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クロスカリキュラムによる授業開発の提案 Developing Classes with the Cross Curriculum 中安 雅美、小澤 栄美、猪又 英夫、白鳥 NAKAYASU, Masami 1)2) , OZAWA, Emi 2) , INOMATA, Hideo 2) , SHIRATORI, Yasushi 2) 千葉大学大学院工学研究科 1) 、東京都立多摩科学技術高等学校 2) Chiba University 1) , Tokyo Metropolitan Tama High School and Technology 2) 東京都立多摩科学技術高等学校(以下、本校)は、東京都内でも新しい高校であり平成 22 に開校した。また、平成 24 年には文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(以下、 SSHの指定を受け、さらに平成 29 年に 2 期目に入った。本校の特色のひとつである、普通教科と科 学技術科の教科を生かした授業展開として、双方の授業で共有できるところをクロスカリキュラ ムにより実施することで各教科の生徒への理解度向上へと繋がっていくと考える。そこで本校の カリキュラムを用いてクロスカリキュラムが可能な教科を思考し、授業を提案する。 SSH クロスカリキュラム 高大連携 科学技術 1.はじめに 東京都立多摩科学技術高等学校(以下、本校) は平成 22 4 月に開校し、平成 24 4 月に文部 科学省からスーパーサイエンスハイスクール(以 下、 SSH1の指定を受けた。平成 29 4 月には SSH2 期目の指定を受け、 8 期生も本校に入学し比 較的東京都では新しい高校である。 本校は、東京都に 2 校しかない科学技術科とし て、生徒数は 1 学年 210 名、 6 クラスで構成され、 科学技術及び理数教育に特化した専門高校であ り、理系 4 年制大学への進学を前提とした取り組 みを行っている。1 年次は普通教科と科学技術科 として様々な分野の基礎を座学や実験を通して 身につけ、 2 年次以降は、バイオテクノロジー(BT領域、エコテクノロジー(ET)領域、インフォメ ーションテクノロジー(IT)領域、ナノテクノロ ジー(NT)領域の4つの領域の中から各自希望す る領域に所属して、各領域の専門科目を履修して いく(図1参照)。 本校の普通科の授業は、各教科 ICT やアクティ ブラーニングを取り入れた内容であったり、放課 後の時間による講習を実施したり大学進学へ向 けた取り組みを行っている。また、科学技術科に よる授業は、学校設定科目が多く、「科学技術と 人間」、「課題研究」、「卒業研究」など机上にとら われず、各担当の教員が工夫を凝らした授業を進 めている。 図1 本校のカリキュラム(平成 29 年度) 2.目的 本校は、大学進学を前提とした専門高校であり 比較的学力の高い生徒が入学してきている。また、 入学した時点で理系ということから大学進学に 向け、非常に意欲的な生徒も多い。しかし、受験 に必要とならない科目についての取り組みに関 して弱い一面が見られたり、なぜこの授業をしな くてはいけないかという学生にはよく見られる 疑問に落ちったりすることがあり、途中で受験に 対する意欲が低下してしまう傾向が見られる。そ 日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 32 No. 5(2017) ― 195 ―

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図 2 アンケート質問項目とアンケート集計結果

図 3 生徒感想をもとに作成した共起ネットワーク

1 2 3 4アジの口の構造がわかりましたか 設問1 わかった ややわかった 変わらない わからなくなった消化管のつながりを理解することができましたか 設問2 理解できた やや理解できた 変わらない わからなくなった魚のエラのつくりがわかりましたか 設問3 わかった ややわかった 変わらない わからなくなった魚の心臓のつくりがわかりましたか 設問4 わかった ややわかった 変わらない わからなくなった脊椎動物について理解が深まりましたか 設問5 理解できた やや理解できた 変わらない わからなくなった

解剖実験を行った感想をお答えください 設問6かなり勉強になった

やや勉強になったあまり勉強にならなかった

嫌だった

クロスカリキュラムによる授業開発の提案

Developing Classes with the Cross Curriculum 中安 雅美、小澤 栄美、猪又 英夫、白鳥 靖

NAKAYASU, Masami1)2), OZAWA, Emi2), INOMATA, Hideo2), SHIRATORI, Yasushi2) 千葉大学大学院工学研究科 1)、東京都立多摩科学技術高等学校 2)

