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体験指導の手引書 浅間吾妻 エコツーリズム Asama Agatuma Ecotourism Society シナノキ樹皮で縄を作る (六合根広流) 編集:2015 年 3 月 NPO 法人 浅間・吾妻エコツーリズム協会 赤木道紘

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Page 1: シナノキ樹皮で縄を作るecotourism.or.jp/pdf/monodukuri/manual_sinanawa20140713.pdf体験指導の手引書 浅間・吾妻 エコツーリズム Asama Agatuma Ecotourism

体験指導の手引書

浅間・吾妻エコツーリズム

Asama Agatuma Ecotourism Society

協会

シナノキ樹皮で縄を作る

(六合根広流)

編集:2015 年 3 月 NPO 法人 浅間・吾妻エコツーリズム協会 赤木道紘

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 この『体験指導の手引書』は、2014 年 6 月 21 日~ 7 月 13 日にかけて中之条町入山根広地区の中村義司・千代子様ご夫妻をはじめとした「ねどふみの里保存会」の方々に教わった、『シナノキの樹皮に手を加えて紐状の材料にし、縄ないをする』までの一連の作業と、それにまつわるものことを聞き取った内容について記録したものです。

 シナノキの樹皮「シナ皮」を縄や紐の材料にする技術は北海道や東北のアイヌ文化で今でも継承されているほか、局所的には新潟県、岐阜県の山間地に残っているようですが、群馬県内で現在でも使っているのは中村様宅が最後の一軒である可能性があります。

 また、六合村誌(昭和 48 年発行)、六合村の民俗(昭和 62 年発行、復刻版)、六合村の手工業(昭和 49 年)には、「メンパ」「シャクシ」「木鉢」等が商業的な価値を持つ伝統工芸品として、また女仕事として「草鞋づくり」「草履づくり」「俵あみ」「炭俵あみ」、共同作業の「ねどふみ」「すげむしろ織り」等が紹介されていましたが、「シナノキ樹皮」に関する記述はありませんでした。しかし、「ねどふみの里保存会」の古老の方々から伺った話によると、六合根広では、昔は暮らしの中で普通に「シナ皮」を使っていたことは間違いありません。商業的価値があるわけではなく、特別な神事に使ったわけでもなく、ただ日常の中で紐として使われていただけの「シナ皮」はわざわざ取り上げて解説されるほどのものではなかった、ということなのかもしれません。

 その昔、六合根広の人は 6 月の芽吹きから葉が開ききるまでの間に、野反湖に行き中経木以下のシナノキ幼樹の樹皮を剥ぎ、形成層の部分だけを持って帰りました。これを一晩中煮沸し、それをしごき続けると、やがて向こうが透けて見えるほどの薄い皮に何枚も剥離します。中村様によると師部の一年成長分、木部の年輪にあたる層が剥がれているのだそうです。シナノキを伐採、樹皮の採取、煮る、しごく、洗う、干すまでの作業で丸2日間。干した内樹皮が乾くと、材料としての

「シナ皮」が完成します。今回は伐採から干すまでの仕込みの 2 日間と、材料になった「シナ皮」で縄ないをするのでもう 1 日、合計で 3 日間の学習会を実施させていただきました。

 現代はホームセンターに行けばさまざまな素材の紐が安価で購入できるために、あえて「シナ皮」を作り使うライフスタイルに変えることは現実的ではありませんが、六合根広の方々の、自然の営み、季節の移ろいに同調して暮らす、天の恵みである自然物を生かし使い切る暮らしぶりからは、たいへん多くのことを学ばせていただきました。中村様ご夫婦とねどふみの里保存会の方々に厚く御礼申し上げます。

 以下には、この学習会でお師匠様方が語ってくださった「シナ皮」情報を記載します。

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• シナノキは根広や田代原にはほとんど無かったが、紐や縄にするために、みんな野反からこいで持ってきては近所に植えていた。また、植木として売れた時期があった。

• 野反にはかつて、シナノキは随分あった。縄を作るときは野反まで行って、その場で生立木の樹皮をはがし、さらに内樹皮だけを剥いで背負子に積んで山を下った。

• 剥ぐときは手に届くような高さにある枝を折って下に引っ張った。若い木の方が剥ぎやすかった。

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• 伐採する時期(6 月頃)を少しでも間違えると、樹皮を剥くことができなくなってしまう。その場合は、約一ヶ月間、川床に漬けると綺麗に剥けた。

•(中村様の)親の時代は生活の中でかなりシナノキ作業をした。子供の頃、雨が降ると農作業ができないので、納屋で内皮のしごき作業を手伝わされた。義司さんの代になり、現役中(林業や議員)はあまりできなかったが、仕事がひと段落してから、伝統的技術を見直すためにも現在はたびたび行っている。

