ゲーテの自然観および世界観の初期形成 - osaka...

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M 劃副引 •••• z's •• a ' dw 'J ゲーテの自然観および世界観の初期形成 渋谷 近代的自然、観はその形成過程において、自然を対象として独立させることに始まって、次に人 間存在の独立性ヘ、さらには自然、と人問、精神と物体を二元論的にとらえる方向へと進んでき I ) そのような二元論的な自然観に立脚した近代自然科学がもたらしたものは果たして何で あったか。科学技術と物質主義の未曾有の繁栄が人間に様々な豊かさと恩恵をもたらしてきた事 実は否めないが、その一方で自然、は枯渇し、破壊を事とされてきたし、人間の存在そのものもま た貧困化と衰弱の一途をたど、っ てきたのではないだろうか。そのことによ って様々な説話がひ しめいている現今の状況の中で、 今何より求められているのは 「人間とは何か J とし寸存在の原 点に立ち返り、その意味と価値を問い直すことではないだろうか。 ゲーテ (Goethe JohannWolfgang 1749-1832) の 自然観あるいは世界観に学ぶことは、した がって現代にあってこそ大きな意味をもつものと恩われる 。 ゲーテの自然、観は 、近代的自然、観の 二元論的なとらえ方とは対極に位置するといってよく、自然と人聞を全体の立場でとらえようと するものだからである 。木村直司はそのようなゲーテの自然観の根底に、若きゲーテの世界観的 または白然、哲学的前提、すなわち 「自然的存在としての人間の形市上的本質を解明しようとす J 2) 新プラント主義的な宇宙論的世界像があったとしている 3) 。 また土橋費は 「ゲーテの世界 理解の基本性格は、 80 年代に始まる科学的研究と取り組む以前の初期にほぼ定着したと考えられ J りと述べている。このようにゲーテの青年期にほぼ形成されたと考えられるゲーテの初期の 世界観からは、ゲーテの人間観も読み取ることができると思われる。 これらの前提をふま えなが ら、本論文ではゲーテの自然観および世界観をそれらの初期の形成過程を考察することによって その本質を明らかにしたい。 1 章ゲーテの自然観 1. ゲーテにおける「自然」 ゲーテの自然、観の本質をその初期の形成過程を考察するこ とによって明らかにする ためにまず、 ゲーテにとっての 「自然、 j がどのようなものであったかについての理解を明確にしておく ことが 必要であろう 。そのためには、文学者であると同時に自然研究者でもあったゲーテの活動の二つ の側面に留意する必要があろう 。すなわち、 一つには 18 世紀後半に起こったシュトゥルム・ウン ト・ドラング (SturmundDrang 疾風怒濡) 5) と呼ばれる文学運動を担った詩人 ・文学者として -37

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a園田F

ゲーテの自然観および世界観の初期形成

渋谷 愛 子

近代的自然、観はその形成過程において、自然を対象として独立させることに始まって、次に人

間存在の独立性ヘ、さらには自然、と人問、精神と物体を二元論的にとらえる方向へと進んでき

た I)。 そのような二元論的な自然観に立脚した近代自然科学がもたらしたものは果たして何で

あったか。科学技術と物質主義の未曾有の繁栄が人間に様々な豊かさと恩恵をもたらしてきた事

実は否めないが、その一方で自然、は枯渇し、破壊を事とされてきたし、人間の存在そのものもま

た貧困化と衰弱の一途をたど、っ てきたのではないだろうか。そのことによ って様々な説話がひ

しめいている現今の状況の中で、 今何より求められているのは 「人間とは何かJとし寸存在の原

点に立ち返り、その意味と価値を問い直すことではないだろうか。

ゲーテ (Goethe,Johann Wolfgang, 1749-1832)の自然観あるいは世界観に学ぶことは、した

がって現代にあってこそ大きな意味をもつものと恩われる。ゲーテの自然、観は、近代的自然、観の

二元論的なとらえ方とは対極に位置するといってよく、自然と人聞を全体の立場でとらえようと

するものだからである。木村直司はそのようなゲーテの自然観の根底に、若きゲーテの世界観的

または白然、哲学的前提、すなわち 「自然的存在としての人間の形市上的本質を解明しようとす

るJ2)新プラント主義的な宇宙論的世界像があったとしている 3)。また土橋費は 「ゲーテの世界

理解の基本性格は、 80年代に始まる科学的研究と取り組む以前の初期にほぼ定着したと考えられ

るJりと述べている。このようにゲーテの青年期にほぼ形成されたと考えられるゲーテの初期の

世界観からは、ゲーテの人間観も読み取ることができると思われる。これらの前提をふまえなが

ら、本論文ではゲーテの自然観および世界観をそれらの初期の形成過程を考察することによって

その本質を明らかにしたい。

第 1章ゲーテの自然観

1. ゲーテにおける「自然」

ゲーテの自然、観の本質をその初期の形成過程を考察するこ とによって明らかにするためにまず、

ゲーテにとっての 「自然、j がどのようなものであったかについての理解を明確にしておく ことが

必要であろう。そのためには、文学者であると同時に自然研究者でもあったゲーテの活動の二つ

の側面に留意する必要があろう。すなわち、 一つには18世紀後半に起こったシュトゥルム ・ウン

ト・ドラング (Sturmund Drang疾風怒濡)5) と呼ばれる文学運動を担った詩人 ・文学者として

-37ー

のゲーテであり、もう一つはワイマル公園の政治家としての活動と歩みを共にする自然、研究者と

してのゲーテである。

シュトゥルム ・ウント ・ドラングは、 18世紀ドイツの啓蒙主義の形式化した合理主義に抗して、

敬度主義 (Pietismus)0)の影響の下に1770年代に起こったドイツ文学史上における文学思潮(ま

たは運動)である。ゲーテ、シラーを中心にほぼ1780年代半ばまで続いたこの革新的ともいえる

文学運動は、啓蒙主義の 「理性Jに対して「自然Jをスローガンに掲げ、 f自然存在としての人

間の根源的欲求である 「感情Jの解放を主張J7)するものであった。ゲーテはシュトゥルム ・ウ

ント・ドラングの中で、 ドイツの啓蒙的合理主義への反発と敬度主義的な心情を文学活動に昇華

させ、 『若きヴェルターの悩み~ (“Die Leiden des jungen Werther" 1774)と『ファウスト』

第一部(“Faust:DerTragodie erster Teil" 1808)の前身である「初稿ファウスト J(“Urfaust"

