広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレー...

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79 広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング ービデオモニタリングとセルフチェックによるトレーニングの効果一 石坂 務*・宮崎 光明*・.佐野 基雄*・井上 雅彦** 本研究では、1名の広汎性発達障害児を対象に、「透視のマジック」「重たい軽いマジック」「正解を引 くマジック」の、カードを用いたマジックを3種類トレーニングし、その効果を検討した。方法は、課題 分析を用いたそれぞれのマジックのスキルトレーニングと、「透視のマジック」.を対象に、マジックを行 う相手との関わりを円滑に進めるためのショーマンシップトレーニングであった。結果、3種類のマジッ クにおいて、スキルトレーニングは100%に到達することができた。「透視のマジック」を対象にしたショー マンシップトレーニングでは、すべてのショーマンシップの判定項目において達成基準に到達し、マジッ クの相手もその仕掛けが分からなくなった。また、ショーマンシップトレーニングと平行して行った「重 たい軽いマジック」「正解を引くマジック」のプローブにおいても、ショーマンシップの上昇が見られた。 キーワード 広汎性発達障害児・マジック・ビデオモニタリング・セルフチェック 1.はじめに 発達障害児者の余暇に関する研究は、社会参加 の文脈やノーマライゼーションの流れの中で検討 されてきている(岡部・渡部、2001;奥田・井上・ 松尾、2000;奥田・服部・島村ら、1999)。 岡部・渡部(2001)は、余暇に関する欧文の障 害系雑誌に掲載された過去20年間の論文をレビュー した結果、QOLの向上やライフスタイルの実現 について、活動の選択肢が恒常的に拡大していく ことが求められると述べている。 井上(1998)は、個人のQOLの向上という観 点からは、本人が楽しめるか、社会参加やノーマ ライゼーションが促進されるか、生活の中での選 択肢が拡大するか、というような視点が中心にな ると指摘している。 このような観点から、発達障害児者に対して余 暇活動の指導が行われている。例えばボーリング (加藤・井上・三好、1991;井澤。霜田・氏森、 2001)エアロビクス(飯塚・井上、1992)、料理 (井上・飯塚・小林、1994;井上・井上・菅野、 1995)、カラオケ(井澤・山本・氏森、1998)、ピ アノ (奥田・服部・島村ら、1999)、茶道(井上・ *兵庫教育大学学校教育研究科 ** コ庫教育大学発達心理臨床研究センター 奥田、1999)、モータースポーツ(奥田・井上・ 松尾、2000)、パーティゲーム(奥田・井上、2001)、 ビリヤード(宮崎・加藤・酒井ら、2006)、オセ ロ(竹井・高浜・野呂、2006)、神経衰弱(浅原・ 奥田、2006)など幅広く行われている。 その中でも料理スキル(井上・井上・小林、 lg94)は家族、友人から社会的強化を受けやすい とされる。また、奥田・服部・島村ら(1999)は、 ピアノが余暇スキルとして維持するための要因と して、聴衆に曲を聴いてもらい、拍手や賞賛を受 ける経験を挙げている。 一方、清水・中村・日戸(2001)は、高機能自 閉症児が、勝敗のある余暇に対し、勝つことに目 標が限定されやすいことや、負けた途端にいわゆ るパニックになりやすいことを指摘している。つ きり、勝敗のある余暇は勝つことで強化を得るこ とができるが、負けることによって、逆に強い拒 否を示しやすいことが問題点であるといえる。し かし、先に挙げた料理やピアノには勝敗が成立し ないため、勝敗に関する問題は生起することはな い。 本研究で取り上げるマジックについても料理、 ピアノに共通して、社会的強化が得られやすく、 さらに、活動に勝敗が成立することはないと考え られる。

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79

広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング  ービデオモニタリングとセルフチェックによるトレーニングの効果一

