全国ウツタイン統計を用いた院外心停止例の類型化hirukawa/seminar/... ·...

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- 1 - 全国ウツタイン統計を用いた院外心停止例の類型化 Classifying in patterns of out of hospital cardiac arrest, Using the Latent Class Analysis. ○湯澤あや 1 ,山内慶太 2 ,渡辺美智子 2 1 東芝メディカルシステムズ株式会社, 2 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 本研究では,総務省消防庁のウツタイン統計を活用し,心原性の院外心停止症例のうちバ イスタンダーによる蘇生が実施された例について類型化を行うことで、一般市民が救急蘇 生に関わる際にバイスタンダーCPRにおける現状を把握した.クラス内局所独立性を有する 潜在クラスモデル(latent class model)を適用した類型化によって、共変量および共変量 と連関を持つ観測されないコントロールすべき要因の調整が期待できることから、 AED実施 の直接効果を検討した.ここではAEDの実施が生存率に与える効果について、類型化に基づ き確認した.さらに,経年結果および,都道府県別での傾向を分析した. 1. はじめに わが国における心疾患による死亡は増加傾向にあり,平成 23 年度人口動態統計によると 男女ともに死因の第 2 位を占めている.心疾患による死亡は,突然死の形をとりやすく,の多くが院外において発生する場合が多い.年間約 7 万人の院外心停止が発生しており病 院前救急医療体制の整備と院外心停止例の救命率向上は公衆衛生上のもっとも重要な医療 施策のひとつであるとされている. 2. 研究方法 本報告では,総務省消防庁より借用した,全国の院外心肺停止患者データを使用してい .その中から,目撃のある心原性心停止例かつ,バイスタンダーCPR が特定できたケース に限定してデータを使用した.性別・年代別の構成は表 2 に示す通りである.適応範囲に関 係する項目については「心停止目撃」と「バイスタンダーCPR」の項目である(1).該当 データに対して潜在クラス分析を実施した.潜在クラス分析のクラス数特定の使用ソフト ウェアは株式会社エスミ Excel アドイン潜在クラス分析 Ver1.06,また記述統計などその 他の統計処理は SPSS ver.21 である.潜在クラスによって説明される反応変数と潜在クラ スに対する説明変数として導入した属性項目を分けて以下示す. <潜在クラス分析の反応変数:バイスタンダーCPR に関わる 5 項目> バイスタンダー種別(家族=0/友人=1/同僚=2/通行人=3/その他=4) 心臓マッサージの有=1,無=0 AED 実施の有=1,無=0 口頭指示の有=1,無=0 <モデル推定後に事後的に考察する属性項目> 性別(男性=1,女性=0),年齢(10 歳未満=0,10 歳代=1,20 歳代=2,30 歳代=3,40 歳代= 4,50 歳代=5,60 歳代=6,70 歳代=7,80 歳代=8,90 歳代=9,100 歳代=10)

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全国ウツタイン統計を用いた院外心停止例の類型化

Classifying in patterns of out of hospital cardiac arrest,

Using the Latent Class Analysis.

○湯澤あや1,山内慶太2,渡辺美智子2 1東芝メディカルシステムズ株式会社,2慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科

本研究では,総務省消防庁のウツタイン統計を活用し,心原性の院外心停止症例のうちバ

イスタンダーによる蘇生が実施された例について類型化を行うことで、一般市民が救急蘇

生に関わる際にバイスタンダーCPRにおける現状を把握した.クラス内局所独立性を有する

潜在クラスモデル(latent class model)を適用した類型化によって、共変量および共変量

と連関を持つ観測されないコントロールすべき要因の調整が期待できることから、AED実施

の直接効果を検討した.ここではAEDの実施が生存率に与える効果について、類型化に基づ

き確認した.さらに,経年結果および,都道府県別での傾向を分析した.

