デジタルアーカイブの構築・連携のための ガイドラ …- 3 -...

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デジタルアーカイブの構築・連携のための ガイドライン 2012年3月26日 総務省

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デジタルアーカイブの構築・連携のための

ガイドライン

2012年3月26日

総務省

012164
タイプライターテキスト
(別紙3)
012164
タイプライターテキスト
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目 次

はじめに................................................................................................................. 1

本ガイドラインの構成 .................................................................................................................. 2

対象とする読者 ............................................................................................................................ 3

関係するガイドライン等 ............................................................................................................... 3

本ガイドラインで用いる用語 ........................................................................................................ 4

第 1 章 デジタルアーカイブの構築 ...................................................................... 6

1. デジタルアーカイブとは ........................................................................................................ 6

2. デジタルアーカイブ構築の意義 .............................................................................................. 6

第 2 章 デジタルアーカイブの連携 .................................................................... 10

1. デジタルアーカイブ連携の意義 .............................................................................................10

2. デジタルアーカイブ連携の推進:地域内連携支援モデル ........................................................12

第 3 章 デジタルアーカイブの実例 .................................................................... 17

1. Museum(博物館・美術館) ................................................................................................18

2. Library(図書館) ................................................................................................................24

3. Archives(文書館) .............................................................................................................28

4. 実例まとめ ...........................................................................................................................30

第 4 章 デジタルアーカイブの構築・連携の課題 ............................................... 31

1. 目標設定の課題 ....................................................................................................................31

2. メタデータの課題 .................................................................................................................31

3. 技術的な課題 ........................................................................................................................32

4. 人材と体制の課題 .................................................................................................................33

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第 5 章 デジタルアーカイブの構築・連携の手引き ............................................ 34

1. デジタル化とシステム構築の前に:自館の現状把握と準備 .....................................................35

2. デジタルアーカイブを作ろう ................................................................................................48

3. デジタルアーカイブを未来に伝えよう:継続・人材・保存 .....................................................67

参考資料 1 管理データの項目一覧 ...................................................................... 72

参考資料 2 資料情報の属性一覧 ......................................................................... 73

参考資料 3 エンコーディングスキーム一覧 ........................................................ 75

参考資料 4 文化遺産オンライン 作品情報(文化遺産情報)項目一覧 ................... 79

参考資料 5 規格番号........................................................................................... 81

参考資料 6 デジタル化・デジタルアーカイブ構築の作業事例を見る前に ........... 82

参考資料 7 事例1:所蔵資料別デジタル化作業ワークフロー............................. 85

参考資料 8 事例2:館内利用者への所蔵資料公開 .............................................107

参考資料 9 斯道文庫「デジタル化の基礎知識」 ................................................132

参考資料 10 事例3:文化遺産オンラインの活用 ..............................................165

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はじめに

近年、我が国においては、さまざまな形態のデジタルアーカイブが存在します。

ここでは、「デジタルアーカイブ」を「図書・出版物、公文書、美術品・博物品・歴史資料等

公共的な知的資産をデジタル化し、インターネット上で電子情報として共有・利用できる仕組

み」を指すものとします1。パソコンやスマートフォンなどの情報機器とブロードバンド通信を

使用し、博物館・美術館、図書館、文書館などの「知の記録組織」へ実際に行かなくても、イ

ンターネットを経由してさまざまな文書や絵・写真などを閲覧できるウェブサイトがその具体

例です。

デジタルアーカイブを活用することで、いつでもどこでも、調べごとや学習・研究が行える

ようになります。今までは広く公開されていなかった資料をデジタル化して公開することで、

貴重な知的資産を誰もが見られるようになります。

また、各地の郷土資料など、特定の場所でしか知られていなかった資料をデジタルアーカイ

ブで公開することにより、広く利用される可能性が高まります。資料の利用が増加するとその

価値が広く認識され、ひいてはその資料が根ざす地域の活性化や観光の促進にもつながると考

えられます。

しかし、デジタルアーカイブを構築している組織は、我が国に存在する知の記録組織のうち、

ごく一部にとどまっています。またせっかく構築しても、その存在が利用者に知られていなか

ったり、デジタルアーカイブの内容が更新されなかったり、システムが旧式化して技術の進歩

に追いついていない事例も見られます。

我が国ではブロードバンド基盤の構築により情報の流通環境は世界 先端の状況にあります。

その一方で、上記の通り、デジタルコンテンツの蓄積・二次利用を支えるデジタルアーカイブ

の構築が遅れています。産業・経済、学術・研究、芸術・スポーツ、趣味・学習、行政等の生

産性を向上させていくには、情報の生産‐流通‐利用‐蓄積‐二次利用の円滑な二重サイクル

を形成していくことが重要です。

我が国においては 1990 年代から始まったインターネットの発展とともに、多くの組織にお

いてデジタルコンテンツを蓄積し、デジタルアーカイブとして提供する努力が続けられてきま

した。国立国会図書館や国立公文書館等、我が国を代表する組織では大規模なデジタルアーカ

イブが構築されています。その一方、公共図書館や博物館、美術館等では 90 年代末ごろにはデ

ジタルコンテンツ開発が盛んに行われましたが、財政環境の影響もあり、 近では目立った活

動を見つけにくくなっています。

しかし、公共的な知的資産を収集保存する組織――「知の記録組織」における保有資源のデ

ジタル化は、貴重な文化遺産に接する機会を国民に広く提供するものであり、そうした組織に

よる直接的なサービスのみならず、デジタル資源の教育利用や観光の促進、地域産業振興への

利用等が期待されます。また近年、ネットワークにつながる携帯型の読書端末、スマートフォ

ンなどの登場により、大多数の国民が、デジタルコンテンツに容易にアクセスできる環境を手

に入れつつあり、出版流通環境にも大きな変化の予兆が見られます。一般の利用者にとっては、

1 総務省「知のデジタルアーカイブに関する研究会開催要綱」2011 年 2 月

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新しい電子書籍から、ウェブページ、そして知の記録組織によるデジタルアーカイブのコンテ

ンツまで多様な情報資源など、広い範囲の中から効率よく探し、目的に応じて適切なものを選

び、必要に応じて適切な対価を支払って利用できることが望まれます。したがって、知の記録

組織のデジタルアーカイブ構築者にとっては、自組織のデジタルアーカイブを作り上げる上で、

そうした新しい情報環境に適した機能を持たせることが求められています。

そうした組織においては、デジタルアーカイブの構築・連携の方策を具体的に検討するうえ

で、自組織の現状に即した運用マニュアルを持ち、デジタルアーカイブ構築・連携の方針・戦

略を定める必要があります。加えて、各組織の状況に応じたデジタルデータの作成方法や、デ

ジタルアーカイブの設計等に関する技術の詳細にも言及する具体的な運用マニュアルを策定し

なければなりません。

しかし、適切な運用マニュアルを独自に策定することは個々の組織にとって容易ではありま

せん。デジタルアーカイブ構築・連携を促進する上では、各組織が運用マニュアルを効率的に

作成するために参考となるようなガイドラインが必要です。

これまでにも、デジタルアーカイブの構築や運営について、多数の研究や実証実験が行われ、

その成果が発表されてきました。しかし、内容が専門的であったり、高度かつ大規模な計画が

前提となっているものが多く見られ、地域の知の記録組織にとっては活用が難しいものでした。

このような状況を踏まえ、図書・出版物、公文書、美術品・博物品、歴史資料等公共的な知

的資産の総デジタル化を進め、インターネット上で電子情報として共有・利用できる仕組みを

構築し、知の地域づくりを推進するため、地域の知の記録組織で活用していただくことを目標

に本ガイドラインを作成しました。

本ガイドラインの構成

本ガイドラインは、以下の構成になっています。

「第 1 章 デジタルアーカイブの構築」では、デジタルアーカイブを構築するにあたっての

前提を説明し、続く「第 2 章 デジタルアーカイブの連携」では、構築したデジタルアーカイ

ブの効果を高める「連携」の考え方について説明します。ここまでで、デジタルアーカイブを

構築・連携するための基礎的な知識を知ることができます。

「第 3 章 デジタルアーカイブの実例」では、第 1 章・第 2 章で紹介してきたデジタルアー

カイブを実際に構築した例を取り上げます。第 1 章・第 2 章での説明の理解を深めるため、ま

た実際にデジタルアーカイブを構築するときの参考とすることができます。

「第 4 章 デジタルアーカイブの構築・連携の課題」では、デジタルアーカイブを構築する

各機関において個別に検討する必要がある点や、現時点で未解決であり、今後の継続した検討

が必要な、デジタルアーカイブに関連する課題を示します。

後の「第 5 章 デジタルアーカイブの構築・連携の手引き」では、連携可能なデジタルア

ーカイブを構築する際の手順を示します。

初から通してお読みいただくと、デジタルアーカイブの基本的な概念から実践のヒントま

でを知ることができます。

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対象とする読者

本ガイドラインは、博物館・美術館、図書館、文書館などの、知の記録組織で業務に従事す

る方々に向けて作成されました。各組織の実情にあったデジタルアーカイブ構築の方法を考え

る上での参考となることを目的としています。また、資料管理システムの構築や知的資産のデ

ジタル化・メタデータスキーマ作成等の標準的な機能要件を示すことで、実際にシステム構築・

データ作成を行う上での参考となることも目的としています。特に、現在デジタルアーカイブ

を構築していない組織や、過去に構築したものの、その効果が実感できていなかったり、運営

の方法を決めかねている組織に読んでいただきたい内容になっています。

また、後述する「地域内連携支援モデル」において重要な役割を担う、都道府県立図書館の

デジタルアーカイブの担当者の方々にもお読みいただきたいと考えています。

そして、これらの機関からシステム構築等を請け負う企業の方々にも参考にしていただきた

いと考えています。

ただし、デジタルアーカイブを構築する知の記録組織毎の事情により、効果的な構築の方法

が様々に異なることに留意する必要があります。本ガイドラインを参考にしながら、一部の作

業を簡略化あるいは省略したり、逆に量や品質をより高めることには何の支障もありません。

上記に限らず、デジタルアーカイブに登録される知的資産を作成する方々、さらにはデジタ

ルアーカイブに興味がある一般の方々にも広くお読みいただけます。

関係するガイドライン等

本ガイドラインを読む上での前提となる、あるいは参考になるガイドライン等を以下に示し

ます。必要に応じて参照してください。

No タイトル 発行者 入手先

1 国立国会図書館資料デジ

タル化の手引 2011 年版

国立国会図書館 http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/di

gitalguide.html

2 電子情報の長期利用保証

に関する調査研究(平成 14

年度~平成 16 年度,平成

18 年度~平成 22 年度)

国立国会図書館 http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/p

reservation_02.html

3 全国の公文書館等におけ

るデジタルアーカイブ・シ

ステムの標準仕様書(平成

21 年 3 月)

国立公文書館 http://www.archives.go.jp/law/pdf/

da_100118.pdf

4 メタデータ情報共有のた

めのガイドライン

メタデータ情報

基盤構築事業

http://www.meta-proj.jp/A03.pdf

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5 デジタルアーカイブ 権利

と契約の手引き 契約文例

+Q&A 集

デジタルアーカイ

ブ推進協議会

http://www.dcaj.org/jdaa/public/in

dex.html

6 文化資源のデジタル化に

関するハンドブック

東京大学大学院情

報学環ほか

http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp

/handbook

本ガイドラインで用いる用語

本ガイドラインで使用する主な用語について、以下に示します。

用語 説明

アーカイブ

(Archive)

古文書・公文書・記録文書の集合、もしくはその保管所、文書

館を指す言葉です。

「アーカイブズ」や「アーカイブス」と表記されることもあり

ます。

デジタルアーカイブ

(Digital Archive)

本ガイドラインでは、図書・出版物、公文書、美術品・博物品・

歴史資料等公共的な知的資産をデジタル化し、インターネット

上で電子情報として共有・利用できる仕組みを指します。

メタデータ

(Metadata)

「データに関する(構造化された)データ」。情報資源を組織化

し、同定・識別や検索、管理・保存を行うために必要なデータ

の総称で、あるデータそのものではなく、そのデータに関連す

る情報です。データの作成日時・作成者・データ形式・タイト

ル・注釈、またそれらをまとめた目録・索引・抄録等の二次情

報などが考えられます。データを効率的に管理したり検索した

りするために重要な情報です。2

コンテンツ

(Content)

内容、中身という意味の英単語です。媒体により記録・伝送さ

れ、人間が観賞するひとまとまりの情報、すなわち、映像や画

像、音楽、文章、あるいはそれらの組み合わせを意味すること

が多くあります。具体的には、ニュース、小説、映画、テレビ

番組、歌、ビデオゲーム、マンガ、アニメなどを指して使われ

ます。3

本ガイドラインの中では、知の記録組織が持つ資料を指します。

2 国立国会図書館『NDL デジタルアーカイブシステム・メタデータスキーマガイドライン』2007 年、p.141。・

IT 用語辞典 e-Words:http://e-words.jp/w/E383A1E382BFE38387E383BCE382BF.html(平成 23 年 12 月 29日確認)を参考にした。 3 IT 用語辞典 e-Words:http://e-words.jp/w/E382B3E383B3E38386E383B3E38384.html(平成 23 年 12 月 29日確認)を参考にした。

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知の記録組織

(Memory

Organization,

Memory Institution)

本ガイドラインの中では、図書館・美術館・博物館・文書館等・

大学・研究機関・国・地方自治体等、公共的な知的資産を収集

保存する組織を総称して「知の記録組織」と呼びます。

メタデータスキーマ

(Metadata Schema)

「メタデータ構造を定義するための記述」を指します。本ガイ

ドラインの中では、項目の名前(記述項目)や、項目が文字な

のか数字なのか(記述形式)、必須、推奨、省略可能の構造的な

制約などを定義した記述のことを指します。

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第1章 デジタルアーカイブの構築

1. デジタルアーカイブとは

デジタルアーカイブという言葉は、平成 8 年に設立された「デジタルアーカイブ推進協議会

(JDAA)」の準備会議の中で月尾嘉男氏(東京大学教授(当時)。平成 14 年~15 年 総務省総務

審議官,現在、東京大学名誉教授)から提案され、広報誌「デジタルアーカイブ」で初めて公

表されました。デジタルアーカイブ推進協議会において、その概念は、「有形・無形の文化資産

をデジタル情報の形で記録し、その情報をデータベース化して保管し、随時閲覧・鑑賞、情報

ネットワークを利用して情報発信」というデジタルアーカイブ構想としてまとめられました。

ここでは、図書・出版物、公文書、美術品・博物品・歴史資料等公共的な知的資産をデジタル

化し、インターネット上で電子情報として共有・利用できる仕組みをデジタルアーカイブと呼

びます。

2. デジタルアーカイブ構築の意義

(1) なぜデジタルアーカイブをつくるのか デジタルアーカイブの基本的なメリットは、「誰でも、いつでも、どこからでも、有用な知的

資産にアクセスできること」です。

知的資産は、「収集、利用・創造、公開、共有」が循環していくことが重要です。情報の価値

は利用されて初めて生じます。利用されるためには適切に公開される必要があります。そして

公開されたものを共有できる仕組みが、社会・文化の基盤となります。

知的資産には、フローとして流通していく側面と、図書館、博物館・美術館、文書館(ML

A機関4)を中心に蓄積・保存されるストックの両面があります。新たな知的資産の生産・流通

を活発化するには、フローのための制度等の整備とあわせて、生産の基盤となるストックの部

分の整備が欠かせません。

情報環境の変化、特に携帯型情報端末の普及により、どこにいてもコンテンツにアクセスで

きる環境が整いつつあります。こうしたなかで、デジタルアーカイブは、デジタルコンテンツ

となった知的資産を効率よく利用者に届けることができます。

これまでの、モノやアナログ媒体の形で蓄積されてきた知的資産をデジタルに移行させるこ

とと、新たにデジタルで生まれてくる知的資産を 終的にストックして、次世代まで活用でき

るように蓄積・保存することの両面が、デジタルアーカイブの使命であり、デジタルアーカイ

ブを構築する意義であるといえます。

しかし、デジタルアーカイブのメリットは、単に原資源をデジタル化してインターネット上

に載せさえすれば得られるというものではありません。使いやすいインタフェースを介して、

有用な知的資産を探し、閲覧し、そしてその知的資産を利活用することが利用者にとって容易

に行えるものでなければなりません。

4 博物館・美術館(Museum)、図書館(Library)、文書館(Archives)のそれぞれの頭文字をとった呼び方。

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(2) デジタルアーカイブの構築によって何が得られるか デジタルアーカイブを構築するMLA機関にとって考えられるメリットを示します。以下に

館種ごとに代表的な例を挙げますが、これらとは別の目的や利点・利益を独自に検討し、デジ

タルアーカイブを構築することを制限するものではありません。

(a) 全ての館種にとって

どの組織にとっても、自組織の活動成果の普及・公開、資料の継続的保存・管理、資料の

検索性の向上、広報活動の効果があります。地域の誇りである文化財は全ての館種に存在し

ます。それらを連携して横断的に見せる「場」としてデジタルアーカイブが有効であり、地

域起こし、地域復興、地域の絆に貢献します。

また、文化財とデジタル文化財が補完関係を保ち、素材としての文化財情報から新たな価

値を創造することがデジタル化の役割と考えられます。

日本の文化遺産をデジタルアーカイブで蓄積・提供しインターネットへ発信することで、

国際社会に日本を理解してもらう効果も期待できます。

さらに、MLA機関の所蔵する歴史的・文化的・学術的資料をインターネットへ公開するこ

とで、インターネットにある知識の信頼性の向上につながり、インターネットという場その

ものの発展にも寄与することができます。

(b) 博物館・美術館にとって

博物館・美術館においては、展示室・展示環境の制約を取り払うことができる効果が重要

であると考えられます。

例えば対象が細かく描写してある大型の資料のように、ガラス越しでは資料を詳しく見る

ことができないような資料については、超高精細デジタル資料を作成することで、より詳細

に見ることができます。さらに、スペースの制約、展示期間の制限などで、展示室に置けな

い資料を見てもらうことができます。

美術館の場合、博物館に比べて著作権の保護対象となる資産が多く、すべてをインターネ

ットに公開することが難しいことから、デジタルアーカイブ構築の効果が理解されにくいこ

とが考えられます。しかし、所蔵目録の整理と情報公開が可能になることや、館内展示を目

的とするデジタル高精細画像と PR を目的とした低画質の画像を使い分けるなど、デジタル

のメリットを生かした活用法が考えられ、画像等の公開が限定的であっても、デジタルアー

カイブ構築のメリットを享受することは十分に可能です。

デジタルアーカイブ構築・連携のメリットを尋ねたヒアリング調査5では沖縄県立博物館、

ひめゆり平和祈念資料館、那覇市立壺屋焼物博物館等の博物館からのコメントとして、以下

のメリットがあると報告されています。

・ 研究利用・メディア等の二次利用で、「この資料」と特定されるので、確認や連絡の負

担が軽くなった。

・ 展示物の有無だけを聞くようなレファレンスは、ウェブで見てもらうことによって減 5 平成 22 年度総務省「我が国におけるデジタルアーカイブの構築・統合に関する調査研究報告書」知の記録組織

へのヒアリング調査より

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少した。

・ 展示されていない資料を見せることができる。

(c) 図書館にとって

公共図書館においては、資料のデジタル化とデジタルアーカイブの構築により、

・ 歴史的資料(そのままでは提供できない資料)の提供サービス

・ 失われつつある地域の知的資産の確保

・ アナログ情報へのアクセス(索引的データベース)の援助

などの効果が得られます。

大学図書館ではこれに加えて、活動成果の普及・公開を行うことができることも重要な点

です。

デジタルアーカイブ構築・連携のメリットを尋ねたヒアリング調査6では沖縄県立図書館、

沖縄県立図書館、青森県立図書館等の図書館からのコメントとして、以下のメリットがある

と報告されています。

・ 自館にない資料を他館に紹介するときに便利。横断検索の利用者は図書館組織が多い。

・ レファレンス機能の強化という点で評価。資料の有無だけを聞くような、レファレン

スを軽減している

(d) 文書館にとって

文書館においては、国内外を問わずいつでも所蔵資料を利用できる環境の整備・充実を図

ることができます。また、電子的に作成・保存される公文書等の「保存」と「利用」への早

急な対応は、文書館全体にとっての使命に関わる新たな要請であり、デジタルアーカイブの

構築がその一助になることが考えられます。

デジタルアーカイブ構築・連携のメリットを尋ねたヒアリング調査7では北谷町公文書館、

沖縄県公文書館等の文書館からのコメントとして、以下のメリットがあると報告されていま

す。

・ 館の広報としての意味がある。来館しなければどのような資料があるかわからない、

というのと、来なくてもどんな資料があるか見てもらえる、というのとは大きく違う。

(3) デジタルアーカイブのコンテンツ 知の記録組織が提供するデジタルコンテンツの多くは、歴史的、文化的資料です。もとも

と知の記録組織が持つ資料がそうした性質を持つものであるということも理由のひとつでは

ありますが、デジタル化の際に著作権上の問題が少ないものが選ばれているようです。また、

大学等の研究機関が提供するデジタルコンテンツは、論文等の学術的資料が中心です。

一方、こうした歴史的・文化的・学術的資料は、一部の専門家にとってのみ利用価値があ

るのではないか、さらには、専門家であればデジタルアーカイブでなくても原情報への到達

6 平成 22 年度総務省「我が国におけるデジタルアーカイブの構築・統合に関する調査研究報告書」知の記録組織

へのヒアリング調査より 7 平成 22 年度総務省「我が国におけるデジタルアーカイブの構築・統合に関する調査研究報告書」知の記録組織

へのヒアリング調査より

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手段を持っているのではないか、といった批判があることも理解した上でデジタルアーカイ

ブの構築を進めていかなければなりません。

そのため、コンテンツの従来の利用者にとってはより利用性を高め、そして従来は利用し

てこなかった潜在的利用者にとってもより魅力的なものにしなければなりません。

1990 年代からの爆発的なネットワーク環境の進化に従って、もともと電子的に作られ発

信・出版される、電子書籍等のコンテンツが爆発的に増加しています。利用者の視点からは、

こうした電子書籍等もデジタルアーカイブのコンテンツも、どちらも重要な知的資産であり、

ネットワーク上で有機的に組み合わせて利用できるようにすることが望まれます。

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第2章 デジタルアーカイブの連携

1. デジタルアーカイブ連携の意義

(1) デジタルアーカイブの連携を考えるにあたって 文化的資源のデジタルアーカイブは、図書館、美術館、博物館、文書館、大学、研究機関

等、様々な組織で構築されています。したがって、デジタルアーカイブの内容はコンテンツ

を提供する組織に応じて様々であり、管理方法、提供方法ともに多様です。そのため、デジ

タルアーカイブの連携とは言っても、既存のデータベースを丸ごと統合するといったことを

考えることは現実的ではなく、また、個別のアーカイブの持つ特色を失うような連携方法を

考えることも適切ではありません。デジタルアーカイブの意義や重要性、基本的な考え方に

ついては前章で説明したとおりですので、以下では、現実的かつ将来指向の「デジタルアー

カイブの連携」とは何かについて、読者の理解を助けるための基礎的視点を示します。

(2) デジタルアーカイブの連携の必要性 1990 年代より先進各国の図書館、博物館・美術館等の組織を中心として、ネットワーク時

代における知的資産のより高度で広範囲の利用を目的として、各組織が所蔵する知的資産を

デジタル化し提供する、デジタルアーカイブの構築が進められてきました。多くの市民が知

的資産に接する機会を増やし、教育機関等での教育・学習のための知的資産活用を進め、そ

して知的資産を利用した産業を育成する一方、貴重な実物の知的資産へのアクセスを限定す

ることで、知的資産の劣化を防ぎ、適切な保存環境を維持することを目的としています。我

が国では、国立国会図書館における大規模な図書のデジタル化、国立博物館を中心とする高

品位な資料のデジタル化、国立公文書館による歴史公文書のデジタル化等が進められてきて

います。

このように、単独でのデジタルアーカイブの構築は進展していますが、目を世界に転じる

と、ヨーロッパにおける Europeana8、アメリカ議会図書館を中心とする World Digital

Library9 、台湾の National Digital Archive Program10 など、図書館、博物館・美術館、文

書館等が持つデジタル資料を連携して提供しているプロジェクトがあります。これに対して、

我が国においては国立国会図書館の国立国会図書館サーチ(NDL Search)11、国立情報学研究

所による学術機関リポジトリデータベース(IRDB)12のデータを利用する JAIRO13のように、

他組織のアーカイブからメタデータを収集することでデジタル資料を提供するサービスはま

だ限定的です。

一般的に、インターネット上のコンテンツは、多様なサービスによって独自に提供されて

いて、すべてが整理されているわけではありません。そのため、必要な情報を効率よく入手

8 Europeana http://www.europeana.eu/portal/ 9 World Digital Library http://www.wdl.org/en/ 10 National Digital Archives Program, Taiwan http://www.ndap.org.tw/index_en.php 11 国立国会図書館サーチ(NDL Search) http://iss.ndl.go.jp/ 12 学術機関リポジトリ構築連携支援事業 システム情報 IRDB のハーベストについて: http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/irdb_harvest.html 13 学術機関リポジトリポータル JAIRO http://jairo.nii.ac.jp/

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するためには、「ポータルサイト14」を入り口として利用します。同様に、デジタルアーカイ

ブのコンテンツ利用に関しても、利用者にとって使いやすい入り口から入って、いろいろな

サービスを統合的に利用できるようにする必要があります。すなわち、利用者の目から見て

いくつものデジタルアーカイブがひとつのサービスとして統合されているように見えること

が望まれます。それにはデジタルアーカイブ間の連携が必要です。

(3) デジタルアーカイブ連携の効果 デジタルアーカイブを構築し、それらを相互連携させることにより、以下の効果が得られ

ると考えられます。

①形態や領域に関わらず日本の知的資産をデジタル化し、統合的な検索を実現し、それら

の情報の流通性を高めることで、知的資産の保存が図れるのみならず、従来では想像で

きなかったような新しい利用方法を生み出すことができます。

②標準化された仕様に基づいてデジタルアーカイブを構築し、デジタルアーカイブへのア

クセス方式(API15)を公開することで、構築されたデジタルアーカイブ間の連携が可能に

なり、国民にとって知的資産へのアクセス性が高まるのみならず、知的資産の利活用を

行うための新たなビジネスが創出されます。

③日本の知的資産を世界からアクセスしやすくすることで、文化教養面における知的資産

利用を促進し、日本文化や研究の国際的発信に寄与します。また、国際環境下において

日本の高等教育や観光産業などの振興を図ることができます。

(4) デジタルアーカイブ連携の実現に向けて デジタルアーカイブの連携を実現するには、デジタルアーカイブの管理運営方針から、コ

ンテンツの組織化方法や連携方法とそれを実現するためのメタデータ、そしてデジタルアー

カイブの核となるデータベースの構成やデジタルデータの標準フォーマットといった技術的

問題まで、いくつかの異なる視点から、デジタルアーカイブの連携、そして統合的利用環境

の実現のための情報共有や標準化の方式について検討しなければなりません。そのため、連

携可能性をベースにしたデジタルアーカイブ構築により、デジタルアーカイブの連携と統合

的利用環境を可能にします。

これまでに、博物館・美術館、図書館、文書館等の連携(以下 MLA 連携)の議論と実践

には多くの蓄積があり、国立国会図書館サーチ・文化遺産オンライン等、国による知的資産

の共有基盤が既に整備されています。しかし、国立国会図書館サーチ・文化遺産オンライン

等では、全国の組織を十分に網羅できていない状況にあります。

公共的な知的資産は、あまねく存在するものであり、多くの組織を網羅する必要がありま

す。特に、災害による知的資産の消失へのバックアップとしての役割も考えるのであれば、

14 利用者がインターネット上で必要とする機能やサービス、コンテンツ、ウェブサイトへのリンクなどを総合的

に案内する、玄関口の役割を持った Web サイトのこと。(IT 用語辞典バイナリ: http://www.sophia-it.com/content/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88 (平成 24 年 2 月 12 日確認)を参考に記述した。) 15 Application Program Interface の略称 あるプラットフォーム向けのソフトウェアを開発する際に使用できる

命令や関数の集合のこと(IT 用語辞典 e-Words: http://e-words.jp/w/API.html(平成 24 年 1 月 20 日確認)を参

考に記述した。)

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- 12 -

できるだけ多くの組織の参加を促し、欠落が 小限になるような仕組みを考える必要があり

ます。

こうした状況を踏まえ、本ガイドラインでは、「デジタルアーカイブの連携へのハードルを

下げながら、全体的なデジタルアーカイブ構築のレベルの底上げを図る仕組みを作ること」

を主眼としています。

メモ:MLA連携とは?

2. デジタルアーカイブ連携の推進:地域内連携支援モデル

(1) 「地域内連携支援モデル」の背景 多くの知の記録組織では、何らかのメタデータを整備していながら、様々な理由から、公

開していない、また公開していても国立国会図書館サーチ等の共有基盤に連携していません。

デジタルアーカイブの全体的な底上げを図る上では、まず、これら多くの公開・連携されて

いないメタデータを、可能な限り共有基盤上に連携してもらうための方策を講じる必要があ

ります。

知的資産のメタデータを連携していく上で、以下のような課題があります。

①各組織のデジタルアーカイブ構築に関する現状に大きな差異がある

②全国レベルの共有基盤につながるメリットが十分認識されていない

③各組織独自のメタデータから共有可能なメタデータへの変換が難しい

以上の課題を解決しながら、現時点で、より多く、またより網羅的にメタデータを公開・

連携し得るモデルの一つとして「地域内連携支援モデル」を提案します。

(2) 概要 都道府県レベルの機関が、個々の機関と全国レベルの共有基盤との連携について支援を行

うモデルを、「地域内連携支援モデル」とします。

現在、メタデータを公開・連携していない組織では、直接国立国会図書館サーチ等の全国

レベルの共有基盤と連携することに困難があると考えられます。

全国レベルでの連携は、「誰がどのように利用するのか」という具体像が見えにくく、メリ

博物館・美術館(Museum)、図書館(Library)、文書館(Archives)の間の連携は、そ

れぞれの頭文字をとって MLA連携と呼ばれます。

これら 3 つの機関は、知的資産を扱っているという点では共通しているものの、これまで

は保有する資産の性質や管理手法が異なるため、個別の機関として発展してきました。

しかし、デジタルアーカイブの世界では原資料がデジタル化されるため、その区分があい

まいになります。これを機に各機関が連携し、利用者に対して一体となってサービスを提

供しようという機運が高まっています。

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ットが感じられない一方、「どのように使われるかわからない」という不安がある、との声が

聞かれました16。

しかし、仮にデジタルアーカイブの連携に、都道府県レベルの機関が協力してくれるなら

ば、以下のようなメリットが見えてきます。

(a) 網羅性がある

・ 境界が明確で、遺漏がない

・ 都道府県立組織として図書館/博物館/文書館等が概ね設置されている

(b) 知的資産共有のメリットがわかりやすい

・ 図書館/博物館では、資料の相互貸借が頻繁に行われている単位である

・ 「地域」という同じ主題を扱う組織が多い

・ すでに都道府県内図書館の総合目録という形で運用されている

→他組織資料の発見や相互貸借を容易にするツールとしてわかりやすいメリットがあ

(c) 組織間の連絡がとりやすい

・ 図書館は寄贈依頼や市町村立図書館への貸出、博物館は都道府県博物館協会、文書館

等・文書管理部署は公文書管理法への対応等の研修などを通じて、すでに連絡体制が

築かれている

・ 個々の組織の担当者が互いに顔の見える関係にある

→データの更新・メンテナンスが継続されやすい

→相談や事例の紹介等を通じて、「どう利用されるかわからない」といった不安を

ある程度解消できる

例えば都道府県立図書館では、都道府県内の連携をとりまとめる以下のような役割が期待

できます。

(a) 網羅性が相対的に高い

・ 全ての都道府県に存在する

・ 地域資料収集や市町村立図書館への貸出を通じて県内各市町村と網羅的・定期的・継

続的な連絡がある

(b) 既存のシステムを利用できる

・ ほぼ全ての都道府県で既に資料検索システム・横断検索システムを持っている

(c) 組織のミッションと合致する

・ 主題にとらわれず地域内のあらゆる知的資産を扱う組織のミッションがある

・ 他組織の支援、他組織との連携が組織のミッションになり得る

(d) 継続性が相対的に期待できる

・ 相対的に人材(特に、資料の管理・整理にあたる専門的人材)が豊かである

都道府県立レベルの機関が「県内連携の窓口」かつ「全国レベルの統合基盤への窓口」と 16 平成 22 年度総務省「我が国におけるデジタルアーカイブの構築・統合に関する調査研究報告書」p.109「知の

記録組織へのアンケート調査」設問 3-5 より

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して、ノウハウの中間的集約及び各館の支援を行うことによって、現状よりも網羅的に、よ

り多くの組織が連携基盤に参加できると考えられます。

なお、ここまでの説明では「都道府県立レベルの機関」と記述しましたが、都道府県立の

機関だけがノウハウの中間的集約及び各館の支援の役割を担えるというわけではありません。

各地域の事情によっては、例えば県立の機関よりも市立の機関のほうが適している場合もあ

ります。ノウハウの蓄積状況や人材配置を考慮し、その都度 適な役割分担を検討すること

が重要といえます。

(3) 方針 地域内連携支援モデルの基本方針を以下に記します。

・ 規模や目的、扱う資料、地域性が大きく異なる各組織の実情に合わせた柔軟性をもたせ

・ 地域の網羅性と主題の多様性を高めるために、単に知的資産の数だけでなく、参加する

組織の数が増えるよう配慮する

・ 可能な限り既存の資源を利用し、低コストかつ持続可能な仕組みとする

・ 質の向上や新たなサービスの展開を一挙に進めることは難しいため、まずは、既存のメ

タデータを、より多く、公開・連携の基盤にのせていくことを優先する

(4) 対象 以下の機関を対象とします。

(a) 資料のメタデータを整備してはいるがウェブ上で公開していない機関

一部図書館の特殊コレクション・多くの博物館/文書館等/行政情報センターなど

(b) 資料のメタデータを体系的に整備していない機関

一部の博物館/文書館等/行政情報センター/研究機関

(5) 実施手順 「地域内連携支援モデル」は、具体的な方式やシステムを示しているわけではありません

ので、さまざまな実践の形が考えられます。

ここではその取組の一つとして行われた、秋田県立図書館と秋田県の 4 つの「知の記録組

織」による実証実験17の概要を紹介します。

(a) 実証実験の目的

① 各館で異なるメタデータ(目録・書誌情報)の項目自体は統一せず、意味の対応付けを

行うことで連携が実施できることを実証する。

② 図書館、文書館、美術館、博物館等複数のデジタルアーカイブ間におけるメタデータの

相互利用に関する技術について、平成 22 年度新 ICT 利活用サービス創出支援事業の成

果である「メタデータ情報基盤」システムを活用した実証環境を構築して検証する。

③ 中小規模館におけるデジタルアーカイブ構築・連携に係る課題を整理する。

17 平成 23 年度総務省「我が国におけるデジタルアーカイブの構築・連携に関する調査研究」より

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図 2-1 に、地域内連携支援モデルに基づく実証実験のイメージを示します。

図 2-1 地域内連携支援モデル 実証実験概念図

(b) 実証実験の流れ

【参加館】

・目録データ(メタデータ)の整理・提供

・目録データの項目定義をメタデータ情報基盤(MetaBridge)18へ登録

【都道府県立図書館】

・参加館への業務的支援(業務的な質問への回答、ノウハウの収集・伝承)

【事務局】

・メタデータ変換サポート(メタデータ情報基盤への登録作業に関して技術的な支援)

・メタデータ情報基盤からのデータ変換システム構築・提供

【中央機関】

・ポータルサイト(国立国会図書館サーチ19)への連携データ登録

図 2-2 に、実証実験の実施の流れを示します。

18 メタデータ情報基盤構築事業で構築されたメタデータレジストリ” Meta Bridge” http://www.metabridge.jp/infolib/metabridge/menu/ (平成 24 年 1 月 20 日確認) 19 国立国会図書館サーチ(NDL Search) http://iss.ndl.go.jp/ (平成 23 年 12 月 29 日確認)

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図 2-2 実証実験 実施の流れ

(c) 実証実験の成果

① 参加館である、博物館・美術館・文学資料館・文書館の4つの館種でそれぞれの目録項

目定義を作成できた。項目の統一をせずに、Dublin Core20への連携項目に対して意味の

対応付けを行うことで、国立国会図書館サーチへの連携を可能とした。 ② 各館で作成した目録項目定義を MetaBridge に登録することにより、それぞれの館で作

った収蔵目録データから連携用のデータへと変換が可能となることが実証できた。 ③ 「地域内連携支援モデル」を用いた取組を行う上での課題を整理した。

・コミュニケーション・人材の課題

メタデータという言葉一つ取っても「言葉の意味がわからない」等の意見があった。

館種ごとの専門用語などもあるため、言葉一つ取っても注意・配慮が必要である。

また、推進役となる組織が人材や体制を整えておくことも必要である。

・現場職員の作業負荷の課題

システムの操作を館職員の方に行ってもらう場合には、メニュー構成の複雑さや専

門用語の難しさが問題となる。今後の継続のためには、メニューの簡略化や言い換

えなど、できるだけ作業負荷を軽減する工夫が必要である。

・システム機能面での課題

今回は MetaBridge と国立国会図書館サーチの間に、連携用データの一時保管シス

テムを事務局にて準備した。より広い範囲の利活用のため、MetaBridge の周辺サ

ービスを増やす推進活動も必要である。

20 ダブリンコアと読む。1995 年にウェブ上のリソースの発見とメタデータの相互運用性を目的として提案され、

その後標準化が進められたメタデータスキーマ。15 の記述要素集合と 55 の記述要素からなる、シンプルなメタ

データスキーマである。

関係者間の調整

横断検索

実証実験

参加館 県立図書館 中央機関

所蔵目録の項目整理、情報提供

目録データの提供・目録項目定義の整理

メタデータ情報基盤 (MetaBridge)

ポータルサイト(国立国会図書館サーチ)

目録項目定義をメタデータ情報基盤に登録

目録項目定義の登録

ポータルサイトへ登録依頼

メタデータ変換サポート

/変換システム構築・提供

連携データを収集しポータルサイトへ登録

連携データの登録

事務局

連携用データ一時保管システム

参加館への業務的支援

参加館が目録情報の整理・登録するにあたり業務的

支援を実施

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第3章 デジタルアーカイブの実例

本章では、すでに構築されているデジタルアーカイブの実例をいくつか取り上げながら、こ

れからデジタルアーカイブを構築しようとされている各地域の Museum(博物館・美術館)、

Library(図書館)、Archives(文書館)にとって参考となる取組を紹介します。 デジタルアーカイブの構築・運営が も進んでいるのは、国レベルの大規模な機関です。

・Museum(博物館・美術館)

東京国立博物館では、日常の収蔵品管理業務の中にシステムを組み込むことで、写真撮影

やデジタル化及びシステムへの入力が自然に行えるような業務フローを構築し、デジタルア

ーカイブの充実に役立てています。また、独立行政法人国立文化財機構では、東京国立博物

館の他全 4 館の国立博物館の収蔵品を鑑賞できる「e 国宝」21を公開しています。

独立行政法人国立美術館では、東京国立近代美術館をはじめとする 4 つの国立美術館の収

蔵品を、リーフレットをめくるようなユーザ・インターフェースで気軽に鑑賞できるデジタ

ルアーカイブ「遊歩館」22を公開しています。また、「所蔵作品総合目録検索システム」23で

は、4 館の所蔵目録を詳細に検索することができます。 ・Library(図書館)

国立国会図書館では、(1)デジタルアーカイブの構築 (2)情報資源に関する情報の充実 (3)

デジタルアーカイブのポータル機能の充実を目標に掲げ、電子図書館サービスを行っていま

す。貴重資料をデジタル化して公開している「近代デジタルライブラリー」24、「国立国会図

書館のデジタル化資料」25や、国内に多数存在するデジタルアーカイブ等を一括検索するポ

ータルサイト「国立国会図書館サーチ」26などを構築・運営しています。 ・Archives(文書館)

国立公文書館では、平成 17 年 4 月からインターネットを通じて「いつでも、どこでも、だ

れでも、自由に、無料で」、館所蔵の歴史公文書等の目録情報の検索、デジタル画像の閲覧が

可能な「国立公文書館デジタルアーカイブ」27を公開しており、平成 22 年 3 月 1 日からは、

より分かりやすく、使いやすいデジタルアーカイブとしてリニューアルして運用しています。

上記のような大規模デジタルアーカイブの取り組みに対し、地域のデジタルアーカイブ構築

では、その構築・運営のために使える人材や予算などの資源が非常に限られている場合がほと

んどです。

そのためこの章では、市区町村あるいは都道府県レベルでのデジタルアーカイブの実例を詳

しく取り上げその特長を説明するとともに、限られた資源の中での構築・運営の工夫などを紹

介します。

21 e 国宝 - 国立博物館所蔵 国宝・重要文化財 http://www.emuseum.jp/ (平成 23 年 12 月 29 日確認) 22 国立美術館 IAINMoA 遊歩館 http://search.artmuseums.go.jp/yuuhokan/ (平成 23 年 12 月 29 日確認) 23 独立行政法人国立美術館 所蔵作品検索 http://search.artmuseums.go.jp/ (平成 23 年 12 月 29 日確認) 24 近代デジタルライブラリー | 国立国会図書館 http://kindai.ndl.go.jp/ (平成 23 年 12 月 29 日確認) 25 国立国会図書館のデジタル化資料 http://dl.ndl.go.jp/ (平成 23 年 12 月 29 日確認) 26 国立国会図書館サーチ(NDL Search) http://iss.ndl.go.jp/ (平成 23 年 12 月 29 日確認) 27 国立公文書館デジタルアーカイブ http://www.digital.archives.go.jp/ (平成 23 年 12 月 29 日確認)

