アレルギーの臨床 2011年12月号 (立ち読み)アレルギーの臨床31(13), 2011 (1143)...

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◆特集/局所ステロイド治療−最新の話題−◆

22 (1142) アレルギーの臨床31(13), 2011

はじめに

気管支喘息の基本的病態は慢性の気道炎症で あ り , 吸 入 ス テ ロ イ ド ( InhaledCorticosteroids: ICS)は軽症から重症まですべての喘息患者にとって長時管理の第 1選択薬として位置づけられている 1)。ICSは気道に起きているアレルギー性炎症をターゲットに局所的に作用し,全身性の副作用を極力回避

するよう開発された抗喘息薬である。わが国では喘息治療における ICSの本格的な導入は欧米と比べてかなり遅れていたが,1990年代後半より新たな ICS製剤が次々に登場し,その普及とともに喘息の治療状況は改善してきている。その背景には,気道局所に強力な抗炎症作用を発揮する薬剤の開発だけでなく,吸入方法が簡便で吸入効率が改良されたデバイスの開発が大きく影響している。さらに,最近では ICSに長時間作用性β 2 刺激薬

(Long-Acting Beta2-Agonist: LABA)を配合した薬剤(配合剤)が登場し,次第にその使用が普及しつつある。そのような中で,医師は個々の患者にとって適切な ICS 製剤を選択し,正しい使い方を指導することが求められている。

1. 吸入ステロイドの種類と特徴

わが国で喘息治療薬として使用できる ICSに は 2 ), ベ ク ロ メ タ ゾ ン プ ロ ピ オ ン 酸

(Beclomethasone Dipronionate: BDP),フルチカゾンプロピオン酸(Fluticasone Propironate:FP),ブデソニド(Budesonide: BUD),シクレソニド(Ciclesonide: CIC),モメタゾンフランカルボン酸(Monetasone Furoate: MF)の 5 種 類 (表 1), LABA と の 配 合 剤 に はFP+サルモテロール(SFC)と BUD+ホルモテロール(FBC)の 2種類(表2)があり,

2 吸入ステロイドの選択と使用法−成人−Choice and use of inhaled corticosteroids foradult asthma

Key words :吸入ステロイド,pMDI 製剤,DPI 製剤,配合剤,粒子径

国立国際医療研究センター 呼吸器内科

小林こばやし

信之のぶゆき

Abstract

吸入ステロイドは成人喘息の長期管理薬として普及してきているが,その種類も多くなり,吸入ステロイドは使う時代から選ぶ時代へと移りつつある。現在,わが国で使用可能な吸入ステロイドは5種類,長時間作用性β2

刺激薬との配合剤は2種類あるが,それぞれの薬剤の作用強度,粒子径,薬物動態および吸入デバイスの特徴を正しく理解したうえで,患者の状態に適した薬剤を選択する必要がある。薬剤の副作用,患者の好み,アドヒアランス,吸入手技もICSの効果を左右する重要な因子となる。正しい吸入ができているかどうか,診察時に確認し指導することも忘れてはならない。

小林 信之1979年東京大学医学部医学科卒業。'81年同大物療内科入局後,日本赤十字社医療センター呼吸器内科,国立相模原病院リウマチ科,米国 NIH,NHLBI,PulmonaryBranch留学を経て,'94年国立国際医療センター呼吸器科病棟医長,2010年より国立国際医療研究センター呼吸器内科医長

(科長)。専門は呼吸器アレルギー・感染症、抗酸菌感染症。

◆特集/局所ステロイド治療−最新の話題−◆

アレルギーの臨床31(13), 2011 (1143) 23

いずれも成人喘息に適応となっている。一方,吸入方法で分類すると,加圧噴霧式定量吸入製剤(pressured Metered-Dose Inhaler:pMDI)とドライパウダー製剤(Dry PowderInhaler: DPI)の2種類に分けられるが,最近,ネブライザーとしてのブデソニド懸濁液が成人にも適応となった。1)pMDI製剤(表1)

pMDI製剤では噴射剤によりエアゾル化した粒子が吸入により気道へ到達するが,噴射剤として代替フロンであるハイドロフルオロカーボン(HFA)を用いている。pMDI製剤としては,BDP-HFA(キュバールⓇ),CIC-HFA(オルベスコⓇ),FP-HFA(フルタイドⓇエアゾール)の 3種類があるが,その特徴としてエアゾル化した粒子径が小さく,末梢気道まで薬物が到達すること,吸入速度が低くても吸入が可能であることがあげ

