ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とbdfの性能につい … ·...

5
-1- ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とBDFの性能について 岡山県農業機械教育センター 森誠一 はじめに 当センターでは、農業機械を学ぶ生徒を対象に、高 度な専門知識を養うために総合試験装置による多気筒 ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導を行って いる。現在では、興陽高校農業機械科3年生及び勝間 田高校農業機械科3年生の基本学習の要ともなってい る。 また、平成15年度より、興陽高校が「スーパーエ ンバイロメントハイスクール研究開発事業」に取り組 み、水島工業高校と連携してBDF(バイオディーゼ ル燃料…以下BDFと表記)の有効活用など環境教育 を推進していることから、BDFについても同様の 性能試験を行ってセンター学習の深化と両校の研究支 援を目的に研究を行った。 ここでは、今まで基本学習で行ってきた軽油の性能 試験のデータと、平成15年、16年に行ったBDF の性能試験のデータを基に、BDFの性能について考 察することにした。 ※スーパーエンバイロメントハイスクール研究開発事業 ①ナタネの収穫(農業科、水島工業高校) ②ナタネ油抽出(農業科) ③ナタネ油を使用した調理(家政科) ④廃油の回収(全校ボランティア) ⑤BDFの精製(水島工業高校) ⑥BDF性能試験 トラクタ性能試験 農業機械科 農機センタ ⑦菜の花播種、栽培管理(農業科) ⑧発泡スチロール再生プランタの試作と利用 造園デザイン科 ディーゼル機関の総合試験の学習内容と方法 現在、当センターで実施している学習内容の概要は 次の通りである。 (1)ディーゼル機関の総合試験の学習の意義 (2)試験装置の概要 シバウラT854B ①供試機関の仕様 標準機関の形式 機関 サイクルディーゼル 4気筒 直噴式 内径×行程 85×100 シリンダ 排気量 2269cc 圧縮比 18:1 定格回転数 2500rpm 定格出力 40.5ps ②試験装置 -D 形式 東京メータDWE-40/50 水冷うず電流制動形 動力計 電気動力計 冷却水流量計 面積流量計 燃料消費計 ビューレット3連球式 吸入空気量計測 丸形精密ノズル

Upload: others

Post on 22-Dec-2019

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とBDFの性能につい … · 冷却水量 正味熱効率 冷却水入口温度 冷却損失エネルギー 冷却水出口温度

- 1 -

ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とBDFの性能について

岡山県農業機械教育センター 森誠一

1 はじめに

当センターでは、農業機械を学ぶ生徒を対象に、高

度な専門知識を養うために総合試験装置による多気筒

ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導を行って

いる。現在では、興陽高校農業機械科3年生及び勝間

田高校農業機械科3年生の基本学習の要ともなってい

る。

また、平成15年度より、興陽高校が「スーパーエ

ンバイロメントハイスクール研究開発事業」に取り組

み、水島工業高校と連携してBDF(バイオディーゼ

ル燃料…以下BDFと表記)の有効活用など環境教育

を推進していることから、BDFについても同様の※

性能試験を行ってセンター学習の深化と両校の研究支

援を目的に研究を行った。

ここでは、今まで基本学習で行ってきた軽油の性能

試験のデータと、平成15年、16年に行ったBDF

の性能試験のデータを基に、BDFの性能について考

察することにした。

※スーパーエンバイロメントハイスクール研究開発事業

①ナタネの収穫(農業科、水島工業高校)

②ナタネ油抽出(農業科)

③ナタネ油を使用した調理(家政科)

④廃油の回収(全校ボランティア)

⑤BDFの精製(水島工業高校)

、 ( 、 )⑥BDF性能試験 トラクタ性能試験 農業機械科 農機センタ

⑦菜の花播種、栽培管理(農業科)

