大型映像表示装置“オーロラビジョン”における主要 …...oled:organic led...

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特集Ⅰ:当社技術の変遷と将来展望 76 (562) 矢野憲彦 長崎製作所 施設システム部長 大型映像表示装置“オーロラビジョン”における主要技術と今後の展望 1.ま え が き 大型映像表示装置は,公営競技場,各種スポーツ施設は もちろん,広場やビル壁面に設置され,人々への情報伝達 手段として重要な役割を果たしている。三菱電機は,1980 年に独自の表示素子を開発し,フルカラー大型映像表示装 置“オーロラビジョン”を実用化した。その後,各社が市場 に参入し,大型映像表示装置は本格的実用期に入った。当 社は,独自の表示素子と高画質化技術によって市場を拡大 した。表示素子として発光ダイオード(LED)が登場すると, 高密度の配置に適した構造や,長寿命,高信頼性などの特 長によって,大型映像表示装置は,高画質の映像表示装置 として成長し,用途も多様化している。 本稿では,オーロラビジョンについて,誕生当初からの 技術の変遷と事業環境及び最新の技術動向とともに,代表 的な設置例及び今後の動向について述べる。 2.大型映像表示装置を取り巻く事業環境 図1は,オーロラビジョンの表示素子の変遷を示す。第 一世代のオーロラビジョンは,表示素子として独自の単色 CRT(Cathode Ray Tube)を配列し,1980年7月,米国の ドジャースタジアムで世界初の大型映像表示装置として デビューした。画素ピッチ90mmPP(Pixel Pitch)の表示部 は,画像が粗く,映像を楽しむには約100mの視認距離を 必要としたが,競技場での重要な演出装置として新たな市 場を創出した。第二世代は,表示素子内部に多数の画素を 設けたFMCRT(Flat Matrix CRT)を開発した。FMCRT は,画素の高密度化を実現することで,視認距離が大幅に 短縮され,屋内使用を含めて市場の拡大に貢献した。第一 世代から第二世代までは,国内の数社がカラー塗膜付きの 白熱電球や蛍光ランプを応用した各社独自の表示素子を開 発し,それぞれの特長を活用しながら競合した。第三世代 は,表示素子が半導体デバイスのLEDに代わった。LEDは, 日亜化学工業が1993年に高輝度青色LEDを開発したこと で3原色がそろい,1995年ごろから大型映像表示装置への 応用が始まった。当社は,屋内の高解像度タイプから屋外 の高輝度タイプまで,それぞれの設置環境に応じたオーロ ラビジョンを開発し,高画質と高い信頼性を活用して用途 を拡大してきた。第三世代は,第二世代までの表示素子 と違って,専業メーカーからLEDを購入できることから, 国内外のメーカーが多数市場に参入し,価格の下落をもた らすとともに市場の競争が激化した。 3.オーロラビジョンにおける技術の変遷 第一世代から現在の第三世代に至るオーロラビジョンの 技術の変遷について述べる。 3. 1 第 一世代 第一世代のオーロラビジョンは,社内の技術を結集し, 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 輝度の変遷 発光素子及び表示ユニットの変遷 屋外標準タイプ輝度(cd/m 2 屋内標準タイプ輝度(cd/m 2 1,000 2,000 4,000 5,000 1,300 1,500 5,000~6,000 1,500~2,000 第一世代:CRT(90mmPP⇒48mmPP) 第二世代:CRTの画素複合化(40mmPP⇒15mmPP) 第三世代:LED(砲弾型と面実装型)の多様化(30mmPP⇒3mmPP) 有機 EL の開発 (オーロラビジョン OLED) Light Emitting Diode (LED) 砲弾型 3in1 面実装型 25mmPP 40mmPP 15mmPP Flat Matrix CRT(FMCRT) 40mmPP ユニット 表示素子 35mmφ 単色 CRT 蛍光面 電子ビーム 過収束 レンズ ガラスバルブ 90mmPP ユニット 35, 28, 20mmφ 20mmφ 48mmPP ユニット B R G 12mmPP ユニット 新配列 高コントラストユニット:8mmPP 4mmPP3in1 ユニット レンズ付き 面実装型 高コントラスト化 (表面黒化) LED の 3in1 化 G B R 3in1 OLED:Organic LED 図1.オーロラビジョンの表示素子の変遷 三菱電機技報・Vol.88・No.9・2014 MITSUBISHI DENKI GIHO

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特集Ⅰ:当社技術の変遷と将来展望

76 (562)

