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マクロ経済動向分析 8-9 慶應義塾大学 駒形哲哉研究会 1 マクロ経済動向分析 8-9 権力集中を図る習主席、党大会に向け経済安定化を目指す 2017 8 月の製造業購買担当者景気指数(PMI)51.7 と前月より小幅に上昇した。分岐 点である 50 13 ヵ月連続で上回っており、中国経済は、10 18 日から開催される中国 共産党大会に向けて経済の安定化を図る動きが見られた。一方、金融市場の安定化を目的 とした元高誘導の副作用として輸出入の成長鈍化が認められた。また供給側構造改革の一 環である生産能力や負債削減は一定の成果をあげた。 一層の権力集中を目指す習近平国家主席は、経済統計の不正摘発や世論統制に注力して いる。国有企業を合併させ、世界的に一流な中国企業の育成にも積極的である。 内容 1. 進む構造改革、ハイテク産業も堅調.............................................................................. 2 2. 減税効果薄れる自動車、値引きで下支え ...................................................................... 4 3. 民間投資不振、米との関係改善着手へ .......................................................................... 7 4. 各種規制の影響長期化、仮想通貨の規制強化も............................................................ 9 5. 輸出入伸び率鈍化、サービス輸出構造の最適化進む ................................................... 11 6. 党大会に向け経済の安定化図る、習近平国家主席は権力集中の目論みか ................. 17 7. 8 月に 3300 ポイント突破の上海、香港市場は 9 月中旬 28 ヵ月ぶりの大台............. 19 参考 Web............................................................................................................................... 22 参考新聞・資料 .................................................................................................................... 22

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Page 1: マクロ経済動向分析 8-9 - kazankai.orgマクロ経済動向分析8-9 月 慶應義塾大学 駒形哲哉研究会 2 1. 進む構造改革、ハイテク産業も堅調 2017

マクロ経済動向分析 8-9 月 慶應義塾大学

駒形哲哉研究会

1

マクロ経済動向分析 8-9 月

権力集中を図る習主席、党大会に向け経済安定化を目指す

2017 年 8 月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は 51.7 と前月より小幅に上昇した。分岐

点である 50 を 13 ヵ月連続で上回っており、中国経済は、10 月 18 日から開催される中国

共産党大会に向けて経済の安定化を図る動きが見られた。一方、金融市場の安定化を目的

とした元高誘導の副作用として輸出入の成長鈍化が認められた。また供給側構造改革の一

環である生産能力や負債削減は一定の成果をあげた。

一層の権力集中を目指す習近平国家主席は、経済統計の不正摘発や世論統制に注力して

いる。国有企業を合併させ、世界的に一流な中国企業の育成にも積極的である。

内容

1. 進む構造改革、ハイテク産業も堅調 .............................................................................. 2

2. 減税効果薄れる自動車、値引きで下支え ...................................................................... 4

3. 民間投資不振、米との関係改善着手へ .......................................................................... 7

4. 各種規制の影響長期化、仮想通貨の規制強化も............................................................ 9

5. 輸出入伸び率鈍化、サービス輸出構造の最適化進む ................................................... 11

6. 党大会に向け経済の安定化図る、習近平国家主席は権力集中の目論みか ................. 17

7. 8 月に 3300 ポイント突破の上海、香港市場は 9 月中旬 28 ヵ月ぶりの大台 ............. 19

参考 Web............................................................................................................................... 22

参考新聞・資料 .................................................................................................................... 22

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マクロ経済動向分析 8-9 月 慶應義塾大学

駒形哲哉研究会

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1. 進む構造改革、ハイテク産業も堅調

2017 年 8 月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は 51.7 と 7 月の 51.4 より 0.3 ポイント

