ネフローゼ症候群を発症し,腎生検でproliferative … · 2016-10-07 ·...

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症  例 症 例:74 歳 男性 主訴:両下腿浮腫 臨床経過: 74 歳時両下腿浮腫出現。食指不振もあり, 近医にて検査したところ,尿蛋白指摘され,ネ フローゼ症候群疑いにて当院紹介受診。 既往歴: 69 歳 脂質異常症  74 歳 十二指腸癌 入院時現症:160cm 76.9kg(著変なし)血圧 133/76mmHg 脈拍 85 回/min 両下腿に浮腫 あり。 入院時検査所見:TP 6.0g/dl, Alb 2.3g/dl, Cre 0.77mg.dl, 血 清 IgG 1040mg/dl, IgA 440mg/dl, IgM 56mg/dl, CH50 51U/ml, 抗好中球抗体・抗 核抗体陰性, HBs 抗原・HCV 抗体陰性, クリオ グロブリン陰性,尿蛋白 9.94g/g.cre, 尿中赤血 5-9/HPF 腎生検所見: 光顕では計 25 個の糸球体が得られ,メサン ギウム基質の拡大および糸球体係蹄の肥厚をわ ずかに認めるのみであった。IF では IgG が係蹄 壁に沈着してみられたことから,膜性腎症の初 期を当初疑った。しかしその後追加検討で,軽 鎖イソタイプでκのみが陽性を示し,λは染色 されなかった。IgG サブクラスが IgG1 および IgG4 に染色性を示し,また電顕で上皮下に無 構造な沈着物が観察された。 診断に難渋したが,IF でκのみが陽性である ことから単クローン性と判断し,Proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG deposits PGNMID)を疑い,その後ステロイド治療を 開始。その後の経過も含めて報告する。 1 海老名総合病院 腎臓内科 2 海老名総合病院 病理診断科 ** 3 川﨑市立多摩病院 病理診断科 4 山口病理組織研究所 5 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 ネフローゼ症候群を発症し,腎生検で Proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG deposits (PGNMID)を疑った1例 清 澄 理 恵 1 後 藤 巨 木 1 香 取 秀 幸 1 小 俣 正 子 1 松 本 光 司 2 小 池 淳 樹 3 病理コメンテータ 山 口   裕 4 城   謙 輔 5 Key Word:ネフローゼ症候群,膜性腎症,PGNMID 225 第 64 回神奈川腎炎研究会

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Page 1: ネフローゼ症候群を発症し,腎生検でProliferative … · 2016-10-07 · 血清免疫電気泳動 特異的パターンなし 尿中免疫電気泳動 特異的パターンなし

症  例症 例:74歳 男性 主訴:両下腿浮腫臨床経過:74歳時両下腿浮腫出現。食指不振もあり,

近医にて検査したところ,尿蛋白指摘され,ネフローゼ症候群疑いにて当院紹介受診。既往歴:69歳 脂質異常症  74歳 十二指腸癌入院時現症:160cm 76.9kg(著変なし) 血圧

133/76mmHg 脈拍85回/min 両下腿に浮腫あり。入院時検査所見:TP 6.0g/dl, Alb 2.3g/dl, Cre

0.77mg.dl, 血 清 IgG 1040mg/dl, IgA 440mg/dl, IgM 56mg/dl, CH50 51U/ml, 抗好中球抗体・抗核抗体陰性, HBs抗原・HCV抗体陰性, クリオグロブリン陰性,尿蛋白9.94g/g.cre, 尿中赤血球5-9/HPF

腎生検所見:光顕では計25個の糸球体が得られ,メサン

ギウム基質の拡大および糸球体係蹄の肥厚をわずかに認めるのみであった。IFでは IgGが係蹄壁に沈着してみられたことから,膜性腎症の初期を当初疑った。しかしその後追加検討で,軽鎖イソタイプでκのみが陽性を示し,λは染色されなかった。IgGサブクラスが IgG1およびIgG4に染色性を示し,また電顕で上皮下に無構造な沈着物が観察された。

診断に難渋したが,IFでκのみが陽性であることから単クローン性と判断し,Proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG deposits

(PGNMID)を疑い,その後ステロイド治療を開始。その後の経過も含めて報告する。

(1 海老名総合病院 腎臓内科(2 海老名総合病院 病理診断科**(3 川﨑市立多摩病院 病理診断科(4 山口病理組織研究所(5 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座

ネフローゼ症候群を発症し,腎生検でProliferative glomerulonephritis withmonoclonal IgG deposits (PGNMID)を疑った1例

清 澄 理 恵1  後 藤 巨 木1  香 取 秀 幸1

小 俣 正 子1  松 本 光 司2  小 池 淳 樹3

病理コメンテータ   山 口   裕4  城   謙 輔5

Key Word:ネフローゼ症候群,膜性腎症,PGNMID

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第64回神奈川腎炎研究会

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図 6

図 5

入院後経過①

血性ALB:2.3g/dl、尿蛋白9.94g/g・cre、浮腫の

出現、脂質異常症あり、ネフローゼ症候群と診断。

2014.7.11 腎生検施行。

図 4

来院時検査所見②血清免疫電気泳動 特異的パターンなし

尿中免疫電気泳動 特異的パターンなし

免疫グロブリン遊離L鎖 κ/λ 比 1.13(基準 0.26-1.65)

