【ダイジェスト版】 不整脈薬物治療に関するガイド...

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1 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告) 【ダイジェスト版】 不整脈薬物治療に関するガイドライン (2009 年改訂版) Guidelines for Drug Treatment of Arrhythmias(JCS 2009) 目  次 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会 班長 名古屋大学環境医学研究所心・血管分野 班員 新潟大学大学院医歯学総合研究科循 環器学分野 新   日本医科大学多摩永山病院内科・循 環器内科 上   富山大学第二内科 川   国際医療福祉大学三田病院 村   弘前大学循環器内科 日本医科大学内科学第一 神 谷 香一郎 名古屋大学環境医学研究所心・血管分野 班員 大分大学循環病態制御講座 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 日本大学小児科学系小児科学分野 千葉大学大学院医学研究院薬理学 三田村 秀 雄 東京都済生会中央病院 心臓血管研究所付属病院循環器内科 協力員 日本医科大学付属病院内科 大分大学第一内科 外部評価委員 江   心臓病センター榊原病院 貫   早稲田大学理工学術院大学院 先進理 工学研究科生命理工学専攻 橋 本 敬太郎 横浜薬科大学臨床薬理学 厚生労働省労働保険審査会 江   滋賀医科大学呼吸循環器内科 (構成員の所属は2009 8 月現在) 改訂にあたって…………………………………………………… 2 Ⅰ 序 文………………………………………………………… 2 Ⅱ 総 論………………………………………………………… 3 1Sicilian Gambit の意義 …………………………………… 3 2.我が国のエビデンス ……………………………………… 5 3.薬剤選択に影響を及ぼす病態 ―心機能,腎機能,肝機能,妊娠― …………………… 7 Ⅲ 各 論………………………………………………………… 8 1.上室期外収縮 ……………………………………………… 8 2.心房細動 …………………………………………………… 8 3.心房粗動 ………………………………………………… 11 4.発作性上室頻拍 ………………………………………… 13 5.心室期外収縮 …………………………………………… 13 6.持続性心室頻拍 ………………………………………… 16 7.多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍 ……… 17 8.徐脈性不整脈 …………………………………………… 19 9.小児の不整脈 …………………………………………… 20 Ⅳ おわりに…………………………………………………… 23 (無断転載を禁ずる)

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)

【ダイジェスト版】

不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)Guidelines for Drug Treatment of Arrhythmias(JCS 2009)

目  次

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会

班長 児 玉 逸 雄 名古屋大学環境医学研究所心・血管分野

班員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器学分野

新   博 次 日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科

井 上   博 富山大学第二内科

小 川   聡 国際医療福祉大学三田病院

奥 村   謙 弘前大学循環器内科

加 藤 貴 雄 日本医科大学内科学第一

神 谷 香一郎 名古屋大学環境医学研究所心・血管分野

班員 犀 川 哲 典 大分大学循環病態制御講座

杉 薫 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科

住 友 直 方 日本大学小児科学系小児科学分野

中 谷 晴 昭 千葉大学大学院医学研究院薬理学

三田村 秀 雄 東京都済生会中央病院

山 下 武 志 心臓血管研究所付属病院循環器内科

協力員 小 原 俊 彦 日本医科大学付属病院内科

髙 橋 尚 彦 大分大学第一内科

外部評価委員大 江   透 心臓病センター榊原病院

笠 貫   宏 早稲田大学理工学術院大学院 先進理工学研究科生命理工学専攻

橋 本 敬太郎 横浜薬科大学臨床薬理学

平 岡 昌 和 厚生労働省労働保険審査会

堀 江   稔 滋賀医科大学呼吸循環器内科

(構成員の所属は2009年8月現在)

改訂にあたって…………………………………………………… 2Ⅰ 序 文………………………………………………………… 2Ⅱ 総 論………………………………………………………… 3 1.Sicilian Gambitの意義 …………………………………… 3 2.我が国のエビデンス ……………………………………… 5 3.薬剤選択に影響を及ぼす病態   ―心機能,腎機能,肝機能,妊娠― …………………… 7Ⅲ 各 論………………………………………………………… 8 1.上室期外収縮 ……………………………………………… 8

 2.心房細動 …………………………………………………… 8 3.心房粗動 ………………………………………………… 11 4.発作性上室頻拍 ………………………………………… 13 5.心室期外収縮 …………………………………………… 13 6.持続性心室頻拍 ………………………………………… 16 7.多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍 ……… 17 8.徐脈性不整脈 …………………………………………… 19 9.小児の不整脈 …………………………………………… 20Ⅳ おわりに…………………………………………………… 23

(無断転載を禁ずる)

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

Ⅰ 序 文

 不整脈に対する薬物治療は,20世紀の終盤から大きな混乱期に突入した.その直接のきっかけはCASTである.それまで,治療の現場で最も広く用いられてきたNaチャネル遮断を主作用とする薬物(Vaughan Williams

分類のⅠ群薬)を心筋梗塞後の不整脈患者に使用すると,予想に反して生命予後が悪化することが大規模臨床試験の結果として報告された.これを契機として,不整脈の薬物治療を根本から見直そうとする試みが欧州心臓病学会と米国心臓病学会を中心に始まった.その中心となる活動のひとつがSicilian Gambitであり,従来の経験的な不整脈治療から,科学的な情報と知識に基づいた病態生理学的なアプローチへの脱皮を目指している.1996年からは,我が国でもSicilian Gambitの理念に基づいた新しい不整脈治療のあり方を検討する試みが始まり,日本心電学会と日本循環器学会が共同で作業を進め,2000年3月にCD-ROM版「抗不整脈薬選択のガイドライン」が発表された.日本循環器学会を中心とする合同研究班「不整脈薬物治療に関するガイドライン」は,この流れを受けついで発足したものであり,2004年に初版を発

 日本循環器学会合同研究班の「不整脈薬物治療に関するガイドライン」は,2004年に初版が発表された.このガイドラインは,科学的な情報と知識に基づいた病態生理学的なアプローチを目指すSicilian Gambitの概念を基盤としており,エビデンスを重視する欧米のガイドラインとは異なっている.近年,我が国でも独自のエビデンスを求める活動が本格的に始まった.その嚆矢は,心房細動に対する薬物治療の在り方を検証したJ-RHYTHM試験(2003~2005年)であり,その成果を活用して「心房細動治療(薬物)ガイドライン」の全面改訂が行われた(2008年発表).今回の2009年版は,部分改訂版であり,2004年版の基本骨格は変えずに,その後に発表された重要な学術情報をできるだけ多く盛

り込むようにした.ただし,心房細動に関しては,「心房細動治療(薬物)ガイドライン」最新版に合わせて,大幅に書き改めた.日本循環器学会から2004~2008年度に新たに発表された他の不整脈関連ガイドラインとの整合性にも留意した. 「不整脈薬物治療に関するガイドライン」は,今後,論理的な思考の利点と,エビデンスに基づく治療指針をバランス良く組み合わせたガイドラインへと進化させる必要がある.今回の改訂は,そのための第一歩であり,エビデンスに関しては,限られた章での導入にとどまっている.この点については次回の改訂の重要な課題としたい.

改訂にあたって

表した.今回の2009年版は,その部分改訂であり,初版以降に発表された重要な学術情報を踏まえて改訂を行った.

ガイドライン作成の基本方針1. Sicilian Gambitの概念を基盤とした2004年版「不

整脈薬物治療に関するガイドライン」の基本骨格を保ちつつ,それ以後に報告された臨床試験のエビデンスや,非薬物治療の進歩,基礎研究の進歩を踏まえて,現時点における最善の指針を作ることを目指した.

2. 本ガイドラインは科学的情報と知識に基づいた論理的な薬剤選択を重視して作成したため,大部分の章では手技・治療の有効性と有用性についての推奨クラス(クラスⅠ~Ⅲ)とエビデンスレベルが記載されていない.

3. このガイドラインは,薬物療法を積極的に奨めるものではなく,あくまで主治医が治療適応ありと判断した場合に,安全かつ有効な薬剤を選ぶ情報を提供することを企図したものである.

4. フローチャートに挙げた薬剤は,不整脈発生のメカニズムと薬物の薬理作用から,薬効が期待できることを優先した.このため一部,保険適用が認められていない薬物も含まれている.それらの薬物に関し

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

ては,そのつど明示するようつとめたが,最終的には添付文書を確認の上処方していただきたい.

5. はじめに,不整脈の種類ごとに成人を対象とした薬物選択の実際を記載し,小児の不整脈薬物治療ガイドラインに関しては独立した章として記載した.フローチャートの同一枠内における薬剤は我が国における発売順を重視して列挙した(優先順位ではない).ただし,キニジンとプロカインアミド(経口)については,我が国の使用実態を考慮し,下位に列挙するか,あるいは省略した.大規模臨床試験(J-RHYTHM)で我が国の使用実態が明らかになっている心房細動については,使用実態を重視した配列とした.

Ⅱ 総 論

1 Sicilian Gambitの意義

1 はじめに 欧米の心臓電気生理学領域の著名な研究者を集めて3年ごとに過去4回開催されたSicilian Gambit会議からの提言はCardiac Arrhythmia Suppression Trial(CAST)以後の抗不整脈薬療法を大きく変えた.第1回Sicilian

Gambit会議は1990年に開かれ,その基本概念として不整脈診療における従来の経験的アプローチを改め,より論理的かつ病態生理学的な抗不整脈薬療法を推奨した.すなわち,①「不整脈の機序」の決定,②治療に最も反応しうる電気生理学的指標である「受攻性因子」の同定,③治療の「標的」としての細胞膜レベルのチャネルや受

容体の決定を行い,最終的に,④この標的に作用する「薬剤」を抗不整脈薬一覧表から選択するという論理過程である.1996年の第3回Sicilian Gambit会議に,日本からも初めて委員(平岡昌和,小川聡)の参加が認められたことを契機に,我が国でもSicilian Gambitに基づいた独自のガイドライン作成を目的に財団法人日本心臓財団研究助成による「抗不整脈薬ガイドライン委員会・Sicilian Gambit日本部会」が組織され1996年4月から活動を開始した.この委員会は,我が国で使用可能なすべての薬剤について基礎的ならびに臨床電気生理学的作用,薬物動態,心血管系への作用,副作用等について独自に調査し,そのデータベースを基に適正な抗不整脈薬の使用を進めるための実践的ガイドライン作成を意図し,その研究成果として,2000年3月にCD-ROM版「抗不整脈薬選択のガイドライン」が発表された. Sicilian Gambitは不整脈の発生機序に基づく論理的薬剤使用を推奨するもので,エビデンスに基づいたガイドラインとは根本的に異なるが,不整脈診療における意義と有用性は証明されつつあり,今回のガイドライン改訂にあたっても,その根幹となる概念である.

