インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1....

27
2011 年 3 月 17 日発行 インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性 ~教育水準が低く、労働供給に構造的ボトルネック

Upload: others

Post on 25-Jun-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

2011 年 3 月 17 日発行

インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性~教育水準が低く、労働供給に構造的ボトルネック

Page 2: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

本誌に関する問合せ先 みずほ総合研究所㈱ 調査本部

アジア調査部 シンガポール駐在 小林公司

℡ +65-6416-0353

E-mail [email protected]

*本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありま

せん。また、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、

確実性を保証するものではありません。本資料に記載された内容は予告なしに変更されることがあり

ます。

Page 3: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

要旨

1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に 04~07 年度は「雇用なき

高成長」だった。08 年度以降については断片的なデータしか得られないものの、リー

マンショックの影響が尾を引き、雇用情勢は顕著には改善していない模様だ。 2. とりわけ 2 次・3 次産業において、生産が増えても雇用は増えない傾向が目立つ。これ

ら産業では、労働集約型よりも、鉄鋼やITという資本・知識集約型の業種が発展し

ている。経済成長の成果は資本・知識集約型産業に従事する一握りの層に集中し、雇

用拡大という形で広範な階層には浸透していないことから、所得格差も拡大している。 3. 中国では労働集約型産業が発展し、2 次・3 次産業の雇用が拡大して中間所得層の形成

につながっており、インドとは対照的だ。インドで雇用が伸び悩む背景には、2 次・3次産業(特に労働集約型産業)の雇用を抑制する構造要因があると考えられる。

4. インドの雇用を抑制する主因として、教育水準が低いため、労働供給にボトルネック

があることを指摘できる。インドの識字率は 6 割で、9 割を超えるアジア諸国に水をあ

けられている。07 年度時点で中卒以上の学歴は人口の 26%にすぎず、2000 年度時点

で 5 割に達していた中国との格差は大きい。現地のヒアリングでも、企業が求める教

育水準の人材は不足しているとの意見が聞かれた。このように労働供給にボトルネッ

クがあるため、資本と知識に依存した成長パターンにならざるをえないのだろう。 5. インド政府は、教育水準を引き上げるべく、2010 年に無償義務教育法を施行したが、

6 歳の子どもが 14 歳で義務教育を修了するだけでも 8 年が必要であり、労働供給のボ

トルネック解消には時間を要すると考えられる。また、特に教育水準が低い農村では、

農業以外の産業で雇用される可能性が低いことから、政府は公共工事を通じた雇用対

策(全国農村雇用保障法)に力を入れている。とはいえ、当座のセーフティーネット

政策の性格が強く、根本的な教育問題を解決するものではないため、持続的な雇用押

し上げ効果は期待できない。 6. 今後を展望すると、実質GDP成長率は中期的に現状程度の+8%で推移すると予想さ

れるものの、資本・知識集約型の成長パターンは直ぐには変わらないだろう。雇用面

での試算でも、労働集約型の成長パターンへの転換が遅れることを反映して、成長率

に比べて就業者数の伸びは引き続き緩慢に留まるとの結果が得られた。増加する人口

が雇用として十分に活用されず、失業が増えることが懸念される。 7. こうした事態を回避するために、インド政府は雇用拡大の障壁となっている教育問題

にスピードアップして取り組む必要がある。具体的には、学齢期を過ぎた者を対象に

社会人教育・職業訓練の機会を増やし、即戦力として仕立て直すことなどが考えられ

る。インド政府は、こうした施策を通じて雇用対策を強化することで、増加する人口

を雇用として活用し、中期的な成長率の押し上げや所得の拡大に弾みをつけることが

必要だろう。 (調査本部 アジア調査部 シンガポール駐在 小林公司)

Page 4: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

目次

はじめに ............................................................................................................. 1

1.近年の雇用情勢 ........................................................................................... 1

(1)高成長の割に増えない雇用 .............................................. 1 (2)2次・3 次産業は労働力に依存しない成長パターン ......................... 3

2.雇用が増えない要因と政府の対応 .............................................................. 9

(1)教育・スキルの水準が低い点がボトルネック .............................. 9 (2)不十分な政府の教育・雇用対策 ......................................... 12

3.雇用情勢の中期予測 .................................................................................. 14

(1)資本・知識集約型の成長パターンが続く ................................. 14 (2)引き続き高成長でも就業者数は伸び悩む公算 ............................. 15

まとめ 16

(参考1)インドの雇用統計について ............................................................ 18

(参考2)全国標本調査(NSS)の調査方法について ................................ 20

Page 5: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

図表目次

図表1 就業者数増加率と実質GDP成長率 1 ...........................................................2

図表2 失業率(地域別) 1........................................................................................3

図表3 失業率(年齢別、07 年度) 1 ........................................................................3

図表4 就業者シェア 1 ...............................................................................................4

図表5 付加価値生産シェア 1 ....................................................................................4

図表6 就業者増加率(産業別寄与度、93~07 年度) 1 ...........................................5

図表7 一人当たりGDP(産業別) 1 ......................................................................6

図表8 インドの産業別競争力(製造業) 1 ....................................................................7

図表9 中国の産業別競争力(製造業) 1 ........................................................................7

図表 10 インドの産業別競争力(サービス) 1................................................................8

図表 11 中国の産業別競争力(サービス) 1 ...................................................................8

図表 12 識字率(国際比較) 1 ...................................................................................9

図表 13 学歴別人口構成(印中比較) 1.....................................................................9

図表 14 OECD雇用保護インデックス(08 年) 1................................................ 11

図表 15 年齢階層別識字率(印中比較、2000 年) 1 ...............................................13

図表 16 就業者数の中期予測(増加率) 1.....................................................................15

図表 17 就業者数の中期予測(人数) 1...................................................................15

参考図表1 インドの主要な雇用統計 1 ....................................................................18

参考図表2 NSSにおける就業・失業の3定義 1 ..................................................20

Page 6: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

1

はじめに

近年のインド経済は目覚ましい成長を遂げたにもかかわらず、雇用の伸び悩みに直

面している1。今後、インドの人口は増加を続け、2025~30 年には中国を抜いて世界最

大となり、2050 年には 16 億人を超えると予測されている2。人口増加を背景としてイ

ンド経済の拡大に対する期待は高い一方で、期待を実現するためには増加する人口を

雇用として活用することが必要である。 このため、04 年の総選挙で成立した現シン政権は、雇用重視の経済政策を打ち出し

ている。同年に公表した政策綱領では、統治の基本原則として、「経済成長と雇用拡大」

を筆頭に掲げた3。06 年には、政権のフラッグシップ(旗艦)政策として、全国農村雇

用保障法(NREGA)という雇用政策もスタートさせている4。この NREGA が農村で

は好評となり、09 年の総選挙でシン政権の再選に貢献したというのが現地での見方だ。 そして、2010 年に入ると、雇用関連の重要なデータや政府報告書が少しずつ公表さ

