ネットワークの閉路特性に着目した...

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1 ネットワークの閉路特性に着目した 駅周辺街路の回遊性分析 永杉 博正 1 ・羽藤 英二 2 1 正会員 東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部(〒151-8578 東京都渋谷区代々木二丁目2-2E-mail:[email protected] 2 正会員 東京大学大学院 教授 工学系研究科社会基盤専攻(〒113-8656 東京都文京区本郷七丁目3-1E-mail: [email protected] 歩行者の回遊性向上は,都市や地域の身近な課題の一つである.しかし,それを定量的に評価する手法 は定着していない.鉄道の駅は,回遊行動のスタートする,代表的な起点であり,また戻ってくる終点に もなる.この行動特性を,ネットワークにおける閉路と捉え,街路のもつ回遊ポテンシャルを定量的に評 価することを目指す.本研究では,中央線の複数駅を対象に,駅周辺の街路ネットワークの構造を分析し た.回遊を意図して設計された施設と比較し,媒介中心性を用いて,その特性を明らかにした.そして, 駅を起点・終点とする,回遊のルート数を算出し,回遊性の定量評価指標として提案した. Key Words : rambling activity, network analysis, closed walk, betweenness centrality 1. 研究の背景と目的 都市や地域の魅力向上に関する身近な課題の一つとし て,歩行者の回遊性の向上が挙げられる.しかし,回遊 性向上は,言葉では頻繁に用いられるものの,それを定 量的に評価する手法は定着していない. 回遊性の観点 から歩行者ネットワークを考えるにあたり,鉄道の駅と いう場所は,多くの人が利用する代表的なエントリー地 点であり,戻ってくる地点でもある.それを所与とした 街路のネットワークデザインのあり方を検討することは, 効果的な社会資本整備の方法の一つといえよう.駅周辺 の街路整備に伴い,人の行動は,その街路の構造に規定 され,経路を選択する.人の行動が蓄積し,一定の歩行 者流動が生じる.そして,街路沿いの土地利用が行われ, 定着していく.その結果,駅周辺には一定規模の市街が 形成されている(-1 ).本研究では,駅周辺の街路を ネットワーク構造として分析し,その特性を明らかする. そして,駅を起点・終点とする回遊行動の特性に着目し, 回遊性の定量評価指標を提案する.分析対象は,複数の 駅周辺街路に加えて,人の回遊を意図して設計された施 設(以下,「回遊施設」という)と比較することで,駅 周辺街路の持つ特性を浮き彫りにしていく. そして, 定量評価指標を用い,今後の駅周辺の街路整備計画が, 効果的に回遊性向上につながることを目指す. -1 街路ネットワークの構成概念 2. 既往研究と本研究の位置づけ 街路ネットワークに関する既往研究としては,Space Syntax による解析(以下,「SS 理論」という)が数多く なされている.SS 理論は,ロンドン大学のHillier 1) が提 唱した空間解析手法であり,空間の可視不可視に基づく 位相幾何学的分析である.建物,街路,景観など様々な 分野に適用され,街路に関するものとしては,木内ら 2) による東京の街路の変遷に関する研究や,高野ら 3) によ SS理論と形態的指標を用いた地区特性を分析した研 究がある.また西村ら 4) や溝上ら 5) は,SS 理論とGIS を用 駅周辺の街路 の形成 行動選択に 歩行者流動 街路沿いの 土地利用の形成 駅周辺の 街路整備 が変化 行動規定 行動の蓄積

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1

ネットワークの閉路特性に着目した 駅周辺街路の回遊性分析

永杉 博正1・羽藤 英二

2

1正会員 東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部(〒151-8578 東京都渋谷区代々木二丁目2-2)

E-mail:[email protected]

2正会員 東京大学大学院 教授 工学系研究科社会基盤専攻(〒113-8656 東京都文京区本郷七丁目3-1)

E-mail: [email protected]

