レーザプロファイラ等を用いた...

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9 月刊建設12-03 起因して、汎用的なソフトウェアでは扱いにくい。 具体例として、LPから図面や地図を作成するには、 オペレータがLPの無数の点群座標データから図化 に必要な点の座標を判読してCADやGISソフトに転 記していることが多い。 3.3次元CADデータの生成技術 関西大学(田中成典教授)および国土交通省水管 理・国土保全局・近畿地方整備局・国土技術政策総 合研究所では、災害時・平常時の両局面で機動的か つ効果的に対処できる既存資産の活用環境の構築に 取り組んでいる。本章では、このプロジェクトの一 環で開発したLPから3次元CADデータを生成する 技術を紹介する。この技術の特徴は、LPの点群座 標データから河川堤防の天端面と法面との境界とい った地形が変化する特徴線(ブレイクライン)を抽 出し、現況地形を精緻に再現した3次元CADデー タを自動生成する点にある。 図-1は、LPを用いた3次元CADデータ生成の 手順を示しており、ノイズ除去の処理後、一定間隔 で複数の断面形状を生成し、各断面の面と面の境界 を繋げてブレイクラインを自動生成する(図-2)。 そして、ノイズ除去したLPとブレイクラインデー タとを用いて3次元CADデータを自動生成する。 また、河川管理で用いている実測横断図により補正 することもできる。この結果、従来手法に比して、 現況地形を精緻に表現した3次元CADデータが生 成できる(図-3)。 1.はじめに 公共構造物は、社会経済の発展や人命・財産の保 全に寄与し、一旦災害が発生すれば、応急・復旧対 策の輸送経路など重要な役割を担う。各管理者は、 災害が発生した途端、迅速かつ適切に機能回復を図 る対応を取ることが求められる。このためには、既 存の資産(各構造物の図面や管理情報など)を機動 的かつ効果的に活用できる環境を構築し、有事に対 して平常時から備えておく必要がある。 河川事業に着目すると、河川基盤地図、レーザプ ロファイラ(以下、「LP」という)や航空写真など の有用な既存資産が生成・蓄積されている。この資 産を活用して河川構造物を3次元化し、さまざまな 主題情報と関連づけた環境があると、必要な情報へ のアクセス効率が大幅に向上するなど、平常時・災 害時における有用なマネジメントツールとなる。 本稿では、LPから現況地形を精緻に再現した3 次元CADデータを自動生成する技術および災害時 における活用例を紹介する。 2.LPを利用する際の課題 LPとは、レーザスキャナなどの計測器を航空機 に搭載し、上空から地表面や構造物の天端面を計測 した点群座標データである。国土交通省は、全国の 一級水系を対象にLPを整備し、中小河川治水安全 度評価などで利用している。このLPは用途が広く、 河川管理の高度化を図るうえで有用な資産であるが、 広範囲を計測した大量な点群座標データであるのが *国土交通省 国土技術政策総合研究所 高度情報化研究センター 情報基盤研究室 研究官     029-864-4916 特集 技術の向上に対する取り組み いま りゅう いち レーザプロファイラ等を用いた 3次元CADデータの生成技術

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Page 1: レーザプロファイラ等を用いた 3次元CADデータの生成技術LPから3次元CADデータを生成し、両者の比較分 析したケーススタディ結果を紹介する。3次元CAD

9月刊建設12-03

起因して、汎用的なソフトウェアでは扱いにくい。具体例として、LPから図面や地図を作成するには、オペレータがLPの無数の点群座標データから図化に必要な点の座標を判読してCADやGISソフトに転記していることが多い。

3.3次元CADデータの生成技術関西大学(田中成典教授)および国土交通省水管理・国土保全局・近畿地方整備局・国土技術政策総合研究所では、災害時・平常時の両局面で機動的かつ効果的に対処できる既存資産の活用環境の構築に取り組んでいる。本章では、このプロジェクトの一環で開発したLPから3次元CADデータを生成する技術を紹介する。この技術の特徴は、LPの点群座標データから河川堤防の天端面と法面との境界といった地形が変化する特徴線(ブレイクライン)を抽出し、現況地形を精緻に再現した3次元CADデータを自動生成する点にある。図-1は、LPを用いた3次元CADデータ生成の手順を示しており、ノイズ除去の処理後、一定間隔で複数の断面形状を生成し、各断面の面と面の境界を繋げてブレイクラインを自動生成する(図-2)。そして、ノイズ除去したLPとブレイクラインデータとを用いて3次元CADデータを自動生成する。また、河川管理で用いている実測横断図により補正することもできる。この結果、従来手法に比して、現況地形を精緻に表現した3次元CADデータが生成できる(図-3)。

1.はじめに公共構造物は、社会経済の発展や人命・財産の保全に寄与し、一旦災害が発生すれば、応急・復旧対策の輸送経路など重要な役割を担う。各管理者は、災害が発生した途端、迅速かつ適切に機能回復を図る対応を取ることが求められる。このためには、既存の資産(各構造物の図面や管理情報など)を機動的かつ効果的に活用できる環境を構築し、有事に対して平常時から備えておく必要がある。河川事業に着目すると、河川基盤地図、レーザプロファイラ(以下、「LP」という)や航空写真などの有用な既存資産が生成・蓄積されている。この資産を活用して河川構造物を3次元化し、さまざまな主題情報と関連づけた環境があると、必要な情報へのアクセス効率が大幅に向上するなど、平常時・災害時における有用なマネジメントツールとなる。本稿では、LPから現況地形を精緻に再現した3

