ブドウの品種 果樹研究所ブドウ・カキ研究部 育種研究室 上...

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- 21 - ブドウの品種 ブド ・カキ オリエンタルスター(OrientalStar) 22 :2004 9 30 :( :( :1989 わせ:ブド 21 (スチューベン× マスカット・オブ・アレキサンドリア) ×ル ー・オクヤマ 品種の概要 」より く、「ネオマスカット」 ほぼ する ある。 10g 」より さい。 く、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」に い。 く19% り、 く、0.4g/100ml ある。 い。「 」より にくい。 さい。 い。「 」より しにくい。 」より く、「ネオマスカット」 ある。 において るい く、 あるため、 ある。 さく い。また、 し、 ある。耐 」より る。耐寒 ある。 にストレプトマイシン200ppm を し、 10~15 にジベ レリン25ppm り、 より 1~2g する。ただし、ジベレリン により する がある。 栽培上の注意点及び適応地域 7cm い、 9cm に40 する 400g られる。 4cm い、 7cm に35~ 40 する 450~500g られる。ただし、ジベレリンを する ために ある。 1.5t/10a 1.4t/10a ある。雨 多い ニール ましい。 に、 きるが、 が「 」より く「ネオマ スカット」に あるため、 が寒 、「 」が きた して がある。

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    ブドウの品種 果樹研究所ブドウ・カキ研究部 育種研究室 上野俊人

    オリエンタルスター ( Oriental Star)

    命名登録 登録番号 :ぶどう農林22号 登録年月日:2004 年 9 月 30 日 品種登録 登録番号 :(出願中) 登録年月日:(出願中) 品種登録者 :独立行政法人農業・生物系特定産業技 術研究機構 交雑年 :1989 年 交雑組み合わせ:ブドウ安芸津21号(スチューベン× マスカット・オブ・アレキサンドリア) ×ルビー・オクヤマ 品種の概要 果実成熟期は「巨峰」よりやや遅く、「ネオマスカット」とほぼ同時期に成熟する紫赤色の大粒の二倍体品種である。 果粒重は10g程度で「巨峰」よりは小さい。肉質は崩壊性で硬く、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」に近い。糖度は高く19%程度になり、酸含量は低く、0.4g/100ml 程度である。香りは無い。「巨峰」より少しはく皮しにくい。裂果性は「巨峰」と同程度で非常に小さい。縮果症は発生しない。「巨峰」より脱粒しにくい。日持ち性は「巨峰」より長く、「ネオマスカット」なみである。 樹勢の強い樹においても花振るい性は少なく、栽培容易であるため、種有り栽培でも短梢剪定栽培が可能である。 一般に花房が小さく花穂の整形に労力を要しない。また、適度に着粒し、摘粒が容易である。耐病性は「巨峰」より劣る。耐寒性は「巨峰」程度である。 開花前にストレプトマイシン200ppm を散布し、満開時と満開10~15日後にジベレリン25ppm で花(果)房に浸漬処理を行うと種無しとなり、種有り栽培より果粒重が1~2g程度増加する。ただし、ジベレリン処理により支梗が若干伸長する傾向がある。 栽培上の注意点及び適応地域 種有り栽培での花穂整形は花穂の下部7cm程度を用い、摘粒は9cmの穂軸に40粒程度とすると400g前後の果房が得られる。 種無し栽培での花穂整形は花穂の下部4cm程度を用い、摘粒は7cmの穂軸に35~40粒程度とすると450~500gの果房が得られる。ただし、ジベレリンを使用するためには、今後、農薬登録が必要である。 目標収量は種有り栽培で1.5t/10a程度、種無し栽培では1.4t/10a程度である。雨量の多い地方ではビニール被覆栽培が望ましい。 一般に、東北地方南部以南では栽培できるが、果実成熟期が「巨峰」より遅く「ネオマスカット」に近い時期であるため、東北地方北部で気候が寒冷な場合は、「巨峰」が栽培できたとしても十分に成熟しない可能性がある。

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    シャインマスカット ( Shine Muscat)

    命名登録 登録番号 :ぶどう農林21号 登録年月日:2003 年 9 月 5 日 品種登録 登録番号 :(出願中) 登録年月日:(出願中) 品種登録者 :独立行政法人農業・生物系特定産業技 術研究機構 交雑年 :1988 年 交雑組み合わせ:ブドウ安芸津21号(スチューベン× マスカット・オブ・アレキサンドリア) ×白南 品種の概要 「巨峰」とほぼ同時期に成熟する黄緑色の2倍体品種である。果粒の形は短楕円である。肉質は崩壊性で硬く、マスカット香を呈する。糖度は高く20%程度になり、酸含量が0.3~0.4g/100ml と少ない。食味が優れる。渋みは無い。はく皮性は「巨峰」・「ネオ・マスカット」よりやや劣る。裂果性は非常に小さく、「巨峰」なみである。脱粒性は「巨峰」より低い。日持ち性は「巨峰」より長い。穂軸が褐変しやすい傾向がある。 種有り栽培では、果粒重は10g程度である。開花前にストレプトマイシン200ppm を散布し、満開時および満開10~15日後にジベレリン25ppm の花房(果房)浸漬処理を行うことにより種なし栽培が可能である。種無し栽培の場合、果粒重が1g程度増大し、肉質もやや硬くなるが、やや脱粒しやすくなる。 樹勢は強い。発芽期は「巨峰」とほぼ同時期である。開花期は「巨峰」よりやや遅い。花振るい性は少なく、栽培容易である。種有り栽培の場合、満開時に整房すると結実が良い。種有り栽培の整房労力と摘粒労力は少なく「巨峰」なみである。黒とう病には弱い。べと病抵抗性は「巨峰」なみと見込まれるが、正確な評価にはなお試験が必要である。樹勢が旺盛であるが、樹勢が落ち着くと果粒が肥大する。 栽培上の注意点及び適応地域 種有り栽培での花穂整形は花穂の下部4cmを除去し、その上7cm(13~15段程度)を用い、摘粒を9cmの穂軸に40粒程度とすると400前後gの果房が得られる。 種無し栽培での花穂整形は、花穂の下部4cmを用い、摘粒を7cmの穂軸に35~40粒程度とすると450~500gの果房が得られる。ただし、ジベレリンを使用するためには、今後、農薬登録が必要である。 目標収量は種有り栽培で1.5t/10a程度、種無し栽培では1.4t/10a程度である。なお、雨量の多い地方ではビニール被覆栽培が望ましい。耐寒性は巨峰と同程度であるため、巨峰が栽培できる地域であれば栽培は可能である。

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    サニールージュ ( Sunny Rouge)

    命名登録 登録番号 :ぶどう農林15号 登録年月日:1997 年 8 月 1 日 品種登録 登録番号 :第 8561 号 登録年月日:2000 年 12 月 22 日 品種登録者 :果樹試験場 交雑年 :1977 年 交雑組み合わせ:ピオーネ×レッドパール 品種の概要: 「デラウェア」とほぼ同時期かそれよりやや遅い時期に成熟する早生品種である。果皮は赤褐色または紫赤色を呈する。4倍体品種であるが、自然状態では花振るい性が強く、有核果粒はほとんど得られず、無核果粒が多く着生することから、ジベレリン処理(満開時と満開10日後に25ppm果房浸漬処理)により種無し栽培を行うと、果粒5~6g、果房重300~450gの房が容易に得られる。甘味は高く、糖度は19%程度。酸含量は0.5%程度で食味はよい。年と場所によりわずかな渋味を生じることがある。フォクシー香を呈する。ジベレリン処理により「巨峰」に近い肉質となる。はく皮性は「巨峰」と同程度である。裂果性はほとんど無いため、露地栽培が可能である。耐病性は高く、巨峰と同程度である。 樹勢は他の4倍体品種に比べて弱い。発芽期は「巨峰」とほぼ同時期である。葉の下面の毛じの密度は「デラウェア」よりも低い。花芽の着生は良好で、1新梢当たり4花穂を着ける。花性は両性である。開花期は「デラウェア」とほぼ同時期である。 栽培上の注意点及び適応地域 花穂整形は開花が始まってから、支梗を切り下げて7cm前後にし、摘粒を9~10cmの穂軸に60~65粒位にすると350~400gの果房が得られる。 目標収量は1.5t/10a程度であるが、着房過多は着色障害や樹勢低下を招いた事例があるので、十分に注意する。 花冠(キャップ)は飛びにくいが、「キングデラ」のようにサビ果が多発することはない。 東北地方南部から九州に至るまで広い範囲での栽培が可能である。

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    ハニービーナス ( Honey Venus)

