ヒト樹状細胞による免疫制御...特異的なt...

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Cytometry Research 251):7 122015 7 Ⅰ.樹状細胞とは 1973 年に樹状細胞(dendritic cellsDC)を初めて 報告し,その後も DC の研究を牽引してきた Ralph Steinman 博士が 2011 年のノーベル生理学・医学賞を 受賞された。このことからも,DC がわれわれの体に とって重要であり,免疫関連疾患の新しい治療を開発 するための鍵を握っていることが窺われる。 抗原特異的な免疫反応を誘導するためには,抗原 受付日:平成 26 年 12 月 27 日 受理日:平成 27 年 1 月 9 日 京都大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学 ヒト樹状細胞による免疫制御 門脇 則光 Immune regulation by human dendritic cells Norimitsu Kadowaki, M.D., Ph.D. Department of Hematology and Oncology, Graduate School of Medicine, Kyoto University Abstract Human dendritic cell ( DC ) subsets are composed of CD141 + myeloid DCs ( mDCs ) , CD1c + mDCs, and plasmacytoid DCs ( pDCs ) . These DC subsets have different functions, and reagents that differentially regulate functions of the subsets may represent novel therapies for immune disorders. A proteasome inhibitor for multiple myeloma, bortezomib, suppresses the survival and immunostimulatory function of pDCs by targeting two critical points, intracellular trafficking of nucleic acid-sensing Toll-like receptors and endoplasmic reticulum homeostasis. A tyrosine kinase inhibitor for chronic myeloid leukemia with multiple targets, dasatinib, suppresses IFN- α production by pDCs stimulated with CpG DNA without reducing viability. This suppression is likely due to the abrogation of endosomal retention of CpG DNA, which is critical for the large amount of IFN- α production by pDCs. It has been reported that pDCs cause inflammatory disorders such as lupus and psoriasis. Thus, these studies illustrate that vesicular trafficking characteristic of pDCs may constitute a target to develop novel therapies for inflammatory disorders. 1 α , 25-dihydroxyvitamin D 3 ( VD 3 ) is an important immunomodulatory vitamin. VD 3 induces CD1c + mDCs to produce a vitamin A derivative, retinoic acid ( RA ) . Furthermore, the CD1c + mDCs induce naïve CD4 + T cells to differentiate into gut- homing Th2 cells in an RA-dependent manner. The “vitamin D – CD1c + mDC – RA” axis may constitute an important immune component for maintaining tissue homeostasis in humans. Long-lasting efforts to clarify the mechanisms by which DCs perform immunoregulatory functions and to apply the accumulating knowledge to developing novel therapies will continue to be an exciting field in immunology. Key words : dendritic cells; plasmacytoid dendritic cells; bortezomib; dasatinib; retinoic acid 特 集

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Page 1: ヒト樹状細胞による免疫制御...特異的なT 細胞を刺激する必要がある。そのような APC には,B 細胞,マクロファージ,DC の3 種類が あるが,この中でDC

Cytometry Research 25(1):7~ 12,2015

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Ⅰ.樹状細胞とは1973年に樹状細胞(dendritic cells;DC)を初めて

報告し,その後も DCの研究を牽引してきた Ralph

Steinman博士が 2011年のノーベル生理学・医学賞を受賞された。このことからも,DCがわれわれの体にとって重要であり,免疫関連疾患の新しい治療を開発するための鍵を握っていることが窺われる。抗原特異的な免疫反応を誘導するためには,抗原受付日:平成 26 年 12 月 27 日 受理日:平成 27 年 1 月 9 日

京都大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学

ヒト樹状細胞による免疫制御

門脇 則光

Immune regulation by human dendritic cells

Norimitsu Kadowaki, M.D., Ph.D.

Department of Hematology and Oncology, Graduate School of Medicine, Kyoto University

AbstractHuman dendritic cell (DC) subsets are composed of CD141+ myeloid DCs (mDCs), CD1c+ mDCs, and plasmacytoid

DCs (pDCs). These DC subsets have different functions, and reagents that differentially regulate functions of the subsets may represent novel therapies for immune disorders.