次元CADデータを自動生成する技術および災害時における活用例を紹介する。

2.LPを利用する際の課題LPとは、レーザスキャナなどの計測器を航空機に搭載し、上空から地表面や構造物の天端面を計測した点群座標データである。国土交通省は、全国の一級水系を対象にLPを整備し、中小河川治水安全度評価などで利用している。このLPは用途が広く、河川管理の高度化を図るうえで有用な資産であるが、広範囲を計測した大量な点群座標データであるのが

*国土交通省 国土技術政策総合研究所 高度情報化研究センター 情報基盤研究室 研究官     029-864-4916

特集 技術の向上に対する取り組み

今いま

井い

龍りゅう

一いち

レーザプロファイラ等を用いた3次元CADデータの生成技術

Page 2: レーザプロファイラ等を用いた 3次元CADデータの生成技術LPから3次元CADデータを生成し、両者の比較分 析したケーススタディ結果を紹介する。3次元CAD

10 月刊建設12-03

なお、この技術のアルゴリズムなどの詳細は末尾に記載の参考文献を参照されたい。

4.3次元CADデータの利用例次に、東日本大震災で甚大な被害が発生した北上川下流域を対象に、前述の技術を用いて震災前後のLPから3次元CADデータを生成し、両者の比較分析したケーススタディ結果を紹介する。3次元CADデータは、震災前のLPに治水安全度評価で計測された航空レーザ測量成果、震災後のLPに国土地理院から提供を受けた東日本大震災対応で計測された航空レーザ測量成果を用いて生成した。図-4は、震災前後の3次元CADデータを重ね合わせて、堤防の変化量を自動抽出した結果を示している。震災前後で約4m以上も断面変化している箇所があることがわかる。

LPのノイズ除去機能

三面図の可視化処理

指定範囲の除去処理

抽出範囲限定処理

断面変化点取得処理

ブレイクライン作成処理

ブレイクライン抽出機能

3次元CADデータ作成機能

フィルタ作成処理

点群座標データ内挿処理

実測横断図による3次元CADデータ補正機能

断面取得処理

断面補正処理

ノイズ除去LP

ブレイクラインデータ

実測横断図のCADデータ

LP

断面補正3次元CADデータ

入力

出力

入力

出力

入力

入力

3次元CADデータ生成処理

図-1 3次元CADデータの生成手順

面と面の境界

ブレイクライン

図-2 ブレイクラインの抽出方法

図-4 堤防の形状の変化量

図-3 3次元CADデータの生成結果の比較

a)従来手法による3次元CADデータの生成

b)新技術による3次元CADデータの生成

天端面と小段の境界が明確に表現されていない

天端面と小段の境界が明確に表現されている

Page 3: レーザプロファイラ等を用いた 3次元CADデータの生成技術LPから3次元CADデータを生成し、両者の比較分 析したケーススタディ結果を紹介する。3次元CAD

11月刊建設12-03

震災前 震災後凡例

断面A(1m以内)

0

1

2

3

4

5

6

-30 -10 10 30

標高(

m)

河川中心からの距離(m)

断面B(5m)

0123456

-30 -10 10 30

標高(

m)

河川中心からの距離(m)

断面C(4m)

0

1

2

3

4

5

6

-30 -10 10 30

標高(

m)

河川中心からの距離(m)

断面D(6m)

0

1

2

3

4

5

6

-30 -10 10 30

標高(

m)

河川中心からの距離(m)

※断面A~Cの括弧内の数値は形状の変化量を示す。

5.おわりに今後は、平常時の3次元CADデータの活用方策も検討し、災害時・平常時の両局面で機動的かつ効果的に対処できる既存資産の活用環境の構築に取り組んでいきたい。

河川管理者は各被害箇所の横断図を作成して復旧工事などの対策を講じているが、この横断図の作成に時間を要することが課題になっている。しかし、震災前後の3次元CADデータがあると、図-5のように任意に断面を指定し、図-6のような横断図を自動生成することができる(例えば、図-6の断面Dの横断図は破堤箇所)。さらに、震災前後の3次元CADデータを重ね合わせると、形状の変化量から流出した土量を算出することができる。これらの結果から、震災前後LPから3次元CAD

データを生成すると、次のような支援への寄与が考えられる。○震災前後の河川堤防が俯瞰できるので、容易に面的変化や被害の甚大な箇所が把握できる。

○3次元CADデータから任意箇所の横断図が容易に生成できるので、被害状況の確認、復旧対策の検討や工事の設計図書に利用できる。

○被害状況の定量化(津波で流された土量の算出など)が容易にできるので、復旧工事の規模(積算)などの目安が早期に把握できる。

図-5 横断図の生成箇所の指定

図-6 3次元CADデータから自動生成した横断図

〈参考文献〉1)田中成典,今井龍一,中村健二,川野浩平:点群座標データを用いた3次元モデルの生成に関する研究,土木情報利用技術論文集,土木学会,Vol.19,pp.165-174,2010.

2)Tanaka, S., Imai, R., Nakamura, K. and Kawano, K.:Research on Generation of a 3D Model Using Breakline from Point Cloud Data, Proceedings of the 10th International Conference on Construction Applications of Virtual Reality , pp.347-356, 2010.3)田中成典,今井龍一,中村健二,川野浩平:点群座標データを用いた3次元モデルの自動生成に関する研究,知能と情報,日本知能情報ファジィ学会,Vol.23 No.4,pp.198-216,2011.

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