1773-75)を著したのである。このようにシュトゥルム ・ウント・ドラングにあってゲーテらが主

張した 「自然Jは、 「理性Jに対置させての人間の「感情Jや「心情Jの自由な発露を促すもの

であった。

一方、ゲーテが生涯を通じて自然研究に従事した事実は広く知られている。ゲーテは1775年に

ワイマル公国に招鰐され、そこで翌年から政務に携わるようになるが、ゲーテの自然、研究もこの

ときから始まったのである 8)0 1776年 4月に庭付きの家を得たゲーテは、ワイマルの庭園や公園

を造成する仕事を担当する中で、しだいに多様な植物界に親しむことになった。また、ワイマル

圏内の旅行やイルメナウの鉱山の採鉱等を通して、ゲーテは土地の性質や土や山、岩石の組成に

注意を向けるようになった。このような生活と行動の中からゲーテのあらゆるものーひとまとめ

に「自然Jと呼ばれているものーに対する生き生きとした関心は生じてきたのであろう、とコン

ラディ (KarlOtto Conrady, 1926-)はかれが著したゲーテ伝の中で推測している t)。

自然を対象にしたゲーテの研究領域は植物学、動物学、鉱物学、地質学、色彩論、気象学等多

岐にわたるか、ベーメ (GuntherBohme)はゲーテのそれらの研究がすべて人間に関連するものに

とどまっているという点でつながっているとしている 1030 ベーメはゲーテの自然、研究における

自然、と人間の関係を、ゲーテ自身が依拠していた「全体J 11)という概念を用いて次のよう説明し

ている。「全体という考え ーそれは人間性(Humanitat)という慨念の中に人間存在(Menschheit)

として含まれている ・は、自然という慨念、から発展してきたもので、ある。すなわち自然、の遍在の

中に精神は顕現する、あるいはゲーテであればむしろこう言 うであろうが、自然、の諸現象の中に

人間の存住の精神的弘氏か明らかになっているJ I川。 したがって 「かれ(ゲーテ)は自然の統

一ということに悶執する 。 (~I:然は仮説で、はなく、理念、や思弁的な形而上学であるだけではなく、

諸現象の'夫際の越織であるJ 1:1)。このようなゲーテにおける自然についてのベーメとほぼ同憾

の解釈を、シュタイナー CRudolf Stc'i nc.r, 1861-1925)はすでに次のように焔的に表現している。

「ゲーテは全自然のr.1: 1 に別,.:~ltJが浸透していると考えていた J I ,t)。

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以上に見るようなゲーテの自然研究の態度は、自然の多様な事物の観察に努めながら、それら

を神秘的な自然の統一においてとらえようとするものである。したがってゲーテの自然観は直観

的思惟による認識方法にもとづいており、むしろ精確な自然観察による感覚的知覚を通しての自

然認識を特徴とするルネサンスの自然主義により近いものであると言える。 したがって、若き

ゲーテが一時期深く傾倒したルネサンスの自然主義、とりわけその基底を成した 「自然哲学j が

どのようなものであったかを次節以下では考察することにする。その際、ルネサンス期に 「魔

術Jの異名を与えられた、自然哲学の原型である 「自然魔術JI 5) の系譜をたどりながら、ゲー

テの自然、観の本質を明らかにしたい。

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2. 魔術一錬金術・占星術

性 11 ゲーテの戯曲『ファウスト』第 l部冒頭の「夜Jの場面は、学の謹奥を究めながら「実は我々

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になにも知り得るものでないということがわかっているJ (Vers. 364)ファウストの苦悩の独自

で始まる。知識による認識の限界を悟ったファウストが、世界の根源の認識に達しようとして次

に用いた方法は「魔法J (Vs. 379)、すなわち魔術一錬金術 ・占星術ーであった。

そこでおれは精霊の力と言葉とを通じて、

いろいろな秘密が啓示されやしなし 1かと思い、

魔法に身をゆだねてみた。

そうすればおれも大汗をかきながら、

自分の知りもせぬことを言う必要もなくなり、

世界をその最も奥深いところで統べているものを

これぞと認識することもでき、たね

一切の作用を引き起す力と種子とを観照し、

もはや言葉の詮索をすることもいらなくなると思ったのだ。 (Vs.377-385)

このようにファウストを駆り立てた「世界をその最も奥深いところで統べているものJへの抑

え難い知的欲求は、ルネサンス期の一大特徴をなすものであり、それはまた実際に長会製造の意

欲とも相まって、 15-16世紀のヨーロッパに錬金術の盛期をもたらした I6)。一般にヨーロッパで

魔術あるいは呪術という場合、その淵源は紀元前1-2世紀頃のエジブトのナイル河口のアレクサ

ンドリアを発祥の地とする占星術と錬金術にある I7)。後の物理学と化学のそれぞれ起源である

この二つの術は I11)、ギリシアの学術と在来のオリエント文明が混清する過程で、金属精錬や天

体観測の技術に思弁的、神秘的、呪術的なものが混ざり合い、さらに人間の心理の深層にあるも

のが絡み合ってできた複合体ともいうべきもので、ローマを経て12世紀頃にヨーロッパに入った

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と言われる I9)。

その際占星術と錬金術は、別個にではなく相携えて発展して来た。紀元前1500年のバビロニア

-39-

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では、金属は生きており天界の影響によって成長が左右されるものと考えられていた 20)。また

5-7世紀のローマ世界で、次の図に示すような 7金属と 7惑(恒)星の照応関係が定着していっ

たと考えられている。

金銀水銀 鉛 錫 鉄 鋼

太陽月 水星土星木星火星金星

(大槻真一郎著 f記号・図説 錬金術事典』同学社、 1996年、 168頁参照の上作成)