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1. Museum(博物館・美術館)

(1) まちとしょテラソ(小布施正倉・小布施人)

はじめに

平成 21 年 7 月に町立図書館が

「まちとしょテラソ」としてリニュ

ーアルオープンされました。これま

で親しまれた町の図書館であるこ

とと、待合せの場という意味を込め

た「まちとしょ」そして「世の中を

照らしだす場」「小布施から世界を

照らそう」などの「照らそう」から

「テラソ」を加えて「まちとしょテ

ラソ」という愛称がつけられました。

この「まちとしょテラソ」は「学びの場」「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」という

4つの柱による「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」という理念のもとで建築されました。設

計段階から町民と一緒に作られた図書館であり、人と人、地域と地域をつなげ、「面」で文化拠

点となる図書館を目指しています。

デジタルアーカイブの取組

シ ス テ ム 名 デジタルアーカイブ事業

U R L http://obuseshoso.info/

公 開 し た 日 時 平成 19年 12月

格納資料の種類 地域美術館・博物館の収蔵品

格納資料の件数 151件(おぶせミュージアム・中島千波館)

50件(高井鴻山記念館)

ア ク セ ス 数 現在特に取得していない

同館の館長は、就任当時から、

デジタルアーカイブの構築を構想

していました。デジタルアーカイ

ブの重要性を説明し、町の人達と

一緒に小布施町のデジタルアーカ

イブを作って来ました。

小布施町のデジタルアーカイブ

のコンセプトは「100 年後へのお

もてなし」「100 年後への贈り物」

という理念で取り組んでいます。

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取組当初の体制は図書館職員、参加機関の担当者、町民などの 10 人程度の委員会を作成しま

した。その当時から NII の中村佳史特

任研究員にもアドバイザーとして参加

してもらい進めていました。

人材については、県の緊急雇用支援が

ついたため、臨時職員を 2 名採用できま

した。その職員は図書館の職員として採

用しましたが、デジタルアーカイブも兼

務で行うことを前提で採用しています。

すべてを委託すると自館になにも残ら

ず、結果的に何もできない状況を作って

しまうと考え、できるだけ職員が行えることは行うようにしています。費用面ではデジタル化

や勉強会などの経費も含め、19 年度に国からの予算約 1000 万円を確保し準備を行いました。

構築は当初から NII との共同研究事業となっており、開発は NPO 法人の連想出版に委託し

ています。ソフトウェア等は連想出版の

開発したものをベースで利用したため、

開発費の負担は、Web ページを小布施

町用にいくつか作成した費用にあたる

約 50 万円程度に抑えることができまし

た。運用費は年間約 400 万円程度で、こ

れには追加コンテンツ作成費用、新機能

の開発費用、各種物品購入費用が含まれ

ています。

小布施正倉は文化遺産オンラインと

システム連携を行っています。デジタル

アーカイブを構築したことにより、「受け身」ではなく「提案」型として情報発信ができるよう

になりましたが、システム連携することで、より広く多くの方々への情報発信になることをメ

リットと感じています。

現在は、巻物のデジタル化に取り組んでおり、今年度は巻物全体のデジタル化を行い、次年

度はその巻物の解説を作って行く計画です。Web 画面上のジョグダイヤルを操作することで本

物の巻物を巻くような体験ができるインタフェースを準備し、ページの拡大もできるなど、子

供達にも興味を持てるデジタルアーカイブを今後も作って行きたいと語る館長の夢は尽きるこ

とがありません。常に新しいこと、楽しいことへ取り組む姿勢により生み出され受け継がれて

いくデジタルアーカイブは、他の機関への参考になると言えるでしょう。

高井鴻山記念館

おぶせミュージアム・中島千波館

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(2) 『信州デジくら』(長野県デジタルアーカイブ推進事業)

はじめに

長野県では、地域の祭り等の継

承が担い手不足により困難になっ

ている状況や、県立歴史館、県立

長野図書館等の県所蔵物が劣化し

て保存が必要になっている状況か

ら、長野県に存在する歴史・文化・

自然等の貴重な社会的資産をデジ

タル化して蓄積、保存し次世代に

継承するとともに、インターネッ

トで広く公開することにより、地

域アイデンティティの再認識や地

域づくりにつなげていくことを目

的として、デジタルアーカイブに

取り組んでいます。

平成18年度から事業の検討を始

め、関係部局によるワーキンググ

ループ、県民の意見聴取を行い、

平成20年度に関係団体等14名から

なる長野県デジタルアーカイブ推

進協議会を設置しその協議を経て、平成20年6月に「長野県デジタルアーカイブ基本構想・推

進計画」を策定しています。

デジタルアーカイブの取組

『信州デジくら』は、公募による「長野県デジタルアーカイブ推進事業」の愛称です。

長野県の歴史・文化・自然等の貴重な社会的資産をデジタル化して保存する「蔵」であり、

大切に守り伝えられてきたものや暮らしそのものを、生きた形で次世代へ伝えていくという意

味が込められています。

推進計画に掲げる「貯めるだけでなく、使えるデジタルアーカイブの構築」を目指す姿とし

シ ス テ ム 名 信州デジくら(長野県デジタルアーカイブ総合情報システム)

U R L http://digikura.pref.nagano.lg.jp/

公 開 年 月 日 平成 22年4月1日

格納資料の種類 県立長野図書館・県立歴史館・長野県信濃美術館所蔵物、

県民投稿・市町村提供の映像 など

格納資料の件数 2,415件(平成 23 年 12月末時点)

ア ク セ ス 数 PV:約 10,000件/月平均

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て、研究会やワーキンググループで検討し、平成21年度地域ICT利活用交付金(2,300万円)

を補正予算で活用し、県立長野図書館・県立歴史館・信濃美術館が登録機関として参加するシ

ステムを構築しています。

ASP28サービス利用(年間約150万円)によりシステムを運用し、平成22年4月からサイト公

開しています。

『信州デジくら』システムは、参加する各館が所蔵品管理システムとして利用できるように

なっているため、別の所蔵品管理システムを有しない機関にとってはシステム投資を抑えられ

るメリットがあります。

また、公開システムとしての機能を有し、同一のシステム上で、公開・非公開の制御ができ

るため、デジタルアーカイブのために作業が大きく増えることがないシステム構成になってい

ます。

このようなシステム整備をした点は、デジタルアーカイブの継続的運営の観点からも、今後

構築を行う他の機関でも参考になるものと言えるでしょう。

また、他のデジタルアーカイブとの連携機能も有していますが、平成24年1月から国立国会

図書館サーチとの連携を始めたところであり、連携の効果が判明するのはまだこれからの状況

です。

「地域アイデンティティの再認識と地域づくり」を基本方針として、県の事業推進の下、地

域活性化を図ろうとするこのモデルは、地域内連携支援の一つとして注目したい実例です。

(提供:長野県企画部情報統計課)

28 インターネットを通じて顧客にビジネス用アプリケーションをレンタルするサービス。主に Web ブラウザーか

ら ASP 事業者のサーバにインストールされたアプリケーションを利用する形態が多い。(IT 用語辞典 e-Words: http://e-words.jp/w/ASPE382B5E383BCE38393E382B9.html (平成 24 年 1 月 20 日確認)を参考にした。)

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(3) 練馬区立美術館

はじめに

練馬区立美術館は昭和 60年 10月に

開館し、日本の近現代美術を中心に企

画展を開催するとともに、2,200 件を

越えるコレクションを持っています。

同館は、近・現代という『いま』を

生きている美術作品を中心に、美を「み

る・みせる・つくる」、つまり「鑑賞・

発表・制作」という美術館の機能をフ

ル活用し、活動をつづけてきました。

ほかの美術館とはちょっと異なる斬新

な視点・大胆な切り口で新たな美の知

見を広げ、独自性を追求しています。また、開かれた美術館として設立された同館では、施設利

用申込を行うことでギャラリー・創作室を利用することができます。

同館の『ときめきの美 いま 練馬から』というキャッチフレーズには、より多くの区民や美

術ファンに愛される美術館へ、そのことが練馬区民の誇りとなり自慢となる美術館へ、という思

いが込められています。

デジタルアーカイブの取組

シ ス テ ム 名 所蔵品データベース

U R L http://www.nerima-art-museum.jp/

公 開 年 月 日 平成 17年 3月ごろ

格納資料の種類 近現代の地元の作家を中心にした日本画、版画、彫刻・工芸など

格納資料の件数 約 1,700件(平成 24年 1月現在)

ア ク セ ス 数 約 37,000~71,000件/月(平成 23年)

同館は施設がそれほど大きくないため、常設展示をするスペースがありません。このような環

境の中でも自館所蔵のコレクションを公開し、利活用を図ることを目的として、所蔵品データベ

ースを構築・公開しました。

デジタルアーカイブという名称ではありませんが、所蔵品をインターネットに公開する取組と

しては比較的古くから(平成 17 年)行われており、先進的な実例と言えます。公開当初には新聞

にも取り上げられました。29

同館の所蔵品データベースシステムは、内部事務用の所蔵管理システムと同時に整備されてい

るものの、当初から公開用のシステムを構築することを目的としていたことが特筆されます。

システムとしては ASP サービスを利用しており、館内にはサーバーを置いていません。データ

更新も含めて運用を委託することで、負担の低減を図っています。

29 朝日新聞(東京北部版)平成 17 年 3 月 25 日付

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構築費用は、内部管理・公開用のシステム(ポジフィルムからのデジタル化を含む)の初年度

構築を約 240 万円で行い、毎年追加する収蔵品のデジタル化も含めた年間の運用費用に約 140 万

円を計上して運用しています。

現時点では、他のデジタルアーカイブとの連携はされていません。

この所蔵品データベースで

公開されている作品は、ほぼ

毎年追加されています。構築

初年度だけでなく継続した取

組が行われている点は参考に

したい実例です。また、これ

を支える運営予算が毎年継続

していることも重要な点と言

えます。

公開されている作品は、地

元練馬区や近隣の区にゆかり

の作家からの寄贈作品が多い

そうです。

同館では、デジタルアーカ

イブでの情報配信を含め、地

元作家の情報発信を積極的に行う取組が評価され、担当の学芸員と作家との信頼関係が築かれる

ことで作品が集まっています。所蔵作品の情報を公開し、広く情報発信することで、美術館の発

展が促進されるばかりでなく、地域の活性化にも貢献している実例です。

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2. Library(図書館)

(1) 神戸大学 震災文庫

はじめに

神戸大学は、「開放的で国際性に富む固

有の文化の下、『真摯・自由・協同』の精

神を発揮し、人類社会に貢献するため、

普遍的価値を有する「知」を創造すると

ともに、人間性豊かな指導的人材を育成

する」ことを使命とする、神戸市所在の

国立の総合大学です。

附属図書館は 4 キャンパスの 9 図書館

及び大学文書史料室を運営するとともに、

所蔵資料などの知的資産や教育・研究成

果のデジタルアーカイブを広く世界に発

信し、社会に対する同大学の知的資源のポータル(窓口)機能を果たすことを目指しています。

デジタルアーカイブの取組

シ ス テ ム 名 神戸大学附属図書館 デジタルアーカイブ 【 震災文庫 】

U R L http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/

公 開 年 月 日 平成 8年 7月 19日

(デジタルギャラリーとしての公開は平成 11年 7月 15日)

格納資料の種類 図書資料,雑誌資料,新聞・広報紙類,パンフレット類,

一枚もの資料,写真資料等

格納資料の件数 4,906件(平成 24 年 1月時点)

ア ク セ ス 数 3,035件/月平均(平成 23年 4月~12月)

神戸大学附属図書館では、多数のデジタル

アーカイブを公開しています。その一覧は同

館のホームページ30で見ることができます。

ここでは、「震災文庫」を取り上げます。

「震災文庫」は、平成 7 年 10 月に、同大

学の社会科学系図書館内に開設されました。

災害復興や地震研究・防災対策などに役立て

るよう、阪神・淡路大震災にかかわるあらゆ

る資料を可能なかぎり収集し、被災地をはじ

30 神戸大学附属図書館 デジタルアーカイブ http://www.lib.kobe-u.ac.jp/da/ (平成 24 年 1 月 20日確認)

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め全国の利用者に広く提供することを目的としています。また、資料は後世に確実に伝えるべ

く、記録としてすべて保存されています。また、オープンとほぼ同時にホームページが公開さ

れ、資料の目録が公開されました。

その後、来館できない利用者への資料提供のため、資料内容そのもののデジタル化がすすめ

られました。現在、チラシなどの一枚もの資料、写真、図書、広報紙、音声、ビデオ映像など

多種多様な資料が公開されています。

目録(メタデータ)は全件が公開されています。また、所蔵資料の約 1 割にあたる 4,900 件

強が、一次情報(全文・画像)までデジタル化され公開されています。

予算は、科研費や文部科学省の電子図書館予算を活用しました。

同文庫は大学の附属図書館に設置されていますが、一般の利用者に開放されています。資料

もその性質上、市民からの寄贈によるものが多いため、市民の方へのサービスと考えて構築し

ています。付与するメタデータの記述の作成は、寄贈者の方の納得感があるように配慮してい

ます。

寄贈者が資料を見に来館することもあり、「一緒につくりあげてきた」という意識が利用者と

図書館の双方にあり、真の市民参加がなされている実例といえます。

同図書館のデジタルアーカイ

ブでは、「新聞記事文庫」が国立

国会図書館サーチと連携してい

ます。震災文庫は、「阪神・淡路

大震災記念 人と防災未来センタ

ー」と連携し、関連資料の横断検

索を実現しています。平成 24 年

からは、兵庫県立図書館も参加し

ます。

このようにデジタルアーカイ

ブの連携は、中央機関のポータル

サイトと連携する方法だけでな

く、類縁機関と連携することで利用の便を図る方法も有効です。

震災文庫担当者のお話によると、「デジタルアーカイブは試行錯誤の積み重ね」であり、「そ

の時の 善を判断し、過ちを正す」ことが重要であり、また「外部の専門家を信じる―― も

正しそうな方を選び出し、信頼して依頼する」こともまた重要です。

取組の中で改善を図っていくこと、自分たちでやるべきことと外部の専門家に任せることを

切り分けたうえできちんと依頼することは、今後デジタルアーカイブを構築する機関にとって、

参考になる考え方といえます。

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- 26 -

(2) 萩市立萩図書館

はじめに

昭和 49 年に開館した旧萩市立萩図書館は老朽化のために新築することになり、平成 21 年秋か

ら新図書館の建設工事が行われ、平成 23 年 3 月 21 日に新図書館が開館しました。新図書館は 2

階建てで児童館を併設しており、「萩

あいぶらり」という愛称がつけられて

います。延べ床面積は約 3800 平方メ

ートルで、図書館部分の広さは旧図書

館の約 2倍になり、座席数は 3倍の 160

席程度となりました。そして図書に関

しては、自由に読むことができる本が

今までの約 8 万冊から 14 万冊へと格

段に増えました。郷土資料や明治維新

史関連書籍などの貴重な図書も調査・

研究コーナーに並んでいます。

また開館に併せて、「萩市電子図書館」が始まりました。公立図書館で電子書籍を貸し出す電子

図書館サービスは全国で3番目の正式導入となるということで、注目を集めています。

デジタルアーカイブの取組

シ ス テ ム 名 萩図書館貴重資料アーカイブス

U R L http://hagilib.city.hagi.lg.jp/hagilib-archive/archiveindex.html

公 開 年 月 日 平成 23年 3月 21日

格納資料の種類 萩図書館所蔵の江戸・明治期を中心とした貴重書と資料目録

格納資料の件数 101件(平成 23 年 6月時点)

ア ク セ ス 数 現在は取得していない。

新しい萩図書館の開館を機に、

所蔵している維新史関連を中心

とした貴重資料をデジタル化、デ

ータ化することにより、情報発信

することを目的として取組をス

タートした。同年 8 月からは ASP

サービスの公開とは別に、萩図書

館のホームページにアーカイブ

スを公開し利用登録者以外から

も閲覧できるようにしました。

構築予算には、財団法人図書館

振興財団の助成事業を活用しま

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した。構築は萩図書館と NPO31法人(館の運営受託団体)との協働体制で行いました。

構築後の効果として、今回の取組でアーカイブ化した資料等を所蔵していることを今まで知ら

なかった利用者に関心を持ってもらうことができた点が挙げられます。また、当初のアーカイブ

のシステムに電子図書館のプラットフォームを利用したため、アーカイブも含めた電子図書館に

対する視察や問い合わせが相次いで寄せられたそうです。

費用面で見ると、初年度のシステム構築、データ変換とその年の運用費も含めて約 250 万円、

構築費用とは別でデジタル化(撮影及びデータ化など一式)の費用に約 450 万円を要しています。

また、今後の継続の際にデジタル化の費用を抑えるため、初年度の費用にてデジタルカメラ、撮

影台、記録用パソコン、スキャナ類を整備し、自館でのデジタル化作業に備えています。

年間の保守費用は、ASP サービス運用費用およびデジタル資料の掲載費用を合わせ、約 90 万

円となっています。

現在の所、他の団体等のシステム

との連携はされていません。連携を

行いたいと考えているものの、技術

的な問題(プラットフォームやデー

タ共有化)があって進んでいない状

況です。

開始して間もない同館のデジタル

アーカイブですが、今後環境が整え

ば、関係機関との間で相互閲覧や検

索といった連携ができるように取り

組む意向があるとのことで、今後も

引き続き注目すべき実例です。

31 「NPO(NonProfit Organization)」とは、様々な社会貢献活動を行い、団体の構成員に対し収益を分配する

ことを目的としない団体の総称(内閣府 NPO ホームページ: https://www.npo-homepage.go.jp/about/npo.html (平成 24 年 1 月 31 日確認)を参考にした。)

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3. Archives(文書館)

(1) 藤沢市文書館

はじめに

藤沢市文書館は、郷土の文化を将来へ継承し、先人の歴史に学び現在を知ることで生活を豊

かにするため、貴重な文書や記録を散逸させるような事態を阻止し、市民共有の財産を後世に

伝えるとともに、地域への理解を深め、現在の行政に反映させるための機関として、次の役割

を掲げて活動しています。

(a) 歴史・行政情報の提供の充実に努める

(b) 古文書等、地域記録史料の保存継承をはかる

(c) 藤沢市の歴史を知るための事業を行う

(d) 行政の記録を残す

同館は、「江の島縁起」「北条早雲文書」といった

地域の古文書や郷土資料、行政資料、公文書などを

保存しており、地域の歴史が分かる資料館です。市

民資料室で資料を閲覧することができます。また、

藤沢の歴史を知るための講座や展示、古文書の講座

も開かれています。32

デジタルアーカイブの取組

シ ス テ ム 名 藤沢市文書館

U R L http://digital.city.fujisawa.kanagawa.jp/

公 開 年 月 日 平成 22年 4月

格納資料の種類 写真、絵葉書、古地図、展示資料など藤沢ゆかりの歴史資料

格納資料の件数 1000点程

ア ク セ ス 数 月約 2500ページ

藤沢市文書館のデジタルアーカイ

ブは平成 21 年度に試験的な公開を

開始し、平成 22 年 4 月に正式公開し

ました。

デジタルアーカイブを公開した目

的は、文書館と公文書管理などその

役割を知ってもらうための啓発活動

です。また、文書館が持つ資料の利

活用も目的の一つと考えており、学

校教育や生涯学習としての利用も期

32 藤沢市観光課・社団法人藤沢市観光協会 http://www.fujisawa-kanko.jp/spot/spot03.html

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待しています。

したがって、同館のデジタルアーカイブは一般市民向けとして構築されています。デジタル

アーカイブの資料を見てそのページ

をプリントアウトして来館し、閲覧

の請求を行う人が 近多くなってい

ます。資料の所在を広く知らせるこ

とができる点と、あらかじめ特定さ

れたデータの閲覧請求を受けること

で館の職員が効率よく対応できるこ

との 2 点がメリットといえます。

デジタルアーカイブの構築事業は、

藤沢市相互提案型協働モデル事業に

より採択された NPO 法人湘南市民

メディアネットワークと、平成 20 年

度より準備を進めてきました。

予算が非常に厳しい中で、委託を受けた担当者の方々の熱意とボランティア的な支援でここ

までの機能を実装してもらったと感謝の言葉を館長も述べていました。

見てわかりやすい、興味を持てるこ

とが大事であるという言葉通り、非常

に美しい映像で、見て楽しいデジタル

アーカイブとなっています。(写真1、

写真2: 「デジタルコンテンツ>デ

ジタル展示>藤沢市の 70 年」の操作

画面)

また、何度もアクセスしてもらうた

めに、コンテンツをできるだけこまめ

に段階的に更新、拡充し、陳腐化させ

ないことが重要で、そのためには事業

の継続性が欠かせないと館長は話し

ています。

構築の基本方針や取組の姿勢をはじめとして、参考になるポイントが多い実例です。

写真 1

写真 2

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4. 実例まとめ

これまでに紹介した実例の特徴を以下にまとめます。

参考となる実例を探すための手掛かりとしてください。

機関名 デジタル

アーカイブ名 概要

まちとしょテラ

ソ(小布施町立図

書館)

小布施正倉 小布施町立図書館が中心に支援を行い、町の人達と一緒

に小布施町のデジタルアーカイブを作っている。小さい

規模でも共同研究や実証実験を活用し、様々な補助を有

効に使ってデジタルアーカイブを構築、維持している実

長野県デジタル

アーカイブ推進

事業

信州デジくら 県及び関係団体等からなる協議会での協議・検討を通じ

て、地域アイデンティティの再認識と地域づくりにつな

げてくことを目的として、県(図書館、歴史館、美術館)

所蔵物のデジタル化等のデジタルアーカイブを推進して

いる実例

練馬区立美術館 所蔵品データベ

ース

所蔵品をインターネットに公開する取組としては比較的

古くから(平成 17 年)行われており、先進的な実例と言

える。長期間に渡り継続している点や、広く情報発信す

ることで、美術館の発展が促進されるばかりでなく、地

域の活性化にも貢献している実例

神戸大学 震災文庫 災害復興や地震研究・防災対策などに役立てるよう、阪

神・淡路大震災にかかわるあらゆる資料を可能なかぎり

収集し、被災地をはじめ全国の利用者に広く提供するこ

とを目的として明確に定め、類縁機関とシステム連携を

行っている。コンテンツの収集から市民とともにアーカ

イブを作り上げた実例

萩市立萩図書館 萩図書館貴重資

料アーカイブス

新しい萩図書館の開館を機に、所蔵している維新史関連

を中心とした貴重資料をデジタル化、データ化すること

により、情報発信することを目的としてスタートした。

電子図書館と共存した今後のデジタルアーカイブの形の

一つとして注目したい実例

藤沢市文書館 藤沢市文書館

(FUJISAWA

DIGITAL

ARCHIVES)

文書館と公文書管理などその役割を知ってもらうための

啓発活動を目的として、見てわかりやすい、興味を持て

ることをコンセプトにサイトを構成している。継続的な

コンテンツの更新を行い何度もアクセスしてもらうこと

を念頭に置いた取組姿勢などが参考となる実例

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第4章 デジタルアーカイブの構築・連携の課題

デジタルアーカイブを構築・連携する上でのさまざまな課題について、平成 21 年度に実施し

た「我が国におけるデジタルアーカイブの構築に関する調査研究」ではデジタルアーカイブを

構築する上での技術的な課題を抽出し、平成 22 年度に実施した「我が国におけるデジタルアー

カイブの構築・統合に関する調査研究」では、デジタルアーカイブを連携する上での課題を抽

出しました。

本ガイドラインでは、これまでの課題を踏まえ、デジタルアーカイブを構築し運用して行く

ために各機関があらかじめ検討しておくべき課題を整理し記載します。また、第 5 章 デジタル

アーカイブの構築・連携の手引きには課題に対して他館の事例などを記載していますので、参

考情報として利用して下さい。

1. 目標設定の課題

(1) デジタル化・デジタルアーカイブの目標設定 各機関によりデジタル化の目的やデジタルアーカイブの構築の目的は異なるものです。そ

れぞれの機関内でその目的や到達点は違いますが、長期利用・保存の観点を考慮した目標設

定をしておく必要があると考えられます。

(2) デジタル化対象の判断基準 未デジタル化資料のデジタル化については、現物の保存状態の悪化等、デジタル化対象物

の状態を第一に考慮すべきですが、現在の利用者のニーズも含めデジタル化対象の判断基準

を決めておく必要があると考えられます。

2. メタデータの課題

(1) 利用のためのメタデータの検討 デジタルアーカイブに格納されたコンテンツは、利用されやすい存在でなければなりませ

ん。コンテンツの利活用および連携を容易にするためには 低限、連携する項目定義や語彙

については、標準的な物を採用するように館内で検討しておく必要があると考えられます。

(2) 保存のためのメタデータの検討 構築後に長い時間が経過すると、構築当初の目的やデータ作成時に使用された技術などの

情報が失われ、オリジナルの状態を再現することに支障が生じる懸念があります。各館でデ

ジタルアーカイブへ格納する対象物をデジタル化した時に、デジタル化した時の情報を残し

ておく必要があると考えられます。

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3. 技術的な課題

(1) ファイルフォーマットの採用基準 デジタルアーカイブを構築する上で 適なファイルフォーマットは各デジタルアーカイブ

の目的や予算により異なります。国際標準化された規格(デジュール・スタンダード)、標準

化されていないが事実上の標準になっている規格(デファクト・スタンダード)など幾つか

挙げられますが、どちらが優れているというものではなく、使用目的に応じた適切なファイ

ルフォーマットを検討する必要があります。どの規格を採用するにしても将来的にデータ変

換を考慮したファイルフォーマットを検討する必要があります。

(2) ファイルフォーマットの変更基準 技術の変遷に対応するため、一度採用したファイルフォーマットを変更することが考えら

れますが、ファイルフォーマットの変更実施を判断する基準を検討する必要があります。

(3) 保存媒体の選択 ファイルを保存するための媒体に何を使用するか検討する必要があります。DVD33、

Blu-ray Disc34等の光ディスクが一般的ですが、後でデータが読めない、保存場所を取られる

等の課題があります。ハードディスク35は価格が年々下がっていることもありますが、障害

時には全てが読み出せなくなってしまうことなど、バックアップや冗長化については慎重な

検討が必要です。

(4) 長期利用・保存のための方法検討 デジタル化の技術については、技術革新が現在も進んでおり、今は再生可能なデジタルデ

ータでも将来に渡り問題なく再生できる保証はありません。つまり、昔作成されたファイル

フォーマットを再生するソフトウェアが利用できなくなり、表示も印刷もできない現象が起

こることがあります。また、デジタルデータを保存した媒体の寿命やハードウェアの寿命で

利用できなくなるなど、長期的な観点での利用や保存のためには何らかの対応を行う必要が

あります。

国内、海外でその手法について調査研究が進められており、それらの動向の把握と各機関

でもどのようなタイミングでどのような手法を使って長期利用・保存の対応を実施するかが

課題となっています。しかし、このような複雑な問題に個々の機関がそれぞれ対応すること

は困難です。課題やその解決策に対する情報を収集し、対応を検討するためにも、都道府県

レベルでの連携や国立機関との連携をすすめることに意味があります。

33 Digital Versatile Disk の略称 データ記録メディアとして利用される光学ディスクの一種(IT 用語辞典

e-Words: http://e-words.jp/w/DVD.html(平成 24 年 1 月 23 日確認)) 34 現行の DVD を超える容量を実現する「次世代 DVD」規格の光学ディスクのこと(IT 用語辞典 e-Words: http://e-words.jp/w/Blu-ray20Disc.html(平成 24 年 1 月 23 日確認)を参考に記述した。) 35 パソコンを初めとするほとんどのコンピュータに搭載されている、代表的な外部記憶装置のこと(IT 用語辞典

e-Words: http://e-words.jp/w/HD-2.html(平成 24 年 1 月 23 日確認))

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4. 人材と体制の課題

(1) 人材に求められる能力 デジタルアーカイブを構築・推進する人材に求められる知識は多岐に渡ります。しかし、

都道府県レベルでの機関においても、そのような人材を確保することは難しく、地方の組織

になると更に深刻な状況です。これまでのデジタルアーカイブの構築事例で見ても、推進役

となる人の存在が大きく、人依存となっていることが課題と考えられます。

(2) 組織の予算と維持 デジタルアーカイブを長期に渡り維持するため、担当者の異動や予算配分の停止によって

デジタルアーカイブの運用が停止しないように、中長期的な予算措置が求められます。また、

デジタルアーカイブの性質上、増え続けて行くデータを保持するための予算確保などが検討

課題と考えられます。

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第5章 デジタルアーカイブの構築・連携の手引き

この章の注意点

この「デジタルアーカイブの構築・連携の手引き」の章では、できる限り実践的なガイドラ

イン例とするため、仮の読者像を設定しました。その読者がデジタルアーカイブを立上げる業

務を与えられたという想定で、デジタルアーカイブを作っていくための全体像をつかんで頂く

ことを目的としています。

■ 仮想読者の環境

地方の博物館・美術館や図書館、文書館でデジタルアーカイブを推進する職員

■ デジタルアーカイブの対象

自館の所蔵品、地域の貴重資料

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1. デジタル化とシステム構築の前に:自館の現状把握と準備

デジタルアーカイブを構築すると言っても、どのようなことを準備・用意すればよいかわか

らないといった声が聞かれます。一概に「こうやればできます」と言う方法はありませんが、

以下にデジタルアーカイブを構築、運用する際に押さえておくポイントを、3 つの段階に分け

て記載します。

知の記録組織

地域支援

組織・機関

支援(

委託)

企業

(a)計画を策定する ◎ ○ ○

(b)対象物を選定する ◎ ○

(c)著作権等の処理を行う ◎

(a)対象物をデジタル化する ◎ ○ ◎

(b)メタデータスキーマを整理する ◎ ○ ○

(c)基本機能・連携機能を確定する ◎ ○

(d)デジタルアーカイブを構築する ◎ ○ ◎

(a)計画を再検討する ◎ ○ ○

(b)人材と教育 ◎ ◎ ○

(c)長期利用・保存 ◎ ○ ○

(d)アウトリーチ ◎ ○

自館の

現状把握

と準備

運用段階

準備段階

デジタル

アーカイ

ブの継続

運用

構築段階

段階

プロセス

◎ 主体的に行う実施者(実施主体)

○ 実施主体を補佐する役割の関係者

システムの構築(

c・d)

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(1) 計画を策定する

(a) 全体方針の検討

デジタルアーカイブを構築する目的、提供方法、利用対象者などを考え、実際に使える予

算と構築にかかる想定予算を比較検討して、計画を整理しておきましょう。

その中でも 初に目的や方針を明確にしておくことが重要です。いくつかの事例を紹介し

ます。

小布施町立図書館 まちとしょテラソ Web サイト36より

「長野県デジタルアーカイブ基本構想・推進計画」(2008 年6月長野県策定)37より

36 小布施町立図書館 まちとしょテラソ http://machitoshoterrasow.com/index.html (平成 24 年 2 月 12 日確

認) 37 長野県デジタルアーカイブ基本構想・推進計画(本文) http://www.pref.nagano.lg.jp/kikaku/josei/da/koso_1/koso.pdf (平成 24 年 2 月 12 日確認)

『地域アイデンティティの再認識と地域づくり』 □ 伝統文化と情報通信関連産業の連携による文化・産業基盤の整備地域の伝統文化を

再発見し共有するとともに、コンテンツ産業をはじめとした情報通信産関連産業の

活性化を促すことで、様々な分野の連携・協働による文化創造・産業創出のための

基盤整備に資する。 □ 世界に向けた長野県の魅力の発信による観光振興資料等から読み取れる確かな地

域特性を共有し、長野県の魅力を世界に発信していくことで、県内外からの実物へ

の興味・関心を高め、長野県の観光振興に資する。 □ 発信能力を持ち地域を支える人材育成地域を見直し、地域の魅力を発見し理解し

て、新たな価値を創造しながら発信することで、地域アイデンティティを次世代に

継承・発展させ、地域を支えることができる人材育成を行う。

『100 年前を伝え、100 年後へサービス』 小布施町の文化(文化財的な文化、生活=小布施ならではの風土的文化)の収集を行い、

そしてまとめ公開(発信)することにより、人づくりや町づくりに役立たせることがで

きると考えます。その収集された情報を蓄積するシステム、デジタルアーカイブ(デジ

タル化された「保存記録」や「記録保存館」)は、未来へのタイムカプセルとなることと

同時に、私たちが、先人から学び、今をどのように生き抜いていくのかという羅針盤の

役目を果たす事となると考えます。 このことから、町民の皆さんと小布施にとってのデジタルアーカイブを考え、協働でデ

ジタルアーカイブ事業を行っています。

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(b) コストの検討

前項で検討したデジタルアーカイブ構築の全体方針から、利用対象者などを考え、実際に

使える予算と構築にかかる想定予算を比較検討して、自館で構築できるデジタルアーカイブ

の仕様を整理しておきましょう。

① デジタル化のコストの考え方

デジタル化のコストは、デジタル化の目的、資料の種類、状況、委託する量や期間によ

って大まかに決まります。立体物や、ふすまのような大きなものは異なりますが、書籍な

どの平面で一般的な資料のデジタル化の考え方について説明します。

(ア)目的の分類

デジタル化の目的を大きく分類すると、以下のように分けることができます。

目的により、画像の精細度が変わり、連動してコストも変わります。

以下の分類は、上から高精細画像が必要となる順に並べてあります。

1.特殊な研究目的のもの

2.印刷で精密な複製をつくるためのもの(特に色の管理が重要になります)

3.印刷して読め、OCR38でテキスト抽出できるもの

4.Web で読め、OCR でテキスト抽出できるもの

5.Web で読むためのもの

それぞれ、カラーかグレースケール39かによってコストが変わります。ほかの条件が同

じならば、グレースケールのほうが安価です。

38 OCR:(Optical Character Recognition, 光学文字認識) とは、画像データ上にある文字と思われる部分を解析し、

コンピュータ上で扱える文字(テキスト)データに変換することを示します(朝日新聞「知恵蔵 2009」) 39 コンピュータ上での色の表現方法の一つ。画像を白から黒までの明暗だけで表現し、色の情報は含まない「モ

ノクロ」のこと。(IT 用語辞典 e-Words http://e-words.jp/w/E382B0E383ACE383BCE382B9E382B1E383BCE383AB.html (平成 24 年 1 月 30日確認))

メモ:OCRのコストについて

画像の精細度を検討するための使用目的の例として、OCR の実施有無をあげまし

たが、OCR 関連の作業自体のコストも検討する必要があります。

OCR の精度は完璧ではなく、似た形の文字を間違えたり、文章のレイアウトを正

しく認識しないことがあります。「OCR した文章は全文検索に用い、そこそこの検

索精度でも良い」と割り切って誤りを許容する、という考えもありますが、そうで

なければ処理後には校正が必要になります。校正をどこまで行うか(ルビの対応な

ど)がコストに影響を与えるため、OCR の処理を行う場合には注意が必要です。

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(イ)資料の種類・状態

資料の種類や状態により、デジタル化作業に要する時間や機材が異なりますので、コ

ストが変わります。冊子体やマニュスクリプト(手稿)の資料を例にとると、以下の分

類では、下にいくほど金額を低く抑えられます。

1.貴重書のようなものや、資料の状態が悪く扱いにくいもの

2.製本雑誌のように厚いものや、大きさが不揃いなもの

3.それほど貴重とは言えないが、裁断できないもの

(非接触/接触可でデジタル化するかでも異なる)

4.裁断できるもの(フィーダ40付きスキャナで取り扱ってよいもの)

(ウ)量と期間

デジタル化のコストはその多くが人件費であるため、取扱に慣れることで、生産性が

大きく向上します。量が少なく定常ラインがなければ、低い生産性しか出ないため、コ

スト高になってしまいます。生産性が決まると量と期間で作業者の人数が算出できます。

ただし、作業者が多いほど熟練者の割合が少なくなり、品質が悪化するため、生産性が

低下する傾向があります。

他にも、納品画像データの種別・媒体、メタデータ・目次データの作成の有無やその形

式、作業場所の指定(あるいは作業場所の環境の指定)の有無や、一度に持ち出せる数量

などに関する条件など、様々な仕様がコストに大きく影響します。また、大規模なデジタ

ル化を行う場合には、物流に関する時間とコストを計算に入れる必要があることなども注

意が必要です。

このようにデジタル化の規模・対象物・求められる品質に応じ、コストの幅が大きく変

わるため、目的の設定、資料の調査、仕様の確定、サンプル調査によって 適な選択をす

ることが重要です。

以下に、デジタル化のコストについて検討する助けとなる事例を紹介します。

40 印刷用紙を自動的に供給する装置。シートフィーダのこと。 (IT 用語辞典 http://www.sophia-it.com/content/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%80 (平成 24 年 1 月 20 日確認))

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デジタル化のコストについて (1) ~慶應義塾大学メディアセンターの経験から~

デジタル化の対象物や品質によるコストの違いの例を、慶應義塾大学メディアセンターの経験

からのコメントで紹介します。以下の例は、すべて冊子体の資料を対象にした場合です。

① 取り扱いの難しい貴重な資料を、カラーマネージメントをきちんと行ない、

デジタル複製可能な品質レベルのデジタル化を行った場合

1 ページ 3000 円前後 の見積もりが出ることが多い。

② 裁断可能で読めればよくて、OCR をかけて校正しない場合、

安価な業者では、300 ページの本が 一冊 200 ~600 円程度 =

1 ページ 2 円以下で可能である。

③ 同じように、裁断可能で、OCR をかけて校正はしない場合でも、オンデマンド

プリント※ 用の画像などの場合は、デジタルデータへの検査・加工・信頼度を担保し、

1 ページ 100 円以上になる場合もある。

※ コピー機の技術を応用し、少部数でも安価で高品質な出力を実現するデジタル印刷

方式。

デジタル化のコストについて (2) ~大判資料の場合~

畳1枚と同じぐらいの大きさの古地図のデジタル化をする場合、以下の2段階の手順で行われ

ます。

① 適当な大きさ(ここでは A3 判相当)ごとに分けて、複数の写真を撮る

② 分割して撮影した画像をつなぎ合わせる

上記前提のもと、ある業者の見積によると、各段階の費用目安は以下のように計算されます。

① 写真撮影料 A3 判 1 枚あたり 3,000~4,500 円 × 15 枚 = 45,000~ 67,500 円

② 画像加工料 1 辺あたり 1,500~2,500 円 × 22 辺 = 33,000~ 55,000 円

合計 78,000~122,500 円

※資料の保存状態や作製する画像の品質などにより、費用は変動しますので、

この範囲に収まるとは限りません。

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- 40 -

上記のように、デジタル化のコストを出す場合は要件を検討した上で計算する必要が

あります。表 5-1 に、日本の MLA 機関での事例を記載します。

以下の事例の価格は、いずれも上記(ウ)にて説明したとおり、デジタル化の量や環

境など様々な要件によって変わることに注意してください。

表 5-1 デジタル化コストの参考数値

秋田県立図書館 ※量や環境など様々な要件により単価は大きく変動します。

表中の数値は何らの基準を表すものではありません。

対象物 役務内容 数量 単価 価格 日付

貴重資料

・フィルム撮影

・フィルムからデジタ

ル化(白黒)

マイクロ 10万コマ 約 150 円

1,780 万円 平成 9 年

6×7(中判)

100 コマ 約 6,000 円

4×5(大判)

約 200 コマ 約 11,000 円

萩市立萩図書館 ※量や環境など様々な要件により単価は大きく変動します。

表中の数値は何らの基準を表すものではありません。

対象物 役務内容 数量 単価 価格 日付

明治維新史関連

書籍

メタデータ作成

デジタル化、(JPEG、PDF、独自形式

.iek への変換)

システム登録

※電子図書館システム構築時

100 冊

約 5,400 コマ - 約 450 万円 平成 23年

デジタル化のコストについて (3) ~立体物の場合~

撮影条件や機材、そして対象物の種類や状態により、金額は非常に大きく変わってきます。立

体物については特にその傾向が顕著です。したがって、これはあくまでも一例としての記載と

なります。

【条件】

・対象物の想定は美術品(刀剣を除く)

・目的は、Web で公開するデジタルアーカイブ用 (カタログ、図録等の印刷用途ではない)

・サイズは、縦・横・幅は1~2mの範囲内

・撮影場所はスタジオで、対象物は持込

・2100 万画素相当のカメラで、1方向からの撮影

・カラーマネージメントあり

上記条件で、1 カット\30,000 円~\40,000 円 が一例として挙げられます。

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- 41 -

② システム構築のコストの考え方

システム構築のコストを検討する場合は、そのシステムの要件を決めておく必要があ

ります。機能についての詳細は、2(3)の「基本機能・連携機能を確定する」に記載して

います。より具体的に、ある館で必要とする要件から想定する機能を抽出し、仕様を検

討していく流れを「参考資料 7 事例1:所蔵資料別デジタル化作業ワークフロー」及

び「参考資料 8 事例2:館内利用者への所蔵資料公開」に示していますので、併せて

参考にして下さい。

なお、各自治体の MLA 機関におけるシステムの調達にあたり、政府調達の基本指針

と自治体が定める情報システムの指針やガイドライン等を参照しておきましょう。基本

指針の資料と、参考となる自治体から公表されている指針例等を併せて以下に記載しま

す。

表 5-2 政府調達の基本指針及び自治体ガイドライン等

資料名 URL

「情報システムに係る政府調達の基本指針」

(2007 年(平成 19 年)3 月 1 日

各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)

http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/tyoutatu/

「情報システムに係る政府調達の基本指針」実

務手引書(第2版)(2007 年(平成 19 年)7 月

1 日 総務省行政管理局

http://www.soumu.go.jp/main_content/000141665.pdf

自治体例)

岡山県情報システム調達ガイドライン

http://www.pref.okayama.jp/page/detail-89152.html

自治体例)