( )⑧発泡スチロール再生プランタの試作と利用 造園デザイン科

2 ディーゼル機関の総合試験の学習内容と方法

現在、当センターで実施している学習内容の概要は

次の通りである。

(1)ディーゼル機関の総合試験の学習の意義

(2)試験装置の概要

シバウラT854B①供試機関の仕様

標準機関の形式 4 機関サイクルディーゼル

4気筒 直噴式

内径×行程 85×100シリンダ

排気量 2269cc

圧縮比 18:1

定格回転数 2500rpm

定格出力 40.5ps

②試験装置

-D形式 東京メータDWE-40/50

水冷うず電流制動形動力計

電気動力計

冷却水流量計 面積流量計

燃料消費計 ビューレット3連球式

吸入空気量計測 丸形精密ノズル

Page 2: ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とBDFの性能につい … · 冷却水量 正味熱効率 冷却水入口温度 冷却損失エネルギー 冷却水出口温度

- 2 -

③計測項目と性能計算項目

計 測 項 目 性 能 計 算 項 目

軸トルク エンジン出力

回転数(動力計) 正味有効平均圧力

冷却水量 正味熱効率

冷却水入口温度 冷却損失エネルギー

冷却水出口温度 性能曲線

燃料消費量 熱勘定(摩擦損失除く)

燃料温度 燃料消費率

燃料密度 排ガス量

排ガス温度 排気損失エネルギー

排ガス圧力 空燃比

吸入空気温度 空気過剰率

吸入空気圧力 吸入空気量

吸入空気量計測差圧 充てん効率

大気圧 体積効率

大気湿度 図示効率

潤滑油温度 図示熱効率

潤滑油圧力 図示平均有効圧力

インジケータ線図 機械効率

排ガス分析 機械損失

潤滑油試験

燃焼効率

空気過剰率

④試験装置の取扱

・動力計の取扱

・機関冷却水損失計測装置の取扱

・燃料消費計測装置の取扱

(3)試験の方法

・計測前準備

・冷却水の給水

・暖機運転

・試験運転及び計測

(全負荷運転、全回転運転)

(4)データの整理

(5)まとめ、考察

Page 3: ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とBDFの性能につい … · 冷却水量 正味熱効率 冷却水入口温度 冷却損失エネルギー 冷却水出口温度

- 3 -

3 性能試験の結果

ディーゼル機関の性能試験は、前述のように2校の基本学習で実施している。基本学習では市販軽油につ

いて毎年4月と10月に、合計10回の試験を行っているが、今回は、平成12年から16年の5年間、5

0回の計測データを使用した。一方、BDFについては、平成15年~16年に水島工業高校で精製したも

のを用いて合計10回実施した。

表Ⅰ 軽油の性能試験結果(抜粋)

負 回 軸 軸 燃 燃 排 冷 潤 潤 正荷 転 ト 出 料 料 気 却 滑 滑 味

数 ル 力 消 消 温 水 油 油 熱ク 費 費 度 流 温 圧 効

量 率 量 度 力 率・ ps / ・ ℃ l/ ℃ ㎝ %rpm kg m l h g/ps h h kg/

2500 9.8 34.2 7.0 178.7 432 232 55 4.1 35.6全2400 11.6 39.0 7.9 172.4 481 256 59 4.0 36.5負2200 12.1 37.2 7.5 171.0 478 257 61 3.8 36.8荷2000 12.8 35.6 7.0 166.9 480 264 63 3.7 37.6運1800 13.4 33.7 6.6 165.9 491 246 63 3.6 37.8転1600 13.8 30.9 6.1 170.1 505 247 64 3.4 36.7