• オオバボダイジュは根広や田代原にも少しは自生していたようだが、オオバよりもコバ(シナノキ)の方が丈夫な縄ができた。

• シナノキは萌芽更新するようだ。日あたりによっては 10 年後位に材料として伐れる程の太さになった。

• 入山分校に通った小学生の頃、気の利く者はカバンの中にシナ皮を入れておいて、鼻緒が切れるとシナ皮で結んで修復した。入山分校への道は長距離の上に花敷温泉の上あたりの道が悪く、よく鼻緒が切れた。

• 昔は丈夫な紐といえば、シナ皮しか無かった。紐が切れると「誰かシナ皮持ってないか?」と声が上がった。

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【以降は、思いつくままに語っていただいた昔の思い出話です。】

• 昔は、炭俵の縄を作るのは年寄りと子供の仕事で、子供の頃から縄ないをさせられた。• 昭和 15 年に小学校入学、その後すぐ(昭和 16 年)太平洋戦争開戦となり、着るものも無かった。• 学校の校庭にわら人形が作られ、大人たちが竹やりで敵をつつく練習をしていた。子ども達はそ

の姿が気になって勉強なんてできやしなかった。• 履物も服も売ってないし買えない。配給制で回ってくる靴は1クラスに一つか二つだけで、抽選

で配られた。• 小学校帰りに山に遊びに行っちゃあ、草鞋はダメになってしまい、裸足で帰ってきた。• 旅行があったが、履物がないから父親の地下足袋を履いてきた友達が何人かいた。• 根広の子供は入山分校に通ったが、天皇誕生日など、特別な式典がある場合は小雨の本校に呼び

出された。砂利道で片道2時間はかかった。その際には草履をもう一足持って行く。履いていった草履は帰りにはかかとが破れてダメになり、持っていった草履に履き替えた。

• 荷付場の諏訪神社のお祭りは昔は賑やかで、出店も多く、草津からも人がたくさん来ていた。根広からもみんなで出かけ、祭りのあと、草津まで遊びに行ってから帰ってきた。

• 子供の頃は、長野原の祭りにも行った覚えがある、養蚕神社?• 病人が出たら、病人かごに入れて交代で草津の病院や楽泉園に連れて行った。病人かごはねどふ

みの里資料館の2階にある。• 千代子さんの妹は、はしかにかかって死んだ。草津の病院の帰りに息絶えてしまった。• 昭和 16 年~ 17 年は、はしかや赤痢で、このあたりで十数人の死者が出た。病人にフルーツを

与えてやるために、どどめ(桑の実)を採ってきては食べさせた。

  --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------文責 赤木道紘

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■第一回(6月 21日(土)) シナノキ伐採、皮剥ぎ、煮沸

根広にあるねどふみの里に集合して、田代原の山口一元様のお宅にうかがいました。山口様は酪農、農業の他に食品加工業も営んでいらっしゃいます。山口様の私有地に植えてあるシナノキを伐採させていただきました。

直径 20 cm以内で、年輪を数えると樹齢は 30 年未満。この位までがいいのだそうです。形成層のところはとてもいヌメヌメしています。中村さん曰く、なかなかの上モノが手に入ったそうです。

軽トラ荷台に積める、150 cm程度の長さに玉切りして、積み込みます。田代原→根広の中村義司様のお宅へ移動します。

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凄い大釜がありました。まずはこの大釜に水を湛え(入っていましたが)、火を焚きます。

シナノキ皮むきを開始。マイナスドライバーを木口面の木部と師部の間、形成層といわれるヌルヌルの部分に差し込みねじ込んで部分的に(幅約5cm 位に)剥がし、剥がした樹皮を掴んで下までバリバリと剥きます。

この位の幅で下まで剥け切れるようだったら、材料としても良い、つまりシナノキの「伐り頃」ということになります。その後は上手に剥くと、残った樹皮の全部を繋がった状態に剥くことができます。

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幅5cm程度の樹皮がたくさん採れました。これをさらに外樹皮と、「甘皮」と呼ばれる内樹皮とに分けていきます。両方に斑模様が現れた場合は外樹皮側に寄っています。もっと内側の皮だけに剥がすことができます。

斑模様は内樹皮ではなく、コルク層にあたる部分で、このコルク層はかなり厚いです。外樹皮を剥がそうとするのではなく、内樹皮を剥がそうとすると、かなり内側の方を剥がすことができます。ただし、内樹皮とコルク層の中間くらいのものは、紐としてある程度使えます。

材料となるのは樹皮全体の 25%位です。これだと、左右に裂いた時に、左側(内側)に斑模様が出ません。一回の煮沸で大釜にたくさんの材料を入れたいので、極力、内樹皮以外のものは省きます。