1. はじめに

わが国における心疾患による死亡は増加傾向にあり,平成 23年度人口動態統計によると

男女ともに死因の第 2位を占めている.心疾患による死亡は,突然死の形をとりやすく,そ

の多くが院外において発生する場合が多い.年間約 7万人の院外心停止が発生しており病

院前救急医療体制の整備と院外心停止例の救命率向上は公衆衛生上のもっとも重要な医療

施策のひとつであるとされている.

2. 研究方法

本報告では,総務省消防庁より借用した,全国の院外心肺停止患者データを使用してい

る.その中から,目撃のある心原性心停止例かつ,バイスタンダーCPR が特定できたケース

に限定してデータを使用した.性別・年代別の構成は表 2に示す通りである.適応範囲に関

係する項目については「心停止目撃」と「バイスタンダーCPR」の項目である(表 1).該当

データに対して潜在クラス分析を実施した.潜在クラス分析のクラス数特定の使用ソフト

ウェアは株式会社エスミ Excel アドイン潜在クラス分析 Ver1.06,また記述統計などその

他の統計処理は SPSS ver.21 である.潜在クラスによって説明される反応変数と潜在クラ

スに対する説明変数として導入した属性項目を分けて以下示す.

<潜在クラス分析の反応変数:バイスタンダーCPRに関わる 5項目>

バイスタンダー種別(家族=0/友人=1/同僚=2/通行人=3/その他=4)

心臓マッサージの有=1,無=0

AED実施の有=1,無=0

口頭指示の有=1,無=0

<モデル推定後に事後的に考察する属性項目>

性別(男性=1,女性=0),年齢(10歳未満=0,10歳代=1,20歳代=2,30歳代=3,40歳代=

4,50歳代=5,60歳代=6,70歳代=7,80歳代=8,90歳代=9,100歳代=10)

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図 1:データ使用範囲(2011年)

表 1: ウツタイン統計データ項目におけるバイスタンダー関連項目

表 2: データの概要

0 40000 80000 120000

目撃あり心原性心停止かつ

バイスタンダー特定例

(本研究対象範囲)

目撃あり

心原性心停止全例

2011年

ウツタイン全例

AED実施例

(全体126371件:AED実施例726件 6.8%)

(全体23296件:AED実施例738件 3.3%)

(全体127109件

No. 1-47年 西暦都道府県コード ※参照発生年月日 年月日性別 1:男性 2:女性年齢救急救命士乗車 1:あり 2:なし医師乗車 1:あり 2:なし医師二次救命処置 1:あり 2:なし

目撃 1:あり 2:なし目撃時刻 年月日時分

0:選択なし1:家族2:友人3:同僚4:通行人5:その他6:消防隊7:救急隊8:救急救命士運用隊

あり/なし 1:あり 2:なし

心臓マッサージ 0:チェックなし 1:チェックあり人工呼吸 0:チェックなし 1:チェックありバイスタンダーAED 0:チェックなし 1:チェックあり

0:選択なし1:確定2:推定3:不明

CPR 開始時刻口頭指示あり 0:チェックなし 1:チェックあり

1:VF(心室細動)2:PulselessVT(無脈性心室頻拍)3:PEA(無脈性電気活動)4:心静止5:その他

項目名

バイスタンダー種別心停止目撃

バイスタンダーCPR

確定/推定/不明

波形種別初期心電図

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クラス142%

クラス227%

クラス320%

クラス411%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

0歳代 10歳代 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳代 90歳代 100歳代

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4クラスサイズ 0.420 0.275 0.199 0.107バイスタンダー種別家族 0.881 0.101 0.600 0.116友人 0.015 0.008 0.114 0.106同僚 0.000 0.001 0.125 0.163通行人 0.008 0.016 0.060 0.180その他 0.096 0.875 0.101 0.435心臓マッサージなし 0.003 0.018 0.012 0.027あり 0.997 0.982 0.988 0.973人工呼吸なし 0.881 0.588 0.797 0.519あり 0.119 0.412 0.203 0.481バイスタンダーAEDなし 1.000 0.954 0.995 0.526あり 0.000 0.046 0.005 0.474口頭指示なし 0.150 0.619 0.297 0.695あり 0.850 0.381 0.703 0.305波形種別VF 0.095 0.046 0.656 0.344PVT 0.004 0.001 0.004 0.007PEA 0.319 0.332 0.143 0.170心静止 0.554 0.553 0.196 0.176その他 0.028 0.068 0.001 0.303

