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NHK 放送文化研究所年報 2009 95 テレビドラマの なき変転 ~ 20 代女性のドラマ受容の考察~ メディア研究部  阿部康彦 要 約 目 次 メディア環境が急変容している中,若年層のテレビドラマ視聴が「低迷」している。その要因の所在 を求め,ドラマと 20 代女性との関係の考察を試みたい。道具立てとして,ドラマ視聴の充足概念を, 「人物への好感」「カタルシス」「共感」「学び」の4つにカテゴリー化してみる。 プレ調査からは,20 代女性がドラマに対してかなり「疎遠」であること,ドラマ視聴と生活意識・価 値観には関係があり,受動的な人の方がドラマを多く見ること,この世代は「カタルシス」志向は強い が「共感」への意識は薄いこと等が抽出できた。それを踏まえて,比較層の30 40 代も含む定量調査を 実施した。年層差では,ドラマへの執着は世代が上であるほど強い。20 代の充足特性としては,「学び」 への潜在欲求が読み取れる。また,ドラマへの「疎遠」の表層理由は,「時間的・精神的な余裕の低減」 と「コンテンツの視聴意欲減退」に集約できる。 そして,20 代女性の生活意識と価値観による因子分析から,「流行好き」「保守・大衆」「文化系・サブ カル」「生活謳歌」「前進派」の5タイプに分類すると,ドラマ視聴が多いのは前者の2タイプで,後者3 タイプは低視聴の傾向があるだけでなく共感意識も低いことがわかった。調査結果を含め1990 年代から の社会・文化的変容から鑑みて,ドラマへの「疎遠」の深層レベルとしては,「テレビ拘束からの<離 反>」,「消費文化追従への<反感>」,「共感の<迷走>」といった要因が推察しうる。中でも90 年代か ら起きている共感のあり方の変化が,20 代女性のドラマ視聴様相のカギを握っているといえる。その背 景には,現在のドラマにおける「リアリズム」の変容が横たわっている。 深化していく多メディア時代において,日本のテレビドラマがあらためて受け手に対する「意味」を 保持するには,われわれが立つ社会の変容とドラマ充足との関連性を,見据えることが不可欠と思われる。 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96 Ⅰ 90 年代ドラマと若年層の関係 ・・・・・・・・・・・・ 97 1.「消費されるドラマ」の役割 2.年層別視聴率の推移 視聴意識を捉えるフレーム ・・・・・・・・・・・・・ 102 1.女性にとってのドラマ 2.ドラマ充足の概念 Ⅲ 20 代女性とドラマのポジション ・・・・・・・・ 108 1.基本様相としての「疎遠化」 2.ドラマ視聴の年層比較 3.疎遠化の表層要因 4.受動性と能動性の二極化 Ⅳ タイプ分類による20 代女性 ・・・・・・・・・・・・・ 120 1.前提となる成長背景 2.20 代女性の5タイプ 考察・ドラマ意識の変転・・・・・・・・・・・・・・・・ 130 1.テレビ文化としてのドラマ共感 2.リアリズムの変容をめぐる状況 おわりに~現在形に潜在する可能性 ・・・・ 137 *p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ95

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NHK放送文化研究所年報2009│95

テレビドラマの「軸」なき変転~20代女性のドラマ受容の考察~

メディア研究部 阿部康彦

要 約

目 次

メディア環境が急変容している中,若年層のテレビドラマ視聴が「低迷」している。その要因の所在

を求め,ドラマと20代女性との関係の考察を試みたい。道具立てとして,ドラマ視聴の充足概念を,

「人物への好感」「カタルシス」「共感」「学び」の4つにカテゴリー化してみる。

プレ調査からは,20代女性がドラマに対してかなり「疎遠」であること,ドラマ視聴と生活意識・価

値観には関係があり,受動的な人の方がドラマを多く見ること,この世代は「カタルシス」志向は強い

が「共感」への意識は薄いこと等が抽出できた。それを踏まえて,比較層の30・40代も含む定量調査を

実施した。年層差では,ドラマへの執着は世代が上であるほど強い。20代の充足特性としては,「学び」

への潜在欲求が読み取れる。また,ドラマへの「疎遠」の表層理由は,「時間的・精神的な余裕の低減」

と「コンテンツの視聴意欲減退」に集約できる。

そして,20代女性の生活意識と価値観による因子分析から,「流行好き」「保守・大衆」「文化系・サブ

カル」「生活謳歌」「前進派」の5タイプに分類すると,ドラマ視聴が多いのは前者の2タイプで,後者3

タイプは低視聴の傾向があるだけでなく共感意識も低いことがわかった。調査結果を含め1990年代から

の社会・文化的変容から鑑みて,ドラマへの「疎遠」の深層レベルとしては,「テレビ拘束からの<離

反>」,「消費文化追従への<反感>」,「共感の<迷走>」といった要因が推察しうる。中でも90年代か

ら起きている共感のあり方の変化が,20代女性のドラマ視聴様相のカギを握っているといえる。その背

景には,現在のドラマにおける「リアリズム」の変容が横たわっている。

深化していく多メディア時代において,日本のテレビドラマがあらためて受け手に対する「意味」を

保持するには,われわれが立つ社会の変容とドラマ充足との関連性を,見据えることが不可欠と思われる。

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96

Ⅰ 90年代ドラマと若年層の関係 ・・・・・・・・・・・・ 97

1.「消費されるドラマ」の役割2.年層別視聴率の推移

Ⅱ 視聴意識を捉えるフレーム ・・・・・・・・・・・・・ 102

1.女性にとってのドラマ2.ドラマ充足の概念

Ⅲ 20代女性とドラマのポジション ・・・・・・・・ 108

1.基本様相としての「疎遠化」2.ドラマ視聴の年層比較

3.疎遠化の表層要因4.受動性と能動性の二極化

Ⅳ タイプ分類による20代女性 ・・・・・・・・・・・・・ 120

1.前提となる成長背景2.20代女性の5タイプ

Ⅴ 考察・ドラマ意識の変転・・・・・・・・・・・・・・・・ 130

1.テレビ文化としてのドラマ共感2.リアリズムの変容をめぐる状況

Ⅵ おわりに~現在形に潜在する可能性 ・・・・ 137

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ95

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はじめに

メディアの変容によるテレビの位置付けの

後景化が論じられる現在,テレビコンテンツ

の一ジャンルであるドラマは,受け手にとっ

ていかなる<価値>を保持しているのか。

NHK放送文化研究所(以下,文研と略す)

が5年に一度実施している「日本人とテレビ」

調査の「ふだんよく見る番組」の順位では,

ドラマはニュース,天気予報に次ぎ常時高位

3番目に位置し,20年間変わっていない1)。

放送局にとっても視聴者にとっても,その存

在は磐石かに見える。しかしドラマと受け手

の関係の内実は,しばらく前から悩ましい変

化が生じてきている。それは,視聴量の低減

(見られなくなった),及び視聴意識の変質

(見方が違ってきた)であり,放送関係専門

誌等のマスコミで散見される「ドラマ冬の時

代」の議論も,この2点とコンテンツとの関

連についてのものが多い2)。

前者は端的に,視聴率の変化に見てとれる。

たとえば7月期3)夜間の連続ドラマ(NHK

大河ドラマは除く)で,ビデオリサーチ世

帯視聴率(関東地区)平均15%以上のものを,

1998・2003・2008年と5年ごとに並べてみた

(表1)。その量的変化は,表にあるような高

視聴率ドラマ4)の減少,加えての低視聴率ド

ラマ5)の増加,それによるドラマ全体の視

聴量低減の形で厳然と現れている。

後者の質的な様相変化については,これか

らの考察に先立ち,送り手側の現状認識をあ

えて紹介しておきたい。日本映画テレビプロ

デューサー協会会長の杉田成道6)が,2008

年3月に「テレビドラマの現在」を特集した

放送専門誌に一文を寄せている。

「テレビは見えない力によってギリギリと

瀬戸際に立たされている」という杉田は,長

年自らがドラマ制作において立脚してきた前

提の様変わりを見据え,現在のテレビを浸水

したまま沈みつつある船に例える。広告収益

減の危うさ,HUT7)低下の不気味さ,厳し

い岐路に立つドラマの現実―その語り口は

極めて悲観的に受け取れる。「ここ10年でテ

レビは中高年層を切り捨ててきた。そこに生

活様式の変化が追い討ちをかける。主ターゲ

ットたるF1層(20~34歳の女性)がポロポ

ロと歯のこぼれるように抜け落ちていきまし

た…(ドラマは:筆者注)流れていますが見

ていません。時々チラッとは見ます,番組名

とタレントぐらいは。話題に乗り遅れないよ

うに。これが情報社会というものです」「な

がら視聴を引き付けるためにドラマはアクシ

ョン主体に,あるいはメリハリの利いた判り

やすいキャラクター付けに向かうことにな

る。ドラマのバラエティ化です。おかげで,

ある層はさらに抜け落ちていきました」8)。

96

表 1 7月期連続ドラマの視聴率

ビデオリサーチ(関東)データ

1998年 (%)

2003年

2008年

G T O

神様,もう少しだけ

はぐれ刑事純情派

ハッピーマニア

世界で一番パパが好き

水戸黄門

青の時代

(フジ)

(フジ)

(テレ朝)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

28.5

22.5

18.4

16.8

16.5

15.9

15.5

18.9

16.0

15.7

15.9

Dr.コトー診療所

ウォーターボーイズ

元カレ

コード・ブルー

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この指摘のごとく,性・年層別でいうと,若

年層女性とドラマの関係変化は「冬の時代」

の重要な原因と見られてきた。実のところこ

の層は,杉田のいう「バラエティ化したドラ

マ」を見るよりも,ドラマに替わりバラエティ

番組自体を視聴する傾向を強めてきた(図1)。

2001年文研では,番組の「総バラエティ化」

に付随して変質していくテレビ視聴の様相を,

「時間快適化」と名づけている。それは,番

組内容に没入したり,テレビを見て知識を身

に付けるなどの動機付けを持たず,「今とい

う時間を気分よく過ごすためにテレビをつけ

ておく」という概念である9)。ドラマ視聴と

この「時間快適化」には,どのような関連が

あるのだろうか。

この稿の目的は,若年層女性とテレビドラ

マの関係変化の諸相を検証しつつ,ドラマの

<ポテンシャリティ>の考察を行うことにあ

る。放送・通信の融合時代において,ドラマ

の意義は,受け手にとってどのような形であ

りえるのか。それとも拡大していくメディア

コンテンツの多様性の中で,その存在感は埋

もれていく方向にあるのだろうか。この考察

はまた,ミクロな分析を入口にしつつ,重層

的に深化するメディア環境における受け手と

コンテンツの関係の未来論に向けた一助にも

なるものと考えている。

本稿の構成としては,まずⅠ章で,1990年

代のドラマ概況と若年層にとってのその意味

を押さえ,視聴率から経年変化を把握する。

Ⅱ章でドラマ視聴における「充足」概念の整

理を行いつつ,Ⅲ章では調査に基づきドラマ

への意識実態を確認し,ドラマと20代女性の

関係変化の表層要因を分析する。続いてⅣ章

では,20代女性の成長背景から関係変化の深

層を掘り込む。また生活意識による5タイプ

の分類化を行い,そこからも要因を読み取る。

その上でⅤ章では,ドラマの変転,特に共感

とリアリズムの変容に関する推考を行う。最

後のⅥ章は,現在のドラマに潜在している可

能性を探ってみたい。

女性の意識は,個々人のライフステージに

深く影響される。考察を鮮明に行うために,

照準を20代独身層(学生を除く)に合わせる。

また扱うドラマは,地上波の夜間に放送され

た連続ドラマに限定している10)。

1.「消費されるドラマ」の役割

ときに「ドラマ黄金期」ともいわれた1990

年代には,視聴率20%を超えるような若年層

向けドラマが数多く放送され,主要ターゲッ

トとするF1層を確実に捉えていた。まず,

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報2009│97

図 1 20代女性の「よく見ている番組」

「日本人とテレビ」調査

0

20

40

60

80

100ニュース・ニュースショー お笑いやコントなどのバラエティショー ドラマ

2005 年

(%)

2000199519901985

6673 72 72

59

2631

4046

61

55

6653 53

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Ⅰ 90年代ドラマと若年層の関係

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そこに至る経緯と概況を り,90年代ドラマ

と若年層との友好的な関係の意味合いを押さ

えておきたい。

個人化への転換

1984年,電通の藤岡和賀夫は,その著『さ

よなら,大衆。』で,大量生産・大量消費の

大衆の時代から,「自分らしさ」を求め個人

の「感性」に従い消費行動を行う「少衆」の

時代への移行を説いている 11)。そのことは,

テレビ視聴をめぐる状況においては,「家族

視聴」から「個人視聴」への転換という形で

表出していた。家庭に複数台の受像機が普及

し始め,リモコンやビデオの利用も相まって,

ひとりでも楽しむ形でテレビを見ることがあ

らためて勢いづいた時期であった12)。

伊藤守はこの変化への視点として,「個人

視聴を個々の視聴者が一人でテレビを視聴す

ることであると単純に把握してはならない。

それは,もっと効果的な文化的ヘゲモニーの

場である広告イメージやドラマ番組の消費を

通して,ヤングアダルト,ティンエージャー,

そして女性といったかたちで,視聴者が階層

や性別や世代ごとに自らのポジションとアイ

デンティティを編制していく,新しい視聴の

空間が構成されたことを意味している」と指

摘し,ここでのテレビ視聴の文脈を,個人

化・消費化・差異化と規定している13)。

特定層ターゲットに向けて

ドラマ制作の場合でいうと,家族視聴向け

のホームドラマから特定世代向けへのシフト

が始まっていた。たとえば「ドラマのTBS」

における,1981年の『想い出づくり』や83年

『ふぞろいの林檎たち』,また83年『金曜日

の妻たちへ』,84年『くれない族の反乱』な

どは,その先駆けであった。フジテレビは81

年から,「楽しくなければテレビじゃない」

とうたい始める。フジ月曜9時枠の『君の瞳

をタイホする!』,『抱きしめたい!』など,

いわゆる「トレンディドラマ」が若い世代の

ブームになるのは,バブル経済真只中の88年

であり,それはF1層にターゲットを絞り込

んだドラマ制作・編成のエポックとなった。

90年代に入ると,脱トレンディを意図した

91年『東京ラブスト-リー』,『101回目のプ

ロポーズ』(ともにフジ)など,純愛路線がヒ

ットし始める。それに対し,92年『ずっと

あなたが好きだった』,93年『高校教師』(と

もにTBS)などのセンセーショナルな設定の

ものや,93年『ダブル・キッチン』(TBS)

のような新たなホームコメディが生み出され,

各局独自の個性化によるバリエーションの拡

大が新たな動向を形成していった。

いくつものドラマ情報雑誌が新たに発刊さ

れるなど,プロモーションも活況を呈し,皆

が口にするものを見ないと「オクれる」とい

うムードが醸成されていた。好調番組の最終

回視聴率が30%を超すかどうかが話題とな

り,それは実際に稀なことでもなかった。表

2は,90年代に最高視聴率が30%を超えた主

なものの一覧である。

消費社会とドラマ

この時期の放送局が,商品としてのドラマ

に期待しえたメリットを要約してみる。

①マス・オーディエンス確保の可能性が他ジ

ャンルより大きく,成果がかなり保証され

ている安定性があった。

②ビデオ・音楽・出版関連などのメディアミ

ックス展開を,充分に当て込むことが期待

できた。

③話題性が局のブランド強化に貢献しえた。

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そして,80年代後半から90年代にかけて,

上記メリットに向けて,以下の状況や制作者

側の諸要因が有効に機能していた。

(1)制作スタッフの世代交代が行われ,企

画・配役・脚本作りをプロデューサーが合

理的に主導する「プロデューサーシステム」

という体制がとられた。それにより,エン

ターテインメント性に長けた脚本家の個性

発揮がコントロールされ,また優れた演出

家の効果的な起用がなされた。

(2)商品としてのドラマの要として,キャス

ティングが何より優先された。長期の俳優

戦略に基づき,集客力ある男優・女優の取

り合わせが早い段階から検討され,それが

綱渡り的に実現化されていった。

(3)旬の音楽アーティストの楽曲が主題歌に

使用され,ドラマヒットとCDセールスの

相乗効果がプログラム化されていた(CD

総売り上げは98年まで上昇し続け,数百

万枚の大ヒットが年間何枚も生まれる時代

でもあった)。

高視聴率という絶対的な指標をめがけた制

作者たちの格闘が,若年層向けドラマを時代

の波に乗せ,それを「消費社会」の中核に近

いところへと押し上げていった。ボードリア

ールの消費社会論に則れば,「モノ」の連関

の社会における象徴的な「記号」と化し,受

け手を誘導していく。この段階において若年

層は,「私という存在のライフスタイルやア

イデンティティを作り出すために多様な情報

を提供する」14)テレビドラマに対し,「感性」

にフィットするものとして自然に馴染んでい

た。描かれる世界は,自分たちと「等身大」

の存在に映っていたはずであり,その結果

「消費文化」の中のドラマに「同化」してい

たといえる。

2.年層別視聴率の推移

20代と10代の見方

それでは1990年代に,当時の20代そして現

20代(当時10代)は,いかなるドラマをどの

程度視聴していたのか。「トレンディドラマ」

登場の年といわれる1988年から2007年までの

20年間の,ドラマ視聴率の動きを ってみる。

ここでは文研が長年実施している個人視聴率

調査(毎年6月実施分を使用)を基にするが15),

サンプル数の都合で,各年層男女を合わせた

数値を使う。中高年層向け(主に時代劇)を

除外するため,7歳から30代までのいずれか

の年層で15%以上となった夜間20時から24

時までの連続ドラマを抜き出してみた(表

3)。4月期ドラマに限定され通年の全体像

ではないが,汲み取れる傾向を整理してみる。

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報2009│99

表 2 1990年代の主な高視聴率ドラマ

ひとつ屋根の下

家なき子

ロングバケーション

101回目のプロポーズ

GTO

ひとつ屋根の下2

誰にも言えない

高校教師

愛という名のもとに

ラブジェネレーション

東京ラブストーリー

あすなろ白書

素顔のままで

家なき子2

眠れる森

妹よ

ダブル・キッチン

(フジ)

(日テレ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

93

94

96

91

98

97

93

93

92

97

91

93

92

95

98

94

93

江口洋介・福山雅治

安達祐実・保坂尚輝

木村拓哉・山口智子

浅野温子・武田鉄矢

反町隆史・松嶋菜々子

江口洋介・福山雅治

賀来千賀子・佐野史郎

真田広之・桜井幸子

鈴木保奈美・唐沢寿明

木村拓哉・松たか子

鈴木保奈美・織田裕二

石田ひかり・筒井道隆

安田成美・中森明菜

安達祐実・堂本光一

中山美穂・木村拓哉

和久井映見・唐沢寿明

山口智子・高嶋政伸

37.8

37.2

36.7

36.7

35.7

34.1

33.7

33.0

32.6

32.5

32.3

31.9

31.9

31.5

30.8

30.7

30.7

28.2

24.7

29.5

23.6

28.5

27.0

23.8

21.9

24.7

30.8

22.9

27.0

26.4

22.5

25.2

24.6

22.3

番 組 名 年 出 演 者 視聴率(%) 最高 平均

(最高視聴率の高位順)

ビデオリサーチ(関東)データ

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ99

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100

表 3 ドラマの男女年層別視聴率(1988年~2007年)

年 番組名 ひとつ屋根の下2

ギフト

いいひと。

FIVE

いちばん大切なひと

ミセスシンデレラ

木曜の怪談 ’97

ふぞろいの林檎たちⅣ

ふたり

ブラザーズ

WITH LOVE

ショムニ

お仕事です!

LOVE&PEACE

先生知らないの?

古畑任三郎

魔女の条件

リップスティック

蘇える金狼

ナオミ

ナースのお仕事3

バスストップ

フードファイト

Summer Snow

ラブレボリューション

明日があるさ

Love Story

天国に一番近い男

空から降る一億の星

ゴールデンボウル

ホットマン

東京ラブ・シネマ

ムコ殿 2003

ぼくの魔法使い

愛し君へ

オレンジデイズ

アットホーム・ダッド

エンジン

離婚弁護士Ⅱ

あいくるしい

アタックNO1

トップキャスター

アテンションプリーズ

ブスの瞳に恋してる

ギャルサー

クロサギ

プロポーズ大作戦

喰いタン2

14

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2

1

2

1

1

1

2

3

5

5

1

2

2

5

4

5

3

3

4

5

3

3

3

5

2

2

2

1

4

1

4

3

8

5

5

3

2

1

1

2

2

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(テレ朝)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(日テレ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(TBS)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(テレ朝)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(フジ)

(日テレ)

武田信玄

教師びんびん物語

パパは年中苦労する

熱っぽいの

ザ・スクールコップ

教師びんびん物語Ⅱ

ハートに火をつけて!

予備校ブギ

恋のパラダイス

日本一のカッ飛び男

ホットドッグ

世にも奇妙な物語

トップスチュワーデス物語

世にも奇妙な物語

学校へ行こう!

もう誰も愛さない

パパとなっちゃん

それでも家を買いました

素顔のままで

信長

世にも奇妙な物語

子供が寝たあとで

愛はどうだ

ひとつ屋根の下

ダブル・キッチン

わたしってブスだったの?

