バイオバンク ~次世代の医療のために~24 national center of neurology and...

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24 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 25 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) バイオバンク ~次世代の医療のために~ トランスレーショナル・メディカルセンター(TMC) 精神疾患や神経疾患には原因がまだ不明で、治療法が確立していないものがたくさんあります。新し い診断法や治療法の開発には、血液、尿など臨床検体を用いた研究が不可欠です。そこで、NCNPでは 臨床検体と臨床情報(診断、症状など)を「バイオバンク」に集め、NCNP内はむろん、国内外の他の研 究機関や製薬会社などとも協力して解析し、原因の究明や新しい診断・治療法の開発を目指そうとして おります。 NCNP におけるバイオバンク NCNP では、これまでの筋バンクの経験や、病院と連携し た脳脊髄液の収集体制をベースに、2012年の終わりから試 験的にバイオバンクの検体収集を開始し、2013年より本格 稼働を開始しました。説明・同意取得、問診・症状評価な どを TMC の心理士が担当し、集めた情報はデータベースに 登録されると共に、電子カルテにも反映することで、医療(情 報)の質の向上にも貢献することを目指しております。セン ター病院との密な連携により、参加者は順調に増えてまい りました(月約40人)(図1)。 システマティックな検体と情報の管理 収集した検体や情報を確実に管理するため、バイオリソー ス管理室内で専用のデータベース・システムを開発し、参 加者の登録から、匿名化、検体の管理、そして研究用情報 の払い出しまでを一元的に行っております。検体はバーコー ド付チューブに分注・保存することで作業が軽減し、安全 性も高まりました。さらに、病院医療情報室と協力し、バ イオバンクの調査結果を電子カルテに反映させたり、電子 カルテの病名などの医療情報を安全にデータベースに受け 入れたりする、情報連携も進んでおります(図2–4)。 他のナショナル・センターとの連携 この事業は、国立がん研究センター、国立循環器病研究センターなど、6つのナショナルセ ンターが連携して行っております(ナショナルセンター・バイオバンク・プロジェクト)。それ ぞれ専門をもつ国立高度専門医療研究センターが連携することで、主要な疾患をカバーし、高 品質の診療情報を確保しようという目論見です。そして、検体の一覧と相談窓口を中央バンク に置くことで、ワンストップサイトをつくろうとしております(図5)。 図1:バイオバンクの研究概要 図 2:バイオバンク・データベースの画面例 図 3:2D バーコード付保存チューブ 図 4:バイオバンク調査結果の電子カルテ用出力 バイオバンクロゴ ナショナルセンター・バイオバンク・ネットワーク 次世代医療のための臨床基盤整備事業 中央バイオバンク・事務局 (カタログ DB 公開+窓口機能) 産学官の研究者等 からの利用申請 6NC 共通プラットフォームによる連邦型ネットワークの構築 病名登録 がん研究センター (連携病院等) 連携機関とともに、ネットワークを順次拡張していく予定 循環器病研究センター 精神・神経医療研究センター 国際医療研究センター 成育医療研究センター 長寿医療研究センター 共通問診票 倫理審査 試料の収集・管理 諸手続き 左記の標準化と情報共有 (連携病院等) (連携病院等) (連携病院等) (連携病院等) (連携病院等) NCの専門性を活かした疾患別ネットワーク構築を検討(カタログ情報や試料の保管等について連携) がん関連 バイオバンク DB 循環器病疾患 関連バイオ バンク・DB 精神・神経・ 筋疾患関連 バイオバンク DB 感染症・代謝疾患・ 免疫異常等関連 バイオバンク DB 成育疾患関連 バイオバンク DB 老年病関連 バイオバンク DB 図 5:ナショナルセンター・バイオバンクのネットワーク図

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Page 1: バイオバンク ~次世代の医療のために~24 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP )National Center of Neurology and Psychiatry NCNP 25 バイオバンク~次世代の医療のために~

24 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 25National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP)

バイオバンク~次世代の医療のために~

バイオバンク ~次世代の医療のために~トランスレーショナル・メディカルセンター(TMC)

精神疾患や神経疾患には原因がまだ不明で、治療法が確立していないものがたくさんあります。新しい診断法や治療法の開発には、血液、尿など臨床検体を用いた研究が不可欠です。そこで、NCNPでは臨床検体と臨床情報(診断、症状など)を「バイオバンク」に集め、NCNP内はむろん、国内外の他の研究機関や製薬会社などとも協力して解析し、原因の究明や新しい診断・治療法の開発を目指そうとしております。

