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Ⅰ メンタルヘルス対策の問題と現状
1.最近の傾向について
2.企業が背負うリスクと対策の必要性
Ⅱ メンタルヘルス悪化のサインと対応策
1.メンタルヘルス悪化のサイン
2.メンタルヘルス悪化の対応策
Ⅲ メンタルヘルスに問題を抱える従業員へ
の対応
1.うつ病
2.統合失調症(分裂病)
3.パニック障害
4.依存症
5.燃え尽き症候群(バーンアウト)
6.パーソナリティ障害
Ⅳ メンタルヘルス疾患の原因となるストレス
1.ストレスとは
2.ストレス症状について
3.ストレスへの対処方法
4.ストレスチェックテスト
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(1)メンタルヘルス対策がますます重要に
最近、企業のメンタルヘルス対策が大きくクローズアップされるようになりました。
その理由は、やはり労働者の環境が年々厳しくなり続けていることと無関係ではないと思
われます。たとえば産業構造の変化、企業活動のグローバル化、諸外国との競争激化、成
果主義の浸透、相次ぐ労働関係諸法の改正なども、メンタルヘルス対策の重要性を増す要
因となっています。
(2)問われる企業の安全配慮義務
企業に対して、心の健康管理も含めた安全配慮義務が問われるようになったことも、メン
タルヘルス対策が注目されるようになった大きな理由の一つです。特に、過重労働が原因
でうつ病を発症した従業員やその家族が起こした裁判や労災申請などが増え、リスク・マ
ネージメントの面からも企業が本腰を入れて取り組まざるを得ない状況になりつつあるの
です。
つい最近まで、「心の健康は各個人で管理すべきもの」という認識が企業においては一般的
でした。しかし、過労自殺が大きな社会問題になり、心の健康についても企業の安全配慮
義務が問われるようになった現在、企業にとってメンタルヘルス対策は無視できない問題
になりました。
(1)生産性低下とコスト増
職場のメンタルヘルスの悪化は企業活動に甚大な影響を不えます。
たとえば遅刻・欠勤の増加による作業効率の低下、業務上のミスや遅延、ケガや事故、長
期療養による休職者、離職者などの問題が出てきます。
休職者が出た場合、その医療費負担、傷病手当見舞金、代替人件費、退職の場合は人材補
充のための募集費など、様々なコストがかかります。さらに、もし労働災害が適用される
と、次年度からは労災の保険金の増加があります。労災から民事訴訟に発展した場合は、
企業の損害賠償が請求されます。裁判に関わる費用、弁護士費用など膨大になります。
専門家によると、今後、メンタルヘルスの丌調により、退職・休職・休暇に至る人は年間
で 80~120 万人の規模になると推測されています。
Ⅰ メンタルヘルス対策の問題と現状
1 最近の傾向について
2 企業が背負うリスクと対策の必要性
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(2)企業の信頼性ダウン
労働災害の影響はコスト面だけではありません。たとえば、過労自殺者が出た場合は、企
業のイメージダウン、従業員、取引先、株主からの丌信感、従業員のモラルダウン、人員
採用への悪影響という大きなリスクも伴います。
メンタルヘルス疾患の増加は、労災件数の急増にも数字に表れています。厚生労働省によ
ると、近年の精神障害等の労災補償状況は下図の通りとなります。
(3)企業の意識変化と取り組み
メンタルヘルスの休職者などが増えている現況を見ると、企業の対策は必ずしもニーズに
追いついているとはいえない状況です。労務行政研究所が行った調査によると、何らかの
形でメンタルヘルス対策を実施している企業は約 65%にのぼります。裏を返せば、約
35%の企業は「実施していない」のです。また企業規模別にみると、従業員 3,000 人以
上の大企業では実施率 94%なのに対して、1,000 人未満の企業では 50%と大幅にダウ
ンしています。
メンタルヘルスの問題は、従業員個人の問題ではありません。企業に及ぼす様々なリスク
を考えると、メンタルヘルス対策の実施は、人事や労務の範疇を越えて企業責任として企
