ノロウイルスなどの感染性胃腸炎による 院内感染対...

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1 ロウイルスなどの感染性胃腸炎による 院内感染対策防止手順資料集 はじめに ノロウイルスなどの感染性胃腸炎による院内感染を防止することは大変重要です。 本資料はノロウイルスなどの感染性胃腸炎・食中毒に対する院内感染対策に関する「院 内感染防止手順」として、医療現場で実際に使用しているフローチャートや対応リスト等 を集めたものです。感染対策の実務を担当されておられる方が利用していただく目的で作 成しました。必要な個所を編集し直してご使用ください。 厚生労働科学研究「新型インフルエンザ等の院内感染制御に関する研究」 (平成 22 年~24 年度)では、全国の院内感染対策の実務担当者が集まって実際に夫々の医療現場で使用して いる感染対策活動に利用している様々な資料を持ち寄り、メリハリのある院内感染に関す る検討を重ねてきました。本資料はその成果「院内感染防止手順」第3版の感染性胃腸炎・ 食中毒の章を抜粋したものです。 国立国際医療研究センター研究所 感染制御研究所 切替 照雄 平成 24 年 12 月 25 日

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Page 1: ノロウイルスなどの感染性胃腸炎による 院内感染対 …hica.jp/cdcguideline/norovirus/noro_20121226.pdf2012/12/26  · 2 胃腸炎・食中毒 感染性胃腸炎とは、微生物が胃や腸管に感染し、嘔吐や下痢を起こす感染症全般を指す。

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ノロウイルスなどの感染性胃腸炎による

院内感染対策防止手順資料集

はじめに

ノロウイルスなどの感染性胃腸炎による院内感染を防止することは大変重要です。

本資料はノロウイルスなどの感染性胃腸炎・食中毒に対する院内感染対策に関する「院

内感染防止手順」として、医療現場で実際に使用しているフローチャートや対応リスト等

を集めたものです。感染対策の実務を担当されておられる方が利用していただく目的で作

成しました。必要な個所を編集し直してご使用ください。

厚生労働科学研究「新型インフルエンザ等の院内感染制御に関する研究」(平成 22年~24

年度)では、全国の院内感染対策の実務担当者が集まって実際に夫々の医療現場で使用して

いる感染対策活動に利用している様々な資料を持ち寄り、メリハリのある院内感染に関す

る検討を重ねてきました。本資料はその成果「院内感染防止手順」第3版の感染性胃腸炎・

食中毒の章を抜粋したものです。

国立国際医療研究センター研究所 感染制御研究所 切替 照雄

平成 24年 12月 25日

Page 2: ノロウイルスなどの感染性胃腸炎による 院内感染対 …hica.jp/cdcguideline/norovirus/noro_20121226.pdf2012/12/26  · 2 胃腸炎・食中毒 感染性胃腸炎とは、微生物が胃や腸管に感染し、嘔吐や下痢を起こす感染症全般を指す。

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胃腸炎・食中毒

感染性胃腸炎とは、微生物が胃や腸管に感染し、嘔吐や下痢を起こす感染症全般を指す。

主な原因病原体としては、ノロウイルス、カンピロバクター、サルモネラ菌、ブドウ球菌、

腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生菌)、ウェルシュ菌、その他の病原大腸菌、

セレウス菌、ボツリヌス菌、コレラ菌などがある。

なかでも食中毒は、生菌あるいは菌が産生した毒素の経口摂取によって発生する可能性

のある感染症あるいは疾患であり、疑いの時点で保健所に届け出る必要がある。

特に腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生菌)感染症は第 3 類感染症であり、診断したら直

ちに保健所に届け出る必要がある。

収録した手順例

○感染性胃腸炎・食中毒発生時対応フローチャート

○感染性胃腸炎(食中毒含む)患者への対応

○院内食中毒:予防対策と発生時の対策

○ノロウイルス感染対策フローチャート

○ノロウイルスを疑う感染性胃腸炎の 2 次感染(接触・飛沫)防止対策

○消毒液の作り方

○集団発生時のフローシート

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院内感染防止手順 第3版

収載資料

C19

3

感染性胃腸炎・食中毒発生時対応フローチャート

Ⅰ 感染症が疑われる場合

症状が発生したら

・情報の伝達:医師、看護師、栄養士、他部門

・院内感染関連報告票の提出

・病室の調整:拡散の危険が大きい患者は個室管理

(「感染性胃腸炎(食中毒含む)患者への対応」に準じる)

