カルマンフィルタとその改良 -オンライン異常値検出・除去...

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カルマンフィルタとその改良 −オンライン異常値検出・除去への対応− ○金田 泰昌 *1) 、入月 康晴 *1) ■キーワード カルマンフィルタ、異常値、外れ値 1.オンライン信号処理により 観測ノイズを低減することが可能 2.異常値外れ値と呼ばれる特殊なノイズを少ない遅延で検出・除去することが可能 3.特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータ調整が不要 ■研究の目的 観測ノイズを低減する手法としてカルマンフィルタ(以下、KF という)が広く用いられている。しかし、異 常値や外れ値と呼ばれる特殊なノイズがセンサに混入した場合、 KF では対応できない。そこで、本研究では、 これら特殊ノイズを検出・除去する手法を開発する。また、特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータの 設計論を確立し、パラメータの調整が不要な手法を開発する。 ■研究内容 (1) 提案手法の概要 KF は、数学的には図 1(a) の最適化問題に帰着される。提案手法は、 これに L 1 正則化項と呼ばれる項を追加したものである(図 1(b))。こ こでλは設計パラメータである。L 1 正則化を利用することでゼロの値 が正確に推定できる 〔1〕 。一方、異常値はまれに発生する値であるため、 通常はゼロの値をとる。そこで、提案手法では、L 1 正則化を利用して 異常値を推定することで、より正確な推定が可能となる。また、提案 手法ではパラメータλが観測ノイズの分散値から設計できることを数学 的に証明している(本要旨では説明省略) 〔2〕 (2) 評価条件 評価環境を図 2 に示す。提案手法を FPGA(Cyclone Ⅲ / Nios II/ e 50MHz)に実装し、テスト信号に対する異常値除去結果を観測する(な お、今回は検出結果の評価は行わない)。テスト信号は異常値を伴う 正弦波(振幅 1V、周波数 1Hz)とし、Signal Generator から発生させる。 (3) 結果 図 3 より、KF では異常値が 除去できていないが、提案手 法では除去できていることが分 かる。 また、 図 4 より、 異常 値除去の代表的な手法である メディアンフィルタは、異常値 を除去するためにデータ長 N を 大きくする必要があるため、異 常値を除去する際に大きな遅 延が生じていることが分かる。 ■研究の新規性・優位性 メディアンフィルタに比べて特殊ノイズの除去によ る遅延が少ない。また、特殊ノイズの検出が可 能である。 特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータの設 計論を数学的に導出することで、設計に理論的 な妥当性を与えることができる。また、パラメー タが自動的に決定されるため、調整が不要となる。 ■産業への展開・提案 ①迷光ノイズ、クラッタの低減 ②非接触型センサ(超音波センサ、レーダ計測、 画像計測、など)のノイズ低減 ③異常値検出の応用(リアルタイム故障検出、 リアルタイムネットワーク侵入検知、など) 参考文献 〔1〕J.Mattingley and S.Boyd, IEEE Signal Processing Magazine (2010) 〔2〕Y.Kaneda, et, al., Proc.IECON, pp.2210-2215 (2012) *1) 情報技術グループ H24.4 〜 H25.3【基盤研究】外れ値除去フィルタリングの開発 Signal Generator Oscilloscope FPGA Board 図 1.KF の数学的表現とその改良 図 2.評価環境 図 3.KF vs. 提案手法 図 4.メディアンフィルタによる結果 (a)KF (b)提案手法 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 1.5 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 -2 Time[s] measurement KF proposed method 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 1.5 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 -2 Time[s] [V] [V] measurement median(N=3) median(N=10) 平成27年度 研究成果発表会 情報技術 | 34 |

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Page 1: カルマンフィルタとその改良 -オンライン異常値検出・除去 …カルマンフィルタとその改良 −オンライン異常値検出・除去への対応−

カルマンフィルタとその改良 −オンライン異常値検出・除去への対応−

○金田 泰昌 *1)、入月 康晴 *1)