    命名登録 登録番号 :ぶどう農林19号 登録年月日:1998 年 8 月 21 日 品種登録 登録番号 :第 9400 号 登録年月日:2001 年 10 月 18 日 品種登録者 :独立行政法人農業技術研究機構 交雑年 :1980 年 交雑組み合わせ:紅瑞宝×オリンピア 品種の概要: 「巨峰」とほぼ同時期に成熟する黄緑色の4倍体品種である。果粒の形は短楕円である。果粒重は10g程度。花振るい性が小さく、結実性が良好である。果肉特性は「巨峰」と同様の崩壊性と塊状の中間。果肉硬度は「巨峰」よりやや硬い。糖度は「巨峰」より2%程度高く、21%程度であり、甘味が強く食味が良好なのが特徴である。マスカット香の香気成分とアメリカブドウに由来するフォクシー香の香気成分を両方含む、特有の芳香がある。裂果性は「巨峰」と同程度である。年と場所によりわずかに渋味が生じることがある。はく皮性は「巨峰」よりわずかに劣る。脱粒性は「巨峰」より低い。日持ち性は短く、「巨峰」と同程度である。 4倍体品種であり、樹勢は強いが「巨峰」よりはやや弱い。ジベレリン処理による種無し栽培はまだ確立されておらず、ジベレリンの適用も登録されていない。開花時期は「巨峰」とほぼ同時期である。 栽培上の注意点及び適応地域 花穂整形は開花がわずかに始まった時期に花穂の先端1cmを切除し、その上8cm(14~17段程度)を用い、摘粒を9cmの穂軸に40粒程度とすると400g前後の果房が得られる。 収穫が遅くなると、他の黄緑色ブドウと同様、果皮に褐変が出やすくなるので、適期の収穫が必要である。 目標収量は1.5t/10aであるが、着房過多は樹勢低下を招く。 耐病性は「巨峰」よりやや弱く、特にうどんこ病と晩腐病に注意が必要である。また、 7月以降はスリップスによる被害が発生しやすい。これらのことから、摘粒後はスリップス及びうどんこ病の防除を行い、直ぐに袋かけを行うことが望ましい。 東北地方から九州に至る広い範囲で栽培が可能である。耐寒性は強く、東北地方の北部においても一部地域に適応する。

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    安芸クイーン ( Aki Queen))

    命名登録 登録番号 :ぶどう農林7号 登録年月日:1991 年 6 月 1 日 品種登録 登録番号 :第 3458 号 登録年月日:1993 年 3 月 17 日 品種登録者 :果樹試験場 交雑年 :1973 年 交雑組み合わせ:巨峰×巨峰 (きょほう×きょほう) 品種の概要: 「巨峰」とほぼ同時期かやや早めに熟する鮮紅色の4倍体品種である。果粒は倒卵形で果粒重は「巨峰」なみの大きさで13~15g程度。肉質は、塊状と崩壊性の中間であり、果肉の硬さはジベレリン処理した果粒では「巨峰」より硬い。甘味は高く、糖度・酸とも「巨峰」と同程度で、糖度18~20%、酸含量0.4~0.5%程度で食味が良い。フォクシー香がある。 結実性は「巨峰」より悪く、種有り栽培をする場合は、弱剪定が必要である。満開時と満開10日後に25ppm ジベレリンの花房(果房)処理を行うと、種なしになるとともに良く結実し、良房を容易に得られる。種無し栽培では短梢剪定による栽培も可能である。 栽培上の注意点及び適応地域 この品種は鮮紅色のきれいな赤色が魅力であるが、暖地ではうまく着色しないことも多い。また、寒冷地では紫色になってしまう場合がある。着色を促進させるには、着房過多としないこと、着色期の果房に光を当てること、樹を落ち着かせるとともに夏季の窒素吸収を抑えることが有効である。 種有り栽培の場合、花穂整形は花穂の先端1cmを切除し、その上7cm(14~17段程度)を用い、摘粒を9cmの穂軸に30粒程度とすると400g前後の果房を得られる。 種無し栽培の場合、花穂整形は花穂の先端4cmを用い、摘粒を7cm の穂軸に30粒前後とすると450g前後の果房を得られる。 育成地においては、果房重をこの程度に抑え、目標収量を1.2t/10aに設定しているため、着色は比較的安定している。 本来、赤色系品種は色素生産能力が黒色系品種に比べ劣るため、着房過多には十分な注意が必要である。 東北地方から九州に至る広い範囲で栽培が可能であるが、着色期に夜温が下がりにくい地域では、着色障害が発生しやすいので注意が必要である。

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    うめ くり

    産出

    額(億

    円)

    カキ生産の現状と品種開発 果樹研究所ブドウ・カキ研究部 育種研究室 山田昌彦

    カキ生産の現状 カキの 2001 年~2003 年平均国内生産量は約 27 万トン、結果樹面積は 25,000ha、産出額は 389 億円である(図1・2・3)。生産量は、ウンシュウミカン、リンゴ、ナシに次いで第4位、結果樹面積はウンシュウミカン、リンゴ、クリに次いで第5位、産出額はウンシュウミカン、リンゴ、ブドウ、ナシ、

    モモに次いで第6位となっている。 生産量あたりの産出額で見ると、カキはウンシュウミカンなどに近く、安価で多くの果実を国民に提供している(図4)。 生産量を二00一~二00三年と一九八0年の比で見ると、カキはそれぞれ一・0二であり(図5)、ほぼ生産を維持している。これに対し、ウンシュウミカンは0・四一、ブドウ、ナシ、モモは0・七~0・七五程度に減少している。なお、いよかんは大きく伸びた後、最近、減少している。 この状況は果物と競合するジュースや菓子などの食べ物の発展に対し、消費者が果物を選択した結果を反映している。それぞれの樹種で消費者の嗜好・ニーズに合う商品を提供できたかどうかはその増減の要因であろう。また、それらの商品の生産性(収量性)の高さは、安価に多くの果実を提供できるかどうかを左右する。

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    結果

    樹面

    積(万

    ha)

    図2.主な果樹の国内結果樹面積 (2001-2003年平均)

    図1.主な果樹の国内生産量 (2001-2003年平均)

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    産出

    額/生

    産量

    の比

    (千円

    /t)

    図4.主な果樹の産出額/生産量比 (2001-2003年平均)

    図5.主な果樹における 2001-2003年平均国内生産量/1980 年国内

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    カキと他の落葉果樹の品種の変化 この 25年間に、落葉果樹の主要経済品種は、一般に大きく変化した。リンゴはデリシャス系、紅玉、国光等が減少し、ふじ、王林、ジョナゴールドが増加した。日本ナシは長十郎が激減、二十世紀も大幅に減少し、幸水、豊水、新高が伸びた。ブドウでは、キャンベルアーリーが激減、デラウエアも大きく減少し、巨峰、ピオーネ等が伸びた。一般に、食味の優れた品種に移行しており、ウンシュウミカンについても糖度の高い果実を生産する体制となった。 カキ生産の25年間の変化を見ると、1980年に刀根早生(渋ガキ)が品種登録となってからの大幅なかつ急激な増加、富有・次郎(甘ガキ)の漸減、西村早生(甘ガキ)が増加したのちの漸減などが特徴的である。CTSD炭酸ガス脱渋法の確立と普及がカキ生産に及ぼした影響は非常に大きく、刀根早生の生産増加、平核無(渋ガキ)の生産維持を可能にした。また、ハウス栽培も増加した。用いられた品種は初期は西村早生であったが、刀根早生が多く用いられるようになった。 なお、刀根早生は、平核無の早生枝変わり品種で、果実成熟期が2週間程度早生である。果実特性・

    樹性・栽培性などは平核無とほとんど同じである。 刀根早生の優秀性 カキ産業がほぼ維持できたのは、刀根早生によるところが大きい。安定生産しやすく、また、カキとしては収量性が高い。コストが低く、比較的安価で供給しても採算が合う。富有、平核無、次郎なども同様の性格を持っており、カキが他の樹種と比較して生産量の割に産出額の低いのもこの理由による。 刀根早生が増大したものの、富有・次郎などの品種の生産は、25年間に次第に減少した。富有・次郎の生産は 1983三年には 17.4万t(結果樹面積 1.31万 ha)であったのが、2003年には 10万トン(結果樹面積 1.03万 ha)に減少した。 新品種の必要性 刀根早生の生産も消費力に飽和しており、このままでは、今後は、これらの主要品種の需要は次第に

    減少していくと見込まれる。 生産者の収入を確保するためには、これらの主要品種の栽培については、省力化を図ってコストを下げ、できるだけ大きな面積の経営とできるようにすることが有効である。また、未熟な果実の提供を避け、高品質の果実を出していくことも必要であろう。 一方、消費者にとっては、カキの味はほとんどが富有・次郎・平核無の味である。商品として提供する品種をより多様化すること、そして、より消費者がおいしいと感じる新商品(新品種)を出していくことが有効である。他の樹種では品種が大きく変化している。 果樹研究所の育種 果樹研究所では、現在、多収で安定生産でき、より高品質のカキ品種(渋ガキを含む)の育成をめざして育種に取り組んでいる。「美味しいカキ」とは、「肉質が軟らかく、多汁で、糖度の高いカキ」と位置づけている。 どのようなカキも熟柿になると軟らかくなってしまうが、ここで「肉質が軟らかい」とは、果実が着色して食べられる硬さとなった時の硬さが軟らかいことを言う。果実硬度計で測定すると、平核無も太秋もほぼ同じ硬さである。どちらも軟らかいが、平核無はちみつで、太秋の肉質はさくさくとして粗い。ちみつか粗いかは、人によって好みがあり、それぞれに良いものと位置づけている。 果樹研究所で近年、育成した甘ガキ品種について簡単に紹介する。それらの主な特性は、表1・2に示した。 早秋 2000 年に育成した極早生の完全甘ガキ品種。西村早生より食味が優れる。果皮色が赤く、富有に近い甘ガキの味であるので、早生品種の刀根早生と区別性がある。

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    生理落果がやや多く、果形が乱れやすいので、摘蕾を葉蕾比 10とし、摘果(七月下旬)で果形の良い果実を選ぶよう心がけ、葉果比 20 程度とするとよい。摘蕾で大きい花を残そうとすると、果形が乱れやすいようである。生理落果には、受粉樹を入れること、二次伸びしかけた芽をかぐことが有効である。 甘秋 2002年に育成したやや早生の完全甘ガキ。糖度が一八度と高く、場合によっては 20度にもなる。これまでの主要経済品種にこのように糖度の高いカキはなく、需要があるものと見込まれる。なお、糖