嘘つきは夫婦のはじまり

チャンス!

if もしも

家なき子

ホテル3

上を向いて歩こう!

出逢った頃の君でいて

この愛に生きて

君が見えない

警部補・古畑任三郎

17才

クニさんちの魔女たち

八代将軍吉宗

家なき子2

王様のレストラン

僕らに愛を!

星の金貨

最高の恋人

SALE!

ロングバケーション

透明人間

みにくいアヒルの子

若葉のころ

Age,35 恋しくて

その気になるまで

木曜の怪談

勝利の女神

竜馬におまかせ!

15

21

10

23

15

21

1

9

1

12

5

13

16

21

13

0

5

0

7

3

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4

0

20

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3

0

9

8

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14

9

3

2

2

6

9

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7

38

14

10

2

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18

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44

20

7

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2

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3

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25

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14

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11

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17

7

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30

16

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7

43

18

13

15

21

16

28

5

18

8

8

4

17

15

9

5

36

18

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16

6

5

40

31

30

21

8

1

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22

21

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17

15

6

5

27

25

21

28

19

15

11

6

17

20

30

16

19

39

8

12

11

14

32

21

18

9

11

8

15

16

18

21

21

16

9

7

4

3

11

19

17

16

7

4

34

11

14

12

21

9

10

9

10

23

11

9

8

3

19

14

8

10

9

6

4

5

11

10

15

14

11

25

15

11

12

15

18

23

18

11

9

3

12

11

13

12

15

16

8

3

7

15

15

13

13

13

4

2

26

14

9

17

19

19

5

11

10

34

11

10

5

3

11

9

5

7

3

5

4

4

11

7

7

4

8

14

15

11

9

6

12

11

6

5

3

1

18

12

10

8

4

5

6

6

5

19

11

12

6

7

5

2

14

9

12

9

6

8

7

2

4

42

7

7

2

2

7

4

2

2

5

4

0

1

6

3

3

8

6

11

22

5

4

6

13

15

6

6

3

6

6

11

2

5

4

4

5

3

1

19

3

5

6

4

2

1

5

5

3

3

4

10

4

6

1

41

4

7

2

3

8

2

3

2

2

2

4

4

1

0

3

6

3

4

27

5

2

3

3

6

1

5

1

0

11

15

2

4

3

3

3

3

2

27

4

6

2

1

3

1

3

2

4

5

10

2

2

2

(NHK)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(TBS)

(TBS)

(フジ)

(NHK)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(フジ)

(TBS)

(TBS)

(日テレ)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(TBS)

(フジ)

(日テレ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(フジ)

(テレ朝)

(NHK)

(日テレ)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

(テレ朝)

(テレ朝)

(フジ)

(日テレ)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(TBS)

(フジ)

(フジ)

(日テレ)

7歳~ 13歳~ 20代 30代 40代 50代 60代 年 (%)

番組名 7歳~ 13歳~ 20代 30代 40代 50代 60代

88

97

98

99

00

01

02

03

04

05

06

07

89

90

91

92

93

94

95

96NHK個人視聴率調査(関東)6月実施分

*網かけは15%以上のもの

*太字は年層間で一番高いもの

* 2000年のみ7月に調査実施分

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ100

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(1)20代の視聴状況

まず,20代の視聴率に着目してみる。

90年代は,「15%以上」のものが多めであ

る。また90年代前半は,年層間で比較し

て20代が一番高いものも多い(一番高い

のは,97年『ひとつ屋根の下2』42%)。

2000年代に入ると,「15%以上」は減少し

ている(ほとんどの年で1本)。同時に

「年層間で一番高い」も減る傾向にある。

90年代の20代は現在30代になっているが,

2000年代の30代の数値を見ると「15%以

上」は少なくなり,02年以降「年層間で

一番高い」は存在しない。現30代も視聴

減少の傾向にあるといえる。

(2)ドラマ好きの10代

次に,10代(特に13歳~の中学生以上に

注目する)を見てみると,

現20代が10代であった90年代後半に,20

代と同レベルか,またはそれ以上にドラマ

を多く視聴していた(30%を超えるもの

が,95年2本,96年3本,97年1本)。

話題作ドラマでも,20代より10代の方が

高いものがいくつもある。「10代(13歳

~)>20代」のものをあげると,93年『ひ

とつ屋根の下』(フジ)43>32,94年『家

なき子』(日テレ)28>15,同『警部補・

古畑任三郎』(フジ)17>9,96年『ロン

グバケーション』(フジ)40>34,同『若

葉のころ』(TBS)21>12,などである。

90年代(特に後半期),10代も20代以上に

ドラマの活況を支えていたといえる。その

ドラマ好きの10代が現在のあまりドラマを

視聴しない20代となっている。

2000年代に入ると,10代の方が20代より

高いものが増えている傾向がうかがえる。

この兆候は,90年代末から始まっていたと

も考えられる。

(3)放送局のパワーと戦略

放送局に着目してみると,

表内100作ほどの5割以上が,フジテレビ

のドラマである。そのうちほとんどで,20

代が 15%を超えている。毎年4月期の

「月9」枠のものは全て入っており,「フジ」

そして「月9」が若年層に浸透したブラン

ドとして存在していることがわかる(表2

高視聴率ドラマでも17本中12本がフジ,う

ち「月9」が9本ある)。

90年代に日本テレビやテレビ朝日は,ティ

ーン層に鉱脈を求めたドラマに力を入れ始

め成果をあげた。表内の94年『家なき子』

(日テレ)や96年『透明人間』(日テレ),

95年『最高の恋人』(テレ朝),97年『ふ

たり』(テレ朝)などである。10代はF1

層向けドラマを見つつ,趣向を凝らしたテ

ィーン向けも楽しんでいた。この見方の幅

広さが,ドラマ意識に何らかの影響を与え

ているかもしれない。

ターニングポイントはいつか

若年層とドラマの関係変化は,いつ頃から

生じているのだろうか。図2は,夜間ドラマ

全体の視聴率平均の推移である。

10代から30代の全てにおいて,90年代後半

にひとつの山があることがわかる。20代につ

いて2002年が8%と高いのは,実は『空か

ら降る一億の星』(フジ,出演:木村拓哉,

明石家さんま)という異例のヒット作が引き

上げている。この特異要因のある02年以外,

20代の2000年以降の視聴率は,20年間の平

均値6.6%を常に下回っている(また,90年

から99年の平均は7.4%,2000年から2007年

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│101

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ101

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の平均は6%である)。

こうしてみると,20代女性とドラマの関係

変化は,2000年前後にかけてターニングポイ

ントがあると推定でき 16),その変化は90年

代にかなりドラマを視聴していた10代が,な

ぜ2000年代に20代になり視聴が減少したの

か,というコーホート(世代)の問題である

ことがわかる。

1.女性にとってのドラマ

ドラマ内の人物と自分

日本のテレビドラマのほとんどは,男性よ

りも女性による視聴の方が多い。それでは女

性は,なぜドラマを見ているのだろうか。ひ

とつの先行研究について触れてみたい。

村松泰子は,1970年代から10年ごとに,女

性視聴者がドラマをどう読み解いているのか

の調査を行い,女性にとってのその位置付け

を明らかにしている 17)。74年の調査では,

家庭志向の強い女性の方がドラマ視聴が多い

こと,また既婚女性が自分の仕事の有無に満

足しているか否かで,「理想どおりで満足」

(満足派),「満足ではないが仕方がない」(あ

きらめ派),「現状を変えたいと思うが準備は

始めていない」(意識先行派),「不満で変え

るための準備をしている」(準備開始派)に

分けると,あきらめ派が最も多くドラマを見

ていることを導き出した。その上で,女性が

「無意識にドラマの中の女性と自分の生き方

を対比し,自分を肯定する材料を求め,自ら

の不満をなだめる手段としている」ことを説

いている。

「共感」と「あこがれ」

同研究の中で村松は83年に,「“女性はテレ

ビ好き”というレッテルとは異なり,多くの

女性にとって,テレビやテレビドラマは,そ

れでしか得られない魅力というよりは,まだ

得られていない何かの代用物」ではないかと,

現状に甘んずることなく模索するドラマ内の

人物に共感をしていく女性像を論じている。

そして94年には,『妹よ』(フジ)に対する

当時の10代女性の見方について,「起こるは

ずのない絵空事をおとぎ話と受けとめつつ,

その夢や純粋さをどれだけうまく楽しませて

くれるか見届ける」かのようなゲーム感覚で

102

図 2 ドラマ平均視聴率の推移

NHK個人視聴率調査(関東) 年

(%)

2

4

6

8

10

12

30代

20代

13歳~

070605040302010099989796959493929190

7

88

66

7

5

8

10

9

77

7

7 77

7 6

6

7

7

8

6

66

7 77

55

9

6

8

7

8 8

5

8

6

6

6

66

7

7

66 7

9 9

6

7

5

4

Ⅱ 視聴意識を捉えるフレーム

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ102

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ドラマを見ることと,「実際にあんなことが

あったらうらやましい,とそれへのあこがれ

の心情を強めることは矛盾せず共存してい

る」と考察を行っている。

村松の分析には,「共感」や「あこがれ」と

いった感情の要素が,キーとして存在してい

る。このようにコンテンツと受け手の関係を

探るにあたっては,受け手の中の動機・欲求

や充足など,その感情過程に触れざるをえな

い。われわれも,20代女性のドラマに対する

深層に分け入るに際し,先にその視聴にまつ

わる意識を捉えるフレームの整理を,先例を

参照しつつ行う必要がある。

2.ドラマ充足の概念

マクウェールのタイポロジー

テレビドラマと受け手の関係性において,

考察の要に視聴結果としての「充足」を設定

したい。受け手にとってのコンテンツの<価

値>は,それに対する満足具合,つまり充足

のあり方にあるからである。

1970年代の「利用と満足」研究において,

イギリスのD. マクウェールらは,ドラマを

含むテレビ番組の実証的分析に基づき,受け

手がテレビ視聴から得る「充足」のタイポロ

ジーを作り出している 18)。それは表4にあ

る4つのカテゴリーと9つのサブタイプから

なる(カッコ内は筆者による補足)。

もう一つ,参考となる先例をあげる。文研

が「時間快適化」の概念を提示した際,番組

の視聴動機の要素に関する分析も明らかにし

ている。それによれば,「ステーションイメー

ジ調査」(2000年実施)での視聴動機の因子

分析から,以下のような内容の3つの因子を

導き出している19)。

・気楽因子→「頭を使わず楽に見られる」

「笑える」「疲れが癒される」

・情報因子→「役に立つ情報が得られる」

「ためになる知識が得られる」「いろいろな

意見が聞ける」

・感動因子→「感動できる」「共感できる」

「ハラハラドキドキできる」

マクウェールの充足タイポロジーと上記の

動機における3因子抽出は,ドラマに限って

のものではないが,これらを援用しつつ今回

行った2段階の定性調査(後述)からの知見

に基づき,現在の日本のドラマ視聴の「充足」

概念をカテゴリー化してみたい。

充足の統合的カテゴリー

前提として「充足」を,受け手が自らの感

情・理性の働きにより対象となるドラマ内容

に満足している状態とする。指向性が分化し

ている能動的な受け手像からすると,充足に

つながる様々な要素が考えられるが,受け手

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│103

表 4 充足のタイポロジー

① 気晴らし (Diversion)  a)日常生活の制約からの逃避   (満たされない日常を脱し,想像の世界を楽しむ,代償)  b)解決すべき問題の重荷からの逃避   (現実問題からの気分転換,発散)   c)情緒的な解放   (笑う,泣くなどの感情的満足,「感動」)

② 人間関係 (Personal Relationships)  a)交友関係   (出演者や配役に好意や愛着を感じる)  b)社会的効用   (番組が,周囲の人とのコミュニケーションにつながる)

③ 自己確認 (Personal Identity)  a)個人についての準拠   (自己のアイデンティティの形成や修正に役立つ)  b)現実の探求   (身近な社会や他人のあり方を理解する参考になる)  c)価値の強化   (自分の価値観を再確認する)

④ 環境の監視 (Surveillance)   (社会全般の状況や意見を知る)

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ103

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の意識をより純化することで,有効な道具立

てとなるような統合的な類型化をねらいとし

たい。それは表5に掲げる4つのカテゴリー

であり,順に詳述する。

「人物への好感」

ドラマの構成要素に対し受け手の中では,

好きか嫌いかの「好み」に関する感情が生成

している。そこでの重要な対象物は,出演者

あるいは演じられている役柄としての「キャ

ラクター」であり,主人公を中心に登場人物

に「好感」感情を抱かない限り,充足になか

なか至らない。これは,マクウェールのタイ

ポロジーの「交友関係」に該当する。日本で

は,90年代のキャスト優先システムによりこ

の傾向が強められ,現在では充足の基本要素

になっていると考えられる。

たとえば前出の表2で,1996年から98年ご

ろのピーク期ドラマの出演者を見ると,98年

の「好きなタレント調査」20)(表6)では,

ほとんどが高位ランクに位置し,広く好感を

持たれていた存在とわかる。また若い世代ほ

ど,好感を持つタレントへ意識が向いていた

ことが,97年文研での調査 21)の項目(テレ

ビを見る理由―「好きなタレントを見たいか

ら」)に現れている(表7)22)。

「カタルシス」

この「カタルシス」という演劇上の用語(ギ

リシャ語)は,アリストテレスが『詩学』の中で

悲劇の効果の説明に,医学におけるkatharsis

(排泄・浄化)を陰いん

喩ゆ

として用いたことが元

になっている。「抑圧から解放されたり,感

104

表 5 ドラマ充足の統合的カテゴリー

A.人物への好感 B.カタルシス     ア)断片的なカタルシス     イ)プロット・カタルシス C.共感 D.学び

表 6 好きなタレントの順位(1998年)

1 明石家さんま 1 和田アキ子 2 反町隆史 2 広末涼子 3 所ジョージ 3 久本雅美 4 北島三郎 4 SPEED 5 ビートたけし 5 松たか子 6 五木ひろし 6 天童よしみ 7 KinKi Kids 6 山口智子 8 竹野内豊 8 松嶋菜々子 9 木村拓哉 9 西田ひかる 10 SMAP 10 中村玉緒 11 タモリ 11 中山美穂 12 金城武 12 森光子 13 細川たかし 13 上沼恵美子 14 GRAY 14 山田邦子 15 高橋英樹 15 藤原紀香 16 島田紳助 16 坂本冬美 17 織田裕二 17 稲森いずみ 17 西田敏行 17 ビビアン・スー 19 伊東四朗 19 小林幸子 19 藤田まこと 19 藤あや子

文研「好きなタレント調査98」

男 性 女 性

表 7 テレビを見る理由(1997年)

「テレビと情報行動」調査

(%)

世の中の出来事を知りたいから

他の人の考え方が知りたいから

暮らしに生かすヒントが欲しいから

知識や教養を深めたいから

生き方の参考にしたいから

笑ったり楽しんだりしたいから

気分転換やリラックスしたいから

ハラハラ,ドキドキ,ワクワクなどの 刺激が欲しいから

感動したいから

好きなタレントを見たいから

ひまつぶしをしたいから

86

50

56

67

34

92

85

63

66

70

74

93

58

72

78

48

87

83

62

62

52

60

94

63

72

75

60

82

78

32

54

38

48

 歳以上

45 〜 歳

30

44

 〜 歳

16

29

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ104

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情が浄化されてより洗練されたものに変質す

る」ことを指す 23)。今回のカテゴリー化で

は,カタルシスを断片的なものと連続した全

体的なものとに分けてより広義なものとして

使用する。

ア)断片的なカタルシス

ドラマ視聴では,状況設定やストーリーに

対しての意味解釈が行われていくが,展開や

人物の行動によるきっかけとしての「フック」

で,短く,あるいは一定継続する感情が生じ

る(たとえば,楽しさ,可笑しみ,驚き,喜

び,怒り,安堵,爽快感,ワクワク感,やす

らぎ,など)。断片的なカタルシスとは,こ

れらの感情のある程度のボリュームにより得

られるカタルシスに類するものをさす。スト

ーリーラインを っての連続視聴を要件とは

せず,部分視聴でも生まれうる。

イ)プロット・カタルシス

ドラマという「劇」の本質は,個人対個人,

個人対集団,あるいは集団対集団などの「

藤」にある。「 藤はドラマの基礎であり,

それによってドラマが作られる。これは,ア

クション・アドベンチャー,ロマンチック・

コメディ,いずれにもあてはまる。あらゆる

ドラマにおいて鍵となる要素は 藤であり,

登場人物たちの仲むつまじい姿がドラマの中

心になることはない」24)。ストーリーに織り

込まれた 藤ラインをプロットというが,こ

の 藤の昇華が本来の「カタルシス」であり,

それが受け手の中で実を結ぶかどうかが物語

としてのドラマのカギとなる。この何らかの

プラス要素の成就,またはマイナス要素の解

消により沸き起こる充足を,ここでは「プロ

ット・カタルシス」と呼ぶことにする。

カタルシスは,表7でいえば,「笑ったり

楽しんだり」「気分転換やリラックス」「ハラ

ハラ,ドキドキ,ワクワクなどの刺激」など

に対応する。ア),イ)を合わせたものが,

マクウェールのタイポロジーの「気晴らし」

に該当している。

「共感」

動機の「感動因子」における「共感」は,

先の村松の分析にもあるように,おそらく日

本のテレビドラマの特性として重要な意味を

持ち続けてきた。ドラマの登場人物の気持ち

を思いやり,受け手の感情が揺れ動く「共感」

のレベルに至ると,それだけで充足要因にな

りうる。人物の年齢・境遇が自分に近いこと

などからより一体化した場合,人物の内面の

揺らぎがそのまま受け手の感情の振幅とな

る。その状態でカタルシスのポイントに達す

ると,「感動」につながることが多い。

「共感」という言葉は,現在の日本では極め

て不定形に使用されている。「好感」や「賛

成」と同義的なケースや,また人物ではなく

事象に対し使われることもあり,その概念を

あらためて確認しておく。共感とは,「他者

の考えや感情を理解し,また感じ取り,かつ,

それを自己の中で共有し増幅すること」であ

る。他者の心を知ることを表す言葉は他にも,

同情,同感,共鳴などがある。しかし共感は,

感情の共鳴に近いもので,他者の感情の波と

自己の中で起こってくる感情の波とが一致す

ることを示し,それは同情のような受動的な

ものとは異なる主体的な関与である25)。

他者の心を知る脳の働きについては,1996

年イタリアの脳科学研究において,「ミラー・

ニューロン」という神経細胞が発見されてい

る。人間は脳内に持つ鏡のごとき細胞に,他

者の表情や行動を映し出し,それと自分の体

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│105

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ105

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験を照らし合わせ(この段階で感情系だけで

なく認知過程をともなう),その他者の心を

推論している。このことから,多くの経験を

積んだ人ほど他人の気持ちが分かる,ともい

われている26)。また,アメリカの心理学・精

神医学者サイモン・バロン=コーエンは,

「平均的に女性は男性よりも労せずして相手

に深く共感する傾向がある」という研究成果

を,2003年に発表している 27)。それが日本

でもあてはまるのであれば,男性に比べ女性

の方がドラマ視聴に親和性があることと,関

連があるかもしれない。

共感は,マクウェールのタイポロジーのど

こに該当しているのか。共感が,「現実問題

からの逃避」や,「情緒的な解放の状態」に

関係している可能性は考えられる。また,

「交友関係」に近い成分も混じっているとも

いえるが,「個人についての準拠(アイデン

ティティ形成に関わる)」が,実は他者への

共感を通し自己に何かがはね返るという感情

まで含み込んでいるのではないか。

この共感とカタルシスが生じる可能性を対

比させてみると,ストーリー性そのものに重

きを置くドラマではカタルシスを生む傾向は

大であり,人間の心情描写を主たるねらいと

して展開するドラマの場合おのずと共感を招

きやすいといえる。

「学び」

マクウェールが提示した「自己確認」とし

ての充足は,現在のドラマ視聴においては有

効なものである。「環境の監視」も含め,「学

び」という呼び方で括っておきたい。受け手

はドラマを見ることで,「社会」や「社会の

中の人間」のあり様(生き方や考え方)を学

び,社会に対し自己をよりよく適応させよう

とする。伊藤の指摘した「私という存在のラ

イフスタイルやアイデンティティを作り出す

ために多様な情報を提供する」ドラマに対し

たときの充足が,「学び」といえる。この場

合,人物へ共感しつつ,そこから何かを学び

とる場合も充分想定できる。学びは,共感と

近い位置にある充足と考えてもよい。以上の

充足の統合的カテゴリーとドラマの構成要素

との対応を整理すると,図3のようになる。

前述した村松泰子の「女性とドラマ」の分

析を,このカテゴリーに照合させてみると,

「まだ得られていないものの代用」として登場

人物に自分を重ねていく80年代女性のドラマ

視聴は,まさに「共感」にあてはまる。90年

代の10代女性の,「ゲーム感覚でストーリー

を楽しみながらも,あこがれとしてドラマを

視聴する」際の「あこがれ」とは,恋愛を中

心とした関係における人間の心情に対するも

のである。つまりそこには「カタルシス」と

「共感」の両方が汲み取れるであろう。

このように実際には,カテゴリーの各々は,

複合された形で総合的な充足に至る。そこで

その複合型を検討し,以降の考察の道具立て

としていきたい。

106

図 3 充足カテゴリーとドラマの要素の対応図

〈受け手〉

人物への好感

断片的なカタルシス

プロット・カタルシス

共 感

学 び

〈ドラマ〉

人 物

設定/ストーリー 展開

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ106

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複合型のパターン

人物への好感は,現在のドラマ充足に必須

の要件である。全ての前提という意味で表記

をしない。学びは,複合状況のどこにでもあ

りえ,また受け手のパーソナリティー次第で

不明解なものである。類型の拡散を防ぐため

に除外して考える。つまり,断片的なカタル

シス,プロット・カタルシス,共感の3つで

の複合化とし,大きくはカタルシス要素のみ

の「カタルシス系」と,共感とカタルシスの

入り交じった「共感系」の2系統に分ける

(断片的なカタルシスを断片カタルシス,プ

ロット・カタルシスをカタルシスと略し表

記)。

「断片カタルシス」型

「カタルシス」型

「断片カタルシス+カタルシス」型

「共感」型

「断片カタルシス+共感」型

「カタルシス+共感」型

「断片カタルシス+カタルシス+共感」型

90年代ドラマの充足

この複合型を,例として90年代前半のドラ

マ視聴状況に応用してみたい。95年に「若者

とテレビドラマ」調査を文研が行っているが,

そのうちの表8-1,2にある回答を参照する28)。

「ドラマの評価基準」の「ストーリー展開

が面白い」「現実の生活を忘れさせてくれる」

は,カタルシスである。「心を打つような感

動がある」は,別表「ドラマに感動した部分」

から見て,主に共感と捉えることができる。

この「感動」(共感)に対し,44%の人がド

ラマの評価基準としていることに注目してお

きたい。

この調査で「感動したドラマ」として高位

にランクされたものは,『私の運命』(TBS,

婚約者をガンで失うヒロインの愛憎のラブス

トーリー,視聴率15.1%),『妹よ』(フジ,

貧しいOLが財閥御曹司に見初められるシン

デレラ物語,24.6%),『若者のすべて』(フ

ジ,社会の片隅で生きる幼馴染の男女6人の

青春群像劇,16.2%)などである。

どのドラマにどの評価が該当するかは明ら

かではないが,3つのドラマは「カタルシ

ス+共感」型と推定できる。ともに兄妹愛や

家族愛,友情,恋愛が色濃く描写された物語

であった。全般的に90年代前半のヒット作は,

じわじわとした共感が感動を生み出すものが

多く見受けられ,「共感系」ドラマが大きな

力を持っていたといえる。

それから十数年が経過している現在,20代

女性のドラマ充足はいかなる状況になってい

るのか。以降,「カタルシス系」・「共感系」の

共感系

カタルシス系

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│107

表 8-1 ドラマの評価基準

1995年「若者とテレビドラマ」調査

(%)

