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ヘリウムリサイクルに 必要な規制緩和 国立大学法人 東京大学 物性研究所 低温液化室 土屋 光 、鷺山 玲子 2019116ISSPワークショップ ヘリウム危機

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Page 1: ヘリウムリサイクルに 必要な規制緩和 · ヘリウムリサイクルに 必要な規制緩和 国立大学法人東京大学物性研究所低温液化室 土屋光、鷺山玲子

ヘリウムリサイクルに必要な規制緩和

国立大学法人 東京大学 物性研究所 低温液化室

○土屋 光 、鷺山 玲子

2019年11月6日 ISSPワークショップ ヘリウム危機

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自己紹介~東京大学 物性研究所 低温液化室~

• 東大内で一番古い寒剤供給施設。日本で三番目にできたヘリウム液化施設

• 昭和34年(1959年) 六本木キャンパスにて低温液化室 発足

• 全国から物性研に来る共同利用研究者に、液体ヘリウムを長年に渡り安定供給

• 国内最大級のヘリウム液化施設(加速器等の冷凍機を除く)• 年間供給量(課金対象)23万L ,生産量34万L程度,ヘリウム備蓄総量 約20,000m3

• 長尺ボンベ 90本(11,250m3)、純ガスカードル7基(1,155m3)、液体ヘリウム貯槽 1基(10,000L)、液体ヘリウム容器 約130台

• 柏キャンパス内の高圧ガス管理を一手に担う• システム構築の実績 及び 技術力を保有

• 様々なシステム構築の試行は、全国のヘリウム液化施設と相互影響

• 近隣の公的なヘリウム液化施設の更新や故障時に、液化業務を受入

• 他大学・機関や企業からの問い合わせ→相談対応・協力

• 物性研低温委員会の元で運営• 実働部隊 5名(常勤職員2名、非常勤職員3名)のコンパクトな部署

• 意思疎通早い&フットワーク軽め&効率的・ローコストなシステムを構築・運営

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我々が経験したヘリウムタイト

•2006年~:液化機故障• 5,000L/週の液体ヘリウムの外部購入を試みる→× 全滅 !!• その際、近隣の研究機関から助けていただいた

• 液化機二重化及び備蓄増強を検討→2010年度補正予算で完了

•2012年~:BLM、エクソンモービルの定修とトラブル• 2010~2011年の増強で、キャンパス内には影響出ず

• 要請があった一部の公的機関をバックアップ

• 対外的な再液化事業の検討→3ヶ月程度で収束した為、実現せず

•2018年末~:価格上昇• 備蓄と納入業者さんの努力でキャンパス内には影響なし

• ただし、2019年度からヘリウムの購入価格上昇→大ダメージ?!• 前2回とは明らかに異なる構造でタイト化が起きている

• 森所長の声かけで、2019年3月より再液化事業を再検討

低温⼯学 43巻2号 2008年「サロン」

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ヘリウム再液化事業 2019年10月より開始

•再液化事業をはじめるにあたり、アンケートを実施• ヘリウムがなくて本当に困っているのか?• リサイクル化されている機関では問題が小さく、そうでない機関は困っている

• ヘリウムサプライヤーにも事情聴取→スポットユーザーが困っている

• 困ってるけど、みんな我慢しているので、口に出せない雰囲気。。。

•ヘリウム問題を検討• 我々がやれることで、皆さんのお役に立つことは?

• ノウハウ提供、液化業務の提供

• 少なくとも「液体ヘリウムのセーフティネット」を構築すべき!• 「ヘリウムは血の一滴」の教えがしみこんでいるので

日本全体にヘリウム回収(リサイクル)を促進したい

• 過酷な国際競争にさらされている産業界を圧迫することがあってはならない→無理なく協調できる形で!

• 学術機関と、同機関にヘリウムを供給する関連会社対象でサービスを開始→社会的要請と理解が得られれば企業にも拡大したい

世界的に

ヘリウム供給が逼迫

日本全体で回収を前提としたシステム

を構築

日本は100%輸入の為、供給が不安定

ヘリウムの供給安定

ヘリウム購入資金の

獲得

事業化にあたり名工大の取り組みを参考にさせていただきました。大原先生、南口さん、その節はありがとうございました。

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ヘリウム再液化事業概略図

依頼機関で

ガスを回収(or 購入)

•回収用容器・設備

→依頼機関が準備

物性研へ

ガスを運搬

•運搬費用

→依頼機関が負担

物性研で

ヘリウムガスを精製・液化

•手数料→ 860円/L

•液になる量100Lから

•不純ガスも受入可能

•但し、空気成分のみ

•精製手数料が別途必要

依頼機関へ運搬

→ 供給・使用

•液体ヘリウム容器

→依頼機関で準備

•運搬費用

→依頼元が負担

•使用後

→再度リサイクル将来的には、回収・運搬を一括して可能な移動式ヘリウムガス回収装置等を

導入すれば、現時点では回収設備のない施設からも回収可能に。

この業務を物性研で請け負う

液化業務を請け負う事でヘリウム液化設備を

学外の方に利用してもらい日本全体でヘリウムのリサイクルを可能に!!