■キーワード カルマンフィルタ、異常値、外れ値

1.オンライン信号処理により観測ノイズを低減することが可能2.異常値や外れ値と呼ばれる特殊なノイズを少ない遅延で検出・除去することが可能 3.特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータ調整が不要

■研究の目的

観測ノイズを低減する手法としてカルマンフィルタ(以下、KFという)が広く用いられている。しかし、異常値や外れ値と呼ばれる特殊なノイズがセンサに混入した場合、KFでは対応できない。そこで、本研究では、これら特殊ノイズを検出・除去する手法を開発する。また、特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータの設計論を確立し、パラメータの調整が不要な手法を開発する。

■研究内容

(1)提案手法の概要KFは、数学的には図1(a)の最適化問題に帰着される。提案手法は、

これにL1 正則化項と呼ばれる項を追加したものである(図1(b))。ここでλは設計パラメータである。L1 正則化を利用することでゼロの値が正確に推定できる〔1〕。一方、異常値はまれに発生する値であるため、通常はゼロの値をとる。そこで、提案手法では、L1 正則化を利用して異常値を推定することで、より正確な推定が可能となる。また、提案手法ではパラメータλが観測ノイズの分散値から設計できることを数学的に証明している(本要旨では説明省略)〔2〕。

(2)評価条件評価環境を図2に示す。提案手法をFPGA(Cyclone Ⅲ / Nios II/

e 50MHz)に実装し、テスト信号に対する異常値除去結果を観測する(なお、今回は検出結果の評価は行わない)。テスト信号は異常値を伴う正弦波(振幅1V、周波数1Hz)とし、Signal Generatorから発生させる。

(3)結果図 3より、KFでは異常値が

除去できていないが、提案手法では除去できていることが分かる。また、図 4より、異常値除去の代表的な手法であるメディアンフィルタは、異常値を除去するためにデータ長Nを大きくする必要があるため、異常値を除去する際に大きな遅延が生じていることが分かる。

■研究の新規性・優位性

メディアンフィルタに比べて特殊ノイズの除去による遅延が少ない。また、特殊ノイズの検出が可能である。特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータの設計論を数学的に導出することで、設計に理論的な妥当性を与えることができる。また、パラメータが自動的に決定されるため、調整が不要となる。

■産業への展開・提案

①迷光ノイズ、クラッタの低減②非接触型センサ(超音波センサ、レーダ計測、画像計測、など)のノイズ低減

③異常値検出の応用(リアルタイム故障検出、リアルタイムネットワーク侵入検知、など)

参考文献〔1〕J.Mattingley and S.Boyd, IEEE Signal Processing Magazine (2010)〔2〕Y.Kaneda, et, al., Proc.IECON, pp.2210-2215 (2012)

*1)情報技術グループ H24.4〜 H25.3【基盤研究】外れ値除去フィルタリングの開発

情報技術

平成 27 年度 研究成果発表会

Signal Generator

Oscilloscope

FPGA Board

カルマンフィルタとその改良 -オンライン異常値検出・除去への対応- ○金田 泰昌*1)、入月 康晴*1)