2 Vaughan Williams分類とその問題点 Vaughan WilliamsとSinghが抗不整脈薬をその作用に基づいて4群に分類したのは1970年代前半である(表1).以来,Vaughan Williams分類として抗不整脈薬の分類法の標準として用いられてきた.この分類法は各種薬剤の薬理学的作用の特徴を簡潔に表現している点で優れており,多くの臨床家により利用されてきた.しかし,いくつかの問題点が指摘されている.第一には,各群の分類基準に整合性がない点で,Ⅰ群とⅣ群がイオンチャネル遮断作用,Ⅱ群がβ受容体遮断作用,Ⅲ群が活動電位に対する電気生理学的作用(持続時間の延長)に基づいている.第二は,複数の作用を併せ持つ薬剤をどこに分類

表1 Vaughan Williamsによる抗不整脈薬分類Ⅰ 群 薬 Ⅱ 群 薬 Ⅲ 群 薬 Ⅳ 群 薬

Ia キニジンプロカインアミドジソピラミドアジマリンシベンゾリンピルメノール

プロプラノロールナドロール

アミオダロンソタロールニフェカラント

ベラパミルジルチアゼムベプリジル

Ib リドカインメキシレチンアプリンジンフェニトイン

Ic プロパフェノンフレカイニドピルジカイニド

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

したらよいかという問題である.便宜上その薬剤の主たる作用で分類することになるが,実際にどの作用が抗不整脈的に働いているかを個々の例で立証することは難しい.

3 Sicilian Gambitによる抗不整脈薬の新しい分類枠組み

 Sicilian Gambitでは,スプレッドシート方式ですべての薬剤のチャネルや受容体への作用を詳細に記載している(表2).この表では,一番左の列に薬剤名が記載され,次いでチャネル,受容体,ポンプに対する作用を示す欄が並び,右半分には左室機能,洞調律への影響,心外性の副作用の有無,さらにはPQ,QRS,QT等の心電図上の指標に対する効果を示す欄が設けてある.Naチャネルに対する作用が一番左で,これをさらにNaチャネルへの結合解離動態の差から fast,intermediate,slowに分けている.この分類は薬効ならびに副作用(陰性変力作用,催不整脈作用)の判断材料となる.一般的には,解離の速い薬剤(fast kinetic drugs)は副作用が少ない代

わりに,切れ味が劣り,解離の遅い薬剤(slow kinetic

drugs)はその逆で,症例に応じた選択が可能となる.次いでCaチャネル,Kチャネルへの作用と続き,さらにペースメーカ電流(If)への作用を挙げているのが特徴である.受容体に対する作用では,Vaughan Williams

分類で挙げられていなかったα受容体,ムスカリン受容体,プリン受容体への作用も含まれている.最後にNa/

Kポンプへの作用を載せることにより,ジゴキシンをこの表に含めることができている.各作用の強弱は3段階に表示されている. このように,Sicilian Gambitが提案した薬剤一覧表にはVaughan Williams分類と比較して臨床的に有用な様々な情報が含まれているが,Kチャネルへの作用に関しては最近10年間の研究の進歩から各種Kチャネルサブタイプが明らかとなり,各々に対する選択性も考慮に入れた薬剤選択が推奨されてきている.

4 おわりに Sicilian Gambitの概念に基づく不整脈の論理的治療法

表2 Sicilian Gambitが提唱する薬剤分類枠組(日本版)(文献1より一部改変して引用)

薬   剤イオンチャンネル 受 容 体 ポンプ 臨床効果 心電図所見

NaCa K If α β M2 A1

Na-KATPase

左室機能 洞調律 心外性 PR QRS JT

Fast Med Slowリドカイン ◯ → → ● ↓メキシレチン ◯ → → ● ↓プロカインアミド Ⓐ ● ↓ → ● ↑ ↑ ↑ジソピラミド Ⓐ ● ◯ ↓ → ● ↑↓ ↑ ↑キニジン Ⓐ ● ◯ ◯ → ↑ ● ↑↓ ↑ ↑プロパフェノン Ⓐ ● ↓ ↓ ◯ ↑ ↑アプリンジン Ⓘ ◯ ◯ ◯ → → ● ↑ ↑ →シベンゾリン Ⓐ ◯ ● ◯ ↓ → ◯ ↑ ↑ →ピルメノール Ⓐ ● ◯ ↓ ↑ ◯ ↑ ↑ ↑→フレカイニド Ⓐ ◯ ↓ → ◯ ↑ ↑ピルジカイニド Ⓐ ↓ → ◯ ↑ ↑ベプリジル ◯ ● ● → ↓ ◯ ↑ベラパミル ◯ ● ● ↓ ↓ ◯ ↑ジルチアゼム ● ↓ ↓ ◯ ↑ソタロール ● ● ↓ ↓ ◯ ↑ ↑アミオダロン ◯ ◯ ● ● ● → ↓ ● ↑ ↑ニフェカラント ● → → ◯ ↑ナドロール ● ↓ ↓ ◯ ↑プロプラノロール ◯ ● ↓ ↓ ◯ ↑アトロピン ● → ↑ ● ↓ATP ■ ? ↓ ◯ ↑ジゴキシン ■ ● ↑ ↓ ● ↑ ↓

遮断作用の相対的強さ:○低 ●中等 ●高A=活性化チャネルブロッカー I=不活性化チャネルブロッカー

■=作動薬

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

は,基礎的な電気生理学の知識を要求されるなど難解な点も多いが,これに基づいた我が国のガイドラインが広く臨床家に利用されることが望まれる.そのためには,このガイドラインを利用して治療した際の有効率や副作用発生率の検討が必要である.心房細動を対象としたJ-RHYTHM試験は心房細動治療(薬物)ガイドライン(2001年版)に準拠した薬物使用を推奨したが,結果的に高い洞調律維持効果が証明された.この他,心房筋のリモデリングが進行しNaチャネル遮断薬が無効と考えられる持続性心房細動例を対象としたJ-BAF試験で,K

チャネル遮断作用の強いベプリジルの高い除細動効果が証明された点もSicilian Gambitの概念と一致している.今後多くのエビデンスの集積によって,Sicilian Gambit

の概念の臨床的意義が証明されることであろう.

2 我が国のエビデンス

 我が国の不整脈診療では,日本人を対象としたクリニカルエビデンスに乏しい点が問題とされてきたが,21世紀になりようやく我が国においても科学的な方法に基づいた臨床試験がなされるようになった.

1 J-RHYTHM試験 2)

①プロトコール

 欧米からの大規模臨床試験発信を受けて企画された大規模臨床試験であり,我が国の心房細動患者特性,我が国で利用可能な抗不整脈薬を用いた場合に,欧米と同様な結果が得られるかどうかを検証したものである.心房細動を発作性・持続性心房細動の診断別に登録し,無作為化により洞調律維持治療か心拍数調節治療に割り付け,いずれの群においても抗血栓療法,抗不整脈薬療法は,基本的に我が国のガイドラインに従うこととされた.一次エンドポイントは,死亡,脳梗塞,全身性塞栓症,入院を要する大出血,利尿剤静注を要する心不全,割り付けられた治療方針に対する患者忍容性である.患者の忍容性を一次エンドポイントに含めたこと,ならびに治療が盲検化されていないことは,解析結果に医師・患者間の情報バイアスがかかる可能性を否定できず,本試験の限界とも言える.

②試験の主要結果

 1,065例(発作性心房細動885例,持続性心房細動180例)が登録され,発作性823例,持続性163例の計986例が解析対象となった.ただし,持続性心房細動につい

ては,目標症例数を大幅に下回ったためその結果は参考程度に留めるべきである.発作性心房細動の患者背景としては,平均年齢約65歳,男性が約70%を占め,基礎心疾患を持つものは20%以下,高血圧合併は約42%であった.洞調律維持治療群では試験登録時に,発作性で約90%,持続性で約80%の患者でⅠ群薬が用いられていた.一方で,心拍数調節治療群では,発作性心房細動でβ遮断薬が約50%用いられていた. 発作性心房細動における平均経過観察期間は578日で,死亡,塞栓症,大出血,心不全入院,患者による忍容性(割り付けられた治療方針でのQOL低下)という複合エンドポイント評価では,洞調律維持治療群でのevent-free survivalが心拍数調節治療群に比べ有意に良好であった(p=0.0073,図1A).しかし,死亡・塞栓症・大出血・心不全入院の発生頻度に両群の差はなかった(図1B左).唯一,患者の忍容性に基づく治療継続率が洞調律維持治療群で心拍数調節治療群より良好であった(図1B右).持続性心房細動の結果は,症例数が不十分であるものの,欧米の試験結果と同様死亡・塞栓症・大出血・心不全入院の発生率に関して心拍数調節治療群が良好な傾向を示したばかりでなく,患者の忍容性においても心拍数調節治療群が良好な治療継続率を示す傾向を示した.

2 J-BAF試験 3)

①プロトコール

 J-BAF試験は我が国で経験的に用いられているベプリジルの効果を科学的に検証した臨床試験である.持続1週間以上1年未満の持続性心房細動を有し,左房系が50mm以内,左室駆出率が40%以上の患者を対象とし,無作為二重盲検法により,プラセボ群,ベプリジル100mg群,200mg群の3群に振り分け,12週間にわたる継続投与および毎日および症状時の携帯型心電計による記録が行われた.本試験の主要評価項目は持続性心房細動の停止率であった.

②試験の主要結果

 解析対象となった患者は90例であり(プラセボ群:29例,100mg群:32例,200mg群:29例),平均年齢は約63歳,男性が80%を占めた.本試験の主要評価項目である持続性心房細動の停止率には明瞭な用量反応関係を認めた.100mg投与により患者の約40%,200mg

投与により約70%で持続性心房細動が洞調律に復した.心房細動停止に至る時間経過は,全例でほぼ6週間以内

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

であった.しかし,洞調律復帰後の心房細動再発率は比較的高く,心房細動の再発を認めなかった症例は,100mg群で8%,200mg群で21%に留まった.薬物投与の中止は200mg群で29例中7例と多く,著明なQT延長(4例)ならびに心室頻拍による突然死(1例)を含んでいる.このことから,本試験はベプリジルの臨床有用性を十分に示したとは言えず,むしろその使用に慎重な態度が必要であることを喚起している.

3 フレカイニドを用いた二重盲検試験 4)

①プロトコール

 本試験は欧米で心房細動治療に対して用いられているフレカイニドの日本人における効果ならびに用量反応関係を検証した試験である.少なくとも心電図で確認された発作性心房細動・粗動が2回以上ある患者を対象とし,携帯型心電計による心房細動発作の記録後,無作為化二重盲検法により,プラセボ群,フレカイニド50mg群,100mg群,200mg群に振り分けられ,4週間の薬物投与

洞調律維持治療心拍数調節治療log-rank test p=0.0128

洞調律維持治療心拍数調節治療

死亡・塞栓症・大出血・心不全 患者の忍容性

洞調律維持治療心拍数調節治療

洞調律維持治療心拍数調節治療

(日)

(日) (日)

log-rank test p=0.0142log-rank test p=0.2568

Even

t-fre

e Su

rviv

al

Even

t-fre

e Su

rviv

al

Even

t-fre

e Su

rviv

al

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

00 200 400 600 800 1,000 1,200

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

00 200 400 600 800 1,000 1,200

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

00 200 400 600 800 1,000 1,200

419404

341310

205182

9279

No. at risk

B

A図1 J-RHYTHM試験の主要結果

A:複合エンドポイントにおけるevent-free survival curve.B:左:死亡・塞栓症・大出血・心不全入院におけるevent-free survival curve. 右:患者の忍容性におけるevent-free survival curve.

