アキレス腱断裂 診療ガイドラインminds-public-s3.funkit.jp/pdf/g0000171.pdf · 前文...

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アキレス アキレス アキレス アキレス腱断裂 診療 診療 診療 診療ガイドライン ガイドライン ガイドライン ガイドライン 編集 編集 編集 編集 日本整形外科 日本整形外科 日本整形外科 日本整形外科学会 学会 学会 学会診療 診療 診療 診療ガイドライン ガイドライン ガイドライン ガイドライン委員 委員 委員 委員会 アキレス アキレス アキレス アキレス腱断裂ガイドライン ガイドライン ガイドライン ガイドライン策定委員 策定委員 策定委員 策定委員会 この診療ガイドラインは単行本 アキレス腱断裂診療ガイドラインとして出版されています。

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Page 1: アキレス腱断裂 診療ガイドラインminds-public-s3.funkit.jp/pdf/G0000171.pdf · 前文 はじめに アキレス腱断裂診療ガイドラインを日本整形外科学会の事業の一つとして作成した.

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂診療診療診療診療ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン

編集編集編集編集

日本整形外科日本整形外科日本整形外科日本整形外科学会学会学会学会診療診療診療診療ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン委員委員委員委員会会会会

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン策定委員策定委員策定委員策定委員会会会会

この診療ガイドラインは単行本

「アキレス腱断裂診療ガイドライン」

として出版されています。

 

Page 2: アキレス腱断裂 診療ガイドラインminds-public-s3.funkit.jp/pdf/G0000171.pdf · 前文 はじめに アキレス腱断裂診療ガイドラインを日本整形外科学会の事業の一つとして作成した.

組織組織組織組織

●●●●日本整形外科日本整形外科日本整形外科日本整形外科学会学会学会学会診療診療診療診療ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン委員委員委員委員会会会会

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン委員委員委員委員会会会会

診療診療診療診療ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン策定組織策定組織策定組織策定組織

<<<<日本整形外科日本整形外科日本整形外科日本整形外科学会学会学会学会>>>>

       理事長 越智隆弘 行岡病院骨・関節センター長

 

<<<<日本整形外科日本整形外科日本整形外科日本整形外科学会学会学会学会診療診療診療診療ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン委員委員委員委員会会会会>>>>

  担当理事 松下 隆 帝京大学医学部 教授

  委員長 四宮謙一 東京医科歯科大学大学院 教授

 

<<<<アキレスアキレスアキレスアキレス断断断断裂裂裂裂ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン策定委員策定委員策定委員策定委員会会会会>>>>

  委員長 伊藤博元 日本医科大学整形外科 教授(責任者,総括担当)

  委 員 阪本桂造 昭和大学整形外科 教授(予防・予後担当)

    高倉義典 奈良県立医科大学整形外科 教授(総括担当)

    帖佐悦男 宮崎大学医学部整形外科 教授(診断担当)

    成田哲也 日本医科大学武蔵小杉病院整形外科 助教授(病因・病態担当)

    南郷明徳 南郷整形外科 院長(疫学担当)

    古府照男 東邦大学医療センター佐倉病院整形外科 教授(治療担当)

 

<<<<文文文文献献献献査査査査読読読読委員委員委員委員会会会会>>>>(五十音順)

  疫学・・・・・・・・伊藤博志,窪田 誠,佐藤栄一,竹内良平

  病因・病態・・・飯沢典茂,橋口 宏,森 淳

  診断・・・・・・・・河原勝博,園田典生,山本恵太郎

  治療・・・・・・・・林 光俊

  予防・予後・・・石黒 洋,稲垣克記,中村正則,野村将彦,宮澤 洋

 

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日本整形外科日本整形外科日本整形外科日本整形外科学会学会学会学会診療診療診療診療ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン出版出版出版出版にあたってにあたってにあたってにあたって

日本整形外科学会理事長

越智隆弘

近年,診療現場で医師に求められることが大きく変わってきた.高いレベルの医療が求められることは言うまでも

ない.そして,その前段階として患者に正確な診療情報を伝え,患者が主体となって診療内容を選択することが求め

られる.このプロセスを欠かすと医師自身が窮地に陥ることがある.診療の場で「先生にお任せします」「私に任せて

おきなさい」という会話は昔のこととなった.

当面する疾患に対する診療法に関して,明確な科学的根拠に沿って分かり易く説明するのは医師の義務となっ

た.その内容として,症状改善の確率,合併症発生の確率,治療費などが正確な根拠のもとで表現される必要があ

る.診療に関する説明は医師間で共通でなくてはならない.病診連携などの目的で患者を他施設に紹介する時に

も,関わった各医師の説明が食い違っていれば,根拠の少ない説明をした医師が責められることもある.

医師が共通して納得する診療情報をいかにして作るか.先端的な科学論文内容で裏打ちされた内容であれば専

門医の間での異論は生じない.しかも国際的評価にも妥当とされる高いレベルの診療内容であるはずだ.そのよう

な背景のもと,主要疾患の診療内容に関するエビデンスに基づく診療ガイドライン作成が求められ,日本整形外科

学会(日整会)診療ガイドライン委員会では日常の整形外科診療で頻繁に遭遇する疾患や重要度が高いと思われる

11疾患を選び,診療ガイドラインの作成を平成14年度にスタートさせた.

11疾患のうち「腰椎椎間板ヘルニア」,「頚椎症性脊髄症」,「大腿骨頚部/転子部骨折」,「軟部腫瘍診断」,「頚

椎後縦靱帯骨化症」の5疾患が先行して出版され,引き続き「前十字靱帯(ACL)損傷」,「上腕骨外側上顆炎」,「骨・

関節術後感染予防」の3つの診療ガイドラインが出版され,この度「アキレス腱断裂」を新たに上梓することになっ

た.更に将来,同内容を分かり易くまとめた患者向けガイドラインを出版して診療情報を医師と患者間で広く共有す

る手がかりにしたいとの希望もあり,その実現に向けて新たな委員会が設置され,出版への取り組みが鋭意進行し

ていることをお伝えしたい.遠からず診療現場で,医師が医師向けガイドラインを,そして患者と家族が同内容の患

者向けガイドラインを手に診療内容の選択をする姿が予想される.

そのように重要な意味のある診療ガイドラインであるが,本書出版にあたり各診療領域の代表的な先生方が先端

的な論文的根拠を整理してまとめ,多くの方々の御尽力により完成に到った.多大な時間とエネルギーを注いで下さ

った日整会や関連学会の委員,査読委員など,御世話下さった多くの方々に改めて御礼を申し上げたい.

本書が医療現場での医師と患者の相互信頼を深め,高いレベルの整形外科診療が円滑に進められる一助にな

ることを確信している.

2007年5月

 

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序文序文序文序文

日本整形外科学会

診療ガイドライン委員会

委員長  四宮謙一

日本整形外科学会は事業の一環として,整形外科疾患の診療ガイドラインの作成を平成14年度から開始し,平

成17年にまず5疾患,続いて平成18年に3疾患の診療ガイドラインが完成し,今回新たに1疾患が仲間に加わること

となった.これで,11疾患のうち9疾患の診療ガイドラインを世に送り出すことができた.

一般的に診療ガイドラインとは質の高い新しい情報に基づいて医療を提供するのに役立つ素材であり,患者と主

治医がより良い解決策を探って行こうとするときに,その手引きとして傍らに置いておく資料である.今日,診療ガイ

ドラインを出版するにあたり,診療ガイドラインを個々の患者に短絡的に当てはめてはならないことをまず強調した

い.

本診療ガイドラインは,広範囲な科学論文の検索から,疾患の専門医たちによる厳密な査読をおこない,信頼性

と有益性を評価したうえで作成された.論文のエビデンスを根拠とする推奨レベルには特に多くの議論を費やした.

その結果,当初,推奨度はAの「強く推奨する」からDの「推奨しない」の4段階としていたが,項目によっては科学的

論文数が不十分であったり,結論の一致を見ない項目があるために,その推奨レベルとして(I)レベル「(I):委員会

の審査基準を満たすエビデンスがない,あるいは複数のエビデンスがあるが結論が一様でない」を新たに追加した.

このような項目に関しては,整形外科専門家集団としての委員会案をできるだけその項目中に示すように努力した.

近年の医学の進歩に伴い,従来からおこなわれてきた治療法は今後劇的に変化する可能性がある一方で,種々

の治療法が科学的根拠に基づくことなく選択されている.さらにわが国ではさまざまな民間療法が盛んにおこなわれ

ており,なかには不適切な取り扱いを受けて大きな障害を残す例も認められている.このように不必要な治療法,公

的に認められていない治療法,特に自然軽快か治療による改善か全く区別のつかないような治療法に多くの医療費

が費やされている現状は,早急に改善されるべきと考えられる.

今回作成された診療ガイドラインは,現在の治療体系を再認識させるとともに,有効で効率的な治療への第一歩

であると考えられる.しかし,科学的な臨床研究により新たな臨床知見が出現する可能性もあり,今後定期的に改

訂を試みなければならない.倫理規定を盛り込んだ前向きな臨床研究をおこなう必要を強く実感する.このように,

科学的根拠に基づいてより良い診療ガイドラインを作成し続けることは,患者の利益,医学発展,医療経済の観点

から日本整形外科学会の責務であると考えている.

2007年5月

 

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前文前文前文前文

はじめにはじめにはじめにはじめに

アキレス腱断裂診療ガイドラインを日本整形外科学会の事業の一つとして作成した.

診療ガイドラインとは「特定の臨床状況のもとで,適切な判断や決断を下せるように支援する目的で体系的に作

成された文書」を指す.診療ガイドラインはevidence-based medicine(EBM)の手順に則って作成し,同一時期に誰

がエビデンスを検索しても同じ結果が得られるように,エビデンスの入手方法,エビデンスの質の評価,勧告の決定

法などを明記する必要がある.

現在,この手法は世界的に最も広く用いられている方法であるが,実際上は診療にあたって汎用されている診断

手法等では,未だ十分なエビデンスが得られていない部分も存在するため,専門家の主観的判断を組み入れざるを

えない場面が少なくない.このアキレス腱断裂診療ガイドラインにおいても,以前からの診療で一般的に用いられて

いる診療方法には,エビデンスの質が高くない文献が認められている.しかし,質の高いエビデンスが集積されるた

びに今回作成された診療ガイドラインを改訂することにより,将来に向かってより質の高いガイドラインにすることは

可能であると考える.

一般に,診療ガイドラインはすべての患者を対象とすることはできず,平均的な患者に対応するものであり,理論

的にも60~95%の患者をカバーするものとされている.本ガイドラインでは,スポーツ選手や高齢者のアキレス腱断

裂も取り上げており,少しでも多くのアキレス腱断裂患者をカバーするように配慮したつもりである.本委員会の基本

的姿勢として,このガイドラインに示されていない診療法などを否定するものではないが,本ガイドラインは医療者と

患者をつなぐ重要な情報手段としてとらえることが重要であろうと考えている.

 

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前文前文前文前文

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの概概概概念念念念

アキレス腱(踵骨腱)は下腿の腓腹筋とヒラメ筋が形成する人体中最大で最強の腱で,踵骨(踵骨隆起)に停止す

る.起立・歩行などの運動に際して緊張と弛緩を繰り返し,疾走する場合に大きな張力がかかるといわれている.ス

ポーツ中の受傷が多く,急に疾走しようとした際や,踏ん張ろうとした際,跳躍などの際に断裂し,疼痛や断裂感を自

覚することが少なくない.蹴られた,ぶつかったと表現されることも多く,足を接地しても踏み返しのできない特有の

歩容と受傷のエピソードでアキレス腱断裂の存在が推測できる.治療法は保存療法,手術療法のいずれにもかか

わらず臨床成績は良好で,早期運動復帰と筋力の早期回復とを目指した治療が行われている.

アキレス腱断裂は非常に発症頻度の高いスポーツ外傷で,国民の健康志向に伴う運動機会の増加や,スポーツ

活動への参加,さらに高齢化社会の到来などとも関連して,受傷する機会も増えているものと思われる.診断につい

ても画像機器の進歩により詳細が明らかになりつつあり,治療法についても,保存療法か手術療法かなどの選択肢

が多様化してきている.また,情報化社会の到来により多くの情報の氾濫による混乱などを回避し,さまざまな民間

療法や誤解,さらに独善的といえる手技手法などに対して,エビデンスに基づいた正しい方向性を示すための診療

ガイドラインを作成することにより,有効で効率的な診療の助けになると考えた.

 

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前文前文前文前文

策定組織策定組織策定組織策定組織

((((1111)委員)委員)委員)委員会会会会

〈日本整形外科学会診療ガイドライン委員会〉 担当理事 松下 隆

委員長 四宮謙一

((((2222)委員)委員)委員)委員

〈アキレス腱断裂ガイドライン策定委員会〉

委員長 伊藤博元 日本医科大学整形外科 教授(責任者,総括担当)

委 員 阪本桂造 昭和大学整形外科 教授(予防・予後担当)

高倉義典 奈良県立医科大学整形外科 教授(総括担当)

帖佐悦男 宮崎大学医学部整形外科 教授(診断担当)

成田哲也 日本医科大学武蔵小杉病院整形外科 助教授(病因・病態担当)

南郷明徳 南郷整形外科 院長(疫学担当)

古府照男 東邦大学医療センター佐倉病院整形外科 教授(治療担当)

((((3333)文)文)文)文献献献献査査査査読読読読委員(五十音順)委員(五十音順)委員(五十音順)委員(五十音順)

疫学・・・・・・・伊藤博志,窪田 誠,佐藤栄一,竹内良平

病因・病態・・飯沢典茂,橋口 宏,森 淳

診断・・・・・・・河原勝博,園田典生,山本恵太郎

治療・・・・・・・林 光俊

予防・予後・・石黒 洋,稲垣克記,中村正則,野村将彦,宮澤 洋

 

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前文前文前文前文

文文文文献検献検献検献検索法索法索法索法

本ガイドラインでは,文献検索に関して対象を英語および日本語として,英語論文はMEDLINE,日本語論文は医

学中央雑誌から,1980年以降2003年2月までの範囲でアキレス腱断裂の論文を選択した.

研究デザインはエビデンススケール(表表表表1111)に沿って,MEDLINEではcase series(evidence level 7:以下,EV levelと

表記)以上,医学中央雑誌では会議録と症例報告を除く条件で検索(検索式,表表表表2222)を行った.原則的にEV level 6

(case-control study)以上を中等度のエビデンスありと規定したが,必要に応じてEV level 7も採択した.それは外傷

性疾患であるアキレス腱断裂は,エビデンスレベルの高い前向きの研究が行いにくいこと,またEV level 7の文献に

もガイドラインとして重要な事象が存在している可能性が否定できないと考えたからである.

該当件数は英語論文378件,日本語論文は349件の計727件であった.

英語論文は疫学,病因・病態,診断,治療,予防・予後の章毎に責任者に該当論文を振り分け,疫学55件,病

因・病態131件,診断226件,治療258件,予防・予後88件,その他88件が一次選択された(表表表表3333,各章ごとの重複を

含む).引き続き,各章責任者によりアブストラクトフォームの作成(二次選択文献)に移行した.また,日本語論文

の349件は南郷委員175件,阪本委員174件を担当として,同じくアブストラクトフォームの作成(二次選択文献)を行

った(表表表表4).二次選択文献数は疫学22件(英16/和6),病因・病態24件(英20/和4),診断63件(英43/和20),治療

76件(英38/和38),予防・予後32件(英19/和13),合計217件(英136/和81)となった.さらに委員会での論議を積み

重ねていく過程で,本ガイドラインにおける最終的な収載文献数は疫学10件(英8/和2),病因・病態5件(英5/和0),

診断51件(英35/和16),治療76件(英38/和38),予防・予後34件(英25/和9),合計176件(英111/和65)に絞り込ま

れた.

これらの採用された文献から,各章のQ&Aごとに科学的記述を含めた推奨度(推奨Grade,表表表表5555)と要約を作成し

て,質問に対する回答とその根拠を記述し委員会全体で内容について吟味したうえで記載した.

表表表表1111 エビデンステーブルエビデンステーブルエビデンステーブルエビデンステーブル

Level 内容

1 全体で100例以上のRCTのMAまたはSR

2 全体で100例以上のRCT

3 全体で100例未満のRCTのMAまたはSR

4 全体で100例未満のRCT

5 CCTおよびCohort Study

6 Case-Control Study

7 Case Series

8 Case Report

9 分析的横断研究

10 記述的横断研究

11 その他

RCT:randomized-controlled trial, MA:meta-analysis,

SR:systematic review, CCT:controlled clinical trial

表表表表2222 検検検検索式索式索式索式

<MEDLINE>

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S1 ACHILLES(2N)(RUPTURE? + INJUR?)

S2 ACHILLES TENDON(L)injuries

S3 ACHILLES TENDON/DE AND (RUPTURE/DE + TENDON INJUREIES/DE)

S4 S1:S3

<医学中央雑誌>

#1 アキレス腱断裂/AL or アキレス腱損傷/AL

#2(アキレス/AL or achilles/AL or Achilles/AL) and (断裂/AL or 創傷と損傷/TH or 損傷/AL or 腱損傷/TH or

腱断裂/AL or 破裂/TH or rupture/AL or Rupture/AL)

表表表表3333 該該該該当当当当件件件件数数数数とととと一次選一次選一次選一次選択択択択分分分分担担担担

総件数 727件

海外文献(MEDLINE) 378件

1.疫学 55件 :南郷委員

2.病因・病態 131件 :成田委員

3.診断・分類 226件 :帖佐委員

4.治療 258件 :古府委員

5.予後・予防 88件 :阪本委員

6.その他(上記分野で抽出

されなかった文献)

16件 :南郷委員

国内文献(医学中央雑誌) 349件 :南郷委員(175件)

阪本委員(174件)

海外文献の件数は各章毎の重複あり。

表表表表4444 二次選二次選二次選二次選択択択択文文文文献献献献((((アブストラクトフォームアブストラクトフォームアブストラクトフォームアブストラクトフォーム作成)作成)作成)作成)

総作成数 217件 (英136+和81)

1.疫学 22件 (英16+和6)

2.病因・病態 24件 (英20+和4)

3.診断・分類 63件 (英43+和20)

4.治療 76件 (英38+和38)

5.予後・予防 32件 (英19+和13)

●追加検索(2004/1月、6月)成田委員

テーマ:アキレス腱×コレステロール・血清脂質

アキレス腱×透析・腎疾患

アキレス(腱)×副腎皮質ホルモン(steroid)

アキレス腱断裂×アキレス腱炎

該当件数:MEDLINE 364件(初回検索との重複を含む) •

表表表表5555 推推推推奨奨奨奨度度度度

Grade 内容 内容補足

A行うように強く推奨する

強い根拠に基づいている

質の高いエビデンス(level1~4)が複数ある

Page 10: アキレス腱断裂 診療ガイドラインminds-public-s3.funkit.jp/pdf/G0000171.pdf · 前文 はじめに アキレス腱断裂診療ガイドラインを日本整形外科学会の事業の一つとして作成した.

B行うように推奨する

中等度の根拠に基づいている

質の高いエビデンス(level1~4)が1つ,または中程度

の質の高いエビデンス(level5,6)が複数ある

C

行うことを考慮してもよい

弱い根拠に基づいている

中程度の質のエビデンス(level5,6)が少なくとも1つあ

るか,委員会の設定した基準以下であるが,evidence

level 7の論文が複数あり,この事象が臨床的に有用で

ある

D推奨しない

否定する根拠がある

肯定できる論文がないか,否定できる中等度までの質の

エビデンスが少なくとも1つある

I推奨する基準を満たさない 委員会の審査基準を満たすエビデンスがない,あるいは

複数のエビデンスがあるが結論が一様でない

 

Page 11: アキレス腱断裂 診療ガイドラインminds-public-s3.funkit.jp/pdf/G0000171.pdf · 前文 はじめに アキレス腱断裂診療ガイドラインを日本整形外科学会の事業の一つとして作成した.

