マレーシア民間航空機産業の現況と今後の展望について ·...

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平成24年2月  第698号 19 1.LIMA 2011の概要 マレーシアでの国際航空宇宙展示会 LIMA2011)が2011126日(火)~10日(土) に開催された。LIMA2011 は、1991 年より開 催されているが、1995 年の第3 回目からは、 ランカウイ空港のエプロンと隣接するマース リ国際展示センターにて開催されている。 展示会場は、総面積2.2万㎡程でパシフィコ 横浜と同等な規模の展示会場である。屋内展 示には世界34 ヵ国から261 企業及び団体(海 143、マレーシア118 社)の出展があった。 日本企業は(社)日本航空宇宙工業会(SJACのみが出展した。また開会式には、首相や国 防大臣が来訪し、挨拶すると共に展示ホール を視察するなど、政府要人の国内外に対する アピールも着実に実施していた。 なお展示会は、航空宇宙展と船舶展を同時 に行っているため展示企業は船舶関係も含ま れていた。 屋外展示は約5万㎡のエプロンに合計64の展示があり、ほとんどが軍用機であった。 飛行展示は5日間で13機種の航空機が展示 を行った。毎日10 3014 00まで国内定期便 を遮断し、空域を確保、軍用機によるアクロ バット飛行が盛大に実施された。 展示会の雰囲気は、シンガポールエア -LIMA国際航空宇宙展 2011に出展して- マレーシア民間航空機産業の現況と今後の展望について JA2012国際航空宇宙展の出展勧誘活動の一環として、マレーシア最大の国際航空宇宙 展示会LIMA 2011に出展し、マレーシアの航空宇宙関連企業・団体に日本航空宇宙産業 の現状を説明すると共に、マレーシアの航空機産業の現況について調査を実施した。 今回、マレーシアの航空機産業の現況と今後の展望について報告し、より多くの航空 宇宙関連企業の関係諸氏がJA2012出展を検討頂けることを期待する。 SJACのブース展示 会場入口と屋内展示のようす 屋外展示及び飛行展示

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Page 1: マレーシア民間航空機産業の現況と今後の展望について · 立、エアバスa350xwb機の主翼前縁構造の 製造を行っている。 3.マレーシアの航空産業政策

平成24年2月  第698号

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1.LIMA 2011の概要マレーシアでの国際航空宇宙展示会

(LIMA2011)が2011年12月6日(火)~10日(土)に開催された。LIMA2011は、1991年より開催されているが、1995年の第3回目からは、ランカウイ空港のエプロンと隣接するマースリ国際展示センターにて開催されている。展示会場は、総面積2.2万㎡程でパシフィコ

横浜と同等な規模の展示会場である。屋内展示には世界34ヵ国から261企業及び団体(海外143、マレーシア118社)の出展があった。日本企業は(社)日本航空宇宙工業会(SJAC)のみが出展した。また開会式には、首相や国防大臣が来訪し、挨拶すると共に展示ホールを視察するなど、政府要人の国内外に対するアピールも着実に実施していた。なお展示会は、航空宇宙展と船舶展を同時に行っているため展示企業は船舶関係も含まれていた。

屋外展示は約5万㎡のエプロンに合計64機の展示があり、ほとんどが軍用機であった。飛行展示は5日間で13機種の航空機が展示を行った。毎日10:30~14:00まで国内定期便を遮断し、空域を確保、軍用機によるアクロバット飛行が盛大に実施された。展示会の雰囲気は、シンガポールエア

-LIMA国際航空宇宙展 2011に出展して-

マレーシア民間航空機産業の現況と今後の展望について

JA2012国際航空宇宙展の出展勧誘活動の一環として、マレーシア最大の国際航空宇宙展示会LIMA 2011に出展し、マレーシアの航空宇宙関連企業・団体に日本航空宇宙産業の現状を説明すると共に、マレーシアの航空機産業の現況について調査を実施した。

