シンプルな降圧コントローラにより、 高精度のバイポーラ電源 ... ·...

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Analog Dialogue 52-12 1 Share on シンプルな降圧コントローラにより、 高精度のバイポーラ電源を実現 著者:Victor Khasiev 向けの電源では重要な要件になります。この用途では、 アンプに負電圧を供給しなければならないケースがあり ます。また、コンバータに供給される入力電圧が大きく 低下するコールド・クランクが発生したとしても、シス テム全体が連続的に正しく動作するようにしなければな りません。これらの課題に対応するにはどうすればよい のでしょうか。本稿では、シンプルな降圧コントローラ を使用し、 SEPIC Cuk コンバータ、昇圧コンバータを 実現する方法を紹介します。 共通の入力レールから正/負の電圧を生成 1 に示したのは、デュアル出力の降圧コントローラ IC LTC3892 」をベースとするバイポーラ電源の回路で す。この IC を最大限に活用することにより、一方の出力 で正電圧を生成し、もう一方の出力で負電圧を生成して います。この回路の入力電圧は 6V 40V です。 V OUT1 3.3V/10A V OUT2 -12V/3A を出力します。どちらの出力 もコントローラIC であるU1 LTC3892 )によって制御さ れます。 V OUT1 の正電圧は、単純な降圧コンバータの機能 によって生成します。 V OUT2 の負電圧は、もう少し複雑な 構造によって実現しています。 V OUT2 GND に対して負 であるため、負電圧を検出して 0.8V のリファレンスにス ケーリングするために差動アンプU2 を使用しています。 はじめに 産業、自動車、 IT 、ネットワークといった分野では、数 多くのパワー・エレクトロニクスや IC 、デバイス、シス テムなどが使われます。なかでも、 DC/DC コンバータに ついては、昇圧、降圧、 SEPIC Single Ended Primary Inductor Converter )といったトポロジを様々なバリエー ションで実現できるようにしています。もちろん、最適化 という観点からは、プロジェクトごとに専用のコントロ ーラ IC を使用することが理想です。しかし、それには大 きな投資が必要になります。その新たなコントローラ IC が、準拠が求められる規格を満たしているかどうかテス トしたり、特定の用途、条件、装置における機能を検証 したりするために、膨大な作業、時間、コストが発生す るからです。設計/開発にかかるコストを削減するため には、既に検証を実施済みで実績のあるコントローラ IC を、様々な用途に適用することが有効な方策になります。 電源電圧を生成するために最もよく使用されるのは、降 圧のトポロジです。しかし、このトポロジでは、所望の 出力電圧よりも高い入力電圧から正の出力を得ることし かできません。つまり、負の電圧を直接生成することは できません。また、入力電圧が所望の出力電圧を下回 った場合には、安定した出力は得られないということで す。ところが、そうした機能は、車載エレクトロニクス 1. 正電圧と負電圧を生成するコンバータ回路。 LTC3892 をベースとしています。 V OUT1 3.3V/10A V OUT2 -12V/3A を出力します。 INTV CC V IN RUN RUN V IN V IN RUN V IN 3μF × 10μF 3 × 10μF 47μF 0.1μF 4.7μF 1MΩ 1MΩ 0.1μF 7.5kΩ 10nF LT1797 U2 5.11kΩ RF1 76.8kΩ 4.75kΩ RF2 RF3 10nF 330pF Q1 L3 18μH 10μF 10μF + + 150μF Q3 Q2 0.1μF L1 2.2μH 2mΩ 10μF 10μF 470μF 1nF 4.75kΩ 4.7nF 100pF 0.1μF 0.1μF 43.2kΩ 100kΩ 1MΩ 237kΩ 0.1μF SENSE2+ FREQ PGOOD2 VPRG1 PLLIN/MODE DRVSET RUN2 VFB1 TRACK/SS1 ITH1 SENSE1+ RUN1 SENSE1– BG1 BOOST1 SW1 TG1 GND DRVCC EXTVCC INTVCC V IN BG2 BOOST2 SW2 TG2 PGOOD1 ILIM TRACK/SS2 ITH2 VFB2 SENSE2– DRVUV LTC3892EUH-2 U1 5mΩ 1nF 150Ω D1 L2 18μH V IN 6V40V V OUT2 –12V @ 3A V OUT1 3.3V @ 10A D1 SBR8U60P5 L1 74439369022 Wurth Electronics製) Q1Q2 BSC028N06LS3 L2L3 PG0936.183NL Pulse Electronics製) Q3 BSC100N06LS3 10μFのすべてのコンデンサ: 12105C106KAT2A AVX製、 50V対応) + +