前文前文前文前文

問題問題問題問題点点点点

科学的エビデンスの高いガイドライン作成には,基本となる論文のエビデンスレベルの高さと質およびその論文数

によると考えられる.アキレス腱断裂は外傷であり,質の高いランダム化比較試験(randomized-controlled trial:

RCT)を行うことはほとんど不可能に近く,その結果としてエビデンスレベルの高い論文数は少ないと言わざるをえな

い.また診断に関しては,臨床的に最も多く用いられて信頼度の高い診断手法は1957年と1962年の論文であり,そ

のエビデンスはlevel 9となる.本来はこれらの論文は検索期間外であり,エビデンスレベル以下であるが採択論文と

して記載した.このように一般臨床で重要な事象は,委員会で討議したうえで委員会案として必要に応じて採択し,

その旨を各章毎の「はじめに」に明確に記載することとした.

さらに推奨グレードに関しては,Grade C(行うことを考慮しても良い.弱い根拠に基づいている)の根拠を一部拡

大解釈した.内容補足として,中程度の質のエビデンス(lebel 5,6)が少なくとも1つある以外に,委員会の設定した

基準以下であるがlevel 7の論文が複数あり,この事象が臨床的に有用である場合にGrade Cとして推奨した.

以上のように多少の問題点も存在しているが,現状のアキレス腱断裂診療のガイドラインとして有用な指標となり

得ると考えられる.

 

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前文前文前文前文

委員委員委員委員会会会会のコメントのコメントのコメントのコメント

本ガイドラインの収載期限外の論文であるが,2005年にエビデンスレベルのきわめて高いアキレス腱断裂の治療

に関するRCTのmeta-analysis(Ev level 1)が発表された.本ガイドラインの内容と方向性は異なるものではないが,

参考としてその結果(要旨)を以下に紹介する.

「800例の分析の結果,切開腱縫合術は非手術例に比して再断裂のリスクはきわめて低いが,感染,癒着,感覚

障害の合併症のリスクは高くなる.経皮的縫合術は,切開縫合術に比して合併症の発生率は低い.術後の装具療

法により早期の可動域訓練を行うことは,キャスト固定法に比して合併症の発生率は低い」

文文文文献献献献

1) AF00682 Khan RJ, Fick D, Keogh A, Crawford J, Brammar T, Parker M. Treatment of acute achilles tendon

ruptures. A meta-analysis of randomized, controlled trials. J Bone Joint Surg Am. 2005;87(10):2202-

10.

 

Page 13: アキレス腱断裂 診療ガイドラインminds-public-s3.funkit.jp/pdf/G0000171.pdf · 前文 はじめに アキレス腱断裂診療ガイドラインを日本整形外科学会の事業の一つとして作成した.

第第第第1111章章章章 疫疫疫疫学学学学

はじめにはじめにはじめにはじめに

アキレス腱断裂は30歳以降の男性に多く発生し,スポーツ活動中に受傷することの多い外傷とされている.こうし

たアキレス腱断裂の疫学的事柄をエビデンスに基づいて検証し,診療ガイドラインの疫学の章を構築するべく文献を

調査した.

リサーチクエスチョンに対する回答は採択文献中に明示された内容で裏付けられなければならない.疫学につい

ては当初は7つのリサーチクエスチョンが提案されたが,採択された22件の文献からは十分なエビデンスのある回答

を導き出せないクエスチョンがいくつかあった.対象となる一次選択55文献を再度検討し,最終的に3つのリサーチク

エスチョンとなった.それらは

(1)アキレス腱断裂の発生数はどのくらいか.発生数に経年的変化があるか.

(2)アキレス腱断裂受傷の好発年齢はどのくらいなのか.また性差,左右差,季節性はあるか.

(3)アキレス腱断裂はスポーツ活動中の受傷が多いのか.また,どのようなスポーツで多く受傷するのか.

である.

当初リサーチクエスチョンとして掲げられた事柄としては,ほかに,「遺伝性の関与があるか否か」,「利き足と受

傷側の関係はどうか」,「肥満との関連があるか」,「両側同時受傷例の頻度はどうか」といった設問があったが,今

回は検討できなかった.

アキレス腱断裂についてその治療方法や治療成績を報告した文献は多い.しかし,そうした文献では多くの症例

を調査対象としながら,症例の背景について統計学的処理を加えて疫学的根拠を示したものは少ない.一方,アキ

レス腱断裂症例の疫学調査そのものを目的とした研究となると,海外にも少なく,本邦にはなかった.さらに,疫学

的研究方法はほとんど後方視的なものであった.

今回採択された文献は地域あるいは国といった広域の症例を調査した欧州の研究が多かった.こうした状況を踏

まえたうえで,採択文献のなかから得られた本章の結論としての「要約」ではあるが,従来エビデンスが不明瞭であ

ったり,詳細な統計学的裏付けが示されないまま教科書的に述べられていた疫学的記述を否定するような事実はほ

とんどなかった.しかし,「要約」のGradeには強い根拠に基づくと言えるGrade Aはなく,中等度の根拠に基づくとされ

るGrade B以下だけとなり,今後の課題として残った.

なお,疫学の章においては取り上げる内容から,リサーチクエスチョンに対する「推奨」としての提示は相応しくな

いと考え,すべて「要約」として示した.

本章本章本章本章のまとめのまとめのまとめのまとめ

本邦では大規模な調査によって集計されたアキレス腱断裂受傷者の疫学的研究報告がなく,本章の「要約」は海

外の統計調査研究が主体となって導き出されたものとなった.アキレス腱断裂は人口10万人に対して6~37人程度

の発生があり,国や地域による差異が大きい.発生数は近年増加の傾向にある.年齢は30~40歳代で最も多く受

傷している.従来,性差は男性に多いとされているが,男性に多い傾向は認めるものの断定し得ない.受傷側は左

側にやや多い.受傷の季節的偏りは明確でない.スポ―ツ活動中の受傷が多く,特に若年者にその傾向が顕著で

あり,高齢層は日常活動中での受傷が多い.スポーツ種目ではバドミントン,バレーボール,サッカー,テニスなど球

技やラケット使用競技での受傷頻度が高い

今後今後今後今後のののの課題課題課題課題

整形外科医としてその治療の任にあたることの多いアキレス腱断裂は,スポーツ参加人口の急速な増加と社会の

高齢化により,発生が増加していることがわかった.それゆえ,アキレス腱断裂についての診断法,治療法,予後の

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改善を目指すとき,疫学的調査の重要性は高まっている.

現在までの疫学的研究はほとんどが後向き研究で,論文のエビデンスレベルはどうしても低いものが多くなってい

る.長期間に渡る前向きな疫学的調査研究は多大の困難を伴うことが推測されるが,本邦でも広域の住民を対象

に実施される調査研究が行われることを期待する.今後,そうした研究結果に裏付けられたアキレス腱断裂診療ガ

イドラインへと発展することが望まれる.これにより今回言及し得なかった受傷についての遺伝的要素の関与の有

無,利き足と受傷側の関係,肥満度の関与,両側同時受傷例の頻度なども含めた,より多くの興味深い疫学的疑問

が解明できるであろう.

 

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第第第第1111章章章章 疫疫疫疫学学学学

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 1111

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの発発発発生生生生数数数数はどのくらいかはどのくらいかはどのくらいかはどのくらいか....発発発発生生生生数数数数にににに経経経経年的年的年的年的変変変変化化化化があるかがあるかがあるかがあるか

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade IIII 欧米の発生数の報告では人口10万人あたり6.3人から37.3人と,国あるいは地域で異なってい

る.

Grade Grade Grade Grade BBBB 発生数は変化しており近年増加傾向にある.

本邦では発生数についての報告はない.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

頻度の高い外傷と言われるアキレス腱断裂であるが,その裏付けとしての発生数を知ることを目的とした.近

年の発生数の変化についても検討する.

解解解解説説説説

フィンランドのOulu大の報告では,1979~1990年では人口10万人あたりアキレス腱断裂発生が4.2人で

あったが,1991~2000年では10万人あたり15.2人と増加した(AF00022, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

南東フィンランドでの報告では1986~1996年の発生数は10万人あたり8.6人で,近年にかけて有意に増

加していたが次第に安定化傾向にあるとしている(AF00077, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

スコットランドの報告では1981年の発生数が10万人あたり4.7人に対し,1994年では6.3人と有意に増加し

ていた(AF00107, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

22万人のデンマークの州における集計では1984年の発生数は10万人に18.2人であった.1996年には10

万人あたり37.3人と有意に増加していることが示されている(AF00138, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

スウェーデンの人口23万人の都市では1950~1973年の調査と比較して1987~1991年ではアキレス腱断

裂症例数が増加していることを指摘している(AF00168, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

1) AF00022 Pajala A, Kangas J, Ohtonen P, Leppilahti J. Rerupture and deep infection following treatment of

total Achilles tendon rupture. J Bone Joint Surg Am. 2002;84-A(11):2016-21.

2) AF00077 Nyyssönen T, Lüthje P. Achilles tendon ruptures in South-East Finland between 1986-1996, with

special reference to epidemiology, complications of surgery and hospital costs. Ann Chir Gynaecol.

2000;89(1):53-7.

3) AF00107 Maffulli N, Waterston SW, Squair J, Reaper J, Douglas AS. Changing incidence of Achilles tendon

rupture in Scotland: a 15-year study. Clin J Sport Med. 1999;9(3):157-60.

4) AF00138 Houshian S, Tscherning T, Riegels-Nielsen P. The epidemiology of Achilles tendon rupture in a Danish

county. Injury. 1998;29(9):651-4.

5) AF00168 Möller A, Astron M, Westlin N. Increasing incidence of Achilles tendon rupture. Acta Orthop Scand.

1996;67(5):479-81.

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第第第第1111章章章章 疫疫疫疫学学学学

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 2222

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂受傷裂受傷裂受傷裂受傷のののの好好好好発発発発年年年年齢齢齢齢はどのくらいなのかはどのくらいなのかはどのくらいなのかはどのくらいなのか....またまたまたまた,性差,左右差,季節性,性差,左右差,季節性,性差,左右差,季節性,性差,左右差,季節性はあるかはあるかはあるかはあるか

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade BBBB 受傷好発年齢は30~40歳代であり,50歳以上の年齢層にもう一つ小さなピークがある.若年層

ではスポーツによる受傷が多いが,高齢層にはスポーツ以外の日常活動中の受傷が多い.

Grade Grade Grade Grade IIII 男女の発生比率は差がないとするものから,女性1に対し男性6.3までさまざまであり,男性に多

い傾向はあるものの断定し得なかった.また女性は男性より受傷年齢が高い.

Grade Grade Grade Grade CCCC 左右差では右41~45%に対し左52~59%とやや左に多い.

Grade Grade Grade Grade IIII 発生の季節性があるとは言えない.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱断裂はスポーツ活動中に自家筋力によって発症することが多いとされているが,その好発年齢,性

差,左右差,季節的偏りを検証する.

解解解解説説説説

人口92,000人の地域で,すべてのアキレス腱断裂症例の手術を担当するフィンランドの都市中核病院で

の1986~1996年の集計では,93例の受傷時平均年齢は44歳,中央値42歳であり,40~44歳が最多で

あった.スポーツによる受傷は若年者に多かった.65歳~69歳に第2のピークがあった.男女の比率は

3.4:1であり,右47例,左48例と左右差は見られていない.受傷月は1,2,10月に多かった(AF00077,

EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

1980~1995年のスコットランドでのアキレス腱断裂例4,201例の統計からは,男性では受傷時年齢が30

~39歳で最多であり,60歳以降にもう一つの発生数増加域があった.女性は60歳から増加していた.男

女比は1.7:1とやや男性に多く,統計学的には季節的偏りを認めなかった(AF00107, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

1984~1996年のデンマーク5病院で調査した718例では,受傷時平均年齢が42.1歳であり,このうち30~

49歳が62%であった.50~59歳にも小さな発生のピークが見られた.若年層の受傷原因はスポーツに

よるものが多かった.男女比は3:1と男性に多かった.季節的には春と秋のスポーツシーズンに多かっ

た(AF00138, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

デンマークで1978~1995年の18年間にアキレス腱断裂を受傷した213例の調査からは,受傷年齢の中

央値が41歳であった.男女比は2.8:1であった.左側が57%と多かった(AF00159, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

スウェーデンMalmöの1987~1991年の153例に対する調査では40歳代に発生の大きなピークがあり,80

歳代に小さなピークがあった.スポーツによる受傷はその平均年齢が37歳と若く,一方,スポーツ以外で

の受傷は平均56歳で両者間に有意差を認めた.男女比は6.3:1と男性に多かった.受傷時平均年齢は

男性42歳,女性52歳で有意差を認めている.スポーツによる受傷は男性に多かった(AF00168, EV EV EV EV

level 6level 6level 6level 6).

フィンランドOulu市5病院での1979~1994年の16年間の統計からは,110断裂例の平均年齢が40歳であ

った.男女比5.5:1と男性が多く,左側が52.6%であった.本報告でも非スポーツ受傷者の年齢が高く,

平均53歳であり,スポーツでの受傷者は38歳であった(AF00169, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

ブダペスト国立外傷センターの報告では,1972~1985年に治療した292例の平均受傷年齢は35.2歳で,

男女比は4.8:1であった.また,左右差はスポーツによる受傷例では左側が59%であった.季節性につ

いてスポーツによる受傷例の71%,スポーツ以外の原因による受傷例の60%が夏に受傷していた

(AF00277, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

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本邦の244例の調査報告では,年齢は30~50歳に多く,若年層でスポーツによる受傷が多かった.男女

比が1.1:1で性差がなかった.左側受傷が57.8%であった.季節では春に多かった(AJ00111, EV level EV level EV level EV level

7777).

文文文文献献献献

1) AF00077 Nyyssönen T, Lüthje P. Achilles tendon ruptures in South-East Finland between 1986-1996, with

special reference to epidemiology, complications of surgery and hospital costs. Ann Chir Gynaecol.

2000;89(1):53-7.

2) AF00107 Maffulli N, Waterston SW, Squair J, Reaper J, Douglas AS. Changing incidence of Achilles tendon

rupture in Scotland: a 15-year study. Clin J Sport Med. 1999;9(3):157-60.

3) AF00138 Houshian S, Tscherning T, Riegels-Nielsen P. The epidemiology of Achilles tendon rupture in a Danish

county. Injury. 1998;29(9):651-4.

4) AF00159 Levi N. The incidence of Achilles tendon rupture in Copenhagen. Injury. 1997 ;28(4):311-3.

5) AF00168 Möller A, Astron M, Westlin N. Increasing incidence of Achilles tendon rupture. Acta Orthop Scand.

1996;67(5):479-81.

6) AF00169 Leppilahti J, Puranen J, Orava S. Incidence of Achilles tendon rupture. Acta Orthop Scand. 1996;67

(3):277-9.

7) AF00277 Józsa L, Kvist M, Bálint BJ, Reffy A, Järvinen M, Lehto M, Barzo M. The role of recreational sport

activity in Achilles tendon rupture. A clinical, pathoanatomical, and sociological study of 292 cases.

Am J Sports Med. 1989;17(3):338-43.

8) AJ00111 中山正一郎,三馬正幸,杉本和也ほか.アキレス腱断裂の年齢別の特徴について.中部日本整形外

科災害外科学会誌.1996;39(6):1461-2.

コメントコメントコメントコメント

本邦の報告中,剣道家の43症例について左が41例95%と著しく偏った発生を報告している(AJ00159, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7).

補足文補足文補足文補足文献献献献

1) AJ00159 園畑素樹,忽那龍雄,石井孝子ほか.中高年剣道選手のスポーツ傷害.九州スポーツ医・科学会

誌.1994;6:129-34.

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第第第第1111章章章章 疫疫疫疫学学学学

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 3333

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂はスポーツはスポーツはスポーツはスポーツ活動中活動中活動中活動中のののの受傷受傷受傷受傷がががが多多多多いのかいのかいのかいのか....またまたまたまた,,,,どのようなスポーツでどのようなスポーツでどのようなスポーツでどのようなスポーツで多多多多くくくく受傷受傷受傷受傷するのかするのかするのかするのか

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade BBBB アキレス腱断裂をスポーツ活動中に受傷したのは60~81%の症例であり,スポーツによる受傷

が多いことが示された.国による競技人口の差異を考慮せずに言えば,球技,ラケット競技での

受傷が多く,種目別にはバドミントン,バレーボール,サッカー,テニスなどの球技およびラケット

使用競技での発生頻度が高い.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

スポーツ活動中のアキレス腱断裂受傷が多いとされている.これを検証し,発生頻度の高い種目を明らかに

する.

解解解解説説説説

人口92,500人のフィンランドの都市において,この地域のアキレス腱断裂手術がすべて行われる中核病

院での集計では,スポーツによる受傷が95肢中59肢で62%であり,種目ではバレーボールが最多で,サ

ッカー,バドミントンが続いていた.球技が95例中49例(52%)であった(AF00077, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

デンマークの人口22万の地域にある5病院での調査では,718例中74.2%がスポーツによって発生し,そ

の93%は球技およびラケット競技での受傷であった.スポーツによる533例中バドミントンが246例

(46.3%)と最も多かった.次いでサッカー124例(23.3%),ハンドボール83例(15.6%)の順であった

(AF00138, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

同じくデンマークのFrederiksberg市において18年間に発生した213例の検討では,バドミントンが49.7%,

ハンドボール6.8%,サッカー5.2%であった(AF00159, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

スウェーデンでの153例の調査では,スポーツによる受傷が全体の2/3であった.競技種目別にはバドミ

ントン50例,サッカー19例,テニス12例の順に多かった(AF00168, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

フィンランドのOulu市の報告では,アキレス腱断裂110例中,スポーツによるものが90例(81%)であり,さ

らにこのうち88%は球技によるもので,バレーボール22例(24%),バドミントン20例(22%),サッカー15

例(17%)であった(AF00169, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

ブダペスト外傷センターの報告では,アキレス腱断裂292例中スポーツ活動で断裂したのは173例

(59.2%)であり,他の腱断裂より有意にスポーツによるものが多かった.受傷時のスポーツ種目はフット

ボール33.5%,陸上競技16.2%,バスケットボール13.3%の順であった(AF00277, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

244例のアキレス腱断裂症例を調べた本邦の報告では,スポーツによる受傷症例が185例(76%)で,最

も症例の多かったスポーツはバレーボールの49例,次いでバドミントン29例,テニス23例であった

(AJ00111, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

文文文文献献献献

1) AF00077 Nyyssönen T, Lüthje P. Achilles tendon ruptures in South-East Finland between 1986-1996, with

special reference to epidemiology, complications of surgery and hospital costs. Ann Chir Gynaecol.

2000;89(1):53-7.

2) AF00138 Houshian S, Tscherning T, Riegels-Nielsen P. The epidemiology of Achilles tendon rupture in a Danish

county. Injury. 1998;29(9):651-4.

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3) AF00159 Levi N. The incidence of Achilles tendon rupture in Copenhagen. Injury. 1997;28(4):311-3.

4) AF00168 Möller A, Astron M, Westlin N. Increasing incidence of Achilles tendon rupture. Acta Orthop Scand.

1996;67(5):479-81.

5) AF00169 Leppilahti J, Puranen J, Orava S. Incidence of Achilles tendon rupture. Acta Orthop Scand. 1996;67

(3):277-9.

6) AF00277 Józsa L, Kvist M, Bálint BJ, Reffy A, Järvinen M, Lehto M, Barzo M. The role of recreational sport

activity in Achilles tendon rupture. A clinical, pathoanatomical, and sociological study of 292 cases.

Am J Sports Med. 1989;17(3):338-43.