A proteasome inhibitor for multiple myeloma, bortezomib, suppresses the survival and immunostimulatory function of pDCs by targeting two critical points, intracellular traffi cking of nucleic acid-sensing Toll-like receptors and endoplasmic reticulum homeostasis.

A tyrosine kinase inhibitor for chronic myeloid leukemia with multiple targets, dasatinib, suppresses IFN-α production by pDCs stimulated with CpG DNA without reducing viability. This suppression is likely due to the abrogation of endosomal retention of CpG DNA, which is critical for the large amount of IFN-α production by pDCs.

It has been reported that pDCs cause inflammatory disorders such as lupus and psoriasis. Thus, these studies illustrate that vesicular trafficking characteristic of pDCs may constitute a target to develop novel therapies for infl ammatory disorders.

1α, 25-dihydroxyvitamin D3 (VD3) is an important immunomodulatory vitamin. VD3 induces CD1c+ mDCs to produce a vitamin A derivative, retinoic acid (RA). Furthermore, the CD1c+ mDCs induce naïve CD4+ T cells to differentiate into gut-homing Th2 cells in an RA-dependent manner. The “vitamin D – CD1c+ mDC – RA” axis may constitute an important immune component for maintaining tissue homeostasis in humans.

Long-lasting efforts to clarify the mechanisms by which DCs perform immunoregulatory functions and to apply the accumulating knowledge to developing novel therapies will continue to be an exciting fi eld in immunology.

Key words : dendritic cells; plasmacytoid dendritic cells; bortezomib; dasatinib; retinoic acid

特 集

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提示細胞(antigen-presenting cells;APC)が主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility complex;MHC)分子上に抗原由来のペプチドを提示し,抗原特異的な T細胞を刺激する必要がある。そのようなAPCには,B細胞,マクロファージ,DCの 3種類があるが,この中で DCだけが,まだ抗原に出会っていないナイーブな T細胞を強力に活性化する能力をもつ。しかも DCは,受ける刺激の違いによって,Th1,

Th2, Th17といった異なるタイプのヘルパー T細胞反応を誘導することから,免疫反応の強さだけでなく,方向性も決定づける。さらに重要なことに,DCは環境要因に応じてトレランスも誘導する。このように,DCは基本的にあらゆる種類の抗原特

異的な免疫反応をコントロールする免疫系の中心的な細胞である。したがって,この細胞の機能を制御する方法を見いだすことが,多くの免疫疾患の新たな治療につながると考えられる。

Ⅱ.樹状細胞サブセットDCは,成熟すると樹状突起(dendrite)をもつとい

う形態的特徴を共有するが,単一の細胞ではなく,機能の異なる複数のサブセットからなる 1)。ヒトの DC

は,大きく骨髄系 DC (myeloid DC;mDC)と形質細胞様 DC (plasmacytoid DC;pDC)に分けられ,mDC

はさらに CD141+

mDCと CD1c+

mDCに分けられる。mDCはその名の通り骨髄系の細胞に起源を持つ。一方,pDCという名称は,活性化前の段階では形質細胞に形態が似ていることに由来する。これらの DCサブセットは末梢血に少数存在し(mDC,pDCとも単核球の 0.1-0.5%),多重染色によって同定できる(図 1)。CD141

+ mDCは抗原を取り込んだ後に,その抗原由来

のペプチドを MHCクラス I分子に提示して(これをクロス・プレゼンテーションとよぶ)CD8

+ T細胞を

刺激する能力が高い 2)。これに対し,CD1c+

mDCに特有の機能は明らかにされていない。一方の pDCは,ウイルスの刺激を受けると大量のインターフェロン(interferon;IFN) -αを産生するという際だった特徴を持つ 3)。そして,興味深いことに,mDCと pDCは異なる Toll-like receptor(TLR)を発現して異なる微生物成分を認識し 4),侵入してきた微生物を排除するのに適したタイプの免疫反応を誘導する。

mDC,pDC以外に,単球も granulocyte-macrophage

colony-stimulating factor (GM-CSF)とインターロイキン(interleukin;IL) -4の存在下で in vitroにおいて DC