れるようになり5、シン政権になってからの雇用情勢について徐々にではあるが客観的

な分析ができるようになってきた。そこで本稿では、これらの情報を駆使して、イン

ド経済の最重要課題である雇用問題について分析を試みる。以下、第 1 節では近年の

雇用情勢を各種データに基づいて確認し、第 2 節では雇用が増えない要因と、その要

因に対する政府の取り組みを分析する。以上を踏まえて、最後の第 3 節では中期的な

雇用動向を展望する。

1.近年の雇用情勢

(1)高成長の割に増えない雇用

インド全体の就業者数や失業率をカバーするマクロ統計として、「全国標本調査」

(NSS)がある。NSSは毎年調査されているが、2010 年に 07 年度の調査結果が

漸く公表された。これによると、就業者数は 99~04 年度に年平均+1240 万人(+3.0%)

の増加で、続く 04~07 年度は同+40 万人(+0.2%)の増加に留まった(図表 1)6。 1 Ministry of Labour and Employment (2010a) 2 United Nations (2009) 3 厳密には、統治の基本原則として、①社会的融和の維持・促進、②経済成長と雇用創出、③農民・未組

織部門就業者の福祉の増進、④女性の能力強化、⑤指定カースト・指定部族等への教育と雇用機会の優

先的提供、⑥企業家・技術者等に対する支援政策の順に、6 つの目標が掲げられた。①の社会的調和と

いう抽象的な理念の後に、具体的な目標の筆頭として②の雇用創出が設定されている。 4 正式名称は Mahatma Gandhi National Rural Employment Guarantee Act。マハトマ・ガンジーの名

を冠していることからも、シン政権の意気込みが読み取れる。NREGA の詳細は本稿 2 節で記述。 5 インドの主要な雇用統計については、本稿末尾の「参考1」を参照。 6 就業者数は「ふだんの状態」(調査実施日に先立つ 365 日間の状態)のベースで、詳細は本稿末尾の「参

Page 7: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

2

図表1 就業者数増加率と実質GDP成長率 1

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

83~93 93~99 99~04 04~07

(年率、%)

(年度)

実質GDP成長率

就業者数

(注)就業者は「ふだんの状態」のベース。

(資料)NSS、Economic & Political Weekly(2010)、

インド準備銀行“Handbook of Statistics on Indian Economy" 99~04 年度については、就業者数7が 80 年代以降で高めの増加率となっているが、

内訳別にみると地域別、性別にバラつきがあった。すなわち、都市の女性就業者が専

ら拡大した一方で、農村の働き手である男性就業者は伸び悩んでいた8。 続く 04~07 年度はシン政権の前半に相当し、実質GDP成長率は年平均+9.5%と

過去最高に達した。しかしながら、前述の通り就業者の増加率は+0.2%と極めて低い

伸びに留まっており、「雇用なき高成長」に終わった。地域別では都市の就業者が増加

したことに対して農村は減少し、前政権に続き農村の雇用情勢が厳しかった。 一方、失業率9は 99 年度の 7.3%から 04 年度は 8.3%に上昇し、07 年度も 8.1%に高

止まった10。地域別では、特に農村の失業率が上昇して 07 年度には都市を上回り、や

はり農村での雇用悪化がうかがわれる(図表 2)。また、年齢別では若年層ほど失業率

が高く、07 年度に 15~19 歳の失業率は農村で 17%、都市で 20%だった(図表3)。

考2」を参照。また、99 年度および 04 年度に言及する理由は、NSSのなかでも 5 年毎の「大サンプ

ル調査」の年に相当し、データの精度が高いとして重視される年だからである。また、07 年度に言及す

る理由は、NSSの最新調査年であり、かつ 07 年度調査は 5 年毎の「大サンプル調査」の年ではないも

のの、サンプル数が「大サンプル調査」並みであるため、同等の精度があると考えられるからである(参

考1参照)。 7 就業者=自営業主+家族従業者+雇用者 8 Ministry of Lobour and Employment (2010a)。都市の定義は、①人口(5 千人以上)、②人口密度(400人/k ㎡以上)、③経済活動(75%以上の男性就業者が農業以外の産業に従事)の 3 基準を全て満たす地域。

また、全ての地方自治機関所在地も都市と定義される。都市以外の地域が農村である。 9 失業率=失業者数/(就業者+失業者)。失業者とは、仕事を探している者、もしくは仕事があれば就職

できる状態にある者のこと。 10 失業率は、調査実施日に先立つ 7 日間の各「1 日ずつの状態」であり、詳細は巻末の「参考2」を参照。

Page 8: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

3

若年人口が増えているインドでは、これらの層が新規に労働市場に参入しても、雇用

機会を得るのは難しいことが判る。

図表2 失業率(地域別) 1

5

6

7

8

9

10

11

83 93 99 04 07

全国

農村

都市

(%)

(年度)

図表3 失業率(年齢別、07 年度) 1

02

468

10

121416

1820

15-19歳

20-24歳

25-29歳

30-34歳

35-39歳

40-44歳

45-49歳

50-54歳

55-59歳

60歳

-

都市

農村

(%)

(注)失業率は「1日ずつの状態」のベース

(資料)NSS、インド計画委員会“Databook for DCH”、

インド財務省“Economic Survey2009-10”

(注)「1日ずつの状態」のベース

(資料)NSS

NSSの最新データは 07 年度であり、その後の雇用情勢については断片的なデータ

しか得られないが11、労働雇用省は 08 年のリーマンショックがインドの雇用に及ぼし

た打撃は軽視できず、その後の回復についても悪影響が尾を引いているとの見解を示

している12。 以上より、近年におけるインドの雇用情勢を整理すると、経済が成長しても雇用は伸

び悩み、特に 04~07 年度は「雇用なき高成長」だった。08 年度以降もリーマンショ

ックの悪影響があり、雇用情勢は顕著には改善していないとみられる。

(2)2 次・3 次産業は労働力に依存しない成長パターン 就業者シェアを産業別にみると、農業が 93 年度の 65%から 07 年度は 57%と、依然

として雇用の主要な受け皿である。一方、流通ホテル運輸通信(10%→14%)、建設業

(3%→6%)、製造業(10%→11%)は小幅にシェアを高めたものの、その他サービス

は 10%で横ばいだった(図表4)。 一方、付加価値生産(GDP)のシェアは、農業が 93 年度の 30%から 07 年度は 18%

11 例えば、労働雇用省が一部業種について調査する「経済減速の雇用への影響に関する報告書」や、09 年

度のピンポイントの雇用情勢を調査した「雇用・失業サーベイ」がある(参考1参照)。 12 Ministry of Lobour and Employment (2010a)