矢野憲彦長崎製作所 施設システム部長

大型映像表示装置“オーロラビジョン”における主要技術と今後の展望

1.ま え が き

 大型映像表示装置は,公営競技場,各種スポーツ施設はもちろん,広場やビル壁面に設置され,人々への情報伝達手段として重要な役割を果たしている。三菱電機は,1980年に独自の表示素子を開発し,フルカラー大型映像表示装置“オーロラビジョン”を実用化した。その後,各社が市場に参入し,大型映像表示装置は本格的実用期に入った。当社は,独自の表示素子と高画質化技術によって市場を拡大した。表示素子として発光ダイオード(LED)が登場すると,高密度の配置に適した構造や,長寿命,高信頼性などの特長によって,大型映像表示装置は,高画質の映像表示装置として成長し,用途も多様化している。 本稿では,オーロラビジョンについて,誕生当初からの技術の変遷と事業環境及び最新の技術動向とともに,代表的な設置例及び今後の動向について述べる。

2.大型映像表示装置を取り巻く事業環境

 図1は,オーロラビジョンの表示素子の変遷を示す。第一世代のオーロラビジョンは,表示素子として独自の単色CRT(Cathode Ray Tube)を配列し,1980年7月,米国のドジャースタジアムで世界初の大型映像表示装置としてデビューした。画素ピッチ90mmPP(Pixel Pitch)の表示部は,画像が粗く,映像を楽しむには約100mの視認距離を

必要としたが,競技場での重要な演出装置として新たな市場を創出した。第二世代は,表示素子内部に多数の画素を設けたFMCRT(Flat Matrix CRT)を開発した。FMCRTは,画素の高密度化を実現することで,視認距離が大幅に短縮され,屋内使用を含めて市場の拡大に貢献した。第一世代から第二世代までは,国内の数社がカラー塗膜付きの白熱電球や蛍光ランプを応用した各社独自の表示素子を開発し,それぞれの特長を活用しながら競合した。第三世代は,表示素子が半導体デバイスのLEDに代わった。LEDは,日亜化学工業が1993年に高輝度青色LEDを開発したことで3原色がそろい,1995年ごろから大型映像表示装置への応用が始まった。当社は,屋内の高解像度タイプから屋外の高輝度タイプまで,それぞれの設置環境に応じたオーロラビジョンを開発し,高画質と高い信頼性を活用して用途を拡大してきた。第三世代は,第二世代までの表示素子と違って,専業メーカーからLEDを購入できることから,国内外のメーカーが多数市場に参入し,価格の下落をもたらすとともに市場の競争が激化した。

3.オーロラビジョンにおける技術の変遷

 第一世代から現在の第三世代に至るオーロラビジョンの技術の変遷について述べる。3. 1 第 一 世 代 第一世代のオーロラビジョンは,社内の技術を結集し,

80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14輝度の変遷

発光素子及び表示ユニットの変遷

屋外標準タイプ輝度(cd/m2)

屋内標準タイプ輝度(cd/m2)

1,000

2,000

4,0005,000

1,300 1,500

5,000~6,000

1,500~2,000

第一世代:CRT(90mmPP⇒48mmPP)第二世代:CRTの画素複合化(40mmPP⇒15mmPP)

第三世代:LED(砲弾型と面実装型)の多様化(30mmPP⇒3mmPP)

有機 ELの開発(オーロラビジョンOLED)

Light Emitting Diode (LED)

砲弾型

3in1

面実装型

25mmPP

40mmPP 15mmPP

Flat Matrix CRT(FMCRT)

40mmPPユニット

表示素子

35mmφ

単色CRT蛍光面

電子ビーム 過収束レンズガラスバルブ

90mmPPユニット

35, 28, 20mmφ

20mmφ

48mmPPユニット

B R

G

12mmPPユニット

新配列

高コントラストユニット:8mmPP4mmPP3in1 ユニット

レンズ付き面実装型

高コントラスト化(表面黒化)