    度を上げるには、早取りは不可で、果底部が着色する(カラーチャート富有用で4)まで収穫は待つのがよい。 単為結果力が高く、結実は安定している。花が小さいので、摘蕾・夏季の灌水を励行し、肥大を図るのがよい。陰芽がふきやすく、側枝の更新は容易である。雄花がつくので、強く剪定するとよい。 汚損果の発生(雲形状汚損)が多いのが欠点である。汚損した果実の軟化が早いことはない。 貴秋 2003 年に育成したやや早生の完全甘ガキ。平均 350gと、富有より大果でへたすき性がない。果汁は多いが、肉質はやや硬い。 松本早生富有と比べると少し渋残りしやすいので、より暖かい地方が適している。 陽豊 1990 年に育成した中生の完全甘ガキ。松本早生富有より樹勢が強く、収量性が優れる。単為結果力が強

    く、摘蕾すれば、結実に種子は必要ない。むしろ、種子ができると、花柱痕の部位に黒変・微小な果頂裂果ができるので、受粉させないのがよい。 日持ちが良く、果皮色も赤い。肉質が硬いので、流通中にやや軟らかくなると、食味が向上する。 太秋 1995 年に育成した中生の完全甘ガキ。現在、全国で 100ha 程度の栽培となった。400g程度の大果となり、食味は、肉質が粗く軟らかく、果汁がすこぶる多く、糖度もやや高いので食味が優れる。 果皮に条紋(輪紋)が出やすく、条紋の発生部位は糖度が2~3度高く、20度に及ぶ場合もある。条紋は、乾燥季に灌水し、夏秋季に果実をスムーズに肥大させることにより軽減できるものと見込まれる。へたすき性が少しある。 夕紅 1998年に育成した晩生の完全甘ガキ。果皮が著しく赤く、カラーチャート値で8以上になる。扁平な果形で種子はほとんど入らない。 肉質はちみつで、果汁もやや多く、糖度も富有より高い。 雌花の数が富有などより少なく、摘蕾労力は少ない。単為結果性が強く、早期落果は少ない。年と場所により9月の後期落果が生じる場合があるが、乾燥季に土壌の乾湿の差をつけないように灌水を行う

    ことが有効と考えられる。

    陽豊

    夕紅

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    表1.カキ育成品種と現在の主要経済品種の果実特性

    品種 甘渋性 果実成熟期 果実重(g) 果皮色果肉の褐斑

    肉質の硬さ

    肉質の粗密

    果汁の多少

    糖度(%)

    へたすき性

    条紋の多少

    汚損果(条紋以外)

    日もち性

    早秋 完全甘ガキ 9月下旬~10月上旬 250 紅橙 少 中 ちみつ 多 15 なし 極少 少 やや短い

    西村早生不完全甘ガキ

    9月下旬~10月上旬 230 紅橙 多 硬 あらい 中 16 少 なし 少 長い

    刀根早生 渋ガキ 10月上旬 230 黄橙 なし 軟 ちみつ 多 14 なし なし 極少 やや短い

    伊豆 完全甘ガキ 10月中旬 240 紅橙 少 中 ちみつ やや多 15 中 なし 多 短い

    甘秋 完全甘ガキ 10月下旬 240 橙 少 中 ちみつ 中 18 なし なし 多(雲形状汚損)

    貴秋 完全甘ガキ 10月下旬 350 紅橙 少 やや硬 中 多 15 なし なし 少 中

    平核無 渋ガキ 11月上旬 240 黄橙 なし 軟 ちみつ 多 14 なし なし 極少 中 松本早生富有 完全甘ガキ 11月上旬 270 紅橙 中 中 中 多 16 少~中 なし 少 やや長い

    陽豊 完全甘ガキ 11月上旬 280 紅橙 少 硬 ちみつ 中 16 少~中 なし 少 長い

    太秋 完全甘ガキ 11月上中旬 400 橙 少 軟 あらい 多 17 中 多 中 中

    富有 完全甘ガキ 11月下旬 280 紅橙 中 中 中 多 16 少 なし 少 長い

    夕紅 完全甘ガキ 11月下旬 270 紅 少 やや軟 ちみつ やや多 17 なし なし 少 やや長い

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    表2.カキ育成品種と現在の主要経済品種の樹性・結実性と栽培上の留意点

    品種 樹勢 雌花の多少 雄花の着生 早期落果

    後期落果 収量性 栽培上の留意点

    早秋 中 多 なし 中 なし~少 中

    受粉樹、二次伸長枝のかぎ取り、たんそ病、果形の乱れ

    西村早生 中 多(~中) 少(~中) 少 なし~少 中 受粉樹、雄花を着生させず、雌花を確保

    刀根早生 強 多 なし 少 なし 多 スリップス・晩霜害に注意、単為結果力強

    伊豆 中 多 なし 中 なし~少 やや低 受粉樹、二次伸長枝のかぎ取り、枝幹害虫加害

    甘秋 やや強 多 少 少 なし~少 中 雄花を着生させず、雌花を確保、単為結果力強

    貴秋 中 多 極少 少 なし~少 中 樹上軟化の発生をみることあり

    平核無 強 多 なし 少 なし 多 スリッブス・晩霜害に注意、単為結果力強.

    松本早生富有 やや強 多 なし 少 なし やや多

    陽豊 強 多 なし 少 なし 多 受粉させない、スリップスに注意、単為結果力強

    太秋 中 多(~中) 少(~多) 少 なし~少 中 雄花を着生させず、雌花を確保

    富有 強 多 なし 少 なし 多

    夕紅 強 中 なし 少 なし(~中) 中 後期落果をみる場合あり、単為結果力強

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    カキ「早秋」の特性と栽培技術 甘ガキには完全甘ガキと不完全甘ガキがあるが、望ましいのは安定して甘ガキを生産できる完全甘ガキ品種である。経済栽培されている甘ガキ品種は、中~晩生である「富有」、「次郎」およびその枝変わり品種が主

    体である。極早生の甘ガキとしては「西村早生」が栽培されているが、不完全甘ガキで脱渋性が種子数によって左右されることに加え、粗剛な肉質のために食味が劣る。早生の完全甘ガキの「伊豆」は収量性と果実の日持ち性が劣り、汚損果やへたすき果

    の発生が多いなど欠点が多い。これらの品種は、過去 20年間に早生の優良な渋ガキ品種の「刀根早生」の生産が大幅に増大したのに伴い、栽培が減少しつつある。 消費の多様化に伴い、「刀根早生」以外の品種の食味に対する需要もかなりあること

    から、優良な早生の完全甘ガキ品種が望まれてきた。「早秋」は、平成 12 年に発表された極早生の完全甘ガキであり、食味が優れ、へたすき性がほとんどないことから、注目されている。 育成経過 「早秋」は、農林水産省果樹試験場カキ・ブドウ支場(現、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所ブドウ・カキ研究部)において、「伊豆」に「109-27」を交雑して選抜された品種である。「109-27」は「興津2号」×「興津 17 号」の交雑実生から選抜された完全甘ガキの系統である。1988 年に交雑を行い、翌年に播種した。1990 年に「富有」を中間台木として高接ぎした。1992年に初結実し、1994年に一次選抜した。1996年より「カキ安芸津 13号」の系統名を付けてカキ第5回系統適応性検定試験に供試し、28 都県 29 ケ所の試験研究機関において栽培試験をいっせいに行って特性を検討した結果、有望と認められた。2000年 10月に「早秋」と命名され、農林水産省育成農作物新品種として登録された。2003年 3月に、種苗法による品種登録された。許諾を受けた 31の苗木生産業者により今年春より苗木生産が行われている。 特性の概要 果実の甘渋性は完全甘ガキである。果実成熟期は極早生で「西村早生」とほぼ同時期である。

    果形は扁平で、やや果形が乱れやすい。果皮色は赤く、「西村早生」と同時期の収穫でカラーチャート値平均 6.3であった。果実重は 240g程度である。果肉の褐斑は少なく、肉質はやや軟らかくて緻密であり、果汁が多く食味は良好である。糖度は 14~15%である。早生品種としては日持ち性が良く、育成地では 13日程度日持ちする。へたすき果の発生はほとんどない。汚損果はやや発生するが、育成地ではほとんど微小な条紋によるものである。微小な果頂裂果をやや生じやすい。 樹勢は強くない。樹姿は開張である。雄花は着生しない。雌花の開花期は「伊豆」とほぼ同時

    期で「富有」より早い。雌花の着生は多い。 単為結果力、種子形成力がともに高くなく、早期落果がやや多い傾向がある。通常の気象条件の年では、8月以降の後期落果、樹上軟化はほとんど生じない。

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    炭そ病にやや弱い。粗皮のあらさは中程度であり、「伊豆」ほどフタモンマダラメイガの被害は受けない。 適地及び栽培上の注意点 完全甘ガキであり、夏秋期の気温の高い地域に適応し、「松本早生富有」、「富有」、「次郎」、「前川次郎」栽培地域で栽培できる。東北地方南部、北陸地方、高冷地などでは、渋残りが生じるこ

    とがある。 栽培上のポイント この品種を栽培する上では、果実の生理落果(6~7月)をさせないこと、炭そ病の防除を行うこと、汚損果を発生させないことに留意する必要がある。また、樹勢があまり強くないので、あまり樹冠拡大をせず、強めの剪定をするのがよい。短い結果母枝を多く残すと、そのほとんど