表 8-2 ドラマに感動した部分 (%)

ストーリー展開が面白い

好きなタレントが出ている

心を打つような感動がある

テーマソングやBGMがよい

身近なテーマを取り上げている

生き方や考え方の参考になる

最近の流行やファッションがわかる

現実の生活を忘れさせてくれる

主人公の生き方

親子や家族の愛情

テーマソングやBGM

恋愛のすばらしさ

登場人物の努力が実ったとき

74

50

44

27

18

18

13

13

15

12

9

8

7

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充足をキー概念としつつ,調査結果にも触れ

ながら論を進める。

1.基本様相としての「疎遠化」

現20代女性のドラマ視聴の深層について手

がかりを得るために,先行して2段階の定性

調査を実施している。①ドラマ視聴の実態把

握としてのインターネット上のグループイン

タビュー,②それをより深めつつ,生活意

識・価値観との関係の洞察も意図したリア

ル・グループインタビューである。

ドラマとの距離

ネット上のグループインタビュー29)は,対

象者が自宅で匿名書き込み形式で回答を行う

ため,「本音」を引き出しやすい。20代前半・

後半の差異を見るために,各7名ずつの2グ

ループで実施した。質問は,「自宅での夜の

過ごし方」「視聴テレビ,特にドラマの感想」

「記憶に残るドラマ」「自分にとっての映画・

小説・音楽・ドラマ」などである。結果要点

のみを記す。

(1)テレビは「ながら視聴」の様相が強く,

比較的画面を見ているのは食事時だが,そ

こでもテレビに集中している感は薄い。

(2)映画や小説,音楽は,自分の価値観を確

認し,新たな世界観に触れるものとして評

価が高い。それに比較して,ドラマの重要

性はあまり感じていない。むしろ「気軽に

楽しむ暇つぶし」の位置付けが主流。

(3)放送中(07年10月期)のドラマの充足に

ついて,半数近い人が視聴したもののみ取

り上げる。

・「月9」の『ガリレオ』(フジ)は,前半4

名(全員「ながら」視聴),後半3名(2名

は「録画」)が視聴。内容への反応はやや

薄い。「カタルシス」型の充足に受けとれ

るが,これだけでは判断しにくい。主役

(福山雅治)の「好感」のみ目立つ。

・『医龍2』(フジ)は,前半2名,後半4名

視聴。演技や映像・音楽の緊迫感,展開に

かなり注目しているが,共感につながる人

間ドラマとしては見られていない様子。

「カタルシス」型にとれる。

・『働きマン』(日テレ)は,前半5名,後半

3名(すべて「ながら」)。配役と原作コミ

ックのマッチングを気にする人は,人物好

感は高くない。自分と重ね合わせて非常に

共感を持つ人と,逆にギャップを感じる人

のムラがある。「断片カタルシス+共感」

型といえるが,共感していない人もいる。

結果としては,総じてドラマとの意識上で

の隔たりが,かなり明白に見える。視聴率年

間2位の『ガリレオ』でさえ,「ながら」や

録画利用の人が多く,充足反応が希薄で み

きれない。90年代と比較しての20代女性とド

ラマとの隔たりを,ここで「ドラマ疎遠化」

と名づけ,以降の記述において使用していき

たい。「ドラマ離れ」という場合,視聴減少

のみを意味するであろうが,「疎遠化」は視

聴減少と同時に,見ていても「よそよそしい」

という質的変化も含んでいる。

ドラマ視聴者と低視聴者の差異

リアル・グループインタビューは,ドラマ

を見ている「視聴グループ」(週2~4本見

る人)と「低視聴グループ」(最近1年決ま

108

Ⅲ 20代女性とドラマのポジション

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ108

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ったドラマを連続視聴しなかった人)に分け

て実施した 30)。質問は「帰宅後の過ごし方

とテレビ視聴実態」「ドラマの連想イメージ」

「最近のドラマ視聴とその評価」「過去ドラマ

の評価」「ドラマの見方の変化」「他コンテン

ツとドラマの位置付け」などである。得られ

た詳細は定量調査と合わせ論ずるとして,こ

こで捉えておくべきポイントのみをあげる。

(1)ドラマ視聴と,その人の生活意識に関連

性が見られる。視聴グループの人は年齢や

仕事の状況を問わず,総じてテレビ接触が

多く,受動的なタイプが多い傾向がある。

(たとえば,「テレビはつけたらやっていた

番組を見る」という意識)一方の低視聴グ

ループは,仕事や趣味などに能動的で,自

らの価値観や嗜好性に自覚的なタイプが多

い。映画や小説などにもよく触れる,コン

テンツ感度とリテラシーの高い人も含まれ

ている。ここから,受け手の「能動性・受

動性」とドラマ(またはテレビ)の関係,

生活意識によるタイプとドラマ視聴の関係

性が重要であることが把握できた。

(2)視聴グループのドラマの位置付けとして

は,「娯楽・楽しみ」「息抜き」「現実逃避」

など,充足でいえばカタルシスに類する見

方が非常に強い。それも,楽しい気分で前

向きになれるもの,比較的コミカルなもの

など,断片的なカタルシスへの欲求がより

大きいようにとれる。同年代の人物の行動

を見ることで自らの価値観を確認する「学

び」を口にする人も,少なくない。しかし

「共感」については,その言葉自体は発言

の中に出てくるものの,人物や人間関係へ

の共感充足があることは,一部からしか受

け取れない。低視聴者には,細かな設定は

わからなくても楽しめるコメディや,1話

完結型のものしか通用していない。「暇つ

ぶし」,「なくてもいい」などと,連続ドラ

マは必要視されていない。

(3)直近の個別ドラマについて,全グループ

で『働きマン』(日テレ)が話題にあがった。

特に多忙でない人たちの支持が目立ち,

「共感+学び」型の充足とわかる。前半層

の方が共感が強い傾向が見えた。過去のド

ラマでいえば,後半層は,『東京ラブスト

ーリー』『101回目のプロポーズ』『ロングバ

ケーション』『ラブジェネレーション』『白

線流し』(いずれもフジ)などがあがり,

10代に見たヒットドラマは,もっぱら友人

とのコミュニケーションの材料であったこ

とが共通している。前半層では,ドラマを

見始めた時期に『人間・失格』(TBS)『ひ

とつ屋根の下』(フジ)など野島伸司脚本

のドラマに影響されたケースが見られ,人

間関係のひだに触れるような重いドラマも

好む傾向が人によってはうかがわれた。

20代女性のドラマ意識は,その人の生活意

識・価値観のあり方と関係している。プレ調

査を踏まえ,疎遠化の解明を中心に,ドラマ

意識の現状解明を目的とした定量調査を行っ

た。世代による特性を探るため,比較層とし

て30・40代女性にまで対象を広げた。調査

概要は以下のとおりである。

調査手法 インターネット調査

エリア 1都3県(東京都,神奈川県,埼玉県,

千葉県)

対象者 20歳~49歳の女性

(調査会社のモニター)

・20代は未婚有職者のみで学生は除く。

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│109

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(アルバイト,契約・派遣社員を含む)

・テレビを平日2時間以上見ている人31)

サンプル数 各年代,前半層・後半層に分け

300人×6層=1,800人

実施日 2008年3月14日~19日

質問項目 主なものは

・テレビ視聴実態(視聴時間/番組選択方

法/家族視聴状況/よく見る番組ジャン

ル/好きな番組ジャンル/視聴態度)

・ドラマへの意識と視聴実態(連続ドラマ,

2時間ドラマ,海外ドラマ,韓国ドラマの

好意度/各ドラマが好きな理由/ドラマ選

択基準/選択の重視点/ドラマへの意識)

・個別ドラマ視聴実態と評価(最近1年のド

ラマ視聴状況/個別ドラマ50作の視聴実態

と視聴理由/中止理由/非視聴理由/ドラ

マの位置付け/ドラマの充足・見方)

・生活意識と価値観/多忙度/生活充足度

2.ドラマ視聴の年層比較

疎遠化の広がり 

調査結果では,30・40代の上年層にも,疎

遠化のような意識が部分的に見える。たとえ

ば,40代全般が20代よりドラマを好む傾向が

あるとは,一概にはいえない。40代の場合,

より多く存在する「ドラマ好き」が,その

「視聴率」を支えている可能性がある。図

4- 1のように週3本以上のドラマ視聴者

は,20代の20%に対し,40代は30%近くに

達している。以下,疎遠ムードが上年層にも

あることも踏まえつつ,20代層の視聴実態と

意識において目立つ点を整理していく。グル

ープインタビュー(以下グルインと省略して

表記する)からの知見の補足も合わせ行う。

20代テレビ視聴の実態

対象者20代の「平日テレビ視聴時間」は,

前半3.6時間,後半3.5時間で,上年層(各層

とも4時間超)より30分以上短い。

「番組の選択方法」(図4-2)では,番組

表を見て選ぶ人は若い層ほど少ない。「見る

ものは決めていないでザッピングをしながら

決める人」は,若いほど多い。「つけたとき

の番組をなんとなく見て,適当に換える人」

を含むと,20代では25%前後が見るものを

決めていない形で視聴している。

「テレビの視聴態度」(図4-3)としては,

帰宅後すぐテレビをつけ,つけっぱなしにし

ておく傾向が顕著といえる。「人の声がして

110

図 4-2 番組の選択方法

(%)

40代後半40代前半30代後半30代前半20代後半20代前半

つけたときの番組

をなんとなく見て、

適当に換える

テレビのデジタル

番組表を見る

見るものはあまり

決まっていないので

リモコンで

その都度探す

見るものは大体

決まっているから

リモコンでチャン

ネルを換え探す

新聞・雑誌・ネット

などの番組表を見て

選ぶ

29

3735424948

262126

222223

1514117 8 5

9 1111 848 11107 7 5 5

図 4-1 最近1年のドラマ視聴頻度 (%)

週5本以上

週4本週3本

週2本週1本

月に2~3本月に1本以下

見ていない

40代後半

40代前半

30代後半

30代前半

20代後半

20代前半 9 16 21 14 21 10 3 6

7 15 20 17 22 12 3 5

6 14 18 16 23 11 5 7

9 18 15 16 17 11 6 8

9 16 19 12 16 14 5 10

10 12 17 14 21 14 4 9

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ110

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安心できる」「音がないと淋しい」という意

識の人は多い。「テレビがついていないと落

ち着かない」や「テレビはつけっぱなしで,

気になったときだけ目を向ける」の項で20代

前半が一番高いように,「時間快適化」視聴

と思える傾向は,年層が下がるに連れ強まっ

ている。インターネット併用の視聴が多い人

は,20代前半41%,後半34%とやはり上年

層より高い。グルインでも,半数近くが「ネ

ット併用」の視聴であったが,集中している

パソコンからテレビへの意識切り換えが瞬間

でも可能な様子がうかがえた。2002年「テレ

ビ50年調査」に基づき文研では,「現代的な

テレビの見方」の5つの特徴として感情性・

環境性・熟練性・断片性・一体性をあげ,若

年層に多いものとして,環境性(気がつくと

テレビをつけているような生活環境に溶け込

んだ見方)と熟練性(ドラマのストーリー予

想や,番組の演出細部への関心など深読みを

する見方)を指摘している。この傾向の強い

人ほどテレビを「漠然視聴」し,視聴時間が

長いことも提示しているが,このことは,若

年層のテレビ視聴変化の方向性を暗示してい

るといえる32)。

ドラマの好意度

20代で「一番好きな番組ジャンル」は,お

笑いバラエティを1位にあげる人が27%,ド

ラマは18%,ニュースショーが11%になって

いる。バラエティを,「お笑い」「トーク」

「実話再現」「ゲーム」「人間観察・体験」に

分け質問したが,5つを合わせると,20代女

性の45%近くが好きな番組1位にバラエティ

をあげていることになる。これが,今の20代

女性のテレビの嗜好性を物語っている。30代

前半の好きな番組ジャンルでは連続ドラマと

お笑いバラエティは拮抗し,30代後半より上

の世代になると,ドラマの方が上回っている。

だが,「最近の連続ドラマは好きか」とい

う,ドラマに絞った好意度についての回答

(図4-4)では,20代と上年層の差はあまり

ない。40代で「1番好きな番組はドラマ」の

人が24%なのに対し,ここでは「とても好

き」の回答が16,17%なのは,他ジャンルよ

りは全体としては好きだが,現在の個々の連

続ドラマに対しては,40代も実はやや冷めて

いることの現れであろう。ただ20代前半には,

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│111

図 4-3 テレビの視聴態度

(%)

テレビはつけっぱな

しで、気になったと

きだけ目を向ける

思わず夢中になって

テレビを見ているこ

とがよくある

テレビがついていな

いと落ち着かない

テレビを見ながら、

インターネットを

していることが多い

家に帰ったら、

とりあえずテレビを

つける

40代後半40代前半30代後半30代前半20代後半20代前半

5249

39363731

413429282724 2522

171519

13

231816131412

211914121210

図 4-4 ドラマの好意度 (%)

まったく 好きでは ない

あまり 好きでは ない どちらとも

いえない まあ好き とても好き

40代後半

40代前半

30代後半

30代前半

20代後半

20代前半 19

19

19

18

17

16

43

43

45

45

44

48

19

23

21

24

23

21

12

11

11

8

13

12

7

3

5

5

3

3

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ111

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「まったく好きではない」7%,「あまり好き

ではない」12%とドラマに否定的な人が最も

多く存在し,上年層と比べ疎遠化の根強さが

うかがえる。(「海外ドラマ(アメリカなど)」

や「韓国ドラマ」の好意度でも否定的で,

「まったく好きではない」が,海外ドラマ

15%,韓国ドラマ43%と,いずれも上年層よ

り明らかに高い)また,好きでない理由とし

て「ドラマに興味がないから」と答えた人は,

20代23%,30代19%,40代12%で,やはり

20代の疎遠が勝っている。

ドラマに対する表層の意識では,図4-5

のように,20代と上年層の差はそれほど大

きくないことがわかる。新ドラマの番組宣伝

から見るものを絞る人は,各年層とも40%前

後である。「毎週楽しみなドラマがあるよう

にしている」について40代前半が特に意識

的のようだが,20代も必ずしも大きくは劣っ

ていない。ただひとつ,「見られないドラマ

は録画しても見る」の回答に40代42%,20代

28%と目立った違いが出ていることは,象徴

的な差異と思われる。グルインでも,ドラマ

は「録画してまで見るものではない」という

意識・発言は見受けられたが,それに対して

上年層には,ドラマを見ることへの「執着」

意識が感じられる。「疎遠」と「執着」の濃

淡は把握しにくいが,この録画意欲の有無の

ような形で現れてくるのではないか。

ドラマという存在 

お金を払うこともなく何らかのものを簡単

に見ることのできるテレビ視聴が,「低関与」

なものでもあることは,早くから指摘されて

いる33)。その中で,どこまでの意図をもって

接触し,どう充足を得たかの積み重ねで,そ

の人の過去体験としての「ドラマイメージ」

が作られている。

図4-6は,「あなたにとってドラマはど

ういう存在か」の回答である。回答を見ると,

「手軽な娯楽」「息抜き・気晴らし」などでは,

20代も上年層もさほど差はない。しかし,

「共感」は20代前半で8%,後半で12%と上

年層より低い。30代後半・40代前半の16%

と比べ,20代前半は半分である。そこからす

ると,「感情移入するもの」に対して20代が

上年層と近い感もあるが,むしろ「ハラハラ,

ドキドキ」と感情が動かされるカタルシスの

112

図 4-5 ドラマに対する意識

(%)

40代後半40代前半30代後半30代前半20代後半20代前半

ネットをするようになって

ドラマへの興味が薄れたと

感じる

気楽に見られるドラマだけ

を選んでいる

ドラマ放送の時間を意識し

て、行動を縛られたくない

気持ちがある

連続ドラマは毎回は

見られないから

1話完結の方がいい

どの時期でも、

毎週楽しみなドラマが

あるようにしている

放送後いつでも見られる

ようになったら、

見る機会が増えると思う

新ドラマ開始期には

ドラマに関する情報が

ほしいと思う

見たいのに見られない

ドラマは録画しても見る

新ドラマはあらかじめ

番宣などで見るものを

絞っている

新ドラマは初回を見て、

複数候補の中から

見続けるものを選ぶ

42454745

40413739

44414142

2630

35404242

27313131

272722

292324

2020 17202119

2519 191818181617 15

1918192015 1615121216

12 1514101413

17

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:02 PM ページ112

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意味合いで答えている可能性がある。また

「生き方や考え方を学ぶ」と「自分の知らな

い価値観がわかる」でも,20代の反応は上年

層よりやや弱い。しかも「なくてもよいもの」

という人は,前半13%・後半8%と目立つ。

イメージとしては,わずかではあるが,上年

層ほどドラマに楽しみとカタルシスを感じな

がら人物に共感し,ときに新しい価値観を受

け止めているようにも受け取れる。

個別ドラマへの充足

実際のドラマ視聴において,「充足」はど

のような程合いでなされているのか。調査時

期の08年1月期のもの,及びここ数年で若年

層女性に反響があったと思われるドラマ計

50作を提示し,欠かさず見た理由を充足要素

と関連させた質問を行った。人物への好感=

「俳優を見るのが楽しみだった」「俳優の演技

がよかった」「人物のキャラクターが魅力的

だった」,カタルシス=「ストーリー展開が

面白かった」「先の展開が読めない/気にな

った」「ハラハラ・ワクワクできた」「スカッ

とした」「笑えた」「気分転換・気晴らしにな

った」,共感=「人物の人間関係に感情移入

できた」「立場の近い人物に共感できた」「泣

けた」,学び=「生き方や考え方の参考にな

った」「自分の価値観が再確認できた」とい

う形で対応させている。サンプル数が少ない

ものを除外し,各ドラマ「20代から40代まで

の全体平均」と「20代」の値を並べ一覧に

したものが表9である(参考として,90年代

の評判ドラマ『古畑任三郎』(フジ)も含め

てみた)。

この実際の「欠かさず見た」人の充足様相

では,年層間の目立った差はあまり見られな

い。ドラマを見る女性の充足は,40代までだ

と世代による違いはほぼないと考えてよい。

世代差は,ドラマを見ない人に現れていると

推察できる。「人物への好感」は,欠かさず

見たものだけあって多くのドラマで高めであ

る。「出演俳優を見るのが楽しみ」な人は,

ほとんどのドラマで5~7割は存在する。ま

た,ヒット作では,「登場人物のキャラクタ

ーが魅力的」が4~6割ほどになっている。

「カタルシス」に関わる項目は,「ストーリー

展開が面白い」で6,7割のものが多い。

「先の展開が読めない」「ハラハラ・ワクワク

する」「笑えた」「気晴らしになる」について

は,限られたドラマに評価が分散しており,

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│113

図 4-6 ドラマのイメージ

(%)