LEDの 3in1化

G

B R

3in1

OLED:Organic LED

図1.オーロラビジョンの表示素子の変遷

映像/公共・交通

三菱電機技報・Vol.88・No.9・2014

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特集Ⅰ:当社技術の変遷と将来展望

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着想から市場投入まで開発に約2年を費やした。表示素子の単色CRTは,一般のCRTが電子ビームを点状に絞るのに対し,逆に電子ビームを電子銃の過収束レンズで拡散し,画素の蛍光体全面に均一に照射させて高輝度発光を得る。当時の白熱電球を配列した電光掲示板に比べて原理的に効率が高く,画素あたり約10分の1の消費電力でフルカラー表示を実現しており,3原色に対応する3種類の表示素子を開発した。表示の制御は,プラズマディスプレイの表示技術を応用しており,各画素の点灯,消灯を制御し,点灯時間の累積幅を画像信号の振幅(画像の濃淡)に比例させるPWM(Pulse Width Modulation)方式である。表示コントローラは,世界各国の規格に対応する映像信号とともに文字やグラフィック画像の表示を制御する。表示素子は,用途に応じて直径20mm,28mm,35mmの単色CRTを開発したが,画素の高密度化に対応してコストが高くなることから,高精細の画像表示用途の市場は限定的であった。3. 2 第 二 世 代 第二世代のオーロラビジョンは,構成方法を一新した。図2は,当社独自のシステム構成と表示素子の構造を示す。表示コントローラは,バッファメモリを介して表示ユニットに接続し,任意の表示素子を制御できる。表示ユニットは,第一世代における表示素子,駆動回路,ばらつき補正などの基本的構成要素に加えて,画像メモリと表示に必要な信号処理を集約した。表示素子FMCRTは,CRTの原理と蛍光表示管の製造技術を応用した。図3⒜の屋外高輝度タイプは,行及び列電極で電子を制御し,両電極がカソード電位に対して正のとき,電子を蛍光面に照射して発光する。同図⒝の屋外高解像度タイプは,行及び列電極を基板上に印刷して電極構造を簡素化し,生産性と信頼性を向上させた。同図⒞の屋内高解像度タイプは,電極の印刷に加え,カソードを2画素で共有し,構成要素を削減して画素の高密度化に伴うコスト上昇を抑制した。動作の事前検証

では,大型回転機の磁界解析プログラムを電界解析に流用して電子の軌道を推定するなど,当時の工場内の技術をフル活用した。製造では,FMCRTの画素に対応して必要な16 〜 64本の線状カソードを自動架線する装置を開発し,従来の熟練工による手作業を自動化した。設計,製造とも独自技術で本格的量産を実現し,オーロラビジョンの需要を拡大した。図2のシステム構成は,第三世代にも活用されている。3. 3 第三世代の技術動向と要素技術3. 3. 1 LED方式オーロラビジョンの技術動向 LEDは,先に述べた高輝度青色LEDに続いて1996年に開発された純緑色高輝度LEDが大型映像表示装置への適用を加速した。LEDは,砲弾型と面実装型があり,砲弾型は,光をレンズで集光し,視野角を抑制して正面輝度を高めており,屋外の高輝度用途に適する。面実装型は,レンズがなく,正面輝度は抑制的だが視野角が広い。点光源に近いLEDは,多数配列する上での構造的な制約が少なく,様々な解像度を設計できることから,素子コストの低下とともに屋外用は砲弾型,屋内用は面実装型で,オーロラビジョンへの適用が本格化した。また屋内用を中心に1素子内に3色を含む3in 1素子が適用され,最近では屋外用にレンズ付きの面実装型LEDも登場している。LEDは,第一世代で直面した画素の高密度化に伴うコスト上昇をカバーするほどに価格が下落し,スクリーンの超大型化,高解像度化を促進した。ハイビジョンの情報量を大きく超える高解像度のシステムでは,複数のハイビジョン表示コントローラを同期させて並列運用することで,超高解像度の表示を実現している。3. 3. 2 オーロラビジョンを支える要素技術⑴ サブピクセル制御と色度変換 オーロラビジョンは,主に屋外用で,図4⒝のように格子状に配列した画素(4素子構成)の個々の素子をそれぞれ

フェースガラス蛍光体

カソード リード線

行電極列電極

陽極開口部

シールド電極

フェースガラス フェースガラス

スペーサガラス

スペーサガラス

カソード ベースガラス

ベースガラス列電極

行電極

シールド電極

開口部

カソード列電極

行電極

⒝ 屋外高解像度タイプ(25mmPP) ⒞ 屋内高解像度タイプ(15mmPP)⒜ 屋外高輝度タイプ(40mmPP)

図3.第二世代オーロラビジョンの表示素子(FMCRT)

