ファブラザイム - サノフィ e-mrgzjp.fabr.18.08.0390 1 2 ファブリー病とは?...

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ファブラザイム ® を投与される患者さんと そのご家族の皆様へ 【監修】東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター センター長 大橋 十也 先生 [お問い合わせ先] サノフィ株式会社 コールセンター くすり相談室 〒163-1488 東京都新宿区西新宿三丁目20番2号 フリーダイヤル 0120-109-905 ファブリー病は難病指定されている遺伝性疾患ですが、現在では根本的 治療法として酵素補充療法が確立されています。その1つであるファブラザイム ® はファブリー病の症状を改善したり、進行を抑えたりするために有用なお薬です。 ファブラザイム ® (1mg/kg)の効果を十分に得るためには、治療の継続が何と 言っても重要です。酵素補充療法は点滴治療であるため、2週間毎に通院しな ければならなかったり、治療効果がすぐに実感できなかったりして、治療を やめてしまいたくなることもあるかもしれません。そんなときには、治療を 行っているからこそ、症状が抑えられていることや、将来的に起こりうる臓器 障害を抑えることにつながっていることを思い出していただければと思います。 また、治療継続のためには、ご家族をはじめ、周囲の方々の理解と協力を得る ことも重要です。1人で悩まず、患者会に参加したり、遺伝カウンセラーに相談 したりするのも1つの解決策になるかもしれません。もちろん、我々医師を はじめとする医療従事者にも遠慮なくご相談ください。 本冊子が、患者さんやご家族の皆様がファブリー病、さらにはファブラ ザイム ® について理解を深め、より良い日常生活を送る上で、お役に立ちまし たら幸いです。 監修医コメント 監修:東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター センター長 大橋 十也 先生 [参考文献] ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会編: ファブリー病診断治療ハンドブック2015. イーエヌメディックス, 東京, 2015 衞藤義勝責任編集:ファブリー病UpDate, 診断と治療社, 東京, 2013 2018年9月作成 GZJP.FABR.18.08.0390

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  • ファブラザイム®を投与される患者さんとそのご家族の皆様へ

    【監修】東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター   センター長 大橋 十也 先生

    [お問い合わせ先]サノフィ株式会社 コールセンター くすり相談室〒163-1488 東京都新宿区西新宿三丁目20番2号

    フリーダイヤル 0120-109-905

     ファブリー病は難病指定されている遺伝性疾患ですが、現在では根本的治療法として酵素補充療法が確立されています。その1つであるファブラザイム®

    はファブリー病の症状を改善したり、進行を抑えたりするために有用なお薬です。ファブラザイム®(1mg/kg)の効果を十分に得るためには、治療の継続が何と言っても重要です。酵素補充療法は点滴治療であるため、2週間毎に通院しなければならなかったり、治療効果がすぐに実感できなかったりして、治療をやめてしまいたくなることもあるかもしれません。そんなときには、治療を行っているからこそ、症状が抑えられていることや、将来的に起こりうる臓器障害を抑えることにつながっていることを思い出していただければと思います。また、治療継続のためには、ご家族をはじめ、周囲の方々の理解と協力を得ることも重要です。1人で悩まず、患者会に参加したり、遺伝カウンセラーに相談したりするのも1つの解決策になるかもしれません。もちろん、我々医師をはじめとする医療従事者にも遠慮なくご相談ください。 本冊子が、患者さんやご家族の皆様がファブリー病、さらにはファブラザイム®について理解を深め、より良い日常生活を送る上で、お役に立ちましたら幸いです。

    ● 監修医コメント監修:東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター

    センター長 大橋 十也 先生

    [参考文献]ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会編:ファブリー病診断治療ハンドブック2015. イーエヌメディックス, 東京, 2015衞藤義勝責任編集:ファブリー病UpDate, 診断と治療社, 東京, 2013

    2018年9月作成GZJP.FABR.18.08.0390

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    ファブリー病とは?

    ファブリー病は遺伝性疾患であるライソゾーム病の一種です。ファブリー病はα-ガラクトシダーゼという酵素をつくる遺伝子に変化がみられるため、その活性が弱く(あるいは無く)、グロボトリアオシルセラミド(GL-3)という物質が分解されず、細胞内に蓄積する疾患です。そのため、ファブリー病では、全身にさまざまな症状が出現します。

    ファブリー病では、本来分解されるべき物質であるGL-3が全身の細胞に蓄積するため、心臓や腎臓、脳をはじめ、さまざまな臓器に症状が現れます。症状の種類や時期、程度には個人差があります。

    ライソゾーム病とは私たちの体の細胞では、生きるために必要な成分やエネルギーを毎日つくり出しています。一方で、いらなくなった物質は、細胞の中の「ライソゾーム」という小器官で分解され、再利用されています。ライソゾーム内には、いらなくなった物質を分解するためにさまざまな「酵素」が存在し、生まれつきこの酵素の働き(活性)が弱い(あるいは無い)ことが原因で、分解されるべき物質が細胞内にたまる病気をライソゾーム病といいます。

