ラジアル荷重を受ける転がり軸受の振動診断 - jsme.or.jp...2017/07/21  ·...

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ラジアル荷重を受ける転がり軸受の振動診断 広島大学大学院 工学研究科 機械システム工学専攻 2 テーマの背景 転がり軸受の振動診断における,新たな診断パラメータ の開発に関する研究に従事. 過去の研究では,予め軸受に設けた傷の診断を行った. より実用に供する研究のために,現在転がり軸受の転動 疲労試験における振動診断に取り組んでいる. その際に生じた,過去に経験の無い振動波形が得られ, その診断法について考察した. 3 対象機械:転がり軸受試験装置の軸受部 単列深溝玉軸受(6006 内輪回転数 1800 rpm グリス潤滑 外輪(静止側)にラジアル荷重の負荷 8 kN 軸受外輪の加速度波形観測 センサ感度 5 Hz15 kHz(±3dB),10 kHzのローパスフィルタ サンプリング周波数 20kHz 4 発生した現象 運転46.7時間(総回転数5.04×10 6 )にて大きな振動が発生 した. 基本定格寿命 ܮ4.49 ൈ 10 回転, ܮ41.2 時間 rms値の変化 0 5 10 15 20 25 30 35 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 rms [m/s²] 回転数 [10 6 ] 4.98 5.03 5.08 回転数 [10 6 ]

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ラジアル荷重を受ける転がり軸受の振動診断

広島大学大学院 工学研究科

機械システム工学専攻

関 口 泰 久

2

テーマの背景

転がり軸受の振動診断における,新たな診断パラメータ

の開発に関する研究に従事.

過去の研究では,予め軸受に設けた傷の診断を行った.

より実用に供する研究のために,現在転がり軸受の転動

疲労試験における振動診断に取り組んでいる.

その際に生じた,過去に経験の無い振動波形が得られ,

その診断法について考察した.

3

対象機械:転がり軸受試験装置の軸受部

単列深溝玉軸受(6006) 内輪回転数 1800 rpm グリス潤滑

外輪(静止側)にラジアル荷重の負荷 8 kN 軸受外輪の加速度波形観測

センサ感度 5 Hz~15 kHz(±3dB),10 kHzのローパスフィルタ

サンプリング周波数 20kHz 4

発生した現象

運転46.7時間(総回転数5.04×106)にて大きな振動が発生した.

基本定格寿命 4.49 10 回転, 41.2時間

rms値の変化

0

5

10

15

20

25

30

35

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

rms

[m/s

²]

回転数 [x106 ]4.98 5.03 5.08

回転数 [x106 ]

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発生した現象

歪度Sk

尖度Ku

波高率Cr

-0.4

-0.3

-0.2

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

歪度

Sk

回転数 [x106 ]4.98 5.03 5.08

回転数 [x106 ]

0

1

2

3

4

5

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

尖度

Ku

回転数 [x106 ]4.98 5.03 5.08

回転数 [x106 ]

4

5

6

7

8

9

10

11

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

波高率

Cr

回転数 [x106 ]4.98 5.03 5.08

回転数 [x106 ]6

原因推定

総回転数が基本定格寿命を超えていたため,レース表面が剥がれ,振動値が上昇したと考えられる.

どの部位(外輪,内輪,転動体)に傷が発生しているか,の推定には,周波数分析が必要.

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解析・データ分析 1

時系列波形 → 包絡線処理 → 周波数解析

‐150

‐100

‐50

0

50

100

150

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2

Time s

Acc

eler

atio

n m

/s2

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2

Time s

Acc

eler

atio

n m

/s2

5.05 10 回転時

8

解析・データ分析 1

時系列波形 → 包絡線処理 → 周波数解析

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0 50 100 150 200 250 300

Am

plitu

de s

pect

rum

Frequency [Hz]

一部の周波数帯域のみ表示

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解析・データ分析 2

軸系の固有振動数解析

‐300

‐200

‐100

0

100

200

300

0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03

Acc

eler

atio

n m

/s2

Time s

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000

0 500 1000 1500 2000 2500 3000

Frequency Hz

Am

plitu

desp

ectru

m 660 Hzζ 0.07

250

10

解析・データ分析 3

回転軸系と静止系の接触(Rub)の確認

目視による接触部位の確認

一方向にのみ加速度センサ.振れ回りの方向は未確認.

接触の跡は確認できず.

11

解析・データ分析 4

転がり軸受の特徴周波数

BPFI = 190 HzBPFO= 135 HzBSF = 85.5 Hz

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0 50 100 150 200 250 300

Am

plitu

de s

pect

rum

Frequency [Hz]

189 Hz

12

解析・データ分析 4

回転:タイムマーク

内輪傷 と 転動体 が接触:タイムマーク

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2

Time s

Acc

eler

atio

n m

/s2

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解析・データ分析 5

軸受に偏心がある場合

(たとえば内輪がいちじるしく摩耗しているような場合)

発生する周波数 :主軸回転数

カテゴリーⅢ教科書第2版 p.30514

解析・データ分析 6

内輪にスポット傷がある場合

:BPFI:主軸回転数

:転動体公転周波数カテゴリーⅢ教科書 第2版 p.305

15

対策・結果 1

軸回転周波数 = 30 Hz 転がり軸受の特徴周波数 BPFI = 190 Hz =

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0 50 100 150 200 250 300

Am

plitu

de s

pect

rum

Frequency [Hz]

2 3

16

対策・結果 2

軸受を解体し,確認:内輪傷が生じていた.

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教訓

転がり軸受の内輪に傷が生じた場合

アキシャル荷重がなく,ラジアル荷重が大きい場合

特徴周波数: に加え が生じることがある.

診断の際には,特徴パラメータの変化および周波数分析結果だけでなく,時系列波形(包絡線)にも注意する必要がある.