HBsAg (-)HCVAb (-)梅毒(TPHA) (-)

IgG 1040 mg/dl

IgA 440 mg/dl

IgM 56 mg/dl

CH50 51 U/ml

抗核抗体 陰性

抗DNA抗体 陰性

抗Sm抗体 陰性

クリオグロブリン 陰性

MPO-ANCA 陰性

PR3-ANCA 陰性

来院時検査所見①WBC 5250 /µl

RBC 395 万/mm3

Hb 12.9 g/dl

Ht 38.3 %

Plt 27.1 万/µl

TG 111 mg/dl

HDL 46 mg/dl

LDL-chol 179 mg/dl

HbA1c 5.4 %

CRP 0.03 mg/dl

TP 6.0 g/dl

ALB 2.3 g/dl

AST 21 U/l

ALT 13 IU/l

LDH 203 IU/l

UN 15.7 mg/dl

Cre 0.77 mg/dl

GFR 75.1 ml/min/1.73m2

UA 7.5 mg/dl

Na 141 mEq/l

K 4.1 mEq/l

Cl 106 mEq/l

Ca 8.0 mg/dl

P 3.3 mg/dl

検尿所見

比重 1.020pH 7.0尿蛋白 4+尿潜血 2+赤血球 5-9/HPF白血球 1-4/HPF扁平上皮 1-4/HPFガラス円柱 10-19/HPF

蛋白/cre 9.94 g/g・cre

NAG 47.2 IU/day

α1MG 49.3 mg/l

BJ蛋白 (-)

PT 11.8 %

APTT 21.1 秒

FDP 5以下 μg/dl

Fib 436 mg/dl

Ddimer 4.1(0.0-0.9)

μg/ml

蓄尿

尿蛋白 8.4 g/daySelectivity Index 0.34

図 3

入院時現症意識清明

身長160cm 体重76.9kg(元々71kg台)血圧133/76mmHg 脈拍85bpm 整体温36.4度眼瞼結膜蒼白なし

頚部リンパ節腫脹なし

胸部:心音・呼吸音異常なし

腹部:平坦・軟・圧痛なし

四肢:両下腿浮腫あり

図 2

症例症例:74歳 男性

主訴:両下腿浮腫

既往歴:69歳 脂質異常症、74歳 十二指腸癌

内服薬:イコサペント酸エチル(600mg)2包

嗜好品:飲酒:なし、 喫煙:20本/日×34年

家族歴:父:胃癌

現病歴:検診などで検尿異常を指摘されたことなし。初診二週間前から両下腿浮腫出現。一週間前から食指不振も伴い、近医受診したところ、尿蛋白指摘され、ネフローゼ症候群疑いにて当院紹介受診。

図 1

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腎炎症例研究 32巻 2016年

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図 12

図 11

図 10

κ

λ

C3c C1q

C4

図 9

図 8

図 7

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第64回神奈川腎炎研究会

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図 18

MIDDとPGNMIDの比較

結節性病変なし

本症例はIgG1とIgG4に沈着

無構造deposit

Kidney International (2015) 87, 698‐711  :Diagnosis of monoclonal gammopaty of renal significance 

M蛋白なし

図 17

鑑別診断

単クローン性といっていいかどうか

単クローン性といえる 単クローン性といえない

PGNMIDRandall型MIDD

(軽鎖重鎖沈着症) 膜性腎症 stage1(+FSGS?)

特発性 二次性

λκ

図 16

本症例の病理所見まとめ

・光顕では変化に乏しく、FSGS(focal segmental glomerulosclerosis),tip variantあるいは、minor glomerular abnormality

・電顕所見としては、上皮下とメサンギウム領域にdepositあり

・IFでは軽鎖κ(λは0~±)と重鎖IgG(ただしサブクラス染色はIgG1<IgG4)が染色

単クローン性といっていいかどうか??

図 15

図 14

図 13

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腎炎症例研究 32巻 2016年

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図 24

疑問点

・本症例を単クローン性といっていいか。

→単クローン性といっていいとすると、診断はPGNMIDでよいか。

→単クローン性とはいいがたい、やはり膜性腎症が疑わしい(電顕の上皮下のdepositはhumpともとらえられる)、とすると、κとλの染色性の差はどう考えたらよいか。

図 23

入院後経過②

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

0

2

4

6

8

10

12

10/17/2014 11/17/2014 12/17/2014 1/17/2015 2/17/2015 3/17/2015 4/17/2015 5/17/2015 6/17/2015 7/17/2015

ALB(g/dl)、Cre(mg/dl)

尿蛋

白(g/g・cre)

尿蛋白(g/g・cre) ALB(g/dl) Cre(mg/dl)

尿蛋白(g/g・cre)

ALB(g/dl)

Cre(mg/dl)