に分化する。マウスの解析から,この単球由来 DCは炎症環境下で DCの一部を形成すると考えられるが,ヒトの体内で単球がどの程度 DCに分化するかわかっていない 5)。また,遺伝子発現プロファイルの比較から,単球由来 DCは mDC,pDCよりもマクロファージに近い 6)。したがって,単球がヒトの in vivoで DC

に分化するとしても,mDC,pDCと異なる機能を持つかもしれない。

Ⅲ.プロテアソーム阻害薬ボルテゾミブによるpDCの抑制

前述のように,pDCはウイルス刺激により大量のIFN-αを産生して,抗ウイルス免疫において重要な役割を果たす。この IFN-α産生は,pDCがウイルスの持つ DNA,RNAをそれぞれ TLR9,TLR7を介して認識することにより起こる。一方,pDCは死んだ自己細胞由来の核酸も認識して IFN-αを産生し,全身性エリテマトーデスや尋常性乾癬といった自己免疫性・炎症性疾患の発症や進展に重要な役割を果たす 7)。したがって,pDCの IFN-α産生を抑制する薬剤は,こうしたpDCが関与する疾患の治療薬となる可能性がある。

pDCは発達した小胞体を持ち,形態が形質細胞に似ていることにちなんで命名されている。このような発達した小胞体は,形質細胞においては免疫グロブリン,pDCにおいては IFN-αの産生を担っている。こう

図 1  フローサイトメトリーによるヒト末梢血樹状細胞(DC)サブセットの同定

リンパ球と単球の中間の前方散乱光を持ち,lineage marker陰性(Lin-),CD4 陽性の分画にゲートをかけると,CD141+ mDC,CD1c+ mDC,pDCの 3つのDCサブセットが分別できる。FSC:前方散乱光,SSC:側方散乱光

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した高い分泌能を持つ細胞は,小胞体における分泌蛋白の適切な折りたたみが損なわれることによって起こる小胞体ストレスにさらされやすく,それに対処する小胞体ストレス応答(unfolded protein response;UPR)に生存と機能が大きく依存している。興味深いことに,UPRを司り小胞体ストレスによる細胞死を防ぐ転写因子 XBP1の欠損マウスでは,形質細胞 8)と pDC

9)の形成が阻害されることから,この両細胞の形成にはUPRによる生存の維持が必要であると考えられる。また,プロテアソーム阻害薬ボルテゾミブが多発性骨髄腫に有効性を発揮する重要なメカニズムとして,異常な蛋白が細胞内に蓄積して小胞体ストレスが高まることが挙げられている 10)。したがって,われわれは,ボルテゾミブが,形質細胞に類似した pDCの活性も抑えるのではないかと考え,検討を行った 11)。その結果,ボルテゾミブは pDCのアポトーシスを

強く誘導し,この現象は XBP1活性の抑制と相関することがわかった。また,ボルテゾミブは TLR9リガンド CpG DNA(非メチル化 CpGモチーフをもつ DNA)の刺激を受けた pDCによる IFN-αの産生を強く抑え,この機能抑制は,少なくとも部分的にはアポトーシス非依存性であった。CpG DNAの刺激を受けた pDCがIFN-αを産生するためには,TLR9が,小胞体膜分子Unc93B1とともに小胞体からエンドソームに移動する必要がある(図 2A)12)。共焦点顕微鏡で検討した結果,ボルテゾミブは Unc93B1の小胞体からエンドソームへの移動は抑制しないが,TLR9の移動を抑制することがわかった(Fig.2B)。以上より,ボルテゾミブは,まず TLR9と Unc93B1の小胞体からエンドソームへの