られる。気管支喘息の気道炎症は中枢気道から末梢気道(内径が 2mm以下の気管支)に至るまで存在するため,気道炎症をコントロールするには,ICSが炎症部位全体に効率よく到達し沈着する必要がある。そのためにはエアゾル化した薬剤の粒子径が重要な因子であり 3),粒子径が 0.8〜 5μ mの大きさのものが ICS 吸入療法に適しているとされている。このうち,0.8〜3μmの大きさの粒子は末梢気道から肺実質に到達し,それ以下の大きさになると呼気時に呼出されてしまう割合が高くなる。一方,粒子径が 5μ m以上の大きな粒子は口腔から咽頭,喉頭に沈着する率が高くなる。上記の pMDIでは末梢までの気道到達率は高く,末梢気道における炎症の制御に効果的とされている。また,上気道への沈着する割合が低いので,嗄声や口腔カンジダ症などの局所の副作用は DPIに比べて少な

表1 成人喘息で使用できる5種類の吸入ステロイド(単剤)

*フルタイドⓇディスカスのほかに,フルタイドⓇロタディスク(DPI,1998年発売),フルタイドⓇエアー(pMDI,粒子径2.8μm,肺沈着率29%,2008年発売)が使用できる。

** GR(グルココルチコイド受容体)親和性はデキサメサゾンを100とした場合の相対的親和性

50 (1170) アレルギーの臨床31(13), 2011

はじめに

扁平苔癬(lichen planus)は,小豆大から大豆

大までの扁平な丘疹を呈し,個疹は淡紅色か

ら紫紅色の色調の,表面にわずかな鱗屑を有

する炎症性角化症である。粘膜部では白色網

状,爪部では爪甲?離,縦溝などの症状とな

る 1)。病因は,原因不明の特発性のものと薬

剤誘発性(扁平苔癬型薬疹 lichenoid drug

eruption)のものがある。今回,我々は抗結

核薬による扁平苔癬型薬疹と考えられた症例

を経験したので報告する。

1. 症例

患者:52歳 女性

主訴:頚部,上背部を主体とした落屑性紫紅

色局面

既往歴:特記事項なし

家族歴:特記事項なし

現病歴: 2009年 4月,近医にて胸部レントゲ

ンで異常陰影を指摘された。肺結核の診断で

4月 24日より慈恵医大第三病院呼吸器内科で

入院し,RFP,INH,EB,PZA,VitB6の内服

を開始された。投与 3カ月後の 7月頃から頚

部,上背部に落屑性紫紅色局面が出現した。

なお PZAは 4月〜 7月までの 3カ月投与で終

了し,PZA以外の薬剤はそれ以降も継続され

た。皮膚症状に対し,同院皮膚科でステロイ

ド外用治療を開始し,10月には皮膚症状は一

時改善した。10月以降は慈恵医大青戸病院呼

吸器内科へ転院となり,引き続き同薬剤が継

続投与された。翌年 1月になり皮疹の増悪が

みられたため当科受診となった。

現症:大小不同の癒合傾向を示す落屑性紫紅

症例報告<皮膚科>

Abstract

52歳,女性。肺結核により 2009年 4月か

らリファンピシン(RFP),イソニアジド

(INH),エタンブトール(EB),ピラジナミ

ド(PZA),VitB6の内服を開始。7月頃から

頚部,上背部を主体に落屑性紫紅色局面が出

現。ステロイド外用薬で一時症状が改善した

が,翌年1月に増悪。皮膚生検で,真皮上層

の帯状リンパ球浸潤,基底層の空胞変性や液

状変性を認めた。抗結核薬終了後,急速に皮

疹は軽快。臨床経過と病理組織所見より抗結

核薬による扁平苔癬型薬疹と考えた。

梶井か じ い

崇行たかゆき

・石氏いしうじ

陽三ようぞう

本田ほ ん だ

まりこ・中川なかがわ

秀己ひ で み

抗結核薬が原因と考えられた扁平苔癬型薬疹の1例A case of lichenoid drug eruption associatedwith antituberculotic.

Key words:扁平苔癬型薬疹,特発性扁平苔癬

東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座

梶井 崇行2006年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。初期臨床研修終了後,'08年慈恵医大皮膚科学講座助教。現在,同大学附属病院皮膚科にて診療.専門外来であるパッチテスト外来では,薬疹を初めとしたアレルギー疾患の診断をしている。