7) AJ00111 中山正一郎,三馬正幸,杉本和也ほか.アキレス腱断裂の年齢別の特徴について.中部日本整形外

科災害外科学会雑誌.1996;39(6):1461-2.

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第第第第2222章章章章 病因病因病因病因・・・・病態病態病態病態

はじめにはじめにはじめにはじめに

アキレス腱断裂発生の病態を調査するにあたって,当初その項目として,臨床的観点から「加齢と腱変性の関

与」,「損傷形態としての完全または不全断裂の比率」,「受傷様式と肢位」,「準備運動の有無と量」,「運動開始か

らの時間」,「柔軟性,基礎疾患,石灰沈着との関連」,「再発例の原因」などが挙げられたが,これらの多くにおいて

evidence-basedの研究の存在しないことが判明した.

受傷機転と様式に関しては,例えば剣道における後足の受傷のように,特異性を認めるスポーツ種目や動作など

臨床上よく経験するところではあるが,それらはcase reportにとどまり,リサーチクエスチョンとして挙げることができ

なかった.また,診療上指導する機会の多いストレッチングを中心とした準備運動の有無と量や,受傷のスポーツ動

作開始からの時間等に関した論文は皆無であった.

文献総件数727件のうち,病因・病態に関する131論文のサマリーを査読し,その後,副腎皮質ホルモン等のキー

ワードにより若干の追加査読を行い,24文献を採択した.採択文献のなかから,信頼性の高いリサーチクエスチョン

として,

(1)アキレス腱の肥厚はアキレス断裂の危険因子となりうるか.

(2)アキレス腱断裂の発生には,基盤に必ず腱の変性が存在するか.

(3)アキレス腱断裂を誘発する可能性のある薬物はあるか.

の3点においてのみリサーチクエスチョンとすることとした.

本章本章本章本章のまとめのまとめのまとめのまとめ

アキレス腱断裂の病態に関するリサーチクエスチョンは前述の3項目となった.

一般的にアキレス腱断裂の基盤には腱の変性が存在すると考えられており,これを示唆する1つの臨床所見に腱

の肥厚がある.近年では超音波検査を用いて非断裂側アキレス腱の前後径を計測し対照群と比較する試みがなさ

れており(case-control study),アキレス腱断裂群の腱は肥厚していることが判明している.また,肥厚腱には高率

に限局性結節性変化等が存在していたことからも,腱の肥厚は退行性変化を表していると考えられる.断裂腱に組

織学的に腱の変性を示唆する所見があるという報告からも,アキレス腱断裂における腱の変性の存在は明らかで,

アキレス腱断裂は腱の退行性変性を基盤に発生すると考えられる.

また,副腎皮質ホルモンの局所および全身投与等,薬剤のなかにはアキレス腱断裂を誘発する可能性のある物

質が存在すると考えられている.副腎皮質ホルモンがその誘発因子となった可能性が高いことに言及した報告は主

に症例報告にとどまり,現時点ではエビデンスが低いと考えられ,今回はリサーチクエスチョンとして挙げることがで

きなかった.しかしながら,アキレス腱断裂を誘発する可能性の高い薬物としてfluoroquinoloneやciprofloxacin等の

抗菌剤は,報告からは信頼性が高く(case-control study),これらについては誘発物質と断定して良いと考える.

今後今後今後今後のののの課題課題課題課題

日常診療上遭遇する副腎皮質ホルモンの局所・全身投与の影響1),2),3),4),5),6),または腎透析の影響7),血清コレ

ステロール値の影響8),9)等の文献は現時点ではそのほとんどが症例報告にとどまってはいるが,アキレス腱損傷発

生の誘因として濃厚と考えられ,今後の組織的な調査を要すると考えられる.

文文文文献献献献

1) AF00649 Haines JF. Bilateral rupture of the Achilles tendon in patients on steroid therapy. Ann Rheum Dis.

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1983;42(6):652-4.

2) AF00634 Dickey W, Patterson V. Bilateral Achilles tendon rupture simulating peripheral neuropathy: unusual

complication of steroid therapy. J R Soc Med. 1987;80(6):386-7.

3) AF00514 Hersh BL, Heath NS. Achilles tendon rupture as a result of oral steroid therapy. J Am Podiatr Med

Assoc. 2002;92(6):355-8.

4) AF00261 Newnham DM, Douglas JG, Legge JS, Friend JA. Achilles tendon rupture: an underrated

complication of corticosteroid treatment. Thorax. 1991;46(11):853-4.

5) AF00654 Chechick A, Amit Y, Israeli A, Horoszowski H. Recurrent rupture of the achilles tendon induced by

corticosteroid injection. Br J Sports Med. 1982;16(2):89-90.

6) AF00646 Baruah DR. Bilateral spontaneous rupture of the Achilles tendons in a patient on long-term

systemic steroid therapy. Br J Sports Med. 1984;18(2):128-9.

7) AF00299 Spencer JD. Spontaneous rupture of tendons in dialysis and renal transplant patients. Injury.

1988;19(2):86-8.

8) AF00378 Ozgurtas T, Yildiz C, Serdar M, Atesalp S, Kutluay T. Is high concentration of serum lipids a risk

factor for Achilles tendon rupture? Clin Chim Acta. 2003;331(1-2):25-8.

9) AF00103 Mathiak G, Wening JV, Mathiak M, Neville LF, Jungbluth K. Serum cholesterol is elevated in patients

with Achilles tendon ruptures. Arch Orthop Trauma Surg. 1999;119(5-6):280-4.

 

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第第第第2222章章章章 病因病因病因病因・・・・病態病態病態病態

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 1111

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱のののの肥厚肥厚肥厚肥厚はアキレスはアキレスはアキレスはアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの危危危危険険険険因子因子因子因子となりうるかとなりうるかとなりうるかとなりうるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade CCCC アキレス腱の肥厚は腱の退行性変化の存在を示唆し,かつアキレス腱断裂発生の危険因子と

なりうる.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱断裂の好発年齢のピークの1つは30歳代と40歳代にあり,その理由はアキレス腱の退行性変性に

あると考えられているが,明らかとなってはいない.

一般的に,アキレス腱の肥厚は退行性変性により生じ,肥厚した腱は断裂に至りやすいと考えられている.肥

厚した腱は本当に断裂の危険性があるか否かを検討する.

解解解解説説説説

アキレス腱断裂患者の受傷側および健側の超音波検査を用いて長期的観察(10~120ヵ月,平均63ヵ

月)を行った報告によると,アキレス腱断裂患者(n=70)の健側前後径を,年齢および性別を合わせた対

照群と比較した結果,有意にアキレス腱断裂患者の健側前後径が大きかったことより,アキレス腱の肥

厚はアキレス腱断裂の危険因子であると結論している.また,この患者の受傷側24.3%,健側2.9%に,

アキレス腱内に低エコー領域,受傷側14.3%に石灰化を認め,対照群にはこれらを認めなかったことか

ら,基盤に腱の退行性変性があることを示唆している(AF00012, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

Nehrerらの報告によると,36名のアキレス腱痛を有する患者の超音波検査による検討(平均経過観察

期間48ヵ月)で,当初臨床症状を有した48アキレス腱のうち,後に断裂に至った7アキレス腱(14.6%)の

すべてが超音波検査でアキレス腱の肥厚ありと診断されており,このうちの4腱(57.1%)が高度の肥厚

(前後径10mm以上)と分類された.また5腱(71.4%)に超音波検査で限局性の結節性変化が存在したと

述べ,アキレス腱の肥厚は腱の退行性変性を意味し,断裂の危険因子であると結論している(AF00151,

EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

文文文文献献献献

1) AF00012 Bleakney RR, Tallon C, Wong JK, Lim KP, Maffulli N. Long-term ultrasonographic features of the

Achilles tendon after rupture. Clin J Sport Med. 2002;12(5):273-8.

2) AF00151 Nehrer S, Breitenseher M, Brodner W, Kainberger F, Fellinger EJ, Engel A, Imhof F. Clinical and

sonographic evaluation of the risk of rupture in the Achilles tendon. Arch Orthop Trauma Surg.

1997;116(1-2):14-8.

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第第第第2222章章章章 病因病因病因病因・・・・病態病態病態病態

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 2222

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの発発発発生生生生にはにはにはには,基盤,基盤,基盤,基盤にににに必必必必ずずずず腱腱腱腱のののの変変変変性性性性がががが存在存在存在存在するかするかするかするか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade CCCC アキレス腱断裂は基盤に腱の変性が存在して発生すると考えられる.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

一般的にアキレス腱断裂の発生には,その基盤に腱の変性が存在すると考えられている.

臨床において慢性のアキレス腱炎などの腱の変性が示唆される症例が,後に断裂に至った等を経験すること

から,変性した腱は断裂に至りやすいと推測されるが,明確な回答は得られていない.腱断裂には腱変性が必

須か否かを組織学的に検証する.

解解解解説説説説

Kannusらは,397アキレス腱を含む891腱皮下断裂(397アキレス腱,302上腕二頭筋腱,40長母指伸筋

腱,82大腿四頭筋腱,70他)の手術時採取組織(断裂から48時間以内に採取)の病理組織像を,年齢・

性別を合わせた445腱(生前健康であり,事故で死亡した屍体から採取)と比較検討(case-control

study)したところ,対照の2/3に健康組織構造が見られたのに対して,断裂腱のすべてに健康組織構造

が見られず(p<0.001), hypoxic degenerative tendinopathy, mucoid degeneration, tendolipomatosis,

calcifying tendinopathyなどの変性性変化を認めたと報告した(AF00256, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

このことから,アキレス腱断裂を含むすべての腱皮下断裂発生には基盤に何らかの腱変性が存在する

と考えられる.しかしながら,本報告は腱組織採取を断裂から48時間以内としてはいるものの,腱断裂

発生前の病理組織像ではなく,この部分を含みおいて考える必要性を残している.

文文文文献献献献

1) AF00256 Kannus P, Józsa L. Histopathological changes preceding spontaneous rupture of a tendon. A

controlled study of 891 patients. J Bone Joint Surg Am. 1991;73(10):1507-25.

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第第第第2222章章章章 病因病因病因病因・・・・病態病態病態病態

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 3333

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂をををを誘誘誘誘発発発発するするするする可能性可能性可能性可能性のあるのあるのあるのある薬薬薬薬物物物物はあるかはあるかはあるかはあるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB fluoroquinoloneやciprofloxacinなどの抗菌剤は,アキレス腱断裂を誘発する可能性が考えられ

る.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

一般的に,副腎皮質ホルモンなどのある種の薬剤は,アキレス腱断裂を含むアキレス腱障害発生の危険因

子と考えられている.

なかでも抗菌剤,特に特殊環境下に投与される抗菌剤はアキレス腱断裂を誘発する可能性があるとする報告

があり,アキレス腱断裂を含むアキレス腱障害発生と統計学的に有意に相関する薬剤を検討する.

解解解解説説説説

van der Lindenらはfluoroquinoloneとアキレス腱障害発生の相関をロジスティック回帰分析により,その

相対リスクを検討した.60歳以上においてfluoroquinolone使用開始後30日以内にアキレス腱障害が発

生し,特にアキレス腱断裂の相対リスク(7.1)が高く,その理由は不明としながらもアキレス腱障害発生

の危険因子であるとしている(AF00009, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

また,Chhajedらは肺移植患者におけるciplofloxacinの使用と,アキレス腱断裂を含むアキレス腱障害発

生との相関を検討したところ,101例の肺移植患者の22例(21.8%)がアキレス腱障害(うち6例は断裂)

を発生し,このうちの20例(うち5例は断裂)はciplofloxacinを使用しており,様々な因子のなかで唯一

ciplofloxacin使用のみがアキレス腱障害と相関したと報告している(AF00015, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

1) AF00009 van der Linden PD, Sturkenboom MC, Herings RM, Leufkens HG, Stricker BH. Fluoroquinolones and

risk of Achilles tendon disorders: case-control study. BMJ. 2002;324(7349):1306-7.

2) AF00015 Chhajed PN, Plit ML, Hopkins PM, Malouf MA, Glanville AR. Achilles tendon disease in lung transplant

recipients: association with ciprofloxacin. Eur Respir J. 2002;19(3):469-71.

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

はじめにはじめにはじめにはじめに

傷害の治療に際しては,診断が重要であることはアキレス腱断裂においても例外ではない.近年,医療技術の発

展と医療機器の発達により超音波やMRIが診断の補助,病態の把握や治療の経過観察用として用いられるようにな

ってきた.

実際の臨床の現場では,アキレス腱断裂を疑う際には,特徴的な受傷時のエピソードに加え,局所所見で陥凹の

触知や,Simmonds Thompson squeezing test (Simmonds Thompson test)*などの理学的検査所見が参考にされ,

ほとんどの症例において診断可能である.しかし,正確な診断のために必要な医療面接(問診)を含めた自覚症状,

他覚所見および各種の画像検査法について意義や必要性に関し,科学的かつ合理的に考慮され,実際に施行され

ているとは言えないのが現状である.

本章においては,アキレス腱断裂診断のために,医療面接での重要なエピソードは何か,特徴的な局所所見は何

か,信頼のおける理学的検査所見は何かなどを科学的に検討した.また,画像検査法の必要性や意義について検

討し,臨床に携わる整形外科医の診断時の参考になることを目的とした.

アキレス腱断裂の診断に関するサイエンティフィックステートメントの作成にあたり,計7つのリサーチクエスチョン

を設定し,診断に関与すると考えられる全論文約727編のアブストラクトを吟味し,リサーチクエスチョンに答えられる

価値のある論文226編(英文156編,和文70編)を選択した.リサーチクエスチョンに答える形で7つの「推奨」を作成し

た.最後に,これら「推奨」をもとに,アキレス腱断裂の診断のために4つのステップを提唱した.

アキレス腱断裂の「診断」に関しては,手術などの明らかな介入が得られる「治療」とは異なり,RCT(randomized-

controlled trial)などを計画して施行することはきわめて困難であり,RCTなどを有した論文は皆無であった.しかし,

過去の論文的知識や手法は,先人達が患者を詳細に問診(医療面接)し,診察した結果から導き出され,長年にわ

たり数多くの臨床家の基盤となり診断に用いられてきた.

診断に関するこれらの論文は今回の検索範囲(1980年~2003年2月以前)にすでに公表されており,しかもその

当時はエビデンスという概念はなかったので,そのエビデンスレベルは必ずしも高くない.しかし,これらの診断的手

法に基づき,アキレス腱断裂の診断および治療などがなされており,多くの追試を受けた結果,現在まで大変貴重な

論文として残っているので選択した.さらに,診断に用いられてきたエピソード,陥凹などの局所所見や理学的検査

所見に関する注意点や改善法の報告はあるが,それらを否定する論文もないことから,その学問的価値は大規模

RCTに比していささかも劣るものではない.したがって,本章における各「推奨」のグレードはそれほど高いものには

なっていない.また,診断の場合はオリジナルな所見や検査法が重要となるため,検索範囲を発表年までさかのぼ

って検索した.

*Simmonds Thompson testと記載した理由:発表年がSimmondsが1957年,Thompsonが1962年であり,文

献上もSimmonds Thompson testと記載されているため.ただし,Thompsonの文献では1955年の11月に

著者が初めて注目したと述べているためThompson Simmonds testと呼ばれることもある.

本章本章本章本章のまとめのまとめのまとめのまとめ

まず,すべての診断の鍵となりうる問診(医療面接)は重要である.受傷時の特徴的な表現(アキレス腱部を蹴ら

れた,ボールをぶつけられた,pop音の聴取など)が挙げられ,これらを聞いただけでアキレス腱断裂と診断可能な

ほど特徴的なエピソードといえる.

ついで,受傷時の局所所見で陥凹の触知を認めれば断裂が示唆される.また,断裂により生じた機能の喪失を

診る徒手検査としてSimmonds test, Thompson testなどが挙げられ,補助診断として有用である.

画像検査として,単純X線検査,computed radiography(CR),超音波検査,MRIなどが挙げられる.また,単純X

線写真はアキレス腱断裂の描出としての診断的価値は低いが,骨折や骨棘障害などとの鑑別には重要である.最

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近のCRでは断裂状況のある程度の客観的把握が可能となった.また,これらの検査は補助診断として有益であり,

特にCR,超音波,MRI検査は治療方針や治療成績にも反映されるので,フォローアップの手段としての価値も見い

出される.

診断に際しては,医療面接と理学的所見のみで安易に診断を決めつけると,骨折などを見逃したり,歩行可能と

いうことでアキレス腱断裂を見逃す危険性もある.したがって,的確な問診や理学所見でほとんどのアキレス腱断裂

の診断は可能であるが,確定診断ができない場合には,画像所見と併せて総合的な診断が必要である.

アキレス腱断裂の診断のための4つのステップを以下に記載する.

【アキレス腱断裂の診断手順―4つのステップ】

●First step:医療面接(問診)

受傷時の特徴的な表現(アキレス腱部を蹴られた,pop音の聴取など)はあるか. •

アキレス腱部痛はあるか. •

階段昇降やつま先歩行は可能か. •

跛行はあるか. •

●Second step:理学所見

断裂部の陥凹を触知するか. •

つま先立ちは可能か. •

徒手検査〔Simmonds Thompson test,knee flexion test(Matles test)など〕は陽性か. •

●Third step:画像検査

確定診断がつかない場合や治療方針の決定に有用な検査法は何か. •

first choice:単純X線検査・computed radiography(CR)

second choice:超音波検査

third choice:MRI

※治療方針や治療成績にも反映されるのでフォローアップの手段としての価値あり.

●Fourth step:鑑別診断

アキレス腱炎・アキレス腱周囲炎,アキレス腱付着部裂離骨折,アキレス腱付着部障害(踵骨後部滑液包

炎,アキレス腱皮下滑液包炎,アキレス腱付着部炎),腓腹筋挫傷(いわゆる肉離れ)・腓腹筋内側頭筋腱移

行部の断裂(いわゆるtennis leg),脛骨過労性骨膜炎・疲労骨折,腓骨筋腱脱臼,後脛骨筋腱炎・長母趾屈

筋腱炎など

今後今後今後今後のののの課題課題課題課題

アキレス腱断裂の診断には,特徴的な受傷時のエピソードに加え,局所所見で陥凹の触知やSimmonds

Thompson testなどの理学的検査所見が有用であり,ほとんどの症例において診断が可能である.今後の課題とし

て,誤診する症例の実態や特徴を検討する必要がある.また,診断法を科学的に統計処理するために,受傷時の

エピソード,局所所見や理学的検査所見の診断時の敏感度や特異度の評価,画像診断の必要性の有無などに関し

ては,多施設共同での研究が必要と考える.

 

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 1111

医医医医療面接(問診療面接(問診療面接(問診療面接(問診・・・・病病病病歴歴歴歴))))だけでアキレスだけでアキレスだけでアキレスだけでアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断はははは可能可能可能可能かかかか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade CCCC 問診や病歴単独で,ある程度アキレス腱断裂を予想することは可能である.よって,問診や病

歴をしっかり聴取することは基本であり重要である.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

近年,アキレス腱断裂の診断に単純X線写真,超音波検査,MRIなどの各種画像診断が用いられているが,

あくまでも補助診断として用いるべきである.アキレス腱断裂に限らずあらゆる疾病を診断するにあたり,問診や

病歴をしっかり聴取することは基本であるので,医療面接の有用性について検討する.

解解解解説説説説

1111)前)前)前)前駆駆駆駆症症症症状状状状

43例中10例(23.3%)や244例中46例(19%)に受傷前にアキレス腱部に何らかの異常を感じていたとの

報告がある(AJ00068, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)(AJ00117, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

前駆症状として歩行時や運動時の鈍痛,つっぱり感,違和感という漠然とした愁訴が多く,断裂前からア

キレス腱部に変性や炎症の存在が疑われ,予防の観点からは重要な徴候である.

