 に供 す る よう にす る。 また感 染動 物材 料 の輸 送,保

存や ウイル スの分 離 は実験 室バ イオセ ー フテ ィ対策 指

針 に従 って 実施 す る。 また,狂 犬病,モ ンキー ポ ック

ス,黄 熱 な どの流 行 地 に おい て野生 動物 との接 触 や採

材 な どに従 事す る場 合 は,あ らか じめ ワ クチ ンを接 種

して 自 らの 安全 を確 保 す るの が鉄 則 で あ る。

4) サル 由来 材料 の取 り扱 い

動物 実験 の項 で述べ た よ うに野 生サ ル には種 々の

病原 体が 潜在 感染 して い る可能性 が あ る。 ウイル ス研

究 で は細 胞 培養 用 と しての サル の 腎臓,血 球凝 集試 験

用 と しての ミ ド リザ ル の赤血 球等,サ ル 由来 の材料 が

しば しば用 い られ てい る。 これ らの取 り扱 いに あた っ

て は病原 体 に よ る汚 染 の可 能性 を念頭 にお いて,直 接

接 触 をさ ける よ うに注意 しな けれ ばな らな い。 また,

使 用後 は必ず滅 菌 ・消毒 したの ち に廃 棄 す る ように し

な けれ ばな らな い。

5) 海 外伝 染病

発展途 上 国 での 人 口爆 発 と森林 ・原野 の急激 な開

発 に伴 って人 と動 物 との接 触機 会 が飛 躍的 に増大 した

結 果,危 険度 の極 め て高 い新 型の 人 畜共通感 染症 が 各

地 で発 生 し始 め た。 これ らの 大部分 はウ イル ス性 で あ

っ て現 在 の と ころ 適切 な予 防法 と治 療法 が な い た め

に,一 旦 国 内に持 ち込 まれ た場合,相 当程度 の惨 禍 が

予 想 され 国際伝 染病 とも呼 ば れて い る。 また野生 動物

か ら家 畜 に感染 して甚 大 な畜 産被 害 を もた らす もの も

多い。 前者 にはモ ンキー ポ ック ス,Bウ イル ス病,マ

ー ルブ ル グ病,ラ ッサ 熱,ボ リビア出血 熱や アル ゼ ン

チ ン出血熱 また野 生動 物 か らベ クター に よって媒 介 さ

れ るク リ ミア-コ ンゴ出血 熱や リフ トバ レー熱 な どが

あ る。後 者 には野生 偶蹄 類 の 口蹄 疫 と牛疫,イ ノシ シ

の ア フ リカ豚 コ レラ な どが あ る。

国際事 情 の変 化 に伴 っ て,こ れ らの海 外伝 染病 の流

行地での野外調査に日本からの参加が求められてお

り,国 際協力事業の一環としてこれらの調査,研 究に

相応の役割分担を果たす必要がある。このためには流

行地での動物の捕獲,採 材,検 査材料の輸送や検疫な

ど,研 究材料の確保と病原体の分離までに様々な安全

対策が必要となる。また,こ れらの流行地での疫学調

査,流 行監視や流行対策ならびに実験室での診断法,

治療法やワクチンなどの開発を進める上に,よ り高度

な安全研究施設や装置が必要であって,特 に国内では

P4施 設の円滑な使用が求められている。

わが国では家畜伝染病の病原体の輸入は原則として

禁止されている。特に口蹄疫の流行地からの偶蹄類の

血液や臓器材料などの輸入は著しく困難である。また,

近年野生動物保護の観点から結ばれたワシントン条約

によって,稀 少動物やそれらの材料の輸出入が大幅に

制限されている。これらのために,国 外での野生動物

の捕獲,採 材およびそれらの輸出入に関して,家 畜伝

染病予防法,動 物検疫法やワシントン条約についての

十分な理解が必要となっている。

文 献

1) R. M. Pike (1976): Laboratory-associated

infections. Summary and analysis of 3,921

cases. Health. Lab. Sci., 13, 105-114.

2) CDC/NIH (1984): Biosafety in Microbiological

and Biomedical Laboratories. HHS Publication

No.84-8395, CDC, Atlanta.

3) WHO (1983): Laboratory Biosafety Manual.

WHO, Geneva.

