インタラクティブメディアを利用したデジタルクラ …...report on the digital...

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 143 1 独立行政法人情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センター(Knowledge Creating Communication Research Center, National Institute of Information and Communications Technology2 東京大学人工物工学研究センター(Research into Artifacts, Center for Engineering, The University of TokyoⅠ はじめに 「インターネット白書」によると,日本の インターネット人口は2006年2月現在で,約 7462万人となり,世帯浸透率(利用場所,接 続機器を問わず,インターネット利用者がい る世帯の比率)は85.4%を超えた 120011月に「2005年までに世界最先端のIT国家と なる」という目標を掲げたe-Japan戦略をス タートさせて以降,政府はインフラ整備を進 展させ,200412月には「いつでも,どこで も,何でも,誰でも」ネットワークに接続し, 情報の自在なやりとりが可能となる「ユビキ タス社会」(u-Japan)の実現を目指すことと している 2。このようなインターネットの普 及ならびに情報通信ネットワーク技術の進展 により,人々はメーリングリスト,電子掲示 板(BBS),ブログ(Weblog),ソーシャルネ インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 山 下 耕 二 福 原 知 宏 Report on the Digital Club Activity with the Interactive Broadcasting Media YAMASHITA Koji FUKUHARA Tomohiro 【要旨】 本稿では,インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動について報告 する。デジタルクラブ活動は,小学5~6年生を対象に,200512月より約3ヶ月間 実施された。参加者は月に2度,合計6回集まり,さまざまな体験活動や取材活動を 行い,自分たちの体験や感想,取材によって得た知識をインタラクティブメディアを 使い,個人ごとに取材メモとしてまとめた。また,取材メモをネットワーク上で共有 し,インターネット向けの放送番組という形に,協同して編集して発表し,相互に批 評しあった。その結果,子どもたちは非常に活発に番組作りを行った。番組作成にあ たり,おもしろい番組とは何か,わかりやすく伝えるにはどうすればいいかについて, 活発な議論が展開され,他者からの視点による推敲が重要であるという気づきが生ま れた。 【キーワード】 インタラクティブメディア,知識創造,体験共有,デジタルクラブ,小学生

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 143

1 独立行政法人情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センター(Knowledge Creating Communication

Research Center, National Institute of Information and Communications Technology)2 東京大学人工物工学研究センター(Research into Artifacts, Center for Engineering, The University of Tokyo)