また、生立木の際に、地面に近かった部分は、形成層が十分に水を吸っていたためかズルズルと剥けやすく、上部=樹冠に近い方は形成層が乾いていて、木部と師部が剥がれづらい、という状況でした。樹木を伐ったのが 10 時過ぎでしたから、夜間に充分に水を吸い上げた、そのすぐ後、例えば早朝に伐採すると、高い枝でも剥けやすい、という可能性があります。

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剥き終わったシナノキ内樹皮を 50 cm位の束にまとめます。

束ねた内樹皮を、沸騰した大釜に向きを同じにして次々に入れていきます。入れ終わったら、釜の中に灰を入れます。釜で茹でなくても、温泉に漬ける(ねどする)と1ヶ月くらいで次の工程ができますが、川に漬けただけでは次の工程には進めない、しかし、時期が遅れた材料、つまり水を勢いよく吸い上げている時期を外した、例えば盛夏のシナノキ材であれば、どうやっても樹皮を剥がせられないので、1ヶ月間川床に漬けておいてから茹でないと使えないのだそうです。剥き終わったシナノキ木部はこんこん草履作成時の木型をつくるのだそうです。無駄のないこと。

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大釜内の煮汁が赤くなってきました。これは、灰を入れたからだそうです。仕上がりも赤くなるそうです。灰を入れるのは、そう教えられてきたからであるが、材料を柔らかくするためなのではないか、とのことです。

お湯が減ってくるので水を継ぎ足し、必要なら灰を追加で入れて、重しをのせます。写真では蓋が閉まっていませんが、本来はもう少しきちんと塞いだ方が良いでしょう。この状態で、竈の火とお湯の量を見つつ、朝まで煮沸します(深夜は薪をくべずに放置します)。

根広集落の各家庭には尻焼温泉が引かれていて、中村家の温泉オーバーフローの容器に、余った内樹皮を漬けることにしました。こちらは一ヶ月後に次の工程となります。こちらは、灰は入れていません。また温泉により漂白作用があるので仕上がりは白くなるのだそうです。温泉は最近になって配管されたものなので、昔はもちろん温泉は使っていません。シナノキ材料は全て、お湯で煮ていたそうです。

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■第二回(6月 22日(日)) シナノキ縄材料の仕上げ

シナノキ樹皮から紐や縄をつくる技術の講習会、二日目の様子をレポートいたします。

昨日から丸一晩、大釜を煮続けた結果、煮詰まってしまい、お湯に浸っていない部分ができてしまいました。

しかし、千代子さん的にはなんてことない様子。とりあえず、お湯の中に居続けられたものを取り出し、そうでないものはとりあえず釜の中の煮汁に浸けておきます。灰汁でドロドロになったシナノキ内皮にさっと水をかけ、泥を少し取りました。

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内皮を両手で持ち、地面に刺して固定した角材の角部分に、コルク層側を削り取らせるように手を交互に引き、何度もこすりつけます。こすりつけているうちに角にカス(コルク層)がこびり付き、内皮も柔らかくなっていきます。コルク層の皮のことを「クソッ皮」というそうです。

コルク層が厚く付着しているものは、コルク層と内皮を剥がします。一晩煮てあるので、割とスムーズに剥がれます。内皮だけを別けられたら、それをさらに薄く剥いでいきます。なんとこの剥げる層は、師部の年輪にあたる部分なのだそうです。

ある程度むけたら、束にしてとめる。この作業の繰り返しです。

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しかし、やはり角材(針葉樹)では相当やりづらいらしく、昔ながらのやり方に変更することにしました。クリの木を四等分して地面に刺し、その角でこぐのです。硬いクリの木を、鋸ではなく斧で割ったもの、その角が固くて良いのだそうです。

やればやるほど、コツがわかり、上手に薄く剥げれるようになってきます。また、しっかりとしごいておいたものは、乾いてから、縄ないをする時にも、たやすく剥げられるのだそうです。節の部分はどうにもなりません。シナノキ繊維は日本の植物の中で最強の繊維といわれる程に頑丈なので、手では切れませんから刃物を使って処理します。

70 歳を過ぎている山本茂先生は、とても上手でした。昔の人の方が手仕事はうまいです。

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綺麗に剥げると気持ちが良いです。次々に材料が溜まっていきます。手押し車に乗って作業する千代子師匠。いつまで現場指導できることやら。この技術を継承できる時間は、もうあまり残っていません。

材料全てを剥いだら、自宅の温泉のオーバーフロー湯を利用して、「クソっ皮」のヌメリや泥を洗い流します。温泉には漂白作用もあるので、洗う時間は手短に、そして綺麗に行います。千代子さんの腰は、このような長年の家仕事で曲がってしまったのです。山村の母の仕事が、どれだけ大変なものだったか、考えさせられます。

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洗ったシナ皮を干します。何日間乾かさないとダメ、とかではなくて、乾けばもう取り込んで構いません。