    ファブリー病では、全身にさまざまな症状が出現します(p2参照)。

    細胞の中にあるライソゾームで、α-ガラクトシダーゼという

    酵素の働きが低下していると…

    GL-3という物質がライソゾームに

    徐々に蓄積していきます。 これらの症状は一度に出現するのではなく、順次出現するのがファブリー病の特徴です。

    ファブリー病の病態

    神経頭痛、めまい、片麻痺(どちらかの半身に生じる麻痺)など

    脳血管脳梗塞、脳出血

    心臓心肥大、不整脈、心不全など

    自律神経手足の痛み、汗をかかない・かきにくい、知覚異常など

    皮膚赤紫色の発疹(被角血管腫)

    眼角膜混濁など※視力に影響はありません

    呼吸器せき、ぜんそく

    その他うつなど

    耳めまい、難聴など

    消化器腹痛、下痢など

    腎臓たんぱく尿、腎不全

    ファブラザイム®治療を始める前に

    ライソゾームミトコンドリア

    核粗面小胞体そ めん ほうたいしょうリボソーム

    ゴルジ体

    ヒトの細胞

    GL-3GL-3

    ファブリー病の症状

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    ファブリー病の治療とは?

    ファブリー病の治療には、蓄積したGL-3を除去する根本的治療の「酵素補充療法」とファブリー病の症状を軽減させる「対症療法」があります。患者さんの症状や進行に合わせて、これらの治療法を組み合わせます。

    対症療法は、手足の痛み、心臓の症状、腎臓の症状、脳血管の症状、聴力低下・耳鳴り、腹痛・下痢などを軽減する治療です。

    酵素補充療法により、蓄積しているGL-3の分解が進み、ファブリー病の進行を抑えることができます。

    ファブリー病の治療

    対症療法

    + 対症療法酵素補充療法(根本的治療) 対症療法

    酵素補充療法は、不足している酵素(α-ガラクトシダーゼ)を補充し、各臓器の細胞内に蓄積した物質(GL-3)を分解することにより、現在のファブリー病の症状を改善するだけでなく、進行も抑えます。

    酵素補充療法

    GL-3が蓄積したライソゾーム

    蓄積しているGL-3を除去

    心臓の症状

    難聴、耳鳴り、めまいに対する一般的な治療、補聴器の装着

    聴力低下・耳鳴り

    抗血小板薬の服用

    脳血管の症状

    整腸剤の服用

    腹痛・下痢

    抗てんかん薬の服用、体温調節、活動制限

    手足の痛み

    降圧薬(血圧降下剤)の服用、

    透析、腎移植

    腎臓の症状

    ヒトの細胞

    酵素補充療法

    カルシウム拮抗薬、降圧薬(血圧降下剤)

    の服用、ペースメーカの装着

    きっこう やく

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    ファブラザイム®はどんなお薬?

    ファブラザイム®はファブリー病の根本的治療である酵素補充療法のためのお薬であり、患者さんの体重に合わせた必要量(1mg/kg)を2週間毎に点滴します。投与した酵素は、時間が経つと体の中で分解されるため、定期的に継続して投与する必要があります。

    ファブラザイム®は、組織(心臓や腎臓、皮膚など)に蓄積した物質(GL-3)を分解し、細胞から除去することが臨床試験の結果から示されており、ファブリー病の進行を抑えることが確認されています。

    ファブラザイム®の投与に際して

    ファブラザイム®の治療効果

    ・初回投与時は、副作用の発現を避けるために、ゆっくりと投与していきます。・副作用の発現状況を確認の上、問題がなければ、投与速度を徐々に速めていくので、点滴時間も少しずつ短くなります。・投与時に副作用が発現した場合には、次回投与時に副作用の発現を抑えるため、投与前処置として抗ヒスタミン剤や解熱鎮痛剤、ステロイド剤などを投与することがあります。

    治療開始時期(目安)

    症状(p2参照)が1つでも現れた場合、治療を始めます。子どもの頃から、GL-3の蓄積が始まっていると考えられるためです。はじめて現れる症状は4~5歳時の手足の痛みが多く、この時期が酵素補充療法を始める目安となります。

    男性よりも症状が軽いことが多く、また、同じ女性の間でも、人によって症状の程度にばらつきがあります。そのため、治療開始の判断は、男性に比べ難しいですが、20歳を目安に検討します。また、腎臓、心臓、脳血管などへの影響が明らかに見られる場合には、治療を始めたほうが良いと考えられています。