歩行者の回遊性向上は,都市や地域の身近な課題の一つである.しかし,それを定量的に評価する手法

は定着していない.鉄道の駅は,回遊行動のスタートする,代表的な起点であり,また戻ってくる終点に

もなる.この行動特性を,ネットワークにおける閉路と捉え,街路のもつ回遊ポテンシャルを定量的に評

価することを目指す.本研究では,中央線の複数駅を対象に,駅周辺の街路ネットワークの構造を分析し

た.回遊を意図して設計された施設と比較し,媒介中心性を用いて,その特性を明らかにした.そして,

駅を起点・終点とする,回遊のルート数を算出し,回遊性の定量評価指標として提案した.

Key Words : rambling activity, network analysis, closed walk, betweenness centrality

1. 研究の背景と目的

都市や地域の魅力向上に関する身近な課題の一つとし

て,歩行者の回遊性の向上が挙げられる.しかし,回遊

性向上は,言葉では頻繁に用いられるものの,それを定

量的に評価する手法は定着していない. 回遊性の観点

から歩行者ネットワークを考えるにあたり,鉄道の駅と

いう場所は,多くの人が利用する代表的なエントリー地

点であり,戻ってくる地点でもある.それを所与とした

街路のネットワークデザインのあり方を検討することは,

効果的な社会資本整備の方法の一つといえよう.駅周辺

の街路整備に伴い,人の行動は,その街路の構造に規定

され,経路を選択する.人の行動が蓄積し,一定の歩行

者流動が生じる.そして,街路沿いの土地利用が行われ,

定着していく.その結果,駅周辺には一定規模の市街が

形成されている(図-1).本研究では,駅周辺の街路を

ネットワーク構造として分析し,その特性を明らかする.

そして,駅を起点・終点とする回遊行動の特性に着目し,

回遊性の定量評価指標を提案する.分析対象は,複数の

駅周辺街路に加えて,人の回遊を意図して設計された施

設(以下,「回遊施設」という)と比較することで,駅

周辺街路の持つ特性を浮き彫りにしていく. そして,

定量評価指標を用い,今後の駅周辺の街路整備計画が,

効果的に回遊性向上につながることを目指す.

図-1 街路ネットワークの構成概念

2. 既往研究と本研究の位置づけ

街路ネットワークに関する既往研究としては,Space

Syntaxによる解析(以下,「SS理論」という)が数多く

なされている.SS理論は,ロンドン大学のHillierら1) が提

唱した空間解析手法であり,空間の可視不可視に基づく

位相幾何学的分析である.建物,街路,景観など様々な

分野に適用され,街路に関するものとしては,木内ら

2)

による東京の街路の変遷に関する研究や,高野ら

3) によ

るSS理論と形態的指標を用いた地区特性を分析した研

究がある.また西村ら

4) や溝上ら

5) は,SS理論とGISを用

駅周辺の街路

ネットワークの形成

行動選択による

歩行者流動

街路沿いの

土地利用の形成

駅周辺の

街路整備

ポテンシャルが変化

行動を規定 行動の蓄積

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いたフレームワークを提案している. SS理論は距離が

位相数に置換えられており,回遊性分析に際しては,歩

行経路の長さ,周遊性といった点が考慮できないことが

課題として挙げられる.SS理論以外の既往研究として,

グラフ理論に基づく媒介中心性指標を用いた福山ら

6)に

よる研究がある.欧州都市の街路や広場の歴史的変遷に

ついて,歩行者の距離や,行動圏域を考慮したネットワ

ーク分析によりその特性を明らかにしている.駅周辺街

路に着目した研究については,福山ら

7)による渋谷駅周

辺の行動データによる歩行者特性を考慮したネットワー

ク分析がある.行動データを用いることで,より精緻な

分析が可能となる一方で,大量のデータ収集を伴い,

様々な駅を横断した比較分析は困難となる.