症例報告<皮膚科>

アレルギーの臨床31(13), 2011 (1171) 51

色局面を頚部,上背部を主体に体幹,四肢に

左右対称性に認めた(図1)。特に両手背の皮

疹は角化が著名であった。なお,口腔内の粘

膜疹はみられなかった。

一般検査所見:特に異常所見を認めなかっ

た。

病理組織学的所見:左上背部の皮疹より皮膚

生検を施行した。 HE(ヘマトキシリン・エ

オジン)染色では,角質増生と不全角化を認

め,表皮は不規則な肥厚と一部海綿状浮腫が

みられた。顆粒層は菲薄化または欠損し,真

皮上層の帯状リンパ球浸潤,基底層の空砲変

性,組織学的色素失調を認めた。表皮内と真

皮上層ともにリンパ球,好酸球の浸潤を認め

た(図2)。

経過:臨床と病理組織より抗結核薬による扁

平苔癬型薬疹を疑った。皮疹に対する治療は

抗ヒスタミン薬の内服とステロイド(very

strong class)の外用を行い,抗結核薬の投与

は,皮膚以外の合併症がなく,残り 2カ月で

あったために継続した。肺結核に対する抗結

核 薬 の 治 療 は , 合 計 10 カ 月 間 継 続 さ れ ,

2010年3月に投与を終了した。投与中止後に,

急速に皮疹は軽快し,約 2週間でほぼ色素沈

着となった。以上の経過より抗結核薬による

扁平苔癬型薬疹と考えた。なお DLST(薬剤

添加リンパ球刺激試験)では RFP,INH,

EB いずれも陰性であった。パッチテスト,

内服テストは患者の同意を得られず実施し

ていない。

2. 考察

扁平苔癬は炎症生角化症の一つで何らかの

誘因により,リンパ球が表皮基底細胞層に傷

害をもたらすことにより発症すると考えられ

ている。このため,表皮細胞の増殖は低下し,

ターンオーバー時間が延長する。病理組織像

はこの病態を反映し 2),(a)緊密な不全角化の

ない角質増生,(b)顆粒層の所々の楔状肥厚,

(c)表皮のやや不規則な肥厚,(d)基底層の液

状変性,(e)表皮直下の帯状リンパ球浸潤,

の 5つを重要所見とする 3)。さらに組織学的

色素失調,変性した表皮細胞(コロイド小体)

図1 皮疹は上背部と手背に目立つ。体幹と四肢に対称性に分布する。

54 (1174) アレルギーの臨床31(13), 2011

先 端 医 学 講 座

徳田と く だ

玲子れ い こ

1)・藤澤ふじさわ

隆夫た か お

2)

Key words : 口 腔 ア レ ル ギ ー 症 候 群 ( oral allergysyndrome ),クラス1食物アレルギー(class 1 food allergy),クラス 2食物アレルギー(class 2 food allergy),好塩基球活性化試験(Basophil activation test: BAT)

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果物・野菜アレルギーの診断のための好塩基球活性化マーカーCD203c発現定量法Basophil activation test CD203c for diagnoses of fruitand vegetables allergy

1)国立病院機構三重病院 臨床研究部2)同研究部,臨床研究部長

Abstract

近年,増加増加している果物や野菜に対す

るアレルギーは,アレルゲンの種類が多岐に

亘る為,診断的検査は確立していない。有用

性を認める Skin test(Prick to Prick test)も,

多種類の新鮮な抗原を用意する困難さ,施行

方法の煩雑さが問題となる。我々は果物・野

菜 抗 原 に よ る 好 塩 基 球 活 性 化 マ ー カ ー

CD203c 発現定量検査(Basophil Activation

Test ; BAT)を確立し,その診断有用性につい

て検討を行なっている。その検討中の結果を

ここに紹介する。

はじめに

好塩基球は末梢血白血球の 1%前後を占め

るに過ぎない細胞ながら,特異的 IgE抗体を結

合しているという点で末梢血中もっとも多数

を占める抗原特異細胞である。これを利用し

て,好塩基球を ex vivoで抗原と反応させてそ

の活性化レベルを定量する検査が好塩基球活

性化試験(Basophil Activation Test: BAT)であ

るが,感作のみならず,細胞自体の反応性も

評価するため,実際に生体でおこる反応すな

わち最終診断法である負荷試験により近いこ

とが期待される。BATの中では,CD203c発現

定量が Allergenicity kit(Beckman coulter 社)を

用いることによって比較的簡便に行うことが

できるため,現在最もデータが集積しつつあ

る 1)-3)。

我々は好塩基球活性化マーカー CD203cを利

用した新しい食物アレルギー診断検査の有用

性を検討し,卵・乳・小麦などの抗原刺激で

特異的 IgE抗体(CAP-RAST)同等ならびにそ

れ以上の診断性能を有することを確認してい

る 4)5)。今回,果物・野菜アレルギーの診断の

ためのBATの有用性について紹介する。

1. 果物・野菜アレルギーの特徴

原因食物の感作経路の特徴を踏まえ,従来

の経腸管感作から生じる食物アレルギーをク

ラス 1食物アレルギー,経気道感作などから

生じる食物アレルギーはクラス 2食物アレル

徳田 玲子1994年藤田保健衛生大学卒業,同大学小児科入局,2000年藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院小児科,'01年藤田保健衛生大学大学院修了,'05年徳田ファミリークリニック,国立病院機構三重病院臨床研究部。専門分野:食物アレルギー,抗原分析。