    に花が多く着き、摘蕾の労力が多くかかることになる。 <生理落果防止> 6~7月の生理落果の多少は、果実の「種なしで実止まりする力+種子の数」で決まる。種子が多いほど少なくなる。 種なしで止まる性質は単為結果力と呼ばれ、品種の遺伝的な性質の影響が大きいが、天候によ

    って大きく変動し、6~7月の日射量が多いほど強くなる(山田ら、1987、参照)。果樹研究所における調査では、現在のところ、「早秋」の遺伝的な単為結果力は高くない。また、この単為結果力は、摘蕾をすると強くなる。この効果は大きい。これは果実に養分が来るほど生理落果しにくいためである。 「早秋」は果形が乱れやすい特徴がある。これは花の時期にすでに決定しているため、よく観察して摘蕾すればよいが、摘蕾という作業は迅速にこなさねばならない作業であり、花をよく見

    ることは一般にできない。したがって、やや多く花を残して7月下旬の摘果時に果形のよい果実を残したい。 早期落果がやや多いことと、果形の乱れやすいことから、一般に、仕上げ摘果時に残す果実数の2倍の果実を摘蕾時に残せば良い。七月下旬の仕上げ摘果で葉果比二0とすると、摘蕾時の葉蕾比は 10程度となる。これは一結果枝一蕾とした上に、かなりの新梢を空枝にすることになる。これ以上、花を残しても、生理落果が多くなるとともに果実が小さくなるので、望ましくない。

    なお、摘蕾時に大きい花を残そうとすると、果形が乱れやすい傾向があるようである。やや小さめでも新梢のやや先の花のほうがよいかもしれない(摘蕾すれば、その後に養分が集中し、通常の気象条件では 250g程度の果実は得られる)。このことは、今後、さらに検討されるべきである。 「早秋」の花は非常に多いので、一般に摘蕾時に葉蕾比が小さくなりやすい。葉の数を数えて、

    葉蕾比の感覚をつけながら摘蕾するとよい。また、花が非常につきやすいので、長い結果母枝は切り返してもよい。 単為結果力は日射量でも相当変動し、年次変動は大きい。適度に摘蕾された「富有」では、種なしでほとんど止まる年もある。 「早秋」は、「伊豆」に似て、開花前に新梢の先端が停止したのち、6月に二次伸びしやすい。新梢が二次伸びすると果実と新梢との養分競合が起こるので、二次伸びしかけた時にそれをかいで、伸長させないのが良い。 「早秋」が種子を作る力は強くないので、受粉樹を多く入れるのが良い。受粉樹は「禅寺丸」

    と開花期が良く適合するため、花粉量・花粉の活力の優れる「禅寺丸」が良い。また、ミツバチ放飼をするなどして訪花昆虫の数を増やすのも有効である。 適度な摘蕾、受粉条件の充実、二次伸びをかぐ、という管理を行うことにより、果樹研究所に

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    おける栽培では「早秋」の生理落果は問題になっていない。 <炭そ病防除> 「早秋」はもともと炭そ病に強くないので、「富有」より1~2回、防除回数を増やす必要がある。特に梅雨時に二次伸びさせると、炭そ病がつきやすいので注意が必要である。 <汚損果> 汚損果の発生については、試験年数が短く十分明らかではないが、これまでの試験では「西村早生」並みかそれよりやや多い結果となっている。しかし、汚損の様相が異なっており、一般の汚損ではなく、微小な条紋による場合が多い。条紋は秋季に果実が肥大していく時に生じる果皮の亀裂であると考えられ、灌水を夏季より励行して秋季にスムーズな肥大をさせることが有効であろうと思われる。カキ・ブドウ支場では十分な灌水を行うことにより条紋の著しく生じる品種

    である「太秋」の条紋が著しく少なくなっており、この制御についてはさらに検討が必要である。 また、一般の汚損は、降雨、高湿度によって生じるので、通風を良くし、園内の湿度を下げることが有効である。 参考 山田ら、1987、カキの結実性の品種間差異とその年次変動.園芸学会雑誌 56:293-299.

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    カキ「太秋」の剪定 太秋は、1995年に品種登録された果樹研究所育成のカキ品種であり、現在、100ha 程度栽培されている。平均 400g程度の生産が可能な大果の完全甘ガキである。果汁が多く、肉

    質が軟らかい上に粗くさくさくとしており、今までにない食感のカキで、糖度も富有より高い。食味が優れると評価されているが、雄花が多く着きやすいために雌花が少なくなりやすいこと、果皮に条紋という筋が入りやすく外観が落ちることなどの特有の問題がある。 ここでは雄花をつけさせず、必要な雌花の量を安定して確保する剪定の考え方について提案したい。 カキの剪定一般 カキの剪定の考え方と用語について、共通の理解の上で記述する必要があるので、まず、それについて考え方を示したい。 カキの樹は、冬季に見ると、一般に、主幹、主枝、亜主枝、側枝、結果母枝に分かれる(図1)。主幹、主枝、亜主枝は骨格枝と呼ばれ、切り落とすことはない。 骨格枝の上に乗っているのが、側枝と結果母枝である。この2つは樹形を維持しながら切り落とす枝である。側枝をもとから切り落とすことを側枝の更新と呼ぶ。 カキの剪定の目的は、①結果母枝数を減らし、翌年、伸びる芽の数を減らすことにより、貯蔵養分を残した芽から伸びる新梢に集中させて適度に強い新梢と大きな花を得る。②光が樹全体に

    まんべんなく当たるようにし、効率的な光合成を行う。③作業性に優れた樹形とする。これらを樹の生理と人間の都合の妥協をはかりながら行っていくことになる。 カキは春期は貯蔵養分主体で生長する。養分転換期は少なくとも開花期以後と考えられており、その年の新梢のかなりの部分は貯蔵養分で作られる。冬季の剪定は、貯蔵養分の出口である芽の数を減らし、芽に養分を集中させている。 貯蔵養分は結果母枝には無く、太い枝である骨格枝や根に入っている。したがって、結果母枝

    を冬季にいくら落としても樹は弱らない。強く剪定しすぎると、芽が減りすぎて貯蔵養分が余り、二次伸びや徒長枝となって貯蔵養分が使われる。 また、骨格枝や側枝の旧枝部分は自分は光合成をせず新梢で作った養分を奪い取って新梢より

    主幹亜主枝

    主枝側枝

    結果母枝 主幹亜主枝

    主枝側枝

    結果母枝

    亜主枝

    主枝

    亜主枝

    亜主枝

    主枝

    亜主枝

    図2.通常のカキ樹の平面図(模式図) 図1.通常のカキ樹を構成する枝(模式図)

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    雄花雄花

    雌花

    雌花

    雄花雄花

    雌花

    雌花

    も太る。したがって、骨格枝はそのままとせざるをえないが、側枝の旧枝部分はできるだけ少ないほうが効率的であり、側枝の更新を行うことになる。老木化すると樹勢が弱るのは、骨格枝が太くなることが要因である。 最も光合成の効率の良い葉の量は、葉の延面積が園地の面積の2~2.5 倍(葉面積指数2~2.5)と考えられており、葉が均一に配置されるように剪定と整枝が行われてきた。上から見ると枝は重ならない(図2)。 太秋の特徴 太秋は雄花が着きやすい特徴がある。雄花は弱い結果母枝につきやすいので、雌花を確保するためには収量を得るのに必要な数の強い新梢を結果母枝として確保できればよい。 およそ 40~50cmの新梢を結果母枝として用いると雌花になる。 しかし、太秋は、①頂芽優勢が強く、先端の芽しか強く伸びにくい、②陰芽がふきにくい、③

    樹勢が富有などより強くない、という特徴がある。 雌花の着く枝を確保するためには、樹勢を強めに維持することが、まず必要である。 太秋では 30cm くらいの結果母枝では先端の2芽しか雌花は着かず、あとは雄花がついてしまうという例も多い。その雄花の着いた新梢は長さ 20cm 以下となり、それ以降の雌花の着生は期待できない場合が多い。場合によっては弱い雄花着生枝は枯死することもある。 側枝の長大化と更新 一般に雄花が着いてしまった新梢を結果母枝としても雌花が着くことはむずかしい。側枝先端の強い枝にしか雌花がないので、花追い剪定をせざるを得ず、側枝が長大となりやすい(図3)。また、雌花が着くためには勢いがあることが必要であり、上向きの側枝を使わざるをえず、この点でも側枝は早く長大となりやすい。 そこで側枝を更新する必要が出る。富有などでは、側枝を更新し、更新した箇所から陰芽が吹

    いて、翌年の結果母枝となる。しかし、太秋で長くなった側枝を落として更新しようとしても陰芽が吹きにくい。また陰芽の出る時期が遅く、その年には花芽をつけない場合も多い。その場合は、吹いた枝を果実生産に利用しようとすると、切り戻して側枝化しなければならず、さらに一年を要する。

    図3.太秋の側枝における雄花着生の例

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    太秋は切り口も西村早生や富有より癒合しにくい。トップジンMペーストなどを切り口に塗るとよい。また、側枝の更新に当たっては、切り口をきれいに切って癒合促進剤を塗るのが通常であるが、太秋の側枝の更新時には、陰芽を除かないようにわずかに切り株を残して癒合促進剤を塗るほうが吹きやすいものと思われる。 大きくなった側枝を元から切らず、元の近くまで強く切り返す方法もある。枝と樹の勢いが適当であると、適度な長さの新梢が得られる。しかし、太秋は頂芽優勢が強く、もとのほうには枝