40代後半40代前半30代後半30代前半20代後半20代前半

なくてもよいもの

生き方や

考え方を

学ぶもの

自分の知らない

価値観が

わかるもの

現実逃避

共感するもの

感情移入するもの

とても

楽しみなもの

息抜き・気晴らし

手軽な娯楽

5357605554

58

39343841

4340

302729323535

1518131519

1481212

1616151114101012

6 9 6 611 9

15

6 5 6 9 8 1113

8 5 6 3 4

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ113

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114

※以下2008年1月期(平均視聴率高位順)

表 9 ドラマを見た理由(個別ドラマの充足状況)

俳優を見るのが

楽しみだった

俳優の演技がよ

かった

人物のキャラクター

が魅力的だった

ストーリー展開

が面白かった

先の展開が読めない

/気になった

ハラハラ・ワクワク

できた

スカッとした

笑えた

気分転換・気晴

らしになった

泣けた

立場の近い人物

に共感できた

人物の人間関係に

感情移入できた

自分の価値観が

再確認できた

生き方や考え方の

参考になった

古畑任三郎 木更津キャッツアイ Dr.コトー診療所 白い巨塔 世界の中心で,愛をさけぶ 曲がり角の彼女 女王の教室 電車男 野ブタ。をプロデュース 花より男子 アンフェア 時効警察 医龍 結婚できない男 僕の歩く道 のだめカンタービレ ハケンの品格 華麗なる一族 ホタルノヒカリ 働きマン ガリレオ

(フジ 94・ 96・99) (TBS 02)

(フジ 03・ 06) (フジ 03・ 04) (TBS 04) (フジ 05) (日テレ 05) (フジ 05) (日テレ 05)

(TBS 05・ 07) (フジ 06)

(テレ朝 06・ 07) (フジ 06・ 07) (フジ 06) (フジ 06) (フジ 06) (日テレ 07) (TBS 07)

(日テレ 07)

(日テレ 07) (フジ 07)

番組名(局・年) 視聴率

※各ドラマ上段:20~40代の平均,      下段:20代

(人物への好感) (カタルシス) (共感) (学び)

504865674441484441454449414525265860555557655156505052504446525659626055586156586364

414247524041423732333232393422233031312845454046363141393436404745443836424132272626

565358584738403126292828364133314137464439385552474546433026545553513636484437334747

716973696562655840425055605758515550605476747570806962544945656472696156615960607670

232825241113292911764

363111141621139

55551920292512121516119

109

3230141388

1920

2630202388

24266448

242615171112211846479

1227267734

15151213171811108

101921

91021241222127

136

105588

10976687488

-1

131430301185

202356

2122485223

--1

-111122

29271920212011

434711

444411

5151232711

4441111388

17182121985668

132069

13111713161397

222158

151454

2325161745

171616191111

3567

19178

11119

1822988

1075

12125835

101196

131388

151611101521152246

12457

105447

142157463446332446537734

151844

1525142122

1167

302958

504735457856

111223139

1112

2526574659688

1312

2356

171898

1212132411134666234723

101364

232146

2028788

15182422

13468855578

1067341

-23231146455633

1113257

12101723

25.1

10.1

22.4

26.2

16.0

14.5

17.3

21.2

16.9

21.6

15.4

12.0

17.2

17.1

18.3

18.9

20.2

24.4

13.7

12.1

21.9

85027729815752914458314841812121671

479118634200480146685257585180400142484136538146572162624213731261551140403153443185724228

n =

篤姫

薔薇のない花屋

斉藤さん

SP

貧乏男子ボンビーメン

だいすき!!

佐々木夫妻の仁義なき戦い

鹿男あをによし

あしたの,喜多善男

486154574448687657594248484654554142

364135383332474733304242303033263741

383331344337514640353732382945323733

514666626058808051504543615973657170

101157571011504814112115191551455162

67

182112164648121186

131018221819

4811

39391214131512

11144633

5711

111444

333334

232823199

10

71467

1615111115185695

171256

81388

14144377

16136242

1013

3733

14112456

109461235

67

1213571358

363033

--25

101357

1934236

10222453129

15

20856

58919639698

44016026381

30491

32193

30584

20662

2821

13141458

10113

-1233

(NHK) (フジ) (日テレ) (フジ) (日テレ) (TBS) (TBS) (フジ) (フジ)

24.5

18.8

15.6

15.4

11.7

11.4

11.1

10.0

7.2

全体 *網がけは全体平均より10%以上高いもの   *視聴率は世帯視聴率(関東)平均(第2・第3シリーズがあるものは最終シリーズの値)

52 37 41 61 23 17 9 18 12 10 6 9 10 5

(%)

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ114

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いずれかで3割以上のものは実状においても

「話題作」となっている。

「共感」の項目での評価は,高視聴率番組

であっても,必ずしも高いわけではない。む

しろ,限られたドラマにしか共感の充足意識

は表面化していない。共感については,20代

女性をタイプ分けした後にあらためて検討す

る。

「学び」については,前述したように,全

般的なイメージとしては決して20代は高くな

かったが,ある特定ドラマの回答に関して,

以下取り上げておきたい。

20代の実態としての「学び」

08年1月期,20代女性に3番目に多く見ら

れたドラマ『斉藤さん』(日テレ)に,現在の

「20代ならでは」とも考えられる反応があっ

た。これを見て「生き方や考え方の参考にな

った」という評価をした人は,年層別に分け

ると次のとおりであった。

・20代前半 39%,同後半 30%

・30代前半 13%,同後半 15%

・40代前半 15%,同後半 16%

上年層の2倍以上の率に,何らかの意味は

あると思える。07年10月期『働きマン』(日

テレ)にも,(グルイン時にも反応があった

が)以下のように学び充足が見てとれる。

・20代前半 26%,同後半 21%

・30代前半 12%,同後半 21%

・40代前半 14%,同後半 8%

ともに,20代後半より前半の方が高い。

『斉藤さん』は,幼稚園児のママたちの中で

起きる日常の出来事のドラマだが,「悪いも

の」を「悪い」と言い切る女性主人公の言動

がカギになっている。『働きマン』は,独身

女性の週刊誌記者を主人公に,「シゴト」へ

のスタンスをテーマにしたストーリーであ

る。それぞれを,20代女性が今の社会を生き

ていくための身近な「マニュアル」として見

ていた,と考えられなくもない。ときに強め

に表出するこの学びへの欲求・充足は,20

代女性の特性として注目しておきたい。

次に,ここまでの調査結果から読み取れる,

疎遠化の表層的な理由の洞察を行う。

3.疎遠化の表層要因

基本状況としてのテレビ視聴量の経年変化

の様子を,一応確認しておく。文研の全国個

人視聴率調査では,女性20代の1日の視聴時

間は,長期的に見て明解に減少しているとは

いえない。ただ,週間接触者率(1週間に5

分以上テレビを見た人の率)は,減少傾向に

ある。たとえば,視聴0分の女性20代は,97

年には11%であったが,2007年には17%に

増加している。長時間視聴者がほとんど減ら

ないこと(2007年に5時間以上の人は16%)

からいえば,テレビ視聴に対する「二極化」

の進行のように見える。

自覚されている理由

今回の対象者内でのドラマ低視聴層(最近

1年間「何回かだけ見た」及び「まったく見

ていない」人)は,20代前半35%,後半32%

である。この人たちの,「ドラマをよく見て

いた時期」と,「あまり見なくなった時期」

の回答を合わせたのが図4-7である。

前半層では,小学生から中学生にかけては

よく見ており,大学生から社会人になるころ

にあまり見なくなっている人が多い。後半層

は,高校生のころがよく見ていた時期で,社

会人2~3年目で見なくなった様子がわか

る。ともに,90年代後半がドラマ視聴のピー

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│115

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ115

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クで,2000年前後から視聴が減少したことが

ここでも見て取れる。年齢差があってもほぼ

同じ時期に変化をしているのは,ドラマ視聴

とライフステージ(たとえば,大学進学や就

職など)との関係以外に,別要因が働いてい

ると考えられる。

では,本人たちの意識の上では,ドラマ疎

遠化の原因はどう捉えられているか。低視聴

層のうち,過去に視聴時期がある人の「最近

ドラマをほとんど見ない理由」は,表10のと

おりであった。

この回答及びグルインからの知見に基づき,

20代女性自身が意識している疎遠化の表層要

因は,大きくふたつに整理できる。

①「時間的・精神的余裕の低減」

回答でいえば,a)d)e)f)h)j)m),な

どが該当する。

②「コンテンツの視聴欲求減退」

回答のb)c)e)g)i)k)l),にあたる。

時間的・精神的余裕の低減

①に関しては,仕事に追われている状況の

人と,それよりもむしろ「自分」に意識が向

いている人に分けて考える必要がある。

回答のごとく働く20代女性は,「仕事が忙

しい」と感じている人が多い。(前半層によ

り多いのは,仕事への慣れも作用していると

考えられる)仕事で「可処分時間」が減少す

れば,テレビ視聴は短くなり,連続ドラマを

見るゆとりはなくなる。日々の仕事の現実に

疲れている人は,早めに帰宅できたとしても

「仕事モード」が頭から払拭できないと,テ

レビに「気楽で楽しい」「息抜きになるゆる

116

図 4-7 ドラマをよく見ていた時期とあまり見なくなった時期 【よく見ていた時期】 【あまり見なくなった時期】

20代後半(n=82)20代前半(n=91)

20代後半(n=95)20代前半(n=103)

社会人6年目以降

社会人4~5年目

社会人2~3年目

社会人1年目

大学・短大・専門等学生のころ

高校生のころ

中学生のころ

小学生のころ 1

8

28

34

34

15

3

0

4

2

10

23

24

29

20

16

32

52

40

21

4

1

0

0

22

42

46

24

11

7

2

0

(%)

表 10 ドラマを見ない理由(複数回答) (%)

(n=82) (n=91)

a )

b )

c )

d )

e )

f )

g )

h )

i )

j )

k )

l )

m)

仕事が忙しい 好みに合う,興味がもてるものがない 以前に比べドラマに魅力を感じない 毎週決まった時間に見なければいけ ない義務感がイヤ 他に見たい番組がある テレビはつけているだけのことが多い ドラマを見る必要性を感じなくなった 知人と外食して遅くなることが多い 魅力ある俳優の出るドラマがない ドラマに集中するのが億劫 自分が成長し好みが変わった DVDやビデオを見ている 習い事などで帰宅が遅い

前半理 由 項 目 後半

63

25

25

23

14

22

22

19

12

13

15

8

12

44

23

27

26

21

23

17

18

13

18

10

15

6

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ116

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い」ものを求めがちである。「暗く」「重い」

ものへの「集中」を避け,とりあえずバラエ

ティを「つけておく」という状態になり,ま

た,見やすいバラエティ番組の増大がそれを

助長している。やはり「時間快適化」はこう

して増幅され,ドラマ疎遠化と連動している

といえる。ドラマを見るにしても,「明るく

ハッピーになれる」ものに現実逃避し,明日

のために自分の「モチベーション」を上げる

ことを志向している。

もうひとつは,「自己意識」が高い人の場

合である。自分の現状に満足しておらず,キ

ャリアアップや「自分磨き」が念頭にある人

は,相当存在する。資格取得の勉強で帰宅が

遅くなる人,趣味や人との付き合いをその意

味で大事にする人などは,やはりドラマから

遠のいていく。自宅でも「自分のためになる」

事にのみ関心が向き,たとえドラマをつけて

いても,ネット併用などの「ながら」視聴が

常態となっている。グルインでは,ドラマを

見ることに「時間のムダ使いで罪悪感的なも

のを感じる」という人も存在した。

コンテンツの視聴欲求減退

「忙しさ」や「ゆとりのなさ」だけで疎遠

化が生まれるかというと,そうではない。ド

ラマの内容自体に対して視聴意欲が低下して

いることは,様々な発言にも現れていた。そ

こには,3つの具体様相が指摘できる。

(1)ドラマへの「あこがれ」の消失

「好みに合う興味が持てるドラマがない」

「以前に比べドラマに魅力を感じない」など

の原因として,20代女性の多くがステロタイ

プのように口にした言い方があった。「以前

はドラマはあこがれだったけど,今は現実が

分かったので冷めてしまう」という発言であ

る。学校と家庭を中心に限られた環境にあっ

て,未知の世界(特に恋愛関係)を知る道具

として,「あこがれ」を持ってドラマに没入

をした90年代。それと比べ,社会での様々な

体験を通して現実の姿を受け止め,また現実

と非現実の判断基準が養われていく中,コン

テンツへの意識変化が起きているといえる。

ドラマが「ありえるかもしれない現実」から

「ありえない虚構」にしか見えなくなり,逆

に,ときに「リアルでないのなら,もっと非

日常的なものがいい」という発想にもなって

くる。この<あこがれ>とは,充足カテゴリ

ーの共感に該当するものに他ならない。そこ

には,90年代からその後にかけての社会変容

が20代女性に与えた何ものか,そしてコン

テンツに内在する何らかの背景が存在してい

る。

(2)コンテンツ嗜好の分散化

成長にともなう意識変化だけでなく,ドラ

マに代わり他のメディアコンテンツに対して

の嗜好性を増している人たちがいる。メディ

ア感度が高いと思われる人たちの中に,映

画・小説などへの信頼と比較して,テレビド

ラマは「大衆向け」の下位のものとして冷や

かに見る傾向がうかがえた。コンテンツ選択

眼が向上していき,嗜好が細分化していく状

況が,ドラマ疎遠化の一因につながっている

といえる。サブカルチャーとマス文化の時代

変容により,特定層の意識に変化が起きてい

ることが,この背後にある。テレビの多チャ

ンネル化の状況も,この嗜好分散に何らかの

影響を与えていると思われる。

(3)話題性の軽減

「ドラマを見る必要性を感じなくなった」

ことの一面として,90年代に比べ,ドラマ

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│117

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ117

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が話題の材料になることが減少したこともあ

げられている。かつてはドラマが友人や周囲

の人との共通話題として大切な意味を持ち,

視聴することに義務感に近いものもあった

が,今やそういう存在ではなくなっている。

4.受動性と能動性の二極化

「毎週決まった時間に見なければいけない

義務感がイヤ」という人が,20代の前半・後

半層ともに25%前後いる。時間的・精神的

な余裕の問題だけから来るものではない。こ

れに関して,疎遠化の深層要因のひとつとし

ての考察を行いたい。

見る努力を要求する番組

1988年,イギリスのバーワイズとエーレン

バーグはその著『テレビ視聴の構造 多メデ

ィア時代の「受け手」像』における視聴者行

動分析で,「視聴者に努力を要求する番組」

という項を設けている34)。ニュース・ドキュ

メンタリーやドラマなどを,「考えさせるもの

を提供」したと思わせる度合いを基準に視聴

者に努力を要求する番組とし,①その番組に

対する視聴者の規模は,くつろげる番組の規

模より小さくなること,②ただ,両者が同じ

規模であるなら,努力を要求する番組の方が

視聴者が高い評価を与える傾向があることに

論及している。しかし今,日本の20代女性に

とって,「見る努力を要する番組」としての

ドラマは,くつろげるバラエティより視聴量

は低下し,評価も必ずしも高いとはいえなく

なっている状況にある。

今回のグルインでは,この「見るのに努力

を要する」に類する言い回しを,何度となく

聞かされることになった。ドラマは,「連続だ

から見られない」「見逃すとわからなくなる」

「1時間も集中できない」「イメージを押し付

けられている感じがする」などの発言は,多

くのグループで目立った。その先にあったの

は,「ドラマに縛られたくない」という,極

めて端的で冷めた言葉であった。

テレビ拘束からの<離反>

文研が2008年1月に行った20代のテレビ

視聴に関するグルインの結果でも,同様の状

況が指摘されている。

その報告では,「ドラマを以前より見なく

なった」背景として,①確実に面白い番組し

か見たくない,テレビに裏切られたくないと

いう気持ち,②毎週同じ時間の視聴を強制さ

れることへの拒否感,を要因としてあげてい

る。後者には「時間管理欲求」のようなもの

があり,「見ようと時間をやりくりするのも

ストレスだし,見逃してしまうのもストレス

といった番組は選ばす,結果的にいつ見ても

話がわかるバラエティ番組を選ぶ傾向」があ

る。その根底にあるのが,「自分の欲しい情

報を自分で取りにいける,都合のいい時間に

作業できるというネット」を日常的に利用し

てきた20代が,自然に身につけてきた視聴ス

タイルであることを提示している35)。

ここにおいて,20代女性のドラマ疎遠化の

深層要因のひとつとしてのこの状況を,現在

のテレビと若年層視聴者の関係に見られる特

徴とも捉え,「テレビ拘束からの<離反>」

と名づけておく。その元として推論できるの

は,以下の2点であり詳述する。

1)能動的メディアの浸透による

メディア意識の変化

2)「自己啓発=能動」という認識からくる

メディア意識の変化

118

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ118

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コミュニケーションメディアの深化

第1に,20代を取り巻くメディア全体を注

視しておきたい。東浩紀は現在の日本社会に

おける「物語」の変容の背後にあるものとし

て,「想像力の二環境化」と「メディアの二

環境化」の存在を指摘している。後者でのふ

たつとは,「コンテンツ志向メディア」と

「コミュニケーション志向メディア」という

分割であり,「コンテンツ志向メディア」と

は,能動的な送信者と受動的な受信者の非対

称性で特徴づけられる旧来のマスメディア,

つまり出版,ラジオ,テレビ,映画といった

物語の配信に適した一方的なメディアである。

「コミュニケーション志向メディア」とは,

インタラクティブなメディア,ゲームやイン

ターネットであり,コンテンツは送信者側で

作られるだけでなく,ユーザーもコンテンツ

に介入しうる能動性をもつ36)。

現20代女性は,小学生時からテレビゲーム

のコントローラーを手にしていた。テレビの

画面はそのモニターでもあり,画面の中は自

分が介入可能な,かつ今まで想像しえなかっ

た世界であった。またテレビは,最初からビ

デオのモニターでもあり,都合に合わせて止

めることも戻すことも可能であった。パソコ

ンによるインターネット利用は,現20代が思

春期を過ごしていた1997年ごろから,急激に

世帯普及したものである。ウィンドウの中は,

自分が支配しているもので,興がのらなけれ

ば変える存在であり,またはオフにする。受

身である必要も,ましてや自分の意思に反し

て我慢している必要もない。そして90年代

後半は,「ケータイの時代」の幕開けであっ

た。98年のiモード開始以降,携帯電話は機

能を拡大し,彼女たちは難なく真っ先に対応

していった。

こうした状況に対して,様々な調査による

分析が行われつつある。しかし,ネットユー

ザーに起きているテレビ視聴に対して本人さ

えも無自覚な意識変容については,通常の調

査ではなかなか明瞭に把握しうるところでは

ない。2002年の時点で,「インターネットユ

ーザーのテレビ観」について,20・30代を対

象にしたグループインタビュー調査を文研が

行っている。この分析では,「デジタルデバ

イド」に関連した仮説として,「▲情報に関

する積極性の程度によって,インターネット

利用者と非利用者に分かれ,利用者はより能

動的な情報摂取を行う反面,非利用者では情

報を受動的に甘受するという二極化の傾向が

強まる。▲テレビ視聴に関しては,インター

ネット利用者では選択視聴,専門チャンネル

志向が進み,非利用者では,受動的,総合編

成チャンネル志向が強まる。テレビの“時間

快適化視聴”は,インターネット利用者では

減少する」などが論じられている37)。

今回のグルインにおいては,ネット併用視

聴の頻度は,ドラマ低視聴グループも視聴グ

ループもさほどの差はなかった。「テレビと

ネットのどちらが大事か」に対する答えとし

ては,低視聴グループはネット,視聴グルー

プはテレビを重視する傾向は確かに見られ

た。しかし,定量調査においては,テレビと

ネットの併行利用者の方が,むしろドラマを

視聴している傾向があることがわかった。つ

まり,ネット利用の多い人でも,ドラマをよ

く見ている可能性もありうる。ここでは,ネ

ット利用の量ではなく,質的なメディア意識

の変化が,疎遠化につながっているであろう

ことを指摘するにとどめる。面白いかどうか,

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│119

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ119

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あるいは自分にとって意義があるのかどうか

を,見続けなければ判断できないテレビ(ド

ラマ)の拘束に対する<離反>の意識は特定

の人たちの中に生じてきているといえる。た

だ,それとネット利用意識との質的関係を解

明するのは,容易なことではない。

受動性の忌避

第2に,20代女性の一部に色濃くあった

「自己啓発志向」との関連を指摘したい。「テ

レビ(ドラマ)に縛られたくない」という発

言者は,キャリアアップ意識・自己向上の意

欲を濃厚に持っていた女性たちである。この

タイプは,「自己の成長自体は能動的に何か

を行うことでこそ達成される」という発想か

らか,受動的な時間利用を避ける傾向が見え

た。また向上心があることからか,コンテン

ツに対する「感度」も低くはなく,良し悪し

の評価が明瞭で手厳しい人も多い。以上のこ

とから,テレビ視聴において限定した能動的

な選択を行うため,拘束的な関係は拒否され,

ドラマの多くは敬遠されがちになる。

図5は,テレビ拘束からの<離反>と「時

間快適化」視聴の関係を示したものである。

ドラマの拘束から離れていく場合には,3つ

のケースが考えられる。

①テレビをつけなくなる「無視聴化」

②番組を選択視聴する「限定視聴化」

③バラエティなどをBG(バックグラウン

ド)としてつけ「ながら」視聴を行う

「テレビのBG化」

③は「時間快適化」視聴の概念と重なって

くる。これが,現在の若者のテレビ視聴に関

する「受動・能動の二極化」の様相である。

疎遠化の深層要因については,これ以外に

ふたつのことを論じたいと考えている。その

ために,20代の内なる疎遠化要因につながっ

ていた社会変容や,コンテンツに内在してい

た問題にも目を向けなければならない。

この章では,調査に基づく現20代女性のタ

イプ分類を行うが,その前提として先に,彼

女たちの価値観やライフスタイルを規定した

90年代日本社会の変容を っておきたい。

1.前提となる成長背景

社会化に向けての思春期

宮台真司は,現F1層とテレビ視聴の関係

の根源のひとつとして,青少年期に家でも地

域でも学校でもない空間に出て行く「第四空

間化」が生じていた状況をあげている。第四

空間化は,①仮想現実(たとえばゲームやア

ニメ),②匿名メディア(テレクラや伝言ダ

イアル),③匿名ストリート(チーマー・コ

120

ドラマ疎遠化

テレビ拘束 からの 〈離反〉

テレビのBG化

(ながら視聴)