Ⅰ はじめに

「インターネット白書」によると,日本の

インターネット人口は2006年2月現在で,約

7462万人となり,世帯浸透率(利用場所,接

続機器を問わず,インターネット利用者がい

る世帯の比率)は85.4%を超えた(1)。2001年

1月に「2005年までに世界最先端のIT国家と

なる」という目標を掲げたe-Japan戦略をス

タートさせて以降,政府はインフラ整備を進

展させ,2004年12月には「いつでも,どこで

も,何でも,誰でも」ネットワークに接続し,

情報の自在なやりとりが可能となる「ユビキ

タス社会」(u-Japan)の実現を目指すことと

している(2)。このようなインターネットの普

及ならびに情報通信ネットワーク技術の進展

により,人々はメーリングリスト,電子掲示

板(BBS),ブログ(Weblog),ソーシャルネ

インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告

山 下 耕 二1 福 原 知 宏2

Report on the Digital Club Activity with the Interactive Broadcasting Media

YAMASHITA Koji FUKUHARA Tomohiro

【要旨】

本稿では,インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動について報告

する。デジタルクラブ活動は,小学5~6年生を対象に,2005年12月より約3ヶ月間

実施された。参加者は月に2度,合計6回集まり,さまざまな体験活動や取材活動を

行い,自分たちの体験や感想,取材によって得た知識をインタラクティブメディアを

使い,個人ごとに取材メモとしてまとめた。また,取材メモをネットワーク上で共有

し,インターネット向けの放送番組という形に,協同して編集して発表し,相互に批

評しあった。その結果,子どもたちは非常に活発に番組作りを行った。番組作成にあ

たり,おもしろい番組とは何か,わかりやすく伝えるにはどうすればいいかについて,

活発な議論が展開され,他者からの視点による推敲が重要であるという気づきが生ま

れた。

【キーワード】

インタラクティブメディア,知識創造,体験共有,デジタルクラブ,小学生

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第7号,2007年144

ットワーキングサービス(SNS)などを利用

して,さまざま知識や日常生活でのふとした

疑問や意見などを手軽に交換しあうようにな

った。

人々が日常生活の中で抱くさまざまな考え

や疑問は,大量に集まることにより,「知識

集合」として大きな価値を生み出す可能性が

存在する(例えば,「OK Web」や「人力検索

はてな」のような大規模なQ&Aサイトで蓄積

された知識や疑問(3)(4))。筆者らが提案・開

発しているパブリック・オピニオン・チャン

ネル(Public Opinion Channel; POC)は,

人々の持つ知識を顕在化させ,それらの知識

間に新たな結びつきを創出することを目指し

て開発された,ネットワークコミュニティ向

けのインタラクティブな自動放送メディアで

ある(5)(6)(7)。POCはコミュニティのメンバー

から寄せられた意見や感想などをストーリー

として生成し,コミュニティに向けて放送す

る。視聴者はその放送に対する感想や疑問を

投稿する。それらの投稿は,手動または自動

で編集され,放送に反映される。こうした知

識の流通サイクルを反復することで,コミュ

ニティ内に存在する知識が顕在化し,メンバ

ー間で共有され,コミュニティにおける知識

の利用可能性が高まる。POCのねらいは,コ

ミュニティメンバーが生み出したストーリー

をコミュニティに向けて手軽に発信できるよ

うにするための情報発信手段と,コミュニテ

ィで共有されているストーリーを集約して新

たな視点のもとで再構成することによって価

値を生み出す情報編集手段と,コミュニティ

で共有されているストーリーを日常生活の中

で気軽に楽しめるようにする情報受信手段と

を包括的に提供することによって,コミュニ

ティの知識の獲得,流通,共有,創造といっ

たプロセスを拡張することにある(8)。

教育場面においても,自分たちの体験発表

や意見交換,知識共有を目指して,インター

ネットのホームページやBBS,ブログを利用

する活動やデジタルポートフォリオ作成を行

う活動が数多く実施されてきた(9)(10)(11)(12)。

特に,ブログを用いてポートフォリオを作成

する活動は手軽であり,資料や記録の蓄積,

内容の分類,再構成を行う上で適しているた

め,近年,授業に活用されることが多くなっ

てきている。これらの活動で利用されるメデ

ィアと放送型インタラクティブメディアとを

比較すると,放送型メディアには情報受信の

敷居が低いという特徴がある。前者では情報

獲得にあたって,利用者が連続して能動的な

アクション(検索,閲覧,絞り込み・・・)