2222)受傷時)受傷時)受傷時)受傷時のののの表現(蹴表現(蹴表現(蹴表現(蹴られたられたられたられた,,,,ボールがあたったなどボールがあたったなどボールがあたったなどボールがあたったなど))))やややや断断断断裂音裂音裂音裂音

受傷時の表現として,「アキレス腱部を後ろから棒でたたかれたと思った」,「後ろから蹴られた,ボール

をぶつけられたような衝撃を感じた」,「“ポーン”という音(pop音)を聴取した」「“ブチッ”という切れた音

を自覚した」などが挙げられ,これらを聞いただけでアキレス腱断裂と診断可能なほど特徴的なエピソー

ドといえる.また,「足がつった」,「熱い感じがした」,「あまり強い痛みは感じなかった」,という異った表

現をすることもある(AF00564, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AF00666, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AJ00117, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)(AJ00231,

EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

3333)疼痛)疼痛)疼痛)疼痛やややや跛行跛行跛行跛行

自覚症状としてはアキレス腱部痛があるが,疼痛は著しい場合と軽度の場合があり,症例によっては独

歩で来院することもありうる.走ること,階段昇降やつま先歩行は不可能になるが,ベタ足歩行は可能で

ある.このため,まれに断裂を見逃されることがあるので注意を要する(AF00564, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)

(AF00666, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AJ00231, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

文文文文献献献献

1) AJ00068 笠次良爾,杉本和也,中山正一郎,高倉義典.バレーボールにおけるアキレス腱断裂について―受

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 2222

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断においてにおいてにおいてにおいて,特,特,特,特徴徴徴徴的的的的なななな臨床所見臨床所見臨床所見臨床所見はあるかはあるかはあるかはあるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade CCCC 受傷時にアキレス腱部に認められる陥凹やgap signは特徴的な局所所見である.歩行は可能な

場合はあるがつま先立ちは不可能である.Simmonds test, Thompson testをはじめ各種徒手的

検査を要す.2つ以上の臨床的検査法でアキレス腱断裂を示唆された場合,診断は確実と考え

られる.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱断裂の三大徴候は,(1)アキレス腱のレリーフが消失し陥凹(Delle)を触知,(2)つま先立ちは不可

能,(3)Simmonds test, Thompson test陽性が一般的に挙げられてきた.ただし,歩行可能例も存在し,足底筋

腱を触知し部分断裂と見誤ることもあり,安易な診断は要注意である.

解解解解説説説説

1111)局所所見()局所所見()局所所見()局所所見(陥陥陥陥凹凹凹凹ととととgap signgap signgap signgap sign,,,,圧圧圧圧痛痛痛痛とととと腫脹,足腫脹,足腫脹,足腫脹,足関関関関節底屈節底屈節底屈節底屈とつまとつまとつまとつま先立先立先立先立ちちちち))))

新鮮アキレス腱断裂の受傷時における絶対的テストは陥凹触知である.しかし,周囲の腫脹によりマス

クされることもあり陳旧例では認められないことが多い.また,その周囲に皮下出血斑を認めることもあ

る.しかし,断裂部位や経過時間により,断裂部の陥凹の有無だけで診断すると誤診をすることもありう

る(AF00251, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AF00478, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AF00677, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

アキレス腱断裂により足関節底屈筋力は低下し,つま先立ちが不能になる.しかし,足底筋,趾屈筋お

よび後脛骨筋は正常に働くため自動的な足関節底屈は可能であるので注意を要す.完全断裂において

も1/3で歩行は可能であり足底筋腱を触知し部分断裂と見誤らないようすることが重要である(AF00679,

EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AJ00055, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AJ00117, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)(AJ00231, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

100例102足において断裂部の自発痛100%,圧痛100%,腫脹80%,皮下出血は25%に認め,両足つ

ま先立ちは98.1%で不可能であったが,歩行は36.3%に可能であった(AJ00263, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

2222))))検検検検査査査査

aaaa))))Simmonds test, Thompson test, Simmonds Thompson testSimmonds test, Thompson test, Simmonds Thompson testSimmonds test, Thompson test, Simmonds Thompson testSimmonds test, Thompson test, Simmonds Thompson test

Simmondsによるsqueezing testの原法は腹臥位で膝伸展位にて足関節は台の端から出し,下腿を

squeeze**(圧搾,搾りだす)し,足関節が底屈しなければアキレス腱が断裂していることが示唆されると

報告された(AF00481, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).また,健側と比較すべきとされている.

Thompson testの原法は立て膝をつき膝90°屈曲位で足関節は台の端から出し自然下垂位をとり,下

腿後面中1/3部位をsqueezeし,底屈しなければ陽性と紹介されている(AF00479, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

Thompsonはアキレス腱断裂患者19例全例で陽性であったと報告した(AF00480, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).しかし,

この方法では完全断裂やヒラメ筋成分の損失がなければ陽性に出ないこともあり,陳旧例では陰性とな

りやすい(AF00478, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

現在では,Simmonds Thompson testは腹臥位で膝伸展または屈曲位で施行すると表現され,偽陽性を

減少させる観点から重力が加わる膝屈曲位で施行されている文献が多い.

**squeezeに対する適切な訳語がないのが現状であるため上記のように記載した.

bbbb))))Knee flexion test (Matles test)Knee flexion test (Matles test)Knee flexion test (Matles test)Knee flexion test (Matles test)

腹臥位で台の端から足部を出し,足関節を底屈位にしたまま自動運動で膝を90°まで屈曲させる.正

常では底屈位を保持できるが,中間位や軽度背屈位に落ち込んだら陽性であり,新鮮例および陳旧例

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とも可能なサインである.しかし,膝関節の障害で自動屈曲できない例では不可で,ポリオ,脳性麻痺,

筋萎縮症などが原因でアキレス腱の緊張低下時には偽陽性となることもある(AF00478, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

cccc))))Hyperdorsiflexion signHyperdorsiflexion signHyperdorsiflexion signHyperdorsiflexion sign

腹臥位で膝90°屈曲位とし,他動的に足関節に背屈強制を加えると,断裂側は過背屈位を呈す

(AF00137, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

dddd))))Needle test (O'Brien testNeedle test (O'Brien testNeedle test (O'Brien testNeedle test (O'Brien test))))

腹臥位で,無菌操作として踵骨上縁から10cm近位部の腓腹部正中やや内側に25ゲージの針を刺入し,

針先がアキレス腱を貫通せず腱内に留まるように抵抗を感じるまで刺入する.次にゆっくりと他動的に

足関節の背屈底屈を交互に行い,針の中心の動きを記録する.腱の状態が正常では足の軸の動きと

針の軸の動きが正反対の方向を示す.針の軸の動きがないか,足の動きの軸と同じ方向に針の軸が

動けばアキレス腱の連続性の途絶を示唆する所見である.

10症例のThompson testとの比較検討を行い,Thompson testは腓腹筋筋腱移行部断裂,アキレス腱部

分断裂,アキレス腱完全断裂を混同してしまうため2例の偽陽性を認めたが,Needle testは認めなかっ

たと報告している(AF00339, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).しかし,侵襲性のある検査で推奨はできない.

eeee))))Copeland testCopeland testCopeland testCopeland test(水銀柱血(水銀柱血(水銀柱血(水銀柱血圧圧圧圧計計計計をををを用用用用いてのいてのいてのいての診診診診断断断断法)法)法)法)

腹臥位で膝屈曲位90°とし水銀柱血圧計を下腿中央部に巻き100mmHgの圧を加えた状態で準備をし,

他動的に足関節を背屈させて測定を行う.正常では35~60mmHgの圧上昇を認めるが,アキレス腱断

裂では圧変化を認めない.Calf squeeze testを数値化したものと考えられ有用な検査になりうると思わ

れる(AF00267, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

3333)臨床的)臨床的)臨床的)臨床的検検検検査査査査法法法法のののの比較比較比較比較

174症例のprospective studyで,非麻酔下と麻酔下に各々の臨床的検査法(アキレス腱gap部の触診,

Calf squeeze test, Matles test, Copeland test, O'Brien test)を用い比較した.Gap部の触診の

sensitivityは非麻酔下で0.73が麻酔下で0.81に増加した.Copeland test, O'Brien testのsensitivityは0.8

であった.Calf squeeze testでは0.96, Matles testでは0.88有意に有用性を認めた.臨床的検査法で2つ

以上がアキレス腱断裂を示唆された場合には診断は確実と考えられる(AF00131, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

文文文文献献献献

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 3333

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断においてにおいてにおいてにおいて画画画画像診像診像診像診断断断断はははは必要必要必要必要かかかか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB アキレス腱断裂においては問診および臨床所見において特徴的なサインがあり,多くの場合に

おいてその診断は可能であり,絶対的な必要性はないが,画像所見を追加することによりその

精度は増してその有用性は高い.

Grade Grade Grade Grade CCCC 保存療法や手術療法におけるアキレス腱の修復状態を画像的に把握することにより,機能訓

練を含めた後療法を進めるうえで有用性がある.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱断裂において特徴的な画像所見はX線(CR),超音波検査,MRI検査に関するそれぞれの報告がさ

れており,画像診断の有用性について検討する.また,超音波検査やMRIにより経時的なアキレス腱の修復状

態を把握することにより,特に保存療法における後療法を進めるうえでの有用性について検討する.

解解解解説説説説

超音波はsoft-tissue radiography (STR)やCTと比べてアキレス腱損傷の診断に有用である.39症例(16

~70歳)の実際の手術所見と比較し,超音波では検査結果と手術所見がすべて一致していた.超音波

ではさらに腱の非連続性や腫脹,断裂による部分的な肥厚を同定することができた(AF00263, EV EV EV EV

level 6level 6level 6level 6).

アキレス腱を含めた軟部組織の損傷に対し,診断に最も良い検査法は,MRIと超音波である.特に超音

波は費用も安く,迅速に検査可能であり,あらゆる方向や姿勢で検査可能である(AF00292, EV level EV level EV level EV level

9999).

X線写真(CR)では,付着部裂離骨折や骨棘障害との鑑別ができ,Kager's sign陽性はアキレス腱断裂

の指標の一つとなりうる(AF00224, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

MRIや超音波検査は,アキレス腱断端の状態を把握でき,客観性や再現性もあることから治療方針の

決定に有用である.また,後療法を進めるうえでも有用である(AF00314, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).その場合には,

簡便かつ再現性のある超音波検査のほうが第一選択で,MRIは補助的な検査となる(AF00666, EV EV EV EV

level 9level 9level 9level 9).

アキレス腱断裂において保存療法を行った70例に対し,経時的に超音波検査で足関節を運動(動態検

査)させながらの評価観察を行った報告では,足関節の底背屈運動による腱の動態を3段階に分類し,

後療法(特にスポーツ復帰時期)の判断材料として超音波検査の経時的測定は有用であった(AJ00043,

EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

文文文文献献献献

1) AF00263 Kälebo P, Goksör LA, Swärd L, Peterson L. Soft-tissue radiography, computed tomography, and

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 4444

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断でででで単単単単純純純純XXXX線線線線検検検検査査査査のののの有用性有用性有用性有用性はあるかはあるかはあるかはあるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB X線単純写真で,アキレス腱断裂そのものの描出は不可能であるが,特徴的なサインによりア

キレス腱断裂は示唆される.

Grade Grade Grade Grade IIII 付着部裂離骨折は否定できる.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

整形外科分野での画像診断のなかで最も基本的な診断法は,X線単純検査でありシンプルで廉価である.ア

キレス腱断裂と決めつけて手術をしたら付着部裂離骨折であったという教訓的症例の報告も散見される.また,

軟線撮影は軟部組織損傷の描出に優れており,アキレス腱断裂を生じた際にも特徴的な画像を呈することが多

い.軟線撮影は無菌的に酸素ガスを使用していたが,近年はCRの普及により,さらにアキレス腱の描出が鮮明

になってきた.特徴的な画像を含めて検討する.

解解解解説説説説

1111))))アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断にににに単単単単純純純純XXXX線線線線検検検検査査査査はははは必要必要必要必要かかかか

骨の脆弱性が出現する高齢者のアキレス腱断裂では,踵骨での裂離骨折である可能性があり,高齢者

ではX線検査は施行する必要性がある(AF00223, EV level 8EV level 8EV level 8EV level 8).

2222))))単単単単純純純純XXXX線線線線写写写写真真真真でアキレスでアキレスでアキレスでアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断はははは可能可能可能可能かかかか

aaaa))))単単単単純純純純XXXX線線線線写写写写真真真真((((図図図図1111))))

正常足関節側面像において透亮像として見られる後方の三角部がKager's triangleである.三角部の前

縁は長母趾屈筋であり,長趾屈筋と後脛骨筋は長母趾屈筋よりも前方に存在するため,側面像では脛

骨や腓骨と重なり描出されない.三角部の後縁はアキレス腱で下縁は踵骨である.側面像でアキレス腱

の損傷の程度まで決定することは不可能であるが,アキレス腱断裂ではこの三角部が消失するか不明

瞭となる(Kager's sign陽性)(AF00356, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

アキレス腱断裂と足関節骨折,足関節捻挫,正常患者らとの単純X線写真で比較検討し,アキレス腱断

裂60例全例がKager's sign陽性,7例(12%)がToygar's angle減少,29例(48%)がArner's sign陽性,47

例(78%)が腱肥厚(7~16mm,平均12.2mm)を認めた.アキレス腱断裂時はKager's sign陽性が診断の

指標になりうる(AF00224, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

(1)Kager's triangle:アキレス腱前縁,踵骨の上縁および趾屈筋腱の後縁で結ばれた脂肪組織で満たさ

れている三角形の部分である.アキレス腱断裂時には,シャープな輪郭が消失し,不明瞭でギザギザ

状を呈し,範囲が狭まるいわゆる“network-like shadow”がKager's sign陽性である.

(2)Toygar's angle:後方の皮膚表面のカーブ:150°以下で異常(アキレス腱断裂)が示唆される.

(3)Arner's sign陽性:アキレス腱踵骨付着部周囲は断裂した腱が踵骨より遠ざかるカーブを描き,その近

位では前方へと移動するため,腱と皮膚線とが平行に見えない状態を表す.

bbbb))))ゼロラジオグラフィーゼロラジオグラフィーゼロラジオグラフィーゼロラジオグラフィー((((xeroradiographyxeroradiographyxeroradiographyxeroradiography))))

無菌的に酸素ガスを使用することで,詳細さを増し診断を容易とした.正常では踵骨からアキレス腱,下

腿三頭筋との連続性を明確に描写する.撮影条件は膝関節30°屈曲位で足関節を最大底屈位,底屈

30°(自然下垂位),底屈0°の3枚を撮影する.断裂部に無菌的に3~4mLの酸素ガスを注入し,コント

ラストを増強させる(AJ00265, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

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Kager's triangleの異常が最も良い断裂有無の指標であった(AJ00255, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7). •

xeroradiographyは軟部組織損傷の描出に優れている.筋腱移行部の損傷に関しては健側との比較が

必要であり,部分断裂の場合は屈曲および伸展像を撮影することが重要である.アキレス腱断裂の重

症度はKager's triangleの不明瞭度に比例している.本来この部位は正常な脂肪組織で満たされており,

損傷時は血液や浮腫によって不明瞭となる.重度のアキレス腱断裂時に認める皮膚との離解や腫脹

(Toygar's sign)は高頻度には認められない.xeroradiographyは,(1)軟部組織損傷の初期診断,(2)臨

床的に病変が疑われる場合の評価,(3)治療後のfollow-upの評価に適している(AF00361, EV level EV level EV level EV level

9999).

cccc))))computed radiographycomputed radiographycomputed radiographycomputed radiography

断裂状況(断裂形式・断裂範囲)のある程度の客観的把握が可能である.観察すべきポイントとして

calcaneus spurの解離の有無,アキレス腱輪郭の不鮮明化,腱不連続性の程度やKager's triangleのX

線透過度減少などが挙げられる.通常のフィルム増感紙法より優れている(AJ00262, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

アキレス腱は正常では均一なdensityで連続性のある明瞭なレリーフとして描出されるが,新鮮アキレス

腱断裂例ではアキレス腱の緊張が失われ末梢断端前縁は軽度前方へ突出して腱の幅は増大し,断裂

部を中心に陰影は不均一になり,腱のレリーフならびにKager's triangleは断裂による血腫や浮腫のた

めやや不鮮明になる.血腫や浮腫のため断端が明瞭に描出されない場合があり,CRのみでの断裂状

況を把握するには限界を認める.陳旧例では断端の位置および離開した断端に連続する索状瘢痕組

織の存在を客観的に観察することが可能である.足関節の肢位によるアキレス腱断裂部の変化によ

り,この観察で固定肢位を設定できうる(AJ00230, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

図図図図1111 アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの単単単単純純純純XXXX線像線像線像線像

K:Kager's triangl. アキレス腱前縁,踵骨の上縁および趾屈筋腱の後縁で結ばれた脂

肪組織で満たされている三角形の部分 K (+):Kager's sign 陽性. シャープな輪郭が消失し,範囲が狭くなり不明瞭となる T:Toygar's angle. 後方の皮膚表面のカーブ:150°以下で異常 A:Arner's sign 陽性. アキレス腱踵骨付着部周囲は断裂した腱が踵骨より遠ざかるカ

ーブを描き,その近位では前方へと移動し,腱と皮膚線とが平行に見えない状態

文文文文献献献献

1) AF00223 Michael S, Banerjee A. Apparent tendon achilles rupture in the elderly: is routine radiography

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3) AF00224 Cetti R, Andersen I. Roentgenographic diagnoses of ruptured Achilles tendons. Clin Orthop Relat

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 5555

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断でででで超音波超音波超音波超音波検検検検査査査査のののの有用性有用性有用性有用性はあるかはあるかはあるかはあるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB アキレス腱の断裂の診断において超音波検査(US)は非侵襲的かつ簡便な検査である.完全

断裂の診断においてその診断率は高い.また部分断裂やアキレス腱炎などの診断や保存的治

療の経過観察において臨床的な有用性がある.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

超音波検査は筋や腱損傷において,肢位を任意に変化させた状態で構造を観察することが容易で装置の移

動が可能な点で優れている.今回はアキレス腱断裂の診断を含めアキレス腱周囲における疾患について超音波

の有用性を検討する.

解解解解説説説説

1111)有用性)有用性)有用性)有用性のののの評評評評価価価価

足関節の肢位を変えることにより断裂部の観察が可能で,医療費の患者負担を考慮すると超音波検査

が最も有用である.しかし,断裂腱の形態の描出では精度が劣り,calcaneus spurの解離が存在する場

合や,骨折の有無を調べる目的には不適である(AJ00262, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

2222)使用)使用)使用)使用装装装装置置置置

アキレス腱の診断においては27編の論文では3.5~13MHzの周波の探触子(プローブ)が使用されてい

る.そのなかで使用頻度が高かったのは7.5MHzの探触子であった.

3333)解剖)解剖)解剖)解剖

正常アキレス腱は連続性を持つ均一な線維状の低エコーである.矢状断では均一な線維構造で内部は

6~8本の特徴的な波状の線を認め,コラーゲン線維と粗な結合組織と筋膜に挟まれた状態になり,厚さ

は4~9mmであった.踵骨に近くなるとKager's triangleという組織(腱より低エコー)によって境界され,横

断像では高エコーとして描出され,周囲との差はなく半月様の形態(half-moon-shaped)で内部は蜂の

巣様(honeycomb pattern)で描出される(AJ00218, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)(AF00225, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)(AF00234, EV EV EV EV

level 6level 6level 6level 6)(AF00264, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

4444)超音波)超音波)超音波)超音波検検検検査査査査のののの有用性有用性有用性有用性

術前の超音波検査と手術所見を比較検討した報告でその有用性が報告されている.アキレス腱に障害

を持つ79症例で完全断裂の26症例中25例,部分断裂の11症例中8症例,アキレス腱周囲炎の40症例

中33症例においては術前の超音波診断と術中所見は一致した(AF00124, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

オーバーユース障害のある30名34肢を対象とした報告では,術前10例の断裂との診断で11例が手術で

確認された.アキレス腱周囲炎などの炎症性の所見を28例確認して27例が手術で確認され,sensitivity

は0.96であった(AF00207, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

超音波検査によりアキレス腱を検査した後,手術を行って確認しえた26例(14~61歳,平均年齢40歳)

において92%の精度で完全断裂と不完全断裂または腱炎を鑑別できた(AF00063, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

超音波検査の結果に従い6例で手術を行い,その所見は超音波検査によるものとほぼ同じであった

(AF00311, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

30名37肢の患者に対して(男性19名,女性11名. 平均年齢35歳)術前の超音波検査診断は,術中のア•

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キレス腱断裂の評価に有用であった.感度が0.94,特異性は1で正確性は0.95であった(AF00234, EV EV EV EV

level 6level 6level 6level 6).