無視聴化 限定視聴化

テレビ意識保持 〈受動性〉

テレビ意識低下 〈能動性〉 〈二極化〉

図 5 テレビ拘束からの<離反>と「時間快適化」

時 間 快 適 化 視 聴

Ⅳ タイプ分類による20代女性

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ120

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ギャル化)に区別でき,90年代の女子を襲っ

た現象は,主に匿名ストリート化であった。

それは,コミュニケーションとしては,テレ

ビを含むマスメディアからの離脱化傾向を持

っていたという38)。

現20代女性の生年は,1979年から1988年で

あり,いわゆる「団塊ジュニア」世代(厳密

には1971年から74年生まれ)の次世代にあた

る。「ポスト団塊ジュニア」ともいえる世代

だが,彼女たちは,地下鉄サリン事件(1995

年)のあったころから,9・11同時多発テロ

(2001年)のころまでの間に,中学・高校を

経て大人になっていった。ここでは,彼女た

ちが成人していくまでのプロセス,社会学で

いう社会化(ソーシャライゼーション)の過

程に注目していきたい。90年代ドラマのピー

ク及び疎遠化が顕在化する時期に,それが重

なってもいるからである。

文研が1998年,この世代を対象に行った

「メディアと中学生・高校生」という調査に,

その意識の一端が見える。6年前の同じ調査

と比較した社会の受け止め方としては,「努

力すればむくわれる社会だ」(92年63%→98

年54%),「どの学校に通っているか卒業し

たかがとても重要視されている」(92年72%

→98年68%)などの変化が見られる。18%

の生徒が「学校が楽しくない」と答え,その

グループの傾向として,表11-1, 2にある

ように,“学校や親への不満”との相関があ

るだけでなく,テレビの暴力シーンなどに対

しての反応にも関連が見られる39)。

宮台も指摘するように,彼女たち世代のあ

る層は,高校生になると「コギャル」と呼ば

れるようになった。ミニスカートの制服,ル

ーズソックス,茶髪といった姿の女子高生は,

瞬く間に全国に広がり,ポケベル(やがては

ケータイにかわる)でのネットワークを築き

つつ,「チョー」のつく省略言葉を駆使し,

ときに大人からは想像もつかぬ行動にも走り

出す。それは1994年ごろから2000年過ぎまで

の「社会風俗」であり,その時期は後に「失

われた10年」とも呼ばれたころでもあった。

基準ライフコースの解体

彼女たちが思春期にさしかかるころ,バブ

ル好況の崩壊が表面化し,日本は泥沼のよう

な長期不況に入った。リストラ,倒産。日本

経済は地盤沈下していく中,グローバル化と

IT化の大波にも晒されていく。そして高度経

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│121

表 11-1 生活関連の質問

(学校が「楽しい」「楽しくない」人別) (%)

規則や親の注意が多くてノビノビできない

イライラさせられることが多い

熱中して打ち込めるものがない

いつも疲れた感じがする

よくわかってくれる

まあわかってくれる

わかってくれない

よくわかってくれる

まあわかってくれる

わかってくれない

30

22

41

31

58

10

16

53

29

47

28 57

45

61

24

45

29

8

25

65

楽しく ない

楽しい

親が

担任が

表 11-2 暴力シーンへの反応 (%)

暴力シーンを見ていて思わず夢中になったこ とがある

バラエティ番組などでたたいたりは笑いをと るためにやっていることだからかまわない

ドラマ番組などの殺傷場面はストーリーがあ る以上その通りに映像でも見せたほうがよい

23

28

29

32

39

43

楽しく ない

楽しい (学校が「楽しい」「楽しくない」人別)

1998年「メディアと中学・高校生」調査

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済成長を支え続けてきた銀行金融システム

は,ドラスティックな経営破綻を引き起こし

た。戦後日本の社会構造の中核となっていた

「企業社会」は,ズルズルと転換していくこ

とになる。

それまでは,「年功序列」や「終身雇用」

などの日本的慣行が若者たちの学校から社会

への移行をスムーズに実現させていたのが,

基準であったライフコースを急速に揺るがす

「就職氷河期」に突入する。企業は新規採用

を抑え,正社員を低賃金の非正規雇用者に置

き換えることで,会社の効率化を図っていく。

女性にとっても,雇用均等法や育児休業法な

どで一部は結婚・出産後も仕事を続けること

が可能になったが,やはり就職難の「氷河期」

の中で,非正規雇用に就かざるをえない女性

は,増大していった40)。

「家族リスク」の拡大

山田昌弘は,90年代後半の日本社会の構造

転換によって,ウルリッヒ・ベックが唱えた

「リスク社会」におけるリスクと同じ意味合

いで,日本の「家族リスク」が拡大すること

を論じている。家族の大きな機能は「アイデ

ンティティの将来にわたる長期的保障」にあ

るとし,それは親子・夫婦が互いに「心配し,

必要としている存在」として接することが

「規範」として要請されていることを前提と

している。しかし,90年代後半からの経済的

自由の拡大,グローバル化やIT化が収入の

不安定化(見通し悪化と格差拡大)をもたら

したこと,個人化に基づく自己実現の強調と

慣習的規範に従わない自由の拡大が,規範に

よる統制力の弱体化につながっていること,

そして市場原理主義の浸透で自己責任が強調

されることで「福祉社会の後退」が起きるこ

とが,家族の「リスク」をもたらした。たと

えば家族の基本となる夫婦の関係において,

「一度好き合って夫婦になれば,愛情は続く

はず」「離婚はいけない」といった規範は緩

み,「夫婦であっても愛情が続くとは限らな

い」「愛情がなくなったら離婚して当然」と

いう意識が強まっている。そこには,アイデ

ンティティの対象を喪失する可能性が開かれ

ていることを指摘している41)。

家族に関する意識は,確かに大きな変容を

遂げている。文研が5年に一度行っている

「日本人の意識」調査でも,「結婚はするのが

当然」か「必ずしもしなくてよい」かという

質問に対し,20代女性の場合は,2003年には

「しなくてよい」が増えて90%を超えている

(10年前と比較し10%近い増)。また,「結婚

したら子どもをもつのが当然」か「必ずしも

もたなくてよい」かについては,「もつのが

当然」という20代女性は大きく減って20%

を切っている42)。

「自分らしさ」の困難

企業社会や家族の変貌を含む社会変容は,

若い世代にどういう影を落としていたのか。

文化社会学者の中西新太郎が,90年代の若

者文化の変化とその背景に,以下のような論

及をしている。80年代から90年代の日本の若

者の成長過程は,「家庭」「学校」「消費文化」

のトライアングルの3領域をめぐりながらの

「社会化」が行われていることを前提に,若

者たちの変化は次のように要約できる。

①「ルーズソックス」に見られるように,儀

礼的なものとして顕在化している。

②サブカルチャーも含め,文化の共通性・共

通経験が弱体化してきた。

③「学校」を中心とした社会化のさまざまな

122

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ122

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装置が,広範な機能不全に陥っている(学

校に通うことが当たり前のことではなくな

りつつあるなど)。

④企業社会と消費社会の接合としての家族像

が,急速に変貌している。

⑤「暴力の文化」(「いじめ」など)というべ

きものの洗練化と肥大化が起きている。

その背景として,第1には,バブル崩壊後

に始まった大衆社会の再収縮が日本型消費社

会に潜む矛盾を顕在化させていること,第2

に,消費社会と企業社会が連続していたライ

フコースの閉塞に対応した文化的転成が高校

の段階に生じ,「高校のときは一番楽しい時

期で,今遊ばなければ,今自分を実現できな

ければもう先がない」,「今のうちになんとか

しなくちゃおしまいだ」という意識にそれが

現れているという。その上で日本においては,

アイデンティティの形成が社会化と切り離さ

れ「自分らしさ」として定式化されてきたた

めに,アイデンティティをもっぱら「私的」

なものに捉えている。そして,そうしなくて

は認めてもらえない強迫的圧力があるゆえ

に,「かたち」の「流行」にのることで,「自

分らしさ」(正確には自分のキャラ・イメー

ジ)を見せつつ,それでも見かけだけで判断

しないで自分の本当の中身も見てほしい,と

いう乖離ないしねじれを生じていること,ま

たそれが「本来の自己」に対する空洞感をも

たらすダブルバインド状況にもなっているこ

と,を指摘している。そのねじれは,流行し

ている文化のなぞりを稚拙な模倣と退ける形

でも出現する43)。

ここで,この章冒頭の宮台の論にまた戻る。

「テレビ拘束からの<離反>」の背景状況と

も重なってくるが,宮台によれば,若者たち

の狭い「島宇宙」(コミュニケーションが共

通前提の小集団に分化する現象)における共

通前提を供給するには,マスメディアの利用

は向かない。ケータイやパソコンを用いたプ

ライベートメディアの方が向いているからこ

そ,IT機器によりテレビが侵食されていく。

マスメディアは,もともと大衆規模の共通前

提を参照する以外になく,島宇宙の若者をタ

ーゲットにすることが難しい性格のものであ

るとしている。

消費文化追従への<反感>

ここまでを踏まえ,2000年前後のドラマ

疎遠化に関する第2の深層要因として,次の

推論が成り立つと考える。

ドラマ疎遠化の背後には,「消費文化追従

への<反感>」の顕在化ともいうべき状況が

あったのではないか。90年代末の社会的・文

化的な揺らぎを肌で感じる日々において,ラ

イフコースの閉塞感と自己の空洞感の狭間

で,成熟した消費文化の最たるものとしての

テレビドラマに,もはや周囲の大人=「社会」

に対峙すると同様に語るべき言葉もない<欺

瞞性>に近いものを感じ取り始める。そして,

その「ベタ」なものの「飽和感」の中で,熱

が冷めたように疎遠になっていったと解釈で

きないだろうか。ただそれは,中西のいうダ

ブルバインドなもので,消費文化の主流への

全否定というわけではない。それゆえ,その

不安定な「気のなさ」は,上の世代には説明

のつかないものにしか見えない。

北田暁大も,『嗤う日本の「ナショナリズ

ム」』の中で同じ局面について述べているが,

上記の補強にもなる。「80年代的な消費文化

のなかでは―たしかにある種のシニシズムが

漂っていたものの―若者たちは,マスコミが

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│123

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ123

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呈示する価値体系を十分に咀嚼したうえで自

らの記号的位置を演出していくこと,つまり

マスコミが演出する<秩序>のなかで位置ど

りすることを求められていた。そこには,西

武-PARCOのような資本やマスメディアと

いった擬似的な超越者がつねに価値体系を再

生産し,消費者-視聴者がその他者のまなざ

しを内面化する,というドラマツルギーがい

まだ成立していたといえよう。しかし,90

年代なかば以降,若者たちは,大文字の他者

が供給する価値体系ヘコミットを弱め,自ら

と非常に近い位置にある友人との<繋がり>

を重視するようになる」44)。

そして若者は,「笛吹けど踊らず」の存在

になった。その後の20代の「脱消費」の広

がりについては,様々なことが明らかになっ

ている。たとえば,2007年に日経産業地域研

究所が行った 20代を対象とした調査では,

「車が欲しい」人は 2000年時と比較して,

50%弱から25%前後に半減している。それ

以外にも,家電製品などの耐久財や,高額ブ

ランド品のような「見せる」「差をつける」

商品への関心の低下を始め,消費全般からの

離脱傾向が起きていることがわかる45)。

2.20代女性の5タイプ

疎遠化は,いかなるタイプの20代女性にど

う存在しているのか。ドラマ充足については,

いかなるタイプの人にどういう傾向が見える

のか。ここでは,「世紀末」を越えて今を生

きる20代女性の生活意識や価値観に基づく

分類化を行い,それぞれのタイプごとに特性

の把握を行う。

生活意識の因子

表12にあるように,生活意識関連項目の回

答の因子分析(主成分分析・バリマックス回

転)により5つの因子を抽出した。その上で,

個々の対象者の一番高い因子得点を使用して

クラスター分けを行い,5つのタイプに分類

することにした。それぞれのタイプを以下の

ように名づける。

①「流行好き」タイプ

②「保守・大衆」タイプ

③「文化系・サブカル」タイプ

④「生活謳歌」タイプ

⑤「前進派」タイプ

各タイプの20代前半・後半層での構成比

は図6のとおりで,両者に大きな違いはなく,

「保守・大衆」「文化・サブカル」タイプが他

よりやや多くなっている。

それぞれのタイプの,主な特徴的傾向をあ

げる。(図7を参照)

①「流行好き」タイプ

・仕事は残業が少なめで,時間的な余裕があ

る人が多い。趣味は食べ歩き,ネットが目

立っている。

・在宅時はテレビが常についているような環

境で生活し,バラエティ番組を中心に見る

ものは確認せずとも把握している。ドラマ

は,事前に絞るかまたは初回を見てから決

めるか半々。ドラマ好きは多く(特に後半

層),いずれも視聴意欲が低くない。他タ

イプと比べ,内容よりも俳優への「好感」

124

図 6 20代女性の生活意識タイプの構成比

流行好き 保守・ 大衆

文化系・ サブカル 生活謳歌 前進派

(%)

22 23 20 16

24 23 17 1818

19

前半

後半

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ124

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がより重視されている。

・ネット併用のテレビ視聴が多い。メディア

の流行情報にも敏感。

②「保守・大衆」タイプ

・家族との同居が一番多いタイプ(前半層で

8割弱)。正社員が他より多めだが,残業

は多くなく比較的余裕がある。これといっ

た趣味が特化していない傾向がある。

・前半は特にテレビ依存度が高く(ついてい

なければ落ち着かない),お笑いバラエテ

ィ中心に視聴。ドラマも日常的な娯楽・楽

しみとして受容。前半層の方が,後半より

ドラマ好きが多い。生活意識に他者志向性

(他者に従い自己規定する)があるせいか,

後半層では同世代を主人公にしたドラマ

(『ハケンの品格』『働きマン』など)に対

し反応が強い。

・ネット併用のテレビ視聴が,4~5割と高

めである。

③「文化系・サブカル」タイプ

・前半層ではひとり暮らしが一番多い(4割

弱)。残業が一番多め。趣味に,観劇・美

術鑑賞・映画鑑賞・読書などインドア系が

目立つ。

・テレビ依存が一番弱く,ドラマの好意度も

低めで,視聴量も少なめ。俳優目当てでな

く,テーマや内容で選ぶ。先の展開が非常

に気になる類のもの(『SP』など)には反

応あり。内容の好みが合わないために,過

去1年間に連続ドラマをあまり見ていない

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│125

表 12 生活意識による因子分析結果

第1因子

0.708

0.573

0.542

0.519

0.465

0.461

0.073

-0.122

0.234

0.009

0.351

0.046

0.124

0.078

0.295

0.005

0.141

0.184

0.140

0.373

0.242

-0.008

10.910

0.010

0.175

-0.065

0.427

-0.084

0.229

0.704

0.568

0.527

0.513

0.500

0.003

-0.050

0.052

0.342

0.111

-0.014

0.227

-0.327

0.019

0.047

0.346

10.460

-0.075

0.244

0.141

0.005

0.166

0.208

0.004

0.125

-0.173

0.112

0.085

0.731

0.678

0.662

0.475

0.205

0.021

-0.041

0.243

0.146

0.014

0.398

9.830

-0.086

0.223

0.298

-0.039

0.281

0.100

-0.017

0.077

0.223

-0.113

0.019

0.102

0.081

0.047

0.127

0.720

0.575

0.570

0.461

0.408

0.230

0.262

9.160

-0.098

0.141

0.125

-0.074

0.045

0.142

0.079

0.054

-0.126

-0.482

0.107

0.007

0.020

0.010

-0.018

0.062

-0.604

0.158

0.051

0.266

0.618

0.453

6.350

テレビが好きだ

新製品や流行の情報には詳しいほうだ

服装は,個性を発揮するための手段だと思う

ランキングはついつい気になる

音楽のない生活は考えられない

深く狭くより,広く浅くいろいろな趣味を持ちたい

いいと思った服・音楽などでも,人に否定されると気に入らなくなる

ネットで調べ物をしていて知りたい情報にたどり着けないことがある

女の幸せは,やっぱり結婚にあると思う

人生,攻めより守りだと思う

服は何を着たいかより,周囲にどのようなイメージを与えるかを気にする

一人で映画館によく行く

好きな作家(小説・漫画)を10人以上思いつく

映画はロードショーよりミニシアターが好きだ

コンビニには,用事がなくても立ち寄ることが多い

仕事以外に,趣味その他で,具体的な目標をもって生活している

仕事よりも趣味やプライベートを充実させたい

休みの日は,家にいるよりも,出かけることが多い

人にどう思われるかよりも,自分の気持ちが大切だと思う

人と話しているとき,話題は自分からふることが多い

やるからには,仕事にやりがいや生きがいを見いだしたい

職場でのステップアップや転職を目的とした勉強・習い事をしている

第2因子 第3因子 第4因子 第5因子

寄与率  46.72

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ125

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126

流行好き テレビとの距離感が近く,自らの関心を深めることよりも,そのときの流行を追うタイプ。

前半 18% 後半 19%

(%)

(%)

前半72 33 40 35 26

11 16

91 9774 79 74 64 70 79 80

67 59 64(%)(%)

(%)後半64

561132-

有職率 正社員 派 遣 バイト 主 婦

多忙度 時期によって忙しい さほど忙しくない

残業平均

充足度 まあ充実

あまり充実せず

12335668810

薔薇のない花屋 SP 貧乏男子ボンビーメン 斉藤さん 鹿男あをによし 1ポンドの福音 ロス:タイム:ライフ ハチミツとクローバー 佐々木夫妻の仁義なき戦い だいすき!!