PSL20mg PSL17mg 15mg 12mg 10mg

図 22

入院後経過①

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

0

2

4

6

8

10

12

7/4/2014 7/14/2014 7/24/2014 8/3/2014 8/13/2014 8/23/2014 9/2/2014

ALB(g/dl)、Cre(mg/dl)

尿蛋白(g/g・cre)

尿蛋白(g/g・cre) ALB(g/dl) Cre(mg/dl)

7/11腎生検

Cre(mg/dl)

尿蛋白 ALB(g/dl)

9/22十二指腸癌手術

PSL40mg PSL35mg 25 20

膜性腎症

糸球体基底膜の上皮側に

免疫複合体が沈着+補体が活性化

糸球体基底膜の蛋白透過性が亢進

ネフローゼ症候群を来たす

特発性膜性腎症において、最も有力な抗原として、

M‐type phospholipase A2 receptor(PLA2R1)が報告された。

(ただし日本では他国に比べ陽性率が低い。)腎生検病理アトラス 東京医学社 98‐104腎と透析 Vol.76 No.1 丸山彰一ら 25‐30 膜性腎症とPLA2R1抗体

図 21

PGNMID組織像

IgG128%

IgG26%IgG3

66%

IgG40%

IgGサブタイプ分類

IgG1 IgG2 IgG3 IgG4

IgG4は0%

・城謙輔ら:Nephrology Frontier Vol.13 No.04 52‐57 PGNMIDとMIDD・Nasr SH, et al : Proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG deposits : a distinct entuty mimicking immune‐complex glomerulonephritis. Kidney Int 65 : 

85‐96, 2004

図 20

PGNMID診断基準と本症例の比較

①『免疫染色にてγ重鎖(IgG)に陽性。IgAやIgMの重鎖は陰性であり、1つの免疫グロブリンに制限されている。』

⇒本症例に一致

②『IgGサブクラスのIgG1‐IgG4の1つが陽性で、さらに軽鎖アイソタイプのκかλの1つが陽性を示し、単クローン性沈着を示す。』

⇒本症例では、IgGサブクラスでIgG1もIgG4も陽性である点で矛盾。

③『電顕的に無構造の沈着物をメサンギウム、内皮下、上皮下領域に認める。』

⇒本症例の沈着物を無構造といっていいかどうか

④『自己抗体が陰性で、クリオグロブリンが陰性。』

⇒本症例に一致 Nephrology Frontier Vol.13 No.04 52‐57 PGNMIDとMIDD

図 19

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第64回神奈川腎炎研究会

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 次に蛍光染色です。IgG染色で,基底膜中心に顆粒状の沈着が見られます。C3にもわずかに沈着が見られました。 次に軽鎖の染色です。κ鎖に基底膜中心に明らかな染色線を認めました。λに関しては,0

から(±)程度の染色で,κとλに明らかに染色性の差が出ました。 IgGサブクラスの染色です。IgG1と IgG4に,基底膜とmesangium領域に1(+)以上の染色性を認めています。IgG2と IgG3は0から±レベルにとどまりました。IgG4は明らかな染色がありますが,IgG1は IgG4に比して弱めの染色になっています。 次に電顕所見です。上皮下に沈着物が見られました。mesangium領域にもdepositが見られます。沈着物は,ばらばらと散在していて,連続性とは言い難い所見と考えました。 強拡大です。無構造と言っていいか判断に迷いますが,線維構造や顆粒構造とは言い難いのではないかと考えました。 病理所見のまとめです。光顕では変化に乏しく,電顕では上皮下に細線維性や細顆粒状ではないdepositを,非連続性に認めました。そして,IFですが,軽鎖κは陽性,λは0から±程度の染色,重鎖は IgGのみが染色されましたが,サブ ク ラ ス と し て は,IgG4が 最 も 染 色 さ れ,IgG1は染色されていますが IgG4に比して弱い染色でした。そこで,この状態を単クローン性と言っていいかという点が疑問点として挙げられます。 そこで鑑別診断ですが,単クローン性と言っていいかどうかという点で診断が分かれていき, 単 ク ロ ー ン 性 と 言 え る の で あ れ ばPGMNID,あるいはRandall型MIDD。単クローン性と言い難いのであれば,膜性腎症が鑑別に挙がります。われわれはこの点で苦心し,κとλの染色に関して2回行いましたが,やはり2

回ともκとλの染色の差は明らかでしたので,単クローン性であると考え,PGMNID,あるいはRandall型MIDDと考えました。

討  論 清澄 よろしくお願いします。  ネ フ ロ ー ゼ 症 候 群 を 発 症 し, 腎 生 検 でPGNMIDを疑った症例を経験しましたので,発表させていただきます。 症例は74歳,男性。主訴は両下腿浮腫です。 既往歴として,69歳で脂質異常症,74歳で十二指腸癌を指摘されています。 内服・嗜好品,家族暦は以下のとおりです。 現病歴ですが,これまで検尿異常を指摘されたことはありませんでした。初診2週間前から両下腿浮腫が出現し,1週間前から食事不振が出現したため近医受診したところ,ネフローゼ症候群疑いにて当院紹介受診となりました。 入院時現症です。体重はプラス5kg以上の増加がありました。血圧は133/76mmHgで正常。身体所見として,両下腿浮腫を認めました。 来院時検査所見です。血清クレアチニン0.77mg.dl,eGFR 75.1と腎機能は正常でした。血清アルブミンは2.3g/dlと低下し,LDLコレステロールは179mg/dlと上昇を認めています。検尿所見として尿蛋白4(+),尿潜血2(+),蛋白定量は9.94g/g.creでした。Selectivity Indexは0.34と選択性は高くありません。 免疫学的所見です。各種抗体は全て陰性でした。免疫電気泳動は,血清も尿中も特異的パターンなしです。free light chain(κ/λ比)は1.13