    が無いか、弱小な雄花着生枝しかないことが多い。 雄花は樹齢が進むほど着きやすくなる。高接ぎ更新した場合も、苗木から育成した樹と比べ、早くに雄花が着きやすくなる。これは太い骨格枝が養分を使ってしまうことによると考えられる。 予備枝と樹勢を強く維持する このような状況では、残した新梢のほとんどを結果母枝として利用する考え方ではなく、その

    年には果実がないが翌年には結果母枝となる新梢を出させるための「予備枝」を常に確保しておくほうが良い。 太秋の栽培では、樹勢を強く維持するとともに、予備枝をおくことが有効である。 樹勢が比較的強い場合は予備枝として切りつめた枝から強い結果母枝が確保できる(写真1)。大きくなった側枝を、元にある弱小な枝まで強く切り戻して強い新梢の吹くのを期待する方法もある。 樹勢が弱いと、予備枝として残した枝から強い新梢が出ず、雌花の着く結果母枝を確保できない場合が多い。 樹勢を強く維持するためには、強めの剪定をすることに加え、樹冠を広げないことが重要である。逆にいえば、樹を小さく押し込めば強い新梢が得られやすい。 カキ栽培の現在の栽植距離は、樹があばれないように維持

    するための距離であるともいえる。富有では 5.5×5.5mの 10aあたり 33 本植えは一般的であろう。太秋は富有より樹勢が弱いので、70本植えかそれ以上のほうが適当ではないかと

    思われる。密植から始めて、樹勢を見ながら間伐程度を検討するのがよい。 33本植えの場合、一本の樹に主枝3本に亜主枝が3本で6本程度の骨格枝が適当である。この計6本の骨格枝に1つの根が着いている(図2)。 密植した場合は、33本植えの場合と同じ数の骨格枝があってそれぞれがミニチュア化するということではなく、一般に、密植程度に応じて骨格枝の数を減らす。 同じ大きさの骨格枝があることを考えれば、70本植えならば主枝3本で亜主枝無しということになる。太秋は平核無などと異なり、横向きには枝が伸びにくいので、亜主枝のない樹形のほうが作りやすい。 あとは、必要な結果母枝を骨格枝の上にのせていくことになる。40~50cm 程度の結果母枝ならば3果を結実させられる。すなわち、平均果実重を 333gとすると、一つの結果母枝あたり1kgを結実させると見込むことができる。収量を 10 aあたり2tとすると、70本植えならば1樹あたり 29kg、3本主枝ならば1主枝あたり 10kg程度を結実できればよい。すなわち、1主枝あたり最低 10本の結果母枝を確保する必要がある。それ以外の枝は予備枝とし、剪定を強く行えばよい。陰芽がふきにくいので、定芽を使うこととし、短めに切り返す。予備枝となる枝の数(芽の数)を十分に確保する必要がある。これで、夏に葉面積指数2~2.5 程度が維持できればよいこと

    写真1.太秋の予備枝の例

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    写真2.骨格枝上の株状の予備枝群(主幹形棚栽培、果樹研究

    写真3.主幹形密植棚栽培の太秋(果樹研究所)

    になる。 予備枝から翌年に必要な数の長めの結果母枝が確保できない場合、樹勢が弱いことが考えられる。樹勢を強めるには収量を減らす、樹冠を縮める、土壌改良をする、施肥を少し増やすなどが考えられる。カキの根は肥料やけを起こしやすい。根が焼けると、特に若木では二次伸びした新梢の先が黒

    く枯死する。 長すぎる少数の新梢しかない場合は、予備枝として伸びられる芽の数が少ないことが原因であろう。貯蔵養分をもらえる上向きの予備枝の芽を多く残さねばならない。 とはいっても太秋は芽が吹きにくく、予備枝の確保が容易ではない場合が多い。このためには、初めに仕立てる時に骨

    格枝上の側枝の元にいつでも芽の吹いている予備枝群を作っておくとよい(写真2)。この予備枝群は毎年、骨格枝に近く強く切り戻す。側枝を更新したり、側枝を強く切り返す時、それらの芽を結果母枝として用い、側枝化できる。 このような骨格枝上の予備枝群は、初めに仕立てる時から作らないと、思うようなところに作ることは難しい。すなわち、いったん、芽をなくしてしまうと、樹齢が進んでから芽を出すのは

    容易ではない。 太い側枝ばかりとなり、それらの先端にしか雌花が無くなってしまった場合が最も悪いケースであるが、この場合は一年結実を休み、樹全体に著しい強剪定を施して樹形を作り直す。そうすると、骨格枝または側枝の基部から芽が吹いてくる。部分的に強い剪定をしても、十分に芽が出ない場合が多い。 これまで、樹勢が弱いことを想定して栽植密度を上げることを述べてきたが、強すぎた場合は、

    夏季剪定によってエネルギーをそいで適正な葉面積指数とする。また、間伐や樹冠を広げることを検討する。 オプション=隔年交互結実栽培 このような予備枝剪定をより簡略化したものに、1年おきに結実させる隔年交互結実栽培がある。1

    年は予備枝ばかりとするものであり、剪定は単純である。これについては和歌山県かき・もも研究所で成果を上げられている。 当果樹研究所でも10 a あたり200本植えの主幹形による隔年交互結実棚栽培を行っている(写真3)。結実年の収量3tを目安としている。10 a あたり 200本植えは、33本植えの時の骨格枝数(1樹あたり6本)にすべて根を生やした形であり、究極の密植といえる。主幹上に 50cmおきに芽の出る予備枝群を作り、その中の新梢を結果母枝として用いている(写真2)。 ここまで密植すると、樹勢は強すぎ、それを抑え

    る必要がある。樹勢を抑えるには、冬季の剪定を軽くしたあと、摘蕾・摘果時等に夏季剪定して、適正な葉の数に減らす。また、収量を増やす。棚が

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    あるため、若木のうちから多く結実させても倒れない。 前述したように、カキの場合は、適正な葉面積指数は2~2.5程度である。主幹形は並木植えとなり、樹冠あたりの葉面積は多いが、通路からの反射光が有効に働く。園地全体としての適正葉面積指数は、主幹形としても通常の開心自然形としても大きく変わらない。 棚栽培 日本におけるカキ栽培は、これまで棚を用いず、果実が成っても折れないよう、大きな骨格枝を作ってから果実を結実させてきた。しかし、最近は、カキにも平棚栽培も普及してきた。 棚栽培とすれば、果実が成っても倒れることはなく、骨格枝のしっかりしていない若木でも十分に結実させられる。若木では骨格枝が細いぶん旧枝を養うエネルギーが少なく、多くの果実を結実させられる。 太秋は果実が大きく、また、枝が硬いため、枝が折れやすい。秋季には側枝や結果枝をつりた

    い場合も多い。この点でも棚があると、作業は容易である。 台風とカメムシに泣くことが多い昨今のカキ栽培であるが、棚栽培では防風防虫ネットをかけることができるメリットもある。 その他の問題 太秋には、このほかに条紋などの問題もある。条紋は秋季の肥大時の果皮の微小な亀裂である。

    条紋の制御は今後の課題であるが、夏の乾燥期から十分に灌水して肥大させるとともに、秋期の土壌水分を適当にして、秋に急激な肥大をさせないこと、また、十分な数の果実を結実させ、一つの果実に及ぼす土壌水分変化の影響を少なくすることが有効であろうと筆者は考えている。 8月以後の後期の生理落果も一部の場所で少し起こっている。後期落果は土壌の乾湿の差が大きいと生じることが知られている(薬師寺、2004)ので、夏季に十分な灌水を続けることが有効と思われる。

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    カキ「甘秋」の特性と栽培技術 甘ガキには完全甘ガキと不完全甘ガキがあるが、望ましいのは安定して甘ガキを生産できる完経済栽培されている完全甘ガキ品種は、中~晩生である富有、次郎およびその枝変わり品種

    が主体である。早生の完全甘ガキとしては、伊豆が栽培されてきたが、伊豆は結実性・収量性や果実の日持ち性が劣り、汚損果やへたすき果の発生が多いなど欠点が多いため、早生の優れた甘ガキ品種開発の要望が強い。 農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究

    所では、食味が優れ、へたすき性がない極早生の完全甘ガキ品種として 2000 年に早秋を発表し、命名登録された。これに続き、熟期は伊豆よりややおそいが、糖度の高い早生の完全甘ガキ品種、甘秋を育成した。 育成の経過 甘秋は、やや早生で食味が優れるが汚損果と果頂軟化の発生の多い完全甘ガキ品種の新秋を母親とし、それに中生で果頂軟化を発生しない完全甘ガキ系統である「18-4」を父親として交配した実生の中から選抜された品種である。なお、「18-4」は富有、花御所、晩御所を祖先に持つ系統である。 1986 年に交配を行い、1987 年に播種、1988 年に結果促進のために富有に高接ぎした。1994年に一次選抜した。1996年よりカキ安芸津 14号の系統名を付けて全国 27都県 29ケ所の試験研究機関において特性を検討した結果、選抜された(カキ第5回系統適応性検定試験)。2002 年9月に甘秋と命名、かき農林 10号として農林登録された。また、種苗法に基づいて 2005年 3月に品種登録された。現在、許諾を受けた 30以上の苗木生産業者により苗木生産されている。 果実の特性 果実の甘渋性は完全甘ガキである。果実成熟期は早生で、伊豆と松本早生富有の中間の時期である。果形は扁平で、果実重は松本早生富有より小さく、伊豆と同程度である。果皮色はあまり赤くなく、育成地では果頂部のカラーチャート値で五・五程度である。 適熟果の肉質は緻密で、果汁の多さは中程度である。糖度は高く、育成地では、伊豆より 2.8度(゚ Brix)、松本早生富有より 1.5 度高く、赤道部で 18 度程度であり、食味は良好である。果頂部は果底部よりやや早く成熟する傾向があり、糖度も高い。日持ち性は良く、育成地(広島県東広島市安芸津町)では常温で一六日程度日持ちする。全国の試験では平均 15日、日持ちし、伊豆より長く、松本早生富有より短いという結果であった。へたすき果、果頂裂果はほとんど発生しない。 果皮に雲形状汚損の発生が多い。汚損果発生率は、全国二七試験研究機関の平均値で 40%であり、伊豆(20%程度)よりもかなり高かった。親である新秋は、汚損の発生とともに果頂から軟化するため露地栽培が困難であるが、甘秋はこのような軟化は生じない。 品種特性と栽培方法

