シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の …...f kx ka t cos( ) 00 x y...
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事例報告 KIT Progress №25
1
シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み An Attempt to Promote Understanding of the Vibration
Analytical Method by Employing Simulation
堤 厚博,太田 和彦,西岡 圭太 Atsuhiro TSUTSUMI, Kazuhiko OHTA, Keita NISHIOKA
単振動・減衰振動・連成振動などの振動現象を教育する際には、従来から数式やグ
ラフなどを用いて教育を実施してきたが、時間的ファクターを反映させた振動現象の
理解度を向上させるため、MATLAB/MuPAD や JavaScript を用いた振動シミュレー
ションによる教育効果について調査を行った。 キーワード:振動解析,シミュレーション,視覚化,MATLAB/MuPAD,JavaScript
In an attempt to develop a deep understanding of the analytical
method in the vibration field, simulation based on MATLAB/MuPAD and JavaScript is introduced into the educational material, thus enabling dynamic visualization of a time-dependent vibration factor, which is somewhat hard to figure out by merely using the mathematical solution and motionless graph used traditionally. Keywords: Vibration Analysis, Simulation, Visualization,
MATLAB/MuPAD,JavaScript
1.はじめに
数学は数式や証明を用いて論述せざるを得ない学問であるがゆえに、学生にとって理解しづらいのも
事実である。そのため従来から、パソコンや表計算ソフトのエクセルを用いて数式や証明を理解しやす
くする試みが行われている 1),2)。筆者らも数学教育において理解度を向上させるため、数式の視覚化の
試みを行い、学生の理解度向上に寄与している 3),4)。そこで今回、さらにこれを発展させ、ロボティク
ス学科と協力し、専門分野である振動現象における数式の理解度とシミュレーションによる視覚化によ
る理解度向上に関する調査を実施することにした。振動現象を実験などと対比させながら、その現象を
数式や証明を用いて解説できればよいが、講義ではそのような時間が取れない。そこで、数式や証明を
グラフなどで補完しながら論述することになるが、学生にとっては簡単に理解しづらい科目となってい
る。そのため、初年次において十分に数学的な学力を身に着けていないため、振動現象を数式で理解で
きない学生が見られている。一方、数学的な学力はあるものの、その意味するところがどのようなもの
かが良くわかっていない学生も多いものと考えられる。そこで、従来から学生に振動現象を、グラフを
用いて理解させようと試みているが、理解に乏しいのが現状である。このような状況にあって、振動現
象を魅力あり、かつ理解しやすいものとするため、数式の 3 次元表示や時間変化まで把握できるシミュ
レーションを用いた振動現象を見せるとともに学生自らがシミュレーションを実施し、それを体験させ
た場合の理解度調査を行った。また、その元となる 2 階線形微分方程式の理解度調査も実施し、それら
の理解度を通して、教育すべき部分がどこかを把握できれば、それを重点的に学習させることで教育効
率の向上も期待できる。そこで本報告はこの調査結果について述べる。
107シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
KIT Progress №25
2
2.振動分野 一概に振動分野を対象とするといってもその分野は多岐に渡るが、今回の振動現象の対象とした
分野は、基礎教育課程の科目である「基礎物理(力学分野)」を取っている 2 年次の学生と工学部ロ
ボティクス学科 3 年生を対象としたため、以下に述べる単振動、減衰振動、連成振動 5)の3項目に
ついて調査を行った。これらの振動現象のシミュレーション作成には、3 次元表示が容易な MATLAB/ MuPAD、および Web ブラウザ上で簡単に実行できる JavaScript を用いた。JavaScript によるシミュ