で基準値内でした。感染症は陰性でした。 ネフローゼ症候群と診断し,腎生検を施行しています。 腎生検所見をお示しします。検体は2本,約25個の糸球体が得られました。硬化性変化を示す糸球体はほぼ認められません。この糸球体では,尿細管極部に泡沫細胞を認めています。 次にPAM染色です。場所により係蹄壁に微細な不整や,けば立ちを認めますが,スパイク形成は目立ちませんでした。mesangium細胞の増成や,mesangium領域に沈着物の存在を示唆するような像は見られませんでした。

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腎炎症例研究 32巻 2016年

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を行い,その後も順調に尿蛋白は改善し,現在は消失。ステロイド10mgでネフローゼ寛解状態を維持できています。 疑問点です。本症例を単クローン性と言っていいでしょうか。また,単クローン性と言っていいとすると,診断はPGMNIDでいいでしょうか。単クローン性とは言い難い,やはり膜性腎症でしょうか。その場合は,κとλの染色の差はどう考えたらいいでしょうか。ご教示いただければ幸いです。ありがとうございました。座長 はい,ありがとうございました。 では,こちらの報告につきまして,臨床的な点からご質問,ご討議等,お願いいたします。城先生,お願いいたします。城 先生の電顕の説明の中で,mesangium de-

positありとおっしゃいました。ここはすごく重要なところで,この年齢でmesangium deposit

があれば,膜性腎症として二次性を限りなく疑います。ちょっとそこをもう一回教えていただけますか。どこがmesangium depositですか。清澄 これは,この拡大の写真しかないのですけれども,このあたりに砂をばらまいたようなdepositを,mesangiumの沈着物というふうに考えています。城 砂をばらまいたのは,要するにRandall TypeのMIDDですけれども,しかしこの症例は,明らかにepimembranous depositがあるので,膜性腎症とMIDDが合併している症例と考えるわけですか。清澄 すみません。その点は検討不足で申し訳ないですが,その可能性も十分にあるのではないだろうかと思います。城 砂をまいたdepositというのは,大変難しいです。容易に認識できない症例が多いので,その場所をmesangium depositだと言い切るのはちょっと難しいのではないかと思います。清澄 ありがとうございます。座長 ほかにご質問等,ございませんでしょうか。この方は,経過で十二指腸癌の手術をされていらっしゃいますけれども,ネフローゼ症候

 そこで,本症例がRandall型MIDDなのか,PGMNIDな の か と い う 点 で す が,MIDDとPGMNIDを比較すると,MIDDでは光顕で結節性病変を認めることが多いが,本症例ではない点。電顕でPGMNIDで特徴的な無構造と思われるdepositが,本症例では認めるであろう点。ま た, 今 回 はM蛋 白 が な い 点 を 考 え る と,MIDDよりはPGMNIDのほうがより当てはまると考え,本症例はPGMNIDとわれわれは診断しました。 しかし,PGMNIDとして当てはまらない点があります。蛍光染色の部分ですが,PGMNID

では1種類のはずの IgGサブクラスの沈着が,本症例では IgG1と IgG4に沈着している点です。この点を診断基準とともにお示しします。 1から4がPGMNIDの診断基準ですが,これら4つのうち1と4は本症例に一致します。しかし,②では IgGサブクラスの沈着が,沈着の差はありましたが,IgG1も IgG4も沈着していることが矛盾として生じます。 さらに,本症例では,IgGサブクラスの染色が,IgG4が強陽性に染色されているのですが,PGMNIDの組織の内訳を調べてみると,IgG3

陽性のPGMNIDがメインであり,IgG4陽性のPGMNIDの報告は,これまで0%でした。この結果からも,本症例がPGMNIDと診断していいか,疑問点がさらに湧き上がる結果となりました。 次に膜性腎症についてです。膜性腎症とは,このような病態ですが,特発性において沈着する 免 疫 複 合 体 を 形 成 す る 抗 体 が,2009年,M-TypeホスホリパーゼA2レセプターが有力抗原として報告されています。このPLA2の染色が当院では施行できず染色できていませんが,PLA2の染色は,特発性膜性腎症の診断の大きな手掛かりになると考えられます。 最後に,入院経過をお示しします。プレドニゾロン40mgの経口内服を実施し,その後徐々に尿蛋白の改善と同時に血清アルブミンの改善を認めています。9月22日に十二指腸癌の手術