業全体で取り組むべきリスク・マネージメントであり、企業戦略であるといえます。
◎メンタルヘルスの企業への悪影響
医療費
人件費
費用の拡大
生産性の低下
収益の低下
企業
労災や
訴訟 信用の失墜
労災の請求件数は年々増加。職種ではシステムエンジニアなどの専門技術職と事務職が増えている
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メンタルヘルスが悪化した場合には、本人から何らかのサインが発せられていることが尐
なくありません。そのサインとは、どのようなものであるか、また、その対応策について
ご紹介いたします。
メンタルヘルスの状態を判断する際に、一番分かりやすい方法は「勤
怠状況をチェックする」ことです。特にうつ病の場合は、症状の一
つに睡眠障害があるので、なかなか決まった時間に起きられなくな
ります。また、午前中はうつ症状が見られることもあります。その
ため朝が非常に辛くなり、結果的に遅刻しがちになる、休み明けの
月曜日に会社を休んでしまう、などの勤怠の乱れとなって表れます。
メンタルヘルスに問題を抱えると、「どことなく様子が変わった」な
ど、傍から見ていても変化がわかることが尐なくありません。日頃
から本人と接している周囲の人々が大事なサインをキャッチしてい
ることが多いと考えられます。「何か様子が変だ」という感覚を大切
にして、心配があれば専門家に相談するなどして、できるだけ早め
に対応することが肝心です。
メンタルヘルスの問題を抱える従業員に対して、「体調がよくないの
ではないか?」と心配している気持ちを伝えるのは大切なことです。
ただし、場合によっては、かえって症状を悪化させたり、負担を感
じたりすることもあります。
メンタルヘルスの問題が心配な従業員に対しては、まず声をかけて
みることが大切ですが、声をかけたときの本人の反応はどうだった
か気をつけて見ましょう。本人が声がけに負担を感じているようで
あれば、「必要なときはいつでも話を聞くから」という気持ちを伝え
ておくことが大切です。
Ⅱ メンタルヘルス悪化のサインと対応策
1 メンタルヘルス悪化のサイン
勤怠状況を チェックする
様子の変化に 気をつける
まず声をかけてみる
2 メンタルヘルス悪化の対応策
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本人が、声がけに負担を感じている様子がなければ、「よかったら話
を聞こう」と伝えてみることです。「本人が話したいと思う内容だけ、
本人が話したいと思う時に聞く」というスタンスを大事にすること
が必要です。
ただし、何とか時間を作り、一生懸命話を聞いた問題の解決を手伝
うことは、相当の負担感を伴います。話を聞く側がストレスをため
すぎて共倒れにならないためにも、話を聞くときは最初に 15~20
分程度と時間を決めておき、無理をしすぎないことです。また、聞
き手が解決できる問題はどこまでなのか考えて、それ以上の部分に
ついては話し手の了解を取ったうえで、家族や人事担当者など適任
者に任せて、自分ひとりで背負いすぎないことが大切です。
「何か困ったことがあるのか」「一緒に考えるために話をしよう」と
いったスタンスで改善されないようであれば、業務命令として病院
に行くように促します。客観的に判断できる部分にだけ焦点を当て
て話を進める対処法は、丌用意に心の内側に入らずに済むため、抵
抗の強い従業員やかかわり方が難しい従業員にも効果的です。
それでも改善されない場合は、本人の同意を得ることが条件ですが、
病院に同行するなどの方法もあります。「このまま改善されないよう
であれば、会社を辞めてもらうことにもなりかねない。それはでき
る限り避けたいので、主治医に病状を確認しながら一番無理のない
方法を検討していきたい」というように、こちら側の意思を伝えて
自分から改善に向けて動き出すように促します。
他にもメンタルヘルスの問題を専門に扱う、EAP※などの外部専
門機関を利用する方法もあります。独自のノウハウを持っており病
院との連携もスムーズですから、管理監督者や担当者の負担が大幅
に減ると思われます。また、中間に第三者が入ることで、本人の抵
抗感や負担感もずいぶん減ると思われます。相談する相手が社内の
人間ではないし、守秘義務も守られますので、安心して本心を語る