前半

趣 味 海外旅行 イベント 食べ歩き 音楽鑑賞 映画鑑賞 ネ ッ ト

同居率

572417-

561910.8

561911.3

4426

4717

35322626201919171715

(%) 12245577710

薔薇のない花屋 SP 佐々木夫妻の仁義なき戦い だいすき!! 斉藤さん ハチミツとクローバー 貧乏男子ボンビーメン 鹿男あをによし ロス:タイム:ライフ 未来講師めぐる

後半

前半 後半 TV視聴態度

番組選択方法

(左:前半,右:後半)

(左:前半,右:後半)

よく見る番組 ドラマ選択重視点

(%)

53333326242421212119

帰宅後とりあえず TVをつける よく見る番組の曜日 や時間を覚えている TVを見ながらネット することが多い

61

52

48

61

52

48

前半 後半 ドラマの見方 (%) ひとまず 初回を 見てから絞る 見られない場合には ビデオに録る 見たいドラマは 事前に番宣で絞る

48

33

48

53

48

45

244867635044

454574595340

新聞雑誌

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テレビの

デジタル

番組表

お笑い系

バラエティ

連続

ドラマ

ニュース、

ニュース

ショー

テーマ

好きな

女優俳優

が出ている

ジャンル

保守・大衆 自身の基準よりも,外部指標を優先させる保守的な常識人タイプ。

前半 24% 後半 22%

(%)

(%)

前半79 33 37

25 22 10 17

74 74 83 75 67 72 61 62 58 65 58 55後半65

5911 28 -

有職率 正社員 派 遣 バイト 主 婦

多忙度 時期によって忙しい さほど忙しくない

残業平均

充足度 まあ充実

あまり充実せず

1224566699

薔薇のない花屋 SP だいすき!! ハチミツとクローバー 佐々木夫妻の仁義なき戦い 斉藤さん 3年B組金八先生 相棒 貧乏男子ボンビーメン ロス:タイム:ライフ

前半

趣 味 海外旅行 イベント 食べ歩き 音楽鑑賞 映画鑑賞 読 書

同居率

622415-

491013.3

541113.4

4617

4812

39252522181717171515

(%) 1234555888

薔薇のない花屋 SP 斉藤さん だいすき!! 貧乏男子ボンビーメン 未来講師めぐる 交渉人 佐々木夫妻の仁義なき戦い 3年B組金八先生 相棒

後半

前半 後半 2008年1月期視聴ドラマ

2008年1月期視聴ドラマ

2008年1月期視聴ドラマ

TV視聴態度

番組選択方法 よく見る番組 ドラマ選択重視点

(%)

34221917151515121212

帰宅後とりあえず TVをつける よく見る番組の曜日 や時間を覚えている TVを見ながらネット することが多い

65

43

43

59

49

49

前半 後半 ドラマの見方 (%) ひとまず 初回を 見てから絞る 見たいドラマは 事前に番宣で絞る 見られない場合には ビデオに録る

42

35

25

52

43

29

223543334719

464053374635

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女優俳優

が出ている

ジャンル

文化系・サブカル コミックや小説・映画などに多く触れ,自分の好み・嗜好を強く持っているタイプ。

前半 23% 後半 23%

(%)

(%)

前半63 27 35

21 19 13 12

7081 74 71

59 64 63 55 60 49 54 45後半65

511629-

有職率 正社員 派 遣 バイト 主 婦

多忙度 時期によって忙しい さほど忙しくない

残業平均 充足度

まあ充実 あまり充実せず

1234466699

SP 薔薇のない花屋 ロス:タイム:ライフ だいすき!! あしたの、喜多善男 斉藤さん 未来講師めぐる 鹿男あをによし 交渉人 相棒

前半

趣 味 海外旅行 レジャー 観 劇

美術鑑賞 音楽鑑賞 映画鑑賞 読 書

同居率

572316-

449

21.4

621026.5

3123

557

24211714141313131010

(%) 1234466699

SP 薔薇のない花屋 斉藤さん 未来講師めぐる 相棒 だいすき!! 交渉人 篤姫 ロス:タイム:ライフ 1ポンドの福音

後半

前半 後半 TV視聴態度

番組選択方法 よく見る番組 ドラマ選択重視点

(%)

321715121210101099

帰宅後とりあえず TVをつける TVを見ながらネット することが多い よく見る番組の曜日 や時間を覚えている

39

30

21

28

20

20

前半 後半 ドラマの見方 (%) ひとまず 初回を 見てから絞る 見たいドラマは 事前に番宣で絞る 見られない場合には ビデオに録る

47

33

23

35

30

23

21202729526252

44253032525854

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ドラマ

ニュース、

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女優俳優

が出ている

ジャンル

(%) (%)

(左:前半,右:後半)

(%)

(%)

(%) (%)

図7 20代女性の生活意識の5タイプ(前半層・後半層別)

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ126

Page 33: テレビドラマの 軸 - NHKオンライン · 調査の「ふだんよく見る番組」の順位では, ドラマはニュース,天気予報に次ぎ常時高位 ... 視聴率

人が,2割と一番多い。

・ネット併用も一番少なめである。

④「生活謳歌」タイプ

・後半層は非正社員率が5割以上と高い。旅

行・イベント・ドライブとアクティブな趣

味を持つ人が多い。

・ザッピングで見る番組を決める人も多い。

全体的に「ながら」視聴など,特に前半層

はドラマだけでなくバラエティにも関心が

低め。前半層は,ドラマに縛られたくない

という気持ちが強い。後半層は限定しなが

らも,ドラマの共感要素にやや反応してい

る。

⑤「前進派」タイプ

・家族同居率は低め。正社員率が高く,アル

バイトの人も少ない。文化系・サブカルに

次ぎ仕事が多忙。趣味はフィットネス・ヨ

ガ・英会話など,「自分磨き」の習い事も

他と比べ多い。

・ニュース番組を一番見ているタイプだが,

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│127

生活謳歌 価値観が明確で,仕事よりもプライベートを意識的に重視。積極的でアクティブなタイプ。

前半 17% 後半 20%

(%)

(%)

前半71

33 37 25 22 10 17

7474 83

75

6772 61 62 58 65

58 55後半58

6118 18 -

有職率 正社員 派 遣 バイト 主 婦

多忙度 時期によって忙しい さほど忙しくない

残業平均 充足度

まあ充実 あまり充実せず

12344478810

薔薇のない花屋 SP 鹿男あをによし 相棒 だいすき!! 貧乏男子ボンビーメン 交渉人 佐々木夫妻の仁義なき戦い ハチミツとクローバー 斉藤さん

前半

趣 味 国内旅行 海外旅行 イベント ドライブ 音楽鑑賞 園 芸 読 書

同居率

432825-

611414.1

484018.3

4710

4323

2622181414141210108

(%) 12245666610

薔薇のない花屋 SP 佐々木夫妻の仁義なき戦い 斉藤さん ハチミツとクローバー 鹿男あをによし 相棒 ロス:タイム:ライフ 3年B組金八先生 だいすき!!

後半 前半 後半 TV視聴態度

番組選択方法 よく見る番組 ドラマ選択重視点

(%)

42222218171515151513

帰宅後とりあえず TVをつける よく見る番組の曜日 や時間を覚えている TVを見ながらネット することが多い

47

33

37

47

33

32

前半 後半 ドラマの見方 (%) 見たいドラマは 事前に番宣で絞る ひとまず 初回を 見てから絞る 見られない場合には ビデオに録る

39

37

16

45

37

27

6333533557-35

7032474360737

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好きな

女優俳優

が出ている

ジャンル

前進派 仕事が意識上の中心にあるタイプ。仕事にアイデンティティや生きがいを求める。

前半 18% 後半 16%

(%)

(%)

前半64

2140

21 17 25 19

79 85 81 7553

65 6275

5567

45 48後半67

6417 19 -

有職率 正社員 派 遣 バイト 主 婦

多忙度 時期によって忙しい さほど忙しくない

残業平均 充足度

まあ充実 あまり充実せず

1234557799

薔薇のない花屋 SP 鹿男あをによし あしたの、喜多善男 佐々木夫妻の仁義なき戦い 斉藤さん 貧乏男子ボンビーメン 交渉人 ハチミツとクローバー ロス:タイム:ライフ

前半

趣 味 イベント レジャー 音楽鑑賞

フィットネス ヨ ガ 園 芸 英会話

同居率

5635 4 -

236

17.5

231018.0

5321

5413

23191711998866

(%) 1134567777

薔薇のない花屋 SP 佐々木夫妻の仁義なき戦い 貧乏男子ボンビーメン 篤姫 斉藤さん 鹿男あをによし 交渉人 ハチミツとクローバー 相棒

後半

前半 後半 TV視聴態度

番組選択方法 よく見る番組 ドラマ選択重視点

(%)

40402719171513131313

帰宅後とりあえず TVをつける TVを見ながらネット することが多い よく見る番組の曜日 や時間を覚えている

47

51

28

42

31

33

前半 後半 ドラマの見方 (%) ひとまず 初回を 見てから絞る 見たいドラマは 事前に番宣で絞る 見られない場合には ビデオに録る

34

34

34

50

29

23

3434599289

2919401919413

新聞雑誌

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ニュース、

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好きな

女優俳優

が出ている

ジャンル

2008年1月期視聴ドラマ

2008年1月期視聴ドラマ

(左:前半,右:後半) (%)

(%)

(%)

(%)

(左:前半,右:後半) (%) (%)

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ127

Page 34: テレビドラマの 軸 - NHKオンライン · 調査の「ふだんよく見る番組」の順位では, ドラマはニュース,天気予報に次ぎ常時高位 ... 視聴率

他の番組はザッピングで選ぶ傾向が強い。

前半層は,ネット併用のながら視聴が5割。

時間的・精神的余裕のなさから,ドラマに

対し疎遠。ただ,後半層は緊迫感ある人間

ドラマ的なもの(『華麗なる一族』『白い巨

塔』など)を限定し視聴している様子。

疎遠化のタイプ別傾向

図8は,タイプ別のドラマ好意度である。

概要にも記したように,グラフの上2つのタ

イプに比べ,下3タイプがドラマをより好ん

でいないことが明解にわかる。生活謳歌前半

の「あまり+まったく好きではない」は30%

を超え,また,前進派前半でも25%弱になっ

ている。「海外ドラマ(アメリカなど)の好

意度」においては,文科系・サブカル後半,生

活謳歌後半,そして前進派の前半・後半とも

に,海外ドラマを「とても好き」という人が,

日本の連続ドラマを上回っている。

また,調査時期である2008年1月期のドラ

マで欠かさずに視聴した本数は,表13のよ

うになっている。流行好きが平均3~4本,

保守・大衆が2~3本,他タイプは2本前後

である。下3タイプは,比較して明らかに視

聴量も少ない。同様の生活意識の因子分析を

比較層の30・40代女性でも行っているが,こ

の期7本以上のドラマ視聴者は,流行好きの

30代前半16%,同後半23%,40代前半27%,

同後半28%と20代や他タイプを上回ってい

る。流行好きが年齢にかかわらず視聴量が多

い人が目立つことは,社会動向やライフステ

ージの変化がドラマ視聴にあまり影響してこ

なかったグループといえるのではないか。

以上から疎遠化の量的な側面としては,次

の状況が想定できる。

①流行好きタイプ,保守・大衆タイプの中の

ドラマ好きではない人,及び時間的余裕の

ない人の視聴量減少。

②文化系・サブカル,生活謳歌,前進派各タ

イプ全般の視聴量減少。

①については,流行好き 20代でドラマが

「あまり+まったく好きではない」人は12%,

128

表 13 2008年1月期ドラマを見た本数 (%)

全体

流行好き

保守・大衆

文化系・サブカル

生活謳歌

前進派

前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半 前半 後半

2.72.93.63.02.42.01.71.92.51.52.6

2822193125403939283629

1715121531112020132615

151514141117138

271715

121797

146

131459

17

84

17103648842

5973

-107

-544

497767

-45

-6

119

16141133884

13

0本

1本

2本

3本

4本

5本

6本

7本以上

平均(本)

図 8 20代女性のタイプ別ドラマ好意度 (%)

まったく好きではない

どちらともいえない とても好き

22

29

28

26

16

10

16

18

11

13

50

43

49

54

43

35

31

38

42

48

15

17

10

9

27

36

22

23

23

27

13 0

7

11

6

7

16

16

15

13

13 0

3

3

5

7

3

16

5

11

前半

後半

前半

後半

前半

後半

前半

後半

前半

後半

流行好き

保守・大衆

文化系・

サブカル

生活謳歌

前進派

まあ好き

あまり好きではない

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ128

Page 35: テレビドラマの 軸 - NHKオンライン · 調査の「ふだんよく見る番組」の順位では, ドラマはニュース,天気予報に次ぎ常時高位 ... 視聴率

保守・大衆にも12%存在し,その人たちの視

聴減少は考えうる。また,忙しくて見られな

くなったという人もいる。

②の3タイプの視聴減少は,これまでの疎

遠化の表層・深層要因と照らし合わせても,

妥当かつ基本的な様相と思える。定量調査で

の20代のうち低視聴層(最近1年間「何回

か見た」+「まったく見ていない」)は34%で

あり(ほとんどが3タイプ),そのうち過去に

「ドラマをよく見ていた時期はない」と答え

た人は,13%にすぎない。3タイプに属す

る人が,以前からドラマとの間に距離があっ

たわけではない。やはり疎遠化様相は,文科

系・サブカル,生活謳歌,前進派の3タイプ

が視聴本数・視聴回を限定してきたことが,

基底となっているのであろう。

ドラマ充足の実相

ドラマ充足は,タイプごとに違いがあるの

だろうか。あるとすれば,それが疎遠化に及

ぼしている影響はないだろうか。カタルシ

ス・共感・学びの充足意識に関して,主に

「共感」の細部を掘り下げることをねらいに

して具体的な7項目の質問をしたものが表

14である。カタルシスとしては,「ドラマの

中の出来事にドキドキハラハラする」「スト

ーリーより散りばめられたネタや小道具に注

目する」,共感として,「主人公に感情移入し

喜怒哀楽をともにする」「人物に感情移入し

泣いたり喜んだりする」「複数人物の視点か

ら気持ちを想像して喜怒哀楽する」「同性の

人物に自己投影し,相手との恋を楽しむ」,

学びとしては,「人物の価値観や行動を見て,

自分を再確認する」という選択肢を対応させ

ている。

回答を見ると,上2タイプに比して下3タ

イプの反応はいずれに関しても薄い。現状の

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│129

表14 20代女性のドラマ充足要素(ドラマの見方) (%)

全体

流行好き

保守・大衆

文化系・サブカル

生活謳歌

前進派

前半

後半

前半

後半

前半

後半

前半

後半

前半

後半

ドラマの中の出来事などに

ドキドキハラハラする

ストーリーより、散りばめ

られたネタや小道具に注目

する

75

91

76

90

79

63

55

73

77

74

71

34

39

31

46

39

51

35

33

50

30

35

主人公に感情移入し、喜怒

哀楽をともにする

47

56

59

63

68

37

35

47

50

38

50

人物に感情移入し、泣いた

り喜んだりする

46

56

55

58

57

34

28

43

57

34

56

複数人物の視点から、気持

ちを想像して喜怒哀楽する

50

57

55

54

52

40

38

47

53

45

52

同性の登場人物に自己投影

し、相手との恋を楽しむ

22

22

29

42

40

19

7

16

30

15

10

人物の価値観や行動を見て、

自分を再確認する

43

44

52

63

52

39

26

43

50

30

46

※網がけは,全体平均より10%以上高いもの

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ129

Page 36: テレビドラマの 軸 - NHKオンライン · 調査の「ふだんよく見る番組」の順位では, ドラマはニュース,天気予報に次ぎ常時高位 ... 視聴率

ドラマへの好意度の違いとも見える。「カタ

ルシス」への反応は,上2タイプのうちでも,

前半の方が高い。比較して下3タイプは低い

が,その中では生活謳歌後半や前進派前半は

やや高めである。このタイプが,海外ドラマ

を好んでいることとも関連しているであろ

う。「学び」にタイプごとの違いは大きく見

えないが,保守・大衆がやや高め傾向という

ことは,「他者志向性」があることから理解

しうる。

「共感」項目の差異について,上2タイプ

と下3タイプとに注目したい。特に,20代女

性全体のうち25%弱を占める文科系・サブカ

ルでの低傾向は目立つ。生活謳歌・前進派で

は,前半層が後半層に比べ低い。ここから導

き出せるのは,ドラマ共感への反応の濃淡が

ドラマ視聴意欲と関係している可能性があ

る,ということである。共感のあり様の違い

が,下3タイプのドラマ疎遠化に何らかの形

でつながっていると考えられる。

ドラマ共感の迷走

個別ドラマへの充足状況を一覧にした表9

(114p)と,表14の値を比較してみたい。表

14は,20代女性全体の5割近くが,ドラマに

「共感する場合がある」ことを示している。

それに対して最近のドラマの視聴においては,

表9に見られるように,「共感」に関連した

項目で20%に達しているものはほとんど存在

しない。この落差と共感反応のあるドラマ数

が限定されていることが,現在のドラマと20

代女性の質的関係として最も深く着目すべき

点と考える。

たとえば,表9内の「人物の人間関係に感

情移入できた」という項目で,20代女性から

15%以上の共感反応を得ているドラマは,

『Dr.コトー診療所』(フジ)17%,『曲がり

角の彼女』(フジ)22%,『ハケンの品格』

(日テレ)16%,『ホタルノヒカリ』(日テレ)

21%,『働きマン』(日テレ)22%,のわずか

5本しかない。ここまで見てきたドラマ共感

をめぐる状況は,90年代と比べてみたときに,

どこか不安定に様変わりをし「消化不良」に

陥っているように見える。

ドラマ共感が迷走している―20代女性ド

ラマ疎遠化のもうひとつの深層要因として,

この「共感の<迷走>」の状況を見据えてみ

たい。これまでの要因より複雑なものであろ

う様々な様相を読み解くことが,この論考の

これからの目的となる。

1.テレビ文化としてのドラマ共感

共感と学びの連動

藤田真文は2001年の時点で,テレビドラ

マと社会の相互参照関係について,次のよう

に述べている。「テレビドラマは,ある意味

では自分の現実社会より先に来て,現実社会

でどう振る舞うべきかについてのレッスンを

与えてくれる。それは現実社会を現実に切り

取ったものではなく,かといって現実社会と

まったく無縁で断絶したものではない。テレ

ビドラマの社会は,私たちの現実社会に隣接

しながら存在しているのだ」46)。

藤田の言う「レッスン」は,「学び」のカ

テゴリーに入ると考えられる。この学びと共

感とがある程度の連動をしていると既述した

130

Ⅴ 考察・ドラマ意識の変転

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ130

Page 37: テレビドラマの 軸 - NHKオンライン · 調査の「ふだんよく見る番組」の順位では, ドラマはニュース,天気予報に次ぎ常時高位 ... 視聴率

が,そのことが調査からもわかる。上記の共

感様相が目立ったドラマに対する「生き方や

考え方の参考になった」への反応は,『Dr.

コトー診療所』18%,『曲がり角の彼女』

24%,『ハケンの品格』28%,『ホタルノヒ

カリ』15%,『働きマン』24%と,いずれも

他のドラマと比べて高い。

「家族」への共感

ここで「共感」が,日本のテレビドラマの

中である種の「伝統」として存在してきたこ

とを,あらためて押えておきたい。

たとえば1970年代から80年代にかけてのテ

レビ文化の担い手として,脚本家の倉本聰,

山田太一,向田邦子らの名があげられること

は多い。倉本の『6羽のかもめ』(74年),『前

略おふくろ様』(75年),『うちのホンカン』

(75年~)や『北の国から』(81年~),山田の

『男たちの旅路』(76年),『岸辺のアルバム』

(77年),『沿線地図』(79年),『想い出づくり』

(81年),『ふぞろいの林檎たち』(83年),そ

して向田の『寺内貫太郎一家』(74年),『冬の

運動会』(77年),『阿修羅のごとく』(79年),

『あ・うん』(80年)などの数々の作品は,消

費される商品としてのコンテンツではなく,

受け手にとって「記憶に残る」作品というに

ふさわしい。高度成長期後,次第に複雑化し

ていく社会に生きる人間の姿を見据えたこれ

らは,まさに見る側の「共感」に向け脚本が

組み上げられたドラマであった。その基本と

なる主たるモチーフは,山田昌弘がいう「心

配し,必要としている存在としての家族」だ

った。変わっていく時代の中で「家族」とい

う社会の最小単位がどう保たれていくのか,

根底にある家族の間の愛情の揺れに,見る者

が「共感」を抱いていたといえる47)。

「等身大」モデルの受容

その後のドラマ受容においても,共感は有

効な武器であり続けた。『金曜日の妻たちへ』

(83年),『男女七人夏物語』(86年)の時期を

経て,「トレンディドラマ」の時代に入り装

いをいかに新たにしようと,共感機能は意味

を失ってはいなかった。伊藤守は,90年代の

フジ「月9」ドラマの代表作に対し,カルチ

ュラル・スタディーズ的な視点から分析を行

っている。「恋愛や仕事に悩みながらも女性

として自立して生きていこうとする新しい女

性像を提示しようとした『東京ラブストーリ

ー』『ロングバケーション』は,不確実で,

不安定となった恋愛や友情や生き方について

の人々の想像世界を予期し,予測しつつ,描

きうるさまざまな可能性の中から特定のモデ

ルを提示するヘゲモニックな言説実践の場で

あった,と位置づけることができるだろう。

つまり,番組を制作するに際して,既存の支

配的な観念や新しい価値観との対立,その

藤や対立を視聴者がどう受け止め,どうイメ

ージしているかを送り手側が予測しながら,

番組のポピュラリティを確保するために,ど

のように,どの程度描くのか,そうした選択

と折衝の複雑なエンコーディングのプロセス

であった」48)。この指摘は「学び+共感」充

足を前提にしており,この時期のヒットドラ

マと受け手の関係において,それが現実的な

ものとして充分に想定できたということでも

ある。共感の変容は90年代後半から次第に

顕在化してきたものと推察する。

2.リアリズムの変容をめぐる状況

90年代のコンテンツ消費の多様化は,「サ

ブカルチャー」と「大衆文化」との区分が不

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│131

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ131

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鮮明な状態になっていく過程でもあった。コ

ミック・アニメ・ゲーム・小説そして映画や

音楽などの多彩なジャンルは成熟しながら細

分化していき,「メジャー」も「インディー

ズ」も消費する側から見れば,その価値は同

等なものになる。コンテンツの受容性はたや

すく予測できない状況になっていた。若年層

のテレビドラマ消費の変容も,こうした文化

変容の中に位置付け分析されるべきだが,こ

こではその複雑にして重層的な様相までは説

明しえない。ドラマコンテンツが,あくまで

より多くの受け手を射程に入れざるをえない

「マス文化」だからこそ内在させていた要素

と,20代の受け手との関係性のみに限って,

共感にまつわる推考を進める。

コンテンツ先鋭化とカタルシス欲求

90年代以降のテレビ編成においては,セグ

メント化していく若い世代の「ニーズ」を満

たす,あるいは先取りすることを意図して,

様々な先鋭的な試みが行われていた。そのひ

とつにヒットメーカーといわれた脚本家の重

用があった。図9は,「好きな脚本家」に対

する回答だが,この4人の脚本家は他を大き

く離して各年層からの好意度が高い。20代前

半層は,宮藤官九郎(2000年『池袋ウエスト

ゲートパーク』,02年『木更津キャッツアイ』

など)の人気が突出している。後半層は三谷

幸喜(1994・96・99年『古畑任三郎』,95年

『王様のレストラン』など)が高い。

ドラマの存在価値は,必ずしも「共感」を

直截に生むことだけにあるのではない。宮藤

と三谷のふたりは,共感にしばられ過ぎずに

どう物語を作りうるかという巧みなドラマツ

ルギーを駆使し,それが時代の空気感・テー

マ性にも合致し評価されたタイプと見てよい。

たとえば今回の調査でも評価の高い方だった

『古畑任三郎』と『木更津キャッツアイ』を

見た20代女性のうち,「登場人物の人間関係

に感情移入できた」人は前者5%・後者7%

であるように,どちらも「共感系」ドラマと

はいいがたい。「断片カタルシス+カタルシ

ス」型,ないし,「断片カタルシス」型とい

える。両者は新たなドラマ作りを,「カタル

シス」系の進化という形で切り拓いていった。

『古畑任三郎』のような本格ミステリーに

近いドラマの活性化は,たとえば『金田一少

年の事件簿』(95年),『ケイゾク』(99年)『トリ

ック』(2000年)など,様々なバリエーション

の広がりにつながっていく。また,アメリカ

のドラマ『ツイン・ピークス』などの影響も

受け,『沙粧妙子・最後の事件』(95年)『サ

イコメトラーEIJI』(97年)など,サイコサス

ペンスという新たな流れも生まれている。い

ずれも,カタルシス系に分類すべきものであ

る。Ⅰ章で触れた90年代のティーン向けドラ

マにもカタルシス系が多く含まれており,10

代層は共感系に限らない幅広いドラマ充足を

体験していたといえる。

こうした10代が,「世紀末」の社会変容の中

で消費文化としてのドラマに対してクールに

132

図 9 好きな脚本家

(%)