3. 結果

<2011年度の集計結果>

まず,クラス数については AIC(赤池の情報量基準)や BIC(ベイズ情報量基準)などの指標

を参照しながら解釈可能性にも配慮して判断した.今回の分析においては,潜在クラス数

(C)を 2~5 と設定して,潜在クラス分析を繰り返し行った結果のモデルの適合度をまとめ

たものが表 1である.最終的にはその他の要因も考慮の上,クラス数を 4とした場合が最も

適切な類型を導くことが可能と考え,C=4 として潜在クラス分析を適用し,その結果の応答

確率を表 2 に示す.なお,この結果は,各クラスに属する者が項目に該当する確率を示して

いる.

表 3:潜在クラス分析の適合度

表 4:4クラスモデルの結果(応答確率)およびクラスサイズ

図 2: 年齢層別クラス帰属確率

78000

79000

80000

81000

82000

83000

84000

85000

2-クラス 3-クラス 4-クラス 5-クラス

BIC AIC

潜在クラス数 C=2 C=3 C=4 C=5AIC 83421.964 80413.097 79447.755 79108.561BIC 84023.393 81527.941 81076.015 81250.236

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・クラス 1

家に滞在する時間が長い生活パターンの人.特に,高齢男性と 0歳台の子供で多くなっ

ていることから,もともと家族のサポートを必要としている群である可能性が高い.

・クラス 2

高齢で(特に70歳代~100歳代)家や介護施設にいることが多いと推測される女性の割

合が高い.バイスタンダーがその他の構成比が高いことから,家族や友人以外の高齢者

施設の介護職員等である可能性がある.

・クラス 3

10歳代~70歳代までの幅広い世代において同じような割合で存在している.バイスタ

ンダーが家族である割合が比較的高く,友人・同僚と続いている.

・クラス 4

AED の実施率が唯一高い群である.特徴的なのは通行人の割合が一番高いことである

が,年齢構成としては 10 歳未満を含めた若年齢層から 70 歳代まで幅広い世代で分布し

ており,10 代で特に高くなっている.外出することが多く,公共施設等へのアクセスが多

い群であることが推測される.

クラスごとのバイスタンダーの特徴をよりわかりやすくするために,得られた応答確率

から特化係数を算出し,図 2にレーダーチャートで示す.

図 3:クラス別レーダーチャートおよび特化係数

なお,クラスごとにAED使用の有無による生存率を比較した結果を表5に示す.これは個票

がもつそれぞれのクラスへの帰属確率から算出しており,すべてのクラス帰属確率を考慮

した上での生存率を算出している.これにより,いずれのクラスにおいても AEDの効果は示

されている.クラス 4での比率が高く,効果的に AEDを実施することで生存の可能性を高め

られることを示唆しており,公共施設への設置に対して最も期待できるクラスである.また,

特に現時点で AEDが実施できていないクラス 1・クラス 2・クラス 3の中では,クラス 2の

オッズ比が 2.18 と高く,AED が介入することにより生存率の向上がより期待できる群であ

ることがわかる.