無症状の対照群,慢性アキレス腱炎,アキレス腱部分断裂におけるアキレス腱微小断裂の発生率,発

生部位を検証した報告では,無症状の対照群で,28%の症例に単独,5%に複数の微小断裂もしくは微

小欠損が認められた.発症部位は近位部2/3に多く認められた(AF00105, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

アキレス腱損傷の診断の正確性の検討では,アキレス腱損傷患者73名に対しての超音波検査でのアキ

レス腱の腫脹,アキレス腱の形態異常,アキレス腱断裂,アキレス腱周囲炎,組織的変化を認めない機

能的障害の診断の敏感度0.72,特異度0.83であった(AF00264, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

プロスポーツ選手などのアキレス腱断裂危険因子群で微小断裂の早期発見に役立つことも報告されて

いる(AF00105, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

以上の結果により,超音波検査はアキレス腱の走行異常(断裂)やアキレス腱周囲の損傷を診断する

のに有用である.また,アキレス腱周囲の痛みに対し特殊な検査や治療を行う前に超音波検査を行うこ

とが望ましい.

5555)鑑別診)鑑別診)鑑別診)鑑別診断断断断

アキレス腱断裂,アキレス腱部分断裂,アキレス腱炎,踵骨後部滑液包炎,アキレス腱皮下滑液包黄色

腫,ガングリオン,長母趾屈筋炎などが超音波にて鑑別可能であったとの報告がある(AF00118, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7).

後向き研究として,アキレス腱断裂,アキレス腱周囲炎,アキレス腱断裂,アキレス腱の石灰化,滑液包

炎,脂肪腫,異所性骨化についてアキレス腱(健側と患側)を調べ,超音波検査はアキレス腱の痛みの

診断に有用な検査であった(AF00051, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

6666))))断断断断裂裂裂裂のエコーのエコーのエコーのエコー像像像像

12例全例受傷後48時間以内に,5MHzプローブを用いた超音波検査を行い,低エコーの欠損像として認

められた.断裂部断端は血腫により不鮮明であり,断裂部には高エコーを呈する部位が存在し,断裂部

末梢側断端は肥厚した変性様の不整なエコーパターンを呈した.断端部中枢側は正常の約2倍に肥厚

していた.3症例で,Kager's triangleに不均一なエコーパターンが認められた.超音波検査はアキレス腱

断裂において有用である(AF00286, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

新鮮例ではびまん性に腫脹,全体に低エコー,断裂局所は腱内不整線状低エコーと血腫の存在を反映

した低エコーの腫瘤が認められた.陳旧例では腫大した腱内に低エコー領域(貯留した液体,肉芽腫)

を描出できた(AJ00090, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

断裂部は低エコーであり両断端部は高エコーとして描出され,腱の連続性は認めない.陳旧例では足関

節の背屈で引き延ばされ細くなり,最大底屈で断裂部が縮小する傾向であった.断裂部の大部分は不

規則な高エコーとして描出された.アキレス腱断端の状態を把握でき,治療方針の決定 (客観性や再現

性あり)や後療法を進めるうえでも有用である(AJ00187, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

7777))))断断断断裂裂裂裂のスクリーニングのスクリーニングのスクリーニングのスクリーニング

アキレス腱痛がある患者に対してアキレス腱断裂につながると思われる臨床所見と超音波検査所見を

検討した報告では,アキレス腱の肥厚をnormal (<6mm), minimal (6~8mm), moderate (8~10mm), high

grade (>10mm)に分類し,アキレス腱の所見をdiffuse, circumscribed, inhomogenousで描出した.その結

果,初回調査時に72肢のうち33肢で超音波検査所見の肥厚や変化を認め,48±8ヵ月の経過観察期間

中に7例のアキレス腱断裂が発生した.超音波検査はアキレス腱の肥厚や性状を検査するには有用

で,将来に起こるアキレス腱断裂を予測しうるものとなる(AF00151, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

8888))))経経経経過過過過観観観観察察察察におけるにおけるにおけるにおける超音波超音波超音波超音波のののの利用利用利用利用

アキレス腱断裂において保存療法を行った70例に対して経時的に超音波検査で観察を行った報告で

は,受傷後16週までは断裂部が狭小した砂時計型を呈するが,20週あたりから断裂部を中心に肥厚を

呈し,全体として徐々に紡錘形への変化を認めた.また,経過中に6例の異常所見も認めている

(AJ00043, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

超音波検査はアキレス腱断端の状態を把握でき,客観性や再現性もあることから治療方針の決定に有

用である.また,後療法を進めるうえでも有用であった(AJ00187, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

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文文文文献献献献

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誌.1993;14:147-9.

16) AF00151 Nehrer S, Breitenseher M, Brodner W, Kainberger F, Fellinger EJ, Engel A, Imhof F. Clinical and

sonographic evaluation of the risk of rupture in the Achilles tendon. Arch Orthop Trauma Surg.

1997;116(1-2):14-8.

17) AJ00043 林 光俊,石井良章,渡辺敬子,山川忠弘.外傷治療のControversies腱・靱帯損傷アキレス腱新鮮

皮下断裂 新鮮アキレス腱皮下断裂の保存療法超音波所見による検討を主として.整形外科 別冊.

2000;37:226-32.

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 6666

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの診診診診断断断断ででででMRIMRIMRIMRIのののの有用性有用性有用性有用性はあるかはあるかはあるかはあるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB MRI検査はアキレス腱断裂の診断において必須な検査と支持する論文は存在しない.臨床所見

や超音波検査などを施行すればかなりの症例が診断可能と思われる.しかし,より詳細な軟部

組織の情報や治療における経時的変化を詳細に把握する場合においては有用な検査である.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

MRIは非侵襲的で軟部組織における診断および評価においては非常に有効な検査である.アキレス腱断裂の

診断において,その必要性ならびに有用性を検討する.

解解解解説説説説

1111)有用性)有用性)有用性)有用性のののの評評評評価価価価

CRとMRIの比較検討で,断裂部の情報はMRIでより詳細に得ることが可能であった.MRIの利点は,矢

状断像で断裂部位や周囲の状態を描出可能なことである.また保存療法経過におけるアキレス腱の状

態の把握を容易にし,再断裂を予防すると同時に,ギプス固定や運動負荷を行うための客観的情報を

提供する(AJ00262, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

CTと超音波検査での評価では偽陰性の症例が見られ,MRIは他の検査法に比べてアキレス腱の術前

診断として有用である(AF00257, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

MRIはアキレス腱断端の状態を把握でき,客観性や再現性もあることから治療方針の決定や後療法を

進めるうえで有用である(AF00314, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

2222)解剖)解剖)解剖)解剖

MRIにおいてアキレス腱はT1強調画像(T1WI)およびT2強調画像(T2WI)にて均一な低信号として描出さ

れる.通常直径は1cm未満である.横断像では半月様の形態で後方に凸の状態である.Kager's

triangleはfat pad像であり,T1強調画像で高信号として描出される(AF00254, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6)(AJ00055,

EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

3333))))断断断断裂裂裂裂のののの所見所見所見所見

MRIにおけるアキレス腱の完全断裂の所見は,アキレス腱の連続性の消失,近位および遠位に腱が収

縮した状態である.また,その周囲に液体の貯留を認める.部分断裂では腱は腫脹し紡錘状を示し,部

分断裂部の部分に血液や液体を伴い信号強度が増加する(AF00254, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

新鮮例ではT1WIで中間信号,T2WIで高信号を呈し,陳旧例ではT1WIで一部高信号を含む低~中間信

号,T2WIで高信号である(AJ00055, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

また,新鮮例以外では断裂腱の著明な肥厚を認め,肥厚の形態は亜急性でdumbbell型,6ヵ月以降の

陳旧例でspindle型を呈する傾向がある.断裂部の形態の詳細な描出はCRより優れている.断裂部位で

T1WIおよびT2WIともに高信号となるのは,Kager's triangleの脂肪層が一部移動して断裂部を埋めるた

めである.

受傷からの治癒過程におけるアキレス腱の形状をdumbbell type (28例), tubular type (1例), spindle

type(7例)で分類した報告では,spindle typeの肥厚が治癒良好な慢性期の像であったとしている

(AJ00262, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

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4444)診)診)診)診断断断断

MRIでアキレス腱に異常を認めた88名94肢の患者を対象とした研究では,36%に腱断裂を認め,対照

群の7%に比べ多かった.内容は腱内断裂(61%),不完全断裂(17%),混合断裂(9%)完全断裂

(13%)であった(AF00098, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

MRIにおけるアキレス腱部分損傷の病型を分類し,治療法の選択に有用であるかを評価した報告では,

慢性的なアキレス腱部の疼痛や同部の受傷歴のある28症例(14~82歳)をtype I(炎症反応),type II

(変性),type III(不完全断裂),type IV(完全断裂)の4つに分類して13例に手術を施行したところ,MRI

では手術所見と画像所見がほぼ一致していたが,CTや超音波検査での評価では偽陰性の症例が見ら

れた.MRIは他の検査法に比べてアキレス腱の術前診断として有用である(AF00257, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

正常アキレス腱と損傷アキレス腱をMRIで比較検討した報告では,正常アキレス腱は平滑で低輝度,不

全断裂例はアキレス腱内に高輝度領域を認めた.アキレス腱完全断裂では腱の不連続を認め,再断裂

のない手術症例は手術部での輝度の連続性を認めた.慢性アキレス腱炎ではアキレス腱のびまん性肥

厚を認めた.以上より,1.5TのMRIによるアキレス腱の検査は,アキレス腱損傷の診断,治療法,リハビ

リの進行を決定するうえで有用である(AF00314, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

1) AJ00262 是永建雄,藤川隆夫,蜂屋順一,ほか.アキレス腱皮下断裂のMRIおよびCR診断.日本磁気共鳴医

学会雑誌.1988;8(3):155-64.

2) AF00254 Ferkel RD, Flannigan BD, Elkins BS. Magnetic resonance imaging of the foot and ankle: correlation of

normal anatomy with pathologic conditions. Foot Ankle. 1991;11(5):289-305.

3) AJ00055 林 光俊,石井良章.【スポーツ医学におけるMR画像の応用】 臨床への応用 部位別 下腿(アキレ

ス腱).臨床スポーツ医学 臨時増刊号.2000;17:301-6.

4) AF00098 Haims AH, Schweitzer ME, Patel RS, Hecht P, Wapner KL. MR imaging of the Achilles tendon:

overlap of findings in symptomatic and asymptomatic individuals. Skeletal Radiol. 2000;29(11):640-5.

5) AF00257 Weinstabl R, Stiskal M, Neuhold A, Aamlid B, Hertz H. Classifying calcaneal tendon injury according

to MRI findings. J Bone Joint Surg Br. 1991;73(4):683-5.

6) AF00314 Quinn SF, Murray WT, Clark RA, Cochran CF. Achilles tendon: MR imaging at 1.5 T. Radiology.

1987;164(3):767-70.

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第第第第3333章章章章 診診診診断断断断

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 7777

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂とととと鑑別鑑別鑑別鑑別すべきすべきすべきすべき疾患疾患疾患疾患とそのとそのとそのとその鑑別鑑別鑑別鑑別点点点点はあるかはあるかはあるかはあるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade IIII アキレス腱断裂の鑑別疾患については,鑑別に有用とのエビデンスが得られている臨床所見は

ない.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

上記の疾患はいずれも下腿後面を中心に病変が存在しており,時としてその鑑別に苦慮することがある.これ

らの疾患について臨床症状や検査所見の違いを明確にできうるかを検討する.

解解解解説説説説

アキレス腱断裂との鑑別が必要なものにはアキレス腱炎,アキレス腱周囲炎,アキレス腱付着部裂離骨

折,アキレス腱付着部障害(踵骨後部滑液包炎,アキレス腱皮下滑液包炎,アキレス腱付着部炎),腓

腹筋筋挫傷(いわゆる肉離れ),腓腹筋内側頭筋腱移行部の断裂(いわゆるtennis leg),脛骨過労性骨

膜炎,疲労骨折,腓骨筋腱脱臼,後脛骨筋腱炎,長母趾屈筋腱炎などが挙げられる(AF00118, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7)(AF00564, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9)(AJ00231, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).アキレス腱断裂との臨床症状の違いを詳細

に検討したエビデンスが得られている研究は認めなかったが,疾患の定義から当然臨床症状の違いは

存在する.各々の疾患について概説する.

アキレス腱炎やアキレス腱周囲炎は,典型的なオーバーユースによる障害である.腱炎は腱実質内に

病変が存在し,腱周囲炎は腱を包むパラテノンの炎症で起こる.腱炎は腱への高い伸張負荷により腱

の微少損傷が発生し,これに対する修復反応として炎症が生じたものであり,腱周囲炎はアキレス腱の

ねじれや緊張により生じたものである.超音波検査において腱炎では腱実質の腫大を認め,腱周囲炎

は周囲組織の肥厚や腫脹,水腫による低エコー像がみられる.MRIにおいては慢性的なアキレス腱炎で

は腱実質の肥大と腱内に不規則な高信号変化を認める(AJ00001, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

アキレス腱付着部裂離骨折は骨が脆弱化している中高年において生じることがある.鑑別にはX線検査

が必要である(AF00223, EV level 8EV level 8EV level 8EV level 8).

踵骨後部滑液包炎は踵骨後上方隆起の後方への突出が病因と考えられ,アキレス腱の内側付着部に

圧痛を認める.アキレス腱皮下滑液包炎は踵骨の後外側部が靴の圧迫を受け生じる.踵骨後部滑液

包炎を合併しやすく骨性隆起と軟部組織の肥厚によるpump bumpを呈する.アキレス腱付着部炎は踵

骨後方隆起に骨棘の形成やアキレス腱内に石灰沈着を伴うこともある(AJ00092, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

腓腹筋筋挫傷(いわゆる肉離れ)や腓腹筋内側頭筋腱移行部の断裂(いわゆるtennis leg)は,アキレス

腱部より近位での損傷で圧痛を認める.他動的な腓腹筋のストレッチで疼痛が誘発される.鑑別には

Thompson testが有用である.

脛骨過労性骨膜炎はいわゆるシンスプリントで脛骨中1/3~下1/3の後内側に繰り返し負荷が加わるこ

とにより発症し,同部位の圧痛を認める.脛骨疲労骨折はランニングやジャンプの繰り返しにより脛骨

に反復負荷が加わり発症する.脛骨上1/3と下1/3の後内側に起こる疾走型と中1/3前方に発生する跳

躍型に分類される.鑑別にはX線写真やMRIが有用である.

腓骨筋腱脱臼は外傷によって上腓骨筋支帯が断裂して生じ,外果後方の疼痛や圧痛を認める.抵抗下

に足関節を背屈して外反させると,腓骨筋腱が腱溝を逸脱して外果に乗り上げる現象を認める.

後脛骨筋腱炎や長母趾屈筋腱炎は,内果後方の疼痛や圧痛を認める.後脛骨筋腱炎では抵抗下に足

関節を内反して底屈させると疼痛は誘発され,長母趾屈筋腱炎では抵抗下に母趾を屈曲させると疼痛

は誘発されることが多い(AJ00352, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

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文文文文献献献献

1) AF00118 Wang CL, Shieh JY, Wang TG, Hsieh FJ. Ultrasonographic assessment of posterior heel pain. J

Formos Med Assoc. 1999;98(1):56-61.

2) AF00564 Leppilahti J, Orava S. Total Achilles tendon rupture. A review. Sports Med. 1998;25(2):79-100.

3) AJ00231 萬納寺毅智.アキレス腱断裂.臨外.1990;45:869-73.

4) AJ00001 鳥居 俊.【下肢のスポーツ障害】 アキレス腱炎,アキレス腱周囲炎.Orthopaedics. 2002;15(6):58-

63.

5) AF00223 Michael S, Banerjee A. Apparent tendon achilles rupture in the elderly: is routine radiography

necessary? Arch Emerg Med. 1993;10(4):336-8.

6) AJ00092 田中康仁,高倉義典.下腿と足のスポーツ傷害 アキレス腱損傷.関節外科.1997;16(6):38-46.

7) AJ00352 三木英之.【下肢のスポーツ障害】 足関節の慢性障害.Orthopaedics 2002;15(6):46-50.

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第第第第4444章章章章 治療治療治療治療

はじめにはじめにはじめにはじめに

アキレス腱断裂は平均年齢40歳でレクリエーションスポーツを中心としたスポーツ外傷が原因の約80%を占め,

まれな疾患ではない.今日まで治療方法に関する統一見解がなく,保存療法と様々な手術方法として切開縫合や経

皮縫合が行われている.

最近の治療方法の報告に関して,2000年までの英語論文125篇5,015例の分析を行った結果,端々縫合,1,394例

(34.8%),筋膜皮弁740例(18.5%),足底筋や長母趾屈筋腱の補強359例(9%),Wire法192例(4.8%),Triple

Bundle法108例(2.7%)などがあり,経皮縫合369例を含めた手術療法は4,001例(87.1%)に施行されていた.保存療

法は645例(12.9%)であった1).

手術療法において,最も普遍的な端々縫合術のほか,術式の工夫により外固定を行わない術式が選択された

り,後療法に装具を併用して早期の運動療法が採用されている.

保存療法においては画像診断の解析が重要な位置を占めるようになり,装具療法の併用と併せて,保存療法中

の合併症発生の予防に役立つようになってきた.

手術療法と保存療法のいずれにおいても,合併症さえ発生しなければどのような治療方法が行われても長期的に

見れば機能的に両群間に有意差はなく良好であるとされている.

アキレス腱断裂のガイドライン「治療」の作成に当たり69文献を採択し,リサーチクエスチョンとして,下記の6項目

を検討した.

(1)RQ1:手術療法としての端々縫合術の位置づけはどうか

(2)RQ2:経皮縫合術は他の切開縫合術と比較して有用か

(3)RQ3:手術療法後の早期運動療法は有用か

(4)RQ4:保存療法(キャスト固定)は有用か

(5)RQ5:保存的装具療法は有用か

(6)RQ6:スポーツ選手には特別な治療が必要か

本章本章本章本章のまとめのまとめのまとめのまとめ

手術療法には統一された方法はないが,最近の動向でも手術療法を有用とする意見が多い.端々縫合術は最も

普遍的な方法であるが縫合法に工夫がなされ,後療法に関しても装具の併用で安全性も向上し,術後の機能もほ

ぼ正常に改善され,活動性の高い症例には有用である.新鮮例に対しても筋膜皮弁や腱移植による修復術が行わ

れ,再断裂が予防されている.経皮縫合術において,腓腹神経損傷を予防する目的でGuiding Instrumentを用いた

り,小切開を追加した手技の工夫により,合併症発生率が少なくなってきている.いずれにしても手術合併症の予防

には細心の注意が必要である.

保存療法は神経損傷や感染などの手術合併症はなく,再断裂や筋力低下などの重大な合併症を予防できれば

有用な治療法といえる.