高くなり、7 月の小幅低下から上昇に転じた(国家統計局 2017/07/31、2017/08/31)。分岐点

50 以上が 13 ヵ月続き、経済安定成長の基盤が全体的に確立されてきている(新華社

2017/08/31)。とりわけ中規模企業では 8 月に 51.0 と、前月より 1.4 ポイント上昇し分岐点

を上回った(中国通信 2017/08/31)。非製造業 PMI は 7 月、8 月それぞれ 54.5、53.4 と低下

し 2016 年 5 月以来の低水準を記録するも、依然として分岐点を上回り比較的高い成長の合

理的レンジにある(国家統計局 2017/07/31、08/31、新華社 2017/08/31)。

8 月の工業付加価値生産伸び率は前年同期比 6.0%の増加に留まり、7 月の 6.4%を下回っ

た。一方で、ハイテク産業は前年同期比 12.9%増、設備製造業は 11.6%増と成長を牽引し

ている。さらに 1-8 月で工業用ロボットは 63%増、新エネルギー自動車は 25.4%増と依然

として好調である(国家統計局 2017/09/14)。日系企業も中国での自動化の趨勢にチャンスを

見出している。川崎重工業は中国での産業用ロボットの生産を拡大する。2017 年度の販売

台数を前年比 7 割増の約 8 千台に引き上げる他、中小型ロボットの生産ラインを 3 本新設

する(日本経済新聞 2017/09/18)。自動化の流れに伴ってファーストリテイリング傘下のジー

ユーは中国に生産を戻しており、衣料品の追加発注分を中国で生産し、生産から納品まで

の時間を短縮化して収益改善に努めている(日本経済新聞 2017/09/12)。生産拠点の脱中国化

を阻止したい中国もロボット投入には積極的である。ユニクロの主要取引先であるチェン

フェンは「ハンガーシステム」という新しい製造ラインを導入し、製造効率を 15%改善し

た(日本経済新聞 2017/08/15)。

7 月の粗鋼生産は前年同月比 10.3%増の 7402 万トンで先月に続き過去最高を更新した。

「ヤミ工場」の閉鎖の影響で建設用途を中心に需要が逼迫したことで標準的な棒鋼の 1 ト

ン当たり価格が 4000 元(約 6 万 5000 円)の大台を突破し、鉄鋼大手が相次いで増産したた

めである(日本経済新聞2017/08/16)。また、同月の石炭生産は前年同月比8.5%増の2億9438

万トンだった(国家統計局 2017/08/14)。中国政府が指標に採用する秦皇島港などの標準的な

発電用石炭価格が引き続き前年同時期より 4 割程度高いことが炭鉱の稼働を押し上げた(日

本経済新聞 2017/08/16)。

中国政府は、過剰な生産能力、過剰在庫、高い負債率を減らす「三去一降一補」をはじ

めとする供給側構想改革の進展を強調した(中国通信 2017/08/30)。屑鉄を原料にした低品質

の「地条鋼」生産の持続的な取締まり強化などによって、年度目標の 85%である 1 億 2800

万トンの鉄鋼生産削減を 7 月末までに達成したとした(国家統計局 2017/09/14)。また、同

政策の課題である一定規模以上の工業企業の資産負債率も7月末時点で前年同期比0.7ポイ

ント減の 55.8%だった。持続的なレバレッジ比率の引き下げと、債務の株式転換作業の市

場化・法治化の推進による効果である(中国通信 2017/08/27、国家統計局 2017/09/14)。

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3

図表 1 製造業購買担当者景気指数(PMI)

(出所)国家統計局より作成

図表 2 工業付加価値生産額伸び率(単位:%)

(出所)国家統計局より作成

50.4

50.4

51.2

51.751.4 51.3

51.651.8

51.2 51.2

51.7

51.4

51.7

49

49.5

50

50.5

51

51.5

52

52.5

53

6.36.1

6.1

6.2

6.0

6.3

6.8

6.5 6.5

7.6

6.4 6.0

5

5.5

6

6.5

7

7.5

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2. 減税効果薄れる自動車、値引きで下支え

2017 年 8 月の社会消費品小売総額は 7 月より 0.3 ポイント低い前年同月比 10.1%増で、

2 カ月連続で伸び率が減少した(国家統計局 2017/08/14、2017/09/14)。1-8 月の全国ネット

小売額は前年同期比 34.3%増の 4兆 2511億元で、伸び率は 1-7月を 0.6ポイント上回った。

うち現物商品のネット小売額が 29.2%増の 3 兆 2101 億元で、社会消費品小売総額全体の

13.8%を占め、前年同期を 2.2 ポイント上回った(国家統計局 2017/09/14)。インターネット

通販の急拡大に伴い、段ボール不足が深刻化している。2016 年に中国で宅配された小包数

は 4 年前の 6 倍である 313 億個で、1 年で倍増した。原紙価格は 1 年で 7 割高騰し、全世

界の 3 分の 1 の原紙消費量を誇る中国での価格高騰は海外の段ボール市場に影響を及ぼす

可能性が高く、各国が警戒を強める(日本経済新聞 2017/09/10)。

8 月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比 1.8%増と 7 月より 0.4 ポイント拡大した。1-8