レーションでは、ドイツの Bayreuth 大学で開発が進められている JSXGraph6) と呼ばれる幾何学ライ
ブラリを利用した。 2.1 単振動
単振動は振動現象の初歩であり、高校の物理でも簡単に触れられており、大学では最初に学ぶべきも
のである。従来から単振動は、以下の図に示すマス-バネ系運動方程式で表され、下図で示された振動
系である。ばね定数 のばねに取り付けられた質量 の物体のつり合いの位置を原点O とするとき、時刻 における
物体の変位 、速度 、加速度 は
(1)
(2)
(3)
:振幅, :固有角振動数, :初期位相
と表される。式(3)より、運動方程式 は
(4)
であり、その解が式(1)となる。物体に働く力 は、物体の変位
に比例し、方向は逆向き
(5)
であり、位置 に応じて時々刻々と変化する。このようにこの
運動方程式を速度・加速度の関係から導き解が(1)式で表される
ことを理解させたり、物体に働く力の関係から運動方程式を導
く。次にこの運動方程式を解くために特性方程式を導出し解を 導く。最後にこれが実際にこのような動きをすることを、図2を使い対比させて示すのが一般的である。
しかし、この説明では質量であるマスとバネが同時に動いていないために、微分方程式を解くと
(あるいは と の和)で表されるのが分かったとしてもなぜこの式でよ
いのかについては理解し難い。この原因の 1 つとして、図1と図2の画像が同期して動くような動画で
ないために把握しづらいことが考えられる。そこで、筆者らは実際に図2と同期して時間的変化を確認
できる単振動のシミュレーションを作成し、学生自らにこれを行わせ、本シミュレーションの実施前(プ
N/m〔 〕k kg〔 〕ms〔 〕t
m〔 〕x m/s〔 〕v 2m/s〔 〕a
m〔 〕A 0 rad/s 〔 〕k m 0 rad〔 〕
ma F
F x
x
0 0cos( )A t 0sin tω 0cos tω
x
k
O x(t)
x O
自然長
m
図1 単振動モデル
22 20 0 0 02 cos( ) dv d xa A t x
dt dt
2202 d xm m x kx
dt
図2 円運動と単振動
0 0cos( ) x A t
0 0 0sin( ) dxv A tdt
0 0cos( ) F kx kA t
x
y
A
ω0θ0
108 シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
3
リテスト)と後(ポストテスト)の理解度について調査を実施した。 最初の調査は「基礎物理」を取っている 2年次の学生を対象に図1に示すような振動系で「物体に
どのように力が働くか」や「運動方程式」を問う基本的な設問である。
『(1) 点 Oからばねを x だけ伸ばしたときに物体に働く x 軸方向の力を求めよ。
(2) 物体の運動方程式を書け。 (3) ばねを まで伸ばして静かに放すと、物体は単振動した。物体を静かに放した瞬間を
時刻 として、時刻 での物体の位置 を求めよ。 (4) この単振動の周期 T を求め、物体の質量を 4分の 1にすると周期はどうなるか答えよ。』
これらの設問について、最初は授業で単振動について図1を用いて解説した後に実施した小テストの
結果をプリテストとして、次に下の図3に示すような円運動と連動した単振動シミュレーションを行わ
せた後に同様のポストテストを抜き打ちで実施した。なお、この JavaScript で作成したシミュレーショ
ンは、質量やばね定数を変えられるようになっているため振動周期の変化などが実感できる。
プリ・ポストテストの正答率の結果を図4に示した。なお、ポストテストを受けなかった学生がいる
が、最初のプリテストを受けてポストテストを受けなかった学生は、プリテストの正答率が 0.3 未満の
学生である。この結果を見ると、プリテストとポストテストで平均正答率はほぼ変わらないが、大きな
変化としては、プリテストで正答率 0.2 未満の下位層の学生が大幅に減少し、ポストテストで正答率 0.2~0.4 の学生が大幅に増加したことである。このことがシミュレーションを行った効果であるかは断言
0 ( 0)x x= >0t t ( )x t
x(t)
単振動
t
ばねにつながれた物体に、ばねの伸びに比例した復元力(フックの法則)が作用するときに、その物体がする往復運動
質量m 、ばね定数 k を変えて、初期位置に「戻す」ボタンを押すと単振動の周期が変化する。 左の円周上の白玉を動かして「戻す」ボタンを押すと、初期位相 0 を変えることができる。
図3 単振動シミュレーション
2
2.振動分野 一概に振動分野を対象とするといってもその分野は多岐に渡るが、今回の振動現象の対象とした
分野は、基礎教育課程の科目である「基礎物理(力学分野)」を取っている 2 年次の学生と工学部ロ