保存的装具療法を行うには,従来の治療期間を中心とした外固定期間の設定では困難であり,治療経過中の局

所所見や,画像所見などの把握が重要となる.

スポーツ選手に対する治療法は縫合方法に工夫をこらした手術療法や,術後装具療法が筋萎縮の予防に有用

で,早期スポーツ復帰を可能としている.Triple Bundle法により術後早期運動訓練を開始することはスポーツ選手に

有用とされている.保存的装具療法においてもスポーツ活動復帰に関して手術療法群の報告と同程度に効果的で

ある.

いずれの治療においてもスポーツ選手に関しては下腿機能不全に対する注意が大切とされている.競技レベル

選手の治療に関するエビデンスレベルの高い報告が少なかった.

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本文中には明記されていないが,合併症に関して再断裂の発生頻度はWong1)によれば手術療法は1.5~2.2%と

少なく,保存療法では10%前後と高頻度であるとされる.しかし,合併症全体の発生率では手術療法で20%の高率

であったとされ,保存療法では9.7%に留まっていた.

Lo2)によれば,手術療法に関するmajorな合併症(701報告例)は,再手術9例,皮膚欠損6例,瘻孔形成3例,肺

炎2例,深部静脈血栓症1例の計21例(3.0%)で,moderateな合併症(701報告例)は,腓腹神経損傷42例,遷延治

癒18例,肉芽11例,感染4例の計76例(10.84%)で,minorな合併症(571報告例)は,癒着が99例(17.3%)であったと

している.一方,保存療法(248報告例)のmajorな合併症は,深部静脈血栓症4例,過延長2例,肺炎1例の計7例

(2.8%)で,moderateな合併症は,腓腹神経損傷1例(0.4%), minorな合併症が癒着2例(0.8%)であったとしている.

Cetti3)によれば手術療法(56例)のmajorな合併症は,再断裂5.4%,深部感染3.6%で,minorなものは,癒着

10.7%,知覚障害12.5%,縫合部の肉芽1.8%,創治癒遅延1.8%で計35.8%あった.一方,保存療法のmajorな合併

症は,再断裂12.7%,2度の再断裂1.8%,過延長1.8%, minorなものは,癒着3.6%,知覚障害1.8%の計21.7%であ

ったとしている.

今後今後今後今後のののの課題課題課題課題

アキレス腱断裂に関する報告は個々の治療成績に関する報告が多く,エビデンスレベルの高い文献が少なく,

個々のリサーチクエスチョンに対する推奨が乏しい結果となった.この点に関しては,今後の検討課題となるところで

ある.

まず,多施設参加型の治療成績判定基準に従った研究デザインの作成や,それぞれの治療方法に関する成績

を出す必要性があると思われる.

いずれにしても患者の負担が少ない確実な治療方法の確立に向けて調査研究の余地が残されている.

文文文文献献献献

1) AF00005 Wong J, Barrass V, Maffulli N. Quantitative review of operative and nonoperative management of

achilles tendon ruptures. Am J Sports Med. 2002;30(4):565-75.

2) AF00154 Lo IK, Kirkley A, Nonweiler B, Kumbhare DA. Operative versus nonoperative treatment of acute

Achilles tendon ruptures: a quantitative review. Clin J Sport Med. 1997;7(3):207-11.

3) AF00221 Cetti R, Christensen SE, Ejsted R, Jensen NM, Jorgensen U. Operative versus nonoperative

treatment of Achilles tendon rupture. A prospective randomized study and review of the literature.

Am J Sports Med. 1993;21(6):791-9.

 

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第第第第4444章章章章 治療治療治療治療

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 1111

手術療法手術療法手術療法手術療法としてのとしてのとしてのとしての端端端端々々々々縫合術縫合術縫合術縫合術のののの位置位置位置位置づけはどうかづけはどうかづけはどうかづけはどうか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB 端々縫合術は活動性の高い症例にも有用である.

Grade Grade Grade Grade BBBB Triple Bundle法は術後の固定期間を短縮でき,術後早期の荷重負荷が可能で,再断裂も予防

できる.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

端々縫合術は最も普遍的な手術方法で,単に断裂部を縫合する方法の他に,Bunnel法,Kessler法,

Kirchmayer法などが行われ,最近では強固な縫合方法なども報告されてきた.それぞれの術式に対する有用性

について検証する.

解解解解説説説説

1111)端)端)端)端々々々々縫合術縫合術縫合術縫合術

端々縫合術は患者の満足度が高く,長期的にもほぼ通常の機能を回復し,再断裂もなく92%の患者は

受傷前の活動レベルに戻った(AF00145, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)等,これまでに多数の報告で有用性が述べられ

ている.Bunnell法は局所麻酔で行え,合併症率も既報告と比較して低かった(AF00353, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)

(AF00028, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

ダクロン糸(非吸収糸)を用いたBunnell縫合は早期可動訓練が可能で再断裂はなかった(AF00297, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7).

手術療法はアキレス腱の長さを受傷前の長さに回復させることが,下腿三頭筋ひいては足関節の正常

な機能回復への第一歩であり,縫合方法に関しては締め込むことで腱内の血行を阻害することのある

Bunnell法ではなく,その危険の少ないKirchmayerやKessler法が良いとしている(AJ00108, EV level EV level EV level EV level

6666).

端々縫合術に歩行用装具を用いた早期運動療法併用群と,8週間のキャスト固定を行った保存療法群

の比較検討から手術群は安全で信頼度が高かった.長期的に見れば合併症がなければ両群とも機能

的には良好であるが,再断裂の発生率は手術群で1.7%(1例/46例),保存群では20.8%(11例/53例)と

両群間に差が見られた(AF00053, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

縫合術の工夫としては,内側縦小切開のBunnel縫合術(AF00045, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7),Kessler変法に強固な

hemi-circumferential cross stitch補助縫合を行って,術翌日より自動運動療法を開始し,術後1~2週で

踏み返し防止の硬性装具を採型し,装具は6~8週で除去した.この方法でより早期に社会復帰すること

を可能とした(AJ00003, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

Savage法にcross stitch法を追加することによって術後1日目からの運動療法が可能となった(AJ00066,

EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

非吸収糸を用いたlooped suture法により術直後から運動療法を行う後療法を8例に施行した.治療期

間は従来の治療法より短縮され,臨床成績は良好であった.しかし,術後早期足関節運動療法に際し,

足関節の底背屈が可能な外固定を使用して再断裂を予防することが大切である(AJ00146, EV level EV level EV level EV level

7777).

2222))))Triple BundleTriple BundleTriple BundleTriple Bundle法(法(法(法(MartiMartiMartiMarti法)法)法)法)

Triple Bundle法(Marti)は中枢を内外側の2束にして末梢を挟み込む方法で縫合し,数日間の膝下キャ

スト固定を行い,ただちに機能訓練を開始した.この方法は単純な縫合で安全で,後療法も患者にとっ

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て便利で,結果も良好であったとしている(AF00352, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

Triple Bundle法(Marti法)は従来の方法と比べ入院期間が1週間短く,正常足関節の可動域獲得が4週

間早く,早期社会復帰を目指す治療法として優れた方法である(AJ00148, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

Triple Bundle群35例と保存療法群38例の比較検討では,長期的な成績ではAOFAS (American

Orthopaedic Foot and Ankle Societyによる臨床評価法)hindfoot評価から両群間には強さや患者の満

足度に有意差はなかった.Triple Bundle法は術後早期の荷重負荷が可能で,再断裂は保存群のみ3

例,手術群の合併症は深部感染1例(3%)であった.早期の後療法を望む症例や再断裂の危惧を持っ

た症例にはTriple Bundle法による修復術を推薦するとし,手術拒否例や高い手術危険因子を持った症

例には,長期的にはほぼ同様の成績であることから保存療法を推奨するとしている(AF00046, EV EV EV EV

level 5level 5level 5level 5).

Triple Bundle法(Marti法)とそのほかの術式での比較検討では,Triple Bundle法は縫合部が塊状になら

ず,パラテノンの修復が可能で,強固な腱縫合が得られる.Bunnell法やKirchmayer法施行例と比較検

討したが,足関節可動域が正常化に至る期間は有意に短かった(AJ00244, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

Triple Bundle法で縫合し,2週間の下腿から足までの固定キャストの後シャーレ使用としたMarti変法を

行った38例と,津下法で縫合し術後キャスト固定を行った35例の比較検討から統計学的な有意差は認

められなかった.しかし,可動域,走行能力,スポーツ復帰および総合評価について,Marti変法のほう

が優れていた.Marti変法の90%が元のスポーツに復帰しており,早期にスポーツ復帰を希望する活動

的な症例に有用と考えた.Marti変法は保存療法よりも,津下法などの従来の方法による観血的治療よ

りも可動域の回復が早く,さらにその期間がより快適に過ごせる方法である(AJ00027, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

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第第第第4444章章章章 治療治療治療治療

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 2222

経経経経皮縫合術皮縫合術皮縫合術皮縫合術はははは他他他他のののの切開縫合術切開縫合術切開縫合術切開縫合術とととと比較比較比較比較してしてしてして有用有用有用有用かかかか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB 経皮縫合術は神経損傷などの合併症を予防できれば有用な方法である.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

経皮縫合術はMa & Griffithの報告以来,手術療法と保存療法の中間的な位置づけとして広く行われている.

経皮縫合術の問題は神経損傷などの合併症の発生であり,これを避ける目的で様々な工夫がなされてきた.経

皮縫合術の有用性について検証する.

解解解解説説説説

Bunnell法に準じた経皮縫合術での腱の密着は従来の観血的治療と同程度であり(AJ00190, EV level EV level EV level EV level

7777),再断裂(3.2%)は高くなく,創感染,瘢痕形成や創部壊死もなかった(AJ00104, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

経皮縫合術は皺形成3例(9%),再断裂1例(3%),持続的な腓腹神経損傷が1例(3%)と合併症が少な

く,美容上でも優れている(AF00047, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

再断裂の予防には非吸収糸での経皮縫合が重要である(AF00253, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7). •

断裂部に3cmの横切開を加えた半経皮的縫合術後のMRIによる修復過程の経時的形態学的観察か

ら,保存療法群に比べ早期に十分な強度が得られている可能性が高かった(AJ00109, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

腱の後面中央線上の中枢,断裂部,末梢の3ヵ所に切開を加え,直視下に鋭利な90mmの針を入れる

方法が報告され,職場復帰は4週,スポーツ復帰は16週であった.軽い創傷感染1例と疼痛症候群が1

例あったが,腓腹神経損傷や再断裂はなかった(AF00116, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

経皮縫合術の新しい術式としてGuiding Instrumentを用いた方法は,小切開を加えパラテノン内で中枢

側にガイドプレートを挿入して縫合針を用いて3ヵ所に縫合糸を通し,切開部に引き出し,末梢側でも同

様の操作で縫合糸を通して縫合する.この方法で過度の切開や局所の血流障害,神経損傷,治癒問題

を避けることができる.早期機能訓練計画を含めた,最小の負担でAOFAS評価からも,高い成功率で

あった(AF00023, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

それぞれの手術療法に関しては,(1)手術療法群,(2)経皮縫合群,(3)小切開追加(経皮縫合)群の比

較検討を行った.下肢筋力の健側比は手術療法群74%,経皮縫合群88%,小切開追加群92%であっ

た.MRIでも手術療法群の下腿筋区画領域は健側比で82%,経皮縫合群は88%,小切開追加群では

91%であり小切開追加(経皮縫合群)が有用であった(AF00056, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

経皮的縫合群と保存療法群の比較では,CybexIIを用いて足関節底屈筋力測定の患側/健側比で,経

皮的縫合群は受傷後6.7ヵ月で有意差を認めなかったが,保存療法群は受傷後平均8.8ヵ月を要した.

また,経皮的縫合群では,足関節底屈筋力が術後期間の経過とともに一定の回復を示す傾向を認めた

(AJ00227, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

アキレス腱造影から確実に断端を接合できる症例を選択し,縫合材料を残さない目的でsuture wireを使

用してpull-out wireによる経皮的縫合を行い,膝下キャスト固定5週後にワイヤーを抜去した.この方法

により固定期間が短縮でき,再断裂はなく,下腿三頭筋が早期に回復するなど,良好な結果を得てい

る.観血的縫合群や保存療法群との比較では治療開始から数ヵ月までは保存療法群で筋力が低下して

いるが,1年以上を経過すると3グループ間に大差が認められなかった(AJ00212, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

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第第第第4444章章章章 治療治療治療治療

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 3333

手術療法後手術療法後手術療法後手術療法後のののの早期運動療法早期運動療法早期運動療法早期運動療法はははは有用有用有用有用かかかか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB 術後に装具を使用しての早期運動療法は術後キャスト固定群と比較して良好な治療結果が得

られ,術後の固定期間を短くすることが推奨される.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

手術療法における術後の装具併用による早期運動療法の有用性について,治療成績や術後キャスト固定と

の比較から検証する.

解解解解説説説説

1111)術後)術後)術後)術後装装装装具療法具療法具療法具療法

術後2週より足関節背屈制限装具(4週)を用いて早期の運動療法と荷重歩行訓練を行い良好な結果が

得られた(AJ00258, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

背屈制限付き歩行装具を用いた術後運動療法は早期の足関節可能域訓練,荷重歩行が可能であり,

再生腱の質的向上も期待できる(AJ00108, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

術後装具療法で早期運動療法を行うことはリハビリ期間が短期で,再断裂や創に関する合併症もなく,

筋萎縮を最小限に留め,足関節拘縮も予防でき,スポーツ復帰も早期であった(AF00128, EV level EV level EV level EV level

7777).

術後早期運動療法は急速に通常活動に回復でき,再断裂もなく,超音波検査からも満足できる回復を

示した(AF00226, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

術後にブーツ型装具を使用し,早期荷重歩行および足関節自動運動による後療法を行った.再断裂は

3例5.4%,ADLと可動域は良好で満足すべき結果を得たが,下腿筋萎縮と腱肥厚は長期にわたり残存

していた.術後の装具療法は早期の原職復帰が可能で有用であった(AJ00145, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

筋力の早期回復のためには,断端の状況に応じて腱性癒合を早める方法を選び,固定期間を短くし,

早期に後療法を開始することが必要である(AJ00212, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

ワイヤーのアンカー固定法は断裂部の小横切開で,近位部より3本のワイヤーを挿入して断裂部を通し

て両端を皮膚上にアンカーで固定する.ワイヤーは4週で抜去した.術後に装具の併用により早期運動

療法を行い,特別なリハビリテーションの必要性はなかった.荷重は2ヵ月で開始し,超音波,臨床所見

からも早期の運動療法の併用は癒着を防止し,十分な関節可動域が確保された.術式は容易で血流

傷害もなく,腱短縮も予防できた(AF00148, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

Kessler法に準じて2カ所の縫合後,縫合部周囲にワイヤー(軟鋼線)を追加し,外固定は3日間ですん

だ.ワイヤーは4週で抜去した.早期運動療法は足関節機能の早期回復,ADLの早期獲得に有用であ

り再断裂はなかった(AJ00007, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

手術療法後の装具療法群と8週間キャストの固定を行った保存療法群の比較研究から再断裂は手術群

で1.7%,保存群で20.8%であり,特に再断裂の予防には有用であった(AF00038, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2).

端々縫合術に早期運動療法併用群と保存療法群の比較検討から,手術療法で歩行用装具を用いて早

期運動療法を行う方法は安全で信頼度が高い.長期的に見れば合併症がなければ両群とも機能的に

は良好であるが,再断裂の発生率は手術群で1.7%(1例/46例)で,8週間のキャスト固定を行った保存

療法の20.8%(11例/53例)と両群間に差が見られた(AF00053, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

経皮縫合でも早期可動域訓練は腓腹筋萎縮を予防できて有用であり,術後の長期キャスト固定は有用

でない(AF00155, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

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2222)術後)術後)術後)術後装装装装具療法具療法具療法具療法とととと術後術後術後術後キャストキャストキャストキャスト固定法固定法固定法固定法のののの比較比較比較比較

術後に可動キャスト群(mobile群:30例)と不動膝下キャスト群(rigid群:30例)を比較検討した.術後1年

での合併症は,mobile群で再断裂1例,rigid群で再断裂2例と感染1例であった.受傷後1年の調査では

mobile群の80%が断裂前と同レベルのスポーツ活動性を示し,rigid群(50%)と有意差を認めた.mobile

群の足関節可動域は正常で,より早く,より良い回復を呈した.mobile群の少数が腓腹筋萎縮を認め,1

年後にも問題を抱えていた.mobile群は休職期間が統計学的に有意に短期であった.術後1年のX線評

価から,mobile群での腱の過伸長は少なかった.術後に可動キャストの使用は,従来の不動膝下キャス

トより安全で便利で治療上好ましいと判明した(AF00211, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

術後装具療法の早期可動群とキャスト固定群の比較検討では,早期可動群の足関節可動域制限は少

なく,現職復帰やスポーツ復帰も固定群より早期で,腱と皮膚の癒着が少なく,満足できる結果であっ

た.腱の過延長はなく,底屈力や可動域は両群間に有意差はなかった(AF00115, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

術後に半硬性ラップ(装具)可動群とキャスト固定群の比較では,可動群では入院期間も短期でスポー

ツ復帰も早期であったが,下腿筋萎縮は可動群4例(25.0%),キャスト群3例(13.0%)で,再断裂は固定

群に1例で可動群が有用であった(AF00007, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

術後に6週間以上キャスト固定した群10例と歩行靴を用いて早期荷重歩行した群10例に対して,CybexII

を用いて下腿三頭筋の最大筋力や耐久性について検討したが両群間に有意差はなかった.表面筋電

図からも歩行靴で十分な筋弛緩が得られることが確認できた(AJ00268, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

Kessler縫合術後にキャスト包帯固定群と機能的装具群に別けて下肢機能面から見た回復状況の検討

では,両群ともに術後の下肢機能は術後12週で健側と同等に回復した,下肢の運動機能の回復には関

与しなかった(AF00018, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

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第第第第4444章章章章 治療治療治療治療

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 4444

保存療法(保存療法(保存療法(保存療法(キャストキャストキャストキャスト固定)固定)固定)固定)はははは有用有用有用有用かかかか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB 保存療法は手術による弊害もなく有用な治療法であるが,再断裂などの重大な合併症に配慮

する必要がある.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

保存療法は神経損傷や感染などの重大な合併症はなく,用いられても良い方法である.画像所見から見た保

存療法の有用性と,長期的な治療成績を手術療法との比較で検証する.

解解解解説説説説

1111))))キャストキャストキャストキャスト固定固定固定固定によるによるによるによる保存療法保存療法保存療法保存療法のののの有用性有用性有用性有用性

8週間キャスト固定による保存療法を51例に行い,再断裂は2%であった(AJ00307, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).•

8週間キャスト固定による保存群21例と手術群13例の間に筋力の回復には有意差がない.再断裂は保

存群5%,手術群3%と決して高くなく,観血的治療の成績に劣るものではなかった(AJ00280, EV level EV level EV level EV level

6666).

保存療法は12例に対しキャスト固定8週間後に足底下敷を入れた靴の装用で歩行練習を行ったが再断

裂はなかった.手術療法と比較しても遜色はない(AJ00337, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

保存療法を靴やサンダルを使用したキャスト療法で行い,満足すべき結果が得られた(AJ00303, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7).