協調的な移動を阻害し,次いで UPRを阻害してアポトーシスを誘導することにより,pDCの機能と生存を強く抑制すると考えられる 11)。

Ⅳ.チロシンキナーゼ阻害薬ダサチニブによるpDCの抑制

がんに対する分子標的薬の中には標的分子が広汎な薬剤があり,本来の標的以外による作用(off-target

効果)を来しうる。慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナーゼ阻害薬ダサチニブは,本来の標的である ABLチロシンキナーゼ以外にも,広汎なチロシンキナーゼや一部のセリン・スレオニンキナーゼも阻害する 13)ことから,免疫細胞にも何らかの影響を及ぼす可能性がある。そこでわれわれはダサチニブを in

vitroでヒト末梢血由来 pDCに添加したところ,ウイルス刺激を受けた pDCによる IFN-αの産生を強力に抑制することを見いだした 14)。一方で,pDCの細胞死は誘導しなかった。したがって,ダサチニブは pDC

の生存ではなく機能のみを抑制する。次いで,その機序を検討した。pDCが大量の IFN-

αを産生する重要な理由として,エンドサイトーシスで取り込まれた TLR9リガンド CpG DNAが,TLR9の局在部位である早期エンドソームに長時間滞留することが報告されている 15)。われわれは共焦点顕微鏡を用いた解析により,ダサチニブが CpG DNAの早期エンドソームへの滞留を阻害することを見いだした(図3A,B)。これが,ダサチニブによる IFN-α産生抑制の重要な作用機序と考えられる。以上述べたように,pDCが TLRリガンドである

図 2 ボルテゾミブはTLR9 と Unc93B1 の小胞体からエンドソームへの協調的な移動を阻害する定常状態ではTLR9 は小胞体に存在するが,pDCが CpG DNAの刺激を受けると,TLR9 は小胞体膜分子Unc93B1 とともにエンドソームに移動し,CpG DNAを認識して下流のシグナルを伝達し,IFN- αの産生を誘導する(A)。ところが,ボルテゾミブの存在下では,Unc93B1 の小胞体からエンドソームへの移動は阻害されないが,TLR9 の移動が阻害される。すなわち,Unc93B1と TLR9 が分離してしまう(B)。これにより,ボルテゾミブの存在下で pDCの IFN- α産生が抑制されると考えられる。

A B

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核酸に反応して IFN-αを産生する際には,「核酸認識TLRの小胞体からエンドソームへの移動」「CpG DNA

の早期エンドソームへの滞留」という特異な小胞機能を発揮する。そして,ボルテゾミブは前者を,ダサチニブは後者を阻害することにより,pDCの活性を抑制する(図 4)。このように,小胞機能を標的とした DC

の機能制御が炎症性疾患の治療薬の開発につながる可能性があり,新たな創薬コンセプトになる可能性を秘めている。

Ⅴ.RA産生ヒトDCサブセットと産生刺激の同定次にわれわれは mDCの機能を解析した。ビタミンは健康維持に必須であり,また適切な免疫

機能の維持にも重要な役割を果たす。特にビタミン A

とビタミン Dは重要で 16),ビタミン Aの不足はさまざまな免疫異常を来たす。また,ビタミン Dは骨代謝以外にも多くの作用があり,免疫系においては過剰な免疫反応を抑制する方向に働く。近年マウスの研究により,腸管の CD103陽性 DCと

いうサブセットがビタミン Aの活性型代謝産物である全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid;以下 RA)を産生し,腸管免疫寛容に寄与するという

図 3 ダサチニブはCpG DNAの早期エンドソームへの滞留を阻害する(A)共焦点顕微鏡を用いた pDCの観察。CpG DNAが緑,Rab5,Rab7(それぞれ早期エンドソーム,後期エンドソームのマーカー)が赤,これらが重なると白くなるようにしている。通常はCpG DNAは Rab5 と重なり Rab7 と重ならない(つまり早期エンドソームに滞留する)が,ダサチニブの存在下ではCpG DNAの多くが Rab7 と重なる(つまり後期エンドソームに速やかに移動する)。このような CpG DNAの早期エンドソームへの滞留阻害は,別のチロシンキナーゼ阻害薬イマチニブでは起こらない。(B)(A)でみられた現象を模式図で示している。