今回、マレーシアの航空機産業の現況と今後の展望について報告し、より多くの航空宇宙関連企業の関係諸氏がJA2012出展を検討頂けることを期待する。

SJACのブース展示

会場入口と屋内展示のようす 屋外展示及び飛行展示

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工業会活動

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ショーのように軍関係者が多く、展示も次期戦闘機や戦闘ヘリ等、軍関係へ売り込むための展示が多かった。入場者は5日間で約12万人に及び、内トレードビジターは3日間で3.9万人であった。

2.航空宇宙産業の規模と推移マレーシア航空宇宙産業の売上高は2010年

に25.9億RM[マレーシアリンギット](約648億円)と過去最高値を記録した。ここ数年の傾向は右肩上がりに成長を遂げており2011年は2010年を上回る26.7億RM(約668億円)に達すると予測されている。民間機部門の売上高は2010年で18.4億RM(約460億円)と同年

全体の売上高比71%、2011年では19.9億RM (約498億円)と同年全体の売上高比75%に達すると予測され、民間機部門の売上高構成比が増加していく傾向を示している。(図1参照)また最近のトピックスとしては、民間機産業は国内の航空機の整備、修理事業やMRO関連の事業による売上げが主ではあるものの、昨今、欧米企業の投資による民間機構造部品製造の売上高が急増しており、2010年で0.9億RM(約23億円)であった構造部品の売上高が、2011年には1.2億RM(約30億円)に達すると予測されている。(図2参照)具体的な事業例では、Composites Technology

Research Malaysia Sdn Bhd(CTRM)社が、

図2 欧米企業投資による構造部品製造の売上高推移

図1 マレーシア航空機産業売上高の推移

(単位:億RM)

0

5

10

15

20

25

30

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

(予測

)

その他

民間機

(単位:億RM)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年(予

測)

売上高

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Goodrich社より、複合材製のボーイング787向けファンカウルやV2500エンジン用のナセル製作を受注製造している。またSpirit Aerospace社はSpirit Aerospace Malaysia Sdn Bhd社を設立、エアバスA350XWB機の主翼前縁構造の製造を行っている。

3.マレーシアの航空産業政策マレーシア政府は2001年航空産業の将来戦

略マップを作成した。このマップは、首相のリーダーシップにより2015年にはマレーシア

が航空宇宙産業における主要な製造国へ仲間入りすることを目指すもので、そのステップは、①既存の航空機整備、修理、オーバーホール等の事業を拡大させ、世界のシェア5%を確保すること、②航空機部品製造事業を成熟させ世界の航空機製造企業のサプライチェーンへ参画すること、③航空機のアビオニクス製造やシステムインテグレーション等、先進技術を習得すること、④これらの成長を支えるための人材育成や教育訓練を行っていくこと、となっている。

4.航空関連の製造企業マレーシアの航空産業は、航空機の整備、修理、オーバーホールを行う企業、また航空機部品を扱うMRO関連のビジネスが主流である。しかしながら昨今、エアバス社やボーイング社に向けた複合材を含む部品製造企業が増えてきた。今回、マレーシア政府の航空宇宙部門

(Malaysia Aerospace Council)より、マレーシ

ア航空宇宙産業の現状についてのレポート(Malaysia Aerospace Industry Report 2011/2012)を入手した。この冊子の中に3項に記述したマレーシア政府の海外ビジネス拡大方針に沿って、海外企業との新事業を希望する航空機部品製造企業のリストが記載されているので紹介する。日本の各企業がサプライチェーン再構築や技術提携等ビジネス拡大を検討するための資となれば幸いである。(表1参照)

図3 マレーシア航空宇宙産業の将来戦略マップ

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表1 マレーシア航空関連の製造企業と事業分野一覧表Category