上記の照応にも見られるように占星術と錬金術の密接な関係は、実際の錬金術の作業では「錬

金術を成功させるためには星辰の力を借りなければならないJ 2けという心的態度にも、また使

用する道具にも顕著に表れていた。錬金のために物質を溶解する際に用いられた「ヘルメスの容

~J 22)と呼ばれる器は、天空をかたどった球形をしており、神秘の象徴として決定的に重要な

役割を果たしたのである。

錬金術そのものは、 「賢者の石J(der Stein der Weisen)または f哲学者の石J(der philo-

sophische Stein)、 「エリキサJ(Elixier)などと呼ばれる物質を最終的に得ることを目指して、

水銀、硫黄、塩その他の原料を様々に化合、変成させる作業過程である '1.a)。中世の錬金術師た

ちは、それを混ぜるとすべての鉱石が黄金に変わり、また不老長寿と万病治癒の霊薬でもある賢

者の石やエリキサが存在するという幻想を抱いていた 24〉。 「賢苔の石Jの賢者とは、アリスト

テレスをはじめとする古代ギリ シアの哲学者をさしている。錬金術は、アリストテレスの四元素

の原理25)に対応して考えられた f哲学の四分法J 2 tl) と呼ばれる局面一根源的色彩である黒色化、

白色化、黄色化、赤色化への物質の変成の過程 (15-16世紀頃にはこのうち黄色化の過程は脱

落) ーとL,てとらえられた。これらの色の変化には、鉛、銀、金といった金属がそれぞれ対応す

る。しかし物質の真の性質は錬金術師にとっても未知のものであった。そこで物質の秘密を解明

するために、錬金術師たちは「自分向身の心の未知の深周J2 1)である膜想、と想像を投影したの

である。

占星術と錬金術ー rヘルメスの容器Jに象徴される大空すなわち大宇宙と、限J旬、と想像による

自己認識 (=人!日J)すなわち小下街ーは、このように錬金の作業過程において切り離せない関係

にあった。 r小==rniJのjぷ泡!は占農術かすでに古べから縦しんできたものであり、カッシーラ

CE. Cassirer)によれば、 rU.iEなる!立界認識は自己認識を媒介にして進められなければならな

いという要求をうちに合んで I'l R)いたからである。このことは15必術が錬金術とともに、

体r> とい・jUifび名でソレネサンスの I~I然留学に取り込まれてし、く要因となる。したがってカ γ シー

-40-

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ラは 「ルネサンスの全自然、哲学は、 15世紀の成立から16世紀、いな17世紀初頭に至るまで、魔術

的一占星術的な因果性の根本見解ときわめて密接に絡み合っているJ 2 9)と述べている。

以上に見たような魔術的な認識の方法あるいは魔術的な世界観が、ゲーテにとっては、とりわ

け自然、認識に際しては、親しいものであったことを次節で見ていくことにする。

3. 大宇宙と小宇宙

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『ファウスト』の構想が怪胎する以前の1768年 8月、ゲーテは病のため遊学先のライプツィヒ

から故郷のフランクフルトに戻り、 1770年 3月まで自宅で療養することになった。この問、ゲー

テは母の従妹スザンナ・カタリーナ・フォン・クレッテンベルク嬢 30)と親しく交友し、彼女の

神秘的な性向から深い印象を受ける。彼女の影響により、ウェリング(Welling)の『魔術的神秘

の書~ (Opusmago・ωbαlisticum.1760, 2 Auf 1. )を初めて手にしたゲーテは、この書を糸口

に新プラトン派の哲学やパラケルズスの書物に接し、神秘主義的自然哲学について造詣を深める

ことになった 3I )。 この時の読書経験は、ゲーテの神秘主義的な自然観及び世界観の基本的性格

を形成する上で、の契機のーっとなっている。またゲーテはこの時、読書だけではなく、実際に錬

金術の実験も試みている。 したがってゲーテの世界観の形成に影響を及ぼした神秘主義的な哲学

について、錬金術と関わりの深いパラケルズスにおいてみておくことにしたい。

パラケルズス(PhilippusAureous Parace1sus(通称),1493-1541) 32)はファウスト伝説のモデ

ルと同時代の医 ・化学者であり、伝説のファウスト像にも取り込まれていると言われる。パラケマクロコスモス ミクロコスモス

ルズスの思想において、 「大宇宙 Jと「小字宙 Jは支配的観念をなしている。パラケルズス

は 「大宇宙J(=全自然と星辰を含む外的世界、大世界)が 「小宇宙J(=内的世界、小世界であ

る人間)を包み、保持しながらも、 二つの字宙は相互に作用し、合流し、神の秩序の中に統ーを

見出す、という宇宙観を作り出した'33)。パラケルズスはその際、同じことが地上の自然界にも

あてはまるとしている。人聞は自然界の階層の中心、創造されたものの焦点であり、自然と同じ

成分と効力を体内にもつ 34 )。 したがって 「人間はあらゆる自然のプロセスの総体Jであるとい

うのが、 「パラケルズスの医学的人間観Jである 35)。

さらにパラケルズスの場合には、天体の観測によって運命を占うという占星術の従来の動機に、

f人間の倫理的自己意識J 3 6 )が加わる。すなわちノ守ラケルズスの「医学を支える四つの

柱J37)として、哲学、天文学と占星術、錬金術の三つの柱のほかに、それらを包含し、支える

第四の柱「徳Jが不可欠で、ある。このように、世界と人間との調和の認識を理論的薬物学の主要

課題としたパラケルズスは38¥錬金術を黄金の製造ではなく医薬の精製に応用することを考え、

すでに数世紀来ヨーロッパの錬金術の流れとなっていた錬金術の医化学への傾向を決定づけた。

ゲーテ自身もこの療養期間中に、ウェリングの著書と主治医の指示にしたがってたびたび錬金

術の実験を行ったことが、ゲーテの若き日を描いた自伝『詩と真実~ (“Aus meinem Leben.

-41-

4・

Dichtung und Wahrhcif' .1811-1:3)に詳述さ れている。

いったゲーテが、 九、まや大宇宙や小宇宙lの不思掻な成分が

可の実験の方法に次第に

必]な、奇妙な方法で

して

理され

私はとくに (tri:生庖を前代未聞の仕方で~みだそうとしたJ :J 1)とある。こ うして一時期ゲーテ,..;;.