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Analog Dialogue 52-12 1

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シンプルな降圧コントローラにより、 高精度のバイポーラ電源を実現著者:Victor Khasiev

向けの電源では重要な要件になります。この用途では、アンプに負電圧を供給しなければならないケースがあります。また、コンバータに供給される入力電圧が大きく低下するコールド・クランクが発生したとしても、システム全体が連続的に正しく動作するようにしなければなりません。これらの課題に対応するにはどうすればよいのでしょうか。本稿では、シンプルな降圧コントローラを使用し、SEPIC、Cukコンバータ、昇圧コンバータを実現する方法を紹介します。

共通の入力レールから正/負の電圧を生成

図 1に示したのは、デュアル出力の降圧コントローラIC「LTC3892」をベースとするバイポーラ電源の回路です。この ICを最大限に活用することにより、一方の出力で正電圧を生成し、もう一方の出力で負電圧を生成しています。この回路の入力電圧は 6 V~ 4 0 Vです。V O U T 1は3.3V/10A、V OUT2は -12V/3Aを出力します。どちらの出力もコントローラ ICであるU1(LTC3892)によって制御されます。V OUT1の正電圧は、単純な降圧コンバータの機能によって生成します。V OUT2の負電圧は、もう少し複雑な構造によって実現しています。V O U T 2はG N Dに対して負であるため、負電圧を検出して0 .8Vのリファレンスにスケーリングするために差動アンプU2を使用しています。

はじめに

産業、自動車、 IT、ネットワークといった分野では、数多くのパワー・エレクトロニクスや IC、デバイス、システムなどが使われます。なかでも、DC/DCコンバータについては、昇圧、降圧、SEPIC(Sing le Ended Pr imary Inductor Conver ter)といったトポロジを様々なバリエーションで実現できるようにしています。もちろん、最適化という観点からは、プロジェクトごとに専用のコントローラ ICを使用することが理想です。しかし、それには大きな投資が必要になります。その新たなコントローラ ICが、準拠が求められる規格を満たしているかどうかテストしたり、特定の用途、条件、装置における機能を検証したりするために、膨大な作業、時間、コストが発生するからです。設計/開発にかかるコストを削減するためには、既に検証を実施済みで実績のあるコントローラ ICを、様々な用途に適用することが有効な方策になります。

電源電圧を生成するために最もよく使用されるのは、降圧のトポロジです。しかし、このトポロジでは、所望の出力電圧よりも高い入力電圧から正の出力を得ることしかできません。つまり、負の電圧を直接生成することはできません。また、入力電圧が所望の出力電圧を下回った場合には、安定した出力は得られないということです。ところが、そうした機能は、車載エレクトロニクス

図 1 . 正電圧と負電圧を生成するコンバータ回路。LT C 3 8 9 2をベースとしています。 V O U T 1は 3 . 3 V / 1 0 A、V O U T 2は - 1 2 V / 3 Aを出力します。