ビデオシステム 走査変換

コンピュータシステム 通信制御 グラフィック処理

標本化処理

文字情報処理

表示コントローラ

ユニット11

ユニット21

ユニットm1

BM1

ユニット12

ユニット22

ユニットm2

BM2

ユニット1n

ユニット2n

ユニットmn

BMn

スクリーン

バッファメモリ

画像メモリ

制御回路

電源

駆動回路

表示ユニット

列電極

行電極

表示素子

図2.オーロラビジョンのシステム構成

映像/公共・交通

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特集Ⅰ:当社技術の変遷と将来展望

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の位置に対応して制御している(サブピクセル制御)。この方式は,一般的制御に比べて走査線の2倍化,標本点の2倍化などの高速処理を必要とするが,隣接画素が重複することで見かけの画素数が増加し,実質的な解像度が高くなる。さらにLEDの3原色は,図5のようにハイビジョンの規格(HDTV)と比較して色再現範囲が広すぎることから,オーロラビジョンでは,表示の違和感を解消するために,ハイビジョンの規格相当の色度に補正している。図4の画素配列では,緑(G)単色の画像など,LED素子数が少ない色では離散的表示になるが,色変換によって各LED間にある他の色を点灯させて色を最適化するとともに離散的な表示を滑らかにする解像度改善効果を得ている。⑵ 直射日光下の高画質化技術 大型映像表示装置では,直射日光下では表示面における太陽光の反射がコントラストの低下と色再現範囲の縮小を招く。オーロラビジョンは,図5で示すように周囲の照度に応じて色再現範囲を最適化し,表示面の照度が高いときは3原色をLEDの本来の色度(LED)に近づけて,色再現範囲の縮小を軽減する。図6は表示面における外光反射の抑制対策の一例としてオーロラビジョンの新画素配列を示す。画素を構成する4素子のうち1素子を外光の反射を抑制する黒のスペース領域に割当て,スペース領域を含む画素構造がノイズとして知覚され難いように,全体を45°回転してスペース領域を千鳥格子状に配置した。この配列にすることで,サブピクセル制御と周囲環境に応じた色変換の併用によって,太陽光下の画質が向上する。⑶ ばらつきの補正と表示ユニット間の色合わせ LEDは,色や輝度の製造ばらつきが大きく,特性が温度によって変化する。オーロラビジョンは,一般に同じ製造ロットで輝度を選別したLEDを使用し,さらにLEDの輝度ばらつきを補正して輝度を均一化している。表示ユニットを組み込むモジュールでは,温度分布を均一化する

ための冷却技術を適用し,均一な表示を得ている。一方,スクリーンの組立・解体を伴うレンタル用など,製造ロットの異なる表示ユニットが混在する用途では,色変換によって表示ユニットの色を周辺の表示ユニットの色に合わせている。この機能は,オーロラビジョンの保守で,表示ユニット交換時の画面の均一性の確保にも役立つ。⑷ 高速信号処理による高画質化及び省エネルギー技術 テレビ信号は, 1/60秒の周期で繰り返し表示される。オーロラビジョンでは,この周期を均等に分割して駆動パルスを分散し,表示周波数を高めてちらつきを解消する。さらにカメラで撮像された映像でも表示周期と撮像周期の干渉のない高画質を実現できる。一方,省エネルギーの観点では,照度センサによって周囲の明るさに基づいて輝度を自動調整し,消費電力の低減を実現している。また,映像データを1フレーム単位で監視し,設定された電力値を超える表示期間は,リアルタイムに輝度を低下させ,輝度の低下を知覚することなく受電容量を抑制できる。この機能は,1日の運営時間が長い広告媒体としての応用では効果的である。⑸ 信頼性と耐候性 オーロラビジョンは,屋外の過酷な環境下でも安定した動作が求められる。第一世代から第三世代までの各表示ユニットの開発では,それぞれ独自の環境試験によって信頼性を検証してきた。特に第三世代では,LEDの優れた耐候性によって稼働時間が50,000時間以上の安定した動作が必要であることから,長時間にわたって輝度むらを抑制し,高画質を維持するために,劣化を均一化するための冷却を適用し,各電子部品の信頼性を十分に検証している。

4.オーロラビジョンの動向と代表的設置例

 LEDの性能改善と低価格化によって多様に発展したオーロラビジョンの代表的事例について述べる。

0.9

0.8

0.7

0.6

0.5

0.4

0.3

0.2

0.1

00 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

G(LED)

R(LED)

G(HDTV)

R(HDTV)

B(HDTV)B(LED)

HDTV(ハイビジョン)

XYZ表色系色度図

LED(一例)

図5.色再現範囲

標本点

走査線 GG RR BBR

R

⒜ 一般的制御(ピクセル制御)

