ワークスタイル変革でつまづく5つの原因 乗り越えて成功に導く秘訣...

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1/6 ページ http://www.fujitsu.com/jp/innovation/workstyle/ ホワイトペーパー ワークスタイル変革 ワークスタイル変革でつまづく5つの原因 乗り越えて成功に導く秘訣とは? 国を挙げて「生産性向上」と「長時間労働の是正」が叫ばれる中、ワークスタイル変革は企業が最優先で取り組むべき課題となっ ている。しかしワークスタイル変革を推進した企業のなかには残念な結果に終わっているところも少なくない。「失敗しない ワークスタイル変革」には何が必要なのか。事例を基に、ワークスタイル変革を阻む5つの理由をひも解き、その解決策を探る。

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ホワイトペーパー ワークスタイル変革

ワークスタイル変革でつまづく5つの原因乗り越えて成功に導く秘訣とは?

国を挙げて「生産性向上」と「長時間労働の是正」が叫ばれる中、ワークスタイル変革は企業が最優先で取り組むべき課題となっている。しかしワークスタイル変革を推進した企業のなかには残念な結果に終わっているところも少なくない。「失敗しないワークスタイル変革」には何が必要なのか。事例を基に、ワークスタイル変革を阻む5つの理由をひも解き、その解決策を探る。

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 日本の時間当たり労働生産性は、OECD加盟 35カ国のなか