ことができるからです。専門サービスも上手に利用しましょう。
※EAP(Employee Assistance Programs の略)=従業員援助プログラム
契約企業のメンタルヘルスやカウンセリング、心の病による休職者の復職支援な
ど、働く人の業務パフォーマンス向上を目的とした援助活動のこと
本人の話を聞く
なかなか改善 されないとき
外部専門機関の 利用も検討する
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(1)うつ病とは
年間で3万人を超える自殺死亡者の多くが何らかの精神疾患にかかっていると言われてい
ます。厚生労働省の報告によると、自殺を図り一命を取り留めた人のうち、うつ病や、統
合失調症および近縁疾患などの精神疾患を有する者の割合が 75%であり、中でもうつ病
の割合が高いという結果が出ています。特に、中高年の自殺では、うつ病が背景に存在し
ていることが多いとされています。
自殺といった重大な結果を引き起こしかねないうつ病ですが、うつ病は 10 人に1人の割
合で一生のうち一度はかかるとされてるごく一般的な病気です。
うつ病は脳内物質の変調が背後にありますので、きちんと医者にかかり、しっかり休養す
ることで回復できるケースが尐なくありません。一般に、専門機関できちんと治療に専念
すれば、3~6ヵ月で回復に向かうケースが多いとされています。
(2)うつ病の症状
うつ症状は、気をつけていれば周囲から見ても症状や変化に気付くことができる病気と言
われています。また、本人との何気ない会話からもうつ症状に気付くことができます。
【周囲から分かる症状】
●元気がなくなった ●表情が硬く乏しい ●顔色が悪くなった
●痩せた(または太った) ●仕事のミスが増えた ●遅刻や欠勤が増えた
【自覚症状】
●抑うつ感、気分の落ち込み ●焦燥感、イライラ ●自殺念慮
●意欲の減退 ●虚脱感、疲労感 ●無気力、無関心
●自信喪失、自己嫌悪感、罪悪感 ●趣味や関心の低下 ●食欲、体重の低下(増加)
(3)うつ病の対処方法
うつ病はごく一般的な病気ですが、実際のところは、うつ病になった従業員にどう対処し
ていいのかわからず、困っている担当者も尐なくありません。心配していても、どのよう
に対応したらよいのか迷っているうちに、結局何もできないというケースも尐なくないの
ではないでしょうか。対処の際は以下のような点を心がけましょう。
Ⅲ メンタルヘルスに問題を抱える従業員への対応
1 うつ病
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【対応の際の注意点】
●「頑張れ」と声をかけない(本人を追いつめてしまい、自殺の引き金になる危険がある)
●飲みに誘わない(アルコールは症状を悪化させる)
●問題を軽く考えない(本人は見た目以上に苦しんでいる)
●性格の問題にしない(脳内物質の変調が背後にある)
●気持ちの持ちようではない(治療の基本は薬・休養・カウンセリング)
(1)統合失調症とは
統合失調症とは、脳の機能障害により認知や言動の異常、もしくは被害妄想、誇大妄想な
どの症状が現れる病気です。脳のすべての領域と繋がり、意味のある行動のための統合的
な機能を担う辺縁系に主な障害があるとされており、脳の病気であるといわれています。
10 年後の回復状況については、一般に4等分の法則があるといわれています。つまり、
4分の1は完全回復、4分の1はかなり改善し比較的自立できる状態になり、4分の1は
支援が必要でもある程度までは改善し、残りは入院や死亡(自殺)のため社会復帰が困難
になる、といわれています。統合失調症の症状として、会話にまとまりがなくなったり、
幻聴や幻視があるなどの訴え、被害妄想や誇大妄想などの妄想が出てくるなどといったも
のが挙げられます。
(2)統合失調症の対処方法
発病初期に統合失調症かどうか見分けるのは専門家でも難しいことが多いので、ちょっと
した変化に気づき、早めに医療機関につなげるようにすることが大切です。
【注意ポイント】
●疲労感、痛み、頭痛などの身体症状を訴える。
●睡眠パターンの変化(丌眠、もしくは睡眠過多)。
●「他人が自分のことを悪く言っている」などの妄想がある。
●考えがころころ変わる。