ボティクス学科 3 年生を対象としたため、以下に述べる単振動、減衰振動、連成振動 5)の3項目に
ついて調査を行った。これらの振動現象のシミュレーション作成には、3 次元表示が容易な MATLAB/ MuPAD、および Web ブラウザ上で簡単に実行できる JavaScript を用いた。JavaScript によるシミュ
レーションでは、ドイツの Bayreuth 大学で開発が進められている JSXGraph6) と呼ばれる幾何学ライ
ブラリを利用した。 2.1 単振動
単振動は振動現象の初歩であり、高校の物理でも簡単に触れられており、大学では最初に学ぶべきも
のである。従来から単振動は、以下の図に示すマス-バネ系運動方程式で表され、下図で示された振動
系である。ばね定数 のばねに取り付けられた質量 の物体のつり合いの位置を原点O とするとき、時刻 における
物体の変位 、速度 、加速度 は
(1)
(2)
(3)
:振幅, :固有角振動数, :初期位相
と表される。式(3)より、運動方程式 は
(4)
であり、その解が式(1)となる。物体に働く力 は、物体の変位
に比例し、方向は逆向き
(5)
であり、位置 に応じて時々刻々と変化する。このようにこの
運動方程式を速度・加速度の関係から導き解が(1)式で表される
ことを理解させたり、物体に働く力の関係から運動方程式を導
く。次にこの運動方程式を解くために特性方程式を導出し解を 導く。最後にこれが実際にこのような動きをすることを、図2を使い対比させて示すのが一般的である。
しかし、この説明では質量であるマスとバネが同時に動いていないために、微分方程式を解くと
(あるいは と の和)で表されるのが分かったとしてもなぜこの式でよ
いのかについては理解し難い。この原因の 1 つとして、図1と図2の画像が同期して動くような動画で
ないために把握しづらいことが考えられる。そこで、筆者らは実際に図2と同期して時間的変化を確認
できる単振動のシミュレーションを作成し、学生自らにこれを行わせ、本シミュレーションの実施前(プ
N/m〔 〕k kg〔 〕ms〔 〕t
m〔 〕x m/s〔 〕v 2m/s〔 〕a
m〔 〕A 0 rad/s 〔 〕k m 0 rad〔 〕
ma F
F x
x
0 0cos( )A t 0sin tω 0cos tω
x
k
O x(t)
x O
自然長
m
図1 単振動モデル
22 20 0 0 02 cos( ) dv d xa A t x
dt dt
2202 d xm m x kx
dt
図2 円運動と単振動
0 0cos( ) x A t
0 0 0sin( ) dxv A tdt
0 0cos( ) F kx kA t
x
y
A
ω0θ0
109シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
4
できないが、抜き打ちポストテストの実施は期末試験よりも 1 週間以上前で、おそらく下位層の学生が
小テストで間違えたことにより答えを確認したという蓋然性は低いと思われるので、下位層にとっては
シミュレーションを実施した効果があったと思われる。
2.2減衰振動
(1) 減衰振動の運動方程式 復元力に加えて減衰力が質点に働く場合の運動方程式は
(6)
で表され、この一般的な解法については1年後期の微積分の科目で既に教えられているが、数学的な解
法は教えられているものの、解の物理的側面等に関しては完全には把握されているわけではない。上式
において解を と仮定して得られる特性方程式、即ち の 2次方程式における判別式
の正負から振動の振る舞いが特定される。ここで、前節で導入した減衰のない場合の固
有角振動数 及び無次元化した減衰比 を用いて上記の運動方程式を表すと
が得られる。この特性方程式の解は図6に示すように の値に応じて特性方程式の解である指数 のと
る値は異なり、一般解も下式に示す 3種類の振動形態(過減衰,臨界減衰,不足減衰)に対応する。
tx eλ= λ2 4D c mk= −
0ω 02 2c m c mkζ ω= =
ζ λ
m:質量,c:減衰係数,k:ばね定数 図5 減衰振動モデル
プリテスト
対象人数:115 人 平均正答率:0.380 標準偏差:0.282
ポストテスト
対象人数:105 人 平均正答率:0.381 標準偏差:0.226
(7)
0
10
20
30
40
50
人数
正答率 x
プリテスト (115人)
ポストテスト (105人)
単振動テストの正答率分布
図4 プリ・ポストテスト比較結果
02
2d x dxm +c +kx =dt dt
20 0 0
2
2d x dx+2 + x =dt dt
ζω ω
x t( )
110 シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
5
過減衰
臨界減衰
不足減衰
ただし、不足減衰の場合 C1,C2は複素共役の関係にある。 ここで3年次の学生を対象とし、(6)式中の質量、