NCNPにおけるバイオバンク

NCNPでは、これまでの筋バンクの経験や、病院と連携した脳脊髄液の収集体制をベースに、2012年の終わりから試験的にバイオバンクの検体収集を開始し、2013年より本格稼働を開始しました。説明・同意取得、問診・症状評価などをTMCの心理士が担当し、集めた情報はデータベースに登録されると共に、電子カルテにも反映することで、医療(情報)の質の向上にも貢献することを目指しております。センター病院との密な連携により、参加者は順調に増えてまいりました(月約40人)(図1)。

システマティックな検体と情報の管理

収集した検体や情報を確実に管理するため、バイオリソース管理室内で専用のデータベース・システムを開発し、参加者の登録から、匿名化、検体の管理、そして研究用情報の払い出しまでを一元的に行っております。検体はバーコード付チューブに分注・保存することで作業が軽減し、安全性も高まりました。さらに、病院医療情報室と協力し、バイオバンクの調査結果を電子カルテに反映させたり、電子カルテの病名などの医療情報を安全にデータベースに受け入れたりする、情報連携も進んでおります(図2–4)。

他のナショナル・センターとの連携

この事業は、国立がん研究センター、国立循環器病研究センターなど、6つのナショナルセンターが連携して行っております(ナショナルセンター・バイオバンク・プロジェクト)。それぞれ専門をもつ国立高度専門医療研究センターが連携することで、主要な疾患をカバーし、高品質の診療情報を確保しようという目論見です。そして、検体の一覧と相談窓口を中央バンクに置くことで、ワンストップサイトをつくろうとしております(図5)。

図1:バイオバンクの研究概要

図2:バイオバンク・データベースの画面例

図3:2Dバーコード付保存チューブ 図4:バイオバンク調査結果の電子カルテ用出力

バイオバンクロゴ

ナショナルセンター・バイオバンク・ネットワーク次世代医療のための臨床基盤整備事業

中央バイオバンク・事務局(カタログDB公開+窓口機能)

産学官の研究者等からの利用申請

6NC共通プラットフォームによる連邦型ネットワークの構築病名登録

がん研究センター

(連携病院等)

連携機関とともに、ネットワークを順次拡張していく予定

循環器病研究センター 精神・神経医療研究センター 国際医療研究センター 成育医療研究センター 長寿医療研究センター

共通問診票 倫理審査 試料の収集・管理 諸手続き 左記の標準化と情報共有

(連携病院等) (連携病院等) (連携病院等) (連携病院等) (連携病院等)

NCの専門性を活かした疾患別ネットワーク構築を検討(カタログ情報や試料の保管等について連携)

がん関連バイオバンク

DB

循環器病疾患関連バイオバンク・DB

精神・神経・筋疾患関連バイオバンク

DB

感染症・代謝疾患・免疫異常等関連バイオバンク

DB

成育疾患関連バイオバンク

DB

老年病関連バイオバンク

DB

図5:ナショナルセンター・バイオバンクのネットワーク図

Page 2: バイオバンク ~次世代の医療のために~24 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP )National Center of Neurology and Psychiatry NCNP 25 バイオバンク~次世代の医療のために~

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研究所で生まれたシーズを病院でF

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試験として実施

研究所で生まれたシーズを 病院でFirst in human 試験として実施トランスレーショナル・メディカルセンター(TMC)、病院、神経研究所

当センターの研究所にはオリジナルのシーズ(医薬品候補物質)が数多くありますが、その一つが神経研究所免疫研究部において開発され、多発性硬化症再発予防薬として期待された化合物です。2011年から医師主導の早期探索的臨床試験によるFirst in human試験を実施するための準備が開始されました。First in human試験とは、その名の示す通り、実験動物を用いた非臨床試験を重ねてその効果と安全性に関する検証を十分行った上で、はじめてヒトを対象として実施される試験のことを指します。一方、病院では一般病棟のベッドを使用したFirst in human試験を実施するための体制整備の強化を目標に、実施病棟となった一般病棟では看護師長・副看護師長が中心となり、治験責任医師および分担医師との業務分担や不測の事態に十分対応できるよう救急体制を構築することで、安全で円滑な治験が出来る体制を整備しました。