・腸管出血性大腸菌(O157など)の場合:3類感染症の届け出

・それ以外の食中毒の場合:食品衛生法第 58条による届け出

・原因究明を行う

・必要時、感染対策委員会から栄養管理室に報告し、感染調査書を提出

・栄養管理室は調理施設衛生管理マニュアルに沿って対応

下痢が続くような場合は便(吐物)培養を実施

診断後、直ちに保健所に届け出

嘔吐・下痢・腹痛患者

院内感染対策委員会に報告

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院内感染防止手順 第3版

収載資料

C19

4

Ⅱ 食中毒が疑われる場合

(「Ⅲ 食中毒届け出フローチャート」参照)

・病室の調整:拡散の危険が大きい患者は個室管理

(「感染性胃腸炎(食中毒含む)患者への対応」参照)

・他患者の検査の必要性を検討

〈院内の食事が原因の食中毒と判断された場合〉

・原因究明を実施

・栄養管理室は「調理施設衛生管理マニュアル」に沿って対応

・2次感染予防の強化

院内感染対策委員会を開催

食中毒が疑われたら保健所に届け出る

便(吐物)培養を実施 主治医より ICTに連絡

嘔吐・下痢・腹痛患者

ICTより院内感染対策委員長へ報告

ICTにて対応を協議

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院内感染防止手順 第3版

収載資料

C19

5

Ⅲ 食中毒届け出フローチャート

・保健所に電話連絡の後、食品衛生法第 58条に基づき「食中毒患者届出票」を提

・保健所に電話連絡の後、感染症法第 12 条に基づき、「腸管出血性大腸菌感染症

発生届」を提出

・腸管出血性大腸菌による食中毒の場合は「食中毒患者届出票」も提出

*就業制限は、腸管出血性大腸菌感染症の「患者または無症状病原体保有者」の

うち、「飲食物の製造、販売、調製または取り扱いの際に飲食物に直接接触する

業務」のみ制限

・24 時間以上の間隔をおいた連続2回(抗菌薬を投与した場合は、服薬中と服薬

中止後 48時間以上の時点の連続2回)の検便によって、いずれも菌が検出され

なければ、菌陰性が確認されたものと判断

・無症状の病原体保有者については、1回の検便で病原体が検出されなかった場

合は、菌陰性化と判断

届け出後に保健所から送られてくる「病原体消失証明書」に必要事項を記入して、保健

所へ返送

ベロ毒素産生腸管出血性大腸菌と診断したら直ちに3類感染症の届け出

食中毒が疑われたら保健所に届け出

菌陰性化の確認

病原体消失証明書の提出

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院内感染防止手順 第 3版

収載資料

C20

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感染性胃腸炎(食中毒含む)患者への対応

基本的には標準予防策で、おむつや失禁状態の場合は接触、感染予防策をとる。

感染性胃腸炎

病室

なるべく個室(ベロ毒素産生腸管出血性大腸菌の場合は個室)

トイレ、手洗いがある部屋が望ましい。なければ、ポータブルトイレも設置可能な部屋とする。他の患者と一緒のトイレの使用も可能である。その場合、便座、ドアノブは使用ごとに消毒用アルコールで拭く

エプロン スタンダードプリコーション<一般病棟の手順>参照※

手袋 「感染経路別予防策 Ⅰ接触感染予防策(コンタクトプリコーション)」参照

手洗い 処置の前後に手洗いまたは擦式手指消毒を実施する

使用器材 個人専用で使用できる器材は専用にする

食器類 スタンダードプリコーション<一般病棟の手順>参照※

リネン

衣類 スタンダードプリコーション<一般病棟の手順>参照※

ベッド清掃 スタンダードプリコーション<一般病棟の手順>参照※

便器・尿器

トイレを使用の場合:使用後は便座を消毒用アルコールで清拭する

ポータブルトイレ使用の場合:本人専用で使用し、消毒用アルコールで清拭する

感染性廃棄物 ゴミは感染性廃棄物として取り扱い、袋は密閉して室内から出す

環境整備 ベッド、オーバーテーブル、床頭台、ドアノブは消毒用アルコールで清拭する

床も消毒用アルコールで拭く

入浴 下痢がある場合は入浴はしない。必要時はシャワー浴とする。他の患者の後にし、その後の清掃をしっかりと行う

患者への説明 接触感染であることから、飲食時、排泄時の手洗いを十分行うよう説明する

面会 乳幼児や小児、高齢者の場合、面会は制限する

※収載資料 B05(7ページ)