標本点

走査線RGG R

R BBR

⒝ サブピクセル制御

図4.画素配列と画素の制御

リボンボード

オーロラビジョンオーロラビジョン

図7.超大型オーロラビジョン

45°回転B G

黒 R

B G

黒 R

BG

黒RB

G

黒R

⒞ 表示ユニット⒝ 新画素配列⒜ スペース領域の黒化

図6.新画素配列と表示ユニット

映像/公共・交通

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特集Ⅰ:当社技術の変遷と将来展望

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4. 1 超 大 型 化 競技場用途では,LEDの価格が下落したことでスクリーンを構成するLEDを高密度に配置し,さらに映像表示とスコア表示のシステムが1つの大型映像表示装置に統合され,スクリーンのサイズが超大型化する傾向にある。図7は,2009年に米国ダラス・カウボーイズの新スタジアムに設置された当時の世界最大のスクリーンの事例である。表示部は,21.76m×48.32m(1051.4m2)が2面,8.7m×15.36m

(133.7m2)が2面の4面構成に加え,スタジアムを取り巻くように2段の帯状映像装置(リボンボード)を設置している。スクリーンは,縦・横に分割できるブロック構造で,各ブロックは,防水構造のモジュールを前面から取り付けて,短期間に現地組立ができる。画面の情報量(画素数に対応)がハイビジョンの情報量を超えることから,表示は,ハイビジョン信号(走査線1,080本の順次走査)を複数のコントローラが並列して制御している。競技場では,大画面の高精細映像に一喜一憂し,どよめく観客の姿が,オーロラビジョンがもたらす臨場感の一面を表しており,このような演出効果の創出も競技場用途のアプリケーションとして貴重なノウハウとなる。図8は,複数のスクリーンとリボンボードを含むシステムを制御する代表的なシステム構成である。最近は,さらに大型のスクリーンが設置される例もあり,画面の超大型化は,今後も進展すると考えられる。4. 2 超高解像度化 LEDは,屋内用を中心に3in 1化が進展し,3in 1素子の配列ピッチも6mmから4mmへ,さらに狭ピッチへと高密度化し,高解像度化が確実に進展している。最近では,屋外でも使える防水型3in 1素子が開発され,ビル壁面や線路脇などの比較的小規模な画面サイズで高精細のオーロラビジョンを実現できるようになった。図9は,ビル壁面の表示装置として,2014年3月に国内初のフルハイ

ビジョンの仕様で設置された新宿東口におけるアルタビジョンである。画素ピッチ6.67mmで,1080×1920画素で構成している。太陽光下での圧倒的な映像美を特長とし,表面の反射を抑制して高コントラストを得ている。一般には,LEDに影をつくるルーバーを各表示ユニットに配置するが,ルーバーは,視野角を制限することから,ここでは構造を最適化して高コントラストと広視野角を両立させている。さらに周囲環境の照度に応じて色の再現範囲を調整し,太陽光下で鮮やかな色の高精細表示を実現している。大型映像表示装置は,今後,直射日光や視野角の影響を含めて,幅広い観視条件下で高画質が求められると考える。

5.む す び

 オーロラビジョンは,近年,高画質化と高信頼性化が進展し,さらに国際的な競争が激化する中,軽量,薄型,低消費電力化及び現地工事の簡素化が進んでいる。特に表示ユニットを内作して画質及び信頼性を作り込み,明るい環境で高い臨場感を創出するディスプレイとして評価されており,競技場などの超大型分野や超高精細・高画質の分野で強い競争力を維持している。累積出荷台数は小型のスクリーンを含めて約1,900セットに及ぶ。長年蓄積してきたオーロラビジョンの技術は,有機EL(Electro Luminescence)の開発例のように,新たな表示素子を配列して革新的ディスプレイを生み出す独自の技術基盤であり,さらに道路や交通分野への適用等,他分野への活用も期待されている。図10は,オーロラビジョンの技術を適用したETC(Electronic Toll Collection System)車線表示板の例である。今後は,表示素子の発展に対応した次世代オーロラビジョンの開発,さらに見やすい画質,安心して使える高い信頼性,軽量,薄型,低消費電力の特長を活用し,更なる応用分野の拡大が期待されている。

表示コントローラ

制御室 スクリーン側

制御用パソコン

電源

ビデオシステム

スクリーン

リボンボード

DVI表示

コントローラ

E/O

電源

SD SDI

HD/SDSDIorDVI

HD SDI

RS485

I/O

RS485

SD SDI

SD SDI

I/O

図8.代表的なシステム構成⒝ 側面⒜ 正面

図10.ETC車線表示板

図9.直射日光下の超高解像度オーロラビジョン

映像/公共・交通

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