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    樹勢は中程度で、樹姿は開張と直立の中間である。雌花の着生は多い。雌花の開花期は松本早生富有とほぼ同時期である。 生理落果は、早期落果(六~七月)は少なく、結実が安定している。後期落果(八月以降)はほとんど生じない。 カキの早期落果は品種によるちがいが大きく、種なしで実止まる「単為結果力」が強いほど、また、種子が多くできればできるほど実止まる。したがって、「単為結果力」と「種子形成力」の

    二つの要因が合わさって品種間差異が決まる。どちらかが高ければ安定生産が可能である。平核無は単為結果力が強く、富有は種子形成力が強い。摘蕾をすれば、また、梅雨期の日射量が多ければ、同じ品種でも単為結果力が強くなる。 甘秋は単為結果力が強く、また、種子形成力も強いので、結実は安定している。 このため、摘蕾を十分に行い、果実の肥大を図るのがよい。甘秋の花は小さい。できるだけ大きい花を残すようにする。長大な新梢に結実した果実は小さくなるので注意する。摘蕾は一新梢

    一蕾で葉蕾比 13 程度とし、七月下旬の摘果で葉果比 20 とすればよい。葉蕾比 13 は摘果終了時の 1.5 倍の花を残すことになる。この管理で梅雨明け以後の夏季の灌水を励行することにより、果樹研究所では 1997~2001年の五か年の平均果実重は 244gであった。 へたすき、果頂裂果はほとんど生じないので、これを考えた栽培管理は必要が無い。 雄花がわずかに着く。しかし、樹齢とともに増加する可能性も考えられるので、剪定に当たっては、弱い結果母枝は落とし、強めの剪定を心がけるのが良い。陰芽が吹きやすく、側枝の更新

    は容易である。積極的に側枝を更新し、強めの新梢を出させるのがよい。 病害抵抗性は特に問題はなく、富有に準じた防除を行うとよい。 甘秋の栽培で問題となるのは、汚損果の発生であり、特に雲形状汚損である(条紋はほとんど発生しない)。果頂部にも果底部にも発生する。この発生機構については十分に解明されていないが、屋根かけ栽培(雨に当てない)では発生が非常に少ないことから、降雨によるものが大きな原因と思われる。 また、雲形状汚損は、日射(紫外線)も要因である。果樹研究所における試験では、果底部の雲形状汚損は袋かけ(ブドウ用袋または紫外線カット袋)をすると発生しなかったことから、日射が発生要因となっていると見られる。 一方、果頂部の雲形状汚損については袋をかけると無処理よりむしろ増加したので、袋内で過湿となったことが要因と思われる。 現在のところ、雲形状汚損を容易に制御する技術は確立されておらず、今後の検討課題である。

    しかし、果実の糖度が高く、日持ちも良く、食味良好な早生の甘ガキであるので、販売方法によっては有利な販売も可能であろうと思われる。 この品種特有の、高い糖度のカキを得るには、早取りをせず、樹上で熟させた果実を収穫するのがよい。育成地では果底部のカラーチャート4での収穫がよい。果底部が青い果実では糖度・肉質ともに劣る。 適地 甘秋は完全甘ガキであり、夏秋期の気温の高い地域に適応し、一般に松本早生富有、富有、次郎、前川次郎栽培地域で栽培できる。 完全甘ガキの気温に対する適応性は、成熟に必要な秋季の温度と、樹上における自然脱渋に必要な夏秋期の温度の二つの要因による。甘秋の地域適応性は、富有、松本早生富有より広く、試験の結果、北陸地方の一部地域でも渋残りはなかった。東北地方南部、高冷地、内陸部などでは、

    年により渋残りが生じた。

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    カキ「貴秋」の特性と栽培技術 商品生産されている完全甘ガキ品種は、中~晩生である富有、次郎およびその枝変わり品種が主体である。早生の完全甘ガキとしては、伊豆が栽培されてきたが、伊豆は結実性・収量性や果実の日持ち性が

    劣り、汚損果やへたすき果の発生が多いなど欠点が多いため、早生の優れた甘ガキ品種開発の要望が強い。 農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所では、2000 年に食味が優れ、へたすき性がない極早生の完全甘ガキ品種・早秋を、2002 年に、熟期は伊豆よりややおそいが、糖度の高い早生の完全甘ガキ品種・甘秋を育成した。 これに続き、熟期は伊豆と松本早生富有の中間で、大果の完全甘ガキ品種・貴秋を育成した。 育成の経過 貴秋は、伊豆を母親とし、それにへたすき性は強いが、やや早生で大果の完全甘ガキ系統である「安芸津5号」を父親として交配した実生の中から選抜された品種である(図1)。 1984 年に交配を行い、1985 年に播種、1987 年に結果促進のために富有に高接ぎした。1994年に一次選抜した。 1996年よりカキ安芸津 15号の系統名を付けて全国 28都県 29ケ所の国公立試験研究機関において特性を検討した結果、選抜された(カキ第五回系統適応性検定試験)。2003 年9月に貴秋と命名して発表された。現在、種苗法に基づく品種登録を出願中である。

    図1. 貴秋の系統図

    伊豆

    富有

    富有

    晩御所

    晩御所

    晩御所

    花御所

    興津1号

    興津 16号

    安芸津5号

    貴 秋

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    果実の特性 果実の甘渋性は完全甘ガキである。果実成熟期は早生で、伊豆と松本早生富有の中間の時期であ

    り、育成地(広島県東広島市安芸津町)では10月下旬である。果形は扁平で、果実重は富有より大きく、育成地では平均350g程度であった。松本早生富有は平均260g程度であったので、約90g重かった。 果皮色は赤く、伊豆と松本早生富有と同程度である。果皮色のカラーチャート値は、全国25試験研究機関の平均で5.9であり、松本早生富有と同じであった。 適熟果の肉質の粗密は松本早生富有に近いが、硬さは松本早生富有より硬い。糖度は中程度で、全国二五試験研究機関の平均で 15.1 ゚Brixであり、松本早生富有よりやや低い。果汁の量は多い。収穫後、数日すると、やや軟らかくなって食べやすくなる。 日持ち性は、育成地では常温で一五日程度日持ちし、伊豆より長く、松本早生富有より短かった。 伊豆および松本早生富有は「へたすき果」が発生しやすいが、貴秋はへたすき果はほとんど発生しない。果頂裂果は微小なもの以外はほとんど発生しない。 汚損果の発生は、全国23試験研究機関における平均で25%であり、松本早生富有の15%よりやや高かった。 品種特性と栽培方法 樹勢はやや弱い。樹姿は開張と直立の中間である。結果母枝は太い。雌花の着生は多い。遅れ

    花は少し着生する。また、雄花をごくわずかに着生する。展葉期および雌花の開花期は松本早生富有よりやや遅い。 生理落果は、早期落果(6~7月)は少なく、結実が安定している。後期落果(8月以降)は、全国の試験の結果、大半の場所で無いか、あっても5%以下であった。したがって、通常の年ではほとんど問題とならないと考えられる。しかし、育成地では、収穫前に樹上軟化が発生した年があった。樹上軟化は後期落果の一種であると考えられるので、その発生には土壌水分との関係

    が示唆される。 カキの早期落果は品種によるちがいが大きく、種なしで実止まる「単為結果力」が強いほど、また、種子が多くできればできるほど実止まる。したがって、「単為結果力」と「種子形成力」の二つの要因が合わさって品種間差異が決まる。 どちらかが高ければ安定生産が可能である。平核無は単為結果力が強く、富有は種子形成力が強い。摘蕾をすれば、また、梅雨期の日射量が多ければ、同じ品種でも単為結果力が強くなる。 貴秋は単為結果力が弱く、種子形成力が強い。そのため、受粉樹のある条件では結実は安定すると見込まれる。開花期の合う受粉樹を栽植するとよい。なお、貴秋の種子は、次郎のように、果実発育後期には退化しやすい。 貴秋は、樹勢があまり強くないので、やや密植するとともに、強めの剪定がよい。枝の長さもあまり長くなく、下垂もしにくいので、剪定しやすい。これまでの試験では雄花がわずかに着生するので、強めの剪定を行い、強い母枝を確保するとよい。陰芽がよく発芽するので、側枝の更

    新を積極的に行うとよい。 収量性の解明は今後の課題であるが、富有より樹勢がやや弱いことから、収量性も富有よりやや低いと見込まれる。 当面、富有に準じて管理するとよい。七月の摘果では葉果比 20~25 程度にするとして、受粉樹のある条件では、その 1.5 倍程度の花を残すようにする。すなわち、一結果枝一蕾とした上で