減衰係数、ばね定数が下記のような値について、その
運動方程式を解くと共に振動の種類を特定させたとこ
ろ、図7に示すような結果が得られた。
設定1 質量:m = 6 kg, 粘性減衰係数:c = 18 kg/s, バネ定数:k = 54 kg/s2 (不足減衰)
設定2 質量:m = 3 kg, 粘性減衰係数:c = 27 kg/s, バネ定数:k = 27 kg/s2 (過減衰) 設定3 質量:m = 2 kg, 粘性減衰係数:c = 12 kg/s, バネ定数:k = 18 kg/s2 (臨界減衰)
問1:特性方程式の解 を求めよ。 問2:運動方程式の一般解式 8(a~c) を求めよ。 問3:減衰振動の種類を特定せよ。
特性方程式の解及び減衰振動の種類については半数以上の学生はほぼ正しく正解できたが、特性方程
式の解を用いた一般解に対しては 2割前後しか正確に答えられていなかった。これは不足減衰での複素
数の取り扱いに誤りが多かったこと、また臨界減衰においては重根のため 項に加えて の項が
必要なことを忘れていた学生が多かったためである。1年後期の基礎数理課程で習った 2階線形微分方
程式について、特性方程式の解法は半数程度できており、専門科目との連携のため、今後も同課程での
教育が重要と考えられる。
20 0, 1α ζω β ς ζ ω≡ − ≡ −
λ
teλ tteλ
図6 特性方程式の解
(8a)
(8b)
(8c)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
問1 問2 問3
正答
率 設定1
設定2
設定3
図7 減衰振動問題の正答率
( ) ( )
( )1 2
1 2
( )cos sin
i t i t
t
x t C e C ee A t A t
α β α β
α β β
+ −= +
= +
4
できないが、抜き打ちポストテストの実施は期末試験よりも 1 週間以上前で、おそらく下位層の学生が
小テストで間違えたことにより答えを確認したという蓋然性は低いと思われるので、下位層にとっては
シミュレーションを実施した効果があったと思われる。
2.2減衰振動
(1) 減衰振動の運動方程式 復元力に加えて減衰力が質点に働く場合の運動方程式は
(6)
で表され、この一般的な解法については1年後期の微積分の科目で既に教えられているが、数学的な解
法は教えられているものの、解の物理的側面等に関しては完全には把握されているわけではない。上式
において解を と仮定して得られる特性方程式、即ち の 2次方程式における判別式
の正負から振動の振る舞いが特定される。ここで、前節で導入した減衰のない場合の固
有角振動数 及び無次元化した減衰比 を用いて上記の運動方程式を表すと
が得られる。この特性方程式の解は図6に示すように の値に応じて特性方程式の解である指数 のと
る値は異なり、一般解も下式に示す 3種類の振動形態(過減衰,臨界減衰,不足減衰)に対応する。
tx eλ= λ2 4D c mk= −
0ω 02 2c m c mkζ ω= =
ζ λ
m:質量,c:減衰係数,k:ばね定数 図5 減衰振動モデル
プリテスト
対象人数:115 人 平均正答率:0.380 標準偏差:0.282
ポストテスト
対象人数:105 人 平均正答率:0.381 標準偏差:0.226
(7)
0
10
20
30
40
50
人数
正答率 x
プリテスト (115人)
ポストテスト (105人)
単振動テストの正答率分布
図4 プリ・ポストテスト比較結果
02
2d x dxm +c +kx =dt dt
20 0 0
2
2d x dx+2 + x =dt dt
ζω ω
x t( )
1 21 2( ) t tx t A e A eλ λ= +
( ) ( )
( )1 2
1 2
( )cos sin
i t i t
t
x t C e C ee A t A t
α β α β
α β β
+ −= +
= +
( ) ( )
( )1 2
1 2
( )cos sin
i t i t
t
x t C e C ee A t A t
α β α β
α β β
+ −= +
= +数式 8a,8b の送付
1 21 2( ) t tx t A e A e
1 11 2( ) t tx t A e A te
(8a)
(8b)
111シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
6
(2) 不足減衰 解の指数部が複素数となり振動に減衰が伴う不
足減衰について、図8に示すようなシミュレーシ
ョンを操作させて学生の理解度の向上を狙った。
減衰比 の値を変えると振幅の変化率や減衰の
速さが異なる様子がシミュレーションにより可視
化でき、解の中における の役割がより具体的に
把握されるものと期待された。また、減衰比 を
変えた場合の振動形態を相互に比較するため、図
9(a)に示すように 軸を導入した 3次元表示に