以上,既往研究では,回遊性の観点から,複数の駅周

辺街路を比較分析した研究はなされていない.本研究で

は,鉄道駅周辺のネットワーク構造が持つ固有の特性を

横断的に明らかすることを目標とし,グラフ理論に基づ

くネットワーク解析を行う.データの比較的入手しやす

い街路ネットワークを用いることで,多様な類型の駅周

辺を同一手法で分析しその特性を明らかにする.第二に

駅を起点とした界隈を周遊する行動を想定した回遊性分

析として,これまで定量的に分析されていないルート数

を取上げる.回遊行動の始点と終点が同じであるという

特性に着目し,ルート数という直観的に把握しやすい指

標を用いることで,今後の整備計画に適用しやすい,新

たな評価手法として提案する.

3. 分析データ

本研究では,街路ネットワークをグラフとして扱う.

歩行者が通行可能な通路をリンク(辺),交差部をノー

ド(頂点)と定義する(図-2).ノード間のリンクを

「隣接行列」で記述し,回遊の対象となる街路範囲を特

定した「有限グラフ」とする.歩行者を対象とした場合,

一方通行のような制約は考えられないことから,辺の向

きを考慮しない「無向グラフ」とみなしている.リンク

の緯度経度をGISにより取得し,緯度経度から各リンク

の距離を算出する.リンク距離は,隣接行列の重みと

図-2 ノードとリンク

して与えることにより考慮可能となる.なおペデデッキ

などと地上部を結ぶ,階段などの垂直移動については,

等価時間係数などを参照し,便宜的に水平移動の2倍の

距離にて,重みづけを行うこととする.なお,データ処

理の複雑さを回避するため,階段,エスカレータ等の区

別は行わない.本研究で用いる「閉路」とは,出発点と

終点が同じであり,同じノードを2回以上通らない路の

ことを指し,グラフ理論や位相幾何学において用いられ

ている.とくにすべてのノードを1回通る閉路を「ハミ

ルトン閉路」という(図-3).駅を起点とする回遊行動

は,駅から駅に戻る閉路と捉えることができる.

分析対象を図-4に示す.首都圏を代表する鉄道路線で

あるJR中央線から,地上駅,高架駅などのバランスを考

慮し9駅を対象とした.また,駅周辺の特性をより明ら

かにするため,“駅が中心でない”市街地を形成してい

る代表例として,「原宿・表参道周辺」を追加した.一

方,回遊施設として,最近の代表的なショッピングセン

ターから,クローズド・モールとオープン・モールを各

1個所,テーマパークの代表として「東京ディズニーラ

ンド」,回遊式庭園の代表として「浜離宮恩賜庭園」の

計14か所のネットワーク解析を行うこととする.

回遊対象となる ネットワーク構造を抽出するにあた

り,駅周辺の市街地として形成されている範囲を,実際

の土地利用の状況から客観的に抽出する必要がある.

「H18東京都土地利用現況調査」において,商業用途(事

務所建築物を除く)がおおむね50%以上の街路を対象街

路とした(図-5).なお,50%未満の街路のうち,自由

通路,ペデデッキ,横断歩道など,対象街路どうしを結

ぶ機能を有する通路も対象としている.

図-3 閉路とハミルトン閉路

図-4 分析対象

閉路の例

ハミルトン閉路

2006年10月開業

2008年4月開業

数駅にわたり面的に商業地が連担

代表的な回遊レジャー施設

代表的な回遊式庭園

中央線 9駅イ. 駅周辺市街地

ハ. 回遊施設

ロ. 駅中心ではない市街地

日本庭園

テーマパーク

最新の商業施設

代表的な商業地

吉祥寺

中野

立川三鷹

武蔵境

原宿・表参道周辺

浜離宮庭園

東京ディズニーランド

ららぽーと豊洲

アウトレットパーク入間

阿佐ヶ谷 高円寺

荻窪 西荻窪

高架

高架

高架 高架

高架地上

地上 地上

地上

うち高架区間:5駅

うち地上区間:4駅

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3

図-5 ネットワークデータの抽出(吉祥寺の例)

4. ネットワーク中心性分析

(1) 媒介中心性

ネットワークの中心性指標としては,次数中心性,離

心中心性,近接中心性,情報中心性,媒介中心性などが

ある.歩行者の行動特性として,2地点間の移動では最

短経路を選択するという,規範的な特性に着目し,ネッ

トワーク内の任意の2 点を結ぶ最短経路上に位置する度

合いを示す指標である,媒介中心性を用いて評価する.