石坂  務*・宮崎 光明*・.佐野 基雄*・井上 雅彦**

 本研究では、1名の広汎性発達障害児を対象に、「透視のマジック」「重たい軽いマジック」「正解を引

くマジック」の、カードを用いたマジックを3種類トレーニングし、その効果を検討した。方法は、課題

分析を用いたそれぞれのマジックのスキルトレーニングと、「透視のマジック」.を対象に、マジックを行

う相手との関わりを円滑に進めるためのショーマンシップトレーニングであった。結果、3種類のマジッ

クにおいて、スキルトレーニングは100%に到達することができた。「透視のマジック」を対象にしたショー

マンシップトレーニングでは、すべてのショーマンシップの判定項目において達成基準に到達し、マジッ

クの相手もその仕掛けが分からなくなった。また、ショーマンシップトレーニングと平行して行った「重

たい軽いマジック」「正解を引くマジック」のプローブにおいても、ショーマンシップの上昇が見られた。

キーワード 広汎性発達障害児・マジック・ビデオモニタリング・セルフチェック

        1.はじめに

 発達障害児者の余暇に関する研究は、社会参加

の文脈やノーマライゼーションの流れの中で検討

されてきている(岡部・渡部、2001;奥田・井上・

松尾、2000;奥田・服部・島村ら、1999)。

 岡部・渡部(2001)は、余暇に関する欧文の障

害系雑誌に掲載された過去20年間の論文をレビュー

した結果、QOLの向上やライフスタイルの実現

について、活動の選択肢が恒常的に拡大していく

ことが求められると述べている。

 井上(1998)は、個人のQOLの向上という観

点からは、本人が楽しめるか、社会参加やノーマ

ライゼーションが促進されるか、生活の中での選

択肢が拡大するか、というような視点が中心にな

ると指摘している。

 このような観点から、発達障害児者に対して余

暇活動の指導が行われている。例えばボーリング

(加藤・井上・三好、1991;井澤。霜田・氏森、

2001)エアロビクス(飯塚・井上、1992)、料理

(井上・飯塚・小林、1994;井上・井上・菅野、

1995)、カラオケ(井澤・山本・氏森、1998)、ピ

アノ (奥田・服部・島村ら、1999)、茶道(井上・

*兵庫教育大学学校教育研究科

**コ庫教育大学発達心理臨床研究センター

奥田、1999)、モータースポーツ(奥田・井上・

松尾、2000)、パーティゲーム(奥田・井上、2001)、

ビリヤード(宮崎・加藤・酒井ら、2006)、オセ

ロ(竹井・高浜・野呂、2006)、神経衰弱(浅原・

奥田、2006)など幅広く行われている。

 その中でも料理スキル(井上・井上・小林、

lg94)は家族、友人から社会的強化を受けやすい

とされる。また、奥田・服部・島村ら(1999)は、

ピアノが余暇スキルとして維持するための要因と

して、聴衆に曲を聴いてもらい、拍手や賞賛を受

ける経験を挙げている。

 一方、清水・中村・日戸(2001)は、高機能自

閉症児が、勝敗のある余暇に対し、勝つことに目

標が限定されやすいことや、負けた途端にいわゆ

るパニックになりやすいことを指摘している。つ

きり、勝敗のある余暇は勝つことで強化を得るこ

とができるが、負けることによって、逆に強い拒

否を示しやすいことが問題点であるといえる。し

かし、先に挙げた料理やピアノには勝敗が成立し

ないため、勝敗に関する問題は生起することはな

い。

 本研究で取り上げるマジックについても料理、

ピアノに共通して、社会的強化が得られやすく、

さらに、活動に勝敗が成立することはないと考え

られる。

80    発達心理臨床研究 第14巻 2008

 しかしながら、マジックは、他者に分からない

ように行う技術、一つ一つの行動のステップを順

序よく見せる技術、状況により、間を伸ばす、身

振り手振りを行う、笑わせるなどあ人を楽しませ

る技術が求められる(長谷川、2007;星野2005)。

本研究ではこれらをショーマンシップと呼ぶζと

とする。しかし、広汎性発達障害児者が、ショー

マンシップを習得するのは困難であると考えられ

る。それは、広汎性発達障害児の困難性といわれ

ている「心の理論」(奥田・井上、2002)や他者

視点(十一・神尾、2001)、共同注意(渡部・岡

村・大木、2005)の欠如、または未発達が困難の

要因となっていると考えられるためである。

 これまで、他者視点の困難性に対して介入した

ものとして、根来・谷川・西岡(2006)らの研究

がある。これは乱11名の中学生の広汎性発達障害

児を対象に、場面や文脈にあっ牟適切な言葉の使

い方などのコミゴニケーションスキルを指導した

もので、コミュニケーションスキルについてのロー

ルプレイを演じた後、ビデオモニタリングを用い

た、セルフチェックを行い評価シートに記入した。

結果、評価シートの点数が、上がっていると有意

差が認められたのは、11話中6名あった。

 そこで本研究では、広汎性発達障害児に行動連

鎖を用いたマジックのスキル形成とてセルフチ

ェック、ビデオモニタリングを用いたショーマン

シップトレーニングを行い、その効果を検討し

た。

         H.方法

1.対象児

 特別支援学級に在籍する中学校3年生の広汎性

発達障害児である男子生徒1名(以下、本丸)で

あった。4歳Hヶ月時に、医師により「自閉症」

と診断された。訓練開始時の生活年齢は、14歳4

ヶ月であった。11歳4ヶ月時のWISC一皿の結果は、

FIQ86、 PIQIo3、 vIQ74であった。

 丸払は失敗体験に対し、過剰に反応し、課題に

失敗すると以降は、「もういいです」「納得できま

せん」と回避的な言動が見られた。手の微細運動

に関しては、問題は見られなかった。コミュニケー

ション面においては、言葉につまることもあるが、

他者との会話に支障は見られなかった。また、初

対面の相手に対しても、敬語を使い話すことがで

きた。ユーモアに関しては、トレーナーに対し、

冗談が分からず怒り出す面も見られた。また、

「どうかしましたか。」「この前は怒ってすみませ

んでした。」など、他者に対する気づかいの面が

見られることが多々あった。本児の余暇活動とし

ては、テレビゲームやマンガを読むことで時間を

過ごしていることが多かったため、人と交わるこ

とのできる余暇活動を形成することが1っの目標

となっていた。

 また保護者から、本玉にとって自信のつく活動

を行って欲しいと聞き取っていた

2.トレーニング期間及び場所

 X年6月目12月、原則週1回の指導において、

約20分間本トレーニングを行った。他のトレーニ

ングとしては、中学3年ということで保護者の要

望から面接スキルトレーニング、小論文トレーニ

ングなどを行っでいた。なお、夏休み期間は指導

を行わなかった。場所は、大学の訓練室内で行わ

れた。

3.マテリアル及びセッティング

 市販のマジック用のトランプを使用した。サイ

ズは一般的な大きさ(約89mm×約58mm)であり、

紙製であった。マジックの仕掛けとして、絵札の

裏側の模様で絵柄及び数字を言い当てることでき

るように工夫されていた。また、上下の端の横幅

が約1mm、長さが異なり、長方形のよケに見える

が実は台形になっている(テーパー加工)ため、』

1枚を意図的に上下入れ替えると、角が突き出て、

カードの束の中から特定のカードを取り出すこと

ができるように細工されていた。

 また「透視のマジック」の実演ビデオを作成し

た。ビデオ作成に関する説明は、ショーマンシッ

プトレーニングの手続きにおいて説明することと

する。

石坂・宮崎・佐野・井上:広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング   .    81

 セッティングは、本児と机を挟んで、指導者

(以下、MT)が座り教示を行った。本児がマジッ

クを行う時は、MTか指導補助者(以下、 ST)が

正面に座った。カメラは本児の右斜め前から撮影

した。

4.マジックの概要及び課題分析

Table2「重たい軽いマジック」の課題分析

1.『重たい軽いマジックをはじめます」と言う

2.トランプを切る

3.切ったカードの束からトランプを10枚程度取る

4.カードを1枚ずつ裏のまま重たい軽いと言い

  ながら分類する

5.分けたカードを表にする

 ここでは「透視のマジック」「重たい軽いマジッ

ク」「正解を引くマジヅク」の3つのカードマジッ

クについて取り組んだ。以下3っのカードマジッ

クの概要について示した。

1)「透視のマジック」

 「透視のマジック」は、相手がマジシャ」ン(本

児)のカードの束から、絵柄と数字が分からない

ように引いた1枚のカードの絵柄と数字を、絵札

の裏側の模様で見分け、あたかも透視をしている

かのように当てるマジックである。マジックの課

題分析をTable 1に示した。

3)「正解を当てるマジック」

 「正解を当てるマジック」は相手がマジシャン

のカードの束から引いた1枚のカードをマジシャ

ンのカ「ドの束に戻し、カードの束から相手が引

いたカードのみを引き当てる手品である。トラン

プにはテーパー加土がされているため、マジシャ

ンは相手が引いたカードとマジシャンの持つカー

ドを反対にすることで、相手が引いたカードを引

き当てることができた。マジックの課題分析を

Table 3に示した。

Tabie3「正解を当てるマジック」の課題分析

Tabld 「透視のマジック」の課題分析

1,

2.