表 5:AED使用の有無における生存率の比較

0

1

2

3

4

5家族

友人

同僚通行人

その他

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4家族 1.602 0.385 0.960 0.143友人 0.365 0.266 4.152 2.667同僚 0.000 0.391 4.609 3.611通行人 0.149 0.825 3.030 3.665その他 0.375 2.124 0.007 1.486

AED使用 クラス1 クラス2 クラス3 クラス4なし 6.388% 6.738% 25.839% 30.837%あり 9.966% 13.612% 36.382% 53.683%オッズ比 1.622 2.181 1.641 2.695%CI 6.388-4.565 0.828-5.745 0.896-3.008 1.458-4.636

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C=2 C=3 C=4 C=5

2005 53223 51667 51058 508772006 106510 104172 102156 1012042007 60738 58827 58406 581592008 72386 69960 69288 690582009 79107 76336 75555 752562010 81650 78385 77467 771942011 83422 80413 79448 79109

潜在クラス数AIC

C=2 C=3 C=4 C=5

2005 53785 52709 52581 528792006 107212 105485 104080 1037382007 61311 59890 59957 601992008 72974 71050 70880 711522009 79703 77441 77169 773792010 82249 79494 79087 793252011 84023 81528 81076 81250

潜在クラス数BIC

AED実施

生存率心臓

マッサージ

口頭指示

人工呼吸

クラメールの連関係数心臓マッサージ 0.317人工呼吸 0.355AED 0.767口頭指示 0.458

今回の潜在クラス分析において各評価項目として同時に分析にかけた心臓マッサー

ジ・人工呼吸・口頭指示それぞれの結果データから,生存率との関連性を評価した.図 2で

は,潜在クラス分析の特性を利用して,共変量の影響を排除した上で各項目と生存率との関

連性を示している.ここでは,AED の実施が最も高い関連性があることが示唆された.心臓

マッサージについてはすべてのクラスで多く実施できていることもあり,関連性としては

低い値となったが,AED 実施を前提条件とした場合,実施による改善がみられたため,現在

導入されている蘇生教育において,心臓マッサージの実施が有用であることを指示するも

のであった.なお,AED 実施本人が直接口頭指示を受けているケースで AED の実施率が低い

という結果も見られたため,心停止患者を前にした蘇生の実施では,可能な限り一人で対応

するのではなく,周囲の人のサポートを最大限活用し,役割分担をしながら協力できるよう

日頃からの実施・運用に関する教育が重要であることが示唆される.

図 4:各評価項目と生存率の関連性

<経年での類型変化>

2005年から2011年までの潜在クラス分析の結果を以下に示す.クラス数の選定について

は先の報告に示す手順に準ずる.各年においてそれぞれ 4 クラスパターンでの説明が最も

妥当であり,日本における心原性心停止例には経年で一定の同一傾向を示すことが推測さ

れた.さらに,各クラスにおける経年での変化を示すために,特に今回は年齢構成とバイス

タンダーAEDの実施有無について取り上げ以下に示す(図2)2005年,2006年の年代別クラス

分布にパターンはみられないものの,2007 年以降はその分布に類似性が見られる.な

お,AEDの実施率についてはクラス4において毎年増加していることがわかる.これは,バイ

スタンダーが友人や通行人が多い群であることから推察すると,外出により AED の設置が

比較的すぐに使いやすい,公共施設等で発生した心停止である可能性がある.また,経年で

AED の使用割合が増加していることから,AED の設置台数が増加していること,および AED

に対する認知度が徐々に増加していることにより,現在の AED 設置および啓発活動は一定

の効果を示していることが示唆されるが,まだまだ実施数が尐ないことがわかる.

表 6:各年における潜在クラス分析の適合度

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0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

なし あり

2007年

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

2005年

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

なし あり

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

なし あり

2010年

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

なし あり

2011年

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

なし あり

2008年

図 5:年代別のクラス分布と AED実施の有無(2005年-2011年)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

2006年

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

なし あり

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

なし あり

2009年

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<地域間でのクラス分布の比較>

都道府県別の帰属確率をグラフ化したものを図6に示す.東京については突出してクラ

ス 4の割合が高くなっているが,その他の多くの地域では,むしろクラス 4の構成比は低く

なっている.地域特性を確認するために,地域区分を北海道・東北,関東,甲信越・北陸,中

部・近畿,中国・四国,九州・沖縄,の 6 つの区分に分けたグラフを図 6 に示す.いずれも,

地域的な差異は認められないが,東京のようにパターンでクラス 4 の構成が高い県は認め

られない.これは,人口および人口における年齢構成とも関連がある可能性がある.比較的

高齢層の割合が多い,クラス 1やクラス 2に高いピークを示す県が比較的多く存在する.