媒介中心性は,Freeman8)によって提案され,以下の式で

算出される.

(4.1)

ここで,Cb(i)は頂点iの媒介中心性,gjkは頂点jから頂点

kへの最短経路数,gjk(i)は頂点jから頂点kへの最短経路数

のうち頂点iを通るものの数を示す.

(2) 中心性分析の結果

分析結果を図-6に示す.各ノードの媒介中心性の高さ

を円の大きさで表しており,円が大きい場所は,回遊行

動が集中しポテンシャルが高い場所といえる.媒介中心

性の最大値のノードを吹き出しで示しているが,殆どの

駅において駅前が高くなった.ただし「原宿・表参道」

においては,表参道に沿って線形に高い場所が分布して

おり,表参道ヒルズの前の横断歩道が最も高い場所とな

った.商業施設の場合はエスカレータなどの縦動線のあ

る部分が比較的高く,東京ディズニーランドはパレード

ルートの媒介中心性が高くなった.浜離宮庭園は二つの

潮入りの池の交点で,八の字の回遊路の交点部分が最も

高い媒介中心性となった.いずれも駅周辺とは異なり,

駅前のような極端に高い場所は少なく,比較的に均衡し

ている.媒介中心性のバラつき度合を,分散でとらえる

こととし,横軸に媒介中心性の最大値,縦軸に媒介中心

性の分散をプロットしたものが図-7である.この散布図

左下は,面的にポテンシャルが分散し,右上は一極集中

が強いといえる.左下の方が回遊しやすい構造といえる.

図-6 中心性分析の結果

∑≠≠

=kji jk

jkb g

igiC

)()(

土地利用現況調査(H18 東京都) 抽出されたネットワークデータ

専用商業施設

住商併用建物

宿泊・遊興施設

スポーツ・興行施設

Node数:229 Link数:326

総延長:12,994m500m

南北 803m

東西 1116m

南北 1265m

東西 1145m

南北 580m

東西 626m

南北 971m

東西 1126m

吉祥寺

立川

中野

武蔵境

最大値:駅北(212)

最大値:駅南

口(337)

最大値:駅北口(ペ

デレベル)(423)

最大値:すきっぷ通

りの入口(538)

分散

4.2

分散

5.1

分散

17.4

分散 2.2

南北3290m

東西

319m

南北 1551m

東西 659m

南北 1311m

東西 708m

三鷹 高円寺阿佐ヶ谷

最大値:駅南口ペ

デ(473)

最大値:パールセ

ンター入口(442)

最大値:高円寺パル

商店街入口(298)

分散

7.7

分散

8.4

分散

3.1

南北 1126m

東西 981m

南北 1305m

東西 1307m

原宿・表参道

荻窪

西荻窪

南北830m

東西 709m

最大値:青梅街道の

教会通り入口(290)

最大値:中通街の

南側入口(276)

最大値:表参道ヒルズ前の横断歩道

(290)

分散

3.9

分散

4.2

分散

3.2

東西 597m

南北 595m

ららぽーと豊洲 東京ディズニーランド

アウトレット入間 浜離宮庭園

2F

1F

東西 609m

南北 642m

3F

2F

1F

最大値:トゥーンタ

ウンの入口(291)

最大値:1Fサウス

ポート中央(215)

最大値:1Fイー

ストストリート

の中央(125)

分散

2.3

分散2.7分散

1.3

分散

3.5

221m

201m

207 m

236 m

最大値:お伝い橋

のたもと(303)

図中の数値は媒介中心性(単位:×10-3)