A B

図 4 小胞機能を標的とした pDCの機能制御「核酸認識TLRの小胞体からエンドソームへの移動」「CpG DNA の早期エンドソームへの滞留」という特異な小胞機能により,pDC は大量の IFN- α産生という他に類を見ない機能を発揮する。ボルテゾミブは前者(レセプターであるTLR の移動),ダサチニブは後者(リガンドである CpG DNAの移動)に変調を来すことにより,pDC の IFN- α産生を阻害する。このように,pDC の特異な小胞機能が炎症性疾患の新たな創薬標的になり得る。

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モデルが提唱されている 17)。しかし,ヒトのどの DC

が RAを産生するのか知られていなかった。そこで,これを明らかにすることを試みた 18)。前述のように,ヒト DCには,大きく CD1c

+ mDC,

CD141+

mDC, pDCという 3つのサブセットがあるが,この中で,CD1c

+ mDCに特有の機能は明らかにされ

ていない。われわれは,異なるヒト末梢血 DCサブセットを,免疫抑制作用が報告されているさまざまな分子で刺激したこところ,CD1c

+ mDCのみが,GM-CSFの

存在下で活性化ビタミン D3 (VD3)の刺激を受けることにより,RAの高産生能を獲得した(図 5)。次に,マウスの報告と対比させるために,ヒト腸間

膜リンパ節から単離した mDCを CD103陽性と陰性に分け VD3で刺激したところ,マウスと異なり CD103

陰性の mDCが RAを強く産生した。また,VD3がマウス DCの RA産生も誘導するかどうか調べたところ,脾臓および腸間膜リンパ節のどの DCサブセットも,GM-CSF刺激だけで RA高産生能を獲得し,VD3を加えても増強は見られなかった。以上より,ヒトとマウスでは,RAを高産生する DCサブセットや誘導刺激が異なることがわかった。

RA産生 DCが RA依存性にどのような T細胞反応を誘導するか調べたところ,T細胞に腸管帰巣性の接着分子α4β7インテグリンの発現を誘導し,皮膚帰巣性の接着分子 cutaneous lymphocyte antigenの発現を抑制した。また,ナイーブ CD4

+ T細胞の Th2細胞への

分化を誘導した。ヒト CD1c

+ mDCは体内に一番多いと考えられる DC

サブセットだが,その特有の機能が不明であった。本研究により,CD1c

+ mDCがヒトの RA高産生 DCであ

り,CD1c+

mDC,ビタミン A,ビタミン Dという 3

つの重要な免疫コンポーネントが直接つながるという新たな事実が明らかになった(図 6)。ビタミン Dがさまざまな自己免疫疾患を抑制することが疫学的に示され 19),また Th2反応は過剰な免疫反応を抑制する側面があることから 20),「ビタミン D → CD1c

+ mDC

→ ビタミン A」系は腸管の免疫ホメオスタシスを維持する重要なコンポーネントであることが示唆される。この系がマウスに存在しないことから,in vivoにおける重要性は今後ヒト化マウスを用いて示してゆく必要がある。

Ⅵ.おわりに以上われわれは,異なる機能をもつ DCサブセット

がそれぞれ特有の薬剤や小分子に反応して機能制御を受けることを明らかにした。冒頭で述べたように,DCの機能制御がさまざまな免疫関連疾患の新たな治療開発につながると考えられる。そのための基礎的な知見は,世界中の研究者の集中的な努力により数多く蓄積しており,実際に臨床応用される日も遠くないと期待される。今後も DC研究の動向から目が離せないであろう。

図 5 GM-CSF + VD3 刺激が CD1c+ mDCに RA高産生能を誘導する前駆体 retinal から RAを誘導するアルデヒド脱水素酵素により蛍光を発する基質ALDEFLUOR® を用いて RA産生能を定量。数字は酵素阻害剤を添加したネガティブコントロール(白抜き)とのmean fl uorescence intensity の比を示す。

図 6  「ビタミンD → CD1c+ mDC → レチノイン酸」系による腸管免疫ホメオスタシス維持のモデル

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