3.

4.

5.

6.

7.

『透視のマジックをはじめます』と言う

トランプを切る

トランプを広げる

『カードを1割引いて下さい』と言う

カードを差し出す

絵札の裏側を見せてもらうよう、要求する

トランプに書かれた数字を言う

1,『正解を当てるマジソクをはじめます』と言う

2.トランプの上下が混ざらないよう同じ方向に切

  る

3.トランプを広げる

4.カードを1枚引いてもらう

5.カードを確認するように伝える

6.手元のトランプを上下変える

7.相手のトランプを手元のトランプの中に入れる

8.トランプを切る

9.正解のトランプを裏にしたまま引きだす

10.トランプを表にして見せる

2)「重たい軽いマジック」

 「重たい軽いマジック」は、.カードに触れただ

けでそれをあたかも重たい軽いを当てたかのよう

にカードを分類するマジックである。1から10ま

でを軽いカード、JQKを重たいカードとした。マ

ジシャン自身がカードの束から引く10枚程度のカー

ドを重たい、軽い、と2種類に分類して机上に伏

せて置き、最後にカードを一度にめノくって、,あた

かも絵札のカードと数字のカ」ドを重量で分類し

ているかのように見せるマジックであった。マジッ

クの課題分析をTable 2に示した。

、5.手続き

1)基礎トレーニング(透視のマ.ジッタと重た

  い軽いマジックで必要なスキルの集中トレー

  ニング)

 基礎トレーニングでは、絵札の裏側の模様から

絵柄、数字を見分けるトレーニングを行った。始

あに模様を拡大させた教示用シートを一緒に読む

ことで確認した。トレーニング前に、本児に教示

用シートを見せながら4回りハーサルを行った。

その後MTがランダムに抽出した10枚のカードを

見て、本児に絵柄、数字を答えてもらった。教示

用シートは使用しなかった。答えが出た直後に裏

82 発達心理臨床研究 第14巻 2008

返し、正反応時には言語賞賛し、誤反応時には教

示用シートを見せ、絵札の裏側の模様を確認する

こととした。達成基準は2回連続100%とした。

2)「スキルトレーニング」

 スキルトレーニングでは、本研究で取り上げる

3っのマジックの課題分析の項目についてトレー

ニングを行った。試行順序としては、「透視のマ

ジック」のベースラインの後、トレーニングを行っ

孝。.「透視のマジック」の達成基準を満たした後、

「重たい軽いマジック」及び「正解を引くマジヅ

ク」を同様の手続きで行った。以下にベースライ

ンとトレーニングの詳細な手続きを示し. ス。

(1)ベースライン(以下、B.L.)

 マジックを課題分析した手順書を教示し、一緒

に読むことで確認した後、MTがモデルを見せた。

その後、STを相手に各ヤジックを行った6正誤

のフィードバックは行わぢかった。

(2) トレーニング

 MTがマジックのモデルを見せ、その後本誌が

MTに1度マジックを行った。マジック終了後に

全ての課題分析の項目における行動が正反応であっ

た場合には、言語賞賛を行った。また課題分析の

項目における行動に誤反応があった場合には、言

語による修正を行った。その後STにマジックを

行った。評価は、STに行ったマジックについて

行った。ここでの正誤のフィードバックは行わな

かったQ達成基準はそれぞれのマジックについて

100%とした。

3)ショーマンシップトレーニング

 ショーマンシップトレーニングでは、スキルト

レー二.ングで達成した3っのマジックのうち、

「透視のマジック」を対象に行った。.

 本研究.におけるショーマンシップとは、マジッ

クを行う際の演出技術と定義した。

 ショーマンシップの項目は.、星野(2005)、長

谷川(2007)を参考に、修正したものを作成した。

本研究において、ショーマンシップの項目を11項

目とした。項目をTable 4に示した。

Table 4ショーマンシップの項目

1. 目線の使い方は適切だったか

2.カードに注目しすぎなかったか

3.カニドの扱い方は正確であったか

4.進行のスピードは適切だったか

5.余計な行動はなかったか

6.声の大きさは適切だったか

7.読み取る時間は適切だったか

8.間の取り方は適切だったか

9.手振りの使い方は適切だったか

10.自ら声で盛り上げることができたか

11..ユーモアはあったか

 ショーマンシップの項目は、1、2、3を「他者

に分からないように行う技術」、4~7を「順序

よく見せる技術」、8~11を「人を楽しませる技

術」として設定した。

 ショーマンシップの評価は、ショーマンシップ

の項目に従って、筆者を含めた臨床心理学を学ぶ

大学院生3名の主観的な判断で行った。評価は、

即時評価及び、ビデオ録画されたものを見て一斉

に評価を行った。それぞれが達成していると評価

した項目.に2点、課題が残るができ牟項戸に1点、

できないと判断した項目に0.点をっけ、項目ごと

に、.0~6点までの3名の.合計点を算出した。達

成基準は、すべての項目において5点以上に到達

することとした。

 ショーマンシップトレーニングにおけるマジッ

.グの試行順序は、「透視⑱マジック」「重たい軽い

マジック」「正解を引くマジック」.とした。また

ショーマンシップトレーニング以前のスキルトレニ

ニングにおし.・て、3つのマジックのB.Lを測定し

た。以下にベースラインとトレーニングの詳細な

手続きを示した。

(1)B.L,

 スキルトレーニング時に、3つのマジックにお

けるショーマンシップのB.Lを測定した。また、

「重たい軽いマジック」「正解を引くマジック」は、

「透視のマジック」のショーマンシップトレーニ

ングと平行してB。しの測定を続けた。

(2)トレーニング

 このトレーニングでは、「透視のマジック」の

石坂・宮崎・佐野・井上:広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング 83

正反応痙(%)

100

80

60

40

20

0

応痙@B.L,          Traning

B.L. Traning ●

B.L.  」 Traning

1 1 1

1 1 1

1 匪 1

1 曇

▲ ‘1 1 1

1 1 1

1 1 1■ ‘ ‘

闇 ‘ ‘ 1■ ‘ 1

1 1 匪

●1 言

」 薩 1

1 薩 1

.1 1 8」 1 ‘

6 1 ‘

1 1 6 圏透視のマジック奮 ■ 1

匿 == ●重たい軽いマジック

= ==

▲正解を引くマジック幽 6 薩

」 醒 書

1 含且

1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  で1  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24 25