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

を受けた.携帯型心電計は,毎日および症状発現時に継続して記録された.主要評価項目は症候性心房細動・粗動無再発率であった.

②試験の主要結果

 解析対象となった患者は123例であり(プラセボ群:32例,50mg群:26例,100mg群:32例,200mg群:33例),その平均年齢は約59歳,男性が約80%を占めた.本試験の主要評価項目である症候性心房細動・粗動無再発率は明瞭な用量反応関係を認め,この結果は欧米において報告された結果とほぼ同等であった.症候性心房細動・粗動再発までの時間においても用量反応関係を認め,100mgを超える投与群はプラセボ群に比べ有意に延長していた.なお,治療期間中の死亡,催不整脈作用による心室性不整脈は全例で認められなかったが,試験の解析症例数が少なく,本試験のみから安全性が十分確立されたとは言えない.

3 薬剤選択に影響を及ぼす病態―心機能,腎機能,肝機能,妊娠―

 心機能低下例や,肝あるいは腎機能低下例,または妊娠中の症例に対して抗不整脈薬治療を行う際には,不整脈の治療適応を厳しくすべきで,自覚症状が著しく強いか,血行動態に悪影響を及ぼす頻脈性不整脈が治療の対象となる.

1 心機能低下例における抗不整脈薬の選択

 抗不整脈薬の種類により心機能への影響が異なり,一般に slow kineticsのNaチャネル遮断作用をもつ抗不整脈薬は心機能抑制が強い.心機能低下例に抗不整脈薬治療を行う際には,fast kineticsのNaチャネル遮断薬かK

チャネル遮断薬を選択する.心筋梗塞後で心機能が低下している患者では,Naチャネル遮断薬は予後を悪化させ,Caチャネル遮断薬も有用性が認められず,β遮断薬とKチャネル遮断薬は予後を改善する可能性が示唆されている.このような観点から心機能低下例には心機能抑制の少ないリドカイン,メキシレチン,アプリンジン,アミオダロン,ベプリジル,ニフェカラント,あるいはβ遮断作用をもつソタロールが選択できる.ただし,ベプリジルはその催不整脈作用から,またソタロールはその陰性変力作用から,それぞれ「うっ血性心不全」,「重篤なうっ血性心不全」への投与は禁忌とされている.

2 腎機能障害の指標と投与量の目安 腎障害のある例では肝代謝の抗不整脈薬を使用する.しかし,腎排泄の抗不整脈薬しか有効でない症例では腎機能障害の程度によって投与量と投与間隔を調節する.クレアチニンクリアランス(Ccr)がおおよそ50mL/min

以上あるいは血清クレアチニン値(Scr)が1.3mg/dL以下であれば常用量を投与してもよく,Ccrが50~20mL/

minの間あるいはScrが1.3~2.0mg/dLであれば中等度腎機能障害として通常投与量の2/3~1/2量を投与するか,投与間隔を少しあけて投与する.Ccrが20mL/min

以下あるいはScrが2.0mg/dL以上であれば高度腎機能障害として常用量の1/3量以下を注意深く投与するか,隔日に投与する.血液透析例では,透析で除去されない抗不整脈薬であれば,少量にして投与間隔をあけて投与し,透析である程度除去されてしまう抗不整脈薬では,透析と不整脈の出現しやすい時間との兼ね合いで投与量と投与間隔を調節する.血液透析では使用されるダイアライザーの種類により除去率は異なるので,随時抗不整脈薬の血中濃度を測定して投与量を調節する.

3 肝機能障害の指標と投与量の目安 肝機能障害のある症例では腎排泄の抗不整脈薬を選択する.肝代謝の抗不整脈薬を使用する場合の肝代謝能力の指標として,血清アルブミン,ビリルビン値,プロトロンビン値を参考にする.肝機能障害があるときにはアプリンジン,アミオダロンなどの肝機能障害が生じやすい抗不整脈薬は特別の配慮を要する.肝代謝の抗不整脈薬を使用しなければならないときには血清ビリルビン値を指標にして投与量を慎重に調節する.ビリルビン値が1~2mg/dLの軽度肝機能障害では,通常量の2/3量から抗不整脈薬を投与する.ビリルビン値が2~3mg/dLの中等度肝機能障害では,通常投与量の1/2~1/3にする.ビリルビン値が3mg/dLより高値の高度肝機能障害では,一般に抗不整脈薬の投与は禁忌で,生命の危険があるか,血行動態を著しく障害する頻脈性不整脈があるときには,カテーテルアブレーションなどの非薬物療法を選択すべきである.

4 妊婦に対する不整脈治療 すべての抗不整脈薬は妊婦と胎児に対して毒性を持つと考えられるので,可能ならば薬物治療を避けるべきで,不整脈を助長する生活習慣の改善を優先させる.米国FDAの薬剤安全性に関する分類で,妊婦へのリスクが報告されていないのはリドカインと一部のβ遮断薬,ソ

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タロールである.フレカイニド,ベプリジル,ベラパミル,ジルチアゼム,ニフェカラントは禁忌である.妊娠後期には抗不整脈薬の使用も可能となる.

Ⅲ 各 論

1 上室期外収縮

1 定 義 心房(肺静脈,上大静脈および冠状静脈洞を含む),および房室接合部を起源とし,リエントリー,トリガードアクティビティ,異常自動能等による早期収縮を上室期外収縮と呼ぶ.

2 病態・臨床的意義 基礎疾患,誘因がある場合は,その治療および誘因の除去が優先される.基礎心疾患のない単発性の上室期外収縮は臨床的意義に乏しいが,自覚症状が非常に強い場合や,血行動態や心機能に悪影響がある場合,発作性心房細動 /粗動のトリガーとなる場合は治療の対象となる.

3 薬物治療の実際 虚血が関与している可能性や心筋梗塞の既往がある場合は,解離速度の遅いNaチャネル遮断薬(slow kinetic

drug)の使用は避ける.基礎心疾患がなく自覚症状が強い症例では,第一選択薬としてβ遮断薬が,第二選択薬としてジソピラミド,シベンゾリン,ピルジカイニドなどのslow kinetic drugが,第三選択薬としてプロパフェノンやアプリンジンなどの intermediate kinetic drugが推奨される.基礎心疾患のある場合は自覚症状の有無にかかわらず薬物治療を考慮する(特に発作性心房細動 /粗動を合併している場合).心機能が正常で,かつ虚血関与の可能や心筋梗塞の既往が無い場合,第一選択はβ遮断薬,第二選択はslow kinetic drug,第三選択が intermediate

kinetic drugとなる.軽度の心機能低下がある場合もβ遮断薬が第一選択となるが,第二選択は intermediate

kinetic drugであり,slow kinetic drugは第三選択である.心機能が正常~軽度低下であっても,虚血関与の可能性や心筋梗塞の既往がある場合は,第一選択薬はβ遮断薬で,第二選択薬は intermediate kinetic drugとなる.心機能が中等度以上低下している場合には,心不全および心

機能低下に対するアップストリーム治療を優先する.心筋保護の観点からβ遮断薬,ACE阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の使用を考慮する.

2 心房細動

1 定 義 心房細動は一過性で終わるものから慢性進行性疾患と認識すべきものまで様々な臨床像を呈する.その自然歴は加齢,基礎疾患の有無,医療行為の介入により修飾を受ける.基礎疾患としては弁膜疾患,高血圧,冠動脈疾患,心不全,心筋症,呼吸器疾患,甲状腺機能亢進症など多岐にわたる.治療対象となるのがどのようなタイプの心房細動であるかを意識することは重要で,本稿では以下のように定義する.・ 非弁膜症性心房細動:リウマチ性僧帽弁疾患,

人工弁および僧帽弁修復術の既往を有さない心房細動

・ 孤立性心房細動:60歳未満で臨床所見と心エコー所見で高血圧を含めて心肺疾患の全くない状態

・ 初発心房細動:はじめて心電図上心房細動が確認されたもの.心房細動の持続時間を問わない.

・ 発作性心房細動:発症後7日以内に洞調律に復したもの

・ 持続性心房細動:発症後7日を超えて心房細動が持続しているもの

・ 永続性心房細動:電気的あるいは薬理学的に除細動不能のもの

2 薬物治療の実際

①抗血栓療法

 非弁膜症性心房細動では,それが発作性であるか持続性,あるいは永続性であるかによってではなく,個々の症例ごとの脳梗塞のリスク評価を行った上で適切な抗血栓療法を選択することが奨励されている.その判断基準にCHADS2スコアが提唱され,積極的に活用されている.これはCongestive heart failure,Hypertension,Age≧75歳,Diabetes Mellitus,Stroke/TIAの頭文字をとって命名されたスコアで,前4つの項目には1点を,脳梗塞発症リスクの高いStroke/TIAの既往には2点を付与し,合算して算出する.点数が高いほど脳梗塞発症のリスクが高くなる.本ガイドラインでも非弁膜症性心房細動にお

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

けるリスク評価にCHADS2スコアを取り入れ(図2),TIAや脳梗塞の既往がある例ではそれだけでワルファリン療法の適応ありとしたほか,図2右から2番目の欄に含まれる項目の中2つ以上のリスクに該当する場合は,ワルファリン療法を勧め,1つの場合は,同療法を考慮してよいとした.リスクの程度が十分検討されていない図2右端の欄に示された5つの項目に関しては,該当する場合は,同療法を考慮してもよい. ワルファリン療法を行う場合は,従前通り INR2.0~3.0でのコントロールが推奨される(クラスⅠ,エビデンスレベルA).また70歳以上の症例では INR1.6~2.6でのコントロールが勧められる(クラスⅡa,エビデンスレベルC).なお抜歯に際しては,至適治療域に INR

をコントロールした上であれば,ワルファリン内服継続下で行うことが勧められている(クラスⅡa,エビデンスレベルB). 抗血小板療法については,Japan Atrial Fibrillation

Stroke Trial(JAST研究)の結果,心房細動の抗血栓療法としての意義が疑問視されるようになった.この試験では,アスピリンを低リスク心房細動症例に投与しても非投与群に優る脳梗塞予防効果を示すことができず,むしろ重篤な出血性合併症を増やす結果が示された. 一方,48時間以上続く,あるいは持続時間不明の心房細動に対する除細動に伴う血栓塞栓合併の危険性が指

摘されている.このリスクはCHADS2スコアが低くても存在すると考えられており,ワルファリン療法で最低3週間,PT-INRを2.0~3.0に保った後に除細動を試みるか(クラスⅠ,エビデンスレベルB),さもなければ直前に経食道心エコー法によって左心耳内血栓の有無を確認するアプローチが勧められている(クラスⅡa,エビデンスレベルB).除細動後にはさらに最低4週間のワルファリンを継続するが(クラスⅠ,エビデンスレベルB),その後にも無症候性心房細動発作の再発を生じることがあり,安易に中止することは危険である.