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図-7 媒介中心性の分散と最大値

回遊施設の分散値はすべて4.0×10-3以下となり,原

宿・表参道,吉祥寺,高円寺は,回遊施設に近い特徴が

見られた.また中央線9駅では,鉄道駅の類型でみると,

地上区間より高架区間の平均の方が,面的にポテンシャ

ルが均衡している.相対的に吉祥寺は商業施設と同レベ

ルの均衡化が図られ,回遊しやすい構造と見て取れる. 5. 閉路特性からの回遊性分析

(1) 辺媒介に基づくコミュニティ分析

駅から駅に戻ってくる回遊ルートを分析するにあたり,

街路の単位で分析すると,何万,何億通りもの周遊ルー

トがあり大変に膨大な数となる.また微妙に異なるルー

トの違いを評価することも困難である.よって街路ネッ

トワークを,あるまとまりをもった界隈に分節すること

ができれば,その界隈をめぐる閉路数として数量化した

方が合理的である.今回,ネットワークの密度が高い場

所を抽出するアルゴリズムである「辺媒介に基づくコミ

ュニティ分析」を用いる.この手法はネットワークの相

互関係が密実に築かれたまとまりを取り出す指標として

GirvanとNewman9)により提唱された指標である.コミュ

ニティ分析の手順を以下に示す.

(5.1)

:モジュラリティ値

:コミュニティiに属する頂点とコミュニティjに属

する頂点の間に張られる辺の数が,グラフ全体

の辺の数に閉める割合を示した対象行列

:行列eの行和

:行列eの対角行列の和(コミュニティ内部に

張られた辺の比率)

:行列eを二乗した行列成分の和

媒介中心性の大きいリンク(Edge)から順にグラフを分割

し,モジュラリティ値(分割されたコミュニティ内の辺

の数と,コミュニティ間の辺の数の比)が最大になるま

で分割を繰り返す.これにより街路ネットワークを一定

の合理的にまとまったコミュニティの単位に縮約する.

これをコミュニティ・ネットワークと呼ぶこととする.

図-8に抽出手順を示す.2つのコミュニティ間を結ぶ街

路がある場合,コミュニティどうしをコミュニティ・リ

ンクで結ぶ.吉祥寺のコミュニティは図-9のようになっ

た.これはおおよそ現実の界隈の感覚と一致している.

図-10は雑誌「hanako」の吉祥寺特集で紹介されていたエ

リアとの重ね合わせである.コミュニティは,おおよそ

雑誌で紹介されているエリア内に収まっており,雑誌の

紹介エリアより,やや細かく,さらに2~3つに分割され

たエリアになった.

(2) コミュニティ・ネットワークの閉路カウント

規範的な回遊行動として,駅からスタートし,途中,

同じコミュニティを重複して通らないで,駅に戻ってく

るルートを想定し,これを閉路と捉え,何通りあるかを

数える.図-10に吉祥寺のカウント結果を示す.図中の

startは閉路始終点を意味する.図中の折れ線グラフは,

訪れたコミュニティ数ごとのルート数の度数分布を示し

ている.グラフが右に行くほど,訪れたコミュニティの

数が多く,深い回遊ルートである.吉祥寺のコミュニテ

ィ数は13だが,中道通り付近のコミュニティが,行止ま

りとなっており,いわゆる一筆書きが不可能であり,閉

図-8 コミュニティ・ネットワークの抽出(吉祥寺の例)

図-9 コミュニティと界隈性(出典:マガジンワールドHP)

立川

武蔵境

三鷹

吉祥寺

西荻窪

荻窪駅

阿佐ヶ谷

高円寺

中野

9駅平均

高架区間平均

地上区間平均

原宿・表参道

豊洲

入間

TDL

浜離宮

0

100

200

300

400

500

600

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

媒介

中心

性の

最大

値[×

10

-3]

媒介中心性の分散 [×10-3]