1400 13.9 26.9 5.6 174.0 511 246 64 3.3 36.4

1200 13.6 22.8 4.9 180.8 497 225 63 3.2 34.6

1000 13.3 18.5 4.0 182.5 472 210 62 3.0 34.4

5/5 2500 10.9 37.7 7.2 164.5 447 245 63 3.9 38.7

4/5 8.7 30.0 6.7 190.1 420 241 65 3.9 33.6

3/5 6.5 22.5 5.9 227.3 385 228 66 3.8 28.6

2/5 4.4 15.1 5.3 303.8 316 216 67 3.8 22.8

1/5 2.2 7.6 4.9 565.4 293 209 67 3.8 14.9

0/5 0.0 0.0 4.2 0.0 334 178 67 3.8 0.0

( 、 、 )市販軽油平成12~16年4 10月の基本学習における測定結果より 50データの平均値

表Ⅱ BDFの性能試験結果

負 回 軸 軸 燃 燃 排 冷 潤 潤 正荷 転 ト 出 料 料 気 却 滑 滑 味

数 ル 力 消 消 温 水 油 油 熱ク 費 費 度 流 温 圧 効

量 率 量 度 力 率・ ps / ・ ℃ l/ ℃ ㎝ %rpm kg m l h g/ps h h kg/

2500 11.6 39.0 8.1 177.5 483 313 33 4.2 36.5全2400 11.3 37.9 7.6 170.8 465 315 40 4.0 36.3負2200 11.8 36.2 7.2 168.3 458 305 44 3.8 36.9荷2000 12.1 33.8 6.9 172.3 460 318 47 3.7 36.9運1800 12.5 31.5 6.4 173.0 461 300 48 3.5 36.0転1600 12.8 28.5 6.0 178.5 470 308 51 3.4 34.8

1400 12.8 24.9 5.5 185.5 480 315 50 3.4 33.5

1200 12.7 21.2 4.7 189.3 465 283 50 3.3 32.8

1000 12.6 17.6 4.4 211.5 448 275 50 3.2 29.4

5/5 2500 10.3 36.0 5.7 134.8 355 280 51 3.8 46.3

4/5 8.2 28.8 5.7 169.3 383 276 53 3.8 36.9

3/5 6.2 21.6 5.7 223.5 358 291 55 3.8 28.1

2/5 4.1 14.4 5.8 339.5 354 290 55 3.7 18.5

1/5 2.0 7.2 5.7 673.0 353 290 56 3.8 9.3

0/5 0.0 0.0 5.7 0.0 355 285 57 3.8 0.0

( 、 、 )平成15~16年4 6 7月に測定;合計10データ平均値

Page 4: ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とBDFの性能につい … · 冷却水量 正味熱効率 冷却水入口温度 冷却損失エネルギー 冷却水出口温度

- 4 -

図Ⅰ ディーゼル燃料性能曲線(左;市販軽油、右;BDF)

4 BDFの性能についての考察

近年、BDFについての研究・開発が進み、化石燃料に代わるディーゼル燃料の開発、リサイクル資源の

活用、温室効果ガスの減少効果等の点からさらに注目が集まっている。BDFに関わる一般的評価は次のと

おりである。

(1)BDFの特徴

・黒煙が軽油の3分の1以下 (日本自動車輸送協会調べ)

・BDFの引火点は85℃、軽油は約50℃ (保管しやすい)

・植物油から作られるため硫黄酸化物(SOx)が発生しない (環境に優しい)

・軽油と変わらぬ燃費・走行性 (発熱量 …軽油 )9600kcal/kg 10930kcal/kg

・排気ガスの比較 BDF 軽 油 削減率

黒鉛濃度(%) %6 18 66.7

CO (%) % 参照東京都立大創造プロジェクト2 3.2 3.6 11.1 :

ppm 0.2 22 99.1 URL:http://www.cplab.prec.metro-u.aSO ( ) %x

ppm 125 135 7.4 c.jp/~project/NO ( ) %x

燃料消費率

150.0155.0160.0165.0170.0175.0180.0185.0190.0195.0200.0205.0210.0215.0

250024002200200018001600140012001000

回転速度(rpm)

燃料消費率(g/

PSh)

熱効率

28.029.030.031.032.033.034.035.036.037.038.0

回転速度(rpm)

熱効率(%)