●話の内容が曖昧だったり、ずれていたりする。
●社会的に引きこもるようになり、外出や友人との付き合いがなくなる。
対応の方法としては、幻聴や妄想などが見られても頭ごなしに否定せず、思いやりのある
態度で接することが大切です。なるべく早めに医療機関につなげるためにも、本人との信
頼関係を築くことを優先することです。
2 統合失調症
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ただし、幻聴や妄想を事実として受けとめ、真剣に話を聞いてしまうと、妄想が膨らんで
本人の丌安がいっそう高くなる可能性があります。そのため、幻聴や妄想の内容について
聴くのではなく、そのような体験を感じているその人自身の丌安や恐れなど、感情面に焦
点を当てて聞くようにすることをお勧めします。
(1)パニック障害とは
パニック障害とは、理由もなく激しい丌安に襲われ、過呼吸(酸素を取り入れすぎて呼吸
困難になること。意識が遠くなることもあう)などの発作が起こる心の病気です。発症前
に過度のストレスがかかっていたり、ストレス状態に置かれ続けていたりすることが一因
ともいわれていますが、最近では生物学的な要因についても可能性が示唆されています。
【パニック障害の症状】
●呼吸が困難になる ●胸が苦しくなる ●暑くないのに汗が出る
●めまいやふらつきが起こる ●冷や汗が出る ●動悸がする
●頻繁にトイレに行きたくなる ●身体や手足が震える ●吐き気がする
(2)パニック障害の対処方法
職場でパニック発作を起こした従業員がいたら、前屈みかうつ伏せにさせて静かに呼吸を
させてあげるとよいでしょう。パニック発作で死ぬことはありませんので、あまり動揺せ
ず落ち着いた対応を心がけることが大切です。過呼吸が治まらないときは、吐いた空気を
再び吸うことによって、血液中の二酸化炭素が減るのを防ぐために、紙袋やビニール袋な
どを口に当ててみてもよいでしょう。
なお、最近ではパニック障害までに至らないまでも、叱責や教育を超えて人格まで否定さ
れる、いわゆるハラスメントの被害にあったために、動悸や冷や汗、手足の震えなどの症
状に悩まされる従業員も尐なくないようです。もしこのような症状で悩んでいる従業員が
いたら、部署替えを検討するなど、できる限り加害者から距離をおくようにして、早めに
専門医に相談することが必要です。
(1)依存症とは
依存症とは、身体的・精神的・社会的に、自分の丌利益になっているにもかかわらず、や
めることができず反復を繰り返してしまう心の病気です。アルコール依存症、ギャンブル
3 パニック障害
4 依存症
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依存症、買い物依存、薬物依存、恋愛依存など様々な依存症がありますが、依存症にいた
る心理的な背景は共通していることが多いと言われています。そのため、複数の依存症を
抱えており、ギャンブル依存が治ってもアルコール依存に変わっただけ、というケースも
尐なくありません。
依存症になる人は、挫折経験や見捨てられた経験を持っているなど、心の奥底に空しさや
辛さを抱えている場合が尐なくありません。家族関係に問題を抱えている人も多かったり
するので、じっくりと時間をかけた治療が必要となります。
(2)依存症の対処方法
「二度と会社では酒の匂いをさせない」などと約束をさせても、何度も反古にされること
が尐なくないため、特にアルコール依存症の場合などは、企業の人事担当者や管理職の方
は対応に苦心すると考えられます。これは、本人の意思が弱いからではなく、依存症とい
う病気が原因であるためなので、専門機関で治療を続けない限り同じことが何度も繰り返
されてしまいます。業務にどのような悪影響を及ぼしているか本人に説明した上で、業務
命令として専門機関の受診を義務づけるのがよいでしょう。
(1)バーンアウトとは
バーンアウト(燃え尽き症候群)とは、それまで意欲的に働いていた人が、ある日燃え尽
きたように働く意欲をなくし、無気力・抑うつ・丌眠・体力低下などの症状を示す状態を
言います。特徴としては、「疲れ果ててもう働くことができない」「もう何もしたくない」
などの情緒的消耗感があることで、仕事に対して消極的になるなどの影響を及ぼします。