で 20 位。主要先進 7 カ国の中では最下位の状況が続いてい

る――。日本生産性本部が 2016 年 12 月に発表した『労働生

産性の国際比較 2016 年版』 は、またも残念な結果に終わっ

た。企業はこれまでもワークスタイル変革を通じた生産性の

向上に取り組んできたが、この結果を見る限り成功している

とは言い難い。デジタル化に伴うビジネス環境の急速な変化

への対応、グローバル対応、企業の社会貢献力の向上といっ

た経営課題は未だに解決できていない。

 しかしワークスタイル変革は待ったなしだ。政府も重要政

策として「働き方改革」を打ち出し、2016 年 9 月には「働き方

改革担当大臣」を設置した。長時間労働が社会問題化する中、

多くの企業がワークスタイル変革の取り組みを加速させてい

る。在宅勤務など社外で仕事ができるテレワーク、社内の席

を固定させないフリーアドレス、スマートデバイスや IoT(モ

ノのインターネット)を活用した現場業務変革など、様々な

取り組みを進めている。

 だがその行く手は必ずしも順風満帆ではない。高い志を

持って始めたはずが、残念な結果に終わった事例も少なくな

い。例えばこんな具合だ。

事例1.在宅勤務制度があるのに、誰も使わない  子育て中の社員などを支援すべく、在宅勤務制度を導入

した A社。ところが利用者は年 10 人程度で、そのほとんどが

人事部の所属。「なぜ使わないのか」を社員に聞いたところ、

「1 日単位では取得しにくい。時間単位か、せめて半日単位な

ら気軽に取れるのに」「上司が在宅勤務にいい顔をしない」と

いった意見が数多く出た。制度設計に加え、管理職の意識に

も問題があるようだ――。

事例2.フリーアドレスにしたのに結局席が固定してしまう B社はオフィスの移転を機に、全面フリーアドレス化に踏

み切った。社員が固定席に縛られず、毎日席を変え、別の部

署の人と隣同士で仕事をすることで、部門の壁を越えたコ

ミュニケーションを活性化させようと試みた。それによっ

て、アイデアの創出や発想の転換を促す狙いがあった。

 ところが数カ月たつと、部署ごとに集まって毎日同じ席に

座る現象がみられるようになった。上司は「部下に目が届か

ないと仕事が遅れる」と言い訳し、部下は「机に資料や備品を

置きたいので、毎日席を変えるのは面倒」と口をとがらす。フ

リーアドレスを推進した人事部も、「生産性が阻害される」と

いう現場からの抵抗には逆らえず、実質的な固定席に逆戻り

してしまった。

事例3.スマートデバイスで「直行直帰」のはずが、毎日会社に戻ってくる C社は営業担当者全員にタブレットを配布。社外からメー

ルを読んだり、社内システムにアクセスして売り上げなど

のデータを確認したりできる環境を整えた。直行直帰を推進

し、できるだけ多くの取引先を回ってもらうためだ。

 ところが実際には、多くの社員が営業日報を書くために夕

方に会社に戻っていた。タブレットにも日報作成機能はある

が、文章入力は会社のパソコンの方が便利だからだ。「上司

や同僚に相談するのも、メールより直接会う方が早い」と言

う社員も多かった。直行直帰を推進する営業部門のトップは

苦い顔だ。

事例4.経営層がワークスタイル変革の費用対効果を判断できない D社の人事部門は、オフィス以外で仕事ができるテレワー

クの導入を経営会議に諮った。通勤時間の削減による生産性

向上に加え、「災害で本社が被災しても、自宅などで業務を続

けられるBCP(事業継続計画)にもなる」と説明した。

 ところがそれを聞いた役員陣からは ROI(投資対効果)に

ついての質問が次々に飛び出した。「通勤時間をどの程度削

減できるのか」「BCPといっても、今後 5 年以内に大震災が起

こって本社が被災する可能性はどの程度あるのか」――。こ

の問いに答えるには様々な試算が必要で、時間がかかる。

「自宅で仕事をすると、会社でやるより生産性が落ちるので

は」と強硬に主張する役員もいて、客観的に論破するのは難

しそうだ。人事部門のメンバーのモチベーションは下がり、

「無理してやらなくてもいいか」といった諦めムードが漂って

いる。

5つの「ない」がワークスタイル変革を阻害

 なぜこんな事態になるのだろうか。背景にはワークスタイ

ル変革を巡る5つの「ない」が隠れている。

①目的がない(または目的が現場まで共有できていないか

二兎、三兎を追っている)

 「競合他社もワークスタイル変革に取り組んでいる。わが

社もやらねば!」。ここまで主体性のない例はそう多くはな

いだろうが、ワークスタイル変革が一種のブームとなるな

か、自社にとっての必要性や意義を十分精査しないままに、

変革の旗を振る企業や部門のトップもいる。「何のためにや

るのか」が曖昧な改革は、必然性を失い、抵抗に遭うと頓挫し

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絡・相談といったコミュニケーションにまで踏み込んで詳細

に理解したうえで、改善策を探る必要がある。

④気配りがない

 長期的には生産性や働きやすさの向上といった成果が生ま

れるとしても、これまでなじんでいたワークスタイルを変え

るのは当事者である社員には負担になる。成果を急いで矢継

ぎ早に改革を急ぐのではなく、導入 -定着 -成果創出のサイク

ルをにらみながら、できるだけ現場の負担を減らす長期的な

計画策定が必要となる。

⑤ワークスタイル変革のビジョンがない(もしくはビジョン

が共有されていない、ストーリー化されていない)