本試験は2012年11月に開始され大きな有害事象もなく進んでいる一方で、筋ジストロフィーに対する新たなシーズのFirst in human試験の準備も並行して行われており、2013年度は2試験が同時に行われる予定です。

基礎研究の成果を臨床試験の 実施につなぐ専門スタッフ

TMCには薬事承認審査機関経験者および臨床研究支援アドバイザーといった専門家がおり、シーズの臨床への橋渡しを支援するためのプロジェクトマネージャーとして研究プロジェクト全体を管理・支援・調整します。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の薬事戦略相談から試験実施計画書(プロトコル)の立案に関して、企業治験を数多く実施している治験管理室の臨床研究コーディネーター

(CRC)が連携して進めていきます。両者はさらに、センター内の治験審査委員会への申請および、PMDAへの治験計画届出の支援を行い、医師主導治験が開始されます。

❶ ❷

病院でのFirst in human試験の実施体制整備

本試験では、設備的にHCUに準じる病床がある一般科病棟が実施病棟となりました。そこでは、本試験の被験者への看護体制の強化を図るため、当該病棟の看護師5名に加えプロトコルを熟知したCRC看護師1名の計6名の専属チームを組みました。また、日中の被験者観察および快適な環境を整備するため併せてクラスター病棟(治験専門病棟)を利用することとしました。

院内の体制として、重篤な有害事象発生時には、緊急時対応マニュアルに定められた連絡体制の下、緊急時対応チーム(総合外科、総合内科、手術部の医師で構成)が主治医とともに対応しています。一方、三次救急など院内で対応が困難な事象については、速やかに病院間連携により適切な対応を行う体制を整えました。

今回の試験開始に伴い、他院への緊急搬送に備え、緊急時対応チームの医師を中心とした救急対応・搬送の訓練を実施しました。

治験・臨床研究推進のための今後の取組み

高度専門医療研究センター病院という当院の機能と規模から、引き続き病院全体が治験・臨床研究に対応できる体制を整えています。具体的にはセンター内の連携体制をより強固なものにしていくほか、入職時オリエンテーションでの医師・医療従事者への教育、全員参加が義務つけられている医療安全セミナーで、特にFirst in human試験についてとりあげる等、2014年までに病院スタッフ全員が治験・臨床研究に関わる体制を構築中です。治験のみならず、当センターが主体となり実施する臨床研究の推進をはかるため、TMCと病院による研究支援・実施体制の整備を行っていきます。

臨床研究(医師主導治験)支援機能フローチャート

研究者 トランスレーショナルメディカルセンター治験管理室

シーズ(有形・無形)

試験(治験)薬概要書

試験(治験)実施計画書

症例報告書・説明書

(治験計画届出)

試験(治験)薬の入手

IC取得

進捗管理

品質管理DM/モニタリング

安全性情報管理

統計解析

総括報告書作成

計画・立案

試験(治験)実施

研究相談窓口

安全性評価委員会治験管理室

倫理委員会・IRB審議

プロジェクトマネージャー指名(TMC機能調整会議)

プロジェクトマネージャーが管理・支援・調整

試験実施計画書等作成検討会

臨床研究支援室治験管理室

治験管理室CRC

データマネジメント室及びCRO

生物統計解析室

臨床研究支援室

(戦略(治験)相談)

一次救命二次救命処置

外科・内科的専門的治療

重篤な有害事象発生時の対応

NCNP内で対応できない診療科の専門治療を実施

NCNPの診療科を超えた、密な連携による治療を実施

consultation

response

FIH実務担当医師

搬送病院重篤な有害事象発生時の

初期対応者総合外科・総合内科・手術部

の医師らによる院内救急時対応チーム

1:プロジェクトマネージャーを中心とした医師主導治験の準備   2:専属チームによるFirstinhuman試験実施体制

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28 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 29National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP)

筋ジストロフィー臨床試験ネットワークを発足

筋ジストロフィー臨床試験 ネットワークを発足トランスレーショナル・メディカルセンター(TMC)