Page 9: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

4

に大幅に減少した。非農業では製造業が小幅な伸びに止まっているのに対し(14%→

15%)、流通ホテル運輸通信(19%→28%)、その他サービス(26%→28%)といった

サービス関連産業の上昇が目立つ(図表 5)。 一般に、就業者ならびに付加価値生産に占める一次産業のシェアは経済発展ととも

に低下し、2 次産業、3 次産業の順にシェアが高まる「ぺティ=クラークの法則」が知

られている13。しかしながら、インドの状況は異なり、経済が発展しても農業の就業者

シェアは高止まりしたままである。付加価値生産のシェアについては、農業から非農

業へのシフトがみられるものの、非農業のなかでは 2 次産業でなく 3 次産業の上昇が

先行している。

図表4 就業者シェア 1

65

103

10 10

57

116

1410

0

10

20

30

40

50

60

70

農業

製造業

建設

93年度

07年度

流通ホテル

運輸通信

(%)

その他

サー

ビス

図表5 付加価値生産シェア 1

30

146

1926

18 157

28 28

0

10

20

30

40

50

60

70

農業

製造業

建設

93年度

07年度

流通ホテル

運輸通信

(%)

その他

サー

ビス

(注)主な産業を示しており、シェア合計は 100 とな

らない

就業者は「ふだんの状態」のベース

(資料)NSS

(注)主な産業を示しており、シェア合計は 100 とな

らない

GDPは実質ベース(99 年度基準)

(資料)インド準備銀行“Handbook of Statistics on

Indian Economy"

新興国の代表格である中国とインドを比較すると、就業構造の違いは明確である。

中国の場合、生産シェアの構造変化を反映して、90 年代以降に農業の就業者が減少し

た。その一方で、農業就業者の減少を補って余りあるペースで 2 次・3 次産業の就業者

が増加し、就業者全体は年率+1.8%のぺースで拡大した。これに対し、インドでは依

然として 1 次産業が増えたにもかかわらず、2 次および 3 次産業の伸びが中国に比べて

鈍かっため、全体でも+1.5%の増加に留まる。中国の就業者増加率はインドを小幅に

上回るばかりか、内訳では 1 次産業から 2 次・3 次産業へのシフトが進んでいるのだ(図

13 渡辺(2010)

Page 10: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

5

表 6)。こうした就業構造の変化は、中国の 1 次産業雇用比率を 07 年時点で 4 割まで

低下させ、農業の過剰労働力は解消されたといわれている14。依然として農業に過剰な

労働力を抱えるインドに比べると、中国の就業構造は対照的である。

図表6 就業者増加率(産業別寄与度、93~07 年度) 1

▲ 0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

中国 インド

(年率、%)

1次産業

就業者計

2次産業

3次産業

(注)インドの就業者は「ふだんの状態」のベース

(資料)NSS、中华人民共和国国家统计局「中国统计年鉴」

インドでは産業構造の変化に就業構造が追いついていないことから、農業と 2 次・3

次産業との一人当たりGDP格差が拡大している。就業者の 6 割が滞留する農業では、

一人当たりGDPが 93 年度の 1.7 万ルピーから 07 年度は 2.4 万ルピーに留まった。

対照的に、ITサービス業を含む“その他サービス業”では、1 割の就業者でより多く

のGDPを産出するようになっており、一人当たりGDPは 93 年度の 9.4 万ルピーか

ら 07 年度は 22.2 万ルピーへと大きく伸びた(図表 7)。

14 関(2010)は、農村における過剰労働力が払底し、09 年頃から労働者を募集してもなかなか集まらな

い「民工荒」(出稼ぎ労働者不足)という現象が顕著になったとしている。同様の見方は、丸川(2011)によっても指摘されている。

Page 11: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

6

図表7 一人当たりGDP(産業別) 1

-

5

10

15

20

25

93 99 04 07

農業

建設

流通ホテル運輸通信

その他サービス

製造業

(年度)

(万ルピー)

(注)就業者は「ふだんの状態」のベース

GDPは実質ベース(99 年度基準)

(資料)NSS、インド準備銀行“Handbook of Statistics on Indian Economy"

2 次・3 次産業を中心に付加価値生産が拡大しているにも関わらず、これら産業の雇

用が伸び悩んでいることは、労働集約型産業の成長が遅れていることを意味する。こ

の点について、詳細な産業別の雇用データが得られないため、産業競争力の観点から

検証を試みたい。 産業の競争力指標としては、顕示的比較優位(Revealed Symmetric Comparative

Advantage、以下 RSCA)指数を計測し、貿易の観点から各産業の比較優位構造を推

定する(図表 8、9)15。図表の見方としては、縦軸が 09 年における RSCA 指数の水

準であり、▲1 から+1の分布域のなかでプラスの場合に競争力があることを示す。ま

た、横軸は 2000~09 年における同指数の変化(差分)であり、プラスの場合は同期間

に競争力が向上したことを意味する。すなわち、反時計回りに、第1象限(競争力の

水準はプラスで、変化の方向もプラス)は「優良産業」、第 2 象限(水準はプラスだが、

変化はマイナス)は「成熟産業」、第 3 象限(水準、変化ともにマイナス)は「衰退産

業」、第 4 象限(水準はマイナスだが変化はプラス)は「新興産業」と整理できる。 以上の手法でインドの製造業について分析すると、競争力水準が高く、かつ競争力

が向上している優良産業は金属産業しかない。鉄鋼業等の金属産業は資本集約産業の

代表であり、「工業年次調査(ASI)」によると資本装備率(従業者 1 人当たりの固

定資本額)はインドの製造業のなかで最も高い。つまり、最も人手に頼らない産業が、

唯一の優良産業なのである16。 15 RSCA 指数の計算式については、図表 8 の注および大和総研(2006)を参照。 16 インドの粗鋼生産量は 2010 年(速報)に 6685 万トンで、中国(6 億 2665 万トン)、日本(1 億 960万トン)、米国(8059 万トン)、ロシア(6702 万トン)に次ぐ世界第 5 位であり(社団法人日本鉄鋼連