Chiba University1), Tokyo Metropolitan Tama High School and Technology2)

[要約]東京都立多摩科学技術高等学校(以下、本校)は、東京都内でも新しい高校であり平成 22年

に開校した。また、平成 24年には文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)

の指定を受け、さらに平成 29年に 2期目に入った。本校の特色のひとつである、普通教科と科

学技術科の教科を生かした授業展開として、双方の授業で共有できるところをクロスカリキュラ

ムにより実施することで各教科の生徒への理解度向上へと繋がっていくと考える。そこで本校の

カリキュラムを用いてクロスカリキュラムが可能な教科を思考し、授業を提案する。

[キーワード]SSH クロスカリキュラム 高大連携 科学技術

1.はじめに 東京都立多摩科学技術高等学校(以下、本校)

は平成 22年 4月に開校し、平成 24年 4月に文部

科学省からスーパーサイエンスハイスクール(以

下、SSH)1)の指定を受けた。平成 29年 4月には

SSH2期目の指定を受け、8期生も本校に入学し比

較的東京都では新しい高校である。

本校は、東京都に 2校しかない科学技術科とし

て、生徒数は 1学年 210名、6クラスで構成され、

科学技術及び理数教育に特化した専門高校であ

り、理系 4年制大学への進学を前提とした取り組

みを行っている。1 年次は普通教科と科学技術科

として様々な分野の基礎を座学や実験を通して

身につけ、2年次以降は、バイオテクノロジー(BT)

領域、エコテクノロジー(ET)領域、インフォメ

ーションテクノロジー(IT)領域、ナノテクノロ

ジー(NT)領域の4つの領域の中から各自希望す

る領域に所属して、各領域の専門科目を履修して

いく(図1参照)。

本校の普通科の授業は、各教科 ICTやアクティ

ブラーニングを取り入れた内容であったり、放課

後の時間による講習を実施したり大学進学へ向

けた取り組みを行っている。また、科学技術科に

よる授業は、学校設定科目が多く、「科学技術と

人間」、「課題研究」、「卒業研究」など机上にとら

われず、各担当の教員が工夫を凝らした授業を進

めている。

図1 本校のカリキュラム(平成 29年度)

2.目的 本校は、大学進学を前提とした専門高校であり

比較的学力の高い生徒が入学してきている。また、

入学した時点で理系ということから大学進学に

向け、非常に意欲的な生徒も多い。しかし、受験

に必要とならない科目についての取り組みに関

して弱い一面が見られたり、なぜこの授業をしな

くてはいけないかという学生にはよく見られる

疑問に落ちったりすることがあり、途中で受験に

対する意欲が低下してしまう傾向が見られる。そ

日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 32 No. 5(2017)

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こで、クロスカリキュラムを用いて授業を展開す

ることにより、生徒たちの各教科に興味・関心を

持つような授業の開発を提案していく。

3.クロスカリキュラムの定義

生徒の学習意欲を向上させ、「確かな学力」を育成するためには、あらゆる教科の中で問題解決

をしていく必要がある。さらに各教科で得た知識

の関連に気づかせて、「知的好奇心」を引き出し、

学習の意義を実感させながら学ばせることが重

要である。

クロスカリキュラムは、各教科間の内容を連携

させることで、各教科で扱われる教育内容を効率

的に理解させ、広い視野で応用・活用する力を身

につけることをねらいとする。

また、ここでいう効率的とは各教科の指導内容

を確認し、今まで各教科で別々に扱われていた単

元、教材を複数教科間で再構築することがクロス

カリキュラムの考え方であり、限りある授業時間

内により深く内容を理解することが効率的な学

習につながると考える。

4.研究方法 授業力を向上させるために本校の普通科どう

し、普通科と科学技術科また、科学技術科内(BT、

ET、IT、NT)どうしにおいて授業を参観する。

参観した授業科目の教科を通して自らの教科

と連携ができるところを模索し、授業の提案を考

える(図 2参照)。

図2 本校によるクロスカリキュラム

5.授業提案

【提案1】

教科:英語科 × 理科

◎授業のねらい

・英語科

「中学校・高校の単語・文法の復習」

・理科(物理・化学・生物)