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■第三回(7月 13日(日)) シナノキで縄ない

シナノキ樹皮から紐や縄をつくる技術の講習会、三回目(最終日)の様子をレポートいたします。これまでの二回は旧六合村根広地区、中之条町入山の中村義司・千代子さんご夫婦のお宅にうかがっておりましたが、最終日は同地区の「ねどふみの里」で実施いたしました。

先日、干したシナノキの内樹皮はしっかり乾燥し、保存できる材料「シナ皮」として仕上がっていました。

最近、千代子師匠が編んだ籠(白)には芯にラタンが使ってあり、東京の業者には「価値がない」と言われてしまったそうです。なので、新たに編み始めた茶色の方は、芯も全てシナ縄のみで編んでいます。まだ半分ほどしかできていませんが、これで3日かかっています。完成まではあと3日。6日間かかって作った 100%シナ縄の篭は、なんと4万円で売れるそうです!!!

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さて、まずはシナ皮を、縄ないできるようにもっと細く裂きます。長い材料の真ん中から両端に向かって裂くやり方がいいでしょう。

そこそこの量になったら、括ってまとめます。これをきちんとやっておかないと「つぼり」ます。「つぼる」とは絡まる、ぐちゃぐちゃになるという意味だそうです。大釜で一晩煮て内樹皮を取り出したものはやや赤みがかった茶色に、温泉にしばらく漬けておいたものは真っ白になります。これは昨年のもので、私たちが3週間前に漬けたものはまだ温泉から出していません。約1ヶ月間、漬けないと剥けないのだそうです。

この裂く作業中にも、複数枚になっていた内樹皮が剥がれるようなら剥がします。節の部分は、なえませんので、カットするか、「こすり」を作る際の材料にしてしまいます。

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ある程度つぼったら、柔らかくするために水の中をサッとくぐらせます。ここでは温泉湯船があるので使ってしまっていますが、あまり浸けるとかえってヌルヌルし過ぎてしまい(ぬめこい)、縄ないの際に手が回らなくなります。そして、「こすり」を作ります。

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うまく剥がれていない材料や節のある材料などを適当に裂いてまとめて二つ折にし、それを二方としてなっていきます。

長くなってきたら根元を足指で挟み、さらにないます。適当なところで「戻し」を入れて捻りを強めます。

それをまた二つ折りにし、なっていって戻しを入れて、

それをまた二つ折りにしてなっていってなえなくなったら、ぐっと握って締めます。これが千代子さんの今日の「こすり」のつくり方でした。

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では、シナ皮で縄ないをします。今日は中村とら師匠にご指導いただきます。まずは細く裂いたシナ皮を数本持ち、足指に挟んで 20cm 程出して二方に分け、ないます。もちろん、最後に「戻し」を入れます。

先端近くまでなったら、足指から外し、先端を止め結びしてその結び目を足指に引っ掛け、今度は長い方をなっていきます。

一定の太さになるように材料を徐々に足しつつないます。何回かなったら戻すことを忘れずに。

ある程度の長さになったら、戻したあとに「こすり」でなった部分をこすり、はみ出たバリをハサミで切ります。材料を足しつつ、継続してなっていきます。

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材料を足す際には、短いものは片方だけに、長いものは中間点をつなぎ、左右両側になっていきます。

シナノキ樹木を伐採した際の、玉切りの長さが長かった場合、材料としてのシナ皮もとても長くなり、なう際にはやりづらくなります。今回のはやや長かったようで、なう際にできる先端部分の逆捩じりをほぐしつつなわねばならず、苦労しました。

なっていて、硬い部分は潔くハサミで切ります。また、材料を継ぎ足した際に、量が多いようなら部分的に省いてなっていきます。そうすると、このように材料がはみ出ます。もちろん、ハサミでカットします。

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そして大切なのは、この「戻し」と「こすり」の作業です。「戻し」を行うことで捻りが強くなり、「こすり」を行うことでその捻りを定着させることができます。

中之条町入山「ねどふみの里」で、おばあちゃんたちが「シナ縄ない」をする風景。どうあがいても、10 年後は見られないことでしょう。私たちがどこまでこの文化を継承していけるのか、挑戦中なのであります。富士子師匠がなった縄は、太さが均一で、私たちの何倍も長さがありました。そもそも、富士子師匠はスゲ縄の場合、一日なえば、八十ひろ(一ひろ≒ 1.5 m)なえるそうです。120 m?!シナ縄はそれよりも硬いからね…と、仰っていました。

終わった縄は先を止め、このようにして巻いておきます。千代子師匠の縄の径は、スゲ縄よりもまだ一回り細い、6~7mm でした。かつての六合村では最も頑丈な紐だった「シナ皮」。1~2mm 位の縄でもとても頑丈です。現代なら何に使えるか、よくよく考察していきたいと思います。