浦安市情報システム調達指針

http://www.city.urayasu.chiba.jp/item18900.html

表 5-3 システム構築コストの参考数値

■システム構築費 ※規模や機能など様々な要件により価格は大きく変動します。

表中の数値は何らの基準を表すものではありません。

組織名称 役務 価格 日付

秋田県立図書館 図書館システム構築 1式

※電子ライブラリーの費用は一部分

約 2,000 万円 平成 16 年

萩市立萩図書館 システム構築(初年度の運用費含む)

データ変換

システム構築期間 H22.11~H23.3 上旬

約 250 万円 平成 23 年

練馬区立美術館 内部管理・公開用のシステム(ポジフィルムか

らのデジタル化を含む)

約 240 万円 平成 17 年

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- 42 -

③ 保守費の考え方

保守費は利用しているシステムの利用形態により変わります。ASP サービスなどを利

用している場合と、自館にサーバーなどの設備を持つオンプレミスとでは保守にかかる

費用は変わってきます。システムの規模や、保守に含める作業範囲によっても変わりま

す。

また、サービスレベルの設定の仕方によっても、コストに影響を与えます。特に土日

祝日等通常の企業が休日に当たる日の対応や、24 時間 365 日の対応など、人件費へ直接

影響するサービスレベルを設定すると、コストに大きく影響が出ます。

以下にいくつかの事例を紹介します。

表 5-4 システム保守コストの参考数値

■保守費 ※規模や作業内容など様々な要件により価格は大きく変動します。

表中の数値は何らの基準を表すものではありません。

組織名称 役務 価格 日付

小布施町立図書館 小布施正倉,小布施人百選

システム運用、ソフトウェア開発、データ作

成を含む

約 338 万円/年 平成 23 年

秋田県立図書館

図書館システム保守 1 式

※デジタルライブラリー保守費含む

デジタル化追加費用など

ソフト費+ハード費

約 240 万円/年 平成 23 年

長野県デジタルアー

カイブ推進協議会

ASP サービス利用料 約 150 万円/年 平成 22 年

練馬区立美術館 ASP サービス利用料(館内・公開システムの

保守、画像・メタデータの更新も含む)

約 139 万円/年 平成 23 年

萩市立萩図書館 ASP サービス利用料

(50 点のデジタル資料掲載経費含む)

約 95 万円/年 平成 24 年

(案)

(2) 対象物を選定する 対象物の選定にあたっては、対象となるモノそのものについての知識を持ち、その価値に

ついてある程度評価できる人材が、その選定過程に関与することが望ましいと考えられます。

さらに、デジタル化したあとの活用まで考えて選定することを考えるのであれば

・学校教育等で活用することを想定する場合には教育関係者

・地域ブランドの立ち上げ等も想定する場合には地元企業

など対象物を選定する段階から巻き込むことも検討してみると良いでしょう。事例でも挙

げています「信州デジくら」の場合は、長野県デジタルアーカイブ推進協議会を設置しその

協議により対象物を選定しています。

しかし、一方でデジタルアーカイブの導入を検討している機関には、知的資産が手をつけ

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- 43 -

られずに残っているケースが多いことが様々な機関へのヒアリング41から課題として挙がっ

ています。但し、自館内にある全ての知的資産をデジタル化するには予算や人の制約があり

困難であるため、デジタルアーカイブに収録する対象について優先順位を決めて選定する必

要があります。

対象物の優先順位づけとして下記の 2 つが挙げられます。

・ 一次情報(現物)そのものが経年劣化により今後利用できなくなる知的資産

・ その地方独特の知的資産(工芸品、その地方で生まれた有名な作家の資料など)

さらにその中でも優先順位をつけたい場合は、人気のある資産(対象物)を選ぶことをお

勧めします。人気があるということは、すなわち様々な人達がそれを見たいと思う物です。

そのような知的資産がデジタル化され公開されることにより、デジタルアーカイブの存在を

アピールすることが可能となり、デジタルアーカイブの継続運営につながることが期待でき

ます。さらに、その知的資産と所蔵館を宣伝することができ、来館のきっかけにもつながる

などの効果が考えられます。

現に、デジタルデータ(写真)をインターネット上で販売している会社では、デジタル化

方針の一つとして「人気がある物」を優先順位の一つにしています。42

また、次項で説明するように、公開の許諾を得やすいものを優先して選ぶのも一つの方法

です。

以下に、一般的に挙げられるデジタルアーカイブの対象物の例を示します。

・ 建築物や美術工芸品(絵画、彫刻、工芸品、書跡・典籍、古文書、考古資料、歴史資

料)などの有形文化財

・ 演劇、音楽、工芸技術などの無形文化財

・ 生活の中で用いられた有形民俗文化財

・ 写真や映画、ビデオで撮影したテープ

・ 特殊コレクション・貴重書(主に図書館)

・ 写真・会誌(主に博物館)

41 平成 22 年度総務省「我が国におけるデジタルアーカイブの連携に関する調査研究」より 42 平成 23 年度総務省「我が国におけるデジタルアーカイブの構築・連携に関する調査研究」より

神戸大学附属図書館「震災文庫」のような阪神・淡路大震災に関する文献・資料など、震災にかか

わるあらゆる資料を収集し公開している所もあります。このようにテーマを絞って資料を公開する

ことも効果的です。

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(3) 対象物を点検・整備する デジタル化及びデジタルアーカイブでの公開の前に、対象物の状態を確認し点検・整備し

ておきましょう。

点検・整備する項目の例を以下に示します。

・資料の状態

資料がデジタル化の作業に耐えられる状態かどうか、デジタル化に際し特別な扱いが必

要かどうかを確認しておく必要があります。

・目録の有無、目録情報の過不足

目録はすでに存在する場合がほとんどだと思います。デジタル化に際して新たに目録を

作る必要はありません。

しかし、ここで目録の情報が正確か、現状と合っているかなどを確認し、必要に応じて

更新しておくとよいでしょう。

ここで整備した目録は、後の作業で「メタデータ」として活用します。

(4) 著作権等の処理を行う 一般的に対象物をデジタル化しデジタルアーカイブとして公開する場合、知的財産権やプ

ライバシーについて考えておくことが重要です。

著作権処理については、国立国会図書館で平成 23 年 3 月に改訂版として報告されている、

「国立国会図書館資料デジタル化の手引 2011 年版」43に具体的な処理の流れが記載されてい

ます。ここではその概念図を例として記載します。各項目の詳細は「国立国会図書館資料デ

ジタル化の手引 2011 年版」の 88 ページを参照して下さい。

43 国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版 P.88 参考資料 4 著作権処理

http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/digitalguide2011.pdf

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図 5-1 著作権処理の流れ(概念図)

デジタル化対象資料

著作者の洗い出し

著作権の保護期間の調査

著作権保護期間

満了

著作権保護期間 著作権有無不明

(=没年不明)

著作権者の連絡先調査

連絡先判明 著作権保護期間

/連絡先不明 著作権有無不明

/連絡先不明

許諾処理 文化庁長官の裁定申請

インターネット公開

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著作権契約の基本的な考え方や具体的な条項の趣旨を知りたい場合は、文化庁の「誰でも

できる著作権契約マニュアル」44が参考になります。また、著作権の許諾の例として、デジ

タルアーカイブ推進協議会(JDAA)の活動成果物、デジタルアーカイブ<権利問題と契約文例

>45にある、契約文例(1)「素材に著作権が存在する場合の、素材の著作権者とデジタルア

ーカイブ構築・運営者との間での著作物の利用許諾契約書」の例を抜粋して記載します。

44 http://www.bunka.go.jp/chosakuken/keiyaku_manual.html 45 http://www.dcaj.org/jdaa/public/kenri/kenri.html

利用許諾契約書(案) <作品(静止画)の著作権者>(以下「甲」という)と<デジタルアーカイブ構築・運営者>(以下「乙」という)

とは、甲が著作権を有する作品を利用許諾することについて、次の通り契約を締結する。 第1条(定義) 本契約において、次の用語は、以下に定める意味を有する。 (1) 本件作品とは、甲が著作権を有する別紙1欄記載の作品をいう。 (2) デジタルアーカイブとは、デジタルデータを収録素材として構築されたデータベースであって、 乙が保有するものをいう。 (3) 本件データとは、デジタルアーカイブに収録された本件作品をデジタル化したデータをいう。 (4) 紹介とは、第三者に対し、本件データの利用を促すために、本件データを提示することをいう。 (5) 提供とは、本件作品の利用許諾を得た第三者に対し、本件データの複製物を引渡すことをいう。 第2条(利用許諾) 乙は、以下の各号に定める範囲で、本件作品を非独占的に利用することができる。 (1) デジタルアーカイブの構築 本件作品をデジタル化し、データベースに含ませることによりデジタルアーカイブを構築すること。 (2) 本件データの紹介又は提供 デジタルアーカイブに収録された本件作品を印刷物又は CD-ROM、MO、DVD 等の電子記録媒体に複製して

譲渡し、又はインターネット等のネットワークで公衆送信することにより、紹介又は提供すること。 第3条(再利用許諾) 乙は、本契約の期間中以下の各号に定める範囲で、本件データを第三者からの申し込みに応じて随時再利用許

諾することができる。 (1) 印刷物を制作し頒布、販売すること (2) CD-ROM、MO、DVD 等の電子記録媒体よる作品を制作し頒布、販売すること (3) 放送番組を制作し放送すること (4) インターネットのウエブサイトを制作し公衆送信すること (5) 前各号に伴う宣伝広告活動に利用すること 2.前項による再利用許諾の場合、乙の第三者に対する当該再利用許諾の有効期間は 長○年間を超えないも

のとし、期間を延長する場合は、本契約による有効期間の条件等を考慮し、甲乙協議してその取り扱いを決定する

ものとする。 3.再利用許諾を希望する第三者が、本件データを改変して利用する場合については、その都度甲乙協議して取り扱いを決定するものとする。

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上記以外に

・ 契約文例(2)「素材の所有者とデジタルアーカイブ構築・運営者との間での素材の使

用承諾についての契約書」

・ 契約文例(3)「デジタルアーカイブ構築・運営者と利用者との間でのデジタルデータ

等の利用許諾契約書」

などの文例があります。また、本文中にはコメントや変形例の記載もありますので、是非

一読することをお勧めします。

また、一般市民から写真などを新たに収集する場合の許諾の例として、知のデジタルアー

カイブに関する研究会(第 3 回)で紹介された、Yahoo! Japan 東日本大震災 写真保存プロ

ジェクトの投稿ガイドライン46を示します。

46 東日本大震災 写真保存プロジェクト ガイドライン http://archive.shinsai.yahoo.co.jp/upload/ (平成 23 年 12月 29 日確認)

MLA の所有物ではない、寄託資料や地元の個人・団体等が所蔵する資料をデジタル化する場合

には、著作権上の権利はない場合でも、何らかの取り決めをしておいた方が、その後の関係を

良好に保つためには良い場合もあります。

■東日本大震災 写真保存プロジェクト 投稿ガイドライン

1. 写真の投稿は、本企画の趣旨に沿ったものに限ります。また、宣伝的な要素を含むものや公序良俗に反するものの

投稿を行ってはなりません。 2. 写真の掲載にあたっては、Yahoo!プロフィールで設定された表示名(ニックネーム)や Yahoo! JAPAN ID が投稿

者名として表示されます。 3. 投稿者は、ヤフー株式会社(以下「当社」)に対して、投稿した写真や投稿の際の記載事項を日本国内外で本企画

の趣旨に従い使用する(複製、上映、 公衆送信、展示、頒布、譲渡、貸与、翻訳、翻案、出版を含みます)権利

を無償で許諾するものとします。また、投稿者は、本企画の広報の目的、または非営利 の復興支援の目的もしく

は学術目的の場合に限り、投稿した写真や投稿の際の記載事項が当社以外の第三者によって使用されることがある

ことについて同意する (この限りにおいて当社に再許諾権を許諾することを含みます)ものとします。投稿者は、

上記について著作者人格権を行使しないものとします。 4. 10 メガバイト以下の JPEG 形式の写真を投稿できます。また、投稿できる写真の幅および高さは、それぞれ 200

ピクセル以上です。なお、フォームからの投稿には Yahoo! JAPAN ID でのログインが必要です(メールでの投稿

にはログインの必要はありません)。 5. 投稿に関するその他の事項については、Yahoo! JAPAN 利用規約を適用しますのであらかじめご確認ください。

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2. デジタルアーカイブを作ろう

ここでは、デジタルアーカイブを実際に作るために必要となる実務的な作業を記載します。

各機関の目的や規模により個々の仕様も様々となります。システムの仕様にデジタル化も密接

に関係しますので、ここでは並行した形で検討を行うことをお勧めします。一般的に必要と思

われる作業をそれぞれ順に記載しますので、適宜必要な箇所を参照して、自館のデジタルアー

カイブの構築に利用して下さい。

(1)対象物をデジタル化する …P49

デジタル化の仕様書を作成する。

対象物をデジタル化する。

(3)基本機能・連携機能を確定する …P61

システムの基本機能を確定する。

連携機能を確定する。

(2)メタデータスキーマを整理する …P59 (4)デジタルアーカイブを構築する …P64

システム基盤を確定する。

システムを構築する。

メタデータスキーマを決める。

デ ジ タ ル 化 シ ス テ ム 構 築

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(1) 対象物をデジタル化する デジタルアーカイブに格納される資料の種類はさまざまです。したがって、そのデジタル化

の方法もさまざまです。またデジタル化の作業には、機材や技術に関する専門的な知識・技能

が必要となることも多く、専門の業者に委託することが多いと思われます。

そこで本ガイドラインでは、資料の形態ごとにデジタル化の手法を解説することはせずに、

デジタル化作業の委託を検討する際に必要なデジタル化作業の流れと、仕様書作成にあたって

の基礎知識を説明します。

デジタル化作業の実際については、巻末の参考資料にて事例を紹介します。「参考資料 6 デ

ジタル化・デジタルアーカイブ構築の作業事例を見る前に」で事例を読むための前提知識と、

それぞれの事例のカバーする範囲を説明し、続く「参考資料 7 事例1:所蔵資料別デジタル

化作業ワークフロー」および「参考資料 8 事例2:館内利用者への所蔵資料公開」で具体的

な事例と解説を紹介しています。デジタル化作業の理解を深めるための参考にしてください。

(a) デジタル化の仕様書を作成する

デジタルアーカイブの構築を担当する方が 初に考えることは、デジタルアーカイブに格

納する対象物をどのようにデジタル化するのかという点です。しかし、各機関で独自に対象

物をデジタル化することは技術的や人材的な面で困難であることが多く、企業への委託を行

うことが一般的な選択です。したがって、企業へ対象物のデジタル化を委託するための仕様

書を作ることが必要となります。ここでは、他のガイドラインや専門書などの資料を参照し

ながら、仕様書を作成するために押さえておきたい技術や知識について記載します。

①デジタル化方法の検討

対象物をデジタル化する方法にはいくつかの方法があり、目的と対象物に応じて適切な

方法を選択することが重要です。

デジタルアーカイブで対象物となる物はテキスト、静止画像、音声、動画などさまざま

な形態が考えられます。対象物の形態やデジタル化後の使用目的によって、デジタル化の

方法は全く異なるものになります。したがって、本ガイドラインでは、特に多いと考えら

れる静止画像や資料、書籍について簡単に記載します。詳細は本ガイドラインの参考資料

や各種の書籍を参照したり、専門家に相談したりしながら、自館に 適な方法を検討して

ください。

静止画像のデジタル化の方法について、「 新の技術と図書館サービス 第6章 資料のデ

ジタル化と図書館」47に幾つか挙げられています。

・フィルム撮影し、フィルムからデジタル化する方法

メリット:中間生成物としてフィルムが残り、資料の長期保存が可能となる

デメリット:撮影とデジタル化の二回作業が必要であり、費用面など負担増になる

・資料を直接スキャンしてデジタル化する方法

47 大串夏身 山崎博樹「 新の技術と図書館サービス 第6章 資料のデジタル化と図書館」青弓社 2007 年 P232

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・デジタルカメラ撮影によってデジタル化する方法

メリット:作業が一回ですみ安価。色校も一回になり原資料の再現性が高い

デメリット:中間生成物がないため、資料の長期保存に注意が必要となる

資料を直接スキャンしてデジタル化する方法は、フラットベッドスキャナ48などを使

って手軽にデジタル化が可能であり、少量のデジタル化資料を比較的安価に提供・公

開したい場合に適した方法と言われています。

このほか、「 新の技術と図書館サービス 第6章 資料のデジタル化と図書館」に挙げ

られていない手法に、フェースアップ(オーバーヘッドとも呼びます)のブックスキ

ャナを使用する方法があります。この方法は、ブックスキャナと呼ばれる専用の機器

を用いて、開いたページを上から撮影することにより書籍のデジタル化を行うもので、

専門的な知識や技術が無くても作業を行える等のメリットがある一方、機器は比較的

大型のものが多く保管場所を要すること、また安価な製品が少ないこと等がデメリッ

トといえます。

スキャナの種類と特徴については、「参考資料 9 斯道文庫「デジタル化の基礎知識」」

の「2-1 スキャナの種類」に詳しい説明があります。

書籍や撮影済みフィルム類のデジタル化については、「国立国会図書館 資料デジタル化

の手引 2011 年版」に、手順ごとの詳細が説明されています。該当資料を所蔵している場

合は参照しておきましょう。同書より、画像データ等の作成の作業手順を引用します。

48 原稿をガラス台に固定し、下から光を当てて読取装置を動かして画像を読み取るスキャナのこと (IT 用語辞典 e-Words: http://e-words.jp/w/E38395E383A9E38383E38388E38399E38383E38389E382B9E382ADE383A3E3838A.html(平成 24 年 1 月 23 日確認))

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それぞれの作業手順については、同書 9 ページ「2. デジタル化の技術」以降を参照して

ください。

上記以外の方法もありますが、それぞれの方法に対して、メリット・デメリットがあり

ます。各機関の目的等に合わせてデジタル化する方法を選んで下さい。

②画像ファイルフォーマットの検討

一般的に画像ファイルは、画像の大きさや記録の精細さを向上すると容量が大きくなり、

容量を小さくすると画像が小さくなったり粗くなったりしますがインターネットでの配信

には便利になります。したがって、保存用には高精細に記録できるフォーマットを用いて

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大きいサイズの画像を作製し、そこからサイズや精細さを落とした、小さめのサイズの画

像を提供用として作製する方法がよく用いられます。

「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」の 14 ページ「2.2.2 作製する画

像データの種類」では、「保存用画像」「提供用画像(中間サイズ)」「提供用画像(拡大サイズ)」

「サムネイル画像」の 4 種類が説明されています。

各館の目的や方針に応じて利用する画像の種類を選択しますが、保存用・提供用の 2 種

類のフォーマットは 低限決めておくことを推奨します。

保存用のファイルフォーマットとしては非圧縮の TIFF(ティフ)を採用している機関が

多くあります。しかし、一方では国立国会図書館・国立公文書館などの機関で保存用とし

て JPEG 2000(ジェイペグ 2000)49が採用されています。JPEG2000 には、提供用に良く

用いられる JPEG(ジェイペグ)には無い利点が多いことも事実です。JPEGに比べ、表示す

る際にプラグイン等のソフトウェアが別途必要となるようなシステム的な制約があるため、

判断は必要ですが選択肢として注目するフォーマットの一つと言えます。他のフォーマッ

トとしては、慶應義塾大学メディアセンターでは、デジタルカメラで撮影したデータは

RAW(ロウ)50データを保存用としている事例もあります。RAW データを保存するメリット

は撮ったデータをそのまま「生」データとして保存するため、画質が劣化せず、修整を柔

軟に行えることが挙げられます。デメリットはカメラメーカーによって形式が異なるため、

メーカーのサポート終了等で表示ができなくなるなど、メーカー依存が高まる可能性があ

る所です。知らない間にソフトウェアがサポートされなくなることがないように、定期的

に確認するなどの注意が必要となります。

機関名 ファイルフォーマット(画像)

東京国立博物館 保存用:TIFF(非圧縮)、提供用:JPEG

国立国会図書館 保存用:JPEG 2000、提供用:JPEG/JPEG 2000 併用

国立公文書館 保存用:JPEG 2000、提供用:JPEG

49 世界標準規格は参考資料 5 に規格番号記載 50 デジタル写真における「生」(未加工)の状態のこと (IT 用語辞典 BINARY: http://www.sophia-it.com/content/RAW (平成 23 年 12 月 29 日確認))

長期保存を考えた場合には、保存用として、後で加工できるようなフォーマットで残しておくこと

がポイントと考えられます。(TIFF の非圧縮も有効な保存フォーマットと言えますが、ファイルサ

イズが JPEG 2000 などと比べると約 2 倍近く増えますので、保存媒体のコスト等も含め考慮が必

要です)

画像ファイルフォーマット(提供用)では JPEG が も多く利用されています。

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③解像度の検討

作成するデジタルデータの用途に応じて、スキャン時の適切な解像度を決めておきまし

ょう。「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」での例と、慶應義塾大学メディ

アセンターでの「デジタル複製」の例を記載します。

① 保存用画像

次のいずれかの値に従って画像を作製する。

・原資料に対して 300~400dpi

・画像の縦又は横が 2,000~6,000 ピクセル程度

② 提供用画像(中間サイズ)

次のいずれかの値に従って画像を作製する。

・原資料に対して 300~400dpi でスキャンした保存用画像を圧縮して作製する。

・通常、保存用画像の縦・横 4 分の 1 程度のサイズで、画像の縦又は横が 500~1,000 ピクセ

ル程度の画像を作製する。

③ 提供用画像(拡大サイズ)

次のいずれかの値に従って画像を作製する。

・原資料に対して 300~400dpi でスキャンした保存用画像を圧縮して作製する。

・通常、保存用画像の縦・横半分程度のサイズで、画像の縦又は横が 1,000~5,000 ピクセル

程度の画像を作製する。

④ サムネイル画像

通常、画像の縦又は横が 100~300 ピクセル程度の画像を作製する。

デジタル複製・印刷について:慶應義塾大学メディアセンターの場合

一次資料と同じサイズで、高い精度での印刷をすることを前提とした場合、原寸に対し

400dpi が確保できることを目安とする。

高精細な複製の手順については、カラーマネジメントの方法や出力装置からの要求、入力装

置の性能、撮影時の状況に応じて変化させる必要があり、一概には規定できない。 ICC プロファイル等のコントロール手順を理解し手順どおり行うことを前提として以下のよ

うな対応が必要となる。

(1) デジタル化作業者は、ディスプレイの調整 (calibration) を行い、高演色蛍光灯の使用、

外光遮断等によって室内環境を整える。

(2) 入力機器のプロファイルを作成する。

(3) 画像の撮影を行う。

(4) 撮影した画像を印刷する場合は、印刷業者へ上記環境を伝え、AdobeRGB への変換を行

い、データを渡す(印刷の場合は CMY へ変換することもある)。

Web 用途の場合は sRGB へ変換することが多い。

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資料が公開されてから技術も変化しています。技術の変化に合う適切な解像度を利用し

て、各種の画像を作製することを検討しましょう。

巻末の「参考資料 7 事例1:所蔵資料別デジタル化作業ワークフロー」及び「参考資

料 8 事例2:館内利用者への所蔵資料公開」に、具体的な対象資料や目的を示した事例

を記載していますので、解像度などを検討する時の参考にしてください。

④文字コードの検討

ファイルフォーマットが TEXTであるなしに限らず、システムで採用する文字コードに

ついても選択しておく必要があります。平成 21 年 3 月に国立公文書館が公開している『デ

ジタルアーカイブ・システム標準仕様書』51の 13 ページに文字コードについての「標準仕

様の考え方」が記載されていますので、以下に参考のため記載します。

文字コードを単に UCS-4 などと指定しただけでは、中国・台湾の漢字も入力対象に含ま

れるようになります。特に戦前の資料など旧字体が多い資料を入力した場合に、見かけが

より近いということで、入力者によっては日本の文字コードでは入力できない漢字を使っ

てしまうことが考えられます。

これらの漢字は、検索の際に支障が起きる場合があります。システムの機能で字形の差

を吸収できればよいですが、必ずしも希望通りに吸収できるとは限りませんし、追加機能

としてコストがかかることも考えられます。文字コードは UCS-4 にしておいたとしても、

実際に使う範囲は日本の漢字の範囲内にしておいた方が無難だといえます。ただし、扱う

資料に中国・台湾のものが多いなどの事情があれば、使用を検討する必要があります。

このようなテキストの入力仕様については、メタデータを実際に作成する時に必要とな

りますので、個々のデジタルアーカイブの事情を考慮しながら、あらかじめ決めておくこ

とを推奨します。「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」61 ページ 参考資料

2「目次のテキスト化」には目次データのテキスト化に当たり、文字コードや入力する文字

に係るルールの例が記載されています。入力仕様として利用できる部分が多いため、以下

に参考のため記載します。

51 全国の公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様書(平成 21 年 3 月)

http://www.archives.go.jp/law/pdf/da_100118.pdf (平成 24 年 3 月 15 日確認)

・UCS-4を表現できる文字コードとする。

・符号化形式はUTF-8またはUTF-16とする。

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- 55 -

⑤文書ファイルフォーマットの検討

ここまでは、元の資料が紙などの物理的な実体を持っている場合について述べてきまし

た。しかし昨今では、文書を作成するときに、コンピュータを使用することが一般的です。

したがって、デジタルアーカイブに電子ファイルをそのまま登録することも検討する必要

があります。

ワープロソフトや表計算ソフト、プレゼンテーションソフト等で作成された文書ファイ

ルをデジタルアーカイブにそのまま格納すると、利用者は該当するソフトウェアを購入す

るか、ビューアと呼ばれる閲覧専用ソフトウェアを用意する必要があります。また、細か

なバージョンの違いや、その他環境の違いにより、作成者が意図したような表示ができな

いことも少なくありません。つまり、作成・編集に用いる一般的な文書ファイルのフォー

マットは、長期保存・利用の視点からは注意が必要なものであると考えられます。

内閣府は、『平成 20 年度電子公文書等の管理・保存・利用システムに関する調査報告書』

52(平成 20 年3月)において、文書ファイル等の長期保存フォーマットは PDF/Aを推奨する

としています。参考のため、同報告書で示されている、3種類のフォーマットの定義を表 5-5

に、各々のフォーマットの具体例を表 5-6 に、それぞれ示します。

52 国立公文書館ホームページ 法令・資料等 > 報告書・資料等 電子公文書等の管理・移管・保存・利用システムに関する調査 報告書(平成 21 年 3 月)(内閣府)

http://www.archives.go.jp/law/pdf/denshi5_1.pdf (平成 24 年 3 月 2 日確認)

文字コード・字体・旧字

目次データの作製の前に、入力する文字に係るルールを定める必要がある。次にルールの例を示す。

(1) 文字コードは、Unicode(UTF-870 符号化)及びデータ中の区切りとして使用する LF(U+000A)

を使用する。CJK 互換漢字及び CJK 互換漢字補助は、CJK 統合漢字に置き換えて入力する。

ただし、対応する文字が無い U+FA0E、U+FA0F、U+FA11、U+FA13、U+FA14、U+FA1F、

U+FA21、U+FA23、U+FA24、U+FA27、U+FA28、U+FA29 は除く。

(2) 原則として、旧仮名遣いやカナなどを含め、表記のとおりに入力すること。ただし、漢字の異

体字、記号付きアルファベット等で表記のとおり入力できない場合は、置き換えても意味を損

ねない同等の文字と判断できる文字に置き換える。

(3) ローマ数字は、半角アルファベットの組合せに置き換えること。例えば、「Ⅱ」は「II」という

ように「I」を 2 文字使って表記する。小文字の場合は、小文字で「ii」と表記する。

(4) 判読不能な文字については、該当する本文ページの標題を参照し、字形を同定する。また、元

の文字が意味の上から明白な場合、類推作業を行う。その結果、字形を同定又は類推できた文

字については、当該文字を入力し、[ ]で囲んだ形に置き換える。判断がつかない文字について

は、白四角(□)を用い、該当文字数の分だけ並べる。文字数も不明の場合は、「□・・・□」

と入力する。文字コードにないものについては、「〓」で置き換えて入力する。

(5) 上記のほか、○や□で囲む文字、記号(数式等を含む)、合成文字等についても入力の基準を事

前に定めておくことが望ましい。

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- 56 -

表 5-5 フォーマット種類の定義

標準フォーマット 電子媒体の公文書の管理・移管・保存・利用システムにおい

て、長期保存フォーマットへの変換の対象とする電子媒体の

公文書のフォーマット。

長期保存フォーマット 電子媒体の公文書の管理・移管・保存・利用システムにおい

て、標準フォーマットから変換される長期保存のためのフォ

ーマット。

デジタルアーカイブ用

フォーマット

国立公文書館デジタルアーカイブ・システムで一般の利用に

供するときに採用するフォーマット。原則として長期保存フ

ォーマットと同じフォーマットを採用する。

表 5-6 標準フォーマット、長期保存フォーマット、デジタルアーカイブ用フォーマット一覧53

フォーマット 標準フォーマット 長期保存

フォーマット

デジタルアーカイブ

用フォーマット

文書作成 OASYS

一太郎 8-12

Word 97-2003

Word 2007

PDF

PDF/A

OpenOffice Writer

PDF/A PDF/A

表計算 Excel 97-2003

Excel 2007

OpenOffice Calc

PDF/A PDF/A

プ レ ゼ ン

テ ーション

PowerPoint 97-2003

PowerPoint 2007

OpenOffice Impress

PDF/A PDF/A

53 内閣府『平成 20 年度電子公文書等の管理・保存・利用システムに関する調査報告書』 (平成 21 年3月) P.43 表 2-26 標準フォーマット、長期保存フォーマット、デジタルアーカイブ用フォーマット一覧 を基に、一部を

抜粋して作成した。

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- 57 -

⑥管理データの検討

デジタルデータを長期的に利用・保存して行くためにも、デジタル化した時の情報は重

要な情報となります。保存した時の情報が詳細にわかると、再度その保存データを使って

デジタル化する際にオリジナルに近い状態で復元できる可能性が高まります。また、現在

のフォーマットから新しいフォーマットへの変換を行う上でも重要な情報として利用が期

待されています。

項目例としては、画像データ自体に関するもの(フォーマットタイプや圧縮方法、カラ

ースペース54など)、もう一つが画像データの作製に関するもの(所蔵者、スキャナ ハー

ドウェア、スキャナ ソフトウェアバージョン、作成日)が例として挙げられています。

上記の他に「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」では、画像フォーマッ

ト別の圧縮率、カラースペース、階調、スキャニング単位の定義、媒体などの記載があり

ます。

管理用データの項目を考える際には、そのデータを公開するかどうかを併せて決めてお

くようにしましょう。管理データは、公開のために作るメタデータとは性質が異なるもの

です。たとえば美術館や博物館で、所蔵品を新たに購入した場合にその購入元や価格を記

録しておくことが考えられますが、そのような情報を無制限に公開する必要はないと考え

られます。同様に、寄託品などで寄託者のご住所や連絡先を記録することも考えられます

が、そのような個人情報は一般的に公開すべきでないものです。

ここまでがデジタル化を行うために必要な知識と仕様書を記載する際の作業の概要とな

ります。参考としてあげた資料を適宜参照しながら、自館の要求に沿った仕様書を準備し

ましょう。

なお、自館で作成した仕様書に基づいてデジタル化作業をする企業が、その館の要求に

合ったデータを本当に作製可能か事前に検証しておくことが望ましいと言えます。

評価項目の例として、東京大学大学院情報学環と凸版印刷株式会社との共同研究プロジ

ェクトにおいて作成された、「文化資源のデジタル化に関するハンドブック」55には、評価

項目の例が挙げられていますので、参考までに記載します。

54 各色を数値の組合せで表現する方法または表現可能な色域のこと。色空間とも呼ばれる。 (IT 用語辞典 BINARY: http://www.sophia-it.com/content/%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9(平成 24 年 1 月 23 日確認)を参考に記述した。) 55 東京大学大学院情報学環 凸版印刷株式会社 文化資源のデジタル化に関するハンドブック 詳細版 P53 http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp/wp-content/themes/mssa-default/images/111101_dch_shousai.pdf(平成 24年 1 月 31 日確認)

主観評価の実施 評価項目 画像の評価は例えば以下のような観点から評価を行います。 ・ 色調 ・ 諧調 ・ 解像度 ・ 形状 ・ ノイズ ・ 鮮鋭度

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デジタル化では特に色の管理について注意が必要となるため、「文化資源のデジタル化に

関するハンドブック」の P45 カラーマネージメントも参照するとよいでしょう。

(b) デジタル化作業

デジタル化作業は委託業者側の作業が主となることが多いですが、発注者側でも作業の概

要や流れを押さえておくことは重要です。本ガイドラインの 49 ページにて既に説明したとお

り、「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」では以下の作業項目を挙げていま

す。

①原資料の授受・運搬

②事前調査

③スキャニング

④デジタルデータの品質検査

⑤デジタルデータの編集

⑥管理データの作製

⑦データの格納媒体の選択とチェック方法

実際のデジタル化作業を委託した場合であっても、特に注意する点として、以下の 2 つの

項目を挙げることができます。

④デジタルデータの品質検査

発注者側での対応が必要となります。品質検査は、「国立国会図書館 資料デジタル化の

手引 2011 年版」によると、「画像データに傾き、欠損、汚損等がなく、仕様どおり正しく

スキャンされていること」を確認するもので、スキャン作業の信頼性を担保するために必

要な作業です。(a)⑥にて記載した通り、評価項目を事前に決めておきましょう。詳しくは

「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」P.37「4 画像データの品質検査」

を参照してください。

⑥管理データの作製

デジタルデータを長期利用・保存するためにも、重要な情報となる管理データ(デジタ

ル化した時のメタデータ)がきちんと作製されていることが重要です。各機関で必要な管

理データ項目を決めて、作製しましょう。巻末の「参考資料 1 管理データの項目一覧」

に管理データ項目の例を記載しましたので、参照してください。

冊子体資料を中心にしたデジタル化の実作業を内製で行っている、慶應義塾大学附属研究

所斯道文庫の取組を基に作られた手引書を、「参考資料9 斯道文庫「デジタル化の基礎知識」」

に添付します。実作業に関する詳細な知識を得るための参考としてください。

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(2) メタデータスキーマを整理する

(a) メタデータとは

メタデータは、一般に「データに関するデータ」と定義されます。

博物館、美術館では所蔵品の目録を作成しています。所蔵品そのものではなく、所蔵品に

関するデータである目録の情報は、メタデータと同じ意味と考えられます。

メタデータが必要な理由の例として、目の前にラベルの付いていない裸のボトルがあるこ

とを想像してください。ボトルの中身を知るためには、常にボトルの中の液体を飲む必要が

ありますが、何も書いていないボトルの中の液体を飲めるでしょうか。しかし、適切なラベ

ルが付いていれば、飲まずとも中身を知ることが可能であり、また安心して飲むことができ

ます。同様のことが、中身が全く分からないファイルや、ウェブページにも当てはまります。

ネット上では、自分が使うものに関する情報、すなわちメタデータを頼りにしていろいろな

ことを行っているのです。絵画と本では目録の項目が違うように、対象物によってメタデー

タの項目が違う場合もあれば、人によってもつけ方が違います。したがって、ある一定の規

則を決めてメタデータを作成する必要があります。そのメタデータの記述項目や記述形式の

ことをメタデータスキーマと呼びます。

(b) メタデータスキーマを決める

一つの組織(機関)内でメタデータスキーマを決めることはさほど難しくはありません。

業務の中で目録を作成する等で同様のことを行っているケースが多くあります。

しかし、デジタルアーカイブの連携や統合的利用を可能とするためには、連携可能性をベ

ースとしたメタデータスキーマを決めることが求められます。すべてを1つのメタデータス

キーマに統一することは難しいですが、様々な機関においてメタデータの標準化が図られて

おり、表 5-7 のようなメタデータスキーマを参考にしながら、自館のメタデータスキーマを

参考:OCR の仕様の考え方

OCR (Optical Character Recognition, 光学文字認識) とは、画像データ上にある文字と思

われる部分を解析し、コンピュータ上で扱える文字(テキスト)データに変換することを示し

ます。※1

国立国会図書館のデジタル化ではこの処理を行っていませんので、紹介した手順には出てき

ませんでしたが、特に書籍をデジタル化する場合には有益な手法です。

慶應義塾大学メディアセンターでの実例を紹介します。

・原則として、OCR では1文字あたりに要求される DPI 数からスキャニング仕様が決まる。

・また、ルビ、欄外、記号をどのように扱うかによっても仕様を決める必要がある。

・利用する OCR ソフトウェアによって特性があるため、日本語 OCR の精度の評価は難しい。

サンプル処理による評価を行い、スキャニング仕様へ反映させる必要がある。

※1 出典: 朝日新聞「知恵蔵 2009」

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決めておきましょう。

メタデータ自体が整備されている場合には、既存のデータを、新たに決めるスキーマに当

てはめる作業が必要となります。できればコンテンツごとに一意で重複のない ID を設定する

ことが望ましいです。

また、デジタルアーカイブにおけるメタデータの役割には、対象物の情報を記述し整理す

る目録としての位置づけだけでなく、利用者が検索を行う際のキーワードとなる情報を提供

することも含まれます。したがって、利用者に検索できるような内容の情報や文章を記述す

ることも重要といえます。

以下の表 5-7 に機関別メタデータスキーマ一覧を記載します。

表 5-7 機関別メタデータスキーマ一覧

機関名 システム名 メタデータスキーマ 参照先

東京国立

博物館

ミュージアム資料情報構造化モデル

(資料情報の属性一覧)

参考資料 2

国立国会

図書館

国立国 会図書 館サ ーチ

(NDL Search)

国立国会図書館ダブリンコア

参考資料 3

国立国会図書館の

デジタル化資料

メタデータ記述(DC-NDL)

国立

公文書館

国立公文書館デジタル

アーカイブ

国立公文書館 EAD 定義 第 1.07 版 国立公文書館

ホームページ56

文化庁・

NII

文化遺産オンライン 文化遺産オンライン 作品情報(文化

遺産情報)項目一覧

参考資料 4

また、平成 22 年度 総務省「新 ICT 利活用サービス創出支援事業」にて構築されたメタデ

ータ情報基盤システムである「MetaBridge」では、様々な機関のメタデータスキーマの例が

登録されています。自館のメタデータスキーマを作る上で参考となる情報も多くありますの

で一度参照して見ると良いでしょう。

メタデータスキーマは各館によって異なる項目があってもよいのですが、連携(主に検索用)

に必要となる項目は必ず含めておくことを推奨します。以下に、平成 21 年 3 月に国立公文書

館が公開している『デジタルアーカイブ・システム標準仕様書』57の横断検索のために必要

な 小限の目録情報として挙げられている 5 項目を示します。この 5 項目は他システムへ連

携するための項目としても十分参考となる項目です。

56 デジタルアーカイブ 関連資料 http://www.digital.archives.go.jp/support/reference.html(平成 24 年

1 月 20 日確認) 57 http://www.archives.go.jp/law/pdf/da_100118.pdf

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上記以外に、 近では「時間」「場所(緯度・経度)」なども有効な検索項目と言われており、

文化遺産オンラインでは「場所(緯度・経度)」をメタデータの項目として設けています。

(3) 基本機能・連携機能を確定する 自館の所蔵品のデジタルデータ作成及びメタデータの準備ができました。 後にインターネ

ットで公開するための仕組みが必要となります。

構築すべきシステムの仕様は、システムの目的や収録するデータの量、予想されるアクセス

数などにより大きく異なるため、統一的なガイドラインを示すことは困難です。

ここでは、デジタルアーカイブの機能仕様について平成 21 年 3 月に国立公文書館が公開して

いる『デジタルアーカイブ・システム標準仕様書』から機能に関連する部分を参照し記載しま

す。

(a) システムの基本機能を確定する

①目録データの管理・登録機能

・ データベース

目録データの登録や管理については、データの編集や抽出を効率的に行うことが求め

られます。この点からリレーショナル・データベース58のようなデータベースを導入す

ることが有効であると考えられます。商用ソフトは費用的な面での負担も大きいと想定

されるため、オープンソースのデータベースを採用することが推奨されています。

・ 検索エンジン

登録された目録の項目ごとに検索を行えることと、アーカイブされた対象物に文字情

報があれば、検索文字からその対象物の全文検索が可能な検索エンジンを採用すること

が推奨されています。

・ データの登録、編集、削除機能

目録データの登録、編集、削除機能は必要不可欠な機能です。また多くの機関で表計

算ソフトなどを用いて目録データを作成しているため、その表計算ソフトで作成した目

録データあるいは CSV(Comma Separated Values、カンマ区切り形式)などで一括登

録が可能な機能を設けることが推奨されています。

・ 公開・非公開機能

著作権などの様々な要因で所蔵資料の公開については、注意する必要があります。こ

れを踏まえ、目録データに公開・非公開の制御ができる仕組みが必要と考えられます。

58 リレーショナルデータモデルに基づいて設計されたデータベース。データの結合や抽出を容易に行うことがで

きる。(IT 用語辞典 e-Words: http://e-words.jp/w/HD-2.html(平成 24 年 1 月 23 日確認)を参考に記述した。)