月の CPI は前年同期比 1.5%の上昇だった。食品価格は生鮮野菜が 9.7%上昇、豚肉が 13.4%

の下落と 7、8 月通じて季節的要因に影響された。食品以外では特に医療保険が 5.9%、居

住が 2.7%、教育文化と娯楽が 2.5%上昇した(国家統計局 2017/09/09)。8 月の生産者物価指

数(PPI)は前年同月比 6.3%上昇し、伸び率は 7 月より 0.8 ポイント拡大した(国家統計局

2017/09/09)。4 カ月ぶりの大幅上昇となった背景には原材料価格の高騰があり、メーカー

の利益増加および経済成長が継続することを示唆した(ロイター2017/09/08)。厳しい環境規

制による工場の閉鎖や操業停止が影響した可能性がある。業種別にみると前年同月比 32.1%

増の石炭、同 29.1%増の鉄鋼、同 16.3%増の非金属などの上昇が目立つ(日本経済新聞

2017/09/09)。

8月の新車販売台数は前年同月比 5.3%増の 218.6万台で 7月の 6.2%に比べ若干鈍化した

(中国汽車工業協会 2017/08/11)。3 カ月連続で前年実績を上回ったが、小幅な伸びにとどま

った(日本経済新聞 2017/09/12)。特に市場の 8割以上を占める乗用車が 4%増止まりだった。

小型乗用車に対する減税措置は続いているものの実質的な効果は薄く、各社の値引きによ

る販売促進で辛うじて 4%増を維持している(日本経済新聞 2017/09/12)。1-8 月の累計販売

は 4.3%増の 1751 万台だった。このままのペースで行くと昨年の伸びである 13.7%増を大

きく下回り、5 年ぶりに 2012 年並みの低水準の伸びである 4.3%増に留まる可能性がある。

市場全体が年末までに、どれだけ持ち直せるか注目される(日本経済新聞 2017/09/13)。

メーカー別では、地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)問題の余波が続く韓国の現

代自動車が 39%減と引き続き厳しく、米フォード・モーターも 1%減だった(日本経済新聞

2017/09/12)。一方日系は、SUV や得意の小型車を中心に、積極的な新車投入の効果も出て

おり、軒並み好調である(日本経済新聞 2017/09/13)。ホンダが 21%増、日産自動車が 18%

増、トヨタ自動車が 13%増と、いずれも 2 ケタ増を確保した(日本経済新聞 2017/09/12)。

中国政府は英仏に追随し、ガソリン車やディーゼル車の製造・販売を禁止する方針だ。

電気自動車(EV)やプラグインハイブリット車(PHV)を中心とする新エネルギー車(NEV)に

自動車産業の軸足を移す。環境対策のみならず、ガソリン車などでは日欧米の大手メーカ

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ーに対抗することが難しいために NEV で世界を代表する中国企業を作り出す思想も透け

る(日本経済新聞 2017/09/12)。

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図表 3 社会消費品小売総額伸び率(単位:%)

(出所)国家統計局より作成

図表 4 消費者物価指数(CPI)及び生産者物価指数(PPI)(単位:%)

(出所)国家統計局より作成

10.6 10.7

10.0

10.8 10.9

9.5

10.9

10.7 10.7

11.0

10.410.1

9.0

9.5

10.0

10.5

11.0

11.5

12.0

1.31.9 2.1

2.3

2.1 2.5

0.8

0.9 1.21.5 1.5 1.4 1.8

-0.80.1

1.2

3.3

5.5

6.97.8 7.6

6.45.5 5.5 5.5

6.3

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

CPI

PPI

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3. 民間投資不振、米との関係改善着手へ

2017 年 1-8 月の固定資産投資は前年同期比 7.8%増の 39 兆 4150 億元で、伸び率は 1-7

月から 0.5 ポイント下落した。第一次産業への投資は前年同期比 14.6%増、第二次産業へ

の投資は前年同期比 4.0%増、第三次産業への投資は前年同期比 8.4%増となった。第二次

産業のうち、製造業投資は前年同期比 4.5%増だった。特に設備投資が好調で、1-8 月の設

備製造業への投資額は前年同期比 4.6%増となり、製造業投資総額の 41.8%を占め、製造業

投資への成長寄与度は 73%と高い。ハイテク産業の投資は前年同期比 17.8%増で、伸び率

が 2.3 ポイント上昇した。うちハイテク製造業は前年同期比 19.5%増で、投資額としては

11.7%増となった。国有企業の投資は前年同期比 11.2%増であった。一方民間投資は前年同

期比 6.4%に留まったものの全体の 60.7%を占めた。インフラ投資は前年同期比 19.8%増だ

った。総投資額の 21.5%を占め、固定資産投資への成長寄与度は 49.5%だった。地方政府

の主導によるインフラ投資が好調である一方、製造業を中心とする民間投資が振るわない

結果となった(国家統計局 2017/09/14)。急成長分野における短期投資では、生活保護と環境

ガバナンス、公共施設管理業、農業への投資がそれぞれ前年同期比で 28.2%、24.3%、16.1%

増加した(国家統計局 2017/09/19)。

1-8 月の不動産開発投資は前年同期比 7.9%増で、伸び率は 1-7 月から横ばいだった。う

ち住宅投資は 10.1%増だった。1-8 月の不動産販売面積は同 12.7%増と 1-7 月の 14%増か

ら減速した。不動産バブルを抑えようと各地の地方政府が住宅購入を厳しく制限した影響

である。一方で商業住宅の建設は促進し、需給バランスの維持と構造改革に努めた(国家統

計局 2017/09/14)。

1-7 月の対外投資は、前年同期比 44.3%減の 572 億ドルとなった。非理性的対外投資が

一段と有効に抑えられ、同時に対外投資構造の最適化が進んだ(商務省 2017/08/15)。1-8 月

の対外直接投資は前年同期比 5.1%減で 815 億 400 万ドルとなった。2016 年 11 月より 10

ヵ月連続でマイナス成長だった(国家統計局 2017/09/14)。

米トランプ大統領は 8 月 14 日、中国に米企業に対する不当な技術移転の共用や知的財産

権侵害などの不公正な貿易慣行がないか、米通商法 301 条に基づく調査を検討するよう米

通商代表に命じる大統領令に署名した(読売新聞 2017/08/15)。これを受けて中国商務省は 8

月 25 日、知的財産権侵害の取り締まりを強化すると発表し、海外からの投資環境の改善を

目指す(ロイター2017/08/25)。

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駒形哲哉研究会

8

図表 5 固定資産投資及び民間固定資産投資伸び率(単位:%)