北川悦吏子

宮藤官九郎

野島伸司

三谷幸喜

40代後半40代前半30代後半30代前半20代後半20代前半

4045

37374243

2936

312829 28

4238

28242124 21

322622

2825

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なっていくと,何が起きてくるのか。それは,

押しつけられるようなドラマの参照モデルに

は「共感できない」という気分の蔓延であり,

カタルシスに限定して魅力を感じるドラマ欲

求への振り替えに容易に流れていく。こうし

てカタルシス系への需要が前景化していく中

で,「エッジの立った」カタルシス系ドラマ

の制作が90年代後半から急速に幅を広げてい

った。この状況には,作り手の側でのCGな

どの映像技術や撮影・編集テクニックの進

歩,受け手の側の進化するテレビゲームによ

るコンテンツ感度の向上も,背景に存在して

いたと考えられる。

恋愛・結婚意識の変質

グルインでの発言に存在した「ドラマはあ

こがれだったが現実を知ると冷めた」という,

共感の希薄化現象はどう解釈したらいいの

か。「あこがれ」が,主にドラマ内の恋愛に

向けられていたことは想像がつく。そこには

「恋と仕事」のあり方に「自分探し」を重ね

る物語に先の自分の姿を重ねて見る思いがあ

り,そこに「あこがれ」という「いまだ持ち

えていないもの」への願望が投射されていた,

と考えられる。

それでは,彼女たちが「現実を知る」と言

うときの「現実」とはどういうものなのだろ

うか。山田昌弘は,現在の日本の少子化にも

つながる未婚率の上昇(2005年国勢調査で女

性20代後半で59%,30代前半で32%)の原

因のひとつとして,90年代後半以降の若者の

収入格差の拡大と雇用・収入が不確実なもの

になったことをあげている。この現状におい

ては,「現実」と「理想の結婚」とのギャッ

プがあるゆえ,リスクヘッジとして結婚が先

送りされていく。また,男女交際の「範囲」

が広がることで「魅力格差」(女性から見た

男性の)への認識が深まり,女性から選ばれ

ることのない男性が増えていることを指摘し

ている 49)。結婚と恋愛は今や分離して考え

るべきものとも思えるが,結婚の希望さえも

描きにくい「現実」に置かれているとしたら,

女性にとって恋愛を描いたドラマはどのよう

に見えるのか。表14(129p)に戻ると,「同

性の登場人物に自己投影し相手との恋を楽し

む」の項目に対し,保守・大衆タイプは40%

もが反応を見せている。それに対し文化系・

サブカル,生活謳歌,前進派では,多くが

10%台と冷めている様子である。推論として

は,その3タイプが,「あこがれ」の対象で

あった「いまだ持ちえていないもの」は,も

はや永久に持ちえないかもしれないとクール

な認識をしていくことで,「絵空事」にも見

えかねない恋愛ストーリーへの共感が薄らい

でいったと考えられなくもない。

ただ既述したように,彼女たちの消費文化

に対する態度は「全否定」ということではな

い。「共感できるものに共感したい」という

欲求が,消滅したわけではないはずである。

が,ドラマと20代女性の関係において,共感

を<迷走>させるもうひとつの事情が,「マ

ス文化」としてのドラマの中に既に存在して

いた。それは,コミックを原作としたドラマ

制作の浸透である。

コミック原作とリアリズム

日本テレビが,土曜9時のドラマ枠で人気

コミック『金田一少年の事件簿』を放送した

のは1995年であり,以降「土9」はティーン

向けのコミック原作もの,あるいはそれに類

するテイストの枠として定着する。テレビ朝

日は月曜8時枠において,コミック『イグア

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│133

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ナの娘』のドラマ化(96年)に成功し,徹底

したコミック原作路線を始める。98年からフ

ジテレビでは,F1層向けドラマにおいても

コミック活用策がしきりと取られていく。細

分化する若年視聴者を,より広範囲で捉える

術を執拗に求めざるをえない「マス文化」と

してのテレビドラマの,宿命的な格闘の開始

といえる。表15は,95年から08年までの主な

コミック原作ドラマの一覧だが,98年からそ

の数が増大していることがわかる。視聴率が

15%を超えたものも少なくなく,『ショムニ』

『GTO』(フジ),『ごくせん』(日テレ),『花

より男子』(TBS)などのヒット作も含まれ,

コンテンツの戦略としては功を奏していると

も見える。マンガを原作にしたテレビドラマ

は,それ以前からも存在していた50)。しかし,

90年代末以降のこの流れの意味合いは,それ

までのものとは異なる。

ターゲット層が好むものに,ドラマ制作の

ベクトルが向かうのは必然ではある。コミッ

クを原作とする基本メリットとしては,①若

い世代が反応する「断片的なカタルシス」あ

るいは「プロット・カタルシス」に対応する

要素があること,②「人物への好感」にもつ

ながる有効なキャラクターの存在,③リアル

であることを突き抜けた独自世界の魅力,④

何より企画を通すための設定とストーリーが

既に存在していること,⑤そして原作の人気

がそのままドラマヒットに結びつきうるこ

と,などがあげられるであろう。これは,コ

ミック業界でのコンテンツを生み出すシステ

ムが,それだけ激烈なパワーを持っているこ

との証しではある。この局面で重要なことは,

ドラマが新たな「リアリズム」の地平へと足

を踏み入れるというポイントにあった。

もうひとつの仮想現実

大塚英志は,2003年『キャラクター小説の

作り方』において,自然主義リアリズムによ

る小説ではなく,アニメやコミックのリアリ

ズムの上に成立している小説として,「スニ

ーカー文庫のような小説」(いわゆるライト

ノベルのこと)について論じているが,コミ

ック原作ドラマに通じるところがある。それ

は,コミックなどの仮想現実の原理原則に基

づいており,「作者の反映としての私は存在

せず,キャラクターという生身でないものの

中に,私が宿っている」としている。架空の

人物の「私」としての内面を「写生」するこ

とは,意図されていない。そこで主人公に必

要なのは,ストーリーを展開させて行く目的

を持っていることであり,それを達成させる

ものとして物語は存在するという51)。

過去,日本のテレビドラマにおいても,リ

アリズムを越えた「SF」や「ファンタジー」,

「スラップスティック・コメディ」は存在し

たし,「刑事サスペンス」や「探偵もの」な

どでも,非現実的な展開はしばしば登場して

いた。しかし,自然主義的リアリズムが重ん

じられる中で,ドラマで「ありえないこと」

を安易に扱うことは極力回避されてきた。そ

れにより描くべき人物の内面までがありえな

いものに見えては劇作にならないという発想

のもとに,共感充足を志向する形で物語が組

まれていたからである。そのせめぎ合いの土

俵の上に,リアルであることを突き抜けたコ

ミック原作を持ち込むことにより,ドラマの

構造的な変容が起き始める。

「コミック的リアリズム」に基づくドラマ

の多くは,共感系よりカタルシス系の方向に

舵を切り始めることになる。しかし,二次元

134

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テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│135

表 15 コミック原作の夜間連続ドラマ(1995年~2008年) (%)

ビデオリサーチ(関東)データ

※地上波夜間(深夜0時以降を除く)に放送された主なもの  ※網掛けは世帯視聴率平均15%以上

年 23.911.813.613.911.515.712.516.04.5

13.720.822.419.321.811.111.510.19.6

17.120.411.912.110.112.716.521.817.628.416.815.913.011.313.310.315.78.87.3

16.815.419.012.715.49.39.98.1

15.38.18.48.14.8

16.313.420.38.28.96.28.57.33.75.79.8

13.78.89.6

日テレ 日テレ 日テレ 日テレ TBS TBS フジ テレ朝 テレ朝 NHK 日テレ 日テレ TBS フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 日テレ フジ テレ朝 テレ朝 NHK TBS フジ フジ フジ フジ フジ フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 NHK 日テレ 日テレ TBS TBS フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 TBS フジ フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 NHK NHK 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ

金田一少年の事件簿1 ステイション たたかうお嫁さま ザ・シェフ 部屋においでよ HOTEL 4 100億の男 味いちもんめ 恋人をつくる100の方法 素敵に女ざかり 銀狼怪奇ファイル 金田一少年の事件簿2 Age, 35 恋しくて おいしい関係 将太の寿司 イグアナの娘 イタズラなKIss 闇のパープル・アイ サイコメトラーEIJI いいひと。 ガラスの仮面 名探偵保健室のオバさん 黄昏流星群 HOTEL 5 きらきらひかる ショムニ お仕事です! GTO ハッピーマニア じんべぇ ソムリエ ガラスの仮面2 壮絶!嫁姑戦争 羅刹の家 おそるべしっっ!!!音無可憐さん P.A. プライベート・アクトレス チェンジ! 鶴亀ワルツ 夜逃げ屋本舗 サイコメトラーEIJI2 サラリーマン金太郎 P.S.元気です,俊平 お水の花道 救急ハート治療室 可愛いだけじゃダメかしら? あぶない放課後 恋の奇跡 てっぺん 笑ゥせぇるすまん 恋愛詐欺師 青い鳥症候群 サラリーマン金太郎2 イマジン ショムニ2 編集王 月下の棋士 YASHA OLビジュアル系 ただいま満室 トトの世界 陰陽師 FACE ~見知らぬ恋人~ 金田一少年の事件簿3 本家のヨメ レッツ・ゴー!永田町

11.319.315.111.317.710.35.44.99.06.5

10.717.49.1

15.515.216.310.99.2

16.39.4

10.38.18.99.10.90.86.96.96.6

15.811.914.314.19.9

18.99.0

11.36.79.9

12.06.9

10.37.67.56.37.2

15.511.215.013.210.412.113.29.9

11.89.48.99.65.7

28.011.612.56.3

16.519.8

TBS フジ フジ フジ フジ テレ朝 テレ朝 NHK NHK NHK 日テレ 日テレ 日テレ TBS TBS フジ フジ フジ フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 NHK NHK NHK NHK 日テレ TBS TBS TBS TBS フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 NHK NHK NHK NHK NHK 日テレ 日テレ TBS TBS TBS TBS フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 NHK 日テレ TBS TBS TBS TBS TBS

ビッグウィング カバチタレ! 新・お水の花道 非婚家族 アンティーク OLビジュアル系2 早乙女タイフーン エスパー魔美 生存 愛する娘のために ロッカーのハナコさん リモート ごくせん サイコドクター サラリーマン金太郎3 こちら本池上署 ロング・ラブレター 漂流教室 ウエディングプランナー 陰陽師☆阿倍晴明 ショムニ ファイナル 天才柳沢教授の生活 京都鴨川東署迷宮課おみやさん 九龍で会いましょう サトラレ 逮捕しちゃうぞ パパトールドミー 天使みたい ニコニコ日記 帰ってきたロッカーのハナコさん 伝説のマダム こちら本池上署2 きみはペット ホットマン ブラックジャックによろしく クニミツの政 Dr.コトー診療所 スカイハイ おみやさん2 独身3 !! 動物のお医者さん 特命係長・只野仁 ちょっと待って、神様 農家の嫁になりたい 火消し屋小町 アイ’ムホーム オーダメイド 彼女が死んじゃった。 光とともに… サラリーマン金太郎4 こちら本池上署3 こちら本池上署4 ホットマン2 FIRE BOYS エースをねらえ! スカイハイ2 おみやさん3 南くんの恋人 ああ探偵事務所 ミステリー民俗学者 八雲樹 どんまい! ごくせん2 H2 君といた日々 こちら本池上署5 正しい恋愛のススメ ドラゴン桜 花より男子

13.213.314.113.28.86.1

17.49.6

15.615.712.78.8

14.211.516.414.314.818.922.45.58.9

13.58.17.26.07.6

14.313.811.213.712.712.121.615.411.912.212.28.7

17.317.27.6

11.65.9

15.610.78.2

22.99.2

13.110.311.415.09.2

11.48.9

13.28.5

12.513.43.27.2

11.810.2

フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 NHK 日テレ 日テレ TBS TBS TBS TBS フジ フジ フジ フジ フジ フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 NHK 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ TBS TBS フジ フジ フジ フジ フジ フジ テレ朝 テレ朝 NHK 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ 日テレ TBS TBS TBS TBS フジ フジ フジ フジ テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝 テレ朝

海猿 おみやさん4 特命係長・只野仁2 アタックNo.1 はるか 17 新・人間交差点 喰いタン CAとお呼びっ! 夜王-YAOH- クロサギ 弁護士のくず 鉄板少女アカネ!! Ns' あおい 小早川伸木の恋 アテンションプリーズ サプリ 医龍 のだめカンタービレ Dr.コトー診療所 2006 レガッタ~君といた永遠~ ビバ!山田バーバラ おみやさん5 だめんず・うぉ~か~ アンナさんのおまめ グッジョブ セクシーボイスアンドロボ バンビ~ノ! 喰いタン2 探偵学園Q ホタルノヒカリ 有閑倶楽部 働きマン 花より男子2 山田太郎ものがたり LIAR GAME 山おんな壁おんな ライフ 牛に願いを Love&Farm 花ざかりの君たちへ 医龍2 生徒諸君! 女帝 キャットストリート 斉藤さん 1ポンドの福音 ホカベン ごくせん3 おせん ヤスコとケンジ 正義の味方 だいすき!! ROOKIES ルーキーズ あんどーなつ BLOODY MONDAY ハチミツとクローバー 絶対彼氏。 ハチワンダイバー シバトラ おみやさん 6 コインロッカー物語 打撃天使ルリ サラリーマン金太郎 ギラギラ

局 番組名 視聴率 年 局 番組名 視聴率 年 局 番組名 視聴率

95(9本)

96(9本)

97(4本)

98(14本) 99(14本)

00(8本)

01(13本)

02(17本)

03(16本)

04(18本)

05(12本)

08(21本)

07(18本)

06(19本)

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平面での自由な想像力を武器とするコミック

を,生身の俳優が現実世界で再現する際,全

く同じ形で具現化しようもないケースはいく

らでも生じる。また,表現者としての俳優の

演技には,共感に通ずる人間の「情」は付い

て離れない。コミック的リアリズムにおいて

も共感は共存できないか―ドラマ化の過程

で,ときに共感要素を強引に織り込むという

技が駆使されていくのは,「感動」をねらい

としたときのドラマ制作の発想だった。が,

そのバランス取りは難しく,下手をすると足

を掬われかねない。そして,最初から共感な

どは意識しないという制御も働き始める。こ

うして,コミック的リアリズムによるキャラ

クラー重視をもとにしたカタルシス系ドラマ

の制作はジワジワと度合を強め,ドラマのリ

アリズム像は,受け手からの見え方としても

いやおうもなく変容し始めた。

「現実味がない」と最初は冷めた目で見て

いた人も,次第にコミック的リアリズムにも

慣らされていく。充足しているかどうかは別

にして。これまでのドラマリアリズムとコミ

ック的リアリズムが混在し,受け手の中でも

ボーダレス化していった。そこで大きく前面

に出てくるのは,「先が読めない」「予定調和

でない」「意外性ある」展開,といったカタ

ルシス充足へのストレートな期待である。

「人間」に対する共感は,送り手の中でも受

け手の中でも色合いが薄れ,曖昧なまま変化

していく。

この状況がここまで述べてきたすべての要

因と相まって,特定タイプの人たちに急速な

ドラマ疎遠化を生じさせた―これが,2000

年をはさむ2,3年の間に起きそのまま戻る

ことのなかった20代女性のドラマ意識変容の

実相だったのではないか。そして,彼女たち

は今,「リアリズム=共感」への欲求を奥底

に内在させながらも,表面的には「コミック

的リアリズム=カタルシス」を自明的に求め

ているというパラドックスの中にある52)。

「軸」の不在

では,それでも存在するであろう共感を求

めている受け手にフォーカスを合わせたドラ

マが,なぜ作られる機会が失われていくのだ

ろうか。コミック原作に頼らずに,なぜオリ

ジナルの共感系ドラマを開発しえないのか,

という疑問が生じても不思議ではない。

ドラマ共感は,人物が別人物に対し共感し

ていく状況がドラマ内に存在し,視聴してい

る受け手がそこに共感していく「共感のリン

ク」のような状態が用意されることが,最も

有効といえる。そこに必要なのは,人と人を

つなぐ社会性を有する「軸」ともいうべきも

ので,「軸」の存在なくして共感は成立しに

くい。「軸」とは,その社会の人々が共有す

べき理念,共通の基本価値観をさす。ここに

きてわれわれがあらためて気づくべきこと

は,その「軸」がドラマの送り手にも見えな

い,つまり20代女性に提示すべき,しかも彼

女たちに通用する「共感軸」が,容易に作り

えなくなっているという現実ではないか。

「家族の愛」も「恋愛」も,それがドラマ

「共感軸」としての確固たる存在感を持った

時期は,いつの間にか過ぎ去った。社会変容

の中での「軸」の不在が,共感系ドラマ形成

の妨げとなっている可能性は否定できないと

考える。

東浩紀は2001年の著『動物化するポストモ

ダン』において,オタク文化からポストモダ

ンの社会変容を論じている。世界は小さな物

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語と大きな非物語(データベース)の二層構

造で捉えられ,生きる意味を与えてくれるの

は今や小さな物語でしかない。「ルソーを持

ち出すまでもなく,かつては,共感の力は社

会を作る基本的な要素と考えられていた。近

代のツリー型世界では,小さな物語(小さな

共感)から大きな物語(大きな共感)への

行の回路が保たれていたからである。しかし,

いまや感情的なこころの動きは,むしろ,非

社会的に,孤独に動物的に処理されるものへ

と大きく変わりつつある。ポストモダンのデ

ータベース型世界では,もはや大きな共感な

ど存在しえない」53)。この場合の「小さな共

感」とは,この稿での文脈でいうと「カタル

シス」に近い。大きな物語=社会の「軸」の

喪失が,小さな物語=テレビドラマの「共感

軸」の所在不明と連動していると捉えれば,

東の論と重なる部分がそこにはある。

もうひとつ,触れておくべき視点がある。

「軸」なき社会において,人間の「共感のあ

り方」自体の変質のようなことが,ドラマ共

感の困難性につながってはいないだろうか。

たとえば,グルインでしばしば20代女性も口

にした「共感」というタームに込められた意

味合いは,どこまでのものか。立場の近いド

ラマ内の人物の表面にのみ対応している,と

解釈できそうなケースも見受けられた。浅野

智彦は,現在の若者の自己意識の変化のひと

つを,「自己の多元化」にあるとしている。

「自分らしさ」を基準としつつ,多チャンネ

ル化した友人関係においては,その都度の関

係性によって「異なる顔」を相手に見せざる

をえず,自己の一貫性を欠く傾向があるとい

う指摘である 54)。多くの他者と自己の多元

性をもって関わるに際して,それぞれの整合

性の保証がないとすれば,「深くわかり合お

う」と思いやりが過ぎることは,互いのバラ

ンスを崩しかねない。推論としていえること

は,そこに,他者に対し「心底の」共感を持

つことへの無意識な自己規制が生まれくる可

能性があるのではないか。「ほどよく分かり

合う」人と人のつながり方と共感の関係や,

それによるドラマ共感への影響は,共感の深

度や幅が測れない限り,正確な把握はし難い。

共感系を成立させるもの

考察の帰結として,現在の受け手とそこに

置かれている社会との関係性を踏まえ,その

中で見出しうる若い世代のドラマ充足の可能

性を,最近放送されたドラマからピックアッ

プしてみたい。コンテンツ内容論としてでは

なく,あくまで受け手との関係という視座か

らに限定する。

2008年4月期のドラマ『ラスト・フレンズ』

(フジ)は,文研の個人視聴率調査(6月分)