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第64回神奈川腎炎研究会

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てもらいました。それの結果が,PLA2も陽性ですし,κ,λも両方出てくる。2,3回やっても同じような結果でした。 今,蛍光所見は診断的に重要なので,蛍光の写真で切片を切るところから始まって,技士の技量が重要だろうと思います。

【スライド02】糸球体のcapillaryがやや細かくなって大きいです。hyalin様のものがcapillary

内に見られています。間質等は,大きな所見はないように思います。

【スライド03】細動脈の硝子化です。affarentと,efferenceに硝子化があって,polar vasculosis的な,糖尿病などで見られる血管の増生が見られます。mesangial matrixはそれほど拡大していないです。

【スライド04】弓状動脈の動脈硬化で,一部は内膜の肥厚が強い。

【スライド05】赤染する上皮下沈着が見えるかなと思います。efferentにまで硝子化がありますので,糖尿病に比較的特異性が高いわけで,カルニチンインヒビターを5年とか10年使っていますと,affarentばかりでなくて,efferenceにも糖尿病と類似した硝子化が見られていますので,一概にこれがあるからといっても糖尿病とは言えないように思います。

【スライド06】一部癒着があって,scleroticになっています。膜性腎症で進展する場合,間質性腎炎を取る場合と,高血圧とか何かがあってFSGSを合併してきて悪くなってしまう場合もあるのです。この方は,経過が良かったようであります。

【スライド07】PAMで見ますと,ざらざらするのが分かる。先ほどの糸球体と同じで,硝子化がはっきりしております。

【スライド08】polar vasculosisを示唆するperi-

cyteのある血管が増えて,硝子化を伴って,ここは JGAで,やや顆粒がありますので,ここも入り口の細動脈のaffarentのほうで,内皮下の硝子化があります。癒着があって,sclerotic

になっていると思います。

群の診断の前に十二指腸癌という診断をされていらっしゃったということですか。清澄 違います。ネフローゼ症候群を発症したために,スクリーニングでGIFなど消化管の精査を行ったところ,十二指腸癌が見つかって手術を行ったという経過です。座長 手術を行って,蛋白尿は極端に減ってきたというような,治療中の印象はないですか。清澄 そうですね。先行してステロイドを入れているので,ステロイドの反応性は良かったと考えています。もちろん手術後もステロイドを継続してその後も尿蛋白の改善はありますので,膜性腎症とした場合,二次性の可能性もあるのではないかと考えますが,手術をして特別に効きが良くなったとか,特別に経過が良くなったという印象は,データ上はありませんでした。座長 ほかに何か,臨床のほうからご質問等,ございませんでしょうか。先生,よろしくお願いいたします。長濱 日本医大病理の長濱と申します。普通に見ると,膜性腎症でいいのではないかと思うのですけれど,小池先生がPGMNIDとおっしゃっていたのですか。清澄 そうです。長濱 それだとあまり強く言えないのですけれども,膜性腎症として国家試験に出そうな症例だなと見ていました。先生が頻度で見るのであれば,PGMNIDは IgG3,κですよね。清澄 はい。長濱 κ,λも完全にmonoclonalとは言い難いように思いますし,無理に付けなくてもいいのかなと思ったのですけれども,小池先生がいらっしゃらないのでよく分からないですが,すみません,コメントです。清澄 ありがとうございます。座長 ほかによろしいでしょうか。では,病理のほうから,ご意見をお願いいたします。山口 【スライド01】IgG4のPGMNIDは経験がないので,凍結の材料を,私のほうで染め直し

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腎炎症例研究 32巻 2016年

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られます。Masson染色で,糸球体基底膜が厚いわけではありません。

【スライド02】よく見ますと,Masson染色で上皮下沈着物が見えることがあるのですけれども,なかなか施設での染色条件が違うので,Masson染色で膜性腎症のステージⅠを診断するのは難しいと思います。

【スライド03】PAMでも,ほとんど基底膜の肥厚がありません。

【 ス ラ イ ド04】PAMで 見 ま す と,bubblingがtangentialに切れているところで見えかけておりますが,少なくともステージⅡと言われるような spikeは明らかに見られません。

【スライド05】確かに目が慣れてきますと,segmentalに,どこかに膜性腎症のしっぽがつかまるようなところがありますので,ステージⅠの膜性腎症と,私たちの目では診断がつくと思います。

【スライド06】17分の6個の全節性硬化。癒着が1カ所あります。膜性腎症はほとんど癒着を呈さないのですけれども,こういうふうに癒着を起こす場合があります。

【スライド07】これをFSGSと言っていいのかどうか。従来,バンクーバーのマジール(Alex B. Magil)が最初に論文を出しておりますけれども,FSGS合併の膜性腎症は予後が悪いというそのFSGSは,糸球体毛細血管管腔の中に泡沫状のmacrophageが入ってくるタイプで,seg-

mental sclerosisを伴う症例も膜性腎症のFSGS variantと言っていいかどうかは意見の分かれるところだと思います。

【スライド08】癒着が1個あります。糸球体の腫大も,計測上はないと思います。

【スライド09】動脈硬化は年齢相応だと思います。

【スライド10】確かに,これを見ますと,IgG

とC3が陽性に出ております。膜性腎症の中でC3が出ない症例は結構あります。κ,λから言うと,κの restrictionがあります。 ただ,ここでmonoclonal depositionと言うに