試行数

Fig.雪スキルトレーニング正反応率の推移

実演ドデオ(以下、実演ビデオ)を作成した。ビ

デオの実演者は、この研究に関与しない大学院生

が行い、MTとST計3名の観点から、 Table 4に

示すショーマンシップが満たされていると判断さ

れるものであった。

 初回のトレーニングの前に、MTが、ショーマ

ンシップチェック用紙を見せて、「プロのマジシャ

ンが、このようなことに気をつけて行えばもっと

上手にマジックができるよと言ってたよ。」と三

児に見せ、各項目について説明を行った。その後、

本児に「プロのマジシャンが行った」と説明した

実演ビデオを見てもらった。さらに、MTが行っ

た、ショーマンシップが全く満たされていない

「透視のマジック」のビデオ(以下、MTビデオ)

を見ても.らった。三児には、各ビデオのチェック

用紙に○×を記入してもらった。本児のチェック

に関してMTのフィードバックは行わなかった。

次に、本四がMTに対して、「透視のマジック」

「重たい軽いマジック」「正解を引くマジック」の

順にリハーサルを行った。ここでは、MTは本児

のマジックに対するフィードバックは行わなかっ

た。さらに、本児が、STに対して、 MTの前で行っ

た順序と同様にマジックを行った。

 2回目以降のトレーニングは、本児が、初め1ヒ

実演ビデオを見た後、前回本児がSTの前で行っ

た「透視のマジック」のみのセルフチェック及び

ビデオモニタリングを行った。本児は、本工自身

の「透視のマジック」を見て、チェック表に○×

を記入した。このチェックに関して、MTは本児

のチェックに関してフィードバックは行わなかっ

た。その後MTに対して初回のトレーニングと同

等の順番で3つのマジックを行った。次に、ST

に対して、MTの前で行った順序と同様にマジッ

クを行った。

 このトレーニングでは、STに対して行ったマ

ジックを評価対象とした。なお、同一のSTを相

手に連続して行うと慣れの効果から、ショーマン

シップが下がると考えられたため、STをランダ

ムに変えるようにした。「透視のマジック」にお

けるショーマンシップの達成基準及び修正基準は

以下の通りとした。ショーマンシップの全ての項

目において、5点以上が2セ.ッション連続で達成

とした。また、ショーマンシップの.各項目におい

て4点以下が3セッション以上続いた項目に関し

ては、その項目に関してMTが取り上げ、チェッ

ク用紙に記入するための、本児自身が「透視のマ

ジック」を見ている場面において、言語教示を行

うこととしナこQ

         皿.結果

1.基礎トレーニングの結果

 基礎トレーニングは、1セッション目から正反

応率が100%となり、.2セッション目まで続き達

成基準を満た:した。

84 発達心理臨床研究 第ユ4巻 2008

透視合の 計

手点

ll.

706 0

5 0

4 0

30201 0

0

7060504030201 0

Q

706050403020LOo

Bas6㎞ 丁晦

7 8 9 1〔,

@   ノ妬4 25 6 27 28  29   3{⊃  3置  一2   33

@     セソショ

正蜘1ineP【d⊃e

論測点

11  12  13  14   15 24   25   6   27   28  29   3【,  31  32   33

           センソヨン             1

       腔㎞e [

_~`〈ノ _1㎞be

              16  重7   18   19   2(⊃  21   22   2ヨ  24   25  26   27   黙  29   3〔♪  3i  32   33

                                    セッション

Fig.2ショーマンシップトレーニングおよびプローブにおける合計点の推移

2.スキルトレー三ングの結果

スキルトレーニングの結果をFig.1に示した。

Fig.1の縦軸は正反応率(正反応数/各マジック

の全課題分析の項目数×100)を、横軸は試行を

示した。また、圏は「透視のマジック」、●は

「重たい軽いマジック」、▲は「正解を引くマジッ

ク」を示した。

 達成基準までの各マジックのトレーニングの試

行数は、「透視のマジック」が9試行、「重たい軽

いマジック」が4試行、「正解を引くマジック」

が9試行であった。以下、各マジックの正反応率

の推移を示した。

 「透視のマジック」は、BL.に71.4%の正反応

率を示した。トレーニングでは、2試行目に71.4

%、2試行目に85.7%、3試行目に100%、4試行

目からg試行目まで85.7%の正反応率が続いた。

9試行目及び10試行目と100%の正反応率が2回

連続で続き達成基準を満たした。

 「重たい軽いマジック」は、B.しに60%の正反

応率を示した。トレーニングでは、12試行目に

100%、13試行目が80%、14試行目及び15試行目

と100%の正反応率が.2回連続で続き達成基準を

満たした。

 「正解を引くマジック」は、B.L.にgO%の正反

応率を示した・トレーニングでは、17試行目から

20試行目までが90%、21試行目及び22試行目が80

%、23試行目がgO%の正反応率を示した。24試行

目及び25試行目とio6%の正反応率が2回連続で

続き達成基準を満たした。

 トレーニング期間における本児の様子として、

「透視のマジック」及び「重たい軽いマジック」

では、カードの裏側の模様をみようとする時に、

顔をカードに近づける及びカードを見続ける行動

が目立った。「正解を引くマジック」においては、

テーパー加工の利用にあたって、全てのカードが

上下そろっていなければならないことから、マジッ

ク中も力ニドがそろっているかどうかを確認する

行動が多々見られた。これらの様子から、傘ての

マジックの仕掛けが、マジックを行う相手に分かっ

てしまった。

3.ショーマンシップトレーニング

 ショーマンシップトレーニングの結果をFig,2

’に示した。Fig.2の縦軸は主観的評価の合計点

石坂・宮崎・佐野・井上:広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング 85

6

 5

評 4価

△3口

二2

 1

0

(点)

,△、

’     、

B⊥.

、     ’

■\   !黒\  、   !     、

,△’

,△.

.      、

、△

         Traning△’’”△昌一”△’”一 一圃一胃 △

.!

戸一一 ヤマ       ○ ○◆  、   ’

 ムー’恰__

■一一一→一一目線の使い方は適    切だったか

一一。一一カードに注目しす    ぎなかったか

一” 「’”カードの扱い方は    正確であったか

試行数

7    8    9    10 ・ 24   25   26  . 27   28   29   30   3悪   32   33

 Fig.3透視のマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移     他者に分からないように行う技術

6

5

 4価

合3計

点2

1

0

(点)   B上.