Page 12: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

7

一方、インドの伝統的な有力産業である窯業・土石(ダイヤモンド研磨など)や、

繊維(綿・ジュート製品など)などは、2000 年以降に競争力が低下した(図表 8 の第

2 象限)。これらの労働集約型産業は成熟期にあり、新規の雇用吸収力を低下させてい

ることがうかがわれる。 インドの比較対象として中国をみると、資本集約型と考えられる一般機械や電気機

械だけでなく、労働集約型とみられる家電(完成品組立等)や繊維も第 1 象限に位置

する。雇用吸収力の高い業種も優良産業の一角を占める点が、インドとは対照的であ

る。

図表8 インドの産業別競争力(製造業) 1

▲ 1.0

▲ 0.5

0.0

0.5

1.0

▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0

金属

食品

繊維

紙パ 化学 石油石炭

窯業土石

一般機械 電機

家電輸送機械

精密

玩具

09年競争力水準

2000→09年への競争力の変化

図表9 中国の産業別競争力(製造業) 1

▲ 1.0

▲ 0.5

0.0

0.5

1.0

▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0

金属

食品

繊維

紙パ

化学

石油石炭

窯業土石

一般機械電機

家電

輸送機械

精密

玩具

09年競争力水準

2000→09年への競争力の変化

(注)競争力指標は顕示的比較優位指数(RSCA)

(Xki/Xi)/ (Mkw/Mw)=RCA

RSCA=(RCA-1)/(RCA+1)

(Xki/Xi)は、i 国の総輸出に占める k 財の割合、

(Mkw/Mw)は、総世界輸入に占める k 財の割合。

(資料)独立行政法人経済産業研究所「RIETI-TID」

(注)競争力指標は図表 8 に同じ

(資料)独立行政法人経済産業研究所「RIETI-TID」

同様の手法でサービス業も分析したところ、インドの優良産業としてはITのみが

確認された(図表 10)。特に、ITの RSCA 指数は+0.94 と上限の+1.00 に近く、さ

らなる指数上昇の余地が無いほどだ。ITは知識集約型産業の典型であり、資本集約

型産業と同様に労働集約型産業の対極に位置する。インド統計・計画実行省によると、

ITサービス業の雇用は 06 年度に 63 万人で、一人当たり名目GDPは 81 万ルピーだ

った17。雇用は全就業者の 0.1%にすぎない一方、一人当たり名目GDPは全産業平均

盟調べ)、世界市場における存在感を高めている。

17 Ministry of Statistics and Programme Implementation(2010a)。ここでいうITサービス業の定義は、

Page 13: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

8

の 10 倍に相当し18、ITは他産業に比べて高付加価値の経済活動を行っていることが

判る。 これに対し、中国の優良業種にはITの他、必ずしも知識集約型ではない建設も含

まれる(図表 11)。

図表10 インドの産業別競争力(サービス) 1

▲ 1.0

▲ 0.5

0.0

0.5

1.0

▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0

保険通信

運輸

IT・情報

旅行

特許・ライセンス建設

09年競争力水準

2000→09年への競争力の変化

金融

ビジネスサービス

図表 11 中国の産業別競争力(サービス) 1

▲ 1.0

▲ 0.5

0.0

0.5

1.0

▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0

保険通信

運輸

IT・情報

旅行

特許・ライセンス

建設

09年競争力水準

2000→09年への競争力の変化

金融

ビジネスサービス

(注)競争力指標は顕示的比較優位指数(図表 8 脚注

参照)。ただし、(Mkw/Mw)に関しては、全世界の

データが得られなかったため、日米仏独伊英の

先進 6か国のベースとした。

(資料)CEIC(各国国際収支統計)

(注)競争力指標は図表 10 に同じ

(資料)CEIC(各国国際収支統計)

以上のように、インドでは経済が高成長にもかかわらず、雇用は伸び悩んでいる。

この傾向は特に 2 次・3 次産業で顕著であり、これら産業では、労働集約型ではなく、

資本・知識集約型の業種が発展している。また、経済成長の成果は資本・知識集約型

産業に従事する一握りの層に集中し、雇用拡大という形で広範な階層には浸透してい

ないことから、所得格差も拡大している。一方、中国では労働集約型産業が発展して 2次・3 次産業の雇用が拡大し、中間層の形成(所得格差の縮小)につながっており、イ

ンドとは対照的だ19。インドで雇用が増えない理由は、労働集約型の 2 次・3 次産業が

成長していないという構造的なものと考えられる。

コンピュータプログラムやソフトウェア販売のほか、コンピュータコンサルタント、データ加工、ポー

タルサイトサービス、コンピュータ修理である。 18 06 年度はNSSの全国雇用調査が実施されなかったため、07 年度の全就業者と比較した。 19 Mehra(2007)。また、小林(2010)は、中国では所得格差が縮小する一方、インドでは格差が拡大し

ていることを検証している。

Page 14: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

9

2.雇用が増えない要因と政府の対応

(1)教育・スキルの水準が低い点がボトルネック

一般に、インドの雇用が増えない要因として、教育・スキルの水準が低く労働供給

が抑制されることと、労働者保護規制が厳格で労働需要が抑制されることが挙げられ

る20。そこで両者について分析すると、教育・スキルの問題が主たる要因であり、労働

者保護規制の影響はさほど大きくないことが指摘できる。 実際に、インドの教育・スキルの水準が低いことについて確認すると、識字率は 07

年度に 6 割程度で、9 割を超えるアジア諸国に水をあけられている(図表 12)。就学し

ても小学校までがほとんどで、中卒以上の学歴保有者は全人口の 26%にすぎない。対

照的に、中国では「金の卵」といわれる中卒者に厚みがあり、既に 2000 年の時点で中

卒以上の人口比率が 49%に達していた(図表 13)。

図表 12 識字率(国際比較) 1

0

20

40

60

80

100

ンド

ベトナ

ンドネシア

マレー

シア

中国

ィリピ

(%)

図表 13 学歴別人口構成(印中比較) 1

0

10

20

30

40

50

非識字者

小学校卒

中学校卒

高校卒

インド(2007年度)

中国(2000年)

(%)

大学

専門学校卒

(注)ベトナムのみ 99 年で、その他は 07 年。

(資料)総務省「世界の統計」

(資料)NSS、中华人民共和国国家统计局“全国人口

普查人口基本情况(国勢調査)”