Dublin Core の要素を参考に、横断検索のために必要な 小限の目録データの項目

として、「ID」「年代(作成年度)」「資料名」「作成者(部署名)」「備考等」の5項目を

設定する。

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②業務機能

・ 利用状況の把握機能

利用状況を把握することは利用者側の潜在的要求を捉える上で重要な機能と考えられ

ます。対象物に対してのアクセス回数やアクセス元の情報(国別など)が確認できる仕組み

が必要と考えられます。

活用例としては、美術館では次の展示会への出展候補を決めたり、博物館ではコーナ

ーの新設などの情報としての利用も考えられます。

③画像データの登録・管理機能

・ 画像データの公開・非公開機能

画像データも目録情報と同様に著作権などの様々な要因により注意が必要です。画像

データに公開・非公開の制御ができる仕組みが必要と考えられます。

・ 画像データ・目録データの連携機能

目録情報を閲覧した際に関連する画像データが閲覧できるなどの目録データと画像デ

ータを連携できる仕組みが必要と考えられます。

・ 画像データの配信・閲覧機能

画像データの配信・閲覧機能は、特別なソフトウェアを必要とせず表示できる仕組み

が必要と考えられます。

④情報配信に必要な機能

Web ブラウザから資料の検索や参照を可能とする機能が必要と考えられます。

以下の点も参考にして構築しておくと、よりシステム連携が容易になると考えられます。

⑤ユーザ・インターフェース

ユーザ・インターフェースの基本は誰もが使いやすいことです。キーワードによる検索

は登録されているデータの前提知識があればよいですが、必ずしもそうとは限りません。

階層構造を表現したユーザ・インターフェースを採用することも必要と考えられます。ま

個別の資料のページはシステムのトップページや検索からだけではなく、外部から直接

参照できるようにしておくことが望ましいです。このためには外部から直接指せるよう

な URL を使い、システムの更新などでも変更しないような安定した URL が望ましいで

す。

Web ページの記述においては、内容(メタデータ)の構造とページの見た目の体裁のた

めの構造を分けて記述すると、後述の多様な閲覧デバイス対応が容易になります。

また、Web ページの他に、メタデータを RDF(Resource Description Framework)で記

述したものを公開すると、他のサービスからのメタデータの利用やシステム連携が容易

になります。

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た、今後はスマートフォンやタブレット端末など PC 以外での様々な閲覧デバイスからの

アクセスが増えてくると考えられます。多様化する閲覧デバイスにも対応した、使いやす

いユーザ・インターフェースを採用することも検討しておきましょう。

(b) 連携機能を確定する

デジタルアーカイブを構築・公開することは重要ですが、一つの機関だけでは多くの人か

らのアクセスには限界があります。それを様々な人からアクセスしてもらうためにデジタル

アーカイブ同士を連携させることが今後重要と考えられます。

但し、どのデジタルアーカイブと連携するかに応じて、必要となる環境や準備する内容が

変わってきますので、ここでは連携するにあたり、検討すべき項目や機能について記載しま

す。

連携機能を構築後に別途追加することも可能ですが、検討は 初に行っておくことを推奨

します。また、費用や開発効率を考えると、システムの基本機能の構築と同じタイミングで

構築することが望ましいと言えます。

①連携機能の検討

連携する機関に応じたシステムの情報を収集しておきましょう。連携データの形式は連

携先のシステムに依存するため、その機関がどのようなメタデータ形式を使っているのか、

一括のデータ登録ツールがあるのかなど、少し細かな点についても確認しておくことで連

携をスムーズに進めることができます。

以下に連携機能の種類とその説明を記載します。

・ 横断検索機能

横断検索機能とは 1 度の検索キーワードの入力で複数のシステムに対して検索命令を送

り、その結果を表示する機能です。横断検索機能を利用するためには横断検索に対応した

プロトコルを実装する必要があります。

横断検索プロトコルとしては、国際標準の Z39.50、SRU/SRW、OpenSearch と言った

種類のプロトコルがあります。

・ 一括提供機能

主にメタデータを他のシステムへと連携させる機能を指します。

メタデータ交換のためのプロトコルに、OAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol

for Metadata Harvesting)があります。国立国会図書館の国立国会図書館サーチや、国立

情報学研究所の学術機関リポジトリデータベースにも導入されています。

表 5-8 に、利用されるプロトコルの一覧を記載します。

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表 5-8 収集、検索に利用される主なプロトコル59

種別 プロトコル 説明

収集 OAI-PMH メタデータを自動収集(メタデータ・ハーベスティング)し、データを

交換するためのプロトコル

Open Archives Initiative - Protocol for Metadata Harvesting の略称

検索 Z39.50 情報検索を行うための通信プロトコル

ANSI/NISO 標準及び、ISO 国際標準(ISO 23950) 米国議会図書館

が標準を管理している

SRU/SRW 情報検索を行うための通信プロトコル

Search/Retrieve via URL/Search/Retrieve Web Service の略称

OpenSearch 情報検索を行うための通信プロトコル

米アマゾン子会社の A9.com 社が提唱する検索エンジン提供者のための

技術で XML(Extensible Markup Language)フォーマットを利用

(4) デジタルアーカイブを構築する

(a) システム基盤を確定する ―クラウドサービスの検討

これまではサーバーやソフトウェアを購入しそれを自館内やデータセンター等に設置す

る「オンプレミス」と呼ばれる形態が一般的でした。様々な外部環境の変化もあり、現在

は「クラウドコンピューティング」の利用が急速に進んでいます。

クラウドという用語はさまざまな意味で使用されていますが、ここでは、情報処理推進

機構(IPA)の「中小企業等におけるクラウドの利用に関する実態調査報告書」60の定義に

従うことにします。以下に引用します。

表 1「クラウド」の定義

用語 定義

クラウド クラウドコンピューティング、クラウドサービスを区別することなく示

す場合に用いる総称

クラウド

コンピューティング

大規模データセンターにおいて仮想化等の技術を用いてコンピュータ

の機能を用意し、それをインターネット経由で自由に柔軟に利用する仕

組みの総称

クラウドサービス クラウドコンピューティングに基づいて、サービスの形で提供される

IT の機能

つまり、SaaS・PaaS・IaaS 等、ユーザに提供される機能・サービスをクラウドサービス、クラウド

サービスを構成する仕組み、技術、サービスの総称をクラウドコンピューティングと定義する。

59 平成 21 年度 委託調査「我が国におけるデジタルアーカイブの構築に関する調査研究」調査報告から 60 独立行政法人情報処理推進機構「中小企業等におけるクラウドの利用に関する実態調査報告書」2011 年 5 月

30 日, http://www.ipa.go.jp/security/fy23/reports/sme-guide/documents/sme-cloud_report.pdf (平成 24 年 1月 31 日 確認)

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それぞれに利点・欠点はありますが、オンプレミスの場合は、その館のニーズに合った

ハードウェアやソフトウェアを導入できる利点がある反面、コストが高額となる傾向が強

い点が欠点として挙げられます。

クラウドサービスでは、提供される機能の範囲内であれば、自館で構築・運用するより

もコストを低く抑えられる利点があります。「中小企業等におけるクラウドの利用に関する

実態調査報告書」の、クラウドサービス導入後の利用者に対する調査結果によると、「導入

費用(設備費用)が小さい」「運用コストが小さい」の評価で「満足度高」が過半数を占め

ており、コストメリットでの評価が高かったことが報告されています。

しかし、サービスの提供がいつまで継続するか分からない等、サービスを提供する企業

側の体制面などの課題が考えられます。自館の要望に合った機能を備え、かつ信頼性の高

いシステム基盤を選択しましょう。

メモ:クラウドコンピューティングの種類

第5回知のデジタルアーカイブ研究会「クラウドの視点から見たデジタルアーカイブ」発表資料より

(b) システム開発手法を確定する

システム構築に関するもう一つのポイントは、システム開発の手法です。

自館の要件に合わせて一から開発する「スクラッチ開発」と、既にできあがったソフト

ウェアをそのまま使用したり、若干の修正を加えて利用する「パッケージ開発」の、大き

く分けて2つの選択肢があります。

クラウドサービスを利用する場合、IaaS はスクラッチ開発に、SaaS はパッケージ開発

に適用できます。ASP サービスもこのパッケージ開発のケースになります。PaaS は両者

の中間に位置します。

パッケージ開発の利点は、スクラッチ開発に比べて安価に、また導入期間をかけずに使

用を開始できる点です。ただし、ファイルフォーマットやデータ形式があらかじめ限定さ

れていることが多いため、利用するパッケージがデジタル化で検討したファイルフォーマ

ットやメタデータ形式を採用できるのかなどの注意が必要です。

SaaS (Software as a Service)

ユーザが必要とする機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソ

フトウェア、またはその提供形態

PaaS (Platform as a Service)

アプリケーションソフトウェアが稼働するためのハードウェアやOSなどのプラッ

トフォームをサービスとして利用できるようにした提供形態

IaaS (Infrastructure as a Service)

コンピュータシステムを構築および稼働するためのハードウェア(サーバやストレ

ージ)やネットワークをサービスとして利用できるようにした提供形態

IST(米国立標準技術研究所)の定義より

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以下に、デジタルアーカイブにおけるクラウドのメリットと今後の課題について「知の

デジタルアーカイブに関する研究会」で報告された内容を参考情報として記載します。

第5回知のデジタルアーカイブ研究会「クラウドの視点から見たデジタルアーカイブ」発表資料より

(c) システムを構築する

各機関の状況により、調達範囲は流動的になると考えられるため、何をどの範囲で調達・

委託するのか、また自館で行う作業は何かを明確にして依頼を行いましょう。

システムを構築する際に注意する必要があるポイントとして、以下が挙げられます。

・ デジタル化したデータの導入方法

・ 旧システムからのデータの移行作業方法と役割

・ システム利用方法の教育

<デジタルアーカイブにおけるクラウドのメリット> ・基盤サービスとしては選択肢となる。

(ストレージサービス、バックアップサービス、インフラサービス) ・初期投資の削減 ・余剰資産が不要 ・運用コストの削減 <クラウドの課題> ・事業者やサービスによって標準化されていないため、システムの移行が困難 ・サービスやセキュリティの指標が統一されていない

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- 67 -

3. デジタルアーカイブを未来に伝えよう:継続・人材・保存

(1) 計画の再検討 デジタルアーカイブは構築して終わりではなく、継続していくことが重要です。そのため、

数年単位の計画を立てることが望まれます。 初に立てた計画も構築後に定期的に見直しを

行い、出て来た課題等を含めて再度計画を立て直すサイクルを確立することが重要です。

デジタルアーカイブを作ることがそれぞれの館での目的ではありません。したがって、デ

ジタルアーカイブを無理なく継続して続けて行くために、日常の業務の中で対象物のデジタ

ル化や所蔵目録作成の際にデジタルアーカイブの元になる資源を作成するような仕組みを作

ること(業務の改善)も検討してみて下さい。

(2) 人材と教育 人材については、どの機関でも共通の課題として挙がっている項目です。また根本的な解

決策がなかなかないこともこの問題の特徴と言えます。

デジタルアーカイブという長期的な事業を継続するためには、「人的資源」をどのように確

保し育てていくかがデジタルアーカイブを支える一つの要素であると考えられます。現時点

で具体的な解決方法を示すのは難しいですが、いくつかのポイントを記載します。

(a) 人材の育成

さまざまな支援を外部から得たとしても、それらを管理・指導する人材が組織内にいな

ければ、継続的な活動につながらないことは容易に想像がつきます。現状では、専任の担

当者を確保することも難しく、デジタルアーカイブの専門的な知識を持っていない職員に

もその役を兼務してもらわざるを得ないことが予想されます。

資料のデジタル化やデジタルアーカイブに関する研修は、国立国会図書館、国立公文書

館で行われることがあります。その他、各都道府県などの単位で開催される研修や勉強会

の機会を活用し、知識の習得に努めることが望ましいといえます。

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- 68 -

以下に、平成 23 年度に、国立国会図書館で実際に行われた「資料デジタル化研修(基礎

編)」の実施要項61を示します。

(b) 人材の確保

震災復旧のためのボランティアによる支援がメディアでも取り上げられ、注目を集めて

いました。デジタルアーカイブの運営に関しても、ボランティアの方々による支援を受け

ながら進めていくことが考えられます。

その地域の歴史にも詳しい高齢者の方もいれば、カメラを趣味に持つ方々もいます。必

要な知識を持っている地域住民の協力を念頭に置いた、住民参加型のデジタルアーカイブ

を目指すことも 1 つの方法です。

この場合職員にとって重要な能力は、企画を行い、ボランティアの支援を募り、取りま

とめる力であるといえます。

(c) 組織と予算の維持

海外での事例により、複数の機関が連携する共同体制の構築が有用であると示されてい

ます。一部の特定の機関に依存するのではなく、組織の違いを超えた共同・協力のネット

ワークを組み、共同事業における予算確保、や複数の組織として全体で情報を維持する体

制を作るなど、いわゆる地域のコミュニティ作りも重要な取組と言えます。

61 平成 23 年度資料デジタル化研修(基礎編)のご案内

http://www.ndl.go.jp/jp/library/training/guide/1191881_1485.html(平成 24 年 1 月 20 日確認)

平成 23 年度資料デジタル化研修(基礎編)のご案内

国立国会図書館では、公共図書館の職員等を対象に資料デジタル化研修(基礎編)を開催しま

す。

この研修は、これからデジタルアーカイブを構築する機関の職員や、新たにデジタルアーカイ

ブの担当となった職員が、資料のデジタル化についての基礎的な知識を習得し、所属機関のデジ

タル化事業に役立てることを目的とします。

具体的には、次の 3 点の習得を目指します。

(1)デジタルアーカイブの全体像をつかむ。

(2)デジタルアーカイブを構築するうえでの事業の進め方を理解する。

(3)資料をデジタル化する際に必要となる、技術や権利についての基本的な知識を得る。

日程: 平成 23 年 9 月 29 日(木)、30 日(金)

会場: 国立国会図書館関西館 第 1 研修室

対象: 公共図書館等の職員または地方公共団体職員で、「資料のデジタル化」についての

基礎知識の習得を目指す者。1 機関からの参加は原則 1 名。定員 50 名。

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(3) 長期利用・保存 以下に、『電子情報の長期的保存とアクセス手段の確保のための調査報告書』62で、実際に

情報を読み取ることができなくなった事例などを参考に、長期保存にあたっての一般的な留

意点を挙げます。

(a) 媒体の寿命に対する保存サイクル・バックアップの検討(マイグレーション63)

デジタル情報資源は、記録されている媒体の経年劣化により、データが読み出せなくな

ることがあります。一般に 10 年程度とされていますが、媒体の品質や、記録時の方法、保

存環境により大きく異なるため、寿命を迎える前に、媒体を網羅的かつ定期的に交換する

サイクルを業務の中に位置づけることが望ましいです。また、情報資源作成時に、複製物

を作成し、バックアップをとることも重要な対策です。

(b) ハードウェア・ソフトウェア環境の保存・更新(マイグレーション/エミュレーション64)

デジタル情報は、常に人間が知覚できる状態にある紙媒体の情報とは異なり、特定のハ

ードウェア(読み取り装置)・ソフトウェアの環境が揃わなければ、人間が知覚可能な情報

にはなりません。しかし、ハードウェア・ソフトウェアとも、技術的進歩等に伴って非可

逆的に更新され、デジタル情報資源が利用可能な環境を、長期的に維持することは困難で

す。

ハードウェアの更新に対しては、後継となる記録媒体へのマイグレーションを、記録媒

体の寿命に対する措置と同時に検討することが望ましいです。また、ソフトウェアの更新

に対しては、後継や代替となるソフトウェアに対応したファイルフォーマットへのマイグ

62 国立国会図書館『電子情報の長期的保存とアクセス手段の確保のための調査報告書』2004 年。 63 データ移行・データ変換のこと。(国立国会図書館 電子情報の長期的な保存と利用 の FAQ “マイグレーシ

ョン”“エミュレーション”とは何ですか? http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation_03.html#q09(平成 23 年 12 月 29 日確認)を参考に記述した。) 64 電子情報の利用に必要な技術的環境を擬似的に再現すること。 (国立国会図書館 電子情報の長期的な保存と

利用の FAQ “マイグレーション”“エミュレーション”とは何ですか? http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation_03.html#q09(平成 23 年 12 月 29 日確認)を参考に記述した。)

慶應義塾大学メディアセンターでの取組例

デジタル化作業の中に保存サイクルを考えて実施している。

・撮影したデータは PC の中で保存・加工を実施している。

・作業が一区切りした段階で、①共有ディスク装置(RAID5)に移す。

・作業が一通り終わったら、②DVD と③バルク(「ばら積み品」という意味で、パソコンの

部品や周辺機器のうち簡素な包装で販売されている形態を指す)のハードディスクにバッ

クアップをとる。

期間は特に決まっていないが、数年毎で②の媒体は廃棄して、①共有ディスク装置のデータ

から再度新しい媒体(その時代での 適なメディア)にバックアップする。

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- 70 -

レーションと同時に、エミュレーションによる対応もあり得ます65。

(c) 大規模な災害に備えたバックアップデータの分散保管

地震や水害の多発する日本において、大規模な災害や火災による記録媒体そのものの消

失を無視することはできません。複製が容易なデジタル情報資源の特性を生かし、バック

アップデータを遠隔地にも置き、消失のリスクを分散することは、長期保存の重要な対策

として検討されるべきです。ただし、データを全て海外に置くことには、メリットとデメ

リットとを考慮し、慎重に考えることも必要です。

クラウドサービスを利用する場合、業者側でデータを複数のサーバーに分散させたり、

バックアップを行うなど必要な措置を取ることが一般的ですので、信頼性の高いサービス

を選ぶことが重要です。とはいえ、業者側での重大な障害や突然のサービス停止によりデ

ータが失われる恐れもありますので、自館でも保存用データのバックアップ媒体を保管す

ることも検討しておきましょう。これにより、少なくとも 2 か所での分散保管が実現でき

ます。

(d) 長期利用・保存のためのメタデータ

デジタルアーカイブ構築後に長い時間が経過すると、構築当初の目的やデータ作成の日

時、使用技術等の情報が失われ、長期利用・保存に支障を生じることがあります。これら

の情報の保存について検討しておくとよいでしょう。本ガイドライン 58 ページで説明した

ように、デジタルデータを長期利用・保存するためにも、重要な情報となる管理データ(デ

ジタル化した時のメタデータ)がきちんと作製されていることが重要になります。

(4) アウトリーチ アウトリーチとは「手を伸ばして取る、手を差し伸べる」などという意味で、福祉などの

分野における地域社会への奉仕活動、公共機関の現場出張サービスなどの意味で使用されて

います。

デジタルアーカイブにおいても、「構築して終わり」にするのではなく、広く利活用しても

らうための活動を行うことが望ましいと考えられます。

広く利活用してもらうための活動の一つとしては、広報活動が挙げられるでしょう。秋田

県立図書館では古くからデジタルアーカイブの構築を行った機関として様々な所で紹介され

ています。図書館の利用者への PR、ビジネス支援サービスの中での紹介に加えて、教育委員

会や学校にデジタルアーカイブの活用を働きかけるなど、館外への広報活動による認知度向

上の重要性を認識し、うまく活用している事例の一つと言えるでしょう。

秋田県立図書館の利活用の事例として、デジタルアーカイブのコンテンツが地域の産品の

ブランド化と結びついた例を記載します。

65 内閣府『平成 20 年度電子公文書等の管理・移管・保存・利用システムに関する調査』2009 年に、一般的なフ

ァイルフォーマットごとに長期保存の対応策が提案されている。

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秋田の三関というところで取れるさくら

んぼで「太陽の分け前」という商品がある

が、このパッケージにデジタルアーカイブ

で紹介されている「菅江真澄遊覧記」の一

節が書かれている。

この地区の土壌の良さがうたわれている

記述を引用することで、江戸時代の頃から

語り継がれてきた歴史を一つの付加価値と

して、さくらんぼのブランド化に役立てて

いる。

デジタルアーカイブで公開したことによ

り、地域資料がビジネスに利活用された事

例である。

知のデジタルアーカイブに関する研究会(第 1 回)

「地域資料のデジタルアーカイブの現状 -秋田県立図書館の事例から-」の発表より

(前略)三関のサクランボの美味は、日本でも有

数。またこの地区の土壌の良さを「旭さし、夕日輝

く木のもとに、黄金千両漆億おく」と菅江真澄が

「雪の出羽路」に記している。これは800年のむ

かし、平泉の藤原秀衡の時代に、金鶏山のうた

いし童謡にあったのを、雄勝地方で土の良さをう

たったものである。(後略)

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参考資料 1 管理データの項目一覧

出典:『国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版』

参考資料 3 デジタル化仕様書サンプル 表 9 管理データ(2)の項目一覧

項目名 説明 記入内容

MIMEType 画像データに関連付けられた

MIME タイプの名称を入力する。

image/jp2

SourceType 画像データを作製するためにスキ

ャンされたアナログの資料の媒体

を指定する。

book

ImageProducer 画像データの組織レベルプロデュ

ーサーを特定する。

受託業者名を入力する。

HostComputer 画像データの作製時点で使用した

コンピュータ名を入力する。

画像データの作製時点で使用するコン

ピュータ名を入力する。

OperatingSystem 画像データの作製時点で使用した

オペレーティングシステムを入力

する。

画像データの作製時点で使用するオペ

レーティングシステムを入力する。

OSVersion 画像データの作製時点で使用した

オペレーティングシステムのバー

ジョン番号を入力する。

画像データの作製時点で使用したオペ

レーティングシステムのバージョン番

号を入力する。

ScannerManufacturer 画像データの作製に使用したスキ

ャナのメーカー名を入力する。

画像データの作製に使用したスキャナ

のメーカー名を入力する。

ScannerModelName 画像データの作製に使用したスキ

ャナの機種名を入力する。

画像データの作製に使用したスキャナ

の機種名を入力する。

ScannerModelNumber 画像データの作製に使用したスキ

ャナの型番を入力する。

画像データの作製に使用したスキャナ

の型番を入力する。

ScannerSoftware 画像データの作製に使用したキャ

プチャソフトウェア名を入力す

る。

画像データの作製に使用したキャプチ

ャソフトウェア名を入力する。

ScannerSoftwareVersionNo 画像データの作製に使用したキャ

プチャソフトウェアのバージョン

番号を入力する。

画像データの作製に使用したキャプチ

ャソフトウェアのバージョン番号を入

力する。

DateTimeCreated 画像データを作製した年月日を入

力する。「YYYY-MM-DD」と年月

日を入力する。

入力する年月日は納入期限日とする。

DateTimeProcessed 画像処理した年月日を入力する。

「YYYY-MM-DD」と年月日を入力

する。

入力する年月日は納入期限日とする。

ProcessingAgency 画像処理した画像データの組織レ

ベルプロデューサーを特定する。

受託業者名を入力する。

ProcessingSoftwareName 画像データを編集又は変換するの

に使用した画像処理ソフトウェア

名を入力する。

画像データを編集又は変換するのに使

用した画像処理ソフトウェア名を入力

する。

ProcessingSoftwareVersion 画像データを編集又は変換するの

に使用した画像処理ソフトウェア

のバージョン番号を入力する。

画像データを編集又は変換するのに使

用した画像処理ソフトウェアのバージ

ョン番号を入力する。

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参考資料 2 資料情報の属性一覧

出典:『ミュージアム資料情報構造化モデル 資料情報の属性一覧』

性格 属性名 役割

識別・

特定

1 識別子 記述単位を一意に識別する記号、番号。

2 資料番号 組織によって資料に付された記号、番号。

3 名称 資料の名前、呼称、タイトル。

4 分類 資料の分野、種別。

5 用途 民俗・考古資料などで資料が本来持っていた機能。

6 様式 資料が作られているスタイル、流派。

物理的

特性

7 品質形状 「材質」「技法」「形状」をまとめて記述する。

この 3 つをそれぞれ記述する場合は省略。

8 材質 資料を構成する材料、材質。

9 技法 制作に用いられている技法。

10 形状 資料の形状の類型。

11 員数 資料の数量、点数。

12 計測値 数値で表現できる計測値。寸法や重量。

13 部分 資料の部分、下位の記述単位への参照。

14 保存状態 資料の保存状態。

15 付属品 資料に付属する物品。付属文書や箱。

16 印章・銘記 資料に直接書き込まれた文字や印。

履歴

17 制作 資料の制作、成立に関する情報。

18 出土・発見 資料の出土、発見に関する情報。

19 来歴 資料の伝来、所有、使用の歴史。

20 取得 購入、寄贈などにより資料が管理下におかれることになった際の記録。

21 整理・処分 移管、売却、破壊、盗難などにより資料が管理下におかれなくなった際の記録。

22 受入 寄託、借入などにより資料を受入れた際の記録。

23 調査 資料の調査履歴。

24 修復 資料の修復履歴。

25 展示 資料を公開した際の記録。

26 所在 資料が保管されている場所。収蔵庫、貸出先などを含む。

27 価格評価 資料に対する価格評価の履歴。

28 受賞・指定 資料が受けた賞の履歴や文化財指定の履歴。

関連・

参照

29 権利 所有権、著作権、複製権など権利についての記述。

30 関連資料 他の資料への参照。関連する記述単位への参照も含む。

31 文献 関連する文書、刊行された図書、論文等への参照。

32 画像 写真などの視覚的二次資料。

33 記述ノート その他の情報についての文章による記述。

34 記述作成 記述の作成者、変更歴など。

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作品項目入力例 長谷川等伯「松林図屏風」(東京国立博物館所蔵)

性格 属性名 記述例

識別・

特定

2 資料番号 A10471

3 名称 松林図屏風

4 分類 絵画

物理的

特性

9 技法 紙本墨画

11 員数 6 曲 1 双

12 計測値 各縦 156.8 横 356.0

履歴

17 制作 長谷川等伯

16 世紀

28 受賞・指定 国宝

関連・

参照

33 記述ノート 草稿ともいわれるが,靄に包まれて見え隠れする松林

のなにげない風情を,…

※実際には、より多数の項目を使い、構造化されたデータで表現されています。

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参考資料 3 エンコーディングスキーム一覧

出典:『国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL 2011 年 12 月版)付録 語彙一覧表』

語彙のカテゴリー

プロパティ URI QName 定義等

掲載場所

語彙の表示名

NDL

Metadata

Terms

Applica-

tion

Profile

1 標準的なプロパティ 1.1 情報資源の記述に使用する語彙 1.1.1 複数の記述に共通して使用する語彙 Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/transcription dcndl:transcription 読みまたは翻字形 10 11 1.1.2 タイトルに関する語彙

DCTERMS Title http://purl.org/dc/terms/title dcterms:title タイトル(リテラル(変数・関数ではない、文

字列・数値等のデータ)で記述する場合) - 11

DC Title http://purl.org/dc/elements/1.1/title dc:title タイトル(値と読みをセットで表現する場合) 11

Alternative http://ndl.go.jp/dcndl/terms/alternative dcndl:alternative 別タイトル(タイトルの別言語または別文字に

よる表示形) 10 13

Series Title http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesTitle dcndl:seriesTitle シリーズタイトル 10 14

Series Alternative http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesAlternative dcndl:seriesAlternative 別シリーズタイトル(シリーズタイトルの別言

語または別文字の表示形) 11 15

Part Information http://ndl.go.jp/dcndl/terms/partInformation dcndl:partInformation 単行書の構成レベルに相当する情報 11 16

Part Title http://ndl.go.jp/dcndl/terms/partTitle dcndl:partTitle 単行書の構成レベルに相当する各著作のタイ

トル 11 17

Volume Title http://ndl.go.jp/dcndl/terms/volumeTitle dcndl:volumeTitle 多巻ものの各巻タイトルまたは刊行物の部編

名 12 18

Volume http://ndl.go.jp/dcndl/terms/volume dcndl:volume 巻次または部編番号 12 19

Alternative Volume http://ndl.go.jp/dcndl/terms/alternativeVolume dcndl:alternativeVolume 別タイトル部編番号 12 20

Alternative Volume Title http://ndl.go.jp/dcndl/terms/alternativeVolumeTitle

dcndl:alternativeVolumeTitle

別タイトル部編名 13 21

Uniform Title http://ndl.go.jp/dcndl/terms/uniformTitle dcndl:uniformTitle 統一タイトル 13 22 1.1.3 作成者に関する語彙

DC TERMS Creator http://purl.org/dc/terms/creator dcterms:creator 当該情報資源の作成者(構造化又は URIにより

表現する場合) - 23

DC Creator http://purl.org/dc/elements/1.1/creator dc:creator 当該情報資源の作成者(文字列で表現する場合) - 25 Creator Alternative http://ndl.go.jp/dcndl/terms/creatorAlternative dcndl:creatorAlternative 作成者の別名または異なる形 14 25

Series Creator http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesCreator dcndl:seriesCreator 当該情報資源が属するシリーズに対し著作責

任を持つ実体 14 26

Part Creator http://ndl.go.jp/dcndl/terms/partCreator dcndl:partCreator 単行書の構成レベルに相当する各著作に著作

責任を持つ実体 15 27

Volume Creator http://ndl.go.jp/dcndl/terms/volumeCreator dcndl:volumeCreator 当該情報資源の当該する巻または部編に対し

著作責任を持つ実体 28

1.1.4 寄与者に関する語彙

DCTERMS Contributor http://purl.org/dc/terms/contributor dcterms:contributor 情報資源の整理に何らかの寄与、貢献をした実

体(構造化又は URIにより表現する場合) - 29

DC Contributor http://purl.org/dc/elements/1.1/contributor dc:contributor 情報資源の整理に何らかの寄与、貢献をした実

体(文字列で表現する場合) - 30

1.1.5 版に関する語彙 Edition http://purl.org/dc/terms/edition dcndl:edition 当該情報資源が属する版 15 31

Edition Creator http://purl.org/dc/elements/1.1/editionCreator dcndl:editionCreator 当該情報資源が属する版に対し著作責任を持

つ実体 15 31

1.1.6 出版に関する語彙

DCTERMS Publisher http://purl.org/dc/terms/publisher dcterms:publisher 出版社・頒布者に関する情報(構造化又は URIにより表現する場合)

- 32

DC Publisher http://purl.org/dc/elements/1.1/publisher dc:publisher 情報資源の成立に何らかの寄与、貢献をした実

体(文字列で表現する場合) - 33

Publication Place http://ndl.go.jp/dcndl/terms/publicationPlace dcndl:publicationPlace 出版地・頒布地 16 34 1.1.7 主題に関する語彙

DCTERMS Subject http://purl.org/dc/terms/subject dcterms:subject 情報資源の内容を表す統制語彙、分類記号、フ

リーキーワード(構造化又は URIにより表現す

る場合) - 35

DC Subject http://purl.org/dc/elements/1.1/subject dc:subject 情報資源の内容を表す統制語彙、分類記号、フ

リーキーワード(文字列で表現する場合) - 36

1.1.8 注記等に関する語彙 DCTERMS Description http://purl.org/dc/terms/description dcterms:description 注記 - 38 DCTERMS Abstract http://purl.org/dc/terms/abstract dcterms:abstract 要約・抄録等 - 39 DCTERMS Table Of Contents http://purl.org/dc/terms/tableOfContents dcterms:tableOfContents 目次情報 - 39 1.1.9 日付に関する語彙 DCTERMS Date http://purl.org/dc/terms/date dcterms:date 当該情報資源のライフサイクルにおける何ら

かの事象の日付 - 40

DCTERMS Available http://purl.org/dc/terms/available dcterms:available 利用可能日(利用可能期間) - 41 DCTERMS Created http://purl.org/dc/terms/created dcterms:created 作成日 - 42 DCTERMS Date Accepted http://purl.org/dc/terms/dateAccepted dcterms:dateAccepted 論文や記事などの受理日 - 42 Date Captured http://ndl.go.jp/dcndl/terms/dateCaptured dcndl:dateCaptured 当該情報資源を採取・保存した日 16 43 DCTERMS Date Copyright http://purl.org/dc/terms/dateCopyright dcterms:dateCopyright 著作権が発効した日 - 44 DCTERMS Date Submitted http://purl.org/dc/terms/dateSubmitted dcterms:dateSubmitted 論文や記事などの提出日 - 44 DCTERMS Issued http://purl.org/dc/terms/issued dcterms:issued 出版年月日 - 45 DCTERMS Modified http://purl.org/dc/terms/modified dcterms:modified 更新日 - 46 DCTERMS Valid http://purl.org/dc/terms/valid dcterms:valid 有効期限(有効期間) - 46

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- 76 -

語彙のカテゴリー

プロパティ URI QName 定義等

掲載場所

語彙の表示名

NDL

Metadata

Terms

Applica-

tion

Profile

1.1.10 言語に関する語彙 DCTERMS Language http://purl.org/dc/terms/language dcterms:language 情報資源の記述言語 - 47 Original Language http://ndl.go.jp/dcndl/terms/originalLanguage dcndl:originalLanguage 原文の言語 17 48 1.1.11 形態等に関する語彙 DCTERMS Format http://purl.org/dc/terms/format dcterms:format 情報資源の物理的形態またはデジタル形態で

の表現形式 - 49

DCTERMS Extent http://purl.org/dc/terms/extent dcterms:extent 情報資源の形態に関する情報 - 49 DCTERMS Type http://purl.org/dc/terms/type dcterms:type 情報資源の内容の性質またはジャンル - 50 Material Type http://ndl.go.jp/dcndl/terms/materialType dcndl:materialType 資料種別 17 51 Price http://ndl.go.jp/dcndl/terms/price dcndl:price 販売価格 17 52 1.1.12 識別に関する語彙 DCTERMS Identifier http://purl.org/dc/terms/identifier dcterms:identifier 情報資源を一意に特定する各種識別子 - 52 SourceIdentifier http://ndl.go.jp/dcndl/terms/sourceIdentifier dcndl:sourceIdentifier 原資料の識別子 18 55 DCTERMS Bibliographc Citation http://purl.org/dc/terms/bibliographcCitation dcterms:bibliographcCitati

on 情報資源を参照・識別するための簡略な書誌記

述 - 57

1.1.13 関係に関する語彙 DCTERMS Relation http://purl.org/dc/terms/relation dcterms:relation 関連する情報資源への参照 - 58 DCTERMS Is Version Of http://purl.org/dc/terms/isVersionOf dcterms:isVersionOf 参照先の情報資源の異版である - 59 DCTERMS Has Version http://purl.org/dc/terms/hasVersion dcterms:hasVersion 参照先の情報資源を異版として持つ - 60 DCTERMS Is Replaced By http://purl.org/dc/terms/isReplacedBy dcterms:isReplacedBy 参照先の情報資源によって置換されている - 61 DCTERMS Replaces http://purl.org/dc/terms/replaces dcterms:replaces 参照先の情報資源を置換する - 62 DCTERMS Is Required By http://purl.org/dc/terms/isRequiredBy dcterms:isRequiredBy 参照先の情報資源にとって必要である - 62 DCTERMS Requires http://purl.org/dc/terms/requires dcterms:requires 参照先の情報資源を必要とする - 63 DCTERMS Is Part Of http://purl.org/dc/terms/isPartOf dcterms:isPartOf 参照先の情報資源の一部分である - 64 DCTERMS Has Part http://purl.org/dc/terms/hasPart dcterms:hasPart 参照先の情報資源をその一部分として持つ - 65 DCTERMS Is Referenced By http://purl.org/dc/terms/isReferencedBy dcterms:isReferencedBy 参照先の情報資源によって引用又は参照され

ている - 66

DCTERMS References http://purl.org/dc/terms/references dcterms:references 参照先の情報資源を引用または参照している - 67 DCTERMS Is Format Of http://purl.org/dc/terms/isFormatOf dcterms:isFormatOf 参照先の情報資源の別の記録形式である - 68 DCTERMS Has Format http://purl.org/dc/terms/hasFormat dcterms:hasFormat 参照先の情報資源を別の記録形式として持つ - 69 DCTERMS Conforms To http://purl.org/dc/terms/conformsTo dcterms:conformsTo 参照先の情報資源に準拠している - 70 DCTERMS Source http://purl.org/dc/terms/source dcterms:source 情報資源が作成される源となった情報資源へ

の参照 - 71

RDFS See Also http://www.w3.org/2000/01/rdf-schema#seeAlso rdfs:seeAlso をも見よ参照(主に識別子の URI を記述する

場合) - 72

OWL Same As http://www.w3.org/2002/07/owl #sameAs owl:sameAs 情報資源の一次情報の URI - 73 1.1.14 範囲に関する語彙 DCTERMS Coverage http://purl.org/dc/terms/coverage dcterms:coverage 時空間範囲 - 74 DCTERMS Spatial http://purl.org/dc/terms/spatial dcterms:spatial 空間的範囲 - 75 DCTERMS Temporal http://purl.org/dc/terms/temporal dcterms:temporal 時間的範囲 - 76 1.1.15 逐次刊行物の特性に関する語彙 Publication Periodicity http://ndl.go.jp/dcndl/terms/publicationPeriodic

ity dcndl:publicationPeriodicity

逐次刊行物の刊行頻度 18 76

Publication Status http://ndl.go.jp/dcndl/terms/publicationStatus dcndl:publicationStatus 逐次刊行物の刊行状態 18 77 Volume Range http://ndl.go.jp/dcndl/terms/volumeRange dcndl:volumeRange 逐次刊行物の初号から終号までの巻次および

年月次 19 78

1.1.16 博士論文の特性に関する語彙 Degree Name http://ndl.go.jp/dcndl/terms/degreeName dcndl:degreeName 博士論文の学位分野名 19 78 Dissertation Number http://ndl.go.jp/dcndl/terms/dissertationNumbe

r dcndl:dissertationNumber 博士論文の報告番号 19 79

Date Granted http://ndl.go.jp/dcndl/terms/dateGranted dcndl:dateGranted 当該情報資源の作成者が博士号を授与された

年月日 20 80

Degree Grantor http://ndl.go.jp/dcndl/terms/degreeGrantor dcndl:degreeGrantor 当該情報資源の作成者に博士号を授与した大

学名 30 80

1.1.17 雑誌記事の特性に関する語彙 Issue http://ndl.go.jp/dcndl/terms/issue dcndl:issue 当該情報資源が属する刊行物の通号 20 81 Number http://ndl.go.jp/dcndl/terms/number dcndl:number 当該情報資源が属する刊行物の号 21 82 Publication Name http://ndl.go.jp/dcndl/terms/publicationName dcndl:publicationName 当該情報資源の属する刊行物名 21 93 Publication Volume http://ndl.go.jp/dcndl/terms/publicationVolume dcndl:publicationVolume 当該情報資源の属する刊行物の巻 21 83 Page Range http://ndl.go.jp/dcndl/terms/pageRange dcndl:pageRange 当該情報資源が掲載されているページ範囲 22 84 1.1.18 デジタル化した資料の特性に関する語彙 Digitized Publisher http://ndl.go.jp/dcndl/terms/digitizedPublisher dcndl:digitizedPublisher 当該情報資源をデジタル化した実体 22 84 Data Digitized http://ndl.go.jp/dcndl/terms/dataDigitized dcndl:dataDigitized 当該情報資源をデジタル化した日付 23 85 1.1.19 情報資源の利用・入手に関する語彙 DCTERMS Audience http://purl.org/dc/terms/audience dcterms:audience 利用対象者 - 86 DCTERMS Access Rights http://purl.org/dc/terms/accessRights dcterms:accessRights 情報資源へのアクセス制限、プライバシーセキ

ュリティ等のポリシー - 87

Availability http://ndl.go.jp/dcndl/terms/availability dcndl:availability 当該情報資源の二次的・副次的な入手可能性 23 87 DCTERMS Rights http://purl.org/dc/terms/rights dcterms:rights 著作権者名以外の権利管理に関する情報 - 88 DCTERMS Rights Holder http://purl.org/dc/terms/rightsHolder dcterms:rightsHolder 著作権者名 - 88 1.1.20 その他の語彙 FOAF Thumbnail http://xmlns.com/foaf/0.1/thumbnail foaf:thumbnail 当該情報資源のサムネイル画像 URI - 89 Record http://ndl.go.jp/dcndl/terms/record dcndl:record 参照先に関係のあるメタデータを持つ 23 90 1.2 情報資源の個体情報の記述に使用する語彙 Holding Agent http://ndl.go.jp/dcndl/terms/holdingAgent dcndl:holdingAgent 当該情報資源の保有者 25 91 Call Number http://ndl.go.jp/dcndl/terms/callNumber dcndl:callNumber 請求記号 25 91 Local Call Number http://ndl.go.jp/dcndl/terms/localCallNumber dcndl:localCallNumber ローカル請求記号 25 92 Holding Issues http://ndl.go.jp/dcndl/terms/holdingIssues dcndl:holdingIssues 所属する逐次刊行物の巻次・年月次 26 93 Absent Issues http://ndl.go.jp/dcndl/terms/absentIssues dcndl:absentIssues 所属する逐次刊行物の欠号情報 26 93

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- 77 -

語彙のカテゴリー

プロパティ URI QName 定義等

掲載場所

語彙の表示名

NDL

Metadata

Terms

Applica-

tion

Profile

1.3 情報資源の管理情報の記述に使用する語彙 Cataloging Rule http://ndl.go.jp/dcndl/terms/catalogingRule dcndl:catalogingRule 当該情報資源のメタデータ記述に採用した目

録規則 27 94

Record Status http://ndl.go.jp/dcndl/terms/recordStatus dcndl:recordStatus 当該レコードの状態 27 95 1.4 個人・団体等の実態の記述に使用する語彙 Location http://ndl.go.jp/dcndl/terms/location dcndl:location 出版社の所在に関する情報 28 95 2 拡張的なプロパティ 2.1 情報資源の記述に使用する語彙 2.1.1 RDF 形式で表現できない場合の語彙 Title Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/titleTranscription dcndl: titleTranscription Title の読みまたは翻字形 29 96 Alternative Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/alternativeTranscri

ption dcndl:alternativeTranscription

Alternative の読みまたは翻字形 29 97

Series Title Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesTitleTranscription

dcndl:seriesTitleTranscription

Series Title の読みまたは翻字形 29 98

Series Alternative Alternative http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesAlternativeAlternative

dcndl:seriesAlternativeAlternative

Series Alternative の読みまたは翻字形 30 98

Series Volume http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesVolume dcndl:seriesVolume シリーズの巻次または部編番号 30 99 Series Volume Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesVolumeTrans

cription dcndl:seriesVolumeTranscription

Series Volume の読みまたは翻字形 30 99

Series Volume Title http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesVolumeTitle dcndl:seriesVolumeTitle シリーズの部編名 30 100 Series Volume Title Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesVolumeTitleT

ranscription dcndl:seriesVolumeTitleTranscription

Series Volume の読みまたは翻字形 31 101

Part Title Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/partTitleTranscription

dcndl:partTitleTranscription

Part Title の読みまたは翻字形 31 101

Volume Titie Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/volumeTitleTranscription

dcndl:volumeTitleTranscription

Volume Title の読みまたは翻字形 31 102

Volume Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/volumeTranscription

dcndl:volumeTranscription Volume の読みまたは翻字形 32 103

Alternative Volume Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/alternativeVolumeTranscription

dcndl:alternativeVolumeTranscription

Alternative Volume の読みまたは翻字形 32 104

Alternative Volume Title Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/alternativeVolumeTitleTranscription

dcndl:alternativeVolumeTitleTranscription

Alternative Title Volume の読みまたは翻字形 32 104

Creator Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/creatorTranscription

dcndl:creatorTranscription Creator の読みまたは翻字形 33 105

Creator Alternative Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/creatorAlternativeTranscription

dcndl:creatorAlternativeTranscription

Creator Alternative の読みまたは翻字形 33 106

Series Creator Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/seriesCreatorTranscription

dcndl:seriesCreatorTranscription

Series Creator の読みまたは翻字形 33 106

Part Creator Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/partCreatorTranscription

dcndl:partCreatorTranscription

Part Creator の読みまたは翻字形 34 107

Volume Creator Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/volumeCreatorTranscription

dcndl:volumeCreatorTranscription

Volume Creator の読みまたは翻字形 34 108

Edition Creator Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/editionCreatorTranscription

dcndl:editionCreatorTranscription

Edition Creator の読みまたは翻字形 34 108

Contributor Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/contributorTranscription

dcndl:contributorTranscription

Contributor の読みまたは翻字形 35 109

Publisher Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/publisherTranscription

dcndl:publisherTranscription

Publisher の読みまたは翻字形 35 110

Subject Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/subjectTranscription

dcndl:subjectTranscription Subject の読みまたは翻字形 35 110

Degree Grantor Transcription http://ndl.go.jp/dcndl/terms/degreeGrantorTranscription

dcndl:degreeGrantorTranscription

Degree Grantor の読みまたは翻字形 36 111

2.2 情報資源の管理情報の記述に使用する語彙 Bibliographic Record Category http://ndl.go.jp/dcndl/terms/bibRecordCategory dcndl:bibRecordCategory メタデータのハーベスト元のデータベースに

関する情報 37 112

Bibliographic Record Sub Category http://ndl.go.jp/dcndl/terms/bibRecordSubCategory

dcndl:bibRecordSubCategory

dcndl:bibRecordCategoryの下位区分にあたる

情報 37 112

Cataloging Status http://ndl.go.jp/dcndl/terms/catalogingStatus dcndl:catalogingStatus 書誌レコード作成のステータス 37 113 3 典拠情報の記述に使用する語彙 Previous Name http://ndl.go.jp/dcndl/terms/previousName dcndl:previousName をも見よ参照(旧称) 39 - Later Name http://ndl.go.jp/dcndl/terms/laterName dcndl:laterName をも見よ参照(新称) 39 - Real Name http://ndl.go.jp/dcndl/terms/realName dcndl:realName をも見よ参照(本名) 39 - Another Name http://ndl.go.jp/dcndl/terms/anotherName dcndl:anotherName をも見よ参照(別名) 40 -

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- 78 -

作品項目入力例: 長尾真 著. 電子図書館. 新装版. 岩波書店, 2010.3.