  !△、  !△一一△一一△ !   、   !

旨”ネ、   ’\

、、ハ/夙\、 \馬 1,画 、b!、 ズ・’・ 7 、

          !    N、 1

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一一梭鼈齔i行のスピード    は適切だったか一一一 翼香h余計な行動はな    かったか

一一「一一声の大きさは適    切だったか一圏 rぐ幽一読み取る時間は    適切であったか

7    8    9    10   24   25   26   27   28   29   30   31   32   33

 Fig.4透視のマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移

     順序よく見せる技術

6

5

 4価

 3合

 2点

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0

(点)B⊥.

一一一一 来鼈黶@ ・一一-一一一一■一一一一

         Traning

  .”\.〆r・’==∵”》ぐ’ 営=⊇ ,          h ”                  、                  ’

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              、 ノ

一一一梭鼈鼈鼕ヤの取り方は適切であったか

’” 。’‘’手振りの使い方は適切だったか

一一「一一自ら声で盛り上げることができたか

一匿rぐ一一ユーモアはあったか

試行数

7    8    9    10   24   25   26   27   28   29   30.  31   32   33

 Fig,5透視のマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移

    人を楽しませる技術

86    発達心理臨床研究 第14巻 2008

  (点)      B上1

 6

 5

評4価

の3合

計2点

 1

 0

一一q〉一一目線の使い方は    適切だったか一一一 ㊧黹Jードに注目しす    ぎなかったか

一+一カードの扱い方は    正確であうたか

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48

一「配一 v

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試行数

11 12 13-415 24 25 26.27 28 、29 30 31 32 33 Fig.6重たい軽いマジックにおけるジョーマンシップスキル評価項目得点の推移

    他者に分からないように行う技術

 6

 5

評4価

ρ)3

点2

 1

 0

(点)

託・ ㍉.

  、

B.L.

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一一一梭齔i行のスピード    は適切だったか一’曹 。一・余計な行動はな    かったか一一「一一声の大きさは適    切だったか一’ rぐ・一読み取る時間は

    適切であったか

1准  f2   13   14   15 . 24   25  26  27  28  29   30  31  32  33

 Fi.g.7 重たい軽いマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移

    順序よく見せる技術

  6

  5

  4評

価の 3

計2点

  1

  0

(点) .B.L.

一◇一一間の取り方は適切    であったか…’ ?f…手振りの使い方は    適切だったか‘一一「一一自ら声で盛り上げる    ことができたか一胴 tぐ【}ユーモアはあったか

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試行数

1玉   茎2   13   14   1.5   24   25 . 26   27   28.  29   30   31   32   33

Fig.8重たい軽いマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移

    人を楽しませる技術

石坂・宮崎・佐野・井上:広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング 87

6

(点) B.L.

 5評

価4の

合3計

点2

1

0

一一目線の使い方は    適切だったか一・ 。一一・カードに注目しす

    ぎなかったか一一「一一カードの扱い方は    正確であったか

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試行数

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Fig.9正解を引くマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移

   他者に分からないように行う技術

(点)

6

B⊥.

 5評

価4の

合3計

画2

1

0

一一一梭鼈鼈齔i行のスピードは適切だったか

・一 ユ一一一余計な行動はなかったか

一一「r一一声の大きさは適切だったか

一幽 tぐ・一一読み取る時間は適切であったか

へ  團’”團’”殴

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試行数

16  17

Fig」0

18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  32  33

     正解を引くマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移

順序よく見せる技術

6

 5評

価4の

合3計

点2

1

0

(点)B上、

一◇一一一間の取り方は適切    であったか’” 」’”手振りの使い方は    適切だったか一+一自ら声で盛り上げる    ことができたか一’ ~’一ユーモアはあったか

 一   騨   騨

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試行数

16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  3重  32  33

Fig.11正解を引くマジックにおけるショーマンシップスキル評価項目得点の推移

    人を楽しませる技術

88    発達心理臨床研究 第14巻 2008.

(ll項目×6点)を、横軸は試行数を示した。試

行数は㍉Fig.1における「透視のマジック」の7

試行目から、「透視のマジック」のショーマンシッ

プデマタを取り始めたため、「透視のマジック」

の試行数の1試行目を7試行目と示すこととした。

また、7セッション目から23目セッションまでは、

1セッション1試行とし、24セッジョン目以降は、

各マジック1試行ずう合計3試行を行った。

 ショーマ・渚シップの各下位項目における主観的

評価の合計得点の推移をFig.3~Fig.11に示した。

Fig3~Fig.llの縦軸は各項目の得点冠横軸は、

セッションを示した。

 初回のトレーニングの前に行った実演ビデオと

MTビデオのショーマンシップのチェック詔命の

結果は、実演ビデオが全て0、MTビデオが全て

×にチェックした。本児は、MTビデオのチェッ

クが終わったあと、MTに「すみません。」と謝る

行動が見られた。

 「透視のマジック」は、B.L.において、9セッ

ション目で30点を示した炉、その以外では30点以

上を示すセッションは見られなかった。.トレーニ

ングでは竃26セッション目50点、27セッション目

55点と上昇し続け、29セラション目には63点と60

点以上を示.オた。その後の試行も60点以上を維持

したQ

 「重たい軽いマジック」は、B.L。において30点

以上を示す.セ1ッションは見られなかっ#。「透視

のマジック」のトレーニングを開始した後のB.L.