の20代層で26%(20・30代を合わせた女性

層で25%)という高い率となり,前述した異

例のドラマ『空から降る一億の星』(02年)

を外してみると,97年の『ひとつ屋根の下2』

以来11年ぶりに20代層で25%を超えたドラ

マであった(表 16)(脚本:浅野妙子,出

演:長澤まさみ・上野樹里・瑛太・錦戸亮ほ

か)。母との関係や仕事で不安定な状態にあ

る優柔不断なヘアメイクアシスタントの未知

留,自分が持つ性同一性障害を人に明かせず

にいる男勝りのモトクロス選手の瑠可,かつ

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│137

Ⅵ おわりに~現在形に潜在する可能性

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て姉から受けた仕打ちがトラウマとなり女性

との接触に恐怖感を持つヘアメイクのタケル

の3人は,シェアハウスで共同生活をしてい

る。3者の関係をメインとしたこの物語は,

未知留の恋人・宗佑の自ら制御しえない独占

欲からくる彼女への暴力(DV)からどう逃

れるのかをメインストーリーとし,そこに瑠

可の未知留に対する叶わぬ愛,タケルが瑠可

によせる成立しない想いなど,答の出ない三

角関係が織り込まれている。

このドラマが,DV回避というカタルシス

のプロットを色濃く持ちながらも,強い共感

性を持った「カタルシス+共感」型充足があ

ったことは,番組公式ホームページへの3千

件を超える書き込みからうかがえる。秘めた

「傷」を本人が語るまでは暴こうとせず,そ

の手前で相手への想いを表にしていく,そう

いう劇中人物たちのデリケートな関係性に敏

感に共感反応を見せているコメントの数々。

背負ったものの大きさから,すべてをむき出

しにすることをしない他者とのつながり方

は,かつての同系ドラマ『愛という名のもと

に』(92年)や『あすなろ白書』(93年)とも,

『白線流し』(96年),『天体観測』(2002年)

とも違う様相を見せ,今を生きる世代の人間

関係と社会性を象徴している。DVの展開は

宗佑の自死で結末を迎え,ハウスを出た未知

留は宗佑の子を産む。ここに至るまでの彼ら

の互いの関係のひとつひとつに,「軸なき社

会」での人と人とのつながり方の模索が示唆

されている。『ラスト・フレンズ』という共

感系ドラマの20代女性にとっての充足の意味

は,その模索の中に存在したのではないか。

失われている「共感軸」の補 の意図を持っ

て人物関係が造形されて行くこと,それがこ

こから汲み取るべき現在の若年層に通用する

ドラマの<ポテンシャリティ>のひとつと考

える。

カタルシス系の力

ここまで ってきた文脈から,一方のカタ

ルシス系ドラマが若い世代に対して潜在的に

有するものについても,述べておきたい。

2007年11月から08年1月まで放送された

『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジ)は,

世帯視聴率平均15.4%と,初めて深夜枠ドラ

マとして15%を超えた(原案・脚本:金城一

紀,出演:岡田准一,堤真一,真木よう子ほ

か)。研ぎ澄まされた五感から危機を察知す

る特殊能力「シンクロ」を持つ警視庁のSP

(セキュリティポリス)である主人公と彼が

138

表 16 2008年6月期ドラマの年層別視聴率(%)

NHK個人視聴率調査(関東)

番 組 名 男女 女 男 7歳~721651112120

13歳~27537172913513

20代26614261334124

30代266141714210431

40代3012171313812232

50代22219108515101213

60代735633186151210

7歳~14321132324222

20・30代247172513310222

40・50代322113171392141211

60代11408542510171411

7歳~20432101601311

20・30代28410151525333

40・50代1813125735945

60代3294129214109

CHANGE 篤姫 ごくせん ラスト・フレンズ 絶対彼氏 渡る世間は鬼ばかり Around40 水戸黄門 新・科捜研の女 警視庁捜査一課9係

(フジ) (NHK) (日テレ) (フジ) (フジ) (TBS) (TBS) (TBS) (テレ朝) (テレ朝)

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ138

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所属するSPチームと,幾組ものテロリスト

たちとの攻防をストーリーとしたドラマであ

る。今回の調査では,1月期のドラマに含め

たとき,20代では全体の中で「月9」の『薔

薇のない花屋』についで2番目に視聴した人

が多かった。前掲の図7(126p)にあるよう

に,タイプ別で見ると,文科系・サブカルで

は一番に高いドラマであり,その後半層では

『薔薇のない花屋』の倍近くになっている。

20代全体の充足評価を比較すると,「ストー

リー展開が面白かった」では『SP』80%>

『薔薇』62%,以下同様に「出演俳優を見るの

が楽しみ」76> 57,「テンポが良かった」

59> 20,「人物のキャラクターが魅力的」

46>34,「ハラハラ・ワクワクできた」48>

21と,『SP』の方が,人物好感・カタルシス

ではかなり高い。(「人間関係に感情移入でき

た」は,『薔薇』8%に対し,『SP』3%)調

査でのドラマの中では,「ストーリー展開」

や「ハラハラ・ワクワク」の項では他をかな

り離しての最高位であり,高度な「プロッ

ト・カタルシス」型のドラマと見ていい。日

本においても極めて評判の高いアメリカドラ

マ『24』に通じる充足といえる。

この高レベルの評価を,社会と個人の関係

性の物語として見ると,そこに何があるのか。

不確実なリスク社会では,もはや事実は想像

を越えており,突如何が起きてもおかしくな

い。そこからすると,「人は社会に対しどう

身構えるのか」という視点は見過ごせない。

『SP』の場合,「自分以外,すべては疑うべ

き存在である。そこで他者に対しどう行動し

ていくのか」という課題設定が,徹底してリ

アルに提示されている。それは受け手,特に

社会化の過程にいまだある人にとっては,自

己の中にある既成概念を覆すものとして,こ

のドラマの訴求力が形作られていたのではな

いか。既成の理念・価値観を越えた何ものか

を無意識に求めてカタルシス系ドラマへ目が

向けられ,その意味での充足につながってい

るであろうケースは,これまでのドラマにも

見出すことができる。人物の心情描写に重き

を置かないドラマツルギーが,逆に既成概念

の解体を見せつつ新たな理念を示しやすいと

いう面も想像できる。そのような場合におい

てこそ,カタルシス系ドラマが若い世代に対

する意味を持つ<ポテンシャリティ>を見出

すことができるのではないだろうか。

物語の意味

われわれの生きる社会,マスメディア,そ

してテレビは,今いかなる地平にあるのだろ

うか。若い世代は,自分たちが作った訳では

ない「閉塞した生きにくい」社会を,どのよ

うなまなざしで凝視しているのだろうか。

大澤真幸は,戦後の日本社会を精神史から

見て,1970年ごろまでを「理想の時代」,そこ

から95年ごろまでを「虚構の時代」,それ以降

を「不可能性の時代」とした三区分で切り分

けている。大澤は「不可能性の時代」の閉塞

を,暴力的な「現実への逃避」(たとえば,

リストカット・テロなどへの指向性)として

特徴づけ,また家族関係の崩壊・偶有化(選

びようもないものとしてあることから,どう

でもよいものに見え始めること)から,若い

人を中心に「極限の直接性を志向するコミュ

ニケーションへの強い欲望が,広く浸透して

いる」という。そして,閉塞を克服するもの

として,その他者と直接の関係を結ぼうとす

る欲望が,普遍的な連帯のひとつの糸口につ

ながる可能性についても説いている55)。

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│139

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ139

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「虚構の時代」とは,言い換えれば「消費社

会」である。ドラマ疎遠化は個人の社会化と,

そのモデルたらんとするドラマが親密であり

えた「消費文化」が,社会変容によってその

関係性を脆弱化させていった過程ともいえる。

大澤がいう 95年以降の「不可能性の時代」

への転換の中で,ドラマと受け手の関係も変

転してきた。20代女性のドラマ疎遠化の要因

として った「テレビ拘束からの<離反>」,

「消費文化追従への<反感>」,「ドラマ共感

の<迷走>」の3つの推察の先にあるのは何

か。それは,彼女たちが能動と受動の二極化

様相を見せながらも,ともに,やはり閉塞し

た社会にどう適応すべきかにためらい,戸惑

っている姿にも見える。表17は,「日本人と

テレビ」調査の「テレビで生き方や行動の手

本が得られる」の項目についての回答である。

2000年から05年への変化を見ると,上世代の

減少は大きいが,20代のみがやや増加を見せ

ている。この違いが意味するものは何なのだ

ろうか。テレビのプライオリティは低下させ

ていても,そこに「手本」の存在の意識がい

まだある証しではないか。

多くの20代女性は,疎遠になってもドラマ

を「拒絶」している訳ではないと思える。そ

の内面に通じる何かが見えれば,『ラスト・

フレンズ』や『SP』のような関係は構築し

うる。ドラマが,消費文化として消費される

過去のものから,新たな<価値>創造の文化

への模索を志向するためには,大澤のいうよ

うに,若い世代が持つ「軸」なきコミュニケ

ーションへの欲求,「つながりたい」という

強い欲望をどう昇華させるのか,そのために

変容していく「共感」を見据え,「共感軸」

の不在の補 をどう意図するのか,という命

題が課せられると考える。多メディア時代に

ドラマコンテンツが生き残るとすれば,それ

を下支えするものはテクノロジーや経済原理

でなく,送り手側のこうした<価値>創造の

意志の有無であろう。

冒頭引用した一文の結語で杉田成道は,放

送と通信の融合時代に向け基本に立ち帰るべ

きと,悲観論を越える必要性を説いている。

ドラマの送り手にとってのそれは「物語とは

何か」を問うことである,と。

新たな「物語」への冒険を,受け手である

若い世代も,待っているのかもしれない。

(あべ やすひこ)

1)「日本人とテレビ」調査の「よく見る番組種目」

の項目でドラマは,49%(1985年)→51%(90年)

→51%(95年)→48%(2000年)→46%(05年)に

なっており,3位という順位は変わっていない。

2)いくつかの特集をあげると,「ドラマは進化した

か」(『GALAC』1998年11月号),「ドラマがつまん

ない!!」(『GALAC』2000年5月号),「連続ドラマ

の正念場」(『GALAC』2003年12月号),「「冬の時

代」のドラマ」(『AURA』2003年12月号),「連ド

ラ復活へのカウントダウン」(『放送文化』2004年

春号)など。

3)この稿では,4月から6月にかけ1クール(3

か月)放送される連続ドラマを4月期ドラマとい

うように,「4月期」「7月期」「10月期」「1月期」

140

表 17 「テレビで生き方や行動の手本が得られる」 (%)

1995年

2000年

2005年

35

34

29

33

34

31

37

30

30

44

36

26

37

39

32

42

46

38

48

49

37

53

50

43

60

58

47

55

57

51

20代前半

16〜19歳

20代後半

30代前半

30代後半

40代前半

40代後半

50代前半

50代後半

60代前半

60代後半

70以上

27

33

36

29

34

36

「日本人とテレビ」調査

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ140

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という表記を使用する。

4)便宜的に,世帯視聴率が15%以上のものを想定

している。

5)世帯視聴率10%未満のものを想定している。

6)フジテレビの元ドラマディレクター。「北の国か

ら」(倉本聰脚本)シリーズの演出を長年手がけた。

7)総世帯視聴率。

8)杉田成道「流れてはいても見られてはいない,

断片化された情報の中で」特集〔テレビドラマの

現在〕『調査情報』No.481(2008.3-4) 2-7P

9)友宗由美子/原由美子「時間快適化装置として

のテレビ~視聴態度と番組総バラエティー化の関

係」『放送研究と調査』2001年11月号

10)朝の連ドラ,昼の帯ドラマ,深夜0時以降のド

ラマ,あるいは2時間サスペンスや特集的な単発

ものなどを除外する。また海外ドラマとの関係に

ついては,一部調査に含めたが詳細な分析は行わ

ない。

20代女性がある程度視聴しているドラマとの関

係を見ていく場合,現状では民放ドラマが中心に

ならざるをえない。NHKのドラマと若年層との

「距離感」については,本稿から類推できることも

あるが,別要因も含めた考察が必要である。(ドラ

マの<ポテンシャリティ>についての議論は,民

放とNHKを分けるものではないと考える。)

11)藤岡和賀夫『さよなら,大衆。~感性時代をど

う読むか』(PHP研究所 1984年)

12)1990年の「日本人とテレビ」調査で,「テレビを

ひとりで見ることが多い」女性は34%になってい

る。

13)伊藤守「オーディエンスの変容〈記述〉する視

点と方法―オーディエンス・スタディーズとメデ

ィア消費の空間論」『マス・コミュニケーション研

究』55号 1999年,122P

14)伊藤守前掲,123P

15)通年データがあるビデオリサーチ社の個人視聴

率調査は1996年からなので,それ以前も存在する

NHK個人視聴率調査データを使用する。(現在は

毎年6月と11月の1週間で調査を実施している)

16)この時期,21・22時台の全ドラマの世帯視聴率

(ビデオリサーチ・関東)平均は,2001年10月期

を境に15%を割っており,それはやはり高視聴率

ドラマの減少と低視聴率ドラマの増加による。(杉

本和彦「現代ドラマ事情2003」『AURA』2003年12

月号)

17)村松泰子「テレビドラマのジェンダー表現と女

性視聴者―70年代以降のドラマ視聴の変容」花田

達朗/吉見俊哉/コリン・スパークス編著『カル

チュラル・スタディーズとの対話』(新曜社 1999

年)160-178P

18)Denis McQuail, SOCIOLOGY OF MASS COM-

MUNICATION, PENGUIN BOOKS LTD. 1972. 時

野谷浩訳『マス・メディアの受け手分析』(誠信書

房 1979年)

19)友宗由美子/原由美子前掲

20)齋藤喜彦/遠藤尚子「分散化・多様化するタレ

ントの支持層 ~’98年「好きなタレント」調査から

~」『放送研究と調査』1999年2月号

21)白石信子「『テレビ世代』の現在Ⅰ 人びとの情

報行動~「テレビと情報行動」調査から~」『放送

研究と調査』1997年9月号

22)この象徴的な人物は,木村拓哉である。「キムタ

ク」出演ドラマは,2000年以降でもときに視聴率

が30%を超えている。その最終回視聴率をみると,

2000年『ビューティフルライフ』(TBS)41.3%,

01年『HERO』(フジ)36.8%,03年『GOOD

LUCK!!』(TBS)37.6%,07年『華麗なる一族』

(TBS)30.4%と,好感の充足が視聴継続に結びつ

いているものと考えられる。

23)山内登美『演劇百科大事典 第2巻』内「カタ

ルシス」の項(平凡社 1960年)

24)Linda Seger, Making a Goog Script Great, 1994, フ

ィルム&メディア研究所監訳,田中裕之訳『ハリ

ウッドリライティングバイブル』(愛育社 2000年)

25)福田正治『感情を知る 感情学入門』(ナカニシ

ヤ出版 2003年)94P

26)茂木健一郎『感動する脳』(PHP研究所 2007年)

149P

27)Simon Baron-Cohen, The Essential Difference,

2003, 三宅真砂子訳『共感する女脳,システム化す

る男脳』(NHK出版 2005年)

28) 佐藤喜美枝「トレンディ・ドラマとデジタル世

代~「若者とテレビドラマ」調査から~」『放送研

究と調査』1995年6月号

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│141

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ141

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29)概要は以下のとおり。

調査方法:インターネット・掲示板形式でのグル

ープインタビュー

エリア:1都3県(東京都,神奈川県,埼玉県,

千葉県)

対象者:20~29歳の未婚有職女性で学生は除く。

(調査会社のモニター)

平日2時間以上のテレビ視聴があり,か

つ週に2~4本のドラマを見ている人

人数:20代前半層・後半層各々7名の2グループ

実施日:2007年11月12日~18日の7日間

30)概要は以下のとおり。

対象者:1都3県(東京都,神奈川県,埼玉県,

千葉県)に住む20~29歳の未婚有職女性

で学生は除く(調査会社のモニター)。

平日2時間以上のテレビ視聴がある人。

ドラマ視聴グループは,最近1年間,週

に2~4本ドラマを見ている人。

ドラマ低視聴グループは,最近1年間に

決まったドラマを連続視聴しなかった,

かつ中学・高校など10代以降にドラマを

よく見ていた意識のある人。(最近1年

間まったくドラマを見ていなかった人は

除く)

人数:視聴グループ・低視聴グループのそれぞ

れを,20代前半層・後半層,多忙な人・

多忙でない人で分けた8グループ(各グ

ループ6名ずつ)の計48名

実施日:2008年1月21日~27日

31)2005年の「日本人とテレビ」調査では,女性20

代で1日のテレビ視聴時間が「2時間ぐらい」よ

り多い人は92%になっている。

32)白石信子/井田美恵子「浸透した『現代的なテ

レビの見方』~平成14年10月「テレビ50年調査」

から~」『放送研究と調査』2003年5月号

33)Patrick Barwise & Andrew, Ehrenberg, Televison

and its Audience, 1988, 田中義久/伊藤守/小林直

毅訳『テレビ視聴の構造 多メディア時代の「受

け手」像』(法政大学出版局 1991年)211-217P

34)同上85-88P

35)荒牧央/増田智子/中野佐知子「テレビは20代

にどう向き合ってゆくのか~ 2008年春の研究発

表・ワークショップより~」『放送研究と調査』

2008年6月号

36)東浩紀 『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化す

るポストモダン2』(講談社現代新書 2007年)

37)原由美子/重森万紀 「インターネットユーザー

のテレビ観~視聴行動変化の兆しを探る~」『放送

研究と調査』2002年6月号

38)宮台真司「「島宇宙」に刹那に群れる,匿名の彼

女たち」特集〔F1が見るテレビ―変わる視聴者

像〕『新・調査情報』No.68(2007.11-12)

39)白石信子「高まるテレビの有用性~メディアと

中学・高校生・1998調査から~」『放送研究と調

査』1999年4月号

4年後の2002年の同じ調査では,「学校は楽しく

ない」は8%減少している。(「社会よりも自分,

未来よりも今が大事~中学生・高校生の生活と意

識調査から③~」『放送研究と調査』2003年2月号)

40)朝日新聞では,2007年1・2月に特集連載「ロ

ストジェネレーション― 25~ 35歳」において,

「就職氷河期」に社会に巣立った人たちのことを,

新たな価値観を求めさまよう世代という意味を込

め「ロストジェネレーション」と名づけている。

現在の20代後半層は,この「ロスジェネ」にあて

はまる世代でもある。(『ロストジャネレーション

さまよう2000万人』朝日新聞社 2007年を参照)

41)山田昌弘「家族のリスク化」今田高俊責任編集

『リスク学入門 社会生活からみたリスク』(岩波

書店 2007年)13-36P

42)NHK放送文化研究所編 『現代日本人の意識構造

〔第六版〕』(NHKブックス 2004年)50-58P

43)中西新太郎『若者たちに何が起こっているのか』

(花伝社 2004年)

44)北田暁大『嗤う日本の「ナショナリズム」』

(NHKブックス 2005年)206P

45)『20代若者の消費異変 調査研究報告書』(日本

経済新聞社産業地域研究所 2008年)

46)藤田真文「テレビドラマ,もう一つの現実社会」

特集〔現代ドラマ考〕(『AURA』2001年8月号)

6P

47)2008年10月期,倉本聰脚本のドラマ『風のガー

デン』(フジ)は,高視聴率ドラマが限られている

時期に平均視聴率15%を超えた。父と子を中心に

142

*p095-144_テレビドラマ 09.1.19 3:03 PM ページ142

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家族の離反と和解をテーマにしたこのドラマの充

足は極めて強い「共感」型といえるが,これが高

視聴率をとることは,「共感」への欲求が決して受

け手に失われていないことの証しでもある。

この稿でほとんど触れていないNHKのドラマに

は,民放ドラマ総体が「カタルシス」への指向性

を深めながら展開してきた状況と比較した場合,

伝統的なドラマ「共感」への執着がうかがえる。

48)伊藤守「テレビドラマの言説とリアリティ構成

―「テクスト」と「読み」をめぐるポリティック

ス」伊藤守/藤田真文編『テレビジョンとポリフ

ォニー 番組・視聴者分析の試み』(世界思想社

1999年)90P

49)山田昌弘『少子社会日本―もうひとつの格差の

ゆくえ』(岩波新書 2007年)

50)たとえば,90年代前半の高視聴率ドラマ『東京

ラブストーリー』『あすなろ白書』(フジ)はとも

に,恋愛ものを得意とした漫画家柴門ふみのコミ

ックが原作である。

51)大塚英志『キャラクター小説の作り方』(講談社

現代新書 2003年)

52)若年層と今現在のテレビの関係においては,ド

ラマの「リアリズム」・ドラマの人物に対する「共

感」に代わって,ドキュメンタリー,ニュース

(ショー)あるいはバラエティといったジャンルに

登場している「人物」の“リアル感”に対する志

向性が以前よりも拡大し,そこに「共感」と「学

び」が潜在している可能性も考えられなくはない。

53)東浩紀『動物化するポストモダン オタクから

見た日本社会』(講談社現代新書 2001年)

54)浅野智彦「若者の現在」浅野智彦編『検証・若

者の変貌 失われた10年の後に』(勁草書房 2006

年)233-260P

55)大澤真幸『不可能性の時代』(岩波新書 2008年)

テレビドラマの「軸」なき変転

NHK放送文化研究所年報 2009│143

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