②心拍数調節のための薬剤

 我が国で行われた大規模試験J-RHYTHMは,安静時心拍数60~80/分を目標にした心拍数調節治療と,洞調律維持を目指した洞調律維持治療の2つの治療法の優劣を,発作性心房細動と持続性心房細動の2種類の患者群別に,死亡,症候性脳梗塞,全身性塞栓症,大出血,心不全による入院,被験者の基本的治療法に対する忍容性の限界を複合エンドポイントとして比較したものである.その結果,持続性心房細動においては,両者のアプローチの間に有意差を認めなかったものの,心拍数調節治療によってこれらイベントがより回避される傾向が示された(p=0.08). 心房細動例における心拍数調節のための攻撃目標は房室結節にあり,薬剤としてはCaチャネル遮断薬のほか,β遮断薬やジギタリスなどが有効である.一般にジギタリスは副交感神経系の活性時に効果を発揮するため,活動時の徐拍作用は弱い.そのため心機能良好な例の心拍数調節ではジギタリスよりもβ遮断薬やCaチャネル遮断薬の投与を優先し(クラスⅠ,エビデンスレベルB),ジギタリスはβ遮断薬やCaチャネル遮断薬だけでは不十分な際に補強する形で併用する(クラスⅡa,エビデンスレベルB).急速に徐拍化させる必要がある場合には静注薬が使用される.Caチャネル遮断薬のベラパミル5~10mgを2分間かけて静注するか,ジルチアゼム0.25mg/kgを2分間かけて静注する.β遮断薬の静注は日本ではプロプラノロールが使用されることが多く,その場合には総量0.15mg/kgを2mgずつ,間欠的に静注する.心不全を合併している例や心機能の低下した例にはジゴキシンの静注が用いられることが多いが,その場合には0.25mgを2時間ごとに目標心拍数に達するか総量1mgまで静注する.慢性期の心不全例でジゴキシンのみでは徐拍化が不十分な場合には,ジゴキシンに少量のβ遮断薬を注意深く追加することにより,より良好な心拍数調節が得られることも多い.

図2 心房細動における抗凝固療法

僧帽弁狭窄症もしくは機械弁

TIAや脳梗塞の既往

非弁膜性心房細動

ワルファリンINR2.0~3.0

ワルファリン70歳未満 INR2.0~3.070歳以上 INR1.6~2.6

リスク≧2個 リスク =1個

年齢≧75歳高血圧心不全

%FS<25%糖尿病

心筋症65≦年齢≦74

女性冠動脈疾患もしくは甲状腺中毒

実線は推奨,破線は考慮可を指す.心房粗動や発作性心房細動例でも同様に治療する.単独の抗血小板療法はワルファリン禁忌時に考慮しても良い.ワルファリン療法への抗血小板薬の追加は以下の場合に考慮しても良い.①INR2.0~3.0でのコントロール中に血栓・塞栓症を発症した場合.②非塞栓性脳梗塞やTIA(一過性脳虚血発作)の既往があり抗血小板薬が必要な場合.③虚血性心疾患を合併している場合.④ステント療法後.

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 特殊な場合としてWPW症候群では,Naチャネル遮断薬やKチャネル遮断薬による副伝導路の伝導抑制が心拍数調節につながる.静注薬としてはピルジカイニド,シベンゾリン,ジソピラミド,フレカイニドなどに加えプロカインアミドも使用できるが,いずれも徐拍化にとどまらず除細動効果を発揮する可能性もある.最終的には高周波カテーテルアブレーションにより副伝導路を遮断することが望ましい.

③洞調律維持のための薬剤

1)孤立性心房細動の洞調律維持①発作性心房細動 発作後短時間で自然停止する心房細動や,初発の発作性心房細動に対しては必ずしも薬剤治療を施す必要はない.しかし比較的強い症状を伴う心房細動発作を繰り返す例に対しては,薬剤による洞調律維持が重要となる.とくにJ-RHYTHMにおいて,発作性心房細動例に対しては洞調律維持治療の方が心拍数調節治療よりも有意に優れていたが,その主たる原因は忍容性の改善であった. 孤立性発作性心房細動に対してはトリガーと基質の両方に対して抗不整脈効果を発揮するNaチャネル遮断薬,それもチャネルからの解離が遅い slow kinetic薬の効果が高い(クラスⅠ).また迷走神経の活性化に伴う夜間や食後の心房細動には,M2受容体拮抗作用のある薬剤が奏功することもある.本ガイドラインでは孤立性の発作性心房細動に対する第一選択薬として,ピルジカイニド,シベンゾリン,プロパフェノン,ジソピラミド,フレカイニドを掲げた(図3).直ちに停止をもくろむ場合には静注が相応しいが,単回経口投与法(pill-in-the-

pocket)が奏功することもある.後者の方法は自宅ある

いは外出先で発作が出現した際に,患者本人が通常1日量の1/2~2/3を単回で内服して発作を止めようとするものである.この方法を採用する場合には,経口後6時間以内に催不整脈作用などの副作用なしに停止することを最初だけでも監視下で確認しておくことが望まれる.再発予防には停止薬と同様の薬剤を経口で投与するやり方が一般的であるが,患者の年齢,腎機能や肝機能などを考慮して薬剤やその投与量を加減する必要がある.またNaチャネル遮断薬の投与に際しては,それによって心房細動を心房粗動に移行させたり,洞結節機能不全による洞停止を助長したり,Brugada症候群ではST上昇を増強して,ときに致死性不整脈を誘発する危険性のあることを留意すべきである.②持続性心房細動 心房細動が1週間以上持続した例で,リモデリングが進行した心房筋では,抗不整脈薬による除細動が困難になる.比較的早期では発作性心房細動に使用する薬剤をそのまま試すことができるが,より長期の持続例での効果は期待できず,むしろ心拍数調節治療によってQOL

が確保されることが多い(クラスⅠ).もし洞調律維持を追求するのであれば電気ショックが必要となることが多い.またベプリジル(アプリンジン併用可)や,保険適用外ではあるがソタロール,アミオダロン(経口)などによる薬理学的除細動の有効性も報告されている(クラスⅡa)(図3).ベプリジルは通常100mgから投与を始め,QTに注意しながら可能ならば200mgまで増量する.無効の際にはアプリンジンの追加が奏功することがある(クラスⅡb).ソタロールも80mgから開始し,同様に160mg~320mgまで増量可能である.いずれの薬剤も分2で投与するのが一般的である.アミオダロンを

ピルジカイニドシベンゾリンプロパフェノンジソピラミドフレカイニド

肺静脈隔離術

心拍数調節洞調律維持を追求するのであれば

第一選択持続が比較的短い場合第二,第三選択

房室結節アブレーション

+心室ペーシング

発作性

持続性

孤立性 電気的除細動

*保険適用外

ベプリジル ± アプリンジンソタロール*

アミオダロン(経口)*

図3 孤立性心房細動に対する治療戦略

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使用する場合には400mgから開始し,2週間後から200mgに減量するのが一般的であるが,有効な場合にはさらに100mgまで減量することもある.2)器質的心疾患を有する心房細動の洞調律維持 肥大心,不全心,虚血心といった背景が存在する場合には,一旦,心房細動が発生すると,たちまち病態が悪化するため,緊急に停止を試みるには電気ショックが用いられる(クラスⅠ).しかしながらその再発防止は困難であるのみならず,これら基礎疾患の存在下には抗不整脈薬による危険な心室性催不整脈作用や,陰性変力作用を示しやすい点も問題となる.基礎疾患のある例では,まずその原因を改善する治療(upstream approach)が施されるべきであり,虚血心では虚血の改善が最優先され,肥大心や不全心ではACE阻害薬やARB,あるいはβ遮断薬などの使用がまず検討されなければならない(図4).次には副作用の少ない薬剤を利用した心拍数調節治療が勧められるが,特に発作性心房細動を呈し,症状が強い場合には,抗不整脈薬による洞調律維持を追求せざるを得ない場面もあり,アプリンジン,ベプリジル,ソタロール,アミオダロンなどが候補となりうる(図4).ただし,ベプリジルはその催不整脈作用から,またソタロールはその陰性変力作用から,それぞれ「うっ血性心不全」,「重篤なうっ血性心不全」への投与は禁忌とされている.ベプリジルにはQT延長から torsade de pointes

(TdP)をもたらす副作用が少なからずあることが報告されており,心電図上のQT間隔を頻回にモニターし,慎重に投与する必要がある.

3 非薬物治療の適応 高周波カテーテルアブレーションによる肺静脈隔離術は近年,その有効性や安全性が高まりつつあるが,現段階ではクラスⅠの適応はなく,有症状かQOL低下を伴

う発作性心房細動で,薬物治療抵抗性(2剤以上)か,あるいは副作用のため薬物が使用不能な例がクラスⅡa

の適応となる.できれば左房径が45mm以下で,左房内に血栓がない75歳以下の例が望ましい.また特殊な例としてパイロットなど職業上制限となる場合もクラスⅡaとする.一方,慢性心房細動に関する肺静脈隔離アブレーションについては十分なコンセンサスが得られているとはいえず,有症状かQOL低下を伴い,薬物治療抵抗性または副作用のため薬物が使用不能な例がクラスⅡbの適応となる.薬物治療が有効な心房細動や,QOL

の著しい低下を伴わない心房細動はクラスⅢと位置づけられる.このほか,心拍数調節が薬理学的に困難な例に対して房室接合部アブレーションを加え,心室ペーシングを行うアプローチも有効であるが,侵襲度が高いことから,症状が顕著であるか心不全症状が増悪している場合に一つの選択肢として考慮される.

3 心房粗動

1 定義 心房拍数が240~440/分の規則正しい頻拍で,340/分以下のType 1粗動と,340/分以上のType 2粗動に分類される.Type 1粗動の多くは下大静脈と三尖弁輪間の解剖学的峡部を含む三尖弁輪を興奮が周回する右房内リエントリーを機序とするため,峡部依存性心房粗動とも呼ばれる.Type 1粗動は下壁誘導で陰性鋸歯状の粗動波を呈する通常型粗動と,通常型以外の粗動波の非通常型粗動に分類されるが,通常型では興奮は三尖弁輪を反時計方向に旋回し,非通常型では時計方向に旋回することが多い.非通常型粗動には右房自由壁や左房内リエントリーを機序とするものも認められる.Type 2粗動は心房細

*保険適用外(ただし肥大型心筋症に対する経口アミオダロンは適用あり)

第一選択第二,第三選択

電気的除細動

心拍数調節洞調律維持を追求するのであれば

アプリンジンベプリジルソタロール*(不全心除く)アミオダロン(経口)*

肺静脈隔離術

房室結節アブレーション

+心室ペーシング±再同期療法

アップストリーム治療

肥大心・不全心・虚血心

図4 器質的心疾患に伴う心房細動に対する治療戦略

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動に近い頻拍で,機序は個々の例で異なる.開心術の既往を有する患者に見られる心房粗動は,峡部依存性心房粗動のこともあれば,右房壁の切開創,瘢痕組織を周回するリエントリー性頻拍のこともある.