ガス回収設備例:組ボンベカードル トラックなどで物性研へ輸送 液体ヘリウムを依頼機関へ

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現時点で回収設備等を持たない施設からの回収案

引用:藤倉コンポジット株式会社https://www.fujikuracomposites.jp/lid/jp/storing/detail1.html

大気放出現状 案① 回収用設備を新たに設置 高圧ガス製造設備

案② 回収用ガスバッグで回収高圧ガス製造設備対象外

回収用ガスボンベと圧縮機を積んだトラック(新設)で回収

回収配管を新設

引用:藤倉コンポジット株式会社https://www.fujikuracomposites.jp/lid/jp/storing/detail1.html

ヘリウム回収用ガスバッグ

回収用ヘリウム圧縮機 ヘリウムボンベ組カードル

ヘリウム回収用バルーン

回収用ヘリウム圧縮機

回収用ヘリウムガスボンベ

ヘリウムを使用する装置は必ずガスを放出する口があるので

そこに回収配管を新設

↑移送管

↑液体ヘリウム容器 ↑ヘリウムを使用する装置

回収設備等は依頼機関の費用負担で設置

高圧ガス製造設備(移動式)

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ヘリウム再液化事業の社会的関心

物性研広報室餅田円氏コメント:「約4万のインプレッションは、棒グラフの⼤ピークから⾒ても分かるように、他の投稿とはまさに桁違いです。」

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事業化すると、相談が続々と、、、液:「ヘリウムガスが回収できれば液化できるので、是非回収をお願いします!」

ユ : 「じゃあ、回収って具体的にはどうするの? 」

液 : 「ガスバッグと回収用圧縮機をおいて、回収したガスをカードル(組ボンベ)に充填して回収します!」 ※

◦ ※ヘリウムガスを回収用圧縮機で15MPa~20MPa程度まで昇圧し、ボンベに充填すると大気圧輸送より圧倒的に効率が良いので一般的に行われている方法。

「どなたか高圧ガス製造保安責任者の免許をとって、ちゃちゃっと申請すれば良いだけですよ~」

ユ : 「高圧ガス製造保安責任者の資格をとるのが、年に一回のチャンスしかなく、すぐに動けない」

ユ : 「どうにもハードルが高い」「カードルの配送の運転手がいないよ!」

液: 「二種相当だったら資格はいらないですよ!!届出だけですよ!!」「移動監視者の資格なら割と簡単にとれますよ、、、」

ユ : 「そもそも届出方法が分からない」

ユ: 「業者さんに頼む※とその申請費用が、、、法定点検等のランニングコストが、、、」◦ ※申請のサポートはお願いできるが、実際の申請は、当事者か行政書士等が行わなければいけない。

ユ: 「そんなもの(資格が必要な装置)は、顧客に提案できない」

液: 「・・・(T^T)」

ユ:「高圧ガス保安法は、とにかく 、なんかよくわからない!無理!!」本体のハードにかかるコストよりも、高圧ガス保安法というソフト負担が

一般ユーザにはより高いハードルになっているのでは?

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リサイクルを促進するには規制の見直しが必要では?高圧ガス保安法 適用除外 項目に、ヘリウムも追加をお願いできないかなぁ。。。?

◦ 法 ・・・高圧ガス保安法

◦ 政令・・・高圧ガス保安法施行令

法 第三条(適用除外) 第一項 第八号

「その他災害の発生の恐れがない高圧ガスであつて、政令で定めるもの」

政令 第二条(適用除外) 第三項 第二号

「経済産業大臣が定める方法により設置されている圧縮装置内における圧縮ガス(次条の表第

一の項上欄に規定する第一種ガス(空気を除く。)を圧縮したものに限る。)であって、温度三十

五度において圧力五メガパスカル以下のもの」

第一種ガス 第二種ガス

ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、窒素、二酸化炭素、フルオロカーボン、空気

第一種ガス以外のガス

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高圧ガス保安法(一般則)ヘリウムガスの場合処理能力規制値◦ 第一種製造者(許可) 300m3以上

◦ 第二種製造者(届出) 300m3未満

圧縮機の法定処理能力

Q2=W2 ×24 ◦ Q2 :圧縮機の処理能力の数値( m3/ 日)

◦ W2 :圧縮機の能力の数値(圧縮機の能力は、圧縮機の性能曲線における最大稼働した 場合の吐出量の値とする。)(m3/h)

引用:高圧ガス保安協会Webサイト:https://www.khk.or.jp/administration/high_pressure_gas.html#03

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規制の見直し案案1. 令 第二条(適用除外) 第三項 第二号の 「圧縮装置」 で、ヘリウムのみ、上限15~20MPaで適用除外にならないか?

