ヘリウムの世界需給と日本の調達見通し · 2019-11-15 ·...

ヘリウムの世界需給と日本の調達見通し

2019年11月6日

株式会社ガスレビュー

代表取締役編集長小泉善樹

株式会社ガスレビューの概要

1981年6月設立の工業ガス業界専門誌。足かけ38年に亘り、工業ガスを通じて鉄鋼、化学、エレクトロニクス、自動車エネルギー、医療、食品、環境などの産業動向をレポート。月2回、年間24回発行の「ガスレビュー」をはじめ、工業ガス業界年間誌「ガスジオラマ」、医療ガス、エレクトロニクスガス、水素エネルギーの専門誌を定期刊行。農業、食品向けガス専門誌「ガスが彩る食と農－FLAG-」など多様なガス用途に応じた媒体を刊行。英文媒体「THE GAS REVIEW」年間16冊発刊。

所在地『本社』〒542-0065 大阪市中央区中寺1丁目1番57号新晃会館

『東京情報室』〒105-0004 東京都港区新橋6丁目17番4号第2タナベビル

資本金 1000万円

主要刊行媒体

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http://www.gasreview.co.jp


ハイドリズムガスメディキーナガスジオラマガスレビュー

ス

3



不活性

分子径が小さい

熱伝導率が高い

比熱が高い

軽い

音の電導速度が速い

電離電圧が高くイオン化しにくい

極低温沸点が－269℃

He 不活性で熱伝導率が高くあらゆるガスの中で最も沸点が低いガ

へリウムの特徴

ヘリウムの特徴は？

ヘリウムの物性･特長を生かしたヘリウムの工業用途

• 情報通信・エレクトロニクスなど成長性の高い分野に用途あり

• 超電導・宇宙開発・先端研究開発に不可欠なガス

↓• 経済成長の高い国・地域ほど成長率高い

• アジア・インドでの需要拡大見込まれる

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ヘリウムの用途と需要

5


MRI 73％

低温工学15％

その他12％

液体ヘリウム2018年/２５２万㎥/日本

光ファイバー

19％

半導体18％

リークテスト

18％分析9％

溶接11％

ﾊﾞﾙｰﾝ･

飛行船3%

低温工学1％

その他

21％

ガスヘリウム2018年/７８５万㎥/日本


出典：JIMGA

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株式会社ガスレビュー 6

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1,800

2,000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

ヘリウム販売量推移

ガスヘリウム液ヘリウム


出典：JIMGA万㎥

ヘリウム販売量推移

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１９８０年代後半～２０００年まで年率１０％以上の販売量成長１９９５年に１０００万㎥超光ファイバー生産増、超電導ＭＲＩ導入件数増加

２０００年～２０１０年まで半導体向け需要の増加も高原状態に３００ミリウェーハの冷却用途本格化ＭＲＩ普及一巡

２０１０年以降～現在マイナス成長に転換、ここ７年間はほぼ横ばいで推移半導体前工程ファブの統合・集約冷凍機付きＭＲＩの登場で補充用液ヘリ需要減少調達難から省ヘリウム化、代替ガスへの転換進む