2 病態・臨床的意義 心房粗動の症候は房室伝導に依存する.2:1伝導を示すと心室拍数は約150/分となり,動悸や呼吸困難などを来たすが,1:1伝導を示すと心室拍数が300/分にも達し,失神など危険な状態に陥る.4:1伝導で心室拍数が100/分以下になると無症候の場合が多い.発症年齢は60歳以上に多く,基礎心疾患や開心術の既往を有する例も多いが,孤立性の場合も少なくない.心房細動に対するⅠ群抗不整脈薬,特にⅠc群薬投与後に粗動が出現することもある.心房細動の約1/3の頻度で血栓塞栓症を合併する(後述).

3 薬物治療の実際 頻脈かどうか,血行動態は安定しているか,合併する疾患は何か,血栓塞栓症のリスクはどうか,を考慮して治療方針を決定する(図5).

①血行動態が不安定な場合

 心不全やショック,あるいは急性心筋梗塞に合併した場合などではDCショックにより速やかに停止させる.静脈麻酔後,心電図R波に同期させて50Jで通電する.

②血行動態が安定している場合

 心室拍数が100/分以上の場合は,まず房室結節抑制薬(β遮断薬,ジゴキシン,ベラパミル,ジルチアゼム)

を投与し,99/分以下の場合は,抗不整脈薬,DCショック,ペーシングにより洞調律に復帰させる.発症後48時間以上経過している場合は心房細動と同様に抗凝固療法を行う.

③洞調律復帰のための治療

 不応期延長を目的とし,中等度以上のKチャネル遮断作用を有する薬剤〔ニフェカラント(保険適用外),プロカインアミド〕を投与する.第二選択薬としては,緩徐伝導の抑制を目的とし,解離速度の遅いNaチャネル遮断薬(ジソピラミド,シベンゾリン,ピルジカイニド,フレカイニド)を投与する.薬剤投与後に粗動周期の延長などにより心室レートが増加する可能性があるため,房室結節抑制薬を併用する.薬剤が無効な場合は,DC

ショックかペーシングにより停止させる.ペーシング療法においても,抗不整脈薬を前投与すると粗動が停止しやすくなる.

④再発予防のための治療

 心機能に応じて薬剤を選択する.心機能正常例および軽度低下例では,Kチャネル遮断作用が中等度以上で,かつ房室結節伝導を抑制する薬剤〔ベプリジル,ソタロール(ともに保険適用外)〕を投与する.第二選択薬としては,緩徐伝導を抑制し,期外収縮を抑制する目的でNaチャネル遮断薬(ジソピラミド,プロパフェノン,シベンゾリン,アプリンジン,ピルジカイニド,フレカイニド)を投与する.この場合も房室結節抑制薬との併用が必要である.心機能が中等度以上低下している例にはジゴキシンを投与する.これと併用する形で心機能抑制作用が弱いプロカインアミドやキニジンが第二選択となる.峡部依存性心房粗動はカテーテルアブレーションにより根治可能である.成功率は90%以上で,合併症もほとんど認められないため,現在は第一選択の治療法となっている.

⑤WPW症候群に伴う心房粗動

 心室拍数が過度に速くなるため,緊急の治療を要する.心室拍数調節目的でβ遮断薬を投与する.ジゴキシンやベラパミルは禁忌である.WPW症候群も峡部依存性心房粗動もカテーテルアブレーションにより根治可能である.

⑥抗凝固療法の適応

 血栓塞栓症のリスクは1.7~7.0%とされ(心房細動の約1/3),特に48時間以上持続した粗動で高い.心房粗

血行動態不安定

血行動態安定

DCショック

心室拍数調節(房室結節抑制薬)

再発予防治療が必要な場合

洞調律への復帰・DCショック・心房ペーシング・抗不整脈薬

抗不整脈薬 カテーテルアブレーション

(心不全,ショック,急性心筋梗塞)

洞調律へ復帰させる場合は抗凝固療法の要否を考慮する

心房粗動

図5 心房粗動治療の進め方(文献5より引用)

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

動に対するDCショック後の血栓塞栓症の発生頻度は,十分な抗凝固療法を受けていない場合,2.2%と報告されている.血栓塞栓症のリスクに関しては,単変量解析では高血圧,器質的心疾患,左室駆出率低下,糖尿病が有意な危険因子で,多変量解析では高血圧が独立した危険因子とされている.心房細動と同様のリスクを有する持続性心房粗動,再発性心房粗動に対してはワルファリン療法を行う.心房粗動を停止させる場合,48時間以上持続していればワルファリンを3週間以上投与し,停止後も4週間継続する.

4 発作性上室頻拍

1 定 義 発作性上室頻拍は,頻拍発作の維持に心房が不可欠なものの総称で,房室結節リエントリー,房室回帰,心房内リエントリー,洞房結節リエントリー,異所性自動能亢進が機序となる.

2 病態・臨床的意義 発作性上室頻拍では心拍数が150~200/分となり,動悸,胸部不快感などの症状を生じる.発作時,一般的に血圧は低下するが,ときに血行動態の悪化(収縮期血圧≦80 mmHg,肺水腫など)や狭心症発作などを引き起こし,緊急的な対策が必要となる.

3 薬物治療の実際 ほとんどの発作性上室頻拍はカテーテルアブレーションで根治できるので,薬物治療の意義は発作の停止にほぼ限られる.アブレーション不成功例やアブレーションを希望しない例では,抗不整脈薬で発作を予防する.

①発作の停止

1)緊急的な停止を要する場合 発作の停止を急ぐ場合には,DCショックや高頻度ペーシングを行う.2)緊急的な停止を要しない場合 緊急的な発作停止が必要ない場合には,迷走神経反射や抗不整脈薬による停止を試みる.①迷走神経反射 反射性の迷走神経緊張[息こらえ(Valsalva手技),顔面を冷水に浸す(顔面浸水),嘔吐反射,深呼吸など]が有効なことがあるが,有効率は高くはない.

②抗不整脈薬静注 ATP(10 mgを1~2秒で.ただし保険適用外)あるいはCaチャネル遮断薬(ベラパミル5 mg,ジルチアゼム10 mg,いずれも5分間前後で)静注により90%以上の例で発作を停止できる.Naチャネル遮断薬の効果はそれほど高くはない(40~60%).③抗不整脈薬単回経口投与(Pill in the pocket) 発作頻度が低く,発作時の血行動態は安定しているが自覚症状の強い例では,発作時に患者自らがベラパミル,β遮断薬などを頓服し,発作の停止を試みることが可能である.あらかじめ有効性と安全性を確認しておく. 薬物治療にもかかわらず発作が停止しない場合にはDCショックあるいは高頻度ペーシングにより停止する.

②慢性期の治療(発作再発の予防)

 発作頻度が低く,短時間で停止して自覚症状が軽微な例では発作間欠期の治療は必要ない.積極的な再発予防が必要でない例を除き,アブレーションを勧める.アブレーションを希望しない例や不成功例では以下の方針で抗不整脈薬を選択する.1)心機能が中等度以上低下している場合 陰性変力作用の少ないNaチャネル遮断薬を第一選択とする.房室結節リエントリー性頻拍ではジゴキシンを第一選択とする.2)心機能が正常~軽度低下の場合 房室結節リエントリー性頻拍にはβ遮断薬,Caチャネル遮断薬(ベラパミル,ジルチアゼム),ジゴキシンを第一選択薬とする.WPW症候群(顕在性)ではKチャネル遮断作用のある薬剤を第一選択薬とする.

5 心室期外収縮

1 定 義 心室に起源を有し,リエントリー,トリガードアクティビティ,異所性自動能亢進などを機序とする早期収縮を心室期外収縮と定義する.ここでは,心室期外収縮が3連発以上6連発程度までの単形性心室頻拍で,頻拍中の心拍数が極端に多くなくQRSの変形を伴わない場合を単形性非持続性心室頻拍と定義し,心室期外収縮と同じストラテジーで対処することとした.

2 病態・臨床的意義 自覚症状の強さ,基礎心疾患の有無,種類,重症度,

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

時期などによって治療適応,考えられる発生機序,それに基づく治療法が異なる.重篤な基礎心疾患がなく,期外収縮に伴う自覚症状が軽度で患者がそれを容認できる場合には,敢えて抗不整脈薬による薬物治療を行わず,生活習慣の改善や軽い精神安定剤のみで様子を見てよい.一方,薬物治療に抵抗し自覚症状が強くQOLが著しく低下する場合や,患者が非薬物治療による根治を強く希望する場合には,カテーテルアブレーション治療も有力な選択肢の一つである. 薬物治療に際して,Sicilian Gambitの概念を当てはめて病態生理学的にかつ理論的に治療法を選択するには,発生機序を明確にする必要がある.しかし,発生機序を特定するのが困難で,経験的な治療法選択に頼らざるを得ないことも多い.

3 薬物治療の実際

① 特発性心室期外収縮・特発性単形性非持続性心室頻拍(図6)

 基礎心疾患がない例における心室期外収縮・単形性非

持続性心室頻拍は,特発性で一般に予後はよいと考えられている.したがって,自覚症状がないか軽度の場合はあえて薬物投与を行う必要はない.むしろ,睡眠不足や喫煙など不整脈を悪化させる生活習慣の改善を指導すべきである.動悸などの症状が中等度または高度の場合,不整脈の存在によってQOLが低下し患者が薬物による治療を望む場合には,以下の手順に従って用いる薬剤を選択する.1)右脚ブロック・左軸偏位(RBBB+LAD)型QRS波

形の場合 発生機序は左脚後枝領域のCa電流依存性組織におけるリエントリーと考えられる.病態生理学的に考えれば,受攻性因子はCa電流依存性組織における伝導性であり,治療の標的分子はCaチャネルということになる.したがって,第一選択薬としてCaチャネル遮断を主作用とするベラパミル,ジルチアゼム,ベプリジルが挙げられる.第二選択薬としてCa電流を抑制するβ遮断薬が用いられる.これらが無効の場合には経験的にNaチャネル遮断薬が用いられるが,病態生理学的理論に基づく選択ではない.