◦ ただし、量が多すぎると窒息の危険は高まるので、量の規制は必要?

◦ 期待する規制緩和数量:小規模実験室にある大きめの真空ポンプの排気ガスを1時間程度で回収できる量 5m3/h 前後?

◦ 圧縮機の法定処理能力: 5m3/h ×24h = 120m3/日 明らかに第二種相当

◦ 300m3 (第二種製造所)未満まで規制緩和されれば十分か?→逆算すると12.5m3/hの圧縮機それぐらいまでが妥当か?

◦ 「フルオロカーボンの回収(モンテカルロ議定書)」が良いお手本では?

案2. 令 第二条(適用除外) 第三項 に、例えば以下のような 号 を追加

◦ 「ヘリウム回収装置(回収したヘリウムの浄化機能又は充填機能を有するものを含む。)内におけるヘリウムであって、温度35度において圧力二十メガパスカルかつ処理量が三百立方メートル以下のもののうち、経済産業大臣が定めるもの」

◦ フルオロカーボン回収装置と同様な位置づけを期待。

◦ ヘリウムは至って安全なので産業界で幅広く利用されているが、安全性に関しては更なる丁寧な説明とデータ提示が必要。

◦ 現時点では、安全性はSDS。物性については、要資料発掘(低温工学ハンドブック等)。安全性確認の為の試験も必要。

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安全対策・検討事項等装置制作上の安全担保は、以下のいずれかでクリア?◦ 政令関係告示 第二条(フロン回収装置関連告示) を踏襲

◦ 高圧ガス保安法の技術上(移動式)の基準

回収容器の安全◦ 運搬の必要があるので、取り外し可能な容器。

◦ 流通しているヘリウムボンベ(継目なし容器、 50Lまで)の転用検討。ラベリングが必要?

◦ アルミライナー容器が良い?→高コスト化で良くない?◦ 回収時に、露点と純度確認が必要?腐食は?

対象者は?緩和された規制が悪用されないことは重要!◦ ヘリウムガス回収のみを対象とする?

◦ 既存の特殊高圧ガス消費届事業所や充填所等、既存の高圧ガス設備は除外? →要検討

◦ 日常点検は?‐運転状態のモニタリング・フェールセーフ・電子的記録・インターロックを活用でOK?

◦ 取り扱い講習、資格は?

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安全対策・検討事項等◦ 液体ヘリウムを確保する基本は、クロードサイクルの液化機・冷凍機でOK◦ 小規模スポットユーザー対象

◦ 適用除外の回収装置を100万‐1000万円ぐらいで作れないか?

◦ 冷凍則 適用除外 He→3冷凍t これで足りてる?(政令 第二条(適用除外) 第三項第三号)

◦ パワーユーザーだと、冷凍機より、液体ヘリウムのほうがまだ使いやすい?

◦ 自前(オンサイト)で回収・精製(再凝縮)を行う場合は、この部分の規制緩和もされるとリサイクルはより促進される?

◦ 充填済みボンベを室内に置くことは、貯蔵の規制値と同量までは、安全性については既に担保されていると考えられる?(参考:貯蔵量の合算方式の新ルール)

◦ 小型ヘリウム圧縮機の探索

◦ 転用できそうな圧縮機は見つけているが。。。

◦ 圧縮比の問題で、スクリュー型は難しいので、レシプロ型で→水素用を探すと良いかも?

◦ 皆様のご意見をお聞かせください。

検討にあたり、低温工学・超伝導学会 冷凍部会の取り組みを参考にさせていただいております。九州大学 吉田茂先生、上田さん、ありがとうございます。

検討にあたり、国立七大学安全衛生管理協議会 高圧ガスワーキンググループの取り組みを参考にさせていただいております。大阪大学 百瀬英毅先生、他皆様、ありがとうございます。

検討にあたり、web上にある日本冷凍空調工業会の取り組み情報を参考にさせていただいております。関係者の皆様、ありがとうございます。

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SDGs2016年から2030年までの国際目標「持続可能な開発のための2030アジェンダ」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html より

ヘリウム資源の有効活用(リサイクル)

もフィット

本学 財務部 平野財務部長からのご助言

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ご清聴ありがとうございました

所内、学内、大学、関係機関

関係省庁、協力企業

その他、関係者の皆様の

ご尽力・ご助言、ありがとうございます。

引き続きご指導・ご鞭撻のほどお願いいたします。

お問い合わせ先

学会関係:森 教授(所長)、勝本 教授(物理学会副会長・低温委員会委員)学内関係:森 所長、山下 准教授(低温委員長)、青木 事務長(総務係)実務関係:土屋 技術専門職員、鷺山 技術専門職員(低温液化室)広報関係:餅田 円氏(広報室)