保存療法での再断裂は139腱中8腱6%であった.筋力低下が19腱(23%)であったが,後療法の工夫で

予防できた.再断裂の不安からまったく運動をしていなかった症例には指導が重要であった(AJ00284,

EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

保存療法(25例)は腱断端を可及的に接着させ大腿足尖キャスト3週,ヒール付き膝下キャスト3週の計6

週間で十分であった.再断裂は26肢中2肢(7.7%).本格的競技スポーツ者以外の保存療法に理解のあ

る症例に有用であった(AJ00214, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

2222)保存療法()保存療法()保存療法()保存療法(キャストキャストキャストキャスト固定)固定)固定)固定)とととと手術療法手術療法手術療法手術療法のののの比較比較比較比較検検検検討討討討

保存群と手術群は筋力測定の結果に有意差はなく,合併症の発現頻度は両群でほぼ同じで,手術療法

では2例(4.4%)の再断裂と2例(4.4%)の深部感染が認められ,保存療法では5例(8.3%)の再断裂を認

めた.どちらも良好な成績であるが,保存療法がより利点があると結論した(AF00363, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

保存群21例と手術群13例の間に筋力の回復には有意差がなかった.再断裂は保存群2例(5%),手術

群1例(3%)と決して高くなかった(AJ00280, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

保存群(22例)と手術群(20例)についてCybexIIを用いた筋力測定では,両群間に有意差はなかった

が,ともに軽度の低下傾向を示し,保存群では健側比70%未満のものが3例(13.6%)に認められた

(AJ00328, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

アキレス腱断裂の手術群(56例)と保存群(55例)にランダムに割り当てて調査した.全例に受傷後4ヵ月

と1年で臨床評価をした.手術群のmajor合併症は再断裂3例,深部感染2例で,保存群では再断裂7

例,2度の再断裂1例,過延長1例であった.minor合併症は手術群より保存群で少なかった.手術群で

は受傷前と同じレベルのスポーツ活動の再開が非常に高率で,下腿筋萎縮も少なく,足関節可動域も

良好で,不満も少なかった.保存療法は合併症が少ないので受け入れられる選択肢であった(AF00221,

EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2).

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保存群(23例)と手術群(16例)の治療成績判定基準によれば,総合点数は保存療法が優れていた.筋

力低下の回復は短期的には手術群のほうが優れていたが長期的には有意差はなかった(AJ00158, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7).

保存群32例(大腿足尖キャスト3週,膝下ヒール付きキャスト4週,計7週)および手術群22例(Kirchmayer

法と少数のLimdholm法)のADL,筋力,可動域,疼痛からみた治療成績の両群間の比較検討では有意

差はなかった.保存療法でも良好な治療成績が上げられた(AJ00321, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

手術例5例と保存例5例のMRIによる比較検討ではいずれも程度の差はあるが各群間でほぼ一定の治

癒過程を示した.MRIはアキレス腱断裂後の治癒状況の把握に有用で,経時的に経過を追い,理学療

法を考慮することにより再断裂等の合併症を予防できるものと考えられた(AJ00102, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

3333)保存療法)保存療法)保存療法)保存療法のののの画画画画像所見像所見像所見像所見によるによるによるによる修復過程修復過程修復過程修復過程

保存療法を行う際に超音波検査で膝の動きと断裂部の変化が起きないことを確認して膝下キャストとし

た.アキレス腱浅層線維は下行するにつれて外側にねじれる,深層のヒラメ筋線維は遠位にいくにつれ

て内側に位置する解剖学的な特徴に従って,超音波所見から断裂したアキレス腱は3ヵ月後には約

80%の修復度を示した.腱の修復は背外側から次第に腱の腹内側へ向かっていくことが確認された

(AJ00081, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

保存療法(31例)は筋力やADLの改善には問題はなかった.CT所見で屈筋群の萎縮が見られ,長期間

残存するものと思われた.保存療法は手術療法と比較して治療成績は劣らない(AJ00281, EV level EV level EV level EV level

7777).

保存療法にMRIを用いることは,各患者の治癒過程に応じた適切な固定期間ならびに各訓練開始時期

が調整でき,理学療法を進めていくうえで効果的であった(AJ00065, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

文文文文献献献献

1) AJ00307 市堰英之.アキレス腱断裂(新鮮例)非観血的療法.整形外科.別冊.1986;9:209-10.

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第第第第4444章章章章 治療治療治療治療

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 5555

保存的保存的保存的保存的装装装装具療法具療法具療法具療法はははは有用有用有用有用かかかか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade BBBB 保存的装具療法における早期運動療法は機能回復面からも有用といえる.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

従来の保存療法(キャスト固定)でも比較的良好な成績が得られている.機能障害の発生や再断裂などの合

併症を改善する目的で,治療方法や固定期間に多少の違いはあるが,装具併用療法が導入されてきている.そ

こで,画像診断や腓腹筋筋電図モニター解析などから保存的装具療法の有用性について検証する.

解解解解説説説説

保存的装具療法は1週間の膝下キャスト固定後に足関節背屈制限装具を用いて早期運動療法を開始

することによって,下肢筋群の筋力低下を防止でき,良好な修復腱が獲得できた.経時的な局所所見の

観察が可能であり,断裂腱の修復過程の画像解析も容易であり,後療法の示標とした.治療成績は手

術療法例の報告と有意差が見られず,手術合併症もなく,再断裂は152例中1例(0.7%)に留まり,懸念

される機能不全も少なかった(AJ00091, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

保存的装具療法では重要な合併症や再断裂もなく,患者に好まれて,少なくとも他の確立された方法

と,同程度に効果的であった(AF00160, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

保存的装具療法は受傷時に足関節最大底屈位で膝下キャスト固定から,断裂腱の修復に応じた固定

を6週間行い,その後の短下肢装具の併用により390例中再断裂は9例(2.3%),4ヵ月以後の再断裂は

なかった.つま先立ちは5.2ヵ月で可能となり,スポーツ活動には8割が復帰した(AJ00004, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)

(AJ00043, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

膝上キャスト2週,膝下キャスト2週,シャーレ2週,短下肢補装具4.8週の保存的装具療法の成績は再断

裂は68例中2例2.9%.アキレス腱装具を用いることにより比較的早期から日常生活に復帰することが可

能で合理的であった(AJ00255, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

保存的装具療法(271例)は下腿キャスト免荷2週,ヒール付き歩行キャスト4週,ヒールリフト(踵部装具)

4週で行った.再断裂は271例中13例4.8%であった.日常生活やスポーツ活動に問題はなかった

(AJ00318, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

足背がカットされて背屈運動を可能にした可動性底屈位キャストは足関節拘縮を予防でき,スポーツ活

動復帰は5ヵ月から開始し,完全復帰は8.5ヵ月,競技スポーツ復帰は10ヵ月と満足すべき結果であった

(AF00049, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

機能的保存療法の8週以後には健側との間の筋電図変化はなく,手術療法に関する文献では1年で正

常に改善されるとの報告と比較すると機能的保存療法はより有用であった(AF00017, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

文文文文献献献献

1) AJ00091 古府照男,茂手木三男.下腿と足のスポーツ傷害 スポーツ外傷による新鮮アキレス腱皮下断裂の

装具療法.関節外科.1997;16(6):669-76.

2) AF00160 Eames MH, Eames NW, McCarthy KR, Wallace RG. An audit of the combined non-operative and

orthotic management of ruptured tendo Achillis. Injury. 1997;28(4):289-92.

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3) AJ00004 林 光俊,石井良章.[足部疾患の保存療法と手術療法]外傷 新鮮アキレス腱皮下断裂の保存的装

具療法.新OS NOW.2002;(15):204-9.

4) AJ00043 林 光俊,石井良章,渡辺敬子,山川忠弘.外傷治療のControversies 腱・靱帯損傷 アキレス腱新

鮮皮下断裂 新鮮アキレス腱皮下断裂の保存療法 超音波所見による検討を主として.整形外科別

冊.2000;(37):226-32.

5) AJ00255 矢野英雄.〔足部の外傷〕アキレス腱断裂新鮮例の保存的治療.骨折・外傷シリーズ.1988;(9):197-

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6) AJ00318 沢田研司,黒川紘二,押切良一.アキレス腱皮下断裂に対する保存的療法.手術.1985;39(8):853-

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7) AF00049 Roberts CP, Palmer S, Vince A, Deliss LJ. Dynamised cast management of Achilles tendon ruptures.

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8) AF00017 Hüfner T, Wohifarth K, Fink M, Thermann H, Rollnik JD. EMG monitoring during functional non-

surgical therapy of Achilles tendon rupture. Foot Ankle Int. 2002;23(7):614-8.

コメントコメントコメントコメント

保存的装具療法とは保存療法の治療期間中にキャストから装具に移行して治療されたものをいう.

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第第第第4444章章章章 治療治療治療治療

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 6666

スポーツスポーツスポーツスポーツ選手選手選手選手にはにはにはには特別特別特別特別なななな治療治療治療治療がががが必要必要必要必要かかかか

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade IIII 複数のエビデンスが存在するが結論が一様ではなく,現時点ではスポーツ選手に特別な治療法

があるとはいえない.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱断裂はレクリエーションスポーツ中の受傷が多いが,競技レベルのスポーツ選手の受傷に対する

治療にはできるだけ早期の完全スポーツ復帰を目的として,多くの治療法が工夫されていると思われる.抽出さ

れたエビデンスを有する論文から,スポーツ選手に対する特別な治療が行われているかを検証する.

解解解解説説説説

スポーツ選手の場合には早期の良好な筋力回復が得られる観血的治療法を選択すべきである

(AJ00158, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

保存療法は腓腹筋の持久力が低下する.スポーツ選手など腓腹筋機能不全が重大な損失になる可能

性のある症例には観血的療法を第一選択とすべきである(AJ00314, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

術後6週のキャスト固定後に運動療法を開始し,12週より全荷重を行った.スポーツ復帰は6ヵ月で競技

者の71%が同レベルに復帰し,同スポーツには82%が復帰し,疼痛はなかったがレクリエーションスポ

ーツ後のこわばりは普通であった.術後の結果80%が満足できた(AF00135, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

術後に可動キャストを用いて早期運動療法を開始することは,固定群と比較して関節可動域の改善も早

く,断裂前と同レベルのスポーツ活動性を再開した(AF00211, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

スポーツ選手に対する術後の装具療法について,早期運動療法群はキャスト固定群と比較して入院期

間も短期でスポーツ復帰も早期であった(AF00007, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

Triple Bundle法は保存的療法と比較して固定期間が短縮でき,早期の荷重負荷が可能で,スポーツ復

帰もやや優位であった(AF00046, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

Triple Bundle法(Marti変法)の90%が元のスポーツに復帰しており,早期にスポーツ復帰を希望する活

動的な症例に有用と考えた(AJ00027, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

スポーツ復帰に関して,cross-stitch縫合の追加でスポーツ活動復帰は13.1週と早期となった(AF00127,

EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

人工腱(Leeds-Keioメッシュ)を用いた修復で同レベルのスポーツ活動を再開した(AF00147, EV level EV level EV level EV level

7777).

若いスポーツマンに対する経皮的縫合術(12例)と腓腹筋筋膜を用いた手術療法(15例)との比較から

両群とも治療結果は非常に満足できた.CybexIIを用いて強度,力と耐久性を測っても有意差はなかっ

た.経皮的縫合のほうが筋膜皮弁群より健側に近い修復が得られた.再断裂は経皮群で2例のほかは

合併症もなかった.レクリエーションスポーツマンや,美容面からは経皮的縫合を推薦する.筋膜皮弁を

用いた修復が,再断裂が危惧されるすべての高レベルのスポーツマンに推薦されるというわけではない

(AF00265, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

アキレス腱造影から症例を選択し,suture wireを使用してpull-out wireによる経皮的縫合を行い,スポ

ーツ活動中の受傷例26例中18例が1年以内に元のスポーツを始めており,機能的に不能な症例はなか

った(AJ00212, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

経皮縫合術に関しても瘢痕は微小で,ダクロン糸(非吸収糸)でアキレス腱を平行に縫合し,パラテノン

からの血液供給を維持し,修復を速めるなどの利点があり,下腿三頭筋筋力は完全に回復した.下腿

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周径差も軽度であった.再断裂はなく,スポーツ復帰は120~150日であった(AF00080, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

経皮縫合術の瘢痕は微小で,腓腹神経損傷や再断裂はなく,職場復帰は4週,スポーツ復帰は16週で

あった(AF00116, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

保存的装具療法により平均6.0ヵ月で139例中96例67%がスポ-ツ活動に復帰した.スポーツ群と非ス

ポーツ群の腱修復過程の比較から画像所見で断裂腱の修復機転の進行が確認できれば,安静を保つ

よりむしろ適度に機能させることがより良い修復腱の獲得に有用であり,活動性の高いスポーツ選手ほ

ど早期の復帰が可能であった(AJ00091, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

保存的装具療法はスポーツ活動の復帰は平均6.6ヵ月で62%であった.健側比較から足関節可動域は

有意差がなく,平均2年後の調査時では下腿周径は減少し,筋力も落ちたが(患側4.5:健側5),他の確

立された方法と,同程度に効果的であった(AF00160, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

トップレベルスポーツ選手に対しても受傷時に足関節最大底屈位で膝下キャスト固定として断端部を隣

接,徐々に固定肢位を変更することが尖足拘縮予防に有用であった.その後の短下肢装具は再断裂の

防止に役立ち,装具除去早期よりつま先立ち練習やジョギングなどを取り入れ,スポーツ活動には8割

が復帰した(AJ00004, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

スポーツ活動中の受傷例に対して,4週間の下腿キャストと4週間の背屈可能キャストでの加療における

受傷後1年での調査時所見は,健側と比較して下腿周径は1cm,足関節可動域は3°,底屈力は81~

90%であったとし以前の手術療法群の報告と比較しても再断裂率や機能回復面からも有用であった

(AF00049, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

観血的腱縫合術(Bunnell法)21例,経皮的腱縫合術10例および保存療法6例の比較検討ではスポーツ

復帰や運動能力には3群間で差はなかった(AJ00347, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

1) AJ00158 小沢直人,森岡 健,小見淵伸正,ほか.アキレス腱皮下断裂に対する保存的および観血的治療の

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第第第第5555章章章章 予後予後予後予後・・・・予防予防予防予防

はじめにはじめにはじめにはじめに

アキレス腱断裂は日常良く経験される外傷(疾患)であり,整形外科医に限らず,多くの一般臨床医も治療に参画

していると考えられ,各医師は文献や自己の経験則を応用した治療指針のもとに診療を行っているのではないかと

推察する.

本章では727件の論文より予後と予防に関連すると考えられる論文93件が一次選択として採択され,英文24件お

よび和文18件,計42論文を二次選択として抽出した.これらより,本ガイドライン委員会で検討された予後5項目と予

防1項目のリサーチクエスチョン(RQ)に対する回答を求めた.しかし,残念ながら予防に関しては論文中の最後に

触れられているだけで,予防をアウトカムにおいた論文は検索されず,予後を中心とした検討にならざるを得なかっ

た.以下にRQを列記する.

(1)RQ1:アキレス腱皮下断裂治療法別により再断裂に差があるか.

(2)RQ2:膝上(AK)キャストと膝下(BK)キャストとで再断裂に差があるか.

(3)RQ3:アキレス腱断裂治療後に患側の機能低下が残るか.

(4)RQ4:アキレス腱断裂の職場復帰はいつごろか(職場を離れるのは何日くらいか).

(5)RQ5:アキレス腱断裂のスポーツ復帰はいつごろか(治療法別で差があるか).

(6)RQ6:アキレス腱断裂を予防する方法があるか.

なお,ここに記載した内容は本ガイドライン委員会より規定された基準に従いまとめたものであり,本ガイドライン

に記載されていない治療法を否定するものではないことをお断りする.

本章本章本章本章のまとめのまとめのまとめのまとめ

アキレス腱断裂の治療の予後について,本委員会で検討されたRQは6項目となった.

第1項目は最も重要と考えられる再断裂の問題に関するものである.アキレス腱皮下断裂治療では,手術療法で

1.7~2.8%程度,経皮縫合10%程度,保存療法で10.7~20.8%程度の再断裂があり得ることを念頭に置き,患者

個々の病状を注意深く観察しながら治療にあたる必要がある(RCT).

手術療法と保存療法を問わず,膝上(above-knee:AK)キャストと膝下(below-knee:BK)キャストとを組み合わ

せ,論文個々に固定範囲や固定期間に工夫がされている.単純にAKキャストとBKキャストという固定範囲の違いが

治療成績(再断裂)に反映するような論文はないが,レビューされた論文では手術および保存療法のいずれにおい

てもBKキャスト固定を実施する報告が多い.

アキレス腱断裂治療後の機能低下に関して,手術療法と保存療法の2群間では長期的機能評価には明らかな差

はないが,受傷側と非受傷側では明らかな筋力低下がある(RCT).

職場復帰を考えた場合,電話応対程度の軽作業から移動を要する事務作業まで,デスクワークひとつを取っても

千差万別である.休業期間では手術群6.2~13週および保存群8~9週(RCT)であり,職場復帰では小切開縫合法

が最も早く平均19日,経皮縫合法が57日,手術法が68日,保存療法99日(cohort study)と一定しないが,これらの

期間が目安となる.次に,治療法別でのスポーツ復帰時期に関し,復帰時の程度やスポーツの種目など一定した基

準で比較するのが困難である.しかし,手術群と保存群ともにスポーツ活動のレベルの低下で差はなく(RCT),推奨

とはならず要約となる.受傷前スポーツへの復帰時期は,術後早期運動群で6ヵ月,キャスト固定群で9ヵ月であり,

保存療法では平均7ヵ月である(cohort study).

アキレス腱皮下断裂の予防について,いろいろな論文でウォーミンアップやストレッチングの関連が論及されてい

るが,結論的にはそれらとアキレス腱断裂との関連はないとされ(case series),推奨ではなく要約となる.

今後今後今後今後のののの課題課題課題課題

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本邦におけるアキレス腱断裂治療について,国民へはっきりとしたエビデンスを示すためにも,ランダマイズ化さ

れた複数医療機関での臨床トライアルを日本整形外科学会主導で実施すべきことを提案する.

 

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第第第第5555章章章章 予後予後予後予後・・・・予防予防予防予防

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 1111

アキレスアキレスアキレスアキレス腱皮下腱皮下腱皮下腱皮下断断断断裂治療法別裂治療法別裂治療法別裂治療法別によりによりによりにより再再再再断断断断裂裂裂裂にににに差差差差があるかがあるかがあるかがあるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade AAAA 再断裂率は手術療法で低く保存療法で高い.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱皮下断裂の治療上,最大の問題となる再断裂が治療法別で差があるか否かを文献より検証する.

解解解解説説説説

予後を調べた文献中,最も信頼のレベルの高かったのはEV level 2, RCTに該当したMöllerらの報告

(AF00038, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2)とCettiらの報告(AF00221, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2)の2件であり,再断裂率はMöllerらによ

ると手術療法で1.7%(1/59),保存療法で20.8%(11/53), Cettiらによると手術療法で5.4%(3/56),保存

療法で12.7%(7/55)であった.

次に信頼レベルはやや低いが,割付が無作為化されていないnon-randomized controlled clinical trial

(controlled clinical trial:CCT)に該当する島峰らの報告では,各28例ずつの手術例と経皮縫合術を比

較し,再断裂は手術例で1例(3.6%),経皮縫合例で2例(7.1%)である(AJ00175, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

同じEV level 5で,開放手術,経皮縫合術,小切開を加えた経皮縫合術を比較したRebeccatoらの報告

によると,再断裂は手術療法0%(0/9),経皮縫合術10%(1/10),小切開7%(1/14)であった(AF00056,

EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

手術療法と保存療法を比較したFahlströmらの報告によると,再断裂は手術0/22,保存2/9であり

(AF00129, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6),谷澤らによると再断裂は手術0%(0/45),保存10%(3/29)であり(AJ00346,

EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6),福沢も0%であるとした(AJ00254, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

このようにアキレス腱皮下断裂治療において,手術療法,保存療法,またその中間的治療法に位置づ

けられる経皮縫合法の如何を問わず再断裂は起こりえる.

文文文文献献献献

1) AF00038 Möller M, Lind K, Movin T, Karlsson J. Calf muscle function after Achilles tendon rupture. A

prospective, randomized study comparing surgical and non-surgical treatment. Scand J Med Sci

Sports. 2002;12(1):9-16.