をとる必要があるが,後者ではチャンネルに

アクセスするとコンテンツが自動配信される

ので,受動的視聴が可能となる。また,放送

型インタラクティブメディアとホームページ

などとのもう一つの大きな違いは,コンテン

ツの表現形式にある。現在までのところ,イ

ンターネット上のコンテンツの多くは文字情

報が中心であるが,POCは放送時に音声合成

によりコンテンツを読み上げるというモード

を持つ。これにより,視聴モードが視覚に限

定されず,何かをしながら放送を聴取できる。

また,文章表現に加えて,音声表現面での工

夫が可能となる。これにより表現の幅が大き

く広がり,自己表現活動への利用という点で

も大変興味深いと言える。

これまで筆者らは,大都市地域コミュニテ

ィ,野外教育での小学生,実験環境での成人,

国際比較実験での日韓大学生などさまざまな

対象に対して,POCの機能評価や実践活動を

実施してきた(13)(14)(15)(16)。例えば,山下は野

外活動での体験や知識の共有支援を目的とし

て,2泊3日のキャンプ活動中にPOCを用い

た実践について報告した(17)。キャンプ期間

中,子どもたちはデジタルカメラを用いて,

自分たちのグループ活動を記録し,それらの

活動内容をPOCへ投稿した。投稿された内容

は,キャンプの参加者全体へ向けて放送され

た。1グループ6名からなる4グループで合

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 145

計129件のコンテンツが作成され,POC利用

ならびにコンテンツ作成活動を通して,グル

ープ内での子どもたちの知識共有が促進さ

れ,知識を伝達しあう姿が観察された。また,

創造性の高いコンテンツがいくつも作成さ

れ,POCが子どもたちの表現活動ツールとし

て利用できる可能性が示された。一方で,実

践の実施期間が3日間と短かったため,個人

間での知識の伝播や個人内での知識変容のあ

りようについては検討できなかった。

そこで,1)個人内での知識変容,2)個人

間での知識伝播,3)協同による知識共有・

創造について,総合的に理解することを目的

に,小学生を対象にインタラクティブメディ

アを利用した実践活動を実施した。この実践

活動は,従来のPOCに対する機能評価や実践

活動をさらに発展させたものと位置づけられ

る。具体的には,単発のトライアルではなく,

約3ヶ月という長期にわたり,同一の子ども

たちを対象とし,子どもたちの知識獲得,交

流,共有,創造というプロセスを継続して観

察した。この実践活動では,新しく開発した

XOOPOCシステムを利用して,他者と知識を

共有し,共有した知識に基づいて,新たな知

識を創造するというプロセスを仮定した。本

稿で考える知識とは,具体的には,「自分た

ちの住む街についての知識」「デジタル機材

を用いた表現方法について知識」などを指し,

それらをXOOPOCシステムを使用した番組を

作ることで獲得し,表現することを知識創造

と呼ぶ。本実践活動を詳細に分析することで,

インタラクティブメディアを利用した知識創

造について,そこでどのようなコミュニケー

ションが行われ,結果として,いかに知識創

造に結びつくかに関する詳細かつ総合的な理

解が進むことが期待される。また,これらの

理解に基づいて,インタラクティブメディア

を利用した学びの実践が促進されると考えら

れる。本稿では,実践活動の概要ならびに結

果の一部について報告する。

Ⅱ 実践報告:ジュニアデジタルクラブ

1 利用システム:XOOPOC

これまでに筆者らの研究グループでは,

POCを利用するためのソフトウェアとして,

番組作成支援ソフトPOC Communicator(18)や

番組自動生成・閲覧ソフトPOCTV(19)を開発

してきた。しかし,これらのソフトウェアは

研究目的に開発されたものであり,ソフトウ

ェアの環境設定作業が複雑であること,特定

のOS(Microsoft Windows)上での使用に限

定されることなどの問題を有しており,シス

テム利用の敷居が高かった。そこで,1)コ

ミュニティメンバーがウェブブラウザ上で手

軽に番組の作成と視聴を行えること,2)本

システムがコミュニティのポータルサイトと

してコミュニティメンバー間の知識共有を支

援することを目的に,XOOPOC(ズーポック)

を新たに開発した。

XOOPOCは,ポータルサイトを用いたコミ

ュニティ向けプレゼンテーションコンテンツ

作成・共有システムである。図1にシステム

構成を示す。XOOPOCシステムは,オープン

ソースのウェブサーバソフトApache上で,

ポータルサイト構築パッケージXOOPSを用

いて実装が行われた(20)(21)。これにより,特

定の環境に依存せず,LinuxやMac OS,

Windowsを問わず,幅広い基盤上で,安価か

つ安定的に稼働させることが可能となった。

図1 XOOPOCのシステム構成

Web (Apache)