錬金術の笑験に熱q:1するが、結局所期の目的を得ることはできず、実験lにも飽きてしまう。し

しこの錬金術の築験を過して、ゲーテはいろいろむことを学んだと記しており、その成果の一つ

は 「多くの自然物の外形を知ることができたJ'4的ことであった。鞘確な自然観察15よって伺h

こその踊芽がみられるの

" I )すの恋物の認識に努めながら、 『それらを常に自然の

るというゲーテの-'fl'した自然lの全体観はこの の tる

4. ルネサンスの自然哲学とゲーテの自然観

しづ1Ji認で議 |している。これがゲーテを窓識して刊かれた lものであるかどうか円借出予付打い

これとほぼ同じ時行がゲーテ|晩年の詩集『神と仰界』 (“Cott und lelt" (827)(HAI!357ff.】 11こ

収められた持 fエピレマJ (UEPIRRHEMA" 1819) Iの中に

内に在るものは外に往る(“wasinnen. das ist 8uBen

この時行からは、ゲーテの自然観あるいは世界観がうかがえる。 『神と世界』の|中1Iこは 『エピ

~UTß市が作itiの過;肢で… る、心の内部の と の路変化との同一性を、ユン

(c. G. J ung. 1875-196,1)は 「内に在るものは外にら在るJ("was innen ist. auch au8εn"r直川と

レマJの他iこ、これと頬似した

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.に、ゲーテの自己臨調ある lいは自RJ.\~醸の方法に

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秘主義者のそれとの類似性に言及して次のように述べている。 r神秘主義は人間の魂の中に事物

の根底となるもの、神性を見出すことを目的としている。神秘主義者はまさに、ゲーテと同様に、

自らの中の内的な体験の中に世界の本質が啓示せられることを確信しているJ 50)と。

以上に見てきたことから、ゲーテの自然、観が、自然、を理性に対立するものとしてとらえその飽

くなき利用をめざす近代の自然観あるいは科学的合理主義とは、きわめて遠い距離にあることが

わかる。ゲーテの自然観は、人間と自然、の全体的な存在と関係の中に調和と畏敬を見出す、すぐ

れて本来的な意味での人間的な態度に貫かれたものであるといってよいであろう。

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し(]11 こそが、魔術的カの根源であった。 r魔術はその本質において、自然への畏敬を忘れることはな

かった。なぜならばかれらの自然、観には神が介在していたからであるJ.. Ij )。 したがって、ルネ

十 圃 サンスの自然哲学が魔術を必要としたのは、このように認識がその認識されるものとの合致であ

J, ttft 11 るという神秘的な自然直観の理論を、錬金術の化学的作業におけるような 「実践的側面か

らJIj 5)正当化あるいは根拠付けるためであった。

f i t~q I 魔術はこのように自然的なものとして、ルネサンスの自然、哲学によって援用されたのである。

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それはドイツにおいては、神秘的自然哲学から神智学に至る過程として現れる ..6)。このように

Az l して魔術は自らの形式化の一つの帰結として 「自然認識の最も高尚な部分、 「哲学の完

成JJ .. 7)の中にその占めるべき位置を見出したのである。

以上見てきたような、錬金術の哲学的根拠となった、アリストテレスが 「本来の厳密な意味に

h刈| おける自然とは、本来のそのもの自身のうちに運動の原理をもつものの実体で、あるJ.. 8)と定義

Tη | した自然と、まさにその運動原理への「驚異J.. 9)ゆえに人聞が魔術とし1う異名を与えた自然の

出ILI、l 諸カーに対する認識は、ゲーテにあってはその直観的思惟において統合される。それはすなわち

mO f: I 先ほど述べた、ルネサンスの自然主義の特徴でもある 「論理的な概念を媒介にしない、精確な自

然、観察による感覚的知覚を通してのJ、そしてまた 「自然への畏敬を忘れることのなしリ自然認

識の方法である。シュタイナーはゲーテのそのような直観的思惟による自然認識のあり方と、神

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-TJe 第 2章ゲーテの世界観

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1. ゲーテの宇宙論的世界像

1811年に執筆されたゲーテの自伝『詩と真実』第2部第 8章の終わりには、若き日にゲーテが

構想した宇宙論的世界像について記述されている。この若きゲーテの宇宙論的世界像は、ゲーテ

の晩年にいたるまでの世界観の本質の一つをなすものであったとほぼ考えられる 5I )。 木村は、

ゲーテの宇宙論的世界像が「ゲーテ文学全般、とりわけ『ファウスト』の理解のために不可欠と

みなされている世界観的ないし自然哲学的な前提J 5 ~)であると述べている 。

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『詩と真実』の記述によると 53)、ゲーテが独自の世界像を作り出す契機となったのは、すで