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院内感染防止手順 第 3 版

収載資料

B05

7

スタンダードプリコーション<一般病棟の手順例>

病 室 通常の病室

エプロン (防水性)

・患者の血液、体液、分泌物、排泄物などで衣類が汚染される可能性があるときには着用する

・通常の吸痰操作では着用しなくてもよい。痰量が著しく多く、飛び散る可能性が高い場合は着用する

・血液、体液、分泌物、排泄物などは【感染性】【非感染性】と分けて考えない ・ビニールエプロンは1処理ごとにディスポーザブル扱いとする

マスク ゴーグル

・不要。ただし、咳嗽が著しく、飛沫感染で口腔、鼻腔粘膜、眼曝露が考えられるときには必要である

手 袋 ・血液、体液、分泌物、排泄物などに接触する場合は着用する 清拭、陰部洗浄、おむつ交換、吸引、廃液処理などの実施時に着用する

手洗い ・「手洗い」の項(B07)を参照※

使用後器材 ・発生場所から速やかに1次洗浄の場へ運び、消毒薬に浸漬する ・浸漬前には必ず流水下で洗い流す

食器類 ・通常の熱処理をする(そのまま返却)

機 器 ・血液、体液、分泌物、排泄物などで汚染された場合は,速やかに消毒薬で拭き取る

リネン 衣類

・マットレスおよび枕は防水性カバーを使用し、その上にベッドメーキングをする ・血液、体液、分泌物、排泄物などで汚染された場合は、速やかに交換する。その後、熱水洗濯(80℃、10分以上)またはピューラックス®(次亜塩素酸ナトリウム)で消毒する

・汚染リネンおよび患者衣類はビニール袋または水溶性ランドリーバッグに密封して消毒に出す

・各セクションでの洗浄・消毒は禁止する

ベッド清掃

・洗浄剤で拭き掃除を行う(ペーパータオルを使用する) ・血液汚染のある場合はピューラックス®(0.5 ~1%次亜塩素酸ナトリウム)などで拭き取る(2回法)

・患者退室後も、同様の方法で拭き掃除を行う

便器・尿器 ・使用後、洗浄・消毒薬で清浄化を行う。その後、よく乾燥させる。または、ベッドパンウオッシャーを使用する

感染性廃棄物 ・鋭利なものや注射器は、シャープコンテナに入れる

清 掃

・日常清掃は1日に1回行う ・室内の埃、ごみを除去する(ダストモップ) ・洗浄剤を使用し、高いところから低いところへと拭き掃除を行う ・血液、体液、分泌物、排泄物などで汚染されたら、速やかに清浄化する

※収載ページB07(8ページ)

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院内感染防止手順 第 3 版

収載資料

B07

8

手洗い・手指消毒の方法

レベル 手洗い 手指消毒

目 的 汚れや通過菌の除去 通過菌の除去・殺菌

種 類 日常的手洗い 衛生学的手洗い 擦式手指消毒

どのようなとき 目に見える汚れがある 目に見える汚れがない

方 法 流水で洗う(スクラブ法) 擦り込む(ラビング法)