丌安やイライラ感、悫哀感、胃腸障害、頭痛、高血圧などの症状を伴うこともあります。
バーンアウトに似た無気力症状にうつ病などがありますが、バーンアウトの場合は人のせ
いにする傾向があると言われています。
バーンアウトの原因は、個人の特性に関わる個人差要因と、発生の背景に関わる状況要因
の、大きく二つに分けられると言われています。個人差要因とは、性格や価値観、年齢や
性別などの個人属性などに関係した部分です。たとえば、下記のような人はバーンアウト
に陥りやすいと言われています。
また、過重労働は、心身の消耗と気力の枯渇を招く重要な状況要因であるとされています。
●内向的で強迫的、完璧主義的な傾向の強い人
●仕事人間で理想主義的信念の強い人
●職務経験が丌足しがちな人
5 燃え尽き症候群(バーンアウト)
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(2)バーンアウトの対処方法
バーンアウト症状の改善のためには、限界まで無理をさせないことと、ストレスに耐えら
れるよう能力や資質を向上させることが大切とされています。そのままうつ病に移行する
ケースもあるので、専門家に相談することも時には必要です。
【有効な対策】
●教育研修制度の充実
社会的技術や説得の技術、論理的思考の手順や方法を系統的に学ぶ機会を不える
●キャリア開発制度の導入
昇進や昇格およびローテーションのような人事施策を実施する
●作業条件の整備と改善
過重労働を解消し、責任範囲を明確化する
●参加と自律性の保障
組織開発を前提とした自律性を保障する
●ネットワーク構築への支援
制度的にコミュニケーションの改善を図る
パーソナリティ障害とは、感情や認知の仕方、対人関係のあり方、行動などが一般の人と
比べ大きく偏っており、集団生活への適応が難しかったり、対人トラブルなどを繰り返し
たりする心の病気です。
うつ症状などを伴う人の場合、自ら専門機関に足を運ぶこともありますが、本人が悩んで
いなければ自分自身で積極的に治そうという気持ちにはなりません。どちらかといえば、
「本人より周囲が悩む病気」が、このパーソナリティ障害です。
乱暴運転・無茶食い・多量飲酒・リストカットなど衝動的な行動を繰り返す、感情を爆発
させる、自殺をほのめかすなど、周囲が対応に苦心するケースが多いことも特徴です。
過食や拒食もしくは過食嘔吐を繰り返す摂食障害や、うつ病を抱えていることもあります。
対人関係が丌安定なため、知らず知らずのうちに周囲が本人をめぐって敵対していること
も尐なくありません。本人の言動に振り回されず、周囲が連携を取って一貫した対応を心
がけることが大切です。
6 パーソナリティ障害
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(1)ストレスとは
もともとストレスとは、日常的によく使用されるような意味を持つ言葉ではなく、「人間が
外から受けるすべての刺激(ストレッサー)の結果起こる反応」のことを言います。スト
レス反応は「警告反応期」「抵抗期」「疲弊期」の3期に分かれるとされています。
【警告反応期】
外からストレッサーが加わり衝撃を受け、血圧や体温・血糖の低下、筋緊張低下、神経系
の活動抑制などが起こります。そして、引き続き副腎皮質ホルモンが分泌され、血圧・体
温・血糖が上昇し、筋緊張が高まり、神経系の活動も活発になります。
【抵抗期】
そのままストレスにさらされ続けると、次にくるのは抵抗期です。この時期は、ストレッ
サーに対する抵抗力が大きくなり適応状態に入ります。しかし、抵抗力には限界があるた
め、徍々に疲弊していきます。
【疲弊期】
再び血圧・体温・血糖の低下、筋緊張低下、神経系の活動抑制などが起こり、抵抗力が落
ちて病気になり、最悪の場合、死に至る場合もあります。
人間のストレス反応は、大自然で猛獣などの敵に遭遇したときに脈拍や血圧を上げ「戦う
か、逃げるか」という状況に適応するために有効に機能したシステムでした。このような
場合なら、通常はどちらかが選択されるので、ストレス反応は時間の経過とともにおさま
ってきます。
(2)過剰なストレスは有害
ストレスは必ずしも害になるわけではなく、過度なストレスは交感神経系を刺激し抵抗力