に述べた療養期間中の錬金術の実験への傾倒の後に読んだアルノルト CG.Arnolds)の『教会と異

端の歴史~ CKirchen -und Ketzergeschichite, 1699)である。この書物から強い影響を受けた

ゲーテは、以前から抱いていた「自分自身の宗教をもっJという考えに対する確信を強め、 「新

プラトン主義が根底にあり、これにヘルメス的(密儀宗教的)なもの、カパラ(ユダ、ヤ神秘思

想)的なものが加わり、たいそう奇妙に見えるひとつの世界を私は打ち立てたJとしている。こ

こにゲーテが列挙している神秘主義的な哲学ないし思想は、ルネサンス期のヨ ーロッパに浸透し

ていたものであり、それぞれが相互に影響し合いながら、魔術的自然、観に特徴づけられるルネサ

ンスの自然、哲学に帰結するのである。ルネサンスの自然哲学の系譜がゲーテに連なっていること

は、すでに第 l章において考察した。

はじめにゲーテ自身が述べている宇宙論的世界像がどのようなものであるのかを、 『詩と真

実』のゲーテの記述にできるだけ即して以下でその全体像を示すことにする。その際描出されて

いる内容の要点をとらえやすくする目的で、その段落の冒頭に見出しとして く〉 を筆者が掲げた。

く神性〉

「神性Jは過去永劫より自らを自身で生み出す。生産は多機性をともなうので、神性は必然、的

に自らに対して即座に“神の子の名において" r第二の者Jとして現れる。 r神性Jとその顕現

である 「第二の者j は生み出す営みを続ける結果、自らに対してさらに f第三の者Jとして現れ

る。これらはすべて永遠に存在し続ける。これによって神性の環は完結するが、依然、として生産

衝動は続いているので、次に「第四の者=ルーツィファーCLucifer)Jが創造される。このルー

ツィファーは一つの矛盾、すなわち神性・第二の者・第三の者と同じように無制約でありながら、

同時にそれらに包含され、制約されるべきものであるという矛盾を内包していた。ルーツィ

ファーには以後一切の創造力が委ねられ、自余の存在はすべてルーツィファーから発することに

なった。ルーツィファーは即座に自らの無限の活動を、全天使を創造することによって証明して

みせた。すべての天使はやはりルーツィファーをかたどって無制約でありながら、ルーツイ

ファーに包含され、制約されていた。

く堕天使ールーツィファー〉

/レーツィファーは栄光に取り巻かれた結果、自らのより高い本源を忘れ、自分自身のうちに本

源があると信した。この最初の忘恩から神性の怠図に違背する一切のことが生じたのである。

ルーツィファーが自らに集中すればするほど、ルーツィファーとルーツィファーが(本源である

神性への)甘美な上昇を妨げたすべての魂も不幸になった(=天使の堕溶)。天使の一部はルー

ツィファーとともに自らに集中し、他の天使は再び本源に向かった。ルーツィファーから出て、

彼に従った創造物全体の集中から物質や、重く、固く、附いもののlすべてが生じた。しかしそれ

らは直媛的ではないにしても神的水質に由来しているので、無制限のカがあり、永遠である。こ

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四回目↓

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の悪全体はルーツィファーの一方的方向(=集中)から出たものであるから、これら創造物は言

うまでもなくよりよき半分(=拡張によってのみもたらされるもの)を欠いていた。したがって

全創造物は父ルーツィファーとともに自らを滅ぼし、神性とともに永遠性を失いかねない状態に

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く世界創造〉

このような状態を見ていたエロヒーム 54)は、ただ意志、するだけで一瞬のうちに、ルーツィ

ファーによって生じた欠陥全体を補った。エロヒームは、ルーツィファーを含む無限の存在に自

己拡張とエロヒームの方に向かつて動く能力を与えた。ここに生命の本来の脈動が再び作り出さ

れた。これが、 「倉IJ世記Jにある天地創造の始まりであり、光が現れた時である。この創造は、

不断に作用し続けるエロヒームの生命力によって段階的に多様化していったが、それでもまだ神

性との線源的合ーを再び作り出すのにふさわしい存在が欠けていた。

く人間創造と墜落〉

そこで人間が生み出された。人間は全体に神性に類似し、否等しかるべきであったが、人間に

おいてもルーツィファーと閉じく、無制限でありながら限定されているという矛盾が現れていた。

そして神性からの分離という本源的な忘思も、ルーツィファーにおけるのと完全に閉じである。

創造全体は本源的なものへの離反と復帰にほかならないが、人間によってこれで再度の離反が顕

著になった。

く救済〉

救済は過去永劫より決定されているだけでなく、永遠に必要不可欠であると考えられる。それ

どころか生成と存在の全期間にわたって繰り返し新たにされなければならない。神性にとって、

自らの衣服としてすでに用意していた人間の姿をとって、この類似によって喜びを高め、苦悩を

和らげるために、しばらくの間人間の運命を分かち合うことほど自然なことはない。

ゲーテの'jE宙論的世界像はほぼ以上のような構成になっており、最後にゲーテはこの世界像か

り引き出されるゲーテ自身の考えを、以下のように述べている。

(.1) 人!?iiが置かれている状態は、たとえ人聞を堕落させ、圧迫するように見えても、人間をよ

ぱ1め、神性の意図を実現する機会を与え、むしろそれを義務として課する。

(2) 紳性の意図の実現は、 「自我を集中する(=集我)Jように強いられ、他面では規則的な

川:~ I 脈動において f自我を放棄する(=放我)Jことを怠らぬことによって果たされる。

ltのでhO'I 以上にみるゲーテの宇宙論的世界像は、新プラトン主義を土台にしながらも、堕天使ルーツイ

'併でが | ファーの神話も用いられており、ゲーテ自身が言うように、 fたいそう奇妙に見えるJことは否

~~Ijl・ l めない。しかし、堕天使ルーツィファーは、人間の父として世界創造を担い、神性と人問、悪の

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"D'~W ~, I すべてに膨審力をもっ重要な位置を占めており、ゲーテの抱くルーツィファーは単に悪の原因と

¥L tn I ~t\L {P I してのみの存在ではなく、人間の象徴化であるとも考えられる。したがって、ゲーテの世界像に

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おけるルーツィファーの意味を明らかにすることによって、ケーテの人間観を導き出すことが可