(出所)国家統計局より作成

図表 6 不動産投資伸び率(単位%)

(出所)国家統計局より作成

8.1 8.2 8.3 8.3 8.18.9 9.2 8.9 8.6 8.6 8.3

7.8

2.12.5

2.9 3.1 3.2

6.77.7

6.96.8

7.2 6.96.4

1.5

3.5

5.5

7.5

9.5

固定資産投資 民間固定資産投資

5.45.8

6.6 6.56.9

8.9 9.1 9.38.8

8.57.9 7.9

4

5

6

7

8

9

10

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4. 各種規制の影響長期化、仮想通貨の規制強化も

2017 年 8 月の新規人民元建て融資は 1 兆 900 億元と、7 月の 8255 億元から増加した(中

国人民銀行 2017/09/15)。住宅購入者や企業の需要が旺盛だった(ロイター2017/09/15)。8

月のマネーサプライ(M2)は前年同月比 8.9%増で、前月の 9.2%増より 0.3 ポイント下回る

伸び率となった(中国人民銀行 2017/09/15)。9 ヵ月連続での伸び率が低下しており、金融セ

クターのデレバレッジによって持続的に影響を受けているとみられる(日本経済新聞

2017/08/15)。M1 の残高は前年同月比 14%増の 51 兆 8100 億元だった(中国人民銀行

2017/09/15)。

8 月の財政収入は前年同月比 7.2%増の 1 兆 700 億元で、伸び率は前月の 11.1%に比べ鈍

化した。税外収入が 1745 億元と前年同月比で 22.5%落ち込んだことが鈍化の原因である。

8 月の財政支出は、前年同月比 2.9%増の 1 兆 4600 億元だった。民生関係の支出が比較的

高い伸びだった 7 月から 2.5 ポイント下落した(財政部 2017/09/11)。社会融資総量は 8 月単

月で 1 兆 4791 億元と、7 月の 1 兆 1904 億元から増加した(中国人民銀行 2017/08/31)。国

際通貨基金(IMF)は、成長達成に向けた政策遂行や債務拡大に伴うリスクに警鐘を鳴らして

いる。IMF は中国の債務削減の取り組みについてそれほど進展していないとし、16 年に約

235%だった非金融部門の債務の対国内総生産(GDP)比率は22年までに290%を超えると予

想した(ロイター2017/08/16)。また、中国当局による資本流出規制についても「政策を執行

する時は公平性と透明性を確保すべきだと強調する」と指摘し、制限手法に問題があると

の見方を示した(日本経済新聞 2017/08/16)。

8 月の外貨準備残高は 3 兆 915 億ドルで、7 月に比べ 108 億ドル増え、7 か月連続の増加

となった(中国人民銀行 2017/09/07)。クロスボーダーの資金移動と外為市場の需給の基本的

均衡に加えて、国際金融市場で資産価値が多少上昇したことが要因である(国家外国為替管

理局 2017/09/07)。また今年 6 月末の米国債の保有総額が 1 兆 1465 億ドルと、中国は 2016

年 9 月以来 9 ヵ月ぶりに日本を抜いて世界最大の債権国なった(中国通信 2017/08/15)。中

国人民銀行は人民元の下落を食い下げるため、外貨準備を取り崩してドル売り・元買いの

為替介入を続けていたが、今年に入って元レートの下落が一服したため、中国政府は再び

米国債の購入に転じたとみられる(読売新聞 2017/08/17)。

中国政府は外国への資金流出やバブルにつながる仮想通貨を警戒しており、10 月の党大

会を前にリスク排除に踏み切った(朝日新聞 2017/09/16)。金融当局による 9 月 8 日付の仮

想通貨の取引所の閉鎖要求を受け、中国のビットコインの 3 大取引所すべてが閉鎖を決め

た(読売新聞 2017/09/16)。4 日には、企業や団体が独自の仮想通貨を発行して資金を集める

「新規仮想通貨公開」を禁止すると中国人民銀行が発表した(毎日新聞 2017/09/07、日本経

済新聞 2017/09/09)。これらの影響でビットコインの価格は 15 日に 1BTC=3000 ドルを割

り込み、2 日の約 5000 ドルから 2 週間足らずで 4 割も落ち込んだ(読売新聞 2017/09/16)。

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マクロ経済動向分析 8-9 月 慶應義塾大学

駒形哲哉研究会

10

図表 7 通貨供給量(M2)の伸び率(単位%)