語彙のカテゴリー QName 記入例

語彙の表示名

1 標準的なプロパティ

1.1 情報資源の記述に使用する語彙

1.1.1 複数の記述に共通して使用する語彙

Transcription dcndl:transcription デンシ トショカン

1.1.2 タイトルに関する語彙

DCTERMS Title dcterms:title 電子図書館

DC Title dc:title 電子図書館

1.1.3 作成者に関する語彙

DC TERMS Creator dcterms:creator 長尾, 真, 1936-

ナガオ, マコト

DC Creator dc:creator 長尾真 著

1.1.5 版に関する語彙

Edition dcndl:edition 新装版

1.1.6 出版に関する語彙

DCTERMS Publisher dcterms:publisher 岩波書店

Publication Place dcndl:publicationPlace JP

1.1.7 主題に関する語彙

DCTERMS Subject dcterms:subject 電子図書館

1.1.9 日付に関する語彙

DCTERMS Date dcterms:date 2010.3

DCTERMS Issued dcterms:issued 2010

1.1.10 言語に関する語彙

DCTERMS Language dcterms:language jpn

1.1.11 形態等に関する語彙

DCTERMS Extent dcterms:extent 127p ; 19cm

Material Type dcndl:materialType 図書

Price dcndl:price 1500 円

1.1.12 識別に関する語彙

DCTERMS Identifier

dcterms:identifier http://ndl.go.jp/dcndl/terms/ISBN

9784000057035

1.1.19 情報資源の利用・入手に関する語彙

DCTERMS Audience dcterms:audience 一般

※実際のデータの一部抜粋です。

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参考資料 4 文化遺産オンライン 作品情報(文化遺産情報)項目一覧

出典:『「文化遺産オンライン構想」成果報告フォーラム ~文化遺産とデジタル・アーカイブ

の 前線を知る~』文化庁文化財部伝統文化課普及指導係, 2011. p.71

2011/12/1

日本語項目名 データ型 説明

文化遺産コード 英数 文化遺産を一意に表すコード(文化遺産オンライン側で登録時

に付与

公開可否 英数(コード) 公開ステータス管理用(公開、非公開の別など)

所蔵館コード※ 英数 所蔵館の館 ID(文化遺産オンライン側で付与したもの)

識別コード テキスト 各所蔵館における作品識別コード(各館独自の作品 ID)

文化遺産名称※ テキスト 作品名称

文化遺産名称かな テキスト 作品名称よみがな

員数 テキスト 員数に関する情報。数詞も含む

材質・構造・技法 テキスト 材質・構造・技法に関する情報。単位も含む

サイズ テキスト サイズに関する情報。単位も含む

解説文 テキスト 作品に関する解説など

作者名 テキスト 制作者名など

作者名かな テキスト 制作者名のよみがななど

作者生没年 テキスト 作成者の生没年、例:1900-1981 など

西暦 テキスト 作品の制作された時期(西暦)

分野 テキスト 各所蔵館による分類名など

時代 テキスト 作品に制作された時期(時代、年号など)

世紀 テキスト 作品の制作された時期(世紀)

地域 テキスト 地域に関する情報。

指定区分 テキスト 「重要文化財」、「国宝」などの国指定区分名称

URL テキスト 所蔵館 Web サイト内におけるこの文化遺産の個別ページ URL

など

所在地 テキスト 所在地、考古遺物の場合は出土地など

所有者 テキスト 所有者や来歴に関する情報など

制作者生没年 テキスト 制作者の生没年、例:1900-1981 など

その他の情報 テキスト 初出、公開日などの情報、考古遺物の場合は遺跡名など

西暦 FROM(半角

数字)

数字 作成時期の西暦年。複数年の場合は 初の年。紀元前の場合は

先頭に’-’を追加

西暦 TO(半角数字) 数字 作成時期の終了西暦年。紀元前の場合は先頭に’-’を追加

分野コード 数字(コード) 選択項目コード一覧参照

時代コード 数字(コード) 選択項目コード一覧参照

世紀 FROM 数字 制作時期の世紀。複数年の場合は開始世紀(現在は未使用)

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世紀 TO 数字 制作時期の世紀。複数年の場合は終了世紀(現在は未使用)

地域コード 数字(コード) 選択項目コード一覧参照

指定区分コード 数字(コード) 選択項目コード一覧参照

市区町村 数字(コード) 選択項目コード一覧参照(公開準備中)

緯度 数字 作品の所在地における緯度

経度 数字 作品の所在地における経度

保管者コード 英数 作品を保管している館の ID(主に文化庁提供の国指定文化財

情報において利用)

関連リンク テキスト 任意のアンカーテキストと URL のペア。2 件まで登録可

Gallery 公開可否 数字 公開:1 非公開:0

※必須項目

・文化遺産名称

・所蔵館コード

文化遺産オンライン情報登録 Q&A

入力編「全ての項目を埋める必要があるのでしょうか?」66

「全ての項目を埋める必要はありません。文化遺産名称だけでも登録は可能です。ただし、様々

な検索項目を用意しているため、より多くの項目を記入しておくことで、利用者が検索した際に

ヒットして閲覧される可能性が増えます。解説文も入力しなくても登録は可能です。しかし文化

遺産データベースでは、全文検索を行っているので、解説文中に様々なキーワードがあると、ヒ

ットする可能性が高くなり、利用者の目に触れる機会が増えます。」

作品項目入力例 「高井鴻山記念館 妖怪漢詩」

日本語項目名 入力内容 日本語項目名 入力内容

文化遺産コード 180715

分野 その他美術品

- 書(36)

公開可否 公開する(1) 時代 江戸(12)

所蔵館コード※ 12715 :(高井鴻山記念館) 地域 長野県(20)

文化遺産名称※ 妖怪図 妖怪漢詩

文化遺産名称かな ようかいず ようかいか

んし

材質・構造・技法 軸装

サイズ 137.0×66.4cm

作者名 高井鴻山

作者名かな たかいこうざん

66 文化遺産オンライン情報登録 Q&A http://bunkaedit.nii.ac.jp/faq.html (平成 24 年 2 月 19 日確認)

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参考資料 5 規格番号

本ガイドラインで記載した世界標準規格の規格番号を以下に記します。

No 名称 規格番号

1 JPEG ISO/IEC 10918、ITU-T T.81、JIS X 4301

2 JPEG 2000 ISO/IEC 15444-1、ITU-T T.800

3 PNG ISO/IEC 15948

4 PDF ISO 32000

5 Dublin Core ISO 15836、NISO Z39.85

6 HTTP IETF RFC2616

7 Z39.50 ISO 23950:1998、JIS X0806

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参考資料 6 デジタル化・デジタルアーカイブ構築の作業事例を見る前に

この先では、ガイドライン本編では言及できなかった資料のデジタル化の手法をはじめとした、

デジタルアーカイブの構築作業のワークフロー及び実例について、事例を紹介します。

ここでは、事例を見る前に知っておきたい知識と、作業のフローについて示します。

はじめに

第 5 章をお読みになった読者の方々は、デジタルアーカイブを構築および運用するための用

語や着眼点について、すでに必要な知識を手に入れていると思います。しかし、それらの知識

を実際の作業に結びつけることは容易ではありません。読者の組織が持つ事情、すなわち、対

象物の多様な特性とデジタル化の目的を考慮すれば、デジタルアーカイブの構築過程も、運用

方法も色々なパターンが考えられます。個別の事情を加味した上で、一人でも多くの人に、利

用して喜んでもらえるデジタルアーカイブを構築するためには、過去の事例に学ぶことが有益

であり近道です。この参考資料では、デジタルアーカイブの構築と連携における具体的な作業

を行う際に、どこを具体的に着目すればよいのか、また、想定しうる課題に何があるかを知る

手がかりとして、全体的なワークフローと具体的な作業事例を示しています。これらの事例を

参考にすることで、読者の組織が構築するデジタルアーカイブの存在意義や目的をより深く知

ることができると期待しています。

デジタルアーカイブ構築および連携のためのワークフロー

デジタルアーカイブを構築し連携する上で、避けて通ることのできない技術的な知識があり

ます。それは、現実の世界で見て感じることのできる資料を、デジタルデータに変えていく作

業において必要になる知識です。これはちょうど、貴重な資料を守るために温度や湿度、火気

などに気を配ることと同じで、デジタルデータを取り扱うために必要な 小限の知識です。

用語 概要 表示例/単位

解像度 デジタルデータは点の集まりで表現されている。解像度は点

の総数を表し、解像度が高ければ細かい違いまで表現でき

る。必要とされる解像度は用途に応じて異なり、解像度が高

ければデータ量が増加する。

dpi(1 インチあ

たりの点の密度

を表す単位)

色の数 デジタルデータを表現するための色数。白から黒への滑らか

な階調ならば 1 つの色成分でよいが、カラーなら 3 つの色成

分(赤、緑、青の三原色)の組み合わせが必要である。色の

数が増えれば、データ量の増加に繋がる。

白黒 2 値、グレ

ースケール、

カラー

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データ量 デジタルデータを保存するときのデータの大きさ。データ量

が大きければ、より高解像度のデータ、または、豊富な色調

を持つデータを扱えるが、デジタルデータの保存と伝送のた

めのコストが高くなる。データの圧縮技術を用いることでコ

ストを低く抑えられる。データ量は、品質と密接な関係があ

り、目的に応じて注意深く扱う必要がある。

MB

(メガバイト)

保存形式

(フォーマ

ット)

保存したデジタルデータがどのように扱われているかを表

す。少なくとも、解像度、色の数、データ量、圧縮技術の利

用の有無などを知ることができる。異なる館のデジタルアー

カイブでも、同じ保存形式を利用することで、容易に連携可

能になる。保存形式が異なる場合は、変換することで形式を

揃えることができるが、追加のコストが必要となる。また、

変換前のデータ量が小さすぎる場合には、変換による品質の

劣化を考慮する必要が生じる。

JPEG,

JPEG 2000,

TIFF, PDF

など

後述する各事例は、これらの要素について、具体的にどのような値や形式を利用するべきか

を知る手がかりになります。例えば、事例1では、資料の状態などに配慮したデジタルデータ

の生成について詳しく記されています。デジタル化の対象となる資料の特性や、デジタルデー

タの利用目的を考慮した機材選定やスキャン時の注意点などについて深く理解できます。一方、

事例2では、保存形式として JPEG 2000 を利用することによるメリットが詳しく述べられて

います。一度保存すれば、解像度や品質を後から変更できるなどの高度な機能を活かすことが

できます。具体的にそれらの機能を使用するためには、少なからず専門的な知識を必要とする

でしょう。

どの事例を参考にすべきかの指標として、以下のワークフローを利用してください。このワ

ークフローは、デジタルアーカイブの構築と連携を実現するための作業を、3 つのステージで

構成しています。各ステージにおいて着目するべき点や課題となりうる要素を示し、その対処

事例を示してあります。読者の組織で新しいデジタルアーカイブを構築する時に、どこが課題

になりそうかを予め知るための手がかりになるはずです。

以下のワークフローでは、現状において多くの館で当てはまると考えられる、各館で管理す

る資料をデジタルデータにすることと、そのデータの公開をセットにした流れを示しています。

ここでは取り扱いませんが、すでに、デジタルデータ同士が連携して新たな情報が生み出さ

れる環境も構築されつつあることは知っておくとよいでしょう。

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以下に続く、「参考資料 7 事例1:所蔵資料別デジタル化作業ワークフロー」および「参考

資料 8 事例2:館内利用者への所蔵資料公開」の 2 つの事例を参考にすることで、デジタル

アーカイブを構築するための具体的な作業のイメージを掴むことができると思います。しかし、

事例の内容にしたがえば、何の問題もなく構築できるわけではありません。

例えば、小規模な組織では、資料をデジタル化するために高価な機材を購入するのは現実的

ではないこともあるでしょう。デジタルデータの公開に重きを置く場合は、公開の範囲や目的

を考慮した適切な機材と技術でデジタルデータの作成を行うとともに、大規模な組織のデジタ

ルアーカイブとメタデータ(所蔵目録の情報)を相互利用可能にしておくことで、世界中の人

たちに広く収蔵品の情報を伝えることが可能です。そのためには、周囲の組織との連携が必須

になります。

このように、分からない部分については、必要に応じてデジタルアーカイブの構築に精通し

た専門家の意見を仰ぐことや、すでにデジタルアーカイブを構築し運用している組織に相談す

る必要があります。そのようにして構築される新たなデジタルアーカイブは、閲覧者と発信者

の双方に対して、新しい事例となる有益な情報を生み出します。その経験を伝えることで、デ

ジタルアーカイブ同士の連携と、関連する研究が促進していくものと言えるでしょう。

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- 85 -

参考資料 7 事例1:所蔵資料別デジタル化作業ワークフロー

【情報提供】

慶應義塾大学メディアセンター本部電子化事業担当

NPO 法人 デジタルヘリテージデザイン

■ご注意

本参考資料は、慶應義塾大学メディアセンター本部電子化事業担当及び

NPO 法人デジタルヘリテージデザインにおける所蔵資料デジタル化の取

組事例から得られた知見について提供された情報を、考え方の参考例と

して示すものです。

以下の点に注意してお読みください。

① 本参考資料をお読みになる前に、必ず本編に目を通してください。

特に、「第 5 章 デジタルアーカイブの構築・連携の手引き」を読んで

おいてください。

本参考資料は、あくまで事例を示すものですので、記述範囲や内容は

限定的になっています。

② 本参考資料に例示する機材、ソフトウェア、サービス等については、

参考として掲げたものであり、総務省、慶應義塾大学メディアセンタ

ー本部及び NPO法人デジタルヘリテージデザインが推奨するもので

はありません。

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(1) はじめに ここでは、「慶應義塾大学メディアセンター本部電子化事業担当」で行っている、所蔵資料の

デジタル化・作業仕様の事例を紹介します。

同センターの扱う資料は書籍・雑誌等が多いため、図書館の事例といえますが、使用目的と

作業仕様の考え方やデジタル化手法は、MLA各館で共通の部分も多く、博物館・美術館、文書

館にとっても参考になると考えられます。

デジタル化の仕様は、資料特性・目的・コスト等の関係で決定されますが、デジタルアーカ

イブという言葉に縛られず、それぞれの目的に合わせて仕様を決めています。

(2) 作業仕様の考え方 同センターでは、以下の考え方に従い、作業仕様を設計しています。

・資料・文化財の保存が優先される。

これは MLA 機関にとって も重要であり、資料への影響を考慮し、デジタル化作業を設

計する。

・資料・目的・コスト・スケジュールから 適な方法を選択する。

デジタルアーカイブでは保存データとして JPEG や PDF を避ける傾向があるが、大量に

短期間にコストをかけないでデジタル化する場合には、JPEG や PDF を選択する場合もあ

る。

・デジタル化ライン設計では、デジタル化から利用までの全行程のサンプル処理を行う。

・必ず機材・方法・作業者をデジタル画像のプロファイルとして保存する。

以下、資料の種類や特性ごとに、ワークフローの実例を見ていきます。

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(3) デジタル化事例 1-1 裁断可能な書籍の電子化① 初に、もっとも単純な事例として、文字情報で構成された雑誌を裁断して電子化する方法

を見ていきましょう。

(a) 資料のプロフィール

対象資料 裁断可能な(貴重なものではない)学術雑誌。

表紙のみカラーで、本文はモノクロ印刷であり、写真などの図版はな

い。

目的と利用 機関リポジトリで Web 公開する。

論文ごとの PDF ダウンロード、全文検索に対応する。

保存用ファイル PDF フォーマット(マルチページ)

(b) ワークフロー

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(c) 手順詳細

1. 表紙のスキャン

使用機材 スキャナ:PFU fi-6240Z

使用ソフト ScandAll PRO, Adobe Photoshop,

Adobe Acrobat Pro

スキャンの設定 解像度:400dpi

ファイル形式:JPEG(8bit)

表紙のみは裁断する前にスキャンする。

フラットベッドでスキャンし、Adobe Photoshopで傾き補正・トリミング加工をしたの

ち、Adobe Acrobat Pro で PDFに変換する。

2. 書籍の裁断

3. 本文のスキャン

使用機材 スキャナ:PFU fi-6240Z

使用ソフト ScandAll PRO

スキャンの設定 解像度:400dpi

画像タイプ:2値白黒(簡易自動)

ファイル形式:PDF

その他:傾き自動補正は行わない

(大きさが若干変わるのを防ぐため)

全文 OCR 機能使用

ADF(オートドキュメントフィーダー)に裁断した本文のページをセットし、上記の設

定にてスキャンする。

4. チェック

使用ソフト Adobe Acrobat Pro

文字の傾き、ページ抜けを目視で全ページチェックする。

同時に論文単位で PDF を分割する。

※傾きが大きい場合・ページ抜けがあった場合は、該当部分のみ再スキャンの後、

再チェックする。再スキャン結果が良好であれば、PDF の該当部分のページを再スキ

ャンしたものに置き換える。

5. テキストの校正

使用ソフト Adobe Acrobat Pro

論文タイトル・著者のみ、埋め込みテキストを校正する。

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(d) ワークフローの特長

・スキャンから OCR 処理、PDF 化まで同時に行うことができ、ある程度の自動化が可能で

あるため、効率的な作業ができます。

・比較的安価な機材を使用しているため、設備投資が容易です。

・特殊な技術を必要としないため、慣れれば誰でも作業することができます。

(e) 電子化の際の問題点

・フィーダーに通すことのできる資料のみが対象となるので、資料形態が限られ、また大き

さにも制限があります。

・ADF 機能を使用しているため、文字の傾きが避けられません(もともと印刷が曲がってい

るものもあります)。

そのため、目視チェックと再スキャンに時間がかかります。

・PDF に埋め込まれたテキストの校正が効率的でなく、手間がかかります。

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(4) デジタル化事例 1-2 裁断可能な書籍の電子化② 続いての事例も、同様に裁断可能な書籍の電子化です。

先ほどの事例との違いは、目的の一部にオンデマンド印刷を含んでいる点と、資料に写真な

どの図版がある点です。

(a) 資料のプロフィール

対象資料 裁断可能な(貴重なものではない)書籍。

表紙のみカラーで、本文はモノクロ印刷であるが、写真などの図版を

含む。

目的と利用 学生や教員に電子教科書として配信することに加え、レーザープリン

ターによるオンデマンド印刷、全文検索に対応する。

保存用ファイル TIFF フォーマット(8bit)

(b) ワークフロー

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(c) 手順詳細

1. 表紙のスキャン

使用機材 スキャナ:PFU fi-6240Z

使用ソフト ScandAll PRO , Adobe Photoshop,

Adobe Acrobat Pro

スキャンの設定 解像度:400dpi

ファイル形式:TIFF(8bit)

表紙のみは裁断する前にスキャンする。

フラットベッドでスキャンし、Adobe Photoshopで傾き補正・トリミング加工をしたの

ち、Adobe Acrobat Pro で PDFに変換する。

2. 書籍の裁断

3. 本文のスキャン

使用機材 スキャナ:PFU fi-6240Z

使用ソフト ScandAll PRO

スキャンの設定 解像度:400dpi

画像タイプ:カラー

ファイル形式:TIFF(8bit)

その他:傾き自動補正は行わない

(大きさが若干変わるのを防ぐため)

全文 OCR 機能使用

4. チェックと画像調整

使用ソフト Adobe Photoshop

文字の傾き、ページ抜けを目視で全ページチェックする。

※ページ抜けの場合は再スキャンし、傾きが大きい場合は Adobe Photoshopで傾き補正

する。

文字が見やすくなる程度にシャープネスを調整する。

この時点の TIFF ファイルが保存データとなる。また、オンデマンド印刷用のデータはこ

のデータから別途微調整する。

5. 電子書籍用画像の作成

使用ソフト 二値化:Adobe Photoshop

全文 OCR:パナソニック 読取革命

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二値化した後、全文 OCR 処理を行う。

二値化の手順は以下の通りである。

①「モード」を「グレースケール」にし、「色調補正」で「2 階調化」した後、「モード」

を「モノクロ 2 階調」にして PNG 保存する。

②写真などの図版があるページは、「モード」を「グレースケール」にした後、図版以外

の部分は「色調補正」で「2 階調化」し、図版部分は「レベル補正」処理をして見や

すい状態にし、PNG 保存する。

6. テキストの校正

使用ソフト パナソニック 読取革命

タイトル・著者・目次のみテキスト校正した後、PDF(マルチページ)で保存する。

(d) ワークフローの特長

・スキャン工程、OCR 処理はある程度自動化が可能なため、効率的です。

・カラーの TIFF 画像でスキャン及び保存をしておき、その TIFF 画像を変換して配信用の

PDF ファイルを作成することで、配信用だけではなく印刷等の用途にも使用できるデータ

を蓄積できます。

スキャンに際して、配信のみを目的とするならば、スキャン時のファイル形式を PDF や

JPEG にしても問題はありません。しかし、PDF や JPEG 等でスキャンした場合、圧縮率

によっては、印刷等の用途で使用する際に再度資料をスキャンする必要が生じることがあ

ります。これには手間がかかるだけでなく、資料へのダメージも懸念されます。そこで、

スキャンした画像は画質劣化の少ない形式で保存しておき、そこから配信用の容量の少な

いファイルを作成します。

・比較的安価な機材を使用しているため、設備投資が容易です。

・特殊な技術を必要としないため、慣れれば誰でも作業することができます。

(e) 電子化の際の問題点

・フィーダーに通すことのできる資料のみが対象となるので、資料形態が限られ、また大き

さにも制限があります。

・Adobe Photoshopを使用した傾き補正、2 階調化、図版部分のレベル補正などは、目視で

確認しながらの作業となり、時間がかかります。

・図版のあるページはグレースケールのままであるため、ファイル容量が大きくなります。

・TIFFファイルを保存対象とするため、データ保存のためのディスク容量が多く必要に

なります。

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(5) デジタル化事例 2 裁断できない書籍の電子化 次に、裁断を行わない場合の書籍の電子化について事例を示します。

裁断はできないものの、いわゆる貴重書のような取扱いは必要としない資料の事例です。

(a) 資料のプロフィール

対象資料 貴重な資料ではないが、絶版であり副本がないため裁断できない書

籍。カバーと表紙はカラーで、本文はモノクロ印刷であるが、口絵と

してカラー図版がある。

目的と利用 教員や学生に電子教科書として配信する。

保存用ファイル JPEG か RAW フォーマット

(b) ワークフロー

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(c) 手順詳細

1. 撮影準備

使用機材 撮影台:ATIZ BookDrive Mini

カメラ:Canon EOS 5D Mark II

レンズ:Canon EF24-70mm F2.8L

使用ソフト ATIZ BookDrive Capture

以下の手順で機材を設定する。

① x-rite 社 Digital Color Checker SG を左右のカメラで撮影し、ホワイトが RGB 値

約 236~240 になるようにカメラのシャッター速度を調節する

② ソフト側でカラーチャートのグレーからホワイトバランスをとり、撮影画像に

反映させるようにする

③ JPEG バッチ取り込みでトリミング・シャープネスの設定をする

2. 撮影

3. チェック

使用ソフト Adobe Photoshop

文字の傾き、ページ抜けを目視で全ページチェックする。

※ページ抜けの場合は再撮影する。

傾きが大きい場合は Adobe Photoshopで傾き補正する。

この時点の JPEG ファイルが保存データとなる。

4. 電子書籍用画像の作成

使用ソフト 二値化:Adobe Photoshop

全文 OCR:パナソニック 読取革命

本文(モノクロ印刷)のみ、二値化した後、全文 OCR 処理を行う。

二値化の手順は以下の通りである。

「モード」を「グレースケール」にし、「色調補正」で「2 階調化」した後、「モード」

を「モノクロ 2 階調」にして PNG 保存。

5. テキストの校正

使用ソフト パナソニック 読取革命

タイトル・著者・目次のみテキスト校正した後、PDF(マルチページ)で保存する。

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(d) ワークフローの特長

・資料を裁断せずに撮影でき、また資料を 180°に開く必要がないため、ある程度貴重な資料

を電子化できます。

・撮影台(ATIZ BookDrive Mini)のアクリル板を高透過ガラスに変えたり、カメラや照明

の可動域を増やすなど、カスタマイズして使用しています。

・ズームレンズを使用しているため、資料の大きさが変わっても画面を有効に使用できます。

(ただし、レンズの収差が目立つ広角域を使用しないこと、2 台のカメラのズームを同じ

にするなど注意が必要です)

・カラーの JPEG画像で保存することで、電子書籍用だけでなくある程度の用途に使用する

ことができます。

(e) 電子化の際の問題点

・撮影台が斜めであるため、一枚もので大判の資料があった場合撮影できません。

・カラー部分は JPEG のまま PDF 化するため、ファイル容量が大きくなります。

・カメラやソフトの操作など、ある程度の知識が必要となります。

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(6) デジタル化事例 3:和装本 和装本は一般的な書籍とは異なる取り扱いが必要となりますので、その事例を紹介します。

(a) 資料のプロフィール

対象資料 裁断が出来ず、一般利用では取り扱いに難がある和装本。

虫食いなどが少なく、彩色(朱書きなども含む)が施されていないも

の。

目的と利用 出版社からの印刷原稿依頼や教職員からの学術研究目的でプリント

出力して利用される。

保存用ファイル RAW フォーマット

(b) ワークフロー

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(c) 手順詳細

1. 書籍の状態確認

傷み、破れ等の撮影前の資料の状態や彩色の有無などを確認する。

2. 撮影準備

使用機材 カメラ:Canon EOS 1DsMk3

レンズ:EF50mm F2.5 Compact Macro

ストロボ:BronColor PulsoG

ジェネレーター:BronColor ScoroA2S

ディスプレイ:EIZO ColorEdge CG223W

[手順 3~6 で使用]

使用ソフト Canon Digital Photo Professional,

Canon EOS Utility

以下の手順で機材を設定する。

① カメラの設定

(プロファイル:Adobe RGB)

② 明るさ・色温度の設定

光が均等にまわるようにストロボを設置。色温度は約 5500k。x-rite 社 Digital

Color Checker SG を撮影し、画面上のホワイトの RGB 値が 236~240 になるよう

にストロボ出力を調整する。

3. 撮影

写真.1 のように撮影台に資料を設置

し、真上にカメラをセットして撮影を

行う。資料を平面に保つため、ガラス

で負荷のかからない程度に固定する。

資料を一枚ずつめくり撮影を行う。

4. チェック

画面上でピントや傾き、ゴミ等が入

っていないか確認する。

5. 加工

撮影後、Adobe Photoshop上で RAW

データから JPEG データをつくり、シャープネスをかけ、トリミング等を行う。解像度は

300dpi に設定する。

写真 1

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6. 保存

撮影後のデータ保存に対しては RAW データを保存用とし、JPEGデータを利用に使う。

RAW データはハードディスクと Blu-ray Disc で保存し、なるべく長期利用可能な環境

をつくる。

※依頼者の要望により、デバイスプロファイルや TIFFデータを作成する場合もある

(詳しくは(7)-(c)参照)

(d) ワークフローの特長

・一枚ずつ資料をめくり撮影をするので時間を要しますが、資料に負担をかけず安全に作業

が行えます。

・彩色があるものや傷みがある資料はガラスを使用しないで撮影するなど、資料形態によっ

て応用が可能です。

・資料の大きさにばらつきがなければ、効率よく大量にデジタルデータを制作することが

できます。

(e) 電子化の際の問題点

・資料本来の臭いや質感をデジタルデータでは表現することができません。

・またデータ保存・整理での管理をしっかりと行わなければデータの損失、そして散逸する

可能性が非常に高いです。

・使用する機材、ソフトウェア等の周辺環境の整備に時間とコストがかかります。

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(7) デジタル化事例 4 貴重な洋書の電子化 極めて専門的で、学術研究の領域ともいえる作業ですが、貴重書の電子化についても事例を

紹介します。

(a) 資料のプロフィール

対象資料 同図書館規定の基準により貴重書に分類されている洋書。

ほぼ全ページにわたり彩色が施されており、製本もタイトで取り扱い

が難しいもの。

目的と利用 原資料の保存のため、複製本を作成する。

書誌学的な研究の対象となるような資料であるため、出来る限り原資

料を忠実に再現することを目標とする。

保存用ファイル Hasselblad Camera RAW (fff)

(b) ワークフロー

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(c) 手順詳細

1. 書籍の状態確認

特に傷んでいるところやはさみ込みがないかどうか、撮影の前に確認する。

2. 書籍の撮影

使用機材 カメラ:Hasselblad H3DII-39MS,

レンズ:HC Macro 120mm F4.0

ストロボ:BronColor PulsoG

ジェネレーター:BronColor Scoro A2S

ディスプレイ:EIZO ColorEdge CG223W

(手順 2-5 で使用)

使用ソフト Phocus

以下の手順で撮影準備及び撮影を行う。(ワークフローの右側を参照のこと)

a) 資料とカメラ位置の調整

ブッククレードル(洋書用撮影台)に撮影対象資料を置き、ページ上に和紙・鏡

を置いてカメラで確認しながら撮影面とカメラとの正対を取る。

(ページが正面から撮影され、歪みなどがないようにするため)

調整はカメラの角度を微調整することで行う。

b) 照明の調整

和紙の上に資料と同じ大きさのグレーカードを置き、照明のムラがないかどうか

画面上で確認する。

c) カメラの調整

和紙の上に定規を置いて撮影し、解像度を計算する。

和紙の上に x-rite 社 Digital Color Checker SG を置き、テスト撮影して画面上の

ホワイトの RGB 値が 236~240 になるようにストロボ出力を調節する。

d) 撮影

資料を表紙から順に撮影する。

10 枚ほど撮影するたびに定規を撮影して解像度を揃えるようにする。

調整はカメラの前後位置を微調整することによって行う。

e) チェック・後処理

画面上でピントや傾き、ゴミ等を確認する。

撮影と同時にサーバーや外付けハードディスクにバックアップを行う。

撮影中にファイル名と注意事項・対応するページ番号を記録しておく。

※この時点の RAW ファイルが保存データとなる。

※特に重要なページはマルチショット撮影などの特殊撮影を行う場合もある。

3. デバイスプロファイルの作成

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使用ソフト Phocus

Profile Maker

以下の手順で作業を行う。

① Phocus 上で、カラーチャートを撮影したファイルの 18%グレーパッチで

ホワイトバランスをとり、TIFFファイルに現像する。

② 予め用意しておいたカラーチャートの測色データと TIFFデータを元に、

Profile Makerでカメラプロファイルを作成する。

4. RAW データの現像

使用ソフト Phocus

以下の手順で作業を行う。

① カラーチャートを撮影したファイルに 3 で作成したカメラプロファイルを当て、

18%グレーパッチでホワイトバランスをとる。

シャープネスの調整や色補正などは一切行わない。

② カラーチャートの設定を対応する撮影ファイルに反映させて、16bit・カメラプロフ

ァイル埋め込みの状態で TIFF に現像する。解像度は撮影時に定規を用いて計算し

た値とする。

5. 印刷データの準備

使用ソフト Adobe Photoshop

以下の手順で作業を行う。

① TIFF 画像を Adobe Photoshop で開き、カラープロファイルを AdobeRGB に変換

後、シャープネス調整やトリミング加工を行う

② 別名で保存後、任意のファイル名にリネームする。

(d) ワークフローの特長

・高精細のデータを保存しておくことで、複製本のみならず書誌学的な研究など後々まで幅

広い用途に対応できます。

・資料を大きく開く必要がなく、またカメラを真上に設置しないため、貴重な資料を破損す

ることなくデジタル化できます。

(e) 電子化の際の問題点

・作業者はカメラなどの機材操作、画像や色評価等についての知識があり、また貴重な資料

の取扱いに習熟している必要があります。

・カメラやストロボ、PCなどの費用が多額になります。

・保存データの容量が大きいため、維持やマイグレーションが課題となります。

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(8) デジタル化事例 5 貴重な紙焼き写真 同大学のコレクションの中には、貴重な紙焼き写真もあります。

ここではそのデジタル化の事例を紹介します。

(a) 資料のプロフィール

対象資料 貴重な紙焼き写真(マイクロ写真の紙焼きではありません)。

形式はアルバムから台紙に張られたもの、写真単一のものなどがあ

る。

目的と利用 写真画像の劣化の進行により閲覧に支障をきたす恐れがあるため、デ

ジタル化により現状の情報を記録する。

また出版社等の依頼や学内での展示、資料としての使用があるため、

画像提供をデジタルデータとして提供している。

保存用ファイル JPEG と TIFF フォーマット

(b) デジタル化のワークフロー

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(c) 手順詳細

1. スキャナの設定

使用機材 スキャナ:EPSON ES-10000G

ディスプレイ:EIZO ColorEdge CG223W

使用ソフト EPSON scan

スキャンの設定 解像度:600dpi

(解像度の設定は資料のサイズ、状態により変更)

ファイル形式:TIFF(48bit)

その他:画像補正は行わない

(画像補正は 3.加工で行う)

2. スキャニング

① スキャナの原稿台の埃等を除去し、資料を傷付けないように作業を行う。

② スキャニングの設定で「モード」を「プロフェッショナルモード」にし、「原稿種」

を「写真」に設定する。

③ ファイル形式は「TIFF」の「非圧縮」、「色補正なし」に設定し ICC プロファイル

の埋め込みの設定を外してスキャニングを行う。

3. 加工

使用ソフト Adobe Photoshop

スキャン後、Adobe Photoshop上で TIFFデータの加工および JPEG データをつくる。

画像補正されていないデータなので、ソフト上でデバイスプロファイル(デバイスに合

わせ制作)を指定し、シャープネスをかけ、トリミング等を行う。

後に印刷原稿に出力する際は AdobeRGB、Web 等の利用の際は sRGB にプロファイル

を変換する。

4. 保存

スキャンしたデータ保存に対してはスキャンしたままのデータ(TIFF)と加工をした

TIFF データ、JPEGデータの三種類をつくる。

加工をしていない TIFFデータはハードディスクと Blu-ray Disc で保存し、なるべく長

期利用可能な環境をつくる。

加工した TIFF データは印刷出力などで利用し、JPEG データはサムネイルのように確認用

として利用する。

(d) ワークフローの特徴

・カメラでの撮影とは異なり、周辺機器を揃える手間や、専門的な知識を要することなく作

業ができ、スペースも広く必要としません。

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・プレビュー機能など、目視で確認が出来るので、作業効率向上や仕上がりの見当もつきや

すいです。

(e) 電子化の際の問題点

・資料をスキャナの原稿台の上に乗せる際、資料を下に向けなければならないので、取り扱

いに細心の注意が必要になります。

・ある程度平面を確保できる資料でなければスキャニングできません。

・スキャニング中は振動の影響で正確な画像が得られないリスクが高いです。

・資料サイズによる制限があります。

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(9) デジタル化事例 6 Google ブックスにある冊子体目録の事例 後に、デジタル化された資料がどのように活用できるかを紹介します。

この事例でのデジタル化対象資料は一次資料そのものではなく、同館の所蔵目録であること

にも注目してください。

(a) 利用例

Google ブックス67で「慶應 目録」を検索すると、慶應義塾が Google ブックスのプロジェ

クトで電子化されたいろいろな所蔵目録が表示されます。

また、「慶應 図書館目録 数理哲学」と検索すると、慶應義塾大学の井筒文庫目録 142 ペー

ジがヒットします。

67 http://books.google.com/ (平成 24 年 2 月 21 日確認)

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そのページには、数理哲学思想史が記載されていて、その本が、慶應義塾大学三田メディア

センターの請求記号 A@265 であることがわかります。

このように、所蔵目録や収蔵目録を電子化し、OCR 処理を行い、インターネットへ公開する

ことで、それぞれの機関の所蔵情報を発信することができます。

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参考資料 8 事例2:館内利用者への所蔵資料公開

■ご注意

本参考資料は、考え方の参考例を示すものです。

お読みになる前に、以下の各項目をご確認ください。

① 本参考資料をお読みになる前に、必ず本編に目を通してください。

特に、「第 5 章 デジタルアーカイブの構築・連携の手引き」を読んで

おいてください。

本参考資料は、あくまで参考例を示すものですので、記述範囲や内容

が限定的になっています。

② 本参考資料に登場する館や要望は架空のものです。

③ 本参考資料の文中に掲載する「チェックシート」および「フロー」に

ついては、要件の検討の流れや判断箇所を示す目安であり、値そのも

のは絶対的な基準ではありません。

④ 本参考資料に例示するシステム構成を推奨するものではありません。

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(1) 背景・前提

(a) デジタルアーカイブの構想

展示スペースの関係からこれまで来館者に閲覧してもらうことができなかった郷土資料の

書籍(A5 または B5、平均 80 頁、約 500 冊)をスキャンし、館内に設置したタブレット端

末で閲覧してもらおうと考える郷土資料館を仮定して、デジタルアーカイブの検討の過程を

見ていきます。

(b) 郷土資料館のプロフィール

A 県 B 市立の博物館です。

これまでは実物の資料を展示し、来館者に見てもらっていました。展示室には、所蔵品の

ごく一部しか展示していません。時々展示替えをするものの、所蔵品を十分に市民に活用し

てもらっているとは言えない状態です。

そこで、保管庫に眠っている資料を少しでも有効活用してもらおうと考え、デジタルアー

カイブを企画しました。また、タブレット端末での閲覧という目新しさを加えて、話題作り

に役立てようという狙いもあります。

ゆくゆくはインターネットでの公開も行いたいと考えていますが、予算の関係もあり、ま

ずはできることから一つずつ進めていこうと考えています。

デジタル化の技術については詳しくありませんが、国際標準規格を用いた技術を使うこと

が将来的に重要であると聞いていたため、極力そのような方式を使おうと考えています。

(c) 対象とする郷土資料の状態

前述のとおり、これまでマイクロフィルム撮影が行われたことはありませんので、閲覧す

るには実物を手に取るしかありません。

これまで大事に保存してきたことが幸いして、資料の劣化は少なく、デジタル化の作業に

対して十分に耐えることができそうです。

(2) 画像データの投入方法を検討する 大前提として、画像データの作成・入力に際しては、資料に極力ダメージを与えない方法を

選択する必要があります。デジタル化したからといって原資料を捨て去るわけではありません。

デジタルアーカイブ構築作業の効率を追い求めるあまり、資料を傷つけてしまっては本末転倒

です。原資料の性質や保存状態を十分に考慮し、画像データの投入方法を検討しましょう。

画像データの入力作業は外注して実施するのが一般的ですが、予算が少ないのであれば館員

が自分で入力することも選択肢の一つです。初めに示したように、本例では幸いにして原資料

の保存状態は良好で、製本も丈夫そうであり、自分で入力しても問題はなさそうです。

平均 80 頁の書籍 500 冊が対象ですから、見開きで入力するなら、500 冊×40 画像で結局

20,000 画像の作成が必要であることが判っています。スキャナを使って 1 分間に平均2画像を

入力するとすれば 167 時間、交代で1日8時間入力作業にあたるとすれば 21 日間の作業にな

る計算です。この計算には機材の準備・調整の時間や、作業者の休憩時間を含んでいませんし、

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実際には他の業務の合間で行うことになるわけですから、3 か月~半年はかかるかもしれませ