筋ジストロフィー臨床試験ネットワーク(Muscular Dystrophy Clinical Trial Network: MDCTN、ホームページhttp://www.mdctn.jp/)は、2012年12月に設立した神経筋疾患を対象とした臨床試験ネットワークです。神経筋疾患のほとんどは希少疾病と呼ばれる患者さんの数が少ない疾患ですが、質の高い臨床試験を行うには、協力いただく患者さんをできるだけ多く、かつ正確に把握しておくことが重要です。しかし現実には神経筋疾患のような希少疾病では、どこにどれくらいの患者さんが存在するのかを把握しておくことは大きな困難を伴います。MDCTNの加盟施設は図に示されているように広く全国に存在しますので、神経筋疾患を持つ患者さんを網羅的に把握することが可能となっています。また様々な専門職が関与することによって質の高い(ICH-GCP準拠と表現されます)多施設での共同研究の実行や支援を行うほか、製薬企業から依頼される治験に関しても、治験の実現可能性調査への協力、治験を実施する施設の選定、実際の治験を支援する仕組みなどの機能も備えています。そのほか臨床試験を行うスタッフへの教育・研修機能、評価法の標準化などの活動を通して、神経筋疾患の医療の向上に寄与することを目標としたチームです。まだできたてほやほやのチームですが、できるだけ早く体制を整備したうえで、様々な臨床試験、臨床研究を展開し、成果をできるだけ早く患者さんやご家族に届けたいと考えています。

筋ジストロフィーとは?

筋ジストロフィーは骨格筋の壊死・再生を主な病態とする遺伝子変異に基づく疾患と定義されています。筋ジストロフィーにはデュシェンヌ型、ベッカー型、肢帯型、福山型など様々なタイプが存在しますが、それらの共通の特徴として、進行性、希少性(患者さんの数が少ない)、難治性(根本的な治療法が存在しない)といった特徴を持っており、そのような特徴から希少疾病の代表的な疾患とも言われることがあります。約50年にもわたる臨床研究に加えて最近では核酸医薬、分子標的薬と呼ばれる画期的な治療法の検証(治験)が行われています。このように筋ジストロフィーの医療は大きく変わろうとしています。

筋ジストロフィー臨床試験ネットワークのロゴマークの由来は?

このロゴマークは五本の矢印がメインに構成されています。五本の矢印は、医師・研究者、治験コーディネーターや理学療法士などの医療従事者、患者さん・ご家族、患者・家族会、製薬企業・規制当局など、立場の違う人たちが協働で共通の目標に向かって活動している状況をイメージしています。未来指向型のチームを構成し、新しい医療の開発を目指しています。

臨床試験ネットワークとは?

臨床試験ネットワークとは治験や臨床研究を効率よく進めていくために病院が連携し、チームを組んで、一体的に治験や臨床研究を行うことを目的とした組織です。厚生労働省、文部科学省合同で示されている、「臨床研究・治験活性化5か年計画2012」(2012年3月30日)と同アクションプラン(同年10月15日)では中長期的に目指すこととして、ネットワークを活用した症例集積性の向上が提示されています。我々が提案している臨床試験ネットワークは、この指針にもマッチしており、神経筋疾患のみならず、希少疾病全体の新規治療法の開発にも参考となる仕組みであると考えています。

❶NHO旭川医療センター❷NHO八雲病院❸NHO青森病院❹NHOあきた病院❺NHO西多賀病院❻NHO新潟病院❼NHO東埼玉病院❽国立精神・神経医療研究センター❾10東京女子医科大学11NHO下志津病院12北里大学13NHO箱根病院14信州大学

15NHO医王病院16名古屋市立大学病院17NHO鈴鹿病院18滋賀県立小児保健医療センター19NHO宇多野病院20大阪大学 NHO刀根山病院 神戸大学 鳥取大学 NHO徳島病院 NHO大牟田病院 原病院 NHO熊本再春荘病院 熊本大学

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筋ジストロフィー臨床試験ネットワークの症例集積性神経筋疾患のほとんどは希少疾病ですが、本ネットワーク加盟施設全体で、このように多くの患者さんを把握しています。医薬品開発のデザインを考える時のデータの提供、効率的な治験の遂行を行える体制を構築しています。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー29.4%

ベッカー型筋ジストロフィー9.2%

肢帯型筋ジストロフィー9.8%福山型先天性

筋ジストロフィー7.2%

先天性筋ジストロフィー2%

先天性ミオパチー3.7%

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー6.6%

筋強直性ジストロフィー22.5%

DMRV 1.7%

脊髄性筋萎縮症 5.1%

ミトコンドリア病 2.5%ボンペ病 0.3%

約5700名

筋ジストロフィー臨床試験ネットワークの加盟施設一覧(2013年3月現在)このように加盟施設は全国網羅的に存在しています。

正常な筋細胞

筋ジストロフィーの筋細胞

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30 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 31National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP)