    点滴時間は長く感じるかもしれませんが、長年かけて蓄積してしまったGL-3を除去するためには、必要な量の酵素を2週間毎にきちんと継続して投与することが大切です。

    男性

    女性

    ファブラザイム®によるGL-3の除去は、将来的に起こりうる症状を抑えることにつながります。また、すでに症状が現れている場合でも、他の臓器で症状が起こらないようにするために、ファブラザイム®治療は重要です。

    治療前 治療後

    ファブリー病患者の腎臓組織

    左図の矢印(➡)部分はGL-3の蓄積を示しており、ファブラザイム®治療後にはGL-3が除去されていることがわかります。

    ファブラザイム®は海外では、2001年8月に欧州で、また、2003年4月に米国、日本では2004年4月に承認を受け、2017年現在、78ヶ国で承認されています。

    ファブラザイム®は国内外で幅広く使用されているファブリー病治療薬です。

    MEMO

    ファブラザイム®国内第Ⅱ相試験

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    ファブラザイム®投与の目的は?

    ファブラザイム®による酵素補充療法の大きな目的は、GL-3を各種細胞から除去することにより、心不全、腎不全、脳梗塞などの発症を抑えることです。そのため、長期間にわたり治療を継続することが重要となります。

    酵素補充療法によるGL-3除去効果は酵素の累積投与量に比例することが報告されているため、ファブラザイム®1mg/kgの投与を継続することが重要です。

    ファブリー病の治療をしないと?

    酵素補充療法は効果が現れるまでに時間がかかるため、すぐに改善効果が実感できないかもしれません。しかしながら、現在症状が安定し、進行を抑えていることも、治療効果といえるのです。

    上記のような症状の進行を抑えることが、ファブラザイム®の治療意義になります。症状が現れていないからといって、治療を中断しないようにしましょう。進行を抑えるためにも早期治療と継続が重要です。

    Eng CM, et al. Am J Hum Genet. 68(3):711-722, 2001Tøndel C, et al. J Am Soc Nephrol. 24(1):137-148, 2013

    ファブリー病が進行すると、心臓の症状や腎臓の症状、脳血管の症状などがみられるようになり、突然死などのリスクが高まる可能性があります。

    古典型ファブリー病の進行モデル (イメージ図)ファブラザイム®累積投与量 (イメージ図)

    井田博幸:D 診断 1 臨床症状と臨床検査. 衞藤義勝責任編集:ファブリー病UpDate, 診断と治療社, 東京, 2013より改変

    心臓の症状

    注)症状の種類や時期、程度には個人差があります。

    0 30 60(歳)

    成人期から現れることの多い症状としては、右記のようなものが挙げられます。

    心臓の症状(心肥大、不整脈、心不全)

    腎臓の症状(たんぱく尿、腎不全)

    脳血管の症状(脳梗塞、脳出血) など250

    200

    150

    100

    50

    (mg/kg)

    10

    ファブラザイム®1mg/kgをきちんと継続することで5年後、10年後には大きな差となる

    脳血管の症状

    腎臓の症状

    手足の痛み

  • 9 10

    ファブラザイム®の副作用

    ファブラザイム®の副作用のほとんどが投与に関連する過敏症状で、「ぞくぞくする寒気」、「体温が上がる」、「だるくなる」、「息苦しくなる」、「鼻水・鼻づまり」などが多くみられます。ファブラザイム®によって補充される酵素は、本来、体内に存在するものですが、ファブリー病の患者さんではその酵素が少ないあるいはまったく無いため、点滴投与されたファブラザイム®が体内で異物(抗原)として認識され、免疫反応(抗原抗体反応)が起こり、副作用がみられると考えられています。

    主な自覚症状

    ファブラザイム®投与時に現れる重症度別にみた過敏症状

    治療を続けていくうちに、過敏症状が起こりにくくなる方もいらっしゃいます。

    ぞくぞくする寒気(悪寒)

    息苦しくなる(呼吸困難) 鼻水・鼻づまり(鼻炎)

    体温が上がる(発熱) だるくなる(倦怠)

    重症度 症状の種類

    軽 度部分的な発疹(体の5%未満)かゆみ、くしゃみ、涙、鼻づまり、熱っぽい

    中等度軽い息苦しさ、ぜいぜい、ひゅうひゅうという呼吸音、せき、血管のむくみ、発疹(体の5%以上)、赤み、脈が速くなる、嘔吐、全身にみられるかゆみ

    重 度重度の息苦しさ、血圧の低下、極度の脱力状態、急激な意識障害

    このような症状がみられた場合には、

    お近くの医師または看護師にすぐに

    お伝えください。投与の速さをゆっくり

    にしたり、副作用治療のための薬剤を

    投与したりして対応いたします。

    ファブラザイム®投与時にみられる副作用を防ぐために、投与速度をゆっくりにしたり、投与を一旦やめて、適切なお薬による治療(抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛剤、ステロイド剤など)を行うこともあります。