より、その影響を把握させた。減衰項が存在する
と減衰固有角振動数 は固有角振動数 より小
さく、従って固有周期も長くなるが、図 10のプリ
テストの結果が示すように学生には直観的に分か
り難いもののようであった。
(9a)
(9b)
ζ
ζζ
ζ
dω 0ω
図9(a) 不足減衰の解曲面
図8 不足減衰シミュレーション
図 10 プリ・ポストテスト比較結果
0%
20%
40%
60%
80%
正答率
プリテスト
ポストテスト
ζ
t図9(b) 不足減衰の解曲面 ( 面表示) t ζ−
x
t
2d 0 01ω ω ζ ω= − <
d 02d 0
2 21
T Tπ πω ω ζ
= = >−
ζ
( )x t
t
112 シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
7
図9(b)は同図(a)を回転させて 面上において変位を濃淡で表したものであり、例えば = 0.35の場合(一点鎖線上)に減衰のない = 0 の変化と比べると周期が固有周期に比べて長くなっていること がわかる。図 11では変位の時間的変化を1対1で
比較したものである。減衰しているため同図中の
ピークの位置のみから周期の差異を確認するのは
難しいが、図9(b)に示すように を連続的に変
化させれば上式の従う周期の変化がより明確とな
る。 このように に応じた減衰自由周期をビジュア
ル化(図 11参照)し、前述のシミュレーションに
より動的変化を把握させた結果、図 10のポストテ
ストに示すように学生の成績が向上することが確
認された。 2.3連成振動
図 12にここで考える連成振動モデルを示した。
2質点がバネで連結されている場合の運動方程
式は次式のような連立微分方程式で表される。
t ζ− ζζ
ζ
ζ
図 12 連成振動モデル
図 11 固有周期の比較(減衰項の有無による)
(10a) 1 1 1 1 2 1 2 1 1 2 1 2( ) ( ) 0m x c x c x x k x k x x+ + − + + − =
2 2 2 2 1 3 2 2 2 1 3 2( ) ( ) 0m x c x x c x k x x k x+ − + + − + = (10b)
図 13 連成振動シミュレーション
x(t)
t O
2π/ωd
2π/ω0 4π/ω0 6π/ω0
ζ = 0.35 T0 = 2π/ω0
20.00
6
(2) 不足減衰 解の指数部が複素数となり振動に減衰が伴う不
足減衰について、図8に示すようなシミュレーシ
ョンを操作させて学生の理解度の向上を狙った。
減衰比 の値を変えると振幅の変化率や減衰の
速さが異なる様子がシミュレーションにより可視
化でき、解の中における の役割がより具体的に
把握されるものと期待された。また、減衰比 を
変えた場合の振動形態を相互に比較するため、図
9(a)に示すように 軸を導入した 3次元表示に
より、その影響を把握させた。減衰項が存在する
と減衰固有角振動数 は固有角振動数 より小
さく、従って固有周期も長くなるが、図 10のプリ
テストの結果が示すように学生には直観的に分か
り難いもののようであった。
(9a)
(9b)
ζ
ζζ
ζ
dω 0ω
図9(a) 不足減衰の解曲面
図8 不足減衰シミュレーション
図 10 プリ・ポストテスト比較結果
0%
20%
40%
60%
80%
正答率
プリテスト
ポストテスト
ζ
t図9(b) 不足減衰の解曲面 ( 面表示) t ζ−
x
t
2d 0 01ω ω ζ ω= − <
d 02d 0
2 21
T Tπ πω ω ζ
= = >−
ζ
( )x t
t
113シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
8
この連立微分方程式を解き初期条件を満足させる解を実際に求める作業は両方の特性方程式を求めて連
立させるなど煩雑であり、最終的な解が意味することが物理的に何を意味するかは分かり難い。 一方、図 13は質量 mi 、減衰係数 cj 、ばね定数 kj を変化させた際に、それに対応する変位を示すこ
とができるシミュレーションであり、連成振動における 2つの質点が相互に影響を与え合う複雑な運動
が可視化できる。すなわち、式を眺めただけではイメージしづらい時間的変化を確認することができ、
質量やばね定数、減衰係数を変化させた時にそれらが質点の運動にどのような影響を及ぼすかが直ぐに
実感できる。したがって、学生にとっては、運動を表す数式と実際の現象との繋がりがより明確に理解
できると期待される。このシミュレーションを用いたアクティブラーニングは、数学が得意でない学生
にとっても興味を持って連成振動に取り組むきっかけとなり学習意欲を促す効果があると考えられる。 一般に連成振動の解は固有モードの和で表され、減衰のない 2質点の連成振動の場合、モード固有角