統合的脳画像を用いた多施設共同研究拠点への飛躍

統合的脳画像を用いた多施設共同研究拠点への飛躍脳病態統合イメージングセンター(IBIC)

MRIやPET(Positron Emission Tomography)などを用いた脳画像は精神・神経疾患の病態解明や治療法の開発に必須となってきています。この目的のためには数多くの症例の画像を収集する必要がありますが、撮像機種間差や撮像法などの施設間差を最小限に留めなければ、信頼できるデータは得られません。脳病態統合イメージングセンター(Integrative Brain Imaging Center: IBIC)は、MRIやPETを用いた多施設にわたる画像共同研究ネットワークの中核として飛躍するために、ハードおよびソフト両面の整備を進めています。

ホットラボのGMP化推進

Good Manufacturing Practice(GMP)と は、 医 薬品や医療用具、食品などの安全性を含む品質保証の手段として、工場などの製造設備(ハード)およびその品質管理・製造管理(ソフト)について、事業者が遵守しなければならないことを明確にした基準のことです。このGMP基準がPET検査に用いる標識薬品のホットラボラトリー(ホットラボ)での製造基準に世界的に用いられ始めています。日本でも、GMPに準拠した施設で製造されたPET標識薬品を用いて治験薬の効能評価が始まっており、今後、ますます、臨床治験にPETが応用されていくと考えられています。

GMP準拠施設となるためには、ホットラボのクリーン度を上げるために施設改造を行い、標準作業手順書を作製し遵守するなどの高いハードルがありますが、IBICはNCNPのホットラボをGNP準拠化し、2014年からの運用開始を目指して進めています。

マイクロドーズ試験への準備

マイクロドーズ試験は、動物での薬理動態からヒトでの動態を予測することは困難のため、有害事象が起こらない微量のPET標識候補薬をヒトに投与して臨床治験候補薬を絞ることをいいます。今まで、日本の製薬メーカーは、海外でPETによるマイクロドーズ試験を行ってきました。IBICはGMP準拠のホットラボを整備することにより、国内でのマイクロドーズ試験の拠点になるべく準備を進めます。

図5:コンピュータによる海馬の体積自動測定アルツハイマー病、アルツハイマー病に移行した軽度認知障害、移行しない軽度認知障害、および健常者での海馬の1年間での萎縮率に差異がみられる。萎縮体積はアルツハイマー病でも0.3cc、健常者では0.1cc未満に過ぎない。

図3:歪み補正によるMRI補正目視でも、補正前は歪みが明瞭である。円柱が歪み、ヒト脳でも頭頂部と頚部でゆがんでいる。

図2:J-ADNIでのMRIコアで開発されたMRI補正パイプラインMRIの幾何学的歪みと信号値不均一補正をコンピュータで自動的に行う

図1:PET標識薬品による臨床治験薬の効能評価例)アミロイドPETによるアルツハイマー病根治治療薬の効能評価GMP準拠ホットラボ施設での製造が必要

図4:信号値不均一性補正によるMRI補正補正前の信号値のムラが、補正により改善されている。

J-ADNI、J-ADNI2への参画

本邦における認知症患者数は300万人を超えることが示され、その半数以上はアルツハイマー病によるものと目されていることから、アルツハイマー病に対する根本治療薬の開発は急務といえます。アルツハイマー病の根本治療薬の薬効評価基準の最適化を行うために、アルツハイマー病の病態を忠実に反映するバイオマーカーが切に求められるようになった背景のもと、2008年より健常高齢者、軽度認知障害及びアルツハイマー病の縦断的バイオマーカー研究として世界的に標準化された方法で神経画像を主としたJapanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(J-ADNI)研究が全国38施設で実施されています。また、J-ADNIを引き継ぐJ-ADNI2では、発症前期アルツハイマー病や早期および後期の軽度認知症害患者の縦断的観察が全国41施設で開始されようとしています。IBICは、これらの研究において、MRI研究の中心的役割を果たしています。