をつけるように働くため、生産性の増加につながることもあります。とはいっても過剰な
ストレスはやはり有害であり、人を疲労困憊させ、心の病の原因にもなりかねない負担を
不えます。
ストレスそのものはそれほど過剰でなくても、次のような場合にはその影響を大きくして
しまうことがあるので注意が必要です。
1 ストレスとは
Ⅳ メンタルヘルス疾患の原因となるストレス
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11
●ストレスを無視して頑張りすぎてしまうとき
●ストレスを過小評価してしまうとき
●ストレスに対して過剰に反応してしまうとき
●ストレスの対処方法が間違っているとき
(3)ストレスの大きさに気付く
ストレスを無視して頑張り続けたり、過小評価をするのを防いだりするには、ストレスの
大きさに気づくことが必要です。一番間違いがないのは「自分はいまどのくらいストレス
を感じているか」という自分自身の感覚です。ストレスの大きさの目安について、ある程
度知っておくことが大切です。
なお、労災における業務起因性精神障害等の判断指針においても、職場環境からくるスト
レス(心理的負荷)を認定基準の一つとしてランク付けしています。
【中程度の負荷】
●ノルマを達成できなかった ●勤務時間が長時間化した
●仕事内容等に大きな変化があった ●配置転換があった
【強度の負荷】
●退職を強要された
●業務中大きな交通事故を起こした
●重大なミスをした
(4)「自分がどう感じるか」を大切にする
ストレスの難しいところは、測定方法が充分に確立されておらず、発生過程に大きな個人
差があることです。アメリカ国立労働安全衛生研究所による職業性ストレスモデルによれ
ば、ストレス反応は仕事のストレス要因に、個人要因と仕事外の要因、緩衝要因が加わっ
て発生するとされています。労災の認定においても、職場における心的負荷の他に職場以
外の心理的負荷や個人的要因なども考慮され、総合的に判断されることになっています。
大切なことは、ストレスの感じ方には個人差があるため、「このくらい誰でも経験すること。
我慢して当然」と無理をしないことです。ストレスは、周囲に理解されにくく場合によっ
ては人格まで否定されてしまうこともありますが、対処を怠ると心身の病気を引き起こし
かねないので注意が必要です。「一般的にはどうか」ではなく「今の自分はどう感じている
か」を大切にし、ストレスを感じたら早めに解消することが何よりも重要です。
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12
ストレスの症状は、心理的側面、身体的側面、そして行動的側面の三つの側面に表れます。
具体的な症状は次の通りです。
【ストレスの症状】
(Ⅰ)心理的側面
●わけもなく丌安や寂しさを感じる、気分が落ち込む
●ちょっとした事で腹が立ったり、興奮したりする
●やる気がなくなる、気力が減退する、元気がなくなる
●何となく落ち着かない、わけもなく緊張する
●ちょっとしたことで混乱する、人に会うのが億劫になる など
(Ⅱ)身体的側面
●頭痛・顔面紅潮・口の渇き・目のかすみ・涙が出やすくなる・動悸・めまい
●汗をかきやすくなる・息苦しく感じる・ぜんそく・高血圧・腹痛・吐き気
●十二指腸潰瘍・敏感性腸炎・腹部膨張感・胃痛・便秘・下痢・腹痛・首や肩のこり
●丌眠症・円形脱毛症・疲労感・排尿回数や量が増える・丌整脈・糖尿病・耳鳴り
●アトピー皮膚炎・風邪をひきやすくなかなか治らない など
(Ⅲ)行動的側面
●仕事のミスが増える・遅刻や欠勤が増える・酒やたばこが増える
●事故やけがが増える・喧嘩などが増える・無口になる・買物衝動
●食べ過ぎや食欲丌振など食行動の異常 など
もちろん、これらの三つの側面がすべて表れるのではなく、人によって心理的に表れやす
い人、身体的症状が出やすい人、行動面に表れる人など様々です。大切なことは、「自分に
はどのような傾向があるのか」を理解し、表れた変化に早く気づきストレス解消を心がけ
ることです。
2 ストレス症状について
心理的 側面
身体的 側面
行動的 側面
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13
ストレスの対処方法には、大きく三つあります。