HitVoice

XOOPS

XOOPS

POC

XOOPOC

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第7号,2007年146

システムとして,100件程度の同時アクセス

に耐える設計となっている。POCモジュール

では,ウェブブラウザ上で番組の作成と視聴

が可能となるよう,サーバ上にMacromedia

F l a s hと音声合成システム(日立製作所

HitVoice)を用意し,利用者のパソコンで音

声合成ソフトをインストールすることなしに

音声合成を得られるようにした。これにより

利用者は,Flash Playerのインストールされ

た任意のパソコンを利用して,ウェブブラウ

ザ上で,手軽に番組作成・編集と視聴を行う

ことができるようになった。図2に番組作

成・編集ならびに視聴の画面を示す。本シス

テムにおける番組とは,利用者の顔写真から

加工されたキャラクタエージェントが写真に

ついて音声で読み上げを行う紙芝居方式のプ

レゼンテーションコンテンツである。番組は

利用者の作成した取材メモから構成される。

取材メモは利用者の執筆するブログ記事から

自動生成される。取材メモには写真とコメン

トが含まれている。利用者は取材メモの中か

ら番組作成に必要な取材メモを選択し,番組

で読み上げる文面を編集し,番組に追加する

ことで番組作成を行う。作成された番組は,

レポーターエージェントと呼ばれる番組作成

者のキャラクタが音声合成で紹介する。

XOOPOCシステムにより,利用者は写真と音

声合成を組み合わせたマルチメディアプレゼ

ンテーションを手軽に作成でき,作成された

プレゼンテーションはコミュニティ内で共有

し,コミュニティメンバー同士でお互いに編

集しあうことで,コミュニティの共有知識と

して拡張できる。

2 ジュニアデジタルクラブの概要

ジュニアデジタルクラブは,財団法人大阪

市青少年活動協会が主催するアウトドアクラ

ブ活動の一つとして,大阪市立青少年文化創

造ステーションを活動のベースに実施された(22)(23)。参加者は小学5~6年生6名であっ

た。参加者募集は主催団体により,ホームペ

ージ,チラシ,大阪市広報誌を通じて行われ

た。参加者の居住地域はすべて大阪市内であ

った。参加者数が少なかったため,期間を通

して固定したグループは作成されず,毎回の

活動やプログラムごとにペアを作るなどして

活動が行われた。主催団体による専門トレー

ニングを受けたスタッフ3名ならびにデジタ

ル機器サポートスタッフ1名が,期間中,集

合から解散まで参加者と生活を共にしなが

ら,デジタル機器の使用方法をはじめ活動全

般にわたる援助を実施した。

ジュニアデジタルクラブは,小集団による

体験学習が参加者一人ひとりの成長によい影

図2 番組作成・編集ならびに視聴の画面例

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 147

響を与えることを信じ,デジタルカメラやパ

ソコン,インターネットなどのデジタル機材

を活用した創作体験活動を通して,次の3点

を達成することを目的に計画された。

1. 参加者一人ひとりの持つ興味,好奇心を

刺激し,創造性を養う

2. グループ活動を通じて,他者を尊重し,

信頼し,援助することの重要性を知る

3. さまざまな経験を通じて得る個人の体験,

またそれらを他者と共有化する過程の重要

性を理解する

ジュニアデジタルクラブにおけるプログラ

ムは,これらの目的を実現するための手段と

して捉えられ,以下の4つの目標が設定され

た上で,編成がなされていた。

1.自分たちの住む街,大阪について理解する

2. デジタル機材を用いた制作体験を通して,

メディアリテラシーを身につけ,創造性を

育む

3. 人の考えを聞き,自分の考えを人に伝え

ることができるようになる-「語り合う力」

の育成

4. グループで協同することにより課題解決

の過程や方法を学び,社会性を養成する

3 ジュニアデジタルクラブの活動

参加者は月に2回のペースで,大阪市立青

少年文化創造ステーションに集まり,毎回定

められたテーマのもとで,さまざまな体験活

動や取材活動を行い,自分たちの体験や感想,

取材によって得た知識をインタラクティブメ

ディアを使い,個人ごとに取材メモとしてま

表1 ジュニアデジタルクラブ活動のプログラム

1

2005

12 18 POC

2

2006

1 8

1

3

2006

1 22

1 POC

4

2006

2 5

2

5

2006

2 19

2

2

6

2006

3 5

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第7号,2007年148

とめた。また,それらを全員で共有し,番組

という形に編集して発表し,相互に批評しあ

った。実施されたプログラムについて,表1

に示す。

プログラムは段階的に構成されていた。第

1回では,デジタルカメラ,パソコンの利用

の仕方ならびにXOOPOCシステムの使い方を