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    さらに摘蕾し、葉蕾比 13~16程度とするとよい。 病害抵抗性は特に問題はなく、富有に準じた防除を行うとよい。なお、若葉における農薬の薬害は富有より発生しやすい。 適地 貴秋は完全甘ガキであり、夏秋期の気温の高い地域に適応し、一般に富有、次郎栽培地域で栽

    培できる。松本早生富有よりやや渋残りしやすいので、気温の比較的低い地方における導入には、注意が必要である。

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    平成17年度「高度先進技術研修」(資料)

    カキのわい化と低樹高栽培

    果樹研究所ブドウ・カキ研究部栽培生理研究室

    薬師寺 博 1.はじめに カキは高木になりやすい樹種であり、大木仕立ては成果期の長期維持や反収の増加に有効であった。しかし、近年では栽培者の高齢化や婦女子化が進んだため、脚立を使用した摘らい・摘果や収穫、剪定などの高所作業は困難になっている。また、省力・軽労化の要望も高まり、低樹高

    化栽培に大きく移行している。 樹の低木化には、整枝・剪定による樹高の切り下げが一般的であるが、強剪定になりやすく樹勢が落ち着かない問題点がある。樹勢制御法としてポット樹を用いた主幹垣根仕立ての根域制限栽培法が試験され、一部の農家に普及している。最近では、福岡県が棚仕立ての有効性を実証し、福岡県を中心に広く普及しつつある。 このように実用的な低樹高栽培法が確立される一方、多額の設備費を必要としないわい性台木

    の要望も依然として根強くある。リンゴのわい性台木の開発に比べると歴史は浅いが、カキについても戦後より各公立研究機関で各種の試験が取り組まれ、今日まで継続している。残念ながら現地での普及には至っていないが、有望系統の収集・選抜、増殖技術の改善および遺伝子組換え体作出など研究は着実に進展している。本研修では、カキのわい性台木に望まれる特徴や問題点、これまでの試験の経緯および最近の研究成果について紹介したい。

    わい化栽培の利点と欠点 わい性台木を利用した果樹栽培の利点として、①作業の効率化、②早期成園化、③果実品質の向上がある。リンゴやモモでは共台に比べて、果実が大きく、糖度が高まり、熟期も早まる傾向がある。この理由として、新梢伸長が弱く、果実へ同化産物の転流・分配が改善されるためと考えられている。 欠点としては、接ぎ木不親和があり、活着率が低いだけでなく、栽培後に枯死する個体もある。

    不親和の原因として、異種タンパク質認識機構の介在、接ぎ木部の不十分なカルス形成と通導組織の未発達、植物生長調節物質のバランスなど考えられるが不明な点が多い。モモではユスラウメ台にすると、果実に渋味が生じる例が知られる。一般にわい台は根群が浅いので、湿害、干害、風害などを受けやすく、土壌病害にも弱い傾向があり、その栽培特有の管理が必要となる。 わい性台木に望まれる条件

    一般に、カキのわい性台木に望まれる条件として、①台木と穂木の親和性が高いこと、②理想的な樹高は2~3mであり、小樹幹であること、③樹冠容積当たりの果実生産性が優れること、③充実した結果母枝が安定的に発生し、隔年結果しないこと、④密植栽培が前提となるため、早期に結実すること、⑤土壌や環境条件など適応性が広いこと、⑥樹勢が低下しないこと、⑦果実品質が優れること、⑧増殖が容易であることなどが挙げられる。 現時点では、これら全ての特徴を兼ね備えたわい性台木の系統は育成・選抜されていないが、各課題を解決すべく研究は継続

    して実施されている。 わい性台木候補の探索・収集

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    現時点ではカキのわい化機構は未解明であるため、わい化栽培の技術確立の手順として、わい性台木の探索・収集、増殖法の確立、わい化効果や果実品質への影響解明、最後に実証試験となる。 ①実生台木由来の系統 一般的にカキは挿し木、取り木、株分けなどの栄養繁殖が困難なため実生苗を台木(共台)して増殖してきた。台木実生間に遺伝的な変異があるため、穂木の生長にも影響がでる可能性があ

    る。カキの場合、実生由来の遺伝的変異を反対に利用し、栽培園からわい性台木候補を収集・増殖し、試験に使用してきた。愛知県では「富有」園から合計 22 系統(Ac シリーズ)を選抜し、わい化効果を試験している(木村ら,1985)。また、三重県と静岡県では「次郎」のわい性樹からわい性台木候補を探索・収集している。 ②枝変わり由来のわい性系統 カキにおいても枝変わりによってわい性になった系統が発見されている。これまで、「わい性西村」(文室,1997)やスパー型の「スパー富有」や「スパー平核無」が発見され、その特性が調べられている。これらはカキのわい化機構の解明で有効な研究材料になると考えられる。 ③交雑育種 カキではわい性台木を目的とした系統的な交雑育種は実施されていない。「禅寺丸」や「赤柿」の自殖実生を台木にすると、生育が劣り、小樹冠となった接ぎ木樹が 40~50%の高頻度で出現したことから、自殖実生からわい性樹の現れる割合が高いとする報告例もある。カキの場合、雄花

    着生は品種によって制限があるが、育種素材の開発には有効な知見である。 わい性台木試験 ①既存品種の台木利用 新潟県では早くから「平核無」に適したわい性台木の試験を行い、「小成場柿」、「横谷甘柿」および「かねつき柿」でわい性効果を認めている。岐阜県では、「富有」で「小成場柿」と「横

    谷甘柿」の台木試験を実施しているが、わい化効果は確認できたものの、収量が少なく実用性に問題点があると指摘している(松村,1998)。 果樹試験場では、カキ属の「ラオヤーシ」(姫柿:Diospyros rhombifolia)を台木した「富有」の試験を行った(Yamada et al., 1997)。「ラオヤーシ」台では強い台負けが生じ、強いわい性効果が確認できた。しかし、果実の生産性や接ぎ木親和性など問題点があり、実用化には至っていない。

    ②中間台木の利用 中間台木に関する試験は、台木試験に比べて試験材料を比較的簡単に確保しやすい点から、これまで多くの試験が実施されてきた。 岐阜県では「富有」を穂木とした数品種の中間台木試験を行い、わい化効果と収量性から「西村早生」が適していると報告している。新潟県では「伊豆」を中間台木とした場合、「平核無」でのわい化効果を認めている(大竹・杉本,1993)。愛知県では「筆柿」や「しだれ柿」などを用いた中間台木試験を「富有」に対して実施した。その結果、「しだれ柿」で最も樹冠容積が小さくなったが、同時に累積収量も少なかったと報告している。広島県では「ラオヤーシ」と「舎谷柿」の二重接ぎ中間台に「西条」を接いだ試験を行っい、接ぎ木樹の中間台が台負けし、生育が抑制されたと報告している(磯田,1990)。 最近のわい性台木試験

    ①組織培養由来のわい性台木 カキの場合、わい性台木候補の増殖は根挿しを利用してきた。しかし、すべての品種ではないが、組織培養による増殖が数多く品種で可能となっている。わい性台木においても、組織培養に

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    よって増殖した苗木を育成しわい性台木試験が実施されるようになってきた。 鎌田ら(2004)は「前川次郎」の圃場から樹勢の異なる4個体を選抜し、台木系統の母樹とした。各台木系統の休眠芽を茎頂培養し、接ぎ木用台木を再生した。組織培養由来の台木候補系統に「前川次郎」を接ぎ木し、7年間の調査結果を報告している。その結果、試験管内で増殖したわい性台木系統を用いた台木試験においても母樹と同様にわい性効果が再現されている。特に、台木系統の S-16 は植え付け後3年目でも樹高が3m至らずわい性効果が高かった。また、植え付け早期からの結実性が優れ、1樹当たりの着らい数も多かった。さらに、生産力の指標になる主幹断面積当たりの収量も他の台木系統よりも高かった。わい化に伴う果実重や糖度も対照区と差がないことから、わい性台木としての有望性が高いとしている。 輪田ら(2004)も「前川次郎」園でわい性を示す台木を根挿しして、発生した新梢の腋芽を組織培養し数系統を増殖している。これらの再生植物を「前川次郎」の台木に用いた試験を報告している。その結果、Y17 台木は樹齢 12年生で樹高が 1.1mと極わい性を示した。しかし、その果実重は対照(「禅寺丸」台木)より小さかった。単位面積当たりの収量で比較すると Y15およびY17 台木が対照より良好であった。生育や収量性から判断して、Y15 台木がわい性台木として有望であると報告している。 ②遺伝子組換え体 カキにおいても遺伝子組換え技術がすでに確立されており、これまで耐病性や耐虫性遺伝子などが導入されている。その中で、児下ら(2002)は「西条」の種子内胚軸の再生系とアグロバクテリウム法を用い、わい性遺伝子が導入された組換え体植物の作出に成功している。 一般的に果樹では、わい性を示す台木に接ぎ木するとわい化傾向があり、わい性遺伝子の導入された個体が獲得できれば、わい性台木の候補になると考えられる。導入した遺伝子はAgrobactetium rhizogenesis由来の rolBと rolC遺伝子である。本試験では、rolB遺伝子と rolC遺伝子の導入された系統が各々2および3ずつ獲得できた。rolB 導入の1系統は2年生時の比較で対照(非組換え体)より樹高が低くかった。また、rolC 導入の3系統は、鉢上げ後3ヶ月目の比較で対照より樹高の低下が認めらた。また、rolC 導入個体の節間は短く、葉も小さいなどの形態変化も観察できた。今後は、獲得できた組換え体を増殖し、台木試験でわい化効果を確認する必要がある。なお、形態変化の認められた rolC遺伝子導入個体については、わい化機構の研究材料として利活用が期待される。 遺伝子組換え技術は、今後のわい化研究で有効な技術であるが、安全性試験など露地栽培の普及に移すには大きな制約がある。現時点では、わい化機構の解明手段としての利用が現実的であ