4) 国立 予 防衛 生研究所(1981決 定,1983,1985改 正,

1992全 部 改正):国 立 予 防 衛生 研 究 所 病 原体 等 安

全管 理規 定

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ウイルス研究 におけるバ イオセーフテ ィ指針 ・策定の経緯

日本 ウ イル ス 学会 バ イオ セ ー フテ ィ委 員 会 は第142

回幹 事会(1990年2月3日)で 設置 が決 定 され た。 設

置の 経緯,目 的,組 織 お よび活 動 の原則,研 究活 動 と

討議 の分 野 につ い ては 日本 ウ イル ス学会 報 第76号 に述

べ られ た とお りで あ る。

1991年8月9日 に第1回 委 員 会 で 検 討 さ れ た方 針

が,第147回 理事会(1991年10月22日)で 報 告 され た(会

報 第78号)。

「ウ ィル ス研 究 にお け るバ イ オセ ーフ テ ィ指 針」第1

次 素案 は第149回 理事会(1992年2月1日)に 提 出 され

て,理 事 の意見 が 求 め られ た(会 報 第78号)。 理 事 か ら

の コメ ン トに も とつ い て検 討 を重 ね た結果,同 指針 第

2次 素 案 が第150回 理事 会(1992年7月25日)に 提 出 さ

れ た。 本 素案 につ い ての理 事 の意 見 を再 度求 めた の ち

に,指 針(案)と して平成5年3月 発 行の会 報 に掲 載

して会員 の 意見 を求 め るこ ととな った(会 報 第79号)。

会 報 第80号(1993年3月1日 発行)に 指針 策定 の経

緯 お よび指針(案)の 全 文 を掲載 し,1993年6月 末 日

まで会 員 の意 見 を求 め た結果,修 正,反 対等 の意 見 は

な く,会 員 の 了承 が 得 られ た もの と判 断 した。

以上 の結果 をふ まえ て第153回 理 事会(1993年7月17

日)で 本指 針 が正 式 に承認 され た。

なお,個 々の ウ イル ス の安 全度分 類 につ いて は国立

予 防衛 生研 究 所 ・病原 体等 安 全管 理規 定 にお け る病 原

体 の レベル 分類 に基 づ い て対応 す るこ とを提案 し,了

承 された。

日本ウイルス学会バイオセーフティ委員会

橋本信夫(北 海道大学獣医学部 ・公衆衛生学教室)

野本明男(東 京大学医科学研究所 ・ウイルス研究部)

○山内一也(日 本生物科学研究所)

三田村圭二(昭 和大学医学部 ・第2内 科)

△北村 敬(国 立予防衛生研究所 ・ウイルス第一研 究部)

小松俊彦(国 立予防衛生研究所 ・バイオセーフティ管理室)

速水正憲(京 都大学ウイルス研究所 ・免疫不全ウイルス研究施設)

山西弘一(大 阪大学微生物病研究所 ・麻疹部門)

日野茂男(鳥 取大学医学部 ・ウィルス学教室)

佐藤 浩(長 崎大学医学部 ・動物実験施設)

○委員長 △書記

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参考資料

国立予防衛生研究所

病原体等安全 管理規程

(平成4年9月3日 全部 改正)

ウイルスのレベル分類に関する部分の抜すい

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別表1

病原体等のバイオセーフティレベルを分類する基準

病原体等を試験管内で通常の量取 り扱 う場合 ヒトを標準として、以下の基準に

より、病原体等のバイオセーフティレベルを分類する。ただし、実験動物のみ感

染する病体等については付表2に 示す。

レベル-1(個 体及び地域社会に対する低危険度)

ヒトに疾病を起 し、或は動物に獣医学的に重要 な疾患を起す可能性のないもの。

レベル-2(個 体に対する中等度危険度、地域社会に対する軽微な危険度性)

ヒト或は動物に病原性を有するが、実験室職員、地域社会、家畜、環境等に対

し、重大な災害 とならないもの、実験室内で曝露 されると重篤な感染を起す可能

性はあるが、有効な治療法、予防法があ り、伝播の可能性は低いもの。

レベル-3(個 体に対する高い危険度、地域社会に対する低危険度)

ヒトに感染すると重篤な疾病を起 こすが、他の個体への伝播の可能性は低いも

の。

レベル-4(個 体及び地域社会に対する高い危険度)