2) AF00221 Cetti R, Christensen SE, Ejsted R, Jensen NM, Jorgensen U. Operative versus nonoperative

treatment of Achilles tendon rupture. A prospective randomized study and review of the literature.

Am J Sports Med. 1993;21(6):791-9.

3) AJ00175 島峰 聡,林 弘道,冬賀秀一,ほか.アキレス腱断裂における経皮的縫合と観血的縫合の治療成績

の比較.Cybex 2を用いて.整形・災害外科.1993;36(4):483-7.

4) AF00056 Rebeccato A, Santini S, Salmaso G, Nogarin L. Repair of the achilles tendon rupture: a functional

comparison of three surgical techniques. J Foot Ankle Surg. 2001;40(4):188-94.

5) AF00129 Fahlström M, Björnstig U, Lorentzon R. Acute Achilles tendon rupture in badminton players. Am J

Sports Med. 1998;26(3):467-70.

6) AJ00346 谷沢竜彦,今井久一,岡田俊治.アキレス腱皮下断裂の予後調査.東北整形災害外科紀要.

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1982;25(2):150-2.

7) AJ00254 福沢玄英.〔足部の外傷〕新鮮アキレス腱断裂の手術治療.骨折・外傷シリーズ.1988;(9):205-11.

コメントコメントコメントコメント

予後を調べた文献中,統計的技法を加えてはいるが分析的横断研究(EV level 9)である1997年Loらの

報告(990例)によると,再断裂率は手術療法2.8%,保存療法11.7%とした(AF00154, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).す

でに発表された文献を集めた横断的研究である2002年のWong らの報告(5,056例)では,保存療法

9.8%(63/645),手術療法2.2%(103/4,411)である(AF00005, EV level 9EV level 9EV level 9EV level 9).

本邦における保存療法の報告例は多くあるが,信頼レベルではCase Seriesと低く,参考までに記載する

と,再断裂に関しては,古府らの報告では0.7%(1/144)(AJ00091, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7),林らは2.3%(4/175)

であるとした(AJ00195, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).経皮縫合については,杉本らの1.7%(2/116)(AJ00226, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7),秋葉らの1.5%(1/66)(AJ00141, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)などの報告がある.

補足文補足文補足文補足文献献献献

1) AF00154 Lo IK, Kirkley A, Nonweiler B, Kumbhare DA. Operative versus nonoperative treatment of acute

Achilles tendon ruptures: a quantitative review. Clin J Sport Med. 1997;7(3):207-11.

2) AF00005 Wong J, Barrass V, Maffulli N. Quantitative review of operative and nonoperative management of

achilles tendon ruptures. Am J Sports Med. 2002;30(4):565-75.

3) AJ00091 古府照男,茂手木三男.下腿と足のスポーツ傷害 スポーツ外傷による新鮮アキレス腱皮下断裂の

装具療法.関節外科.1997;16(6):669-76.

4) AJ00195 林 光俊,石井良章.アキレス腱皮下断裂の保存療法.OS NOW.1992;(5):68-75.

5) AJ00226 杉本信幸,小林 誠,林 篤,ほか.アキレス腱断裂に対する経皮縫合術.中部日本整形外科災害外

科学会雑誌.1990;33(6):2263-4.

6) AJ00141 秋葉 理,南澤育雄,小林明正,ほか.新鮮アキレス腱皮下断裂に対する経皮的縫合法の治療成

績.日本足の外科学会雑誌.1995;16:49-53.

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第第第第5555章章章章 予後予後予後予後・・・・予防予防予防予防

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 2222

膝上(膝上(膝上(膝上(AKAKAKAK))))キャストとキャストとキャストとキャストと膝下(膝下(膝下(膝下(BKBKBKBK))))キャストとでキャストとでキャストとでキャストとで再再再再断断断断裂裂裂裂にににに差差差差があるかがあるかがあるかがあるか

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade IIII キャスト固定法における再断裂の差は,結論が一様でない.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱皮下断裂の治療においてAKキャスト(above-knee cast)とBKキャスト(below-knee cast)とで予後

(再断裂)に差があるか否かを文献より検証する.

解解解解説説説説

AKキャスト固定とBKキャスト固定との比較を実施した論文を抽出し得なかったということも関係するが,

術後の固定もAKキャスト1~2週,さらにBKキャストを4~6週巻いた群(44腱)と保存4腱と比較した福沢

の報告(AJ00254, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6)は,遠隔成績に差はない.

AKキャスト1週,次にBKキャスト3週の固定を行った中沢らの報告(AJ00325, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)では3例(/96

例)の再断裂,BKキャスト平均4.2週その後短下肢歩行キャスト4週と都合8.2週のキャスト固定を行った

Soldatisらの報告(AF00145, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7)では,1例(/30例で長期予後調査23例)の不全再断裂以外,

完全再断裂はなかった.

保存療法として,AKキャスト1週,次にAK装具2.5週,BK装具5週で再断裂なしとする古府らの報告

(AJ00240, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7),およびBKキャスト6週と短下肢装具4週で再断裂率2.3%(9/392足)とする林ら

の報告がある(AJ00105, EV level 7EV level 7EV level 7EV level 7).

以上のように各報告者が工夫した方法が選択され,結論を導くことが困難である. •

なお文献をレビューしたCettiらの報告(AF00221, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2)では,手術・保存療法の実施においてBK

キャストの選択が多い.

文文文文献献献献

1) AJ00254 福沢玄英.〔足部の外傷〕新鮮アキレス腱断裂の手術治療.骨折・外傷シリーズ.1988;(9):205-11.

2) AJ00325 中沢和正,高沢晴夫,鈴木 峻.アキレス腱断裂後のリハビリテーション(2).臨床スポーツ医学.

1985;2(2):195-8.

3) AF00145 Soldatis JJ, Goodfellow DB, Wilber JH. End-to-end operative repair of Achilles tendon rupture. Am

J Sports Med. 1997;25(1):90-5.

4) AJ00240 古府照男,篠原祐之,茂手木三男,ほか.アキレス腱皮下断裂に対する保存療法の検討―主に装具

療法について―.東日本臨床整形外科学会雑誌.1989;1(1):106-9.

5) AJ00105 林 光俊,石井良章.スポーツ活動で発生する筋・腱損傷 新鮮アキレス腱皮下断裂の保存療法.

Japanese Journal of Sports Sciences. 1996;15(6):373-8.

6) AF00221 Cetti R, Christensen SE, Ejsted R, Jensen NM, Jorgensen U. Operative versus nonoperative

treatment of Achilles tendon rupture. A prospective randomized study and review of the literature.

Am J Sports Med. 1993;21(6):791-9.

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コメントコメントコメントコメント

今回の文献検索ではabstractやsupplementは採用されていない.採用されてはいないがprospective

controlled trialとしてSupplementrumに掲載されたMortensenらの報告(AF00681)によると,(1)術後AKキャストと

BKキャストとの比較では,再断裂がAKキャストで1例のみ,(2)4週後でAKキャストは関節拘縮を呈するが,その

後の調査では両群とも合併症はない,(3)平均職場離脱期間はAKキャスト群10週,BKキャスト群7週,(4)スポ

ーツ復帰ではBK群が勝る,(5)他覚的所見では両群間に明らかな差はなく,推奨ではなく要約となる.

補足文補足文補足文補足文献献献献

1) AF00681 Mortensen HM, Sorensen L, Pless S. Below-Knee versus above-knee cast after Achilles tendon

repair-a prospective controlled trial. Acta Orthop Scand. 1996;67(Suppl 267):38.

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第第第第5555章章章章 予後予後予後予後・・・・予防予防予防予防

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 3333

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂治療後裂治療後裂治療後裂治療後にににに患側患側患側患側のののの機能低下機能低下機能低下機能低下がががが残残残残るかるかるかるか

推推推推奨奨奨奨

Grade Grade Grade Grade AAAA アキレス腱断裂治療後の患側に何らかの機能低下が残る.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱皮下断裂の治療後に何らかの機能低下が残るか否かを文献レベルより検証する(なおここで述べ

る機能とは,歩く,走るといった基本的な機能だけではなく,足関節のROMや腓腹筋力なども含む).

解解解解説説説説

再断裂例を除いた手術群と保存療法群間比較では,Möllerらは明らかな機能的差はないが,いずれの

群においても受傷側の筋力に低下を認めている(AF00038, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2).

Cettiらの手術例と保存例の比較では,1年後の予後調査時には足関節の可動域異常が保存群に多く

(p=0.002),また腓腹筋の萎縮が保存例に多く(p=0.0017),有意差はないが歩容異常が手術例に多く,

走行異常が保存例に多いとしている(AF00221, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2).

Mortensenらの報告では,術後キャスト群と早期リハビリテーションを実施した群間での差異は,後者の

ほうが足関節ROM,社会復帰,スポーツ復帰においていずれも優れていたが,両群とも最終筋力は健

側の89%と低下していた(AF00115, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

Rebeccatoらの報告では,筋力の低下は,(1)手術群(健側の74%)に認め,(2)経皮縫合や,(3)小切

開経皮縫合では認めないが,靴不快感が,(1)2/15, (2)3/15, (3)1/22といずれの群にも存在しており,

何らかの機能不全が残るとした(AF00056, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

Leppilahtiらは,Lindholm法とSilverskiold法を等運動性底屈力の比較で追跡調査(0.7~6.7年)を行い,

両群間で有意差はないものの,術後平均3.0~16.6%の底屈力の低下が見られ,低下は女性のほうが

大きく低角速度で大きいと報告した(AF00183, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

アキレス腱断裂後には受傷側の筋力に低下(底屈筋力の低下)が起こり,低下は女性で大きい.しかし

このような底屈筋力の低下があっても,ADLやスポーツ復帰は日数の多寡があっても良好である.

文文文文献献献献

1) AF00038 Möller M, Lind K, Movin T, Karlsson J. Calf muscle function after Achilles tendon rupture. A

prospective, randomized study comparing surgical and non-surgical treatment. Scand J Med Sci

Sports. 2002;12(1):9-16.

2) AF00221 Cetti R, Christensen SE, Ejsted R, Jensen NM, Jorgensen U. Operative versus nonoperative

treatment of Achilles tendon rupture. A prospective randomized study and review of the literature.

Am J Sports Med. 1993;21(6):791-9.

3) AF00115 Mortensen HM, Skov O, Jensen PE. Early motion of the ankle after operative treatment of a

rupture of the Achilles tendon. A prospective, randomized clinical and radiographic study. J Bone

Joint Surg Am. 1999;81(7):983-90.

4) AF00056 Rebeccato A, Santini S, Salmaso G, Nogarin L. Repair of the achilles tendon rupture: a functional

comparison of three surgical techniques. J Foot Ankle Surg. 2001;40(4):188-94.

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5) AF00183 Leppilahti J, Siira P, Vanharanta H, Orava S. Isokinetic evaluation of calf muscle performance after

Achilles rupture repair. Int J Sports Med. 1996;17(8):619-23.

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第第第第5555章章章章 予後予後予後予後・・・・予防予防予防予防

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 4444

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のののの職場復職場復職場復職場復帰帰帰帰はいつごろかはいつごろかはいつごろかはいつごろか(職場(職場(職場(職場をををを離離離離れるのはれるのはれるのはれるのは何日何日何日何日くらいかくらいかくらいかくらいか))))

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade IIII 一般的な職場への復帰(return to work),あるいは職場を離れた期間(time off work)とした場

合,職種の違い,社会生活,生活様式,風習,治療方法の違いなど複雑な要素が介在し,これ

らを明確に比較検討した報告はなく結論は一様ではない.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱断裂治療後の社会復帰時期については関心の持たれる事柄であり,この職場復帰時期について

文献より検討する.

解解解解説説説説

アキレス腱断裂後の職場復帰であるが,職場と一口で述べても千差万別である.以下にエビデンスレベ

ルの高い順に,職場復帰時期(休業期間)を記載する.

休業期間は,手術群平均6.2週,保存群8週と差があるが,Cettiらは統計上有意差なしとした(AF00221,

EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2).一方,Nistorは手術群で平均13週,保存群9週で有意差ありとしている(AF00363, EV EV EV EV

level 2level 2level 2level 2).

靴装着時期より職場復帰時期を仮定したJaakkolaの報告では,手術例では65日,保存例では99日であ

る(AF00046, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

Rebeccatoらの,(1)手術群,(2)経皮縫合,(3)小切開経皮縫合の3群に分けた職場復帰までの日数比

較では,それぞれ(1)68日,(2)57日,(3)19日である(AF00056, EV level 5EV level 5EV level 5EV level 5).

古府らは受傷後のADL復帰は5.8ヵ月(キャスト固定2週間以内の1群は4.9ヵ月,2週以上の2群は6.8ヵ

月),原職への復帰は32例64%,平均5.5週であると報告した(AJ00209, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

文文文文献献献献

1) AF00363 Nistor L. Surgical and non-surgical treatment of Achilles Tendon rupture. A prospective randomized

study. J Bone Joint Surg Am. 1981;63(3):394-9.

2) AF00221 Cetti R, Christensen SE, Ejsted R, Jensen NM, Jorgensen U. Operative versus nonoperative

treatment of Achilles tendon rupture. A prospective randomized study and review of the literature.

Am J Sports Med. 1993;21(6):791-9.

3) AF00046 Jaakkola JI, Beskin JL, Griffith LH, Cernansky G. Early ankle motion after triple bundle technique

repair vs. casting for acute Achilles tendon rupture. Foot Ankle Int. 2001;22(12):979-84.

4) AF00056 Rebeccato A, Santini S, Salmaso G, Nogarin L. Repair of the achilles tendon rupture: a functional

comparison of three surgical techniques. J Foot Ankle Surg. 2001;40(4):188-94.

5) AJ00209 古府照男,茂手木三男,阪元政郎.アキレス腱皮下断裂の装具療法 自家製装具による保存的療

法.整形・災害外科.1991;34(5):591-7.

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第第第第5555章章章章 予後予後予後予後・・・・予防予防予防予防

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 5555

アキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱断断断断裂裂裂裂のスポーツのスポーツのスポーツのスポーツ復復復復帰帰帰帰はいつごろかはいつごろかはいつごろかはいつごろか(治療法別(治療法別(治療法別(治療法別でででで差差差差があるかがあるかがあるかがあるか))))

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade IIII 治療法別でのスポーツ復帰時期や差異などについて,一定の指針を明示することができない.

Grade Grade Grade Grade AAAA 以前のスポーツへの復帰については手術療法が保存療法より勝る.

Grade Grade Grade Grade BBBB 平均スポーツ復帰時期は,術後キャスト固定で9ヵ月,BK装具下の早期運動訓練群で6ヵ月であ

る.

Grade Grade Grade Grade CCCC 平均スポーツ復帰時期は,保存療法で7ヵ月である.

以上より,スポーツ復帰は可能であり,スポーツ復帰は平均6~9ヵ月後と考えられる.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱断裂はスポーツ活動中に受傷することが多く,スポーツ復帰が可能であろうか.またいつ頃になれ

ばスポーツができるのであろうか.といった疑問に答えるべく文献レベルより検証を行う.

解解解解説説説説

スポーツ復帰と一口で述べても治療法の違い,スポーツ活動の違いなど千差万別である.アキレス腱断

裂後のスポーツ復帰に関して,スポーツ活動の復帰をランニングの開始で判断するか,元のスポーツ種

目の参加で判断するか,完全なプレー可能をもって判断するか明確な基準を示し,群間比較検討された

論文はなかった.そこで,各論文で記載された「スポーツ復帰returned to sports」時期をそのまま記載

する.

Möllerらはアキレス腱断裂治療法別のスポーツ活動性低下の差異は,手術群と保存群で有意差はない

と報告した(AF00053, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2).

元のスポーツへの復帰に関しては,Cettiらは有意に手術群(32/56)が保存群(16/55)に勝っている

(p=0.005)とした(AF00221, EV level 2EV level 2EV level 2EV level 2).

Mortensenらは手術後8週間のキャスト群と6週間のBK装具下の早期運動訓練群間の比較を行い,受傷

前レベルのスポーツ復帰期間は早期運動群で6ヵ月(2.5~13ヵ月),キャスト固定群で9ヵ月(6~14ヵ

月),受傷前の同レベルスポーツ復帰者は早期運動群で17名(57%),キャスト固定群で16名(55%)とP

検定ではスポーツ復帰者間では有意差はなかったが,スポーツ復帰期間では有意差(1%)があったと

述べている(AF00115, EV level 3EV level 3EV level 3EV level 3).

古府の報告では,スポーツ復帰平均7ヵ月,テニスへは9ヵ月である(AJ00209, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6). •

文文文文献献献献

1) AF00053 Möller M, Movin T, Granhed H, Lind K, Faxén E, Karlsson J. Acute rupture of tendon Achillis. A

prospective randomised study of comparison between surgical and non-surgical treatment. J Bone

Joint Surg Br. 2001;83(6):843-8.

2) AF00221 Cetti R, Christensen SE, Ejsted R, Jensen NM, Jorgensen U. Operative versus nonoperative

treatment of Achilles tendon rupture. A prospective randomized study and review of the literature.

Am J Sports Med. 1993;21(6):791-9.

3) AF00115 Mortensen HM, Skov O, Jensen PE. Early motion of the ankle after operative treatment of a

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rupture of the Achilles tendon. A prospective, randomized clinical and radiographic study. J Bone

Joint Surg Am. 1999;81(7):983-90.

4) AJ00209 古府照男,茂手木三男,阪元政郎.アキレス腱皮下断裂の装具療法 自家製装具による保存的療

法.整形・災害外科.1991;34(5):591-7.

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第第第第5555章章章章 予後予後予後予後・・・・予防予防予防予防

Research QuestionResearch QuestionResearch QuestionResearch Question 6666

アキレスアキレスアキレスアキレス腱皮下腱皮下腱皮下腱皮下断断断断裂裂裂裂をををを予防予防予防予防するするするする方法方法方法方法があるかがあるかがあるかがあるか

要約要約要約要約

Grade Grade Grade Grade IIII アキレス腱皮下断裂を予防する方法で,ウォーミンアップやストレッチングとの関連については

一定の結論は見出せない.

ただし,アキレス腱断裂者の2/3はウォーミンアップを実施していたが,その1/10しかストレッチ

ングをやっていないため,アキレス腱皮下断裂を予防する方策でストレッチングの有用性の検

証が行われる必要がある.

背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的

アキレス腱皮下断裂を予防する方策を文献レベルより検索する.

解解解解説説説説

ウォーミンアップやストレッチングとアキレス腱断裂との関連について報告した論文は多いが,いずれも

論文中にウォーミンアップやストレッチングについて触れているに過ぎない(AF00624)(AF00680, EV EV EV EV

level 7level 7level 7level 7)(AF00600)(AF00129, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6).

結論的にはウォーミンアップやストレッチングとアキレス腱断裂との関連はないとされる.ただアキレス腱

断裂者の2/3はウォーミンアップを実施していたが,その1/10しかストレッチングをやっていなかった

(AF00129*, EV level 6EV level 6EV level 6EV level 6(7777)).

文文文文献献献献

1) AF00624 Jørgensen U, Winge S. Injuries in badminton. Sports Med. 1990;10(1):59-64.

2) AF00680 Jørgensen U, Winge S. Epidemiology of badminton injuries. Int J Sports Med. 1987;8(6):379-82.

3) AF00600 Kvist M. Achilles tendon injuries in athletes. Sports Med. 1994;18(3):173-201.

4) AF00129 Fahlström M, Björnstig U, Lorentzon R. Acute Achilles tendon rupture in badminton players. Am J

Sports Med. 1998;26(3):467-70.

(*治療法別の予後調査でEV level 6に採用された論文であるが,予防に関してはEV level 7ともいえる.)