洗浄剤 液体石けん 手指消毒薬 擦式手指消毒薬

量・時間 15秒以上 液3~5mLで15秒以上 液3~5mLで15秒以上

行 為

日常的手洗い 衛生学的手洗い 擦式手指消毒

目に見える汚れのあるとき 目に見える汚れ

のないとき

出勤時、退出時 ○ ○

病室への入室時、退室時 ○ ○

患者への接触の前後 ○ ○

バイタルサイン測定前後 ○ ○

食事介助の前後 ○ ○

汚物を処理した後 ○ ○

床にある物をさわった後 ○ ○

手袋をはずした後 ○ ○

輸液セットを組む前、

注射液を調製する前 ○ ○

血管カテーテル、尿路カテーテルな

どの侵襲的器具の取り扱い前 ○ ○

創傷ケアなどの無菌的な処置の前 ○ ○

同一患者の汚染部位から清潔部位に

移る前 ○ ○

針刺し事故の後 ○ ○

*石けん:ミューズ®、ジェントルクレンザー®(薬用石けん)など

*手指消毒薬:7~5%ポビドンヨード、グルコン酸クロルヘキシジンなど

*速乾性手指消毒薬:ウエルパス®、ラビネット®(ともに0.2%塩化ベンザルコニウム含有の消毒用

エタノール)など

*ゲル状速乾性手指消毒薬:ゴージョ®など

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院内感染防止手順 第 3 版

収載資料

B04

9

患者ケア時の防護用具

手洗い 手袋 エプロン マスク ゴーグル

創傷ケア ○ ○ (○)

カテーテル留置部ケア ○ ○ (○)

吸引ケア ○ ○ ○ ○ (○)

口腔ケア ○ ○ (○) ○

排泄ケア(おむつ交換など) ○ ○ ○

清潔ケア(清拭、足浴、手浴、洗髪な

ど) ○

環境整備、リネン交換 ○ ○ ○ ○

器材の1次消毒後の洗浄、消毒薬の取

り扱い ○ ○ ○ ○ ○

医療廃棄物の取り扱い ○ ○ ○ ○

*(○):飛散するおそれのある場合など、必要時に使用する。

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院内感染防止手順 第 3 版

収載資料

C21

10

院内食中毒:予防対策と発生時の対策

1.予防対策:厨房

①調理室の出入り口で履き物を交換し、予防衣、帽子、マスクを着用する。

②調理作業前は、手洗い、ジェットタオルなどで洗浄し、速乾性擦式手指消毒薬を使用する。

③生鮮食品の搬入は、当日分のみとする。

④調理は中心温度で85℃、1分以上加熱する。

⑤生食用野菜などは、次亜塩素酸ナトリウム200mg/Lの溶液に5分間浸漬して殺菌を行った後、

流水で洗浄する。

⑥包丁、まな板は、使用後殺菌庫に納める。

⑦食器、調理器具は、乾燥機で85℃、1時間殺菌する。

⑧調理職員の検便を、月に1回行う。

⑨使用水は、遊離残留農薬が0.1mg/L以上であることを、毎日、始業前および調理作業終了後

に検査する。また、水質検査を年に4回行う。

⑩鼠族、昆虫の発生状況を定期的に点検するとともに、駆除は業者に依頼し、定期的に行う。

2.予防対策:病棟

①配膳前の手洗いを励行する。

②配膳車到着後は、直ちに配食する。

③毎日、居室の清掃時(10時)に床頭台の点検を行い、食品の有無などを観察する。

④持ち込み食(特に生のもの)をしないよう指導する。

⑤冷蔵庫内の点検を行う。

3.発生時の初期対応

病院食が原因と思われる食中毒多発事例を想定した感染防止手順を日頃から準備しておく必

要がある。院内食中毒集団発生を疑う場合は、いち早く情報を施設長に集めて、施設長の指

示で①ICC収集、②ICTへ調査指示、③保健所への報告を行う。

看護部長

院内多発事例疑い

施設長

病棟責任医師(医長など)

院内感染対策委員

会(ICC)招集

看護師長

保健所へ

報告

院内感染対策チーム

(ICT)へ調査指示

調理責任者

(栄養士など)

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院内感染防止手順 第 3 版

収載資料

C22

B 病院

11

ノロウイルス感染対策フローチャート

症状が発生したら

以下の処置を取る。

・情報の伝達:医師、看護師、他部門に伝える。

・発生届(院内感染関連報告票)の提出:リンクナースは医師と連携をと

り、必要事項を記入し、ICTに上記の報告用紙を速やかに提出する。

・病室の調整:拡散の危険が大きい患者は個室管理とし、易感染者は同室

にしないなどの調整を行う。

・病棟の患者の観察:上記の症状の患者がいたら検査を行う。疑い患者に

関しても検査を実施する。

・原因究明を行う(患者および家族からの情報収集を速やかに実施)。

・必要時、感染対策委員会から栄養管理室に報告し、感染調査書を提出す

る。

栄養管理室は調理施設衛生管理マニュアルに沿って早急に対応する。

嘔吐、下痢、発熱、腹痛、食欲不振、脱水症

院内感染対策委員会に報告

翌週の月曜までに保健所に提出

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院内感染防止手順 第3版

収載資料

C23

C病院

12

ノロウイルスを疑う感染性胃腸炎の2次感染(接触、飛沫)防止対策

Ⅰ 通常時(非まん延時)