【スライド09】臨床の側から提示していただいたもので,IgG1はちょっと出ていて,IgG4が優位であります。κで,λはネガティブとしか言いようがないです。IgG2と IgG3は,あまりはっきりしない。

【スライド10】トータルな IgGと,C3がちょっと出て,ほかはネガティブです。

【スライド11】頼んだ施設でやってもらったものが,このとおりであります。IgG1,IgG2,IgG3もちょっと出かかって,確かに IgG4が優位でκが強いのですが,λもきれいに出ているという状態で,施設のものと,新たにやってもらったものに違いがある問題が残ってしまいます。

【スライド12】PLA2を顆粒状にきれいに陽性になってきています。最近は IgG3が弱くて,ほかは意外と出てきているのが多いので,老人でも特発性の症例が多いように思います。

【スライド13】電顕は,earlyなステージⅠ,あるいはⅡぐらいの,比較的基底膜の肥厚の少ない,散在性で早期の膜性腎症と思います。

【スライド14】membranousとしてはステージⅠからⅡぐらいで,FSGS様の病変と,polar vas-

culosisと,efferent arterioleにhyalinosisが あ りますので,GBMの肥厚は目立たないのですが,糖尿病の可能性もあるではないかと。PGMNID

は,IgG1も出ていますから最初から無理だと思うのですが,その可能性はまずないと思います。FSGSで特発性,糖尿病はどうでしょうかということです。

【スライド15】文献で,IgG4が出てくると,9

割方はPLA2レセプターが陽性の場合が多いという結果が出ていますので,IgG4優位で出てきた場合には,idiopathicも考えなくてはいけないと思います。座長 城先生,お願いいたします。城 【スライド01】山口先生が詳しく説明されたので,膜性腎症の説明をくわしくしません。この症例は,弱拡で見るとmesangium細胞増多はない。小葉間動脈の線維性肥厚が中等度に見

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第64回神奈川腎炎研究会

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ろ,典型的な一次性膜性腎症のステージⅠの所見だったので,これは通常の膜性腎症という診断になると思います。以上です。座長 ありがとうございました。では,病理のコメントも踏まえまして,ご質問,ご討議等お願いいたします。いかがでしょうか。清澄先生,病理の先生のご意見を伺いまして,いかがですか。清澄 ありがとうございました。大変勉強になりました。座長 蛍光染色の発光のばらつきがありそうですけれども,これは抗体の問題なのでしょうか。何か手技上の問題等あるのでしょうか。山口 もちろん抗体の量の問題があります。どのぐらいで?座長 100倍ですとか。山口 ええ。それと,切片が本当にきれいに切れているかどうか,もう1つその問題もあると思います。それから,蛍光を観察する顕微鏡はなるべく新しいもので。古いものでやっていると,なかなかうまくいかない場合があるので,城先生は直接自分で写真を撮られていたことがあるので,城先生いかがですか。城 κ,λは絶えず同じ施設で本当に染まるかどうかのモニターをしていないと,非常に危険です。ましてや臨床の先生が病理からやってくる所見を見て疑問に思ったとき,今回も追試を3回されたということで,同じ結果だということでしたが,そのときは,本当にそうかどうかをほかの施設で試してみる必要がある。なぜかというと,λが本当に染まらないのかどうかです。positive controlを取って抗体が本当に働くかどうかを見るというのが常套手段です。座長 ありがとうございました。先生,どうぞお願いいたします。香取 共同演者の海老名総合病院の香取と申します。大変勉強になりました。ありがとうございます。 ぐうの音も出ないという感じなのですけれども,膜性腎症の例は,当院でも何例か経験して

は,IgGのサブタイプの染色が必要です。最初に,このκ鎖,λ鎖の染色でmonoclonalityのきっかけをつかむということでは大切だと思いますが,monoclonal deposition diseaseと診断するには,やはりサブタイプを染める必要があると思います。このmonoclonalityが証明できない限りは,軽鎖だけに頼るのは危険だと思います。 例えば IgA腎症の場合に軽鎖を染めていますと,λだけに染まってκが染まらないような症例が結構ありますので,κ,λの染色はあくまでもきっかけであって,最終診断は IgAのαheavy chainサブタイプを染めるということで,αmonoclonal depositionを証明することになっています。 本症例では,oligoclonalという理由で,これはmonoclonal deposition diseaseには入らないと思います。

【スライド11】山口先生が証明されたように,染め直してみると,monoclonal depositionではなかった。PLA2レセプターが陽性だったということで,通常の膜性腎症です。

【スライド12】IgG4がそんなに強く出ていないです。通常の一次性の場合は IgG4が強く出る症例が多いですけれども,子どもの場合には圧倒的に IgG4が強く出ます。大人の場合は,膜性腎症にいろいろなタイプがあってもいいようには思います。