職業訓練についても、04 年度のインドでは、15~29 歳の若年層のうち正式な訓練を

受けたことがある者は 2%に留まっていた21。若年層のほとんどが技能を持たないまま、

就職市場へ参入しているというのが実態である。 以上の状況を雇用主側からみると、募集する教育・スキル水準の人材供給にはボト

ルネックがあることを意味する。例えば、現地日系メーカーにヒアリングしたところ、

20 Ministry of Lobour and Employment (2010a)など。 21 Ministry of Labour and Employment (2010a)

Page 15: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

10

ワーカーとして高卒や専門学校卒の人材を求めるケースが一般的だ。しかし、「必要と

するレベルの人材は少なく、採用は困難」、「中国でも事業をしているが、インドは中

国に比べて技能工が不足している」など、人材難を指摘する意見が聞かれた。 一方、労働者保護規制が厳格なことについてみると、問題視されているのは労使紛

争法である。100 人以上の労働者を雇用している場合、解雇には州政府の事前許可を必

要とすることが規定されている。こうした解雇規制があると、不況時における柔軟な

雇用調整が困難になるため、平時から企業は雇用拡大を自重すると解釈されている。

実際に、インドの解雇規制と雇用の関係を計量的手法で分析した先行研究があり22、

1958~92 年の間に労使紛争法について規制を強化した州では23、そのほかの州に比べ

て雇用が伸び悩んだとの分析結果が得られている。 しかしながら、近年のインド企業は、解雇規制の抜け穴(ループホール)として間

接雇用を多用するようになっている。企業が直接採用する正規雇用と異なり、人材派

遣会社を通じた間接雇用は解雇規制の対象外となるからだ。実際に、製造業(零細規

模を除く)の場合、従業者全体に占める間接雇用の比率は 2000 年度の 15.7%から 06年度は 22.9%まで上昇している24。筆者が現地で調査した日系メーカーのなかには、間

接雇用比率が 5 割のケースもあった25。 加えて、国際比較をすると、インドの労働者保護規制は著しく厳しいわけではない。

OECD が各国の労働規制を数値化した雇用保護インデックスによると、08 年時点でイ

ンドの規制の強さは 40 か国中で 13 番目だった。アジアのなかで比較すると、インド

ネシアと中国の規制がインド以上に厳しい(図表 14)。 したがって、労働者保護規制は、雇用拡大に関していわれているほど大きな問題と

はなっていないと考えられる。

22 Besley and Burgess(2004) 23 インドの労働政策は、連邦政府で定めた一定の枠組みの範囲内で、州ごとに裁量的な取り組みが認めら

れている。 24 インド統計・計画実行省「工業年次調査(ASI)」 25 間接雇用を活用する理由として、人員調整が柔軟なことのほかに、正規雇用よりもコストが低いという

意見もあった。

Page 16: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

11

図表 14 OECD雇用保護インデックス(08 年) 1

0 1 2 3 4

トルコルクセンブルク

メキシコスペイン

ポルトガルインドネシア

フランスギリシャ中国

スロベニアノルウェイ

ドイツインド

ベルギーイタリア

ポーランドオーストリア

エストニアチェコ

フィンランドブラジルオランダ韓国

スロヴァキアハンガリー

アイスランドスウェーデン

チリデンマークイスラエル

ロシアスイス日本

アイルランドオーストラリア

南ア共和国ニュージーランド

英国カナダ米国

規制が強い⇒

(資料)OECD indicators of employment protection

以上より、インド経済が成長しても雇用が増えない背景については、教育・スキル

水準の低いことが主因と考えられる。企業が雇用を増やしたくても、労働供給に制約

があるため、資本と知識に依存した発展パターンにならざるをえないのだろう。

Page 17: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

12

(2)不十分な政府の教育・雇用対策 教育・スキル水準の低いことが雇用の障害になっていることに対して、インド政府

は教育水準を高めることと、低スキル層への雇用機会提供を打ち出している。 このうち教育水準を高めることについては、2010 年に漸く無償義務教育法(Right of

Children to Free and Cumpulsory Education Act、以下RTE)を施行した。従来か

らインド憲法では 6~14 歳までの無償義務教育を規定していたものの、教育政策の実

務を担う州政府レベルでは財政難を理由に義務教育を実施しないところが多かった26。

そこで、今後 5 年間の必要資金が 1 兆 7,100 億ルピー27(約 3 兆 4,200 億円)と見積も

られるRTEでは、連邦政府の教育予算を拡充して州政府の負担を部分的に肩代わり

し28、政策効果を高めるように計画されている。 とはいえ、RTEの効果については慎重な見方がある。元来、インドでは教育およ

び教員の質が低いため、学校に通っても教科の内容に十分に習熟できないケースが多

い。一例として、小学 5 年生が 2 年生のテストに回答できなかったとの調査結果があ

る29。また、教員のモラルが低く、3700 校を抜き打ち検査したところ、教師の 4 分の

1 が無断欠勤しており、出勤している教師のなかでも半分しか授業を行っていなかった

とのデータもある30。こうした状況に対して、RTEは生徒の受け入れに必要な予算を

各校にバラまくだけで、教育の質を高める仕組みを欠くと指摘されている31。すなわち、

RTEの下で学校に通っても、教育の質が現行のままであるならば、教育水準は上が

らないおそれがある。 また、たとえRTEに教育水準を高める効果があるとしても、その効果が現れるま

でには時間がかかる。そもそも、6 歳の子どもが 14 歳で義務教育を修了するまでには

8 年が経過する。かつ、義務教育の対象は若年層に限られ、若年層よりも教育水準の低

い中高年層は(図表 15)、RTEの恩恵にあずかれない。RTEの下で義務教育を受け

た若年層が中高年に達し、現在の中高年層と世代交代を遂げるまでには、文字通り 1世代を要するのである。

26 外務省ホームページ「諸外国の学校情報」 27 2009 年度の名目GDP比で 2.8%に相当 28 従来の初等教育普及プログラム Sarva Shiksha Abhiyan では、2010 年度の費用負担割合は連邦政府の

55 に対し州政府は 45 だった。これに対し、RTEでは連邦政府負担を高める方向で調整されている

(Times of India 紙(8 Apr, 2010)“Central RTE share may be raised from 55%”) 29 中村(2006) 30 Kremer et al(2005) 31 Banerjee and Rajan (2010)等

Page 18: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

13

図表 15 年齢階層別識字率(印中比較、2000-01 年) 1

40

50

60

70

80

90

10015~

19

20~

24

25~

29

30~

34

35~

39

40~

44

45~

49

50~

54

55~

59

(%)

(歳)