図 6:説明変数のカテゴリ別帰属確率(都道府県別)

図 7:地域区分別帰属確率

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

北海道県

青森県

岩手県

宮城県

秋田県

山形県

福島県

茨城県

栃木県

群馬県

埼玉県

千葉県

東京都

神奈川県

新潟県

富山県

石川県

福井県

山梨県

長野県

岐阜県

静岡県

愛知県

三重県

滋賀県

京都府

大阪府

兵庫県

奈良県

和歌山県

鳥取県

島根県

岡山県

広島県

山口県

徳島県

香川県

愛媛県

高知県

福岡県

佐賀県

長崎県

熊本県

大分県

宮崎県

鹿児島県

沖縄県

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0

0.005

0.01

0.015

0.02

0.025

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0

0.01

0.02

0.03

0.04

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

0

0.004

0.008

0.012

0.016

0.02

クラス1 クラス2 クラス3 クラス4

北海道・東北地方 首都圏・関東地方

甲信越・北陸地方 東海・近畿地方

中国・四国地方 九州・沖縄地方

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4. 考察

今回,4 つの異なるグループの存在が明らかになった.グループの特色は年齢分布に制限

を受けるのではなく,年齢分布をある程度加味した上で,そこに所属する確率が高い人の生

活行動パターンも反映している.

「潜在クラス分析によるグループ分け」結果からは,4つの異なるグループの存在が明ら

かになった.グループの特色は年齢分布に制限を受けるのではなく,年齢分布をある程度加

味した上で,そこに所属する確率が高い人の生活行動パターンも反映している.そのため,

クラス 1では高齢の男性に分布が多いものの,同時に 0歳代の男児・女児ともにわずかでは

あるが,年齢・性別の度数分布表においてピークを示している.小児の心疾患はそのほとん

どが先天的であるケースが多く,搬送件数は成人に比較すると低い.しかし,心疾患以外に

もスポーツ時等に,胸に外部から衝撃が加わることで心臓震盪を引き起こし,心停止を発生

させるケースも尐なくない.こういった症例には,発生した心室細動に電気的ショックを加

える AED を実施することで,正常な電気活動を取り戻すことが唯一の方法である.クラス 4

に比較的若い世代の搬送患者がカテゴライズされており,AED の実施を受ける可能性とし

ては全クラスのなかで高いものの,比較的若い男性が多いクラス 3 ではあまり実施できて

いないことから,単に心停止発生頻度が高い公共施設への設置だけでは今後さらに AED の

活用率を伸ばすことは難しいと推察される.また,潜在クラスを特定した後に分析した生存

率のクラス比較では,クラス 2で AED実施ありとなしの群比較において,最も高いオッズ比

をしめした.このことから,クラス 2に AED実施をより実施しやすくなるような介入をする

ことで生存率の向上に期待ができるものである.

「経年でのクラス変化について」の結果からは,2007 年以降で搬送患者特性に類似的傾

向が見られた.ただし,2005 年,2006 年の転帰については導入が開始されて日が浅く,転帰

そのものの不備や無記載で特定できないデータ数が多く,今回はこれを除外したことによ

る影響も排除できない.これを裏付ける報告として平成19年度(2007年度)のデータ転記に

ついての精度を調査した報告が消防庁より発表されており,その後,ウツタインデータ入力

のガイドラインが策定されている.