2では、26セッション目27点、27セッション目22

点、28セッション目には29点であった。29セッショ

ン目から61点を示し32セッション目までは、55点

以上を維持した。33セッション目では、50点に下

降した。

 「正解を引くマジック」では、B.L.におい30点

以上を示すセッションは見られなかった。「透魂

のマジック」のトレーニングを開始した後あB.L。

2では、26セッション目47点、27セッション目25

点、28セヅション目には30点であった。29セッショ

ン目から57点を示し33セッション目までは、35点

以上を維.持した。

4.トレーニング終了後のエピソード

 MTは、スキルトレーニング開始時から本児に

マジックスキルが身に付いたら保護者に見せてあ

げようねという促しをしていた。そこで、スキル

トレーニング及びショーマンシップスキルトレー

ニング終了後に、MT及び保護者、「透視のマジッ

ク」の実演ビデオ登場者も含めた7人を観客とし

て、マジックショーを設定した。マジックショー

’の開催について、トレーニングが終了して自信が

ついていた本丸にとって、みんなの前でマジック

を行うことに抵抗は見られなかった。

 MTは、マジックショーを行う前に、本玉に、

直接ショーマンシップトレーニングを行わなか・つ

た「重たい軽いマジック」及び「正解を引くマジッ

ク」の低下しているショーマンシップの下位項目

についてトレーニングを行うた。また、.集団の前

でマジックを行う練習を行った。

 マジックショーは成功して、本誌は、7人から

多くの言語賞賛と拍手をもらった。本児は、満面

の笑顔を浮かべていた。また本児は、マジック終

了後に、「透視のマジック」の実演ビデオ登場者

に「マジック認定証」と書かれた賞状をもらい非

常に喜んでいた。

         IV.考察

 本訴窄では、広汎性発達障害児を対象に、「透

視のマジ.ッタ」「重たい軽ヤ・マジック」「正解を引

くマジック」のカードを用いたマジックを3種類

トレーニングした。方法は課題分析を用いたそれ

ぞれのマジックのスキルトレーニングと、「透視

のマジック」を対象に、マジックを行う相手との

関わりを円滑に進めるためのビデオモニタリング

とセルフチェックを用いたショーマンシップトレー

ニングであった。結果、3種類のマジックにおい

て、技術面は100%に到達することができた。「透

視のセジック」を対象にしたショーマンシップト

レーニングでは、すべてのショーマンシップの判

定項目において達成基準に到達し、聴衆役はマジッ

クを行う際の仕掛けが分からないまでになった。

また、ショーマンシップトレーニングと平行して

石坂・宮崎・佐野・井上:広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング

行った「重たい軽いマジック」「正解を引くマジッ

ク」のプローブにおいても、ショーマンシップの

上昇が見られた。これらの結果から、広汎性発達

障害児にマジックを指導するためには、課題分析

によるスキルのトレーニングだけでなく、ビデオ

モニタリングとセルフチェックを用いたショーマ

ンシップトレーニングの有効性が示された。以下、

スキルトレーニングとショーマンシップの般化に

ついて考察を行った。

1.課題分析を用いたスキルトレーニングの有効

  性

 3つのマジックに関して、「透視のマジック」

と「正解を引くマジック」は10試行で、「重たい

軽いマジック」は、5試行で達成基準に達した。

トレーニングを行った順番は、「透視のマジック」

「重たい軽いマジック」「透視のマジック」であっ

た。「重たい軽いマジック」が5試行で達成した

のは、直前に行った「透視のマジック」と同じト

ランプの仕掛けであったためと考えられた。逆に

「正解を引くマジヅク」が10試行かかったのは、

マジックの仕掛けが今までの仕掛けと異なり、テー

パー加工の仕掛けであったことが考えられた。す

なわち、「正解を引くマジック」を成立きせるた

めには、々一ドをきちんと整えなければ、引き出

すべきカードが出てこなかったり、また、カード

の束を逆にすると、引き出すべきカードのみ引っ

込んでしまったりしたためであった。

 それぞれのマジックの課題分析を手順書にし明

示したことで、マジックの仕掛けが明らかになり、

手順どおりに行えば、最後まで行えること、また

マジックはその機能上、賞賛や驚嘆などの即時強

化が得られやすいことが有効性として考えられた。

2.ビデオモニタリングとセルフチェックを用い

  たショーマンシップトレーニングの有効性

 本児が行った基礎トレーニングとスキルトレー

ニングは、少ない試行数で達成基準に達すること

ができた。しかし、スキルトレーニングを行って

もショーマンシップスキルは、各マジラクとも合

                    89

計点の半分以下であった。その中でも、「カード

に注目しすぎなかったか」「自ら声で盛り上げる

ことができたか」「ユマモアはあったか」「目線の

使い方は適切であったか」「手振りの使い方は適

切であったか」「間の取り方」の項目は2っ以上

のマジックで1点未満であった。これらのショー

マンシップスキルに必要とされる技術はすべて

「他者にわからないように行う技術」「人を楽しま

』せる技術」で.あった。スキルトレーニングを行う

ことで、一つ一つの手順は正確に行うことができ

るようになったが、それだけでは手品の仕掛けは

分かってしまった。それは、カードの裏の模様を

見る際の動作や、テーパー加工を気にする際の終

始カードを整えるなどの仕掛けに関わるスキルや、

手振りや、自ら盛り上がることができるかなどの

演出に関するスキルが不十分であることが原因と

考えられた。.