INTVCC

VIN

RUN RUN

VIN

VIN

RUN

VIN

3µF × 10µF

3 × 10µF

47µF

0.1µF4.7µF

1MΩ

1MΩ

0.1µF7.5kΩ10nF

LT1797

U2

5.11kΩRF1

76.8kΩ

4.75kΩ

RF2

RF3

10nF

330pF

Q1

L3

18µH10µF

10µF

+

+

150µF

Q3

Q20.1µF

L1

2.2µH 2mΩ

10µF

10µF470µF

1nF

4.75kΩ 4.7nF

100pF

0.1µF

0.1µF

43.2kΩ

100kΩ

1MΩ

237kΩ

0.1µF

SENSE2+

FREQ

PGOOD2

VPRG1

PLLIN/MODE

DRVSET

RUN2

VFB1

TRACK/SS1ITH1

SENSE1+

RUN1SENSE1–

BG1BOOST1

SW1TG1

GND

DRVCC

EXTVCCINTVCC

VIN

BG2

BOOST2

SW2

TG2

PGOOD1

ILIM

TRACK/SS2

ITH2

VFB2

SENSE2–

DRVUV

LTC3892EUH-2U1

5mΩ1nF

150Ω

D1

L2

18µH

VIN:6V~40V

VOUT2、 –12V @ 3A

VOUT1、 3.3V @ 10A

D1 SBR8U60P5 L1:74439369022(Wurth Electronics製)Q1、Q2 BSC028N06LS3 L2、L3:PG0936.183NL(Pulse Electronics製)Q3 BSC100N06LS3 10μFのすべてのコンデンサ:12105C106KAT2A (AVX製、50V対応)

+

+

Page 2: シンプルな降圧コントローラにより、 高精度のバイポーラ電源 ... · 2019-03-10 · を使用し、sepic 、cuk コンバータ、昇圧コンバータを

Analog Dialogue 52-122

U1とU2が共にシステムのGNDを基準にしていることから、電源の制御と各種の機能が非常に簡素な回路で実現できています。図 1の例とは異なる出力電圧が必要な場合には、以下に示す式を使って、抵抗R F 2とR F 3の値を計算してください。

.

KR =

RF1 = 5.11k

0.8V|VO|

RF2 = RF1KR

RF3 = RF1 × RF2RF1 + RF2

V OUT2のパワー・トレインには、Cukトポロジを採用しています(Cukの詳細については、各種の技術文書を参照してください)。このパワー・トレインを構成する各部品には、どのような電圧がかかるのでしょうか。それについて理解するために必要な基本的な式は以下のとおりです。

D = |VO|

|VO| + VIN

VDS = VD = VC

VC = VIN

1 – D

図 2に、 V O U T 2の効率をシミュレーションした結果を示しました。この回路のLTs p i c e ®用シミュレーション・モデルは、こちらから入手することができます。この例では、LT C 3 8 9 2の入力は 1 0 V~ 2 0 V、出力は 5 V / 1 0 Aと -5V/5Aとしています。

80

75

85

95

90

100

700.0 1.51.00.5 2.0 2.5 3.0

効率〔

%〕

負荷電流〔A〕

図 2 . 図 1の回路の効率。 1 4 Vの入力電圧を基に 負電圧を出力する場合のシミュレーション結果です。

変動する入力レールから安定した出力を生成

図3に示したコンバータは、3 . 3 V / 1 0 AのV O U T 1と1 2 V / 3 Aの V O U T 2という 2つの出力を備えています。入力電圧は6V~40Vです。V OUT1は、図1の回路と同じように生成されます。一方のV OUT2は、SEPICコンバータとして構成されています。このSEPICコンバータは、上記のCukトポロジと同様に、非結合型のディスクリートのインダクタを2つ使用しています。個別のクロックを使用することにより、利用可能な磁性部品の選択肢は大幅に拡大されます。このことは、コストを重視するケースでは、非常に重要なポイントになります。