中国

インド

(資料)国際連合“Demographic Yearbook” また、教育・スキル水準が低い層に雇用機会を提供するため、シン政権は全国農村

雇用保障法(NREGA)に基づく政策に力を入れている32。この取り組みは、農村で教

育水準が低く、農業以外の産業で雇用される可能性が低い人々に対して、政府が単純

な労働を提供して生活を支援するというものである。 具体的内容については、農村の希望者に対して世帯当たり 1 人、年間 100 日を上限

に公共事業での職を提供するというものだ33。道路の穴埋め、ゴミ用の穴掘り、用水路

の掃除といった単純作業がほとんどであり、参加者には法定最低賃金相当の日当が支

給される。06 年 2 月に一部地域で開始され、08 年度からは全国で実施されるようにな

った。2011 年度の連邦政府予算でみると、NREGA 予算は 4000 億ルピーであり、初

等・中等教育予算の 3896 億ルピーを上回る一大事業だ。 NREGA の効果については、07 年度のNSSで参加者側のデータが初めて明らかに

なった34。これによると、最低賃金相当とされる日当の全国平均は 78.91 ルピー(約

158 円)で、不定期労働者の平均日当(農村で 60.33 ルピー、都市で 72.24 ルピー)よ

りもやや高い。そして、NREGA 等の公共工事で雇用された人数は、「1 日ずつの状態」

のベースで就業者全体の 1%に相当した35。同ベースの農村就業者数は 04~07 年度に

年率▲0.3%だったことから、NREGA には農村就業者数の落ち込みに歯止めを掛ける

効果があったと評価できる。 32 脚注 4 参照 33 Luce(2007)によれば、NREGA によって、雇用に対するインドと中国の政策アプローチの違いが明確

に示されている。中国では、官・民・外資による積極的な投資を刺激することで、間接的に雇用を創出

する方法を選んだ。これに対し、インドでは国が直接、雇用を保障する方法を選んだ。 34 NREGA を提供する政府側のデータ(予算、参加人数等)は以前から得られていた。小林(2010)を参

照されたい。 35 NREGA は年間 100 日を上限とする不定期雇用であることを鑑み、「ふだんの状態」でなく、「1日ずつ

の状態」のデータを用いた(参考2参照)。

Page 19: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

14

ただし、NREGA には、当座の雇用を保障するセーフティーネット政策の性格が強

く、持続的な雇用押し上げ効果は期待できないという点で限界がある。今後、インド

経済が発展するにつれて、2 次・3 次産業からの労働需要はますます拡大すると考えら

れる36。こうした労働需要に対しては、NREGA で公共工事の雇用機会を創出すること

では対応できず、教育・スキルを備えた人材の供給拡大が不可欠なのである(デリー

大学の Poonam Gupta 博士)。

3.雇用情勢の中期予測

(1)資本・知識集約型の成長パターンが続く

今後を展望すると、労働供給にボトルネックが残るため、資本・知識集約型の成長

パターンは直ぐには変わらないシナリオが予想される。それでは、このシナリオの下

で、雇用情勢はどのように展開するであろうか。 本節では、インド労働雇用省のモデルに従って37、①実質GDP成長率、②就業弾性

値(=就業者数増減率/実質GDP成長率)、③労働力人口38の予測値を設定し、中期

的な就業者数と失業者数の動向を試算する。 実質GDP成長率については、インド準備銀行(中央銀行)が潜在成長率と見積も

る+8%39で推移すると想定する。ちなみに、2008~10 年の直近 3 か年にわたる成長率

実績は年率+7.8%だった。また、IMFによれば、2010~15 年のインド経済は同+

8.2%(予測対象 183 か国中の第 8 位)の成長率が見込まれている40。+8%の成長率は

現状と同程度であり、向こう 5 年間は世界でもトップクラスの位置づけとなる。 就業者数と成長率の関係を示す就業弾性値についても、これまでの成長パターンが

続くことから、近年と同様の値が続くと予想される。具体的には、NSSの就業者数41

とGDP統計により、93~07 年度の平均値として+0.15 を採用する42。平均値を用い

ることには、就業弾性値は景気の良いときに上昇し、悪いときに低下する傾向がある

36 Eichengreen and Gupta (2010) 37 Ministry of Labour and Employment (2010a) 38 労働力人口とは、労働の意思と能力を有する者であり、就業者と失業者に大別される。また、反対概念

の非労働力人口は、学生や専業主婦、引退した高齢者、病人、けが人など、働く意思・能力を持たない

者である。 39 Reserve Bank of India(2010) 40 IMF “World Economic Outlook Database, October 2010”による。2010~15 年にかけての成長率見

通しランキングは、①モンゴル(年率+14.2%)、②イラク(+10.8%)、③サントメ・プリンシペ民主

共和国(+10.2%)、④中国(+9.5%)、⑤トルクメニスタン(+9.2%)、⑥リベリア(+9.1%)、⑦カ

タール(+8.4%)、⑧インド(+8.2%)、⑨ソロモン諸島(+8.1%)、⑨エチオピア(+8.1%)。 41 「ふだんの状態」のベース 42 NSSの最新調査年が 07 年なので、就業弾性値も 07 年までしか得られない。ちなみに、07 年までの

平均値なので、08 年以降のリーマンショックに伴う雇用情勢の悪化は反映されない。

Page 20: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

15

ため、短期的な変動を均す意図がある43。 今後の労働力人口については、インド労働雇用省の見込み値を用いる。すなわち、

今後の若年人口の増加を織り込んで、労働雇用省では毎年+1000~1100 万人ずつ労働

力人口が増加すると想定している44。

(2)引き続き高成長でも就業者数は伸び悩む公算 以上より、就業弾性値(+0.15)と潜在成長率(+8%)の予測値を乗じることで、

就業者数の増加率は年率+1.2%との試算値が得られる。成長率は 90 年代以降の上昇

トレンドに沿っているのに対し、就業者数の伸びは 93~99 年度の同+1.0%を上回る

程度で、浮揚感はみられないことになる(図表 16)。 試算結果を人数ベースでみると、就業者数の増加は毎年+540~590 万人に留まり、

+1000~1100 万人の労働力人口増加に見合う雇用は創出されない。雇用創出が足りな

い分だけ、失業者数も毎年 500 万人前後のペースで増加することになる(図表 17)。

図表 16 就業者数の中期予測(増加率) 1

012

34567

89

10

83-93 93-99 99-04 04-07 07-15

実質GDP成長率

就業者数

(年率、%)

(年度)

試算

図表 17 就業者数の中期予測(人数) 1

0123456789

101112

2010 11 12 13 14 15

(前年差、100万人) 労働力人口の増加数

就業者の増加数

(年度)