(出所)国家統計局より作成

11.4

11.5

11.6

11.4

11.3 11.311.1

10.6 10.5

9.69.4

9.2

8.9

8.5

9.5

10.5

11.5

12.5

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5. 輸出入伸び率鈍化、サービス輸出構造の最適化進む

8 月の輸出入総額は前年同期比 10.1%増の 2 兆 4064 億元で、7 月の 12.4%増から 2.3 ポ

イント下落した。うち輸出が 6.9%増の 1 兆 3464 億元、輸入が 14.4%増の 1 兆 599 億元で、

2865 億元の貿易黒字となった(海関総署 2017/09/08)。商務部国際貿易経済協力研究院国際

市場研究所の白明副所長は、輸出の伸び鈍化について、比較する前年同期が人民元安傾向

であったのに対し、今期は人民元高であることが影響したと指摘した(中国通信 2017/08/08)。

1-8 月の輸出額を主要な国・地域別にみると、米国は前年同期比 16.7%増、欧州連合(EU)

は 14.0%増、日本は 10.7%増となった(海関総署 2017/09/08)。輸入の伸び鈍化については国

際大口商品の価格下落と関係しているとみている(中国通信 2017/08/08)。1-8 月の輸出に関

して商品別でみると、機械電気製品は前年同期比 13.4%増の 5 兆 6267 億元で、7 月の 14.2%

増より 0.8 ポイント下落した(海関総署 2017/09/08)。1-8 月の輸入では石炭輸入が 14.2%増

の1億7782万トンで、前年同期の1億5572万トンから増加した。8月単月では前月比29.9%

増の 2527 万トンで、2016 年 12 月以来の高水準となった。国内生産の減少を受けて、輸入

が膨らんだ(ロイター2017/09/08)。

1-7 月のサービス貿易総額は前年同期比 10.6%増の 2 兆 6529 億 7000 万元で、赤字が縮

小した。うち輸出が 4.4%増の 8077 億 2000 万元、輸入が 13.5%増の 1 兆 8452 億 4000 万

元で、1 兆 375 億 2000 万元の赤字となった。専門管理・コンサルタントサービスと通信・

コンピューター・情報サービスが新興分野の黒字に貢献し、黒字額がそれぞれ 575 億 9000

万元と 390 億 2000 万元に達したことで赤字幅が縮小した。さらに、新興分野の輸出は前年

同期比 8.3%増の 4057 億 5000 万元で、サービス輸出全体に占める割合が前年同期比を 1.8

ポイント上回って 50.2%となった。そのうち知的財産権使用料が 489.4%増、個人向け文

化・娯楽サービスが 20.4%増、保守修理サービスが 14.4%となった(商務省 2017/09/07)。

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12

図表 8 輸出の伸び推移(単位:%)

(出所)海関総署より作成

図表 9 輸入の伸び推移(単位:%)

(出所)海関総署より作成

-2.8

-10.0

-7.3

0.1

-6.1

7.9

-1.3

16.4

8.0

15.5

11.3

7.2

6.9

-15.0

-10.0

-5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

1.5

-1.9 -1.4

6.7

3.1

16.7

38.1

20.3

11.9

22.1 17.2

11.0

14.4

-5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

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図表 10 輸出品目別統計

商品名称 単位 1-8 月累計 前年同期比(%)

数量 金額(億ドル) 数量 金額(億ドル)

機械・電気設備製品 - 8204.1 8.0

ハイテク製品 - 3989.9 8.1

服飾付属品 - 1033.7 0.0

自動データ処理設備及び備品 万台 99,220 977.4 -1.2 14.4

携帯電話及び部品 872.3 6.5

紡績・織物及び製品 - 721.0 2.0

農産品 - 472.2 2.3

IC 100 万個 131,521 406.9 13.9 6.5

鋼材 万トン 5,447 373.8 -28.5 2.5

靴類 万トン 308 329.4 9.1 5.2

家具及び部品 325.6 5.2

自動車部品 - 323.3 6.7

プラスチック製品 万トン 762 251.9 12.8 10.7

電灯・照明装置及び類似品 187.0 3.1

鞄類 万トン 207 177.1 13.7 10.3

液晶掲示板 100 万個 1,191 164.7 -3.3 2.3

船舶 艘 5,616 145.9 15.2 11.6

陶磁器 万トン 1,557 125.8 2.3 10.7

(出所)海関総署より作成

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図表 11 輸入品目別統計

商品名称 単位 1-8 月累計 前年同期比(%)

数量 金額(億ドル) 数量 金額(億ドル)