図 3 . 降圧、S E P I Cに対応するコンバータ回路。 LT C 3 8 9 2をベースとしています。

INTVCC

VIN

RUN RUN

VIN

VIN

RUN

VIN

3µF × 10µF47µF

0.1µF4.7µF

1MΩ

1MΩ

1µF

0.1µF

100kΩ

7.15kΩ7.5kΩ10nF

330pF

Q1

L3

18µH10µF

10µF+

150µF

3 × 10µF Q3

Q20.1µF

L1

2.2µH 2mΩ

10µF

10µF470µF

1nF

4.75kΩ 4.7nF

100pF

0.1µF

0.1µF

43.2kΩ

100kΩ

1MΩ

237kΩ

0.1µF

SENSE2+

FREQ

PGOOD2

VPRG1

PLLIN/MODE

DRVSET

RUN2

VFB1

TRACK/SS1ITH1

SENSE1+

RUN1SENSE1–

BG1BOOST1

SW1TG1

GND

DRVCC

EXTVCCINTVCC

VIN

BG2

BOOST2

SW2

TG2

PGOOD1

ILIM

TRACK/SS2

ITH2

VFB2

SENSE2–

DRVUV

LTC3892EUH-2

5mΩ1nF

150ΩD1

L218µH

VIN:6V~40V

VOUT2、 12V @ 3A VOUT1、

3.3V @ 10A

D1 SBR8U60P5 L1:74439369022(Wurth Electronics製)Q1、Q2 BSC028N06LS3 L2、L3:PG0936.183NL(Pulse Electronics製)Q3 BSC100N06LS3 10μFのすべてのコンデンサ:12105C106KAT2A                              (AVX製、50V対応)

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Analog Dialogue 52-12 3

D = VO

VO + VINVC = VIN

VDS = VD = VIN + VO

図4は、コールド・クランクなどによって入力電圧が降下した場合の出力応答です。図5には、ロード・ダンプなどによって入力電圧にスパイクが生じた場合の出力を示しました。それぞれの図を見ると、入力レール電圧V INが公称電圧である12Vよりも大きく低下/上昇しています。それでも、V OUT1とV OUT2の両出力は、安定した状態を維持しています。重要な負荷に対し、電力を安定して供給し続けることが可能だということです。なお、2個のインダクタをベースとするSEPICコンバータは、配線を少し修正することで、1個のインダクタを使用する昇圧コンバータに容易に変更することができます。

CH1: VIN, 2 V/div; 1 ms/divCH2: VOUT2, 5 V/div; 1 ms/divCH3: VOUT1, 2 V/div; 1 ms/div

図 4 . 入力レール電圧が 1 4 Vから 7 Vに低下した場合の 出力。V O U T 1、V O U T 2は、いずれも安定した状態を

維持しています。

CH1: VIN, 5 V/div; 1 ms/divCH2: VOUT2, 5 V/div; 1 ms/divCH3: VOUT1, 2 V/div; 1 ms/div

図 5 . 入力レール電圧が 1 4 Vから 2 4 Vに上昇した場合の 出力。V O U T 1、V O U T 2は、いずれも安定した状態を

維持しています。

これらの応答に関連するLTs p i c eのシミュレーション・モデルは、こちらから入手できます。LTC3892の入力は10V~20V、出力は5V/10Aと -5V/5Aです。

まとめ

本稿では、降圧コントローラ ICをベースとしてデュアル出力のバイポーラ電源を構成する方法について説明しました。この方法を採用すれば、単一のコントローラ ICを使用するだけで、降圧、昇圧、SEPIC、Cukの各トポロジに対応できます。このことは、産業分野や車載分野向けにエレクトロニクス製品を供給するベンダーにとって大きなメリットになります。実績のある単一のコントローラ ICをベースとし、様々な出力電圧を供給する電源を設計することができるからです。

著者:

Vic tor Khas iev(vic tor.khas iev@analog .com)は、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアです。パワー・エレクトロニクスの分野を担当しており、AC/DC変換とDC/DC変換の両方に関する豊富な経験を持ちます。また、車載用途や産業用途をターゲットとするアナログ・デバイセズの IC製品の使い方に関して、複数の記事を執筆しています。それらの記事では、昇圧、降圧、SEPIC、反転、負電圧、フライバック、フォワードに対応するコンバータや、双方向バックアップ電源などを取り上げています。効果的な力率改善の手法と高度なゲート・ドライバに関して2件の特許を保有しています。日々の業務では、顧客のサポート、製品に関する質問への回答、電源回路の設計/検証、プリント回路基板のレイアウト、トラブルシューティング、システムの最終テストなどに取り組んでいます。

Victor Khasiev