能であると恩われる。そのために、従来その起源か暖昧なままに用いられてきたようにみえる堕

天使ルーツィファーのモティーフか、何に由来しているのかを次節で明らかにすることにした|い。

2. i堕天使ルーツィファー」の起源

ゲーテの宇宙論的世界像において重要な位置を占めている、神性から創造の全権を委ねられな

がら倣慢から閤(=悪)に転落した 「ルーツィファーj のモティーフは、古くから哲学や文学に

おいて用いられてきたものである 主な作品として、ヤーコプ ・ぺーメの『繁明J(1601)55)や

ミルトンの 『失楽園J(1667) 5 G)では、ルーソィファーは悪魔、地獄の象徴としてそれそれの作

品において重要な契機をなしている。またゲーテの 『ファウスト の粗筋の下敷きとなった民衆

本の『ファウスト博士J11 7)では、堕天使であり、地獄の東方の領主でもあと f}レチフェルJは、

霊メフ rストフィレスの君主であり、メフォストフィレスをファウスト博士のもと に派遣した悪

魔である (ただし、ゲーテの 『ファウスト』には、ルーツィファーの名は登均しなしつ。これら

の作品に共通しているのは、ルーツィファーが響、〈魔)の板源として善である神の対極をなし、

永遠に悪に規定されているという点である。

このように常に神の対極としての患(魔)ルーツィファーにまつわる 「堕実健j の原型は君、

にも、天使という呼び名から頬惟されるキリスト教にはない。マルコム ・コト内ィン (Malcom

Godwin) :i 1)によれば、 1神に謀叛を起こしたために罰せられたて使について記述している長も古い

記録は、紀元前 21せ紀頃のユダヤ教の『エノクの秘密の曾J :'11) (以下、マルコムにしたがって

『エノク智』と略す)にみられる ft0)。へ7"ライの父組エノクの年代。己である 『エノク脅』の事

この年代記からマルコムか引則している r~l) ~使J に言及 L ている問所を、そのまま以下 iこ引用

する。

ご{史の{立階の aつがその下なる{立階とともに神にそむき、信じかたい考えをl、だきて、

大地の上なる,tよりもJiパ仰肢をもうけようとした 6り

マルコムによれは、ここに智かれている人使は倣りから!神にnt1Xを起こして洞せられるので

るか、 住 1~1 すべきことは、 fエノク容はの段階でl士、切に{告は怒(庵)の慨念、とは恥び勺いてい

ないということである。|吉j械に11:1約聖,!Fにおい-ζ も、 fサタンJは態燈ではな く、 lヘmJの罪を

ーる者Jとい Bた怠l床でJTJいられている B22。 『ヨ

IHJの行状を主に制令しているサタンの峨子が脅かれている。 rエノ

、地J三での巡回の後で

』のIIf',(~のモテ'一

がJ81(庇)と結び付けられたのは、それが、ノ‘ロア_."-1 ー

り入れられたときである o:q。以後、 [f!天使は.悪魔でlあち、

の教l戦のこ1:イヲj li'りとなる。I百H最に、 WI約iVll!}の 「

いは rm~J 0)8良徴としての窓l味を付与されたので

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fサタンJはいずれも 『

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‘ ttl~ の支配者Jとして、その後メフィストフィレス、ルシファー (ルチフェル、ルーツィファー)ほ

かさまざまな名前で呼ばれていくことになる。

しかし、 「ルーツィファーJ (ラテン語のluciferr光を発する(形容詞)Jから名付けられ

た)という名前については、 『エノク書』の堕天使には、名前の由来である 「光Jにまつわる記

述はない。マルコムによれば、 「堕天使Jすなわち 「地上に落ちる悪魔Jに 「光Jのモティーフ

が初めて結び、つくのは、したがって 「堕天使ルーツィファーJ神話の起源は、 『新約聖書』の

「ヨハネの黙示録j である 65)。

「ヨハネの黙示録j の中で、悪魔であり、サタンである竜と大使ミカエルとの間に天で戦いが

起こり、戦いに負けた巨大な竜は地上に投げ落とされる。そのとき天から (キリスト)の大音声

が響く 。その際にキリストが語った言葉の中の次の一節が起源となったのである。

悪魔は怒りに燃えて、

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お前たちのところへ降って行った。 ((新)rヨハネの黙示録J12, 12)

一方ルーツィファー(lucifer)のもう一つの意味である 『暁の明星、金星Jがやはり倣りから

地上に落ちるモティーフは、 『旧約聖書』の「イザヤ書j の中の、パビロンの滅亡に際してパビ

ロンの王に対して歌われる噸りの歌の一節にみられる (14.12-15)。ただし、マルコムによれば、

「イザヤ書Jにあるこの 「明けの明星Jにまつわる歌は、これとほぼ閉じ内容をもったものに、

紀元前 7世紀のカナン(現在のパレスチナ)の聖典に書かれている夜明けの神 「シャヘルJの伝

説があり、これが旧約聖書に取り入れられたものとみられる 66)。

以上のような経過をたどって形成された 「堕天使Jのモティーフは、その後さまざまな説話の

素材となっていく。そして13世紀の神秘劇に至って、 「堕天使j は 「堕天使ルシファーJのモ

ティーフを獲得することになる 67)。すなわち、神は自らの栄光に次ぐ最高の天使を美しく創造

し、これを 「光掲げる者、ルシファーJと命名する。ルシファーは神から賛嘆を受けて、鏡の中

の美しく輝く我が姿に陶然と見入る。そして自分は神よりも尊い君主であると自尊し、その証と

して神の玉座に座する。ルシファーのそのような栄光の姿を自にして激怒した神は、ルシファ-

(rh I を天から投げ落したのである。以上が f堕天使ルーツィファーJの起源であると考えられる。

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3. ゲーテの人間観

ゲーテの宇宙論的世界像においてはしたがって、ルーツィファーはキリスト教によって 「悪

(魔)J と結び、つけられる以前の堕天使のモティ ーフを保持しているといえよう。すなわち堕天

使は倣りのために神性から離反し地上に落ちたが、それは行為が招来した結果であって、天使自

らの存在そのものまでが悪に規定されてしまうわけではない。さらにゲーテにおいては、地上に

落ちたルーツィファーは、神性の配慮を受けて再び神性に向かつて、本源的なルーツィファーへ

と上昇復帰することが可能である。しかもこの悪への下降と神性への上昇の過程は、何度でも繰

-47ー

り返されるのである

ゲーテにとって、悪、は神(性)によって一回限り宣告されて永遠に固定してしまうものではな

い。悪に通しる傾向は、もう一方の神性への傾向によって、何度でも補われ得るのである。木村

は、このようなゲーテの 「世界観の非キリスト教性J GI を f神の人間化j という表現を用いな

がら次のように述べている。 rかの コスモゴーニー(Kosmogonie宇宙論的世界像,筆者注)にもと

つく救局思想、によって、かれ (若きゲーテ)がキリストの唯一絶対性を暗黙のうちに否定してい

ることである。そこではイエスはもはや一回限りの歴史的存在ではなく、神性からの陵反と復』ヨ

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...

という形而上的なプロセスにおいて絶えずくり返される神の人間化の一つの例にすぎない d

3 。

たしかにそこには、救済が恩寵的に神によって与えられるのでない、ルーツィフ 7ーに象種的に

表現されているような、悪にでも神性にでも向かい得る人間の自由の肯定と、自由をもつもので

あるかゆえに神性に向かつて自らを高めてし、く存在が人間である、というゲーテの肯定的な人間

観か見て取れるのである。

ゲーテのこのような宵定的な人間観が作品にもっともよく表れているのが、 『ファウスト

l 部 「天上の序曲Jであろう。

ごとメフィストーフェレスが天上でフ ァウストを話題にしている。

ファウストが 「天Jこからはいちばん美しい患を得たいと思い/地上でl

とするJ(Vs.304-305)が、何ーっとしてファウストを満足させることl

フィス kーフェレスは

ーをき ょう

むいと主に報告している

このメフィストーフェレスを、サタ ンがまだ惑魔ではむミ f人間の罪を神に告発する者Jでしか

なか 勺た II~J約iE49の時代の形姿で、 ゲーテか摘いていることに注目したい。 それに続く会話の中

で、 iliはメ フィストーフェレスに向かつて宮う'0

人IHJは、努力をする限り、迷うものだ。 CVs.,317

そして、 ファ ウス トを誘惑しようと手ぐすねを日|いているメ フ トーフェ ーilこ

川い人!聞は、よしんば暗い衝動に動かされても、

iEしい遣を忘れてはいないものだに。

そしてlついに、執f幼にファウスト

女、JLてl、主は併しをLJ・える。そして

¥'s. 328:f.