不整脈に伴う症状なし~軽度 あり

生活習慣の改善 期外収縮波形

RBBB + LAD型 LBBB + RAD型 その他の波形

交感神経緊張(運動,活動,興奮)

関係なしまたは不明 関係あり

*保険適用外

〈第一選択〉Caチャネル遮断を主作用とする薬剤ベラパミル*

ジルチアゼム*

ベプリジル

〈第二選択〉β遮断薬

〈第三選択〉Naチャネル遮断薬

(slow)ジソピラミドシベンゾリンピルジカイニドフレカイニドピルメノール

Naチャネル遮断薬(intermediate-fast)メキシレチンアプリンジンプロパフェノン

〈第一選択〉β遮断作用のある薬剤

β遮断薬プロパフェノン

〈第二選択〉Caチャネル遮断を主作用とする薬剤ベラパミル*

ジルチアゼム*

ベプリジル

〈第三選択〉Naチャネル遮断薬

(slow)ジソピラミドシベンゾリンピルジカイニドフレカイニドピルメノール

Naチャネル遮断薬(intermediate-fast)メキシレチンアプリンジン

特発性心室期外収縮特発性非持続性心室頻拍

Naチャネル遮断薬(slow)

ジソピラミドシベンゾリンピルジカイニドフレカイニドピルメノール

Naチャネル遮断薬(intermediate-fast)メキシレチンアプリンジンプロパフェノン

β遮断薬

図6 基礎心疾患を伴わない(特発性)心室期外収縮・単形性非持続性心室頻拍(文献1より改変)

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

2)左脚ブロック・右軸偏位(LBBB+RAD)型QRS波形の場合 多くはカテコラミン依存性で,第一にβ遮断薬またはβ遮断作用を有するプロパフェノンを選択する.また遅延後脱分極(DAD)によるトリガードアクティビティを機序とすることも多いので,第二選択としてはDAD

に関与するCa電流を抑制することを目的にベラパミル,ジルチアゼム,ベプリジルが選ばれる.これらが無効の場合にはNaチャネル遮断薬が用いられるが,やはり病態生理学的理論に基づく選択ではない.3)その他のQRS波形の場合 発生機序を推定することが困難である.交感神経緊張時に期外収縮が多く発生する例ではβ遮断薬を優先的に用いるが,その他では幅広い抗不整脈効果を示すNaチャネル遮断薬を用いてよい.

②虚血性心疾患に伴う心室期外収縮

 多くはリエントリーをその発生機序とすると考えられるが,異常自動能やトリガードアクティビティによるものも鑑別は困難である.心筋梗塞あるいは狭心症で,虚血に伴って期外収縮が発生する場合には,まず虚血の改善が先決である.

1)心筋梗塞急性期(発症48時間以内) Lown分類の重症度を参考にして治療方針を決定する.この時期には,重症度の高い心室期外収縮が心室頻拍や心室細動の引き金になることがあるので,Grade 1では経過観察,Grade 2~5では心電図を注意深く連続監視し,心室頻拍や心室細動の危険性が高いと判断した場合に抗不整脈薬静脈内投与を考慮する. 薬物を選択するに際し明確なエビデンスはないが,虚血心筋では膜電位が浅くNaチャネルが不活性化状態にある心筋細胞が多いと考えられるので,これに親和性の高いリドカインが用いられる.リドカインに関してはこれまでに多数の使用実績があることに加え,陰性変力作用が弱く,心機能抑制を来たす危険性が少ないことも選択の理由である.また欧米を中心にプロカインアミドも使用される.しかし,非持続性心室頻拍が多発し,持続性心室頻拍・心室細動の発生が危惧される場合には,最近の我が国での成績や欧米におけるエビデンスを考慮し,ニフェカラント静注やアミオダロン静注も積極的に考慮すべきである.2)心筋梗塞亜急性期(発症48時間~1か月)(図7) この時期には,積極的に虚血の解除,心機能の改善を図るのと並行して突然死のリスク評価を定期的に行い,

心機能評価

正常 中等度以上低下軽度低下

心筋梗塞の既往 心筋梗塞の既往

なし なしあり あり

〈第一選択〉Naチャネル遮断薬

(slow)ジソピラミドシベンゾリンピルジカイニドフレカイニドピルメノール

注) 注)

注)

〈第二選択〉Naチャネル遮断薬(fast-intermediate)メキシレチンアプリンジンプロパフェノンベプリジル a)

〈第三選択〉ソタロール

〈第二選択〉ソタロール

〈第一選択〉Naチャネル遮断薬(fast-intermediate)メキシレチンアプリンジンプロパフェノンベプリジル a)

〈第二選択〉ソタロール

〈第二選択〉ソタロールアミオダロン

〈第二選択〉アミオダロン

〈第一選択〉Naチャネル遮断薬

(fast)メキシレチン

〈第一選択〉β遮断薬

Naチャネル遮断薬(fast-intermediate)メキシレチンアプリンジンベプリジル a)

〈第一選択〉Naチャネル遮断薬

(fast)メキシレチン

a) ベプリジルは Caチャネルおよび  Kチャネル遮断作用も併せ持つ

図7 基礎心疾患を有する心室期外収縮・単形性非持続性心室頻拍(心筋梗塞亜急性期を含む)(文献1より改変)

注)心筋梗塞の既往または中等度以上の心機能低下がある場合

 ①Naチャネル遮断薬で生命予後を改善するというエビデンスはないので,長期使用は控えるべきである.

 ②アップストリームアプローチとしてβ遮断薬,ACE阻害薬,A-Ⅱ受容体拮抗薬の併用を積極的に考慮する.

 ③心臓電気生理学的検査で薬剤抵抗性持続性心室頻拍 /心室細動が誘発される例では,ICDの適用を考慮する.

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

不整脈に対する治療方針を決定する.通常は3連発未満の期外収縮のみであれば経過観察でよいが,非持続性心室頻拍を認める場合には治療適応を考慮する. 不整脈に伴う自覚症状が中等度以上の場合,あるいは非持続性心室頻拍が重症型(頻拍レートが120~200/分では5連発以上,200/分以上では3連発以上を重症型とする)の場合には,積極的に治療を行う.実際の治療法選択にあたっては,図7に示すように心機能低下の有無とその程度を勘案して選択順位を決定する.なお,大規模試験のエビデンスから,slow kineticのNaチャネル遮断薬は禁忌と考えるべきである. 特に不整脈に伴ってめまい・失神を来たす例では,必要に応じて心臓電気生理学的検査等を行い,高リスクと判断された場合はアミオダロン,ソタロールを第一選択として用いる.効果が不十分で,持続性心室頻拍や心室細動発生の危険性が高いと判断された場合は ICDを考慮する.① 心機能正常例:β遮断薬あるいは fast~ intermediate

kineticのNaチャネル遮断薬を第一選択とする.第二選択としては強いβ遮断作用を持ったKチャネル遮断薬のソタロールが挙げられる

② 心機能軽度低下例:心機能が多少なりとも低下している例では,fast kinetic drugなど心機能抑制作用の少ないものを用いることは可能であるが,心機能に注意し長期使用は控えるべきである.なお原疾患に対する治療として,低用量のβ遮断薬,ACE阻害薬,A-Ⅱ受容体拮抗薬の併用を積極的に考慮する.

③ 心機能中等度以上低下例:陰性変力作用の少ない一部のNaチャネル遮断薬は使用可能であるが,生命予後を改善するというエビデンスはなく,長期使用は避けるべきである.非持続性心室頻拍ではアミオダロンが推奨される.また電気生理学的検査等でリスクが高いと判断された場合には,ICD植込みを考慮する.

3)心筋梗塞慢性期(発症1か月以降) 虚血の関与,心機能低下の有無の評価が重要である.治療適応があると判断したら,ほぼ前項の心筋梗塞亜急性期の治療方針に準じて考える.

③その他の心疾患に伴う心室期外収縮

 基本的には前述の心筋梗塞亜急性期に準じて判断するが,特に心筋症など重篤な基礎心疾患を有する例においては,心機能を十分に考慮に入れた薬剤選択が必要である.また,低用量のβ遮断薬,ACE阻害薬,A-Ⅱ受容体拮抗薬の併用も積極的に考慮する必要がある.

6 持続性心室頻拍

1 定 義 ヒス束の分岐部以下を起源とするwide QRS頻拍(レート100/分以上)で,30秒以上持続するか,それ以内でも停止処置を必要とする単形性の心室頻拍と定義される.

2 病態と臨床的意義 基礎心疾患に伴うものの機序は,ほとんどリエントリーである.左室起源の特発性心室頻拍では,病的なPurkinje組織がリエントリー回路に関与する.右室流出路起源の特発性心室頻拍はトリガードアクティビティによると想定される.発作性に出現し,頻拍レートが200/分を超えるものでは高率に失神を来たす.また不整脈死の原因となる.

3 薬物治療の実際 ほとんどは院外で突然発症し来院するので,まず停止処置をする(図8).意識障害のある例や血行動態の不安定な例では,直流通電(DCショック)を行う.血行動態がある程度安定している場合,基礎心疾患の有無を診断し薬剤を選択する.血圧と心電図をモニターする.

①頻拍の停止

1)基礎疾患がある場合(不明の場合も含む) 第一選択薬としてアミオダロンまたはニフェカラントを静注する.プロカインアミドも有効例がある.これら

DCショック

不安定な心室頻拍 安定な心室頻拍

停止

再発

心機能正常

血行動態 *保険適用外

a)RBBB+LAD型の特発性心室頻拍b)LBBB+RAD型の特発性心室頻拍

心機能低下(LVEF<40%)

-静注-

アミオダロンニフェカラントリドカイン

-静注-

アミオダロンニフェカラントリドカイン

-静注-

プロカインアミドニフェカラントアミオダロンリドカイン

a)ベラパミル*

b)ATP*

DCショック

図8 持続性心室頻拍の停止法

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

が使えない場合や,心筋梗塞急性期の心室頻拍ではリドカインも選択される.2)基礎疾患がない場合 右脚ブロック・左軸偏位(RBBB+LAD)型を示す特発性心室頻拍は,ベラパミルかジルチアゼム(静注)を選択する.Naチャネル遮断薬(プロカインアミドなど)で徐拍化または停止が得られる例もある.ただし,特発性と診断できない場合,ベラパミルは禁忌である. 左脚ブロック・右軸偏位(LBBB+RAD)型を示す特発性心室頻拍では,ATP,β遮断薬,Caチャネル遮断薬,Naチャネル遮断薬を順次試みる.

②再発予防

 心室頻拍が虚血,電解質異常,薬剤などの可逆的因子によるものかどうかを十分評価する.再発予防は基礎心疾患の有無で治療法が異なるが,副作用の少ない薬剤の選択が要求される(図9).1)基礎心疾患がある場合(不明の場合も含む) 血行動態が不安定な持続性心室頻拍では ICDが第一選択となる.血行動態の安定した心室頻拍であっても,基礎心疾患がある場合には長期予後は不良であることから ICDが勧められる.薬物治療はアミオダロンまたはソタロールが多く用いられる.ベプリジルやβ遮断薬も選択されることがある.アミオダロンは電気生理検査の評価なしで用いられることが多い.2)基礎心疾患がない場合 アブレーションの根治率は高いことから,まずカテーテルアブレーションを勧める.アブレーションが行えない場合または不成功の場合,左室起源の心室頻拍ではCaチャネル遮断薬,Naチャネル遮断薬を,右室起源の

心室頻拍では,β遮断薬,Caチャネル遮断薬,Naチャネル遮断薬を順次試みる.3)ICD植込み例 ICDの植込み後ソタロールまたはアミオダロンとβ遮断薬の併用が ICD作動回数を減少させる.Electrical

storm例は入院の上管理する.