振動数 及び各モード(n)の変位振幅比 ( , :質点 i の振幅)は下式で与えられる。
(11a) (11b) ここで複合記号 はマイナスが第1モード(n = 1)、プラスが第2モード(n = 2)に対応する。 質量及びバネ定数をそれぞれ 、 のように設定した場合、第2モードの固
有角振動数は で に左右されるのに対し、第1モードは で を含ま
ない。また、変位振幅比については第1モードは となり 2つの質点は同方向に同じ変位量で振動
することになるのに対し、第 2モードでは となり 2つの質点は逆位相で向かい合うように振動
し、中央のバネが全体の振動に影響することになる。すなわち、第 1モードについては 2つの質点が連
結されていないような形態となる。 シミュレーションでは両質点の初期速度はゼロとし、 とすれば第 1モードのみ
が、 かつ とすれば第 2モードのみが現れる。このような条件下で学生には
2k の値を任意に選んでシミュレーションを実施させ、 と各モードの振る舞いとの関連性について考
察させた。図 14の例に示すとおり、第1モードは の値を変えても固有周期が変化しないのに対し、
第 2モードは の値が大きくなるほど周期は短くなる。このシミュレーション結果について上記のとお
り第 1モードの固有角振動数は を含まないためであることに気づき、この現象を式により説明できた
学生が 2割程度は確認され、シミュレーションを用いなかった昨年度とは違い理解の深化した学生が見
られた。 3. おわりに 以上述べてきたように、振動分野を対象に学生に数式の意味するところをいかに分かり易く理解させ
るかを念頭にいくつかの振動方程式及び振動現象のビジュアル化を試みてきた。学生にとって、動かな
いグラフより、身近な動画や 3次元表示で示した方が理解しやすいことが確認できた。また、授業時間
という限られた時間の中でもシミュレーションを使うことによって、単位時間当たりの理解度の向上に
も繋がるものと考えられる。最後に学生に、振動現象を理解するのにシミュレーションは有用であった
かをアンケート調査したところ、図 15に示すようにシミュレーションが有用(4と 5の割合)との回答
が 70%程度おり有用性が確認できた。また、学生からのコメントも概ね好意的なものであった。
nω nλ 2 1A A≡ iA
1 2m m m= = 1 3k k K= =
2 22K k mω = + 2k 1 K mω = 2k1 1λ =
2 1λ = −
1 2 max(0) (0)x x A= =
1 max(0)x A= 2 max(0)x A= −
2k2k
2k2k
2 22 2 3 2 31 2 1 2 2
1 2 1 2 1 2
1 42n
k k k kk k k k km m m m m m
ω + ++ + = + − +
21 2 1 2
22 2 3 2
nn
n
k k m kk k k m
+ − ωλ = =
+ − ω
114 シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
9
図 14 固有周期の比較シミュレーション( , )
第 1モード 第 2モード
1 2 3 4m m m kg= = = 1 3 4k k N m= =
2 1k =
2 4k =
2 8k =
8
この連立微分方程式を解き初期条件を満足させる解を実際に求める作業は両方の特性方程式を求めて連
立させるなど煩雑であり、最終的な解が意味することが物理的に何を意味するかは分かり難い。 一方、図 13は質量 mi 、減衰係数 cj 、ばね定数 kj を変化させた際に、それに対応する変位を示すこ
とができるシミュレーションであり、連成振動における 2つの質点が相互に影響を与え合う複雑な運動
が可視化できる。すなわち、式を眺めただけではイメージしづらい時間的変化を確認することができ、
質量やばね定数、減衰係数を変化させた時にそれらが質点の運動にどのような影響を及ぼすかが直ぐに
実感できる。したがって、学生にとっては、運動を表す数式と実際の現象との繋がりがより明確に理解
できると期待される。このシミュレーションを用いたアクティブラーニングは、数学が得意でない学生
にとっても興味を持って連成振動に取り組むきっかけとなり学習意欲を促す効果があると考えられる。 一般に連成振動の解は固有モードの和で表され、減衰のない 2質点の連成振動の場合、モード固有角
振動数 及び各モード(n)の変位振幅比 ( , :質点 i の振幅)は下式で与えられる。
(11a) (11b) ここで複合記号 はマイナスが第1モード(n = 1)、プラスが第2モード(n = 2)に対応する。 質量及びバネ定数をそれぞれ 、 のように設定した場合、第2モードの固
有角振動数は で に左右されるのに対し、第1モードは で を含ま
ない。また、変位振幅比については第1モードは となり 2つの質点は同方向に同じ変位量で振動
することになるのに対し、第 2モードでは となり 2つの質点は逆位相で向かい合うように振動