■キーワード カルマンフィルタ、異常値、外れ値 1. オンライン信号処理により観測ノイズを低減することが可能

2. 異常値や外れ値と呼ばれる特殊なノイズを少ない遅延で検出・除去することが可能

3. 特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータ調整が不要 ■研究の目的

観測ノイズを低減する手法としてカルマンフィルタ(以下、KF という)が広く用いられている。しか

し、異常値や外れ値と呼ばれる特殊なノイズがセンサに混入した場合、KF では対応できない。そこで、

本研究では、これら特殊ノイズを検出・除去する手法を開発する。また、特殊ノイズの検出・除去に必

要なパラメータの設計論を確立し、パラメータの調整が不要な手法を開発する。

■研究内容

(1) 提案手法の概要

KFは、数学的には図1(a)の最適

(3) 結果

図3より、KFでは異常値が除去で

きていないが、提案手法では除去で

きていることが分かる。また、図4

より、異常値除去の代表的な手法で

あるメディアンフィルタは、異常値

を除去するためにデータ長Nを大き

くする必要があるため、異常値を除

去する際に大きな遅延が生じてい

ることが分かる。

■研究の新規性・優位性

メディアンフィルタに比べて特殊ノイズの除

去による遅延が少ない。また、特殊ノイズの検

出が可能である。

特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータの設

計論を数学的に導出することで、設計に理論的

な妥当性を与えることができる。また、パラメータが

自動的に決定されるため、調整が不要となる。

■産業への展開・提案

①迷光ノイズ、クラッタの低減

②非接触型センサ(超音波センサ、レーダ計測、

画像計測、など)のノイズ低減

③異常値検出の応用(リアルタイム故障検出、

リアルタイムネットワーク侵入検知、など)

参考文献

〔1〕J. Mattingley and S. Boyd, IEEE Signal Processing Magazine (2010)

〔2〕Y. Kaneda, et, al., Proc. IECON, pp.2210-2215 (2012)

*1)情報技術グループ

H24.4~H25.3【基盤研究】外れ値除去フィルタリングの開発

図 4. メディアンフィルタによる結果図 3. KF vs. 提案手法

(a)KF (b)提案手法

図1.KFの数学的表現とその改良

図2.評価環境

図3.KF vs. 提案手法 図 4.メディアンフィルタによる結果

情報技術

平成 27 年度 研究成果発表会

Signal Generator

Oscilloscope

FPGA Board

カルマンフィルタとその改良 -オンライン異常値検出・除去への対応- ○金田 泰昌*1)、入月 康晴*1)

■キーワード カルマンフィルタ、異常値、外れ値 1. オンライン信号処理により観測ノイズを低減することが可能

2. 異常値や外れ値と呼ばれる特殊なノイズを少ない遅延で検出・除去することが可能

3. 特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータ調整が不要 ■研究の目的

観測ノイズを低減する手法としてカルマンフィルタ(以下、KF という)が広く用いられている。しか

し、異常値や外れ値と呼ばれる特殊なノイズがセンサに混入した場合、KF では対応できない。そこで、

本研究では、これら特殊ノイズを検出・除去する手法を開発する。また、特殊ノイズの検出・除去に必

要なパラメータの設計論を確立し、パラメータの調整が不要な手法を開発する。

■研究内容

(1) 提案手法の概要

KFは、数学的には図1(a)の最適

(3) 結果

図3より、KFでは異常値が除去で

きていないが、提案手法では除去で

きていることが分かる。また、図4

より、異常値除去の代表的な手法で

あるメディアンフィルタは、異常値

を除去するためにデータ長Nを大き

くする必要があるため、異常値を除

去する際に大きな遅延が生じてい

ることが分かる。

■研究の新規性・優位性

メディアンフィルタに比べて特殊ノイズの除

去による遅延が少ない。また、特殊ノイズの検

出が可能である。

特殊ノイズの検出・除去に必要なパラメータの設

計論を数学的に導出することで、設計に理論的

な妥当性を与えることができる。また、パラメータが

自動的に決定されるため、調整が不要となる。

■産業への展開・提案

①迷光ノイズ、クラッタの低減

②非接触型センサ(超音波センサ、レーダ計測、

画像計測、など)のノイズ低減

③異常値検出の応用(リアルタイム故障検出、

リアルタイムネットワーク侵入検知、など)

参考文献

〔1〕J. Mattingley and S. Boyd, IEEE Signal Processing Magazine (2010)

〔2〕Y. Kaneda, et, al., Proc. IECON, pp.2210-2215 (2012)

*1)情報技術グループ

H24.4~H25.3【基盤研究】外れ値除去フィルタリングの開発

図 4. メディアンフィルタによる結果図 3. KF vs. 提案手法

(a)KF (b)提案手法

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

1.5

1

0.5

0

-0.5

-1

-1.5

-2

Time[s]

measurementKFproposed method

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

1.5

1

0.5

0

-0.5

-1

-1.5

-2

Time[s]

[V

[V

measurementmedian(N=3)median(N=10)

平成27年度 研究成果発表会情報技術

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