自己管理ができる

自己管理ができない

失禁状態、おむつ着用、感染対策の協力が得られ

ない精神状態の患者など、周囲を汚染する可能性

が高い場合

患者配置

・個室(トイレ、手洗いのある部屋が望ましい。なければポータブル便器が設置可能な部屋)

・病室は扉を閉めて「面会制限」の掲示をする

手指衛生 ・アルコールは効果が期待できないため石けんと流水による手洗いを励行する

手袋 ・排泄物、汚染物に接触するときには着用する

・部屋に入るときには着用する

・排泄物、汚染物に接触した後は交換する

・部屋を出るときには手袋をはずし、手洗いをする

ディスポーザブルエプロン・ガウン

・排泄物、汚染物に接触するときにはプラスチックエプロン(飛び散ったものの処理など汚染の危険が高い場合はプラスチックガウン)を装着する

・排泄物や汚染物の処理、陰部洗浄など、しぶきが飛び散る処置の際、身体に密着する場合(体位変換)など、1m 以内に近づくときはプラスチックガウンを装着する

マスク ・病室に入るときはサージカルマスクを着用する

物品 ・専用が望ましい

トイレ、紙おむつ

・症状消失後 48時間は病室内で便器を使用し、他の患者と便器を共有しない

・発症後 2 週間は病棟トイレのみを使用し、使用後はトイレの便座、ドアノブ、水洗ノブなど直接触れた部分は次亜塩素酸ナトリウム(泡ハイター®)で清拭してもらうよう指導する

・症状消失後 48時間は病室内で便器、紙おむつを使用し、他の患者と共有しない。紙おむつは丁寧に取り扱い、速やかにビニール袋に入れて口を締め、感染性廃棄物容器に捨てる。直接床には置かない

・発症後 2週間は病棟トイレのみを使用し、使用後は、トイレの便座、ドアノブ、水洗ノブなど、直接触れた部分を看護師が次亜塩素酸ナトリウム(泡ハイター®)で清拭する。できなければ病室内での便器、紙おむつを継続する

食器

・特に区別する必要はないが、食器が吐物で汚染した場合は 0.1%次

亜塩素酸ナトリウム(50倍ハイター®液、60倍ピューラックス®液)

で消毒してから下膳する

入浴

・症状のあるうちはシャワー浴とし、順番は最後にする

・症状消失後も 2週間は、入浴の順番は最後とし、浴槽は洗剤で洗浄

後、0.02%次亜塩素酸ナトリウム(250倍ハイター®液)または泡ハ

イター®で消毒する

・タオルは共有しない

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院内感染防止手順 第3版

収載資料

C23

C病院

13

リネン

・汚染されたリネン、病衣は、病室内で袋に入れ、汚物室で下洗い後、

0.1%次亜塩素酸ナトリウム(50 倍ハイター®液)に 30 分浸漬し消

毒後に出す

清掃・消毒(通常) ・病室の清掃は、汚染がなけ

れば通常の清掃でよい

・ベッド柵、オーバーテーブルなど手

が触れる箇所は、0.02%次亜塩素酸ナ

トリウム(250倍ハイター®液)で清

拭する

・汚染がなければ、床は通常の清掃で

よい

・清掃時は、手袋、エプロン、マスク

を装着する

清掃・消毒(汚染時)

・周囲を便や吐物で汚染した場合は、紙で静かに汚物を取り除き、0.1%

次亜塩素酸ナトリウム(50 倍ハイター®液)もしくは泡ハイター®

を吹き付けて再度清拭する

清掃・消毒(退室時)