学習すること,またお互いに知り合い,仲間

作りを行うことを目的に,デジタル遊び

(「デジタル名札」と「イントロPOC」)を実

施した。デジタル名札では,2名一組となり,

デジタルカメラを使って,真面目な顔,笑っ

た顔,眠り顔の3枚の写真をお互いに撮影し

あい,それぞれの名札をカラープリンタによ

り作成した。次に,イントロPOCでは,ペア

を変えて2名一組になり,お互いに自己紹介

しあい,相手を一番よく表すと思う写真を1

枚撮影し,XOOPOCを用いて,それにコメン

トをつけた番組を作成した。第2回では,

「取材に出かけよう」をテーマに体験型学習

施設である大阪市立阿倍野防災センターへ出

かけ,体験活動を行い,その内容をXOOPOC

を用いて,取材メモにまとめた。第3回では,

「取材した内容をまとめよう」をテーマに,

前回の取材メモから番組作りを行った。この

回では,おもしろい番組とは何かを考えるた

めに,システムによって無作為に選ばれた3

枚の写真から即興的に物語を考えるというデ

ジタル遊び「トリPOC」を行った。トリPOC

は参加者単独で取り組むだけではなく,複数

の参加者で協同して一つの物語を作成するこ

とも行われた。第4回は「住まいのミュージ

アム大阪くらしの今昔館」への取材活動と取

材メモの作成を行った。第5回はそれまでの

2回の取材についてのまとめ活動を実施し,

活動を報告する番組作り(「大阪レポーター」)

を実施した。第6回は発表会とふりかえりを

行った。毎回の活動終了時には,ブログを用

いて,意見,感想,ふりかえりの記入を行っ

た。

4 取材メモと番組作成の手順

参加者はウェブブラウザを用いて,ジュニ

アデジタルクラブのポータルサイト(図3)

にアクセスし,各自のIDとパスワードを用い

て認証を行う。本システムでは,個人情報へ

の配慮ならびにセキュリティ上の理由から,

アクセス権を持つ人のみがユーザとしてサイ

トへフルアクセスできるように設定された。

取材メモを作成するには,ウェブログモジュ

ールへアクセスし,写真1枚とそのコメント

からなるブログ記事を作成する。システムは

ブログ記事投稿と同時に,POCモジュールで

利用される取材メモを自動生成する。次に,

参加者はPOCモジュールにアクセスし,自動

生成された取材メモを使い,番組の作成・編

集作業を行う。この時,複数の参加者で一つ

の番組を作るという課題を設定し,編集部と

いう形で作成作業を行う。複数の編集部で編

集された番組からおもしろいもの,優れてい

るものを,参加者全員でチェックし,投票に

より放送番組を選出する。第3回以降の活動

で,このフローが何度も反復された(図4)。

図3 ジュニアデジタルクラブのポータルサイト(http://vrv. jp/koko-digi/)

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 149

5 結果と考察

表2は,XOOPOCを用いて作成されたコン

テンツの数(取材メモと番組)を集計したも

のである。全体で,取材メモは543件,番組

は161件作成された。これらの内,参加者6

名の合計は,それぞれ266件,119件であり,

平均値を算出したところ,取材メモで44.33

(SD=18.03)件,番組で19.83(SD=13.35)

図4 番組選出までの流れ

mymymy

mymymy

表2 作成・投稿されたコンテンツ数

POC POC

A5

3 6 8 17 40

B5

4 2 3 9 46

C5

21 9 14 44 78

D6

4 1 3 8 44

E6

10 2 4 16 29

F6

12 2 11 25 29

A 0 4 1 5 78

B 3 13 3 19 129

C 3 2 3 8 55

D 3 5 2 10 15

54 22 43 119 266

9 24 9 42 277

63 46 52 161 543

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第7号,2007年150

件であった。単純に,活動回数(6回)で除

算すると,1回の活動あたり,7件前後の取

材メモと3件前後の番組が作成されていた。

以上から,参加者は非常に活発にコンテンツ

作成活動を行っていたことがわかる(参加者

EとFは第2回活動に半日しか参加していな

いため,他の参加者と比較すると作成数が少

ない)。

「大阪レポーター」として作成され,参加

者間で議論した上で,放送用に選択された番

組のタイトル,使用された写真の枚数ならび

に内容は,表3の通りである(作成された番

組の一例として,「大阪暮らしの今昔館完全

版」の内容を「付録」に示す)。

活動終了時に,活動に対するアンケートを

実施した。アンケートの結果を表4に示す。

参加者はそれぞれの項目に対して,5段階

(5点が満点)で回答するように求められた。

表4から参加者たちがジュニアデジタルクラ

ブでの活動を非常に楽しみ(項目1),また,

取材メモや番組を作ることを楽しんでいたこ

とがみてとれる(項目11~15)。取材メモの

作成(項目7)ならびに番組作成(項目8)