 1~4に挙げた問題の根本原因ともいえるのがこれだ。5 年

後、10 年後を見据え、どんな会社や職場を作りたいのか。そ

のためにどんな変革が必要なのか。こうしたビジョンを明ら

かにしないままに、行き当たりばったりで、はやりのワーク

スタイルを導入すると、実装過程で様々なひずみが生じる。

経営トップや職場のリーダーがビジョンを持っていても、そ

れを総務や人事、ICT部門、現場の社員などが共有できていな

ければ同じ問題が起こる。

 とはいえビジョンを作って共有するプロセスは、簡単には

作れない。概念的なコンセプトは、ともすれば“浅い”言葉の

羅列に終わってしまう。

 そこで、ビジョンの策定と共有を支援する場の一つとし

て、富士通が運営する「共創ワークショップ」を紹介しよう。

このワークショップには、ワークスタイル変革を検討する

企業の経営者や様々な部門の担当者が参加する。複数のメン

バーで目指したい姿を検討し、価値観を共有して目指す方向

性をビジョンとしてまとめる。

 富士通は共創ワークショップを、現場の声や自社の強みを

生かして、自分たちに合った効果的なワークスタイル変革を

推進できるよう促す場と位置づけている。ワークショップの

参加者は、ビジョンを共有するプロセスを通じて、部門を越え

て同じ方向性で協力することを体験する。それがワークスタ

イル変革プロジェクトを実践するフェーズにも生きるのだ。

500パターンのワークスタイル変革、自分にササルのは?