中央線9駅

その他回遊施設面的なポテンシャル

回遊しやすい

一極集中のポテンシャル

コミュニティ分析

コミュニティ数:13

分割数=13のときモジュラリティ最大

コミュニティ・ネットワーク

コミュニティ間の街路の有無に

よりリンクを結ぶ

東急裏 北口

ヨドバシ裏

井の頭公園

末広通り

ハモニカ

Q

ije

∑=j

i eija

)(eTr

2e

22 )()( eeTraeQi

iij −=−=∑

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図-10 吉祥寺のカウント結果

路の最大位数は 12になっている.スタート地点の違い

による閉路数を比較すると,駅北口のコミュニティを起

終点とする閉路数が最も多い.これは駅北口に媒介中心

性の最大値の地点が属していることと一致している.

(3) カウント結果

分析結果を図-11に示す.浜離宮が1559通りと圧倒的

に多く,次いで吉祥寺が725通り,高円寺が313通り,立

川が258通りと続く.これら駅周辺の街の特徴を考察す

るために,各駅について,飲食ポータルサイトに掲載さ

れている駅から500m以内の飲食店数とそのうちのカフ

ェ喫茶の比率を示したのが図-12である.カフェ比率に

ついては,吉祥寺,高円寺の順に高く,閉路数の1位,2

位の順位と一致している.カフェが回遊性の高い街に多

く立地しているという感覚と一致しているといえる.

図-11 コミュニティ・ネットワークと閉路数カウント結果

(出典)飲食店数及びカフェ数は,食べログの駅から500m以内の掲載件数より(H25.6末時点)

図-12 駅からの閉路数と駅周辺のカフェ比率

(4) 回遊性分析結果の考察

第 4章で求めた媒介中心性の分散を横軸に,閉路数を

縦軸にプロットしたものが図-13 である.なお縦軸は対

数目盛としている.閉路数を回遊性の深さとして捉え,

上側が深い回遊性,下側が浅い回遊性と表現した.左側

の回遊しやすいものでも回遊性の深さには幅があること

が分かる.商業施設は,面的ポテンシャルが高く,回遊

性が浅い.一極集中をさけて流動が少なくなる場所をで

きるだけ発生させないように設計する傾向が表れている.

施設をまんべんなくシンプルに回遊させるゾーニングに

起因している.言い換えれば,ハミルトン閉路のような

回遊を意図しているといえる.一方,吉祥寺などの街の

回遊は,多様な来街者に対し,多様な街の界隈があり,

多様なルートが存在し,来訪者ごとに異なるルートを構

成可能である.街を訪れるたびに違うルート選択ができ

るといった,新たな発見があることも,街の回遊の楽し

さの一つであるといえる.一方,回遊の分かりやすさを

いかに構成する必要も指摘できる.

(5) ネットワーク構造からの考察

すべてのノードが相互に完全結合したグラフをクリー

クと呼び,そのうち 3つのノードからなるクリーク構造

は三角形となる(図-14). 地理空間上のネットワーク

は,空間的制約から,接続可能な次数に限界が生じ,接

図-13 媒介中心性の分散と閉路数

0

50

100

150

200

0 2 4 6 8 10 12 14

閉路

の数

訪れたコミュニティ数

閉路数 725

start

立川

武蔵境

三鷹

吉祥寺

西荻窪

荻窪

阿佐ヶ谷

高円寺

中野

原宿・表参道

豊洲

入間 TDL

浜離宮

1

10

100

1000

10000

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

閉路

媒介中心性の分散 [×10-3]