    り、その知見をわい性台木の早期選抜などに利活用できる研究技術の開発が望まれる。 ③中間台木試験 農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究部では1990年代より各公立機関の協力の元、わい性台木系統の収集を試み、現時点で 24 系統が保存されている。この内、数系統を中間台木に供試した試

    験を継続している。これまでの試験と異なり、剪定や着果負担など人為的な影響を極力排除した条件下でわい性能力の判定を試みている。すなわち、生育初期より無剪定・無着果で樹高や生長量を継続調査している(写真1)。

    写真1:無剪定・無結果の台木試験例

    (左:対照、右:S-3)

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    同時に、慣行栽培区も設け、主幹仕立てで果実品質も経時的に調査している。試験樹は「アオガキ」実生台に Ac-1、Ac-2(愛知県由来)、Y(山梨県由来)および「ラオヤーシ」を中間台木に用い、「富有」を穂木とした。ラオヤーシ中間台樹は定植後1~2年で枯死するものが多かった。Ac-2中間台樹はフタモンマダラメイガの幼虫による接ぎ木部の食害が多かった。無剪定・無着果区の樹高は、対照樹>Ac-1中間台樹≒Y 中間台樹>ラオヤーシ中間台樹の順であった(図1)。

    総新梢長は対照樹>Ac-1中間台樹≒Y中間台樹>ラオヤーシ中間台樹の順となった。摘らいに要する時間を比較した結果、中間台樹で作業時間が短縮され、省力化が確認できた(表1)。また、年次変動が大きかったが、中間台利用による果実品質への大きな影響は認められていない(表2)。

    図1 無剪定・無結果樹(‘富有’)における中間台木の年次変化(児下ら、2004 年)

    将来展望と今後の課題

    以上のように、カキにおいても繁殖性に制約のある中、数多くのわい性台木に関する試験がなされてきた。最近では、有望系統も徐々に報告されてきている。また、組織培養を利用した大量増殖法や不定芽由来の新梢やひこばえを用いた挿し木繁殖法が改善され、増殖技術も進展がみられる。 今後は、カキのわい性台木の早期実用化に向けて、さらに各種わい性台木候補のわい化度の判定、栽培品種への適応性の検討、わい性台木の大量増殖法の確立、早期成園化技術の確立、わい

    化機構の解明などの研究が必要と思われる。

    表1中間台木の摘らい時間(分)の比較

    対照 Ac-1 Ac-2 Y ラオヤーシ

    作業者 A 30 13 22 24 -

    作業者 B 77 39 19 37 -

    作業者 C 48 26 24 27 23

    作業者 D 32 31 16 15 13

    作業者 E 30 27 22 25 -

    平均 43 27 21 26 18

    表2 中間台木樹の果実重(g)の比較 年 対 照 Ac-1 Ac-2 Y ラオヤーシ 2000 292.2 270.7 283.3 262.5 307.3 2001 327.7 302.6 - 321.0 -

    2002 308.9 306.4 300.5 308.0 308.7

    2003 374.9 362.6 388.9 358.2 362.1

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    1997 年 4 月 1997 年 9 月 1998 年 1999 年 2000 年 2001 年 2002 年 2003 年

    樹高(m)

    対照

    AC1

    Y ラオヤーシ

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    (参考文献) 磯田竜三(1990).ロウアシの二重接ぎによる西条ガキのわい化樹養成について.広島農短大:24-27. 大竹 智・杉本裕司(1993).カキ「平核無」における中間台「伊豆」利用によるわい化法.園

    学雑.62(別2):186. 鎌田憲昭ら(2004).試験管内増殖により再生した台木を用いたカキ‘前川次郎’の生育と結実.

    園学雑.73(別2):343. 木村伸人ら(1985).カキわい性樹の探索と利用(第1報).わい性樹の生育特性と収量性.愛

    知農総試研報.17:273-281. 児下佳子ら(2002).カキへのわい化遺伝子導入によるわい性組換え体の作出.平成 13年度果樹

    研究成果情報:33-34. 児下佳子ら(2004).カキの低樹高栽培のための中間台木の選抜.園学雑.73(別2):342. 文室政彦(1997).カキ‘西村早生’わい性系統樹における乾物生産と分配特性.園学雑.66:

    459-465. 松村博行(1998).カキのわい性台木利用の現状と問題点.園学東海支部第 44回シンポジウム資

    料:17-21. 輪田健二ら(2004).わい性台木利用によるカキ‘前川次郎’の生育と果実品質.園学雑.73(別

    2):66. Yamada M. et al. (1997). Dwarfing effect of the rootstock of Diospyros rhombifolia Hemsl. on the tree growth of 'Fuyu' Japanese persimmon. Acta Hort. 436: 295-304.

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    平成 17年度高度先進技術研修資料

    遺伝子マーカーを利用した果樹微小害虫の種・系統判別法 果樹研究所ブドウ・カキ研究部虫害研究室 土`田 聡 1.はじめに

    ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction (PCR)) の開発により、遺伝子レベルでの生物の特性解明が可能となった。近年、近縁種や種群など、外部形態が酷似し、分類同定に高度な技術と知識を要する昆虫分類群においてその技術が応用され、種の判別法が開発されている。さらには、同一種内における様々な系統の判別も可能となる場合が多く、寄生性や殺虫剤感受性の異なる系統の判別などにも利用されている。ここでは、それら遺伝子診断法に用いられる技術ならびに遺伝子について解説するとともに、その実例を紹介する。

    2.主な遺伝子解析手法 1)RAPD-PCR法 ランダムな配列により構成される 10~12 塩基程度のプライマー(Operon 社のものが有名)を用いて PCRを行い、得られたバンドパターンを比較することにより多型を検出する方法。比較的多型に富んだバンドパターンを得られ、種内変異の検出にも有効であるが、結果の再現性等において確実性に欠けるという欠点がある。 2)塩基配列決定に基づく解析法 ①PCR-RFLP法 PCR増幅した遺伝子断片を制限酵素により切断し、その断片長多型により生じるバ ンドパターンをもとに判別する方法。再現性が高く、最もよく利用されている遺伝子診 断技術である。 ②Multiplex-PCR法 複数のプライマーペアを使用して 1 本のチューブ中で複数の断片を同時に増幅する PCR法で、目的とするバンドが出現するか否かによりタイプ分けをする。各種条件設 定に若干工夫を要するが、短時間かつ低コストで解析ができるという利点を持つ。 ③real-time PCR法 分光光度計とサーマルサイクラーを一体化した装置でPCR産物をリアルタイムでモ ニタリングし、解析する方法。PCR産物を電気泳動する必要がなく、最も短時間で結 果を得ることができる反面、高コストである。 ④マイクロサテライト解析 ゲノム上に存在する短い単位配列の繰り返しからなる繰り返し配列(マイクロサテラ イトマイクロサテライト)を多型マーカーとして用いる。単位配列の繰り返し回数が遺 伝子型とみ

    なし、解析する。 3.遺伝子診断によく利用される遺伝子領域 1)ITS遺伝子:リボゾームを構成する3つのサブユニット(18S、5.8Sおよび 28S)をコードする遺伝子の間に挟まれたスペーサーと呼ばれる領域。多型が生じやすく、遺伝子マーカーとしては有用な領域である。ユニバーサルプライマーは保存性の高

    い各サブユニット構造遺伝子上で設計される。

    リボゾームDNAの構造

    18S 5.8S 28S

    ITS2ITS1

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    2)COI遺伝子:ミトコンドリア DNAの一つでシトクロムオキシダーゼ遺伝子のサブユニットの一つをコードする遺伝子領域。種を超えて保存されている領域が各所にあり、それらを利用したユニバーサルプライマーが数多く報告されている(例えば、Simmon et al., 1994)。

    4.実際の適用例 1)種判別法 ①アザミウマ類/Toda and Komazaki (2002) 果樹に寄生するミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ハナアザミウマ、 ビワハナアザミウマ、キイロハナアザミウマ、ネギアザミウマ、ミナミキイロアザミウ マ、ダイズ

    ウスイロアザミウマ、およびチャノキイロアザミウマの計 3属 9種アザミウ マ類について、ITS2領域の PCR-RFLP法により判別した。Brunner et al. (2002)は COI 遺伝子の PCR-RFLP法で 10種アザミウマ類を、Walsh et al. (2005)は RAPD-PCR法に より得られた種特異的バンドを利用したreal-time PCR法でミナミキイロアザミウマを 判別した。 ②ハダニ類/Osakabe et al. (2002) Tetranychus属のカンザワハダニ、ナミハダニ、ナミハダニモドキおよびアシノワハ ダニの4種について、PCR-RFLP法による種判別法を開発した。 ③ハモグリバエ類/Miura et al. (2004) ハモグリバエ類 3 種(トマトハモグリバエ、マメハモグリバエおよびナスハモグリバ エ)を COI遺伝子領域のMultiplex-PCR法により判別した。 ④ミバエ類/Muraji and Nakahara (2002) Bactorocera属の害虫種ミバエ類 18種をミトコンドリア rDNAの PCR-RFLP法で識別 した。 2)殺虫剤抵抗性遺伝子診断法 ワタアブラムシ/Toda et al. (2004) ピリミカーブ抵抗性をアセチルコリンエステラーゼ