ん。

業務多忙の折厳しいものはありますが、今回は予算を重視して館員が自分で画像データの入

力を行うこととし、入力完了した画像がある程度まとまった段階で、順次公開していくことを

考えます。

画像データの入力作業に必要な知識や作業の流れ・手順については、「国立国会図書館 資料

デジタル化の手引 2011 年版」にまとまっています。同書は国立国会図書館が実施した大規模

デジタル化に基づく知見から書かれていますが、基本的な考え方や知識については参考にする

ことができます。全体の概要が「1 デジタル化作業の概要」に、技術的な知識については「2 デ

ジタル化の技術」に、実際の作業の手順は「3 画像データ等の作製」に、それぞれ書かれてい

ますので、参照してください。画像データの入力作業の事例は、本ガイドラインの「参考資料

7 事例1:所蔵資料別デジタル化作業ワークフロー」でも紹介しています。合わせて参照して

ください。

なお、資料のスキャンあるいは撮影を行う際の解像度や色情報の精密さについては、この後

の項で検討した結果の数値を使用しますので、後工程の説明を読み、全体を把握したうえで作

業の発注や実施を行うようにしましょう。

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(3) チェックシートを使ってシステム要件のスタート地点を確認する システムの検討に入りましょう。 初に、「チェックシート」を使用し、検討する必要がある

システム要件を確認します。

項目 想定される選択肢 システムに依存する機能 コンテンツフォーマットに

依存する機能

認証

閲覧権制御

著作権

セキュリティ(D

RM

)※1

データベース

デジュール標準※2

目録データの取得・入力

目録とコンテンツの紐づけ

メタデータ連携

オンプレミス※3

クラウド※4

Unicode

※5

動的配信

圧縮性能

可逆性※6

多層画質※7

多層解像度※8

目的 サービス

範囲

館内限定で利用

インターネット経由の外部利用 ○ ○ ◎ ◎ ◎

閲覧対象 著作権 著作権切れ限定

著作権あり ○ ○ ◎ ◎

リーチ 目録に限定 ◎ ◎

目録に紐づけられた コンテンツを公開

◎ ◎ ◎

利用形態 閲覧環境 PC のみ

携帯型情報端末を含む ◎ ◎ ○

プリントア

ウト

許可する ○ ○ ○ ○ ○

許可しない

2 次利用 考慮する ◎ ○ ○

考慮しない

長期保存・継承 考慮する ◎ ○

考慮しない

組織 政府系 ◎

政府系以外の公共機関 ○

民間

リソース 初期投資 潤沢 △ △

厳しい ◎ ◎ ◎

メンテナン

ス体制

充分 △ △

厳しい ◎ ◎

管理 品質管理 自動化する ◎ ○

自動化しない

外部連携 考慮する ◎ ○ ◎

考慮しない

※1 (Digital Rights Management) デジタルデータとして表現されたコンテンツの著作権を保護し、その利用や複製を制御・制限する技術の総称

※2 デジュール標準:公的な機関が認証することにより規格となっている標準のこと ※3 オンプレミス:自社で用意した設備でソフトウェアなどを導入・利用すること ※4 クラウド:ネットワーク上にあるサーバのサービスを活用できるというコンピューティング形態を指す ※5 Unicode:1993 年に国際標準化機構(ISO)で ISO/IEC 10646 の一部(UCS-2)として標準化された文字コード体系 ※6 可逆性:条件を変えるとその変化と逆の方向に変化が起こってもとの状態に戻ること ※7 多層画質:複数の層それぞれの画質 ※8 多層解像度:いくつもの層それぞれの解像度

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「チェックシート」の利用方法

「項目」の列には、 大 3 つのレベルで仕様項目が示されています。小項目ごとに、「想定さ

れる選択肢」が 2 つずつありますので、自館の要望に近い項目の行を選択します。

選択した行に◎(4 点)、○(2 点)、△(1 点)があれば、それをチェックしておきます。

選択が終わったら、機能(列)毎に点数を合計し、仕様書に考慮するべき機能を洗い出しま

す。

目安として、合計が 4 点以上になった機能は、特に要求仕様上の考慮が必要といえます。

点数が多い機能は、そのシステムにとって重要な機能といえます。4 点に満たない箇所でも

点数が加算されていれば、考慮は必要になります。

例えば、サービス範囲として「インターネット経由の外部利用」を選んだ場合は認証(2点)、

閲覧権制御(2点)、セキュリティ(DRM)(4点)、データベース(4点)、Unicode(4点)

と言った形で機能に点数が加算されて行きます。

外部連携に「考慮しない」を選んだ場合は、すべて 0 点です。これを機能毎に集計します。

上記の条件で、システム仕様書を検討したいと言った場合は、セキュリティ(DRM)、デー

タベース、Unicode の 低 3 機能については、仕様書として特に記載すべき機能となります。

◎ 4 点 選択したカラムの合計が 4 点以上の場合、要求仕様上の考慮が必要になる

○ 2 点

△ 1 点

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チェックシートに従って要件を挙げていくと下記のようになりました。

項目 意向

サービスの範囲 来館料を徴収した利用者にだけ館内のタブレット型の携帯端末でコ

ンテンツを公開する

著作権 考慮する必要がない

公開する内容 コンテンツ

閲覧端末 館内に設置したタブレット型携帯端末

プリントアウト 考慮しない

2次利用 考慮しない

長期保存・継承 時間経過とともに陳腐化する仕様は避けたい

組織 政府系以外の公共機関

初期投資 厳しい

メンテナンス体制 厳しい

品質検査 数が少ないので自動化の必要はない

外部連携 考慮しない

次ページに要件を検討した時のチェックシートを記載します。

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- 113 -

要件となる選択肢に色をつけています。

項目 想定される選択肢 システムに依存する機能 コンテンツフォーマットに

依存する機能

認証

閲覧権制御

著作権

セキュリティ(D

RM

)※1

データベース

デジュール標準※2

目録データの取得・入力

目録とコンテンツの紐づけ

メタデータ連携

オンプレミス※3

クラウド※4

Unicode

※5

動的配信

圧縮性能

可逆性※6

多層画質※7

多層解像度※8

目的 サービス

範囲

館内限定で利用

インターネット経由の外部利用 ○ ○ ◎ ◎ ◎

閲覧対象 著作権 著作権切れ限定

著作権あり ○ ○ ◎ ◎

リーチ 目録に限定 ◎ ◎

目録に紐づけられた コンテンツを公開

◎ ◎ ◎

利用形態 閲覧環境 PC のみ

携帯型情報端末を含む ◎ ◎ ○

プリントア

ウト

許可する ○ ○ ○ ○ ○

許可しない

2 次利用 考慮する ◎ ○ ○

考慮しない

長期保存・継承 考慮する ◎ ○

考慮しない

組織 政府系 ◎

政府系以外の公共機関 ○

民間

リソース 初期投資 潤沢 △ △

厳しい ◎ ◎ ◎

メンテナン

ス体制

充分 △ △

厳しい ◎ ◎

管理 品質管理 自動化する ◎ ○

自動化しない

外部連携 考慮する ◎ ○ ◎

考慮しない

◎ 4 点 選択したカラムの合計が 4 点以上の場合、要求仕様上の考慮が必要になる

○ 2 点

△ 1 点

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項目 点数 判断

認証 0 不要

閲覧権制御 0 不要

著作権管理 0 不要

セキュリティ(DRM) 0 不要

データベース 4 必要

デジュール標準 6 必要

目録データの取得・入力 4 必要

目録とコンテンツとの紐づけ 4 必要

メタデータ連携 0 不要

オンプレミス 0 不要

クラウド 8 必要

Unicode 使用 4 必要

動的配信 4 必要

圧縮性能 4 必要

可逆性 4 必要

多層画質 2 考慮

多層解像度 2 考慮

以上によりシステム要件定義の出発点は下記のようになります。

データベース

デジュール標準

目録データの取得・入力

目録とコンテンツとの紐づけ

クラウド

Unicode 使用

動的配信

圧縮性能

可逆性

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(4) システム機器・インフラ構成を整理する 前項で決定したシステム要件定義の出発点のうち、サーバ機器等のインフラ構成にかかわ

る部分を先に整理しておきましょう。

来館者に対してタブレット端末でデジタル化した郷土資料を閲覧してもらう、というシス

テムの機能に対し、「クラウド」「動的配信」というキーワードが出てきました。

これらのキーワードを基にしたシステム構成のイメージ図を、以下に示します。

「クラウド」と言っても要求仕様の基本的な考え方は変わりません。ここでは、まずインフ

ラを自館外で管理することを要件の一つとしたいので、これを要求仕様に盛り込みます。

機器・インフラ構成

当館ではサーバーを購入・設置・管理せず、クラウドサービスまたはホスティングサ

ービス等、インターネットを介して使用できるサービスを使用する。下記「ソフトウェ

ア基本構成」を満たすサービスを提案すること。

サーバーの維持管理、保守、バックアップ等も合わせて行うこと。

当館からインターネットへの接続は、既存の回線を使用するため、考慮しなくてよい。

ソフトウェア基本構成

Web アプリケーションシステムをベースとしたソフトウェア構成とし、極力一般的な

ソフトウェアを用いること。また、今後タブレット以外の端末からの閲覧も可能なシス

テムを提案すること。必要な機能の詳細は個々の要求ごとに記載する。

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(5) コンテンツの形式を確認してシステム要件を見直す ここから、作製する画像ファイルの形式について検討していきます。

各館の用途や条件から、デジタル化したコンテンツの画像ファイルの仕様を選べるフローと

その考え方も同時に説明していきますので、参考にしてください。

フローの中に記載されている数値そのものは確定的な情報ではありません。検討の観点と、

数値の相対的な高低を知る目安としてお使い下さい。

(a) 解像度

せっかく作るのですから、作製したデジタルデータは長く使いたいところです。その一方

で「高くつく」というのは避けたいところです。また、コンテンツのほとんどは墨書でそれ

ほど細かい図形や文字は見当たりません。

そこで解像度としては思い切って 400dpi を選択しました。

ここで決定した解像度は、資料のスキャンと画像ファイルの作成の際に使用します。

【注意点】

①データ量(ストレージコスト)は 200dpi を基準にすると、300dpi で 2.25 倍、400dpi で

4 倍、600dpi で 9 倍と増加します。

②このフローは、保存用データの解像度を決定する場合のものです。

提供用データの場合は、データ量が増加すると、ストレージのコストに加えて配信サーバ

側の負荷や表示にかかる時間、必要なネットワークの速度も大きく変わります。

提供用画像の解像度は上記で決定したものよりも低く、また非可逆圧縮の画像フォーマッ

トを採用してデータ量を削減する必要があります。

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ここで、あらかじめ画素数を計算しておきましょう。コンテンツは A5 または B5 なので大

きい方の B5 を例にとってコンテンツあたりの画素数を概算しておきます。

B5 サイズ見開き(=B4 サイズ)の横幅は 14.33 インチですから、400dpi の場合の横方向

画素数は 400×14.33 で 5,732 ピクセルになります。

一方、B5 サイズ画像の高さは 10.12 インチなので、同様にして 400dpi の場合の縦方向画

素数は 4,048 ピクセルになります。

そうすると全体では 5,732×4,048 で 23,203,136 (約 23M) ピクセルとなります。

(b) 色数

次に色数を考えます。写真と言えるほどではありませんが、多色使いのページもあればグ

ラデーションの美しい墨絵もあります。イラストのように少ない色数ではせっかくのコンテ

ンツが泣きます。そこで、ここでは写真程度の色数を選びました。

色数は、資料をスキャンする際の設定に影響するほか、画像データフォーマットに何を採

用するか、どれぐらいの容量が必要かを検討する際に使用します。

YCbCr で表現すると、データ量(バイト数)はピクセル数の 2 倍となります。

先述の約 23M ピクセルの画像の場合には約 46M バイトとなります。

色数の選定

特殊なモニターを導入してでも広い色域が必要

色の再現性に拘りたい

色のついた文字や線画がある

グレースケール YCbCr sRGB AdobeRGB等

YES

YES

YES

NO

NO

NO

パレットカラー

文書の見読性のみが重要であり、データ量を極力減らしたい

写真が含まれていない

NO

YES

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- 118 -

フローの読み方と用語についての説明を以下に記します。

【注意点】

・選定結果の左から、ファイル容量が少なくて済む順、かつ色の再現度が低い順に

並んでいます。

・YCbCr は Y 成分のみを読みだすことでグレースケールとして扱えるため、使いまわしが

良いといえます。

【用語説明】

No 用語 説明

1 カラー

スペース

(色空間)

表示・印刷できる色の範囲やその表現方式のことで、機器の特性によって表現で

きる色が異なることから、様々な方式がある。同じ画像でもカラースペースが異

なると色の質等が異なるので注意が必要である。

2 グレー

スケール

コンピュータ上での色の表現方法の一つ。画像を白から黒までの明暗だけで表現

し、色の情報は含まない「モノクロ」のこと。

3 パレット

カラー

使用する色を決まった数だけあらかじめ選んで通し番号をつけておき、色の指定

に番号を用いる色表現方式。色数には 256 色が使われることが多く、画像の容量

を小さくするのに有効な方式である。68

4 YCbCr 代表的なカラースペースの一つ。Y は輝度、Cb は青さ、Cr は赤さの度合いを

示す。JPEG や MPEG 等 DCT 変換によって画像圧縮を行う場合は、RGB 形

式の画像データを圧縮するのではなく、YCbCr に変換した画像データを圧縮す

る。

5 sRGB IEC(国際電気標準会議)が 1998 年 10 月に策定した、異なる環境間で色の再現性

を確保するために定められた色空間の国際標準規格。

CRT ディスプレイの色表現をベースに策定されており、他の色空間に比べて表現

できる色の範囲が狭く、エメラルドグリーン、濃いシアン、オレンジ、明るい赤

や黄色などは苦手である。このため、写真やグラフィックデザインを専門的に扱

うプロ用途などには向かないと言われている。69

6 AdobeRGB Adobe Systems が定義した色空間(カラースペース)のことである。1998 年に

発表された。基本的に CRT ディスプレイで色を表現することを想定している

sRGB は、表現できる色の範囲に一定の限りがある。一方 Adobe RGB は、sRGB

に比べても遥かに広い範囲の再現領域を持ち、きめの細やかな色彩の表現が可

能。印刷物に対する適合性や色構成の厳密性も高く、特に DTP の分野などでは

長らく Adobe RGB が標準的に用いられている。ただし Adobe RGB を再現で

きる機器は比較的高価であり、専ら業務用の機材で採用されている。

(特記無き物の出典:「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」)

68 IT 用語辞典 e-Words: http://e-words.jp/w/E38391E383ACE38383E38388E382ABE383A9E383BC.html(平

成 24 年 2 月 10 日確認) 69 IT 用語辞典 e-Words: http://e-words.jp/w/sRGB.html(平成 24 年 2 月 21 日確認)

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(c) サブバンド(解像度の重層)数(JPEG 2000 等の場合)

次に JPEG 2000 等の一部のフォーマットにおいて必要となる、解像度の重層(多層解像

度)について考えます。必要な層の数(分割数)を計算します。

ここまでの作業で、今回対象とするコンテンツの横方向画素数が 5,732 ピクセルであるこ

とは判っています。

閲覧デバイスとして考えている iPad2 は横方向 1,024 ピクセルですから、これを式に当て

はめてエクセルで計算してみると、=CEILING( LOG(5732/1024, 2 ), 1 )で 3 となります。

この場合には画像データから横幅がそれぞれ 5,732、2,866、1,433、716 ピクセルの画像を

取り出せることになります※1。一番小さい横幅 716 ピクセルの画像は、iPad2 の長辺ピクセ

ル数である 1,024 ピクセルよりも小さいため、画像全体を画面に収めることができます。

※1 分割数が 3(2 の3乗分)から計算した場合(5732÷2=2876、5732÷4=1433、5732÷8=716.5)

x: 画像の横幅(ピクセル数)

y: 画像の高さ(ピクセル数)

t: 最少の場合に収めたい画像サイズ

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(d) レイヤー(画質重層)数(JPEG 2000, JPEG XR 等の場合)

次にレイヤー数(画質重層)を考えましょう。「(3) チェックシートを使ってシステム要件

のスタート地点を確認する」の結果を見ると画質の重層は必要ないことになっています。と

ころが、後に選択するフォーマットによってはこの特性を得ることができます。念のために

必要なレイヤー数を検討しておきます。

・「 大値」に入る値は、画像フォーマットにより異なります。

今回、画質の重層は必須要件ではありませんので、画質の重層が可能なフォーマットを選択

した場合にのみ 2 レイヤーを選択します。この場合はレイヤーが 2 層なので、保存用のデータ

ファイルから一層目に対応する配信用の簡単に画像を取り出すことができます。

そうでないフォーマットを選択した場合には、いったん保存用のデータを作成して、それを

配信用のデータに変換する処理が必要です。

レイヤー(画質重層)数の選定

配信データの画質はビットレート(圧縮率)

指定?

保存用データとして可逆画像を残す?

1 2(保存用レイヤー+配信用レイヤー)

最大値

YES

NO

YES

NO

JPEG 2000, JPEG XR 等、レイヤーが存在する

ファイルフォーマットを採用する際にお使い

ください。

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(6) フォーマットを選択する

次に配信用画像の圧縮率を決めます。今回は平均 80 頁×500 冊=40,000 頁、見開きでスキャ

ンするのであれば 20,000 画像となりますので、目視検査が可能な分量と言えます。(1分間に

2枚の画像を確認できるとして2日程度の作業です)。対象とするデータ量が多くて目視検査が

事実上不可能な場合には、品質検査を自動化して画像ごとに 適な圧縮率を決定しますが、今

回はそこまでする必要がないため、固定で圧縮率を決めてしまうことにします。

さて、圧縮率を決めるにあたってはその前にフォーマットを決めておく必要があります。何

故なら画像フォーマットはそれぞれに拠って立つ理論が異なり、それが時として顕著な圧縮性

能の差となって現れてしまうからです。例えば 1994 年に規格化された JPEG と 2000 年に規格

化された JPEG 2000 とでは、圧縮性能に概ね2倍の差がある(つまり JPEG 画像とその半分

のサイズの JPEG 2000 画像とを比べた時に画質が同じくらいになる)ことが知られています。

場合によっては非標準のフォーマットを選択することもありますが、フォーマットの安全性

(互換性、継続性、特許リスク)と競争による低コスト化の観点から、または WTO の政府調

達協定の観点から、特別な理由がない限りデジュール標準(3大国際標準化機関の規格)を採

用することをお勧めします。

非可逆圧縮が可能なデジュール標準の画像フォーマットとしては、JPEG、JPEG 2000、JPEG

XR が代表的です。なお、JPEG という文字列は3大国際標準化機関が合同で策定した画像規格

であることを示しています。

これら選択肢の中からどれを採用するのかを決めるにあたって、各規格の特性を考えてみま

す。

JPEG を選択する場合の一番のメリットは、どのブラウザからでも直接見ることができる点

にあります。拡大・縮小や移動などの操作が多少不便であっても構わないのであれば、特別な

配信の仕組みを用意する必要がありません。一方で、サーバーのディスクを大きく消費するこ

と、通信に時間がかかること、タブレットなどの携帯デバイスに対応するのが難しい(iPad2

を例にとると、扱える画像の上限サイズとして縦横それぞれ 1024 ピクセルと規定されている

ため、より大きな画像を扱う場合には配信サービス側で対応することになりますが、JPEG フ

ォーマットはそのような処理に向いていません)こと、あらかじめ圧縮率を決められないこと、

保存用に別フォーマットのデータを用意する必要があることなどがデメリットとして挙げられ

ます。

JPEG 2000 はデータ提供者が必要とする機能や性能を盛り込んで策定されたフォーマット

で、大規模な画像アーカイブではこのフォーマットを採用した例が多く見られます。メリット

としては、圧縮性能が良いこと、合理的な動的配信が可能であること、それにより通信量を抑

え携帯デバイスに対応して使いやすいユーザ・インターフェースを提供できること、保存用画

像から配信用画像を取り出せること、画質制御を行いやすいことなどが挙げられています。一

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方で、このフォーマットの画像を直接表示できるブラウザが今のところ Safari のみであること

から、ブラウザからの要求に応じて情報を取り出し動的に配信する仕組みが必要となること、

JPEG 2000 からの配信用データ取り出し用のソフトウェア・ライブラリには有償のものが多く、

ライセンス費用の考慮が必要になることがデメリットとして挙げられています。

JPEG XR の”XR”は eXtended Range の略であり、色域の向上と複雑度の低減を目指して策

定されたフォーマットです。メリットとしては、精密な色表現が可能であること、デジカメな

どの携帯デバイスにも搭載可能なこと、圧縮性能が良いこと、保存用画像から配信用画像を取

り出せること、画質制御を行いやすいことなどが挙げられます。一方でこのフォーマットの画

像を直接表示できるブラウザは今のところ Internet Explorerのみであることから、ブラウザか

らの要求に応じて情報を取り出し動的に配信する仕組みが必要となること、配信用データ取り

出し用のソフトウェア・ライブラリに有償のものがあり、ライセンス費用の考慮が必要になる

ことがデメリットとして挙げられています。また、開発・動作環境が Windows 系の OS に偏る

傾向がある点も、考慮すべきポイントです。

画質の劣化が視覚的に目立たない圧縮率としては、JPEG で 1/8~1/20 程度、JPEG 2000 お

よび JPEG XRでは 1/16~1/40 程度を目安とすることが多いようです。

さて、フォーマットの選定に移りましょう。

まずコストについて考えてみます。今回作成する画像データは、前述のとおり1枚当たり46M

バイトの画像が 20,000 画像あります。1/20 に圧縮するとして、46M ×20,000×1/20=46G バ

イトが必要な計算です。市販のハードディスクなら1万円程度支払えば十分なサイズのものを

購入することができますが、クラウドに配置するとなるとデータ量が毎月の経費に影響してく

るので注意が必要になります。大手のオンラインストレージサービスでは現在のところ1G バ

イトあたり年間¥2,500~¥10,000 の価格帯でサービスを行っているようです。これを参考にす

ると、1/20 圧縮を採用する場合には年間¥115,000~¥460,000 の経費がかかる計算となります。

1/40圧縮を採用するのであればこの経費は半分になります。1/20圧縮した JPEGの画像と、1/40

圧縮した JPEG 2000 もしくは JPEG XR の画質はほぼ同じと見なせるので、圧縮性能の観点か

らは JPEG をやめて JPEG 2000 か JPEG XRを採用するのが得策と言えます。

一方で、配信時のコストについても考える必要があります。JPEG ならば基本的なウェブサ

ービスで十分である場合が多いのですが、JPEG 2000 や JPEG XR を使う場合には、閲覧者の

要求に合わせて動的にデータを作る機能を持たせる必要があります。クラウドサービスを用い

てその機能を開発し維持するためには、経費がかかってきます。価格はクラウドサービスごと

にばらつきが大きい上に利用頻度の影響も受けますので一概には言えませんが、大手 PaaS の

標準プランを参考にすると、年間で¥76,000 程度となっているようです。

結局のところコスト面だけを考えたのでは、圧縮性能の高い JPEG 2000 や JPEG XR を選べ

ば良いのか、あるいは配信時の計算量が少ない JPEG を選べば良いのか、判断がつきません。

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どちらが有利かはクラウドサービスの料金体系に依存してくるのです。

なお、クラウドサービスの種類や特徴については、第 5 章 2(4)(a)「システム基盤を確定する

―クラウドサービスの検討」にて解説していますので、参照しておいてください。

もっとも、今回はタブレット型携帯端末での閲覧を実現するために動的配信が必須条件にな

っていますから、いずれにせよ JPEG 2000 か JPEG XR かのいずれかのフォーマットを採用す

ることになります。

ここでは、特に色域の向上や複雑度の低減は必要としていないため、大規模アーカイブの例

に倣って JPEG 2000 を採用することとします。配信用画像の圧縮率はとりあえず目安の 小

値である 1/40 として、目視検査により不合格となった画像については 1/20 の画像と入れ替え

ることにします。

この入れ替えを簡便に実施するために、レイヤー数を 3 に改めます。保存用画像の画質、配

信用画像の画質(1/40)、目視検査の結果入れ替える画像の画質(1/20)、と、1つの画像データか

ら、3種類の画質の画像を取り出すことを考えての選択です。

以上により、作成する画像データの詳細が決まりました。ここにそれらをまとめておきます。

項目 内容

解像度 400 dpi

画像フォーマット JPEG 2000 (ISO/IEC 15444-1)

色表現 YCbCr

解像度の重層数 3

画質の重層数 3 (可逆・1/20・1/40)

詳細が決まったら、その内容に問題がないかを確認するため、サンプルデータの作成と、画

質の確認を行います。画像の作成を業者へ外注する場合は、その見積と併せて依頼することも

考えられます。

画像作成業務の提案を募る際には、その審査においても、サンプルを提出させることは大変

重要なポイントです。そのためには、仕様に品質に関する記述を明記しておく必要があります。

画像データの仕様だけでなく、仕様の目的や、検討の過程を含めて仕様に明記しておくと、

理解が容易になります。

上記の仕様は次項にて仕様案として使用します。

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(7) 画像データの投入方法を検討する

画像データの投入にはスキャナやパソコンといった機材と処理を行うためのソフトウェアが

必要になります。これらを新規に調達することも選択肢のうちですが、近年ではスキャナ機能

が付いたプリンタやパソコンがほとんどの施設に設置されていますので、可能であればそれら

を流用することも選択肢になります。その場合にはそれらの機材の名称、スペック、オペレー

ティングシステムなどを要件に記載しておくことで、設置済みの機材が流用できる提案を求め

ることができます。将来機材を入れ替えても困らないように、機材固有の名称は例として書き、

スペックを記載した上で「相当以上」と添えておくと安心です。

動作環境

システムに対し、館員が操作を行う際に使用する PC・スキャナ等の環境を以下に示す。

提案システムの各機能は、下記の環境において稼働可能とすること。

・PC

CPU:Core i5 2.66GHz相当以上(例:ソニー VPCZ139FJ/S)

メモリ:4GB以上

ハードディスク:128GB 以上

OS:Windows 7 Home Premium Service Pack 1 64 ビット 相当以上

・スキャナ

フラットベッド型 CIS 1200dpi 相当以上

(例:キヤノン PIXUS MX420 (有線 LAN接続))

クラウドサービスの機能を使用する場合、一般的にはブラウザ上で操作を行うことが多いで

すが、専用のアプリケーションを使用することもあります。あるいは、事前にパソコン上で動

作するソフトウェアでファイルを加工してから、そのファイルをクラウドサービスに登録する

という形態も考えられます。一般的に、ブラウザ上のみで操作する方式はシステム導入が簡単

な点が長所であり、専用アプリケーションを使用する方式は業務に特化した便利な機能や操作

性が提供されるという長所があります。

ここでは、システム全体の機能として、スキャナから出力されたデータをシステムに入力す

ることで、所定の画像フォーマット(本例では JPEG 2000)に変換し、クラウドに画像の登録

を行う機能を持たせることを要件とします。その実現形態は問わないこととし、業者の提案に

ゆだねることにします。

スキャナから出力された画像ファイルのフォーマットを、JPEG 2000 等の別の形式に

変換する作業を自分たちで行う場合に必要なソフトウェアの例を、参考までに示します。

提供元 種別 製品名

Adobe Systems 商用 Photoshop CS5

Pierre-e Gougelet フリーウェア XnConvert

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画像データ登録機能

提案システムには館員が作成した画像データをクラウドに登録する機能が含まれてい

るものとする。

本機能により生成される画像データは下記の仕様を満たすものとする。

・解像度:400 dpi

・画像フォーマット:JPEG 2000 (ISO/IEC 15444-1)

・色表現:YCbCr

・解像度の重層数:3

・画質の重層数:3 (可逆・1/20・1/40)

(8) 書誌データの内容を検討する

閲覧利用者が 500 冊の書籍の中から 1 冊を選ぶのは骨の折れる仕事です。まして、今回はタ

ブレット型情報端末を使って本を選んでもらうので、端末の画面に選択肢を表示して並べる領

域にも限りがあります。そこで、検索の機能を提供して効率よく候補を絞ってもらう必要があ

ります。そのような検索のサービスを提供するにあたっては、何を使って検索をするのが効率

的で使い勝手が良いのか充分に検討しておく必要があります。

同様のサービスを見ると、概ね以下に示すような項目が検索対象に設定されているようです。

タイトル

著者名

著者名の読み仮名

出版社

出版年

分類(NDC70など)

本例では、とりあえず上記項目を検索項目としておきます。

また、候補の表示にあたっては書籍の内容を分かりやすく伝える必要があります。そのため

には検索項目に挙げられなかった情報を表示させる必要があるかもしれません。逆に、検索に

は使っても表示には必要ない項目があるかもしれません。更に、候補の一覧表示とは別にコン

テンツ個別の詳細説明を表示させた方が良い場合もあります。

今回は一覧表示と詳細表示との2画面を設けて、それぞれ下記の項目を表示させることとし

ます。

70 日本十進分類法 の略。図書分類法の一。米国のデューイ十進分類法を参考にして、日本で考案された十進分類

法。(小学館『デジタル大辞泉』)

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タイトル

著者名

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タイトル

著者名

出版年

出版社

内容紹介

司書から一言

ここまでの情報をまとめて書誌情報にすることとします。これらの情報はデータベースに格

納します。データベースの構成などは要求仕様に含める必要がないためここでは考えません。

検索機能

提案システムには、閲覧利用者が検索を行って閲覧コンテンツの候補を絞り込む機能、お

よびその結果を一覧表示する機能が含まれるものとする。

本機能において検索対象とする書誌情報を以下に掲げる。

・タイトル

・著者名

・著者名の読み仮名

・出版社

・出版年

・分類

検索結果を一覧表示する機能において表示対象とする書誌情報を以下に掲げる。

・タイトル

・著者名

また、提案システムは書誌情報を詳細に提示する機能を含むものとする。

本機能において表示対象とする書誌情報を以下に掲げる。

・タイトル

・著者名

・出版年

・出版社

・内容紹介

・司書から一言

なお、提案システムにはこれら書誌情報を管理するデータベースが含まれるものとする。

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(9) データベースにデータを投入する方法を決める

データベースに何を登録するかを決めたら、そこに対応するデータを投入しなければなりま

せん。その方法もここで決めておきます。

まず書誌情報の入力について考えます。データの入力を外注する方法もありますが、今回は

分量も少なく書誌の量も 500 冊と少ないので自分で入力することとします。そのためには書誌

データを追加する仕組みが必要であり、データ投入用の機材とソフトウェアが必要になります。

これは発注要件に含めなければなりません。ただし、多くの場合は既に館内にパソコンが設置

されているはずですから、それを流用できるのであれば機材の購入をやめて、ソフトウェアの

動作環境を発注要件に含めます。

次に書誌情報とコンテンツとの紐づけについて考えましょう。こちらはシステムの中身まで

把握しないと入力のしようがありませんし、無理をしてそうした作業を行ったとしても誤りが

発生しやすく効率が良くありません。画像データを投入後にこの処理を行うのであれば、書誌

情報も画像データも揃っている状態なので処理を自動化できるはずです。この処理も忘れずに

発注要件に含めます。

書誌情報登録・更新・削除機能

提案システムにはデータベース上の書誌情報を登録・更新・削除する機能が含まれるもの

とする。

(10) 目録とコンテンツとの紐づけを検討する

閲覧利用者が表示中の書誌情報から画像情報に移動できるようにするため、書誌情報とコン

テンツとを結びつける必要があります。また、本例は動的に画像を配信するため、コンテンツ

の各ページにあたる画像を指し示すためのデータベースが必要になります。前項と同様、デー

タベースの構成などは要求仕様に含める必要がないためここでは考えません。

書誌情報とコンテンツとを紐づける機能

提案システムには閲覧利用者が書誌情報と紐づけられたコンテンツを閲覧する機能が含ま

れるものとする。また、コンテンツ内の画像情報はページ順に閲覧利用者に提示されるも

のとする。

提案システムにはこれらの管理情報を格納するデータベースが含まれるものとし、併せて

クラウドに登録された画像データを書誌情報に紐づける機能も提供されるものとする。

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(11) 目視検査の方法を検討する

「(6) フォーマットを選択する」では目視検査を行うことと、その結果画質が不十分であっ

たと判断された場合に配信用画像データを差し替えることを決めました。ただし、まだその方

法を決めていません。方法を考えて要求仕様に反映させる作業が残っています。

「(7) 画像データの投入方法を検討する」で既に検討した通り画像データの投入はクラウド

に対して行われます。目視検査は、その過程で行うことも、投入が終わってから行うことも可

能です。それぞれについてメリットとデメリットを考えてみます。

画像データを作成してクラウドに投入する過程で目視検査を行う場合のメリットとデメリッ

トを考えてみるとざっと下記のようになります。

メリット

工程数が少ないため確認作業の漏れが起こりにくい

配信用データ差し替えの機能が不要となるのでシステムがシンプルになる

デメリット

データ作成の工程が複雑になるため作業の精度が低下する

データ作成と目視確認の工程を分離できないため分担作業が困難になる

目視確認の機会がデータ作成時に限られるため複数人による検査ができない

データ投入が終わってから目視検査を行う場合のメリット・デメリットはちょうど逆になり

ます。置かれている状況や判断する人の価値観にもよりますが、どうもデータ投入後に目視検

査を行うほうが、利便性が高いようです。したがって本例ではデータ投入後に目視検査を行う

方式を採用することにします。

そうするとクラウド側に目視検査とデータ差し替えのサービスが必要になりますので、これ

を要求仕様に盛り込みます。

目視検査および画像データ差し替えの機能

提案システムにはクラウド上に配置された画像データを、端末からの指示に応じて目視で

確認し、必要に応じて差し替えを行う機能が含まれるものとする。

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(12) 閲覧の方式を検討する

さて、これでサービス開始にあたって用意する機能や必要な手順の定義が整いました。いよ

いよ目的とする閲覧サービスの定義です。

初に述べたように、本例は館内にタブレット型端末を設置して、来館者に郷土資料の書籍

の閲覧をサービスすることを目的にしています。また、「(3) チェックシートを使ってシステム

要件のスタート地点を確認する」において、クラウドを使ってサービスする方針を決めていま

す。あとは閲覧用に準備するタブレット型携帯端末の選定です。

タブレット型端末の選定にあたっては、調達価格のほかセキュリティや操作性の考慮が必要

になります。本例では普及が進み操作に慣れた利用者が比較的多い iPad2 を 4 台用意し、3 台

を館内閲覧用に、1 台を予備とすることにします。

なお、このサービスは来館者にのみ行うことを目的としています。それ以外の iPad2 利用者

に勝手に閲覧されることを防ぐ目的から、要求仕様では認証についても言及します。

閲覧機能

提案システムにはクラウド上に配置された書誌情報およびそれに紐付けられた画像データ

を、館内に設置したタブレット型携帯端末に配信し閲覧させる機能を含むものとする。

本機能はクラウドサービス上に実装され、タブレット型携帯端末からの閲覧指示に応じて、

適切な形式・解像度の画像を動的に生成し送出することができるものとする。

また、館外の端末からのアクセスに対してはこれを制限する機能を合わせて提供するものと

する。

本提案システムには閲覧用のタブレット型端末として Apple 社製 iPad2 が 4 台含まれるも

のとし、併せて館内に既設の無線 LAN 環境への接続設定作業および閲覧ソフトウェアが含

まれるものとする。

(13) データ管理の方法を検討する

さて、ここまでに登場したデータを整理してみましょう。大きく分けるとデータベース上に

格納するものと画像情報を取り出すデータとが登場しました。

クラウド上に配置されたデータベース上には書誌データおよびそれと画像データとを紐付け

るデータとがありました。それらはクラウド上のサービスで使われるのみであるため、他に配

置する積極的な理由は見当たりませんが、少なくとも災害や事故に備えたバックアップを持っ

ておく必要はあります。バックアップ用のデータは稼働場所と異なる場所(できるだけ遠く離

れた場所)に配置する必要があります。今回は定期的に容量の大きな光ディスクにコピーを作

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成して館内に保管することにします。

一方の画像データについてはさらに複雑です。オフラインで管理すべき長期保存用のデータ、

目視検査を反映した差し替えのためにクラウド上に配置するデータ、そして同じくクラウド上

に配置される配信用のデータ、の3種類について考えなくてはなりません。

幸い今回は長期保存用の画像データから簡単に配信用のデータを取り出せる仕様のフォーマ

ットを選択していますので画像データについてはバックアップを考慮する必要がありません。

しかし、一方で差し替えのためにクラウド上に配置するデータについては経費節減のため、不

要になり次第削除する必要が生じ、そのためにはこの画像を消去する機能が必要となります。

長期保存用の画像データはデータベースと同様に大容量の光ディスクに格納して館内に保存す

るものとします。

なお、光ディスクとしては現時点で 大容量である 128GB の BDXL を使用するものとし、

必要な機材も同時に調達するものとし、これを既出のパソコンに接続して使用することにしま

す。光ディスクの種類と特徴について、「国立国会図書館 資料デジタル化の手引 2011 年版」

P. 22 「表 2.4 主要な光ディスク」に説明がありますので、参照してください。

ただし、BDXL に限らず、採用した技術規格が早期に陳腐化してしまうことも考えられます。

そのような場合に代替手段が取れるように、要求仕様は「任意の容量で分割してバックアップ

用のファイルを生成する」といった機能にしておきます。

データ管理機能

提案システムにはクラウド上に配置されたデータベースを読み込み、任意の容量に分割し

て別媒体上にバックアップする機能が含まれるものとする。

また、提案システムには生成した画像データを長期保存用として 128GB 以上の容量をも

つ光ディスク等に格納するための機能が含まれるものとする。

さらに、提案システムは、クラウド上に配置した差し替え用画像データを任意の時点で削

除する機能を提供するものとする。

これらの機能を実現するため、本提案には 128GB の BDXL ディスクの読み書きが可能で

「動作環境」で記述した環境に接続が可能なディスクドライブの調達が含まれるものとす

る。

なお、バックアップは「動作環境」で記述した端末上で当面実施するが、端末を変更する

こともあり得る。調達するディスクドライブは、端末を変更しても極力使用可能であるよ

うな、汎用的な接続方式とすること。

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(14) 利用状況の把握について検討する

以上で目的を遂行するための要求項目は揃いました。残るはこのサービスの評価を行うにあ

たって必要となる情報の取得についての考慮です。ここではその指標として全体のアクセス数

およびコンテンツごとのアクセス数を用いることとします。

アクセス機能

提案システムにはコンテンツごとおよび全体のアクセス数を月ごと、曜日ごと、時間帯ご

とに集計する機能が含まれるものとする。

集計結果は画面で閲覧できるほか、集計データをダウンロードできる機能を有すること。

(15) 全体を見直す

これで一通りの要件定義が終わりました。全体を見直して要求項目の過不足や不整合を検討

します。必要に応じてセキュリティ要件などを追加すると良いでしょう。

(16) 予算感を得る

要求仕様書がまとまった段階で、可能であれば入札に関わらない、複数の関係者に相談する

などして予算感を得ます。予算感のほか、複数業者による入札が可能な仕様になっているかど

うかを確認できるとよいでしょう。ここからそれぞれの組織に適った調達のプロセスが開始さ

れることになります。

以上

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参考資料 9 斯道文庫「デジタル化の基礎知識」

■ご注意

本参考資料は、慶應義塾大学附属研究所斯道文庫 西山洋介様及び NPO

法人デジタルヘリテージデザインよりご提供いただいた、デジタルアー

カイブ構築の手引書である「デジタル化の基礎知識」の一部を抜粋し再

構成したものです。

以下の点に注意してお読みください。

① 本参考資料をお読みになる前に、必ず本編に目を通してください。

特に、「第 5 章 デジタルアーカイブの構築・連携の手引き」を読んで

おいてください。

本参考資料は、あくまで事例を示すものですので、記述範囲や内容は

限定的になっています。

② 本資料は平成 24 年 2 月時点で執筆中であり、内容は予告なく変更さ

れる場合があります。

③ 本参考資料に例示する機材、ソフトウェア、サービス等については、

参考として掲げたものであり、総務省、慶應義塾大学附属研究所斯道

文庫及び NPO法人デジタルヘリテージデザインが推奨するものでは

ありません。

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デジタル化の基礎知識

慶應義塾大学附属研究所 斯道文庫 複写部 西山洋介

NPO 法人デジタルヘリテージデザイン

目次

1.スキャニングと撮影

2.スキャナを用いた資料の取り込みについて

2-1.スキャナの種類

2-1-1.センサへの光の導き方から見た分類

2-1-2.型から見た分類

2-2.スキャニング作業の実際

2-2-1.スキャニングの仕様(取り込みの精度)について

2-2-2.資料の取り扱い

2-2-3.作業場の温湿度

2-2-4.作業場の照明

2-2-5.ホコリ対策

2-2-6.その他注意事項

3.カメラを用いた資料の撮影について

3-1.カメラの種類

3-1-1.機能、形態からみた分類

3-1-2.センサのサイズによる分類

3-1-3.画素配列による分類

3-2.撮影機材

3-2-1.撮影レンズ

3-2-2.複写台および三脚

3-2-3.撮影台

3-2-4.レリーズおよび遠隔操作

3-2-5.露出計

3-2-6.カラーチェッカー

3-2-7.清掃用具

3-2-8.その他

3-3.照明光源とホワイトバランス

3-3-1.色温度

3-3-2.ホワイトバランスと色温度

3-3-3.撮影用の照明と特徴

3-3-4.LED(発光ダイオード)