日本のヘリウム輸入商社

海外の輸出元からヘリウムを液体コンテナで輸入し日本国内で販売している

事業者には５社ある。岩谷産業、ＪＨＣ（JAPAN HELIUM CENTER）、日本ヘリウム、

日本エア・リキード、UNION HELIUMの５社であるが、いずれもエアセパレートガス

事業を中心とする日本の大手工業ガスメーカーの系列会社となっている。

岩谷産業日本の工業ガス企業、岩谷産業の一事業

日本エア・リキード工業ガスメジャー、エア・リキードグループの

日本現地法人、日本エア・リキードの事業

ＪＨＣ日本の工業ガストップ企業である大陽日酸系列のヘリウムサプライヤー

輸入は大陽日酸

日本ヘリウム日本の大手工業ガス企業、エア・ウォーター系列のヘリウム輸入商社

UNION HELIUM 日本の工業ガス企業、昭和電工系列ヘリウム輸入商社

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日本のヘリウム事業シェア

岩谷産業５２％

JHC26％

日本ヘリウム１５％

日本AL4％

ユニオンヘリウム3％

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日本へのヘリウム供給の流れ



主なヘリウム供給荷姿

半導体・光ファイバーの大口需要家には、輸入液体コンテナのまま、ユースポイントまで配送

その他用途は、充填所でシリンダー、ガストレーラーに移充填して配送

液体ヘリウムは充填所で小口の液容器に移充填して配送

ガスヘリウム

半導体・光ファイバー輸入液体ヘリウムコンテナ２万㎥＝３３,０００ℓ

リークテストカードル（70～300 ㎥）シリンダー（7 ㎥～10 ㎥）

ガストレーラー（1300 ㎥～3000 ㎥）

分析シリンダー（7 ㎥～10 ㎥）

液体ヘリウム

ＭＲＩ液体容器（３０～１０００ℓ＝20～800 ㎥）

低温工学液体容器（３０～１０００ℓ＝20～800 ㎥）

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工業用ヘリウムの特長

●生産地が限定、米国、中東、アフリカ●希少な天然資源●天然ガス随伴生産の状況はLNGプラントの操業に影響を受ける

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全量輸入で希少資源であるが故に過去にも

幾度となくヘリウムタイト発生

２００２年米国西海岸港湾閉鎖によるタイト化

20０２年９月２９日～１０月９日まで米国西海岸の主力２９港がロックアウト。ヘリウム以外にも

多くの製品の輸出がストップ。日本向けヘリウム輸出が約１か月遅れる。

２００７年米国ヘリウム生産設備トラブルに伴うタイト化

ＢＬＭパイプラインの故障、エクソンモービルの精製プラント修理が重なりヘリウム出荷元

企業がフォースマジョールを発動、世界規模でヘリウム供給力低下。

２０１１年ヘリウム生産設備トラブルに伴うタイト化

ＢＬＭ及びエクソンモービルのトラブルが重なり、供給タイト化に進展。

２０１２年～２０１３年初頭のタイト化

ＢＬＭ、エクソンモービルの定修とトラブルが重なる。ロサンゼルス港で港湾ストライキ。

東京ディズニーランドのヘリウム風船販売休止、日本の半導体、光ファイバーメーカーも

ヘリウムの希少性を痛感。省ヘリウム化、代替ガスへの転換促す。

２０１７年夏、カタール断交に伴う船便の遅れ

２０１７年６月のアラブ諸国によるカタール断交の影響で、カタールからの船便に遅れが発生。

供給タイトにはつながっていないが、通常３０日で日本に届くコンテナが４５日～５０日掛かることに。 13


今回のヘリウム需要とタイト化の原因

これまでとは違う構造的要因によるタイト化

従来：プラントトラブル、定修の長期化、港湾ストライキなど作業の遅延

局所的問題

今回：世界需要の伸びに対して供給力の増加がなく、

供給余力の減少によるタイト化

↓

世界の需給構造の変化が原因

すなわち、供給力が増加しない限り、根本的な問題は解決しない

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今回のヘリウム需給タイト化の具体的な原因

供給サイド 2013年の中東カタールⅡプロジェクト以降、新たな生産プロジェクトが無い。

2019年稼働予定のカタールⅢプロジェクト(1,200万㎥/年)、事故で遅れる。

世界生産シェアの30％の生産量(5,600万㎥/年)を担っていた米国ＢＬＭの

民間へのヘリウム払い出し終了（2020年）

アルジェリアの2つのヘリウムプラント、原料ガス不足で生産力低下(2018年)

米国エクソンヘリウムプラント定修（2019年夏）

需要サイドアジア・インドでのヘリウム需要拡大

半導体、光ファイバー、ＭＲＩの３大用途が、アジアを中心に需要拡大

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２０２１年以降ロシア、シベリアでの新たなヘリウム生産プロジェクト

第一フェーズ2,000万㎥／年、最終6,000万㎥／年スタート予定

遅れていたカタールⅢプロジェクト1,200万㎥／年スタート予定

上記、二つのプロジェクトが遅延なく順調に稼働すれば、それ以降、量的な不足感は

世界規模で回復に向かう。但し、日本への供給価格、すなわち調達コストは高止まり

する可能性がある。

理由：過去から新プラント稼働も日本の輸入価格は上昇トレンドにあった

ＢＬＭは、１９５０年代までに採掘した粗ヘリウムを利用していた。

これからの新プロジェクトはいずれもインフラ開発コストが価格に上乗せになる。

供給力増加も、開発コストが上乗せになるため、日本への調達価格は下がらない

予想がある。

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今回のヘリウム需給タイト化の今後の見通しヘリウムの世界需給と日本の調達見通し


CIF単価(円/Kg/年)


ヘリウムＣＩＦ単価推移

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

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出典：貿易統計

年円

調達価格増への対応策

そこで日本のヘリウム事業者が事業継続のために行っている具体的な対策

販売価格の値上げ

輸入商社卸し段階で２０～２５％の価格改定、２０１９年年初から実施。但し、世界の供給力に余裕が出て

くれば再び需給が緩み、国内販売価格が下がる懸念。

液移充填の効率化

輸入液体ヘリウムコンテナの内圧調整を行うヘリウム充填所の集約化。ボイルオフガスの有効利用。

液移充填のガスを回収して、貴重なヘリウムを余すことなく使い切る

海外の井戸元への権益拡大

調達の安定化のため井戸元への権益拡大大陽日酸ロシアオーストラリア

岩谷産業カタール

その他企業も複数のソースから調達図る

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調達難への対応策ユーザサイド

液体ヘリウムボイルオフ後のガスを回収、再液化を行う。

ガスヘリウム代替ガスへの転換省ヘリウム化の推進

光ファイバー製造雰囲気ガスをアルゴンに転換

リークテスト水素への代替

ヘリウム混合比率の低下

半導体不純物が多く、排ガスからの精製・回収困難

精製技術の開発

ヘリウムは国力の源泉となる成長産業、先端技術開発に欠かせないガス

戦略物資として国家備蓄についても考えていくべき

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ご清聴有難うございました


代表取締役編集長小泉善樹

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