機械・電気設備製品 - - 5273.1 - 9.4

ハイテク製品 - - 3565.0 - 9.9

IC 100 万個 240,944 1545.6 12.5 11.5

原油 万トン 28,105 1054.0 12.2 44.8

農産品 - - 827.5 - 13.9

鉄鉱砂及び精鉱 万トン 71,398 524.0 6.7 44.2

自動車(セット部品含む) 万台 80 322.6 20.2 13.5

プラスチック原料 万トン 1,845 309.6 11.6 17.5

大豆 万トン 6,334 263.7 15.9 23.3

自動車部品 - - 203.7 - 8.7

液晶パネル 万個 154,025 197.7 2.7 0.8

銅鉱及び銅材 万トン 301 191.3 -12.7 6.8

医薬品 トン 90,326 175.9 13.3 26

自動データ処理設備及び部品 万台 31,637 173.6 -10.3 5.2

銅鉱砂及び精鉱 万トン 1,110 157.8 2.8 20.7

廃材・リサイクル原料など 万トン 2,969 153.1 5.3 33.4

天然ガス 万トン 4,246 138.9 25.5 34.7

ダイオード及び半導体部品 100 万個 331,875 127.9 10.2 3.3

(出所)海関総署より作成

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図表 12 主要国別輸出入

(出所)海関総署より作成

輸出最終目的国

単位:億ドル,% 当月 1-8 月累計

輸入原産国

単位:億ドル,% 当月 1-8 月累計

金額 金額 前年同期比

金額 金額 前年同期比

合計 1992.3 14363.5 7.6 合計 1572.3 11649.0 16.9

アメリカ 392.1 2684.8 11.2 日本 142.3 1046.4 14.3

香港 232.9 1691.3 -3.6 韓国 152.5 1098.5 9.5

日本 111.6 875.4 5.4 台湾 138.4 938.3 10.2

韓国 86.4 662.6 11.9 アメリカ 129.8 1004.2 20.1

ドイツ 63.7 458.3 7.9 ドイツ 91.6 619.4 9.3

ベトナム 62.8 442.9 16.8 オーストラリア 67.3 621.7 43.2

インド 60.9 444.0 16.7 ブラジル 55.9 399.1 26.4

オランダ 58.5 413.1 16.3 マレーシア 51.5 346.1 14.7

イギリス 55.1 369.9 3.7 ベトナム 43.3 276.1 25.8

ロシア 44.1 276.0 18.3 タイ 37.2 268.4 20.5

台湾 37.6 274.8 7.3 シンガポール 31.8 214.5 32.9

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図表 13 ドル円対人民元相場推移

(2017/05/02-2017/10/02)

(出所)中国外貨管理局より作成

図表 14 香港ドルユーロ対人民元相場推移

(2017/05/02-2017/10/02)

(出所)中国外貨管理局より作

655

660

665

670

675

680

685

690

695

590

600

610

620

630

640

2017/5/2 2017/6/2 2017/7/2 2017/8/2 2017/9/2 2017/10/2

元/10000円

(左軸)

元/100ドル

(右軸)

83.0

84.0

85.0

86.0

87.0

88.0

89.0

90.0

7.00

7.20

7.40

7.60

7.80

8.00

8.20

2017/5/2 2017/6/2 2017/7/2 2017/8/2 2017/9/2 2017/10/2

元/ユーロ(左

軸)

元/香港ドル

(右軸)

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6. 党大会に向け経済の安定化図る、習近平国家主席は権力集中の目論みか