Company NameDesign / R&D Airframe

EquipmentsAvionics & Instruments

Component & Machining

Computer System & Software

Electrics & Electronics

Ground & Equipment

CommunicationOthers

AAZ-Bina Kejuruteraan & Pembekal Sdn Bhd ●

Aerotree Defence & Services Sdn Bhd ●

Asia Pacific Microspheres Sdn Bhd ●Asian Composites Manufacturing (ACM) Sdn Bhd ●

Astronautic Technology (M) Sdn Bhd ● ● ● ● ● ●

Avcen Limited Malaysia ●

Aviasi Industri Sdn Bhd ●

Aviation Design Centre Sdn Bhd ●

CTRM Aero Composites Sdn Bhd ● ●Honeywell Aerospace Avionics Malaysia Sdn Bhd ●

IAC Manufacturing (Malaysia) Sdn Bhd ●

Ikramatic Systems Sdn Bhd ● ● ●

Innopeak (M) Sdn Bhd ● ●

Meerkat Technologies Sdn Bhd ●Muhibbah Airline Support Industries Sdn Bhd ●

Nexteamwork Coorporation Sdn Bhd ●

Oxysky Aviation Services Sdn Bhd ●

Prodelcon Sdn Bhd ●

RL Dyanmic Engineering Sdn Bhd ●

Sapura Secured Technologies Sdn Bhd ● ● ●Science & Technology Research Institute for Defence (STRIDE) ●

SME Aerospace Sdn Bhd ● ●

Sonic Precision Engineering ●

Spirit AeroSystems Malaysia Sdn Bhd ● ●

Strand Aerospace Malaysia Sdn Bhd ●

System Consultancy Services Sdn Bhd ● ● ●

Talent Global Sdn Bhd ●UniKL Malaysian Institute of Aviation Technology ●

Unmanned Systems Technology Sdn Bhd ● ● ● ● ● ●

UPECA Aerotech Sdn Bhd ● ●

UPECA Engineering Sdn Bhd ●Islamic International University of Malaysia (IIUM) ●

Universiti Kebangsaan Malaysia ●

Universiti Putra Malaysia ●

Universiti Sains Malaysia ●

Universiti Teknologi Malaysia ●

Universiti Teknologi MARA ●

Wong Engineering Corporation Sdn Bhd ●

XY BASE Sdn Bhd ●

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5.マレーシアへの日本国内公的ビジネスサポート機関日本とのビジネス拡大を図るため、日本国内にはマレーシア国際通商産業省傘下の二つの公的機関がそれぞれ東京・大阪にある。マレーシア貿易開発公社(Malaysia External

Trade Development Corporation 略称MATRADE)は日本貿易振興機構に類似する貿易振興団体であるが、主に現地のサプライヤーや事業提携先を紹介している。www.matrade.gov.myマレーシア投資開発庁(Malaysian Industrial

Development Authority 略称MIDA)はマレーシアへの事業投資を考える海外企業の相談窓口であり、製造ライセンスの発給機関でもある。www.midajapan.or.jpいずれも日本人スタッフが常勤しており、日本企業に対するサポートを行っている。

6.所感EADS、Spirit、GE、Honeywell、Thales社な

どエアバス社やボーイング社へ部品を納める大手製造企業が、安い労働力、勤勉さ等を理由に現地進出の動きをみせており、今後に向けたマレーシア航空産業の技術開発力向上のステップを着々と築いていると感じた。

JA2012においてはマレーシア貿易開発公社の協力を得て、マレーシアからの参加企業を募り、日本各企業との数多くの商議の機会がつくられるよう取組んでいく所存である。なお、本稿作成にあたり以下の文献を参考にした。この文献はSJACに保管してあり閲覧が可能である。

参考文献(1)Malaysia Aerospace Industry Report

2010/2011(Malaysian Industry-Government Group for High technology監修)

(2)Malaysia Aerospace Industry Report 2011/2012 (同上)

〔(社)日本航空宇宙工業会 JA事務局兼国際部 部長 宮 修一〕