ノロウイルス感染症の基礎知識 -...

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ノロウイルス感染症の基礎知識 寒く、乾燥した日が続いています。この気候が、ノロウイルスなどの感染を起こしやすい状況を 作っているようです。今冬はノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者さんが、過去 10 年間 で最多だった2006年に次ぐペースで増加しています。今月号では、ICT委員会(感染対策 委員会)の協力のもと、『ノロウイルス感染症の基礎知識』と題して、感染予防の方法を中心に お話をさせていただきます。 ノロウイルスとは・・・ 監修 ICT委員会(感染対策委員会) 1968年にアメリカ オハイオ州ノーウォークという町の 小学校で、急性腸炎が集団発生しました。その患者さんの便 からウイルスが検出され、発見された町の名前から「ノーウ ォークウイルス」と呼ばれていました。また、電子顕微鏡で 観察される形態に由来して、「小型球形ウイルス」とも呼ばれ ていました。 しかし、2002年の夏、国際ウイルス命名委員会によって 「ノロウイルス」という正式名称が決定され、世界で統一さ れて用いられるようになりました。 ノロウイルスの電子顕微鏡写真 ノロウイルスの特徴 乳幼児から高齢者に至る広い年齢層で、急性胃腸炎を引き起こします。 年間を通し発生しますが、特に冬季に多く発生し、飲食物を介して食中毒の原因となる ことがあります。 ノロウイルスが感染、増殖する部位は小腸と考えられ、嘔吐症状が強い時は小腸の内容物 とともにウイルスが逆流し、吐物とともに排泄されます。そのため便と同様に吐物にも 大量のウイルスが存在し、感染源となりますので、その処置には注意が必要です。 ノロウイルスは乾燥すると容易に空中を漂い、吸い込むことで感染することがあります。 吐物や便は乾燥しないうちに速やかに処理し、その後換気を十分に行いましょう。 ノロウイルスはアルコール、高温に対して抵抗力があり、菌が長く生き続けるので、適 切な消毒、処理が大切です。 ノロウイルスには多数の型があり、一度かかってもまた感染する可能性があります。ま た感染力がとても強く、少しのウイルスでも感染します。 感染の経路 感染者の便や吐物から手指を介して感染する場合。 調理など行う人が感染しており、その人を介して汚染された食べ物を摂取した場合。 ウイルスに汚染された貝類(特に二枚貝)を生、もしくは十分に加熱しないで食べた場合。 吐物や便の処理を適切に行わず、そのまま放置をした結果ウイルスが残り、乾燥してホコ リとともに空中に舞い上がり感染する場合。

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  • ノロウイルス感染症の基礎知識

    寒く、乾燥した日が続いています。この気候が、ノロウイルスなどの感染を起こしやすい状況を

    作っているようです。今冬はノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者さんが、過去 10 年間

    で最多だった2006年に次ぐペースで増加しています。今月号では、ICT委員会(感染対策

    委員会)の協力のもと、『ノロウイルス感染症の基礎知識』と題して、感染予防の方法を中心に

    お話をさせていただきます。

    ノロウイルスとは・・・

    監修 ICT委員会(感染対策委員会)

    1968年にアメリカ オハイオ州ノーウォークという町の

    小学校で、急性腸炎が集団発生しました。その患者さんの便

    からウイルスが検出され、発見された町の名前から「ノーウ

    ォークウイルス」と呼ばれていました。また、電子顕微鏡で

    観察される形態に由来して、「小型球形ウイルス」とも呼ばれ

    ていました。

    しかし、2002年の夏、国際ウイルス命名委員会によって

    「ノロウイルス」という正式名称が決定され、世界で統一さ

    れて用いられるようになりました。

    ノロウイルスの電子顕微鏡写真

    ノロウイルスの特徴 乳幼児から高齢者に至る広い年齢層で、急性胃腸炎を引き起こします。 年間を通し発生しますが、特に冬季に多く発生し、飲食物を介して食中毒の原因となる

    ことがあります。

    ノロウイルスが感染、増殖する部位は小腸と考えられ、嘔吐症状が強い時は小腸の内容物とともにウイルスが逆流し、吐物とともに排泄されます。そのため便と同様に吐物にも

    大量のウイルスが存在し、感染源となりますので、その処置には注意が必要です。

    ノロウイルスは乾燥すると容易に空中を漂い、吸い込むことで感染することがあります。吐物や便は乾燥しないうちに速やかに処理し、その後換気を十分に行いましょう。

    ノロウイルスはアルコール、高温に対して抵抗力があり、菌が長く生き続けるので、適切な消毒、処理が大切です。

    ノロウイルスには多数の型があり、一度かかってもまた感染する可能性があります。また感染力がとても強く、少しのウイルスでも感染します。

    感染の経路

    ① 感染者の便や吐物から手指を介して感染する場合。 ② 調理など行う人が感染しており、その人を介して汚染された食べ物を摂取した場合。 ③ ウイルスに汚染された貝類(特に二枚貝)を生、もしくは十分に加熱しないで食べた場合。 ④ 吐物や便の処理を適切に行わず、そのまま放置をした結果ウイルスが残り、乾燥してホコ

    リとともに空中に舞い上がり感染する場合。

  • 潜伏期間 感染から発症までの時間は、24~48時間

    症状

    嘔吐、下痢、腹痛が主症状。

    他に、発熱、悪寒、頭痛、倦怠感など。

    診断方法

    感染予防対策

    治療方法

    臨床症状からだけでは診断はできません。

    患者の便、吐物を用いて遺伝子を検出する方法で行い、診断します。

    有効な抗ウイルス薬はありません。対症療法を行います。

    特に、乳幼児、高齢者は脱水症状をおこしたりしますので、水分、栄養補給を行ってください。

    脱水症状がひどい場合は、病院での補液などの治療が必要になります。

    手洗いを十分しましょう。 トイレの後、おむつ交換の後、食事前、食事を作る前など、必ず

    石鹸で手を洗いましょう。

    食べ物はしっかり加熱しましょう。 吐物や便の処理を行う際は、使い捨てマスク、ガウン、手袋を着

    用し、決して素手で触らないようにしましょう。

    便、吐物の消毒は、ペーパータオルなどで拭き取り、次亜塩素酸で消毒後、水拭きをします。 拭き取った吐物などは、ビニール袋に密閉して破棄してください。その際、ビニール袋の中

    で1000ppm の塩素剤に浸すようにしてください。

    ※ 下記の希釈量を参考にしてください。

    厚生労働省 『ノロウイルス食中毒予防対策リーフレット』より抜粋