失業者の増加数

( 資 料 ) Ministry of Labour and Employment

(2010a)、RBI“Handbook of Statistics on

Indian Economy”、 Economic Political

Weekly(2010)に基づき、みずほ総合研究

所試算

(資料)Ministry of Labour and Employment (2010a)、

RBI“Handbook of Statistics on Indian

Economy ” 、 Economic Political Weekly

(2010)に基づき、みずほ総合研究所試算

年齢別では、増加する若年人口のなかから失業が発生しやすいと考えられ、前掲図

表 3 が示す若年層の高失業率が続くと懸念される。

43 Ministry of Labour and Employment (2010a) 44 Ministry of Labour and Employment (2010a)

Page 21: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

16

まとめ

本稿の分析結果をまとめると、第1節において、インドでは経済が高成長にもかか

わらず、雇用は伸び悩んでいることを確認した。この傾向は特に 2 次・3 次産業で著し

く、これら産業では資本・知識集約型の成長パターンとなっている。経済成長の成果

は資本・知識集約型産業に従事する一握りの層に集中し、雇用拡大という形で広範な

階層には浸透していないことから、所得格差が拡大している。 第 2 節では、インドで雇用が増えない主因として、教育・スキルの水準が低く、労

働供給に構造的なボトルネックがあることを指摘した。これに対し、政府の教育水準

テコ入れ策は遅れており、効果が現れるまでには一世代単位の時間を要すると考えら

れる。また、教育・スキル水準の低い層が多い農村を対象に、公共工事を通じた雇用

対策を実施しているものの、当座のセーフティーネットの性格が強く、根本的な教育・

スキル問題を解決するものではない。 最後の第 3 節では、インドの雇用情勢の中期予測を行った。実質GDP成長率は中

期的に現状程度の+8%で推移すると予想されるものの、労働供給のボトルネックを解

消するには時間がかかるため、資本・知識集約型の成長パターンは直ぐには変わらな

いだろう。雇用面では、2 次・3 次産業を中心とする労働集約型の成長パターンへの転

換が遅れることを反映して、就業者数の伸びは緩慢に留まるとの試算結果が得られた。

増加する人口が雇用として十分に活用されず、失業が増えることが懸念される。 このように、本稿の分析結果からは、中期的に高成長が続いても、インド政府が雇

用対策を急がなければ「雇用なき成長」が続くと考えられる。こうした事態を回避す

るために、まずは、インド政府は現在の雇用情勢を正確に把握し、適切な対策を打つ

ことが重要である。雇用情勢の把握については、第1節で示した通り、代表的な雇用

統計のNSSが調査から公表までに 3 年もかかるなど、そもそも統計の整備が遅れて

いる問題がある。雇用対策の前段階として、統計の作成を急ぐという基本的な課題か

ら取り組む必要があろう。また、当面の失業増加圧力を緩和するために、根本的な解

決策とはならないものの、セーフティーネット政策の拡充も検討すべきだろう。若年

人口の増加を背景に、特に若年層の間で失業圧力が高まると予想されることから、失

業保険よりも NREGA 型の雇用機会提供を行い、労働力として有効に活用することが

求められる。 そのうえで、具体的な雇用対策の一つとして考えられるのが、学齢期を過ぎた者を

対象に、社会人教育・職業訓練の門戸を広げることだ。子どもが教育を受けて労働力

となるまでには時間がかかるため、学齢期を過ぎた者のスキルアップを支援し、労働

の即戦力に仕立てることが狙いとなる。インド政府は職業訓練機関の整備を進める方

針だが、さらにスピード感をもって取り組むことが重要であろう。 インド政府は、こうした施策を通じて雇用対策を強化することで、増加する人口を

Page 22: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

17

雇用として活用し、中期的な成長率の押し上げや所得の拡大に弾みにつなげていくべ

きだろう。

(以上)

Page 23: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

18

(参考1)インドの雇用統計について

インドの経済統計は全般的に整備が遅れており、雇用統計も例外ではない。以下、

インドの主要な雇用統計について整理する(参考図表1)。

参考図表1 インドの主要な雇用統計 1

雇用統計 調査頻度 カバレッジ 最新調査 留意点

全国標本調査 年次(大サンプル調査は 5年毎)

個人 07 年度 ・調査頻度が低い ・速報性が低い

組織部門雇用統計 年次 官庁、企業

(零細企業除く)〃

・カバレッジが狭い・速報性が低い

工業年次調査 〃 製造業

(零細企業除く)08 年度

・カバレッジが狭い・速報性が低い

経済減速の雇用への 影響に関する報告書

四半期 企業

(8 業種、零細除く)10 年

10~12 月 ・カバレッジが狭い

雇用・失業サーベイ 年次 個人 09 年度 ・09 年度が初めて ・精度が劣る

(資料)みずほ総合研究所作成

第一に、インド統計・計画実行省の「全国標本調査(National Sample Survey、以

下NSS)」であり、その一部に「Employment and Unemployment Situation in India」がある。インド全体の就業者数や失業率データはNSSが拠り所となるため、最も代

表的な雇用統計といえる。2010 年 5 月には 07 年度の調査結果が公表され、シン政権

(04 年度~)の前半期についてデータが得られるようになった。 一方、NSSの結果公表は調査から 3 年ほど遅れることから、速報性に関して難が

ある。また、NSSは毎年実施されるものの、年によってサンプル数にバラつきがあ

る。精度が高いとして重視される「大サンプル調査」は 5 年毎にしか行われない。近

年では、93 年度(サンプル数 115,409 世帯)、99 年度(同 165,244 世帯)、04 年度(同

124,680)が「大サンプル調査」である。これらに対して、例えば 05 年度調査のサン

プル数は 78,879 世帯に留まり、注目度は劣る。 なお、最新の 07 年度調査は 5 年毎の「大サンプル調査」の年には該当しないが45、

サンプル数は 125,578 世帯と過去の「大サンプル調査」並みである。このため、本稿

の分析では同等の精度があるとして活用することとした46。 第二に、インド労働雇用省の「組織部門雇用統計(Employment in Organized Sector、

以下EOS)」がある。インドの経済統計には組織部門と未組織部門という分類があり、

45 04 年度の次の「大サンプル調査」は 09 年度調査であり、結果公表は 2012 年頃とみられる。 46 Ministry of Finance(2011)、インドの有力誌 Economic & Political Weekly(2010)、デリー大学の Himansh

