コンドル舞い降りた神 アンデス -...

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Peru [ペルー] 文・写真=すずき ともこ 祭りの前 夜 、世 話 役の家からコンドルの神は出発する。 向かう先は、儀式が行われる村外れの大草原だ ギャラリー vol.10

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Page 1: コンドル舞い降りた神 アンデス - JICA数滴垂らし清めてから、収穫したばかりのトウモロ ... アンデスの大空を優雅象徴であるコンドルは、人間界と天を結ぶ大切な存える巨大なコンドルだ。

アンデスに

舞い降りた神

コンドル

Peru[ペルー]文・写真=すずき ともこ

祭りの前夜、世話役の家からコンドルの神は出発する。向かう先は、儀式が行われる村外れの大草原だ

地球ギャラリー vol.10

Page 2: コンドル舞い降りた神 アンデス - JICA数滴垂らし清めてから、収穫したばかりのトウモロ ... アンデスの大空を優雅象徴であるコンドルは、人間界と天を結ぶ大切な存える巨大なコンドルだ。

A.絞め殺した老馬は、コンドルをおびき寄せるための餌となるB.馬に乗った村の有力者に誘導され、山の頂上を目指すコンドルと村人たちC.祭り前夜の儀式。アンデスの地母神へのお供えの前でむち打ちを受け、心身ともに洗われる

B

D

E

C

 

ペルー南部アンデスの山々に囲まれた小さなコユ

ルキ村では、毎年7月下旬に村を挙げた祭りが行わ

れる。昔からこの地で「天の神」とあがめられてきた

コンドルを、牛と闘わせる。何とも不思議な光景だ

が、それには深い意味がある。

 

コンドルに一羽も出会えない年がある中で、この

年は4羽ものコンドルが降り立ち、縁起が良いと村

中が沸いていた。1週間近くも続けられる祭り。前

夜祭では、天の神コンドルと、ジャガイモなどの作物

を実らせる大地に感謝する、厳かな儀式が行われ

た。真っ暗闇の山道を、4羽のコンドルを先頭に村人

たちが行進する。標高3600メートルを越える山

の空気は氷のように冷たいが、神聖な儀式のそれら

しい雰囲気を作り出す。

 

草原が広がったところまで来ると、地酒を大地に

数滴垂らし清めてから、収穫したばかりのトウモロ

コシやジャガイモ、聖なるコカの葉を神へ奉げる。そ

して、村人一人一人が戒めのむち打ちを受けて真夜

中の儀式は終わる。

 

祭りの主役は、翼を広げると軽く2メートルは越

える巨大なコンドルだ。インカ帝国の時代から天の

象徴であるコンドルは、人間界と天を結ぶ大切な存

在としてあがめられてきた。アンデスの大空を優雅

に舞う自由のシンボルでもある。祭りの期間中、楽

団を引き連れた村人たちに囲まれながら、毎日村中

を練り歩く。

ふもとの村を見下ろせる見晴らしのいい山の広場に4羽のコンドルが参列した

A

D.牛の角の笛を持って山から降りてきた村人たち。アンデス独特の音楽を奏でるE.主食はジャガイモ。料理係は早朝から、村人の腹をいっぱいにする量の皮をむく

Page 3: コンドル舞い降りた神 アンデス - JICA数滴垂らし清めてから、収穫したばかりのトウモロ ... アンデスの大空を優雅象徴であるコンドルは、人間界と天を結ぶ大切な存える巨大なコンドルだ。

F.背中にくくり付けられたコンドルと牛の闘い。村の男たちが勇敢に立ち向かうG.いよいよコンドルと牛の対決が始まる。緊迫した空気が会場に流れるH.暴れる牛を押さえ込み、くぎを刺してコンドルを縛り付ける準備をする

I.赤ん坊を背負いコンドルと牛の闘いを見にきた女性。トウモロコシの地酒で乾杯J.今日は祝いの日。ビール瓶の中身がどんどん空になっていくK.コンドルと牛の闘いが終わっても余韻に浸る村人たちは踊り続けていたL.祭りの最終日。コンドルはアンデスの渓谷へ放たれ、再び自由の身となる

F

GH

I

J

K

L

 

祭りの見せ場である闘牛の日がやってきた。闘牛

といえばスペインの国技。16世紀、スペインに植民

統治されたアンデスの土地には、それ以前にはいな

かった馬や牛が持ち込まれ、闘牛も文化として根付

いた。人々は、富や自由、宗教を奪われ、血を流して

スペイン人のために働いた。それは500年も前の

ことであり、彼らに恨みを抱く者はもういない。だ

が、征服者の象徴である牛の背中にくぎを刺し、先

住民が神とあがめるコンドルを背中にくくり付ける

様から、忘れられない歴史の深いつめ跡を感じる。

 

牛が闘牛場に放たれるとコンドルが上下に激しく

暴れ、くちばしで牛の背中をつついているように見

えた。「コンドル頑張れ!」という村人たちの声援

がアンデスの山々にこだまする。

 

コンドルと牛の闘いは、「アンデスの民はどんなこ

とがあっても決して屈しない」という先住民の思い

の表れなのだろう。

地球ギャラリー vol.10

Page 4: コンドル舞い降りた神 アンデス - JICA数滴垂らし清めてから、収穫したばかりのトウモロ ... アンデスの大空を優雅象徴であるコンドルは、人間界と天を結ぶ大切な存える巨大なコンドルだ。