ヒト又は動物に重篤な疾病を起 こし、罹患者 より他の個体への伝播が、直接又

は間接に起こり易いもの。

注:① 国内に常在 しない疾患等の病原体等についてはより高いレベルに分類す

る場合がある。

② 院内感染の原因となる重要 な病原体等については通常の レベルより高 く

した。

③ これに記載されない病原体等については個別に考慮する。

④ 臨床検体の取 り扱いはレベル2で 行 うが、臨床診断から危険度の高い病

原体等が疑われる時は、それと同等の扱いとする。

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別表1 付表1

国立予防衛生研究所においては、別表1に 定め る基準によ り、病原体等のバイ

オセ ーフテ ィレベル を、下記の ごとく分類す る。

病原体 の レベル分類

1. ウイルス及びクラ ミジア、 リケ ッチ ア

(ウイルス名 は 日本 ウイルス学会用語委員会 による英語表記 を用 い、表 中で

はVirusを 省略 した。なお、 ここに記載 され ていない ウイルスについては徊

別に考慮 するもの とする。)

・レベル1

Live vaccine virus (Vacciniaを 除 く)

・ レ ベ ル2

Adeno-associated(全 型) Hepatitis (A,B,C,D,E)

Batai Herpes saimiri

Bunyamwera Herpes simplex (1,2)

California encephalitis Human cytomegalo

Corona Human herpes 6

Cowpox Human papilloma

Coxsackie(A,B全 型) Human parvo

Creutzfeldt-Jakob disease agent Human rhino

Dengue(全 型) Human rota

Echo(全 型) Human T-cell leukemia-lymphoma

Eastern equine encephalitis (HTLV 1,2)

Entero (68-71) Influenza (A,B,C)

Epstein-Barr (EB) Japanese encephalitis

Gibbon ape lymphosarcoma JC

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La Crosse Simian immunodeficiency virus (SIV)3)

LCM1) Simbu

Measles (SSPE) Sindbis

Molluscum contagiosum St. Louis encephalitis

Monkeypox Tanapox

Mumps Vaccinia

Murray Valley encephalitis Varicella-zoster

Newcastle disease Vesicular stomatitis

O'Nnyong-Nnyong Western equine encephalomyelitis

Orbi West Nile fever

Parainfluenza (1-Sendai2'), 2-4) Yaba monkey tumor pox

Polio (1-3) Chlamydia pneumoniae1)

Rabies (fixed, attenuated) Chlamydia psittacil1)

RS Chl ainydia trachomatis

Rubella

Semliki forest

1)大量 に増殖 させ る場合 はレベル3と する。

2)動物実験 を行 う場合 は レベル3と する。

3)取 り扱 いは安全 キャビネ ット内で行 う。

・レベ ル3

Chikungunya Rabies (street strain)

Colorado tick fever Rift Valley fever

Hantaan Tick-borne encephalitis

Human immunodeficiency (HIV 1,2) Venezuelan equine encephalitis

Kyasanur Forest fever Coxiella burnetii

Negishi Rickettsia spp.

Powassan

・レベ ル4

Crimean Congo hemorrhagic fever Herpes B

Ebola Junin

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Lassa Variola (major, minor)

Machpo Yellow fever (17D vaccine strainを

Marburg 除 く)

註.媒 介 節 足 動 物 を 用 い る実 験 の 場 合 は 別 途 個 別 に 考 慮 す る 。

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別表1、 付表2

実験動物の病原体等のバイオセー フテ ィレベル分類

分類基準

ヒ トに対 する病原性 はないが、動物 間において感染 を起 こす病原体等のin vitro

での取 り扱 いにつ いて分類 した。対 象実験動物の範囲は、原則 として犬、猫、猿、

齧歯類 とした。なお、in vivo実 験 の場合、1ラ ンク上 げる病原体等については、

分類表中に*で 示 した。 ここに挙 げていない病原体等については個別 に考慮 するも

の とする。

レベル1

動物 への感染 がほとん どない もの。

レベル2

動物への感染 は少 な く、感染が起 きて も汚染 は防 ぎうるもの。

レベル3

動物への感染が強 く、汚染が起 こるもの。

1.ウ イ ル ス

・レベ ル1

ワ クチ ン株 な ど

・レベ ル2

Canine adeno (Infectious canine hepatitis)

Canine corona

Canine distemper

Canine parvo

Caviid herpes 1 (Guinea pig cytomegalo)

Ectromelia (Mousepox)*

Feline calici

Feline immunodeficiency

Feline infectious peritonitis

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Feline leukemia

Feline panleukopenia

Feline rhinotracheitis

Herpes papio

Kilham's rat

Lactate dehydrogenase (LDV)

Lapine parvo

Lapine rota

Mouse diarrhea (Mouse rota)

Mouse hepatitis

Marine adeno

Marine polio

Marine leukemia

Pneumonia of mice

Rabbit pox

Sialodacryoadenitis (rat corona)

・レペ ル3

な し