中央線9駅

その他回遊施設

深い回遊性

面的なポテンシャル

回遊しやすい

対数

目盛

浅い回遊性

2588 40

725

24 34 25

313

10

10% 10%

13%

17%

14%

12% 12%

14%

9%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

立川 武蔵境 三鷹 吉祥寺 西荻窪 荻窪 阿佐ヶ谷 高円寺 中野

0

200

400

600

800

1000

1200

飲食店数(500m以内) 閉路数 カフェ比率

閉路数 258

閉路数 313

閉路数 34

閉路数 24 閉路数 8

閉路数 40

閉路数 25

閉路数 13

立川高円寺 荻窪三鷹

西荻窪阿佐ヶ谷 武蔵境中野

start

start

start

start

start

start

start

start

閉路数 28

3F

1F

2Fstart

閉路数 88

start

閉路数 1559

start

ららぽーと豊洲アウトレット入間

浜離宮庭園表参道・原宿

閉路数 89

start

閉路数 100

start

東京ディズニーランド

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図-14 クリーク構造とコミュニティの次数分布

続次数の平均は3で,駅などが属するコミュニティがエ

リアでの最大次数となり,その次数は殆どが5,最大で

も7である(図-14の右側).街路ネットワークは,他の

社会ネットワークなどと異なり,最大次数に空間的制約

を受けるため,発達できるクリーク構造にも限界が生じ

る.抽出したコミュニティ・ネットワークの構造を,一

般無向グラフを描写するアルゴリズムであるkamada-

kawai10)の力学モデルを用いて記述したものが,図-15で

ある.なお線の太さは,閉路数が多いところを太く表し

た.閉路数の少ないものから並べているが,浜離宮,吉

祥寺,高円寺などの閉路数の多いネットワークになるほ

ど,三角形のクリーク構造が多く検出された.閉路数が

100以上になると,徐々にある核を中心とした五角形の

構造が浮かび上がってくる.五角形であるのは,最大次

数に関係している.5つの三角形のクリーク構造が,あ

るコミュニティを中心にクラスターを形成し五角形を形

成している.吉祥寺や高円寺のように2つの五角形が重

複し,密実にコミュニティが連結されると,閉路数が格

段に増える.一方,商業施設は閉路グラフになっており,

シンプルな幾何学模様である.閉路数の少ない駅は,回

遊には向かない放射型のツリー構造の部分が目立つ.回

遊性向上のためには,ツリー構造からクリーク構造にネ

ットワークを改変していくことが必要だと理解できる.

図-15 kamada-kawaiの力学モデルによる描写とクリーク構造

6. 結論と今後の課題

本研究では,中央線の駅周辺と回遊施設を比較し,回

遊の閉路特性に着目した新たな回遊性分析手法を提案し

た.媒介中心性の均衡性,回遊ルート数を用い,回遊し

やすさと深さにより,回遊性を定量的に評価した.本指

標を用いることで,将来の駅周辺整備計画がどのように

回遊性向上につながるか定量評価ができる.例えば,今

回,吉祥寺駅の自由通路整備によりクランクが解消され,

南北の動線が改善した.これを本指標で評価すると,回

遊ルート数は変わらず,媒介中心性の分散値が約10%低

下た.回遊の深さは変わらず,より均衡化が図られ,回

遊しやすくなったと評価できる.

本研究は,2地点間の最短経路の選択ならびに回遊行

動の閉路特性といった,歩行者の代表的な規範行動に限

定しネットワーク解析を試みたが,実際の行動データを

用い,これらの仮定の検証や,実際の行動圏域や,行動

目的ごとの違いにより本モデルの有用性を高めていくこ

とが課題といえる.閉路数は多ければ多いほど良いので

はなく,実際の滞留時間・空間分布などをもとに人間の

行動に適したサイズを検証していくことが求められる.