系列1 36.5 36.3 36.9 36.0 36.0 34.8 33.5 32.8 29.4

2500 2400 2200 2000 1800 1600 1400 1200 1000

燃料消費率

150.0155.0160.0165.0170.0175.0180.0185.0190.0195.0200.0205.0210.0215.0

250024002200200018001600140012001000

回転速度(rpm)

燃料消費率(g/

PSh)

熱効率

28.029.030.031.032.033.034.035.036.037.038.0

回転速度(rpm)

熱効率(%)

系列1 35.6 36.5 36.8 37.6 37.8 36.7 36.4 34.6 34.4

250024002200 2000180016001400 12001000

エンジン性能曲線1

0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0

250024002200200018001600140012001000

回転速度(rpm)

トルク(

kgm) 

軸出力(PS)

軸トルク

軸出力

エンジン性能曲線1

0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0

250024002200200018001600140012001000

回転速度(rpm)

トルク(

kgm) 

軸出力(PS)

軸トルク

軸出力

Page 5: ディーゼル機関の性能試験に関する学習指導とBDFの性能につい … · 冷却水量 正味熱効率 冷却水入口温度 冷却損失エネルギー 冷却水出口温度

- 5 -

(3)性能試験の結果

表Ⅰ、Ⅱを比較していえることは、アクセルを全開にした状態での測定では全体的に軸トルク、軸出力と

もに、市販軽油とBDFの性能の差は見受けられず、ほとんど同じである。また、一般的にBDFの「軽油

と変わらぬ燃費・走行性」について、燃料消費量(1時間あたりのリットル数)や燃料消費率(1psの出

力を1時間維持するのに要する燃料のグラム数)をみると、BDFの方がやや劣る値となっているが、ほぼ

同等の値といえる。したがって正味熱効率(仕事に変換された熱エネルギーと機関に供給された熱エネルギ

ーの比)も低回転で若干差が見受けられるが、ほぼ同等の値といえる。

また、冷却水流量(エンジンを冷却するのに要した水量 、および排気温度に若干の差が見受けられるが、)

市販軽油の試験実施時期は、4月と10月であり、平均気温は20.5℃(湿度50%、761 、Bmmhg)

DFは平均気温が26℃(湿度45%、765 )と高めな時期に行ったことが影響したのかもしれなmmhg

い。

、 、潤滑油圧力がほぼ同じであるのに比べて 潤滑油温度がBDFの方が10℃以上低いことは特筆されるが

これは毎年1回行っている潤滑油の交換後すぐの試験だったことも関係しているのかもしれない。そのあた

りの因果関係は、この性能試験結果だけでは検証できない。

図Ⅰから、燃料消費率、熱効率ともに低回転でBDFの方が市販軽油より劣る数値となったが、これは、

計測が夏場の高温時に片寄ったこと、データ数が少ないことが少なからず影響したのかもしれない。また、

平成16年4月には、普通の部屋にポリタンクで1年間保存した状態のBDFを使用したが非常に不安定な

測定値となった。BDFの劣化が推測されるが保存状態が悪かったためか、通常起こりうるBDFの特性な

のかは不明であるが、興味深い結果である。なお、6、7月に新しいBDF(製造から半年以内、専用容器

保管)を使用した場合は、市販軽油と同等以上の数値であった。

以上のことから、不確定要素が残されてはいるものの、BDFは市販軽油とほぼ同等の性能を有している

という結果が得られた。

5 今後の課題

今後も引き続き総合試験装置を使ったBDFの性能試験を行っていくとともに、当センターの学習で使用

している大型トラクタ、ショベルローダ、ドラグショベルなど実際の車両でBDFを燃料として使用してい

こうと思う。そして、大型トラクタによるけん引性能試験を行い、BDFが市販軽油と同等の性能を有する

ということを証明したい。また、保管期間・状態により性能の差が出る可能性が明らかになったので、その

ことについてもさらに研究し、関係高等学校間の共同研究開発事業を支援するとともに、センター学習の教

材としての活用を推進していきたいと思う。