し、中央のバネが全体の振動に影響することになる。すなわち、第 1モードについては 2つの質点が連
結されていないような形態となる。 シミュレーションでは両質点の初期速度はゼロとし、 とすれば第 1モードのみ
が、 かつ とすれば第 2モードのみが現れる。このような条件下で学生には
2k の値を任意に選んでシミュレーションを実施させ、 と各モードの振る舞いとの関連性について考
察させた。図 14の例に示すとおり、第1モードは の値を変えても固有周期が変化しないのに対し、
第 2モードは の値が大きくなるほど周期は短くなる。このシミュレーション結果について上記のとお
り第 1モードの固有角振動数は を含まないためであることに気づき、この現象を式により説明できた
学生が 2割程度は確認され、シミュレーションを用いなかった昨年度とは違い理解の深化した学生が見
られた。 3. おわりに 以上述べてきたように、振動分野を対象に学生に数式の意味するところをいかに分かり易く理解させ
るかを念頭にいくつかの振動方程式及び振動現象のビジュアル化を試みてきた。学生にとって、動かな
いグラフより、身近な動画や 3次元表示で示した方が理解しやすいことが確認できた。また、授業時間
という限られた時間の中でもシミュレーションを使うことによって、単位時間当たりの理解度の向上に
も繋がるものと考えられる。最後に学生に、振動現象を理解するのにシミュレーションは有用であった
かをアンケート調査したところ、図 15に示すようにシミュレーションが有用(4と 5の割合)との回答
が 70%程度おり有用性が確認できた。また、学生からのコメントも概ね好意的なものであった。
nω nλ 2 1A A≡ iA
1 2m m m= = 1 3k k K= =
2 22K k mω = + 2k 1 K mω = 2k1 1λ =
2 1λ = −
1 2 max(0) (0)x x A= =
1 max(0)x A= 2 max(0)x A= −
2k2k
2k2k
2 22 2 3 2 31 2 1 2 2
1 2 1 2 1 2
1 42n
k k k kk k k k km m m m m m
ω + ++ + = + − +
21 2 1 2
22 2 3 2
nn
n
k k m kk k k m
+ − ωλ = =
+ − ω
115シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
10
本ソフトウエアを使い学生自ら検討させることによって、アクティブラーニングを実践できたことに もなり、今後さらにこの方向で授業を分かり易く理解できるような工夫を重ねていきたい。 4. 今後の課題
単振動や不足減衰振動においてプリテスト、ポストテストを実施したが、ポストテストの正答率は総
じてプリテストより向上したが、さらに全体の成績を向上させるべく改善を重ねて行きたい。また、本
報告で示したように筆者らが作成した JavaScript を用いたシミュレーションソフトや
MATLAB/MuPAD を用いた動画によって学生の理解度向上は達成できた。今後まだ行われていない強
制振動モデル等についても 3次元表示したり、動画で見せる等の工夫が必要であると考えている。また、
基礎数理課程で学習したオイラーの公式が定着していないため、専門での使われ方を示したうえで、意
欲を持たせて学習させて行きたい。なお、後期に工学部ロボティクス学科 3 年生は振動現象に関する実
験を実施するため、本授業で行ったシミュレーションの結果がどのように反映されたか再調査を実施す
る予定である。 参考文献
1) 西 誠,“パソコンを利用した演習の導入による数理科目の理解度向上の試み”,日本リメディアル
教育学会第 8回全国大会発表予稿集,pp248-249,2012.8
2) 玉木正一,“表計算ソフトエクセルの基礎数学教育への活用方法の紹介” ,小山工業高等専門学校
研究紀要 39号,pp11-18、2008.3,
3) 堤 厚博,“数学教育における視覚化を用いた試み-初年次生を対象とした視覚化による数式の理解
度向上(その 1)-”,工学教育研究講演会講演論文集,pp320-321、2014.8
4) 堤 厚博,“数学教育における視覚化を用いた試み-初年次生を対象とした視覚化による数式の理解
度向上(その 2)-”,工学教育研究講演会講演論文集,pp98-99,2015.8
5)横山 隆,日野 順市,芳村 敏夫,“基礎振動工学 第 2版”,共立出版 6) Web ブラウザ上で幾何学図形やグラフを作成するための JavaScript ライブラリ,
http://jsxgraph.uni-bayreuth.de/wp/index.html
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
1 2 3 4 5
回答率
シミュレーションは有用であったか?