 ではそのワークショップ はどのように行われるのだろ

うか。東京・浜松町の高層ビル にある「FUJ I TSU D ig i ta l

Transformation Center(DTC、富士通デジタル・トランス

フォーメーション・センター)の共創ワークショップ空間の

やすい。あるいはトップが明確な目的意識を持っていても、

現場にまでそれが共有されていなければ同じ結果となる。

 目的が複数ある場合も失敗しやすい。「生産性が上がって

社員が働きやすくなり、社員の創造性も刺激される」。こんな

成果が“結果的に”生まれればありがたいが、最初から二兎も

三兎も追うと、優先すべき課題が見えなくなってしまう。事

例 2はその典型だ。社員の創造性が発揮されやすい環境作り

を目的にフリーアドレスを導入したのに、生産性が一時的に

下がると諦めてしまうというわけだ。

②意識が変わらない

 「新しい革袋に古い酒を入れるな」の故事の通り、せっかく

ワークスタイル変革を進めても社員の意識が以前のままでは

成果が生まれにくい。事例 1の在宅勤務の失敗もそこに起因

している。「上司と部下が毎日顔を合わせない」という新しい

ワークスタイルにおいては、上司は新しいマネジメントスタ

イルの確立が不可欠となる。単に働く場所が変わるのではな

く、マネジメント手法も変えなくてはいけない。その意識を

醸成する仕掛けが必要だ。

③現場が分かっていない

 ワークスタイル変革の企画は、人事や総務、ICTなどの部

門が担うケースが多い。ただし現場の実情や本当の悩みが分

からないまま、世にある改革手法を適用しようとしてもミス

マッチが生じるのは想像に難くない。

 事例 3では、営業担当者の業務プロセスを十分に理解しな

いまま、「タブレットがあれば社外でも仕事ができる」と押し

切ったためにうまくいかなかった。「現場の仕事はどのよう

に流れているのか」を、作業プロセスだけでなく、報告・連

富士通株式会社モバイルビジネス推進統括部第一ビジネス部シニアマネージャー松本 国一

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専用スタジオにお邪魔した。

 共創ワークショップが開催されるスタジオのドアを開け

ると、壁いっぱいに広がる大型ディスプレーが視界に飛び込

んで来る。ディスプレー上には無数の「インスピレーション

カード」が並ぶ。「お仕事アプリダッシュボード」「ガマンメー

ター」などワークスタイル変革のアイデアが、イラスト化さ

れた、別名「ひらめきカード」だ。

 「富士通が 7000 社のお客様への ICT導入実績に基づいて、

ワークスタイル変革のソリューションをイラスト化して、直

感的に分かるようにしたものです。実際にソリューション化

されたものも、アイデア段階のものもあります」と説明する

のは、富士通モバイルビジネス推進統括部 第一ビジネス部

シニアマネージャーの松本国一。共創ワークショップのファ

シリテーターを務める機会も多い。

 インスピレーションカードは、ワークショップで活用する

富士通ソーシアルサイエンスラボラトリのプラットフォーム

「Webコア Innovation Suite」の中核ツールとなる。このプ

ラットフォームはグループでの共創活動を支援するもの。ホ

ワイトボードや付せん紙などを使ったアイデア出しやその整

理をデジタル化し、デザイン思考に基づいて「将来のありた

い姿」から「具体的な施策」を導き出す。開発には富士通ソー

シアルサイエンスラボラトリのほか、富士通や富士通デザイ

ン、富士通総研などが関わっている。

 全部で500枚あるというインスピレーションカードはユラ

ユラと小刻みに震えながら、ディスプレイ上をゆったりと一

方向に流れていく。視点を一カ所に固定せず、多くのカード

が視界に入るようにするための工夫だ。

 「気になるカードを選んで長押ししてみてください」。松本

の言葉に従って、「お仕事アプリダッシュボード」のカードに

指先を触れると、表示が拡大。同時に「ヒュルン」という電子

音と共に、カードが飛んだ(ように見えた)。気づくと、もう

一方の壁の電子白板にそのカードが表示されている。

カードをベースに仕事の課題を深掘り

 ワークショップの参加者がそれぞれ気になるカードを選

ぶと、電子白板に表示される。ここからがワークショップの

本番。そしてファシリテーターの出番だ。

 「お仕事アプリダッシュボードを選んだんですね。どんな

ふうに使えると思ったのですか」。松本の質問に答える。

 「やらなきゃいけない仕事のタスク整理に使えるかなあと」

 「なるほど。普段はどうやってタスクを整理していますか」

 「締め切りの決まっているものは手帳に書き、飛び込みの

仕事は付箋にメモして終わったものから捨てているんです

が、付箋がなくなってしまうこともあって…」

隣から同僚が「机が散らかってるからだよ」と冷やかす。

 松本の質問は続く。「タスクは全部自分でやるんですか。

人に振ることも?」

 「同じ職場の人に頼むこともあります。お願いのメールを

出したり」

 「タスクを書き出してから、お願いのメールを書くんですか」

 「そうです。結構面倒くさいこともあります」

松本との対話を通して、自分の仕事の仕方や問題が明らかに

なっていく。

 インスピレーションカードを使うことで、仕事の課題が洗

い出しやすくなる。「いきなり『仕事で困っていることはあり

大型ディスプレーに500枚のインスピレーションカードが並ぶ ユーモラスなイラストに「雑談トークショー」など奇抜なタイトルが付いている)

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提案をしてもうまくいかないという。現場の社員には「今、

付箋でやっている面倒な作業を ICTで効率化する」というイ

メージが浮かばないため、ツールを入れても使い方が分から

ないからだ。インスピレーションカードをベースにファシリ

テーターが対話を通じて問題意識を深掘りし、「××につい

て本当に困っている」というイメージを共有することが有効

なのだ。

 ファシリテーターはワークショップの参加者一人ひとり

と、こうした対話を繰り返していく。ここでのポイントは、

全員が同じ数ずつインスピレーションカードを選ぶこと。特

定の人が多数のカードを選ばないようにすることで、経営

トップや管理職など「声の大きい人」の意見だけが前面に出

ることを防げる。

ませんか』と聞いても、すぐ答えられる人は少ないでしょう。

インスピレーションカードというある程度形ができているも

のを使うから、『こうなったらいいな』というイメージを作っ

たり、そこから逆算して今の仕事の課題を浮かび上がらせた

りしやすくなります」(松本)。

 ファシリテーターとのやり取りを、一緒にワークショップ

に参加したメンバーに聞いてもらうことにも意味があるとい

う。「自分も同じような悩みを抱えている」という人が多けれ

ば、「タスクの管理と、仕事の割り振りに伴うコミュニケー

ションの改善」はそれなりに効果が見込めることが見えてく

る。そしてその問題意識を全員で共有できる。

 こうしたやり取りをしないままに、ICT企業が「To-doリス

トをデジタル化する ICTツールを導入しませんか」といった

電子黒板上でカードをグル―ピング 時系列でカードを整理

気になるインスピレーションカードを長押し 次の瞬間別の画面に飛んでいる

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※このコンテンツは2017年2月にTechTargetジャパンに掲載したものです。