に対しては共に,それほどの困難は感じられ

ておらず,子どもたちにとって,システムを

利用する上での敷居は低く,その意味では,

今回のシステム改良が功を奏していたと言え

る。今回の実践では,一人での作成活動とあ

わせて,2名以上での番組作成・編集を行う

という協同活動を積極的に取り入れて実施し

た。この点についても,参加者は他者と一緒

に活動を行うことを楽しみ(項目13),他者

の作った番組を見ることを楽しんでいたこと

が示された(項目15)。協同して番組を作成

するには,参加者間で何度も何度も話し合い

を重ねる必要がある。また,放送番組を選出

する際には,候補となる番組を全員で視聴し,

参加者間でどれを選択すべきであるかを話し

合い,投票によって放送するものが選択され

た。この過程で,おもしろい番組とは何か,

わかりやすく伝えるにはどうすればいいかに

ついて,参加者同士で活発な議論が何度も行

われた(図5)。また,アンケートの自由記

述欄では,「相手が楽しめるように注意して

番組を作った」「人に伝えることを意識した」

「自分が他人として見るなら,どう思うかを

考えた」などという回答が見られ,参加者が

番組作成にあたって,他者からの視点による

表3 番組とその内容一覧

7

14

19

7

16

16

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 151

表4 アンケート結果

No

A B C D E F

1 5 4 5 5 5 5 4.83 0.41

2 3 3 5 1 5 3 3.33 1.51

3 5 4 5 5 5 5 4.83 0.41

4 4 4 3 5 5 5 4.33 0.82

5 5 4 4 4 4 4 4.17 0.41

6 5 5 3 5 5 5 4.67 0.82

7 4 2 3 5 5 5 4.00 1.26

8 5 2 3 2 5 5 3.67 1.51

9 5 4 1 4 1 1 2.67 1.86

10 5 3 5 3 1 1 3.00 1.79

11 5 3 5 5 5 5 4.67 0.82

12 5 3 3 5 5 5 4.33 1.03

13 5 3 5 5 5 5 4.67 0.82

14 5 4 5 5 5 5 4.83 0.41

15 5 5 5 5 5 5 5.00 0.00

16 4 1 5 2 5 2 3.17 1.72

17 3 5 5 4 5 5 4.50 0.84

18 4 4 5 5 5 5 4.67 0.52

19 5 4 5 5 5 5 4.83 0.41

20 5 3 3 5 5 5 4.33 1.03

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第7号,2007年152

推敲が重要であるということに気づいていた

ことが示された。

Ⅲ まとめ

本稿ではインタラクティブメディアを利用

したデジタルクラブ活動について報告した。

参加者の相互交流を深め,多様な相互作用を

促すには,たくさんの子どもたちが参加する

ことが望ましい。今回の実践は小学生6名の

みが対象者であり,結果の一般性という意味

で限定的であるので,今後,より大規模な対

象に対して,体験や知識の共有・創造につい

て詳細に検討してゆくことが望まれる。例え

ば,学校で言えば,クラス単位での長期間に

わたる利用(学期を通じた)が考えられる。

XOOPOCシステムは,番組作りの素材として,

ブログ記事を利用するので,すでにブログを

利用して作成されたポートフォリオなどを手

軽に再利用することが可能であり,そのよう

な活動経験を持つ学校で,本システムを用い

た実践活動を行うことで,本稿の知見を拡大

することができるだろう。

システムとしての今後の課題には,1)ビ

デオ映像を用いた同期型協同作業の支援,2)

映像と音声を取り入れた番組作成の支援,3)

衛星利用測位システム( GPS: global

positioning system)を用いた位置情報を使っ

た取材現場での取材メモ作成の支援,などが

あげられる。システムとしては,現在,写真

と音声を用いた番組を扱っているが,動きや

時間的変化を表現する場合には,映像表現を

処理できることが望ましく,映像と音声を取

り入れた番組作成の支援が求められる。また,

現在は体験したり,取材したりした結果を後

でまとめるという形になっており,体験学習

における「調べる」「体験する」「記録する」

「まとめる」という学習サイクルの各段階が

独立している。これらを一体化させるには,

位置情報を使った取材現場での取材メモ作成

や携帯電話などを利用した現場からの投稿の

支援を実現しなければならない。

本稿の知見は,実践活動におけるデータの

一部によるものであり,今後,XOOPOCの利

用に関するサーバログや番組作りの様子を収

録したビデオを解析し,お互いの結果を関連

づけることで,インタラクティブメディアを

利用することの効果がより明らかになるもの

と考えられる。

謝辞

実践活動の実施に際し,財団法人大阪市青

少年活動協会,大阪市立青少年文化創造ステ

ーションのご協力に感謝いたします。本研究

は文部科学省科学研究補助金(若手研究(B)