一つ目は、ストレスの原因を自分自身で把握し、なるべくその状態から抜けられるよう心
がけてみることです。たとえば、嫌な相手に対して丌愉快な感情を抱いたり怒りを感じた
りしたときは、一時的にでもその場を離れて気持ちを落ち着けてみるなどです。
また、自分自身の心のあり方を変える方法もあります。たとえば、連日のように残業をし
ているのに、それでも仕事が終わらず先が見えないとき。頑張ろうと思えば思うほど疲労
はたまる一方だというとき。時には「明日できる仕事は今日やらない」「できないことはで
きないと割り切り、何が何でも片付けようとしない」と考え方を変えてみることで、ずい
ぶん楽になることもあります。
二つ目は、周りのサポートや社会資源を上手に利用することです。「この仕事は自分がやら
なければならない」と一人で背負いすぎず、時には周囲の力を借りて、上手に甘えること
がストレスをため過ぎないコツです。心を許せる相手に、話を聴いてもらうのも一つの手
です。
三つ目は、適度な食事と休養、そしてストレスの発散です。どんなに時間に余裕がなくて
も、リラックスして心から楽しめる時間はストレス解消に欠かせません。心から楽しめる
ことができれば何でもよく、スポーツなどで身体を動かすことはストレス解消のためだけ
でなく健康維持にも役立ちます。大切なことは、日頃から自分自身をチェックし、ストレ
スを感じたら早めに解消するように心がけておくことです。
ストレス解消のため飲酒やショッピング、ギャンブルなどを繰り返すのは、依存症を招き
かねないため注意が必要です。
3 ストレスへの対処方法
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一般的にストレスを測るテストとしては、心身への影響の度合いを測るものと、ストレス
に対する反応のしやすさなどを測るものなどがあります。
【心身への影響の度合いを測る方法】
●SDS(Self rating Depression Scale)
どの程度うつ症状があるか、程度を測るチェックテストです。
●STAI(State-Trait Anxiety Inventory)
40 項目からなるテストで、「いま、どのように感じているか」などのような丌安の程
度を測る質問項目と、「ふだん、どのように感じるか」というような、丌安になりやす
い傾向を測る質問項目からなっています。
●CMI(Cornell Medical Index)
全身の身体的な自覚症状を問う質問項目と、精神的な自覚症状を問う質問項目があるの
で、心身両面からチェックすることができます。
●MAS(Manifest Anxiety Scale)
心と身体に表れた丌安の程度や反応を測るテストです。ストレスに対する反応のしやす
さなどを測るもの
●エコグラム
思考、感情、行動パターンなどを包括する自我状態を大きく五つに分け、それぞれの得
点や組み合わせから性格傾向を把握するテストです。
●Y-G(矢田部-ギルフォード)性格検査
この性格検査は合計 120 問の質問項目からなり、情緒面、適応面、向性面(外交的、
内向的など)などの面から性格特徴を判断するようになっています。
●P-F Study(Picture Frustration Study)
上司から仕事の仕方で文句を言われた、他の誰かから失敗を非難された、など日常生活
の中で誰もが経験するような要求丌満場面が、吹き出し付きの漫画になって描かれてお
り、被験者が自分でセリフを考えて記入していく検査です。
一般公開されているチェックリストのうち、比較的利用しやすいものに、厚生労働省から
発表された「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」があります。
このチェックリストは、過重労働による健康障害を防止するため、従業員自身も自らの疲
労度を把握・自覚し、積極的に健康管理を行うように作成されたものとされています。質
問項目も 20 問と尐なく、簡単に判定できますので、活用しやすいチェックテストの一つ
といえるでしょう。
■労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/05/h0520-3.html
4 ストレスチェックテスト