5 年に 1 度の中国共産党大会が 10 月 18 日から開催される。最高指導部の人事や党の基

本路線を決める最重要会議で、会期は約 1 週間。2 期目に入る習近平国家主席は、側近の登

用や自らの政治思想を盛り込む党規約改正などを実現させ、一層の権力集中を目指す(日本

経済新聞 2017/09/01)。

政府は党大会に向けて景気や金融市場の安定化に努めている。対中投資の減少を受け、

外資企業向けの市場開放計画を 9 月末に策定した。対象は新エネルギー車、銀行、証券、

保険など 12 分野である(日本経済新聞 2017/08/25)。地方政府は歳入における柱の一つであ

る土地売却収入を通じ、インフラ投資など景気対策の財源確保を急いでいる(日本経済新聞

2017/08/30)。なお、インフラ投資の活発化に伴って粗鋼生産量が高水準で推移しているた

め、共産党大会終了後の供給過剰リスクの高まりが懸念される(日本経済新聞 2017/08/26)。

政府は、元相場安定化のため元高誘導にも躍起だ。元安につながる資本流出の抑制策は一

定の効果をあげたとした(日本経済新聞 2017/09/01)。一部の地方政府は外貨流出を警戒して、

買い物が多い訪日団体旅行を制限した(日本経済新聞 2017/09/15)。さらに、昨年 6 月以来の

6.5 元台を 9 月 1 日に記録した人民元の対米ドル基準値の上昇が元相場を押し上げた(中国

通信 2017/09/01)。

権力集中を目指す習近平国家主席は、経済統計の水増しや捏造への戒めを強めている。

中国東北部の遼寧省では、経済統計の水増しが発覚し、1-6 月期の名目域内総生産が前年同

期比マイナス 20%に急減した(日本経済新聞 2017/08/22)。党大会を控え、世論統制にもよ

り一層注力している。8 月 11 日、中国当局はネットサービス大手 3 社の一斉調査に着手す

ると発表した。今回ネット安全法違反の疑いで調査されるのは騰訊控股(テンセント)による

「微信(ウィーチャット)」、新浪(シナ)による「微博(ウェイボ)」、百度(バイドゥ)による「貼

吧(ティエバ)」の 3 サービスで、総利用者数は延べ 13 億 5400 万人にも達する(日本経済新

聞 2017/08/12)。国外のネットワークに接続する仮想私設網(VPN)の規制にも 1 月から着手

しており、7 月末から 8 月にかけて VPN アプリの販売の制限に乗り出した(日本経済新聞

2017/09/07)。

上場企業への党の介入や世界で戦える巨大な国有企業をつくる構想、不良債権比率の改

善も習近平国家主席の権力基盤構築の一環だ。中国の上場企業では、定款に「党の介入」

を明文化した企業数が今春以降急増し、7 月末までには少なくとも 228 社にのぼった(日本

経済新聞 2017/08/17)。さらに、国有企業の合併も相次いでいる。国有企業を集約して大き

くし、国内である程度の独占を認めることによって中国勢同士の衝突を避け、世界に出て

いく構想だ(日本経済新聞 2017/08/25)。8 月 3 日には、国有石炭大手の神華集団と、国有発

電大手の中国国電集団が合併で基本同意した。中国政府は国内競争でエネルギー価格を抑

制するよりも規模の大きいエネルギー企業を作り出して海外進出を後押しする方針である

(日本経済新聞 2017/08/04)。一方 2017 年上半期の決算によると、6 月末時点での不良債権

比率は平均で 1.65%と、2016 年 12 月に比べて 0.07 ポイント低下した。中国四大銀行の不

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良債権比率が低下するのは約 5 年ぶり。国内景気の安定に加え、不良債権の外部売却や証

券化を進めた効果が出ている(日本経済新聞 2017/09/01)。

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7. 8 月に 3300 ポイント突破の上海、香港市場は 9 月中旬 28 ヵ月ぶりの大台

8月に入ると、上海市場は市場予想を上回る財新製造業PMIが好感され、1日に3300ポイ

ントに接近。翌2日は前場で大台を超えたが、これにより利益確定圧力が強まると、同日は

結局、大台を守れずに6営業ぶりに反落して大引け。週後半は資金逼迫感がやや意識され、

小安く推移した。それでも先週末の終値をわずかに上回り、取引を終了した(内藤証券

2017/08/04)。週明け14日はその反動から4営業日ぶりに上昇。低調な経済指標の悪影響は

限定的だった。翌15日も米朝有事リスクの後退を受け、小幅に上昇。16日はわずかに反落

したが、17日は北京市の副都心「雄安新区」や「混合所得制改革」(民間資本の導入)への期

待感から3200ポイント台の後半まで反発した。週末18日は外部環境の悪化にもかかわらず

底堅かった(内藤証券2017/08/18)。週明けの23、24日は北朝鮮情勢、資金の逼迫感、商品安

などが嫌気されて低迷した。だが、週末25日は企業業績を好感した買いが活発化し、約20

ヵ月ぶりに節目の3300ポイント台を回復して大引け、週間の上昇率は1.92%だった(内藤証

券2017/08/25)。週明け28日は人民元高と企業業績、公的マネーの流入を手がかりに、3300

ポイント台中盤まで上昇した。29日は北朝鮮のミサイル発射で上値は重かったが、銀行株

に支えられ、わずかに上昇。30、31日は高値警戒感が強まり小幅に調整したが、月間2.68%

高で8月の取引を終了した。

9月の上海市場は、1日、強いPMIなどが好感され底堅かった(内藤証券2017/09/01)。翌週

4日からは週中盤まで先週までの好地合いを引き継ぎ、底堅く推移。人民元高や景気見通し

の改善が支えになった。だが、北朝鮮リスクは根強く、上値の重さは顕著。7日はリスク回

避の売りが景気敏感株にみられ、5営業日ぶりに小幅調整した。週末8日は方向感に乏しく、

最終的に先週末の終値をわずかに下回った(内藤証券2017/09/08)。中国の強い輸入・物価統

計と人民元高を支えに、週明け11日は小幅ながらも3営業日ぶりに上昇した。12、13日は元

高の一服感や高値警戒感が強まった一方で、地政学リスクがやや緩和し、わずかに続伸。

14日は生産・消費・投資の各統計の下振れを受けて小幅に調整。週末15日は北朝鮮のミサ

イル発射が重しになり、終値は先週末をわずかに下回った(内藤証券2017/09/15)。テーマ株

が物色され、週明け18日は3営業日ぶり小反発。翌19日は中国経済の不透明感と人民元安で

わずかに調整した。20日企業・政策期待を背景に幾分上昇したが、米連邦公開市場委員会

を経て元安観測が強まると、21日に小幅に反落。週末22日は中国国債の格下げと北朝鮮リ

スクにより続落し、先週末の終値をわずかに下回った(内藤証券2017/09/22)。週明け25日は

北朝鮮情勢の緊迫化などが重しになり続落。翌26日は国慶節連休商戦への期待感などを支

えに、僅差で4営業日ぶりに上昇した。27日はテーマ株が物色されてわずかに続伸。28日は

人民元安が嫌気されて調整するも、週末29日は底堅く推移。それでも先週末、先月末の終

値はわずかに届かず、連休前最後の取引を終えた(内藤証券2017/09/29)。

一方香港市場の8月1日、2日は中国の景況感指数や米国株高などを手がかりに順調に上げ

幅を拡大。3日は米国株の高値警戒感が伝わり、指数もわずかに調整。4日も上値は重かっ

たが、週間2.16%高で取引を終えた(内藤証券2017/08/04)。米朝有事リスクで急落した先週

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末の反動から、14日のハンセン指数は370ポイント近くも上昇。企業決算を材料に、一営業