「中学校の理科の復習」と「高校で学んだ

内容の復習」

これらの授業は単独で行われてきた。グローバ

ル化と言われている現在、それぞれの授業は理解

できても理系の専門的な単語や表現方法を学ぶ

時間を設けることが難しい。しかし、英語科と理

科が学習内容を共有し連携することで、生徒たち

に理系英語について学ばす機会を設けることが

できる。この授業は、理系大学へ進学したときに

効果が期待できると考えた(図 3参照)。

図3 化学を例にした授業のフローチャート

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【提案2】

教科:体育科 × 理科(物理)

◎授業のねらい

・体育科

「ハンドボール投げ」

・理科(物理)

「物体の運動」

体育科の体力測定で 9項目あるうちの 1つとし

てハンドボール投げを実施している。このハンド

ボール投げを力任せで投げてしまうのではなく

理科(物理)による物体の運動を学んだところで

最も遠くまで飛距離を伸ばすためにはどうした

ら良いかを考えさせ、実践させてみる。理論値と

実際に投げたときによる考察を行うことで、より

物体の運動についての理解も深まり、ハンドボー

ル投げをする際に意識して投げるようになると

考えた(図 4参照)。

図 4 授業のフローチャート

【提案3】

教科:家庭科 × 科学技術科(ET)

◎授業のねらい

・家庭科

「食生活と環境」

・科学技術科(ET)

「環境対策技術の基礎」

家庭科において食生活とエネルギー消費の関

係性について学ぶ。この単元から食生活のあり方

を考え、買い物から片付けまでを通し、省資源、

省エネルギーの方法について見直す。また、まだ

食べられるものを捨てることは、エネルギーを捨

てる、環境に負荷を与える行動であることから科

学技術科の環境対策と連携することでどのよう

にエネルギー変換をしていくことが可能か具体

策を練ることができると考えた(図 5参照)。

図 5 授業のフローチャート

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【提案4】

教科:科学技術科(IT) × 科学技術科(ET)

◎授業のねらい

・科学技術科(IT)

「課題研究」

・科学技術科(ET)

「課題研究」

IT 領域は自ら決めたテーマに対してプログラ

ミングや工作をする生徒が多い。また、ET 領域

は水質浄化や廃棄物による環境をテーマにした

生徒が多い。このように課題研究は各領域内で研

究をしているが、各領域で研究の内容においては

共有できるところを共同で研究をしていくが可

能であると考えた(図 6参照)。

図 6 授業のフローチャート

6.まとめ

今回は、本校のカリキュラムをベースに普通教

科と科学技術科、双方で実施可能な授業の提案を

考えた。各教科対応できそうな内容を提案してい

くことで生徒たちの理解度も上がっていくと考

えられる。

しかし、担当教員や授業の内容によるためすべ

ての授業でクロスカリキュラムを取り入れて実

施することは難しい。そこで、希望者を募って放

課後の講習などで実施していく事が現段階で考

えられる方法であるが、後々は授業の中に取り入

れ展開していく手段を構築していく考えである。

註)

1)文部科学省では、将来の国際的な科学技術関

係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施

する高等学校を「スーパーサイエンスハイスクー

ル(SSH)」として指定している。SSH事業は高等

学校において、学習指導要領によらないカリキュ

ラムの開発・実践や課題研究の推進、観察・実験

などを通じた体験的・問題解決的な学習、高大接

続の在り方について大学との共同研究や、国際性

を育むための取り組みを推進し、また、創造性、

独創性を高める指導方法、教材の開発などの取り

組みを実施している。

引用及び参考文献

[1]山川宏,松本幸久,中村賢,石井晃,高橋正美,

神崎洋一,理科と他教科とのクロスカリキ

ュラムに関する基礎研究,神奈川県立教育

センター研究集録 18:21~24,1999

[2]野口徹,学びの総合化を促す学校カリキュ

ラムの開発,学習情報研究,2005.9

[3]野上智行,「クロスカリキュラム」理論と方

法,明治図書出版, 1996.9

[4]文部科学省,高等学校学習指導要領解説,理

科編,平成 21年,7月

[5]文部科学省,高等学校学習指導要領解説,家

庭編,平成 22年,1月

[6]文部科学省,高等学校学習指導要領解説,工

業編,平成 22年,1月

日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 32 No. 5(2017)

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