また, 「地域間でのクラス分布の比較」の結果では 47 都道府県ごとに帰属確率を求め

ることで,どのクラスの存在比率が高いのかを示した.東京では突出してクラス 4の存在比

率が高いが,比較的人口が尐ない県や,もともとの年齢分布が高齢者である割合が高い県が

多く,公共施設だけに AED設置を注力した場合,効果が期待できない都道府県が多いことが

分かった.また,人口が多くても,愛知県ではクラス 1の構成割合が最も高く,次いでクラス

3 の構成割合が高くなっており,また全国に先駆けてウツタイン様式を取り入れてプレテ

ストを実施していた大阪府ではクラス 2 の構成割合が高いということから,単一的な方法

で AED の活用を推進するだけでは限界があると想定される.これらを考慮した上で地域ご

とにその特色を把握し,AED の設置および,設置された AED を有効に使用できる教育を実施

していくことが重要であると考えられる.なお,特に高齢者が多いグループの構成割合が高

い地域については,家にいて家族にサポートされる搬送患者というケースもあるが,高齢者

施設にて心停止を発生するケースも想定される.使用データは全国規模のビックデータで

ある一方,搬送患者の倒れた場所やバイスタンダーの詳細情報については転帰されていな

いため各県下および各消防本部レベルのより踏み込んだ分析をするには限界がある.なお,

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心原性心停止例に限定して集計しているため,実際にバイスタンダーが日常で遭遇する蘇

生対応では心停止以外の事例も当然発生するため,AED 実施だけが蘇生教育であるとは限

らないが,その点については言及できない.

5. 結論

一般市民による救急蘇生の実施は,プレホスピタルケアを充実させるうえで重要であ

る.AEDの使用についてはその有用性が検証されているが,AEDを市民一人ひとりがいざと

いう時に使用できるようにするためには,配備の問題だけではなく,十分に使用できていな

い状況を把握する必要がある.その中で4つのグループにおけるAED使用現状を今回整理す

ることができた.

6.参考文献

(1)総務省消防庁 平成23年度版救急救助の現況

(2)Cummins RO,Chamberlain DA,Abramson NS,et al“Recommended guidelines for

uniform reporting of data from out-of-hospital cardiac arrest;the Utstein style.”

Circulation 84(1991):960-975.

(3)Kitamura, T., T. Iwami, T. Kawamura, K. Nagao, H. Tanaka, A. Hiraide, and

Implementation Working Group for the All-Japan Utstein Registry of the Fire and

Disaster Management Agency. “Nationwide Public-Access Defibrillation in Japan.”

The New England Journal of Medicine 362, no. 11 (2010): 994-1004.

(4)Mitamura,H, “Public access defibrillation: advances from Japan, ”Nat Clin Pract

Cardiovasc Med119(2008):728-734.

(5)丸川征四郎他 「循環器疾患等の救命率向上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に

関する研究」循環器疾患・糖尿病等生活習慣疾病対策総合研究事業報

告,2012.http://aed-hyogo.sakura.ne.jp/wpm/archivepdf/23/2_09.pdf(アクセス日:

2013年10月9日)

(6)山本五十年『救急現場学へのアプローチ』プレホスピタル MOOK シリーズ5(大阪:永井

書店,2008)

(7)総務省消防庁,平成15年 救急業務高度化推進委員会報告書,

http://www.fdma.go.jp/html/new/pdf/0310_kyukyu.pdf (アクセス日:2013年9月20日)

(8)佐藤 誠一「先天性心疾患や不整脈による心事故 : 予防から予測へ」『小児科』

54,no.3(2013): 259-269

(9)総務省消防庁,平成21年 ウツタイン統計作業部会報告書(案)

http://www.fdma.go.jp/html/intro/form/pdf/kyu-tokei/210217-1_2_5kyu-tokei.pdf

(アクセス日:2013年9月2日)

(10)渡辺美智子『マーケティングの数理モデル』岡太彬訓,木島正明,守口剛 編3章「因果

関係と構造を把握するための統計手法-潜在クラス分析-」(東京:朝倉書店,2005年)

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