【スライド13】dense depositがmesangium,あるいは内皮下に出てくると二次性膜性を強く疑うのですけれども,膜性腎症を見るときには,内皮下からmesangium depositの合併があるかどうかで,ある程度,一次性か二次性かの鑑別がつくと思います。

【スライド14】免疫染色では IgGが優位で,IgG1,IgG4のoligoclonalを示している。軽鎖にκ軽鎖が単独陽性ですけれども,電顕についてはステージⅠの所見で,mesangium領域の沈着がないため一次性膜性腎症を疑う。oligoclonal

ということで,純粋な意味でPGMNIDにはあたらないと思います。女子医大で追試したとこ

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いまして,軽鎖(light chain)がこれだけ差がある例が初めてだったということもあります。蛍光の顕微鏡については,去年かおととし購入していただいたばかりのものなので,決して古いものは使っておりませんけれども,ちょっとお聞きしたかったのは,今までは大丈夫だったものが,これだけ差が出てきた場合に,どういうところに気を付けたらいいかです。 IgGのサブクラスについても,山口先生がお示しいただいたのは全体的によく染まっている,2,3も全部が染まっている感じがありました。こういう差が出たときに,今後,どういうところに気を付けたらいいか,技士さんも含めてみんなで検討していきたいと思っています。ありがとうございました。座長 ありがとうございました。ほかにご意見,ご質問等ございませんでしょうか。 なければ,先生,ありがとうございました。清澄 ありがとうございました。座長 乳原先生,お願いいたします。乳原 虎の門病院の乳原です。山口先生は全国のいろいろなPGMNIDのサンプルを見ておられるので教えていただきたいのですけれど。 例えば,本症例のように,膜性腎症が上皮下沈着が主体のような症例で,PGNMIDになってしまった症例は,実際にはあるのでしょうか。MPGNのタイプⅠ,タイプⅢと言われているものの多くがそうだと思うのですが。山口 どちらかというと,IgG1が多いみたいです。膜型でくるやつです。乳原 少しはあるということですね。山口 そうです。座長 ありがとうございました。追加,ご質問等はよろしいでしょうか。では,先生,ありがとうございました。清澄 ありがとうございます。

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山口先生 _06

山口先生 _05

山口先生 _04

山口先生 _03

山口先生 _02

II‐1:ネフローゼ症候群を発症し、腎生検でPGNMIDを疑った1例(海老名総合病院腎内)

症例:74歳、男。十二指腸癌。両下腿浮腫が出

現。近医で尿蛋白。ネフローゼ症候群疑い。HCV, HBs(‐), クリオグロブリン陰性、UP 9.94g/gCr, URBC 5‐9/HPF.

臨床病理学的問題点:

1.PGNMIDで良いか?

2.蛍光抗体法の良し悪しは?

3.Free light chainsは?

山口先生 _01

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山口先生 _12

PLA2

山口先生 _11

IgG1 IgG2 IgG3

IgG4 kappa lambda

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城先生 _03

城先生 _02

城先生 _01

II-1ネフローゼ症候群を発症し、腎生検でproliferative glomerulonephritis

with monoclonal IgG deposits (PGNMID)を疑った1例

海老名総合病院 腎臓内科・病理診断科、川崎市立多摩病院清澄理恵 先生、後藤巨木 先生、香取秀幸 先生、小俣正子 先生、

松本光司 先生、小池淳樹 先生

東北大学大学院・医科学専攻・病理病態学講座城 謙輔

第64回 神奈川腎炎研究会2015年9月17日(土)15:30~19:45 横浜シンポジア

Virchows Arch. 2015 Jul;467(1):87‐94. Reappraisal of PLA2R1 in membranous nephropathy: immunostaining method influence and association with IgG4‐dominant phenotype.Hara S1, Goto S, Kamiura N, Yoshimoto A, Naito T, Imagawa N, Imai Y, Yanagita M, Nishi S, Itoh T.AbstractThe M‐type phospholipase A2 receptor (PLA2R1) was identified recently as a specific target antigen in idiopathic membranous nephropathy. However, the influence of different sample preparation techniques on the immunostaining of PLA2R1 is unclear. Previous studies have identified IgG4 as the dominant subclass of PLA2R1 antibodies. However, it remains unclear whether the IgG subclass profiles of the glomerular immune complexes of PLA2R1‐positive and ‐negative idiopathic membranous nephropathy cases are similar. To address these questions, we conducted the present study of 58 idiopathic membranous nephropathy cases. The PLA2R1 positivity rate for the paraffin‐embedded sections was 61 %, whereas that for the frozen sections was 65 %. Nonspecific background staining was observed in the frozen sections. Discrepancies between different sample preparations occurred in three cases (6 %); two cases were PLA2R1‐positive in paraffin sections and PLA2R1‐negative in frozen sections and one case was PLA2R1‐negative in paraffin sections and PLA2R1‐positive in frozen sections. Regarding the IgG subclass profile, 89 % of the PLA2R1‐positive cases demonstrated the IgG4‐dominant/codominant phenotype versus 31 % of the PLA2R1‐negative cases (p < 0.001). Clinical characteristics and pathological findings did not significantly differ between PLA2R1‐positive and ‐negative cases. In summary, the PLA2R1 immunofluorescence results were not affected by the different sample preparation techniques, although paraffin‐embedded sections were preferred for the histological detection of PLA2R1 because of the nonspecific background staining observed in frozen sections. The observed lower frequency of the non‐IgG4‐dominant/codominant phenotype in PLA2R1‐negative idiopathic membranous nephropathy cases may suggest that there are heterogeneous subgroups of this disease. 