て主に食い下がる

トーフェレス治' た

人UJJの的動はとかく弛みが九r

iUてして知tsiIJItl~の休.G

だからわしは彼らに{!IIIHJをつけてや勺て

1tUらを刺激したり似したり、強風Eとしてのtl

iiのこれらの臼・総には、ゲーテのJレーツィフ噌ー

がまさに制mされていると いえるl白それl

だ。 (Vs.340ff.

てみたゲーテの へnn2

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ない、肯定的な人間観であるといえよ う。ゲーテの人間観にあっては、悪(庇)さえも向 1:への

刺激として活用するのである。それは善悪を大きく包み込みなから本源的自己へのと昇をめぎす

ダイナ ミズムに貫かれたものであるといえよう。

テクストは、いわゆるハンブルク版を主に使用した。他の版を使用した場合は、その都度出典

を明記した。本文中の引用にはハンブルク版の出典箇所のみ記す。略号は以下の通り。

HA=Goethes Werke, Hersg. v.Erich Trunz, Hamburger Ausgabe in 14 Banden, Verlag

c. H. Beck Munchen, 1981 (Bd. 3 1949-72, Bd. 4 1953-1968).

なお、ゲーテの著作における原文の翻訳および引用にあたっては、 『ファウスト』については、

相良守峯訳 (岩波文庫、 上 ・下、 1994年)を使用した。それ以外については、 潮出版社版 fゲー

テ全集』全16巻別巻 lを主に用い、参照した。他の版の翻訳を使用した場合は、その都度出典を

明記した。

1)清水純一著 ・近藤恒一編 『ルネサンス 人と思想』平凡社、 1994年、 157-158頁参照。

2)木村直司著 『ゲーテ研究ーゲーテの多面的人間像一』南窓社、 1976年、 57頁。

3)向上書、316-317頁参照。

4)土橋 賓著 『ゲーテ教育学研究ーその世界観 ・遊戯観 ・人間形成観ー』 ミネルヴァ書房、

1996年、33頁。

5)シュトゥルム ・ウント ・ドランク、については、広瀬干ー著 『ドイ ツ近代劇の発生ーシュトゥル

ム ・ ウント ・ ドラングの演劇~ (三修社、 1996年)に詳しい。とくに序章、第 l章「シュトゥ

ルム ・ウント ・ドラングとEmpfindsamkeitJおよび第 2章「シュトゥルム ・ウント・ドラ ン

グの シェイクスピア受容Jを参照した。

6)敬度主義(Pietismus) シュペーナー (P.J. Spener, 1635-1705)、フラ ンケ (A.H. Francke,

1633-1727)らを中心として、教条主義化したルタ一派教会に反対して起こ った一種の信仰

覚醒運動。個人の体験としての内面への啓示と道徳的実践を強調する。1768年、ゲーテが病

のために遊学先のライプツィ ヒからフランクフルト ・アム ・マインに帰省した折、ゲーテの

母の妹であるフォン ・クレッテンベルク嬢の影響を受けて、ゲーテは一時期敬度主義に感化

された時期があっ た。

7)広瀬干ー著、前掲書、 21頁。

8) Vgl. Kar 1 Otto Conrady: (Goethe~・ Lebenund Werk. Artemis Ver lags GmbH, Munchen

1994, S. 392.

Vgl. Gunther Bohme: Goethe -Naturwissenschajt,Humαnismus,Bildung:ein Versuch

uber die Gegenwart klassischer Bildung Ver lag Peter Lang GmbH, Frankfurt am

-49-

Main 1991, S. 53.

9) Vgl.C.O.Conrady, ibid,S.392.

10) Vgl. ibid. , S. 393.

11)ゲーテが友人に宛てた 2通の書簡からの以下の引用箇所には、ゲーテの「全体Jの立場がよ

く示されている。

ゲーテからクネーベル (Carlv.Knebel)宛、 1784年11月17日付書簡‘

HUnd so ist wieder iede Creatur nur ein Ton eine Schattirung einer grosen Harm-

onie, die man auch im ganzen und grosen studiren muB sonst ist iedes Einzelne

ein todter Buchstabe.>> (かくて、万物は、人が全体と大なるものとのうちに学ばなけ

ればならない大きい調和の一つの音調、一つの明暗にすぎないのだ。 そうでなければ、あ

らゆる個々のものは死んだ文字にすぎない。)

(Goethes Briefe, Hamburger Ausgabe,hrsg. v.K.R.Mandelkow u.Bodo Morawe, Verlag

C. H. Beck, Munchen 1986, Bd. 1, S. 459 /舟木重信訳 『ゲーテ全集I第18巻、大村書l苫.

1958年)。

ゲーテからヤコーピ (F.H. Jacobi)宛、 1813年 1月6日付書簡

“;als Oichter und Kunstler bin ich Polytheist.Pantheist hingegen als Naturfor-

sCher,und eins so entschieden als das andre. (・・・)Oie himmlischen und irdischen

Oinge sind ein so weites Reich, da8 die Organe aller Wesen zusammen es nur

erfassen mogen>> (詩人、芸術家として私は徹底的な多神論者であり、自然科学者として

は徹底的な汎神論者である。(…〕天地に存在する事物は非常に広汎であって、総ての機

能を集めてのみそれを理解することが出来るのだ。)

(Ibid.. Bd. 3, S. 220/舟木重信具、向上古)。

12) G.Bohme. ibid.,S.53.

13) Ibid.. S. 57.