3-3-5.その他

3-4.撮影準備

3-4-1.室内環境

3-4-2.カメラのセッティング

3-4-3.ライティング

3-4-4.資料保護の為の工夫

3-4-5.追記

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1 スキャニングと撮影

資料を取り込み、デジタル化を行う際の機材としては、スキャナを用いる方法と、カメラを

用いて撮影を行う方法の 2 通りの手段が存在する。

ラインセンサが機械的に稼働するスキャナより、エリアセンサを持つカメラを用いて撮影を

行う方が、資料一点あたりのデジタル化に伴う作業時間は短縮できる。また、資料を設置する

撮影台にさまざまな工夫を施すことができるため、より資料に対する負担を減らすことができ

る。

しかし、カメラを用いて撮影を行う場合、カメラの操作や、光源の設置にはある程度の熟練

を要する。また、資料の再現性という面から見ると、光学的な制約から、ある程度の制限を受

ける。

このように、どちらの方式にもメリット、デメリットが存在する。そのために予算規模や納

期、あるいは資料種に応じて、柔軟に決定する事が望ましい。以下の項目では、スキャナを用

いた場合と、撮影を行う場合について項目を分け、細かく述べてゆく。

2 スキャナを用いた資料の取り込みについて

2-1 スキャナの種類

2-1-1 センサへの光の導き方から見た分類

(1) 密着光学系

読み取り装置の構造が簡潔であり、薄型で比較的安価な製品に多く見られる方式である。

(図 1)

図 1 密着光学系をもつスキャナの断面構造概念図

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(2) 縮小光学系

より複雑な読み取り装置の仕組みを持っており、比較的大型で、高機能をうたう製品に

多く見られる方式である。(図 2)

図 2 縮小光学系をもつスキャナの断面構造概念図

両方式をくらべると、縮小光学系は、写真撮影に用いられるレンズと同様の特性を持つレ

ンズを使用しているため、焦点が合っているように見える範囲が広くなるという特徴を持っ

ている。そのため、厚みのある資料や、本のノドの部分にまで焦点を合わせる必要がある場

合は、縮小光学系を持つスキャナを使用した方が好ましい結果が得られる。しかし、その構

造上小型化する事が難しいため、本体が大きくなってしまう。

2-1-2 型から見た分類

(1) フラットベッド型

フラットベッド型スキャナは、資料を設置する原稿台が、ガラスなどの光を透過する素

材で出来ている。資料を設置する向きは、原稿台に対して下向きとなり、原稿台の下部か

ら、光を照射し、その光源と同様に原稿台の下部に設置されたセンサを稼働させる事によ

り、読み込みを行う方式のスキャナである。(図 3)

読み込み可能な資料のサイズとしては、A4 サイズまでのものが主流であり、A3 サイズ

以上が読み込み可能な機種は限られてくる。また、自動給紙装置や、フィルムスキャンを

行う為の透過原稿ユニットなどが設定されている機種も存在する。

フィルムスキャンの機能に関して述べると、後述するフィルムスキャナと比較した場合、

読み込みに時間がかかる。また、フィルムを固定するホルダの精度が低いものも多く、フ

ィルムの平面性が保たれず、不鮮明な画像となる場合が多い。また、無孔マイクロフィル

ムのホルダは存在しないことから、スキャンする際にはホルダを自作する等の工夫が必要

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である。

資料を、力を加えて圧着する必要があり、資料に与えるストレスは比較的大きくなるこ

とから、使用の際には資料種を吟味する必要がある。また、その構造上、スキャニング時

に、資料を取り込む面を視認することができないため、ゴミやホコリの混入に気がつきに

くいため、この点にも気を配る必要がある。

比較的安価で、また、家電量販店等で購入できる機種も多い。いわば汎用性に優れてお

り、使い方を工夫する事で、低予算、小規模のデジタル化を効率よく進めることができよ

う。

先述した通り、密着光学系を採用した機種は、焦点が合っているように見える範囲が狭

いため、薄型の機種を選ぶ際には、注意が必要である。

図 3 フラットベッド型スキャナ

機種の例

メーカー名 製品名・型番等

セイコーエプソン カラリオ GT-X970, オフィリオ ES-10000G

キヤノン CanoScan9000F

コダック iQsmart

など

(2) オーバーヘッド型

オーバーヘッド型スキャナは、ブックスキャナーやブックコピーなどとも呼称される。

資料をスキャナの原稿台に対して、上向きに設置し、原稿台の上部に設置されたユニット

からの取り込みを行う型の総称である。ラインセンサを持つものと、エリアセンサを持つ

ものがある。

ラインセンサの稼働方式には、資料の上部を走行し取り込みを行う機種や、原稿台の上

部に置かれたセンサーユニット部に設置された、光源を回転させ、鏡によって反射された

像を取り込む機種など、さまざまな方式が存在する。

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A2 サイズや A1 サイズといった大判の資料を取り込む事ができる機種が多い。厚みの

ある本をスキャンする際、左右のページの高さを調節する機能を備えていたり、また、資

料の平面を保つための押さえガラスが自動で開閉あるいは昇降するなど、原稿台に工夫が

凝らされている機種も多く、比較的資料に与えるダメージが少ないと言える。

吸引方式やアーム式による自動ページめくり機構を備えたものも存在する。しかし、機

械の動作精度には、やや難があるものも多く、また、機械の誤作動による事故を防ぐため

に、監視員が必要であり、完全自動スキャンが実現できるものではないため、注意が必要

である。

エリアセンサを持つものであったり、また、鏡によって反射された画像を取り込む方式

であったりと、複雑な光路を持つ機種も多い。そのため、取り込まれた画像の画質は千差

万別である。機種を選定する際には、使い勝手といった感覚的なものだけではなく、客観

的な手法を用いた画質評価を行う必要があるといえる。

大型の原稿種を取り込むことができるということから、スキャナ本体はかなり大きいも

のが多い。よって一般向けの機種は存在せず、高価な機種が多い。

先述した通り、資料に与えるダメージが比較的少ない事に加え、比較的操作が容易であ

るため、海外ではセルフコピー機としての導入事例が増えている。

国内では中程度の精度を持たせた、いわゆるマス•デジタイゼーション(資料の大量デジ

タル化)の為の機材としての導入事例が増えており、これまでに行われてきた、マイクロフ

ィルムによる資料の複製の作成手法に替わるものとしての用途が期待されている印象を受

ける。

機種の例

メーカー名 製品名・型番等

Zeutschel OS12000 BookCopy

i2s DigiBook 10000RGB

コニカミノルタ PS5000C MkⅡ

など

(3) シートフィード型

シートフィード型は、ドキュメントスキャナとも呼称される。一枚ものの資料を、給紙

口にセットするとスキャナが資料を送り、スキャナ内部に固定されたセンサによって取り

込みを行う形のスキャナである。

一枚ものの資料のスキャニング用途に限定しており、多くの機種で、一枚目の資料の取

り込みが終了すると、自動的に次の資料を取り込むという機能を備えており、連続した書

類のスキャンに適している。

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Kindle や iPad といった電子書籍端末が発売されたことにより、セルフスキャン用途

として、一般向け市場では注目されている。本や雑誌等のセルフスキャンを行う際には、

裁断機と組み合わせて、資料をカットした上で取り込みを行うケースが多い。給紙の際に、

ゴムローラーで、かなりの圧力が加わることや、先述した通り、カットすることが前提と

なる為、資料に与える負担は も大きい方式となる。

機種の例

メーカー名 製品名・型番等

富士通 ScanSnap S1500

キヤノン imageFORMULA DR-M160

など

(4) ハンディスキャナ型

ハンディスキャナ型は、センサが備わった棒状の形態をしたものの総称である。一次資

料の上部を、人間の手によって通過させる事により取り込みを行うものと、自動給紙機能

を備えた、上記シートフィード型を極限まで小型化したものもハンディスキャナに含まれ

ることが多く、定義としては曖昧である。

携帯して持ち運びの利便さを追求しており、単三電池などで駆動できるものも多い。ま

た、給紙機能を持たないものは、スキャナとしてもっとも簡便な構造をしている。

機種の例

メーカー名 製品名・型番等

テック ポータブルハンディスキャナー hidescan3

サンコー スーパースリムハンディスキャナシリーズ

など

(5) フィルムスキャナ、ドラムスキャナ等

これまで述べた形状は、主に本や書類、写真プリント等、そのままで見ることができる

資料(反射原稿)をスキャンする為の用途が主であった。しかしながら、写真フィルム(透過

原稿)をスキャンする用途に特化したスキャナも存在する。

フィルムスキャナは、種々の大きさのフィルムを固定するホルダを持ち、照明により、

光を透過させたうえで、取り込みを行う型のスキャナである。(図 4)

数年前までは、一般向け用途として、ある程度の光学解像度性能を持つ機種が販売され

ていた。しかし、今日では、光学解像度を抑え、その分低価格化を行った機種か、業務用

途向けの機種のどちらかしか選択することが出来なくなった。

安価な機種はエリアセンサを備えておりスキャン時間の短いものが多い一方、35mm サ

イズの写真フィルムしかスキャンできないため、注意が必要である。

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図 4 フィルムスキャナ(35mm フィルム専用機)

また、業務用の機種の中には、マイクロ資料をスキャンする為の用途のマイクロフィル

ムスキャナがある。取り込み方式にも違いが存在し、35mm マイクロフィルムをスキャニ

ングする際、一コマづつスキャンする方式と、コマの識別を行わず、ロールを一括でスキ

ャンし、後から用途に応じたコマ数づつ分割する方式(リボンスキャニング)の 2 種類が存

在する。各種サイズのロールフィルムの他、シートフィルムがスキャンできるものなど、

さまざまな機種がある。

ドラムスキャナは、スポットセンサを持つ。原稿台は円筒形をしており、資料をここに

貼付け、回転させる事でスキャンを行う。現行の方式の中では、解像度の面で優れている。

しかし、資料の装填や機械の操作に高度な技術が必要であることや、本体自体が巨大であ

ることから、印刷原稿の入力業務用途などに限定されている。

一定以上の品質を要求するデジタルアーカイブとして、フィルムスキャンを行う際は、

自前で機材を揃えるというよりは、業務用途のスキャナを運用する業者に依頼する事が多

いだろう。しかしながら、オペレーターの技術力が問われる分野でもあるため、業者選定

の際にはサンプル画像を吟味する必要があるだろう。

機種の例

分類 メーカー名 製品名・型番等

フィルムスキャナ CABIN コンパクトフィルムスキャンⅡ

Hasselblad Flextight X5

マイクロフィルム

スキャナ

e-Image Data ScanPro2000

Wicks and Wilson 8850 Scanstation

など

2-2 スキャニング作業の実際

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2-2-1 スキャニングの仕様(取り込みの精度)について

デジタル画像を構成するための情報は解像度(dpi)と階調(ビット数)である。構築するデジ

タルアーカイブの目的によって、どのくらいの解像度で取り込むのか、ビット数はいかに設

定するか、といったスキャニングの仕様をあらかじめ決定しておく必要がある。

デジタルアーカイブを構築するうえで、全体の計画、目的を定めておかないと、スキャニ

ングの仕様を定めることは困難である。また、将来にどのようなかたちでも利用できるよう、

できる限り精度の高い画像を、という気持ちも理解はできる。

しかしながら、精度が高いデータの保存はそれだけ予算がかかるし、画像データ 1 枚あた

りのファイル容量が大きくなるため、それらを扱える PC の環境を整える必要もある。その

ため、スキャニングの仕様については、デジタルアーカイブの目的と、計画が非常に重要で

ある。

画像データを、どのような使い方をするかが定まれば、大まかなスキャニング仕様は決定

できる。例えば、画像データから OCR をかけ、テキストデータを抽出する場合には、OCR

ソフトによる差はあるものの、400dpi で取り込みを行えば、一定の精度を得ることができる。

また、精度の高い印刷物であれば、175 線という線数で印刷する事が一般的である。これ

は、1 インチあたり 175 本の線が印刷できる精度を表しており、スキャナの解像度として

は、350dpi あれば、理論上は、資料をあますことなく再現できるということになる。このま

ま、現物と同じサイズで再版することが目的であれば、350dpi で取り込む必要がある。再版

する計画が無く、PC の画面上で表示する事が目的であれば、もっと低い数値での取り込み

で良い。

ビット数に関しては、現在の入力機器には 16 ビットで入力できる機器が存在しないため、

8 ビットでの納品が一般的である。また、設計図や書類等の、コントラストが非常に高いマ

イクロフィルムのスキャニングは、2 値で十分な場合もある。

もっとも、使用するスキャナによっては、色々とくせがあるものも多い。ある程度の仕様

が決定してから、テストスキャニングを行い、満足のゆく結果が得られる解像度を決定した

方が良いであろう。

2-2-2 資料の取り扱い

デジタルアーカイブを構築するにあたっての大きなメリットとして、資料の外部への露出

機会の低下による、保存寿命の延命があげられる。デジタル化を優先するあまり、資料を痛

めるようなことがあってはならない。全ては作業担当者の意識にゆだねられるため、教育を

十分に行うとともに、作業に対する適性の見極めも重要である。

2-2-3 作業場の温湿度

まず、作業を行う部屋であるが、資料の理想的な保存環境に近い環境を準備する事が望ま

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しい。また、環境を近づける事が困難である場合は、急激な温湿度の変化はさけ、徐々に作

業環境に近い状況に、ならしてゆく必要がある。

2-2-4 作業場の照明

スキャニングを行う際、作業を行う環境光と、スキャナからの照明光との積算の明るさで

画像が取り込まれるため、作業場は必要以上に明るくしない事が望まれる。構造上、原稿台

が環境光の影響を受けやすいオーバーヘッド型スキャナでは、特に注意が必要である。

スキャナの周りを黒布で覆い、作業ブースをつくるなどの工夫が必要である。「簡易暗室」

「組み立て暗室」などの名前で市販されているブースや、遮光性の高いカーテン等を使用す

ることもできよう。

もっとも、手元が見えないほど暗くすると、作業性を大きく損なう恐れがある。不安があ

る場合は、環境光の影響をテストしてみると良い。テストには、無地の白い紙(新品のインク

ジェット用紙など)を用意し、(1)部屋の照明を消灯してスキャニングを行ったとき、(2)部屋

の照明を点灯してスキャニングを行ったとき、の 2 種類のファイルを比較することで、影響

を確認することができる。

具体的な確認方法としては、画像処理ソフトを用いて、画面の様々な場所の L*の値(明る

さの値)を確認すると良い。(1)の画像と比較した際、(2)の画像にムラが多く確認できる場合、

環境光の影響を受けているといえる。この際、2 種類の画像ファイルを、眼で見て判断して

はならない。確認用のディスプレイのムラである可能性もあるからである。

なお、この値を画面中全ての場所で同一値になるまで調整する必要は無く、ある程度の誤

差は許容すべきである。精度を追求するあまりに作業性を犠牲にしてしまい、例えば、暗闇

の中で作業を行っていて、資料を破損するような事故が起こってしまうと本末転倒である。

また、長時間作業を行う、作業担当者の精神衛生ということも考慮すべきであろう。

カラーマネジメントが機能しているか否かの確認作業を、スキャニング作業場で行う場合

は、その作業場の壁面は無彩色であることが望ましい。また、直射日光の差し込む窓がある

と、時間帯によって色温度が変化してゆくため、遮る為の工夫が必要となる。

直射日光を遮光する事は、資料保存の観点からも望ましい。また、作業場の照明の光源は、

演色性の高いものと交換する方が好ましい。色評価用などと銘打った製品が各社から販売さ

れている。

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製品例

メーカー名 製品名・型番等

森本化成 組立式暗室 MEDR-1013

キング ダークカーテン

東芝ライテック 色評価用蛍光ランプ FL20-SN-EDL

など

2-2-5 ホコリ対策

スキャニングを行う際に、 も悩ましいのがゴミ、ホコリの混入である。スキャナに備わ

っている原稿台は、非常に平滑なガラスで出来ている事が多く、また資料と接触するため、

潜在的に静電気を誘発し易い環境である。言い換えると、ガラス面にホコリが付着しやすい

環境である。

ホコリの発生を根本的に抑えるためにも、スキャニングを行う室内は、清浄に保つ事を心

がけたい。空調や扇風機を利用する際は、スキャナに直接風が当たらないように工夫するこ

とが望ましい。

しかし、いくら注意を払っていても、作業担当者がいる以上、ホコリの発生を完璧に防ぐ

ことは不可能である。その為、原稿台からホコリを吹き飛ばすエアダスターは必須である。

カメラやレンズの清掃用品として販売されている、ゴムで出来たブロワーは、大きいもの

を選ばないと、十分な空気の流速を確保できない。また、大きいということは、それだけ握

力に負担がかかる。たかがゴムの握り作業と侮るなかれ、スキャニングの分量が多い際は、

大きな負担となってくるため、あまりお勧めできない。

予算に余裕があれば、エアコンプレッサーを利用したエアダスターを準備すると理想的で

ある。なお、スプレーガンとコンプレッサーを直結して使用していると、スプレーガンから

結露した水分が飛び出てくる恐れがある為、水抜きのできるレギュレーターを備えたものが

好ましい。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

ハクバ エアダスター EC600N

堀内カラー レンズブラシ

toomarker エアーダスターセット

など

2-2-6 その他注意事項

先述のホコリ対策に通ずるものがあるが、原稿台ガラスに付いた指紋はその都度拭い取る

事。市販のクリーナーを使用する際は、原稿台のガラスに施されたコーティングの種類を見

極め、コーティングを痛めないよう吟味する必要がある。

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フィルムをスキャニングする際には、手袋を着用することが好ましい。静電気を発生させ

にくい種類の手袋などを選ぶと良いだろう。

また、スキャナは、機種によっては、光源のウオームアップが必要なものもあるため、取

り扱い説明書等に記載されたアイドリング時間を守ると、安定した結果が得られるだろう。

フラットベッド型スキャナを利用してスキャニングを行う場合、上部の蓋が取り外せる機

種であれば、取り外してしまい、黒布で遮光を行うことで、作業効率は良くなる。資料を痛

めない限り、臨機応変に様々なやり方を試すと良いだろう。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

日本製紙 キムワイプ

New-Lite ガラスクリーナー

など

図 5 市販のクリーナー液各種

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3 カメラを用いた資料の撮影について

オーバーヘッド型スキャナの取り込み寸法を上回る場合や、他所の収蔵機関へ出向いて資料

の取り込みを行う際には、デジタルカメラを用いて撮影を行う。デジタルカメラは立体物の撮

影なども可能であるのだが、本項では、本や地図、書類といった、二次元平面資料に限って述

べてゆく。

3-1 カメラの種類

3-1-1 機能、形態からみた分類

2012 年現在、多くのカメラメーカーがフィルムカメラの新規開発を中止し、「カメラ」と

いうとデジタルカメラの事をさし示すまで、一般化している。カメラの種類も多様化してお

り、分類はいささか困難な状況であるが、まず、機能上の特徴として、レンズが交換できな

いものと交換できるものの 2 種類に分類することができる。

レンズ交換可能なものの中からも、光学式ファインダーの有無によって大まかに分類する

ことができる。また、センサ部が一体になっているか、センサ部を交換する事ができるか、

といった分類も出来る。(図 6)

図 6 センサ部交換式デジタルカメラ

なお、センサ交換式のものは、フィルムホルダーを取り付けることで、フィルム撮影を行

うことが可能なものも存在するが、ここでは便宜上、総称してデジタルカメラと呼称してい

る。

3-1-2 センサのサイズによる分類

デジタルカメラは、一定の面積の中にセンサが複数個敷き詰められている。画素数に関し

ては、カメラカタログ等にも大きく記載されているため、眼につく事が多いのだが、その面

積にも様々な種類がある。(図 7)

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図 7 カメラのセンササイズのさまざま

基本的には、一画素あたりの面積が大きい方が、感度の面で有利とされている。(図 8) レ

ンズやセンサが一体型の小型のカメラから、大型のカメラまで外見上、さまざまな種類が存

在するのは、このセンサのサイズが異なっているからともいえる。

図 8 同じ画素数で異なるセンササイズのときの 1 画素あたりの大きさ

近年の傾向として、センサの多画素化のみならず大型化も進んでおり、今後、より大型の

センサが登場する可能性もあることを記しておく。

3-1-3 画素配列による分類

すでに述べたが、センサは光の強弱しか検知できず、黒白画像しか形成する事が出来ない。

そこで、3 色のフィルタを介する事で、カラー画像を取り込んでいる。このフィルタの配列

の方式によって複数の種類が存在する。

また、1 つのセンサを用いて、フィルタを変更しながら、複数回シャッターを切るいわゆ

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るマルチショット型や、色情報を記録しない黒白画像の専用カメラなども存在する。

ベイヤー配列と呼ばれるフィルタの配列が一般的であるが、ハニカム配列をもつ SR 方式

や、(図 9)カラーフィルム同様の多層構造をもつ FoveonX3 センサなど、(図 10)独自に開発

されたセンサも存在している。

図 9 スーパーハニカム SR 方式の概念図i 図 10 FoveonX3 センサの概念図ii

SR 方式は、感度の異なるセンサを組み合わせることで、ダイナミックレンジ(一度に写

すことのできる明るさの差)を広げるため考慮されたもので、富士フイルムが開発している。

また、FoveonX3 センサは、カラー画像を得るために補間を行う必要が無く、先鋭度の高い(シ

ャープな)画像を得ることができる。

3-2 撮影機材

スキャニングでもカメラを用いた撮影でも、 も大切なのは、資料の持つ情報を、いかに正

確に画像データ化するか、ということに尽きるだろう。使用方法が限定されるスキャナと比べ

て、撮影を行う際はカメラを適切に扱う必要がある。

たとえば、コンパクトカメラ一台あれば、撮影自体は可能である。すこし予算が余ったとし

て、カメラのレンズ面を、下に向けてセットする事が出来る三脚を導入すれば、撮影精度や効

率は飛躍的に向上するだろう。露出値や光源に気を配れば、一次資料の色味に、より近づけて

撮影することもできる。

もしも、予算が無限に使えるのであれば、さらにその精度を高めてゆけるだろう。しかしな

がら、現実的には、予算規模も限られているだろうし、撮影に費やす時間も制限されているは

ずだ。デジタルアーカイブの運用の方法によって、必要な機材を柔軟に選択することもまた重

要である。

本項目では、より精度を高める為の機材について述べてゆく。もっとも、全てを取り揃える

必要も無く、優先事項によって、機材を取捨選択する際の参考になれば幸いである。

3-2-1 撮影レンズ

レンズ交換式のカメラを用いて撮影を行う際、その準備されたレンズの数の多さに圧倒さ

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れ、何を選択すべきか迷うところであろう。エントリー向けのカメラでは、ズームレンズと

セット販売されている事が多い。確かに、焦点距離を無段階に可変出来るズームレンズは、

一見すると撮影の際には便利なように思われる。

しかしながら、固定焦点のレンズと比した際、一定以上の性能の確保が困難であり、あま

り資料の撮影にはすすめられない。どうしてもズームレンズしか用意できない場合は、焦点

距離が刻まれた数値であれば、 低限の描写性能を備えている事が多いため、目印の刻んで

あるところを用いればよい。

描写性能の面からすると、単焦点レンズの中から選択することになる。特に資料を撮影す

る際は、歪み(歪曲収差、ディストーション)の少ないものを選択すると良い。いわゆるマクロ

レンズと呼ばれるレンズが広く用いられるのは、資料に接近して撮影することができるだけ

ではなく、歪曲収差が徹底的に補正されており、また解像力も高いことに起因している。

ズームレンズにも「マクロ」の名がつく製品も多いが、これはレンズの繰り出し量を多く

する事で、被写体に接近して撮影ができるようにしているだけで、歪みが補正されているわ

けではないため、注意が必要である。

近年では画像補正技術が進んでおり、画像処理ソフトである photoshop では、撮影時に

使用されたレンズのデータから、レンズプロファイルを読み込み、ゆがみの補正を行う機能

も含まれている。また、コンパクトカメラでは、レンズの歪み補正が標準化された機種もあ

る。

このような画像処理が施されたデータを、良しとするか悪しとするかは、カメラを使用す

る立場によって意見が分かれるところである。しかしながら、資料を撮影する際には、画像

処理を施さない事が大前提となっているため、このような補正は原則としては行わない方が

無難であろう。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

ニコン AF-S マイクロニッコール 60mm f/2.8G ED

キヤノン EF50mm F2.5 コンパクトマクロ

※カメラボディによって装着できるレンズは限定されるため、要注意

など

3-2-2 複写台および三脚

正方形の原稿を撮影したとき、得られた結果も正方形になっていることが、もっとも大切

であり、もっとも基本的なことである。レンズの描写性能にも原因があるが、カメラをセッ

トする方法が悪ければ、正方形の原稿が台形に歪んだりする。

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(1) 複写台

カメラの固定器具と、原稿を設置する台が一体をなしている装置は複写台、あるいはコ

ピースタンドと呼ばれている。持ち運びに適した小型軽量のものから、大型カメラを装着

することができるものまで、様々な種類が販売されている。この複写台を用いれば、カメ

ラを設置するだけで、原稿とカメラをある程度は平行平面に保つことができる。

より精度を高める場合は、三脚のカメラ固定部分である雲台(図 11)を組み合わせて使用

すると、好ましい結果が得られるだろう。

図 11 雲台

(2) 三脚

三脚を使用する際は、カメラを下向きに設置する為に、すこし工夫が必要である。三脚

のセンターポールを逆向きに設置する、もしくは、三脚の雲台部分から、横方向へと腕を

伸ばすサイドアームと呼ばれる製品を利用する、などの方法が考えられる。いずれの場合

も、カメラの転倒を防ぐ為に、三脚はかなり大型のしっかりしたものを選ぶ必要がある。

もっとも、足の部分が妨げとなり、照明装置を設置しにくく、また資料が扱いにくいと

いった欠点があるため、三脚を用いた撮影方法は、あまり一般的ではないように思われる。

機種の例

分類 メーカー名 製品名・型番等

複写台 LPL コピースタンド CS-6 CS-30

SFC カメラスタンド 1100

Kenko ラッキー コピースタンド D 型

三脚 Velbon VS-443Q

Manfrotto 055XPROB

サイドアーム

(三脚と組み合わせて使用)

Gitzo G530

G535

など

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3-2-3 撮影台

マイクロフィルムを用いて資料撮影を行う場合は、マクラと呼ばれる、資料の高さを調整

するスペーサーを用い、資料の平面を確保するため、板ガラスを組み合わせて行うことが一

般的であった。この方法では、マクラもガラスも固定されていないため、ページをめくる際

に動き易いといった欠点がある。そのため、撮影対象となる資料を保持する器具があり、撮

影台と呼ばれている。

(1) 箱型撮影台

上部にガラスで出来た蓋を有する。蓋の内部は、ウレタンやスポンジといった柔らかい

素材で出来ており、その中に資料を上向きに入れて用いる。構造としては比較的単純であ

る。撮影台の上方にカメラを設置し、見開きを 1 画像として撮影することも、1ページず

つ撮影することもできる。大きく角度を開く事が許されている、いわゆる和装本や、一枚

ものの書類や色紙などの資料の撮影に用いる。

(2) V 字型撮影台

原稿台が V 字型をしている。資料を押さえるガラスも V 字型をしており、こちらは昇

降することで平面を確保している。V 字の撮影台上方に片面ずつ、都合 2 台カメラを斜

めに設置し、1 ページずつ、撮影する。開く角度が制限されている、いわゆる洋装本の撮

影に用いる。

どちらの型も、資料の平面を確保するため、押さえのガラスである程度の力が加わる。

そのため、資料種によっては、平面を保つ為のガラスは、使用を控えるべきである。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

杉浦研究所 (オーダーにて撮影台の作成可)

Atiz BookDrive DIY

など

3-2-4 レリーズおよび遠隔操作

カメラが複写台なり三脚なりに保持されていたとしても、シャッターボタンを手で操作し

ていると、カメラブレを起こす恐れがある。そのため、カメラから離れていてもシャッター

操作ができる環境を作る事が望ましい。レリーズと呼ばれる遠隔操作用のアクセサリを用い

るか、あるいは PC を用いてカメラを操作するか、のいずれかの方法が存在する。

(1) レリーズ

レリーズにはケーブル式のもののほか、赤外線や電波を用いたものがある。これは、作

業を行う環境によって、効率の良いものを適宜選べば良い。無線式のものは、動作範囲お

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よびバッテリーの持ちを基準にして選ぶと良い。

(2) 遠隔操作

カメラを USB ケーブルや FireWire ケーブル等で繋ぎ、PC からカメラを操作できる。

遠隔操作を行う為のソフトウエアは、別売の場合と、カメラに付属する場合がある。ライ

ブビューなどを併用すると、傾きや焦点の善し悪しを判断することができるため、効率的

な作業ができるだろう。

(3) セルフタイマーを使用する方法

また、カメラぶれを抑える方法として、カメラのセルフタイマー機能を用いる方法があ

る。 近ではシャッターボタンを押してから、実際にシャッターが切れるまでの時間を選

択することができるカメラも登場している。しかし、作業効率の面からはあまり好ましく

なく、非常手段として用いると良い。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

ニコン リモートコード MC36

キヤノン リモートスイッチ RS80-N3

※カメラによって品番が異なるため、要注意

など

3-2-5 露出計

露出計は、撮影を行う際に、被写体の明るさを計測し、適正となる露出の値を指示する為

の機械である。明るさの測定を行う方式の違いとして、二種類が存在する。(図 12)

図 12 さまざまな露出計

(1) 入射光式露出計

被写体に当たる光の明るさを測定する方式のものをさす。(図 13) 被写体そのものの反

射率に影響されない事が特徴である。また、近年ではフラッシュと連動して作動するもの

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が主流で、こちらはフラッシュメーターとも呼ばれる。

(2) 反射光式露出計

被写体からの反射光の明るさを測定する方式のものをさす。(図 14) カメラに内蔵され

ている露出計は、この方式である。単体の露出計としては、測定範囲が極めて小さい、ス

ポットメーターと呼ばれる型のものも存在する。

図 13 入射光式露出計を用いた露出の測定 図 14 反射光式露出計を用いた露出の測定

資料を撮影する際には、被写体との距離がかなり近くなるため、露出計の指示通りの値

では適正露出を得ることは出来ない。原稿の照明のムラを確認する為に、反射光式露出計

を用いることが多いだろう。

なお、照明ムラの確認だけであれば、照度計でも代用ができるものの、ストロボを使用

した際の照明ムラの確認はできないため、導入する際には注意を要する。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

セコニック フラッシュマスター L-358

ケンコー オートデジメーター KFM-1100

GOSSEN Starlite

など

3-2-6 カラーチェッカー

カラーマネージマントを運用する際や、露出の決定を行う際には、カラーチェッカーが必

要となる。チェッカーに含まれる色の数や、大きさによって様々な種類がある。(図 15) チ

ェッカーの色は経時変化を起こすため、消耗品として、数年位に一度、新たにする必要があ

る。

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図 15 さまざまなカラーチェッカー

製品例

メーカー名 製品名・型番等

x-rite color checker digital SG

など

3-2-7 清掃用具

スキャニングの項目で述べたのと同様、撮影時にもホコリ対策および撮影台やガラスにつ

いた指紋の清掃を、随時行う事。撮影レンズや、センサ面にもホコリが混入し易いため、こ

ちらの清掃も必要である。撮影レンズやセンサ面には、それぞれ独自のコーティングが施さ

れているため、クリーナー液を使用する際には、その組成に注意する事。センサ面の清掃に

は、キズをつけるリスクを伴うため、メーカーに清掃を依頼する方が安全面からは推奨され

る。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

DELKIN センサークリーナーシステム

など

3-2-8 その他

(1) 角度計、水準器

カメラと資料がきちんと平行平面にセットされているかを確認する為には角度計を用い

て確かめることができる。精度の面では幾分劣るが、水準器を用いると直感的に確認がで

きる。

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製品例

分類 メーカー名 製品名・型番等

水準器 堀内カラー 水準器

べルボン デジタル水準器

角度計 新潟精機 レベルメーター

など

(2) 製本へら

撮影台やガラスを用いて撮影する場合や、ガラスを用いず撮影を行う場合の浮き上がり

を押さえる為には、製本用のへらがあると便利である。こちらは用途によって大きさや長

さを各種そろえておくと様々な状況で使用できる。

(3) 遮光布

ガラスを用いて撮影を行う場合、複写台や、カメラの銀色の部品がガラスに反射するこ

とがある。これらを防ぐための、黒色の遮光布も備えておくと良いだろう。

(4) トレシングペーパー

トレシングペーパーは、下に置いた原稿をなぞる事で複写する為の、半透明な紙である。

撮影用としては、ディフュージングトレシングペーパーとして、光を拡散させるために用

いる。光が集中している場合や、影が目立つ場合などに用いると、好ましい結果に仕上が

る事が多いため、備えておくと便利である。

(5) 和紙

本を撮影する際に、左右のページの高さが微妙に異なっていたり、本の背の部分の底上

げをするために和紙を用いることがある。また、撮影の際に、痛みや汚れのある表紙の保

護として用いることもある。さまざまな大きさのものを備えておくと便利であろう。

3-3 照明光源とホワイトバランス

デジタル撮影ではカラー撮影が基本となるため、白いものが白く写るように注意を要する。

また、照明を行う際は、資料の版面全域の明るさが等しく照射される事が重要であり、拡散し

た光を使用する事が一般的である。

本項目では、色温度とホワイトバランスの概念および、現時点で入手可能な光源の種類の特

徴を述べる。

3-3-1 色温度

夕日に照らされた白色の紙を一般的なカラーフィルムで撮影すると、赤みを帯びた色とし

て記録される。これは、一般的なカラーフィルムが、晴天昼間で撮影したときに、白いもの

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が白く写るように設計されている為である。夕日であったり、昼光であったりといった、光

源の色味を数値的に表した単位を色温度という。

色温度の概念は、まず、エネルギーをすべて吸収する、完全な黒い物体があるものと仮想

する。この物体は、温度の上昇に伴い、赤色からオレンジ色、黄色、白色、青色というふう

に段階的に変化してゆく。この色が生じている際の温度を絶対温度で表したものを色温度と

いい、単位は K(ケルビン)で表す。上記の太陽光の例で表すと、晴天の昼光はおおよそ 5500°

K であり、朝夕はおおよそ 2000°K 前後となる。写真の場合、色温度 5500°K の事をデ

ーライトと略称する事が慣例となっている。

3-3-2 ホワイトバランスと色温度

先に述べた、夕日のもとで一般的なカラーフィルムを用いた場合に赤みをおびて写る、と

いうのは、光源の色温度と、フィルム設計上の色温度が一致していない為に起こる現象であ

る。両者を一致させるために、CCフィルターや LBフィルターといった各種の撮影用フィル

ターが市販されている。

デジタルカメラの場合は、カメラの設定色温度を、適宜光源の色温度にあわせる必要があ

る。センサの色温度の設定を、光源の色温度にあわせる作業の事は、ホワイトバランスをと

る、と一般的に呼称されている。(図 16)

図 16 照明色温度 3,700°K のとき、図中の各色温度設定で撮影した際の画像

光源の色温度を計測する為には、カラーメーターと呼ばれる測定器を用いて直接測定する

ことができる。測定値を、カメラのホワイトバランス設定項目に直接入力するか、白やグレ

ーといった基準色を撮影する事で、カメラ側が補正を行うマニュアルホワイトバランス機能

を備えた機種も存在する。(図 17)

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図 17 コンパクトデジタルカメラのホワイトバランス設定画面

印象的な芸術作品を制作する場合はともかく、資料の情報を正確に記録する事に重きをお

く場合、このホワイトバランスを適切に設定することは、非常に重要である。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

セコニック プロデジカラー C500

ケンコー カラーメーター KCM-3100

GOSSEN COLOR MASTER 3F

など

3-3-3 撮影用の照明と特徴

(1) 太陽光(自然光)

太陽光は、様々な波長の光をバランスよく含んでおり、撮影用光源としては好ましい。

古い写真館では、北向きの窓から採光された光で撮影する事が長らく一般的であったよう

だ。しかしながら、天候により照度が変化しやすいことや、時間ごとに色温度が変化する

ことから、安定した照明条件を整えることが困難である。また紫外線や赤外線領域の波長

も含まれており、資料を痛める為、資料撮影を太陽光下で行うことはあまり好ましくない。

(2) 白熱電灯光(タングステン光)

写真照明用の白熱電球として市販されている。フィラメントにタングステンという物質

が使用されていた事から、タングステン灯と呼称することもある。色温度は、3200°K の

ものが種類が豊富であるが、6000°K のものもある。

指向性 (光の広がり方) の違いとして、狭い照射角度を持たせたスポットランプや、広い

角度に拡散させたフラッドランプ等いくつかの種類が存在する。照明光源としては、拡散

型の方が、ムラがおこりにくく、つかいやすいだろう。

長時間連続して点灯していると、フィラメントがかなりの熱を持ち、資料を変成させる

恐れがある為、今日ではあまり用いられることは無い。また電球に触れるとやけどの恐れ

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がある為、扱いには注意が必要である。

製品例

メーカー名 製品名・型番等

岩崎電気 アイランプ ハニーソフト

アイランプ デイライトカラー

など

(3) ストロボ光

発光チューブに封入されたガスに高電圧を放電する事で、瞬間的に明るい光を放つもの

を総称してストロボという。フラッシュとも呼称される。色温度は一般的には 5500°K で

あるが、一部に 5900°K のものも存在する。そのまま用いると、集中した光となるが、

光を拡散させるためのアクセサリが豊富に揃っており、これらと併用する事で、好ましい

結果が得られる。小型ストロボでは、その出力をガイドナンバー(GN)という単位で表して

おり、この数値が大きいほど、出力が大きいつまり明るく発光することができる。

美術館や博物館では、ストロボの発光を禁じているところがほとんどであり、有害なイ

メージが定着している。しかしながら近年では、発光部に紫外線カットフィルターを装着

した製品もある。文化財に与える光の影響は、照度と時間の積算であると言われている。

ストロボ光は、照度こそ高いものの、発光時間が極端に短いため、実質的な影響はほぼな

いものと考えられる。しかしながら、ストロボを使用する際は、資料の所蔵者との相談や、

明るさをおさえめにするなどの気遣いは必要であろう。

•内蔵ストロボ

カメラに内蔵されたストロボで、発光量はあまり大きくない。また、画面全体に均一に

照射されている訳ではなく、ムラが大きい。光を拡散させ、均一に照射させる為には、相

当の工夫が必要であろう。

•クリップオンストロボ

主にカメラの上部に装着して使用する、小型のストロボであり、さまざまな発光量を持

つものが市販されている。(図 18)ムラなく照射するためには、カメラから離した位置から

照射したり、複数台使用するなどの工夫が必要だろう。レンズの外周が発光するリング型

などもあるが、こちらは周辺部にいくに従って暗くなってゆくため、使用する際には注意

が必要である。また、ガラスを用いる場合は、発光部が反射するために使用できない。

•大型ストロボ

電源部(ジェネレーター)と発光部(ヘッド)が別になったものと、電源部を内蔵したものが

あり、後者はモノブロックタイプと呼ばれる。(図 19)ヘッドには様々な付属品を取り付け

ることができ、光を様々にコントロールすることができる。また、照射の強さも細かく調

整できる。扱いにはやや技術を要する場合もある。また、装置も大掛かりになりがちであ

る。

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図 18 クリップオンストロボ 図 19 大型ストロボ

製品例

分類 メーカー名 製品名・型番等

クリップオン

ストロボ

ニコン スピードライト SB-900

キヤノン スピードライト 580EX Ⅱ

大型ストロボ コメット TWINKLE FⅢ

など

(4) 蛍光灯(クールライト)

ある一定の波長を持つ電磁波が当たったとき、発光現象を起こすものを蛍光体と呼ぶ。

蛍光灯は、放電によって発生した紫外線を、蛍光体に当てて可視光線に変換する仕組みを

持つものの総称である。

撮影用として様々な種類が販売されている。(図 20)色温度も 3400°K や 5900°K、

6000°Kなど選択することができる。室内の照明に広く用いられるとおり、非常に拡散し

た、いわゆるフラットな性質をもつ。

一般用途向けの蛍光灯には、輝線と呼ばれる、光の成分に極端な偏りが見られる特性を

持つものがある。撮影結果が緑色に偏る現象が、輝線の影響としてよく知られている。こ

れは、色温度を適切に設定していてもさける事は出来ない。このような場合は、蛍光灯撮

影用フィルターなどを装着すると好ましい結果が得られることがある。

白熱灯と比較した場合、発熱量が非常に少ないため、クールライトの名前で呼ばれるこ

ともある。発光原理上、紫外線を放出するために、一次資料を変成させる恐れがある。蛍

光管そのものに紫外線カットのコーティングが施されたものを選ぶか、紫外線カットのた

めのカバー等を使用するなどの注意が必要である。

なお、発光間隔が 50-60Hz と低い周波数であるため、インバーター式の灯具でない場

合、高速シャッターを切る場合には注意が必要である。

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図 20 蛍光灯照明

製品例

メーカー名 製品名・型番等

LPL コピーライト FL-217

kobold lumax SB12

MFLO 105w MFLOset

など

3-3-4 LED(発光ダイオード)