(2010)も 07 年度調査に注目している。

Page 24: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

19

①公共部門、および②民間非農業部門のうち従業員数 10 人以上の事業所を組織部門と

定義し、それ以外(農業部門、零細企業)を未組織部門と定義する47。EOSは文字通

り組織部門の統計であり、未組織部門をカバーしないという限界がある。また、EO

Sは年次調査であるが、最新結果は 07 年度までしか公表されておらず、速報性にも難

がある。 第三に、統計・計画実行省の「工業年次調査(Annual Survey of Industry、以下A

SI)」がある。製造業のうち、各州政府に登記された①雇用者数 10 名以上で動力を

用いる工場と、②雇用者数 20 名以上で動力を用いない工場が調査対象となる。したが

って、規模別では零細部門が対象外となり、カバレッジが狭い48。また、AEIも最新

結果は 08 年度までしか公表されておらず、速報性が低い。 第四に、労働雇用省の「経済減速の雇用への影響に関する報告書(Report on Effect

of Economic Slowdown on Employment in India)」がある。08 年のリーマンショック

に対応した取り組みとして、08 年 10~12 月期から四半期毎に公表している。本稿執

筆時点の最新調査結果は 10 年 10~12 月期に関するものである。リーマンショックの

打撃を強く受けたとされる 8 産業(繊維、金属、自動車、貴金属、運輸、ITおよび

ビジネスアウトソーシング、皮革、織機製造)の組織部門について、3000 程度の事業

所をサンプル調査して全国レベルの雇用者数を推計する。雇用情勢をタイムリーに調

査することが長所である一方で、カバレッジが 8 産業の組織部門に限定されるという

短所がある。 第五に、労働雇用省の「2009 年度 雇用・失業サーベイ報告書(Report on

Employment & Unemployment Survey)」がある。45,489 世帯をサンプルとして、09年度(09 年 4 月~10 年 3 月)の雇用情勢を全国推計している。07 年度が最新のNS

Sに比べると、直近の動向をカバーしている利点がある。ただし、①サンプル数がN

SSの「大サンプル調査」よりも少ないこと、②09 年度が初めての調査だったため調

査員が不慣れだったことなどから、精度の点で限界があることを労働雇用省自身が認

めている49。

47 EOSでは、民間非農業部門のうち、従業員 25 名以上の事業所は回答を義務づけられており、10 名以

上の事業所は任意回答。 48 AEIとEOSを比較すると、AEIがサービス業をカバーしないのに対し、EOSはサービス業も含

めるため、AEIのほうがカバレッジは狭い。 49 Ministry of Labour & Employment (2010b)

Page 25: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

20

(参考2)全国標本調査(NSS)の調査方法について

NSSでは、「ふだんの状態」「1週間の状態」「1日ずつの状態」について、3 種類

の就業・失業状態を調査する(参考図表2)。 就業者数については、3 種類の定義のなかで、過去 1 年間の「ふだんの状態」(主た

る状態と副次的状態を合わせたPS+SSのベース)が伝統的に重視され、本稿でも

同定義に従った。 一方、失業率については「1 日ずつの状態(CDS)」が重視される。貧困問題を抱

えるインドでは、「ふだんの状態」として失業を続けることは“贅沢”であり、収入の

ために日雇や臨時雇に従事するケースが多いと考えられるからだ50。本稿でも、失業率

については「1 日ずつの状態(CDS)」に着目した。

参考図表2 NSSにおける就業・失業の3定義 1

就業・失業の状態 定義

ふだんの状態 (Usual Activity Status)

・調査実施日に先立つ 365 日間の状態

主たる状態 (Principal Status: PS)

・・・過去 365 日間に相対的に長い期間を占めた状態

副次的状態 (Subsidiary Status: SS)

・・・過去 365 日間の少なくとも 30 日以上を占めた状態

1 週間の状態 (Current weekly Status, CWS)

・調査実施日に先立つ 7日間の平均的な状態 ・具体的には、過去 7日間に少なくとも 1時間働けば「就

業者」とカウントされる

1 日ずつの状態 (Current Daily Status, CDS)

・調査実施日に先立つ 7日間の各 1日ずつの状態 ・例えば、ある個人について、7 日間のうち就業状態が 6

日、失業状態が 1日の場合、就業者は 6人/日、失業者は 1人/日と計上(これを集計すると、人口の 7倍の「人/日」データが得られる)

・インドでは農業従事者、零細企業従業者の不定期な労働パターンが一般的なこと考慮し、1日当たりの状態をきめ細かく計測

(資料)Ministry of Statistics and Programme Implementation (2010b)

50 太田(2006)

Page 26: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

21

【参考文献】 太田仁志(2006)「インドの労働経済と労働改革のダイナミズム」、内川秀二編『躍動す

るインド経済-光と陰』、アジ研選書 No2、日本貿易振興機構アジア経

済研究所 関志雄(2010)「ルイス転換点の到来を示唆する『民工荒』― 産業高度化の契機に ―」、

独立行政法人経済産業研究所ホームページ 小林公司(2010)「インド農村における購買力・消費の実態~依然として低水準、今後の

拡大も緩慢な可能性~」、みずほリポート、みずほ総合研究所 大和総研(2006)「東アジアの貿易構造分析」、財務省委嘱調査 中村修三(2006)「インドの初等教育の発展と今後の課題」、『立命館国際地域研究』、 第

24 号 丸川知雄(2011)「企業家精神が原動力に」、日本経済新聞、2 月 7 日 渡辺利夫(2010)『開発経済学入門 第 3 版』、東洋経済新報社 Banerjee, Abhijit and Raghuram Rajan (2010) “Keep testing the kids”, Indianexpress,

Feb 20 Besley, Timothy and Robin Burgess(2004)“Can Labor Regulation Hinder Economic

Performance? Evidence from India”, The Quarterly Jounral of Economics, 119(1):91-134

Economic Political Weekly(2010)“Jobless Growth”, September 25, VOL XLV NO39 Eichengreen, Barry and Poonam Gupta (2010) “The Service Sector as India’s Road to

Economic Growth”, Working Paper No.249 Indian Council for Research on International Economic Relations

Himansh(2010)“The Shadow of Jobless Growth”, Livemint, July 20th.

Page 27: インド経済は高成長でも、雇用が増えない可能性...-Ð æ 1. 近年のインドでは、経済が成長しても雇用は伸び悩み、特に04~07 年度は「雇用なき

22

Kremer, Micheal, Karthik Muralidharan, Nazmul Chaudhury, Jeffrey Hammer, and F. Halsey Rogers(2005) “Teacher Absence in India: A Snapshot”, Journal of the European Economic Association, April/May 2005 Vol.3, No.2-3:658-667.

Luce, Edward(2007)“In Spite of the Gods The Strange Rise of Modern India”,

Doubleday(邦題:エドワード・ルース(2008)『インド 厄介な経済

大国』、日経BP社) Mehra, Rajnish(2007)“Discussion of Sources of Growth in the Indian Economy”, India

Policy Forum, Volume 3, The Brookings Institution Ministry of Finance(2011) “Economic Survey 2010-11” Ministry of Labour and Employment (2010a) “Annual Report to the People on

Employment” ――――(2010b)“Report on Employment & Unemployment Survey (2009-10)” Ministry of Statistics and Programme Implementation (2010a) “Value Addition &

Employment Generation in the ICT Sector in India” ――――(2010b) “Employment and Unemployment Situation in India 2007-08, NSS

64th ROUND” Reserve Bank of India(2010)“Annual Report” United Nations (2009) “World Population Prospects: The 2008 Revision”