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ホワイトペーパー ワークスタイル変革

Copyright 2017 FUJITSU LIMITED

をどう使うか」に意識が向きがちだ。「具体的な商品やサービ

スをいったん忘れて、皆さんが本当に困っているものに迫る

のがこの場なのです。現場の人がここで自由に発想して困っ

ていることを話す。それを ICTだけでなく、総務や人事の人が

聞いて、使う立場からワークスタイル変革をデザインする場

になればと思っています」と話す松本は、ワークショップに

是非参加してほしい人として経営トップを挙げる。

 ICTや人事、総務部門などがワークスタイル変革を導入す

るに当たって、論点となるのが費用対効果。ワークスタイル

変革への投資をどう回収するかを正確に予測するのは難し

い。結果、「経営層が費用対効果を判断できないからワークス

タイル変革は先送り」という話になりかねない。

 「ワークショップ で経営層が現場の今の悩みを直接聞け

ば、『解決しなくてはいけない』という意識が高まります。忙

しい経営者は、現場に足を運んで悩みを聞き取るのが難し

い。ここでの 2 時間のワークショップが、現場の『困った』の

片鱗を感じてもらう機会になればと感じています」と松本。

 経営者を含め、ワークスタイル変革に携わる人が、ビジョ

ンを考え共有し、そこを起点に長期的な計画を練っていく。

こうした土台ができれば、ワークスタイル変革を阻害する 5

つの「ない」を解消することができるはずだ。

「3年後はこうなりたい」、では今やるべきことは?

 次に電子白板上でカードをグル―ピングする作業に移る。

仕事をする場所などの切り口で、選んだカードがどこで使え

るかを考えていく。使える場所が多いものほど、インフラと

して使い道が広いといったことが見える化されていく。

 続いて時系列にカードを並べる。将来のなりたい姿が整理

できればワークスタイル変革のストーリーが見え、優先的に

取り組むべき課題が分かる。

 実際のワークショップでは、すぐ着手できる個人のワーク

スタイル変革を直近に、組織全体の課題を未来の課題に位置

付ける例が多いという。テレワークなど勤務形態の変更を伴

うものは未来課題となりがちだが、「2020 年に実現するな

ら、2018 年には人事部門と ICT部門の協議を始めなくては」

といったマイルストーンが見えてくる。

 時系列に整理するもう一つのメリットは、長期的な課題を

実現するために、直近に取り組むべき課題の優先順位が付け

られることだ。例えばテレワークを将来の課題と位置づけ

るなら、「そのとき会議はどうする?」といった疑問が出て

くる。今は議事録を紙で回覧して判子を押しているが、それ

ではテレワークで使えない。「ならばまず、議事録の回覧を

ワークフロー化しよう」といったアイデアが生まれてくる。

 インスピレーションカードには、今の技術ではまだ実現で

きないものも多いが、ワークショップを通じて別の実現手段

が見えてくることもある。例えば「ガマンメーター」。「上司に

決裁をもらうとき、機嫌のいいときに声をかけたい」というお

客様の課題を解決する仕組みだが、まだ実現はしていない。

 だがワークショップで使い方を議論する過程で「在席状況

を確認できるグループウエアのプレゼンス機能で代用でき

るのでは」という声が出てきた。「いや、席にいても機嫌が悪

かったらだめだろう」「上司のスケジュール も一緒に見て、

あまり忙しくなさそうなときに声を掛ける、というのはど

う?」などと話が盛り上がる。この過程で「新たなツールを導

入しなくても、今のツールで解決できそうだ」といった認識

が、参加者に共有されていく。

 松本は「この部屋は富士通っぽくないでしょう」と笑う。

メーカーが商品やサービスを主語にして説明すると、「それ

「ガマンメーター」の本質は情報共有?