③突然死予防

 心筋梗塞後例および心不全例では,ICDは死亡率を低下させる.アミオダロンの有用性には疑義もある.心不全ではβ遮断薬は突然死を含めて予後を改善する.重症心不全では,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の抑制が突然死の減少に有用である.

7 多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍

1 定 義 これらの不整脈は,臨床的には発症とともに急激な有効血流の低下により即時に意識消失となり,適切な治療により回復しない場合は死に至るものである.このガイドラインでは心室細動と多形性心室頻拍に無脈性心室頻拍を含め,いずれもが心停止を来たすことからここで扱うことにした. 具体的な対処につき病態が①発作が自然停止しない場合,②自然停止するが反復する場合に大別した.おおよそ①が心室細動,②が多形性心室頻拍に対応する.無脈性心室頻拍は①に準ずる病態とみなす.

β遮断薬Caチャネル遮断薬Naチャネル遮断薬

Caチャネル遮断薬β遮断薬Naチャネル遮断薬 Electrical Storm時

(静注)ニフェカラントアミオダロンβ遮断薬

ICDに併用**

アミオダロンソタロールβ遮断薬

アミオダロンソタロールベプリジルβ遮断薬 #

ICD

成功

ICD拒否・できない例

不成功・拒否

なし あり*

カテーテルアブレーション

LBBB+RAD型 RBBB+LAD型

基礎心疾患

図9 持続性心室頻拍の再発予防

*:基礎疾患がある例でもカテーテルアブレーションの有効例がある.**:ソタロールまたはアミオダロン+β遮断薬で作動の減少が図れる.#心不全例で有用.

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

2 病態・臨床的意義 心室細動は,最も重篤な不整脈で,発作後ただちに脈が触れなくなり意識が消失する.虚血,心不全などに伴って発症することが多いが,明らかな心疾患を伴わないで起こる場合(特発性)がある.無脈性心室頻拍(pulseless

VT)は脈拍を触知しない心室頻拍であり有効な循環を維持し得ない不整脈であるため心室細動と同様に扱う. 多形性心室頻拍は頻拍中のQRS波形が刻々と変化し,QRS波形が基線を中心にしてねじれているように見える.多くは非持続性で自然停止するが,時に心室細動に移行する.多形性心室頻拍はQT延長を伴っている場合と伴っていない場合に分けられる.この区別は,両者の治療法が異なるので重要である. QT延長に伴い発症する多形性心室頻拍は torsade de

pointes(Tdp)と呼ばれ,二次的原因が明らかな後天性QT延長症候群と二次的原因を認めない先天性QT延長症候群に分類される.後天性の原因は薬剤によるものが多く,抗不整脈薬(Ⅰa群,Ⅲ群)だけでなく,非心臓薬(向精神薬,抗生剤,抗アレルギー薬など)が原因のこともある.QT延長を伴わない多形性心室頻拍は,虚血,心不全,ショックなどの心機能低下に伴って起こる場合が多いが,この場合は心室細動への前駆的不整脈といえる.明らかな心疾患を伴わず起こる多形性心室頻拍(特発性)の代表的なものに,Brugada症候群,カテコラミン誘発多形性心室頻拍,その他に,QT短縮症候群(SQTS),明らかな誘因や心電図学的特徴が認められない特発性多形性心室頻拍・心室細動がある.

3 薬物治療の実際

①発作時の治療(図10)

1)自然停止しない場合 緊急を要し可能な限り早期の停止が望まれるので,ただちに直流通電(DCショック)を行う.DCショックは除細動器の最高出力(一般に単相電流使用の除細動器では360J)で施行する(原則として1ショックプロトコールが推奨される).停止しない場合は,心肺蘇生術(CPR)をACLSにならい速やかに再開し,エピネフリンまたはバソプレッシンを静注する.原則としてCPR5サイクルを施行し,心電図により発作の停止を確認できない時には再度DCショックを施行する.これでも停止しない場合には,ニフェカラント,アミオダロンを第一選択として,または第二選択としてリドカイン[急性冠症候群(ACS)に伴う多形性心室頻拍には妥当とされる]を静注し,再度DCショックを試みる.2)自然停止するが再発を繰り返す場合(反復性の場合) 洞調律の心電図(発作前または発作の合間に記録される心電図)においてQT延長の有無を診断する.QT延長を認める場合はQT延長を起こしている原因治療が基本であり,マグネシウム(Mg)の静注が有効である.また,低カリウム血症など電解質異常を認めれば補正する.QT延長の原因が徐脈の場合は心室ペーシングが最も有効である. 先天性QT延長症候群の場合,β遮断薬が基本的な発作予防薬となるが,LQT3では明らかな効果がないとす

多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍

DCショック

DCショック

DCショック

持続している場合 反復する場合

原因治療心室ペーシング

虚血の関与

あり

あり

なし

アミオダロンニフェカラント

静注

あり なし

なし

DCショック 1回施行し停止しない場合は,ACLS開始,エピネフリン,バゾプレシン静注

停止不能の場合ニフェカラント静注,アミオダロン静注,リドカイン静注*

β遮断薬静注

先天性QT延長群後天性QT延長群

*第二選択として(本文参照)

QT延長

Mg静注

QT延長の原因

虚血の治療アミオダロンリドカイン

ニフェカラント静注

図10 多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍:発作時の治療

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

る報告がある.なお,LQT3ではメキシレチンなどのNa

チャネル遮断薬がQT間隔の短縮目的に利用できる.QT

延長を認めない場合は,虚血の関与が最も重要となるが,原因が除去できるまでの間はアミオダロン静注(二次選択としてリドカイン静注)の効果が期待できる.原因不明な場合には心機能改善の治療とともにニフェカラントないしアミオダロンを静注する.QT延長が明らかでない場合でもマグネシウムの静注が有効なこともある.

②再発予防に対する治療(図11)

 器質的心疾患を有し心機能が低下している場合には植込み型除細動器(ICD)が第一選択である.器質的心疾患を有するが心機能が正常または軽度低下の場合は,アミオダロンが使用できる. 明らかな器質的心疾患を認めない場合はQT延長の有無により対応が異なる.QT延長を認めその原因が明らかな場合,原因治療を優先する.先天性QT延長症候群の場合は,β遮断薬が効果的である.β遮断薬使用後も再発する場合は ICDの適応となる.QT延長を認めない場合は,心電図と臨床所見からBrugada症候群,カテコラミン誘発多形性心室頻拍など特殊な疾患を診断し,必要に応じ ICD植込みを行う.重篤な発作が起こる場合には ICD植込みが最も確実である.その他の特発性多形性心室頻拍・心室細動では,ICD植込みに優る有効な治療薬はない.

8 徐脈性不整脈

1 定 義 徐脈性不整脈として,洞性徐脈性不整脈(持続する洞徐脈,洞停止,洞房ブロック),第2~3度房室ブロック,徐脈性心房細動を対象にする.

2 病態・臨床的意義 徐脈により十分な心拍出量を維持できないと失神,めまい,心不全などの様々な症状が引き起こされる.徐脈の程度の軽いものは健康人にも見られ,症状を伴わず治療の必要のないものが多い.

3 薬物治療の実際 上記の症状が徐脈によることが確認された場合には,薬物治療ではなくペースメーカ植込みの適応となる.ペースメーカ植込みの絶対的適応であっても,患者の拒否や全身状態(寝たきり,悪性腫瘍の末期など)によっては薬物治療を行うことがあり,ペースメーカ植込みまでの橋渡しとして薬物治療が行われることもある. 薬物治療に共通する問題点は,①微妙な心拍数のコントロールが困難であること,②経口投与された場合には効果が一定ではないこと,③イソプロテレノールや類似薬では陽性変力作用のため,動悸が問題となること,④心臓外臓器に対する副作用,などである. 徐脈性不整脈に対する薬物治療の長期的な有効性,安全性については不明な点が多く,投与中は慎重な経過観察が必要である.

図11 多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍の予防

多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍

器質的心疾患の有無

心機能評価

あり なし

正常または軽度低下

低下

ICD除去可能な不整脈発症原因

原因除去

あり なし

あり なし

QT延長の原因 発作時・非発作時の心電図

あり なし

その他

QT延長の原因治療

ICDβ遮断薬ICD

β遮断薬ICD

ICDアミオダロン

ICDアミオダロン

カテコラミン誘発性頻拍

Brugada症候群先天性QT延長群後天性QT延長群

QT延長

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

①アトロピン

 迷走神経緊張が関与した例で効果が期待できる.緊急時には0.5 mg/kgを静注する(反復投与する場合は,総投与量は3 mgまでとする).

②交感神経作動薬

 イソプロテレノール0.01~0.03 μg/kg/分の持続点滴を,緊急時やペースメーカ植込みまでの橋渡しとして行う.アドレナリン(2~10μg/分)やドパミン(2~10μg/kg/分)も用いられる.

③テオフィリン

 アデノシンA1受容体を遮断して,洞結節自動能を亢進し洞性徐脈性不整脈に効果が期待される.消化器症状が比較的多い.徐脈性不整脈に対する保険適応はない.

④シロスタゾール

 フォスフォジエステラーゼの阻害薬で,陽性変時作用がある.徐脈性不整脈に対する保険適応はない.

9 小児の不整脈

 小児の頻拍性不整脈の治療はカテーテルアブレーションが主体となっているが,抗不整脈薬が必要な症例もある.抗不整脈薬は,「小児に対しての有効性や安全性は確立されていない(使用経験が少ない)」と添付文書に記載されており,ジゴキシン,フレカイニド以外のすべての抗不整脈薬の投与は安全性が確立されていないことになる.しかし,臨床的な有用性も数多く報告されており,小児への抗不整脈薬の使用は医師の裁量で判断することになる.ここでは,日本小児循環器学会が作成した抗不整脈薬ガイドライン6)に準じた提案を行う.

1 発作性上室頻拍

①治療の適応

1)頻拍発作持続性もしくは反復性頻拍や,新生児,乳児期の症例は治療を急ぐ必要がある.2)頻拍発作の予防①繰り返す頻拍発作や長時間続く頻拍発作.②新生児期に発作があった場合,頻拍発作予防のため数か月間抗不整脈薬を投与することが望ましい.

②治 療

1)頻拍の停止(図12)①DCショック:全身状態が不良な場合,カルディオバージョンもしくは除細動を行う.②迷走神経手技が無効な場合に薬物療法を行う.③薬物療法 ATPの急速静注,またはCaチャネル遮断薬(ベラパミルなど)の緩徐な静注,ジゴキシン,Naチャネル遮断薬(プロカインアミド,ジソピラミド,フレカイニドなど)の緩徐な静注を行う.2)発作の予防 WPW症候群ではβ遮断薬,Naチャネル遮断薬(プロカインアミド,ジソピラミド,プロパフェノン,フレカイニドを投与する. WPW症候群以外ではジゴキシン,β遮断薬,Caチャネル遮断薬,Naチャネル遮断薬などを使用する.

[注意]新生児,乳児期では,Caチャネル遮断薬の感受性が高く,徐脈,心停止となりやすいので禁忌である.