山口先生 _15

病理診断64‐II‐11. Membranous glomerulonephritis2. Focal segmental glomerulosclerosis3. Diabetic  nephropathy, suspecteda. Polar vasculosis b. Hyalinosis of efferent arterioles

cortex/medulla = 9/1, global sclerosis/glomeruli= 4/27光顕では,糸球体には軽度のメサンギウム域拡大があり、やや肥厚した係蹄壁を認め、

spikesやbubblingを僅かに伴っています。分節状硝子化及びボウマン囊との癒着が2ヶに見られ、polar vasculosisを散在性に認め、輸入出細動脈硝子化を中等度伴っています。

尿細管系には近位上皮に硝子滴変性がやや目立ち、上皮の扁平化と内腔の拡張が散見し、硬化或いは虚脱糸球体周囲間質に線維化と単核球浸潤が見られ、萎縮尿細管を伴っています。動脈系には細動脈硝子化が中等度見られ、中位動脈内膜肥厚も中等度認めます。

蛍光抗体法では、IgG(++), IgG1(+), IgG4(++), IgG2(+), IgG3(+), IgA(‐), IgM(‐), C3(±), C4(‐), C1q(‐), prop(‐), Fib(‐), κ(+), λ(+), PLA2(+): peripheral and granular patternです。IgA, Fib: linear pattern(±)です。

電顕では、糸球体でGBMに上皮下沈着物が散在し、スパイク形成を伴い、GBMに軽度の肥

厚を認めます。メサンギウム域にはメサンギウム基質増加が軽度見られます。脚突起癒合が所々に見られます。

以上で,二次性FGSを合併する続発性膜性腎症です。糖尿病は如何ですか?

山口先生 _14

山口先生 _13

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城先生 _09

城先生 _08

<光顕>標本は2切片採取。

糸球体1/17個 (6%)に全節性硬化。残存糸球体において、メサンギウム細胞増多ならびに管内性細胞増多や半月体形成、分節性硬化、癒着、虚脱はありません。糸球体基底膜は軽度に肥厚し、PAM染色にてbubblingを認めますがspikeならびに二重化はありません。糸球体の腫大はありません(200μm)。尿細管・間質尿細管の萎縮ならびに間質の線維性・浮腫性拡大を中等度に認めますが(30%)、炎症細胞浸潤はありません(0%)。血管系小葉間動脈に中等度の内膜の線維性肥厚を認め、輸入細動脈に軽度の内膜の硝子様肥厚を認めます。

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城先生 _05

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城先生 _13

標本番号 H14-414374歳 男性

臨床診断: ネフローゼ症候群、脂質異常症、十二指腸癌術後、肥満病因分類: 原発性糸球体疾患病型分類: 一次性膜性腎症Stage1IF診断 : 膜性腎症型のPGNMID、一次性膜性腎症の鑑別電顕診断: 一次性膜性腎症 Stage1

皮質:髄質=7:3糸球体数:17個、全節性硬化:1個、メサンギウム細胞増殖:0個、管内性細胞増多:0個、半月体形成:0個(細胞性半月体:0個、線維細胞性半月体:0個、線維性半月体:0個)分節性硬化:0個、癒着:0個、虚脱: 0個、未熟糸球体:0個尿細管の線維化(IFTA):30%、間質の炎症細胞浸潤:0%小葉間動脈内膜の線維性肥厚:中等度、輸入細動脈内膜の硝子様肥厚:軽度

<免疫染色>IgG・κ・IgG1・IgG4が糸球体末梢係蹄に顆粒状に陽性です。

一方、IgA・IgM・C1q・C4・λは陰性です。以上の所見から、IgGが優位でIgG1・IgG4のoligoclonalを示しています。軽鎖に関してはκ型軽鎖が単独陽性です。<電顕診断>上皮下沈着物を認め、膜性腎症 Stage1の所見です。

メサンギウム領域への沈着が無いため、一次性膜性腎症が疑われます。

考察膜性腎症型のPGNMIDを疑います。IgGのサブタイプがoligoclonalのため、一次性膜性腎症が鑑別診断に挙がります。

東京女子医大にて蛍光染色を追試したところ、単クローン性免疫グロブリンの沈着ではありませんでした。以上の所見から、一次性膜性腎症Stage1と診断します。

IgG4優位でIgG1・IgG2・IgG3も糸球体末梢係蹄に顆粒状に陽性です。軽鎖の沈着についてはκならびにλとも陽性です。さらに、PLA2Rの染色において、糸球体末梢係蹄に陽性でした。

城先生 _12

城先生 _11

IgG1 IgG2

IgG3IgG4

κ λ PLA2R

女子医大にて追試

城先生 _10

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