参考文献

1 ) Hillier.B,Hanson.J:Social Logic of Space, Cam-bridge University Press, 1984

2 ) 木内 優美,大口 敬, 高松 誠治:東京の街路ネットワ

ークの変遷に関する研究,土木史研究 講演集 30, pp.179-185, 2010

3 ) 高野 裕作 , 佐々木 葉:街路パターンの位相幾何学的お

よび形態的指標による地区特性分析に関する基礎的研

究, 都市計画論文集 No.46-3, pp.661-666,2011

4 ) 西村 卓也,高松 誠治,大口 敬:GIS を活用した東京

の街路構造変遷に関する研究,土木学会論文集 D3 , Vol.68, No.5 , pp.407-416, 2012

5 ) 溝上 章志,高松 誠治,吉住 弥華,星野 裕司:中心市

街地の空間構成と歩行者回遊行動の分析フレームワー

ク,土木学会論文集 D3 , Vol.68, No.5 , pp.363-374, 2012

6 ) 福山 祥代, 羽藤 英二:バルセロナの歴史的発展過程と

歩行者の行動圏域を考慮した広場-街路のネットワー

ク分析, 土木学会論文集 D1, Vol.68, pp.13-25, 2012. 7 ) 福山 祥代,羽藤 英二:行動データに基づく歩行者行動

特性を考慮した街路ネットワーク分析-渋谷駅歩行圏

を対象として,都市計画論文集, No47-1, pp.62-67, 2012 8 ) Freeman, Linton C. : A set of measures of centrality based on

betweeness.Sociometry, volume40,number1, pp.35-41,1977 9 ) M. Girvan and M. E. J. Newman:Community structure in

social and biological networks,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, pp.7821–7826 ,2002

10 ) Kamada, T. and S. Kawai. :An Algorithm for Drawing General Undirected Graphs, Information Processing Letters 31 ,7-15,1989

クリーク構造

Histogram of degree(g)

degree(g)Fre

quen

cy

0 1 2 3 4 5 6 7

010

2030

4050

コミュニティの次数分布

3つのノードが完全結合したとき、

三角形のクリーク構造となる

コミュニティの平均次数は3

最大次数は5が多い

閉路数 1559

1208610

1078 832

482

1090

462

382

460

558

474

568 604

638558

472

580

724626

626

934

556

508

556

742556

690 690

1

2

3 4

5

6

7

8

9

1011

12

13

14

15

16

クリーク:9個

浜離宮

閉路数 725

344344

232

250

310

212

212

224

224

224

162

250 250

240280

212

368

0

272228

224224

224250

1

2

3

4

56

7

8

9

10

11 12

13

クリーク:12個

吉祥寺

130

126

130

160

88

88

8888

160

114

1640

88

126

84164

132

88

132

0

8884

1

2

3

4

5

6

7

8

91011

12

13

閉路数 313

クリーク:9個

高円寺

0

5246

46

66

60

52

52

68

30

0

3030

68 60

0

0

30

52

46

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

閉路数 100

クリーク:7個

TDL

66

48

48

96

88

190

88

13688

12088

94

96

162

4040

120 40

80

0

4040

0

160

104

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

閉路数 258

クリーク:10個

立川

16

32

16

16

48

64

32

32

32

48

3232

324

1616

36

3838

86

8

0

6

888

70

12

3

4

56

7

8

910

1112

13

14

15

1617

18

閉路数 89

クリーク:11個

原宿表参道

閉路数 40

16

24

14

16

14

0

32624

24 6

66

66

612

180

0

00

0

16

30 1

2

3

4

5

6

7

89

10

11

12

1314

1516

17

18

クリーク:3個

三鷹

閉路数 8

4

4

0

2

4

0

2

4

1

2

3

4

5

6

7

クリーク:2個

武蔵境

42

2

0

2

8 8

2

2

0

0

0

21

2

3

4

5

6

7

8

910

11

閉路数 10

クリーク:3個

中野

12

1210

12

0 12

10

8

8

8

0

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

閉路数 24

クリーク:4個

西荻窪

10

10

8

12

12

10

10

10

00

0

8

12

0

0

00

1

2

3

4

5

6

78

9

10

11

1213

14

閉路数 25

クリーク:3個

阿佐ヶ谷

閉路数 23

14

8

10

8

8

10

10

16

16

1

2

34

5

6

クリーク:3個

ららぽーと豊洲

26

12

120

12

12

0

12

24

14

12

14

20

0

14

12

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11 12

閉路数 34

クリーク:4個

荻窪

36

34

44

26

56

4022

28

30

30

28

36

24

1 2

3

4

5

6

7

閉路数 84

クリーク:8個

アウトレット入間