 広汎性発達障害の特性のひとつとして、自分が

他者と違った立場であるという意識や、他者を通

じて自分を眺めるという視点の持ちにくさ、つま

り他者視点の困難性が指摘されている(十一・神

尾、2001)が、本児においてもマジックをしてい

る最中に、カードの模様を顔に近づけて見る、カー

ドをしきりに整えるなど、マジックの仕掛けが分

かってしまう行動を、マジック中、しきりに行う

ことがあった。つまり本児におけるショーマンシッ

プトレーニングにおいても、まさに他者視点の困

難性という特徴があてはまると言えた。

 そこで、ビデオモニタリングとセルフチェック

を用いたショーマンシップトレーニングを行った。

本児においては、初回に教示用ビデオを見て、評

価シートを用いたチェックを教示ビデオに対して

行った後、ショーマンシップのすべての項目の評

価得点が著しく上昇した。特に、「手振りの使い

方は適切であったか」「カードの扱い方は正確で

あったか」「問の取り方」「声の大きさは適切であっ

たか」「読み取る時間」の項目は2試行で達成基

準に到達することができた。これは、ビデオモニ

タリングとセルフチェックという方法に対して、

物理的に見やすい項目で、行動することができた

90    発達心理臨床研究 第14巻 2008

回目と考えられた。また、・「手振りの使い方は適

切であったか」の項目に関して、教示ビデオは最

後に自ら拍手をしていたのが、本児は立ち上がり、

手を胸に当て礼をするなどの教示ビデオとは異なっ

た形でショーマンシップを取る行動が見られた。

 逆に「目線の使い方は適切だったか」は5試行、

「自ら声で盛り上げることができたか」は、,8試

行行う必要があった。「目線の使い方は適切であっ

たか」に関しては、3試行までは、カードの模様

を見る仕草が分かり、それぞれ4点以下の評価で

あったが、4、5試行になると、カードに念力を

送るという名目で、聴衆役と一緒にカードに念力

を送っている間にカードの模様を読み取ることで、

目線がカードに向ける仕草が分からなくなった。

達成後も安定して行うことができた。手振りや忌

め大きさなどの、セルフチェックでのチェックが

しゃすく、行動しやすい項目に比べ、目線の使い

方は、カードを見ずに聴衆役を見ながらマジック

を行う必要があるため、セルフチェ・ッグして行お

うとしても、行うことが難しかったと考えられた。

したがって5試行での達成になったのではないの

だろうか。「自ら声で盛り上げることができたか」

に関しては、ビデオモニタリングとセルフチェッ

クでは達成基準に到達しなかった。修正基準に達

したため、ビデオを元に、言語教示を行った。教

示ビデオでは最後に自ら拍手を行うなど、盛り上

げていたのが、本山においてぽ、最後に立ち上が

り礼を行うことで、声で盛り上げることがなかっ

たことが原因の一つに考えられた。また、トレー

ニングを行う際、「自ら声で盛り上げる」前に周

りが盛り上げていたため、本四は盛り上げる必要

を感じなかったことも考えられた。この項目に関

しては、手続きを行う上で、聴取者制御(a近di-

ence control)にも気を配る必要があった。

 根来・谷川・西岡ら(2006)は、ビデオを用い

たフィードバックを行うことで、他者から自分が

どのように見えているかということを示すことが

でき、それが、自己認知、他者認知の改善に役立っ

たことを報告している。また、手品の専門書でも

自分自身の行為をセルフチェックすることの有効

性が示唆されている(星野2005;長谷川2007など)

これらのことから、ビデオモニタリングと、セル

フチェックの組み合わせば有効であると考えられ

た。

3.ショーマンシップトレーニングの副次的効果

 ショーマンシップトレーニングの試行を重ねる

につれて、本児がマジックを行うときに、カード

の裏の模様を読み取る場面での相手と一緒に念力

を送る一連の流れは、マジックの仕掛けを知って

いるスタッフが見ても、カードの模様を読む仕草

が全くわからないまでに上達した。ショーマンシッ

プトレーニングを行う前は、マジック中に本児の

顔を常に見ることができた。しかし、ショーマン

シップトレーニングを開始してからは、「カード

に念力を送ります」「もっと集中して(念力を)

送ってください」と本児が相手に指示を出すこと

で、相手は本心の指示に従いカードに目が行き、

逆児の顔や目を追うことができなかった。結果、

マジックの仕掛けが分からなくなったと考えられ

た。

 マジックのスキルの一つに、・例えば右手で仕掛

けを行うときに、左手に注目させるなど、見る人

の視線をコントロールする「ミスディレクション」

(星野、2005)というものがある。これは、共同

注意をマジックに応用したものと考えられた。ショー

マンシップトレーニングを進めているうちに、本

誌は、知的障害を伴わない発達障害児がコミュニ

ケーションの機能的障害を持つ場合、発達に困難

性が見られるとされる共同注意(渡部・岡村・大

木、2005)を巧みに用いて、本児の目の動きを相

手が追わないようにしていたと考えられる。

4.プローブへの般化

 本研究において、3つのマジックのうち、「重

たい軽いマジック」「正解を引くマジック」に関

しては、ショーマンシップトレーニング、すなわ

ちビデオモニタリングと、セルフチェックは行わ

なかった。2っのマジックに関しては、ショーマ

ンシップトレーニングを行った「透視のマジック」

石坂・宮崎・佐野・井上:広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング

後にプローブを行った。その結果、「重たい軽い

マジック」は、.ll項目中、6項目、「正解を引く

マジック」は、11項目中、9項目がショーマンシッ

プトレーニングの達成基準にまで上昇した。まず、

教示ビデオで行うていた、カードの模様を読み取

る際の念力を送る相手との関わりはすべての行動

に般化した。また、マジックの最後に行う、立ち

上がっての礼もすべてのマジックに見られるよう

になった。カードを見ずに切り、相手に話しかけ

る行動もすべてのマジックで見られるようになっ

た。すなわち、マジックの中でもすべてに共通す

るショーマンシップは、比較的容易に移行したと

いえる。

 逆に達成基準に達しなかった項目のうち、平均

点も4点に満たなかった項目は、「重たい軽いマ

ジック」は「カードに注目しすぎなかったか」

「カードの扱いは正確であったか」「自ら声を出し

て盛り上げることができたか」で、「正解を引く

マジックは」「間の取り方は正確であったか」で「

あった。「重たい軽いマジック」の「カードに注

目しすぎなかったか」項目の上昇が低かったのは、

マジックの特性上、カードを10枚程度次々に模様

を読み取らなければならず、読み取っていくうち

に、カードに注目してしまっていたためであった。

また、「カードの扱いは正確であった」項目に関

しては、10枚程度のカードを机に分類するために、

重たい軽いと分類すべきカードが、混ざってしまっ

たことがあったため低い得点であった。最終的に、

マジックショーを行う際にはMTが重たい軽いと

ラインを引くことで相手が見ても分かりやすく分

類することができたが、マジックを特定のセッティ

ングだけではなぐ、どこでも行うようにするため

には課題が残る結果となった。「正解を引くマジッ

ク」の「間⑱取り方は正確であったか」の項目が

低かったのは、最後までテーパー加工の仕掛けに

対し、時問がかかることが見られたためであった。

しかし、時間はかかったが、マジックの仕掛けは

わからぬように、マジック中にカードの束を整え

る仕草は見られなくなった。上昇しなかった項目

は、どれもマジックの特性上、困難であるもので

91

あった。

 しかしながら、プローブへの般化は、比較的容

易に行うことができたものが多かった。これは、

ショーマンシップトレーニング後に行ったことも

あるが、マジックそのものの特性である、社会的

強化が随伴しやすいという特徴が、プローブへの

般化を容易にさせた要因であると考えられた。

5.今後の課題

 本研究において、マジックスキルとショーマン

シップをそれぞれトレーニングし、結果マジラク

として成立するようになったが、マジックの仕掛

けがいつ分からなくなるまでに上達したのかが明

確には分からなかった。

 29セッション目にSTをこの研究に関わらない

大学院生にお願いした際に、マジックがまったく

分からなかったという話を聞き、明らかになった

が、いくつかのセッションごとに、スタッフ以外

がSTをし、仕掛けが分かるかどうかを見ていく

必要があった。また、奥田・井上・松尾(2000)

は本人の動機付けの低さを、障害者本人の持つ問

題とするのではなく、動機づけを高あるような環

境(年齢相応の活動参加機会)の少なさが問題で

あると指摘している。マジックに関してもトレー

ニング後の維持を見ていく必要がある。また、本

研究のショーマンシップトレーニングでもたらさ

れた副次的な効果について、社会性、他者の視点

などに関して検証していく必要がある。

         文献

1)浅原薫・奥田健次(2006)自閉症幼児への神

 経衰弱ゲーム指導一トレーナーの支援スキル

  と之関係から一.日本特殊教育学会第44回大

 会発表論文集、360.