課題番号17700629)の補助を受けて実施さ

れた。

図5 番組選出の話し合いの様子(2006年1月22日)

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 153

付録番組例「大阪暮らしの今昔館完全版」

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国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,第7号,2007年154

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山下・福原:インタラクティブメディアを利用したデジタルクラブ活動の報告 155

引用文献a 財団法人インターネット協会監修,「インターネッ

ト白書2006」,インプレスR&D,2006

s 総務省編,「平成18年度版情報通信白書」,ぎょうせ

い,2006(http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/

whitepaper/ja/cover/からも参照可)

d OK Web(http://okwave.jp/)

f 人力検索はてな(http://q.hatena.ne.jp/)

g Nishida, T., Fujihara, N., Azechi, S., Sumi, K., and

Yano, H.,"Public Opinion Channel for communities in

the information age", New Generation Computing, 14,

1999, pp. 417-427

h 畦地真太郎・福原知宏・藤原伸彦・角薫・松村憲

一・平田高志・矢野博之・西田豊明,「パブリック・

オピニオン・チャンネル-知識創造コミュニティの形

成に向けて」,人工知能学会誌 ,16(1) ,2001,pp.

130-138

j Nishida, T., "Social Intelligence Design for Web

Intelligence", IEEE Computer, 35, 2002,pp. 37-41

k 西田豊明・福原知宏・久保田秀和・山下耕二・松村

憲一,「パブリックオピニオンチャネルによるコミュ

ニティ知の創造実験」,人工知能学会誌,18号,2003,pp.

637-642

l Niguidula, D.,"Picturing Performance with Digital

Portfolios", Educational Leadership,November, 1997,

pp.26-29

¡0 Wiedmer, T. L.,"Digital Portfolios: Capturing and

demonstrating skills and levels of performance", Phi

Delta Kappan, April, 1998, pp. 586-589

¡1 子ども知恵図鑑(http://chie.wschool.net/chie15/

top.php?lang=ja)

¡2 インテル@教育支援プログラム-授業案(http://www.

intel.co.jp/jp/education/unitplans/)

¡3 Yamashita, K., Fukuhara, T., & Nishida, T.,

"Evaluation of Public Opinion Channel at children's

camp",International Journal of Learning, 10, 2003, pp.

2737-2748

¡4 山下耕二,「フィールドPOC:体験共有を支援する

インタラクティブ・メディアを用いたキャンプ実践」,

国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要,

5号,2005,pp. 213-224

¡5 山下耕二・福原知宏・西田豊明,「パブリック・オ

ピニオン・チャンネルにおけるストーリー創造の分析」,人

工知能学会第18回全国大会論文集(CD-ROM),1D2-

04,2004

¡6 藤原伸彦・畦地真太郎・崔銀姫,「インターネット

コミュニケーションツールPOCを利用した国際コミュ

ニケーション実践」,鳴門教育大学学校教育研究紀要,

20号, 2005, pp.147-151

¡7 前掲(12)

¡8 福原知宏・近間正樹・西田豊明,「コミュニティの

知識共有を目的とした話の共有システムの提案」人工

知能学会第16回全国大会論文集(CD-ROM),2C3-

05,2002

¡9 久保田秀和・山下耕二・福原知宏・西田豊明,

「POC caster:インターネットコミュニティのための

会話表現を用いた情報提供エージェント」,人工知能

学会論文誌, 17号, 2002, pp. 313-321

™0 The Apache Software Foundation(http://www.

apache.org/)

™1 XOOPS(http://xoops.jp/)

™2 財団法人大阪市青少年活動協会(http://www.ays-

osaka.com/)

™3 大阪市立青少年文化創造ステーション(http://www.

kokoplaza.net/)