有用でなかった 有用であった
学生からのコメント
・数式のみでは、ばね振動の挙動が把握しづらかっ
たが、シミュレーションによりビジュアル化され
て分かりやすくなった。
・モードと位相との関係が一目瞭然で理解が深まっ
た。
・減衰係数やばね定数などの条件の違いの影響が目
で見えてイメージしやすくなった。
・シミュレーションだけでは、どのように計算結果
を出せばよいのか分からない。
図 15 アンケート結果
116 シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み
11
[原稿受付日 平成 28年 8月 4日、採択決定日 平成 28年 11月 22日]
堤 厚博
教授
基礎教育部
数理基礎教育課程
数理工教育研究センター
太田 和彦
教授
工学部
機械系
ロボティクス学科
西岡 圭太
講師
基礎教育部
数理基礎教育課程
数理工教育研究センター
10
本ソフトウエアを使い学生自ら検討させることによって、アクティブラーニングを実践できたことに もなり、今後さらにこの方向で授業を分かり易く理解できるような工夫を重ねていきたい。 4. 今後の課題
単振動や不足減衰振動においてプリテスト、ポストテストを実施したが、ポストテストの正答率は総
じてプリテストより向上したが、さらに全体の成績を向上させるべく改善を重ねて行きたい。また、本
報告で示したように筆者らが作成した JavaScript を用いたシミュレーションソフトや
MATLAB/MuPAD を用いた動画によって学生の理解度向上は達成できた。今後まだ行われていない強
制振動モデル等についても 3次元表示したり、動画で見せる等の工夫が必要であると考えている。また、
基礎数理課程で学習したオイラーの公式が定着していないため、専門での使われ方を示したうえで、意
欲を持たせて学習させて行きたい。なお、後期に工学部ロボティクス学科 3 年生は振動現象に関する実
験を実施するため、本授業で行ったシミュレーションの結果がどのように反映されたか再調査を実施す
る予定である。 参考文献
1) 西 誠,“パソコンを利用した演習の導入による数理科目の理解度向上の試み”,日本リメディアル
教育学会第 8回全国大会発表予稿集,pp248-249,2012.8
2) 玉木正一,“表計算ソフトエクセルの基礎数学教育への活用方法の紹介” ,小山工業高等専門学校
研究紀要 39号,pp11-18、2008.3,
3) 堤 厚博,“数学教育における視覚化を用いた試み-初年次生を対象とした視覚化による数式の理解
度向上(その 1)-”,工学教育研究講演会講演論文集,pp320-321、2014.8
4) 堤 厚博,“数学教育における視覚化を用いた試み-初年次生を対象とした視覚化による数式の理解
度向上(その 2)-”,工学教育研究講演会講演論文集,pp98-99,2015.8
5)横山 隆,日野 順市,芳村 敏夫,“基礎振動工学 第 2版”,共立出版 6) Web ブラウザ上で幾何学図形やグラフを作成するための JavaScript ライブラリ,
http://jsxgraph.uni-bayreuth.de/wp/index.html
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
1 2 3 4 5
回答率
シミュレーションは有用であったか?
有用でなかった 有用であった
学生からのコメント
・数式のみでは、ばね振動の挙動が把握しづらかっ
たが、シミュレーションによりビジュアル化され
て分かりやすくなった。
・モードと位相との関係が一目瞭然で理解が深まっ
た。
・減衰係数やばね定数などの条件の違いの影響が目
で見えてイメージしやすくなった。
・シミュレーションだけでは、どのように計算結果
を出せばよいのか分からない。
図 15 アンケート結果
117シミュレーションを用いた振動現象の理解度向上の試み