多施設共同研究におけるMRI画像解析拠点

J-ADNIでは、縦断的観察において高精度の体積測定法をMRIにより確立することを目指してきました。これは、根本治療薬が海馬などの特定の領域の萎縮を抑えることができるかいなかを客観的に評価するためです。この測定精度は0.1ccレベルが要求されます。ただし、MRIによる体積測定では、MRI特有の幾何学的歪みという問題が大きく立ちはだかります。IBICでは、この歪みを模型を用いて補正する方法を世界に先駆けて確立しました。また、信号値不均一性の補正も自動的に行うことができます。これらの補正により、アルツハイマー病、アルツハイマー病に移行した軽度認知障害、移行しない軽度認知障害、および健常者での海馬の萎縮率を測定し、これらの群で明らかな差異があることを見いだしました。さらにJ-ADNI2では、構造的MRIに加え、安静時の機能的MRIを担当することになり標準的撮像法を設定しました。2013年度からの本格的な研究に向けて、解析体制を整えています。

PET標識薬品による臨床治験薬の薬効評価

PET標識薬品による薬効評価

アミロイドPETによる薬効評価

第Ⅰ~Ⅲ相 臨床治験 承認申請

GMP準拠施設ヒト用PET装置

投与前 投与後

サイクロトロン・ホットラボ(標準化合物製造)

アルツハイマー病 軽度認知障害(アルツハイマー病移行)

軽度認知障害(非移行)

健常者

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32 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 33National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP)

認知行動療法の研修と普及

認知行動療法の研修と普及認知行動療法センター(CBT)

認知行動療法センターでは、認知行動療法を多くの方に活用していただくことを目的として様々な活動に取り組んでいます。これまでに、認知行動療法について一般の市民の方々に広く知っていただく市民講座や、専門家向けの研修を実施してきました。他にも、精神保健福祉分野に限らず、法律や教育などの幅広い分野でも活用していただけるような活動支援や、しっかりとした科学的な裏付けを確認する研究も実施しております。また、海外の先端的な専門機関との連携や情報交換を進めています。

CBTセンターの市民講座

CBTには、考え方や行動を少しずつ変えていくためのコツや方法があります。そのエッセンスをお伝えするのが市民講座です。やる気を出して生活を楽しむコツ、人と上手に接するコツ、うまく発想転換をするコツなど、生活に役立つ方法をCBTの観点からお伝えしています。2012年度は全部で18回、延べ401名の方が参加されました。

認知行動療法とはなんでしょうか?

気分が落ち込んだり、ものごとがうまくいかないとき、「自分なんてだめだなあ…」と考えたり、「もうやめておこう」と行動が起こせなくなったりすることはありませんか?そうした考え(認知)や行動が悪循環すると、ますますつらくなって、どんどん気分が落ち込んでしまうことがあります(右図)。

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:以下CBT)は、そうした考えや行動に目を向けます。そして、それまでとは少しだけ違う考え方や行動をちょっとずつ試してみます。すると、今までとは違う考えかたや、やってみようとも思わなかった行動が、案外自分の役に立つことがあることに気づいたりします。

CBTでは、そのような考えや行動の実験を通して、自分に合った生活の仕方を見つけていきます。一般的には、専門のセラピストと一緒に50分くらい取り組んで、それを毎週16回続けます。CBTはうつや不安などの様々な気分や感情の苦しみを和らげ、自分自身をよく知り、自分なりの折り合いを見つけて生活していく役に立ちます。

専門家への研修講座

CBTセンターでは、精神保健福祉分野で活躍される専門家の方々に向けて、CBTの基本的な実施法から、より高度な最新治療まで、幅広く研修を実施しております。例えば、うつ病や不安障害、統合失調症に対する認知行動療法や、基本的なコミュニケーションスキル研修などがあります。2012年度には32コースの研修が開かれ、延べ1535名が参加しました。当センターの研修情報は、以下のウェブサイトをご参照ください。http://www.ncnp.go.jp/cbt/training.html

考え・気分・行動は影響し合います

悪循環のスパイラル

考えうまくいってない点、悪い点に注目した考え

気分心配、落ち込み、不安、怒り等

行動困難な状況を避ける引きこもる等

❶ ❷

ホームページ上の研修情報 研修テキスト

1:センター長 大野裕 2:2013年9月にボストン大学のバーロウ先生を招聘して研修等を行いました。

宮城県女川町の被災地支援も行っております。研修に参加された方が作成されたCBT理解のための紙芝居です。

市民講座の様子