電流を一定方向にしか流さない作用を持ち、この一定方向に電圧を加えた際に発光する半

導体素子のことを総称して LED という。

撮影用としては、ビデオライトとして多くの種類が製品化されている。色温度は 5600°K

のものが多く、フィルターを併用する事で 3200°K を得る事ができる製品が多い。素子一

個ずつでは得られる明るさが少ないため、複数個の素子を組み合わせたうえで使用される事

が一般的である。そのため、拡散した光をつくりやすい。

もっとも、LED は狭い範囲の波長を持つ光を発光する事しか出来ない為、擬似的に白色光

を得ている。蛍光体の発光と LED の発光の組み合わせにより間接的に白色を得るものや、

B,G,R,三色の LED を同時発光させる事で白色光に見えるようにされたものなど、いくつか

の方式が存在する。

いずれの方式の場合も演色指数が低い事や、LED の製造上の個体差が大きく、安定性に欠

くといった欠点もある。そのため今日では撮影用の照明としては、まだあまり一般的ではな

い。

もっとも、先に述べた通り、狭い波長の光を発光するということは、原理上、紫外線や赤

外線の放射を無くすことができるため、資料にはやさしい光源であると言える。今後の進化

が期待される照明である。

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製品例

メーカー名 製品名・型番等

MEME LED Light

など

3-3-5 その他

撮影用照明としては、この他 HMI と呼ばれるメタルハライドランプを光源とするものも

存在する。色温度としては 5500°K や 6000°K である。大型であるが、非常に明るいた

め、映画やテレビの撮影では人工太陽と呼ばれることもある。資料の撮影では、明るさが必

要以上であるため、あまり使われる事はない。

ここまでは、単一の光源に関して述べてきたが、これは撮影の際には、上に述べてきたよ

うに一種類の光源を用いる事が原則であるためである。撮影を行うスタジオが薄暗いのはこ

の為であり、天井に据え付けられた蛍光灯を照らしながらフラッシュを使用するといった事

は行わない。

もしやむを得ず光源の種類が複数にわたる場合や、一般用途の蛍光灯を光源として用いる

と、光の成分に大きな偏りが出るため、ホワイトバランスをとるだけでは、良好な結果を得

る事が難しい場合もある。このような際は、フィルターを用いて補正する等の工夫がさらに

必要なことがある。

3-4 撮影準備

3-4-1 室内環境

2-2-3, 2-2-4等で述べたスキャニングの作業室の環境と基本的には同様である

が、照明の反射を防ぐため、壁面および天井の色は黒色である事が望ましい。ガラスを使用

して撮影を行う場合は、とくに天井方向の反射に気をつける事。カメラのセッティングの方

法によっては、カメラ自体も、ガラスに反射することがある。このような場合、黒布でカメ

ラを覆ってしまうなどの工夫が必要である。(図 21)

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図 21 黒布で覆ったカメラ

照明装置が別途準備できず、太陽光を用いて撮影する場合、時間による明るさの変化が極

力少ない環境を選ぶと良い。北向きの窓から差し込む光であれば、時間による明るさの変化

は、比較的少ない。

3-4-2 カメラのセッティング

すでに述べたが、資料の撮影において重要なのは、正方形の資料があった場合、得られた

撮影結果も正方形になっている、ということである。資料の形状を正確に伝えるためには、

以下の 5 つの条件が必要である。(図 22)

(1) センサ面と光軸(レンズの中心位置)が直行している事

(2) センサ面の中心とレンズの光軸が一致している事

(3) 光軸と資料が直交している事

(4) 資料の中心と光軸が一致している事

(5) 資料を平面に保つ事

図 22 資料撮影時のカメラのセット方法iii

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(1),(2)に関してはカメラメーカーの製造精度によるものである。実写を行う事である程度

の善し悪しを判定できるものの、使用する側が調整できる範囲を超えている。近年ではコス

トダウンの為か、カメラの出荷段階で十分な検査が行われていないのではないかという疑念

もつきまとう。デジタルカメラを導入した際には、実写テストを行ってみて、満足行く結果

が得られるか否かを判断する必要があろう。もし、描写に疑問点があれば、積極的にメーカ

ーに調整を依頼した方が良いだろう。

(3)であるが、これは 3-2-2 で述べた複写台および雲台を用いる事で、比較的簡便に

設置を行うことができる。

具体的なセッティング方法としては、カメラと資料とを直交させる為には同じ長さの紐を

2 本使用し、二等辺三角形の頂点位置にレンズの光軸を持ってくる事で、大まかな位置は決

定できる。

適切にカメラがセットされているか否かは、鏡が用意できる場合は、資料の中心位置に鏡

を置き、撮影を行う。資料と光軸が直行していれば、画像の中心に、鏡に反射した光軸が写

っている。(図 23)

図 23 鏡を用いたカメラ位置のチェック方法iv

なお、撮影台やガラスを用いる場合は、実際の撮影環境でセッティングすることが大切で

ある。

(4)であるが、これは、レンズの描写性能は、光軸付近が 良の結果となり、周辺に行くに

従って描写能力が悪化する為である。厚みのある冊子状の資料を撮影している場合は、ペー

ジをめくっていると、徐々に中心位置がずれてくるため、完成した画像を常にチェックする

必要がある。もっとも、断簡や浮世絵など古い一枚ものの資料は、四辺の角度が 90°になっ

ているとは限らない為、この場合の中心位置はおおよその位置でよいだろう。

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(5)であるが、これは3-2-3で述べた撮影台を用いることで、この条件を満たす事は容

易になる。もっとも、厳密に平面を得ようとする場合、資料の撮影面とガラスが広く、また

強い力で接触することになる。よって、資料に与えるダメージが大きいと判断される場合は、

ある程度のところで妥協する判断も必要である。

撮影作業を優先させてしまうあまり、デジタルアーカイブ構築の目的を見失わないように

することが、なにより重要である。

3-4-3 ライティング

すでに述べた通り、撮影を行う際は、資料にムラなく、均一に光を当てる必要がある。白

熱灯やストロボなどを使用する場合の、カメラと資料に対する照明装置の基本的な位置は(図

24)のようになる。もっとも、照明装置の個体差や、光沢ある資料を撮影する際には必ずしも

45°が 適とはならない。

図 24 カメラと光源の基本位置v

蛍光灯や LED 光源といったいわゆる面光源を使用する場合にも同様の角度関係になる。

こちらも個体差が考えられるため、角度は、適宜微調整を行う必要がある。

なお、V 字型の撮影台を使用する場合は、原稿台の位置に対して上記の位置に照明を設置

すること。

斜め方向から照明をあてる以上、どうしても距離に差が生じ、ムラが出やすくなる。(図 25)

照度は、距離の二乗に反比例するという特性を持つため、無視できないムラがある場合は、

資料と照明を離してやると、ムラは少なくなってゆく。資料の面積が小さい場合は 1 灯で事

足りる場合もあるだろう。また、逆に資料が大きい場合は、四隅から照明を当てないとムラ

が消えない場合もあるだろう。(図 26)

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図 25 照明ムラと距離vi 図 26 四灯ライティングの位置(俯瞰図)vii

それでもムラが無くならない場合は、トレシングペーパーを照明の前に垂らすなどの、光

を拡散させるなどの工夫がある。なお、トレシングペーパーを使用する場合、照明の種類に

よっては熱により発火する恐れもあることから、扱いには十分に注意する必要がある。

照明ムラのチェックは、3-2-5で述べた露出計を用いて、四隅と中心位置をチェック

すると良い。(図 27)

図 27 照明ムラのチェック位置viii

3-4-4 資料保護の為の工夫

資料のデジタル化は、資料を閲覧に使用する機会の低減による、延命措置の一環と言い換

える事ができる。そのため、撮影作業を優先させるあまり、資料に対して過度のストレスを

与える事はしてはならない。

撮影作業では、資料の上方にカメラや照明装置が設置される事が多い。不慮の事故や地震

といった要因で機材が転倒、脱落した際に、資料を傷めないように、工夫が必要であろう。

1〜5 ないし 1〜9 の位置を測

定し、差異が認められなくなるま

で、照明位置を調整する。

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3-4-5 追記

本項目では、平面資料を撮影する際の基本的な事を述べてきた。撮影対象が立体物の場合

は、様々な方向から撮影することができる為、カメラのセッティングやライティングはこの

限りではない。

引用文献 i http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/article/ffnr0225.html( 終閲覧日 2012 年 2 月 24 日) を元に作図 ii http://www.foveon.com/files/CIC10_Lyon_Hubel_FINAL.pdf( 終閲覧日 2012 年 2 月 24 日)を元に作図 iii写真工業臨時増刊 『接写/複写の撮影技術』 写真工業社 1974 年 10 月 15 日刊 「複写技術」

の項目 阪川 武志 著 P184 図 1 をもとに作図 iv『貴重書デジタルアーカイブの実践技法』 樫村雅章著 慶應義塾大学出版会株式会社 2010年 4 月 28 日 P117 図 17 をもとに作図 v写真工業臨時増刊 『接写/複写の撮影技術』 写真工業社 1974 年 10 月 15 日刊 「複写技術」

の項目 阪川 武志 著 P193 図 11 をもとに作図 vi写真工業臨時増刊 『接写/複写の撮影技術』 写真工業社 1974 年 10 月 15 日刊 「複写技術」

の項目 阪川 武志 著 P194 図 12,図 13 をもとに作図 vii写真工業臨時増刊 『接写/複写の撮影技術』写真工業社 1974 年 10 月 15 日刊 「複写技術」

の項目 阪川 武志 著 P194 図 14をもとに作図 viii写真工業臨時増刊 『接写/複写の撮影技術』写真工業社 1974 年 10 月 15 日刊 「複写技術」

の項目 阪川 武志 著 P195 図15をもとに作図 参考文献

『ディジタル写真入門』 大野 信 甲田 謙一 内藤 明 共著 コロナ社 2001 年 3 月 15 日発行 『デジタル写真の基礎』 大野 信 甲田 謙一 内藤 明 豊田 堅二 共著 コロナ社 2005年 4 月 28 日発行 写真工業臨時増刊 『接写/複写の撮影技術』 写真工業社 1974 年 10 月 15 日刊 「複写技術」

の項目 阪川 武志 著 『写真の科学』 田中 益男 著 共立出版 1992 年発行 『貴重書デジタルアーカイブの実践技法』 樫村 雅章 著 慶應義塾大学出版会株式会社

2010 年 4 月 28 日発行 『博物館展示物の光による損傷の抑制』 社団法人 日本照明委員会発行 2005 年 6 月 27 日発行 『ブラジル日本移民-百年の軌跡』丸山 浩明 編集 明石書店 2010 年発行

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参考資料 10 事例3:文化遺産オンラインの活用

【情報提供】

文化庁 文化財部伝統文化課文化財保護調整室

和歌山県立近代美術館

財団法人鍋島報效会 徴古館

■ご注意

本参考資料は、文化遺産オンラインを活用したデジタルアーカイブの構

築事例について、平成 22 年度 文化庁「全国の博物館・美術館等におけ

る収蔵品デジタル・アーカイブ化に関する調査・研究」事業の対象とな

った2館より提供を受けた情報を、考え方の参考例として示すものです。

以下の点に注意してお読みください。

① 本参考資料をお読みになる前に、必ず本編に目を通してください。

特に、「第 5 節 デジタルアーカイブの構築・連携の手引き」を読んで

おいてください。

本参考資料は、あくまで事例を示すものですので、記述範囲や内容は

限定的になっています。

② 本参考資料に例示する機材、ソフトウェア、サービス等については、

参考として掲げたものであり、総務省、文化庁、並びに関係各機関が

推奨するものではありません。

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(1) はじめに ここでは、文化遺産オンラインの外部連携機能(検索用 API)を活用したデジタルアーカイ

ブの構築方法について、和歌山県立近代美術館と財団法人鍋島報效会徴古館の 2 つの実例をも

とに見ていきます。

所蔵作品検索・閲覧サイトを低コストで自館のホームページ内に構築したいと考えている博

物館・美術館に参考となる事例です。

(2) 文化遺産オンラインの概要 文化庁月報 平成 23 年 11 月号(No.518) の記事71 より、文化遺産オンラインと、その外部

連携機能の概要説明を引用します。

『文化遺産オンライン』は,美術館・博物館等に収蔵される文化遺産のデータを指定・未

指定を問わず広く登録し,検索・閲覧を可能にするインターネット上のポータルサイト(電

子情報広場)です。日本国内の文化遺産情報の総覧を可能にし,さらには世界に向けて発信

することを目指し,文化庁と国立情報学研究所が共同運営をしています。平成 20 年(2008)

3 月の正式公開以来,利用者のための詳細な検索を可能にするシステム開発や,参加する美

術館・博物館,関係団体の負担を軽減する取組を行ってきました。

平成 23 年(2011)11 月現在で,92,466 件の文化遺産情報が登録されています。また,全国

で 927 館の美術館・博物館が館の情報を登録して公開し,その内,124 館が文化遺産情報を掲

載しています。

(中略)

『文化遺産オンライン』は,国内の文化遺産の総覧を目指しています。また,連想検索は

検索するデータの母数が多いほど,有効な結果が得られるものです。参加館数の増加と掲載

する文化遺産の件数の増加は,利用者の利便性の向上とともに,最も重要な課題でした。そ

こで参加館の作業負担を軽減する取組も行ってきました。

これまでデータ登録の方法は,文化遺産を 1 件ずつ登録する「オンライン登録方式」だけ

でした。これは 1 件ずつ,登録画面で確認しながら入力作業をできるため,視覚的にわかり

やすい反面,多くの作品を掲載するには大変な労力を要しました。

そこで,これに加えて複数件の文化遺産情報を CSV 形式で一括登録する,「CSV アップロー

ド方式」の供用を開始しました。平成 22 年度「全国の博物館・美術館等における収蔵品デジ

タル・アーカイブ化に関する調査・研究」事業では,その実証研究も行いました。和歌山県

立近代美術館,財団法人根津美術館,おぶせミュージアム中島千波館と高井鴻山記念館(共に

小布施町立で,調査研究事業は小布施町立図書館に委託),小金井市立はけの森美術館,財団

法人鍋島報效会徴古館,東京工業大学百年記念館に実証研究を委託し,この方式を使って,

実際にその所有作品データ合計 11,128 件が新たに『文化遺産オンライン』に加わりました。

また,この「CSV アップロード方式」と同時に開発した外部連携機能を活用し,参加館の

ホームページの中に,収蔵品の検索・閲覧ページを作成し,『文化遺産オンライン』が検索応

71「「文化遺産オンライン構想」成果報告フォーラム ~文化遺産とデジタル・アーカイブの 前線を知る~ 開

催に向けて」『文化庁月報』 (518), 2011. http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/2011_11/special/special_01.html (平成 24 年 3 月 3 日確認)

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答を行うシステムを作ることもできます。前記事業において,その実証研究も行いました。

和歌山県立近代美術館は,全所蔵作品を『文化遺産オンライン』に掲載すると共に,館のホ

ームページに収蔵品検索システムを組み込みました。小布施町立図書館は,おぶせミュージ

アム中島千波館と高井鴻山記念館の収蔵品の検索サイト『小布施正倉』を創設しました。財

団法人鍋島報效会徴古館は,ホームページをリニューアルし,収蔵品検索システムをその中

に組み込みました。

これらは実は,館のホームページのサーバに文化遺産のデータを持っているのではありま

せん。館のホームページから検索要求を『文化遺産オンライン』に送り,『文化遺産オンライ

ン』のデータベースサーバで検索し,その結果を館のホームページに戻して表示しています。

URL もそれぞれの館の URL のままで,あたかも独自に検索システムを持っているかのように見

えます。『文化遺産オンライン』に登録されたデータを共有している状態です。『文化遺産オ

ンライン』への一度の登録だけで,『文化遺産オンライン』と館のホームページと両方で公開

することができ,掲載館にもメリットがあるようなシステムとしています。将来的には,『文

化遺産オンライン』にデータを登録すれば,それぞれの館のホームページができるような汎

用的なセットを提供する予定です。

このように、文化遺産オンラインを活用することにより、「日本国内の文化遺産情報の総覧」

の充実に協力することができるだけでなく、自館の所蔵品目録の管理をシステム化し、さらに

ホームページにデジタルアーカイブ機能を追加することもできます。

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(3) 事例 A:和歌山県立近代美術館

(a) プロフィール

1963(昭和 38)年に和歌山城内に開館した和歌山県立美術館を前身とする和歌山県立近代美

術館は、1970(昭和 45)年、和歌山県民文化会館 1 階に開館しました。ここで 23 年間の活動

を続けたあと、1994(平成 6)年 7 月、和歌山城の天守閣を間近に望む現在の場所に新築移転

しました。

和歌山県は川口軌外(かわぐち・きがい)や野長瀬晩花(のながせ・ばんか)など、わが国

の近代美術史に足跡を残している数多くの優れた美術家を生んでいますが、同館では 1970 年

の開館以来、和歌山県ゆかりの作家の展覧会を開催しながら、郷土作家コレクションを充実さ

せてきました。

また和歌山ゆかりの作家には、浜口陽三(はまぐち・ようぞう)や田中恭吉(たなか・きょ

うきち)、恩地孝四郎(おんち・こうしろう)など、日本の近代版画史に足跡を残している作家

が多く、1980 年頃から近代・現代版画の収集・紹介に力を入れています。

さらに、戦後の関西に興った前衛美術運動で活躍した作家の作品収蔵をスタートさせ、現代

美術コレクションの形成に努めてきました。

明治時代から現代にいたる日本画、油彩画、彫刻、版画など、一万点を越すコレクションは、

展示替えしながら、企画展やコレクション展で紹介されています。

所蔵資料 明治時代~現代の日本画、油彩画、彫刻、版画など

資料点数 メタデータ公開 約 10000 点, デジタル化 約 2000 点

(b) システムの画面

同館では、自館のホームページに検索機能を組み込む際に、文化遺産オンラインの外部連携

機能を使いました。このことにより、同館のシステムには検索機能自体を持たせず、文化遺産

オンラインと接続する機能だけを作成しました。

それでは、実際の画面の例を見てみましょう。

トップページ72(画面 1)から「コレクション」を選択し、「所蔵作品検索・閲覧サイトはこ

ちら」のリンクをたどると、所蔵作品検索・閲覧画面(画面 2)が現れます。

72 和歌山県立近代美術館 http://www.momaw.jp/ (平成 24 年 3 月 3 日確認)

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画面 1 トップページ

画面 2 所蔵作品検索・閲覧画面

所蔵作品検索・閲覧画面にて探したいキーワードを入力して[検索]ボタンを押下すると、

検索結果が表示されます。ここでは、県ゆかりの版画家、浜口陽三の作品を検索するため、作

家名に「浜口 陽三」と入力し、検索してみます。

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画面 3 所蔵品詳細検索リスト

すると、156 件の作品が検索されました。 初の 2 件については画像も表示されています。

この画像をクリックすると、もっと大きな画像を表示することができます。

このように、利用者に「外部連携機能」の存在を気づかせないような、ごく自然なホームペ

ージを作ることができます。それでは、同館がこのシステムを構築した際のワークフローを見

ていきましょう。

(c) 作業の詳細とワークフロー

同館は、平成 22 年度「全国の博物館・美術館における収蔵品デジタル・アーカイブ化に関す

る調査・研究事業」を利用し、ホームページのリニューアルとデジタル・アーカイブの構築を

行いました。事業期間は平成 22 年 10 月 1 日~平成 23 年 3 月 23 日の、約半年弱でした。

作業の流れを、図 1 に示します。

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図 1 作業の流れ

各作業の詳細を、以下に示します。

①著作権処理

著作権者に公文書で画像掲載の承諾を求める作業です。

著作権処理作業は館の職員が行いました。

対象件数 695 件のうち、著作権保護期間終了が 96 件、承諾を得た件数が 207 件、不承

諾が 4 件でした。残り 388 件は期間中に調査ないし依頼ができませんでした。

今回の事業は期間が限られていたため、時間のかかる海外の著作権者への連絡は行いま

せんでした。そのため、ホームページに掲載されている画像は基本的に国内の作家に限定

されています。

②文字データの整形

同館には、本事業を始める前から、FileMaker で作成した収蔵品データベースが存在し

ていました。そこで、これを文化遺産オンライン用の作品基本情報に整形する作業を行う

ことにしました。

作業は以下の流れで行われました。

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(a)~(b)の実作業は業者に委託し、館職員は(c)~(e)の作業結果の確認と修正を行いまし

た。

③作品画像データの処理

同館では本事業を実施する前に、ほぼ全点の作品の画像をフィルムまたはデジタルデー

タで用意していました。新たな撮影を実施することはせずに、すでに存在している画像を

デジタル化し、加工する作業を行いました。

(a)~(c)の実作業は業者に委託し、館職員は(d)~(h)の作業結果の確認と修正を行いまし

た。

④外部連携プログラム制作及び収蔵品検索・閲覧ページ作成

文化遺産オンラインを外部連携インタフェース経由で使用し、所蔵品検索を行うための

プログラムの制作を行い、そのプログラムを自館のホームページから呼び出す仕組みを作

成しました。検索機能についての新たなシステム構築は行っていないため、経費の節減に

寄与しています。

また、同館や事例 B で紹介する徴古館等では、平成 22 年度の文化庁からの委託事業に

て、文化遺産オンラインと連携する検索・応答プログラムを作成しました。その成果物は、

文化庁から平成 24 年度以降に、無償プログラムとして提供される予定です。それを各館が

用いれば、文化遺産オンラインとの連携部分についても、一から新たなシステムを構築す

る必要はなくなります。

同館の試算によると、自前のサーバーや企業のサーバーを利用する方式をとった場合、

(a) 寸法の内容と書式を整える

(b) 作品名の「ふりがな」を入力する

(c) 題名、ふりがなの確認

(d) 作者名、生没年の確認

(e) 寸法表記の確認

(a) ポジしかないものはスキャンしてデジタル化

(b) フレーミング、トリミング

(c) 画像データに新たなファイル名を与える

(d) 作品と画像の一致を確認

(e) フレーミング、トリミングの確認

(f) リサイズ(長辺 300 ピクセル以上、かつ容量 1 メガバイト以下)

(g) 画像ファイル名の確認

(h) 裏焼きの確認

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システム構築の初期経費は百万円~数百万円、維持管理費が年間 5 万円~7 万円前後を要

するそうです。これに対し、文化遺産オンラインの連携システムを利用すると、連携プロ

グラムのカスタマイズの初期経費が 25 万円前後と推定されるほかには、サーバーは NII

にあるため維持管理費が発生せず、費用が掛かりません。前者・後者ともに、自館のホー

ムページに係る費用は計算されていないことは留意する必要がありますが、経費面の問題

から所蔵品検索・閲覧機能を実現できないと考えている博物館・美術館にとっては、文化

遺産オンラインとの連携は利用する価値があると言えます。

(d) 今後の展開

構築した検索・閲覧サイトの評判は良く、それをみた他館の職員から、「同じような検索サ

イトを作りたいがどうすればよいか」と問い合わせがあり、回答を行ったとのことです。

今後は、現在 2000 点掲載されている画像を少しずつ増やして、フォローアップに力を入

れていく予定であるとのことです。

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(4) 事例 B:財団法人鍋島報效会 徴古館

(a) プロフィール

徴古館は、鍋島家12代当主直映公により昭和 2年に創設された佐賀県内 初の博物館です。

開館当初は、肥前関係の古文書・古器物を陳列し今日の県立博物館的な役割を果たしました。

財団法人鍋島報效会創設の昭和 15 年以降は同会が運営にあたりましたが、昭和 20 年には建

物接収により閉館を余儀なくされました。

平成 9 年に至り建物が国登録有形文化財となり、翌年 6 月に 1 階を展示室として公開し約

半世紀ぶりに博物館として再開しました。現在では年 4 回の企画展を通じ、旧佐賀藩主・侯

爵鍋島家伝来の歴史資料・美術工芸品を展示する博物館として親しまれています。73

同館は、平成 23 年度現在、専従職員は 5 名、うち学芸員は 3 名、アルバイトは 2 名で運

営しており、デジタルアーカイブ関係業務は主に学芸員が 1 人で担当しています。

(b) システムの画面

同館では平成 23 年 4 月のホームページのリニューアルに併せて、作品の検索システムを構

築して公開しました。サイトの

実現にあたり文化遺産オンライ

ン検索用 API を活用しています。

キーワードや年代による検索だ

けでなく、16 種類のジャンルを

選ぶだけでも、収蔵品を見て周

ることができます。

歴史や美術工芸の知識があま

りない方でも楽しめるように工

夫されている点が特徴です。

画面 1 収蔵品紹介ページ74

73 徴古館とは http://www.nabeshima.or.jp/main/3.html(平成 24 年 3 月 6 日確認) 74 収蔵品紹介 http://www.nabeshima.or.jp/collection/(平成 24 年 3 月 6 日確認)

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それでは、実際の画面からのキーワードを使った検索例を見てみましょう。

所蔵品紹介ページから、探したいキーワードを入力して[検索]ボタンを押下すると、検

索結果が表示されます。ここでは、館ゆかりの人物に関係する物を検索するため、フリーワ

ードに「鍋島直映」と入力し、検索してみます。

画面 2 収蔵品紹介ページ

すると、絵図、古写真など「鍋島直映」のキーワードが含まれている収蔵品が全部で 9 件、

検索されて表示されました。

画面 3 検索結果

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和歌山県立近代美術館と同様に、利用者に「外部連携機能」の存在を気づかせないような、

ごく自然な検索ページに仕上がっています。

(c) 構築の背景

ホームページ公開日 2001 年開設,2011 年 4 月 1 日 リニューアル公開

デジタルアーカイブ

公開日

2011 年 7 月 5 日

(文化遺産オンライン連携の検索機能の公開日)

今回の委託事業へ取り組むきっかけは、同館のホームページ(以下 HP)の旧式化にあり

ました。2001 年に開設してから 10 年を経過した HP には各所に不具合があり、特に収蔵品

紹介のページは、紹介する上での分類方法や資料数、紹介する資料の選別など再検討を行う

必要がありました。しかし HP 全体をリニューアルする予算はないため、収蔵品紹介のみ作

り変える方向で考えていたところ、文化庁の調査研究事業の公募があったことから、事業の

活用による HP全面リニューアルを決めたそうです。

HP 上でより多くの館蔵品を紹介でき、なおかつ HP そのもののリニューアルもできると

いうことで、「願ってもない話でした」ということです。

(d) 構築作業の詳細

同館の取組では、一種のデジタルアーカイブといえる「収蔵品紹介」のページと、それ以

外のホームページのリニューアルを同時に進めることによって効果を上げています。

そのため、ここではホームページ全体のリニューアル作業を紹介します。

①リニューアル概要

全体のデザインを根本的に一新しました。収蔵品紹介がメインですが、新たに付加した

機能としては、メール会員登録・イベント参加申込み・今月の逸品・パノラマでみる徴古

館、などがあります。

また、業者に作成を委託する際、開設後の更新や画像の差し替えなどは自分たちで維持

管理できるような仕様でプログラム作成を依頼し、維持管理費が発生しないよう工夫しま

した。

以下、HP リニューアルのために行った掲載データ準備作業のうち、特に作業量が多か

った3つのページについて、詳細を紹介します。

②収蔵品紹介ページ

鍋島家伝来資料の特徴を示すことができるようなカテゴリ(絵画・陶磁器・歴史資料な

ど)を 16 通り考え、各 18 点、計 288 点の資料を選出しました。各資料について画像を複

数枚選択し、未撮影の資料については新規に撮影し、HP 用にトリミング・明度・解像度

などの画像処理を行いました。また解説文、員数や時代などの基本情報を作成しました。

収蔵品紹介の画像を使った分類は他の先進館の事例(根津美術館・徳川美術館・永青文

庫・立花家史料館など)を大いに参考にしたそうですが、16 項目の分類の内容については

独自のものであり、同館の特徴がでるよう、何度も話し合いを重ねて決定したとのことで

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す。つまり、見せ方は先行事例を観察し習ったものですが、見せる内容は独自のものとな

っています。

③ミュージアムグッズページ

(1)徴古館の図書、(2)オリジナルグッズ、(3)その他の図書、の 3 つにカテゴリ

分けをしています。そのうち全てに共通して商品画像を準備(スキャンまたは写真撮影)

し、HP用にトリミング・明度・解像度などの画像処理を行いました。それに加えて(1)

は、サンプルページのスキャン作業・PDF 化作業、PDF に飛ぶように商品サムネールに

リンク貼り付け作業をしました。(2)グッズについては、商品詳細がわかるように、商品

ごとに販促チラシを作成して PDF 化し、リンクを貼り付けています。

④過去の展覧会ページ

1998 年の再開館以降、2012 年 2 月現在開催中の企画展で 56 回目となるそうですが、こ

れらのすべてについて以下の要領で材料を整えています。

(1) チラシイメージをスキャンまたはデータ準備(サムネールとして貼る)。

(2) 出品総目録を整理・入力する。

(3) 出品総目録に記載された資料のうち、「収蔵品紹介ページ」、「今月の逸品」、「文化遺

産オンライン」で紹介している資料に1点ずつリンクを貼る。

(4) 展示風景画像を 4 枚ずつ選別し画像サイズ・色合い・明度などを調整する。

(5) 企画展概要(会期・総点数・内容ダイジェスト)を執筆する。

(6) 関連図書について、ミュージアムグッズページへのリンクを貼る。

また、同館発行図書ではない一般図書でも、当該資料を理解する上で有益な図書は

紹介する(一般図書の場合は、テキストでの紹介だけでリンクはしない)。

(7) 以上で揃えた素材をアップロードする。

⑤作業の分担

プログラミングは業者に委託し、その材料となるデータの調達(写真撮影・スキャン・

解説文執筆)、また HP掲載用の画像サイズ変更などの調整作業は同館で行いました。その

入力作業については、「収蔵品紹介」ページは業者に委託し、それ以外のページは同館で実

施しました。

また①で述べたように、HP 公開後のメンテナンス(解説文の修正、写真の差し替え)

はすべて同館の担当者が行っています。

文化遺産オンラインに新規登録した収蔵品を同館 HP で検索・表示できるシステムは、

一切を業者に委託し構築されています。同館は、「一点でも多く文化遺産オンラインに新規

登録を続けることが自分たちの役割である」と考え、上記の方針を取り、登録作業に集中

しています。

(e) 「今月の逸品」

前項で記述した「収蔵品紹介」ページ以外にも、収蔵品を紹介するページがあります。「今

月の逸品」というページです。(画面 4)

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①経緯とねらい

収蔵品紹介はデータベースではなく、あくまで名品紹介としての性格が持たせられてい

るため、資料を選りすぐり、288 点以上は増やさないことにしたとのことです。しかし、

今後研究が進む中で新たに価値が見出される可能性のある資料もあり、企画展の文脈に沿

ったおすすめの逸品を期間限定で紹介したい、との思いもあり、収蔵品紹介とは別枠で資

料を紹介する場を設けました。また膨大なデータベースの公開がすぐには困難なため、特

別感をもたせて一品ずつ紹介することで目につきやすくし、それらを蓄積してデータベー

スの整備につなげていくというねらいもあってのことです。博物館・美術館で一般によく

みられるような、展示室内で展示コンセプトやストーリーとは離れて「季節の逸品」など

という見せ方を、HP 上で表現したものといえます。

②作業手順

月末までに翌月用の資料を選出してデータ(画像・解説原稿)を作成し、HP 更新プロ

グラムに入力し HPにアップロードしています。

また、「今月の逸品」と文化遺産オンラインはリンクしていないため、「今月の逸品」と

同内容のものを文化遺産オンラインの管理用画面から手入力しているそうです。

画面 4 今月の逸品(2012 年 3 月)

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(f) HP リニューアルの効果:計画通りの効果

全体の構成やデザインなどは多くの先進館を参考にしつつ、大名道具を収蔵・展示する博

物館としての独自性を出すために話し合いを重ねて作成した同館の HP は、周囲からも評価

され、反応は上々だということです。

その効果は、「ミュージアムショップ」のページにも表れています。

財団運営のため、出版物やミュージアムグッズの売上、収蔵品画像の掲載使用料(出版社

やメディア諸機関からの掲載依頼)は同館にとって貴重な収入源です。そこで、リニューア

ル前は、単にエクセルで作成した商品名・金額一覧を HP に掲載していただけであった「ミ

ュージアムショップ」のページを大幅に強化し、これらの購買意欲、ひいては現実的な売上

高をあげることを目標にリニューアルが行われました。

改善点は以下のとおりです。

各々の商品に、商品解説文・金額・仕様の説明を付した。

全商品を画像付きで表示した。

図録などの書籍であれば、具体的に商品の内容が「立ち読み」できるように、サンプ

ルページを PDF 化し、サムネールをクリックすると中身の数ページがみられるように

した。

メディアからの画像利用案内ページを新設し、利便を図る工夫をした。

取り組んだ時期は、HP リニューアル公開時には間に合わなかったため、HP公開ののち1

か月ほどかけて画像や PDF を整えてアップロードしたそうです。

その結果、当初予定していた通り、HP を介しての出版物の売上(通販申し込み)を、金

額ベースで倍以上に増やすことができました。購入申込件数ベースでは正確な集計ではない

とのことですが、3倍近い伸びを見せたそうです。

また、画像利用の問い合わせ・利用申込みについては、件数は前年度比で若干の増加であ

ったものの、掲載希望資料の種類が増えたそうです。今までは1度も利用申請のなかった収

蔵品の出版物掲載が現在まで4~5件あり、幅広い収蔵資料の普及につながっているといえ

ます。

さらに、利用者からの反応については、リニューアル時に新設したメール会員登録ページ

を通じて、現在までに 100 名近い登録申し込みがあったことも挙げられます。登録者には、

年に 10 通ほどのペースで企画展やイベント開催情報、新作グッズ情報などが配信されます。

イベントによっては、配信メールを見ての申込みが少なくないそうです。

(g) HP リニューアルの効果:構築後に分かったメリット

HP が利用者に浸透している様子がうかがえるようになったそうです。

例えば、メディアからの画像利用申請書提出時に、希望資料の「収蔵品紹介」ページや「文

化遺産オンライン」ページのカラープリントを自主的に添えたり、持参による割引は今のと

ころ設定していないにもかかわらず、来館者が企画展ページやアクセスページをカラープリ

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ントして持参したりという、以前にはあまり見られなかった事例がみられるとのことです。

このことは同館にとって直接のメリットというわけではありませんが、閲覧者がプリントボ

タンに手が伸びるような HP にリニューアルできたことで、ネットから離れている時にも紙

ベースで収蔵品や同館を目にしてもらうことに繋がっているといえます。

もう1点は企画展ページの充実により、マスコミへ企画展のプレスリリースを行う際、メ

ールでのリリース先には企画展ページリンクアドレスを記載することで済ませることができ、

膨大な容量の添付資料をつける必要がなくなった、という効果もあるそうです。

(h) HP リニューアルの効果:館内スタッフへの効果

少人数館だからこそ、担当者以外でもスタッフ全員が HP に関心をもっていることが重要

なポイントである、と同館では考えています。「今月の逸品」を設けたことにより、HPは必

ず毎月更新しなければならなくなり、スタッフ全員が HP のリアルタイムの状況を気にする

契機が 1 つ増えたといいます。

「今月の逸品」や「イベント参加申込み」、また開催したイベントの様子を報告する「活動

紹介」などは更新頻度の高いページですが、 近ではこれらのページ更新の際は、掲載原稿

を内部回覧しチェックした後にHPにアップするのではなく、まず担当者がHPにアップし、

その後でほかのスタッフが HP を見て語句や内容の訂正などに気づくという形でページ内容

の妥当性・正確性を担保する形にしています。スタッフ全員が HP を開く機会を増やす仕掛

けとして、このような方式を採用しるそうです。つまり HP を基本的には外部への情報・魅

力発信ツールとして位置付けながらも、内部情報共有ツールとしての役割も持たせていると

いえます。

(i) 公開後の取組

リニューアル公開後も、コンテンツの充実を図る取組が行われています。

「今月の逸品」で紹介した資料以外にも、企画展に出品した収蔵品のうち「文化遺産オン

ライン」で未紹介のものがあればその都度登録します。企画展図録作成の際に整備した画像

や解説文のデータを基にして、登録を数か月に1度の頻度で進めています。

また平成 21 年度より「美術館・歴史博物館活動基盤整備支援事業」で文化庁から事業委託

を受け、平成 23 年度は「地域の文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業」で補助金を

受けています。

地域博物館の側面ももつ同館では、これらの事業を活用し、収蔵品を活かした地元密着の

活動として近世佐賀城下の住宅地図である城下絵図を核とした取り組みを行っています。

2m×3mと大型資料の城下絵図 13 点のスキャニング作業が完了し、データ閲覧システム

構築を進めることができており、その一部は HP「収蔵品紹介」や「文化遺産オンライン」

で公開されています。

HP「収蔵品紹介」や「文化遺産オンライン」では美術工芸品を中心として紹介されている

同館ですが、鍋島家伝来文書資料群の「鍋島文庫」(約 3 万点)も所蔵しています。その代表

的なものは昭和~平成のはじめにかけてマイクロフィルム化が完了していますが、 近では

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地元の大学などと連携し、年に数百点の資料についてマイクロフィルムのデジタル化を進め

ています。ごく 近では「文化遺産オンライン」に文書資料の新規登録も行っています。こ

れらの事業のいずれも、独自予算ではないそうです。

このように、さまざまな事業や他機関との連携の機会を有効に生かすことで、コンテンツ

の充実に取り組んでいます。

(j) デジタルアーカイブ構築・運営にあたっての理念・ポリシー

同館がデジタルアーカイブに積極的に取り組んでいる理由の一つは、インターネットを通

して無料で収蔵品を世界中に発信できる、という利点を重んじているためです。

同館は財団運営の小規模館であるため、展示スペースも限定的で、常設展示室がありませ

ん。刊行物を出版する予算も限られ、名品選図録や収蔵品総目録も刊行できていないそうで

す。しかし、同館の学芸員に尋ねたところ、「幅広い収蔵資料の魅力をより多くの方々に知っ

てほしい」「公開することにより、各分野の研究に役立ててほしい」、という想いを強く持っ

ていました。HP 上で収蔵品の紹介は、そのための手段として行っているそうです。

ただ、想いがあっても、そのための資金がなければデータベース構築も HP リニューアル

も不可能だったと考えられますが、文化庁の委託事業を活用したことにより、それらを実現

させることができました。

一般に、博物館や美術館では、収蔵品や館の魅力を、展覧会の場でモノを通じて示し、講

演会で口を通じて言葉で示し、図録で文字や写真を通じて示すなどの方法でPRしています。

同館は、それらと同様の路線として、収蔵品の魅力を示す手段の一つとして HP 上での情報

提供をとらえています。その見せ方も、特に大名道具関係の他館 HP や異業種ウェブページ

を観察して長所をチョイスして構成した部分が多いとして、特別に新しいことを考えたわけ

ではないと言います。

このように、自館の取組は必ずしも先端事例ではないと言う同館は、継続的な運営を行う

にあたっての秘訣の一つに、「熱意をもった学芸員の存在」を挙げています。同館の担当学芸

員は写真撮影・画像処理が好きで、通常の学芸業務の傍ら、積極的にデジタルアーカイブ化

の作業に取り組み、HP の更新もきめ細かに行っているそうです。

また同館は、「デジタルアーカイブは継続的に取り組んでいく作業である」ということを基

本的な理念としています。構築して終わりではなく、継続的に取り組んでいく作業であるか

らこそ、主体的に意欲をもって関わることのできる担当者の有無が非常に大切なポイントと

なってきます。

この基本理念と熱心な担当者の存在が、同館のデジタルアーカイブを実現し維持するため

の両輪となり、各種事業の活用でそれを下支えしていると言えます。

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別添資料 「知のデジタルアーカイブに関する研究会」名簿

(敬称略、五十音順)

新 麗(あたらしれい) 株式会社 IIJ イノベーションインスティテュート技術研究所主幹研究員

安達 文夫(あだちふみお) 国立歴史民俗博物館(大学共同利用機関法人人間文化研究機構)教授

入江 伸(いりえしん) 慶應義塾大学メディアセンター課長

植村 八潮(うえむらやしお) 社団法人日本書籍出版協会理事

大内 英範(おおうちひでのり) 東京大学史料編纂所特任助教

大場 利康(おおばとしやす) 国立国会図書館関西館電子図書館課長

岡本 明(おかもとあきら) NPO 法人知的資源イニシアティブ理事、株式会社寿限無代表取締役

小川 恵司(おがわけいじ) 凸版印刷株式会社事業開発・研究本部総合研究所情報技術研究室室長

加茂 竜一(かもりゅういち) 一般財団法人デジタル文化財創出機構研究主幹

神門 典子(かんどのりこ) 国立情報学研究所教授

杉本 重雄(すぎもとしげお) 筑波大学図書館情報メディア系教授

武田 英明(たけだひであき) 国立情報学研究所学術コンテンツサービス研究開発センター長・教授

田中 久徳(たなかひさのり) 国立国会図書館電子情報部電子情報企画課長

田良島 哲(たらしまさとし) 東京国立博物館学芸研究部調査研究課書跡・歴史室長

常世田 良(とこよだりょう) 社団法人日本図書館協会理事

鳥越 直寿(とりごしなおひさ) メタデータ情報基盤構築事業メタデータ情報基盤事業検討会委員

丸山 信人(まるやまのぶひと) 社団法人日本雑誌協会デジタルコンテンツ推進委員会幹事

水谷 長志(みずたにたけし) 独立行政法人国立美術館本部情報企画室長/東京国立近代美術館企画課

情報資料室長

宮澤 彰(みやざわあきら) 国立情報学研究所教授

盛田 宏久(もりたひろひさ) 大日本印刷株式会社教育・出版流通ソリューション本部デジタル推進部

部長

山崎 博樹(やまざきひろき) 秋田県立図書館主任図書専門員兼企画広報班長

八日市谷 哲生

(ようかいちやてつお)

独立行政法人国立公文書館公文書専門官

(オブザーバー参加)

文部科学省生涯学習政策局社会教育課

文化庁文化財部伝統文化課

経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課

(庶務)

総務省情報流通行政局情報流通振興課

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(連絡先)

<事務局>

総務省 情報流通行政局 情報流通振興課

(情報流通の規律及び振興)

(担 当:松田統括補佐、白石制度係長、景山主任)

電話:03-5253-5748(直通)

<関係機関>

文部科学省 生涯学習政策局 社会教育課

(公立及び私立の図書館、博物館公民館その他の社会教育施設の

整備に関する指導及び助言)

電話:03-5253-4111(代表)

文化庁 文化財部 伝統文化課

(文化財の保存及び活用に関する総合的な政策の企画及び立案)

電話:03-5253-4111(代表)

経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課

(コンテンツの制作及び保管等の促進)

電話:03-3501-1511(代表)