2 非発作性上室頻拍(心房頻拍)

①治療の適応

 自然に頻拍が消失することもあるが,慢性化し,心機

あり なし

血行動態の悪化

DCショック

慢性期の治療 DCショック(カルディオバージョン)

持続停止

持続停止

持続停止

発作性上室頻拍

迷走神経手技

*保険適用外†新生児・乳児は禁忌

Na チャネル遮断薬プロカインアミドジソピラミドフレカイニド

ATP*ベラパミル†

ジゴキシン

図12 発作性上室頻拍の停止(小児)

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

能低下を認める場合(頻拍誘発性心筋症)には治療が必要である.

②治療

 薬剤抵抗性の症例や心機能低下の場合にはカテーテルアブレーションを第一選択とする.1)心房頻拍の停止,予防 異常自動能には交感神経β遮断薬(プロプラノロールなど),トリガードアクティビティにはβ遮断薬,Caチャネル遮断薬,ATPに効果がある.その他Naチャネル遮断薬(ジソピラミド,フレカイニド,プロパフェノン),Kチャネル遮断薬(ソタロール),アミオダロン,ベプリジルによる停止効果が期待される.2)心室拍数の調節 頻拍の出現や持続を抑制できないときには,心室拍数を調節する.β遮断薬,Caチャネル遮断薬(ベラパミル),ジギタリスの単独または併用投与を行う.

3 特発性非持続性心室頻拍 非持続性心室頻拍の定義は心室拍数100~120/分以上の心室期外収縮の3連発以上または30秒以上連続しない心室期外収縮の連発をいう.カテコラミン誘発多形性心室頻拍や short coupled variant torsade de pointes(TdP)など,予後の悪いものもある.

①治療の適応

1)失神,めまい,心停止,心不全,頻拍誘発性心筋症など,症状のあるもの.2)運動負荷で再現性をもって,心室拍数200以上の心室頻拍が誘発されるもの.または多形性心室頻拍が誘発されるもの.3)運動とは無関係に心室拍数200以上の非持続性心室頻拍が繰り返しおこるもの.4)多形性心室頻拍が頻回に見られるもの

②治 療

1)頻拍停止 右脚ブロック・左軸偏位(RBBB+LAD)型ではCa

チャネル遮断薬静注,効果がなければβ遮断薬やNaチャネル遮断薬(ジソピラミド,フレカイニドなど)を静注する. 左脚ブロック・右軸偏位(LBBB+RAD)ではβ遮断薬,効果なければCaチャネル遮断薬や,解離速度の遅いNaチャネル遮断薬を静注する. それ以外の心室頻拍には解離速度の速いNaチャネル

遮断薬(リドカイン,メキシレチンなど)を静注する.これらが無効の場合にはアミオダロンやニフェカラントを使用する.2)頻拍予防①右脚ブロック・左軸偏位(RBBB+LAD)型 Caチャネル遮断薬やβ遮断薬の投与を行い,無効ならNaチャネル遮断薬(メキシレチン,ジソピラミド,フレカイニドなど)を投与する.②左脚ブロック・右軸偏位(LBBB+RAD)型 β遮断薬,フレカイニドなどのNaチャネル遮断薬,Caチャネル遮断薬も有効な場合がある.③運動誘発性のものや交感神経緊張時に出現するもの β遮断薬,Caチャネル遮断薬など④交感神経緊張とは無関係もしくははっきりしない場合 解離速度の遅いNaチャネル遮断薬(ジソピラミド,フレカイニドなど).無効の場合にはアミオダロン,ソタロール,ベプリジルが適応になる.3)非薬物治療カテーテルアブレーションは個々の例について適応を考慮する.

4 特発性持続性心室頻拍 心室拍数が100~120/分以上の心室頻拍が30秒以上持続するもの,もしくはカルディオバージョンが必要なものを言う.

①治療の適応

 頻拍が原因の症状または心不全を有するものや心機能低下を認めるもの.運動誘発性で心拍数の速いもの. 心室拍数が120/分以下または洞調律とほぼ類似の心拍数で基礎心疾患がなく,心機能障害がなければ治療適応にはならない.

②治 療

1)急性期治療(図13)①血行動態が不安定な場合には緊急にDCショックを行う.②血行動態が不安定でなければNaチャネル遮断薬(リドカインやメキシレチンなど)を静注し,有効であれば点滴静注を持続する.③QRS波形が右脚ブロック・左軸偏位(RBBB+LAD)型の心室頻拍にはCaチャネル遮断薬(ベラパミル)を静注し,左脚ブロック・右軸偏位型の心室頻拍にはATP

を静注する.効果がなければβ遮断薬,Naチャネル遮

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告)

断薬を静注する.④その他の場合にはNaチャネル遮断薬(プロカインアミドなど)を静注する.効果がなければアミオダロン,ニフェカラントなどを静注する.⑤薬剤抵抗性の場合にはDCショックまたは心室ペーシング.2)頻拍予防 カテーテルアブレーションは多くの症例で治療の第一選択と考えられる.①右脚ブロック・左軸偏位(RBBB+LAD)型にはCa

チャネル遮断薬を投与するが,β遮断薬やNaチャネル遮断薬(ジソピラミド,プロカインアミド,メキシレチン,フレカイニドなど)も有効なことがある.②左脚ブロック・右軸偏位(LBBB+RAD)型にはβ遮断薬やCaチャネル遮断薬を投与するが,Naチャネル遮断薬(ジソピラミド,プロカインアミド,フレカイニドなど)も有効なことがある.③運動時や交感神経緊張時に出現するものはβ遮断薬やCaチャネル遮断薬を投与する.④難治性の場合にはKチャネル遮断薬(ソタロールなど)やアミオダロン,ベプリジルを投与する.⑤薬剤での難治例には植込み型除細動器(ICD)を考える.

5 カテコラミン誘発多形性心室頻拍

 カテコラミン誘発多形性心室頻拍は極めてまれな心室頻拍であり,①3心拍以上,2種類以上のQRS波形をもつ心室頻拍がカテコラミンまたは運動負荷で誘発されること,②電解質異常,心筋症,虚血性心疾患など多形性心室頻拍の起こりうる病態が存在しないこと,③QT延長症候群,Brugada症候群などが否定されたものと定義される.

① 治療の適応

 本症は予後が不良であり,発見された場合全員が治療の適応となる.

② 治療

1)頻拍の停止 カテコラミン誘発多形性心室頻拍の停止にはATPやベラパミルが有効である.2)頻拍の予防β遮断薬(プロプラノロール,アテノロール),Caチャネル遮断薬(ベラパミル)を用いる.ICD,星状神経節ブロックの有効性も報告されている.

持続性心室頻拍

経過観察

血行動態の悪化

なし

あり なし

あり治療の適応

無効の場合

薬剤抵抗性

*保険適用外

その他

Na チャネル遮断薬(fast)リドカイン メキシレチン

DCショック

RBBB+LAD 型 LBBB+RAD 型

〈第一選択〉Ca チャネル遮断薬

〈第二選択〉β遮断薬 Na チャネル遮断薬(intermediate~slow)ジソピラミド  フレカイニドなど

〈第一選択〉ATP*

〈第二選択〉β遮断薬Na チャネル遮断薬(intermediate~slow)ジソピラミド  フレカイニドなど

DC ショックまたはペーシング

〈第一選択〉Na チャネル遮断薬(intermediate~slow)プロカインアミドなど

〈第二選択〉アミオダロンニフェカラントなど

図13 持続性心室頻拍の停止(小児)

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不整脈薬物治療に関するガイドライン

6 先天性QT延長症候群

①治療の適応

 心臓性の失神や突然死・失神の家族歴のあるもの.または,明らかな交代性T波が存在する症例,遺伝子診断でQT延長症候群と診断されている症例.

②torsade de pointes(TdP)の予防

 β遮断薬(プロプラノロール)が一般的に用いられる.メキシレチンは,LQT3症例のQT時間を短縮する効果が期待できる場合があるが,β遮断薬と併用することが多い. 徐脈時に torsade de pointesを起こしやすいQT延長症候群に対しては,ペースメーカ植込みが有効なこともある.

③torsade de pointes(TdP)の治療

 β遮断薬(プロプラノロール),リドカイン,メキシレチンなどを静注する.Caチャネル遮断薬(ベラパミル)の静注や,硫酸マグネシウムの静注が有効な場合もある.心室細動出現時はDCショック(2~4 J/kg)を行う.

④一時的ペーシング

 最低心拍数を70/分以上に維持する(年齢により最低

ペーシング拍数は異なる).

Ⅳ おわりに

 不整脈の薬物治療に関しては,2000年以降になって心房細動や心室頻拍・細動治療の大規模臨床試験の結果がつぎつぎと報告され,基礎研究のデータに基づいた理論的な考え方や,経験だけでは得られない重要な事実が示されるようになった.個々の患者に対して,最も適切な治療を行うためには,論理と経験に加えて,それを実証する証拠(エビデンス)を必要とする時代に入った.これらのエビデンスは,今のところ大部分が欧米の臨床試験で得られたものであり,不整脈発生の原因となる疾患の違いや,医療環境の違い,人種差などを考慮すると,それらの報告をそのまま日本人にあてはめることは問題がある.今回のガイドラインは,Sicilian Gambitが提唱する論理的思考と経験を基本としたものであり,今のところは裏づけとなるエビデンスは,心房細動に限られている(J-RHYTHM).現在,我が国でも不整脈に関するいくつかの臨床試験が進行中であるが,本ガイドラインは,それらの新しいエビデンスが得られた段階で,基本的な見直しが必要となる.

文  献

1. 抗不整脈薬ガイドライン委員会編集.抗不整脈薬ガイドライン‐CD-ROM版 ガイドラインの解説とシシリアンガンビットの概念.ライフメデイコム,東京 2000.

2. Ogawa S, Yamashita T, Yamazaki T, et al. Optical treatment

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J-RHYTHM study. Circ J 2009; 73: 242-248. 3. Yamashita T, Ogawa S, Sato T, et al. Dose-response effects

of bepridil in patients with persistent atrial fibrillation

monitored with transtelephonic electrocardiograms: A

multicenter, randomized, placebo-controlled, double-blind

study (J-BAF study). Circ J 2009; 73: 1020-1027. 4. Atarashi H, Ogawa S, Inoue H, et al. Dose-response effect

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fibrillation and/or flutter monitored with trans-telephonic

electrocardiography. A multicenter, placebo-controlled

double-blind trial. Circ J 2007; 71: 294-300. 5. Blomstrom LC, Scheinman MM, Aliot EM, et al. ACC/

AHA/ESC guidelines for the management of patients with

supraventricular arrhythmias-executive summary: a report of

the American College of Cardiology/American Heart

Association Task Force on Practice Guidelines and the

European Society of Cardiology Committee for Practice

Guidelines(Writing committee to develop guidelines for the

management of patients with supraventricular arrhythmias).

Circulation 2003; 108: 1871-1909. 6. 長嶋正實,相羽 純,牛ノ濱大也,他.小児不整脈治療

のガイドライン─薬物治療を中心に─日本小児循環器学会雑誌 2000; 16: 967-972.