2)長谷川ミチ(2000)みんなにウケる!手品入

  門.西東社.

3)星野徹義(2004)DVD見ながらおぼえる!

 手品入門。西東社.

4)飯塚暁子・井上雅彦(1gg2)自閉症者の地域

  におけるレクリエーション活動参加に関する

92    発達心理臨床研究 第14巻 2008

  検討一エアロビクス教室の実践を通して一.

  自閉児教育研究、15、50-66.

5)井上雅彦(1998)遊びという謎 自閉症を持

  っ人への「遊び」の支援.麻生武(編)、ミネ

  ルヴァ書房 115-139.

6)井上雅彦・飯塚暁子・小林重雄(1994)発達

  障害者における料理指導一料理カードと教示

  ビデオを用いた指導プログラムの効果一.特

  殊教育学研究、32(3)、1-12.

7)井上雅彦・井上暁子・菅野千晶(1995)自閉

  症者に対する地域生活技能援助教室一料理ス

  キル獲得による日常場面の料理行動の変容に

  ついて一.行動分析学研究、8(1)、69-81.

8)井上雅彦・奥田健次(1999)自閉症児におけ

  る茶道教室の効果.日本特殊研究学会第37回

  大会発表論文集、187.

9)井澤信三・霜田浩信・氏森英亜(2001)自閉

  症生徒間の相互交渉における行動連鎖中断法

  による要求言語行動の獲得.特殊教育学研究、

  39(3)、 33-42.

10)井澤信三・山本秀二・氏森英亜(1998)年長

  自閉症児における「カラオケ」活動を用いた

  対人的相互交渉スキル促進の試み一行動連鎖

  の操作を通して一.特殊教育学研究、36(3)、

  31-40.

ll)加藤哲文・井上雅彦・三好紀幸(1991)’ゲー

  ム指導を通した自閉症児のルール理解の促進.

  特殊教育学研究、29(2)、1-13

12)宮崎光明・加藤蹴出・酒井美江・井上雅彦

  (2006)高機能広汎性発達障害児におけるビ

  リやごドスキルトレーニングーイメージボー

  ルを想定するトレーニングの効果一,発達心

  理臨床研究(兵庫教育大学発達心理臨床研究

  センター紀要)、13、93408.

13)根来あゆみ・谷川尚・西岡有香(2006)高機’

  能広汎性発達障害児に対するコミュニケーショ

  ンスキル指導の試み.LD研究、15(2)、183-

  197.

14)岡部一郎・渡部匡隆(2001):発達障害者の

  余暇に関する研究動向.日本行動分析学会論

  文集、122-123.

15)奥田健次・・服部恵理・島村康子・松本充世・

  井上雅彦(1999)自閉症児のピアノ指導と余

  暇活動レパートリーの拡大.障害児教育実践

  研究 6、49-57.

16)奥田健次・井上雅彦(2002)自閉症における

  自己/他者理解に関する状況弁別の獲得と般

  化.発達心理学、B(1)、51-62。

17)奥田健次・井上雅彦(2002)自閉症児におけ

 ㌔るパーティゲーム参回目の支援とその効果に

  関する予備的研究.発達心理臨床研究(兵庫

  教育大学発達心理臨床研究センター紀要)、8、

  19-28.

18)奥田健次・井上雅彦・松尾英樹(2000):自

 ’閉症者の地域におけるスポーツ活動参加に関

  する研究一「モータースポーツ教室」の実践

  を通して一.発達心理臨床研究、7、53-62.

19)清水康夫・中村泉・日戸由刈(2001)「一番

  になりたい!」:高機能自閉症において社会

  性の発達に伴って生じる新たな固執症状への

  早期対応.総合リハビリテーション、29(4)、

  339-345。

20)竹井清香・高浜浩二・野呂文行(2006)広汎

  性発達障害児における課題分析に基づいたオ

  ゼロゲーム指導.日本特殊教育学会誌44回大

  会発表論文集、380.

21)十一元三・神尾陽子(2001)自閉症者の自己

  意識に関する研究.児童青年精神医学とその

  接近領域、42、1-9

22)渡部匡隆・岡村章司・大木信吾(2005)高機

  能広汎性発達障害児のある児童・生徒へのコ

  ミュニケーション指導.発達障害システム学

  研究.5(1)、21-29

             石坂・宮崎・佐野・井上:広汎性発達障害児におけるマジックのスキルトレーニング       93

Magic trick skill‡raining for. a child with.pervqsive developmental dis6rder=

        The effect of training by video mQnitoring and self-checklng

       Tsutomu ISHIZAKA*, Mitsuaki MIYAZAKI*, Motoo SANO*&Masahiko】NOUE**

            *Graduated School of Teacher Education, Hyogo University of Teacher Education

        **Center fbr Developmen!and Clinical Psychology, Hyogo University of Teacher Education

  This study investigates.虻he training of a child w五th pervasive developmental disorder in the presentation of

three card tricks,.‘‘X-Ray Eye ,‘‘耳eavy and Light”, and‘‘That’s It!”.

  As fbr method;at縁sk analysis was conducted fbr each c盆rd trick The‘‘X-Ray Eye”card trick. was used

fbr showmanship. train血g, i.e. training飴r a smooth presentation which involved the spectator. As fbr the

「esults・10 P%㏄hievement was gained in skill童「aining in all t㎞ee ca「d t「icks・All c「ite「ia鉤「sho脚manship

wer6 met as a result of the showmanship training of the‘‘X-Ray Eye”card trick, and the spectator wasn’t

able tQ figure out how the trick was done, A parallel probe of showmanship training R)r“Heavy and Light”,

and‘‘That’s It!”shows improved showma皿ship.

Key Words:child with pervasive developmental disorder,血agic trick skill, showmanship ski11