14)ルトルフ・シュタイナー/溝井高ぶぷ fゲーテのi片界観』晃洋哲加、 1995年、 82頁。

15) r自然、肱術とは要するにー稲のi当然、村学である j (消水純一著 ・近藤恒一編、前掲替、 139

頁)。

16) 朝永綴-fll~箸『物JlH学とは何だろうかJ 上、 }itj皮新将、 1995年、 124頁参照。

17)紀元前200年頃にエジプ ト・メ ンデ Aのボロスか、デモクリトスの包で著した錬金術のへ1

メス文1!1= r 自然、学と~lll :俗学J (Physika ct Mystica)の残片かう日まで残っている。このボ

ロスによ ってギリ シア・エジプ卜的な敵金術(ヘルメえ錬金術)は体系化された。したが「

て錬金術のj夜史は、紀元前 ;i-lN己にまで遡ることかできる(荒井献 ・柴田有訳『ヘルメス

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18)朝永振一郎著、前掲書、 6頁参照。

19)向上書、 6-11頁参照。

20)大槻真一郎著『記号 ・図説錬金術事典』同学社、 1996年、 168頁参照。

21) C. G. ユ ング著/池田紘一 ・鎌田道生訳 『心理学と錬金術 n ~ 人文書院、 1983年重版、 19頁。

22)向上書、同頁。

23)同上書、 135頁参照。

24)大槻真一郎著、前掲書、 4頁参照。

25)四つの元素 「火、水、地、空気J相互の結合と分離によ って物体が生じるとする (アリスト

テレス著/岩崎勉訳 『形而上学』講談社、1994年、 13頁参照。)

26) C. G.ユング、 前掲書、 12頁。

21)向上書、同頁。

28)向上書、 139頁。

29)向上書、125頁。

30) ゲーテはフォン・クレ ッテンベルク嬢 (1123-14)について、 r ~ ヴィルヘルム ・ マイス

ター』に挿入されている 「美しい魂の告白Jは、この人の談話や手紙から生まれたものであ

るJと言及している (HA9,338f. /邦訳:ゲーテ著/山崎章甫・河原忠彦訳 「詩と真実 わ

が生涯より J ~ ゲーテ全集~ 9、潮出版社、 1919年、 301頁。)

31)ゲーテの若き日の自伝 『詩と真実s (1811年から14年にかけて書かれた)の第 2部第 8章の

後半に、この療養期間中 (1168年 9月から、 1110年 3月まで)の様子が詳しく書かれている

(Vgl.lbid.,S.336ff.邦訳/向上書、 299-314頁参照)。

32)本名はTheophrastusBombastus von Hohenheim (依田義右頁著 『神真似の系譜ーデカルト以

前の哲学者たち一』晃洋書房、 1994年、初版、第 3刷、 293頁参照)。

パラケルズスの主著『パラグラーヌムs(Paragranum)、 『オープス・パラミーラム ~ Opus

Paramirum)。

33) F. W.ヴェンツラッフ =エッゲベルト著/横山 滋訳 『ドイツ神秘主義』国文社、 1919年、

209-213頁参照。

34)大橋博司著『パラケルススの生涯と思想』新装版、思索社、 1988年、 118-119頁参照。

35)向上書、 119頁。

36) E.カッシーラ著/薗田担訳『個と宇宙ールネサンス精神史一』 名古屋大学出版会、 1991年、

初版第 2刷、 138頁。

31)大橋博司著、前掲書、 132頁。

38) E".カッ シーラ著/薗田担訳、前掲書、 138頁。

39) HA9,S.343 (邦訳ゲーテ著/山崎章甫・河原忠彦訳、前掲書、 305頁)。

-51一

40) HA9, S. 344 (邦訳/向上告、 306頁)。

41)木村直司著、前掲S、316頁。

42) C. G.ユング著、前掲替、107頁。

43) E.カッシーラ著/薗田担訳、前掲害、 213頁。

44)向上書、 173頁。

45)向上書、 213頁。

川端香男里編 ・若桑みとり他著 f神秘主義一ヨーロッパ,精神の底抗Jせりか書房、 1988年、

88頁参照 (fやがて錬金術は、その実践的側面である化学的作業から隠れてより思弁的な方

向へと向かい、… .1)。

46)野田又夫 『西洋哲学史』 ミネルヴァ魯房、 1977年、 2-24頁参照。

47) E.カッノーラ著 〆薗田担訳、前掲替、 213頁。

48)アリフトテレス著/岩崎勉訳、前掲也、 215頁。

49) r今日においても最初においても、人々が哲学的思索を始めたのは驚異|によってであるJ

(向上告、 51頁〉。

50)ルドルフ・シュタイナー/病升高志訳、前掲替、 78J{o

51)木村直司著、前ifd1!i、 56頁以下容照。

52)向上也、 345頁。

53) Vg,1.HA9.350ff. 前掲曹、 3,ll-3.14頁容照〉。

54)ベネ ・エロヒーム(r:神の子たちJ

さす。 (フィリップ ・フlオール軒/Ji

32A参照J。

は、本来は古代カナンの神エルを

~(~とはなにか』せりか韓民、 1995年

55)ヤーコプ ・ぺーメの (Jakob Bohme.Aurora oder ,dj

dic 'urzel oder Nutt:er de.r Pl1ilospphic, IfstoJog.ie ul1d TheoJoJ!i

odcr Beschrei bung ode,l・Natllr, 1601

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の4辺機と l( r~起 IV] A の 211益ilなモティーー

本、↑将応、:1976年

であり、 !神を本癒と

S6) ミルト ンの『集部制J (J. M ,i .1 ton, I切radise!.ost.. :1667

1997-1998年)でi

カエルのそれぞれが部いZ

S7)民衆本『ファウスト博士』

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は、フ町村

5H)マルコム・ゴドウィン判

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1I1S.1YJN.lA ,ゆ111良Jollan向usten

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Angels An Endangered Species, 1990)では、 天使の伝承についての詳細な研究がなされて

いる。ほかに、バーバラ・ウォーカー著/山下主一郎他共訳 『神話・伝承事典一失われた女

神たちの復権一s (大修館書居、 1988年)にも fLuciferJレシフエ jレJについての記述は詳

しし、。

59)ヘプライの父祖エノクの三種の年代記、 4世紀に聖ヒエロニムスによって偽典(=神の啓示

を受けていない異端文書)とされた。完全な形の『エノク書』の原本は、 18世紀になってエ

賦 ! チオピア教会で発見された(向上書、 13-14頁、 90頁参照)。

的 ':1 60)向上書、 112-113頁参照。

61)向上書、 125頁。

62)共同訳聖書実行委員会『聖書 新共同訳』日本聖書協会、 1995年、 28頁(f用語解説J)参

照。マルコム ・ゴドウィ ン著/大瀧啓裕訳、前掲書、 113頁参照。

63)マルコム・ゴドウィン著/向上書、 112頁参照o

~~J j )' 64)向上書、 113頁。

65)向上書、 125頁参照。

66)向上告、 125,129頁参照。

67)同上宮、同頁参照。

68)木村直司著、前掲書、 86頁。

69)向上容、 54頁。。

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