日で2万7000ポイント台を回復した。15日は低調な中国の経済統計などが意識され、小安く

推移。それでも北朝鮮がグアムへのミサイル発射を当面見送るとの報道が伝わった16日は

堅調だった。17日に弱含むと、18日は米国政治の混乱を受けた米国株安が嫌気されて続落。

先週末の終値は上回り、節目の2万7000ポイントも維持した(内藤証券2017/08/18)。21日は

原油高や国有企業改革が好材料視され、ハンセン指数は小幅ながらも3営業日ぶりに反発。

同日夜の米国市場の反発を受け、翌22日は続伸した。上場企業の堅調な中間決算が支援材

料に。23日は台風の直撃で急遽休場。再開した24日は人民元高なども好感され、上値は重

いものの小高く推移。週末25日はA株上昇に追随して高値引け。来週の2万8000ポイント超

えを視野に入れた(内藤証券2017/08/25)。ジャクソンホール会合を経て米ドル安・人民元高

が進み、28日のハンセン指数は引き続き上昇。もっとも米国の政治リスクや北朝鮮情勢が

重しになり、29日も含め弱含む動きだった。30日は人民元高や主要企業の決算・再編に刺

激され、反発して約2年3カ月ぶりに2万8000ポイントの大台を突破。業績発表の一巡による

材料出尽くしで31日は小幅に調整したが、8月は月間2.36%高で取引を終了。

9月に入り、香港市場は一進一退が続き、終値はわずかながらも大台を割り込んだ(内藤証

券2017/09/01)。北朝鮮の核実験明けの4日は地政学リスクが重しになり、ハンセン指数は続

落。5日は米国株の休場を受け強弱双方で材料を欠き、前日比変わらずで取引を終了。6日

は米国政治リスクを含む外部環境の悪化、7日はA株下落が嫌気され、小幅に調整した。8

日は人民元高が支援材料となり、2万7000ポイント台後半で今週の取引を終えた(内藤証券

2017/09/08)。米国債のデフォルト回避が好感され、週明け11日のハンセン指数は2万8000

ポイントに接近。北朝鮮情勢のヤマ場だった9日の建国記念日を無事通過したことも材料視

された。上値は重く、12日は一進一退で推移。13日は小幅反落するなど、地政学リスクが

重しになり、大台突破に失敗した。14日は中国の弱い統計と香港からの資本流出懸念、15

日は北朝鮮のミサイル発射がそれぞれ嫌気された。それでも先週末の終値をわずかに上回

り、今週の取引を終了(内藤証券2017/09/15)。米国株高を追い風に、18日のハンセン指数は

大幅続伸し、約2年4カ月ぶりの高値に到達。2万8000ポイントの大台を突破した。19日は

その反動と短期金利の上昇でわずかに反落したが、翌20日は良好な外部環境や本土マネー

の流入拡大を支えに小幅上昇した。21日は短期金利の上昇や資金流出懸念を背景に、一進

一退。22日は北朝鮮情勢を受けて2万8000ポイントを割り込んだ。それでも先週末の終値は

上回った(内藤証券2017/09/22)。北朝鮮情勢や中国国債の格下げと不動産引き締めなども嫌

気され、25日のハンセン指数は大幅に続落した。翌26日はその反動からわずかに反発。中

国・香港経済の見通しが改善し、27日は連休商戦への期待感から続伸した。米連邦準備制

度理事会のイエレン議長の発言を通じて12月の利上げ観測が強まると、28日は資本流出懸

念から反落。29日は小反発して2万7500ポイント台に戻したが、結局、先週末比1.17%安で

取引を終えた。9月は月間1.48%安と今年初の下落(内藤証券2017/09/29)。

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図表 16 上海総合指数(終値)

(2017/08/01-2017/09/29)

(出所) kabutan より作成

図表 17 ハンセン総合指数(終値)

(2017/08/01-2017/09/29)

(出所) Searchina Finance より作成

3,200.00

3,250.00

3,300.00

3,350.00

3,400.00

3,450.00

20

17

/8/1

20

17

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20

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1

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17

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3

20

17

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5

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17

/8/1

7

20

17

/8/1

9

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17

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1

20

17

/8/2

3

20

17

/8/2

5

20

17

/8/2

7

20

17

/8/2

9

20

17

/8/3

1

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17

/9/2

20

17

/9/4

20

17

/9/6

20

17

/9/8

20

17

/9/1

0

20

17

/9/1

2

20

17

/9/1

4

20

17

/9/1

6

20

17

/9/1

8

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Page 22: マクロ経済動向分析 8-9 - kazankai.orgマクロ経済動向分析8-9 月 慶應義塾大学 駒形哲哉研究会 2 1. 進む構造改革、ハイテク産業も堅調 2017

マクロ経済動向分析 8-9 月 慶應義塾大学

駒形哲哉研究会

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参考新聞・資料

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・産経新聞

・中国通信

・日本経済新聞

・毎日新聞

・読売新聞