・ベッド柵、オーバーテーブルなど手が触れる箇所は、0.02%次亜塩

素酸ナトリウム(250倍ハイター®液)で清拭する

・床は 0.02%次亜塩素酸ナトリウム(250倍ハイター®液)で清拭する

・カーテンを撤去し、袋に「ノロウイルス」と書いて洗濯に出す

行動制限

・症状がある間は病室内とする

・症状が消失後 48時間は病棟

内とする

・症状が消失後 48時間経過し

た後は,十分な手洗いをして

から病棟外も可とする

・症状がある間は病室内とする

・症状が消失後も、発症から 2 週間

は必要最小限の範囲とする。必要

な検査に関しては、順番を最後と

し、器材の接触面は次亜塩素酸ナ

トリウムで消毒する

患者などへの指導

・感染力が非常に強く、症状消失後も 2週間はウイルスが排出されて

いるため、2週間は感染対策に協力してもらう

・アルコールは効果が期待できないため、石けんと流水による手洗い

の励行を指導する(特に排泄の後、食事の前、病棟から出る場合は

厳重に手洗いを行うよう指導する)

・体調不良者、小児の面会はできるだけ避ける。面会者にも感染対策

の実施を指導する

その他

・他の患者の感染性胃腸炎症状の観察を行う

・できれば、症状のある患者と未発病の患者の受持ち職員を区分する

のが望ましい

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院内感染防止手順 第3版

収載資料

C23

C病院

14

Ⅱ まん延時

通常時の対策に加えて下記を追加する。

患者配置

・個室が望ましいが、やむをえない場合は同じ症状の集団で隔離する

・発症した患者と同室だった患者は、すでに感染している可能性がある

ものとして、安易な転室を行わない

マスク ・突然の嘔吐に備えて常にサージカルマスクを装着する

清掃・消毒 ・まん延エリアのベッド柵、オーバーテーブルなど、手が触れる箇所、

床は、0.02%次亜塩素酸ナトリウム(250倍ハイター®液)で清拭する

配膳車 ・まん延エリア内に持ち込まない

院内感染が疑われ

た場合

・感染対策委員会を開催し強化対策などを決定する

・ノロウイルス検査を実施する

・新入院、転棟、面会を制限する

・院内各部署への周知、患者・家族への説明、掲示を行う

・保健所への報告などを行う

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院内感染防止手順 第3版

収載資料

C24

D病院

15

消毒薬の作り方

参考①:日常の消毒;5%の塩素系漂白剤で 0.02%の消毒液を 5000mL作りたいとき

水 4980mL 塩素系漂白剤 20mL 0.02%次亜塩素酸ナトリウム液

5000mL

参考②:嘔吐物や排泄物などで汚染された場所の消毒;5%の塩素系漂白剤で 0.1%消毒液

を 2000mL作りたいとき

水 1960mL 塩素系漂白剤 40mL 0.1%次亜塩素酸ナトリウム液

2000mL

塩素系の漂白剤や消毒は、いろいろな

濃度のものが市販されています。濃度

を確認してから作りましょう!

使用する消毒薬の商品名(例)

1% :ミルクポン®、ミルトン®

5~6% :ジアノック®、ハイター®、

ブリーチ®

作りたい消毒液の量(mL)×作りたい濃度(%) = 原液の量(mL)

原液の濃度(%)

Page 16: ノロウイルスなどの感染性胃腸炎による 院内感染対 …hica.jp/cdcguideline/norovirus/noro_20121226.pdf2012/12/26  · 2 胃腸炎・食中毒 感染性胃腸炎とは、微生物が胃や腸管に感染し、嘔吐や下痢を起こす感染症全般を指す。

院内感染防止手順 第3版

収載資料

C25

E病院

16

集団発生時の対応フローシート

病 棟

急性胃腸炎症状の患者や職員が複数いる!

【感染拡大の防止】

①感染拡大防止策:患

者配置も含む2次

感染予防

②職員への周知・徹底

③確定診断の検討

【発生状況の把握】

①症状

②発生日時

③有症患者数

④患者配置

⑤施設全体の状況把握

⑥病院給食との関連性

⑦その他:感染源など

①検査依頼

②報告

企画課

感染対策室

①感染防止物品の準備

②患者費用

③委託業者への対応

【情報の統合と対応決定】

①患者・家族への説明

②発症職員への対応

③保健所への報告

④記者会見(マスコミ対応)

検査科

副院長

感染対策委員会