首都 : リマ面積 : 約129万km2(日本の約3.4倍)人口 : 2,820万人(2007年)公用語 : スペイン語(ほかにケチュア語、アイマラ語など)宗教 : 大多数はカトリック1人当たり国民総所得(GNI): 3,410ドル(07年)経路 : 日本からの直行便はなく、アメリカの都市で乗り換えるのが一般的。所要時間は乗り継ぎを含め20時間以上。通貨 : ヌエボ・ソル(PEN)1PEN=約33.2円(09年5月現在)気候 : 地理的には熱帯と亜熱帯にまたがっているが、地勢の変化(海岸地帯、山岳地帯、森林地帯)により大きく異なるのが特徴。

Peruペルー

Illustration / Hori Takao

JICAの活動

経済成長の恩恵を貧困層へ好調な経済成長を続けるペルーでは、いかにして、その恩恵を山岳地域や大都市周辺部などに集中する貧困層にまで届けるかが課題となっている。JICAは、こうした国内格差の是正に向け、さまざまな協力を行っている。

 銅、金、亜鉛など豊富な鉱物資源

と、世界第2位の漁獲高を誇るペル

ー。ここ数年、8%以上の経済成長を

続け、貧困率は6割から4割程度にま

で減少している。しかし、沿岸部が比

較的豊かな一方で、アンデス山脈が

連なる山岳地域は、経済・産業発展

が立ち遅れ、貧困層が多い。

 こうした状況の中、ガルシア現政権

では、2011年までに貧困層を3割に

減らすことを目指している。それに伴い

JICAは、貧困削減をペルーに対する

援助の大きな柱とし、山岳地域などで

活動を行ってきた。

 具体的には、山岳地域の貧困対

策として、約450の地域で、土壌保

全、小規模灌漑、植林などの農業イン

フラ整備や営農指導を実施。また、約

600の地域で、劣悪な衛生状態を改

善するため、上水施設や下水道、簡

易トイレの建設などを行っている。

 他方、首都のリマの周辺地域で

は、地方から流入した多くの貧困層が

集落を形成している。これらの人々は

水道や下水道設備のない生活を送っ

ており、成長を遂げる都市部でも、水

や衛生面での課題が多いのが現状

だ。そのため、こうした地域においても

JICAは、上水・衛生分野の協力に力

を入れている。

 ペルーの発展に向け、事務所を設

置し、3 0年来支援を続けてきた

JICA。ここ20年余りは、治安の悪化

で専門家やボランティアなどを長期間

現地に派遣できなかったことなどから、

円借款や日本への研修員受け入れが

主体の協力だった。しかし、数年前か

ら治安改善の兆しを受け、専門家や

青年海外協力隊の派遣など技術協

力も再開している。今後は、従来の協

力に加え、気候変動対策など地球規

模の環境問題を解決していくための

協力を積極的に進めていく方針だ。

首都リマの南部に整備された下水処理場

アマゾン流域の町イキトスに建てられた給水塔

限りある水資源を有効利用して農業生産を増やすため、山岳地域に造られたかんがい設備

ハチノスのターメリック煮込み

ペルー料理

地球ギャラリー Vol.10

 一年中温暖で、海と山の幸に恵まれる

食材の宝庫ペルー。外国の影響を受け

ながらはぐくまれた食文化は、土地ご

とに特色が色濃く表れている。首都リ

マなど沿岸部でよく食べられる家庭料

理が、ハチノス(牛の胃袋)とジャガイモ

のターメリック煮込み「カウカウ」。ター

メリックの風味がよく効いたまろやかな

味わいは、日本人の口にもよく合う。

 

JR川崎駅から徒歩4分のペルー料

理店インティライミ。日系人の明るい女

性オーナーが迎え入れる店内は、日本

人客でにぎわう。本場の調味料を使っ

て腕を振るうのはペルー人シェフ。毎月

第3金曜日はフォルクローレのライブが

あり、ペルーの食と音楽を堪能できる。

〈カウカウ〉

【材料(2人前)】

ハチノス200グラム/ジャガイモ2個/

玉ネギ半個/にんにく半個/ネギ(緑

部分)適宜/タカのつめ適宜/油大さじ

1/白ワイン大さじ1/ターメリック小

さじ1/酢少々/塩コショウ少々

【作り方】

1.ジャガイモは1センチ角に、玉ネギはみ

じん切りしておく。沸騰させたお湯に

ハチノス、酢、ネギを入れて、やわらか

くなるまで(30〜40分程度)ゆでる。

2.フライパンに油をひき、みじん切りし

たにんにく、種を取ったタカのつめを

入れてターメリックと塩コショウでい

ためる。

3.2に火が通ったら、1センチ角に切って

おいたハチノスと白ワイン、具がひたひ

たになるまでの水を加え、強火で煮

込む。

4.沸騰したら弱火にし、10〜15分程度

煮込み、味をしみ込ませる。

5.ジャガイモを入れて塩コショウで味を

調える。10分程度煮込んだら、火を

止め、ふたをして余熱で仕上げる。

6.食べる直前に香菜を散らしたら完成。

☆ハチノスを下ゆですることで独特の臭

みを取り、やわらかくするのがポイント。

in ペルー

インティライミ〒212-0014神奈川県川崎市幸区大宮町15三巧ビル1FTEL:044-511-4225URL:http://www.rest-intiraimi.com/11時半~23時(ラストオーダー22時20分)※ランチタイムは平日11時半~13時半定休日:火曜日

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エクアドル

リマクスコ

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